「やれやれ、ひどい目にあったもんじゃ……」
火山島の決戦から一夜――付近の海底でほとぼりが冷めるのを待っていたランページは海面に顔を出して周囲を見回した。
周囲にサイバトロンや他の勢力の姿がないのを確認すると、移動すべく再び潜行し――
〈ランページ、聞こえるか?〉
そんな彼に、突然通信が入った。相手は――
「おぉ、ノイズメイズか。
今どこじゃい?」
〈新しいアジトに隠れてるよ〉
尋ねるランページに、ノイズメイズは通信の向こうでため息まじりにそう答える。
〈スーパースタースクリームもまだ回復していないし、オレ達は地球から手を引くことにする〉
「ってぇ、ことは……」
〈あぁ〉
ランページの言葉に、ノイズメイズは答えた。
〈地球の“ブツ”はお前が手に入れろ〉
「任せとけぃっ!」
自信タップリにノイズメイズに答え――ランページは尋ねた。
「で……どこにあるんじゃ?」
世界と世界の狭間、時空間――
その一角に、要塞形態にトランスフォームし、停泊するダイナザウラーの姿があった。
そして、そのブリッジで――
「ヤツらはどこにチップスクェアを運んだんだ?」
「さぁな……何しろ我らの中で誰もヤツらを追っていないからな」
疑問の声を上げるオーバーロードに、ギガストームは肩をすくめてそう答える。
現在二人は今後の方針の検討中――メナゾール達は火山島での戦いで受けたダイナザウラーのダメージを修理するのに並行し、奪ったばかりでまだ把握し切れていないその内部構造をチェックしに向かっている。
「だが、ヤツらがスペースブリッジを使ってチップスクェアを持ち去ったのは確かだ。
お互いの部下からの報告によれば、スピーディアにもアニマトロスにもサイバトロンやマスターメガトロン達は現れていない。
となれば、ヤツらが向かったのはそれ以外の場所――」
「………………なるほど……」
ギガストームの言葉に、オーバーロードは彼の言いたい事に気づいた。
そんなオーバーロードにうなずき、ギガストームは告げた。
「ギャラクシーコンボイ達の故郷――セイバートロン星だ」
彼らはミッドチルダのことには気づいていなかった。
一方、スーパースタースクリーム達の放棄した火山島基地では――
「……さて、と」
一度は火山島を離れたスカイクェイク達ホラートロンだったが、基地がもぬけの空になったのをいいことに舞い戻ってきていた。分離し、整列する一同を前にスカイクェイクは静かに口を開く。
「情報をまとめるとこういうことだな?
スーパースタースクリームが探していたのは、我らトランスフォーマーの創造主“プライマス”から作り出されたプラネットフォースと呼ばれる高エネルギー体……」
「はい。
なんでも、その力をもってすれば惑星を初期化してしまうことも可能だとか……」
「ふむ……」
答えるレーザークローの言葉に、スカイクェイクはしばし考え、
「……それを手にすれば、我らの力は格段に強化される。
だが、敵対勢力が手にすれば敵が強くなる――
どちらにしても、我らホラートロンが覇権を握るためには、プラネットフォースの獲得が最短の近道のようだな」
「しかし……サイバトロンからプラネットフォースやチップスクェアを奪うのは至難の業ですぜ」
「わかっている。
連中はプラネットフォース3つにそれを収める台座であるチップスクェアを獲得している。
平和とやらに固執するヤツらがその力を軽々しく使うとは思えんが――切り札であることは間違いない」
タートラーに答え、スカイクェイクはさらに思考をめぐらせる。
「となると、我らの目的は、まだヤツらが獲得していないプラネットフォースの獲得、ですか……」
「そういうことになる」
レーザークローに答え、スカイクェイクは一同に告げた。
「今の内に体調を整えておけ。
そして、サイバトロンでもデストロンでも、他の勢力でもかまわない――とにかくトランスフォーマーの動きにとにかく目を配れ。
連中の内どれかの勢力が、次のプラネットフォースの在り処に対する手がかりを持っているはずだ――連中が動いたらすぐにその後を追うぞ」
『ははっ!』
第40話
「いざミッドチルダに出発なの」
「そう……そんなことが……」
「ごめんなさい、今まで黙ってて……」
話を聞き、納得する桃子に、なのははとなりのフェイト共々肩を落として謝罪する。
彼女達がいるのはさざなみ女子寮のリビング。その場には高町家の面々やリンディ、クロノが顔をそろえている。
そして庭にはギャラクシーコンボイ――トランスフォーマーである彼が同席する都合上、ここが事情説明の場として選ばれたのだ。
代表して一通りの事情を説明したなのはの目の前で、桃子はじっと目を伏せたまま動かない。
そんな桃子の様子に、なのはは声をかけようと口を開き――
「……なのは」
「は、はいっ!?」
それよりも先に桃子がなのはの名を呼んだ。突然のことに、なのははビクリと身をすくませる。
だが――そんななのはに対し、桃子は笑顔で告げた。
「今まで、よくがんばってきたわね」
「え………………?」
「なのはが、みんなのためにどれだけがんばってきたのかは、途中からとはいえ一緒に戦ってきたっていう恭也の様子でなんとなくわかるもの。
そりゃ、秘密にされてたことはちょっとショックだけど、ね」
てっきり、隠していたことを怒られると思っていた――思わず呆けるなのはの頭を、桃子は笑いながらなでてやる。
「なのはがギャラクシーコンボイさん達のことを助けてあげたくて、そのための力があるのなら……私はそんななのはの優しさを止めることはしないわ。
もちろん……お父さんもね」
「あ、あぁ……」
話を振ってくる桃子に、士郎は少し戸惑いがちにうなずく。
なのはを信頼する気持ちは士郎とて桃子に負けていない。それでも彼女との態度に違いが見られる、その原因はただひとつ――
ただひとえに、なのはの身が心配なのだ。
恭也や、すでにミッドチルダに先行している美由希のことももちろん心配だが、二人は御神流を学んできた実績がある。心配よりも信頼が優っているのだが――なのはの場合はそれがない、まったくのゼロからのスタートだったのだ。心配にならないワケがない。
そんな士郎の心情を察したのか――恭也は苦笑まじりに士郎に告げた。
「心配ないよ、父さん。
なのはは父さんが思ってるよりも――オレが思っていたよりもずっと強い。オレが守ってやるどころか、逆に助けられたこともあるくらいさ。
父さんだって見ただろう? スーパースタースクリームとの戦いでのなのはの戦いぶりを」
「……そうだな」
その恭也の言葉に、士郎はようやく安堵の笑みを浮かべた。
そして、庭で彼らのやりとりを見守っていたギャラクシーコンボイへと向き直り、
「ギャラクシーコンボイ……
娘を……恭也達を、頼みます」
「わかっています。
想いは、私もあなたと同じつもりです、士郎」
共になのはを守りたいと願う者同士――二人は互いに笑みを交わした。
スーパースタースクリームとの戦いの後、ミッドチルダ先遣隊から無事マスターメガトロン一派をまくことができたとの連絡を受けたギャラクシーコンボイ達には若干ながら時間的余裕が生まれていた。
その時間を利用し、万全の体勢でミッドチルダに向かうことを決めたギャラクシーコンボイとリンディは、その間に今回の件が社会的に与えた影響や、家族に事情を知られたなのは達の問題、そして更なる協力者の獲得――諸々の事情をミッドチルダ行きの準備と並行して片付けることにしていた。
「お久しぶりです、真雪さん」
「おー、来たか!」
現れた人影からあいさつされ、真雪はいつものハイテンションで応じる。
やってきたのは元さざなみ寮生――今でも部屋は残してあるから、厳密には今でも寮生なのだが――の3人。
今や社会人バスケット界の若きエース、岡本みなみ。
ラナバウトが傾倒するCSS出身のシンガー、『SEENA』こと椎名ゆうひ。
そして、真雪に声をかけた最後のひとり――那美の義姉である“神咲”の先輩退魔士、神咲薫。
「話を聞いた時は驚きましたよ。
まさか、先日現れたロボット達に真雪さんや耕介さん達が関わっていたとは……」
「まー、ウチの宿命みたいなもんかね」
告げる薫の言葉に、真雪はカラカラと笑いながらそう答える。
「けど、神咲姉に声をかけたのは戦力になるからとして……そっちの二人はどうして?」
「薫ちゃんから連絡をもらったんよ。
何や、地球どころか宇宙の一大事みたいやし……」
「私達も何かお手伝いできないかと思って、こうして駆けつけたんです!」
「なるほど、ねぇ……」
ゆうひとみなみの言葉に納得し、真雪は背後に声をかけた。
「ってコトらしいから……正体バラしちまってもかまわないぜ、ガードシェル」
「そ、そうなのか?
トランスフォーム!」
真雪の言葉にうなずき、ガードシェルはロボットモードにトランスフォーム。それを見たゆうひとみなみは目を丸くして――
『すっ、すごぉ〜〜い♪』
「ホンマや! ホンマモンのロボットやんか!」
「これがトランスフォーマーなんですか!?」
すぐに目を輝かせた。ガードシェルに駆け寄り、ペタペタと足元の装甲をさわりながらその巨躯を見上げる。
「……真雪…………」
静かに相棒に助けを求めるガードシェルだが――
「しばらく見世物になってな」
真雪はそれをあっさりと一蹴した。
一方、遠野家の屋敷では――
「そう……そっちは全員無事ですか。
どうせ、彼などは周囲にバレることなどおかまいなしに戦っていたことでしょうし――その辺りのフォローもこちらでしておくわ。
……いえ、かまいません。今回の混乱の中、この辺り一帯をフォローしていてくれたお礼よ。
じゃあ、お大事に」
言って、秋葉は受話器を下ろすと志貴に向き合った。
「大丈夫ですよ、兄さん。
あちらも全員無事のようです」
「そうか……よかった。
向こうには若干1名、ムチャをするヤツがいるからな……」
「兄さんがそれを言いますか?」
安堵のため息をつく志貴に、笑みを浮かべてそう告げ――ふと気になった秋葉は尋ねた。
「ところで……シエルさんは?
もうこちらに到着しているのでしょう?」
「あぁ、シエル先輩ならサイバトロン基地で……」
「……あら、おいしい。
大したものです。これならお店だって出せますよ♪」
「えへへ、そう?」
満面の笑顔でカレーを食べながらエイミィを褒めちぎっているのは、漆黒の法衣に身を包んだ、志貴よりもやや年上に見える少女――秋葉や志貴の言う『シエル』その人である。
「すみませんね、いきなりお願いして。
連絡を受けてすぐに来たので、少しお腹がすいちゃいまして」
「いいよ、いいよ。私もおいしく食べてもらえて本望だし。
まぁ――いきなりカレーをリクエストされたのは驚いたけど」
礼を言うシエルの肩をすくめ、エイミィは改めて彼女に向き直り、
「一緒にサラダはどう? けっこう自信作なんだけど」
「いただきます。
あ、それと……カレーのおかわり、いいですか?」
「もちろん♪」
「なるほど……」
「料理が得意なエイミィさんが顔出してくれていて助かったよ……」
納得する秋葉の言葉に、志貴は思わず苦笑して答える。
「ともかく、ミッドチルダに向かったシオンやアルクェイドさんに加えて、こちらで用意できる戦力はこれだけ、ですね」
「あぁ。
衛宮達にはこっちの守りを頼みたいからな……」
志貴がそう答えるの聞き――秋葉はふと思い出したように志貴に告げた。
「あ、そうそう、兄さん」
「ん?」
「私が……遠野の“血”の暴走を血を飲むことで抑えているのは、もう知っていますね?」
「あ、あぁ……」
突然重い話題を振られ、戸惑いがちに答える志貴に、秋葉は笑って続きを告げる。
「そんなに警戒しなくてもいいですよ。兄さんの血をいただこうとは思ってませんから。
実は――そのために琥珀が手に入れてくれている輸血パックをがあるんですけど……それを今、琥珀がアースラに運ぶために貯蔵庫から出しているんです。
少し、手伝ってきてもらえませんか?」
「あぁ、そういうことなら」
言って、部屋を出て行く志貴を見送り――秋葉はポツリとつぶやいた。
「……助け舟は今回だけですからね、弓塚さん」
「いいんですか?
私までご馳走になっちゃって」
「いいんですよ。
その気になれば、遠野家系列の病院からいくらでも補充が利きますから」
尋ねるさつきの問いに、琥珀はクスクスと笑いながらそう答える。
死徒でありその活動の維持に血液を必要とするさつきのために、琥珀は秋葉用の輸血パックの提供を申し出てくれたのだ。
「はい、A、B、AB、O……各血液型1セットずつ。
秋葉様によると血液型で若干味が変わるみたいですから、気に入った味のものを次からはご用意させていただきますから」
「ありがとうございます」
琥珀の言葉に、さつきは深々と一礼する――微笑ましい会話に聞こえるがその対象が吸血行為に代わる輸血パックのやり取りなのだから、冷静に考えてみると微妙な空気だ。
と――
「琥珀さぁん」
「――――――っ!」
聞こえてきたその声に、さつきは思わず息を呑んでいた。
この声は――
「秋葉に言われて手伝いに……来たん…だけど……」
言って、その場に顔を出し――志貴はさつきの姿を目の当たりにし、思わずその動きを止めていた。
「あ、あの……遠野、くん……」
「ゆ……弓塚、さん……」
固まるさつきの言葉に、志貴もまた戸惑いを隠せないでいた。
事情を知らない人間からすれば微笑ましい光景にも見えるだろうが――実際のところはそうではない。二人の間には『微笑ましい』等という言葉とは極めて縁遠い経緯がある。
というのも、かつて死徒となり、度重なる吸血によって『壊れ』かけていたさつきを殺し、解放したのが他ならぬ志貴だったのだ。
様々な偶然が重なった結果こうしてさつきは健在でいるのだが――やはり『殺した』という負い目が志貴にはあった。そしてさつきにも志貴に自分を『殺させてしまった』という負い目があり、こうして二人そろって固まってしまっている、というワケだ。
(……秋葉様ですね、志貴様をここに誘導したのは)
この事態を作り出した張本人は容易に予想がついた。琥珀は思わず胸中でため息をつく。
と言っても、別に秋葉の行為を責めるつもりはなく――
(まったく、お膳立てが甘いですねー。
お互い負い目があるんですから、そういうのを忘れるくらい、もっとムーディにいかないと)
秋葉の詰めの甘さに対する嘆息だった。
「えっと……その……
遠野くん、いつかは……ごめんね」
「い、いや……
結果はどうあれ、オレだって弓塚さんを殺したワケだし……」
ようやく口から出たのはお互いに謝罪の言葉――そしてそれっきり、再び二人は黙り込んでしまう。
(……やれやれ。
これは助け舟が必要でしょうかね……)
そんな二人の姿に肩をすくめ、琥珀は二人に声をかけようと口を開き――
「………………あれ?」
それよりも先にさつきがそれに気づいた。
志貴の後ろ――貯蔵庫の入り口からじっとこちらの様子をうかがっているのは――
「都古ちゃん……?」
「え………………?」
さつきの言葉に、志貴は思わず振り向き――彼もそこに都古の姿を見つけた。
「あれ、都古ちゃん……
そういえば、聞いたよ。ダイノボットのパートナーになったんだって?」
「……ぁぅ…………」
さつきに対する緊張感も都古のおかげで霧散した――気を取り直し、声をかける志貴だったが、当の都古は視線を落として黙り込む。
よくよく見れば頬を赤くしてうつむいて――照れてるのがバレバレなのだが、残念ながら志貴はそこまで読み取るスキルは持ち合わせていない。
「………………?
どうしたの?」
首をかしげ、都古の顔をのぞき込む志貴だが、そんな志貴に都古はますます顔を赤くして――
「………………っ!」
「でっ!?」
無言で志貴に体当たり。うめく志貴にかまわず、顔を真っ赤にしたままその場から逃げ出していってしまった。
「な、何だ……!?」
一撃を受けた腹をさすり、つぶやく志貴の姿を見て、さつきと琥珀は顔を見合わせ――同時につぶやいた。
『鈍感』
「えぇっ!?」
ミッドチルダへの出発準備の進むアースラの格納庫――クロノからその事実を聞かされ、晶は思わず声を上げた。
「じゃあ……マスターメガトロン達は、セイバートロン星じゃなくてミッドチルダに!?」
「あ、あぁ……」
聞き返す晶に答え、クロノは逆に尋ねた。
「だが……どうしたんだ? そんなにあわてて」
「あ、いや……」
その問いに言葉をにごす晶の姿に――傍らで二人のやり取りを聞いていたレンが気づいた。
「もしかして……サンダークラッカーか?」
「あ、あぁ……
オレ達、マスターメガトロンが耕介さん達を追いかけるのに気づいてなかった……
アイツ、もしかしてそのことを知らずにセイバートロン星に向かったんじゃ……!」
「危険だな」
晶の言葉に口を開くのはベクタープライムだ。
「セイバートロン星は今グランドブラックホールの中にある――惑星自体は無事でも、その周囲は超重力で空間が著しく歪んでいる。
たとえ重力に耐えられても、空間の歪みに惑わされて迷子になる可能性はきわめて高い」
「そんな……!
すぐに助けに行かないと!」
ベクタープライムの言葉に晶が声を上げると、
「いや……大丈夫なんじゃないか?」
レンと共にいたブレインストームがそんなことを言い出した。
「サンダークラッカーのことだから、むしろ空間の歪みとかに気づかないで――そのせいでヘンに意識したりせず、惑わされずにセイバートロン星に行けるんじゃないか?」
「あー、ありそうやね。
何でかんだで単純な子やったし」
「おいおい、いくらサンダークラッカーでもそんな――」
ブレインストームとレンの言葉に晶は思わず反論しようとするが――ふとその動きが止まり、
「………………ありえるな」
つぶやく彼女の脳裏では、空間の歪みをものともしないでセイバートロン星目がけて突っ込んでいくサンダークラッカーの姿がものすごくリアルに想像できてしまっていた。
「……あー、えっと……」
目の前で繰り広げられている光景に、さざなみ寮の庭に舞い降りたスカイリンクスは思わずコメントに困っていた。
視線の先はリビングの中――そこでは、先程からゴキゴキと物騒極まりない物音が聞こえている。
同時に聞こえるのはうめき声――恭也のものだ。
そして、そんな恭也の身体の上にまたがって見事に関節を極め――もとい、整体を行っているのは銀髪の女性。
恭也と同年代に見えないこともないが、その実は立派に年上。海鳴大付属病院で医師として働く立派な社会人である。
シェリーと同じくリスティの義妹、フィリス・矢沢――整体からカウンセリングまで幅広くこなす才女で、恭也自身もかつて壊した右ひざの手当てを始め、ほとんど主治医同然に世話になっていた。
「まったく……またこんなになるまでムリをして。
しかも今回の騒動、完全に関係者だそうじゃないですか――ヒザのこともあるんですから、ムリはしないでくださいよ」
「す、すみません……」
説教するフィリスと謝罪する恭也――そんな会話の間にも、整体による鈍い音は断続的に続いている。
そんな様子を首をかしげながら見物していたスカイリンクスだったが――
「あれ――スカイリンクス?」
「む………………?」
声をかけられ、振り向くと、そこには知佳の姿があった。
「どうしたの?」
「いや……準備を手伝おうにも、機械に詳しくない我輩達では役に立てなくてな。
せめてジャマにならぬよう、山の中を散策していたのだが……」
言って、再びリビングに視線を向けるスカイリンクスの様子に、知佳もまたリビングをのぞき込み――「あぁ」と納得した。
「あぁ、あれならいつものこと。
恭也くん、昔右ヒザを壊したことがあってね……それなのに、いつもいつもムリをして、あぁやってフィリスにオシオキがてら手当てしてもらってるの」
「なるほどな」
知佳の説明に納得すると、スカイリンクスは前足で器用にリビングに面したガラス戸を開け、
「関節のケガを甘く見るなよ、高町恭也。
我らトランスフォーマーですら、関節のダメージは治癒に時間がかかるのだ」
「あ、あぁ……」
苦悶の表情を浮かべながらもうなずく恭也に苦笑し、スカイリンクスは知佳へと向き直った。
「それで……お主も出かけていたようだが?」
「あぁ、私?
私はシェリーと二人で、ちょっと職場に連絡を、ね」
「職場……?
確か、二人ともこの星の救助隊に属しているのだったな?」
「うん。
今回のことがあるから、しばらく休んでこっちを手伝う、って連絡を」
「ぬ…………?
では、トランスフォーマーのことも?」
「話さなきゃ通じない部分もあるんだもん、仕方ないよ」
スカイリンクスの問いに答え、知佳はイタズラっぽく笑って、
「大丈夫。
私の“力”のこともちゃんとわかってくれてる人だから、ちゃんとわかってくれたよ」
「そうか……」
「そうなの。
だから、これから二人でがんばろう、スカイリンクス」
「うむ」
うなずき――スカイリンクスはふと眉をひそめた。知佳へと向き直り、尋ねる。
「今……不思議な会話のやり取りがなかったか?」
「そう? そんなことなかったと思うけど?」
尋ねるスカイリンクスに、知佳は首をかしげてそう答え、
「もう、その歳でもうボケちゃったの? 人間で言えばまだ『お兄さん』で通じる歳だってファングウルフが言ってたよ。
私のパートナーになったんだから、もう少ししっかりしてくれないと」
「――って、そこだぁぁぁぁぁっ!」
あっさりと告げた知佳の言葉に、スカイリンクスは思い切り絶叫した。
「いつ! どこで! 我輩がお主のパートナーとなったのだ!?」
「今ここで」
ごくごくあっさりと知佳はうなずく。
「だって、いくら私がHGSでも、火山島であんな戦いをした人達相手じゃ、パートナートランスフォーマーがいないと辛いもの。
ゆうひちゃんやみなみちゃんもやる気になっちゃってるみたいだし、二人に取られる前にフリーの人をつかまえておかないと、ね♪」
「………………」
当然のごとく告げる知佳の言葉に、スカイリンクスはため息をついて空を見上げた。
そして――ポツリと一言。
「さすがは真雪殿の妹君だ」
「おかげですっかりたくましくなりました♪」
「久しぶりだね」
「お互いに、ね」
海鳴駅前のロータリーの一角――やってきた彼女の言葉に、真一郎は軽く手を挙げて応えた。
名前は御剣一角。真一郎の高校時代のクラスメートであり、裏の社会に名の知られた“蔡雅流”に名を連ねる隠密――要するに忍者である。
「話は聞いたよ。
珍しいじゃないか。相川が戦闘要員を欲しがるなんて、7年前の“ザカラ”の一件以来じゃないか」
「事態が事態だからね――ま、知ってて言ってるんだろうけど」
一角の言葉に苦笑し、真一郎が肩をすくめると、
「相変わらずだねー、一角ちゃんは」
「しんいちろーもね♪」
そんな二人のやりとりに、真一郎に同行していた二人の女性が笑いながら告げる。
野々村小鳥と鷹城唯子――共に真一郎の幼馴染であり、小鳥はレストランのシェフを、唯子は私立風芽丘学園に教師として勤務している。
だが、一角はそんな二人の姿を見とめて眉をひそめた。
「相川――二人にも声をかけたのか?
二人とも戦えないだろ」
そう――二人はお世辞にも戦闘要員とは言えない。小鳥は完全に戦闘技能とは無縁だし、唯子も護身道においてはその名を知られた存在だが、それはあくまで自分を守るためのものであり、自ら戦いに赴く技術ではない。
そんな彼女達がなぜここにいるのか? 自分とは違う理由で呼び出されたのか――真一郎に向けた一角の問いは至極当然のものだった。
そして、そんな彼女の意図を理解していた真一郎は肩をすくめて答えた。
「二人には、こっちに移民してきてるみんなのフォローを頼もうと思ってね」
「あぁ、なるほど」
『移民』――その一言だけで、事前に説明してある彼女には大体の事情が通じたようだ。一角は納得し、苦笑まじりにうなずいた。
「後は誰に声をかけたんだい?」
「千堂先輩と弓華に。
二人ともどっちかって言うと戦闘要員だけど……小鳥達と同じで、こっちのフォローを担当してもらおうかな、って思ってる」
「そっか……
じゃあ、お前について行くのはあたしだけか?」
「何だよ、不安か?」
「まさか」
からかう真一郎の言葉に、一角は余裕の笑みと共に答える。
そして――上空に展開されたスペースブリッジ、その向こうに見えるグランドブラックホールをにらみつけて真一郎に告げる。
「あたし達の世界の一大事なんだろう?
そのためにできることがあるんなら――そのために全力を尽くすまでさ」
「何? サンダークラッカーが!?」
「あぁ、勘違いして、セイバートロン星に向かったらしいんだ」
声を上げるギャラクシーコンボイに答え、クロノは肩をすくめてみせる。
「ふむ……先行される形となったか……」
「総司令官。例のメッセージのこともあります。
サンダークラッカーにどうこうできるとは思いませんが、万が一ということもありますし――先遣隊を送った方がいいのでは?」
「あぁ、そうだな……」
ドレッドロックの提案に、ギャラクシーコンボイはしばし考え、
「……ライブコンボイ。地球サイバトロンを指揮し、セイバートロン星に向かってくれ。
彼らならばサンダークラッカーと共闘していた経験がある。うまく立ち回ることができるだろう」
「わかった」
ギャラクシーコンボイの言葉にライブコンボイがうなずくと、
「あの……ギャラクシーコンボイ!」
そんなギャラクシーコンボイに対し、クロノに同行していた晶が口を開いた。
「オレも行く!
サンダークラッカーを助けなきゃ!」
「むぅ……」
晶のその言葉に、ギャラクシーコンボイは思わず考え込んだ。
ギャラクシーコンボイとてサンダークラッカーに悪意を抱いているワケではない。『彼を更生させたい』という晶の方針についてもやぶさかではないが、現時点でのサンダークラッカーはあくまでもデストロンに戻る意思を示している。
晶とサンダークラッカーをこれ以上近づければ、敵同士になった時にお互いが辛いことになるだけだ。
どうしたものかとしばし逡巡し――それでもギャラクシーコンボイは彼女に賭けてみることにした。
「…………わかった。
キミがサンダークラッカーにとって一番近しい位置にいる人間だ。キミにサンダークラッカーの説得を頼もう」
「総司令官!?」
「晶の言うとおり、サンダークラッカーはまだ引き返せる位置にいる――いや、引き返せる位置まで戻ってきた、と思っていい。
デストロンから足を洗う可能性がわずかでもあるのなら――賭けてみる価値はある」
ドレッドロックに答えると、ギャラクシーコンボイは再び晶へと向き直り、
「だが、セイバートロン星は今危険な状態だ。パートナーと別行動になるキミを安易に同行させるワケにはいかない。
誰かに、キミの護衛をお願いしなくては……」
「それで……私か?」
「はい。
士郎。あなたにセイバートロン星での晶の護衛をお願いしたい」
聞き返す士郎に、ギャラクシーコンボイが答える。
「し、しかし……」
つぶやき、士郎が視線を向けるのはアースラに運び込まれる物資の確認中であるエイミィを手伝っているなのはとフェイト――二人を守るためにもそばにいたいというのが士郎の本音なのだろう。
そんな士郎の心情を汲み取り、ギャラクシーコンボイは決意と共に士郎に告げた。
「ご心配なく。
なのは達は、私が守ります」
「ギャラクシーコンボイ……」
そのギャラクシーコンボイの言葉に、士郎はしばし考え――
「……わかりました。
なのは達のことを……よろしくお願いします」
「約束します」
そうして、そこかしこで出発のための準備や各々の決意などが繰り広げられ――ついに出発の時が訪れた。
「現在、マスターメガトロン達はミッドチルダ先遣隊を見失い、その行方を追っているはずだ。
そのため、手がかりを得ようと後を追ってくる我々を狙ってくる可能性は高い」
「そのため、我々ミッドチルダ遠征班はチームを二つに分けてミッドチルダに向かうことにします」
出発準備が整い、格納庫に勢ぞろいしたメンバーを前に、ギャラクシーコンボイとリンディはそう提案する。
「しかし……あのマスターメガトロンが襲ってくるとなると、分散するよりも戦力を集中させて迎え撃った方がいいのではありませんか?」
「確かに。
今現在、我らの戦力は大きく削られていますし……」
そんな二人の提案にドレッドロックとガードシェルが異を唱えると、
「……なるほど……そういうことか」
こちらは二人の意図に気づいたようだ。スカイリンクスは腕組みをして『うんうん』とうなずいてみせる。
「どういうこと? スカイリンクス」
「襲ってくるデストロンを、撃退するだけでは終わるつもりはない、ということだ」
尋ねる知佳の問いに、スカイリンクスはそう答えて説明を始めた。
「マスターメガトロンはおそらく戦力を分散させはしない。そのまま一点集中で攻めてくるはず――それを利用するのだ。
どちらか一方のチームを襲うであろうデストロンを挟撃することで、しばらく追撃できないようダメージも与えておきたい――そんなところであろう?」
「正解です」
スカイリンクスの問いに笑顔で答え、リンディは一同を見渡し、
「作戦は今スカイリンクスが考えたとおりです。
チームを二つに分け、襲ってくるマスターメガトロン達デストロンを挟撃。撃退に留まらず追撃不可能な程度までダメージを与えること――安全に先遣隊と合流するためにも、これだけはやっておく必要があります」
「そっか……
マスターメガトロンに追われたまま合流したら、デストロンをチップスクェアまで案内するようなものだから……」
「だから、先にわざとこちらを襲わせて、やっつけちゃってから合流するのか……」
リンディの言葉にフェイトが、そしてなのはが納得する傍らで、ギャラクシーコンボイはチーム分けを告げた。
「私となのは、ソニックボンバーとクロノ、ベクタープライム、フェイト、ファングウルフとアルフ、そして案内役としてユーノ――以上9名がスペースブリッジで。残りのメンバーがアースラでミッドチルダへと向かう。
アースラ側の指揮はリンディ提督とドレッドロックに任せる」
「わかりました」
「了解です」
ギャラクシーコンボイの言葉に、アースラチームの指揮官を任されたリンディとドレッドロックはそれぞれにうなずく。
「ライブコンボイ以下地球出身のメンバーはセイバートロン星へ。
サンダークラッカーを探すと同時、我らがチップスクェアを運ぶ時に備え、向こうでの体勢を整えてもらいたい」
「あぁ、任せてくれ」
ライブコンボイの答えにうなずき、ギャラクシーコンボイは一同を見渡し、告げた。
「戦力を分断された状態での戦いは我々に大きな苦戦を強いるだろう。
だが、全員が全力を出し切れば、この局面は必ず乗り切れる」
「……うん、そうだね!」
ギャラクシーコンボイのその言葉に、なのはは元気にうなずいた。
「みんなでがんばって、ミッドチルダにたどり着こう!
それじゃ……全員、出動です!」
『おぉーっ!』
「ところで、ミッドチルダってどんなところなんだ?
こちとら異世界なんて初めてなんだが」
出発し、スペースブリッジを進むことしばし――ふと思い立ったソニックボンバーは自身のライドスペースに座るクロノに尋ねた。
「あ、それは私も知りたいかも。
ユーノくん、フェイトちゃん、ミッドチルダのこと、教えてよ」
「あ、うん……
けっこうすごしやすい世界かな。なのはの世界で言う『のどかな田舎』みたいな緑の多いところもあれば、工業の発展してるところもある」
「わたしやアルフは、母さんが“時の庭園”を停泊させていた山岳地帯しか知らないけど、緑が多くていいところだったよ」
「都市部はかなり発展してるね。
技術水準も、セイバートロン星の技術には劣るけどかなり高い。少なくとも地球よりは上だ」
「自然のエリアと都市部に分かれてるってことか……」
ユーノ、フェイト、そしてクロノ――三者三様の説明に、ソニックボンバーはしばし考え、
「……ずいぶんと両極端な世界なんだな」
場の空気が死んだ。
その頃、時空間を最短ルートで移動したアースラは、一足先にミッドチルダへと到着していた。
「ぅわぁ……
見渡す限り山ばかりですね……」
「高山地帯に出たからね」
「戦闘の可能性がある以上、都市部はもちろん、緑の多いところに出るのも気が引けますから」
ブリッジから見渡せる山々を見渡し、つぶやく知佳にエイミィとリンディが答える。
標高が高いのか、山に植物の気配はない。確かに戦闘によって地形は変わるかもしれないが、緑が失われることはないだろう。
「アレックス、レーダーは異常ない?」
「今のところは……」
エイミィの問いに答えかけ――アレックスの表情が引き締まった。
「……前言撤回!
レーダーに反応! 6時方向!」
「真後ろか!?」
その言葉にランディが声を上げると、格納庫からドレッドロックが通信してきた。
〈リンディ提督!
我々も出ます!〉
「お願いします!」
「フンッ、見つけたぞ……
時空管理局とかいう連中の艦だな」
ビークルモードで急速にアースラに接近しつつ、マスターメガトロンがつぶやいた。
地形が地形なだけに苦戦しているようだが、他の面々も地上からアースラを目指しているはずだ。
「さて……連中がやりやすいように、あの艦でも叩き落してやるか」
つぶやくマスターメガトロンの目の前で、ドレッドロックとスカイリンクスがアースラから飛び立ち、ガードシェルが眼下の地面に飛び降りていくのが見えた。
「……始まったか!」
「そのようだな」
マスターメガトロン出現の報は、すぐになのは達に知らされた。声を上げるギャラクシーコンボイの言葉に、となりを飛ぶベクタープライムが応える。
「こうしちゃいられない!
オレ達は先に行くぜ!」
「おい、待て、ソニックボンバー!」
もうスペースブリッジの出口は目の前だ。加速するソニックボンバーにクロノはあわてて待ったをかける。
「ボク達二人だけで行ったってどうにもならな――!」
言いかけたクロノだったが――そんな彼らを突然衝撃が襲った。
「攻撃――!?」
「後ろからだと!?」
驚き、クロノとソニックボンバーが振り向き――遥か後方から自分達を追ってきた一団に気づいた。
「あいつら――」
「ホラートロン!?」
「えぇっ!?」
「つけられていたということか……!」
声を上げるソニックボンバーとクロノの言葉に、なのはとギャラクシーコンボイが声を上げる。
「このままヤツらをチップスクェアのところまで案内するワケにはいかない!
アースラも気になるが、まずはこちらだ――スペースブリッジを抜け次第、迎撃するぞ!」
『了解!』
「くらえぇっ!」
咆哮と共に放たれた雷光を、スカイリンクスは急降下してかわし、
「知佳!」
「はいはーい!
雷光は、アイツやリスティだけの専売特許じゃないんだから!」
スカイリンクスに答え、知佳の放った雷光がマスターメガトロンに襲いかかる。
出力で劣っていようと、一点に集約されたその雷光は目的を果たすのに十分な威力を持っていた。雷光はマスターメガトロンの顔面を直撃。そのセンサーを一時的にマヒさせる。
「この、小娘が!」
怒りに燃え――しかし視界が封じられているマスターメガトロンは全方位に向けて雷撃を放つが、そんな闇雲な攻撃がそう簡単に当たるものではない。知佳もスカイリンクスもあっさりとそれをかわし、
「デス、ブリザード!」
スカイリンクスの放ったデスブリザードがマスターメガトロンを包み込む。
一方、地上ではガードシェルや恭也以下地上メンバー、そしてドレッドロックと志貴がフレイムコンボイ達との交戦に入っていた。
『トルネード、カッター!』
「ひえぇぇぇぇぇっ!」
「飛びまぁす!」
ガードシェルと真雪の放ったトルネードカッターがガスケットとランドバレットを吹き飛ばすが、
「調子に乗るなよ――ガードシェル!」
「デモリッシャー!?」
襲いかかるデモリッシャーのメガクレーンブレードを、直前で気づいたガードシェルは後方に跳んで回避する。
「やめろ、デモリッシャー!
目を覚ますんだ!」
「うるさい!」
親友とは戦いたくない――すぐさま説得しようとするガードシェルだが、そんな彼にデモリッシャーは右手のシールドをかまえ、
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮し地球のフォースチップをイグニッション。シールドに備えられたチップスロットにフォースチップが飛び込むのと同時、シールドが展開され新たな砲門が姿を現す。
「シールドランチャー!」
そんなデモリッシャーの一撃がガードシェルに向けて放たれ――
「危ない!」
そんな彼の前に飛び出したのは薫だった。手にした刀を抜き放ち、
「十六夜!」
《はい、わかっています、薫》
薫の呼びかけに答えるのは彼女が持つ、耕介の“御架月”の姉弟刀である霊剣“十六夜”。そして――
「真威、楓陣刃ぁっ!」
そこから放たれた霊力の波動がデモリッシャーのエネルギーミサイルを巻き込み、爆砕する。
「何っ!?
たかが人間ごときが!?」
「その『人間ごとき』に、何度も後れを取っていると聞いてるが?」
デモリッシャーのうめきに答え、薫は“十六夜”をかまえなおし、
「ウチの家族がずいぶん世話になったらしいし――しっかりと礼はさせてもらう!」
告げると同時――薫はデモリッシャーに向けて跳躍。すさまじい速度で繰り出された彼女の斬撃を、かろうじて反応が間に合ったデモリッシャーはメガクレーンで受け止める。
そして――
「デスフレイム!」
別の戦場ではフレイムコンボイ、インチプレッシャー組と恭也達残りのメンバー、という対戦カードが組み上がっていた。フレイムコンボイの放ったデスフレイムが恭也達の視界を奪い、
「ダブルヘッド、ハンマー!」
そこへインチプレッシャーがダブルヘッドハンマーを投げつけるが、恭也達は散開してそれをかわし、
「ドレッドキャノン、バーストアタック!」
放たれたドレッドロックの一撃が、インチプレッシャーを吹き飛ばす!
「インチプレッシャー!」
それを見て、思わず声を上げるフレイムコンボイだが――
「余所見をしているヒマが――」
「あるのか!?」
志貴と恭也がそんなフレイムコンボイに襲いかかった。恭也の斬撃をフレイムアックスでかわし――すかさず後方に跳躍し志貴の追撃をかわす。
恭也の小太刀はともかく、“死線”を狙ってくる志貴の攻撃は事実上ガード不可だ。フレイムアックスで防いだとしても、フレイムアックスを“殺”されるだけだ。
「くっ、厄介な能力だな、まったく!」
「ほめてくれたって、何も出ないぜ!」
応える志貴の追撃から逃れ、フレイムコンボイはさらに後方に跳躍し――着地と同時、何かに足を引っ掛けてその姿勢が崩れた。
原因は――周囲の岩に片っ端から巻きつけ、張り巡らされた鋼糸だ。
「足元は、ちゃんと気をつけような♪」
犯人は彼女だった――告げる一角の言葉を聞きながら、フレイムコンボイは真後ろにひっくり返っていた。
「くらえぇっ!」
「なんの!」
咆哮し、スカイリンクスの振り下ろしたデスシザース・ブレードモードの斬撃を、ソニックコンボイは素早くかわし、フラップソードでのカウンターを狙うが、
「させん!」
そこへジャマが入った。飛び込んできたプレダキングが、手にした大剣でその斬撃を阻む。
「ソニックコンボイさん!」
「ボクがいく!」
声を上げるなのはに答え、援護に向かおうとするクロノだったが、
「オォォォォォッ!」
そんな彼を阻んだのはオボミナス。対峙していたベクタープライムを投げ飛ばし、強引にクロノを妨害する。
(ダメだ……!
スーパースタースクリームの時と違う――スピードで振り回しても、パワーで巻き返される……!)
「なのは、プリムラ!
スピードじゃダメ! 火力で黙らせるしかない!」
「うん!」
《はいはい!》
フェイトに答え、なのはとプリムラはレイジングハートの先端に魔力を収束させるが――
「させるかよ!」
咆哮し、グレートポントスはオーバーバイトのトランスフォームした銃でなのはを狙い、なかなか反撃のスキを与えない。
「あー、もうっ!
完全に作戦が裏目じゃないか!」
「まさか、地球原住のホラートロンまでこっちに来るとは予想外だったからな」
うめくアルフにファングウルフが答え――そんな二人の背後にオボミナスが回り込み、力任せに弾き飛ばす!
「アルフ!」
「ファングウルフさん!」
とっさにフェイトとなのはが助けに向かおうとするが、それよりも早くオボミナスが二人に襲いかかり――
『ダブルエクスショット!』
『ツイン、サーチミサイル!』
突然の攻撃の雨がオボミナスに降り注ぎ、大爆発と共に吹き飛ばす!
その攻撃は――
《すずか、エクシゲイザー!》
「アリサちゃん、バックギルドさん!」
「よっ、お待たせ♪」
「心強い救援のご到着よ!」
声を上げるプリムラとなのはに、エクシゲイザーとアリサは笑顔で手を挙げて応じる。
「て、てめぇっ!」
そんな彼らにグレートポントスが銃を向け――しかし、駆けつけたのは彼らだけではなかった。
『ギガ、バニッシャー!』
『ブラスト、ランチャー!』
ファストガンナーとシオン、そしてハイブラストとノエルの放った一撃がグレートポントスを吹き飛ばし、
『マグナ、スマッシャー!』
『メビウス、バスター!』
ロングマグナスと那美、メビウスショットと美由希がプレダキングに一撃を見舞う。そして――
『プラティナム、クロー!』
ライガージャックとアルクェイドが、スカイクェイクを弾き飛ばす。
「大丈夫ですか、総司令官!」
「助けに来てあげたわよ!」
「すまない!
ソニックボンバー!」
「あいよ!」
ライガージャックとアルクェイドに答え、ソニックコンボイはソニックボンバーを分離させ、
「なのは、フェイト!」
「はいはーい!
フェイトちゃん!」
「うん!」
ソニックコンボイ改めギャラクシーコンボイとなのはの言葉に、フェイトはリンクアップナビゲータを起動させた。
「いくよ――みんな!」
言って、フェイトがバルディッシュをかざし――その中枢部から光が放たれる。
その中で、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『ギャラクシー、コンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが右腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な右腕に変形する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
フェイトを加えた5人の叫びと共に、右腕となったライガージャックがギャラクシーコンボイに合体する!
背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャックの変形した右腕に拳が作り出され、5人が高らかに名乗りを上げる。
『ライガァァァァァ、コンボイ!』
「いくぞ、スカイクェイク!」
「来い――ライガーコンボイ!」
告げるライガーコンボイにスカイクェイクが応じ――次の瞬間、強烈な衝撃と共にライガーコンボイの拳がシールドモードのデスシザースに叩きつけられる。
そのまま、両者の力はしばし拮抗し――
「バスターレイ、Shoot!」
〈Baster ray!〉
スカイクェイクの背後になのはが一撃。さすがにスカイクェイクも姿勢を崩し――
「バルディッシュ!」
〈Ax form!〉
「いっけぇっ!」
バルディッシュをアックスフォームに変形させたフェイト、そしてアルクェイドが追撃。スカイクェイクを弾き飛ばす!
「よし、行ける!
リンクアップ入れ替え大成功!」
「マスターメガトロン達がアースラを攻撃している以上、こちらで時間はかけられない。
一気に決めるぞ!」
『フォース――』
『――チップ!』
「イグニッション!」
ライガーコンボイとなのは、ライガージャックとアルクェイド、そしてフェイト――3組の声が響き、飛来したアニマトロスのフォースチップがライガーコンボイの右腕のチップスロットに飛び込む。
そして、右腕のプラティナムクローを展開したライガーコンボイはそれを天高く掲げ――その全身がフォースチップの“力”の輝きに包まれる!
渦巻くエネルギーに導かれ、浮き上がったライガーコンボイは一気にスカイクェイクへと突っ込み、
『ライガー、グランド、ブレェイク!』
渾身の力で振るった一撃が、スカイクェイクの身体を深々と斬り裂く!
同時――叩きつけられたエネルギーが爆裂し、スカイクェイクを吹き飛ばす!
「スカイクェイク様!」
「今回はここまで、か……!
増援を読めなかった時点で、すでに勝敗は決していた……」
あわててプレダキングが駆け寄ると、スカイクェイクは身を起こし、
「総員撤退だ!
この地にプラネットフォースがあることは間違いない――この場は退き、次を狙うぞ!」
「了解!
いくぞ、オボミナス!」
スカイクェイクの言葉にうなずき、グレートポントスがオボミナスを抑え、彼らは展開したワープゲートの向こうに消えていった。
「ライガーコンボイさん!」
「わかっている。
至急アースラと合流するぞ!」
なのはの言葉にライガーコンボイが告げると、
「向こうなら大丈夫ですよ」
そんな二人に右腕が――ライガージャックが告げた。
「メビウスショットの同僚が――“強力すぎる”味方が向かってますからね♪」
「いっけぇっ!」
「言われるまでも――ないっ!」
耕介に応え、ニトロコンボイ――いや、ロディマスコンボイはランサーモードのロディマスライフルでマスターメガトロンを弾き飛ばす。
「しかし、まさか志貴がリンクアップナビゲータを使えるようになっていたなんて、驚きなのだ!」
「おかげ様で、ぶっつけ本番のプレッシャーってヤツを経験させてもらったよ!」
美緒の言葉に志貴が答え、二人の一撃がガスケットをブッ飛ばし、ランドバレットに叩きつける。
「おのれぇっ!」
ロディマスコンボイ達の参戦で最初に開いていた戦力差は埋まった。こう着してしまった戦況を打破すべく、ロディマスコンボイを狙うフレイムコンボイだが――
「させるか!」
「お前の相手は、私達だよ!」
シックスナイトと美沙斗が恭也と共に立ちふさがる。素早い動きに振り回され、フレイムコンボイはその足を完全に止められてしまう。
「ヤロー! 人が転生して飛び道具減らしたからって、余裕でシカトかよ!」
一方、インチプレッシャーは完全に放り出されていた。無視されたことに怒り、ダブルヘッドハンマーをかまえ――
「そうは――させん!」
突然の声と共に、飛来したミサイルがインチプレッシャーを吹き飛ばす!
「何だ!?」
ガードシェルと戦う手を止め、デモリッシャーが声を上げると、彼らの頭上をそれが駆け抜けた。
1機のジェット機である。そして――
「シルバーボルト、トランスフォーム!」
咆哮し、シルバーボルトと名乗ったそのトランスフォーマーがロボットモードにトランスフォームする。
「我こそは、ミッドチルダ・サイバトロンがひとり、シルバーボルト!」
「ミッドチルダのサイバトロン……
じゃあ、シックスナイトの同僚か?」
「その通り!
義によって助太刀いたす!」
ガードシェルに答え、シルバーボルトは大地に降り立ち、マスターメガトロンと対峙する。
「フンッ、ザコがひとり増えたところで!
フォースチップ、イグニッション!」
対して、そんなシルバーボルトを前にマスターメガトロンは余裕の笑みと共にイグニッション。デスクローを左手に装着する。
しかし――
「ザコかどうかは――戦ってから決めるがいい!」
答え、シルバーボルトは跳躍し、
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮しながらイグニッション。背中のチップスロットに黄色のフォースチップが飛び込み、両肩のバーニアがマスターメガトロンへと向けられ、
「アフターバーナー、ショット!」
バーニアから放たれたエネルギーミサイルが、マスターメガトロンを直撃する!
しかし――
「ぬるいわぁっ!」
その程度で止まるマスターメガトロンではない。平然と突っ込み、デスクローを振るう。
だが、シルバーボルトもそれをかわし、
「それならば――これでどうだ!」
言って、シルバーボルトはそれを取り出した。
1枚の銀色のカード。それは――
「ウェイトモードの、デバイスか!?」
思わず真雪が声を上げる前で、シルバーボルトは咆哮した。
「来たれ! スペリオルフォース!」
その瞬間――カードが光を放った。その光は4つに分かれ、シルバーボルトの周囲を飛翔。4機のジェット機となる。
シルバーボルトの持つパワードデバイス“スペリオルフォース”である。
「ゆくぞ――マスターメガトロン!」
「シルバーボルト、パワードクロス!」
力強く咆哮し、大きく跳躍するシルバーボルトの後を追い、4機のスペリオルフォースは彼の回りを飛翔する。
そして、シルバーボルトは両腕をたたみ脚部を展開。大腿部をそなえたより大きなボディへと変形。その四肢にスペリオルフォースが合体する。
新たな両腕に拳が、両足につま先がエネルギー形成され、ボディから新たな頭部がせり出す。
ボディからの指令が四肢に行き渡り、新たな姿となったシルバーボルトは名乗りを上げた。
「武装騎士――スペリオン!」
「スペリオンだと……!?
笑わせるな! たかがパーツを付け足したくらいで!」
パワードデバイスを装着したシルバーボルト――スペリオンに対し、マスターメガトロンは再びデスクローを振るうが、
「そんな鈍重な攻撃で!」
スペリオンはその巨体に見合わぬスピードでそれを回避。逆にマスターメガトロンの背後に回り込み、殴り飛ばす!
「バカな!?」
「その程度のスピードで、我が動きを捉えることなどできるものか!」
マスターメガトロンに言い返し、スペリオンは取り出した短剣を頭上にかざし、
「ムラサメ!」
《御意》
そのスペリオンの呼びかけに応え、今度は短剣が一振りの剣にその姿を変えていた。
「アームドデバイスか!?」
「その通り!
ムラサメ、カートリッジ、ロード!」
《薬莢装填》
マスターメガトロンに言い返し、スペリオンはアームドデバイス“ムラサメ”にカートリッジをロードし――その刀身が嵐の如く渦巻くエネルギーに包まれ、
「荒鷹飛翔斬!」
「なんの!」
スペリオンが繰り出した一撃がマスターメガトロンのデスクローと激突。すさまじい衝撃が放たれる。
「ぐぅ……っ!」
重量よりも衝撃が優った――両足で踏ん張って耐えるがその勢いに圧され、マスターメガトロンは大きく後方に押し戻されるが、
「今だ!
フォースチップ、イグニッション!」
それこそがスペリオンの狙いだった。衝撃を利用して上空に逃れ、スペリオンはフォーチップをイグニッション。両腕のスペリオルフォースが分離し、両肩に展開されたアフターバーナーショットに合体する。
両肩に巨大な砲を装備し、スペリオンはマスターメガトロンへと照準を向け、
「アフターバーナー、キャノン!」
先程のアフターバーナーショットよりもさらに強力な閃光が、マスターメガトロンを吹き飛ばす!
「ぐわぁっ!」
「マスターメガトロン!?」
大地に叩きつけられたマスターメガトロンにフレイムコンボイが駆け寄るが、
「次は貴様か!」
そんなフレイムコンボイにアフターバーナーキャノンを向け、スペリオンが告げる。
「く………………っ!
野郎ども、引き上げるぞ!」
状況は不利――そう判断すると次の行動は早かった。フレイムコンボイはマスターメガトロンに肩を貸し、展開されたワープゲートをくぐっていった。
「改めて名乗らせていただこう。
ミッドチルダ・サイバトロン、王室騎士団団長、シルバーボルトという」
「サイバトロン軍総司令官、ギャラクシーコンボイだ。
そしてこちらはパートナーの――」
「初めまして。高町なのはです!」
《なの姉の相方の、プリムラでーっす!》
マスターメガトロン達も撤退し、なのは達も合流した。名乗るシルバーボルトの言葉に、ギャラクシーコンボイとなのは、そしてプリムラが応える。
「事情はすでにメビウスショットから聞き及んでいる。
すぐに、このミッドチルダのサイバトロンシティへと案内いたそう」
「頼む」
シルバーボルトの言葉にギャラクシーコンボイが答え、一行はシルバーボルトの案内で彼らの拠点へと向かうことになった。
そして彼らが向かったのは、アースラの交戦エリアとはまた違う山岳地帯の一角だった。
「この近くに?」
「左様。
ミッドチルダ・サイバトロンシティはこの山の地下に建設されている」
尋ねるギャラクシーコンボイの問いに、シルバーボルトはモニターに映る山々を見渡して答える。
「人の寄り付かないエリア、加えて隠蔽用の結界、か……
どうりで見つからないはずだ」
「地球の基地と発想は同じなんだね」
クロノの言葉にフェイトがうなずくと、アースラは前方の岩壁が開いて姿を見せたドックへとその身を進めていった。
「すぐに我らのリーダーもいらっしゃるはずだ」
通された指令室で、シルバーボルトはなのは達にそう告げた。
「どんな人なんだろうね、ミッドチルダのコンボイさんって」
「やっぱり、魔法とかに詳しいのかな?
シルバーボルトさんもデバイスを持ってたし……」
「それはもう、当然詳しいでござるよ」
なのはのつぶやきにフェイトが答えると、そんな二人にメビウスショットが告げる。
「ミッドチルダ、ベルカ双方の魔法に通じる魔導のエキスパート。取り分けミッドチルダ式には創世記から関わられている重鎮でござるよ。
それに……」
「…………それに?」
聞き返す美由希に、メビウスショットは答えた。
「そのパートナー殿を見ると、きっと何人かは驚かれるはずでござるよ」
「じゃあ、もうパートナーがいるんですか?」
メビウスショットの言葉にリンディが尋ねると、
「皆さん、お待たせして申し訳ない。
遠路はるばる、ようこそ我らのサイバトロンシティへ」
指令室奥のドアが開くと、ひとりのトランスフォーマーが姿を現した。
そのボディの意匠から、おそらくビークルモードはトラック系であろうことが推察される、かなり年配のトランスフォーマーだ。メビウスショットが『ミッド式魔法創世の頃からの関係者だ』というのも納得だ。
「私がこのミッドチルダのトランスフォーマーのリーダー、エルダーコンボイだ。
以後、よろしく」
そう名乗るトランスフォーマー改めエルダーコンボイだったが、なのはやギャラクシーコンボイ、さらにリンディやクロノを始めとする時空管理局からのメンバーは、彼よりもむしろ彼と共に入室してきた男の存在に目を丸くした。
彼がエルダーコンボイのパートナーなのだろうが――面識のある顔だった。一斉にその名を声に出す。
『ぐ、グレアム提督!?』
その頃、セイバートロン星では――
「………………くそっ……!」
地上から1フロア下の地下通路――物陰に隠れ、サンダークラッカーはひとり舌打ちしていた。
その姿は見るも無残に傷ついている。全身がビームで焼かれ、装甲もあちこちがひび割れている。
「まさか、セイバートロン星がこんなことになってるなんて……!」
うめいて、サンダークラッカーは超重力によって歪んで見えるセイバートロン星の空を見上げた。
「来るなよ……!
晶……セイバートロン星に、来ちゃダメだ……!」
うめくサンダークラッカーのすぐ頭上、セイバートロン星の地表は――
謎の虫型トランスフォーマーがうごめく、不毛地帯と化していた。
(初版:2006/10/01)