“時の庭園”とジュエルシードがからんできたことに、アースラクルーやなのはは大きな衝撃を受けた。
 特にフェイトの場合は深刻だった――かつて母の犯した罪が、再び自分の前にその弊害を見せつけてきたのだから。
 そんな彼らの心情を察し、エルダーコンボイは今後の検討は後日とし、その場はとりあえず解散となった。

 こうして、ミッドチルダを訪れた最初の晩――なのは達は就寝の時を迎えていた。

 

 見えたのは、見たことのない施設の中――
 何か黄色がかった液体にさえぎられた視界の向こうで、何か――いや、誰かが動き回っているのが見えた。
 と――その視界に新たな何かが入ってきた。
 巨大な足――トランスフォーマーのものだ。

『様子はどうだ?』
『今は安定しています……』

 トランスフォーマーの問いに、最初からいた人影が答える。

『ですが……今の状態もいつまで続くか……』
『うむ……』

 声の調子を落とした人影に、トランスフォーマーはうなずいた――のだろう、返ってきた反応から考えて。

『やはり……』
『わかっている。
 だが、今はまず、ここから出ることが先決だ』

 会話を聞き――気づいた。
 一方の声に聞き覚えがある。
 どこだっただろう――いつもならスムーズに回るはずの頭が回転してくれない。
 そんなことを考えているうちに、世界はみるみるうちに遠のいていき――

 

「…………ん……」
 軽く身じろぎし――フェイトは目を開けた。
 視界に入ったのはアースラの自室の天井。
 すぐとなりで聞こえる寝息はアルフだ。
 気持ちよさそうに子犬フォームで眠るアルフから視線を天井へと戻し――フェイトはつぶやいた。
「あの声……すごく懐かしい感じがした……」

 さて、一方でセイバートロン星に向かったメンバーは――

「くそっ、しつこいヤツらだ……!」
 衝撃で揺れるブリッジの中、ライブコンボイは後方から迫るそれをにらみつけた。
 自分達の乗るグランダスを追う、戦艦モードのダイナザウラーを。
「フンッ、追いついてしまえばこっちのものだ!」
「撃て撃て撃てぇっ!
 連中の艦の足を止めるんだ!」
 一方、ダイナザウラーのブリッジではオーバーロードとギガストームが上機嫌で指示を下していた。ダイナザウラーもまたそれに応えて砲撃を繰り返し、グランダスを狙う。
「グランダス、こっちも反撃!」
「そう簡単にはいかない。
 下手に反撃すれば速力が鈍る――この状況ではヘタをすれば追いつかれる!」
 さつきの言葉に答え、グランダスは懸命にダイナザウラーの攻撃をかわす。
「士郎さん!」
「せめてスペースブリッジを抜けられれば、回避機動もとりやすいのだが……!」
 声を上げるシェリーに士郎がうめいた、その時――突然、ダイナザウラーの後部で爆発が巻き起こった。
「何だ!?」
「誰かが……攻撃した……!?」
「そんなことよりも今は離脱だ!」
 突然のことに驚き、声を上げる真一郎とライブコンボイだが――いずれにしてもチャンスだ。士郎はすぐにグランダスに退避を指示し、その場を離れることにする。
 が――そんなグランダスにも攻撃は襲いかかった。推進部への直撃は避けられたものの、後部からの爆発で姿勢を揺さぶられたグランダスはバランスを崩し、スペースブリッジのエネルギー壁に叩きつけられる!
「きゃあっ!?」
「さつき、都古を!」
「うん!」
 グランダスの言葉にうなずき、さつきはシートから放り出された都古をなんとか受け止め、
「グランダス!」
「わかっている!
 右舷スラスター、最大出力!」
 さつきの呼びかけに、グランダスはスペースブリッジに叩きつけられた右側のスラスターすべてを噴射、体勢を立て直してスペースブリッジを飛び出す。
 その先に見えるのは――
「見えた!
 セイバートロン星だ!」
 かつて見たメッセージそのままの姿で暗黒の宇宙の中に浮かぶセイバートロン星の姿を確認し、真一郎が声を上げる。
「なんとかたどりついたか……」
「まったく、ヒヤヒヤさせてくれるわね……」
 ブロードキャストの言葉にアイリーンがつぶやくと、
「せやけど……」
「ん? どうした?」
 尋ねるブレインストームに、レンは自らの抱いた疑問を口にした。
「さっきの攻撃……一体誰からやったんや?」

「……逃がしたか……」
「かまわん。
 ここでの作戦に『念のため』以上の意味はない――成功しようと失敗しようと、大勢に影響はない」
 つぶやくその声に、新たな声がそう答える――
 スペースブリッジの一角――目立たぬように空間を歪めたそこに、二人のトランスフォーマーの姿があった。
 どうやらビースト系のトランスフォーマーのようだが――そのロボットモードからはイマイチその正体がつかめない。
「我々もセイバートロン星に向かうぞ。
 我らが主のため――ヤツの復活は阻止しなければならない」
「わかっているさ」
 互いに言葉を交わし――二人のトランスフォーマーはその場から姿を消した。

 

 


 

第42話
「解き放たれる軍団なの?」

 


 

 

 明けて翌朝――
「プレシア女史が“時の庭園”を手にしたのは、まったくの偶然だった――
 それ故に我々も放置していたのだが、ジュエルシードの巡るあの一件の捜査線上に浮上してきた時には正直肝を冷やしたものだ」
 サイバトロンシティ・指令室――当時のことを思い出し、エルダーコンボイは静かにそうつぶやく。
「それを防いでくれたキミ達には、心から感謝している。
 すべては我らの秘密主義が招いたこと――本当にすまなかった」
 昨日すでに告げたことだったが、改めて礼を言い、頭を下げるエルダーコンボイだったが――
「そ、そんなこと、ないです……」
 そんな彼に、恐る恐る答えたのはフェイトだった。
「こちらこそ、すみません……
 わたしの母さんが……」
「そうか……キミはプレシア女史の娘だったね……
 そう気を落とさなくてもいい。キミのこともプレシア女史のことも、責めているつもりはない」
 元気のないフェイトに対し、エルダーコンボイは彼女の前にかがみ込んでそう答えた。
「我が子を想う心はどんな親でも変わらない――彼女はその想いのあり方を誤ってしまっただけのことだ。
 私とて……彼女と同じ立場になれば、同じことをしていた可能性は否定できない」
 言って、エルダーコンボイはジャックプライムへと視線を向ける。
 当のジャックプライムは、現在なのはと自分との間にクロノ達が展開した防衛ラインを前に困った顔を見せている――まぁ、先日のように総攻撃を受けていないだけマシだろう。
「決して『良い母親』とは言えなかっただろう――だが、それでも母親だったのだ。彼女は」
「…………はい……」
 エルダーコンボイの言葉にフェイトがうなずく――そんな二人の様子を見ながら、リンディはグレアムに提案した。
「では、グレアム提督。
 “時の庭園”、そしてプレシア女史と共に消えた9つのジュエルシードの回収計画についてですけど……」
「あぁ」
 うなずき、グレアムはオペレータ席で端末に向かっているトランスフォーマーに声をかけた。
「パーセプター。
 当該空間の映像を出してくれ」
「了解しました」
 その言葉に、パーセプターと呼ばれたそのトランスフォーマーは端末を操作し、指令室の中央に問題の時空間の様子が3Dマップとして表示された。
「ここがかつて“時の庭園”の崩壊した座標だ。
 “時の庭園”本体はかなりの破損が見られるが、かろうじて原型を留めたまま次元断層跡、虚数空間の表層部分、擬似重力の釣り合っているエリアに留まっているのが確認されている」
「虚数空間は魔法が使えないんですよね?
 どうやって回収するんですか?」
 もっともと言えばもっともな疑問を尋ねる志貴だったが――その問いに答えたのはリンディだった。
「確かに魔法は使えないけど……私達の使う力は、魔力だけじゃないでしょう?」
「あ…………」
 リンディの言葉に、その意味するところに気づいた耕介は思わず間の抜けた声を上げていた。
「そうか……
 別に魔力にこだわらなくても、他の……科学の方から攻めれば!」
「正解。
 魔力は無効化されてしまうから、虚数空間で魔法によって活動することはできない――なら、物理法則に則って、向こうでも活動できるシステムを科学技術で用意すればいい、ってこと」
「管理局のテクノロジーだって、あながちナメたもんじゃないよ。
 悔しいかな、まだトランスフォーマーの技術には負けてるけど――虚数空間用の装備だって万全!
 前の事件の時は出番なかったけど、本局には虚数空間を調査するための、専門のチームだっているんだから♪」
 リンディの答えに補足し、エイミィは笑顔でガッツポーズをとって見せる。
「ということは、“時の庭園”のサルベージはその調査チームが?」
「いや、今回は時空管理局から人員は割かない。
 虚数空間内での活動技術は我らも保有している――我らミッドチルダ・サイバトロンの中からメンバーを選抜する。
 今回は大規模なサルベージ作業になるからな。管理局から重機を持ち出すより我々でこなしたほうが手間もない」
 エイミィに尋ねるニトロコンボイに答え、エルダーコンボイが説明を続ける。
「作業自体は簡単だ。他に影響を及ぼさぬよう周囲を隔離した上で当該空間に擬似的な次元断層を発生させ、虚数空間に飲み込まれた“時の庭園”をサルベージする――
 崩壊時に行方知れずとなったプレシア女史や共に消えたジュエルシードの手がかりも、きっと何かつかめるだろう」

 すでにサルベージ部隊の編成は終了していた。シティ内のドックに停泊するアースラへと一同が戻ってきた時には、ブラッカーの指揮によって一糸乱れぬ統率で整列を終えていた。
「彼らが今回のサルベージ作戦に従事するメンバーだ。
 こちらからは私とシルバーボルト、ブラッカー。スタッフとしてホイルジャック――そしてオペレータ補佐官としてパーセプターを同行させよう」
「よろしくお願いします」
 エルダーコンボイの言葉に、パーセプターが一歩進み出て、ギャラクシーコンボイと握手を交わす。
「なら、オペレータ仲間だね。
 よろしく、パーセプター」
「エイミィ……だったね。
 こちらこそよろしく」
 笑顔で告げるエイミィにパーセプターが告げると、
「父上!」
 エルダーコンボイの元に駆けてきたのは、やはりと言うかジャックプライムだった。
「ボクも行く!
 ボクだって、何か手伝えることがあるかもしれないし!」
 決意の表情で告げるジャックプライムだったが――
「ダメ。
 なのはにカッコイイところを見せたいだけでしょ」
 その目的はバレバレだった。その眼前にバルディッシュを突きつけ、フェイトは鋭く言い放つ。
 視線にはジャックプライムに対するライバル意識がむき出しだ。完全に『ウチの子は嫁にはやらん』状態である。
「むーっ!
 だけど、手伝いたいってのはホントだよ!」
「それでもダメ!」
 真正面からにらみ合い、ジャックプライムとフェイトが火花を散らしていると、
「どちらにせよ、今回は留守番だ」
 ジャックプライムを制して告げるのはエルダーコンボイだ。
「今回の作戦は船外活動がメインだ。
 お前向きではない。ガマンしておけ」
「……はーい……」
 さすがに父親の言葉には素直に従った。まだ不満げではあったが、ジャックプライムはすごすごと引き下がる。
「フェイト、キミもだ。
 いくらなんでも、今のは少し言いすぎだ」
「クロノ……だけど……」
 同様にたしなめるクロノの言葉にこちらも不満の声を上げるフェイトだったが――
「心配するな。
 もしもの時はボクが殺る」
「えーっと……クロノ、キミも落ち着こうな、うん」
 フェイトに告げるクロノの言葉に気圧され、耕介は少し引き気味にツッコミを入れていた。

 ともかく、サイバトロンシティを出発して数時間、アースラは目的の座標を――かつて“時の庭園”が次元断層に飲み込まれていったあの空域を目前にしていた。

「次元振動器、指定座標に配置」
「データ観測準備完了。
 人工次元震、発生準備完了です」
「そうか」
 もはやトランスフォーマー達による第2司令部と化したアースラの格納庫――パーセプターとホイルジャックの言葉にうなずき、エルダーコンボイはギャラクシーコンボイへと向き直り、 
「ギャラクシーコンボイ、準備は整った」
「すまない、エルダーコンボイ」
 そう礼を言うと、ギャラクシーコンボイはブリッジへと通信し、
「リンディ提督」
〈わかりました〉

 ギャラクシーコンボイの言葉に、ブリッジに詰めていたリンディは立ち上がり、一同に指示を下した。
「では、これより“時の庭園”サルベージ作戦を開始します。
 エイミィ、バックギルド、パーセプター以下データリング班はデータ解析を――次元振動器のフィールドで隔離した中でのこととはいえ、時空震を人工的に引き起こすんです。一時も目を放さないように」
「了解♪」
〈お任せです〉
〈了解です〉
 リンディの言葉に指名された面々が口々に答え、オペレータ一同は端末に向かい観測の準備を進める。
〈次元振動器、作動開始。
 隔離フィールド、展開します〉
〈人工時空震、起爆システム起動。
 カウントダウン開始〉
 ホイルジャックとパーセプターの言葉と共に、射出されていた次元振動器が作動し、目的の空域を発生したエネルギーで覆っていく。
「あれって、確か……」
〈あぁ。
 キミ達と出会ったばかりの頃、グランドブラックホールを縮小させようと試みた次元振動器と同様のシステムだ〉
 尋ねるなのはにファストガンナーが答えると、今度はフェイトが尋ねた。
「けど……時空震を起こすほどのエネルギーを、あんなもので封じ込められるの?
 グランドブラックホールも止められなかったし……」
〈う゛っ…………なかなかに手厳しいね。
 だが、心配はない。今回使用される次元爆弾――時間制限の『時限』ではなく次元世界の『次元』だが――はグランドブラックホールほどのパワーはないからね〉
 モニターで苦笑まじりに答えるファストガンナーの姿にシオンが思わず笑みを漏らすと、
「そろそろ始まるぞ。
 いくら隔離されていても、衝撃は少なからず来る――気をつけるんだ」
「あ、はい……」
 クロノの言葉にすずかがうなずき――前方で光の放流が巻き起こった。
 彼らの言うところの“次元爆弾”が炸裂したのだ。
 光の渦は次元振動器によって隔離された空域内で荒れ狂い――それが収まった時、フィールド内の空間は一変していた。
 なのは達もかつて見たことのある、時空間のさらなる狭間――次元断層である。

 これ以上の次元断層の広がりがないことが確認され、ついに“時の庭園”をサルベージするための部隊が次元断層の向こう――虚数空間へと出発することとなった。
「頼むぞ、ブラッカー」
「わかっています」
 自分の身を案じるシルバーボルトの言葉に、ブラッカーは敬礼して応える。
 と――
「ブラッカーさんが先発隊の指揮を取るんですか?」
 そんな彼らに尋ねるのは、リンディに連れられてブリッジから下りてきたなのはだ――傍らにはフェイトにすずか、アリサやアルフも控えている。
「虚数空間じゃ、わたし達は何かあっても助けてあげられないし……」
「気をつけてね、ブラッカー」
「心配はいらない。
 これでも王室騎士団の剣士隊隊長だ」
 なのはとフェイトの言葉に答え、ブラッカーは先遣隊と共に出発していった。

「こちらブラッカー。
 虚数空間に侵入――現時点では“時の庭園”は確認できない」
 専用のブースターユニットを装備し、先遣隊の先頭に立って虚数空間に侵入したブラッカーはアースラに通信、現状をそう報告した。
 確かに彼の言うとおり、周囲は不気味に歪んだ虚数空間の光景が広がるのみであり、“時の庭園”らしき浮遊物体は確認できない。
 今のところ異常は見られないが、油断は禁物だ。ここはあらゆる魔法の発動をキャンセルしてしまう虚数空間だ――物理法則も通常の時空間とはいくつかの点で差異があり、トランスフォーマーであっても突入には危険が付きまとう。
 すなわち――自分達に何かあっても、管理局からの救助は正直あてにできないのだ。
 油断せず、ブラッカー以下先遣隊は周囲を探り――
「………………?
 隊長、あれを」
「む………………?」
 部下の声に、ブラッカーは彼の指し示す方向へと視線を向け――アースラへと再び通信した。
「………………訂正します。
 まだ距離はありますが――浮遊する岩塊群の向こうにそれらしき浮遊物体を確認しました。
 今から映像を送ります」

「……確認しました。
 シルエットだけだし、障害物越しだけど……上部の形状が記録映像の“時の庭園”の破損状態と一致します。
 “時の庭園”と考えて、まず間違いはありません」
 ブラッカーから送られてきた映像を確認し、リンディはうなずいてエルダーコンボイに告げる。
「よし。
 ブラッカー、内部調査を開始しろ。
 何が待つかわからん――十分に注意しろ」
〈了解〉

「よし、各員上陸準備だ」
 部下達を先導し、ブラッカーはそう指示を下すと岩塊群を抜け――
「………………む?」
 ふと違和感を感じた。
 視界に入った“時の庭園”の全体像――それがおかしい。
 虚数空間の中で崩れ、形状が変わっているのならまだわかるが――
 “大きさを増している”のはどういうことだろう。
「何か浮遊物でも引っかかったのでしょうか……?」
「確認してみよう」
 部下のつぶやきにブラッカーが答え――

 

 次の瞬間、閃光が走った。

「ブラッカー!?
 おい、ブラッカー、どうした! 応答しろ!」
 突如通信が途絶えた――ノイズばかりを届ける通信機に向けて、シルバーボルトは必死に呼びかける。
「ブラッカー達に、何かあったんだ……!」
「ど、どうしよう……!?」
 つぶやく恭也の言葉になのはが不安げに尋ねると、
「もちろん、助けに行く」
 そう答えたのはエルダーコンボイだ。
「ギャラクシーコンボイ」
「わかっている。
 ニトロコンボイ。耕介と共にアースラを頼む」
「どうせオレはリンクアップしないと飛べないからな。そっちは任せる」
 エルダーコンボイに同意したギャラクシーコンボイにニトロコンボイが答えると、
〈……待って!〉
 そんな彼らを呼び止めたのはブリッジに残っていたエイミィだった。
〈バックギルド、パーセプター〉
「こちらでも確認した」
「分析している」
 エイミィに答え、バックギルドとパーセプターもすぐに分析を始める。
「どうしたの?」
「さっきブラッカーが送ってくれた映像――“時の庭園”の下部が大きかっただろう?
 何かが引っかかっていた――最初はそう思ってたんだけど……」
 アリサに答え、バックギルドはデータの分析を続け――告げた。
「“その下部の追加部分が動き始めたんだ”」
「ど、どういうことだよ、それ!?」
「ボクだってわからないよ!」
 思わず声を上げるエクシゲイザーにバックギルドが答えると――シルバーボルトはエルダーコンボイに尋ねた。
「エルダーコンボイ様。
 まさか……」
「うむ……考えたくはないが……」

「一体、何が起きてるんだ……?」
「そんなの、わからないのだ……」
 つぶやくロディマスブラーの言葉に、美緒もまた事態が呑み込めず首をひねるしかない。
 と――
「………………っ!」
 突然フェイトはそれを感じ取った。
 視界がダブる――自分の見ている光景の他に、もうひとつの風景が重なる。
「……これって……!?」
「フェイトちゃん……?」
「フェイト……?」
 なのはとアルフが首をかしげるが――フェイトはそれどころではなかった。
 彼女が見ている光景、それは――
 昨夜、夢で見たあの光景だった。

 

『次元断層が開いたようだな……』
『えぇ』

 夢で見たのと同じ光景の中――告げるトランスフォーマーの言葉に、あの懐かしい声が答える。

(次元断層……?
 まさか、わたし達が開けた……?)

『これは、我らが再び世に躍り出るまたとない好機』
『けど……』
『わかっている。
 接近していたトランスフォーマー達には悪いことをした……』

(それって……ブラッカー達のこと!?)

『だが、ここで気づかれてせっかくの脱出路を閉じられるワケにはいかない』
『それは、わかってる……
 “彼女の望み”を果たすためにも……まずはここから出なければならないものね……』

(『ここから出る』……それって――)

 

「――――みんな、下がって!」
 気づけば、フェイトは声に出して叫んでいた。
「フェイトちゃん、どうしたの?」
 なのはが尋ねると、フェイトは叫ぶように答えた。
「次元断層の中から……虚数空間の中から、何かが出てくる!」
「何だって!?」
 その言葉に、ギャラクシーコンボイが思わず声を上げると――
「総司令官!」
 モニターに現れた異変に気づき、ドレッドロックが叫ぶ。
 彼に示されるまま、一同はモニターへと視線を戻し――それを見た。
 次元断層の向こうに見える影を。

 まず姿を現したのは巨大なハサミだった。
 砲塔を全体に配したその体躯を次元断層から出し、最後に尾を引き抜く。
 その尾の先端には巨大なクサビ――

 次元断層の中から現れたのは、巨大なサソリ型の戦艦だった。

 

「な、何よ、アレ!?」
ふね、なのか……!?」
 突如姿を現した巨大戦艦を前に、アルクェイドとライガージャックがうめくと、
「……“ウィザートロン”の母艦、メガデストロイヤーだ」
 その答えに、全員の視線がエルダーコンボイへと集まった。
 そんな一同の視線を一身に受け、エルダーコンボイは告げた。
「我らと道を違え、戦いの道を選びし者達“ウィザートロン”……
 かねてから我らの力で封印していたが、まさか復活していたとは……」
「ウィザートロン……どうやらそれが、ミッドチルダのデストロンの名のようだな」
 エルダーコンボイの言葉に恭也がつぶやくと、
「みんな――アレ見て! 甲板の上!」
 知佳が声を上げ、指さしたモニターの中で――サソリ型戦艦“メガデストロイヤー”の上に新たな影がその姿を見せていた。

「……どうやら、時空管理局の艦船みたいだな」
「しばらく見ない間に、ずいぶんと進歩したみたいじゃねぇか」
 メガデストロイヤーの甲板上に現れた影――“ウィザートロン”もまた、目の前に佇むアースラに注意を向けていた。あるひとりのつぶやきに別のひとりが答えると、
「私語は慎め、オンスロート、ショックウェーブ」
 新たなひとりが二人をたしなめた。
「今から我々はヤツらを突破することになるんだぞ」
「はいはい。
 まったく、レオザックは相変わらずのマジメくんだね」
 新たなひとり――レオザックの言葉にショックウェーブと呼ばれたトランスフォーマーが肩をすくめると、
「レオザックの言うとおりだぞ」
 彼らの中央に位置していたひとりが口を開いた。
「見たところエルダーコンボイ達もいるようだが……正直かまっているヒマなどない。
 一撃加えたらすぐに離脱するぞ」

「――動き出した!
 こちらから離脱するコースを取っています!」
 メガデストロイヤーがゆっくりとアースラに向けて転進を始めたのに気づき、パーセプターがエルダーコンボイに報告する。
「ギャラクシーコンボイ」
「あぁ。
 ブラッカーの安否は気がかりだが――まずは目の前の問題を片付ける!」
 ベクタープライムの言葉にギャラクシーコンボイがうなずくと、
「ギャラクシーコンボイさん、わたし達も!」
 そんな彼らになのはが告げる。
「虚数空間じゃないなら、わたし達だって戦える」
「もちろんだ。
 我々は時空間での活動には慣れていない――すまないが頼りにさせてもらう」
 フェイトの言葉に答えると、ギャラクシーコンボイは一同に告げた。
「総員、出撃だ!」
『了解!』

「――向こうも動いたようですね。
 魔導師の姿も確認できます」
 アースラからギャラクシーコンボイやなのは達が飛び立つのを確認し、レオザックはリーダー格のトランスフォーマーに告げた。
「いかがいたしますか? メガザラック様」
「今さら問うな。方針は変わらん」
 レオザックに答え、リーダーは――メガザラックは一同を見回し、告げた。
「レオザックとショックウェーブは私と共にヤツらと交戦。
 オンスロート、ゴウリュウ――飛べないお前らでは前線には出られない。甲板上で対空砲火に参加しろ。
 艦内に残ったメンバーは引き続き操艦。いつでも離脱できるよう準備を整えておけ」
『了解!』
「では――いくぞ!」
 部下達の答えにうなずき、メガザラックは時空間の中へと飛び立った。

「オラオラ、行くぜ!」
「熱くなるなよ、ソニックボンバー!
 ボク達はまだヤツらについて何もわかってないんだ」
 先陣を切ったのはソニックボンバーとクロノだ。スピードに物を言わせて接近するウィザートロンへと襲いかかる。
「フンッ、ひとりで先走るか――ずいぶんとナメられたもんだ!
 レオザック、トランスフォーム!」
 対してその前に立ちふさがるのはレオザックだ。ジェット戦闘機にトランスフォームし、ソニックボンバーとのドッグファイトに突入する。
「ソニックボンバー!」
「ドレッドロック!」
「わかっている!」
 志貴の言葉にうなずき、飛び出すドレッドロックだが、
「てめぇらの相手はオレ様だぁっ!
 ショックウェーブ、トランスフォーム!」
 咆哮と共にショックウェーブが攻撃艇にトランスフォーム。彼らにも攻撃を開始する。そして――
「メガザラック、トランスフォーム!」
 ジェット戦闘機にトランスフォームしたメガザラックがギャラクシーコンボイに肉迫。至近距離でロボットモードに再トランスフォームし、右手に装備したハサミを叩きつける!
「くっ、貴様……!」
「そういえば自己紹介がまだだったな。
 エルダーコンボイから聞いていると思うが――我が名はメガザラック。“ウィザートロン”を統べる魔導大帝だ」
 うめくギャラクシーコンボイに答えると、メガザラックは左手にもハサミを装着し、
「もっとも――この場で散るなら、私の名など知る意味もないがな!」
 告げると同時、素早い動きでギャラクシーコンボイに襲いかかる!
「ギャラクシーコンボイさん!」
 とっさになのはが援護に向かおうとするが――そんな彼女達には、メガデストロイヤーからの砲撃が襲いかかる!

「これじゃ戦うどころの騒ぎじゃないよ!
 スカイリンクス!」
「わかっている。
 ベクタープライム、付いてきてくれ――まずはあのふねから黙らせるぞ!」
「わかった!」
 メガデストロイヤーからの砲撃で完全に動きを止められた。知佳の言葉にスカイリンクスとベクタープライムがメガデストロイヤーへと向かうが――
「来た来た!
 迎撃するぞぉっ!」
「もっとも、迎撃するのはオレだがな」
 貴様は飛び道具もないしな――そう付け加え、オンスロートはゴウリュウを差し置いて武装トレーラーにトランスフォーム。スカイリンクス達へと砲撃を放つ。
 さらにメガデストロイヤー自体からの砲撃も加わり、スカイリンクス達も近づくことができない。
「総司令官! このままでは!」
「わかっている!」
 ハイブラストに答え、ギャラクシーコンボイはメガザラックの攻撃をかわし、そのままカウンターで拳を繰り出し――
「させん!」
 メガザラックが右のハサミを向け――その先端を中心に展開された、三角形を基本としたの魔法陣が、ギャラクシーコンボイの拳を受け止める!
「防御魔法!?」
「エルダーコンボイから聞いていないのか?
 私もまた――ミッドチルダ出身なんだぞ!」
 ギャラクシーコンボイに言い返し――メガザラックが周囲に魔力光弾を生成、ギャラクシーコンボイに向けて解き放つ!

「くそっ、オレ達も飛べさえすれば援護できるのに……!」
 アースラの格納庫で戦いを見守り、エクシゲイザーがうめく。
「リンディさん!」
「わかってるわ!
 全艦攻撃態勢! ギャラクシーコンボイ達を援護して!」
 恭也の言葉にうなずいたリンディの指示で、アースラもまた魔力砲をスタンバイ、メガデストロイヤーへの攻撃を開始する。
 と――
「リンディ提督、ここは任せてかまわないかな?」
 そう告げたのはエルダーコンボイだった。
「エルダーコンボイ……?」
 振り向くリンディに、エルダーコンボイは答えた。
「メガザラックの相手をしてくる」

「く………………っ!」
 放たれた魔力光弾をなんとかかわすギャラクシーコンボイだったが――慣れない時空間ではうまく動けない。かわしきれず、数発の直撃を受けてしまう。
「ギャラクシーコンボイさん!」
 声を上げるなのはだが――
《なの姉!》
「――――――っ!」
 プリムラの声にとっさにその場から離脱、ショックウェーブの放ったビームを回避する。
「なのは!」
「よそ見しているヒマがあるのか!?」
 攻撃を受けるなのはに気を取られたギャラクシーコンボイへと、メガザラックが襲いかかり――

 しかし、メガザラックの攻撃がギャラクシーコンボイをとらえることはなかった。
 突然割って入り、メガザラックのハサミを受け止めたのは――
「貴様……エルダーコンボイ!?」
「久しぶりだな――メガザラック!」
 驚くメガザラックに答え、エルダーコンボイはメガザラックのハサミを振り払う。
「すまない、エルダーコンボイ」
「礼ならいい。
 それより、今はヤツを叩くぞ!」
 ギャラクシーコンボイに答え、エルダーコンボイはそれを取り出した。
 ウェイトモードの、パワードデバイスである。そして――
「来い! キングライナー、キングフリート!」
 その咆哮に応え、デバイスカードの中から巨大な列車型サポートメカが姿を現した。
 エルダーコンボイのパワードデバイス“キングライナー”だ――続けて車体後部が分離、戦艦型パワードデバイス“キングフリート”となり、分離したキングライナー改め“キングトレイン”と共にエルダーコンボイの周りを飛び回る。
「――ゆくぞ!」

「エルダーコンボイ、スーパーモード!
 パワード、クロス!」
 エルダーコンボイが咆哮、飛翔し、その後を追うキングライナー、キングフリートが変形を始める。
 それぞれの前端部が下方に倒れ、続いて上部ユニットが分離、前端部の底側に合体して両腕となり、それぞれ左半身、右半身となる。
 そして、ビークルモードとなったエルダーコンボイをはさみ込むように両者が合体。収納されたエルダーコンボイの内部から新たな頭部が姿を現す。
「ディスチャージサイクル、スパークパルスコンディション、メインプログラム・システムチェック、各ウェポンシステム、オールグリーン!」
 合体したキングライナー、キングフリートと自身のシステムが連結されていくのを体感しながら、エルダーコンボイは改めて名乗りを上げる。
「スーパーモード――エルダーコンボイ!」

「お、おっきいなー……」
「ま、まぁ、戦艦や列車との合体だし……」
 スーパーモードへとその姿を変えたエルダーコンボイの巨大な姿を前に、なのはとユーノは思わず呆然としてつぶやく。
「覚悟はいいな、メガザラック!
 貴様を倒し、部下共々今一度封印してくれる!」
 そのままメガザラックへと向き直り、告げるエルダーコンボイだが――
「やれるものなら、やってみろ!」
 メガザラックはエルダーコンボイに真っ向から襲いかかった。素早く間合いを詰め、ハサミによる一撃を繰り出す。
「させるか!」
 対して、カウンターとばかりに巨大な右腕を振るうエルダーコンボイだったが――メガザラックはいとも簡単にその一撃をかわし、逆にエルダーコンボイの顔面に一撃を見舞う。
「どうしたどうした!?
 動きが鈍いぞ――年老いたのが災いしたな!」
「く………………っ!」
 舌打ちしながらも全身の火器を斉射するエルダーコンボイだったが、やはり当てられない。メガザラックは目まぐるしい機動で回避し、さらに一撃を叩き込む!
「エルダーコンボイさん!
 プリムラ!」
《皆まで言わない!》
 エルダーコンボイを救わなくては――なのはの言葉にプリムラが答え、
〈Blitz shooter!〉
 かまえたレイジングハートから放たれた無数の魔力光弾が、メガザラックへと降り注ぐ!
 だが――
「そんなもの!」
 メガザラックはそんななのはの攻撃にも対応した。足元に三角形を基本とした魔法陣が展開され――次の瞬間、全方位に展開された防壁がブリッツシューターをことごとく弾き飛ばす!
「ジャマをするな――魔導師!」
 咆哮し、メガザラックはなのはに向けて魔力を収束させ――その背中で爆発が巻き起こる!?
「何だ!?」
 驚いて振り向いたメガザラックの視線の先には、未だ口を開け続けている次元断層。そして――
「それ以上はやらせんぞ――メガザラック!」
 傷ついた身体でデバイスカードをかまえる、ブラッカーの姿があった。

「シーザーローダー!」
 ブラッカーの咆哮にデバイスカードが応え――あふれた光の中から現れたのは彼の操るホバートレーラー型パワードデバイス“シーザーローダー”だ。
「ブラッカー、パワードクロス!」
 そして、ブラッカーが力強く咆哮し、シーザーローダーが変形を開始する。
 車体前部がスライド式に前方に伸ばされ、左右に分かれて両足となり、続けて車体後部の駆動部が左右に展開、両腕となり、本体中央部分に大きな空間を空けたボディが完成する。
 そして、ビークルモードのバギー形態にトランスフォームしたブラッカーがシーザーローダーの空きスペースに合体。胸部となり内部から新たな頭部を出現させる。
 自身からの指令が四肢に行き渡り、新たな姿となったブラッカーは名乗りを上げた。
「武装剣士――ロードシーザー!」

「フンッ、貴様ごときに、この私の相手が務まるものか!」
 合体パワードクロスしたロードシーザーを前にしても、メガザラックは決して臆することはなかった。むしろ余裕の態度でロードシーザーと相対する。
 それに対し、ロードシーザーも小太刀を取り出し、
「目覚めろ――ハバキリ!」
《了解》
 その呼びかけに応え、小太刀は巨大な両刃の剣――アームドデバイス“ハバキリ”となる。
「アームドデバイス、か……よかろう。
 貴様がそれをどれほど使いこなしているか――見てやろう」
 ハバキリをかまえるロードシーザーを前に、メガザラックもまた魔法陣を展開し――
〈待ちなさい、メガザラック〉
 突然の通信がメガザラックを制止した。
〈メガデストロイヤーはすでに離脱可能域に到達したわ。
 任務は完了よ〉
「………………そうか」
 通信の声にうなずくと、メガザラックはかまえを解いた。
「命拾いしたな」
「逃がすものか!」
 告げるメガザラックの言葉に、ロードシーザーは渾身の力で斬りかかり――フェイトは気づいた。
 魔法陣に描かれていた術式が変化している。あの術式は――
「待って、ロードシーザー!」
「――――――っ!?」
 フェイトの声に反応するロードシーザーだったが、渾身の力ではなった斬撃は止められず、そのままメガザラックを斬り裂き――その姿が消えた。
「何――――――っ!?」
「幻覚による分身とそれに紛れての転送離脱――」
 驚くロードシーザーに、フェイトは静かに告げた。
 見ると、ショックウェーブやレオザックもまた姿を消している。
「ひとつの魔法陣で二つの、しかもあんな高度な魔法を併用するなんて……」
「トランスフォーマーだったけど……同時に相当の魔導師だね、アイツ」
 相手の力量の一端を垣間見、なのはとユーノがつぶやくが――
「ひとつじゃない」
 そう答えたのは、ソニックボンバーと共に降下してきたクロノである。
「他の二人も、同様の魔法で姿を消した。
 おそらくは――あの通信の声の主の仕業だろう」
「あんな魔法を、3人分まとめて使ったっていうの!?」
「だとしたら……相手は『相当の使い手』なんてレベルじゃないよ……!」
 クロノの言葉に、なのはとユーノは思わず顔を見合わせる。
〈それについては、これから考えましょう〉
 そんな彼らに通信してきたのはリンディだ。
〈敵艦は離脱したわ。
 今は……当初の目的どおり“時の庭園”のサルベージを〉
「了解した。
 なのは、ここは任せて……」
「はい。
 わたし達は、一足先に戻ってます。
 行こう、フェイトちゃん」
「う、うん……」
 ギャラクシーコンボイに答えたなのはの言葉に、フェイトは浮かない顔でうなずいた。
 その脳裏に、先ほどの感覚がよみがえる。
(あの時聞こえた声……
 あれは……たぶん、メガザラックと……最後の通信の声だ……)
 ふと、次元断層へと視線を向ける。
(どうして……あの時二人の会話が聞こえたんだろう……)

「……ついたのか?」
「あぁ」
 答えるシグナムの言葉に、ビッグコンボイはブリッジから周囲に見える光景を見渡した。
 見渡す限りの山々――高原地帯のようだが、標高が低いのか一面緑に覆われている。
「ここが……」
 自然と、つぶやいていた。
「……ここが、ミッドチルダか……」


 

(初版:2006/10/14)