みなさん、初めまして。
 弓塚さつきと申します。
 いろいろあって死んじゃって、“死徒”として生き返っちゃってから早数ヶ月。“死徒”としての生活にもすっかり慣れた今日この頃です。
 はい? なんでわたしがいきなりモノローグやってるか、ですか?
 聞かないで下さい。私だってワケがわからないんです。
 なにしろ――

 

空一面に、見たことのないロボットが飛んでるんですから。

 

 


 

第31話
「5人目の勇者ライブコンボイさんなの」

 


 

 

「じゃあ、頼んだよ」
 ユーノとシオンを二人のリーゼに預け、クロノはオフィスを後にした。
 そして、重要な話の場であったためにオフにしていた無線のスイッチを入れ――とたん、けたたましく呼び出し音が響いた。
「こちらクロノ」
〈あ、クロノくん!?〉
 通信の相手はエイミィだった。
〈やっとつながった……!
 話がついたんだと思うけど……ゴメン! シオンと二人ですぐに戻って!〉
「シオンと……?」
 その言葉に眉をひそめ――クロノは気づいた。
 ユーノと違い、シオンは白兵戦要員でもあると同時にファストエイドのパートナーだ。
 その彼女を自分共々必要とする事態。それは――
「……地球で、何かあったのか?」

 スタースクリームの解放した地球デストロンは、地球人から姿を隠すことをやめ――全世界に地球デストロン達を大々的に展開。上空を我が物顔でのし歩いていた。
 現在彼がいるのは、地球デストロン達が合体して完成した母艦の上――プラネットフォースや“ナビゲータ”であるフェイトの力を借りてリンクアップを可能としたギャラクシーコンボイ達と違い、地球のトランスフォーマーはある程度自力での合体が可能なようだ。
(地球デストロン達ならこの星の地理にも明るい。必ずプラネットフォースを見つけ出すはずだ。
 その上こちらには“人質”もいる……私の勝ちだ。ギャラクシーコンボイ、マスターメガトロン……)

〈この異常事態に対し、各都市には非常事態宣言が発令されました。
 住民の皆さんは、最寄の避難所へと避難してください……〉

 テレビでは、先ほどから住民の避難を呼びかける放送が繰り返されている。
 そんな中、ここ翠屋でも避難の準備は進んでいたが――
「どうだ!?」
「ダメ……
 恭也はともかく、なのはもフェイトちゃんも、美由希も連絡がつかなくて……」
 尋ねる士郎に、受話器を下ろした桃子は力なく答える。
「まぁ、なのは達は恭也が一緒のはずだし、美由希も御神の剣士だ。
 晶も探しに出てくれているし……心配はないだろう」
「けど……!」
 士郎の言葉に桃子がうつむいた、その時――突然外が騒がしくなった。
 あわてて外に出てみると――そこには1機の赤い戦闘機が滞空していた。
「何だ、こいつ……!?」
 思わず士郎が声を上げると、突然戦闘機のキャノピーが開いた。
 そこから顔を見せたのは――
「士郎!」
 エリスだった。

「くそっ!」
 うめいて、ドレッドロックは渾身の力で氷壁を殴りつけるが、スタースクリームによって崩壊した氷はビクともしない。
「この先で、総司令官やなのは達が生き埋めになっているというのに!」
「このままじゃ、いくらトランスフォーマーでも危ないよ!」
 うめくドレッドロックに答えるのは、彼のライドスペースに保護されたアイリーンである。
 そして、そのとなりで志貴もうなずき、
「それに、なのはちゃん達も心配だ。早く何とかしないと……!」
「そうだな」
 志貴の言葉にうなずき、ドレッドロックは再び氷壁へと向き直り、
「こうなったら……!
 ドレッドガン――」
『わぁぁぁぁぁっ!』
 ドレッドガンで氷壁を爆砕しようとしたドレッドロックを、志貴とアイリーンはあわてて止める。
「ナニ考えてるんだ!
 こんなところでそんなのブッ放したら、また崩壊するだろ!」
「少しは落ち着きなさいよ!」
「す、すまない……」
 二人の言葉に、ドレッドロックはそう謝り、
「ならば!
 フォースチップ――」
「同じだ同じぃっ!」
「ってゆーかさらにひどい!」
 次の手段はよりにもよってドレッドキャノン――あわてて志貴とアイリーンが制止する。
 と――
「ドレッドロック!」
 突然の声に振り向くと、そこにはエクシリオンを先頭に基地に残っていたメンバーが勢ぞろいしている。
「助かった。
 みんな、手伝ってくれ! 総司令官を救出するんだ!」
『了解!』

「……やっぱりダメか……」
 何度かけてもつながらない――携帯電話を閉じ、知佳はため息をついた。
「お姉さんと連絡は?」
「ダメです……
 お兄ちゃんや、美緒ちゃん達とも……」
 尋ねるリンディだが、答える知佳の表情は暗い。
 無論、リンディは真雪や耕介達の状況は把握している――だが、真雪と連絡がつかない以上、うかつにトランスフォーマーのことを知らせていいものか、その点がためらわれる。
 どうするべきか――リンディが思案に暮れていると、知佳は窓から外を見てつぶやいた。
「どうして、いきなりあんな大勢のトランスフォーマーが……?」
「………………はい?」
 その一言に、リンディは目を丸くした。
「知佳さん……
 もしかして、トランスフォーマーのことを知ってるんですか?」

「どないなっとるんや? 一体……」
 一方、八神家でははやてが不安げに空を跋扈ばっこする地球デストロン達を見上げていた。
 しかし、見上げていたところで何か変わるワケではない。はやては振り向き、シグナム達に尋ねる。
「本当に、避難せんでもえぇの?」
「はい。おそらく避難は必要ないでしょう。
 彼らの素性はわかりませんが――その目的には心当たりがあります。
 少なくとも、地球人側から手を出さない限り、危険はないはずです」
「ご命令とあらば、排除しますが」
「うーん……理由はどうあれ、戦うのはあかんと思うんやけど……」
 シグナムの答えとザフィーラの提言、二人の言葉にはやてはしばし考え、
「……話し合いで、解決できへんかな?」
「首謀者が我々の予想した通りの相手ならば……説得は不可能だと思われます」
 シグナムの言う“首謀者”――もちろんスタースクリームのことである。
 マスターメガトロンの仕業だとは思えない――自ら率先して動くタイプの彼がこうして部下を大々的に動かすとは考え辛いからだ。
「そっか……
 どうしてもやらなあかんのなら……」
 ともかく、その言葉にはやては思考をめぐらせ、
「……叩くのは頭やな」
 ポツリとつぶやいたその言葉に、シグナム達は思わず顔を見合わせた。
 はやてが戦いを前提として考えていることもそうだが――あまりにもその判断が的確だったためだ。
 そもそも数では敵――地球デストロンに分がある。その状況下で勝利を収めるには敵の大将を電光石火で大将を討つのが一番だ。
 それにこの方法なら地球デストロン側の被害を最小限に抑えることができる――争いを嫌うはやての願いに合わせることもできる。
 驚きを隠しきれないシグナム達だが、はやてはそんな彼女達にかまわず指示を下した。
「シャマル、被害が出ぇへんように海の上にマキシマスを出して。相手の雑兵さん達を引きつけるんや。
 で、その間にシグナム達で頭と接触。説得して、それでもあかんようならしゃーない……」
 そして――はやては告げた。
 迷いのない口調で――
「やっつけて」

「あ、あと一息なのに……!」
「この寒さだ。いつ凍りついてもおかしくない……
 むしろ、今までもったことを幸運と思うべきなんだろうが……」
 関節部が凍りつき、ロクの動かなくなった拳を握り締め、うめくロディマスブラーにファストエイドが答える。
 拳で地道に氷壁を砕いていたドレッドロック達だが――あと一歩というところで限界を迎えようとしていた。
「けど、なのはちゃん達がまだ中にいるのだ!
 あきらめるワケにはいかないのだ!」
「わかっているが……オレの牙もこのザマでは……!」
 なんとか一同を鼓舞しようとする美緒にファングウルフが答えると、
「……待て。
 私が何とかしよう」
 そう告げたのはドレッドロックだった。
「また吹き飛ばすつもりじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことはもうしないから……とにかく任せてくれ。
 トランスフォーム!」
 アイリーンの言葉にうめくように答え、ドレッドロックはビークルモードにトランスフォームすると尾翼側を氷壁に向け、
「いくぞ!」
 全エンジンをフル回転。ジェット噴射で氷を溶かしていく!
 そして、氷は徐々にその中央を穿たれていき――
「助かったのか……
 すまない、みんな」
 言って、最初に姿を現したのはギャラクシーコンボイだった。その後にライガージャックやガードシェル、スカイリンクスも姿を見せる。
「総司令官!」
 歓声を上げ、駆け寄るバックパックだが――
「ひどい目にあったでござる……」
「――って、シックスショット!?」
「待て、バックパック」
 現れたシックスショットに対し、思わず警戒するバックパックをなだめ、ギャラクシーコンボイは告げた。
「彼は敵ではない。
 その証拠に――彼のパートナーはなのはの義姉だ」
「なのはの!?」
「って、もしかしてミユキチ!?」
 思わずロディマスブラーと美緒が声を上げると、
「そうだ」
 答えたのは、スカイリンクスに守られた恭也だった――当の美由希は彼に支えられている。
「……ん…………」
 と、ちょうどその美由希が目を覚ました。うっすらと目を開け、
「ここは……?」
「気がついたか、美由希」
「恭ちゃん……?」
 恭也の呼びかけに弱々しいながらも反応し――美由希は気絶する直前のことを思い出した。
「そうだ! スタースクリームは!?」
「すでに逃げられた後だ。
 それより……」
 答え、自分をにらみつける恭也に、美由希は思わず身をすくめ――
「事情を、話してくれないか?」
 恭也に代わり、ギャラクシーコンボイが美由希に尋ねた。
 そして、続いてシックスショットへと向き直り、ライドスペースのフェイトが告げる。
「キミも、もう自分の素性を明かしてくれてもいいんじゃないかな?」
「うんうん!」
「そうでござるな……
 では、まずは拙者のことから話すべきでござろうな」
 フェイトと、となりでうなずくなのはの様子にそうつぶやくと、シックスショットは改めて姿勢を正し――

 次の瞬間、なのは達は自分達の耳を疑った。
 それほどまでに、シックスショットの語ったことは衝撃的だったのだ。

 

「拙者はミッドチルダ・サイバトロン軍、公儀隠密局・第三席副長補佐、隠密戦士シックスショットでござる」

 

「こ、これは……!?」
 とにかく一刻も早く状況をつかむため、本局のモニター施設で地球の様子を見て、クロノは思わずうめいた。
「一体、何が目的なんでしょうか……?」
「攻撃もしないで、まるで何かを探してるみたいだけど……」
 となりのシオンと共につぶやき、クロノは考え込み――
「プラネットフォース……」
 ポツリとつぶやいたのはユーノだった。
「何だって……?
 じゃあ、地球にプラネットフォースがあるっていうのか?」
「確証はないけど……
 だけど、チップスクェアが2回も反応したんだ。可能性は高い」
 聞き返すクロノに答えるユーノに、ロッテとアリアは複雑な視線を向けていた。
 まるで、今ここで鋭い洞察力を見せたユーノを警戒するかのように――
 と、その時――突然クロノの通信機が再び呼び出し音を立てた。
「こちらクロノ。
 エイミィか?」
 クロノが応答するが――
〈よかった……つながったみたいだね〉
「――――――っ!?」
 その通信の相手に、クロノは目を丸くした。
「な、なんであなたが……!?」
〈そのことの説明は後でするよ〉
 驚くクロノの言葉に、通信してきた女性は冷静にそう答える。
〈事情は把握してるよね?
 私達も今近くの次元世界にいるんだが……すまないが、現場に向かうのなら同行させてもらいたい〉
「同行、って……
 けどボク達は転送ポートでの移動になるはずだし――」
 思わずそう答えるクロノだったが――女性は答えた。
〈おや?
 時期的に考えて……“もうそろそろ”だと思うんだけど〉
「………………?」
 その言葉に、クロノは眉をひそめ――
「……あぁぁぁぁぁっ!」
 その意味を理解すると同時――思わず声を上げていた。

「じ、じゃあ、ミッドチルダにもトランスフォーマーがいたってこと!?」
「その通りでござる。
 かつてのスペースブリッジ計画の際、セイバートロン星を飛び立った移民船団は、異世界にも移民を行っていたのでござる。
 そして、地球と同じように人類が発展してきたことから、拙者達の祖先も人間達から隠れて暮らすようになったのでござるよ」
 思わず聞き返すフェイトに、シックスショットはそう答える。
「し、知らなかった……」
「地球に移住したトランスフォーマー達がそうしているように、拙者達もまた、ミッドチルダの人間社会に溶け込み、彼らに気づかれぬよう過ごしている――お主達が知らぬのはムリのないことでござる。
 とはいえ、完全に人間とのつながりを絶っているワケではござらん。拙者達の隠遁のために時空管理局にも情報操作に協力してもらっているでござる。もっとも、それについてもごく一部の者達――かなりの地位の高官達と専門の部署の者達しか拙者達のことを知らぬでござるが。
 まぁ……独自の調査で拙者達の存在に気づいていた、リンディ提督のような例外もいることはいるのでござるがな」
「リンディさんも知ってたんですか?」
「いやいや、だからといって彼女を責めるのは筋違いでござるよ」
 今度はなのはにそう答え、シックスショットは肩をすくめる。
「何しろ、現在では生活の痕跡をほとんど残さずに拙者達はすごしているでござるからな――リンディ提督は、現在ではすでによそに移り住んだと考えていたようでござる。
 まさか現在も自分達のとなりに隠れ住んでいるとは、思っていないようでござったよ」
「そうなのか……
 だが、なぜそのキミ達が地球に?」
「直接的な原因は、やはりというか、デストロンでござる」
 尋ねるベクタープライムに、シックスショットはそう答えた。
「サイバトロンの地球移住だけなら、大した問題ではなかった。
 しかし――マスターメガトロンまでもが現れたとなると話は別でござる。勝手気ままなあ奴らが我が物顔でのし歩けば、移民トランスフォーマー達ばかりではなく、先程皆が遭遇した地球デストロンのような、この地球に元来住み着いているトランスフォーマー達のことまでもが地球人達に知られてしまうことになる。
 それ故、拙者と兄者――シックスナイト殿は両軍に対して牽制することでお互いの動きを自重させる命を受け、この星にやってきたのでござる。
 まぁ、その後の状況の推移によって、地球のトランスフォーマー達の現況についての調査まで命じられてしまったのは、思わぬ副産物でござったがな」
「そういうことか……
 それで、何度もオレ達を助けるように現れていながら、オレ達に合流できずにいたのか」
 シックスショットの話に耕介が納得すると、
「なら……もうひとつ聞きたい」
 口を開いたのは恭也だ。美由希へと視線を向けながら尋ねる。
「美由希のことを『師匠』と呼んでいるのは、一体……?」
「あぁ、そのことでござるか」
「し、シックスショット!?」
 思わず制止しようとする美由希だが――シックスショットは告げた。
「師匠は拙者の師匠でござる故」
 それを聞いた直後の恭也は素早かった。逃げ出そうとした美由希の背後に回り込み、そのこめかみに拳を添えるとグリグリと力を入れて抉る。
 俗に言う『ウメボシ』である。
「お前は、いつから弟子を取れるような身分になったんだ? ん?」
「い、痛い痛いっ、恭ちゃん痛いぃっ!」
「ま、待つでござる、師匠の兄君!」
 静かな迫力でウメボシを続ける恭也と悲鳴を上げる美由希、二人の間にあわてて割って入ったのはやはりシックスショットだった。
「師匠は何も拙者に教えてはいないでござる!
 拙者が勝手に『師匠』として慕い、師匠の技を真似て学ばせていただいただけでござる!」
「そうなのか……?」
 シックスショットの言葉に、恭也は手を止めてしばし考え――
「つまりお前は、御神を見様見真似で習得した相手に、あっさり抜かれたというワケか……!」
「い、痛い痛いっ、恭ちゃんヤッパリ痛いぃっ!」
「あわわ、またでござるかぁっ!」
 そう。シックスショットの“射抜”も“薙旋”も――

 美由希のそれより上手かった。

「あうぅぅぅぅぅ……」
「これにこりたら、もっと鍛錬するんだな」
 頭を抱えて涙目の美由希に告げ、ようやく彼女を解放した恭也は手をパンパンと払いながらそう告げる。
「ま、まぁ、だいたいの事情はわかった」
 そんな場の空気をなんとか変えようというのか、ギャラクシーコンボイは気を取り直して一同に告げ、
「とにかく、今は現状の打開が最優先だ。なんとしてもスタースクリームを止めるぞ!」
『了解!』

 その頃、オートボルトはひとり荒野を疾走していた。
 北極を離れた、アルプスの山中である。
「もうすぐだ……一気に行くぜ!」
 言って、オートボルトは一気に加速。目的の場所に到着するなりロボットモードとなって立ち止まる。
「さて、と……」
 永い時の中で若干風化し、前来た時とは少しばかり様子の変わっている岩壁を見回し、目標の目印を探す。
 ――見つけた。
 岩壁の一角に唐突に突き出た岩の塊。
 だが、オートボルトが触れるとそれは光を放ち――岩壁が動いた。開かれ、スライドし――上へと続く階段になる。
 隠し階段だ。先程の突起はこの仕掛けを作動させるためのスイッチだったのである。
 ともかく、オートボルトは急いでその階段を駆け上がり、
「ライブコンボイ!
 オレだ! オートボルトだ!」
 大声で名を呼ぶが、そこに目的の人物の姿はない。
 見ると、階段と同時に姿を現したほこらの中はもぬけの空だ。出かけているのだろうか……?
「こんな時に……!」
 思わずうめくオートボルトだが――そんな彼の背後に、バタバタと騒がしい物音が近づいてきた。
 振り向くと、そこに現れたのは1機のヘリコプター。
 とはいえ、パズソーでも、増してやハイブロウでもない。彼らとはまったくデザインの違う、レスキュー用のヘリだ。
 そして――それこそがオートボルトの探していた存在だった。
「ライブコンボイ!」
「ボクを迎えに来てくれたんだね」
 声を上げるオートボルトの言葉に、そのレスキューヘリ――ライブコンボイはそう答える。
「ライブコンボイ、大変なことになってるんだ!」
「あぁ、知ってる。
 ボクも対応するために、パートナーを迎えに行ってきたのさ」
「パートナーを?
 じゃあ、ライブコンボイはもうパートナーを見つけてたのか?」
〈まぁ、ね〉
 そう答えたのは、ライブコンボイのライドスペースからの通信だ。おそらくこの通信の主がライブコンボイのパートナーなのだろう。
「紹介したいが、状況が状況だ。後にしよう」
 オートボルトにそう告げると、ライブコンボイは肩をすくめるかのように機首を下げ、
「何しろ、キミは余計なお客さんも連れてきたようだからね……」
 言うなり、ライブコンボイは機首を左に向け――先端の機銃で近くの岩を吹き飛ばす!
 そこにいたのは――ノイズメイズとパズソー。オートボルトの後を追跡していたのだ。
「あぁっ!
 貴様ら、さっきの!」
「チッ、バレてたか……!」
「逃げるぜ!」
 声を上げるオートボルトを前に、ノイズメイズとパズソーは舌打ちしながらトランスフォーム。ビークルモードとなって逃走する。
 だが――
「ボクが相手をしよう」
 その前には、ライブコンボイはあっさりと立ちふさがる。
 そんな彼から逃走すべく、ノイズメイズ達は眼下の峡谷へと降下。後を追うライブコンボイを振り切ろうとする。
 だが、ライブコンボイも負けてはいない。巧みな飛行で二人の後を離れない。
「キミ達は何者だ!?」
「そんなこと、いちいち答えてられるか!」
「こっちはいただくものさえいただければいいんだ!」
 尋ねるライブコンボイだが――ノイズメイズ達は取り付く島もない。
「『いただくもの』……?」
 眉をひそめるライブコンボイだが――それにはオートボルトからの通信が答えた。
〈連中、『地球のプラネットフォースをよこせ』って言ってたぜ〉
「なるほどねぇ……」
 それでだいたいの事情は呑み込めた。ライブコンボイはノイズメイズ達を追い、告げる。
「残念だったな。
 キミ達の探しているものがあるのはここじゃない!」
「何!?
 どこにあるんだ!?」
「言うと思っているのか!?
 これでも持って、帰るがいい!
 いくぞ!」
「あぁ!」
 声を上げるライブコンボイにパートナーが答え、
『フォースチップ、イグニッション!』
 告げると同時、金縁の地球のプラネットフォースがローター基部のチップスロットに飛び込み、前方に二門の砲塔が展開される。
『ホーミング、ミサイル!』
 そのまま、彼らはミサイルを放ち――放たれた一撃がノイズメイズ達を直撃する!
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
「飛びます、飛びまぁす!」
 爆風と衝撃に後押しされ、ノイズメイズ達は空の彼方へと吹き飛ばされ――
 ――キランッ。
 星になった。

 太平洋上――スタースクリームによって解放された地球デストロン達は、ここでもプラネットフォースの探索を行っていた。
 だが、そんな彼らの目の前で、突然巨大な魔法陣が展開される。
 何事かと地球デストロン達が目を見張り――次の瞬間、魔法陣の向こう側から放たれた無数の閃光が地球デストロン達を薙ぎ払う。
 そして、魔法陣の中からそれは出現した。
 戦艦モードとなった、ヴォルケンリッターの誇る時空間航行母艦“マキシマス”である。
 その艦橋で――フォートレスは立ち上がり、告げた。
「全砲門解放――
 攻撃、開始!」

(プラネットフォースはまだ見つからないのか……)
 未だ入らぬプラネットフォース発見の報告に、スタースクリームは胸中でつぶやきため息をつく。
 正直なところ、今は時間との勝負、という部分が大きい――マスターメガトロンをいつまでも閉じ込めておけるとは思えないし、あまり時間をかければ地球人だって黙ってはいまい。いくら能力でこちらが上回っていようと、ここは相手のホームグラウンドなのだ。物量にモノを言わせられれば、能力差に頼った優位などあっという間にひっくり返る。
 すなわち、スタースクリームが絶対的なアドバンテージを得るためには、プラネットフォースを手に入れることが何よりも急務なのだ。
 と――
「おい、旦那」
 声をかけてきたのはスナップドラゴンだった。
「仲間から連絡があった。太平洋上に、ドデカい空中戦艦が現れたってよ」
「空中戦艦……?」
 その言葉に、スタースクリームは思わず眉をひそめた。
 少なくとも地球人のものではあるまい。管理局のアースラが修理を終えて出向いてきたとも考えるが、事態を知ってから動いたにしては早すぎる。
 考えられるのは――
(……ヴォルケンリッターの母艦、か……)
「スナップドラゴン、エイプフェイス。
 適当に部隊を見繕い、迎撃に向かえ」
「了解だぜ!」
「暴れてやろうじゃんか!」
 スタースクリームの言葉にうなずき、スナップドラゴンとエイプフェイスは別の地球デストロン艦に跳び移ると離脱していく。
 そして、スタースクリームは振り向き、そこにいた3体の地球デストロンに告げた。
「ワイルダー、ブルホーン、キャンサー。
 お前達にも隊を預ける。各地に散ってプラネットフォースを探せ」
「了解!」
「任せんしゃい!」
「はいはーい♪」
 スタースクリームの言葉に順に答えるのは狼モンスターのワイルダー、バッファローモンスターのブルホーン、カニモンスターのキャンサー。3人もまた別々に散っていく。
 それを無言で見送るスタースクリームだったが――そんな地球デストロンの集団の中に飛び込んできた者達がいた。
「ジンライ!」
「アトラス!」
「スターセイバー!」
『スーパーモード、トランスフォーム!』
 咆哮と共に、スーパーモードへとトランスフォームしたスターセイバー達が、それぞれのパートナーと共にスタースクリームの前に着地する。
「そこまでだ、スタースクリーム!」
「あまり大きな顔はしない方がいいぞ」
「はやてに不安な思いさせやがって……覚悟しろ!」
 それぞれに武器をかまえ、シグナム、スターセイバー、ヴィータが告げるが――そんな彼らに、地球デストロン達が総攻撃を開始する!
 はやての言葉通り、かまわずスタースクリームを叩くのが最上なのだが、敵の弾幕が濃すぎて近づけない――やむなく散開し、各個に迎撃するヴォルケンリッターだが、やはり数に押されて劣勢に立たされてしまう。
「くそっ、これじゃどうしようもない!」
「そうだ。抵抗するだけムダだ」
 思わずうめくヴィータだが、そんな彼女にスタースクリームは告げた。
「ギャラクシーコンボイも、パートナーのなのはとかいう小娘ももういない……
 次はお前達の番だ!」
「え――――――っ!?」
 その言葉に、ヴィータは思わず動きを止めた。
(高町が……もう、いない……!?)
「スキありやで!」
 そんな彼女に、背後からスラストールが襲いかかるが――
「――――――っ!」
「ぶべっ!?」
 ヴィータは無言で、その顔面をグラーフアイゼンで殴り飛ばす!
 そして――スタースクリームに対し、無言で尋ねた。
「………………スタースクリーム。
 もう一度聞かせろ――高町をどうした?」
「氷の下敷きさ。
 たとえそれ自体をしのいだとしても、今頃は氷の下――凍死は免れまい」
「………………」
 スタースクリームの言葉に、ヴィータは無言でグラーフアイゼンをかまえ、
「グラーフアイゼン。
 カートリッジ、ロード」
〈Explosion!〉
 静かに告げたヴィータの言葉に、グラーフアイゼンはカートリッジをロード。その先端がラケーテンフォームへと変形する。
 ただし、ロケット噴射は起こらない――そのままヴィータはグラーフアイゼンを振りかぶり、
「グラーフアイゼン……
 フォースチップ、イグニッション!」
〈Force-tip, Ignition!〉
 とたん――彼女の元に純白のフォースチップが飛来した。ロードしたばかりのカートリッジを排莢したグラーフアイゼンのカートリッジ装填そうてん部に飛び込み、その力を何倍にも引き上げる!
 そして、ようやくロケット噴射を始めたグラーフアイゼンと共に、ヴィータは渾身の力で跳躍、スタースクリームへと突っ込み――
「させるか!」
 その前にラナバウトが立ちふさがるが――かまわない!
「ラケーテン、バンカァァァァァッ!」
 咆哮と共に叩きつけられるグラーフアイゼンをラナバウトが受け止め――次の瞬間、強烈な衝撃がラナバウトの身体を突き抜けた。
 グラーフアイゼンがガードを固めたラナバウトに叩きつけられた瞬間、鋭利な突起となっていたグラーフアイゼンのスパイクがまるでロケットのように打ち出され、ラナバウトをガードもろとも打ち抜いたのだ。
 それこそ、まさに杭打ち機パイルバンカーのように。
 倒れるラナバウトにかまうことなく、ヴィータはグラーフアイゼンをスタースクリームに向け、
「高町がそう簡単にやられるもんか……!
 アイツは、お前なんかには絶対負けない!」
 叫んで、スタースクリームへと跳躍し、ヴィータはグラーフアイゼンを振るい――
「ほざくな!」
 対して、スタースクリームはバーテックスブレードでヴィータを弾き返す。
「なめんな!」
 それでも、ヴィータは再び跳躍、カートリッジをロードし――
「ラケーテン、ハンマァァァァァッ!」
「バーテックス、ブレード!」

 ヴィータのグラーフアイゼンとスタースクリームのバーテックスブレードが激突し――スタースクリームは体重に物を言わせてヴィータを弾き飛ばす!
「何をしている! さっさと片づけろ!」
 スタースクリームの言葉に、地球デストロン達が弾き飛ばされたヴィータへと殺到し――

 

『フォースチップ、イグニッション!』

咆哮したその声は――

『ギャラクシーキャノン、フルバースト!』

解き放った閃光で地球デストロンを薙ぎ払ったのは――!

 

 間違いない――ヴィータは頭上を見上げ、
「ギャラクシーコンボイ!
 それに――」

 その名を呼んだ。

 

「高町!」

 

「やっぱり、守護騎士のみんなも来てたね……」
「この星に彼女達の主がいるんだ。その主を守るためにも、出てくるのは当然だ」
 スタースクリーム達と対峙するスターセイバー達を見て、つぶやくフェイトにギャラクシーコンボイが同意する。
 そんな中――なのははこちらを見上げるヴィータを――彼女だけを見ていた。
「……わたしのこと……呼んでくれたね……」
 本人の自覚はないかもしれない――だが、こちらに対して少しずつ心を開いてくれるヴィータに対し、正直に喜びを覚える。
 ただし――
(……下の名前を覚えるのは放棄したみたいだけど)
 その一点だけは、少し根に持ったりもしていたが。

「無事かい? ザフィーラ」
「すまない。
 借りが出来たな……」
 アルフに助け起こしてもらい、ザフィーラは素直に謝辞を述べる。
 一方、シグナムに迫った地球デストロンの上に飛び乗り、別の地球デストロンとの同士討ちを誘ったのは――
「お前は!?」
「少なくとも、今は仲間だ」
 声を上げるシグナムに答え、恭也は小太刀をサヤに収め、

 ――御神流、奥義之陸・薙旋!

 迫るダージガンに、薙旋を叩き込む!
 そして、他のサイバトロンの面々もまた、各々に地球デストロンとの交戦に入る。
 だが、彼らの参戦をもってしても、状況は好転したとは言いがたかった。敵の数はやはり圧倒的で、なかなか主導権を握れない――

 そんな中、戦場に新たに飛び込んできた者達がいた。
「トランス、フォーム!」
 ロボットモードへとトランスフォームし、オートボルトは地球デストロンの背の上を飛び回り、母艦の上まで跳び上がる。
 そして――
「ライブコンボイ、トランスフォーム!」
 同時に、ライブコンボイもまたロボットモードへトランスフォーム。オートボルトと共にスタースクリームと対峙する。
「やっぱりお前か!」
「とんでもないことをしてくれたね……」
「なんだ、あの時逃げ出したヤツか……」
 だが、オートボルトとライブコンボイを前にしても、スタースクリームは余裕だ。オートボルトを見てつぶやき、
「ひとりでは怖くて、助っ人を呼んできたのか」
「なんだと!?」
 スタースクリームの言葉に激昂するオートボルトだが、
「うるさい!」
 そんな彼に向け、スタースクリームは腹部の機銃で先制攻撃をしかけ――
「危ない!」
 彼らをかばい、攻撃を受けたのはギャラクシーコンボイだった。
「あんた、大丈夫か!?」
「しっかりしてくれ!」
 さすがにダメージは軽くはなく、ヒザをつくギャラクシーコンボイにオートボルトとライブコンボイが駆け寄るが、
「だ、大丈夫だ……
 なのは、フェイト、キミ達は?」
「大丈夫ですぅ〜〜」
「わたしも……」
「――――――っ!?」
 二人の――正確には目を回しているなのはの――答えに驚いたのは、ライブコンボイのライドスペースにいる彼のパートナーだった。
 思わず、口をついてその名をつぶやく。
「……なのは、ちゃん……!?」
「え……?
 わたしを……知ってるんですか……?」
 思わずなのはがつぶやくと、彼はライブコンボイから降りてその姿を見せた。
「オレだよ、オレ!
 恭也くんの知り合い(耕介さん経由)の!」
 一瞬誰なのかわからなかったが――その言葉とその姿に、なのはの記憶の中である人物が浮かび上がる。
 そして、その人物と目の前の人物が同一であることに思考が至り――
「……えぇぇぇぇぇっ!?」
 気づけば、なのはは思わず声を上げていた。
「あ、相川さん!?」
 驚くなのはの声に、彼は――私立風芽丘OB、現パティシエ見習いの相川真一郎は笑顔でうなずいた。

 一方、戦況は未だ不利なまま――圧倒的な敵の数に、サイバトロンもヴォルケンリッターも苦戦を強いられていた。
 自然と共闘の形となるが、それでも足りない。結果彼らの侵攻を食い止めることもできず、ただ翻弄されるしかない。
「くそっ、これじゃあ消耗戦だ!」
「何か手はないのか……!?」
 上空で地球デストロンと交戦し、ドレッドロックと志貴がうめくと、
「――――――っ!
 後ろ!」
『――――――っ!?』
 アイリーンの声に振り向く二人へと、マックスビーが襲いかかり――

「バレルレプリカ――フルパワー!」

 咆哮と同時、放たれた閃光がマックスビーを吹き飛ばす!
 今の一撃は――
「シオン!」
 声を上げ、見上げた志貴の視線の先には、クロノと共にフローターフィールドの上に立つシオンの姿。
 そして、クロノの周囲には無数の魔力刃――
「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!」
 クロノが叫び、振り下ろしたS2Uに従い、魔力刃は一斉に地球デストロンへと降り注ぐ!
「クロノ……シオン!?」
「管理局の本局に行っていたんじゃ……!?」
 突然の援軍に、ニトロコンボイと耕介が思わずつぶやき――気づいた。
 中継ポートで転送してきてもらったにしては、彼らの登場はあまりにも都合がよすぎる。ということは――
「――まさか!?」
 声を上げると同時、耕介の頭上――戦場のさらに上の上空に巨大な魔法陣が展開される。
 そして、その中からそれはゆっくりと姿を現した。

 時空管理局所属・巡航L級8番艦――アースラ。

「アースラ……!?」
「直ったのか……!?」
 上空に姿を見せたアースラを見上げ、すずかと共にエクシリオンがつぶやく。
 二人にとっては初めてすずかがエクシリオンを修理した思い出の艦だ。その帰還に感慨深いものを感じる。
 だが――注視していた二人は気づいた。
 その甲板の上に、意外な人物がいる。彼は――
「シックスナイト!?
 それに――」
「美沙斗さん!?」

「やれやれ……やっとご到着か」
「いいじゃないか。少なくとも、私達だけで来るよりは早く着けた」
 ようやく戦場に駆けつけることが出来た――肩をすくめるシックスナイトに、そのとなりで美沙斗は地球デストロンをにらみつけながら答える。
 そう――地球デストロン解放の報せを受け、駆けつけようとしたクロノを制止した通信は美沙斗からのものだった。アースラの修理完了を知らせ、同行の許可を求めたのだ。
「では、行こうか。
 空中戦になる。私のライドスペースに」
「あぁ」
 シックスナイトの言葉に美沙斗がうなずき、彼女をライドスペースに乗せたシックスナイトは空中に身を躍らせる。
 すぐさま地球デストロン達が殺到するが――
『フォースチップ、イグニッション!』
 シックスナイトは素早くイグニッション。両手にかまえたナイトキャリヴァーの分離形態“ナイトソード”で地球デストロンを薙ぎ払う!
 アースラやシックスナイトの突然の出現に地球デストロンが混乱する中、クロノとシオンはギャラクシーコンボイ達の元へと急降下し、
「なのは、フェイト!
 これを!」
 言って、クロノがなのは達に差し出したのは――

「チッ、どいつもこいつも……!」
 一方、スタースクリームはシックスショットや美由希と交戦していた。二人の斬撃をバーテックスブレードでさばきつつ、思った以上にかき回されている戦場を見て舌打ちする。
 そして、バーテックスストームで二人を後退させ――気づいた。
 なのはとフェイトがギャラクシーコンボイから降りている。
 確か二人は今戦う力を失っていたはず。それなのに、なぜ降りて――
「――まさか!?」

「いくよ、フェイトちゃん」
「うん」
 告げるなのはにうなずき、フェイトは彼女と共に戦場に立った。
 その手に握りしめたそれをゆっくりと頭上にかざす。
 ようやく帰ってきた、かけがえのない相棒を。
 そして――叫ぶ。
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」

『セェット、アァップ!』

 そして、なのはとフェイトの身体はあふれ出す魔力の奔流に導かれて浮かび上がり、バリアジャケットを――装着しなかった。
 なぜかレイジングハートもバルディッシュも起動プロセスを開始しない。
 その代わり――それがデバイスの中から現れた。
 あふれ出した光が形を作った、桃色の翼を持った飛竜と、金色の鳳凰――
「こ、これって……!?」
「今までと、違う……!?」
 突然の事態に戸惑い、なのはとフェイトがつぶやくと、
〈二人とも、落ち着いて聞いてね!〉
 そんな二人に告げたのは――
『エイミィ(さん)!?』

「レイジングハートとバルディッシュは、新しいシステムを積んでるの! しかも二つ!」
 そう告げるエイミィは、アースラの艦長席にいた。
 リンディが知佳の相手をし、クロノもまた出撃しているため、臨時の艦長代理を務めているのだ。
「その子達が望んだの!
 自分の意志で、自分の想いで!」
 そう――レイジングハートとバルディッシュは自らその力を望んだ。
 自らもまた強くなることを望んだのだ。
 それは――
「なのはちゃんを、フェイトちゃんを――
 二人の、そしてその子達も大好きな、すべての人達を守るために!」
 だから――エイミィはマリーと共にそのシステムの組み込みに踏み切った。
 彼らの想いを、確かな形にするために。

〈呼んであげて!
 その子達の、新しい名前を!〉
 その言葉に、なのはとフェイトは再び頭上にかざした自分達のデバイスを見上げた。
 確認など――必要ない。
 確信と共に、その名を口にした。

 

 

「レイジングハート・ブローディア!」

「バルディッシュ・リリィ!」

 

 

 その瞬間、光があふれた。
 そして、二人の身体に新たなバリアジャケットが装着される。
 以前よりも強固で、以前よりも力に満ち溢れる新たなバリアジャケットが。
 同時に、起動し、主の手に収まったレイジングハート、バルディッシュにもまた、新たな装備が加わっている。
 レイジングハートにはマガジン式の、バルディッシュにはリボルバー式のカートリッジシステムが加わっているのだ。
 だが――真の変化はそこから始まった。
 竜と鳳凰が無数の光の塊となり、なのはとフェイトの身にまとわりついていく。
 その光が消えた時、二人の身にはさらなるバリアジャケットが――いや、“鎧”が装着されていた。
 なのはの鎧には竜の、フェイトの鎧には鳳凰の身体の各部を思わせる意匠が施されている。
 そして、なのはの右肩、フェイトの左肩に位置する、それぞれの獣の額に輝くサイバトロンマーク。
 その鎧はバリアジャケットではなく――

 パワードデバイスだった。

「バカな……!?」
「パワードデバイスを同時装備、だと……!?」
 目の前で新たな力を解き放ったなのはとフェイトを前に、シグナムとザフィーラが驚愕を隠し切れずにつぶやく。
 ムリもない。インテリジェントデバイスとパワードデバイスでは魔法の術式はともかく、基本システムが違いすぎる――それを単一のシステムに統合して運用するなど、狂気の沙汰ではない。
 もし、それが可能な条件があるとすれば――
「デバイス同士の、合意による共存……!」

 レイジングハートとバルディッシュは最初、守護騎士達に対抗するためにカートリッジシステムを望んだ。
 だが――次々にもたらされる、なのは達の戦いの軌跡を知らされるにつれ、彼らは考えた。
 「それだけではダメだ」と。
 リンクアップ。そしてそれと対等に渡り合うフレイムコンボイ――激化する戦いについていくには、カートリッジシステムの導入だけでは足りなかった。

 主のみを守るだけならばカートリッジシステムだけでも十分だ。
 だが――自らの主達には守りたい者があまりにも多すぎる。彼女達の望みに応えるためには、それだけでは足りなかった。
 そして何より――
 彼らもまた、ギャラクシーコンボイ達を守りたかった。
 だからこそ、さらなる力を求めた。
 自らの中に、もうひとつの意志を招き入れてでも――強くなりたかった。
 そしてその想いに――新たな意志達は応えてくれた。

「こ、これは……!?」
「パワード、デバイス……!?」
 自らの身に――バリアジャケットのさらに上に装着されたその鎧に驚き、なのはとフェイトが声を上げると、
《やっほ、なの姉♪》
《お初にお目にかかります》
 そんな二人に呼びかける者達がいた。
「だ、誰!?」
《私?
 私はね、あなたに装着されてるパワードデバイスだよ。
 名前は“プリムラ”。よろしくね、なの姉♪》
《私は“ジンジャー”。
 以後よろしくお願いします》
 声を上げるなのはに答える形でデバイス達が答えると、
「新たなデバイスか……」
「……はい」
 告げるスタースクリームに答え、なのはは新たな姿となったレイジングハートをかまえる。
 レイジングハート・エクセリオン――インテリジェント/パワード統合型デバイス“レイジングハート・ブローディア”、その一翼を担う、新たな友を。
「では……その力、見せてもらおうか!」
「望むところ!」
 スタースクリームの言葉に、なのはは彼と共に上空へと飛び立つ。
 そして――
「なら、あなたの相手は私ね」
「みたいですね」
 静かにそう答え、フェイトはヘルスクリームへと向き直った。
 “バルディッシュ・リリィ”の持つ“牙”――バルディッシュ・アサルトと共に。

「どうした、どうした!
 新たなデバイスの力はそんなものか!」
 バーテックスブレードを振るってなのはを追い回しながら、スタースクリームは余裕で告げる。
 実際、なのはは先ほどから防戦一方。応戦するどころか牽制の攻撃すら放っていない。
 だが――それには理由があった。
「そんなこと言ったって、まだ慣らしもしてないんだもん!
 簡単に扱えるワケじゃないんだよ、この子達!」
 なのは自身の魔力とカートリッジシステムによって得られる莫大な出力。
 以前よりもバリエーションが増し、高度になった魔力制御系。
 そして何より、初めての使用となるパワードデバイス――
 イメージとして伝えられたレイジングハート・ブローディアとプリムラのスペックは、AAAランクに属するなのはですら持て余すものだった。
 だが、エイミィ達はあえてこのシステムを組み込んだ。
 自分なら扱える。そう信じてくれている。
 なら――それに応える!
「いくよ――レイジングハート! プリムラ!」
〈All right.〉
《オーライ♪》
 二人の答えにうなずくと、なのははレイジングハートをかまえ、
「レイジングハート、カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
 なのはの指示に従い、レイジングハートがマガジン内のカートリッジを1発、シリンダーに送り込んで炸裂させる。
「プリムラ、出力調整はお願い!」
《お任せ!》
 プリムラの言葉に従い、なのははスタースクリームへと向き直り、
「ブリッツ、シューター!」
〈Blitz shooter!〉
 なのはのかまえたレイジングハートから、無数の魔力弾が放たれる!
「そんなもの!」
 対して、落ち着いて迎撃しようとするスタースクリームだったが、
《なの姉、ここ狙って!
 目標着弾3発!》
「うん!」
 その動きはすでにプリムラによって分析されていた。背後の推進部にスキを見つけ、なのはの脳裏にイメージとして転送する。
 しかも理想的な弾道まで計算されている――なのははそれに従い魔力弾のいくつかをコントロールし、スタースクリームに向ける。
「くっ!」
 そして、他の魔力弾の迎撃に追われているスタースクリームの刃をかいくぐり――まず1発!
「何――――――っ!?」
 だが、さすがにスタースクリームも只者ではない。すぐに対応し、続けて迫る第2撃、第3撃を叩き落し、しかもなのはに向けてカウンターのナル光線キャノンまで放つ!
 しかし――
《スケイルフェザー!》
 プリムラが叫ぶと同時、背中の翼からウロコ型の羽、そのすべてが射出された。
 なのはの魔力を中継され、桃色に輝くそれらはなのはの眼前に収束、防壁となってスタースクリームのナル光線を防ぐ。
 これがプリムラとジンジャーに装備された、管理局でも未だ投入例のない新型装備“フェザー”シリーズ。なのは達を守る盾であり――
「いっけぇっ!」
 武器でもある。なのはの号令でスケイルフェザーは一斉にスタースクリームに襲いかかる!
「何――――――っ!?」
 攻撃までこなすとは思っていなかった――驚愕するスタースクリームだが、それでも弾幕を張ってセンサーをかく乱、襲い来るスケイルフェザーをかわして距離を取る。
「さすがに、そう簡単に当たっちゃくれないね……!」
〈Don't mind, master.〉
《まだまだこれから!》
 つぶやくなのはにレイジングハートとプリムラが告げ、彼女らは再びスタースクリームと対峙した。

「ほらほらほらぁっ!」
 咆哮し、ヘルスクリームは素早く間合いを詰めてゲイルダガーを振るうが、フェイトもそう簡単に当たるつもりはない。後方に跳躍しその斬撃をかわす。
《まぁ、当たっても耐えられますけど》
「油断しちゃダメだよ、ジンジャー」
 余裕で告げるジンジャーに答え、フェイトはバルディッシュを振りかぶり、
「バルディッシュ、カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
 フェイトの指示で、バルディッシュはシリンダーを回転。カートリッジをロードする。
「ファルコン、ランサー!」
〈Lancer, set!〉
 そして、フェイトの言葉にバルディッシュは周囲に無数の光球を作り出し――
「Shoot!」
〈Falcon lancer, shoot!〉
 合図と同時、それらの光球は光のクサビとなってヘルスクリームに襲いかかる!
「ちぃっ!」
 当然、その射線から退避するヘルスクリームだが――
「――逃がさない!」
 フェイトが告げる同時、ファルコンランサーは一斉に向きを変えてヘルスクリームを追う。
(操作誘導型――!?)
 スタースクリームから与えられたデータによれば、それは彼女よりもなのはの得意分野のはず――予想外の攻撃に、ヘルスクリームは驚きながらも急反転。小回りを利かせてファルコンランサーをかわす。
「あなた、正気!?
 もうひとりの小娘ならともかく――あなたがそれだけのランサーをコントロールできるものですか!」
 不慣れな誘導弾の操作だ。すぐに限界が来る――そう確信し、告げるヘルスクリームだが、
《残念でした》
 そう告げたのはジンジャーだった。
《そのための――私なんですよ》
 次の瞬間――着地したヘルスクリームの足が弾かれた。
 死角からすべり込んできた、ランサーのひとつによって。
 そして気づく。ランサーを操作していたのは彼女ではないことに。
 フェイトはあくまで標的を指定していただけ。真にランサーをを操作していたのは――
(デバイスの方!)
 読み違いに舌打ちするヘルスクリームへ――残りのランサーが降り注いだ。

「総司令官!」
 スタースクリームやラナバウト、そしてサイボーグビースト――主力がそろってその場を離れたことで、ギャラクシーコンボイ達の周囲は一時的に戦闘の空白地帯となった――傷ついたギャラクシーコンボイの元に、シオンと合流したファストエイドが駆けつける。
 そして、二人は手早くギャラクシーコンボイを診断。命に別状がないと知り安堵するが――かと言って見逃せるダメージでもない。すぐに上空のドレッドロックに告げる。
「ドレッドロック!」
「わかっている!」
 状況は理解している。戦場が混乱している今しかチャンスはないことも――ファストエイドに答え、ドレッドロックはすぐさま一同に指示を下した。
「総員撤退だ! 一度退き、体勢を立て直す!
 エイミィ!」
「はいはい!」
 ドレッドロックの言葉に、エイミィは「皆まで言うな」とばかりに答え、クルーに対して指示を下した。
「アースラ、降下! みんなを拾い次第時空間に転送!」
「む、ムチャだ!」
 そう声を上げるのはエイミィのオペレータ仲間のアレックスだ。
「あの中に突っ込んでみんなを回収なんて!
 またアースラがボロボロにされるぞ!」
「それでもやるの!」
 それでも、エイミィはキッパリと言い切った。
「なのはちゃん達を見殺しにするよりマシでしょ!?
 いいからさっさと降下して!」

「カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
 なのはの言葉に、レイジングハートは再びカートリッジをロードし、新砲撃形態“バスターモード”へと変形する。
 間髪入れずその先端をスタースクリームに向け、
「バスターレイ、Shoot!」
〈Baster ray!〉
 放たれた強烈な閃光が、ガードを固めたスタースクリームのバーテックスブレードに叩きつけられる!
「ぐ………………っ! やってくれる!」
 なんとかその一撃をしのぎ、スタースクリームがうめき――
〈なのは、撤退だ!〉
 そこへ恭也が通信してきた。
〈このまま続けても消耗するだけだ!
 一度仕切り直すぞ!〉
《恭也兄の言う通りだね。
 ここは下がろう、なの姉》
「う、うん……!」
「逃がすか!」
 恭也とプリムラの言葉にうなずくなのはへと、スタースクリームが襲いかかり――
「させっかよ!」
 それを阻んだのはヴィータだった。グラーフアイゼンを振るいスタースクリームを牽制、後退させる。
「下がるんならとっとと下がれ! ジャマだろうが!」
 スタースクリームの挙動を見逃すまいとにらみつけ、告げるヴィータだったが――
「ううん!」
 その言葉に首を振り、なのははヴィータの手を取り、
「それなら一緒に!
 ヴォルケンリッターの他の人達にも伝えて!」
「お、おいっ!?
 なんでそうなる!? 敵同士だろ!?」
「いーの♪」
「いや、よくないだろ!
 ってゆーかなんで笑顔!?」
 その言葉に言い返すヴィータだが――なのははかまわない。ヴィータを捕まえたままアースラへと飛んだ。

〈……なんか、ヴィータが連れてかれたんだが……〉
「ま、まぁ……あの会話の流れなら、逮捕だとかそういうことにはなるまいが……」
 敵同士の会話と言うにはあまりにも緊張感に欠けたなのは達の会話はしっかりとモニターしていた。告げるゴッドジンライの思念通話にシグナムは困惑しながら答える。
「向こうにしても戦力は欲しいところだろう。悪いようにはなるまい」
「そうだな」
 対して、冷静に分析するスターセイバーの言葉にうなずくと、シグナムは改めて一同に指示を下した。
「我らも退くぞ。
 管理局と合流して撤退する。
 スターセイバーはシャマルとフォートレスに連絡。彼女達の元にも敵が向かっているはずだ」
「わかった」
 シグナムの言葉にうなずき、スターセイバーも彼女と共にアースラへと向かう。
「させへんで!」
「マックス、ラジャー!」
 そんな彼らを追うべく、スラストールとマックスビーが跳躍するが――
「行かせない!」
 宣言し、フェイトが彼らの前に立ちふさがる。
「ジャマすんな、小娘!」
 スラストールが叫び、マックスビーと共に攻撃をしかけるが――
「ジンジャー、“フェザー”を!」
《“プラズマフェザー”、展開します!》
 フェイトの指示にジンジャーが答え、なのはの時と同様に翼の羽が射出され――フェイトの魔力を受け、雷光をまとったそれがスラストール達の攻撃を反射、攻撃を撃ち返されたスラストール達は直撃を受けて眼下に叩き落される。
 そして、一同を回収したアースラは転送魔法を起動。展開した魔法陣の中へと消えていった。

「ったく、そんなもん向けんな!
 こっちだってそれどころじゃないんだ。何もしねぇよ!」
 格納庫に降り立つなり、突きつけられたのは多数のストレージデバイス――ロコツに警戒するアースラの保安部を前に、ヴィータはムッとしてそう答える。
 だが、当然のことながら彼らの警戒は消えず――
「よせ。彼女達に害意はない」
 そう告げたのはクロノだった。さすがに執務官の指示となれば無視するワケにはいかず、保安部の面々はすごすごと引き下がる。
「すまない」
「いいよ。今はヴィータの言う通りボクらが敵対していられる状況じゃない。
 キミ達との決着は、この騒動が終わってからちゃんとつけるさ」
 シグナムにそう答え、クロノは肩をすくめてみせる。
 ついこの間までは規則を遵守するマジメな執務官として通っていたはずなのに――なのは達と接する内、自分もずいぶんとアバウトになったものだと思わず苦笑する。
 一方、ギャラクシーコンボイは離脱して落ち着いたこともあり、ファストエイドから本格的に手当てを受けていた。
「すまない。
 ボク達を助けるために……」
「私は大丈夫だ。心配ない」
 そんな彼に謝罪するライブコンボイだが、ギャラクシーコンボイはファストエイドの手当てを受けながらそう答える。
「ところで……キミ達は何者なんだ?」
 とにかく、まずすべきは彼らの身元の確認だ――尋ねて、ギャラクシーコンボイは美緒や耕介、恭也と話している真一郎へと視線を向け、
「見たところ、パートナーは恭也達の知り合いのようだが……」
「ボクはライブコンボイ。となりにいるのは同僚のオートボルト。
 地球でモンスターハンターをしている。
 真一郎とはヨーロッパで出会った――料理人としての修行をしていた彼とモンスターハンターの仲間が出会ったのをきっかけにね。
 それがまさか、キミ達の仲間とも知り合いだったとは……」
 そう答えて肩をすくめると、今度はライブコンボイが尋ねた。
「ところでキミ達は?
 モンスターでも、悪玉でもないよね?」
 その問いに答えたのはなのはだった。
「サイバトロン軍の総司令官、ギャラクシーコンボイさん!
 それで、わたしがパートナーの高町なのはです!」
 『なのは』の部分が妙に強調されている。どうやら未だに覚えてくれない若干名への牽制のようだ。
 現にその“若干名”は今度こそ覚えようと繰り返し――また舌をかんでいる。
 だが――その言葉に対するライブコンボイ達の動揺は彼女達の予想を超えていた。
「さいばとろん、って……
 ――サイバトロン!?」
「ど、どうしたの!?」
 突然大声を上げたオートボルトに驚いたフェイトが聞き返すが、そんな彼女にかまわず(と言うよりかまう余裕などなく)ライブコンボイはギャラクシーコンボイに尋ねる。
「サイバトロン、って……セイバートロン星の?」
「そうだ」
 その答えに、ライブコンボイとオートボルトは顔を見合わせ、
「伝説の星、セイバートロン……」
「本当にあったんだ……!」
「と、とにかく、まずは現状を確認しよう」
 そんな彼らの興奮ぶりに若干気圧されながら、そう提案するのはシグナムだ。
「そうだな。
 どうやらスタースクリーム達の目的は、地球のプラネットフォース探しのようだしな」
 彼女の言葉に恭也が同意すると、
「少なくとも、プラネットフォースについては心配はいらない」
 そんな一同に、ライブコンボイはそう答えた。

「地球のプラネットフォースは、ボクが北極に封印している」

「はぁっ、はぁっ……!」
 息を切らせ、晶は石段を駆け上がっていた。
 地球デストロン達が空を駆け巡る中、なのは達を探していた彼女に入った連絡――その相手が相手だ。一刻も早く会う必要があった。
 八束神社へと駆け込むと本堂を素通りし、森の中へと急ぐ。
 いつも待ち合わせている、自分達のトレーニング場に晶が到着するのと、目の前にワープゲートが開いたのはほぼ同時だった。
 そして、姿を見せた相手に晶は開口一番問いかけた。
「大変なんだ!
 今世界中でトランスフォーマーが――」
 だが、その言葉は途切れた。あわててその場から飛びのいて――

 傷だらけのサンダークラッカーがその場に倒れ伏した。


 

(初版:2006/07/30)