さて、早速だが思い出して欲しい。
 なのは達がライブコンボイ達と出会い、地球デストロン軍団との初戦を撤退という形で終えた直後のことを――

 

「はぁっ、はぁっ……!」
 息を切らせ、晶は石段を駆け上がっていた。
 地球デストロン達が空を駆け巡る中、なのは達を探していた彼女に入った連絡――その相手が相手だ。一刻も早く会う必要があった。
 八束神社へと駆け込むと本堂を素通りし、森の中へと急ぐ。
 いつも待ち合わせている、自分達のトレーニング場に晶が到着するのと、目の前にワープゲートが開いたのはほぼ同時だった。
 そして、姿を見せた相手に晶は開口一番問いかけた。
「大変なんだ!
 今世界中でトランスフォーマーが――」
 だが、その言葉は途切れた。あわててその場から飛びのいて――

 傷だらけのサンダークラッカーがその場に倒れ伏した。

 

 そう。この時点で、サンダークラッカーは海鳴に現れ、晶と合流している。
 次に、サンダークラッカーから事情を聞いた晶とのやり取り。

 

「じゃあ、お前らのボスが捕まっちまったのか?」
「あぁ……
 くそっ、スタースクリームのヤツ……」
 話を聞き、確認する晶に、サンダークラッカーは傷の痛みに顔をしかめながらそう答える。
「オレはオレで、ヤツのワナをブッ壊そうとしてこのザマだし……ランドバレットは『助けを呼んでくる』ってどっか行っちまうし……」
 そう告げると、サンダークラッカーは空を見上げ、
「地球は地球で、このザマだしな……」
 上空を我が物顔で飛び回るデストロン達を見据え、忌々しげにつぶやく。
「くそっ、どうしたもんだかな……」
 うめくサンダークラッカーだが、彼の傷も軽くはない。そんな彼に対し、晶は告げた。
「焦るのはわかるけど、まずは傷を治すんだ。
 何をするにもそれからさ」
「け、けどな……!」
「今動いたって、そのケガじゃ何もできないだろ」
「う゛……っ」
 反論しかけたところに晶から手痛い反論を受け、サンダークラッカーは思わず言葉に詰まる。
 そんなサンダークラッカーに、晶は肩をすくめて告げた。
「わかったらおとなしくしてろ。
 こんな状態だからシュークリームなんかも用意してやれないけどさ」

 

 さて、ここで疑問がひとつ。

 

Q:スタースクリーム達が海鳴を襲った時、彼らはどこにいたのだろう?

 

 


 

第35話
「地球サイバトロン、集合なの!」

 


 

 

A:日本海

 

「なぁ、晶……」
「何だよ?」
 天候不順で荒れ狂う日本海を飛行しながら尋ねるサンダークラッカーに、晶はそのライドスペースで返事した。
「お前……オレに休めって言ったよな?」
「言ったぞ」
「だったら……なんでオレは今日本海を飛んでるんだろうな?」
「……悪い」
 一応反省はしているらしい――サンダークラッカーの問いに、晶はうつむいて謝罪する。
「けど……どうしても無事を確かめたいヤツがいるんだ。
 世界中こんなで、電話だってつながらないし……」
 その言葉に、サンダークラッカーはため息をつき、告げた。
「全部片づいたら、シュークリームおごりだぞ」

「はぁ…………」
 避難所の入り口――駐車場のかたわらの階段に座り込み、フォウ蓮飛レンフェイ――通称レンはため息をついた。
 心臓を患い、手術を乗り越え――手術の成功の報告と術後の静養のために中国の実家に滞在していたが――まさかこんなことになるとは思わなかった。
「一体、どないなっとるんや……?」
 静かにつぶやくが、彼女の周りには誰もいない。答えるはずの相手などいない――

 はずだった。

「オレ達だって、あんなの見たことないよ」
 だが、答えはちゃんと返ってきた――どこからともなく、戸惑いを多分に含んだ声がレンに答える。
「あんな数のモンスター達、北極の封印が全部解かれでもしない限りあり得ないんだけど……」
「せやったら、その封印が全部解けたんと違う?」
「それこそあり得ないって。
 あの封印はオレ達の中でも1、2を争う凄腕のオートボルトが守ってるんだぞ」
 レンの問いに声の主が答えると、
「………………ん?」
 突然、声の主が何かに気づいた。
「どないしたん? ブレインストーム」
「いや……
 携帯の呼び出し電波をキャッチしたんだけど……」
 まぁ、混線してるから正規の回線じゃつながらないだろうけど、と付け加え、ブレインストームと呼ばれた彼は告げた。
「キミの携帯に登録してある番号のはずなんだが」

「……くそっ、同じ中国に入ればなんとかつながると思ったんだけど……!」
「アホかお前は。
 いくら衛星携帯でも、国内の通話は交換機を通すんだぞ――交換機が混線してればつながるワケないって」
 つながらない携帯を手に、舌打ちする晶にサンダークラッカーはため息混じりにそう告げる。
 彼らがいるのは街角の公園――すでに住人達は避難しており人の姿はない。そのためサンダークラッカーも堂々とロボットモードのままで晶のとなりに控えている。
「で? 携帯がつながらない状況で、その『カメ』さんをどうやって探すつもりかな、城島晶くん?」
「う、うるさいな! 今考えてるよ!」
 尋ねるサンダークラッカーに晶が言い返すと、
「晶!」
 突然声がかけられた。
 サンダークラッカーに視線を向けるが――パタパタと手を振る。彼ではないらしい。
 不思議に思い、晶は振り向き――

 

「何しとんねん、こないなところで!」

 そこに、彼女の探し人の姿があった。

 

「れ、レン!?」
 避難勧告の発令下だ。まさか向こうがこちらを発見するとは思っていなかった――完全に予想外の登場に、晶は思わず驚きの声を上げた。
 だが――レンはかまいはしない。ズンズンと足音が響きそうな勢いで晶のところまで詰め寄り、ビシッ! と人さし指を突きつけた。
「何なんや、一体!?
 日本に帰っとるはずなのに、しかもこんな状況なのにノコノコこんなところまで出向いて来て!
 しかもトランスフォーマーと一緒やなんて、どういうことなんや!?」
「そ、それは……」
 レンの言葉に思わず返答に詰まり――
「………………ん?」
 晶は今の会話に不自然な点があるのに気づいた。
「――ちょっと待った!
 レン、なんでお前、トランスフォーマーのこと知ってるんだよ!?」
「え゛………………」
 形勢逆転――顔色を変えたレンに対し、晶はさらに詰め寄る。
「こっちはこっちで、いろいろムチャやってここまで来たんだ――どういうことなのか、納得のいく説明をしてもらうぞ」
「……わ、わかった……」
 いかに犬猿の中と言えど、理にも義にも沿わないことはするつもりはない――降参を示し、レンは頭上に声をかけた。
「ブレインストーム、出てきてえぇで」
 その言葉と同時――それは頭上から舞い降りてきた。
 1機のジェット機だ――どういう原理で浮遊しているのか、その駆動音はほとんど聞こえない。
 そして――
「ブレインストーム、トランスフォーム!」
 ジェット機が――ブレインストームが咆哮し、ロボットモードへとトランスフォームする。
「もう……説明の必要はあらへんやろ?」
 告げるレンの言葉に、晶は微妙な表情でうなずく。
 犬猿の仲である二人だが、どういうワケかあらゆる面でかち合う運命にあるようだ。
 料理好き、武道家、その上同じ誕生日――そこに来て、二人そろってトランスフォーマーと運命の出会いを果たさなくてもいいだろうに……しかもジェット機型という点まで共通している。
 とことん奇妙な縁で結ばれているライバルを前にして、二人は同時にため息をついていた。

 

 レンとブレインストームの縁は晶とサンダークラッカーとのそれに比べて短い。何しろ先日出会ったばかりなのだ。
 というのも、二人が出会うことになるキッカケとなったのが、解放された地球デストロン達の迎撃だったのだから――

 

「いきなり何なんやねん、一体……」
 突然空に現れた地球デストロン達に、街は騒然となった――街の人々が避難所に避難してからも混乱が続く中、レンは空を飛び交う地球デストロン達を見上げてつぶやいた。
 何も、自分が中国に里帰りしている時に現れなくてもいいだろう――と思うが、ニュースによれば世界中に彼らは現れているらしい。結局どこにいても遭遇することになるのだからムダな願いだと自己完結する。
 そんな時だった。
 街の――よりによって実家の近くに地球デストロン達が降下したという報せが入ったのは。

「待ちなさい、レン!」
 後ろから呼びかける母・小梅の声に答えることなく、レンは避難所を飛び出した。
 実家そのものが心配だったからではない。
 避難の際、バタバタしていたせいで置いて来ざるを得なかった“あるもの”が心配だったからだ。

「あった……!」
 置き場所を忘れるはずがない――実家に戻るなり、レンはすぐにそれを手に取った。
 空手のグローブだ――手術の際に『お守りだ』と渡されたものであり、そのまま訪中の際にも持ってきていたのだ。
 ライバルであると同時、親友でもある相手からの餞別――急ぎの避難だったとはいえ、やはり多少両親にワガママを言ってでも最初から持っていくべきだったと今さらながらに後悔する。
 とにかく、グローブが無事だったことには安堵するが、今は避難所に戻るのが先決だ。レンはすぐにきびすを返し、急いで実家から飛び出し――
「――――――っ!?」
 息を呑んだ。
 目の前を闊歩していた、カニ型の地球デストロンを前にして。

「あん………………?」
 地上に降りてプラネットフォースを探してはみたものの、やはりこんな人里にあるワケがない――気を取り直して他を探そうとしたキャンサーだったが、目の前に現れたそれを見て眉をひそめた。
 地球人の小娘だ――センサーでスキャンした時には、確か地球人達は一ヶ所に集まっていたはずだが……
「まぁ、いいか」
 出くわしたなら出くわしたで、昔のようにおどかして帰ってもらうまでだ――キャンサーはニヤリと笑みを浮かべてレンを見下ろした。
「おいコラ、小娘。
 見世物じゃねぇんだ――とっとと帰れ!」
 頭ごなしの偉そうな態度――だが、そんなキャンサーの態度にレンは眉をひそめた。ムッとして応じる。
「何や、いきなり!
 帰れ、なんて言われてもウチの実家はここや! 今さらどこに帰れ言うんや!」
「どっか!」
「即答すんな! しかもムチャクチャやし!」
「うるさい!」
 反論するレンに言い返し、キャンサーはハサミの間に装備されたビームガンをかまえ――

 だが、その一撃が放たれることはなかった。
「ちょおっと待ったぁっ!」
「どわぁっ!?」
 突然飛び込んできた何者かによって、キャンサーが跳ね飛ばされたのだ。
 そして――
「ブレインストーム、トランスフォーム!」
 咆哮し、ブレインストームがビークルモードのジェット機からロボットモードへとトランスフォームする。
「キャンサー、久しぶりだな!」
「く、ブレインストーム!?」
「はーい、そうですよー。
 モンスターハンター期待の新星にして、27年と3ヶ月と4日前にお前を封印した張本人、ブレインストーム様ですよー♪」
 あわてるキャンサーの言葉に、ブレインストームは手をパタパタと振ってそう答える。
「くそっ、なんでこんなところにいるんだよ!?
 お前の担当、ヨーロッパのはずだろ!?」
「お前が寝てる間に、ライブコンボイがヨーロッパ担当になっちまったもんでね――交代さ」
 キャンサーに答え、ブレインストームは手にしたライフルをかまえ、
「さて、昔と同じようにまた封印してやるぜ!」
「くそっ………………!」
 その言葉に、キャンサーはうめき――
「ダッシュ!」
「あぁっ! 逃げた!」
「ほっとけ。
 おマヌケにもコンビネーションしか能のない阿呆だ。仲間がいないと何もできやしないよ」
 交戦もしないで逃げの一手に出たキャンサーを見て、声を上げるレンにブレインストームはライフルを収めてそう答える。
「さて、それはともかく……」
 そう言うと、ブレインストームは肩をすくめてレンに尋ねた。
「事情の説明は必要ですかな、お嬢さん?」

 

 そして時間は現在へと戻る――

 

「……とまぁ、そんなことがあって、オレとレンは出会ったワケだ」
「へぇ……」
 ブレインストームから説明を受け、サンダークラッカーは納得してうなずく。
 現在二人は向き合って座り込み、互いの事情の説明中――ここにちゃぶ台やお茶や茶菓子があれば完全に茶飲み友達状態だっただろう。
「そういうお前は地球に来たところを拾われて、か……
 しかも何だよ、シュークリームに釣られたのか?」
「うるせぇよ。
 そんなに言うなら今度お前の相方に食わせてもらえよ。すっげぇ美味いんだぞ」
 ブレインストームの言葉にムッとして答え――サンダークラッカーはため息をついた。
 彼への文句よりも先に、もっと憂慮すべき事態があったからだ。
「ンなことよりさぁ……」
「あぁ……」
 それはブレインストームも同様だったようだ。サンダークラッカーの言葉にうなずき、そちらへと視線を向け――

 

「だいたいてめぇは中国に帰ったっきり便りもよこさねぇで!
 しかもなのちゃん達とはしっかり連絡取り合ってたそうじゃねぇか!」

 

「それはそっちも同じやないかい!
 なのちゃんから電話で聞いとるで! 海外遠征の間中音沙汰なしだったそうやないか!」

 

「……殴り合わずに会話できねぇのか? アイツらは……」
「………………聞かないでくれ……」
 言葉と同時に拳が飛び交う晶とレンの会話を眺めながら、ブレインストームはサンダークラッカーの言葉に答える。
 先程からスピード、パワー共に申し分のない打撃が飛び交っている。世界タイトルマッチやK-1も顔負けのド迫力だ。
「っていうか……」
 ともかく――その光景を見ながら、サンダークラッカーは思わずつぶやかずにはいられなかった。
「どこかで見たことのあるやり取りなんだが……」

 同時刻、アースラの格納庫で同時にくしゃみをしたトランスフォーマーが2名ほどいたが……今回の話とは関係がないので割愛させてもらう。

 あの二人のケンカ、いつまで続くんだろうか――そんなことをブレインストームが考えていると、
「けどさぁ」
「あん?」
 突然サンダークラッカーが声をかけてきた。
「お前もたいがいおかしなヤツだよな。
 お前が使ってる識別信号、サイバトロンだろ――デストロンの識別信号使ってるオレはむしろ敵だろ? 
 なのに……なんで平然としてんだよ?」
「あぁ、そのことか」
 だが、ブレインストームは大して気にすることもなく答えた。
「身内にひとりいるからな。
 敵じゃないけど、お前の言う“デストロン”の識別信号を未だに使ってるヤツが」

 またもや同時刻、地球のどこかでくしゃみをしたトランスフォーマーがひとりいたが……やはり今回の話とは関係がないので割愛する。

「とりあえず……そろそろ止めた方がよくないか?」
「同感だな」
 すでに晶とレンの殴り合いは始まってから10分以上が経過している――いい加減休ませようというブレインストームの提案にサンダークラッカーがうなずき――
『――――――っ!?』
 二人の表情が強張った。
「……おい、晶……」
 声をかけるサンダークラッカーだが、晶は口論に夢中で聞いていない。
「レン」
 ブレインストームの呼びかけも、レンの耳には届かない。
 そんな二人に、ブレインストームとサンダークラッカーは顔を見合わせ、
『おい、お子様達』
『誰がお子様だっ!?』

 同時に反応が返ってきた。
 息ピッタリじゃねぇか――そう考えるが、今はツッコミを入れている場合ではない。サンダークラッカーに譲られ、ブレインストームが告げた。
「巻き込まれたくなかったら今すぐ退避だ」
「え………………?」
「どういうことや?」
「敵だってことだよ」
 疑問の声を上げる晶とレンにサンダークラッカーが答え――同時、爆発が周囲を揺るがした。

「あっぶねぇ……!」
「ギリギリだったな……!」
 うめいて、サンダークラッカーとブレインストームはそれぞれ晶とレンを抱えて公園の外れに着地する。
 そして――
「この間は、よくも恥をかかせてくれたな!」
 彼らに――ブレインストームに告げ、キャンサーが降り立った。
「今回は前みたいにはいかねぇぞ!
 なんたって、今回は助っ人をタップリ連れてきてやったからな!」
 そう告げるキャンサーの背後には、ズラリと並んだモンスタートランスフォーマー。その数5体。
 助っ人を連れ、意気揚々とサンダークラッカー達と対峙するキャンサーだったが――
「戦わずに逃げ帰っておいてその上助っ人かよ」
「なっさけなー、オレだってやらねぇぞ、ンなこと」
「だらしねぇヤツだな」
「プライドっちゅーもんはないんかい」
「うるさぁぁぁぁぁいっ!」
 一同から散々にこき下ろされ、キャンサーは思わず絶叫する。
「と、に、か、く! お前らはここでおしまいだってことさ!
 さぁ、ハングルー、やっちゃってぶべっ!?」
 だが、キャンサーは最後まで告げることができなかった。背後からノソリと踏み出した双首ドラゴン型のモンスタートランスフォーマーに押しつぶされたからだ。
「お前の都合なんか知るか」
 あっさりとそう告げると、ハングルーと呼ばれたそのトランスフォーマーはサンダークラッカー達へと向き直り、
「さて、と……
 気は進ねぇけど、そういうワケだ。ワリぃが相手してもらうぞ」
「ずいぶんと余裕じゃねぇか。
 数が多けりゃいいってもんじゃねぇぞ!」
 ハングルーに言い返し、サンダークラッカーがかまえるが、
「待て!」
 それを止めたのはブレインストームだった。
 そして――次に放たれた言葉に、サンダークラッカーは思わず眉をひそめた。
「……逃げるぞ」
「は?
 何言ってんだよ。数が多くたって負けやしねぇって、あんなウスノロどもにゃ」
 確かにパワーでは勝てないかもしれない。だが自分達の武器はパワーよりもむしろスピードだ。かき回してやればどうということはない――ブレインストームの言葉に反論するサンダークラッカーだったが、
「そいつの言うとおり、逃げた方がいいぜ」
 そう告げるのは、手足の生えたサメ型、リッパースナッパーだ。
「そうそう、オレ達強いし♪」
「それが5体だぜ。
 しかもキャンサーだって集団戦ならめっぽう強い――実質6体だ」
「お前ら2体だけで、何ができるってんだよ?」
 ミュータント型のブットの言葉に双頭獣型のシナーツイン、怪鳥型のカットスロートが告げ、彼らはサンダークラッカー達と対峙する。
「おもしれぇっ!
 やれるもんならやってみろ!」
「待て、サンダークラッカー!」
 ブレインストームが止めるがかまいはしない――サンダークラッカーはハングルー達へと突撃。先頭にいたシナーツインに強烈な跳び蹴りを叩き込む。
 それが開戦の合図となった――上空に飛び立ったカットスロートを左手のビームガンで撃ち落すと、サンダークラッカーは飛び掛ってきたブットにカウンターの鉄拳を叩き込む。
「てめぇっ!」
 そんなサンダークラッカーに、リッパースナッパーはかみつこうと飛びかかるが、
「狙い見え見え!」
 サンダークラッカーはリッパースナッパーをつかまえると、パワーボムよろしく頭から地面に叩きつける!
「どうしたどうした!?
 お前らの力はそんなもんかよ!?」
 いとも簡単に3体を打ち倒し、サンダークラッカーはハングルーにそう告げる。
 だが――
(な、なんでぇ、オレってけっこうやれるんじゃんか!)
 内心では彼自身が一番驚いていた。つまらない意地から退かずに立ち向かったが――本音を言えば、6体ものモンスタートランスフォーマーを相手にどこまで戦えるか不安だったのだ。
 しかし――結果は見てのとおり。
 しかもその動きは、自分の記憶している以前のそれではない――実際、ハングルー達も決して弱卒ではない。なのにそれを圧倒できている。
 つまり、サンダークラッカーは自分でも想像ができないほどにその実力を増していたのだ。
 戦歴を見ると撃墜の多いサンダークラッカーだが、これでもマスターメガトロンの下で戦い続けてきた歴戦の猛者だ。その上最近ではなのは達という強敵との戦いを幾度となく繰り返してきている――それらの経験が、知らず知らずのうちに彼の実力を引き上げていたのだ。
「やるじゃねぇか、サンダークラッカー!」
「たりめーだ!
 恩人おまえの見てる前で、そうそうブザマなマネができっかよ♪」
 思わず声を上げる晶に、サンダークラッカーはついつい調子に乗って笑顔で答える。
 と――
「……なるほど……」
 静かに口を開いたのはハングルーだった。
「確かに、デカい口を叩くだけの事はあるじゃねぇか。
 大した強さだ……オレ達でも勝てねぇな」
「へぇ、わかってるじゃねぇか。
 逃げるなら、今のうちだぜ」
 ハングルーの言葉に告げるサンダークラッカーだったが――
「――“今のままじゃ、な”」
「………………はい?」
 続いて放たれたその言葉に、思わず疑問の声を上げる。
「バカヤロー!
 とうとうハングルーを本気にさせちまいやがって!」
 焦りを隠しもせず、そんなサンダークラッカーに告げるのはブレインストームだ。
「あぁなっちまったらどうしようもない!
 一旦退くぞ!」
「どういうことだよ? アイツ、そんなにヤバいのか?」
「けど、さっき『自分達じゃ勝てない』って……」
「『今のままじゃ』とも言っただろうが」
 聞き返すサンダークラッカーと晶に答え、ブレインストームはハングルーを、そしてその仲間達をにらみつけながら、告げた。
「キャンサー以外のアイツら5体は……」

 

「合体戦士だ!」

 

 だが――その忠告は遅かった。ハングルーが頭上に跳躍し、他のメンバーもそれにならう。
 そして、ハングルーはサンダークラッカーに告げた。
「ひとつだけ忠告しておく――合体すると、オレ達自身にもワケがわからなくなっちまうんだ。
 手加減なんかできねぇ――死んでも怨むなよ!」

「テラートロン、スーパーモード!
 スクランブル、クロス!」
 ハングルーの言葉と同時、テラートロン達は一斉に飛び立ち、合体体勢に入る。
 ビーストモードにトランスフォームし、四方に散る仲間達の中央に飛び込んだのはハングルーだ――四肢がたたまれ、ボディもまた反転。双首ドラゴンの頭部を大腿部としたより巨大な胴体部となる。
 続いてリッパースナッパーとブットがハングルーの両側に合体、先端に拳が現れ両腕となる。
 シナーツインとカットスロートはロボットモードから両足をあわせて折りたたみ、露出したジョイント部で連結するようにハングルーの大腿部に合体、両脚となる。
 本体内部から新たな頭部が迫り出し、合体を完了し新たな姿となったテラートロンが咆哮する。
「合体魔獣――オボミナス!」

「ま、マヂかよ!?」
 まるでリンクアップのように――だが、明らかにリンクアップとは違う形式の合体を前にして、サンダークラッカーは思わず驚きの声を上げる。
「へっ、見たか!
 アレがアイツら、チーム“テラートロン”の本当のぶばっ!?」
 復活し、余裕の表情で告げるキャンサーは再び姿を消した――着地した際にあっさりと仲間を踏みつぶし、オボミナスはサンダークラッカー達へと向き直る。
「だから言ったんだ……!」
 サンダークラッカーのとなりで、ブレインストームは思わずうめいた。
「あぁなったら、もう分離するまで手がつけられないんだぞ……!
 昔封印した時だって、分離してる時を狙って叩いたぐらいなんだ」
「そ、そんなバケモノなのかよ!?」
 ブレインストームの言葉に晶が思わず声を上げると、オボミナスが動いた。
「……グオォォォォォッ!」
 その口から迸るのは、紛れもなく獣の咆哮――サンダークラッカー達に向けて一歩を踏み出す。
「くそっ、こうなったらやるしかねぇか!」
 うめいて、サンダークラッカーはオボミナスから距離を取り、
「フォースチップ、イグニッション!」
 地球のフォースチップをイグニッションし、左手のビーム砲を展開する。
 そして――
「サンダー、ヘル!」
 放たれた閃光が、オボミナスの顔面を直撃する――

 はずだった。

「何――――――っ!?」
 射線上からオボミナスの姿が消えた――驚愕するサンダークラッカーを、素早く背後に回り込んだオボミナスが殴り飛ばす!
「サンダークラッカー!」
 思わず声を上げ――かつて対峙したことのある経験からすぐにブレインストームは跳躍した。後方に跳んで、眼前に出現したオボミナスの拳を回避する。
「な、何だよ、アイツ……!
 ムチャクチャ速いじゃねぇか……!」
 うめいて、サンダークラッカーが立ち上がると、
「ぐあぁっ!」
 そんな彼の元に、弾き飛ばされてきたブレインストームが叩きつけられる。
「お、おい、大丈夫かよ!?」
「これが、大丈夫に見えるのかよ……!?」
 サンダークラッカーに答え、ブレインストームはなんとか身を起こす。
「とにかく、一度退くぞ……
 合体されたままじゃ勝ち目はねぇ……! 連中が分離してる時を狙って……」
 そう告げるブレインストームだったが――
「ヤなこった」
 あっさりと言って、サンダークラッカーはオボミナスと対峙する。
「お、おい!?
 話を聞いてたのか!? 今のままじゃ勝ち目は――」
「確かに強ぇよ、コイツ。
 強いし、速い……」
 声を上げるブレインストームに、サンダークラッカーはあっさりと答える。
「けど……オレはアイツより強いヤツを知ってる。アイツより速いヤツを知ってる。
 アイツはライガーコンボイより弱ぇ。ニトロコンボイより遅ぇ。
 アイツらとやるより遥かにマシなんだ。だから……勝てる!」
 宣言し、オボミナスをにらみ返すサンダークラッカーだったが――
「オォォォォォッ!」
 オボミナスはかまいはしない。咆哮と同時に跳躍、サンダークラッカーを踏みつけようと右足を振り上げる!
「逃げるんや、サンダークラッカー!」
 思わず叫ぶレンだが――
「そんなワケには……いくもんかよ!」
 サンダークラッカーはその場から退かない。逆に、自分の胴ほどの太さのあるオボミナスの足を真っ向から受け止める!
「アホ! 何意地張っとんのや!
 受け止められる重さやないやろ! はよ逃げるんや!」
 レンがさらに呼びかけるが、サンダークラッカーは踏ん張るばかりで逃げようとはしない。
 これではラチがあかない――レンは晶へと向き直った。
「晶! アイツお前の仲間なんやろ!
 お前からも止めるんや! あんなのムチャすぎる!」
 晶ならきっとサンダークラッカーを止めてくれる――期待と共にそう告げるレンだったが、
「……オレがアイツなら……やっぱり逃げたくねぇ」
「晶!?」
「オレがアイツなら……絶対あそこから退かない。
 だから――退かせない!」
「アホか、このおサル! そないなこと言うとる場合やないやろ!
 あのままあそこにいたら、反撃だってできへんやろ!」
 サンダークラッカーを信じる晶の言葉にレンが反論すると、
「ひとつ、いいこと教えてやるよ……!」
 そんなレンに、サンダークラッカーが告げた。
「コイツらがどうかは知らないけど……少なくとも、オレ達セイバートロン星のデストロンは、決定打をもらうまで、逃げるワケにはいかねぇんだよ!」
 ま、昔はオレもすぐあきらめる弱虫だったけどな――胸中でそう付け加え、サンダークラッカーは全身に力を込め、押し返す!
 そして――
「今だ、ブレインストーム!」
「くそっ、もうどうにでもなれだ!」
 かけられた声に答え、ブレインストームは上空に飛び立ち、
「フォースチップ、イグニッション!」
 地球のフォースチップをイグニッション。背中のチップスロットにフォースチップが飛び込むと、背中にマウントされていたビークルモード時の機首が分離。右肩にキャノン砲となって再合体し、
「ストーム、ブラスター!」
 サンダークラッカーを踏みつけて動きを止めたオボミナスの顔面を狙い、最大出力でビームを撃ち込む!
 回避もままならない状況で一撃をもらい、オボミナスはバランスを崩し――
「どっせぇいっ!」
 そのスキをサンダークラッカーは見逃さなかった。全身のバネで踏ん張り、オボミナスを転倒させる!
「ふぅっ、やっと出られだびゃっ!?」
 踏み潰され、押し込まれた地中から這い出してきたキャンサーを再び押しつぶし、倒れ込むオボミナスを前にサンダークラッカーとクロームドームはそれぞれの火器をかまえ、ビームを雨あられと降り注がせる。
 しかし――彼らの火力では決定打には至らない。ビームを次々に叩きつけられながらもオボミナスはゆっくりと立ち上がる。
「あかん! 効いとらん!」
「くそっ、これじゃキリがないぜ……!」
 もう逃げろと言うつもりはない。だが、オボミナスに対抗するには攻撃力が絶対的に足りない。ラチのあかない現状にレンと晶がうめき――
「………………ん?」
 最初に気づいたのはサンダークラッカーだった。
 レーダーに新たな反応。これは――
「……おい、ブレインストーム」
「あぁ」
 ブレインストームも気づいていた――サンダークラッカーの呼びかけに対して静かにうなずく。
「援軍の、到着だ」
 次の瞬間――オボミナスは真横から強烈な衝撃を受けて弾き飛ばされた。
 同じくらいのサイズの、“二人の”巨人の蹴りをまともに受けて。
 そして、倒れ込むオボミナスの前に彼らは着地した。
 ガーディオンと、ダイリュウジン――上空には彼らを乗せて飛来したグランダスの姿もある。
「あ、アイツら……!?」
 突然姿を現した2体の合体戦士を前に、ようやく復活したキャンサーがうめき――
「ブロードキャスト、いきまーすっ!」
「ぶぎゃっ!?」
 飛来したブロードキャストがキャンサーを思い切り蹴り飛ばす――グランダスやダイノボットと合流していたのは、プロテクトボット達だけではなかったのだ。
 そして――
「レン、晶!」
「無事!?」
「し、士郎さん!?」
「エリスさんまで!?」
 すでにブロードキャストから降りていた士郎とエリスに声をかけられ、晶とレンは思わず驚きの声を上げる。
「どうして、士郎さん達が!?」
 レンと顔を見合わせ、代表して晶が尋ねると、
「そんなことより、今はここから避難しないと!」
 遅れて駆けつけ、声をかけるのはさつきと都古を連れたシェリーだ。
「合体戦士が3人もいるんだよ――ここに私達がいたら、思い切り戦えない!」
「ダイリュウジン達のジャマになっちゃう……早くここから逃げよう!」
「け、けど……!」
 さつきと都古が告げるが、サンダークラッカーの身を案じる晶は踏ん切りがつかない。
 と――
「行けよ、晶」
 そんな彼女に、サンダークラッカーは告げた。
「ここはオレ達だけで十分だ。早く!」
 なおも告げるサンダークラッカーの言葉に、晶はしばし考え――
「信じて……いいんだな?」
「切り札のアイデア有り。任せろ」
 その言葉に無言でうなずき、晶はレンや士郎達と共にその場を離れる。
「で? アイデアがあるって?」
「一応ね」
 尋ねるブロードキャストに、サンダークラッカーが答える。
「サルマネみたいでちょっとカッコ悪いけど……試してみたい攻撃がある。
 間違いなく賭けだけど、これができれば――間違いなくブッ倒せる」
「……なら、それに賭けるしかないな」
「あぁ」
 つぶやくブレインストームにブロードキャストがうなずくと、
「グォオォォォォォッ!」
 咆哮し、復活したオボミナスがガーディオンとダイリュウジンを力任せに押し戻す!
 そのパワーはガーディオン達2体の合体戦士を相手にしてもまったく引けをとらない。ブレインストームが戦いを避けようとしたのも、今さらながらうなずけるというものだ。
「チャージに1分は欲しいところだけど……30秒でいい。
 30秒だけ、ヤツの動きを止めてくれ」
「了解。いくぜ、ブレインストーム!」
「合点承知!」
 サンダークラッカーの言葉に答え、ブロードキャストとブレインストームはガーディオン達に加勢し、オボミナスの足止めにかかる。
「……さて、やるか!」
 一方、サンダークラッカーは自らに気合を入れると左手のビーム砲をかまえ、
「フォースチップ、イグニッション!」
 地球のフォースチップをイグニッション。ビーム砲を展開する。
 だが――まだ撃たない。オボミナスへと照準を向けたまま、サンダークラッカーはチャージを続け――

「……あれ……?」
 離れたところに避難し、戦いを見守っていた晶はそれに気づいた。
「どうした? 晶」
「あ、えっと……」
 尋ねる士郎に、晶は戸惑いながらも答える。
「サンダークラッカーの目の前に……なんか、光が集まってるような……」
「光が……?」
 その言葉に都古が目をこらしてみると、確かにサンダークラッカーのかまえた左手のビーム砲の先端に周囲から光が集まっていくのが見える。
「あれって……?」
 視線を向けるさつきにうなずき、シェリーは答えた。
「周囲のエネルギーを……収束させてる……!」

「あの小娘が撃ってもマスターメガトロン様に傷を負わせるくらいの攻撃なんだ……!
 当たれば、あんなヤツ……!」
 幾度となく対峙してきた白いバリアジャケットの少女魔導師――なのはの戦いを思い出しながら、サンダークラッカーはエネルギーのチャージを続ける。
 先程から集めたエネルギーは歪み、ねじれ、すぐにでも暴走しようと荒れ狂っている。これを制御しているなのはを、この時ばかりは素直に尊敬したいと思っていた。
 だが、そんな感傷は後回しだ。チャージの完了したそれを、サンダークラッカーはガーディオンとダイリュウジンに押さえつけられているオボミナスに向けてかまえる。
「いいぜ! 離れろ!」
 サンダークラッカーの言葉を合図に、一同が散開する――後は“力”を解き放つだけだ。
「あの小娘が『星の光スターライト』なら、さしずめオレは――」
 もはやビーム砲は砲としての役割を果たしていない。砲ではなく――
 ――トリガーにすぎなかった。
「スターダスト、スマッシャー!」

 

 その瞬間――“力”が解き放たれた。

 轟音と共に、『星屑の一撃』と名づけられた閃光の渦が荒れ狂いながら突き進む。
 速度、範囲共に超1級。いくら素早かろうが、回避できるレベルではない――その一撃は、まともにオボミナスを直撃、その流れに巻き込んでいく。
 やがて、光の渦はかろうじてサンダークラッカーが行った操作で上空へと軌道を変え、オボミナスを空の彼方まで吹き飛ばしていった。
「……ウソぉ……」
 まさかオボミナスがやられるとは思っていなかった――呆然とキャンサーがつぶやくと、
「さて、後はお前だけだな」
「え………………?」
 その言葉に振り向くと――そこにはブロードキャストの姿があった。
 そして気づく――もはや戦場に味方は誰ひとりとしていないことに。
「あー、いや、えっと……」
 助けのない状況に、キャンサーは思わず後ずさり――とりあえず尋ねる。
「見逃してくれるつもり、ない?
 ホラ、一応同じモンスターだし……」
「オレは『元』だ」
 あっさりと却下された。
「とはいえ、オレ今回何も悪さしてないぜ。
 踏まれてつぶされて蹴り飛ばされて……」
「だから?」
 もたもや却下。
「っていうか……」
 そして、ブロードキャストはキャンサーに告げた。
「ここんトコ出番なかったからさ。
 オレの見せ場のためにブッ飛んでくれ」
「ちょっと待て! そんな理由で納得できるかっ!」
「心配するな! 今はパートナー不在だ!
 普段よりも少しは弱い!」
「安心できるかぁぁぁぁぁっ!」
 思わず絶叫するキャンサーだが――ブロードキャストはかまいはしない。
「フォースチップ、イグニッション!」
 地球のフォースチップをイグニッションし、両肩に大型スピーカーを展開、キャンサーへと向け――
「サウンド、ボンバー!」
 放たれた衝撃波はまともにキャンサーをブッ飛ばし、
「何でオレだけ、こうなんのぉぉぉぉぉっ!」
 自らの不幸を呪う叫びを残し、キャンサーもまた空の彼方に消えていった。
「よっしゃ、全滅!」
「大したものだな」
 ガッツポーズを決めるブロードキャストに、士郎が労いの言葉をかけた。
「これじゃ、私に協力を求める必要はなかったんじゃないのか?」
「でもないっスよ。
 人間とのコンタクトに、エリスや士郎さんはどうしても必要さ」
 士郎に答え――ブロードキャストは視線を落とした。
「……“あの時”みたいなことにならないためにも、人間とはちゃんと連携しないとな……」
「………………わかっている」
 士郎もまた深刻な表情でうなずく――彼らにしかわからない事情もあるのだろうと納得することにして、晶は自分もサンダークラッカーを労おうと振り向き――
「………………ん?」
 気づいた。
「どうした? レン。
 元気ねぇな」
「ん?
 あぁ、なんでもあらへんよ。
 じゃ、ウチもブレインストームに『お疲れ』言ぅてくるわ」
 言って、ブレインストームの元に向かうレンを見送り――晶はふと気づいた。
「……アイツ……もしかして……」

「しかし、お前達までトランスフォーマーと出会っていたとはな……」
「は、はぁ……」
「狭いな、世間って……」
 戦いも終わり、彼らはグランダスに集合した――思わずつぶやく士郎の言葉に、戸惑いがちにレンと晶がつぶやく。
「それで……これからどうします?」
「ライブコンボイ達と合流するのが先決だけど……連絡取れてないんだろ?」
「あぁ……
 どうやら、独自に動いてるみたいだが……」
 尋ねるさつきとブロードキャストに、合体を解いたホットスポットが考え込みながらそう答える。
 と、グランダスが一同に告げた。
「とにかくこの場を離れよう。
 このまま市街地にいては、街を巻き込むことになる」
「あ…………」
 その言葉に声を上げかけたのはレン――何かを言いかけるがすぐに口をつぐむ。
 が――そんな彼女に気づいていた者がいた。
「あー、ちょっといいですか?」
 軽く手を挙げてそう告げると、晶は士郎に声をかけた。
「士郎さん、レンなんですけど……」
「おサル……?」
 突然自分の名を出され、戸惑うレンだったが、士郎はそんな彼女よりも先に晶の言いたいことに気づいていた。
「わかってる。
 移動する前に、小梅さん達には会っておかないとな。
 本当のことは言えなくても、せめて何かしらごまかしておかないと、心配をかけることになる」
「…………はい」
 士郎の言葉に、レンは思わず安堵の息をもらした。
 レンの抱いていた最大の懸念――このままブレインストーム達と行動を共にする形になれば、家族と連絡を取れないまま中国を離れることになる――その不安を、晶はすでに見抜いていたのだ。
 そんな晶に、レンはチラリと視線を向け――
「……お、おサルにしては気が利いとるやんか」
 精一杯の虚勢で彼女に告げた。

「……微笑ましいっつーか素直になれっつーか……」
 そんな彼女のやり取りを前に、ブレインストームは思わず肩をすくめた。
 本人に断りなく勝手に話を進める晶も晶なら、素直に礼を言えないレンもレンだ。
 まぁ、ライバル関係なんてそんなものだろう――などと考えながらブレインストームは振り向き――
「で……お前は何考え込んでんだ?」
「いや……何かさっきから引っかかってさぁ……」
 尋ねるブレインストームに、サンダークラッカーはしきりに首をかしげながら答える。
(高町士郎……あの小娘と同じファミリーネームなんだよなぁ……
 いくら何でも、そこまで世間は狭くないと思うけど……)

 その考えが心底甘いものだったと、サンダークラッカーはすぐに思い知ることになる――


 

(初版:2006/08/27)