「むぅ……」
マキシマスのブリッジで、フォートレスは眉をひそめていた。
はやてを救う方法は本当に“闇の書”の完成しかないのか――手がかりを求めてデータを検索していたところ、不可解な共通点に気づいた。
今までのどの主も――自分達がヴォルケンリッターに加わる以前に仕えていた主も含めて――短命なのだ。
はやてほどではないが、どの主もその世界・その時代の平均寿命に至ることなく死を迎えている。
天寿とも、“闇の書”の力を巡る争いの結果とも考えられるが――全員というのはあまりにもできすぎている。
「どういうことだ……!?」
うめくフォートレスだが――違和感の正体にたどり着くことはできなかった。
「ふぅっ………………」
改札をくぐって外に出て、彼女は荷物を一度足元に下ろすと息をついた。
腰まで伸ばした豊かな金髪。歳は一応成人しているようだが――少なくともそうは見えない。まだ10代でも通るような、無邪気さの垣間見える快活そうな女性である。
「海鳴も久しぶりだなぁ……」
周囲を見回し、思わず感慨深げにつぶやく。
「さて、それじゃ、行こうかな。
今度の休暇は内緒にしてたし、お姉ちゃん達、驚くだろうな……♪」
帰った時の“家族達”の驚きを想像し、思わず笑顔でつぶやくと、彼女はタクシーを呼び止めた。
荷物を後ろのトランクに積んでもらい、乗り込むと運転手に行き先を告げる。
「国守山の――さざなみ女子寮まで!」
第30話
「それは災厄の復活なの?」
「………………くっ!」
一方こちらはファイヤースペース――荒れ狂う炎を前にして、マスターメガトロンは苦々しそうに舌打ちした。
そんなマスターメガトロンの後ろ姿を見て、インチアップはガスケットやランドバレットに尋ねる。
「……おい、そうとうオカンムリじゃないか?」
「ムリねぇよ。目下3連敗中じゃな」
「機嫌も悪くなるって」
「おい、不謹慎だぞ」
と、そんな彼らをたしなめるのはデモリッシャーだ。
だが、それでガスケットがこたえるはずがない。ひょうひょうと答える。
「へっ、次の試合は引退覚悟、ってか?」
「お、うまいこと言うね!」
『シッ、声デケぇよ!』
ノッてくるサンダークラッカーに一同が言うと、
「む………………っ!」
マスターメガトロンににらまれ、彼らはあわてて姿勢を正す。
そんな彼らに何か言うでもなく、マスターメガトロンは手元のマップへと視線を落とした。
「こんなもの……何の役にも立たん!」
せっかく先回りしても何の意味もない。しかも3つめのプラネットフォースはグランドブラックホールの中――苛立ちを隠せず、マスターメガトロンはマップを投げ捨てようと振りかぶり――
「お待ちを」
それを止めたのはスタースクリームだった。
「まだすべてのプラネットフォースが奪われたワケではありません。
残り3つを我らが手にすれば……」
「それができないから、こうして怒っているのだ!
第3のプラネットフォースは、グランドブラックホールに飲み込まれてしまったではないか!」
スタースクリームに言い返すマスターメガトロンだったが、
「いえ。
グランドブラックホールの影響による、宇宙の歪みのデータを最新のものに更新すれば……」
そう告げると、スタースクリームはマップに若干の修正を加え――マップに新たな光点が生まれた。
「こちらに」
「そうか。第3のプラネットフォースは無事だったか!
ならば貴様は裏側に回れ。オレ様は正面から堂々と乗り込んでやるわ!」
「わかりました。
ではパズソーとラナバウトを部下としてお借りします」
「うむ」
スタースクリームの言葉にうなずくと、マスターメガトロンは目標の座標に向けてワープゲートを開き、サンダークラッカー達と共にゲートをくぐっていく。
「さぁて、オレも!」
言って、ノイズメイズもまたその後に続こうとして――ふと、スタースクリームが動きを見せないのに気づいた。
「――って、行かないんで?」
「勝手に行け。
オレはオレの正しいと思うことをする」
「いいんスか?
またシブい顔されますよ」
「あんなヤツのことなどどうでもいい」
告げるパズソーにも、スタースクリームはあっさりとそう答える。
「またまた、そんな恐れ多いことを――」
そんなスタースクリームの言葉に肩をすくめ――ふとノイズメイズは思い直した。
(……って、この自信……何かある……)
そんなノイズメイズにかまわず、スタースクリームはワープゲートを展開。その向こうに見えるのは――
「地球……?
まだ何か用があるんですか?」
「まぁな」
パズソーにそう答えると、スタースクリームはラナバウトと共にゲートをくぐっていく。
「待ってくださいよ、オレも行きますから!」
「あ、オレも行くって!」
そんなスタースクリーム達を追って、ノイズメイズとパズソーもあわててゲートへと飛び込んだ。
一方、なのは達は無事地球のサイバトロン基地へと帰還していた。
サイバトロンへの参入を希望した二人――ファングウルフとスカイリンクスを連れて。
「……どうした? ファングウルフ」
「あ、いや……」
指令室に向かう途中、尋ねるベクタープライムの言葉にファングウルフはしきりに周囲を見回しながら答え――彼に代わってスカイリンクスが尋ねた。
「ここが……お主らの寝ぐらなのか?」
「……まぁ、寝ぐらには違いない、か」
答えて、恭也は肩をすくめて説明を始めた。
「ここは、セイバートロン星出身のサイバトロンの臨時作戦本部だ。
ここで色々な作戦を立てたり、移民トランスフォーマー達の支援、時空管理局との折衝などをしているんだ」
「そ、そうか……」
「しかし、どうも落ち着かぬな……」
「確かに、ジャングル育ちのスカイリンクス達には、少し慣れが必要かしらね」
一応はうなずくものの、戸惑いを隠せないファングウルフとスカイリンクスの言葉にリンディはそう言いながらロングラックへと向き直った。
「ロングラック、二人にこの基地を案内してあげてもらえないかしら?」
「任せてください!」
「ロングラックが行くなら、私達もですね」
「くぅん♪」
うなずくロングラックのとなりで那美と久遠が立候補すると、
「わたし達も行きます!」
「なのはがいくなら、わたしも……」
それを聞いたなのはやフェイトも立候補。アリサやすずかと共にその輪に加わっていき――
「あぁ、ユーノ」
「え………………?」
なのはの肩の上のユーノを、クロノが呼び止めた。
「どけどけぇっ!
モンスターハンター、オートボルト様のお通りだ!」
声を上げながら、氷壁の中から姿を現したトランスフォーマーはビークルモードで雪原を疾走していく。
「もし“ヤツら”の封印も解けていたら、一大事だ!
“ヤツら”を目覚めさせるワケにはいかねぇ!」
そんな彼の前方で、巨大な氷の塊が行く手をふさいでいるが――
「フォースチップ、イグニッション!」
かまうつもりはない。トランスフォーマーは青色のフォースチップをイグニッションし、
「フォース、ミサイル!」
上部に展開されたミサイルポッドからの一斉射撃が氷塊を粉砕した。
彼の名はオートボルト。だが、氷壁の中で眠っていたことからもわかる通り、彼はセイバートロン星から移住してきたトランスフォーマーではない。
彼は――地球のトランスフォーマーだった。
「………………ん?」
オートボルトの使ったフォースチップ――その飛来の軌跡を見ていた者がいた。
先日の脱走のおかげで撮影が長引き、未だアラスカに滞在していたアイリーンとフィアッセである。
「アイリーン、あれ……」
「うん……」
つぶやくフィアッセにうなずき、アイリーンは通信機を取り出し、
「ブロードキャスト、聞こえる?」
「おぅよ。バッチリ聞こえるぜ」
アイリーンに答えるブロードキャストは、現在アラスカの上空を飛行していた。
〈今のフォースチップ、見た?〉
「あぁ」
あっさりとうなずき、ブロードキャストはフォースチップの飛来した先をスキャンし――
「……このエネルギー残滓は……フォースミサイルか?」
〈知ってる相手?〉
「まぁな。かつてのライバル、ってところか……
ごあいさつ、してこようか?」
〈穏便にね〉
「OK!
泥舟に乗ったつもりで、ドーンと任せなさいっ!」
〈ダメじゃないの、泥舟じゃ!〉
「はっはっはっ! 気にするな気にするな!」
アイリーンのツッコミに気にすることもなく、ブロードキャストは飛行ルートを修正した。
だが――オートボルトのイグニッションを目撃していたのは、アイリーン達だけではなかった。
「今のは、地球のフォースチップ……」
「けど、ギャラクシーコンボイ達の仲間やないっぽいで」
つぶやくヘルスクリームのとなりで、ダージガンがオートボルトの姿を追いながら首をかしげる。
その言葉に、ヘルスクリームはしばし考え、指示を下した。
「……ヤツをつけましょう。
何か知っているかもしれないし。
地上のマックスビーやスラストール、それからスタースクリームにも連絡するのよ」
「はいな!」
「ここだ」
そう言ってクロノが足を止めたのは、本局の一角――とあるオフィスの前だった。
その背後に控えているのはユーノとシオン。クロノはユーノだけではなく、シオンにも声をかけていたのだ。
「ここに何の用が?」
「ちょっと、協力を頼みたい人物がいるんだ」
尋ねるユーノに答え、クロノはオフィスに続く扉を開けた。
そこにいたのは二人の少女――顔は瓜二つで、どちらも頭には獣の耳。
「……使い魔……ですか?」
その正体に見当をつけたシオンがつぶやくと、クロノはためらいがちに(というよりしぶしぶ、といった様子で)彼女達に声をかけた。
「やぁ、リーゼロッテ、リーゼアリア。久しぶりだな」
「あーっ! クロ助、久しぶりぃっ!」
その言葉に、少女のひとりがすぐさま反応した。駆け寄ってくるとクロノに抱きつき、満面の笑顔で頬ずりする。
「り、リーゼロッテ……ちょっと、待って……!」
「ん〜〜♪ イヤ♪」
思わず抗議の声を上げるクロノだが、リーゼロッテと呼ばれた少女はかまわずクロノにじゃれついている。
と、もうひとりの少女がシオンとユーノに声をかける。
「そんなところでボケッと立ってるのもアレだし、座らない?
あぁ、あたしはリーゼアリア。向こうはリーゼロッテ。とりあえずアリアとロッテでいいよ。
ギャラクシーコンボイさんと会談した、グレアム提督の使い魔だよ」
「そうですか……よろしく、アリア。
私はシオン・エルトナム・アトラシアといいます。こちらはユーノ・スクライア」
「どうも」
アリアに促され、シオンとユーノはオフィスのソファへと向かう。
「た、助けてぇ〜〜……」
とうとうロッテに押し倒されたクロノを完全に無視して。
「“封印”したところが、何ともなければいいんだが……」
うめいて、目的地へと到着したオートボルトはロボットモードへとトランスフォームし、その場に降り立った。
先日、スタースクリーム達の襲撃でシグナム達が調査し損ねた、あの“地球のへそ”である。
「……よかった……無事みたいだな」
見たところ、特に異変があった様子はない――安堵し、オートボルトはもっとよく確認すべく、中央へと歩を進め――
「――――――っ!?」
気づいた。背後に突然現れた気配から身を隠すように、近くの雪だまりに身を隠す。
そして、わずかに顔を出すと現れた気配の主――スタースクリーム達と合流するサイボーグビースト達の様子をうかがう。
(封印したヤツらと違うな……)
まぁ、向こうもこちらが気づいたことはお見通しだろう――オートボルトは姿を現し、スタースクリーム達に問いかけた。
「お前ら、何者だ!?」
「質問するのはこちらの方だ」
だが、スタースクリームはかまわずそう言い放った。
「地球のプラネットフォースはどこだ?
素直に教えれば、命だけは助けてやる」
「『助けてやる』? 『プラネットフォース』?
何ワケのわからないことを言ってやがる!」
思わず言い返すオートボルトだが――その会話に、ノイズメイズは眉をひそめていた。
(やはり、第3のプラネットフォースは地球に……?
けど、どうしてスタースクリームはそのことを?
それに……だとしたら、マスターメガトロンが向かった先は……?)
だが、そんなノイズメイズの思慮など気にするつもりなどさらさらない。スタースクリームは悠々とオートボルトに告げる。
「知らないのか……ならば用はない。
ここで――死んでもらう!」
告げると同時、スタースクリームはフォースチップをイグニッション。バーテックスブレードをかまえる。
「へっ、お前ら、善玉じゃなさそうだな!
だったらこっちも容赦しないぜ!」
対して、オートボルトもまたスタースクリームに対して戦闘体勢に入った。後方に跳躍して間合いをとり、
「フォースチップ、イグニッション!
フォース、ミサイル!」
スタースクリームに向けてフォースミサイルを放つが、スタースクリームはそれをかわして間合いを詰め――繰り出されたバーテックスブレードを、オートボルトは左手のルーフシールドで受け止める。
「やるな!」
「そっちこそ!」
スタースクリームに答え、オートボルトは愛銃ウィングボウガンでスタースクリームを牽制するが、
「バーテックス、ストーム!」
スタースクリームの放ったバーテックスストームが、オートボルトを吹き飛ばす!
さらに――
『フォースチップ、イグニッション!』
「バウトシューター!」
「アームミサイル!」
「マックスランチャー!」
「スティンガーショット!」
ラナバウトとパズソー、さらにマックスビーやダージガンまでもが参加。スタースクリームを援護し、
「ゲイル、ダガー!」
「ラプターシールド!」
ヘルスクリームとスラストールが斬りかかり、オートボルトは後退するも雪に足を取られ、転倒してしまう。
そして――
「ブラインド、アロー!」
ノイズメイズが、ブラインドアローを振りかぶってオートボルトに襲いかかる!
「死んでもらい、まぁす!」
咆哮と共に、オートボルトへと刃が振り下ろされ――
「させるかぁっ!」
「どわぁっ!?」
咆哮と共に衝撃――真横からの飛び蹴りをまともにくらい、ノイズメイズは雪原に叩きつけられた。
そして、オートボルトの前に着地したのは――
「よう、大丈夫か?」
「ブロードキャスト!?」
こちらへと振り向き、尋ねるブロードキャストに、オートボルトは思わず声を上げる。
「なんでお前がここに!?」
「パートナーが近くにいるんだよ」
「パートナー……?
“彼女”のことか?」
「いや、違う。
あれから何年経ってると思ってやがる――とっくに代変わりしてるよ。
今のパートナーはもっと若い子だぜ」
オートボルトに答えると、ブロードキャストは顔をしかめた。
「とはいえ、ここはちょっとマズいかな……
一旦離脱するぜ、オートボルト」
「おいおい!」
「オレはパートナー連れてきてないし、お前だって新しいパートナー決めてないだろ。
全力でイグニッションできないんじゃヤバいって!」
反論しかけたオートボルトにそう答え、ブロードキャストはスタースクリーム達へと向き直り、
「フォースチップ、イグニッション!」
青色の――地球のフォースチップをイグニッション。背中のチップスロットにフォースチップが飛び込むと同時、両肩に巨大なスピーカーが展開される。
「オレの歌を――じゃなくて。
ソリタリンウェーブ……でもなくて!
サウンド、ボンバー!」
また何やらネタ発言をかましつつ、ブロードキャストがスピーカーから放った衝撃波はスタースクリーム達の足元を直撃、雪を舞い上げその目をくらませる。
「いくぜ!」
「お、おぅっ!」
そのスキにブロードキャストは離脱、オートボルトもその後を追う。
「とにかく、オレ達だけじゃどうにもならねぇ!
お前は“ライブコンボイ”に知らせろ!
オレは力になってくれそうな人を知ってる、そっちに行く!」
「オゥ!」
「………………チッ」
雪塵が収まり、離脱していくオートボルトとブロードキャストをにらみつけ、スタースクリームは舌打ちし、
「ノイズメイズ、パズソー。ヤツを追え。
おそらく何か知っているはずだ」
「イェッサー!」
「了解!」
スタースクリームの指示に、二人はビークルモードにトランスフォーム、その後を追う。
「オレ達は?」
「ついて来い」
ラナバウトに答えると、スタースクリームは“地球のへそ”の中央へと視線を向けた。
「総司令官、準備できました」
「うむ」
指令室――エクシリオンの報告に、ギャラクシーコンボイは中央に据えられたチップスクェアを見つめながらうなずく。
そして、ファングウルフへと向き直り、
「スカイリンクス――アニマトロスのプラネットフォースをセットしてくれ」
「わ、我輩がか!?」
「スピーディアのプラネットフォースは、ニトロコンボイがセットした。
今度は、フレイムコンボイの実兄であるあなたの番だ」
いきなり大役を告げられ、戸惑うスカイリンクスにギャラクシーコンボイが告げると、
「いや……もっと適任なヤツがいる」
そんな彼に、スカイリンクスは苦笑まじりにそう答えた。
その視線の先にいるのは――
「お、オレ達か!?」
「フレイムコンボイを倒すのに、もっとも活躍したのは間違いなくお前とアルクェイドだ。
うってつけではないか」
「そ、そりゃ、そうだけど……」
スカイリンクスの言葉に、アルクェイドはリアクションに困って頬をかく。
どちらも大役に対するプレッシャー、というより照れが大きいようだが――
「がんばって、ライガージャック!」
「アルクェイドさんもファイト!」
そんな二人にエールを送るのはフェイトとなのはだ。
「バシッと決めちゃいなさい!」
「やっぱり、二人がやるべきだよ、これは」
アリサとすずかもそれに加わり――彼女達の言葉にアルクェイドとライガージャックは顔を見合わせ、うなずいた。
そんな前置きを経て、ライガージャックとアルクェイドはプラネットフォースを手にしてチップスクェアの前に進み出た。
「やっぱり……何か起きるよね?」
「たぶんね」
さすがに緊張し、つぶやく舞にとなりでハイブロウがうなずく。
「何が起きるの……?」
「それはわからないさ。
だからこそ、すべてのスキャン装置をONにしてある。異変はすべて記録できるよ」
バックパックが忍に答える前で、ライガージャックとアルクェイドはチップスクェアにプラネットフォースをセットし――光が放たれた。
「来た!」
「この間と、同じ現象!?」
思わず耕介と愛が声を上げると、
「いや……それだけじゃない!」
そこに口をはさんだのはバックパックだった。
「国守山上空に巨大なエネルギー反応――
スペースブリッジ、開きます!」
「何だと!?」
バックパックの報告にギャラクシーコンボイが声を上げると、彼の報告通り、基地上空に展開されたスペースブリッジがモニターに映し出される。
「……スキャン結果、出ました」
「どうやらあのスペースブリッジは、アニマトロスに通じてるようです」
「そうか……」
ノエルとハイブロウの報告にドレッドロックがうなずくと、
「あ、あれ!」
突然、ファリンがチップスクェアを指さして声を上げた。
見ると、チップスクェアから放たれる光が何かの形を作り出している。
人のようにも見えるが――
「トランス、フォーマー……?」
むしろ、人型のロボット――トランスフォーマーに見える。リンディがつぶやくのを聞き、ベクタープライムは思わず声を上げた。
「もしや……プライマスか?」
「本当か? ベクタープライム」
「おそらく……」
聞き返すギャラクシーコンボイにベクタープライムが答えると、チップスクェアから放たれる光がその勢いを強め――
気がつくと、一同は虹色に輝く不思議な空間を漂っていた。
「こ、これは……!?」
「どこなんだ……!?」
突然の浮遊感に戸惑いながら、耕介と志貴がうめくと、
「おそらく、プライマスの意識の中だ」
そう答えたのはやはりベクタープライムだ。
「プラネットフォースが二つ発動したことで、おぼろげながらプライマスの意識が覚醒したのかもしれない。
それが、チップスクェアを介して、我々の意識に直接語りかけているのだろう」
「つまり……一種の集団幻覚?」
「というより、集団テレパシー、ってところでしょうね」
尋ねる秋葉に忍が答えると、
「おい、ホップ、ブリット、バンパー!
一体何してるんだ!?」
突然バックパックが上げた声に振り向くと、問題の3人はさながらスカイダイビングでもしているかのように手をつないで回転している。
と――突然彼らから光が放たれ、それが収まると、静止したホップが口を開いた。
《全テノ……宇宙ハ……ヒトツニ……今シカ……》
「あれは……?」
「プライマスが、彼らの身体を使って、我々に危機を知らせているのだ」
つぶやくフェイトにベクタープライムが答えると、ホップは再び口を開く。
《急グノダ……時間ガ――》
気がつくと、彼らは再び基地の指令室に立っていた。
「今のが……プライマスさんのメッセージ……」
「うむ。
早く何とかしなければならない、ということか……」
つぶやくなのはにギャラクシーコンボイがうなずくと、
〈艦長!〉
突然、エイミィがリンディに通信してきた。
「どうしたの? エイミィ」
〈それが……プラネットフォースの発動に呼応して、地球の北極でまた異変が!〉
「なんだって!?」
エイミィの言葉にニトロコンボイが声を上げると、ギャラクシーコンボイは一同を見回し、告げた。
「行こう、北極へ――この異変を徹底的に調べるんだ。
サイバトロン軍、出動!」
『了解!』
「ふーん、なるほど」
オフィスのソファにそろって腰掛け、アリアはクロノの話を一通り聞いてうなずいた。
そのクロノの顔には一面のキスマーク――帰った後の苦労が予想できるが、フォローしてやるつもりなどユーノにもシオンにもない。
「つまり、“闇の書”についての情報が欲しいんだね?」
「あぁ。
今回の守護騎士達の行動は、過去の記録における彼らの行動に比べてどこか違和感がある。
だから……他の記録からも“闇の書”について追って行きたいんだ」
「まぁ……かわいいクロ助の頼みだから、手伝ってあげたいんだけど……」
「やはり、難しいか……」
「うん……私もロッテも、今抱えてる教練プログラムが大詰めだからね、今抜けるのはちょっと辛いんだ」
納得するクロノに答えるアリアだが、
「だが、その辺りは問題ない」
クロノはあっさりとそう告げた。
「二人に手伝って欲しいのは、単なる資料集めだからね」
「資料集め……?
けど、管理局のデータベースにあった“闇の書”関係のデータはもうアースラに提供済みだよ。他に資料のあるところって言ったら……」
そこまで告げて――アリアは停止した。
そんな彼女にうなずいて、クロノは告げた。
「そうだ。
シオンとユーノと共に、“無限書庫”での調べ物に協力してほしい」
「ここだな……」
“地球のへそ”の中心を見下ろし、スタースクリームは目標の場所を正確に特定してつぶやく。
「……ここからオレの未来が始まる……」
言うと同時に発砲。雪の塊を吹き飛ばすと――そこには巨大な縦穴が口をあけていた。
「栄光への、入り口か……」
「一体何があるんだろうね……」
「それはわからない」
フェイトと二人で収まっているライドスペースでつぶやくなのはに、ギャラクシーコンボイはそう答える。
調査メンバーはドレッドロックと志貴、ライガージャックとアルクェイド、ガードシェルと真雪、そしてスカイリンクスと恭也――他の面々はバックアップチームとして基地に残っている。
「とにかく急ごう。
デストロンやヴォルケンリッターも、この異変には気づいているはずだ」
「そうだね……」
ギャラクシーコンボイの言葉にフェイトがうなずくと、ガードシェルが基地のバックパックに尋ねた。
「バックパック、目標まではどのくらいだ?」
〈そのまま、正面にあと3kmです〉
「だそうだ。
ドレッドロック、注意してくれ!」
「あぁ!」
ガードシェルの言葉に答え、上空を飛ぶドレッドロックはセンサーを全開にして探索するが、強烈な吹雪で視界は悪く、なかなか周囲の様子がわからない。
「こうなると目視だけが頼りか……
志貴、何か見えるか?」
「オレだってこの吹雪じゃ……」
ドレッドロックに答えかけ――それは不意に志貴の視界に飛び込んだ。
一瞬のことですぐに吹雪に阻まれるが――確かに何かが見えた。
「ドレッドロック、このまままっすぐ飛んで!」
「あ、あぁ……」
志貴の言葉に、ドレッドロックは戸惑いながらも直進し――吹雪の向こうにうっすらとそれが見えてきた。
“地球のへそ”、そして――
スタースクリームの発見した縦穴である。
「何だ? この穴……」
「まさか、マスターメガトロンの仕業か?」
「それをこれから確かめるのだろうが」
底も見えない巨大な縦穴を見下ろし、つぶやくライガージャックとガードシェルにスカイリンクスが答える。
「わたし達も手伝おうか?」
「調査くらいなら……」
「やめておけ。
一応防寒着も持ってきてるが、防寒着越しの太い指では、端末の操作なんかできないだろう」
手伝いを申し出たなのはとフェイトを止めるのは恭也だ。
もっとも、
「お兄ちゃんはそもそも操作自体がわからないと思うけど」
と、なのはから反撃をもらってちょっとブルーになったりもしたが。
そんな彼らに苦笑し、ギャラクシーコンボイは気を取り直して口を開いた。
「とにかく突入だ。
ドレッドロックと志貴はここに残り、バックパックとの通信を中継してくれ」
「わかりました」
「あぁ」
ドレッドロックと志貴がうなずくのを確認し、ギャラクシーコンボイは一歩を踏み出し、
「いくぞ!」
『了解!』
「ギャラクシーコンボイ総司令官達が内部に突入した」
「ずいぶんとでっかい穴よねぇ……」
サイバトロン基地で、一同に告げるバックパックのとなりで、アリサはその状況をモニターしながらそうつぶやく。
「どれくらいの深さなんだ?」
「わかりません」
「深度測定器が効かないんです」
尋ねるファストエイドだが、ハイブロウとノエルはそう答えるのみである。
「何かが測定を阻害しているのか、もしくは測定しきれないほど深いのか……」
「おいおい、待てよ。
深度測定器が効かないくらいの深さなんて、ありえるのか?」
「そう、ありえない。
ということは、もうひとつの可能性……」
ロディマスブラーに答えるニトロコンボイの言葉に、舞はモニターへと視線を戻しながらつぶやいた。
「ジャミング、か……」
一方、ギャラクシーコンボイやなのは達は、無事縦穴の底へと降り立っていた。
見ると、その一角には横穴があり、さらに奥へと続いている。
「行ってみよう。
何があるかわからん。注意しろよ」
言って、先頭に立って歩き出すスカイリンクスだが――
「あ痛っ!」
言い出すそばから、天井から垂れ下がる氷柱に頭をぶつけてしまう。
「はははっ、何やってんだよ、スカイリンクス」
そんなスカイリンクスを笑いながら、ライガージャックも奥へと進み――
「どわっ!?」
彼は足元の段差につまずいていた。
〈ってぇ……!〉
〈頭上を気にして自分は足元、か。
言えた義理か? ライガージャック〉
〈うるせぇよ、真雪!〉
「……なぁ、ドレッドロック……
中継役の人選、間違ったと思わないか?」
「むぅ……」
無線から聞こえてくる突入班の会話を聞き、思わず尋ねる志貴にドレッドロックは返事に困り――
「………………ん?」
ふと、こちらに向かってくる雪煙に気づいた。
「何だ……?」
とにかく正体を確認すべく、ドレッドロックは望遠映像で確認し――
〈そ、総司令官!〉
「どうした? ドレッドロック」
あわてた様子で連絡してくるドレッドロックの言葉に、ギャラクシーコンボイが聞き返すが――
〈民間人です!
地球人がこちらに向かってきています!〉
「えぇっ!?」
「なんだって!?」
〈今、映像を送ります!〉
驚くなのはとギャラクシーコンボイに告げ、ドレッドロックは映像を送ってきた。
上空に潜むドレッドロックの眼下で、問題の車は“地球のへそ”の縁で停車した。
そして、運転していた者達が姿を見せ――それを見たなのはと恭也はまともに顔色を変えていた。
その人物に見覚えがあったからだ。
「あ、アイリーンさんに……」
「フィアッセ、だと……!?」
「やっぱり、ここで何かあったんだ……」
“地球のへそ”の縁から中央に口をあけた縦穴を見つめ、アイリーンは思わずつぶやいた。
「フィアッセ、どうする?」
「うーん……
ブロードキャストがいないんじゃ、あの中にはいけないし……」
尋ねるアイリーンの問いに、フィアッセはしばし考え――
「……せめて、すぐ近くまでは行ってみよう」
「とにかく、彼女達がここまで来れるとは思えない――放っておいてもいいだろう。
見つからないように注意してくれ」
〈了解!〉
ギャラクシーコンボイの指示にドレッドロックがうなずき、なのは達は先を急ぐ。
と――ギャラクシーコンボイのセンサーが、この先で急に空間が開けているのをとらえた。
「空洞になっているようだな……」
言って、ギャラクシーコンボイが進もうとすると、
「しばし待たれよ」
「――――――!?
誰だ!?」
突然かけられた声にスカイリンクスが声を上げると、
「ここでござるよ」
言って、彼は氷柱の影から姿を現した。
シックスショットと――防寒着に身を包み、以前もしていた狐の仮面で素顔を隠した彼のパートナーである。
「お前は、シックスショット!?」
思わずギャラクシーコンボイが声を上げ――
「それに……ポワトリンさん!?」
「その呼び方はやめて!」
同じく驚き、以前名乗った偽名を口にしたなのはの言葉にパートナーは思わず制止の声を上げる。
いろいろと聞きたいことはある。だが、今は調査が先決だ。ギャラクシーコンボイは気を取り直してシックスショットに尋ねる。
「どうしてお前達がここに?」
「拙者達も、プラネットフォース発動の影響を独自に調査していたのでござる。
そして、ここに目をつけていたのでござるが、前来た時にはなかった巨大な縦穴があったので……」
「その縦穴を調査してここに、ということか……」
答えるシックスショットにスカイリンクスが納得すると、今度は恭也がパートナーに尋ねた。
「それで、この奥には何が?」
「えっと……それは、見てもらった方が早いかも……」
その言葉に首をかしげ、なのは達はシックスショットと共に奥へと進み――
「こ、これは……!?」
目の前に開けた地下空洞の様子に、ギャラクシーコンボイは思わずうめいた。
それは異様な光景だった――無数の球体が地下空洞の壁沿いに並べられ、中央には円筒形のオブジェが据えられている。
「何よ? ここは……」
「わからん。
だが、調べれば何かわかるだろう」
アルクェイドに答え、ギャラクシーコンボイは一同に指示を出した。
「各自、データを収集して基地に送るんだ」
『了解!』
「シックスショット、それにパートナーのキミも手伝ってくれ」
「かまわぬでござるよ」
「うん」
「まるで、卵みたいだけど……」
「こんなところに卵を産む動物なんかいないのだ」
基地のメインモニターで映像を見て、つぶやく耕介に美緒が答えるが、
「ですが、『卵』というのはあながち間違った表現ではないかもしれません」
そう告げるのは、送られてきたデータを分析しているホップである。
「これは、生命体用のカプセルとそれを封印している制御ユニットです」
ホップがそう告げると、今度はノエルが一同に告げた。
「それから、カプセルの内部の生命反応からは、サイバトロンのみなさんと同じスパークのエネルギー波形が検出されています」
その言葉に、一同は思わず顔を見合わせる。
スパークと同じエネルギー波形を持つ生命反応。それはつまり、中に封印されているのは――
「トランスフォーマーってこと!?」
地下空洞でも同じ結論に達していた。意外な事実を前に、なのはが思わず声を上げる。
「けど、どうしてトランスフォーマーを封印したカプセルがこんなに……!?」
「ったく、ワケわかんねぇよ……」
だが、物の正体がわかったところで新たな謎が浮上してきただけだ。フェイトもライガージャックも首をかしげるしかない。
「これから、どうしたものか……」
対処に困り、ギャラクシーコンボイがつぶやき――声が響いた。
「どうするべきか、教えてやろう」
『――――――っ!?』
驚き、一同は声のしてきた方向――中央のユニットの上へと視線を向け――そこには、悠然と佇むスタースクリームとラナバウト、そしてサイボーグビースト達の姿があった。
そして――
「こうするのさ!」
言うなり、ギャラクシーコンボイ達へと発砲する!
一方、上空のドレッドロックもその騒ぎに気づいていた。
「総司令官、何かあったんですか!?」
〈スタースクリームが現れた!〉
「何ですって!?
すぐに私も!」
その言葉に、あわててドレッドロックは急降下しようとするが――
〈ダメだ!〉
それを止めたのは恭也だった。
「お前が中に入ると基地との連絡が途絶える!
それに、今突入すればフィアッセ達に見られてしまう!」
言って、スカイリンクスから降りた恭也はラナバウトの拳をかわし、逆にカウンターの一撃を叩き込む――が、運悪くそこは装甲の上だった。いともたやすく弾かれてしまう。
「ドレッドロックと志貴くんはそこで待機!
いざとなったら、フィアッセ達を!」
〈わ、わかった!〉
恭也の言葉にうなずくドレッドロックだが、
「他人の心配を、している場合!?」
「マックス、ラジャー!」
そんな恭也にヘルスクリームとマックスビーが襲いかかり――
「そうはさせん!」
そこへスカイリンクスが割って入り、スカイアックスでヘルスクリーム達を弾き返す!
「トランスフォーム!」
一方、他の面々はスタースクリームとの交戦に入っていた。咆哮し、ガードシェルはビークルモードにトランスフォームし、
「いっ、けぇっ!」
真雪の咆哮と同時にスラストールとダージガンをはね飛ばし、一直線にスタースクリームへと突っ込む!
だが、スタースクリームもそんな力任せの突進と真っ向から付き合うつもりはなかった。あっさりとガードシェルの突進をかわし、
「てぇいっ!」
「このぉっ!」
「甘い!」
左右から突っ込んできたライガージャックとアルクェイドを、バーテックスブレードで弾き飛ばす!
「シックスショット!」
「御意!」
そんなスタースクリームに対し、パートナーの呼びかけにシックスショットはうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!
シックス、ブレイド!』
咆哮と共にイグニッション。シックスブレイドをかまえる。
そして、斬りかかってくるスタースクリームの斬撃をさばくとシックスブレイドを固定アームから分離、逆手に持ち替え――
「はぁっ!」
気合と共に、スタースクリームへと防御の上から連撃を叩き込む!
その数――4。
そして、それもまた、彼にとってはよく知る技だった――ラナバウトのことも一瞬忘れ、恭也は思わず声を上げる。
「あれは――!?
まさか、薙旋まで!?」
「ぐぅ……っ!」
ともかく、シックスショットの薙旋(?)はガードの上からとはいえ、スタースクリームにまともに叩きつけられた。勢いに推され、スタースクリームは地下空洞の中央近くまで押し戻される。
戦況が仕切り直され、ギャラクシーコンボイとシックスショットがかまえるのを前に、スタースクリームは――
「……フンッ」
余裕の笑みを浮かべた。
「興ざめ、だな。
もう少し、おもしろい状況にしてやろう」
そう言うと、スタースクリームは訝るなのは達にかまわず制御ユニットへと向き直り、
「封印されし古の者どもよ……今その永き眠りより目覚め、新たなる王に付き従うのだ!」
「――――――っ!
スタースクリーム、ダメ!」
その言葉に、彼の真意に気づいたフェイトが声を上げるが――遅かった。スタースクリームの放ったビームが、制御ユニットを吹き飛ばす!
とたん――それは始まった。
無数のカプセルを構成している物質が一斉に霧散し始め、中に閉じ込められていた者達が解き放たれ始めたのだ。
「な、何だ、こいつら!?」
思わずライガージャックが声を上げると、スタースクリームがその疑問に答えた。
「紹介しよう。
かつてこの地球に住んでいた、デストロンの仲間達だ。
私も驚いたよ――まさかこんなところで出会えるとはな」
そう告げる間にも、地球デストロン達は次々にその姿を現していく。
「そんな……!?」
「これが全部……デストロンだっていうのか……!?」
「たかが地球人を脅したくらいでこんなところに閉じ込められて……
かわいそうに、なぁ?」
うめくフェイトと真雪にスタースクリームが答え、そんな彼の芝居がかった口調に地球デストロン達は一斉に咆哮した。
「あ、あれが……全部、トランスフォーマーだっていうの……!?」
その映像はサイバトロン基地にも――そしてさざなみ寮の一室に設けられた“闇の書”事件捜査本部にも届けられていた。モニターの向こうで次々に姿を現す地球デストロン達を前に、リンディは思わず声を上げ――
「ち、ちょっと待ってください!」
ふと気づいて、エイミィはある画像データを呼び出した。
地球の伝説獣やモンスターの想像図などの資料画像である。
「やっぱり……
ドラゴン、ビックフット、モスマン、狼男……みんないる!」
「じゃあ、地球の伝説上のモンスター達は、みんな彼らがモチーフになって……!?」
「おそらく、間違いないと思われます!」
尋ねるリンディにエイミィが答えると、そこへサイバトロン基地から通信が入った。
〈こちらファストエイド!
緊急事態につき、我々も出ます! そちらから、引き続きオペレートを頼みます!〉
「了解!」
エイミィがそう答えた、その時――突然、玄関のチャイムが鳴った。
北極の事態は気になるが、かといってここで無視して怪しまれてもマズい。リンディはこの場をエイミィに任せて応対に出ることにした。
「どなたですか?」
言って、玄関の戸を開けて――そこには、先程海鳴駅にその姿を見せていた女性が立っていた。
「……どちら様でしょうか?」
見覚えのない女性の訪問に、リンディは思わず彼女に尋ね――そんな彼女に女性は答えた。
「えっと……私、仁村知佳って言います。
ここに住んでる、仁村真雪の妹なんですけど……」
その言葉に、リンディは思わず目を丸くした。
「真雪さんの……妹……?」
「行け! 本能に生きる者どもよ!
私のために、再び外界で暴れ回れ!」
スタースクリームのその言葉に、地球デストロン達は一斉に歓声を上げた。思い思いに出口へと向かう。
「こいつらを解き放てば、お前達もプラネットフォースどころではあるまい」
「くっ………………!」
スタースクリームの言葉にギャラクシーコンボイがうめき――
「そうはさせないでござる!」
パートナーと共にその前に立ちふさがったのはシックスショットである。
「ここでお主達に出て行かれては、せっかくトランスフォーマーのことを人間達から隠蔽してきた拙者達の努力が水の泡でござる!」
「悪いけど、ここでおとなしくしていて!」
言って、シックスショットがシックスブレイドを、パートナーも自らの小太刀をかまえるが、
「ジャマをするな!」
言って、ドラゴン型の地球デストロンが二人へと襲いかかる!
「スナップドラゴン、トランスフォーム!」
そして――咆哮と共にトランスフォームし、スナップドラゴンと名乗ったそのトランスフォーマーはシックスショットを力任せに殴り倒す!
「シックスショット!」
「おっと、お嬢ちゃんの相手はオレだ!」
援護に向かおうとするパートナーだが、その前にはゴリラ型のトランスフォーマーが立ちふさがる。
「エイプフェイス、トランスフォーム!」
そして、彼も――エイプフェイスもまたロボットモードにトランスフォーム。パートナーに向けて殴りかかる!
「く………………っ!」
なんとかそれをかわし、シックスショットの元に向かうパートナーだが――
「オレもいるぜ!」
「――――――っ!?」
立ちふさがったスナップドラゴンが、パートナーを弾き飛ばす!
「きゃあっ!」
「大丈夫か!?」
ガードには成功したものの、大きく弾き飛ばされた彼女へと恭也はあわてて駆け寄り――
「――――――っ!?」
絶句した。
地面に叩きつけられた衝撃で仮面が外れている。
そして、気を失っているシックスショットのパートナー、その素顔を彼は知っていた。
彼女は――
「……美由希……!?」
「えぇっ!?」
恭也のもらしたつぶやきに、なのはが思わず声を上げ――
「さて、仕上げといくか」
そんな彼女達にかまわず、スタースクリームは全身の火器を展開し――天井に向けて斉射する!
そして、その攻撃によって崩れた天井の氷が、一斉になのは達へと降り注ぐ!
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
「ダメ、なのは!」
あわてて助けに向かおうと外に出かけたなのはをフェイトが止め、そんな彼女やギャラクシーコンボイ達にも氷の塊が降り注ぎ――!
「え………………?」
夕食を食べる手を止めて、ヴィータは不意に顔を上げた。
「………………?
どうしたん?」
はやてが尋ねるが、ヴィータはかまわず席を立ち、ベランダから庭に出る。
何かわからない――だが、とてもイヤな予感がする。
自然と、その名が口をついて出ていた。
「……高町……?」
「な、何!? こいつら!?」
突然縦穴の中から飛び出してきた無数のトランスフォーマー達――地球デストロンを目の当たりにして、アイリーンが思わず声を上げる。
「この子達も……トランスフォーマーなの……!?」
そのとなりでフィアッセもまたつぶやき――
「何をしているんだ!」
そんな二人の下へ、ドレッドロックがロボットモードとなって降り立った。
「ここは危険だ。早く避難を――」
「どこへだ?」
「――――――っ!?」
突然志貴の言葉をさえぎった声に驚き、ドレッドロックが振り向き――そんな彼らを、スタースクリームが殴り倒す!
そして、スタースクリームはフィアッセへと向き直り、
「またこの場で会うとはな……
貴様とは、奇妙な縁で結ばれていると見える」
「アンタ……フィアッセをどうするつもりよ!?」
「うるさい!」
割り込んできたアイリーンを払いのけると、スタースクリームはフィアッセへと手を伸ばし――
〈みんな、大変!〉
総員出撃し、北極に向かうニトロコンボイ達の元に、エイミィは焦りもあらわに通信してきた。
「どうした? エイミィ」
尋ねるニトロコンボイに、エイミィは動揺したまま答えた。
〈ギャラクシーコンボイや、なのはちゃん達が……!〉
「何……?
ギャラクシーコンボイ達に、何かあったのか!?」
「天の啓示か……
まさか、地球デストロンとこうも簡単に出会えるとはな……」
スナップドラゴンやエイプフェイスを始めとする、地球デストロンの前に降り立ち、ラナバウトを従えたスタースクリームは感慨深げにつぶやいた。
「やはり、時代はオレに対しての追い風か……
これからはオレの時代――新しい秩序の時代が生まれるのだ!」
言って、拳を天高く突き上げて一同を鼓舞するスタースクリーム。その胸のライドスペースには――
意識を失った、フィアッセの姿があった。
「まったく、フィアッセは……!」
思わずため息をつき、エリス・マクガーレンは舌打ちした。
毎度のように撮影を抜け出すフィアッセの行動にも困ったものだ――アイリーンが一緒とはいえ、やはり心配だ。
しかも、いくら連絡しようと返事がない。もしや――
「フィアッセの身に、何か……?」
不吉な予感にとらわれ、エリスがつぶやいた、その時――突然、彼女が頭上からのスポットライトに照らし出された。
何事かと上空を見上げ――そこに見えた存在を確認したエリスは、思わずその名をつぶやいていた。
「ぶ、ブロードキャスト……!?」
「ここだ……
今度こそ、プラネットフォースを……!」
「うむ」
マップに示された惑星を正面にとらえ、つぶやくデモリッシャーにマスターメガトロンはうなずいた。
「サイバトロンも来てないみたいだし!」
「やったね! 先回り大成功!」
「今夜はパーティーだぜ!」
インチアップやランドバレット、ガスケットもまた、目前の目標達成を前に大はしゃぎで――
「………………あれ?」
そんな中、マップへと視線を向けたサンダークラッカーは違和感に気づいた。
スピーディアやアニマトロスの時とは、プラネットフォースを示す光点の輝き方がどこか違う。
「あのー、マスターメガトロン様、それって、変じゃないですか?」
「どれどれ……?」
「こっ、こら、デモリッシャー!」
だが、のぞき込んできたデモリッシャーに脇へと押しのけられてしまう。
「何々? 見せて?」
「こら、押すなって!」
「わぁっ!?」
同じように、のぞき込もうとしたランドバレットをガスケットが押し返し――
その瞬間、マップが光を放った。
光はあっという間にマスターメガトロンやデモリッシャー、ガスケット達をも飲み込んでいく――無事なのは輪の外へと弾き飛ばされたサンダークラッカーとランドバレットの二人だけだ。
「一体何が……!?」
状況が把握できず、マスターメガトロンがうめき――
〈ここからはオレが引き受ける。
アンタはそこで遊んでいるがいい〉
そう告げる声は、マップに映し出されたスタースクリームによるものだった。
「スタースクリーム!?
どういうつもりだ!?」
〈こういうつもりさ〉
尋ねるマスターメガトロンにスタースクリームが答え、光は漆黒のエネルギー球へとその姿を変えた。
スタースクリームが偽マップに仕込んでいた最後のワナ――あらゆるものを外界と隔絶してしまう封印球である。
「お、おいっ! ガスケット! マスターメガトロン様!
出てきてくれよぉっ!」
あわてて難を逃れたランドバレットが封印球に飛びつくが、彼のパワーで思い切り殴りつけても封印球はビクともしない。
と――
「どけ! ランドバレット!」
言って、サンダークラッカーが左手の砲をかまえ、
「フォースチップ、イグニッション!
サンダー、ヘル!」
放たれた閃光が封印球へと襲いかかり――跳ね返される!
「何でぇっ!?」
思わず声を上げ、かわそうとするサンダークラッカーだが――間に合わない。まともに直撃を受け、吹っ飛ばされる!
「出すんだ、スタースクリーム!」
〈何をやってもムダだ〉
告げるマスターメガトロンだが、スタースクリームの口調は余裕そのものだ。
〈さっきも言ったぞ――「そこで遊んでいるがいい」とな〉
「おのれぇっ!」
その言葉に、激昂したマスターメガトロンは偽マップを封印球の壁に叩きつけた。
「許さん……! 裏切りは絶対に許さん……!
スタースクリィィィィィムッ!」
マスターメガトロンの怒りの咆哮が、漆黒の宇宙に響き渡った。
(初版:2006/07/23)