「なるほど……
 では、お前もこの状況に対して事情を把握しているワケじゃないのか」
「はい……」
 八神家限定で展開されたカムフラージュシールドの中――つぶやくビッグコンボイの言葉に、はやては息をついてそう答える。
「状況を確かめに行ったシグナム達とも連絡つかへんし……」
「ヤツらならば心配はいるまい。それなりにうまく立ち回るさ。
 『便りがないのは良い便り』とも言うしな――ヤツらを信じてやれ」
 不安げにつぶやくはやてに答え、ビッグコンボイは軽く肩をすくめてみせる。
「せやけど、まさかビッグコンボイがシグナム達と知り合いやったなんて……」
「ん? まぁな……」
 そううなずく一方で、チラリとはやてに視線を向ける。
 シグナム達が――そして現在のスターセイバー達が“闇の書”に従う守護騎士であることはすでに周知の事実だ。そんな彼女達の事情を知っているということは、はやてが彼女達の主――もしくはそれに近しい者であると考えてもいいだろう。
 だが、今の話から推察する限り、はやてはシグナム達のしていることを知らないようだ。ということは――
(……こいつには知らせないまま動いている、ということか……)
 一瞬、事情を知らせるべきかとも考えるが――
「……以前、ちょっとした行き違いから剣を交えたことがあってな」
 しかし、結果思いとどまった。当たり障りのない返答を選び、そうごまかす。
「ともかく、今はこの場を離れるのが先決か……
 今はいいが、人が戻ってきては身動きが取れなくなる」
「せやな……」
 ビッグコンボイの言葉にうなずくと、はやてはしばし考え――
「……なぁ、ビッグコンボイ」
「ん?」
「今、傭兵さんやっとるんやったな?」
「あぁ」
「今フリーなん?」
「一応な。
 地球に来たのも私用にすぎん」
 うなずくビッグコンボイに対し――はやては真剣な表情で尋ねた。
「わたしに雇われる気、あらへん?」

「エクシリオン!
 ファストエイド!
 バックパック!」
「ロングラック!
 ハイブロウ!」
 彼らの被弾はすぐに気づいた――瞬く間に瀕死の重傷を加えられた5人の姿に、ギャラクシーコンボイとフェイトは思わず彼らの名を叫ぶ。
「ギャラクシーコンボイさん!」
「うむ!」
 なのはの言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイが彼らの元に向かおうとするが、
「おぉっと、どこへ行く!?」
 そんな二人の前に、フレイムコンボイが立ちふさがる!
「ジャマ、しないでよ!
 プリムラ!」
《了解っ!》
 対し、なのはの指示でプリムラは彼女から分離し、
《プリムラ、ビークルモード!》
 エネルギープールをタイヤに、翼をカウルに変形させ、高速バギー形態に変形する。
 そして――
《「フォースチップ、イグニッション!」》
 二人の叫びが交錯。プリムラの背中から車体後部に移ったチップスロットへと黄色のフォースチップが飛び込み、タイヤがさらにホバーユニットへと変形し、ホバーボードとなったプリムラはなのはを乗せて上空高く舞い上がる。
 そして、レイジングハートをかまえたなのはと共に一転、急降下し――
《「パニッシャー、スコール!」》
 なのはのイグニッションパニッシャーが、プリムラが口から放った魔力熱線と共にフレイムコンボイへと降り注ぐ!

 

 


 

第37話
「転生、転生、また転生なの!」

 


 

 

「貴様……! 一体何者だ!?」
「すでに名乗ったはずだ――
 ホラートロンの長、恐怖大帝スカイクェイク、と」
 うめくマスターメガトロンに対し、スカイクェイクは平然とそう答える。
「貴様らこそ何者だ。
 永き封印から目覚めてみれば、封印の地には我が部下はもちろん、勝手に暴れ回っていたこの星のトランスフォーマー達もいなかった。
 手がかりを求めて戦いの行われていたこの場に着てみれば、いるのは見たこともない顔ばかり……」
「フンッ、貴様、この星の原住トランスフォーマーか。
 ならば知るまい――この星の外で何が起きているのか」
「何………………?
 では、貴様ら、よその星から来たというのか?」
 マスターメガトロンの言葉にスカイクェイクが聞き返すと、
「ぅおぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮と共に、ギャラクシーコンボイがエクシリオン達を救うべく突っ込んでくる。
 しかし――
「ジャマをするな!」
 気づいたマスターメガトロンがそれを阻んだ。デスマシンガンで頭上の岩山を粉砕し、崩れ落ちてきた岩でギャラクシーコンボイの行く手をふさぐ。
「貴様はそこでおとなしくしていろ!」
 岩の向こうのギャラクシーコンボイに告げると、マスターメガトロンはエクシリオン達へと向き直る。
「いい機会だ。
 とびとして油揚げをさらわせてもらうぞ」
 エクシリオン達に確実にトドメを刺すべく、デスマシンガンを向け――
「――――――待て」
 制止の声を上げたのはスカイクェイクだった。
「そいつらはもはや助からん。
 せめて安らかに逝かせてやるのが戦士の慈悲」
「何を甘いことを……!
 戦士の慈悲だと? そんなものは知ったことか!」
 スカイクェイクに言い返し、マスターメガトロンはデスマシンガンの引き金に指をかけ――
「させるかぁっ!」
 突然飛び込んできた影が、マスターメガトロンを突き飛ばす!
 ニトロコンボイだ――勢いの乗った体当たりを受け、さすがのマスターメガトロンもたたらを踏み、その拍子に放たれたデスマシンガンの銃弾は遥か上空に消えていく。
「エクシリオン達は――やらせない!」
「おのれ……目障りな!」
 ニトロコンボイのライドスペースで告げる耕介に言い返し、マスターメガトロンはデスマシンガンを彼らに向け――
「待て待てぇっ!」
「させないのだぁっ!」
 さらにロディマスブラーと美緒が乱入した。放たれたドロップキックが、マスターメガトロンを背後からブッ飛ばす!
 そして、
「キミ達の相手はボク達だ――マスターメガトロン、スカイクェイク!」
「ほぉ、ライブコンボイじゃないか。
 ずいぶんと久しいな」
 駆けつけたライブコンボイの言葉に、スカイクェイクはブレードモードのデスシザースを肩に担いで感嘆の声を上げる。
「ダージガンとスラストールは?」
「ライブコンボイが岩山に埋めてきた。
 しばらくは出られないはずだよ」
 尋ねるロディマスブラーに真一郎が答え――彼らは二人の大帝に向けて地を蹴る。
「ベクタープライム! フレイムコンボイは私達で抑える!」
「今のうちに、エクシリオン達をカモフラージュシールドの外に、退避させて!」
 フレイムコンボイをライガージャックと共に押さえつけ、告げるギャラクシーコンボイの言葉をフェイトが続ける。
 そして――
「ベクタープライム、行け!」
「コイツは、オレと真雪で食い止める!」
 当のベクタープライムと対峙していたデモリッシャーの突撃を受け止め、真雪とガードシェルが告げる。
「なめるなぁっ!」
 さっきまでさんざん迷っていたクセに――ガードシェルの言葉に激昂し、押さえ込みにかかるデモリッシャーだったが、
「デモリッシャー、目を覚ませ!」
 咆哮と同時――ガードシェルはそんなデモリッシャーを力任せに持ち上げ、投げ飛ばす!
「真雪!」
「あぁ!」
 そして、ガードシェルの言葉に真雪が答え、
『フォースチップ、イグニッション!
 トルネード、カッター!』

 地球のフォースチップをイグニッション。トルネードカッターでデモリッシャーを弾き飛ばす!

「う……く…………っ!」
「大丈夫か!?」
 大地に倒れるバックパックに駆け寄り、声をかけるベクタープライムだったが、バックパックはそんな彼に向き直り、弱々しく告げる。
「いつかは……こんな日が来ると思ってましたよ……!」
「弱気なことを言うな!」
 バックパックの言葉にベクタープライムが叱咤すると、
「バックパック!」
「エクシリオン!」
 声を上げ、アリサとすずかがそんな彼らの元へと駆け寄ってきた。
 見れば、シオン、那美と久遠、そしてノエル――重傷を負ったそれぞれのパートナーも一緒だ。
「みんな、私と来るんだ。ここは危険だ」
 そんなアリサ達にベクタープライムが告げた、その時――
『おぉぉぉぉぉっ!』
 咆哮と共に、近くの岩山が弾け飛ぶ!
「ライブコンボイ、どこ行ったんやぁっ!」
「よくも岩の下敷きにしてくれたな!」
 そして現れたのはダージガンとスラストール――ライブコンボイによって岩山に埋められていた二人である。
「く………………っ! こんな時に……!」
 エクシリオン達を一刻も早く安全な場所に運ばなくては――剣をかまえ、ダージガン達の攻撃に備えるベクタープライムだったが、
「いっけぇっ!」
〈Blaze Cannon!〉
 咆哮と同時――放たれた閃光がダージガン達を吹き飛ばす!
 そして現れたのは――
「みんな、こっちだ!」
「クロノ!?」
「すまない、遅くなって……」
 声を上げるシオンに答え、クロノは一同を見渡し、
「とにかく、今はエクシリオン達の避難が先だ。
 転送ポートの具合が悪いから直接アースラへは飛べないが――とりあえずここを離れよう」
 言って、クロノは魔法陣を展開し――数秒後、彼らの姿はそこから消えた。

「……ひどい……!」
 転送を終え、改めて見たエクシリオン達のダメージは深刻なものだった――傷だらけの彼らを前に、那美が思わず声を上げる。
「早く、治さないと……!」
 言って、工具を取り出すすずかだったが――
「待つんだ、すずか!」
 そんなすずかを止めたのはクロノだった。
「キミの工具だけでなんとかなるダメージじゃない。
 まずはポートの回復を待って、アースラに運んで……」
「それじゃ間に合わないよ!」
 クロノの言葉に、すずかは思わず言い返す。
 アースラがプラネットフォース発動の際に受けた影響は転送ポートだけではない。アースラの機能が回復するまで待っていては、彼らの命が――
 だが、助けは意外なところからもたらされた。突然頭上に巨大なゲートが展開され、姿を現したのは――

 

 次元間航行母艦“マキシマス”だった。

 

「おぉぉぉぉぉっ!」
「どっせぇぇぇぇぇいっ!」
 咆哮が交錯し――スカイリンクスとメナゾールの拳がぶつかり合い、
「――恭也!」
「おぅっ!」
 スカイリンクスに答え――恭也の小太刀がメナゾールのヒザに一撃を叩き込む。
「勝負だ、スカイクェイク!」
「小ざかしいっ!」
 ライブコンボイに言い返し、スカイクェイクはライブコンボイのジャイロソーサーを弾くが、
「シックスショット、トランスフォーム!」
 咆哮し、シックスショットが肉食獣形態のビーストモードにトランスフォーム。背後からスカイクェイクに襲いかかる。
 その一方で、スターセイバーとシグナムは空中でヘルスクリームやマックスビーと激しく斬り結び、ダイアトラスの踏み付けをウィアードウルフ達は散開してかわす――
 サイバトロン、マスターメガトロン派、スタースクリーム派、スタントロン・バンディットロン連合軍、そしてスカイクェイク――五つ巴となった戦場は、ますます混乱の度を深めていく。
 そんな中――また新たな犠牲者が生まれようとしていた。

『フォースチップ、イグニッション!』
 まずはデカブツを叩くことで利害が一致した――同時にフォースチップをイグニッションし、インチアップとパズソーはそれぞれの武器を向け、
「アーム、ミサイル!」
「ショルダー、バルカン!」

 放たれた一撃が、ビーストモードのギガストームに降り注ぐ!
 だが――
「効かんわぁっ!」
 ギガストームには通じない――炎の中から飛び出してきた鋼の竜が、繰り出した尾の一撃で二人を弾き飛ばす!
「さっきからチョロチョロと……うっとうしいわ!
 ギガストーム、ビークルモード!」
 いいかげんザコの相手にも飽きた。決着をつけるべく、ギガストームは切り札を切った。両肩の肩アーマーで頭部を覆い、四肢もたたんで第3の形態、ドリルタンクモードへとトランスフォームする。
「フォースチップ、イグニッション!」
 さらに、ギガストームはフォースチップをイグニッション。飛来したガンメタルのフォースチップが車体上部のチップスロットに飛び込むと、大きく全面に張り出したドリルが回転を始める。
 そして――
「ギガ、スパイラル!」
 全速力で突撃、高速で回転するドリルがパズソーのボディを深々と抉り抜く!
「パズソー!」
 たとえ今は敵対していても元々は同郷の、しかもデストロンに所属していた仲間だ。思わずインチアップが声を上げ――
「貴様の相手はオレだ!」
 言って、オーバーロードがインチアップを蹴り飛ばす。
「お前には、オレのトランスフォームの実験台になってもらうぜ!
 トランスフォーム――タンクモード!」
 咆哮し、オーバーロードは車体の左右に大型のキャノンを装備した戦車形態へとトランスフォームし――
「トランスフォーム――ボンバーモード!」
 さらに、ボディ両横の翼を展開し、巨大な爆撃機ボンバー形態となって大空へと舞い上がる!
「バカな……飛行能力だと!?」
「アニマトロスじゃ、走るよりも飛ぶ方が便利だったからな!」
 驚くインチアップに答え、オーバーロードは上空でロボットモードへとトランスフォーム、そのまま重力に導かれてインチアップに向けて急降下する。
「フォースチップ、イグニッション!」
 そのまま落下しながらイグニッション。藍色のフォースチップが左腕のチップスロットに飛び込むと、腕の甲からブレードが飛び出し、さらにエネルギーコーティングされて巨大な刃となる。
「このヤロー!」
 しかし、それでもインチアップはひるまない。上空から襲いくるオーバーロードへと両肩のショルダーバルカンを放つが――
「エネルゴン、クレイモア!」
 オーバーロードには傷ひとつつけられなかった――逆にエネルギーブレードによる強烈な斬撃を受け、その身体を深々と斬り裂かれる!
「トドメだぁっ!」
「覚悟しろ!」
 一気に詰める――トドメを刺すべく、二人の大帝は傷ついたインチアップ達へと襲いかかり――!

 エクシリオン達を回収し、マキシマスは彼らをより本格的な修理のできる場所――アースラへと送り届けるべく、時空間を航行していた。
「だ、大丈夫だよね? すずかちゃん……
 スピーディアの時だって、エクシリオンを治せたんだし、今回も……!」
「わかりません……!
 あの時とは、ダメージのケタが違うし……!」
 不安を隠しきれず、つぶやく那美に、すずかはエクシリオンの応急手当を続けながら答える。
「せめて、ファストエイドが回復すれば……
 彼は医者でもあります。治し方を聞けると思うのですが……」
 つぶやき、ファストエイドのメディカルセンサーへと視線を向けるシオンだが、先程から表示されているファストエイドのスパークのパルスは弱々しいままだ。
「しっかりしなさいよ、バックパック!」
 一方で、バックパックへと必死に呼びかけるアリサだが、
「いつかは……こんな最期を迎えるとは思っていたけど……今日がその日だったとはね……!」
「大丈夫よ! 絶対元気になるから!」
 弱気なバックパックの言葉に、アリサは目尻に涙を浮かべながらも励ましの言葉を向ける。
「フォートレス様、なんとかならないんですか?」
「マキシマスは、元々デストロンとの戦闘に特化させた艦だ。
 ここの施設では、彼らの延命が精一杯だ……!」
 尋ねるノエルに、懸命に治療システムを操作しながらフォートレスが答えると、
〈フォートレス!〉
 そこに、ブリッジを任せていたシャマルから連絡が入った。
〈間もなくアースラと合流します!
 すでに本局からスタッフも派遣してもらったそうです――合流と同時に、すぐに取りかかってもらいます!〉
「了解だ」

「デスフレイム!」
 咆哮し、フレイムコンボイがデスフレイムを放つが、
「フォースチップ、イグニッション!
 タキオンフィールド!」

 ベクタープライムが久しぶりのイグニッション。タキオンフィールドを展開し、
『ゴッド、マックスバーニング――』
「ギャラクシーキャノン――」
「バスター、レイ――」
『トリプル、フルバースト!』
 ゴッドジンライとヴィータ、そしてギャラクシーコンボイとなのはが、一斉射撃でカウンターをお見舞いする。
 一方、
『フォースチップ、イグニッション!
 ロディマス、ショット!』

「ぐぅ………………っ!」
 美緒とロディマスブラーの放った一撃をまともにくらい、マスターメガトロンは思わずたたらを踏み――
「こっちも行くぞ!」
「おぅっ!」
 耕介の言葉に答え、ニトロコンボイはビークルモードでマスターメガトロンへと突撃し、
『フォースチップ、イグニッション!
 マッハショット!』

 放たれた閃光がマスターメガトロンの背中を直撃する!
「おのれ、目障りな!」
 対し、マスターメガトロンはニトロコンボイに向けてデスマシンガンを放つが――いくら威力があろうと当たらなければ意味はない。ニトロコンボイはあっさりとそれをかわし、ロディマスブラーと合流する。
 しかし――マスターメガトロンはそんな二人を前につまらなさそうに肩をすくめ、
「フンッ、貴様らの相手も飽きたわ」
 言うなり、上空にワープゲートを展開。その場を離脱しようとするが――
「させるか!」
 それを阻んだのはクロノだった。ブレイズキャノンでワープゲートを吹き飛ばす!
「貴様ら……あくまでジャマをするか……!」
「当然だ!」
 うめくマスターメガトロンに答え、ギャラクシーコンボイはなのはと共にクロノと合流する。
「マスターメガトロン、お前がスタースクリームと戦えば、地球に甚大な被害が出る!
 ここから出すワケにはいかない!」
「もうちょっと――わたし達の相手をしてもらいます!」
 ギャラクシーコンボイとなのはがマスターメガトロンに告げ――次の瞬間、彼らは弾かれるように加速していた。

「その基盤は右腕の制御用です!
 それから、そのパーツはバイクのショックアブソーバで代用できるはずで……
 あぁっ! そのラインは切らないで! 黄色いラインにつないでください!」
 あわただしく整備スタッフが駆け回る中、すずかは矢継ぎ早に指示を飛ばす。
 彼女達は現在、アースラの格納庫で本局からの応援として呼ばれたマリーやサイバトロン基地から駆け付けた忍や琥珀、ホップ達と共にエクシリオン達の治療を続けていた。
「すごいですね、彼女は……」
「今、地球で一番トランスフォーマーの身体について知っているのはあの子だもの」
 一番年下なのに、完全に主任的な立場で現場を回している――感心するマリーに答え、リンディは改めてすずかへと視線を戻した。
 スタッフ達に指示を出しながらも、彼女自身も油まみれになりながら、先ほどから懸命にエクシリオンの治療を続けている。
 忍からのアドバイスも受けながら作業を進めるすずかの姿を見守り――リンディはつぶやくように告げた。
「今は、あの子達を信じるしかないわ……」

 一方で、他の傷ついた面々も、懸命の手当てを受けていたが――彼らの受けていたダメージは余りにも深刻なものだった。
「ざっと見た限りでも、機能不全は50ヶ所以上あります……」
「じゃあ、50ヶ所治せば助かるんでしょ!?
 早く何とかして!」
 バックパックを診察したホップにアリサが懇願するが、
「……そう、簡単には、いかないよ……!」
 そう彼女に告げたのは――
「ファストエイド!?」
「よかった……気がついたんですね!?」
 声を上げ、シオンとノエルが意識を取り戻したファストエイドへと駆け寄る。
「ここは……アースラの格納庫……?」
「そうだよ。
 心配しないで。本局から応援も来てくれたし、フォートレスやシャマルさん達も手伝ってくれてる――きっと良くなるよ!」
 尋ねるファストエイドにすずかが答えるが、
「気持ちはありがたいが……ムリだよ……」
「え………………?」
 ファストエイドから告げられた意外な言葉に、すずかのとなりでアリサは思わず声を上げた。
「自分の身体のことは、自分が一番良くわかる……
 それに、バックパックやエクシリオン、ロングラックも、ハイブロウも……」
「そんなことないですよ!」
「そうだよ、ファストエイド!
 治し方、教えてよ!」
 思わず反論する那美とすずかだが――
「ありがとう……
 だが、もう手遅れなんだ……」
 ファストエイドの答えは絶望的なものだった。
 と――
「やっぱり、そうですよね……」
 そんな彼に同意したのはバックパックだった。
「アリサ……もう、立ち上がることもできないんだ……!」
「ダメージは、中枢部にまで達してる……たとえ治すことが可能でも、ボクらのスパークは……!」
「そんなこと言わないでよ……!」
 バックパックと、同意するハイブロウの言葉に、アリサは涙を浮かべて告げる。
「しっかりしてよ、みんなぁっ!」
 叫ぶアリサだったが――その叫びは虚しく響くばかりだった。

「トランスフォーム!」
 咆哮し、ビーストモードからロボットモードへと戻ったシックスショットの斬撃を、スカイクェイクはデスシザースで弾き飛ばし、
「いっけぇっ!」
 その間隙をぬうように迫る美由希の小太刀を、スカイクェイクは身をひねって装甲に当て、しのぐ。
「やるじゃないか――人間!」
「あなたこそ――それだけの力がありながら、どうしてこんなことを!」
「知れたこと!」
 美由希に答え、スカイクェイクは彼女を力任せに弾き飛ばす――何とか耐えしのぐ美由希だが、大きく押し戻され、ブーツが大地をこすり土煙を上げる。
 そして――
「貴様ら人間に代わり――トランスフォーマーが支配者となる世界を作るためよ!」
「――――――っ!?」
 土煙に紛れた一瞬の間に美由希との間合いを詰め、スカイクェイクが美由希へとブレードモードのデスシザースを振り下ろす!
 巨体に見合わぬスピード――驚愕する美由希に、スカイクェイクの放った凶刃が迫り――

 

「危ない――師匠!」

 

「え………………?」
 一瞬にして、その攻防は終わりを告げていた。
 スカイクェイクの刃が自分を襲うことはなかった。その前に割って入った人物が、斬撃に自らの一撃を当てて刃の軌道を変え――
「……よかった……!
 無事で……ござるか………師匠……!」
 美由希の無事を確認してつぶやく、シックスショットの身体には――肩口から袈裟がけに巨大な刀傷が刻まれていた。

「すずか……それに、フォートレスも……キミ達もメカを扱う者なら、本当はわかっているんだろう……?
 我々のこのダメージの状況が、どれくらい絶望的なのか……!」
「……そう、なんですか……?」
 尋ねるシャマルの問いに、フォートレスはメンテナンスマシンの操作を続けたまま答えない。
 だが――悔しさに歪んだ口元が、そのすべてを物語っていた。
「医者も、さじを投げるってヤツですか……」
 どうすることもできないのか――無力感にさいなまれる一同と共にロングラックがつぶやくが、
「そんなこと、ない……!」
 すずかが静かに口を開いた。
「そんなこと……絶対にない……!」
 すずかが改めてそう告げると、
「……そう、だ……!」
 新たな声が上がった。
 エクシリオンだ。
「エクシリオン!?
 よかった……意識が戻ったんだ!」
「あぁ……
 こんなところで……死んでたまるか……!」
 声を上げるすずかに、エクシリオンが答える。
「そうですよ、エクシリオン!」
「えくしりおん、しんじゃだめ!」
「そうよ!
 あきらめが悪いのがエクシリオンの取り柄じゃない!」
「そういう、ことだ……!」
 那美、久遠、そしてアリサの言葉に答えるエクシリオンだが――
「……でも、すずか……“どうしてこの部屋はこんなに暗いんだ”……?」
「え………………?」
 エクシリオンのその言葉に、すずかは動きを止めた。
 現在格納庫の中は彼らの手当てのために全ての照明をつけている。ということは――
「エクシリオン……ひょっとして、目が……!?」
「目が、どうした……?
 こんなの、気合一発で復活さ……!」
 シオンに答え、身体に力を入れようとするエクシリオンだが――
「……あ、あれ……?
 なんでかな……力が、入らないや……」
 出力が上がらない――つぶやくその声からも力が抜けていくのがわかる。
「なんでよ……!
 どうにもならないの? わたし達じゃ……!」
 死の迫るエクシリオン達を、ただ見ていることしかできない――バックパックの前で崩れ落ち、アリサはとうとう泣き出していた。
「また……また、バックパックと一緒に宇宙に行きたいのに……!」
 彼女の脳裏によみがえるのは、かつてバックパックと共にスペースブリッジの入り口まで登った時のこと――
 デストロンの攻撃の流れ弾で散々な目にあったりもしたが、あれもアリサにとってはバックパックとのかけがえのない思い出のひとつなのだ。
 あの時のような、楽しい時間はもう訪れないのか――いつもなら場を和ませる立場にいる忍や琥珀達も――リンディでさえも、そんな彼女に何も言葉をかけられない。
 その場の全員の間に、絶望が重くのしかかり――

「ヤだよ、そんなの!」

 すずかは、思わず声を上げていた。
「エクシリオンが……みんなが死ぬなんて、そんなのヤだよ……!」
 エクシリオンの破損箇所をのぞき込んでいるため、その表情は見えない。
 だが――油で汚れたその頬には、油とは明らかに違うものが流れていた。

 まだ、一緒にやりたいことがある――

 まだ、彼に聞きたいことがある――

 まだ、伝えていないことがある――

 だから――

「もう戦えなくなってもいい……
 もう、走れなくなってもいい……!
 だけど……!」

 

「エクシリオンが死ぬなんて、絶対にイヤだ!」

 

「だから……治せるよ、きっと……!」
「ムリだ……
 サイバトロンの技術を使っても、治せないダメージだ……!」
 あきらめないすずかに対し、告げるファストエイドだが――
「そんなことない!」
 彼女にしては珍しく、強い口調ですずかは答えた。
「エクシリオンも、バックパックも、ファストエイドも、ロングラックも……ハイブロウも、みんな……治してみせる!」
「そうよ! わたしも手伝う!」
「くおんも!」
 すずかの言葉に応えるかのように、アリサや久遠もすずかの元へと駆け寄り、それぞれにできることを指示してもらう。
「ムリだ……
 治療は……不可能だ……」
 しかし、それでもダメージは絶望的なものだ――その現実を示すように告げるファストエイドだが――
「その程度なんですか? あなたは」
 そんなファストエイドに告げたのはシオンだった。
「あなた自身はどうなんですか?
 助かりたくはないんですか?」
「私は、医者として冷静な判断を下したまでだ……」
「聞きたいのはそこではありません」
 ファストエイドに答え、シオンは彼を手当てすべく破損した装甲を取り外す。
「あなた自身はどう思ってるんですか?
 助かりたくはないんですか? 心残りはないんですか?」
「………………それは……あるよ……」
 答えて、ファストエイドはメインモニターに映るスペースブリッジ――その向こうに見えるグランドブラックホールへと視線を向けた。
「故郷の星をグランドブラックホールに取り込まれ、宇宙の危機を救おうと戦っている仲間の力になれないまま終わりを迎える――
 心残りがないと言ったら、ウソになる……」
 そんな彼に――シオンはただひとつ、自分にできるアドバイスを告げた。
「だったら……助かりたいと願うことです」
「そんな……非科学的な……」
「そうでもありませんよ」
 あっさりとシオンは答える。
「肉体は、精神に大きな影響を受けるものです。
 ライガージャックや、ロディマスブラーも――最後まであきらめない強い意志があったからこそ、奇跡を起こすことができたんじゃないんですか?」
「……そうだな……!
 こんなところで、くたばってられないよな……!」
 シオンの言葉に、エクシリオンは力の入らないはずの拳を握りしめてつぶやく。
「オレだって……またすずかとスピーディアに行きてぇよ……!
 マスターメガトロンのヤツを、ブッ飛ばしてやりてぇ……!」
 うめくエクシリオンを前に、整備班のみんなは顔を見合わせ、再びエクシリオンの修理に取りかかる。
「みんな……!」
「人間だって、けっこうあきらめが悪いんですよ」
 エクシリオンにそう答え、マリーはエクシリオンの肩のショックアブソーバを交換しようと取り外す。
「あきらめの悪さで負けたとあっちゃ、エクシリオンの名がすたるってもんだぜ……!」
「そうですね……」
 告げるエクシリオンに答えたのはバックパックだった。
「ボクだって助かりたいですよ……!
 また、アリサと宇宙に行きたい……!」
「ボクも……那美さんや、久遠を、最後まで守ってあげたい……!」
「せっかくノエルさんとパートナーになれたのに……ここで死んでなんか、いられないよ……!」
 バックパックだけではない――ロングラック、ハイブロウもまた口々に生への希望をもらす。
 あきらめられない。死にたくない――それが彼らに共通する想いだった。
「あなたはどうなんですか、ファストエイド!?」
「それは……」
 改めて尋ねるシオンの問いに、ファストエイドは思わず口ごもった。
「助かりたいワケでは、ないが……」
「回りくどい!」
「……助かりたい……!」
 初めて、ファストエイドの口から、理論に飾られていない、本当の本音が告げられた。
「生きたい……!
 助かって、この宇宙を……我々のためにここまでしてくれるキミ達を……守りたい……!」
 告げるファストエイドが、真紅の輝きに包まれた。
 フォースチップの“力”だ。
「守りたい……!」
 エクシリオンも――
「守りたい……!」
「ボクだって……!」
 バックパックや、ロングラックも――
「守って、みせる……!」
 そして、ハイブロウも――

「ぐぅ………………っ!」
 オーバーロードの斬撃を受け止め、大きく押し戻されたシックスショットのその場にヒザをついた。
「バカめ……
 そんな傷で何ができる! いい加減にくたばれ!」
 宣告し、さらに斬りかかるオーバーロードだが、シックスショットは跳躍してかわす。
 すでに身体は限界を超えている――それでも動くのは、彼らがただの機械ではないから――
 強く抱いた想いだけが、今のシックスショットを支えていた。
「拙者、師匠殿とは師弟の契りを結んだ身……!
 師匠を残して、死ぬワケにはいかぬでござる……!」
 すでにシックスブレイドもその一振りが叩き折られた――残る一振りをかまえ、シックスショットは告げる。
「師匠も……この星も……拙者達の故郷も……!
 拙者はすべてを、守ってみせるでござる!」
 迷いなどない。決意のままに宣言し――シックスショットの身体を真紅の輝きが包んだ。

「この、死にぞこないがぁっ!」
 咆哮し、ギガストームの放ったビームをかわし、インチアップとパズソーは逆に一斉射撃で反撃に出る。
 だが――通じない。シールドモードのデスシザースをかまえたスカイクェイクがその同時攻撃をしのぎ、ギガストームと共に再び二人に襲いかかる。
 別に仲間になったワケではない――どちらもただ、目の前をうろつく障害を排除したいがため。利害が一致したことによる連携だ。
 しかし――そんなにわか仕込みの連携など、インチアップ達には通じなかった。傷ついた身体を転がし、ギガストーム達の攻撃をかわす。
「いい加減にあきらめろ!
 あきらめも――時には戦士の美学だ!」
「残念ながら……こちとら元々戦士じゃねぇんだよ!」
 スカイクェイクに弾き飛ばされながらも、インチアップはなんとか身を起こして言い返す。
「オレ達ゃレーサーや……それを見守ってきたレーススタッフだ!
 レースは前に走るもの――後ろに下がるなんて発想は、オレ達にゃないんだよ!」
 基部から引きちぎられたのが幸いだった――ギガストームによって食いちぎられたローターを奪い返し、パズソーは逆にそのローターでギガストームの脳天を打ち据える。
「何があっても後ろには退かない――」
「それが、スピーディア魂だ!」

 咆哮し――彼らの身体も真紅の輝きに包まれた。

「こっ、これは……!?」
 最初にその事態に気づいたのは、アースラのブリッジに残っていたエイミィだった。
 とたん――脇からも驚きの声が上がる。
「エイミィ!」
「アレックスも!?
 じゃあ……ランディの方も!?」
 聞き返すエイミィに、同僚達は同時にうなずいてみせる。
 早くリンディに知らせなければ――エイミィは通信回線を開き、リンディに告げた。
「艦長、大変です!
 システムに干渉――何者かによって、データが引き出されています!」
 彼女の目の前では、コンソールに無数のデータの羅列が目まぐるしく表示されている。
 そして――同時に、アースラの艦首にも異変が起きた。
 艦首に備えられた主砲が突然起動を始めたのだ。
「ちょっ、ちょっと!?
 どうしたってのよ、コレ!?」
 ある意味悪名高い“アルカンシェル”ほどではないが、それでもアースラの主砲は半径数キロに渡って甚大な被害をもたらす魔力砲だ。暴発したりすればシャレにならないことになる。
 その突然の起動に、思わず背筋が凍るエイミィだが――
(………………あれ?)
 気づいた。
 通常のプロセスの起動ではない――エイミィの手元のディスプレイには、そこに攻撃用の魔力エネルギーではなく、制御システムの回線を通じて引き出されたデータが流れていくのがはっきりと表示されている。これは――
(攻撃じゃなくて……データ送信に利用しようとしてる!?)
 彼女の予測は正しかった。次の瞬間、主砲から放たれたのは――強力なレーザー通信波だった。
 光は時空間を超えて一度なのは達の世界へ。そして一直線に虚空を駆け抜け、スペースブリッジへ――その向こうに広がるグランドブラックホールへと飛び込んでいく。
 向かう先は――セイバートロン星だ。
 そして、セイバートロン星に飛び込んだ光は、まるで反射するかのように再びスペースブリッジを抜け――次に飛来したのは、スタースクリーム達の潜伏する火山島だった。火口に飛び込み、スタースクリームの眼前のチップスクェアを直撃する。
「な、何だ、この光は!?」
 これにはさすがのスタースクリームも驚きの声を上げ――チップスクェアから、強烈な光の波動が地球全域に、そして時空間に向けて放たれる!

 光の波動はアースラを――そしてなのは達の戦う戦場を包み込んだ。アースラのエクシリオン達、そして戦場で戦うシックスショット――さらにはインチアップやパズソーにも注ぎ込まれていく。

 申し合わせたワケではない――知っていたワケでもない。
 だが――光に導かれ、彼らは同時に叫んでいた。

 

『我に、力を!』

 

 その瞬間――それぞれの場所で彼らの姿が変わっていく。
 光の波動によって彼らの中に刷り込まれた、アースラから得たデータの中から最適と判断された新たな姿――新たな力を秘めた身体へと。
 そして――彼らの中で、その一言が告げられた。

 

転生Evolution

 

「デスフレイム!」
「く………………っ!」
 フレイムコンボイの放ったデスフレイムを、ギャラクシーコンボイは上昇してかわすが――そんな彼を、突然強烈な雷撃が襲う!
 マスターメガトロンだ――ギャラクシーコンボイがフレイムコンボイの攻撃をかわしたスキをつき、雷撃をお見舞いしたのだ。
「ギャラクシーコンボイさん!?」
「すまない……! 引き離された一瞬のスキをつかれた……!」
「アイツ……まさかオレ達と戦ってる一方で総司令官を狙うなんて……!」
 思わず声を上げるなのはと共に合流し、ニトロコンボイとロディマスブラーがうめくと、
「油断はいかんな、ギャラクシーコンボイ」
「動きが鈍ってきたんじゃねぇのか?」
 そんな彼らの前で、マスターメガトロンとフレイムコンボイもまた合流する。
「そろそろ終わりにしようか……」
「く………………っ!」
 フレイムコンボイの言葉に、フェイトはバルディッシュをかまえてその前に立ちはだかる。
「まだ、終わらない……
 戦いは、これからだよ!」
 ギャラクシーコンボイはすぐには回復すまい。ならば自分達が守らなければ――決意と共に、フェイトが宣言し――
『――――――っ!?』
 突然、周囲に光の渦が巻き起こった。あまりのまぶしさにフェイト達だけでなく、マスターメガトロンやフレイムコンボイもまた目をそむける。
 しかし――その光に、心当たりのある者がいた。
「こ、これは……!?」
「オレの時と同じ……転生のエネルギーか!?」
 見覚えのあるその輝きに、美緒とロディマスブラーが声を上げ――
『どわぁっ!?』
 戦場の一角で声が上がった。次いで爆発が巻き起こり、こちらに吹き飛ばされてきたのは――
「ギガストーム!?
 それに、オーバーロードも!?」
「向こうで何が起きたんだ……!?」
 飛ばされてきた2体の大帝を前に、耕介とニトロコンボイがうめくと、
「よくもさんざん、やってくれたな!」
「ここから、反撃開始だぜ!」
 咆哮と共に飛び出してきたのは、高速で走行する4輪式のロードローラーとその上空を飛ぶ高速ジェット機だ。
 見たことのないタイプのトランスフォーマーだ――しかし、その声には聞き覚えがあった。
「ま、まさか……!?」
《パズソーと、インチアップ!?》
「もうそんな名前じゃねぇ!」
 声を上げるなのはとプリムラにかつてインチアップだったロードローラーが答え、彼ら二人は共に咆哮した。
「インチプレッシャー、トランスフォーム!」
「サイクロナス、トランスフォーム!」

 叫びと共にトランスフォーム。新たなロボットモードとなった新生インチアップ“インチプレッシャー”と新生パズソー“サイクロナス”が大地に降り立った。

「このぉっ! チョコマカと!」
 咆哮し、スカイクェイクがバスターモードのデスシザースからビームを放つが、
「そんなもの!」
 上空を飛び回る“彼”には当たらない。そのすべてをすべるようになめらかな軌道でかわしきる。
 狼のごとき肉食獣の身体にワシを思わせる頭部と巨大な翼――さながら神話に登場するグリフォンを思わせるビーストモードを持ったトランスフォーマーだ。
 そして――彼はスカイクェイクの肩を前足でつかみ、そのまま上空へと舞い上がる。
「くそっ、放せ! 放せ!」
 デスシザースを使いウィングを分離させていたのが裏目に出た――飛行して逃げることもできずスカイクェイクが声を上げると、
「では――お望みどおりに!」
 答えると同時、彼はスカイクェイクをつかんだまま急降下し――大地に叩きつける!
 そして、彼はギャラクシーコンボイの元へと降り立ち、
「大丈夫!? ギャラクシーコンボイ!」
 言って、彼のライドスペースから降りたのは美由希だ。ということは――
「まさか……シックスショットか!?」
「そのとおりでござるよ!
 メビウスショット、トランスフォーム!」
 ギャラクシーコンボイに答え、シックスショット改め“メビウスショット”がロボットモードへとトランスフォームする。
「さぁ……戦いはこれからでござるよ!」
 奇しくも一ヶ所に集まった4人の大帝を前に、メビウスショットが告げ――
「そのとおり!」
 頭上から咆哮が響いた。
 見上げると、そこにはワープゲートが展開されており――そこから放たれた無数の弾丸が、マスターメガトロン達に降り注ぐ!

「お疲れさま、ホップ」
「は、はい……」
 労ってくれる忍の言葉に、ワープゲートを閉じたホップは息をついてうなずく。
 そんな彼女達から視線を外し、リンディはブリッジへと通信をつなぎ、
「エイミィ。
 今の光の発生源が特定できたら、ギャラクシーコンボイに連絡して!」
〈了解です!〉

 爆煙が収まり――ワープゲートの中から飛び出してきた5つのビークルがマスターメガトロン達の前に降り立った。
 ジェット戦闘機、カートランスポーター、装甲機動車、自走砲、そしてミサイル装甲車――今の攻撃の主達である。
「何だ、貴様ら!?」
「新手のサイバトロンか!?」
 そんな彼らを前に、マスターメガトロンとフレイムコンボイが声を上げ――彼らが咆哮した。
「エクシゲイザー!」
「バックギルド!」
「ファストガンナー!」
「ロングマグナス!」
「ハイブラスト!」

『トランスフォーム!』

 そして――ロボットモードとなった彼らはマスターメガトロン達の前に降り立ち、名乗りを上げた。

 

『我ら、バンガードチーム!』

 

「バンガード……」
「チーム……!?」
 一体何者なのか――アルフとユーノが思わず声を上げると、
「ここは、オレ達に任せてくれ!」
 装甲機動車がトランスフォームした“エクシゲイザー”が彼女達に告げる。
「総司令官達は、スタースクリームを追ってください!」
「早く!」
 ミサイル装甲車のトランスフォームした“ファストガンナー”、自走砲のトランスフォームした“バックギルド”も告げ――ギャラクシーコンボイは、彼らの声に聞き覚えがあることに気づいた。
「まさか、その声は……
 エクシリオン、ファストエイド、バックパックか!?」
「えぇっ!?
 じゃあ……後の二人は、ロングラックさんと、ハイブロウさん!?」
 ギャラクシーコンボイとなのはの言葉に、彼らは笑顔でうなずいてみせる。
「詳しい話は後ほど」
「ここは、ボク達が食い止めます!」
 ハイブロウ改め“ハイブラスト”、ロングラック改め“ロングマグナス”が告げるが、対するマスターメガトロン達は余裕だ。
「フンッ、わざわざ姿を変えてまでやられに来たのか」
「そいつぁご苦労なこった」
 死にぞこないが今さら何を――余裕で告げるマスターメガトロンとフレイムコンボイだったが、
「そいつはどうかな……?
 すずか!」
「うん!」
 エクシリオン改めエクシゲイザーの言葉に、彼のライドスペースのすずかが答え、
『フォースチップ、イグニッション!』
 咆哮と同時――サイバトロンマークの刻まれたフォースチップが飛来。背中のチップスロットにイグニッションするとエクシゲイザーの両肩のミサイルランチャーが展開される。そして――
『ダブル、エクスショット!』
 放たれたエネルギーミサイルの一斉砲火が、マスターメガトロンを吹き飛ばす!
「ぐわぁっ!?」
「マスターメガトロン!?」
 吹き飛ぶマスターメガトロンの姿に、フレイムコンボイが思わず声を上げ――
「キミの相手は――」
「ボク達だ!」
 そんな彼の元には、バックパック改めバックギルド、そしてハイブラストが立ちはだかる。
「アリサ!」
「オッケー!」
「ノエルさん!」
「問題ありません」
 バックギルドとハイブラストの声に、それぞれのライドスペースでアリサとノエルがうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
 彼らもまたフォースチップをイグニッション。バックギルドは両腕のミサイルランチャーの中からさらに火器が展開され、ハイブラストは両肩のエンジン部にデュアルローターキャノン同様の砲塔が展開される。
『ツインサーチ、ミサイル!』
『ブラスト、ランチャー!』

 そして、二人の同時攻撃をまともに喰らい、フレイムコンボイもまた吹き飛ばされる!
 さらに――攻勢はまだまだ続く。転生したのは彼らバンガードチームだけではないのだから。
「フォースチップ、イグニッション!」
 自分もせっかく転生したのだ。バンガードチームだけに見せ場を持っていかれてはたまらないとインチプレッシャーもフォースチップをイグニッションする。
 スピーディアの紋章の刻まれた、しかしセイバートロン星のチップ独特の幾何学的なフレームを持ったフォースチップが背中のチップスロットに飛び込み――背中の4つのローラーが基部ごと分離。インチプレッシャーの手の中に納まり、両端にハンマーを備えた武器となる。
「くらいさらせぇっ!
 ダブルヘッドハンマー!」
 渾身の力でそのハンマーを投げ飛ばし――ブーメランのように回転して飛翔したそれはギガストームを真っ向からブッ飛ばす!
 さらに、
「オレもいくぜ!
 フォースチップ、イグニッション!」
 サイクロナスもそれに続いた。インチプレッシャーと同様のフォースチップをイグニッション。背中の翼が肩の上まで展開され、そこに備えられたローターが高速で回転を始める。
「スパイラル、サイクロン!」
 サイクロナスが咆哮し――“力”の伴った竜巻がローターから放たれ、オーバーロードを吹き飛ばす!
「仕上げでござる!」
「オッケー!」
 残るはスカイクェイク――メビウスショットの言葉に美由希がうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
 彼らもまたセイバートロン星のフォースチップをイグニッション。ジェット機形態へとトランスフォームすると、さらに機首を展開、翼をたたんで固定砲台となり、
「メビウス、バスター!」
 放たれた強烈なビームを、スカイクェイクはシールドモードのデスシザースで受け止める――が、巻き起こった爆発の勢いはすさまじく、彼もまた吹き飛ばされていった。
「……オレ達、すっげぇパワーアップしたんだな!」
「うん……
 みんなを、守れる力だよ……!」
 マスターメガトロンを吹き飛ばした後を見つめ、つぶやくエクシゲイザーにすずかが答える。
「総司令官、それにみんなも、今のうちに!」
「うん!」
 ファストガンナーの言葉になのはがうなずくと、
〈みんな、聞こえる!?〉
 一同に通信をつなぎ、アースラからエイミィが告げる。
〈エクシリオン達を転生させたエネルギーの発生源が特定できたの!
 たぶん、そこがスタースクリーム達のアジトだよ――座標を送るから、すぐに向かって!〉
「ありがとう、エイミィ!」
 礼を言うフェイトのとなりで、ギャラクシーコンボイはベクタープライムへと向き直り、
「頼む、ベクタープライム」
「うむ」
 うなずき、ベクタープライムは剣で時空を斬り裂き、その裂け目をギャラクシーコンボイがマトリクスで広げる。
 しかし――
「させるかぁっ!」
 そんな彼らに向け、マスターメガトロンはデスマシンガンを撃ちまくりながら突っ込んでくる。
「さんざんオレ様のジャマをしておいて、貴様だけスタースクリームを追うだと!?」
「逃がさんぞぉっ!」
 咆哮するマスターメガトロンとフレイムコンボイだが――
「残念ですが――」
「あなた達には――」
「少しばかり――」
「おとなしくしてもらいます!」
 ファストガンナーとシオン、ロングマグナスと那美が順に告げ、
『フォースチップ、イグニッション!』
 咆哮し、フォースチップをイグニッション。ファストガンナーの右肩の大型ミサイル砲が展開され、同時にロングマグナスの胸部装甲が開き、そこに大型のエネルギー収束器が姿を現す。
 そして――
『ギガ、バニッシャー!』
『マグナ、スマッシャー!』

 彼らの放った強力なビームが、マスターメガトロン達の目の前を薙ぎ払う!
 そうしている間に、ギャラクシーコンボイやなのは達はワープゲートをくぐり、スタースクリーム達の潜む火山島を目指す。
「残念だったな」
「く………………っ!」
 ゲートを閉じ、告げるベクタープライムの言葉にマスターメガトロンがうめき、
「お前らの相手は――オレ達だ!」
 エクシゲイザーが告げ、マスターメガトロン達の前にバンガードチームとメビウスショットが立ちはだかった。

「ロードストーム、トランスフォーム!」
 火山島の斜面を登り、バイク型のトランスフォーマーがロボットモードへとトランスフォームする。
「おいでなすったみたいだな……」
 言って、彼が見上げる先に彼らは姿を現した。
 ギャラクシーコンボイやなのは、さらにはスターセイバー達を加えた、サイバトロン・時空管理局・ヴォルケンリッター連合軍である。

 

 決戦の時は、刻一刻と迫っていた。


 

(初版:2006/09/10)