「まさか、フレイムコンボイがサイバトロンに寝返るとは……」
「ヤツも、所詮はギャラクシーコンボイと同じだった、ということだ」
 アニマトロスの空を飛行しながら、つぶやくスタースクリームの言葉にマスターメガトロンは苛立ちを隠しもしないでそう答える。
「あの……どういう意味で?」
「守るべき部下がいる、ということだ」
 思わず尋ねるパズソーに、マスターメガトロンは答えた。
「己ひとり生き残ればいいところを、部下も一緒に、と不必要な気を回す……
 その信念を曲げぬところは賞賛に値するが――度が過ぎれば逆に問題だ。
 足手まといになるようならば、切り捨てればいいものを……」
「なるほどねぇ……」
 その言葉に思わず納得し――ふとパズソーは気づいた。
「あれ………………?
 その話だと、マスターメガトロン様は部下なんか見捨てる、ってことで……?」
 だが、それに答えるべき張本人は、すでにスタースクリームと共に眼下の目標へと降下を始めていた。
「あわわ、待ってくださいよぉっ!」
 あわててパズソーもその後を追い――ひとり残されたサンダークラッカーはつぶやいた。
「守るべき部下……守るべき者、か……」

 

 


 

第29話
「光速の勇者!
ロディマスコンボイさん光臨なの」

 


 

 

 一方、フレイムコンボイの神殿は騒然となっていた。
 マスターメガトロン達の襲来に気づいたからだ。
「大変です!
 マスターメガトロンの襲撃です!」
「何だって!?」
 急を知らせるダイノシャウトの言葉に、エクシリオンとロディマスブラー、そしてニトロコンボイはあわてて外に飛び出し敵の姿を探す。
「どこだ……?」
 エクシリオンがつぶやく中――最初に発見したすずかが声を上げる。
「向こうだよ! 2時の方向!」
 その声とほぼ同時、彼らの頭上をマスターメガトロン達が駆け抜けていく。
「総司令官殿、ここでやるしかないみたいだぞ」
「うむ……」
 スカイリンクスの言葉にうめき、決断したギャラクシーコンボイは一同に告げた。
「総員、臨戦態勢!
 デストロンを迎撃する!」
『了解!』

「どうして!?」
 神殿の奥――玉座の間で、ベクタープライムに守られた舞は思わず声を上げた。
 原因は目の前のフレイムコンボイ達アニマトロス・デストロン――いや、『旧』アニマトロス・デストロンの3名だ。
「わかってくれたんじゃなかったの!?
 一緒に戦ってくれるんじゃなかったの!?」
 発端はフレイムコンボイの簡潔明瞭な一言――決戦への参戦拒否だった。
 そのことに抗議の声を上げる舞だったが、そんな彼女にフレイムコンボイは答えた。
「おいおい、オレ達はそこまでは言ってないぜ」
 確かにそこまでは言ってない。
「プラネットフォースがからんでいたからこの間までは関係者だったかもしれん。だが、今プラネットフォースの所有権はこのアニマトロスのトランスフォーマーにはない。
 つまり、これはアニマトロスの問題から、お前達の問題になったワケだ――巻き込まれちゃかなわん。
 プラネットフォースは渡したんだ。とっととケリをつけてここから出て行け」
「だけど……」
 うめく舞だったが――フレイムコンボイの決意は固かった。

 一方外では、上空を我が物顔で飛び回るマスターメガトロン達に向けて一同の対空砲火が続いていた。
 デバイスのないなのは達も、ギャラクシーコンボイやスカイリンクスのライドスペースで射撃のナビゲートを担当して懸命に支援している。
 そんな中――
「パズソー、行け」
「アラホラサッサー!」
 スタースクリームに答え、パズソーは一気に神殿に向けて急降下し、
「作戦開始だ!」
 言うなりミサイルを――直下の森に向けて撃ち放つ!
 当然ミサイルはサイバトロンの誰にも当たることなく地表で爆発。森を焼くのみに留まる。
「何してんだ……?」
 パズソーの――というよりそれを実行させたスタースクリームの意図が読めず、思わずつぶやくサンダークラッカーだったが――
(――――――っ!?)
 気づいた。
 いや――気づけた。晶という、人間の知り合いを持っていたおかげで。
「狙いは――神殿の中の人間か!」

 その読みは間違ってはいなかった。パズソーの攻撃によって発生した森林火災の煙は、その上に位置するフレイムコンボイの神殿を包み込んだ。
 当然、その中にいるパートナーを持たない人間メンバーはその煙にまかれることになる。
 スタースクリーム達は、戦闘要員でない舞達をいぶり出し、外の戦場に引きずり出すつもりなのだ。
「ケホッ、ケホッ……!」
「舞さん、伏せて煙を避けて」
 せき込む舞を恭也が伏せさせるのを、フレイムコンボイはため息をついた。
「まったく……
 だから帰れと言ったんだ……」
「もしかして、気づいてたのか?」
「ん? まぁな。
 マスターメガトロンはこういうのは好みじゃないようだったが、あのスタースクリームは中々の切れ者だったからな。こういう手にくらい、出てくると踏んでいたさ」
 尋ねる恭也にフレイムコンボイが答える脇で、リンディは意を決し、ギャラクシーコンボイに連絡を取った。
「ギャラクシーコンボイ、聞こえますか?」

「そうだな……」
「まさか、神殿の中の舞さん達を狙ってくるなんて……!」
 リンディからの連絡を受け、うなずくギャラクシーコンボイの言葉になのはがつぶやく。
 ともかく今は事態への対処が先決だ。ギャラクシーコンボイは周囲でデストロンの迎撃にあたっているメンバーに告げた。
「よし、総員撤退だ」
「敵に背を向けるんですか!?」
 その言葉に思わず反論するライガージャックだが――
「飛び道具がないおかげでさっきから応援しかしてないヤツが何を言うか」
「がはぁっ!?」
 ニトロコンボイの言葉がナイフとなってライガージャックに突き刺さった。そのまま倒れ込み、シクシクと泣き崩れる。
「あー、まぁ、少なくとも逃げるワケではない」
 そんなライガージャックに苦笑し、ギャラクシーコンボイは告げた。
「戦いの場を、よそに移すだけだ」

〈――という作戦だ〉
「よし。ではさっそく準備にかかろう」
 作戦の内容を説明するギャラクシーコンボイの言葉に答え、ベクタープライムは通信を終えて立ち上がり、
「サイドス、恭也、舞、リンディ提督。手伝ってくれ。
 撤退の前にみんなに配るものがある」
「わかった」
「あぁ」
「はーい」
「わかりました」
 ベクタープライムの言葉に一同がそれぞれに答えを返し、彼らは作業に取り掛かった。

「……なぁ、ガスケット……」
 上空からフレイムコンボイの神殿に攻撃を繰り返すマスターメガトロン達の様子を少し離れた高台から眺め、ランドバレットはガスケットに声をかけた。
「んー?」
「オイラ達、出番まだ?」
「さぁな。
 ってーか出番あるのか?」
 ガスケットがつぶやくと、デモリッシャーをはさんで並ぶインチアップがうんうんとうなずき、
「なんか、このままカタがついちまいそうだもんなぁ……」

「みんな、これを!」
 言って、神殿の奥から現れたベクタープライムは一同に作りたての木箱を配り始めた。
「その中のどれかひとつに、プラネットフォースが入っている」
「どれかひとつってことは、後はダミーってことですね!?」
「ダミーがどれかは、わたし達にも秘密なんですか?」
「そうだ」
 エクシリオンとすずかの問いに答え、ギャラクシーコンボイは続ける。
「だが諸君は、自分に渡されたものが本物だという気かまえで、任務を遂行してくれ」
「で……当然チーム分けして動くんだろう?
 組み分けはどうする?」
 尋ねるスカイリンクスにうなずき、ギャラクシーコンボイは組み分けを告げた。

「またお前と走れてうれしいぜ」
「こっちもだ!」
「もぉ、二人ともレースじゃないんだよ」
「まったくだ。気を抜くなよ」
 ニトロコンボイ・耕介組&エクシリオン・すずか組

「いくぜ!」
「カッ飛ばすのだぁっ!」
「ま、待ってくださいよぉっ!」
「ボクのスピードでロディマスブラーに付いていけるワケないんだからぁっ!」
「くぅん♪」
 ロディマスブラー・美緒組&ロングラック・那美・久遠組

「思いっきりいくぜ!」
「当然よ!」
「あまり張り切りすぎるなよ!」
「あの二人に言ってもムダだと思うけどねぇ……」
 ライガージャック・アルクェイド組&ファングウルフ・アルフ組

 そして最後にそれぞれ単独でスカイリンクスとベクタープライム――それぞれのグループに分かれ、フレイムコンボイの神殿を飛び出していくサイバトロンの様子を、マスターメガトロン達は上空より発見していた。
「マスターメガトロン様! プラネットフォースです!」
「オレが行きます!」
 サンダークラッカーの言葉に、パズソーがその後を追おうとするが、
「まぁ待て」
 そんな彼をマスターメガトロンが制止した。
「ヤツらの相手は、アイツらに任せておけ」

「よっしゃ、出番だ!」
「暴れるぞぉっ!」
 マスターメガトロンからの指示を受け、真っ先に反応したのはガスケットとランドバレットだ。ようやくの出番に張り切って高台を駆け下りていく。
「お先に行きます!」
「あぁっ! 待ちやがれ!」
 さらにデモリッシャーとインチアップが続くのを見送り、ノイズメイズも肩をすくめてため息をつくと、トランスフォームして彼らを追って飛び立った。

「サンダークラッカー、パズソー、ここは任せるぞ」
「はいっ!」
「お任せ!」
 答えるパズソーとサンダークラッカーの言葉を聴き、マスターメガトロンはスタースクリームへと振り向き、
「スタースクリームは一緒に来い。
 しばらくは高みの見物だ」
「はい」
 その言葉にうなずき、スタースクリームは眼下のジャングルを見下ろした。
「さて……お手並み拝見といくか」

「次はギャラクシーコンボイ達の番だね」
「あぁ」
 飛び出していった一同を見送り、ギャラクシーコンボイは舞の言葉にうなずくとサイドスやリンディへと視線を向け、
「サイドス、リンディ提督――舞のことは頼んだぞ」
「うむ」
「わかりました」
「それから、消火活動が終わるまでこれを頼む」
 言って、ギャラクシーコンボイがサイドスに渡したのは、自分の分の木箱である。
 そして、スーパーモードとなると上空に飛び立ち、ギャラクシーキャノンから放水し消火活動に当たる。
 そのライドスペースで、なのははジャングルの方へと視線を向けた。
「みんな……がんばってね……!」

「まったく、走りにくい星だぜ!」
「ボヤくなボヤくな」
 アニマトロスの悪路に辟易し、不満を漏らすエクシリオンを耕介がなだめ――
「パラリラパラリラァッ♪」
 そんな彼らの背後から、追いついてきたビークルモードのガスケットがビームを放つ!
「こんな場所じゃ、レースどころじゃないね!」
「同感だ!」
 すずかの言葉にニトロコンボイがうなずき、
『トランスフォーム!』
 ニトロコンボイとエクシリオンがロボットモードにトランスフォーム。着地と同時にガスケットへと照準を向け――
「ブロロロロォッ!」
 そんな彼らを、ジャングルの木々をなぎ倒しながら飛び出してきたランドバレットが体当たりで薙ぎ払う!

 プラネットフォースの木箱を持って離脱しようとしたベクタープライムだが、その前に立ちふさがったのはノイズメイズだ。
「おっと、ここから先へは、行かせないぜ!」
「せっかくの出迎えだが……遠慮しておくよ」
 ノイズメイズに答え、ベクタープライムは短距離のワープでノイズメイズの背後へと回り込むが――
「…………む?」
 そのノイズメイズの姿が消えた。姿を探し、ベクタープライムが周囲を見回すと、
「どこ見てるの?
 こっちこっち♪」
 その声は背後から――振り向くとそこにノイズメイズの姿があった。
 飛行して移動した気配はない。考えられるのは――
「お前も、ワープが使えるのか!?」
「そうだよ。オレもだよ。
 ククク……!」
 答えて、ノイズメイズは短距離ワープでベクタープライムの周囲を飛び回り、
「いくぞ――
 フォースチップ、イグニッション!」
 告げると同時、シールドのチップスロットにオレンジ色のフォースチップをイグニッション、シールドの先端に鋭利な刃が展開される。
「ブラインド、アロー!」
「く………………っ!」
 咆哮し、襲いかかるノイズメイズのブラインドアローとベクタープライムの剣――両者の一撃が激突する!

「どうしてこんな目立つ場所を行く!?」
「敵の目をこっちに向けるために決まってるだろ!」
 浜辺を走りながら尋ねるファングウルフに、前を走るライガージャックがそう答える。
「ち、ちょっと待ちなよ。
 まるであたしらが囮みたいな言い方じゃないか」
「だってそうだろ?
 っていうか、いつもそういう役回りだろ、オレ達は」
 アルフにそう答えるライガージャックだったが――
「けど、今回はそうとは限らないんじゃない?」
 ふと気づき、そう言い出すのはアルクェイドだ。
「だって、ライガージャックはこのアニマトロスの環境に適応するように生まれ変わったのよ。
 プラネットフォースを守るのに、一番の適任者じゃないの?」
「そ、そうか?」
「そうよ」
 思わず聞き返すライガージャックに、アルクェイドはあっさりとうなずき――
「ま、それでもこのまま目立ってるのが最適だとは思うけどね」
『………………は?』
 まるっきり正反対のことを言い出したアルクェイドに、ライガージャック達は思わず間の抜けた声を上げていた。
 だが、そんな彼らの疑問など予想の範疇だったのか、アルクェイドは笑って答える。
「わからない?
 デストロンからしてみれば、本物のプラネットフォースを持ってるヤツが、こんな目立つところを走り回ってるとは思わないでしょ」
「あ………………
 なるほど。確かに言われてみれば……」
「本物を持っていながら、あえてバレバレの囮のフリ、か……」
 アルクェイドの言葉に思わず納得し――アルフとファングウルフは同時につぶやいた。
『アルクェイドのアイデアには思えないくらいナイスアイデア』
「いい度胸じゃない……!」
「わーっ! 待て、アルクェイド!
 そこで撃ったらオレまで喰らうっ!」
 二人の言葉に空想具現化マーブル・ファンタズマを撃とうとしたアルクェイドをライガージャックがあわてて止め――
『ぅわぁっ!?』
 突然、そんな彼らの足元が崩れ落ちる!
「何だ、この穴は!?」
「とにかく出よう!」
 うめくライガージャックにファングウルフが答え、彼らは穴から飛び出し――突然ライガージャックが一撃を受け、弾き飛ばされる!
 そして、
「まったく、待ちくたびれたぜ」
「そーそー♪」
「叩きつぶしてやるんダナ!」
「お前らは……!?」
 姿を見せた襲撃者を前に、ファングウルフは思わずうめいた。
「ウィアードウルフ! ワイプ! スカル!
 なんでお前らバンディットロンが!?」
「決まってるんダナ!
 スカージ様の命令なんダナ――プラネットフォースを、手に入れて来いっていうね!」
 答えて、スカルがファングウルフに向けて突進し――
「ぶぎゃっ!?」
 突然頭上から落下してきたものに押しつぶされた。
 舞い上がる土煙の中から、それはゆっくりと立ち上がり――身を起こしたライガージャックがその正体に気づいた。
「てめぇ……ダイアトラス!?」

「オラオラオラァッ!
 オレの敵はどいつだぁっ!」
 一方、インチアップはサイバトロンの姿を探し、森の中を疾走する。
 他の面々と別れてプラネットフォース追跡に向かったインチアップだったが、未だにサイバトロンとの遭遇の気配はない。
 と――ふと前方に何かを発見した。
「サイバトロンか!?
 よっしゃ、プラネットフォースいただきぃっ!」
 ようやく獲物を発見し、インチアップは勢いよく森から飛び出し――
「あん?」
「あーっ! インチアップ!」
 同じくサイバトロンの面々を探していたのだろう――そこにはビークルモードのジンライと、ヴィータの姿があった。

「待ちやがれぇっ!」
「誰が待つかぁっ!」
「待つワケないのだぁっ!」
 追走するラナバウトの言葉に、ロディマスブラーと美緒が言い返す――
 現在彼らはジャングルの中をカーチェイス中。ものすごいスピードで木々の間を駆け抜けていく。
 だが――彼らとて、ただ闇雲に逃げていたワケではなかった。
「今だ、ロングラック!」
「――――――っ!?」
 ロディマスブラーの言葉にラナバウトが驚愕し――その真意を把握する間もなく、待ち伏せていたロングラックがラナバウトをブッ飛ばしていた。

 その頃、神殿の周囲ではギャラクシーコンボイによる懸命の消火活動が続いていた。
 だが、
「はい、ご苦労さんっと♪」
 せっかく消火しても、パズソーが再びジャングルを爆撃してしまう。
「なのは、これじゃキリがないよ……!」
「どうしよう……!」
 ギャラクシーコンボイのライドスペースで、フェイトの言葉になのはがつぶやくと、
「……あれ?」
 ふと、ユーノがその様子に気づいた。
(サンダークラッカー……そういえばさっきから一発も撃ってない……?)

「アイツら……!」
 一方、眼下の神殿ではジャングルを焼き払うパズソーの攻撃にフレイムコンボイが怒りをあらわにしていた。
「このままジャングルを焼かれたら、ここも危ないぞ……!」
 そのとなりでつぶやき、恭也は煙を避けてサイドスのライドスペースに避難している舞へと視線を向ける。
 と――
「おい、タカマチキョウヤとか言ったな!?」
 そんな恭也に、フレイムコンボイが声をかけた。
「手ェ貸せ! パートナー・イグニッションとやらをやるぞ!
 アイツら……叩きつぶしてやる!」
「……そうだな。
 了解だ!」
 フレイムコンボイの言葉にうなずき、恭也は彼と共に上空のデストロンメンバーを見上げ、
『フォースチップ、イグニッション!』
 咆哮すると同時、フレイムコンボイのチップスロットに金縁のアニマトロスのフォースチップが飛び込み、
『デスフレイム!』
 フレイムコンボイの両肩に現れた竜の首から、強烈な火球が吐き放たれる!

「あー、こういうのって気が進まないよなぁ……」
 前回の足止めといい今回のこのいぶり出し作戦といい、どうもこのところ晶が知ったら怒り狂いそうな作戦が続いている――どうしてもノリ気になれず、サンダークラッカーは思わずつぶやいた。
 一瞬、妨害してやろうかと思うが――問題はその手段だ。
 ヘタに妨害してもそれがバレたら後が怖い。妨害するならそうとわからないように行う必要がある。
 普段から使ってない頭をフル回転させ、サンダークラッカーはいろいろと対策を考えて――決めた。
「……よぅし!」
 そして、サンダークラッカーは機首をそちらに向けた。
 ギャラクシーコンボイに向けて。

「気をつけて、ギャラクシーコンボイ!
 サンダークラッカーが来る!」
「何っ!?」
 声を上げたユーノの言葉に、ギャラクシーコンボイはようやくサンダークラッカーの動きに気づいた。
 だが――
「これでもくらえ!」
 彼の反応よりも早く、サンダークラッカーがミサイルを放つ!
(避けきれない――!?)
「なのは、ユーノ、フェイト!
 衝撃に備えるんだ!」
 回避はムリと判断し、とっさに防御を固めるギャラクシーコンボイへと、ミサイルは一直線に突っ込み――通り過ぎた。
「え………………?」
 思わずなのはが声を上げ――
「ぎゃあっ!?」
 爆音と共に上がった悲鳴は背後からだった。
 振り向くと、黒こげになったパズソーが墜落していく――サンダークラッカーのミサイルが直撃したのだ。
(悪く思うな。骨なら拾ってやるからさ)
 墜落していくパズソーを見て、サンダークラッカーは胸中で合掌し――突然飛来した火球がそんな彼を直撃する!
 フレイムコンボイと恭也のデスフレイムである。
「いいコトしたのに、コレですかぁぁぁぁぁっ!?」
 フレイムコンボイの怒りが多分に込められた一撃を受け、サンダークラッカーは空の彼方へとブッ飛ばされていった。

「よし、消火完了!」
 一方、パズソー(とサンダークラッカー)がいなくなったことで、ジャングルの消火活動は無事終了した。ギャラクシーコンボイは火種が残されていないことを確認すると神殿へと降り立ち、ビークルモードにトランスフォームする。
「頼みましたぞ」
「うむ」
 そして、サイドスから自分のプラネットフォースの箱を受け取り、フライトモードとなって神殿から飛び立つ。
 その光景を、スタースクリームとマスターメガトロンは上空から見物していた。
「ギャラクシーコンボイは私が……」
 言って、スタースクリームがギャラクシーコンボイを追おうとするが、
「いや、待て」
 マスターメガトロンはまたしてもそれを止めた。
「ギャラクシーコンボイの相手はオレがする。
 トランスフォーム!」
 言って、ジェット機にトランスフォームしてギャラクシーコンボイを追うマスターメガトロンを、スタースクリームは冷ややかな目で見送っていた。
「……ボスはボスらしく、後ろでドッシリかまえていればいいものを……
 マスターメガトロン。やはり貴様はボスの器ではない……
 真にボスとして相応しいのは……このスタースクリームだ」

「はぁぁぁぁぁっ!」
「やぁあっはぁっ!」
 咆哮と共に、ベクタープライムとノイズメイズの一撃が激突する。
 だが――何度も切り結ぶ内、ベクタープライムはノイズメイズの太刀筋を読んでいた。絶妙な角度で受け流し、カウンターの斬撃を放つが――
「ま、待て待て!」
 あわててノイズメイズはそれを制し、シールドのマーキングをサイバトロンのそれへと変更した。
「本気になるなよ。
 オレ達はデストロンの魔の手から、この宇宙を守る仲間なんだぞ」
「む……」
 その言葉に、ベクタープライムは思わず手を止め――
「――けど!」
 その一瞬のスキをつき、ノイズメイズはベクタープライムの手からプラネットフォースの木箱を奪い取る!
「しまった!」
「今はデストロンに潜入中の身なんでね――するべき仕事は、させてもらうよ♪」
 うめくベクタープライムに答え、ノイズメイズは木箱を開け――そこに入っていたのはただの石ころ。
「なんだ、ハズレか。
 返す」
 そう言うと、ノイズメイズはあっさりと木箱をベクタープライムに返し、そのまま飛び去っていってしまった。

「返せ!」
「ヤなこった!」
 一方、エクシリオン達はガスケット達に木箱を奪われてしまっていた――ジャングルの中を疾走しながら、告げるエクシリオンにガスケットはランドバレットの上でそう答える。
「さーて、中身は、と……」
 そして、ワクワクしながら木箱を開け――
「がはぁっ!?」
 中からびっくり箱のように飛び出してきたスプリングパンチが、ガスケットを空高く打ち上げていた。

「ヴィータ!」
「あぁ!」
 告げるゴッドジンライの言葉にヴィータがうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
 二人が咆哮、ゴッドジンライの背中のチップスロットに黄色いフォースチップが飛び込み――全身の火器にその力が行き渡る。
 そして――
『ゴッド、マックスバーニング!』
 放たれた閃光の雨が、インチアップへと降り注ぎ――しかし、インチアップもビークルモードにトランスフォーム、その場から走り去って回避する。
「くそっ、すばしっこい!」
「足さえ止めればいいんだろ! 任せろ!」
 うめくゴッドジンライに答え、ヴィータはグラーフアイゼンをかまえて上空へと飛び立つ。
 インチアップを狙い、シュワルベフリーゲンを撃つべく鉄球を生み出し――
「――――――っ!?」
 気づいた。とっさに後退し、自分を狙った閃光をかわす。
 そして――
「管理局の魔導師か……!」
「守護騎士ヴォルケンリッター、“鉄槌の騎士”ヴィータ、だったな……
 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。
 ここから先へは行かせないし――“闇の書”についても、いろいろ聞かせてもらおうか」
 うめくヴィータにそう答え、クロノは静かにS2Uをかまえた。

「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し、ラナバウトは自身のチップスロットにフォースチップをイグニッションし、
「バウト、シューター!」
「ぅわぁっ!」
 放ったバウトシューターがロングラックを吹き飛ばし、彼の手からこぼれたプラネットフォースの木箱を奪い取る!
「返せ!」
「返すのだ!」
 すかさず奪還に動こうとするロディマスブラーと美緒だが――
「おっと、撃ってもいいけど、プラネットフォースを巻き込むぜ」
「く………………っ!」
「汚いのだ……!」
 ラナバウトに木箱を盾にされ、二人は反撃できずにうめくしかない。
「はっはっはっ。そんじゃ、あばよ!」
 そんな彼らに勝ち誇り、ラナバウトはビークルモードにトランスフォーム。木箱を持って走り去る。
 そして、彼らから離れたところで再びロボットモードにトランスフォームし、
「さて、それじゃプラネットフォースを拝ませていただこうか……」
 言って、ラナバウトは木箱を開け――眉をひそめた。
 入っているのはプラネットフォースでもダミーの石ころでもなく――まさしく『何か』としか形容できない物体だった。
 そしてその一角には製作者のものと思われるサイン。
「……『リンディ・ハラオウン』……?」
 サインを読み、ラナバウトはさらに眉をひそめ――その瞬間、視界が光に包まれた。

「………………ん?」
 突然、ジャングルの一角で大爆発が起きた――爆音を聞き取り、スターセイバーが顔を上げる。
 次いで聞こえる悲鳴――ラナバウトだろうか。
「またデストロンがやられたようだな」
「らしいな。
 それより……」
 同じく聞こえていたらしい――となりでつぶやくシグナムにスターセイバーはうなずき、
「この『お客さん』達をなんとかしなければな」
 自分達と対峙するデモリッシャーやバンディットロンの昆虫型メンバー、ボンブシェル、キックバック、そして初めての対峙となるクワガタのシャープネルへと視線を向ける。
 デモリッシャーと鉢合わせし、戦っているところにバンディットロンが乱入してきたのだが――ハッキリ言ってスターセイバーとシグナムの二人を相手にするには役不足だ。
「こっちも時間がないんだ」
「さっさと――終わらせてもらうぞ!」
 ともかく、これ以上ここで足止めを受けているワケにもいかない――告げると同時、スターセイバーとシグナムは地を蹴った。

「どうやら、我輩はうまく敵の包囲をかわせたようだな……」
 あちこちで戦闘の光が見えるが、自分は今のところ危険はない――ジャングルの上空ギリギリを飛行し、スカイリンクスがつぶやく。
 だが――現実はそう甘くはなかった。
「……まだ、誰ともぶつかっていないヤツがいたか……」
 その姿を地上から見上げ、ダブルフェイスはそうつぶやくと傍らの仮面の戦士に尋ねる。
「どうする? 一応静観するつもりではいたが……」
「仕方ない。相手をしてやろう」
「だな」
 仮面の戦士の答えにうなずくと、ダブルフェイスは銀色のカード――ウェイトモードのデバイスを取り出し、告げた。
「ビルドキラーズ、GO」
 その言葉と同時、放たれた光の中から4機のパワードデバイスが姿を現す。
 ドリル削岩車、ブルドーザー、ダンプカー、ハンマークレーン――『ビルド』の名が示す通り、建築車両型のパワードデバイスである。
 そして、ダブルフェイスがビークルモードにトランスフォーム。荷台ミサイル発射台が後方に展開され、その先端に荷台を起こして合体ジョイントを露出させたダンプとハンマークレーンがまるでゲタでもはくかのような配置で合体、両足となる。
 一方ドリルとブルドーザーは車体下方から両腕を出現させ、両腕となってダブルフェイスに合体する。
 ボディ内部から新たな頭部がせり出し、ハンマークレーンのアームの基部から分離したヘッドギアが装着される。
 最後に胸部に出現するのはデストロンのエンブレム――新たな姿となったダブルフェイスはそのまま上昇、スカイリンクスへと光弾を放つ!
「なんのっ!」
 だが、スカイリンクスもそれをかわし、襲撃者と対峙する。
「貴様……デストロンの援軍か!?」
「さぁて、ね」
 スカイリンクスに答え、ダブルフェイスはかまえをとり、
「自己紹介しておこうか。
 オレの名は、キラーパンチだ」
 告げると同時――ダブルフェイス改めキラーパンチは跳躍し、スカイリンクスに襲いかかる!

「くらいな!」
 咆哮し、アルフの放ったフォトンランサーが突っ込んできたザフィーラを直撃する。
 しかし――ザフィーラもひるまない。煙に紛れて間合いを詰めるが、
「――そこっ!」
 それはアルフに読まれていた。繰り出した拳は同様にアルフの放った拳に止められる。
「やるじゃないか、アンタ……!」
「そちらも、な……!
 だが!」
 アルフに答え、ザフィーラは力任せに彼女を押し返し――
「いっけぇっ!」
 そこにアルクェイドが乱入した。爪による一撃を、ザフィーラは後退してなんとかかわす。
 そして、アルフの元にファングウルフが駆け寄り、
「アルフ、離脱するぞ!」
「え? けど――」
「グズグズすんな!」
 アルフに告げ、ライガージャックもまた駆け寄ってくる。
 ダイアトラスはウィアードウルフ達と闘っている――ホームグラウンドであるウィアードウルフ達に地の利を握られ、こちらに手を回す余裕はないようだ。
「このままここで戦っててもラチがあかねぇ!
 このプラネットフォースが本物だろうがニセモノだろうが、奪いに来るヤツを迎撃するなら、敵の機動力を削げる森の中だ!」
「こらこら、あくまでプラネットフォースの保護が最優先なんだぞ。
 いざという時に身を隠すための離脱だ。そこをはき違えるな」
「そうだね……」
 ライガージャックと彼をたしなめるファングウルフの言葉に、アルフはうなずいて立ち上がり――ザフィーラへと向き直り、告げた。
「あたしはアルフ。
 アンタは?」
「……ザフィーラだ」
「そっか。
 ザフィーラ。こっちも忙しいからね――ここは一旦幕引きにさせてもらうよ!」
 ザフィーラにそう告げると、アルフはファングウルフの背の上に飛び乗り、走り去っていった。
「……フンッ、適切な判断だな。
 それぞれの思考の足りない部分をそれぞれに補い合っている……いいチームだ」
 そんな彼女を見送り、ザフィーラはつぶやく。
「……アルフ、か……」
 その名を繰り返し――ザフィーラは自分の口元に笑みが浮かんでいるのに気づいていた。

「くらえぇっ!」
「なんの!」
 繰り出された拳をかわし、スカイリンクスはキラーパンチとの距離を取り、
「フォースチップ、イグニッション!
 デス、ブリザード!」

「く………………っ!」
 放たれたスカイリンクスのデスブリザードを、キラーパンチはかろうじて回避する。
 そして、両者は再び激突、すれ違い――
「――もらった!」
「何っ!?」
 キラーパンチは左肩に装備したブルドーザーのスクレーパーでプラネットフォースの木箱を奪い取る!
「しまった!」
 とっさに取り替えそうとするスカイリンクスだが、キラーパンチはかまわず木箱を開け――中に入っていたのはダミーの石ころ。
「チッ、外れか……」
 だが、キラーパンチは気にする様子もなく木箱を放り出し、
「となれば――貴様に用はない。
 フォースチップ、イグニッション」
 その言葉と共に、黄色のフォースチップがキラーパンチの背中のチップスロットに飛び込み、右手にドリル、そして左手にスクレーパーがそれぞれ装着される。
 そして――
「ペネトレイトクラッシュ!」
 繰り出したドリルとスクレーパーの連撃が、スカイリンクスを大地に叩き落す!
「ぐ………………っ!」
 衝撃に思わずうめき、スカイリンクスは追撃を警戒するが――すでに、キラーパンチの姿はなかった。

「フォースチップ、イグニッション!
 デス、クロー!」

 咆哮し、マスターメガトロンは左肩のチップスロットにデストロンマークの刻まれたフォースチップをイグニッション、デスクローを装着し、ギャラクシーコンボイへと襲いかかる!
 だが、ギャラクシーコンボイはその一撃を受け流し、
「――いけっ!」
 間合いを離しつつ、フェイトがギャラクシーロックキャノンでカウンターの一撃を見舞う。
「よし、このまま離脱するぞ!」
 言って、その場から離脱しようとするギャラクシーコンボイだが――
「そうはイカの、スルメ焼き!」
 その言葉と同時――放たれたビームがギャラクシーコンボイの背中を直撃する!
「きゃあっ!?」
 ギャラクシーコンボイが大地に叩きつけられ、衝撃でなのはが声を上げ――
「フンッ、オレ様を無視しようとは、なかなかゴージャスな根性をしているな」
 言って、スカージがギャラクシーコンボイの手からこぼれた木箱を拾い上げる。
「それを返せ、スカージ!」
「誰が返すか!
 プラネットフォースはオレ様がいただく!」
 ギャラクシーコンボイに言い返し、スカージは箱を開け――固まった。
 そこに収められているのはダミーの石――そしてその上には一枚のメモ書き。
 そこに書かれていたのはただ一言。

『バカが見る〜♪』

「ムキィィィィィッ!」
 怒りもあらわにダミーを遠投するスカージの姿に、ギャラクシーコンボイはそのダミーの製作者に思い当たっていた。
「……舞かリンディ提督の作か」
 大正解。正確には舞である。
 と――
「部下に本物を託した、ということか……」
「そうだ」
 こちらに追いつき、告げるマスターメガトロンに、ギャラクシーコンボイは立ち上がってそう答えた。
「そこまで信頼できる部下が貴様のところにいるのか?」
「そのセリフだと、貴様の元には信頼できる部下がいない、ということか」
「わたし達はちゃんとみんなを信頼してるんだから!」
「一緒に戦う仲間で、一緒に暮らす友達なんだ……信頼するのは当然だよ!」
 マスターメガトロンにギャラクシーコンボイが答え、なのはやフェイトもまた同意する。
 だが、マスターメガトロンにはそんな理屈など通じない。
「フンッ、くだらん。
 信頼だと? このオレ様が『頼』るような事態になどなるものか!」
 そう言うと、マスターメガトロンは迷わずビークルモードとなり、飛び去っていく――もはやギャラクシーコンボイになど用はない。他の面々を襲い、プラネットフォースを奪うつもりなのだ。
「待て!」
 とっさにその後を追おうとするギャラクシーコンボイだが、
「そうはいくか!」
 その前に立ちふさがったのはスカージだ。
「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し、スカージはガンメタルのフォースチップをイグニッションし、ダイノスラッシュを装備する。
 そのまま一直線にギャラクシーコンボイへと襲いかかるが、ギャラクシーコンボイもそれをかわして後退する。
「スカージさん、そこをどいて!」
「プラネットフォースが狙いなら、ここでボクらが戦う意味はないだろう!?」
「意味ならあるさ!」
 声を上げるなのはとユーノに、スカージはキッパリと断言する。
「わざわざここで追いかけても、乱戦になって誰かに掠め取られるのがオチだろうが!
 ならば、先にここで貴様を、次にプラネットフォースを奪ったマスターメガトロンを倒すのが順当というものだ!」
「なるほど……確かに、一度デストロンに奪われるけど、そっちの方が地道で確実だね」
「そういうことだ」
 うめくフェイトに答え、スカージは自慢するかのように胸を張り、
「このご時勢、盗賊であろうと堅実且つ確実な経営を心がけねばなぁ!」
「……経営するものなの? 盗賊って」
「うーん……」
 スカージの宣言を前に、思わず尋ねるなのはの問いにユーノは返答に困ってうめくしかない。
「とにかくっ! そんなワケで覚悟してもらうぞ!」
 もう話は終わりだとばかりに言い放ち、スカージはダイノスラッシュをかまえ――
「――――――っ!?」
 気づいた。とっさに身をひるがえし、飛来したそれを弾く。
 弾かれ、地響きを立てて大地に突き立てられたのは真紅のクサビ――
 そして、
「無粋な横槍は、そこまでにしてもらおうか」
 言って、彼はその場に降り立った。そのままギャラクシーコンボイへと向き直り、告げる。
「ここは任せて、お前はマスターメガトロンを追え。
 ヤツの手に渡るのは、スカージやヴォルケンリッターに奪われるより万倍タチが悪かろう」
「感謝します!」
 答え、飛び立っていくギャラクシーコンボイを見送ると、彼はスカージへと向き直る。
「また貴様か……!
 最近そういう役回りばかりじゃないのか?」
「さっさと済ませて、帰ってもらわないと訓練に集中できないんでな。
 となると、このままサイバトロンに持ち逃げしてもらうのが一番楽だということさ」
 うめくスカージに対し、彼はそう答えて苦笑し、
「じゃあ……横槍同士、楽しい茶番劇でも始めようか」
 言って――ビッグコンボイはマンモストンファーを装着した。

「このぉっ!」
 咆哮し、ヴィータが放ったシュワルベフリーゲンがクロノに迫るが――
「各弾の集結が早い。
 せっかく広範囲にばらまいても、それじゃあ何の意味もない」
 告げて、クロノはブレイズキャノンで迫り来る魔力弾を薙ぎ払う。
「コイツ……たかがストレージデバイス使いのクセして、強い……!」
「能力任せの戦いをしているからそうなる。
 確かにキミはデバイスの能力も魔法の威力もボクらで言うところのAAAランクに匹敵する。
 けど――戦い方が粗い。相手との相性の考慮がそこからスッポリと抜け落ちている」
 うめくヴィータに答え、クロノはS2Uをかまえ、告げた。
「ゴッドジンライのことだ。もうすぐにでもインチアップの機動に適応して圧勝するだろう。
 彼がキミの援護に回る前に――決着をつけさせてもらうぞ!」
「やれるもんなら、やってみろ!」
 クロノに言い返し、ヴィータはグラーフアイゼンをかまえて突っ込む。
 シュワルベフリーゲンを放ち、クロノが迎撃する間に背後に回り込むが、振り下ろしたグラーフアイゼンはそれを読んでいたクロノのS2Uに受け止められる。
 反撃とばかりに振るわれたS2Uをかわし、ヴィータは再び間合いを詰め――

 いつしか、彼女はクロノとの対決を楽しんでいた。

 一方、マスターメガトロンはスタースクリームと合流し、プラネットフォースの行方を追っていた。
「プラネットフォースは、ライガージャックとファングウルフが持っているようです」
「そうか……」
 スタースクリームの言葉にうなずき――ふと気になったマスターメガトロンはスタースクリームに尋ねた。
「ところで、サンダークラッカー達は?」
「戦線離脱です。
 しかし、私がおりますので……」
「頼もしいな」
 スタースクリームの言葉につぶやき――その上でマスターメガトロンは告げた。
「だが、信頼していいものか……」
「………………?
 どういうことでしょうか……?」
 まさか自分の叛意が見抜かれたか――そんな考えが脳裏をよぎるが、そう仮定するには不自然な違和感をスタースクリームは感じていた。
 どんな真意があるにせよ、あのマスターメガトロンが『信頼』などという言葉をそう簡単に使うだろうか――?
 他人から聞かれれば、自分は迷わず『否』と答えるだろう――少なくとも、まず使わないタイプの人物像をマスターメガトロンは有していると自分は考えている。
 マスターメガトロンはワンマンな自分至上主義者であると同時に戦いへは常にひとりで赴くタイプである――他人の力に頼ることをよしとしない要素をふたつも持っているのだ。そんな彼が他人への依存を連想させる『信頼』などという言葉をそう簡単に使うとは思えない。戦いにおいては自分達の援護すらアテにしない男なのだから。
 つまり、先の問いは自分への不信というより――何か別の要因があった上での質問と考えるべきだろう。
 だが――スタースクリームがその問いに答えることはなかった。
「――いたぞ!」
 先にライガージャック達の姿を発見し、マスターメガトロンが降下を始めたからだ。

「トランスフォーム!」
『――――――っ!』
 咆哮し、目の前に降り立ったマスターメガトロンの登場に、ライガージャックとファングウルフはあわてて停止した。
「プラネットフォースを渡してもらおうか」
「誰が!
 ファングウルフ!」
「おぅ!」
 言い返すアルフに応え、ファングウルフはブレードモードのウルフェンショットをかまえ、マスターメガトロンへと斬りかかり――
「貴様の相手は、私だ」
 淡々と告げ、スタースクリームがバーテックスブレードでそれを受け止める。
「さて、こちらも始めるか」
「望むところ――」
 こちらへと向き直り、告げるマスターメガトロンの言葉に、ライガージャックは答えかけ――
(……おっと、いけねぇいけねぇ)
 目的はあくまでプラネットフォースの確保――そのことを思い出して踏みとどまる。
「悪いな、お前の相手はしてられねぇんだ!」
「また今度ブッ飛ばしてあげるわよ!」
 アルクェイドと共に告げ、ライガージャックはジャングルの奥へと飛び込んでいく。
(辛かろう……だが、耐えろよ、ライガージャック!)
 その後をマスターメガトロンが追うのを見送り、ファングウルフはスタースクリームを押し返し、
「これでも、くらいな!」
 後退したスタースクリームへと、アルフがフォトンランサーを放つ!

「どうした? 今まで叩いていたデカい口はどうした?
 どうせなら尻尾も巻いたらどうだ?」
 ジャングルの奥に消えたライガージャックを追い、マスターメガトロンは彼を挑発しながら進んでいく。
 その言葉に飛び出したくなる衝動にかられるが――じっと耐えてライガージャックとアルクェイドは茂みの中に身を潜める。
「飛び出すんじゃないわよ、ライガージャック」
「そっちこそ、キレるんじゃないぜ」
 小声で告げるアルクェイドに、ライガージャックもまた小声で答えるが――
「部下や仲間が腰抜けなら、ギャラクシーコンボイやあの小娘も腰抜けか」
『――――――っ!』
 なのはやギャラクシーコンボイを侮辱された瞬間、二人の頭には一瞬にして血が上っていた。
「なんだと!?
 オレ達なら何て言ってもいい! だが――」
「なのは達を侮辱するからには、覚悟はできてるんでしょうね!?」
 思わず飛び出してきたライガージャックとアルクェイドの言葉に、マスターメガトロンの口元に笑みが浮かび――
「やめろ、二人とも!」
 そんな二人に告げ、ギャラクシーコンボイが降下してきた。
「総司令官!」
「なのは、フェイト!」
「ライガージャック、落ち着いて!」
「アルクェイドさんも!
 わたし達なら気にしないから!」
 声を上げるライガージャックとアルクェイドにフェイトやなのはが答えると、ギャラクシーコンボイが二人に告げる。
「今までよく耐えた。
 だが、ここからは我々も一緒だ!
 フェイト!」
「はい!」
 ギャラクシーコンボイの言葉に、フェイトはストレージデバイスを起動させた。

「いくよ――みんな!」
 言って、フェイトがストレージデバイスをかざし――その中枢部から光が放たれる。
 その中で、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『ギャラクシー、コンボイ!』
 なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが左腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
 次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な左腕に変形する。
 そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
 フェイトを加えた5人の叫びと共に、左腕となったライガージャックがギャラクシーコンボイに合体する!
 背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャックの変形した左腕に拳が作り出され、5人が高らかに名乗りを上げる。
『ライガァァァァァ、コンボイ!』

『フォースチップ、イグニッション!』
 リンクアップを遂げるなり、一同が同時に咆哮し――マスターメガトロンがデスクローを装備し、ライガーコンボイもまたプラティナムクローを展開する。
 そして、両者は同時に地を蹴り、互いの一撃をぶつけ合う!
 だが――突然、ライガーコンボイの“背中に”一撃が叩きつけられる!
「ぐぁっ!?」
「きゃあっ!?」
 突然の衝撃にライガーコンボイとなのはが声を上げ、崩れ落ちた向こう側には――
「遅れてすみません」
 スタースクリームの姿があった。

「…………ん……」
 意識を取り戻し、アルフはうっすらと目を開けた。
「そっか……確か、スタースクリームにやられて……!」
 うめいて、すぐそばで倒れているファングウルフへと視線を向ける。
 傷を負ってはいるが、ちゃんと手当てされている。あれなら大丈夫だろう――
(……“手当てされてる”!?)
 その事実に気づき、アルフはあわてて立ち上がった。
 そして、自分もまたスタースクリームから受けた傷が手当てされているのに気づく。
 戦っていた相手であるスタースクリームの仕業ではあるまい。ならば一体誰が――
 と、アルフは気づいた。
 自分の傷に包帯代わりに巻かれている布に心当たりがある――“アイツ”の戦装束の切れ端だ。
「……ザフィーラ……!?」

「ぐ………………っ!」
 スタースクリームの一撃で、ライガーコンボイはリンクアップも解除されて大地に倒れ込み――ギャラクシーコンボイの手からそれがこぼれた。
 ライガージャックの持っていた、プラネットフォースの木箱である。
「しまった!」
 とっさにフェイトが声を上げるが、スタースクリームに背後から押さえつけられていてはどうしようもない。マスターメガトロンは何の妨害もなく木箱を拾い上げる。
「それを返せ、マスターメガトロン!」
 マスターメガトロンに告げるギャラクシーコンボイだが、マスターメガトロンはかまわない。木箱をもてあそびながら答える。
「見苦しいぞ、ギャラクシーコンボイ。
 いさぎよく負けを認めたらどうだ?」
「勝ち負けの問題じゃないよ!」
 悠々と告げるマスターメガトロンに、ギャラクシーコンボイのライドスペースでなのはが反論する。
「では何の問題だ? 生きるか死ぬかの問題か?」
 そんななのはをあざ笑い、マスターメガトロンは木箱のフタを開け――
「何だと……!?」
 驚きの声を上げていた。
 入っていたのはプラネットフォースではなかった。
 ダミーの石ころである。
「これもダミーだと……!?
 では、本物はどこに……!?」

 その頃、フレイムコンボイの神殿では――
「……さすがに、脳みそ50円/gのマスターメガトロンでも気づいたかな?」
「だろうな」
 言って、舞とサイドスはクルリと振り向き――
「まぁ、普通はあの状況ならプラネットフォースを持って離脱したと考えるでしょうからね……」
 そこに安置されたアニマトロスのプラネットフォースを見て、リンディがつぶやいた。

「貴様……本物のプラネットフォースをどこに隠した!」
「答えると思っているのか!?」
 うめくマスターメガトロンにギャラクシーコンボイが答えた、その時――
「はぁぁぁぁぁっ!」
「――――――っ!?」
 突然の咆哮にスタースクリームはとっさにその場から飛びのき、戦場に飛び込んできたスターセイバーの刃をかわし、
「紫電、一閃!」
「く………………っ!」
 上空から突っ込んできたシグナムの紫電一閃をバーテックスブレードで受け止める。
「スターセイバー……!?」
「まったく……敵である我らに助けられるとはな。
 まだまだ未熟だぞ、ギャラクシーコンボイ」
 うめくギャラクシーコンボイに答え、スターセイバーはマスターメガトロンへと向き直った。

「………………おい」
 敵味方の関係はとりあえず置いておくとして――デモリッシャーはとなりに声をかけた。
「……キックバック、とかいったな。
 生きてるか?」
「おう」
 とりあえず返事して――キックバックはとなりの消し炭に話を振る。
「シャープネル、てめぇは?」
「一撃で黒コゲだよ……」
 と、そこにすぐそばのクレーターの中から新たな声が上がる。
「あー、まぁ、相手がヤツじゃ仕方ないよな」
「あ、生きてたかボンブシェル」
「いたのか」
「おやおや」
「けっこうひどいな、お前ら……」
 クレーターの中の気配に動きはない。どうやらボンブシェルも動けないようだ。
「数で頼めば勝てると思ったんだが……」
「まさかやられる描写すらナシとはね……」
「儚い夢だったな……」
「反則だって。アイツらのレベルは」
 口々に言って――彼らはまったく同じタイミングでため息をついた。

「貴様……!」
「悪いが、こちらもプラネットフォースを狙う身なのでな。
 ここにプラネットフォースがない以上この場で争う意味もないだろうが……しばし付き合ってもらうぞ」
 マスターメガトロンに答え、スターセイバーは油断なくスターブレードをかまえる。
「なめるなよ、この老骨が!」
「悪いが――まだ『老骨』という歳でもない。
 これでも、人間にたとえれば30前だ!」
 互いに告げ、マスターメガトロンのデスクローとスターセイバーのスターブレードが激突、火花を散らし――そんなマスターメガトロンの背で、立て続けに爆発が巻き起こる!
「何だ!?」
 それでもなんとかスターセイバーの追撃は避け、マスターメガトロンがうめくと、
「総司令官!」
 駆けつけてきたのはエクシリオンだ。ニトロコンボイに援護してもらいつつ、ギャラクシーコンボイの元に駆け寄る。
「貴様ら……!」
 突然の乱入にマスターメガトロンがうめき――
『フォースチップ、イグニッション!』
 次の声は背後から上がった。とっさにマスターメガトロンは身をひねり――
『ロディマスブースター!
 ――って、わぁぁぁぁぁっ!?』
 悲鳴まできれいにハモりつつ、体当たりを外したロディマスブラーと美緒が大地に突っ込んだ。

 その頃、ロディマスブラー達とチームを組んでいたロングラックと那美達は――
「まったく、ボクらだけ置いてさっさと行っちゃうんだから……」
「っていうか……」
「ここ……どこ……?」
 迷っていた。

「フッフッフッ……
 多少しくじりはしたが、真打ちここに参上だ!」
 思いっきり自爆したことを気にする様子もなく、ロディマスブラーはゆっくりと立ち上がってマスターメガトロンへと向き直る。
 だが――
「それはいいが……大丈夫か?
 頚部のフレームが思いっきり曲がってるが……」
「『参上』というより『惨状』だな、これは……」
 シグナムとスターセイバーが告げた通り、現在ロディマスブラーは――首がほぼ90度横向きになっていた。
 ともかく、二人の指摘を受けたロディマスブラーは首の向きを修正し――そんな彼にマスターメガトロンが告げる。
「フンッ、今しがた盛大に自爆したクセに、このオレに勝てるとでも思ってるのか?」
「うるさいのだ!
 あたしとブラーのコンビが、これで終わりとは思わない方がいいのだ!」
 美緒がムキになってそう言い返すと、
「おいおい、オレ達もいるんだぞ」
「そういうこと♪」
 そう告げて、ニトロコンボイと耕介もまた彼女達のとなりに並ぶ。
「フンッ、貴様らごとき、簡単にひねりつぶせるわ!」
 対して、咆哮したマスターメガトロンが雷撃を放つが、彼らは散開してそれをかわし、
「我らもいることを――」
「忘れてもらっては困るな!」
 左右から飛び込んできたシグナムとスターセイバーの斬撃を、マスターメガトロンは左右に展開した雷の防壁で防御する。
「毎度ながら、敵味方関係なしの連携だな!」
「少なくとも――」
「お前は共通且つ、最悪の敵だからな!」
 焦りなど微塵も感じさせず、むしろ感嘆の声を上げるマスターメガトロンを、ニトロコンボイと後退するスターセイバーはそれぞれの火器で牽制し、
「ロディマスショット!」
「そっちが本命か!」
 背後からこちらを狙ったロディマスブラーの射撃を、マスターメガトロンは左に飛んで回避。さらに雷撃で反撃までしてくる。
 スピードを最大の武器とする3組を相手にしても、マスターメガトロンは翻弄される様子すらない。さすがはデストロンをまとめる破壊大帝といったところだろうか。
「あー、くそっ!
 これじゃ近づけねぇじゃんか!」
「確かに、見境なくバリバリと……
 こっちはヘソなんかないのにな!」
 うめく耕介に答え、ニトロコンボイはマッハショットでスタースクリームを牽制する。
「スターセイバー、なんとか接近できないか!?」
「やってみる!」
 尋ねるニトロコンボイに答え、スターセイバーはシグナムと共にマスターメガトロンへと跳ぶが、
「そうはさせん!」
 二人の前にスタースクリームが乱入。行く手を阻まれた二人はそのまま後退を余儀なくされてしまう。
「くっ、このままでは……!」
 完全に抑えられた。このままではマズい――エクシリオンに支えられた状態で、思わず歯噛みするギャラクシーコンボイだが――
「それでもいくのだ!」
「美緒…………?」
 突然声を上げた美緒に、ロディマスブラーは思わず声を上げる。
「ここでマスターメガトロンにプラネットフォースを奪われたら、その時点でアウトなのだ!
 絶対に……あたし達は負けられないのだ!」
「……そうだな」
 美緒の言葉にうなずき、ロディマスブラーはマスターメガトロンをにらみつけ、
「あのパワーバカに、これ以上デカいツラさせてたまるか!
 オレ達にだって意地があるんだ! いっちょやったろーじゃねぇの!」
 自信を取り戻したロディマスブラーのその言葉は、共に並ぶニトロコンボイや耕介を奮起させるには十分すぎた。
「……やれやれ、熱血はオレの性分じゃないんだが」
「そういうなよ。
 たまにはいいだろ、こーゆーの」
 肩をすくめ、つぶやくニトロコンボイに耕介が答え、
「それじゃ――いくか!」
『おぅっ!』
 耕介の号令に残る3人が答えた、その時――
「えぇっ!?」
 場違いな驚きの声は背後から上がった。
 声の主はフェイト――原因は彼女の手の中のストレージデバイスが発動させている魔法。
 それは――

 

リンクアップ・ナビゲータだった。

 

『ニトロコンボイ!』
 耕介とニトロコンボイが叫び、背中のニトロブーストで勢いよく上昇、頭上にマッハショットを放り投げ、
『ロディマス、ブラー!』
 次いで美緒とロディマスブラーの叫びが響き、ロディマスブラーはビークルモードのドラッグカーにトランスフォーム、両腕にあたる後輪の駆動ユニットが分離する。
 そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
 フェイトを加えた5人の叫びと共に、ロディマスブラー本体がニトロコンボイの背中に、そして分離した駆動ユニット部分が両足の外側に合体する。
 ロディマスブラーの両足にあたる前輪部分が二つに分かれて展開され、両肩をカバーする追加装甲となり、落下してきたマッハショットを手にした5人が高らかに名乗りを上げる――

 

『ロディマァス、コンボイ!』

 

「何だと!?」
 目の前で突然行われた新たなリンクアップ――合体したロディマスコンボイを前に、マスターメガトロンが思わず声を上げる。
「お、オレ達が……」
「合体、した……!?」
 一方、驚いているのはこちらも同じだった。ニトロコンボイとロディマスブラーが呆然とつぶやき、それぞれのライドスペースで耕介と美緒もコクコクとうなずく。
 と――
「パワーのない二人が合体したところで!」
 戸惑うそのスキを見逃さず、間合いを詰めたスタースクリームがバーテックスブレードを振るい――その斬撃は空を薙いでいた。
「何――――――っ!?」
 必殺の一撃をかわされ、スタースクリームが驚愕し――次の瞬間、背後から強烈な衝撃が叩きつけられる!
 一瞬にして回り込んだロディマスコンボイがそのスピードのままに蹴りを叩き込んだのだ。
 しかも、その威力もまたすさまじいものだった。大地に叩きつけられる、などというレベルではない――文字通りボールのように盛大にバウンドし、スタースクリームは木々を薙ぎ倒して吹き飛ばされる。
「す、すごい……!」
「アイツのセリフじゃないけど、パワーはぜんぜん期待してなかったのに……」
 この威力は完全に意外だった――自分達ですら予測できなかった蹴りの威力にロディマスブラーと美緒がつぶやくと、
「スピード、だろうな……」
 そう答えたのはロディマスコンボイその人だった。
「確かに、スタースクリームの言った通りオレ達にパワーはない。そんな二人が合体しても、パワーの上昇なんてたかが知れてる」
「けど――代わりにオレ達は圧倒的なスピードを得た。それをうまく攻撃に合わせられれば……!」
 ロディマスコンボイと耕介がつぶやき――彼らはマスターメガトロンへと視線を向ける。
 それが意味するところはひとつ。すなわち――
『アイツに……勝てる!』
「ほざくな、若造!」
 言い返し、雷撃を放とうとするマスターメガトロンだが――
「させるか!」
 ロディマスコンボイの動きはそれよりも速かった。一瞬にして懐に飛び込み、振り下ろされようとしていたマスターメガトロンの右腕を受け止め、至近距離からマッハショットを撃ち込む!
「す……すごい……!」
「速いし……強い……!」
「あれが……リンクアップしたロディマスコンボイの力……!」
 パワーの不足をものともしないロディマスコンボイの戦いぶりに、なのはとフェイト、そしてギャラクシーコンボイが口々につぶやく。
 一方、たまったものではないのがマスターメガトロンだ。ダメージを受けたわき腹を押さえながら立ち上がる。
「バカな……!
 このオレのパワーが……通用しないだと……!?」
「パワーだけあっても、当てられなきゃダメだってことさ!」
 うめくマスターメガトロンに耕介が答え、美緒が宣言する。
「さぁて、さっさと帰ってもらうのだ!」

『フォース――』
 ロディマスコンボイと耕介――
『――チップ!』
 ロディマスブラーと美緒――
『イグニッション!』
 そして4人の声が唱和し、飛来したスピーディアのフォースチップがロディマスコンボイの背中――ロディマスブラーのチップスロットに飛び込む。
 そして、展開されたウィングからロディマスショットが分離。ロディマスコンボイがかざしたマッハショットの二門の銃口、それぞれの先端に連結される。
 その名も――
『ロディマス、ライフル!』
 咆哮と共に、放たれた閃光が一直線にマスターメガトロンへと突っ込み――直前で拡散。無数の光弾となってマスターメガトロンの周囲を飛び回る。
「こ、これは……!?」
 意図が読めず、うめくマスターメガトロンだが、高速で飛翔する光弾の渦を前にうかつに手出しが出来ない。雷撃を放ってもかいくぐられるばかりで手ごたえがない。
 一方、ロディマスコンボイはロディマスライフルをかまえ、
「ロディマスライフル、ランサーモード!」
 ロディマスコンボイの言葉にライフルの銃身が左右に展開。銃口から放たれた光が刃となり、両端に光刃を備えた槍となる。
 そして、ロディマスコンボイは一気にマスターメガトロンへと突っ込み、
『ロディマス、ディバイディング、スラァッシュ!』
 繰り出した一撃が周囲の光弾をも導き、斬撃もろともマスターメガトロンの身体に叩きつける!
 しかも、それで終わりではない――瞬時に身をひるがえし、反対側の刃でもう一撃!
 その瞬間――叩きつけられたエネルギーが爆裂し、マスターメガトロンを吹き飛ばす!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 さすがにこの一撃は強烈だった。 マスターメガトロンはまともに吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。
「ま、マスターメガトロン様……!」
 そんなマスターメガトロンに駆け寄り、スタースクリームが声をかけると、
「ぐ………………っ!
 なんの、この程度……!」
 うめいて、なんとか立ち上がるマスターメガトロンだが、そのダメージはどう見ても軽くない。ライガーグランドブレイクを初めて受けた時のように意識を失っていないのはむしろ幸運だと言えるほどのダメージである。
「ここは退くのが賢明かと」
「おのれ……!
 覚えていろよ、ギャラクシーコンボイ――そして、ロディマスコンボイ!」
 スタースクリームの言葉にうめき、マスターメガトロンは捨てゼリフと共にワープゲートを潜っていった。

 その一方で、スターセイバーとシグナムもまた、マスターメガトロンを撃退してみせたロディマスコンボイの強さに息を呑んでいた。
「2体目のリンクアップか……」
「パワーのライガーコンボイに対してスピードのロディマスコンボイ……間違いなく、こちらも強敵だな」
 うめくシグナムに答え、スターセイバーはしばし考え、告げた。
「……退くぞ、シグナム」
「スターセイバー!?」
「……このまま行き当たりで戦って、勝てる相手とも思えん。
 ゴッドジンライはインチアップを撃破したようだが管理局の魔導師に苦戦、ダイアトラスはフリーだが、位置的にこちらへの到着は間に合いそうにない――仲間の援護が期待できない以上、ここは撤退が適案だろう」
 敵に背を向けるのか――ロコツにそんな意志を視線に込めるシグナムに、スターセイバーはさとすようにそう答える。
「騎士としての誇りから、敵に背を向けたくはないキミの気持ちはわかる。
 だが、退くこともまた時には必要だ」
 その言葉に、シグナムはしばしためらい――決断した。
「わかった。ここは退こう」
 言って、シグナムはスターセイバーの肩に飛び乗り、二人はそのまま飛び去っていった。

「……わかった。撤退する」
 インチアップを大地に叩き伏せ、ゴッドジンライはスターセイバーからの通信にそう答え、上空でクロノと戦うヴィータに告げた。
「ヴィータ、引き上げだ!」
「何で!?」
「向こうの決着がついたんだとよ!
 このままじゃ、オレ達はサイバトロンの連中に袋叩きだ――今が退き時ってことさ!」
「く………………っ!」
 ゴッドジンライの言葉にうめき、ヴィータは前方のクロノへと視線を向けた。
 撤退するのはいいが、果たして彼が見逃してくれるだろうか――クロノの出方をうかがいながら、そんなことを考えるヴィータだったが、
「……行くといい」
 意外にもクロノはS2Uを下ろし、ヴィータに告げた。
「見逃してくれるってのか?
 管理局はあたしらを追ってるんじゃないのかよ?」
「キミ達をここで捕まえて、解決する問題なら捕まえるさ――けど、そうじゃないんだろう?
 それに……」
 そうヴィータに答え、クロノは苦笑して付け加えた。
「キミをここで倒すと、なのはのリベンジの機会を奪うことになるからね」
「アイツの……?」
 なぜここでなのはの名前が出るのか――なぜ職務より彼女を優先するのか――? 疑問にとらわれたヴィータだったが――なんとなく気づいた。
「……ホレてんのか?」
「なっ!?
 なななななっ、何言い出すんだよ!?」
 ヴィータの言葉にあわてて反論するクロノだが、真っ赤になった状態で答えても説得力はない。
 だが――そんなクロノの反応に、ヴィータはなんとなくおもしろくないものを感じた。
 なぜだかわからないが――無性に腹が立った。
 だから――告げた。
「おい、クロ助」
「く………………っ!?」
 よりにもよって“彼女達”と同じ呼び方か――思わず固まるクロノにかまわず、ヴィータは告げた。
「次会った時は――
 真っ先に、全力でツブす」
 なぜか強烈にドスの効いた口調で告げると、ヴィータはゴッドジンライと合流し、転送魔法で離脱していった。
「………………
 ……なんで?」
 どうしてそんな怒気をぶつけられたのか、まるで理解できないクロノを残して――

「……マスターメガトロン達の反応が消えたか……
 どうする? 向こうは終わったようだぞ」
「く………………っ!」
 自分を完全に抑え、かつギャラクシーコンボイ達の様子までうかがっていたビッグコンボイの言葉に、スカージは思わず歯噛みした。
 現在の状況は完全に不利だ――部下との連絡が途絶えている以上、ここでビッグコンボイを突破しても、次はサイバトロン全軍を相手にすることになる。
 どうしたものか――思考をめぐらせるスカージだったが、
「………………ん?」
 気づいた。
 レンジを広げた自分のレーダーに偶然とらえられた反応――
 視線を向けるが、ビッグコンボイは気づいている様子はない。どうやら“向こう”には気を払っていなかったようだ。
 ならば――
「……いいだろう。
 そろそろ晩メシの時間だ。オレ様も撤退させてもらうとしよう」
「そうしろ。
 せいぜい豪華なディナーでも楽しむがいい」
 そのビッグコンボイの反応にやはり気づいていないことを確信し――スカージはその場から撤退していった。
 だが――向かう先は自分達のアジトではなかった。

「〈えぇぇぇぇぇっ!?〉」
 フレイムコンボイの神殿に戻り、エクシリオンからその事実を聞かされたロングラックとハイブロウは思わず声を上げていた。
〈て、転生して、彼女までゲットしておきながら……〉
「その上、リンクアップまで!?」
「あぁ……その通りだ」
 つぶやくハイブロウやロングラックにエクシリオンが答え、一同は深刻な表情で黙り込み――
『〈裏切り者ぉぉぉぉぉっ!〉』
「うるせぇよジェラシートリオ!」
 声をそろえて絶叫するエクシリオン達に、ロディマスブラーは力いっぱい言い返す。
 そのままギャーギャーと言い争いに突入する彼らから視線を外し、フレイムコンボイは思わずリンディに尋ねる。
「あー、アイツらはいつもあんななのか?」
「今回はむしろおとなしいですね」
「美緒ちゃんの告白の直後なんか、ロディマスブラーの転生も重なったおかげで大騒ぎだったからね……」
「すまないな、最後の最後まで騒がせて……」
 リンディと舞が答え、ギャラクシーコンボイが謝罪する間にも、ロディマスブラーVS同期達の戦いは続いている。
「そんなに悔しかったら転生するなりリンクアップするなり、彼女作るなりすりゃいいだろうが!」
「そう簡単にできてたまるか!」
 ロディマスブラーの言葉にエクシリオンが言い返すと、その後ろですずかはしばし考え、
「えっと……エクシリオン……」
「何だよ?」
「あの、えっと……
 ロディマスブラーが言ったから、ってワケじゃ、ないんだけど……」
 聞き返すエクシリオンに、すずかは何やら言いにくそうに答える。
 少しうつむいたその表情はよくわからないが――わずかに赤みがかかった頬を見て、リンディはだいたいの内容を察していた。
 だが――
「だいたい、ハイブロウはいざって時にビクついちまうし、ロングラックは勉強勉強で頭カタいし!
 エクシリオンなんか走るばっかで他に取り得なんかないだろうが!」
「って、ちょっと待てぇっ! 今のは聞きとがめたぞ!」
 ロディマスブラーの言葉にエクシリオンは過敏に反応。すずかを放って口論へと戻ってしまう。
「…………あ……」
 すっかり取り残されてしまい、すずかは思わず肩を落とし――
 ――ポンッ。
 そんな彼女の肩を叩いたのはフェイトだった。

「だぁーっ、もうっ!
 貴様ら、さっきから黙って聞いてれば!」
 一方、騒ぎ立てる一同に、ついにフレイムコンボイがキレていた。声を上げながら口論の中へと乱入し、
「まったく、いつまでそんなくだらないことで騒いでいる!
 プラネットフォースは渡したんだ。とっとと帰りやがれ!」
「くだらないもんか!」
 だが、エクシリオンも負けてはいない。フレイムコンボイに対して真っ向から反論する。
「今のオレ達にとって、これほど重要な問題は――」

 ごっ。

 だが、エクシリオンは最後まで告げることができず――背後からの衝撃で意識を失い、その場に崩れ落ちた。
 何事かと、一同はエクシリオンの背後へと視線を向け――
「……エクシリオンの、バカ……」
 そこには、涙目のすずかがフェイトのフローターフィールドに乗って立っていた。
 不自然に歪んだフェイトのストレージデバイスを手にして。
 つまり、今のエクシリオンの昏倒は――
「……さて、帰りますか」
「だな。
 ハイブロウ、ベクタープライムにゲート開けてもらうから、周辺にカモフラージュシールドをよろしく」
〈り、了解〉
「おぅ、帰れ帰れ」
 何事もなかったかのように撤退準備に入るロディマスブラー達とフレイムコンボイ――だが、彼らの意思は一致していた。

((今のすずかには、触れないのが吉だな……))

「チョッキンなぁ……」
 その頃、フレイムコンボイの神殿――その裏手にはランページの姿があった。
「反応の強さからすると、この辺なんじゃが……」
 つぶやき、神殿の壁をしばし探り――見当をつけ、どかした岩の向こうには漆黒の空洞が広がっていた。

「……どうやら、ビンゴのようじゃな」
 つぶやき、ランページは発見した空洞の中を進んでいく。
 通路は幾重にも折り返して下っていく――目的のものは、相当地下深くに眠っているようだ。
 ずいぶんと退屈だがこれも仕事だ。ランページは根気よく通路を下っていき――不意に通路の下りが終了した。
 そして、彼の目の前でそれは輝いていた。
 金縁に彩られ、ガンメタルの下地にアニマトロスの紋章が刻まれた――スピーディアにあったものと同じ“もうひとつのプラネットフォース”だ。
「よっしゃ! お宝発見!」
 目的のものは発見した。後は持ち帰るだけ――気を取り直して声を上げるランページだが――
「ほぉ、お宝か」
「誰じゃい!?」
 突然かけられた声に、ランページは驚いて振り向き――
「そいつは、このオレ様がいただこう」
 そんなランページにダイノスラッシュの切っ先を突きつけ、スカージは悠々とそう告げた。

 一方、その頃地球では――

「………………ん?」
 さざなみ寮に設置された臨時の“闇の書”事件捜査本部――アニマトロスの方が無事に片づいたことを知らされ、安堵したエイミィはふと通信コンソールが起動しているのに気づいた。
 管理局本局からのコールサインである。
「はいはい♪」
〈あ、先輩!〉
 応答したエイミィに対し、ウィンドウに姿を現したのはマリーだった。
「あれ、マリーじゃない。どうしたの?」
〈それが……お預かりしていたインテリジェントデバイス2基なんですけど……何だか変なんです〉
「変…………?」
 そのマリーの言葉に、エイミィは思わず眉をひそめた。
〈部品の交換は終わったんですけど、再起動しようとしてもエラーメッセージが出て……〉
「どんなエラーなの?」
〈『必要な部品が足りない』って……
 今、リストを送ります〉
 マリーが答えると同時、画面の一角に問題のリストが表示された。
「あ、来た来た。これだね――」
 言いながらエイミィはリストに目を通し――眉をひそめた。
「……これなの? 足りない部品って」
〈えぇ……
 何かの間違いですよね?〉
 だが、マリーの言葉などすでにエイミィの耳には入っていなかった。
(レイジングハート……バルディッシュ……
 本気なの……!?)
 足りないパーツは2セット。
 その一方は「CVK-792」。すなわち――
「……ベルカ式、カートリッジシステム……!」
 そう。それはシグナムやヴィータの使うカートリッジシステム――デバイス達は、それを自らの中に組み込めと言っているのだ。
 だが――エイミィの驚愕させたのはそれだけではない。
「それに、こっちの部品……!」
 そう。こちらも彼女にしてみれば、ある意味カートリッジシステム以上に予想外のものだった。
 これをインテリジェントデバイスの中に組み込む、などという話は聞いたことがない。元来単一で稼動させるシステムだ。
 だが――もしこれを組み込むことが出来れば……
「……マリー」
 気づけば、エイミィの口元には確かな笑みが浮かんでいた。
「技術屋の血、騒がない?」
 そう。もしこれを組み込むことが出来れば――

彼女達は人の身にして、トランスフォーマーすら凌駕することになる。

 

「綺堂主任、こちらへ」
「はい…………?」
 調査員に声をかけられ、防寒着に身を包んだ綺堂さくらは彼の導く方へと向かった。
 彼女は忍の叔母にあたり――アトランティスの一件から古代文明とトランスフォーマーの関係を調べることになった際、その忍から救援要請を受けていた。
 今回のこの北極圏の調査もその延長であり、今自分を誘導しているこの調査員を始め、関わった一般人には全員このことを“忘れて”もらう手はずになっている――彼女達“夜の一族”にはそれが十分に可能なのである。
 ともかく、今は発見されたものの確認が第一だ。さくらは導かれるまま問題の氷壁へと向かう。
「この中に、何か埋まっているようなんです」
 見ると、透明な澄んだ氷の中に何か不透明なものがあるのが見える。
「確かに、何かありそうね……
 掘り出せない?」
「不可能ではありませんが……時間がかかりそうですね」
 尋ねるさくらに調査員が答えると――
〈適合対象、スキャニング〉
 その言葉と同時、氷壁の中から光が放たれ、近くに止めてあった車へと向けられる。
〈適合対象、決定〉
 続いて告げられ、氷壁が突然崩れ始め――

「トランスフォーム!」

 咆哮と共に、それは氷壁を粉砕して飛び出してきた。
 今さっき光を向けられたものと同じタイプの車である。
 突然のことに一同が呆然とする中、それはかまうことなく走り去っていく。
 その拍子に舞い上がった雪が晴れていく中――さくらはポツリとつぶやいていた。
「トランス、フォーマー……!?」

 その光景を、アニマトロスから早々に撤退していたダブルフェイスと仮面の戦士が監視していたとも知らず――


 

(初版:2006/07/16)