〈しかし、なぜブラーまで転生を……?〉
「そんなの、決まってるのだ!」
 首をかしげるベクタープライムに、美緒はキッパリと断言した。
「あたしとブラーの、愛の奇跡なのだ!」
「……お前、よくそーゆー赤面モノのセリフを遠慮なく吐けるな……」
 美緒の言葉に思わずうめくロディマスブラーだったが――美緒はかまわず“爆弾”を投下した。
「何しろ、今日からあたしとブラーは――
 アツアツラブラブの、恋人同士なんだから!」

『は………………?』

《え………………?》

《へ………………?》

 とたん、場が静まり返る――

「………………」
 なんとなく『そんな気』がして、ロディマスブラーはカウントダウンを始めた。

 ………3………

 ……2……

 …1…

 そして、カウントが0を刻むと同時――

 

『《えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?》』

 

 スピーディアで、アニマトロスで、そして地球で――仲間達の絶叫が轟いた。

 

 


 

第24話
「決戦のファイナルレースなの」

 


 

 

「ち、ちょっと待った!」
「どういうことだ!?」
〈いったいいつの間に!?〉
 美緒のもたらした『ロディマスブラーとの恋人宣言』――それにもっとも驚愕したのは士官学校からの付き合いであるハイブロウ、エクシリオン、ロングラックの3名だ。ハイブロウやエクシリオンはものすごい勢いでロディマスブラーに詰め寄り、ロングラックもウィンドウを寄せてくる。
〈マジっスか!?〉
「……マジ。ゲキマヂ」
「どういう流れで!?」
「えっと……美緒にコクられて、オレもそれを受けて……それで……」
「いつ!?」
「……今回のレース中」
 3人の問いにロディマスブラーはそれぞれ答え――彼らは一様にその場に(ロングラックはウィンドウの向こうで)崩れ落ちた。
〈なんてことですか……ありえない……〉
「よりによって、ボク達の中で一番女っ気のなかったブラーが……」
「学生時代から、『コイツにだけは出遅れる心配はない』と安心していたのに……!」
「ちょっと待てそこの3人!」
 言いたい放題の3人に、ロディマスブラーはたまりかねて声を上げた。
「ロングラック! 『ありえない』って何だよ、『ありえない』って!
 ハイブロウ! 女っ気云々を言うならお前らだって似たり寄ったりだったろうが!
 エクシリオン! 『出遅れる心配がない』って、お前にだけは言われたくねぇよ!」
「うるさいっ! すでに栄光を手にしたお前に何がわかる!」
 答えるエクシリオンの声はもはや涙声だ。よほど悔しいのだろう。
「勝ち組のお前に、オレ達負け組の気持ちがわかるのか!?
 わからないさ! あぁ、わからないさ!」
 拳を強く握り締め、エクシリオンは力説し――
「――――――っ!?」
 その表情が今までとは違う意味でこわばった。
「………………?
 どうした? エクシリオン」
 その変化にロディマスブラーは眉をひそめ――エクシリオンはその場に崩れ落ちた。
「エクシリオン!?
 どうした、エクシリオン!?」

「……どうだ?」
「よくないですね……」
 報せを受け、アニマトロス派遣組もすぐさまスピーディアに駆けつけた――尋ねるギャラクシーコンボイの問いに、ファストエイドはエクシリオンを診察しながらそう答える。
「やはり、今回の砂漠レースはかなりの負担になったみたいです。
 元々病み上がりだったエクシリオンの身体は、もうほとんど限界に近い」
「治る、よね……?」
「治してみせるさ。なんとしてもね」
 すずかに答えると、ファストエイドは彼女や忍へと向き直り、
「みんな、手伝ってくれ。
 今夜のうちに、できる限りの処置を施す」
「はい!」
「もちろんよ!」
「全力を尽くします」
 意気込むすずかと忍、そしてシオン――だが、そこにさらに決意表明が挙がった。
「あたしも手伝うのだ!」
 美緒である。しかし――
「いや、美緒はいい」
 ファストエイドはそれを断った。
「なんでなのだ?
 あたしの腕は信用ならないのか!?」
 その問いに、ファストエイドはあっさりと答えた。
馬に蹴られるつもりはないんだよ、私は」

 翌朝、スピーディアの神殿――
〈厳しい予選ラウンドを勝ち抜いたレーサー達が、今ここに終結!
 グレートレース最終ラウンド、ファイナルレースが今ここに始まります!〉
 パズソーの実況の響く中、ファイナルレースに出場するレーサー達が観客席に姿を現した。
「……大丈夫か? エクシリオン」
「問題ないさ。
 すずかには感謝しないとな」
〈ちょっと、私達は!?〉
〈私のことも忘れてただろ、お前〉
 ロディマスブラーに答えるエクシリオンの言葉に、忍とファストエイドから抗議の声が上がる。
 と――
「………………ん?」
 ふと、美緒は神殿が光を放ち始めたのに気づいた。
 と――その光はエクシリオン達やニトロコンボイ達にも伝わり、ファイナルレースに進出したレーサー全員が光に包まれる。
「これは……?」
 思わずエクシリオンがうめくと、ニトロコンボイが感慨深げにつぶやく。
「……久しぶりだな」
「久しぶり……?」
 思わずロディマスブラーが聞き返した、その時――彼らの足元の床が消滅した。
 いや――不可視のそれに変わり、下の様子が透けて見えているのだ。
「ぅわぁ、地面が消えた!?」
「落ちる? 落ちるのか!?」
「落ち着け。見苦しい」
 あわてるガスケットとランドバレットにオーバーライドが答えると、彼らは神殿の中央のレリーフと共にゆっくりと降下していく。
〈長く閉ざされていたゲートが、彼ら10台をファイナルレースに挑むべき勇者と認めたぞ!〉
『勇者…………?』
 パズソーのその言葉に、一同は敵対関係も忘れて思わず顔を見合わせる。
 そして、一斉にそちらへと視線を向け――
『勇者…………?』
「オレ達を見て繰り返すな!」
「失礼なんだな!」
 疑わしげな視線を向ける一同に、ガスケットとランドバレットは思わず抗議の声を上げる。
 そうこうしているうちに――彼らは不意にそこに降り立った。
 漆黒の空間の中を縦横無尽に走るハイウェイ――
 まるでジェットコースターのようなループや、数多くのテクニカルカーブ――
 このグレートレースの最後を締めくくる、ファイナルコースである。

〈と、いうワケで、すごいコースの連続だぞ!〉
「すさまじいな、ホント……」
「あぁ。テクニックやパワーだけじゃない。スタミナやレーサー自身の根性も相当試されるぞ」
 ファイナルレースの開会セレモニーも終了。ピットに戻りパズソーのコース解説をモニターで見ながら、ロディマスブラーは耕介のつぶやきにそう答える。
「けど、ここまで来たんだ。絶対に勝ってみせるさ!」
 それでもこの豪華なコースを前に興奮を隠しきれず、エクシリオンが自信タップリに告げるが――
「おいおい、オレだって転生してスピードアップしてるんだ。
 オレも立派に優勝を狙える主戦力のひとりなんだってこと、忘れるなよ」
「そーなのだ! 勝つのはあたし達なのだ!」
「うるさい、そこのバカップル!
 ただでさえ先に彼女作られて、この上レースでまで負けてたまるか!」
 答えるロディマスブラーと美緒の言葉に、エクシリオンはムキになって言い返す。
 と、そんな彼にファストエイドが声をかけた。
「それよりもエクシリオン、今のお前の状態だが……」
「っと、そうだった……」
 肝心なことを思い出し、寄ってくるエクシリオンにファストエイドは現在の彼の状態を告げた。
「メイン動力から各部に指令を伝えるマザーボードの具合がそうとう悪い。
 シンクロ率は……よくて60%というところだ」
「ろ、60って……」
「ニトロコンボイが相手だってことを考えると、勝ち目は薄いですね……」
 思わずうめくガードシェルのとなりで、ロングラックもまた肩を落とす。
「やっぱ、ここはオレが……」
「いーや、オレが勝つ!
 ってゆーかこれ以上栄光をつかむなお前わっ!」
 横から告げるロディマスブラーにエクシリオンが言い返すのを聞きながら、恭也はじっとファストエイドの手元のモニターを見つめていた。
「……どうしたの? 恭也」
「いや……昔のことを、思い出してた」
 気になり、尋ねる忍に答え、恭也は続けた。
「覚えてるだろ? レンと晶のこと」
「そりゃもちろん」
「誰の話?」
「恭也のところに居候してる二人。
 今は片っぽ留守にしてるんだけどね」
 口をはさむハイブロウに忍が答えると、恭也はその時のことを思い出しながら告げた。
「レンは、昔から心臓を患っていて……手術をしなければ危ないところまできてた。
 けど、それはすごくリスクの大きな手術で……失敗を恐れたレンは手術を受けることをためらってた。
 それを、晶は必死に説得して……手術を受ける、受けないを賭けて、闘いにまで持ち込んだんだ。
 レンに対して絶対的に相性が悪くて、勝ち目なんかほとんどなかったのに……晶は最後まであきらめなかった。最後には拳を痛めてまでレンに勝って、手術を受けさせた……」
 なんとなく、言いたいことはわかった――恭也の意図を汲み取り、那美は告げた。
「あきらめるな――ってことですか?」
「あぁ。
 あきらめなければ、きっと何だってできる……
 エクシリオンのことだって、きっとまだ何か、できることがあるはずだ」
 うなずき、恭也が告げると、
「その通りだ」
 突然彼らの輪の外からかけられた声に、一同はそろって振り向くと、そこには――
『ドレッドロック(さん/様)!?』
 そこにいた意外な人物を前に、思わず声を上げ――
「なんでこんな忙しい現場にドレッドロックが!?」
「いつも地球でサボッてるクセに!?」

「……お前らが私のことをどう思っているかよくわかった」
 心の底から意外そうに本音をぶちまけるエクシリオンとロディマスブラーの言葉に思わずうめくと、ドレッドロックはため息をつき、
「まったく……
 私にも何かできることがあるんじゃないかと思って、やって来たんだ」
「……あるの?」
「あのな……」
 真顔で聞き返す忍に肩をこけさせ、ドレッドロックは思わずため息をつく。
 と――すずかは気づいた。ドレッドロックに尋ねる。
「ドレッドロック、志貴さんは?」
「志貴なら地球に残った。
 間の悪いことに、人と会う約束が入っていたらしい」
「って、アイツここ最近ずっとじゃんか。
 結局まともにレース観戦してないんじゃないか? アイツ」
「私に言うな。
 キミ達にだってキミ達の付き合いがある。協力を仰いでいる我々がとやかく言えんよ」
 真雪に答えると、ドレッドロックは気を取り直して一同に告げた。
「とにかくだ。恭也の言う通り、まだあきらめるには早すぎる。
 なんとしてもエクシリオンを勝たせる――そのために今までがんばってきたんだろう?」
「当然だ!」
 気を取り直して同意するエクシリオンにうなずき、ドレッドロックは一同を見回し、
「志貴達も地球でいろいろとアイデアを検討してくれている。
 我々も作戦会議だ。なんとしても打開策を見つけよう!」
『おーっ!』
 ドレッドロックの言葉に、一同は元気よく声を張り上げた。

 一方、ヴォルケンリッター達のピットでは――
「ここまでやったんだ。絶対勝つぞ!」
「当然だ。
 このレースに勝って、プラネットフォースを手に入れるぞ!」
 最終レースということで気合の入っているヴィータに、ジンライもまた興奮を隠し切れないようである。力強く同意する。
「任せなさいって!
 私にかかれば万事問題なし! 絶対勝ってみせるわよ!」
 同様に、自信タップリな様子でシャマルが告げるが――
「我を忘れるな」
 そこにアトラスからのツッコミが入る。
 と、その時、
「………………む?」
 突然何かに気づき、ザフィーラは顔を上げた。
 ビーストフォームのまま、ガレージの外へと顔を出し――
「わっ」
 そこにいたなのはが驚きの声を上げた。
「貴様……管理局の……!」
 なのはを前にして警戒を強めるザフィーラだが、
「わ、わわっ、待って!
 戦いに来たワケじゃないから!」
 なのははあわてて弁明する。
「じゃあ、何しん来たんだよ?」
 話が聞こえていたのだろう、そう言いながらヴィータも顔を出し、そんな彼女達になのはは答えた。
「えっと……お話、したくて来たんだけど……
 ダメ、かな……?」
「話………………?」
「うん……
 どうして“闇の書”を完成させようとしてるのか、とか……」
「そんなの、話すと思ってるのか!」
「あぁぁぁぁっ、それだけじゃなくて!」
 言って、グラーフアイゼンをかまえるヴィータに、なのははあわてて待ったをかける。
「他にも、ヴィータちゃん自身のこととか……」
「あたしの?
 何でそんなこと?」
 意外なお題が出た――キョトンとして聞き返すヴィータに、なのはは少しためらいがちに告げた。
「せっかく会えたんだもん……
 『敵と味方』じゃなくて……やっぱり、『友達』になりたいし……」
「とっ……!?」
 完全に意表をつかれ、ヴィータの顔が一瞬にして真紅に染まる。
「……ヴィータちゃん?」
 動きの止まったヴィータに、なのはは不思議そうに声をかけ――
「…………け……」
「え?」

「……出てけぇぇぇぇぇっ!」
「ご、ごめんなさぁいっ!」
 シュワルベフリーゲンを雨アラレと乱射され、なのははあわてて彼らのガレージを飛び出していく。
「ったく……何考えてんだ、アイツは……」
 肩で大きく息を切らせ、ヴィータがうめくようにつぶやき――気づいた。クルリと振り向き、尋ねる。
「……どうしたんだよ? ジンライ」
「いや、別に」
 何やら興味深そうに自分を見つめていたジンライに尋ねるヴィータだが、ジンライは肩をすくめてそう答えるのみ。
「本当に、か?」
「あぁ。大したことはない」
 ヴィータに答え――ジンライは胸中で付け加えた。
(ただ、お前がどことなく楽しそうに見えたんで、な……)

〈ダメか……?〉
「あぁ。
 やはり、マザーボードの具合が悪いのが決定的だ……」
 通信ウィンドウの向こうで尋ねる志貴に、ファストエイドはため息をついて答える。
「せっかくニトロコンボイがイグニッションできないこともわかったっていうのに……!」
「ウィークポイントを見つけたのに今度はこっちがトラブルなんて……」
「………………」
 ハイブロウと忍が話しているのを聞きながら、エクシリオンはふと視線を落とした。
「どうしたの? エクシリオン」
「何か思いついたのか?」
「いや……
 ニトロコンボイは、イグニッションできないってハンデを背負ったまま、ずっと勝ち続けてきたんだな、って思ってさ……」
 尋ねるフェイトと耕介にそう答えると、エクシリオンは続ける。
「けど、おかげでやっとわかった。
 ニトロコンボイが、どうしてイグニッションを嫌うのか……」
「自分ができないのに、周りは自由に使えていれば……シットのひとつもするよな、確かに」
「それもあるだろうけど……きっと一番の理由は違う」
「違う……?」
 耕介に対して異論を唱えるエクシリオンに、フェイトは思わず疑問の声を上げていた。
 そんな彼女に、エクシリオンは告げた。
「きっと……自分がイグニッションなしで勝ち続けてこられたからだ……
 自分がイグニッションしなくても勝てることを証明しているのに、周りは相変わらずフォースチップを使ってばかりで……多分、頼ってる、って思ってたんじゃないかな?」
「なるほど、な……
 フォースチップはあくまでもそのトランスフォーマーが持っている力を解放するための鍵――そのことを、ニトロコンボイは忘れてるってことか」
「あぁ」
 耕介の言葉にうなずき――気を取り直してエクシリオンは告げた。
「っと、それよりも今はニトロコンボイへの対策だ。
 ニトロコンボイがどうこう言う前に、オレが出られなきゃ意味がない」
「そうだね。
 何とかしないと……」
 エクシリオンの言葉にフェイトが考え込むと、ファストエイドが口を開いた。
「危険だが……手がないワケでもない」
「何だ?」
 聞き返すガードシェルに答えたのはハイブロウだった。
「誰かがエクシリオンに乗り込んで、マザーボードの指令伝達を助ける――つまり、一緒にエクシリオンに乗って走るクルーを用意するんです」
「走りながらピットワークをやるというのか?」
〈ですが……現状では他に手はないと思われます〉
 思わず聞き返すギャラクシーコンボイだが、地球のバックパックも同意見のようだ。
「なら、ホップが適任なんじゃないか?」
「そうしたいのはやまやまなのですが……私の場合、プロペラがつかえてしまいます」
「エクシリオンのサイズシフトは、横方向にしか適用できないからな」
 尋ねるドレッドロックだが、ホップとガードシェルの答えは芳しくない。
「じゃあノエルさんやファリンちゃんは?」
「あー、ムリかも。
 確かにいろいろ手伝ってもらってはいるけど、二人には『手伝いに必要なデータ』しか入れてないし……」
 専門家にしたら私の立場がなくなっちゃうし、と付け加え、スキッズに答えた忍は肩をすくめてみせる。
 と――
「……私が乗ります」
 突然そう言い出した人物に一同が注目し――忍が驚きの声を上げた。
「……すずか……!?」
「私ならエクシリオンに乗れる。そうでしょう?」
「そ、それはそうだが……危険すぎる」
 意気込むすずかだが、ドレッドロックはあわてて異を唱える。
「そうよ、それならむしろ私か耕介さんが……」
 忍もあわてて制止にかかるが、すずかも退かない。
「私はレーサーじゃないけど……私だって“夜の一族”なんだもん。エクシリオンと一緒に走れるよ!」
 その言葉に、ギャラクシーコンボイとドレッドロックは顔を見合わせる。
 そして――彼らはすずかに告げた。
「わかった」
「すずか、キミに頼もう」
「総司令官!? ドレッドロック!?」
「何かあったら、私と総司令官が何としても二人を守る」
 思わず声を上げるファストエイドに、ドレッドロックはキッパリと答える。
「だ、だけど……」
 それでも、妹の身を案じる忍は納得がいかないようだが――
「……確かに……彼女がもっとも適任だというのは事実だと思います」
 言いにくそうにしながらも、ロングラックはハッキリと事実を告げた。
「エクシリオンに乗り込めて、エクシリオンの走行の妨げにならず、なおかつメカに強い――その条件にあてはめて考えた場合、やはり彼女がもっとも適任だと思われます」
「なんでよ!?
 私達はその条件から外れるっていうの!?」
「外れはしませんけど……」
 忍の言葉に、ロングラックは答えた。
「耕介さんも忍さんも、すずかちゃんが乗るのに比べたらどうしても重――」

「ただいまぁ……」
 結局、ヴィータ達と話をすることはかなわなかった。少しばかり肩を落とし、なのははピットに戻ってきた。
 そんななのはが目にしたのは――
「……何か言うことは?」
「ゴメンナサイ……」
 忍に『オシオキ』され、大地に沈んだまま謝罪するロングラックの姿だった。

「もはやこれが最後のレース――ヤツらはとにかくスピード勝負に出るはずだ。
 パワーはともかくスピードで劣る我々が勝つには……」
「出だしで止めるしか、ありませんね……」
 スタントロンのピットでは、オーバーライドとメナゾールが作戦会議の真っ最中だった。
「今度こそニトロコンボイを倒し、バトルレースこそが最高のレースだと知らしめてやるぞ」
「はいっ!」
 オーバーライドの言葉にメナゾールがうなずき――となりのピットから、ガンガンと何かを叩く音が聞こえてきた。
「………………?
 となりは、誰のピットだ?」
「ガスケット達とインチアップ――3バカトリオのピットのはずですが……」
 ピットワークとは無縁に思えるその物音に、オーバーライド達は思わず顔を見合わせると聞き耳を立て――

「い、いてぇ……」
「先立つ不幸をお許しください……」
「バカ言ってんじゃねぇよ。
 このランドバレット様のウルトラスペシャルチューンで、バッチリよ♪」
「そ、そうなのか?」
「じゃあもっとやってくれ」
「おぅよ!」
「ぐぁっ!? やっぱいてぇ!」
「何しやがんだ!
 ショルダー、バルカン!」
「ぅわぁっ!?」

「……バカだな」
「……バカっスね」
 聞こえてきたガスケット達のやり取りに、二人は思わずつぶやいていた。

「何? 地球人が乗る?」
「あぁ。
 あの子だ」
 聞き返すニトロコンボイに、ファストエイドはうなずき、エクシリオンのチューンナップを手伝っているすずかを目で示す。
「だから、予選ラウンドまでとは条件が変わってしまうが……」
「かまわんよ。
 どうせ誰が勝つかは決まっ――」
 ファストエイドの言葉に答え――ニトロコンボイは突然口をつぐんだ。
 その脳裏を、第3戦でのブラー達の転生の光景がよぎる。
 そして、仲間達と協力してここまで走り抜いてきたレーサー達の姿も――
 自然と、口が動いていた。
「……ひとつだけ、条件がある」

「何だって!?」
 それを聞かされ、ギャラクシーコンボイは思わず声を上げた。
 ニトロコンボイの元にすずかの参加の許可をもらいに行ったはずのファストエイドが、なぜかニトロコンボイと共に戻ってきた。そして――そのニトロコンボイから、予想だにしなかった条件を突きつけられたのだ。
「聞こえなかったのか?
 “オレにも、地球人のパートナーを貸してほしい”と言ったんだ。
 そうすればエクシリオンと同じ条件――対等の勝負だろう?」
「し、しかし……」
「わ、わたしに振らないでくださいよぉ」
 ニトロコンボイの言葉に戸惑い、視線を向けるギャラクシーコンボイに、なのはもまた両手をパタパタと振りながら答える。
「ずいぶんな余裕だね。
 あたしらがエクシリオンを勝たせるために、何か小細工するとは考えないのかい?」
「するのか?」
 尋ねる真雪だが、ニトロコンボイは悠々と聞き返す――彼らがそんな汚い手に出るワケがないということは、すでに彼にとってお見通しらしい。
 そんなニトロコンボイに、ギャラクシーコンボイはため息をつき、
「……いいだろう。そもそも話を持ちかけたのはこちらの方だ。信用してくれると言うなら、断る理由はない。
 では、パートナーはキミが選んでくれ。そちらの方がフェアだろう?」
「わかった」
 ギャラクシーコンボイに答え、ニトロコンボイはなのは達人間組一同を見回し――そんな彼へと立候補の声が挙がった。
「私、私! 私がやる!
 すずかが出るんだもの。私だって!」
 忍である。だが――
「……お前に頼もう」
 ニトロコンボイが選んだのはそんな忍ではなく――
「………………オレ、か……?」
 耕介だった。

「まさか、ニトロコンボイがあんな提案をしてくるなんて……」
「意外でしたねぇ……」
 地球のサイバトロン基地で一連の流れを目の当たりにし、思わずつぶやく秋葉に琥珀が同意する。
「確かに……
 何を考えてるんだ? ニトロコンボイは……」
 同様に眉をひそめた志貴がつぶやき――ふと気づいた。
「……あ、ヤバ。
 そろそろ行かないと」
「また図書館ですか?」
「いろいろあってね。
 じゃ、こっちは任せるから」
 翡翠に答えると、志貴はいそいそと指令室を出て行った。
「……最近、図書館によく行ってるみたいだけど……」
「えぇ……
 なんでも、身体の不自由な常連さんを見かねて、と……」
「まったく……
 困ってる人を見かけると誰彼かまわず手を出すんですから……」
 バックパックに答える琥珀の言葉に、秋葉はため息をついてつぶやいた。

〈真の最速レーサーを決めるこの一戦!
 ニトロコンボイが王者の貫禄を見せつけるのか!?
 サイバトロンの新鋭コンビが意地を見せるのか!?
 ヴォルケンリッター達が騎士の誇りで勝ち上がるのか!?
 ファイナル常連、スタントロンやインチアップがついに下克上を果たすのか!?
 そして、ランドバレットとガスケットは一体何を企んでいるのか!〉
 パズソーの実況の中、ついにファイナルレースのスタートの時が訪れようとしていた。
「いよいよだね、ブラー」
「あ、あぁ……」
「あ、ひょっとして緊張してる?」
「し、してないっ!」
 スタート位置につき、尋ねる美緒にロディマスブラーはムキになって言い返す。
 一方で、すずかはエクシリオンから調整の手順についての最終確認を行っていた。
「じゃあ、メインパネルのスイッチを入れるね」
 言って、すずかがパネルを立ち上げると、そこに一連のデータが表示される。
「上側のバーがオレのパフォーマンス。下側のバーがコンピュータの算出する理想値だ」
「その誤差を修正すればいいんだよね?」
「あぁ。頼むぜ、すずか」

 そして、こちらでも――
「安心しろ、ニトロコンボイ。
 レースについては観客側の人間だけど、オレにだってプライドはある。プラネットフォースが欲しいからって、勝負に手は抜かないよ」
「だろうな。
 そう言いそうだったから、立候補した彼女よりお前を選んだんだ」
 正々堂々とした勝負を宣言する耕介の言葉に、ニトロコンボイは耕介を選んだ時の忍の落胆ぶりを思い出し、苦笑まじりにそう答える。
「けど……どうしていきなりパートナーを欲しがったんだ?」
「それは……」
 耕介の言葉に、ニトロコンボイは答えかけ――思い直し、告げた。
「レースが終わってからの、お楽しみだ」

 すでにすべての準備が整い、あとはスタートを待つばかり。
 プラネットフォースを求める者――
 ニトロコンボイへの勝利を求める者――
 王者であり続けようとするニトロコンボイ――
 それぞれの思惑がからみ合う中――シグナルが灯った。

 今、すべてが決まる――
 スピーディア最速のレーサーは誰なのか。
 そして――プラネットフォースを手にするのは誰なのか。

 今――その答えを出すため、彼らはスタートした。

 

グレートレース最終ラウンド、ファイナルレースのスタートである。

 

〈先頭はニトロコンボイ! 続いてアトラス、エクシリオン、ロディマスブラー! 少し離れて、鼻つまみコンビにインチアップ、ジンライ!
 他の面々は出遅れたか!?〉
 予想通り、トップに立ったのはニトロコンボイだった――それを追うのはエクシリオン以下高速レーサー組である。
「くそっ、させるか!
 フォースチップ、イグニッション!」
 しかし、出遅れたとはいえインチアップもファイナル常連だ。素直に見送るつもりなどない――フォースチップをイグニッションし、オンロード形態となって彼らを追い上げる。
「逃がすか!
 追っかけろ、ジンライ!」
「わかっている!」
 続いて、ヴィータの言葉にうなずいたジンライが加速しようとギアを上げ――そんな彼らやガスケット達の周囲で爆発が巻き起こった。
 後続のスタントロンの攻撃である――長距離砲撃で前方のニトロコンボイ達にも攻撃が及んでいる。事前の作戦会議で決めた通り、距離を離される前にケリをつけるつもりなのだ。
「くそっ、やっぱり撃ってきた!」
「逃げるが勝ちなんだな!」
「あぁっ! 逃げやがった!」
 真っ先に逃げ出したガスケットとランドバレットに思わずヴィータが声を上げるが、彼らにしてみればそれどころではない。何しろ自分がスタントロン達の一番近くにいるのだから。
「くそっ、迎撃するぞ、ジンライ!」
「だが、ここで足を止めると先頭グループに置いてかれるぞ!」
 ヴィータの言葉に思わず反論するジンライだが――その言葉に彼女は答えた。
「このままだと先頭グループのシャマルにも攻撃がいくだろ!」
「――――――っ!」
 ヴィータの反論に、ようやくジンライはそのことに思い至った。
「あたしらは、ここでコイツらの足を止めるんだ!」
「そうだな……了解だ!
 トランスフォーム!」
 ヴィータの言葉にうなずき、ジンライはロボットモードへとトランスフォームし、
「ジンライ、スーパーモード!
 トランスフォーム!」
 そのままトレーラーパーツと合体し、スーパージンライとなる。
「オーバーライド、メナゾール!
 ここから先には行かせない!」
「何だと!?」
「てめぇっ!」
「レースほっぽり出してまで相手してやるんだ。
 ここでしっかり、足止めされてもらうぞ!」
 スーパージンライの言葉にムキになるオーバーライド達に、ヴィータはグラーフアイゼンをかまえて言い放つ。
「やかましい!」
「貴様らだけで、このオーバーライド様(部下付き)カッコぶかつきカッコとじの相手ができると思ってるのか?」
 対して、メナゾールとオーバーライドもかまえ――
「オレも参戦すれば、こっち有利だと思うけど?」
『――――――っ!?』
 新たな声に一同が振り向くと、そこにいたのは――
「お前ら、どうして……!?」
「そいつらの攻撃がうっとうしいのは、こっちも同じなんでな」
「そっちがイヤだって言っても、勝手に足止めに協力させてもらうのだ!」
 意外な相手の登場にうめくヴィータに、先頭グループに喰らいついていたはずのロディマスブラーと美緒は自信タップリにそう答えた。

 一方、トップグループでは――
「本気でオレに勝つつもりか?」
「当たり前だ!」
 尋ねるニトロコンボイに、エクシリオンは彼の後を追いながらキッパリと答え、
「私達だって――」
「負けるつもりはない!」
「勝者は我らなり」
 シャマルやザフィーラ、アトラスもニトロコンボイに言い返す。
 その一方で――
「うぅ………………っ!」
「すずか、本当に大丈夫なのか!?」
 強烈なGに思わずうめき声を上げたすずかに、エクシリオンが尋ねる。
 だが、ここでエクシリオンが自分を気遣えば減速につながる――すずかはなんとかこらえ、エクシリオンに答える。
「だ、大丈夫……これくらいなら、平気だよ……!」
「け、けど……!」
 しかし、そんな彼らの動揺をニトロコンボイは見逃さなかった。カーブでインをつき、エクシリオンを一気に抜き去る。
「どうした!? もう終わりか!?」
「く………………っ!」
 ニトロコンボイの言葉にエクシリオンがうめき――
「エクシリオン、行って!」
 そんなエクシリオンにすずかが告げた。
「私なら、大丈夫だから……!」
「すずか……」
 大丈夫なワケがない――反論しかけたエクシリオンだったが、かろうじてその言葉を飲み込んだ。
 すずかは最初から、自分に乗り込むことが危険であることを承知の上で名乗りを上げたのだ。
 それに、以前を上回るスピードを得ていながらレースに勝つことを捨て、オーバーライド達の足止めに残ったロディマスブラーと美緒のこともある――ここでそんな彼女の気持ちを無にするワケにはいかない。
「よぅし……いくぞ、すずか!」
「うん!」

「アイツら……オレ達のこと忘れてないか!?」
「くっそぉ! 無視しやがって!」
 一方、ガスケット達は完全に忘却の彼方に置き去りにされていた。ガスケットの言葉にインチアップがうめくが、そんな二人にランドバレットが告げた。
「そういう時こそ! ウルトラチューン第1弾発動!」
「おっと!」
「そうだったな!」
 ランドバレットの言葉に二人はそのことを思い出し、
『ウルトラスーパースペシャルチューンナップ、イグニッション!』
 告げると同時――3人は“跳んだ”。
 車体下部に組み込まれていたスプリングでジャンプしたのだ。
 その勢いで、彼らは一気にエクシリオン達の後方へと着地。そのまま彼らの後を追う。

〈おっと! ランドバレットとガスケット、それにインチアップまで跳んだぁっ!
 トップグループに追いつき、追撃を開始する!〉
「アイツら……ただのお笑い軍団かと思ったら、なかなかやるな」
「えぇ。油断のならない連中です」
 ピットでレースの中継を見守り、つぶやくドレッドロックにファストエイドがうなずく。
 と――
〈あぁっ!〉
 突然、エクシリオンのライドスペースですずかが声を上げた。

「大変だよ、エクシリオン!
 エンジンからタイヤへの動力伝達でパワーロスが!」
「何だって!?
 原因はわかるか!?」
「ちょっと待って!」
 エクシリオンの問いにすずかはシステムをチェックし――
〈すずか、シャフトをチェックしてみて!〉
 そんなすずかに告げるのは忍である。
〈こっちでモニターしてたんだけど、シャフトに歪みが出たの。きっと原因はそれよ!〉
「………………うん! 確かにシャフトが歪んでる!
 これなら、シャフトとホイールのシンクロ率を……」

「……なんとかなったか……」
 再びスピードを取り戻し、加速していくエクシリオンを見て、ガードシェルが安堵のため息をもらす。
「忍さん、すっごぉい!」
「サイバトロン基地のシステム開発主任の肩書きは伊達じゃないのよ♪」
「いつ持ったんだ? そんな肩書き」
 胸を張ってスキッズに答える忍に恭也がツッコミを入れると、
「だが、安心してばかりもいられない」
 そう答えるのはギャラクシーコンボイである。
「次の360度ターンをクリアできなければ元も子もない」
 そうギャラクシーコンボイが指摘するのは、すぐ先に迫ったジェットコースターばりの回転コースである。
「回りきるまでにパワーを維持できなければ……」
「……どうなるの?」
 恐る恐る尋ねるフェイトに、ギャラクシーコンボイは答えた。
「墜落――リタイアということだ」
 しかし――
〈心配ないですよ!〉
 そんな彼に告げたのはエクシリオンだった。

「オレ達のコンビなら、たとえ耕介さんがニトロコンボイについたって遅れは取りません!」
 ニトロコンボイ、アトラスの後方に続き、エクシリオンはギャラクシーコンボイに告げる。
「そうさ……ここまで来て、負けるワケにはいかない!」
「うん!
 ニトロコンボイとも、耕介さんとも正々堂々、手加減なしの全力勝負!」
 エクシリオンの言葉に、ようやくGに慣れてきたすずかも自らに気合を入れ直す。
「行こう、エクシリオン!
 絶対に勝って、プラネットフォースを手に入れよう!」
「おぅ!」
 すずかの言葉にうなずき、エクシリオンは一気に加速した。


 

(初版:2006/06/11)