『フォースチップ、イグニッション!』
咆哮が交錯し――メナゾールとスーパージンライはそれぞれのフォースチップをイグニッションし、
「ゾール、ファイヤー!」
「マックス、バーニング!」
互いの一斉攻撃が中間で激突、大爆発を巻き起こす。
「ヴィータ!」
「はいよ!
グラーフアイゼン、カートリッジ、ロード!」
スーパージンライの言葉に、ヴィータはカートリッジをロードしつつ飛翔。爆発に紛れて一気に間合いを詰め、
「ラケーテン、ハンマー!」
「なんの!」
繰り出されたラケーテンフォルムのグラーフアイゼンを、オーバーライドは腕の装甲で受け止める。
だが――
『フォースチップ、イグニッション!』
その背後には美緒を乗せたロディマスブラーが回り込んでいた。フォースチップをイグニッションするとロディマスショットを取り出し、オーバーライドへと攻撃を仕掛ける。
「おのれぇっ!」
対して、オーバーライドはヴィータを弾き飛ばすとロディマスブラーへと向き直り、
「フォースチップ、イグニッション!
ライド、バスター!」
放たれたライドバスターを、ロディマスブラーは素早く回避し、なおを攻撃をしかける!
「ここで追い返しても、どうせまた次の手で来るだけだ!
レース終了まで、こいつらを引きつけるぞ!」
「らじゃったのだ!」
「気が進まんが了解だ!」
「お前が仕切るな!」
ロディマスブラーの言葉に三者三様の答えが返り――彼らは同時に跳躍した。
第25話
「つながる心と勝利なの」
「すずか、次も難関だぞ!」
「うん!」
次なる関門――ジェットコースターさながらの360度ターンを前にして、告げるエクシリオンにすずかがうなずく。
「シャマル」
「皆まで言わない!」
一方で、告げるザフィーラにシャマルがうなずき、
「アトラス!」
「御意!」
彼女の呼びかけでアトラスが加速。そしてもちろん彼らも――
「ニトロコンボイ、大丈夫なんだろうな!?」
「当たり前だ。
オレを誰だと思っている!?」
耕介に答え、ニトロコンボイはトップを維持しながら360度ターンを目指す。
だが――
『ぃやっほぉ〜いっ!』
そんな彼らを追い抜いたのはランドバレットとガスケット、そしてインチアップだった。
「ここらで差をつけさせてもらいましょ!」
「ウルトラチューン、第2弾!」
「いっくぜぇっ!」
口々にそう告げ――ガスケット達は一斉に加速し、エクシリオン達を引き離していく!
「な、何だ!?」
「すごい……」
「スーパーウルトラニトロエンジン!
お前らのヤワなエンジンじゃ、このコースはムリなんだな!」
驚くザフィーラとシャマルにランドバレットが答え、3人はさらに加速していく。
「ワハハハハッ! 快調、快調!」
「ウ〜〜、マンボ!」
調子に乗って声を上げるガスケットとインチアップだが――突然彼らの足元から地面が消えた。
『え――――――?』
疑問の声を上げ――気づく。
自分達が浮いている。いや――
『重すぎたぁぁぁぁぁっ!』
その重量ゆえ重力に敗北、3人は360度ループの頂点から落下し――
『ジャマ!』
真下を駆け抜けたニトロコンボイ組、エクシリオン組、アトラス組にはね飛ばされた。
「これでデストロン組は全滅!」
「後はオレ達の真剣勝負だ!」
「望むところだ!
いくぞ、すずか!」
「うん!」
「私達だって!」
「わかっている!」
「投了の意思皆無」
ニトロコンボイ、耕介の言葉に答え、エクシリオンとすずかもアトラス達と共に加速した。
「くっそぉ……! ここまで来て……!」
「大丈夫か? ガスケット」
「って、大丈夫じゃねぇよ!」
エクシリオン達にブッ飛ばされ、コースのふちにつかまっているインチアップとランドバレットの言葉に、その二人の足にさらにしがみついているガスケットが言い返す。
「これからどうする?」
「って、決まってんだろ!」
「帰るのか?」
「帰らねぇよ!」
インチアップとランドバレットに答えると、ガスケットは“そちら”へと視線を向け、
「“アレ”さ♪」
『“アレ”………………?』
「要するに、優勝できなくてもプラネットカップさえいただいちまえばいいんだろ?」
「あったまいい♪」
「ズルいだけだろ」
スピーディアの神殿――物陰から顔を出し、告げるガスケットの言葉にランドバレットとインチアップが口々にコメントをもらす。
プラネットカップの周りは無人だ。今ならたやすく奪えるだろう。
「よぅし……プラネットフォース、いただき!」
チャンスは今――決意と共にガスケットはプラネットカップへと飛びつき――
「あばびぶべばびべぇっ!?」
バリアに接触、感電した。
「だ……大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇよ!」
尋ねるランドバレットに言い返し、ガスケットは再びプラネットカップへと向き直る。
もちろんプラネットカップをあきらめるつもりなどない。だからといってバリアを解除する、などというからめ手を彼らが選ぶはずもなく――
「こうなったら、実力行使だ!」
「お、おぅ!」
「わかった!」
ガスケットの言葉にランドバレットもインチアップもコクコクとうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
一斉にフォースチップをイグニッション、バリアに向けて攻撃を始める。
「お、おい、お前ら!」
「止めるなよ、パズソー!
プラネットカップさえ手に入れちまえば万事解決なんだからな!」
あわてて声をかけてくるパズソーにガスケットが答えるが、
「あー、いや、そうじゃなくて……」
そう前置きすると、パズソーはやや言いにくそうに告げた。
「後ろ」
「後ろ……?」
その言葉に、ガスケットは怪訝な顔をして振り向き――視界が光に包まれた。
「ぶぎゃっ!?」
光の正体は飛来したビーム――顔面に直撃をもらってガスケットはひっくり返り、続いてランドバレット、インチアップも撃ち倒される。
そして――
「抜け駆けたぁ、おだやかじゃないな」
「レースに負けたクセに、図々しいのだ!」
そんな彼らに銃を向けたロディマスブラーと美緒が告げ、
「そうだそうだ!
あたしらだってチャンスだったのにガマンしてたんだぞ!」
「違うだろソレは」
頬をふくらませて告げるヴィータにはスーパージンライのツッコミが飛ぶ。
「て、てめぇら!?」
「スタントロンは!?」
驚き、声を上げるガスケットとランドバレットだが――そんな彼らにロディマスブラーは告げた。
「回れ右」
『………………?』
その言葉に、ガスケットとランドバレットは先程と同じように振り返り――
「ぶべっ!?」
「どわっ!?」
今度は二人そろって殴り倒された。
いつの間にか彼らの後ろに回っていたオーバーライドとメナゾールによって。
「ったく……人がプラネットカップを横取りしようと必死に戦ってる間に……」
「しかも、カップ巻き込んじゃマズいと思ってわざわざコース上を選んで戦ってたんだぞ、オレ達は。
それを無視するたぁ、いい度胸じゃねぇか……」
「あ、いや、えっと……」
いつの間にか目的がすり替わっている気がするが、ツッコむ余裕などありはしない――怒りのオーラをまき散らしながら告げるオーバーライドとメナゾールの言葉に、ひとり残されたインチアップは必死に弁明の言葉を探し――
数分後、コース上で戦闘を再開すべく彼らが去った後には――3つの消し炭が転がっていた。
「まだついて来るか……」
「オレ達だって負けたくないんだ、当然だろう?」
一方、ニトロコンボイやエクシリオン達のレースはすでに終盤に差し掛かっていた――後ろに張りついたままのアトラスとエクシリオンの気配を感じながら、ニトロコンボイのつぶやきに耕介が答える。
「どうする? やはりエクシリオンを勝たせるためにオレのジャマをするか?」
「おあいにく、オレもズルしたりして、サイバトロンのみんなに嫌われたくないんだ。
エクシリオン達には勝ってもらいたいけど、これでお前に負けたら、また別の手段で交渉するまで――今はお前のパートナーとして、お前を勝たせることに全力を尽くしてやるよ!」
「そうこなくっちゃな!」
耕介の答えに満足げにうなずくと、ニトロコンボイは後ろの2台に告げた。
「ヒヨッコだと思っていたが、お前達、なかなかに骨がある」
「おほめに預かり、光栄だな!」
「恐縮至極」
ここまでついてきたことに素直に敬意を表するニトロコンボイの言葉に、エクシリオンとアトラスが答える。
「だが、勝つのはオレだ!」
「勝敗の決定には時期尚早」
「そういう、ことだ!」
ニトロコンボイに言い返し、彼の後を追うアトラスとエクシリオンだが――
「エクシリオン、大変だよ!」
そんな彼に、ライドスペースのすずかが声を上げた。
「メインエンジンと、全部のユニットとの接続が乱れてる!」
そう――ここにきて、エクシリオンの身体に立て続けにトラブルが発生した。必死にその処理に追われるすずかだが――
「くっ、やっぱりな……!」
「え………………?」
うめくエクシリオンの言葉に、すずかは思わず声を上げた。
(……“やっぱり”……?)
「エクシリオン、もしかして、こうなるって気づいてたんじゃ……!」
「今の身体でこんな限界走行を続ければ、遅かれ早かれなってたさ!」
すずかに答えると、エクシリオンは気合を入れ直し、
「どの道避けられなかったんだ、気にするな!
あと少しなんだ――ここで退くワケにはいかない! 足りない分は、根性でカバーしてやるさ!」
「う、うん!」
〈さぁ、次の難所は連続シケイン!
最初に飛び込んだのはニトロコンボイ! その後にアトラス、エクシリオンが続く!〉
パズソーの実況の中、ニトロコンボイを先頭とした3台は高速でシケインをクリア、続くストレートコースに飛び込んでいく。
「どうだ!」
「よくここまでついてきたな」
声を上げるエクシリオンに答え――ニトロコンボイはそんな彼らに現実を突きつけた。
「だが、ここからはパワー勝負だ。
息の上がったお前に勝ち目はない!」
「くっ………………!」
うめくエクシリオンだが、彼の言うことは事実だった。パワーダウンしたエクシリオンは次第にニトロコンボイから、そしてアトラスからも距離を開けられていく。
一方、すずかも懸命にトラブルの原因を探るが、異常の起きている場所が多すぎてさばききれない。
「ダメだ……パワーが半分も伝わってない……!」
うめいて、すずかは懸命に原因を探り――
「――見つけた!」
ついに発見――だが、それはかなり深刻なダメージだった。
「メインエンジンの回路コネクタがほとんど焼きついてる……!
だからパワーが伝わらなかったんだ……」
だが、これは調整でどうにかなる問題ではない。替えのパーツもないし、そもそも走行中に交換できるものでもない。
と、そこへスキッズが急を知らせてきた。
〈もうすぐ70度の急坂だよ!〉
「途中でエンジンが止まりでもしたら、真っ逆さまです」
「そんな……!」
スキッズを補足する形ですずかに告げるノエルの言葉に、なのはは思わず声を上げる。
そんな角度を駆け上っていく状態でもし落下すればエクシリオンも中のすずかもタダではすまない。ヘタをすれば――
「ここまでか……!」
ピットからではどうすることもできない――うめくファストエイドだったが、
〈まだだよ!〉
それに待ったをかけたのはすずかだった。
「まだ何か手はあるはず……!」
告げて、すずかはキーボードに指を走らせ、打開策を次々にシミュレートしてみる。
だが――ダメだ。何をしても、エクシリオンのパワーロスを防ぐことが出来ない。
(いったい、どうすればいいの……!?)
こんな大事な時に何もできない――悔しさに打ちのめされ、すずかは思わず視線を落とし――
(あれ………………?)
ふと視界にそれが入った。
足元にある、電算系統のメンテナンス用カバーだ。
とたん――すずかの脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「……よぅし!」
迷っているヒマはない。すずかは自分の身体を固定しているセーフティバーを外すと足元へともぐり込む。
「すずか、何をするつもりだ!?」
驚いて声を上げるエクシリオンだが、すずかは作業を始めながら答えた。
「パワーを制御してるコンピュータを経由してるから、トラブルに対して対処しようとして出力を落としちゃう――
なら、“コンピュータをはさまずに、直接パワーコネクタをつなげば”!」
〈む、ムチャだ、危険すぎる!〉
〈やめなさい、すずか!〉
そのアイデアに、すずかの身を案じるドレッドロックと忍が声を上げるが、すずかは作業の手を止めない。
「だからって、このままじゃ負けちゃうよ!
あきらめちゃいけない――だから、やってみる!」
言って、動力部と駆動系のパワーコネクタを外し、位置を合わせる。
だが、確かに忍達の言う通り危険な行為だ――自分を襲うかもしれない痛みを思い、一瞬手が止まる。
やはり他の手で――そんな考えが脳裏をよぎるが、すずかは首を左右に振ってその考えを頭の中から追い出した。
(エクシリオンだって、ボロボロの身体でがんばってるんだ……もう身体中傷だらけなのに!)
「それに比べたら――このくらい!」
自分自身に告げると同時――すずかはコネクタをつないだ。
とたん――エクシリオンの全身に力がみなぎった。一気に加速し、ニトロコンボイ達を追い上げる!
〈おぉっと! ここにきてエクシリオンのパワーが回復!
70度の急坂に突入し、ニトロコンボイとアトラスを、ものすごい勢いで追い上げていく!〉
「なんだと!?」
「そんな、まだあんな力が!?」
「驚愕」
パズソーのその実況を聞き、ザフィーラ、シャマル、アトラスが驚愕の声を上げる。
一方、驚愕しているのはニトロコンボイ達も同じだった。
「バカな……何なんだ、あの力は……!?
耕介、あれは一体!?」
「オレだって驚いてるよ!
まさか、あそこで立て直すなんて……!」
思わず尋ねるニトロコンボイに、耕介もまた驚きを隠しきれず、喜ばしいことだということも忘れてそう答える。
「だが、オレもここで負けるつもりは――ない!」
しかし、さすがはニトロコンボイ。すぐに動揺を抑え込み、エクシリオンから逃げ切るべくニトロブーストで加速する。
それに気づいたアトラス達もその後を追い、さらにエクシリオンも――3台は一直線にゴールへと突き進む!
だが――
(抜き切れない――!?)
現状は芳しくない――そのことに気づき、すずかは胸中で声を上げた。
確かにエクシリオンはパワーを取り戻した。そのスピードはニトロコンボイをもしのいでいる。
だが――それでも足りない。今の速度差では、追い抜く前にゴールを迎えてしまう。
この状況を打開するためには――
「エクシリオン……フォースチップを……!
アクセルウィングを、使って……!」
「け、けど……!」
決意し、告げるすずかの言葉に、エクシリオンは思わずうめく。
確かに残りの距離で追い上げるにはそれしかない。だが、すでにすずかの身体にはかなりのGがかかっているはずだ。その上さらにアクセルウィングを使えば――そう思うと、エクシリオンはどうしてもイグニッションに踏み切れないでいた。
だが――そんな彼に、すずかは告げた。
「ずっと、思ってた……!」
「え…………?」
「わたしが一番パートナーにしたいのは、エクシリオンだって……!
だから……一緒に!」
その言葉に、エクシリオンは――
「……わかった」
決意した。
「いくぞ、すずか!」
「うん!」
『フォースチップ、イグニッション!』
その言葉と同時、スピーディアのフォースチップがエクシリオンのチップスロットへと飛び込み、その背中に翼が開かれる。
エクシリオンを――いや、エクシリオンとすずかを勝利へと導く翼が――
『アクセル、ウィィング!』
咆哮し――二人は一気に加速、アトラス達、そしてニトロコンボイ達との距離を縮めていく!
そして――
〈ゴール!〉
3台は、横一線でゴールしていた。
「どうなったの!?」
「結果は!?」
「1位は誰!?」
レースも終わり、各自ロボットモードにトランスフォーム。それぞれの相棒から降り、すずかと耕介、そしてシャマルとザフィーラが判定モニターへと視線を向ける。
〈優勝は――〉
敵も味方もなく、全員が沈黙、パズソーの実況だけが響く中、モニターに判定画像が映し出され――
〈エクシリオンだ!〉
その映像は、3台の鼻先、ほんのわずかの差でエクシリオンが真っ先にゴールしていたことを示していた。
2位はニトロコンボイ、3位はアトラス――こちらもほぼ同着という僅差である。
「……勝っ、た……?」
「ですよ、ね……?」
もうあきらめかけていた矢先の大逆転勝利――ピットの全員が呆然とする中で、スキッズとファリンがポツリとつぶやく。
エクシリオンが勝った――次第にその実感がわいてくると、各自視線を交わし――
『……ぃやっ、たぁぁぁぁぁっ!』
次の瞬間、ピットが割れんばかりの歓声に包まれた。
「負けちゃった……」
「うむ」
「残念」
優勝者が決定し、観客席の歓声が聞こえてくる。それを聞きながら、つぶやくシャマルにザフィーラとアトラスが答える。
「オレが……負けた……?」
一方、前回優勝者のニトロコンボイもまた、意外な結果に呆然としている。そのまま視線を落とし――
「オレはジャマしてないぞ」
「それはわかっている。
というか……途中から勝ち負け関係なく自分が楽しんでただろ、お前は」
そこにいた耕介の言葉に、ニトロコンボイはため息まじりにそう答える。
そして、軽く肩をすくめて耕介に告げた。
「だが……いい勝負だった。
悔しさよりも、スッキリした感じの方が強いな、今は」
その口調からは本当に悔しさは感じられない。むしろつき物が取れたかのようなすがすがしさがあった。
「耕介、キミにも礼を言う。
おかげで最高のレースができた」
「オレは何もしてないよ」
「そうでもない」
そう耕介に答え、ニトロコンボイは大喜びのすずかとエクシリオンへと視線を向けた。
「お前と走ったおかげで、納得もできた」
「納得……?
そういえば、どうしてパートナーを欲しがったのか、結局聞いてなかったな」
「何、今となってはくだらない理由さ」
あっさりとニトロコンボイは耕介に答える。
そう――くだらない意地に対するけじめのつもりだった。
ひとりで、自分の力だけで走ることにこだわっていた、過去の自分の意地に対する――
「意外と悪くないものだな。
誰かと一緒に……力を合わせて走る、というのも……」
レースの勝敗も決し、いよいよ前優勝者のニトロコンボイによる、エクシリオンへのプラネットカップ贈呈である。
「いよいよだな……」
「うん……」
つぶやくエクシリオンのとなりですずかがうなずくと、神殿に変化が起きた。プラネットカップを守っていたバリアが消滅し、プラネットカップがその形を変える。
フォースチップだ――ただし、いつも使っているものと違い、その縁取りは金色に染め抜かれている。
「あれが、プラネットフォース……」
「レースで手に入れられなければ奪う」と決めてはいたが、さすがにこんな場で奪おうとする気にはなれない。目標を確かめるかのようにシャマルがつぶやき――気づいた。
空間に歪みが生まれた。あれは――
(デストロンの――ワープゲート!?)
とっさに一同へ警告しようとするが、すでに遅かった。ワープゲートから巻き起こった炎が神殿へと降り注ぎ――
「マスターメガトロン!?」
その中から現れたデストロン一党――そしてスピーディアのプラネットフォースを奪い取ったマスターメガトロンを前に、エクシリオンが声を上げる。
プラネットカップを奪おうとして撃退されたガスケット達だが、最後の手段としてマスターメガトロン達に救援を要請したのだ。
「貴様らはせいぜい友情ごっこでもしていろ。
プラネットフォースは、このオレ様がいただいていく」
そんな彼らに対し、マスターメガトロンは横取りしたことを悪びれるでもなく堂々と告げ――
「そうはさせんぞ、マスターメガトロン!」
「プラネットフォースは、エクシリオンさんがもらうんだから!」
その前に立ちふさがるのは、当然ながらギャラクシーコンボイとなのはである。
「ジャマなどさせるか!
ノイズメイズ、ラナバウト、行け!」
「ィエッサー!」
「ラジャー!」
しかし、デストロンも素直に返すワケがない。スタースクリームの言葉にノイズメイズとラナバウトが戦端を開くが、
「させるか!
いくぜ、アルクェイド!」
「OK!」
「那美、久遠、ボク達も!」
「はい!」
「久遠、がんばる!」
それに対抗するのはライガージャック&アルクェイド組とロングラック・那美・久遠組である。真っ先に彼らの前に立ちはだかり、
「プラネットフォースは、貴様らには渡さん!」
「そううまくはいかん!」
咆哮と同時、ベクタープライムとスタースクリームの刃がぶつかり合う。
そして、ギャラクシーコンボイとマスターメガトロンもまた、プラネットフォースを巡って対峙していた。
「プラネットフォースを渡せ、マスターメガトロン!」
なのはをライドスペースに乗せ、マスターメガトロンへと突っ込むギャラクシーコンボイだが、マスターメガトロンも負けてはいない。ギャラクシーコンボイの拳をかわし、逆にカウンターのヒザを叩き込む。
「ぅわぁっ!」
「きゃあっ!」
「そんな頼み方で、渡すと思っているのか?」
大地に叩きつけられるギャラクシーコンボイとなのはに対し、悠然と告げるマスターメガトロンだったが――
「どっせぇいっ!」
珍しくその余裕が油断につながった。背後からの体当たりを受けてブッ飛ばされる。
そして、マスターメガトロンの手を離れたプラネットフォースを手にしたのは――
「ナイスだ、メナゾール!」
メナゾールにマスターメガトロンへの不意打ちを命じたオーバーライドだった。
「き、貴様……よくもやってくれたな!」
「それはこちらのセリフだ」
うめくマスターメガトロンに答えると、オーバーライドは不満げに鼻を鳴らし、
「このオーバーライド様を差し置いてプラネットカップを奪うとは……
悪党の上方にも置けぬ輩だな!」
「違います、オーバーライド様!
それを言うなら『風上にも置けぬ』です!」
メナゾールからのツッコミが入るが、オーバーライドはそれを無視してマスターメガトロンとにらみ合う。
だが――周りのことを失念していた。オーバーライドもまた背後からのタックルを受け、顔面から地面に突っ込む。
そして、またもやプラネットフォースが宙を舞い――
「もらい!」
それをキャッチしたのはヴィータだ。自分の体格からすれば一かかえほどもあるプラネットフォースを抱きかかえ、そのままタックルをしかけた張本人――ゴッドボンバーの肩の上に降り立つ。
「この、返しやがれ!」
そんなヴィータとゴッドボンバーにメナゾールが襲いかかるが、
「ジンライ! パス!」
メナゾールの手が届くよりも早く、ヴィータはスーパージンライへとプラネットフォースを投げつけ――
「パスカット!」
それを阻んだのはオートローラーズのひとり、オートジェッターだ。両者の間に割って入り、プラネットフォースを奪い取る。
だが――
『フォースチップ、イグニッション!』
ノエルとハイブロウの声が響き、真紅のフォースチップがハイブロウのチップスロットへと飛び込み、
『デュアルローター、キャノン!』
放たれたビームは狙いたがわずオートジェッターを直撃、墜落したオートジェッターの手からこぼれたプラネットフォースは真下にいたアトラスの手に渡る。
だが、その動きにはオートローラーズの地上メンバーが素早く反応した。すぐさまアトラスを包囲する。
「フンッ、一番貧弱なヤツの手に渡ったな」
「とっとと渡せ、オラ!」
アトラスに対してジリジリと距離を詰め、オートスティンガーとオートクラッシャーが告げるが――
「心外なり」
そんな彼らの言葉に、アトラスはロボットモードへとトランスフォームし、ムッとして答えた。
「我にもサポートメカ、及び上級形態は存在」
そうアトラスが告げると同時、オートローラーズの周囲で爆発が巻き起こる。
突然現れた大型戦闘機と自走砲が攻撃を始めたのだ。
アトラスの支援メカ、“ダイジェット”と“ダイパンツァー”である。
そして、アトラスは2機のサポートメカに向けて跳躍し、咆哮した。
「アトラス、スーパーモード!
トランスフォーム!」
その言葉に反応し、ダイジェットとダイパンツァーが変形を始めた。ダイジェットの機首が機体下方に折りたたまれ、左右の推進部が両腕に変形する。
続いてダイパンツァーの砲塔が分離すると車体がスライド式に伸び、前方が左右に分かれて下半身が完成する。
そして、上半身に変形したダイジェットと下半身に変形したダイパンツァーが合体、最後にアトラスがその胸部に合体し、本体の内部から新たな頭部がせり出す。
合体を完了し、新たな姿となったアトラスとザフィーラは高らかに名乗りを上げた。
『ダイ、アトラス!』
「ぱ、パワーアップした!?」
スーパーモードへの合体を遂げたアトラス改めダイアトラスを前に、オートスティンガーは思わず気圧されて後ずさり、
「そうよ、これがアトラスの最強モード、ダイアトラス!
さっきまでとは、パワーも防御力も段違いよ!」
「なぜシャマルが自慢する……?」
ライドスペースで胸を張るシャマルの言葉に、ダイアトラスの本来のパートナーであるザフィーラはため息まじりにうめく。
だが、そんな彼らに対してたまったものではないのがオートローラーズだ。ダイアトラスの威容を前に、あわてて攻撃を開始する。
しかし――通じない。ダイアトラスの頑強な装甲に加え、シャマルも防壁を展開し、オートローラーズの攻撃をことごとく弾いてしまう。
「ダイアトラス、このままプラネットフォースを持ち帰るぞ」
「了解」
後で改めて――と思っていたが、タナボタで自分達のところにプラネットフォースが回ってきたこの幸運を逃す手はない。ザフィーラの言葉にダイアトラスがうなずき――
「そうはさせるか!」
それを阻んだのはオーバーライドだ。ダイアトラスを殴り倒し、その手からプラネットフォースを奪い取る。
「ようやく我が手に戻ったか……」
「『戻ったか』じゃないわよ!」
プラネットフォースを手にしてつぶやくオーバーライドに、ダイアトラスの中からシャマルが言い返す。
「レースに負けたあなたに、プラネットフォースを手にする資格があると思ってるんですか!」
「その理屈で言うと、我らにも所有権はないのだが……」
後ろでザフィーラがツッコむが当然のように流され、立ち上がったダイアトラスはオーバーライドと対峙する。
しかし、プラネットフォースを狙っているのは彼らだけではない。そんな彼らに向けて、マスターメガトロンが雷撃を放つ!
「プラネットフォースはオレ様がいただく!」
「知るか、そんなの!」
マスターメガトロンに言い返し、オーバーライドは彼の雷撃をかわし、
『フォースチップ、イグニッション!』
同時にフォースチップをイグニッション、それぞれのイグニッションウェポンをかまえる。
「ライドバスター!」
最初に仕掛けたのは飛び道具のオーバーライド――なのはのスターライトブレイカーにも匹敵する特大の閃光が放たれるが、マスターメガトロンはそれを余裕でかわし、
「デス、クロー!」
左手に装着したデスクローを繰り出すが、オーバーライドも十字受けでそれを受け止める。
「ほぉ、飛び道具だけかと思えば……」
「飛び道具だけでは、バトルレースには勝てないものでな」
一瞬の攻防――だがその一瞬で互いの力量を推し量り、マスターメガトロンとオーバーライドは笑みを交わし――
「プラネットフォースを、よこせぇっ!」
またも乱入。ゴッドボンバーと合体したゴッドジンライが蹴りと共に飛び込み、マスターメガトロンとオーバーライドはとっさにその場を飛びのいて回避する。
「ギャラクシーコンボイさん、わたし達も!」
「だ、だが……!」
目まぐるしく動き続ける戦況を前にして、なのはも参加を促すが、ギャラクシーコンボイは今乱入することの危険性を感じて思わず二の足を踏んでしまう。
こういった乱戦では一瞬の判断の遅れが命取りになる――と言ってもこの場合は自らの安全よりもプラネットフォースの方のことだ。確保している者が次々に入れ替わっている現在の状況では、うかつに攻撃すればプラネットフォースを巻き込んでしまう恐れがある。
それに――
「ジャマは、させないぜ!」
ゴッドジンライが標的をこちらに向けた。全身の火器でこちらの足を止めにかかる。
と――
「プラネットフォースは、オレ達が!」
「ここは任せろ!」
言って、ギャラクシーコンボイ達の脇を駆け抜けたのは――
「エクシリオン! それに――」
「ニトロコンボイさん!?」
「この星を荒らす者は――」
「オレ達が許さないぜ!」
ビークルモードで疾走し、ニトロコンボイとエクシリオンは一直線に戦場へと飛び込んでいく。
「ザコが!」
対して雷撃を放つマスターメガトロンだが、二人はあっさりとかわして先を急ぐ。
目的は――
「やはりオレか!」
プラネットフォースを持つオーバーライドが標的だ。猛スピードで距離を詰めるが、相手もスピーディアに君臨する大帝だ。すぐさま両腕の内臓ガンで二人に痛烈なカウンターをお見舞いする。
「くっ、やってくれる……!」
うめいて、ニトロコンボイはロボットモードにトランスフォーム。転がるようにして勢いを殺すとすぐさま立ち上がり、
「だが、まだまだ!」
「しつこいぞ、貴様!」
再びオーバーライドへ向けて地を蹴るが、対するオーバーライドはいとも簡単にニトロコンボイを殴り倒す。
やはり戦士としての実戦経験の有無が大きい――ニトロコンボイのスピードはオーバーライドをはるかにしのいでいるが戦法が荒く、せっかくのスピードにもかなりの無駄が生じてしまっている。
その上パワーはオーバーライドがはるかに上で、マスターメガトロンやヴォルケンリッターも戦いのスキをつこうと虎視眈々と機会をうかがっている。
オマケにゴッドジンライに足止めされ、ギャラクシーコンボイやなのはも手出しできない――戦況は明らかにニトロコンボイに不利に動いていた。
「ニトロコンボイ!」
「エクシリオン、助けてあげて!」
そんなニトロコンボイを救おうと、エクシリオンとすずかがオーバーライドに向かう――が、
「させん!」
咆哮と同時にメナゾールがミサイルをまき散らし、エクシリオンをよせつけない。
「くそっ、このままでは……!」
冗談抜きで絶体絶命の状況を前に、ニトロコンボイは思わず歯噛みし――
「まだだ!」
そんなニトロコンボイに告げたのは耕介だった。
「まだあきらめるには早すぎるだろう?
オレ達はまだ戦える――あきらめてなんか、いられない。そうだろ!?」
「耕介……」
レースの決着からそのまま戦いに移行したため耕介の“御架月”はニトロコンボイのピットに置きっぱなしだ――自分と同じく戦う力を持たない身の上でありながら、彼はまだ勝負を捨ててはいなかった。
身の程知らず、と言ってしまえばそれまでの蛮勇――しかし、ニトロコンボイにはそうは思えなかった。
(状況を理解できないワケではないはず……
それでも、信じているというのか? オレの、勝利を……)
いや――違う。ニトロコンボイは今脳裏をよぎった考えを訂正した。
(……オレ達の、勝利を!)
「そうだな……
この星のリーダーたるオレが、そう簡単に屈するワケにはいかんか!」
「その意気だ!」
再起したニトロコンボイの言葉に耕介が答えた、その時――
「ぅわぁっ!」
「きゃあっ!」
『――――――っ!?』
突然響いた悲鳴に振り向くと、すずかを乗せたエクシリオンが大地に叩きつけられている。
全身を雷撃で焦がされている――メナゾールのミサイルをかわしていたスキをつかれ、マスターメガトロンの雷撃を浴びてしまったのだろう。
実際、マスターメガトロンは上空でエクシリオン達に向けて次弾をチャージしている。
「手こずらせてくれたが……これで終わりだ!」
雷撃、などという生易しいレベルではない――凝縮し、雷光の塊と化したそれをマスターメガトロンはエクシリオンに向けて投げつける!
「エクシリオン!」
「すずかちゃん!」
援護することも出来ず、ギャラクシーコンボイとなのはが叫ぶ中、必殺の一撃はエクシリオン達に迫り――
しかし、それはエクシリオン達をとらえなかった。
突然、エクシリオン達の姿が消え、マスターメガトロンの一撃はむなしく大地を粉砕するに留まったのだ。
「え………………?」
「一体、何が……!?」
事態についていけず、なのはとギャラクシーコンボイがうめき――
「……貴様ら……」
「調子に、乗るなよ……!」
その声は、爆発の向こうから聞こえてきた。
そして、爆発の炎が収まっていき――
「よくも二人を!」
「痛めつけてくれたな!」
視界が回復するのも待たず、エクシリオン達を退避させたニトロコンボイと耕介が、煙の向こうから飛び出してくる!
「いくぞ、耕介!」
「おぅっ!」
告げるニトロコンボイに耕介が答え、二人は同時に叫んだ。
『フォースチップ、イグニッション!』
同時、ニトロコンボイが自分の身体から取り外し、かまえたユニット――そこに用意されたチップスロットにスピーディアの真紅のフォースチップが飛び込み、ユニットが二つの銃口を持つライフルへと変形する。
その名も――
『マッハショット!』
叫ぶと同時にトリガーを引き――放たれた閃光が上空のマスターメガトロンを撃ち落とす!
推進部を直撃だ。浮力を失い、マスターメガトロンは落下し――
「ぐはぁっ!?」
「どわっ!?」
真下にいたゴッドジンライを直撃、ギャラクシーコンボイ達がようやく足止めから解放される。
と――
「総司令官!」
「なのは!」
そんな彼らの元に、スタースクリームを振り切ってきたライガージャックとアルクェイドが駆けつけてきた。
そのライドスペースにはフェイトもいる。つまり――
「リンクアップするよ、みんな!」
言いながら、フェイトは懐から取り出した銀色のカードを――ストレージデバイスを起動させる!
「いくよ――みんな!」
言って、フェイトがストレージデバイスをかざし――その中枢部から光が放たれる。
その中で、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『ギャラクシー、コンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが右腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な右腕に変形する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
フェイトを加えた5人の叫びと共に、右腕となったライガージャックがギャラクシーコンボイに合体する!
背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャックの変形した右腕に拳が作り出され、5人が高らかに名乗りを上げる。
『ライガァァァァァ、コンボイ!』
「プラネットフォースは渡してもらうぞ、オーバーライド!」
「言われて素直に渡すなら、最初から奪ったりはしないんだよ!」
告げるライガーコンボイに言い返し、オーバーライドはライドバスターを放つが、
「そんなもの!」
ライガージャックが告げると同時――ライガーコンボイは右腕の一振りでそのビームを弾き飛ばす!
「バカな!?」
チャージしていなかったとはいえ、まさかあぁも簡単に防がれるとは思っていなかった――相手の力量を見誤っていたことを今さらながらに悟るオーバーライドだが――
『フォースチップ、イグニッション!』
響いた声は、その場の誰のものでもなかった――それどころかまったく聞き覚えがない声である。
聞こえてきた先は頭上――思わずオーバーライドが見上げたその時、再び声が響いた。
『ダブル、バーニング、マイン!』
その言葉と同時――その場に無数のエネルギーミサイルが降り注ぐ!
敵も味方も関係ない。まさに爆撃だ。
ただ――唯一、意図的に狙いを外されている者達がいた。
ゴッドジンライとダイアトラス――ヴォルケンリッターの面々だ。
「何だ!?」
「何者!?」
自分達に矛先が向いていないとはいえ、突然の攻撃に驚き、ゴッドジンライとダイアトラスが声を上げると、
「――あそこだ!」
ニトロコンボイが攻撃の主を見つけた。
オーロラビジョンのすぐ前にいる――ただ、オーロラビジョンの逆光でその姿を確認することは出来ないが。
そして、その攻撃の主は跳躍し――叫んだ。
「パワード、クロス!」
瞬間――彼の周りにそれが出現した。
ホバージャイロ、装甲車、パトカー、そして救急車――小型のビークル型のパワードデバイスである。
そして、それらは主の身に装着され、姿を変えた彼はダイアトラスの前に着地した。
「あ、あなたは……?」
少なくとも、こちらに加勢してくれるらしいが――思わず尋ねるシャマルに、彼は肩のサイバトロンマークを見せ、静かに名乗った。
「……疾風に勁草を知る……
私の名は、カウンターパンチだ」
「カウンター、パンチ……!?」
名乗ったトランスフォーマー、カウンターパンチの言葉にシャマルは眉をひそめ――
「何者だ、貴様!」
そんなカウンターパンチに対し、オーバーライドがライドバスターを向ける。
だが――
「スキあり!」
彼はカウンターパンチ以外の面々を失念していた。背後から突然現れた影がプラネットフォースを奪い取り、
「わざわざ出番待ちしてたかいがあったな!」
「主役は遅れて登場するものなのだ!」
言って、いつの間にか姿を消していたロディマスブラーと美緒はライガーコンボイの前に着地する。
「総司令官、今です!」
「うむ!」
「いっきまーす!」
ロディマスブラーの言葉にライガーコンボイとなのはが答え、プラネットフォースを奪い返そうとするオーバーライドに向けて跳躍する!
『フォース――』
『――チップ!』
「イグニッション!」
ライガーコンボイとなのは、ライガージャックとアルクェイド、そしてフェイト――3組の声が響き、飛来したアニマトロスのフォースチップがライガーコンボイの右腕のチップスロットに飛び込む。
そして、右腕のプラティナムクローを展開したライガーコンボイはそれを天高く掲げ――その全身がフォースチップの“力”の輝きに包まれる!
渦巻くエネルギーに導かれ、浮き上がったライガーコンボイは一気にオーバーライドへと突っ込み、
『ライガー、グランド、ブレェイク!』
渾身の力で振るった一撃が、オーバーライドの身体を深々と斬り裂く!
同時――叩きつけられたエネルギーが爆裂し、オーバーライドを吹き飛ばす!
「オーバーライド様!」
そんなオーバーライドにあわててメナゾールが駆け寄ると、オーバーライドはなんとか身を起こし、
「くそっ、これ以上は分が悪いか……
仕方ない、今回は撤退するぞ、メナゾール」
「は、はい……!
オートローラーズ、撤退だ!」
オーバーライドの言葉にうなずき、メナゾールはオートローラーズにも撤退を命じて引き上げていく。
「お、おのれ……!」
一方、なんとか身を起こすマスターメガトロンだが、
「お前は……!
肝心なところで、よくもジャマしてくれたな!」
そんなマスターメガトロンの前に、下敷きにされていたゴッドジンライが立ちはだかる!
「ヴィータ!」
「あぁ!」
告げるゴッドジンライの言葉にヴィータがうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
二人が咆哮、ゴッドジンライの背中のチップスロットに黄色いフォースチップが飛び込み――全身の火器にその力が行き渡る。
そして――
『ゴッド、マックスバーニング!』
放たれた閃光が、マスターメガトロンへと降り注ぐ!
「マスターメガトロン様!」
あわててスタースクリームが駆け寄ると、マスターメガトロンはなんとか立ち上がり、
「我々も引き上げるぞ」
「はい」
マスターメガトロンの言葉にスタースクリームがうなずき、デストロンもまた撤退していく。
「お前達はどうする!?」
残るヴォルケンリッターに向けてかまえ、ライガーコンボイが告げるが――
「…………撤退するのが吉、だな」
そんなライガーコンボイに、カウンターパンチはあっさりと答えた。
「おい、いきなり出てきて、勝手に決めるな!」
当事者を無視して話を進めるカウンターパンチに、当然異論をはさむヴィータだが、
「なら貴様は、この場でサイバトロンの主力をまとめて相手にするつもりか?
勝てるとしても長期戦は必至――プラネットフォースが向こうの手の内にある以上、手間取っている間に持ち逃げされる可能性は十分にある。
先の奇襲で貴様らがプラネットフォースを確保してくれるのが理想だったが――こうなってしまった以上、この場は退き、場を仕切り直すのが得策だ」
「うっ………………」
スラスラと理論立てて説明するカウンターパンチの言葉に、ヴィータは反論もできずにうめくしかない。
だが――確かに彼の言う通り、この場は退くしかなさそうだ。
「……仕方ない。プラネットフォースはとりあえず預けておく。
デストロンやスタントロンから、しっかり守ってくれよ」
「ま、その内もらいに行くと思うけどな!」
ゴッドジンライの言葉にヴィータが告げ、彼らも一足先に上昇したダイアトラスに続いて飛び立ち――
「ヴィータちゃん!」
響いた声に、ヴィータは思わずライガーコンボイの傍らに姿を見せたなのはへと視線を向けた。
別れを惜しむかのような、名残惜しさの感じられるなのはの表情に一瞬口を開きかけるが――思い直して口をつぐむ。
そしてまた口を開きかけ、つぐんで――そんなことをしばし繰り返した後、ヴィータは告げた。
「……ヴォルケンリッター“撃砲の騎士”ゴッドジンライの盟友、“鉄槌の騎士”ヴィータ。
で――お前は?」
「え………………?」
思わず声を上げるが――その言葉の意味を悟った。
「……なのは!
高町なのはだよ!」
ヴィータに対して改めて名乗るなのはの言葉に、ヴィータはその名をまるで自らに刻み込むかのように反芻するが――
「高町、なぬ――」
かんだ。
しばし気まずい沈黙が落ち――
「これで……
……これで勝ったと、思うなよぉぉぉぉぉっ!」
「え!? 悪いのわたし!?」
かんだ舌が痛いのか、半泣きで飛び去っていくヴィータの言葉に、なのはは思わず声を上げていた。
〈新チャンピオンの誕生です!
新チャンピオンはセイバートロン星のエクシリオン!〉
戦闘も終わり、表彰式のやり直し――ちゃっかり居残っているパズソーが司会を務める中、エクシリオンは歓声を贈る観客達に手を振って応える。
〈そしてエクシリオンには、ニトロコンボイからプラネットカップ改め、プラネットフォースが授与されます!〉
パズソーの言葉にうなずくと、ニトロコンボイはエクシリオンに改めてプラネットフォースを差し出す。
そして――ニトロコンボイは息をつき、口を開いた。
「この宇宙に、お前達のようなヤツがいたとはな」
「え………………?」
「ニトロコンボイ……?」
突然何を言い出すのか――首をかしげるエクシリオンやすずかをニトロコンボイは順に見返し、
「エクシリオン、それと……すずかだったな。
心からキミ達に敬意を表する。
優勝、おめでとう」
言いながらニトロコンボイが差し出したその手を、エクシリオンは笑顔で握り返し――
「それと、これからもよろしくな」
「………………は?」
「これからも?」
再び首をかしげ、顔を見合わせる二人――そんな彼らに苦笑し、ニトロコンボイは告げた。
「察しが悪いな。
今日からオレも、サイバトロンだということだ」
『えぇっ!?』
驚く二人にかまわず、ニトロコンボイはギャラクシーコンボイへと向き直り、
「かまわんだろう? ギャラクシーコンボイ。
それに……リンディ提督も」
「え………………?」
その言葉になのははあわててニトロコンボイの視線の先へと振り向き――そこにクロノやエイミィを連れたリンディの姿を見つけた。
「リンディ提督!?」
「せっかくの表彰式だもの、管理局からも代表を出さなきゃ、ね」
「本当は他のみんなも来たがってたんだけどね――さすがにみんなで留守にするワケにはいかないから、って私達が♪」
「アースラのトップ3がそろって留守にしてる現状に、すでに問題がある気はするんだけどね……」
驚くユーノの言葉に、リンディ、エイミィ、クロノが順に答える。
ともかく、リンディはニトロコンボイへと向き直り、
「では、協力してくれるんですか?」
「そういうことだ」
あっさりとニトロコンボイはうなずく。
「宇宙は広い。キミ達のような者もいれば、オーバーライドやマスターメガトロン達のような者もいる。
オレもこの宇宙に生きる者として、キミ達と共に戦いたい」
「ふむ……」
ニトロコンボイのその言葉に、ギャラクシーコンボイはしばし考え――
「今さら何言ってんだよ」
そんなニトロコンボイに告げるのはロディマスブラーである。となりでは美緒もうんうんとうなずいている。
「お前、第3戦でオレ達を助けてくれたじゃないか」
「ニトロコンボイも、もうとっくにサイバトロン魂の持ち主なのだ!」
「……だそうだ」
「よろしくね、ニトロコンボイさん!」
二人の言葉になのはと共に笑顔でうなずき――ギャラクシーコンボイはニトロコンボイと力強く握手を交わす。
そして、ニトロコンボイは耕介へと向き直り、
「話はそういうことでまとまった。
耕介。お前さえよければ、オレのイグニッションパートナーになってはもらえないだろうか?」
その言葉に、全員の視線が集中する中――耕介は肩をすくめてニトロコンボイに答えた。
「お前は、美緒を助けてくれた。
そして“速く走るため”じゃなく――“守るため”にイグニッションしてみせた。
もうお前は、どこに出しても恥ずかしくない立派な“守るもの”だ――そんなヤツからの申し出を断るなんてマネ、もったいなくてオレにはできないよ」
「なら、決まりだな」
「あぁ。
これからもよろしくな、ニトロコンボイ」
言って、耕介とニトロコンボイもまた握手を交わし――
「よーっし! そうと決まれば、まずすることはひとつ!」
すべきことはすべて終わったとばかりに、ロディマスブラーが割り込んできた。
「ニトロコンボイ、オレとレースだ!
考えてみれば、この身体に転生してから一度もお前と走ってないんだ――エクシリオンに先を越されたけど、オレも黒星叩きつけてやる!」
「あたしも忘れちゃダメなのだ!」
「いいだろう、受けて立ってやる!
耕介、正式なパートナーとしての初陣だ!」
「おぅ!」
そう言って盛り上がる彼らに、エクシリオンも笑って、
「そうなると、秘密基地にも専用レース場が必要になるな。
オレも参加したいし、3コースか……」
だが――現実はそんなに甘くはなかった。
「お前、そんなボロボロの身体でまだそんなことを……
しばらく走るのは禁止だ!」
「えーっ!? そんなぁ!?」
ファストエイドからレースの禁止を言い渡され、エクシリオンは思わず声を上げる。
「あはは、エクシリオンってば」
「ちょっ、笑うなよ、すずか!」
あまりの落胆振りに、こらえきれずに笑い出すすずか――エクシリオンがうめくが、それでもこらえるのはひと苦労なようである。
そんな和気あいあいとした雰囲気から視線を外し――忍は恭也に告げた。
「恭也」
「ん?」
「……どこかの誰かの通院風景を思い出すんだけど……」
「思い出さなくていい」
忍の言葉に、恭也は思わず視線を逸らしてうめいた。
「今回のレースで、また新たな友情が芽生えたようだぞ!
いやー、レースって本当に素晴らしい!」
そんな彼らの様子を見守り、パズソーは意気揚々と実況し――
「あー、そうみたいだなぁ」
「代わりに、ヒビの入った友情もあるみたいだけどなぁ」
「オイラ達が一生懸命戦ってるのに、ひとりだけのん気に実況しやがって……」
背後から挙がった声に――パズソーは思わず固まった。
引きつった笑みのままゆっくりと振り向き――
「い、いや、オレってば実況だし、武器っていったらアームミサイルしかないし……」
そこにいた、すすだらけのガスケット、ランドバレット、インチアップ――逃げ遅れていたスピーディア・デストロンの面々に対して釈明する。
それに対するガスケット達の答えはシンプルだった。
すなわち――
『問答無用――――――っ!』
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
「……何をしているんだ、アイツらは……」
その様子を、ヴィータ達と別れたカウンターパンチはオーロラビジョンの影に隠れて監視していた。
と――彼の体内、ライドスペースからパートナーが告げる。
「しかし、スピーディアのプラネットフォースがサイバトロンの手に渡った以上……」
「わかっている。
パワード、アウト」
答え、カウンターパンチはパワードデバイスの装着を解除し――その正体を現した。
ダブルフェイスである。
「アニマトロスの方に、期待するしかあるまい。
“真の第3の惑星”の位置も、まだつかめていない以上はな……」
「あぁ」
答え、彼のパートナーである仮面の戦士はライドスペースから降り――
「………………ん?」
ふと気づいた。
自分と同じようにサイバトロンの様子をうかがっている者がいる。
「ノイズメイズ……?
ヤツも撤退していなかったのか……?」
「かくて、ひとつ目のプラネットフォースはサイバトロンの手に、か……」
なのは達の様子をサーキットの片すみから眺め、ノイズメイズは静かにつぶやいた。
と――そんな彼の元に通信が入った。
〈どうじゃい、そっちの様子は?〉
「サイバトロンがプラネットフォースを獲得した」
〈なんじゃい、マスターメガトロンも情けないのぉ〉
答えるノイズメイズに、通信の相手――ランページは心底呆れた様子でそう告げ、改めて尋ねた。
〈………で? そっちの首尾はどうじゃい?〉
「問題なしだ。
やはり、“あっちの”プラネットフォースと一緒にあったよ」
そう答えるノイズメイズの手には、エクシリオンの持つものと同じ、スピーディアの紋章の刻まれたフォースチップの存在があった。
その縁取りは金色――そう考えると、スピーディアのプラネットフォースと思えないこともないが、そもそもスピーディアのプラネットフォースはエクシリオンが持っているし、別物であることはノイズメイズの言動から見ても明らかだ。
それに――縁取りは同じ金色でも、本体の色は違った。
紋章こそスピーディアのものだったが、その色は赤色ではなく――
スタントロン達の使うものと同じ――藍色だった。
(初版:2006/06/18)