「みんな、お疲れさま♪」
なのは達がミッドチルダに旅立つ少し前――地球での事態の解決を知り、時空間に停泊するマキシマスへと招かれたはやては笑顔でシグナム達を労った。
そして、その視線は一同の輪の外へと動き、
「ビッグコンボイも、お疲れさま♪」
「………………フンッ」
はやてのその言葉に、ビッグコンボイはぶっきらぼうに視線を逸らす。
そんなビッグコンボイの様子に笑みをもらすはやてに、シグナムは真剣な表情で声をかけた。
「ですが、主はやて……」
「うん……だいたいわかっとる。
地球の空に開いたままの、スペースブリッジのことやろ?」
答え、はやてもまた表情を引き締めた。
「あんなんが空に開いたままやと、みんな不安やろうし……そもそも、まだ終わってないってことやろ?
せやったら、なんとかせな、ね♪」
「すみません……またしばらく留守にしてしまいますが……」
「あぁ、えぇよ。気にせんでも」
告げるシグナムに、はやては笑いながら答える。
「あのままほっとくワケにもいかへんやろうし……せやから、がんばっといで」
「ありがとう、ございます」
はやてのその言葉に、シグナムは一礼して謝辞を伝えた。
「少しいいか?」
アトラスとザフィーラがはやてを八神家へと送り届けに出かけてしばし――スターセイバーはビッグコンボイに声をかけた。
「……何だ?」
「貴様の真意を聞かせてもらいたい」
尋ねるビッグコンボイに、スターセイバーはそう告げた。
「貴様……我らの行いを主はやてに教えていないのか?」
「あぁ。
お前達との関係を聞かれたが、適当にごまかしておいた」
「そうだ。それがわからない。
貴様にとって、我らの行いを主はやてに隠す理由はどこにもない――なのに、なぜ隠した?」
その問いに、ビッグコンボイは当然のように答えた。
「情報が足りないうちから、迂闊なことはしない主義だからだ」
「何…………?」
「貴様らがなぜ……“闇の書”だったか? その完成を目指すのか――その理由を聞いていない。
オレが知るのはサイバトロンからの視点の情報のみ――ただ一方からのみの情報は、真実に影をもたらす」
そう答え――ビッグコンボイはスターセイバーと正対した。
「まずは、事情を話してもらおうか」
第41話
「ミッドチルダでのひと時なの」
「しかし驚きました……
まさかグレアム提督がエルダーコンボイのパートナーだったとは……」
「すまなかったね、秘密にしていて。
あの時はここまで事態が大きくなるとは思っていなかったからね――プラネットフォースもなんとかタナボタ的に渡し、秘密にしたままで済めばよしと思っていたのだが……
正直、こちらの読みが甘かったとしか言いようがない」
なんとか動揺を抑え、つぶやくギャラクシーコンボイの言葉にグレアムはそう答えてため息をつく。
「我らはすでに人との交流を絶って久しい。情報封鎖のために時空管理局の上層部と接触をとっているのみの状態だ。
どんな小さなキッカケであろうと、我らの存在が社会に知られるのはミッドチルダの社会においてもあまり歓迎できる事態ではない――地球ほどでなくとも、混乱は少なからず起きるであろう。
もはやここまで事態が切迫した以上、存在を明かす必要はあるであろうが――だが、それも段階的なものが望まれる」
「うむ」
エルダーコンボイの言葉にギャラクシーコンボイが答えると、
「まぁ、その話も大切ですけど……」
そんな彼らの間に、リンディが割って入った。
「まずは、みんなを休ませてあげましょう。
こちらに到着するなり戦闘があったワケですし」
「そうだな」
リンディの言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイはなのはへと向き直り、
「なのは、ここは私が打ち合わせしておく。
みんなと一緒に、少し休むといい」
「あ、はい……
じゃあ、お願いします」
「任せろ。
政治的な分野は我々の仕事だ」
頭を下げるなのはに、ギャラクシーコンボイは笑ってそう答えた。
「ってことで……これからどうしようか?」
「うーん……」
そんなこんなでギャラクシーコンボイ達の元から退出し、尋ねるなのはの問いに、ユーノは思わず思考をめぐらせる。
と、そんな二人にフェイトが声をかけた。
「じゃあ、誰かに頼んで、ここを案内してもらおうよ。
アリサやすずかも誘って」
「あ、そうだね!
それじゃあさっそく!」
だが――
「え………………?
もう、行っちゃったの?」
「そ。
なのはちゃん達と同じこと考えた忍さんに拉致られて、メビウスショットは美由希ちゃん共々レンタル中。
シックスナイトやシルバーボルトもそれぞれの所属部署に報告のために戻っちゃったし」
尋ねるなのはに、エイミィは端末にデータを打ち込みながらそう答える。
「つまり、このシティのことを知ってる人は全員出払ってるのか……」
ユーノがつぶやくと、エイミィは「よし、終わり!」という歓声と共に端末の電源を落とし、
「よし、それじゃあ行こうか、みんな♪」
「え………………?
行くって……どこへですか?」
「もちろん、シティの見学よ♪」
尋ねるすずかに、エイミィは笑顔で答える。
「ただ見て回る、なんてつまんないじゃない。
どーせだったら探検よ、探検!」
「あ、それいいですね!」
エイミィのその提案に、真っ先に同意したのはもちろん行動派のアリサだ。
しかし――
「おいおい、簡単に言うもんじゃない」
そう言い出したのは、格納庫で待機しているソニックボンバーと通信していたクロノである。
「ブリッジには最低誰かひとりはいないといけないだろ。
今ブリッジ要員はボクとエイミィしかいないんだし――」
「じゃ、クロノくんがいればいいよね♪」
「――って、おいっ!?」
「じゃ、クロノくん、留守番お願い!」
「ま、待て、エイミィ!」
ノンストップで話を進めるエイミィに対し、あわてて待ったをかけるクロノだったが――すでに彼女はなのは達を連れて出て行った後だった。
〈…………ドンマイ〉
通信の向こうのソニックボンバーは、今にも爆笑せんと肩を震わせていた。
「へぇ……」
「もう、志貴くんってば、さっきから『へぇ』とか『わぁ』とかばっかりじゃない」
先ほどから感心してばかり――廊下を歩きながら周囲を見回している志貴に対し、忍は笑いながら告げる。
「まぁ、いいじゃないか。
志貴くんだっていろいろ初めて見るものばかりだろうし……」
「ま、それもそうよね。
恭也よりはマシかな? 説明されても理解できないだろうし」
忍の言葉に恭也は無言で視線を外す――どうやら図星だったらしい。
そんな彼の姿に苦笑し、美由希はメビウスショットへと向き直り、尋ねた。
「さて、メビウスショット、この先は?」
「あぁ……東区画の研究エリアでござるよ」
尋ねる美由希に、メビウスショットはなぜかためらいがちに答える。
「新たなシステム開発に従事している、研究員達のラボが集中している――忍殿には興味津々のエリアなのではござらんか?」
「もちろん!
そうとわかれば、さっそく見学させてもらわなきゃ!」
メビウスショットの言葉に忍が答えた、その時――突如、通路の奥で爆発が巻き起こった。
「な、何だ!?」
「何が起きたの!?」
驚き、声を上げる志貴と忍の後ろで――恭也と美由希は顔を見合わせ、
「恭ちゃん……」
「あぁ…………」
研究施設で突然の爆発――
二人には、身に覚えがありすぎた。
だが、それも当然だ。
何しろ――それを日常的に引き起こしている人物が、今まさに目の前にいるのだから。
「うーむ……こんなはずではなかったのだが……」
爆発のあった研究室では、ひとりのトランスフォーマーが首をひねっていた。
その目の前にあるのは、もはや原型も想像できないほどに破壊された機械の残骸。
『破壊された』といっても、誰かに意図的に破壊されたワケではない――起動したとたん、自ら破滅の道をたどったのだ。
と――
「……またでござるか? ホイルジャック殿」
その言葉に、ホイルジャックと呼ばれたそのトランスフォーマーが振り向くと、そこにはメビウスショットが肩を落として立っていた。
「おや、キミは……?」
「シックスショットでござるよ。
まぁ……この姿になったのを機に、メビウスショットと名を改めたのでござるがな」
ホイルジャックの問いに、メビウスショットは軽く肩をすくめてそう答える。
「ふむ……よく見れば、確かに面影は残っているな」
そんなメビウスショットの言葉にホイルジャックが納得すると、
「ねぇねぇ」
そんな彼らの会話など意にも介さず、忍はホイルジャックに声をかけた。機械の残骸を指さし、尋ねる。
「これ、何なの?」
「うん? これか?
新式のジェネレータのテストをしていたのだが……見てのとおり失敗だ」
初対面であることなどまったく気にすることなく、ホイルジャックもまた忍に答える。
そんな彼の目の前で、忍は端末を器用に操作してデータを閲覧し、
「……うーん、確かにコレじゃあ少し辛いかな。
出力部分の冷却が追いついてない……もうちょっと冷却効率を上げなくちゃ。
たとえば……ほら、ここで冷やしてみたら、どう?」
「ふむ……シミュレートしてみるか」
忍の提案に、ホイルジャックは試しにデータを入力し、
「……なるほど。冷却効率20%増か。
確かに効果的だな」
感心してうなずくと、ホイルジャックは忍へと向き直り、
「お嬢さん、名はなんといったかな?」
「忍。月村忍よ」
「なるほど、忍か。
キミの発想はなかなか画期的ようだ――どうせしばらくは滞在するのだろう? よければヒマな時にでも手伝ってはもらえないだろうか」
「それはもう、こっちからお願いしたいくらいよ!」
ホイルジャックの提案に、忍は文字通り瞳を輝かせながら答え――
「となると、まずは……」
「そうよね……」
互いに意味深な笑みを浮かべ――忍とホイルジャックの視線は同時にメビウスショットへと向いた。
「………………
――ささ、師匠、次はどこを回るでござるかなー♪」
猛烈にイヤな予感がする――美由希を促し、その場をそそくさと退場しようとするメビウスショットだったが、
「待て、メビウスショット」
そんな彼の肩を、ホイルジャックは無情にも捕まえていた。
「な、何でござるか? ホイルジャック殿」
「お前のボディを調べて転生に関するデータを収集するに決まってるじゃないか」
「あぁ、なるほど――って、ちょっと待つでござる!」
あわててメビウスショットはホイルジャックの手を振りほど――こうとするが、ホイルジャックは彼の肩をガッチリとつかんで離さない。
「はっはっはっ、問答無用だよ、メビウスショット。
転生によって身体がどう変化しているかわからないのだ。我々の知的好奇心を満た――もとい、キミの身の安全を確かめるためにも、データはぜひともとっておかねば」
「出た! 今チラッと本音が出たでござる!」
なおも暴れ、抵抗を試みるメビウスショットだったが、ホイルジャックは彼を捕まえたまま忍に告げた。
「さて、ではデータリングルームに行こうか♪」
「そうね♪」
「た、助けてくだされ、師匠ぉぉぉぉぉっ!」
自力での脱出は不可能だと判断したのか、美由希に助けを求めるメビウスショットだったが、当の美由希は恭也と顔を見合わせて――
合掌した。
所変わって、サイバトロンシティの西区画――研究施設の並ぶ東区画に対し各隊の執務施設の集中するそこには、シックスナイトと美沙斗、そして一角の姿があった。
「すみません、ムリに同行させてもらっちゃって」
「いえ……かまいませんよ」
すまなさそうに告げる一角に対し、美沙斗は優しく笑いながらそう答える。
シックスナイトやメビウスショットが自分と同じ隠密であることを知らされ、興味を抱いた一角は隠密局へと任務の報告に赴こうとしていたシックスナイトに同行の許可を求めてきたのだ。
ともかく、二人が話している間にとなりをゆっくりと(人間である美沙斗達の歩行スピードに合わせている)歩いていたシックスナイトは目的の部屋を前にして足を止めた。
「失礼するぞ」
言って、シックスナイトが入室したのはミッドチルダ・サイバトロン公儀隠密局の局長室。
「局長、報告書だが……」
そう告げるシックスナイトだが、局長室の中はもぬけの空だった。
「……不在、でしょうか……?」
「いや、そういうワケじゃない」
つぶやく一角に答え、シックスナイトは天井を見上げ、呼びかけた。
「……兄者。
いつも言っているはずだ――隠密型だからって、普段まで天井裏に潜む必要はないんじゃないのか?」
「すまんすまん。
やはりオレはこういうところの方が落ち着いてな」
『すまない』と言っている割にはちっとも悪びれていない声が天井から返ってきて――そのトランスフォーマーは音もなく美沙斗達の前に姿を現した。
「職業病、というヤツなのかもな」
「いや、絶対に違うぞ、兄者」
そのトランスフォーマーの言葉にシックスナイトが即答し――美沙斗は気づいた。
「………………『兄者』?
シックスナイト、もしや彼は……」
「あぁ……
彼こそが公儀隠密局局長にして我ら義兄弟の長兄、隠密隊長グレートショットだ」
「今ご紹介に預かった、グレートショットだ。
御神美沙斗、キミのことは定期報告でシックスナイトから聞いている――なかなか優秀な剣士のようだな」
「いえ、私などまだまだです」
グレートショットの言葉に、美沙斗は苦笑してそう答えるが――その苦笑が照れから来る謙遜なのは、シックスナイトにとっても一角にとっても明らかだった。
「ところで、そちらのお嬢さんは……?
報告にはなかった顔だが……」
「当然だ。
こちらに戻る直前に参入したメンバーだ」
一角を見て尋ねるグレートショットの問いにシックスナイトが答えるのを聞き、一角は改めて名乗った。
「初めまして。
蔡雅流宗家、御剣一角です」
「蔡雅流……?
…………もしや、地球の隠密か?」
流派を名乗り、ここに興味を示すということは――推理を巡らせ、尋ねるグレートショットに一角は笑顔でうなずく。
「そうか。同業者か。
歓迎しよう――ようこそ、公儀隠密局へ」
言って、グレートショットはシックスナイトへと向き直り、
「シックスナイト、ここを任せていいか?」
「…………やれやれ、またか」
一言だけで通じたようだ――ため息まじりにシックスナイトは同意する。
「シックスナイト?」
「美沙斗、すまないが案内役交代だ」
尋ねる美沙斗に、シックスナイトは肩をすくめて答える。
「兄者のこだわりが出た。
客人は自分で案内しなければ気が済まない人なんだよ」
「なるほどね……」
隠密部隊の基地などにそうそう仕事以外の客があるワケでもない。そこに客が現れれば喜ぶのは当然――シックスナイトの言葉に思わず納得し、一角はグレートショットへと向き直り、
「それじゃあ、お願いしようか。
寂しがりやの局長さん♪」
「……別に、寂しがりやなワケではない」
一角の言葉に、グレートショットはプイとそっぽを向いてそう答えた。
「ほぉ、では、キミも剣術を」
「はい。
地球で、魔物退治や成仏できないでいる霊の除霊などを行っています」
移動歩道に乗り、目的地を目指しながら感心するシルバーボルトに、薫はうなずいて答える。
今回の出撃の報告も無事終わり、シルバーボルトはゆうひの依頼を受け、さざなみ寮のパートナーを持たないメンバーを連れてシティ内を案内していた。
「強いんよ、この子。
選手としても強い子で、全国大会で優勝したこともあるし」
「ほぉ……」
ゆうひのその言葉に、シルバーボルトはニヤリと笑い、
「ならば、これから行く場所はちょうどいいかもな」
「え………………?
どういうことですか?」
シルバーボルトの言葉にみなみが尋ねると、ちょうど移動歩道を覆っていたトンネルが途切れ――
『ぅわぁ……』
そこで繰り広げられていた光景を前に、一同は思わず声を上げた。
思わず呆然とする一同に対し、シルバーボルトはしてやったりと笑みを浮かべ、説明を始めた。
「東区画は研究施設。西区画は執務施設、北区画は居住区と対外設備――そして南区画は軍施設であり、ここは我ら王室騎士団の訓練場だ」
言って、シルバーボルトは訓練として剣を交えているトランスフォーマー達を見渡し――彼らの訓練を監督、指導しているひとりのトランスフォーマーを見つけた。
「……おぉ、ちょうどいい。
ブラッカー!」
シルバーボルトのかけた声に、ブラッカーと呼ばれたトランスフォーマーは指導を中断してこちらへと駆けてきた。
「お疲れさまです、団長」
「うむ」
一礼するブラッカーにうなずくと、シルバーボルトは薫達へと向き直り、
「紹介しよう。
王室騎士団・剣士隊隊長の――」
「ブラッカーといいます。
お話はすでにうかがっています――どうぞよろしく」
「あぁ、よろしく」
一礼するブラッカーに答え、薫は彼の差し出してきた人さし指と握手を交わす。
「彼は、私と共にキミ達のミッドチルダでの活動における案内役をエルダーコンボイより仰せつかっている。
キミ達もパートナーを得たいのであれば、ちょうどフリーでお得だぞ」
「だ、団長!?」
少しおどけて告げるシルバーボルトの言葉に、ブラッカーはあわてて声を上げた。
「ん? 何だ?
お前、前々から『パートナーが欲しい』と言っていただろう?」
「いや、しかし女性ではいろいろと……」
「なんだ。
まだ女性に免疫がないのか? この純情くんめ」
「ほっといてください!」
シルバーボルトに答えるブラッカーの言葉はほとんど涙声だった。
「なるほど……
改めて確認してみると、現状はかなり複雑化しているな……」
ギャラクシーコンボイやリンディから地球や他の惑星でのできごとを聞かされ、エルダーコンボイは息をついて納得する。
「中でもわからないのがこの二人、か……」
言って、グレアムが表示したのはノイズメイズとランページである。
「どの勢力に属するでもなくフラフラと……
現在ノイズメイズはスーパースタースクリームの元にいるようだが、ランページについては火山島の戦い以来また行方知れずか……」
「一体何が目的なんでしょうか……
プラネットフォースを集めようとしているのか、集めさせまいとしているのか……」
「あるいは、誰かが集めたところをかすめとるつもりなのかもしれない」
リンディの言葉にドレッドロックが告げると、
「ともかく、今は一刻も早くミッドチルダのプラネットフォースを手に入れることだ。
ノイズメイズ達が何を企んでいようと、やるべきことは変わらない」
「その通りだ。
エルダーコンボイ、教えてください――このミッドチルダのプラネットフォースの在り処を」
ベクタープライムの言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイはエルダーコンボイに告げる。
「メビウスショットは、ミッドチルダのリーダーには代々伝承されていると言っていましたが」
「そうか……
まったく、アイツは戦場で軽々しくそういうことを言ってしまうのが困りものだ。他は優秀なのだが……」
思わず苦笑し、エルダーコンボイは改めて告げた。
「では……説明する前にやってもらいたいことがある」
「『やってもらいたいこと』……?」
聞き返すギャラクシーコンボイに、エルダーコンボイはその『やってもらいたいこと』を告げた。
「えっと……いきなり集合って、何があったんですか?」
シティ内を探検し――というか、トランスフォーマーのサイズに合わせたシティの各施設に彼らとの体格差というものをしみじみと実感していたところに突如呼び出しがかかった。疑問によって首をかしげつつ、なのははギャラクシーコンボイに尋ねた。
彼らがいるのは中央区画――ミッドチルダ・サイバトロン総本部の集会室である。
「いや……私にもわからない。
エルダーコンボイが、プラネットフォースの在り処を説明する前にまず皆を集めて欲しいと言ったのだ。
特に、アースラのクルーやなのは、キミを最優先で」
「わたし達、ですか……?」
「何だろ……?」
つぶやき、なのはとユーノが顔を見合わせると、
「ギャラクシーコンボイ、リンディ提督。
そろったかい?」
「はい。
アースラクルーも全員そろっています」
声をかけてくるグレアムに、リンディが答える。
「よし、では始めようか」
「あぁ」
エルダーコンボイの言葉にグレアムが答えた、その時――ふと、集会室の入り口のドア、その向こうが騒がしくなった。
「わ、若……」
「今はちょっと……」
「いいの、そんなの!」
「いえ、よくありませんから!」
「お待ちを、若!」
そんなやりとりがドアの向こうで繰り広げられ――
「父上!」
大声と共に、ドアが開け放たれた。
そこに現れたのは、小柄なトランスフォーマーだった。
見たところ顔立ちも若い。スピーディアにいたスキッズと同じように、まだ子供のようだ。
そしてその後ろでは、彼を止め切れなかったシルバーボルトとブラッカーが「やれやれ」とでも言いたげに額を押さえている。
「外の世界からお客さんが来てるんだって!?」
「こら、ジャックプライム!
今は大事な話の途中なのだ。後にしろ」
(途中も何も、まだ話し始めてもいないだろ)
などと胸中でつぶやくのは、探検がてら美緒とのデートを楽しんでいたところに呼び出しを喰らい、不機嫌オーラをまき散らしているロディマスブラーである。
が――脳裏で不満をぶちまけていたロディマスブラーはふと気づいた。
となりのニトロコンボイや目の前の美緒、耕介と顔を見合わせ――ジャックプライムと呼ばれた、現れた子供のトランスフォーマーへと視線を向けた。彼らだけでなく、その場の全員が口をそろえて驚きの声を上げる。
『――――“父上”!?』
「…………あぁ。
我が不詳の息子――ジャックプライムだ」
「よろしく! ジャックプライムです!」
エルダーコンボイの紹介に、ジャックプライムは元気に敬礼して名を名乗った。やはり、まだまだ遊びたい盛りな印象を受ける。
「えっと……よろしく。
高町なのは、です……」
そんなジャックプライムのテンションに少々気圧されつつも、なのははなんとか名乗りを返し――
「え………………?」
なのはへと向き直ったそのままの姿勢で、ジャックプライムは動きを止めた。
すぐに再起動するものの――その場にしゃがみ込み、なのはへとじっと視線を向ける。
「え、えっと……何でしょうか……?」
尋ねるなのはの前でしゃがみ込むと、ジャックプライムはキッパリと告げた。
「ホレました!
付き合ってください!」
瞬間――動いた者達がいた。
「ストラグルバインド!」
ユーノの拘束術がジャックプライムにからみつき、
「ブレイズキャノン!」
クロノのブレイズキャノンがその顔面で炸裂する。
――薙旋!
ふらついたジャックプライムに恭也の薙旋が炸裂し、
《「ライトニング、ラム!」》
フェイトとジンジャーがジャックプライムを跳ね飛ばし、
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」
宙を舞うジャックプライムにギャラクシーコンボイがトドメを刺した。
「何よ何よ、いきなり何なのよ!」
黒焦げになって床に転がったジャックプライムに指を突きつけ、アリサが告げる。
「初対面の相手にいきなり告白なんて、何考えてんのよ!」
「あ、アリサちゃん、少し落ち着いて……」
「すずかはシャラップ!」
なだめようとしたすずかを一蹴し、アリサは再びジャックプライムへと向き直り、
「そして何より――なんでわたしじゃないのよ!
クロノといいユーノといい、いつもいつもなのはばっかり!」
「あ、それは同意かも」
拳を握りしめて断言するアリサに、忍が思わず納得する。
だが――それよりも気にかけるべきことがあった。リンディは不思議そうにギャラクシーコンボイへと視線を向け、
「ギャラクシーコンボイ……あなたがトドメ、ですか?」
「む………………
なぜかはわからんが、つい反射的に……」
「あー、話を戻していいか?」
首をかしげるギャラクシーコンボイに告げるのはエルダーコンボイだ。黒焦げにされた息子へと視線を向けるが――シルバーボルトとブラッカーが向かうのを確認し、二人ならば任せても大丈夫だろうと話を戻すことにする。
「まず、皆を集めてもらったのは、プラネットフォースに関することで、礼を言いたいことがあったからだ」
「お礼……ですか?」
聞き返すクロノに答え、エルダーコンボイは続けた。
「このミッドチルダのプラネットフォースは、ある地に封印されており、その封印を解くためにはそのための鍵をすべて集める必要がある。
だが――かつて一度だけ、偶然その封印の地に鍵がそろいかけたことがあった。
その事態を未然に防いでくれたのが、キミ達アースラクルーと高町くんやフェイトくん達だったんだ。
おかげでプラネットフォースが解放されてしまうことはなかった――この場を借りて、まずはそのことについて礼を言いたい」
『え………………?』
その言葉に、なのはとフェイトは思わず顔を見合わせた。
封印の地も、鍵の正体もエルダーコンボイはまだ明かしていない。だが――
自分達がからみ、“ある場所”に“ある物”がそろいかけた事件――
心当たりは、ひとつしかなかった。
「まさか……その封印の地と鍵というのは……」
「うむ」
リンディの言葉にうなずき、グレアムは告げた。
「ミッドチルダのプラネットフォースが封印されている地、そしてその封印を解く鍵は――」
「“時の庭園”と、ジュエルシードだ」
(初版:2006/10/08)