〈モンスタートランスフォーマー、封印解除ヲ確認〉

〈緊急事態ト断定〉

〈システムスタート〉

〈“ダイノボット”及ビ“グランダス”、覚醒プログラム起動――〉

 

「何だと!?」
 ボンブシェルから報告を受け、スカージは声を上げた。
「それは確かなのか!?」
「はい。
 フレイムコンボイのヤツ、宇宙に出たようです!」
「アイツ………………!」
 答えるボンブシェルの言葉に、スカージはうめいて立ち上がり、
「どういうつもりかは知らんが……このオレ様をシカトとは、やってくれる!」
「がははははっ! 逃げられたのぉ!」
 スカージのうめきに答えるのは――プラネットフォースが奪われてからこっち、スマキにされたままのランページである。
「はんっ! いい気味じゃいっ!」
「ていっ!」
「がはぁっ!」
 大笑いするランページを蹴りの1発で黙らせるスカージに、オーバーライドが声をかけた。
「どうするんだ?」
「追いかけるに決まっているだろう!」
 そう答えるスカージからは、いつもの余裕は吹き飛んでいた。
「フレイムコンボイはオレ様が倒す!」

 ――ドクンッ。

「他の誰にもやらせはせんし――」

 ――ドクンッ。

「逃がしもしない!」

 その瞬間――玉座に飾られた、彼らの持つプラネットフォースが“力”を放った。スカージにまとわりつき――さらにそのすぐとなりにいたオーバーライドをも巻き込む!
「な、な、な……!
 なんじゃこりゃぁっ!?」
 驚きのあまりスカージが声を上げ――エネルギーの渦が弾けた。

 

 


 

第34話
「ダイノボット、大暴れなの!」

 


 

 

「えっと……」
 幸いにも日は沈んでいる。死徒である自分にとって最大の脅威である日光にさらされる心配もなく、さつきは遠野家の屋敷の様子をうかがっていた。
「こんな状態なんだもん……遠野くんだって大変なはず……!」
 何か手伝えることはないか――そう考え、想いを寄せる志貴の力になろうとここまで来たのだが――
「…………はず……
 ……なんだけど……」
 ここから先に踏み出す勇気がない。
 生前もそれで告白のチャンスを何度となく逃した挙句、当時街に現れた死徒に殺されるハメになってしまった――自分の腹の据わらなさがイヤになる。
 もう何度目になるかわからないため息をつき――
「………………あれ?」
 彼女は、遠野家の門扉の前に人影が増えているのに気づいた。
「あの子は……」
 チャイナ服を思わせる赤い私服に身を包んだ少女。
 確か、以前アルクェイドのところの夢魔が引き起こした騒動の際に出会った覚えがある。名は――
「……えっと……
 有間……都古、ちゃん……?」
 声をかけるさつきに、都古は不思議そうな顔をして振り向いた。

「そっか……遠野くんの様子を見に、避難所から……」
「うん……」
 とりあえず公園に場所を移して話を聞き、納得するさつきの言葉に都古はうなずいた。
「こんなことになってるから……お兄ちゃんを助けなきゃ、って……
 けど、来てみたらお兄ちゃん、いなくて……」
「そうなんだ……」
 都古の言葉に、さつきはうなずいて空を――上空を我が物顔で飛び回る地球デストロン達を見上げた。
「遠野くん、どこにいるんだろ……」

「プラネットフォースを探せ、って言われてもなぁ……」
 一方、上空を飛び回っていた地球デストロンはブルホーンの隊だった――当のブルホーンは、勢い込んで出てきたものの、まったく手がかりのないプラネットフォースの行方を嘆いてため息をついた。
 そんな時だった――眼下の地上に向けていたレーダーにおかしな反応があった。
 物体そのものを探知する類のセンサーには人間二人が捉えられている――だが、熱や生命エネルギーなど、生体反応に対するセンサーにはひとり分しか反応がないのだ。
「………………何だ?」

「とにかく、遠野くん達もいないみたいだし、避難所に行ってみよう」
 ここにいてもしょうがない――さつきはそう言って立ち上がり、都古の手を取る。
 だが――都古は動かない。ベンチに座ったまま、立ち上がろうとしない。
「都古ちゃん……?」
「お兄ちゃんを……見つけてないから……」
「大丈夫だよ、遠野くんなら」
 志貴が戻るのを待つとでもいうのか――動こうとしない都古をさとすように、さつきは笑顔で告げた。
「遠野くんは、みんなのヒーローなんだよ。
 だから、きっとどこかでアイツらのことを何とかしようとしていてくれてるはずだよ」
 少なくとも、自分はそう信じている――志貴は彼女にとってヒーローだった。どこまでもお人好しで、誰かのためにいつもがんばってあげられる。そんな志貴を、自分は中学の頃から見てきたのだ。
 そんな彼だから――好きになったのだと今なら思える。
 だが、死徒となってしまった今、その想いを伝えることはできない。伝えても彼を困らせるだけだ。
 そんな自分が出来るのは――彼を信じ、彼の力になること。
 だから自分は――
「おやおや、おもしろいものがいるな」
「――――――っ!?」
 突然かけられた声に、思考の渦に沈みかけていたさつきはとっさに都古を抱きかかえて跳びのき――次の瞬間、彼女達の座っていたベンチが踏みつぶされた。
 ビーストモードのブルホーンによって。
「珍しいな。堂々と人間と話してる死徒がいるなんて。
 しかもお友達っぽいじゃんか。驚きだな」
「あなた……!」
「『あなた』?
 オレのことはブルホーン様って呼びな!
 ブルホーン、トランスフォーム!」
 咆哮と同時、ブルホーンは後ろ半身を下半身に展開し、前半身をそのまま上半身に転用したロボットモードへとトランスフォームする。
「礼儀を知らないお前らには、少しばかりオシオキが必要みたいだな!」
 告げると同時、ブルホーンは尻尾が分離し、右手に連結したモーニングスターを振るい、さつきのいた場所に叩きつけ――
「――――何っ!?」
 さつきはそのモーニングスターを受け止めていた。
 しかも――“片手で”。
「てめぇ……そのパワー!?」
「これでも……“こっち側”じゃ『何年かにひとりの逸材だ』って言われてるんだから!」
 ブルホーンに言い返すと、さつきは都古を下がらせるとモーニングスターをつかみ――渾身の力で振り回す!
「これぞ必殺――
 さっちんアーム!」
「でぇぇぇぇぇっ!?」
 叫びながら、さつきはブルホーンを投げ飛ばし――ブルホーンは頭から大地に突っ込む。
「どう!?」
 都古をかばうように立ちはだかり、効果のほどを見極めようとするさつきだが――
「死徒ふぜいが、よくもやってくれたな……!」
 効いてはいるが決定打には程遠い――怒りの表情で身を起こしたブルホーンはさつきを思い切りにらみつける。
「野郎ども! やっちまえ!」
 ブルホーンの言葉に、地球デストロンの何体かが上空から襲いかかり――

 次の瞬間――地球デストロン達は吹き飛ばされていた。
 突如乱入した、T-REX型のトランスフォーマーが放った、尻尾の一撃で。
「え………………っ?」
「何………………?」
 思わず声を上げるさつきと都古の前で、そのトランスフォーマーは地球デストロンの前に立ちはだかる。
「オレ、グリムロック――人間、守る!
 グリムロック、トランスフォーム!」
 片言の日本語で咆哮し、グリムロックと名乗ったそのトランスフォーマーはロボットモードへとトランスフォームする。
「グリムロック!?
 てめぇ……よくもやりやがったな!」
 対して、ブルホーンはビーストモードにトランスフォーム、グリムロックに突撃するが――
「オレ、グリムロック!
 そのくらい、負けない!」
 逆にグリムロックはその突進を受け止め、力任せに投げ飛ばす!
 しかも――攻撃はそれだけで終わらない。グリムロックはすぐさま大地に叩きつけられたブルホーンに襲いかかり、思い切り体重をかけて何度も踏みつけ、仕上げとばかりに蹴り飛ばす!
 何とも荒々しい戦いぶりだ。恐竜をスキャンしているのは伊達ではないと言うことか。
「お前、オレに、捕まる!」
「くっ、そぉ……!」
 グリムロックの言葉にうめき、ブルホーンはなんとか身を起こすが、ダメージが大きくふらついてしまう。
 このままではまた封印されるのがオチだ――そう決断すると後の行動は素早かった。
「チッ、覚えてろよ!」
 三流悪役の捨てゼリフを残し、ブルホーンはそのまま逃げ去っていった。

「お前達、ケガ、ない?」
「あ、はい……
 ありがとうございます……」
 ビーストモードに戻り、尋ねるグリムロックに答え、さつきは一礼してグリムロックに礼を言う。
「けど、あなたは……?」
「オレ、グリムロック!
 モンスターハンター、ひとり! アイツら、退治する、仕事!」
 そうさつきに答えると、グリムロックはさつき達に背を向ける。
「お前達、アイツらに目、つけられた。
 しばらく、かくれてる、いい」
 言って、立ち去ろうとするグリムロックだが――立ち止まった。背中へと視線を向け、
「お前、降りる。
 そこ、危ない」
 いつの間に乗ったのだろうか――背中によじ登っていた都古に告げる。
「オレ、モンスターと、戦う。
 ついてくる、危険」
「………………ヤだ」
 告げるグリムロックだが、都古も聞かない。グリムロックの背中にしっかりとしがみついて離れない。
「……こいつ、どうした?」
「うーんと……心細いんじゃないでしょうか。
 いきなりあんなのに襲われたから……」
 さつきの答えに、グリムロックはため息をつき、
「しかた、ない。
 お前達、ついてくる」
「いいんですか?」
 思わず尋ねるさつきに、グリムロックは答えた。
「オレ、グリムロック――人間、守る、仕事。
 オレ達のアジト、そこ、安全」

 そして、グリムロックは駅前の広場へとやってきた。
「ここがアジトなの?」
「ここ、違う」
 背中の上で尋ねる都古に、グリムロックが答える。
「ここで、迎え、呼ぶ」
 そう答え、グリムロックは大きく息を吸い、その名を呼んだ。
「スワープ! カムヒヤー!」
「って、なんでそこだけ英語なんですか!?」

「こう呼ばないと、スワープ、来ない」
 思わずツッコむさつきにグリムロックが答えると、
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーンッ!」
 そんな気の抜けた声と共にそれは飛来した。
 翼竜――プテラノドン型のトランスフォーマーである。
「スワープ、トランスフォーム!」
 そして、スワープと呼ばれたそのトランスフォーマーはロボットモードとなって着地し、
「グリムロック、復帰第一戦、お疲れさまだわさ」
「アイツ、弱い。グリムロック、負けない」
 労うスワープに答え、グリムロックは退屈そうに肩をすくめる。どうやら先の戦いは彼にとって不完全燃焼に終わったようだ。
 ともかく、そんな彼に苦笑しつつスワープはさつき達へと視線を向け、
「その子達は?」
「襲われてた。グリムロック、助けた」
「あぁ、そういうこと」
 それだけでだいたいの流れは通じたようだ。スワープはさつき達をのぞき込み、
「それじゃ、お嬢ちゃん達。
 このスワープ様が、アジトまでご案内するだわさ」

 そして、スワープはビーストモードになるとさつきと都古をライドスペースに招き入れ、グリムロックを両足でつかんで大空へと舞い上がった。
 だが――さつきはふと気になった。
 上に向かっている――どこかに移動しているワケでもなく、ただひたすらに上昇している。すでに先程から完全に雲の中だ。
「スワープさん、どこまで昇るんですか?」
「もうすぐだわさ♪」
 尋ねるさつきにスワープが答え――突然視界が開けた。
 雲海の中に、まるで台風の目のようにポッカリと空間が空いているのだ。
 そして――そこにそれは浮かんでいた。
 まるで空母のような飛行物体が。
「グランダス、今戻っただわさよ!」
 スワープがそう告げると、すぐに返事の通信が返ってきた。
〈確認した。
 スワープ、グリムロック。ご苦労だった〉
「えっと……今の声は?」
「グランダス。わたし達の仲間で――」
 さつきに答え――スワープは付け加えた。
「あの基地そのものだわさ」

「ぅわぁ……」
 スワープの誘導でグランダスへと降り立ち、またもやグリムロックの背によじ登った(気に入ったらしい)都古は、まるでSF映画の中にいるような内部の様子を見回して思わず感嘆の声を上げる。
「まさか、この基地そのものがグリムロックくん達と同じトランスフォーマーだなんて……」
 同様に驚嘆し、さつきが呆然とつぶやくと、
「………………ん?」
 突然、グリムロックが顔を上げた。
「どうしたの?」
「仲間、来た」
 尋ねる都古にグリムロックが答えると、
「グリムロック、戻った!」
「戻った、戻った!」
 口々に言いながら、新たなトランスフォーマー達が姿を現した。
 やはり恐竜型トランスフォーマーだ。トリケラトプス型が2体――その一方はエリの派手な装飾からベースはスティラコサウルスだろうか。その後に、ステゴサウルス型のトランスフォーマーが1体、無言でついてきている。
「あの人達が仲間?」
「そう。
 ステゴがスナール。トリケラがスラッグ。スティラコがストライク」
 さつきに答え、グリムロック達は彼らに呼びかけた。
「お前達、静かにする。
 人間、連れてきてる」
「人間、来てる?」
 グリムロックの言葉に、トリケラトプス――スラッグはさつきの前に進み出て、
「スラッグ。よろしく」
「よろしく。
 私は弓塚さつき。さつきでいいよ」
 握手しようにも相手がビーストモードのままではそれもままならない――名乗るスラッグに答え、さつきは代わりにスラッグの鼻先をなでてやる。
 と――
「オレ、ストライク。ストライク!」
「うん、ストライクくんだね」
 スラッグがうらやましかったのか、いそいそと出てきて名乗るスティラコサウルス――ストライクにも、さつきは笑顔で答えて同じように鼻先をなでてやる。
「スナール。お前もあいさつ、する」
 最後のひとり――ステゴサウルス型のスナールに声をかけるグリムロックだが、
「……スナール」
 そのスナールはただ一言、自分の名前を告げるのみ。
「しゃべんない子?」
「アイツ、オレ達より、無口」
 頭の上から尋ねる都古に、グリムロックはそう答えて肩をすくめ――
「おいおい、グリムロック。
 私の紹介もしてもらいたいのだがね」
 突然の声は、廊下の天井のスピーカーから聞こえてきた。
「えっと……グランダスさんですか?」
「そうだ。
 よろしく。えぇっと……さつきくん、でいいのかな?」
 尋ねるさつきに答え、グランダスもまた答える。
「すまないね、顔を見せられなくて。
 何しろキミ達は私の中にいるものでね」
「あはは……ごめんなさい」
 謝罪するグランダスの言葉に、さつきは思わず苦笑して――
「………………む?」
 グランダスが何かに気づいたようだ。突然疑問の声を上げる。
「……スワープ。二人をブリッジへ。
 二人を送ってから急行するには、一番速いキミが適任だ」
「敵か?」
「キミ達の帰還の後をつけられたらしいな。
 とにかく、私はまだすべてのシステムのロックが解除できていない。戦える状態にあるのはキミ達“ダイノボット”だけだ」
「はいはーい♪」
 グリムロックに答えるグランダスの言葉に、スワープは気軽に答えつつさつき達へと向き直り、告げた。
「さーて、お嬢ちゃん達。
 このスワープ様についといで♪」

「二人とも――私の中枢部にようこそ」
 スワープに連れられ、ブリッジを訪れたさつき達を、再びグランダスの声が出迎えた。
「スワープ、キミはグリムロック達と合流を」
「はいはい♪」
 グランダスに言われ、スワープがブリッジを出て行くと、さつきはグランダスに尋ねた。
「えっと……グランダスさん、敵は?」
「まもなく視認可能範囲に入る」
 グランダスが答え――彼らは周囲の雲海の中から姿を現した。
 エイプフェイスを背に乗せた、ジェット機モードにトランスフォームしたスナップドラゴンである。

「いたいた!
 こんな雲ン中に隠れやがって!」
 一気にグランダスの真上まで上昇し、スナップドラゴンが声を上げ、
「逃がしゃしねぇぜ! ブッつぶしてやる!」
 言うと同時、エイプフェイスがグランダスの甲板へと飛び降り、スナップドラゴンもロボットモードとなってそのとなりに降り立つ。
 が――そんな彼らを、ビーストモードのグリムロック達はすかさず包囲した。
「お前、エイプフェイス!」
「ほぉ、やっぱりダイノボットが全員集合か。
 ブルホーンがグリムロックを見たっていうから、ひょっとしたらと思ってたがな」
 どうやら顔見知りらしい――声を上げるグリムロックに、エイプフェイスは笑いながら答える。
「お前達、封印!
 覚悟、する!」
「覚悟! 覚悟!」
 スラッグとストライクが告げ、スナールもまたいつでも飛びかかれるよう身を沈め――
「へぇ、やる気なんだ。
 それじゃ、こっちも!」
 対するエイプフェイス達は余裕だ。それぞれにビーストモードへとトランスフォームし、臨戦態勢に入る。
「お前ら、倒す!」
 真っ先に動いたのはスラッグだ。全速力で突撃すると頭部の角を突き出し――
「それがどうしたぁっ!」
 スナップドラゴンには通じない。あっさりと跳躍してかわし、逆に全体重を乗せて踏みつける!
「スラッグ!」
 ストライクがそれを見て声を上げると、
「てめぇの相手はオレだ!」
 そんなストライクにエイプフェイスが襲いかかった。角をつかんで振り回し、助けようとしたスナールに叩きつける!
「グリムロック!」
「おぅ!」
 スワープに答え、グリムロックはエイプフェイスへと向き直り、
「フォースチップ、イグニッション!」
 地球のフォースチップを背部のチップスロットにイグニッション。開いた口腔内に光があふれ――
「ダイノ、ファイヤー!」
 放たれた炎は一直線にエイプフェイスに迫る。が――
「効かねぇなぁっ!
 エイプフェイス、トランスフォーム! ビークルモード!」
 エイプフェイスはその炎をものともしない。重戦車にトランスフォームし、砲撃でグリムロックを吹き飛ばす!
「昔オレ達を封印した時みたいに“合体してりゃ”よかったものを!
 結局、てめぇらは合体を許可する人間がいなきゃ何もできねぇんだよ!」

「グリムロック!」
 エイプフェイスに殴り倒されるグリムロックの姿をモニターで見て、さつきは思わず声を上げた。
「グランダス、なんとかできないの!?」
「私の火器管制はまだロックが解除できていない。援護は不可能だ」
 尋ねるさつきに、グランダスは悔しそうにそう答える。
「せめて、彼らが人間のパートナーを見つけてくれていればよかったのだが……!」
「パートナー?」
「あぁ。
 彼らダイノボットは合体することで、より強大な力を得ることができる。
 だが、そのためには彼らの合体を承認する人間のパートナーが必要なんだ」
「じゃあ、私が許可してくる!
 都古ちゃんはここにいて!」
 グランダスの言葉に、さつきはそう言うときびすを返し――その手がつかまれた。
「え………………?」
 思わず振り向くさつきに対し、都古はつぶやくように告げた。
「私も……行きたい」

「ぐわぁっ!」
 スナップドラゴンに投げ飛ばされ、グリムロックはグランダスの上から放り出されかけ、かろうじて甲板の縁にしがみつく。
「グリムロック!」
 声を上げ、スワープが助けに向かおうとするが、
「どこ行くつもりだよ!」
 それをエイプフェイスが阻んだ。ビークルモードのままスワープに砲撃を仕掛ける。
「さて、あとはてめぇが落ちてくれれば万々歳、と」
 エイプフェイスによって救援の手は排除された――今にも落下しそうなグリムロックを見下ろし、スナップドラゴンは悠々と足を振り上げ――
「落ち――」
「ダメぇっ!」
「――ろべばぁっ!?」
 振り下ろそうとした瞬間、いきなり背後から殴り倒される!
「あぁぁぁぁぁっ!?」
 当然、スナップドラゴンはグランダスから転落。グリムロックを救った人物が着地し――
「さつき!?」
「よかった! 大丈夫!?」
 声を上げるグリムロックにさつきが尋ねるが、
「てめぇっ!」
「きゃあっ!」
 そんな彼女を、ビーストモードのエイプフェイスが襲った。振り下ろされた拳をかわし、さつきはその場から後退する。
 と――
「グリムロック!」
 今度は都古が駆けつけてきた。甲板の縁に駆け寄り、グリムロックに声をかける。
 なんとか助けようとグリルロックの手につかまり、引っ張り上げようとするが、当然ながら人間のパワーでどうにかなる体格差ではない。いくら引いてもビクともしない。
「都古、逃げる!
 ここ、危険!」
 すぐにでも避難しなければ危険が及ぶ――都古に告げるグリムロックだが、
「ヤ!」
 都古はそれをキッパリと拒絶した。
「グリムロックは、わたし達を助けてくれたもん……!
 だから、わたしもグリムロックを助けてあげたいもん……!」
 告げて、さらに力を込める都古だが――やはり動かない。
 それでも都古はあきらめない――懸命に踏ん張るが――
「よくもやってくれたな!」
 さつきによって転落したスナップドラゴンが戻ってきた。ビークルモードで彼らの真上に飛び出し、ロボットモードとなって着地する。
「もう手加減しねぇ! 叩きつぶしてやる!
 まずは――」
 言うと同時、スナップドラゴンは右の拳を振り上げて、
「てめぇからだ、クソチビ!」
 都古に向けて振り下ろした、その時――
「させない!」
 咆哮と同時――グリムロックは両腕に一気に力を込めて飛び上がった。甲板上に飛び出すと着地も待たずにスナップドラゴンに体当たりを仕掛ける!
「こっ、このっ!」
「都古に、手、出させない!」
 振り払うスナップドラゴンに言い返し、グリムロックは都古をかばうように彼と対峙する。
「都古、スゴい。
 たいていの人間、オレ達恐れる――だからオレ達、眠る道、選んだ。
 なのに、都古も、さつきも、オレ達恐れない。力なくても、助けようとしてくれる。
 こんなスゴいヤツら――お前なんかに、殺させない!」
「ほざくな!
 合体もできないクセに、オレ様達に勝てるとでも思ってんのかよ!?」
 宣言するグリムロックの言葉にスナップドラゴンが言い返し――ふと都古はグランダスの言葉を思い出した。

『彼らダイノボットは合体することで、より強大な力を得ることができる。
 だが、そのためには彼らの合体を承認する人間のパートナーが必要なんだ』

(人間が許しちゃえば……合体できるんだよね……?)
 さつきの様子をうかがう――体格差を活かしてエイプフェイスの攻撃をかわしているが、こちらに気を配る余裕はなさそうだ。
 ならば――
「グリムロック!」
 決意を固め、都古はグリムロックに告げた。
「合体しちゃえ!」
「おぅっ!」
 都古の言葉にうなずき、グリムロックは仲間達に告げた。
「みんな、集まる!
 合体許可、出た!」
 その言葉に、スラッグが、ストライクが、スナールが、そしてスワープが――ダイノボット達がグリムロックの周りに集結する。
 そして――グリムロックは改めて一同に告げた。
「お前達。合体、する!」
『おぅ!』

「ダイノボット、スーパーモード!
 スクランブル、クロス!」
 グリムロックの言葉と同時、ダイノボット達は一斉に飛び立ち、合体体勢に入る。
 ビーストモードにトランスフォームし、四方に散る仲間達の中央に飛び込んだのはグリムロック――両足がたたまれ、両腕がボディに固定され、大腿部を含めたより巨大な胴体部となる。
 続いてスワープの翼が分離。スナールともどもグリムロックの両側に合体、先端に拳が現れ両腕となる。
 スラッグとストライクはロボットモードから両足をあわせて折りたたみ、露出したジョイント部で連結するようにグリムロックの大腿部に合体、それぞれの頭部がつま先となる形で両脚となる。
 背中にスワープの翼が合体、本体内部から新たな頭部が迫り出し、合体を完了し新たな姿となったダイノボットが咆哮する。
「合体武神――ダイリュウジン!」

「す、すごい……!」
 合体し、その勇姿を現したダイリュウジンを前に、都古は思わず感嘆の声を上げる。
「都古、キミは下がっていろ」
 そんな都古を見下ろし、ダイリュウジンは合体前の片言とは違ってよどみのない口調でそう告げるとスナップドラゴンへと向き直り、その先でエイプフェイスを抑えているさつきにも声をかけた。
「さつき! キミも下がってるんだ!
 スナップドラゴンとエイプフェイスは私が追い返す!」
「は、はい!」
 合体の一部始終を見ていなかったが、ダイリュウジンがグリムロック達の合体した姿だということはすぐに理解できた。さつきは彼の言葉にうなずき、エイプフェイスから距離を取る。
「へぇ、合体しやがったか。
 昔の再現だな、オイ!」
「これで少しはおもしろくなってきやがったな!」
 対して、スナップドラゴン達はようやく会えた因縁の相手を前にむしろ歓喜の声を上げた。意気揚々とかまえる。
「前はライブコンボイ達もいたが、今はてめぇひとりだ!
 オレ達二人を相手に、勝てると思ってんのか!?」
「何なら試してみるか?」
 エイプフェイスに言い返し、ダイリュウジンは静かに身がまえ、
「いくぜ!」
 叫ぶと同時に跳躍――スナップドラゴンが全体重を乗せた蹴りを繰り出すが、ダイリュウジンはそれを易々と受け止め、
「――甘い!」
 その蹴り足をつかんで振り回し、スナップドラゴンの攻撃に紛れて背後に回りこもうとしていたエイプフェイスに叩きつける!
「まだまだ!」
 さらに、追撃とばかりに二人を踏みつけようとするが、彼らもその場から転がって難を逃れる。
「コイツ!
 スナップドラゴン!」
「おぅともよ!」
 うめくエイプフェイスにスナップドラゴンがうなずき、
『ビーストモード!』
 咆哮し、ビーストモードへとトランスフォーム。同時にダイリュウジンへと突っ込むが、
「なんの、これしき!」
 ダイリュウジンはその突進を軽々と受け止め、逆に力任せに投げ飛ばす!
「悪いが、お前達の得意なパワーファイトこそが私の真骨頂でな。
 合体もできないクセに、私に勝てると思っているのか――先ほどのセリフ、そのまま返すぞ!」
「う、うるせぇっ!」
 ダイリュウジンに言い返し、立ち上がるスナップドラゴンだが、ダメージが大きくまともに立っていられない。エイプフェイスも同様だ。
「トドメだ!
 フォースチップ、イグニッション!」
 そんな彼らに対し、ダイリュウジンはフォースチップをイグニッション。青色に輝く地球のフォースチップがダイリュウジンの背中のチップスロットへと飛び込む。
 それに合わせ、胸の竜が口を開き、その口の中に光が生まれ――
「ダイノ、ブラスター!」
 放たれた閃光がスナップドラゴン達の足元を直撃し、
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
「おぼえてやがれぇっ!」
 二人を空の彼方までブッ飛ばしていった。

「ダイリュウジン、すごぉい!」
「まぁ、久しぶりの合体としてはまずまずの戦いか」
 スナップドラゴン達を撃退し、歓喜の声を上げる都古に、ダイリュウジンは息をついてそうつぶやく。
「だが、少しは加減して戦ってもらいたかったのだが。
 そこは私の上なのだからね」
「沈められるよりはマシだろう?
 そもそも、お前が迎撃システムのロック解除を後回しにしていたから、こういうことになったのだろうが」
 告げるグランダスにダイリュウジンが答えると、
「………………む?」
 グランダスが突然口をつぐんだ。
 これと同じことが、先程もあったような気がする。ということは――
「まさか……また敵が?」
「いや、違う。
 通信が入ってな」
 尋ねるさつきに答え、グランダスはダイリュウジンに告げた。
「ダイリュウジン。ホットスポットから連絡だ。
 合流を求めてきているが――どうする?」
「どの道敵にこの場が知られた以上、移動の必要はある――そのついでに拾えばいいだろう」
 そう答えると、ダイリュウジンはさつきと都古へと向き直り、
「二人はどうする?
 降りるというなら、スワープに送らせるが」
 その言葉に、二人は顔を見合わせ――
「ううん。
 わたし達も、ダイリュウジン達についてく!」
「乗りかかった船、っていうのも変な話ですけど……お手伝いさせてください!」
「そうか……
 なら、グランダスに部屋を用意してもらわなければな」
 二人の言葉に、ダイリュウジンはそう言ってきびすを返し――ふと立ち止まった。
 何事かとさつきと都古はその視線の先を追い――なぜ止まったのかを理解した。
 同時に新たな疑問が浮上する。
 “問題”に対する解決策はある――なのになぜかダイリュウジンは実行しない。何か理由でもあるのだろうか。
 不思議に思い――都古は尋ねた。
「ねぇ……ダイリュウジン」
「何だ?」
「分離しないと……グランダスの中に入れないよね?」
「どうして合体解かないんですか?」
「むぅ……」
 都古と、そしてさつきの問いに、ダイリュウジンは答えた。
「分離すると……キミ達とまともなコミュニケーションができなくなる」
「……しゃべり方、片言ですからね。グリムロックくん達になっちゃうと……」

 その頃、アニマトロスでは――
「い、いてて……ひどい目にあった……」
 衝撃で吹き飛ばされ、ウィアードウルフはぶつけた頭をさすりながら身を起こした。
「何があったんだ……?」
「わからないんダナ……」
 うめくメナゾールにスカルが答えた、その時――そんな彼らの前に立ちはだかった者がいた。
 スカージとオーバーライドだ。
 だが――
「す、スカージ……?」
「それに、オーバーライド殿、ッスか……?」
 メナゾールとワイプが眉をひそめたのはムリもない。

「スカちゃん達は……」

 彼らの身体は――

「強〜〜いギガちゃん達に……」

 まったく別の姿に――

「生まれ変わったのだぁっ!」

 転生していたのだから。


 

(初版:2006/08/20)