「逃げろ……ジンライ……!」
このままでは、ゴッドジンライは――さすがに撤退を促すヴィータだったが、
「おいおい……ヤキが回ったか?」
そんなヴィータに、ゴッドジンライは告げた。
「オレのパートナーは……たとえどんな危機を前にしても、『退く』なんて選択はしなかったはずだぞ」
「バカ……! そんなこと言ってる場合か……!」
ゴッドジンライの言葉に言い返すヴィータだったが――
「大した覚悟だ――気に入ったぞ」
そんなゴッドジンライに、メガザラックはむしろ笑みを浮かべていた。
「その覚悟に敬意を払い――最高の一撃を手向けとしよう」
「逃げろ、ジンライ!」
渾身の力でヴィータが絶叫し――
「打ち貫け、ブリューナク」
無数の雷光が、ゴッドジンライの全身を貫いた。
第44話
「命をつなぐ転生なの!」
「――――フンッ」
軽く息をつき、メガザラックが槍の矛先を下げ――全身を雷光に貫かれたゴッドジンライの身体はゆっくりとその場に倒れ伏した。
「ジンライ!」
全身に痛みが走る身体を引きずり、ヴィータが駆け寄るが、ゴッドジンライの反応はない。
「おい! 返事しろよ、ジンライ!」
「ムダだ。そいつはもう、お前の呼びかけに答える事はできない」
それでもなおも呼びかけるヴィータだったが、そんな彼女にメガザラックは非情の現実を突きつけた。
「その男のスパークとボディとの伝達系を完全に破壊した。
痛みはない――あとは安らかに逝くのみだ」
「く………………っ!
お前――よくもジンライを!」
その言葉に、一瞬にして頭に血が上った。ヴィータはグラーフアイゼンをかまえ、
「グラーフアイゼン!」
〈Explosion!〉
ヴィータの言葉に、グラーフアイゼンはカートリッジを2発ロード。グラーフアイゼンを巨大ハンマーモード“ギガントフォルム”へと変化させる。
「ブッ、つぶれろぉぉぉぉぉっ!」
咆哮し、ヴィータはメガザラックに向けてグラーフアイゼンを振るい――止まった。
見るとグラーフアイゼンは破壊された隔壁に引っかかってしまっている――いかに彼らの戦いで破壊され、広くなっていたとしても、ここは管理局の本局施設の中。ギガントフォルムのグラーフアイゼンを振るうには狭すぎたのだ。
「しまった!?」
「状況も理解できぬまでに我を忘れたか……
それほど、お前達の絆は強かったのだろうな」
自らの失策に気づき、うめくヴィータに告げると、メガザラックはブリューナクをかまえ、
「ならば――お前も共に逝くがいい!」
繰り出された槍がヴィータへと襲いかかり――
鈍い金属音と共に止められた。
受け止めたのは、交差された二振りの白刃――
白き翼を広げた巨体――
そして――
「ヴィータちゃん! 大丈夫!?」
その肩から舞い降りてきた、心強きライバルだった。
「貴様………………っ!?」
「悪いが、彼とは面識も、縁もある。
たとえ敵対していようと――その危機を見逃すワケにはいかない!」
突然の乱入に驚くメガザラックに言い返し、ギャラクシーコンボイは――いや、すでにリンクアップを遂げていたソニックコンボイはフラップソードでメガザラックのブリューナクを弾く。
すかさず追撃の斬撃でメガザラックを牽制、距離を取らせることに成功し、ソニックコンボイはなのはへと尋ねる。
「なのは――ゴッドジンライは!?」
「そ、それが……!」
なのはの声はかすれていた。
「ぜんぜん……動いてくれないんです……!」
「何だと……!?」
なのはの言葉に絶句する――だが、ソニックコンボイはすぐに意識を切り替え、指示を下した。
「アースラでもマキシマスでもいい!
早く退避させるんだ!」
「は、はい!
ヴィータちゃん!」
ソニックコンボイの言葉に、なのははすぐにヴィータの手を取り――
「させるか!」
咆哮と同時――それがソニックコンボイの脇を駆け抜けた。
メガザラックの投げつけた、ブリューナクが。
「――――――っ!?」
一瞬のスキをつかれた。反応の間に合わないソニックコンボイの視界の中で、ブリューナクは恐怖に身を固めたなのはとヴィータに襲いかかり――止まった。
脇から伸びてきた腕によって、ブリューナクは柄の中ほどでキャッチされていた。
そして、さほど興味のなさそうにブリューナクを眺め、
「………………いい槍だな」
サラリと告げると、ビッグコンボイはブリューナクを傍らに投げ捨てた。
「それに投擲の動きも悪くない。
だが――若干パワーに欠ける部分があるな。技術で攻めるタイプか」
あっさりと断定すると、ビッグコンボイは振り向き、ヴィータとなのはに告げた。
「ヴィータ。ここは我々に任せて、ゴッドジンライを」
「あ、あぁ!」
ビッグコンボイの言葉に答え、ヴィータは周囲に転送魔法の魔法陣を展開するが――
「――――――何っ!?」
突然その魔法陣が形を崩し、消滅した。
「オレの前では、ベルカ式魔法は無力だと教えたはずだが?」
メガザラックの仕業である。
が――再び魔法陣が展開された。
ヴィータの真紅の魔法陣ではなく――
「だったら――」
《ミッド式なら問題ないよね!?》
なのはとプリムラの、桃色のミッド式魔法陣だった。
「ちぃっ!」
さすがにこちらは妨害できないらしい――舌打ちし、魔法陣を展開するメガザラックだが、
「――――――っ!?」
直前で気づいた。跳躍し、頭上から襲い来るソニックコンボイのフラップソードを回避、素早く後退する。
「なのは、早く!」
《はい!
なの姉、出現座標は私が指定するから!》
告げるソニックコンボイにプリムラが答え、なのは達はヴィータやゴッドジンライと共にその姿を消した。
「………………さて、と」
気にかけるべき者達の姿が消えたのを確認し、ビッグコンボイは改めてメガザラックへと向き直った。
「これであとは――貴様をここから叩き出せば、思う存分に戦えるというワケか」
「悪いがそうはいかない」
答え、メガザラックは改めて魔法陣を展開する。
「我々にも成すべき義がある。
お前達に、ここで背を向けるワケにはいかない理由がある」
「義、ね……
最近多いな、そういうのが」
言って、ビッグコンボイはマンモスハーケンをかまえる。
「だが――退けないのはこちらも同じだ」
同意し、ソニックコンボイもまたフラップソードをかまえたまま全身の火器を起動させる。
そして――その場にいる全員が跳躍した。
「ここは……?」
出現したのはアースラの格納庫でも、マキシマスの中でもなかった。周囲を見回し、疑問の声を上げるヴィータだったが――
「まだ本局の中さ」
そう答える声と共に、彼らは転送魔法によってその場に姿を現した。
「本局内の、機材用メンテナンススペースだ。
連中はアースラ、もしくはマキシマスに向かったと考えるはず――彼の手当てができる最寄の施設となると、ここが最適だからね」
そう告げると、クロノは連れてきた二人――ファストガンナーとすずかへと視線を向けるが、
《なんて偉そうなこと言ってるけど、考えついたのは私なんだよねー♪》
プリムラにあっけなくツッコまれ、クロノは思いっきり凹まされていた。
「急造コンビだけど――いけるな!?」
「当然です」
一時も止まることなく本局の外壁に駆け回り、両肩のキャノンを撃つエクシゲイザーに、同じくシオンは跳躍しながら平然と答える。
「あなたは、ファストガンナーよりも合わせやすい――余計なことを考えませんから」
「それはオレが単純ってことか!? ん!?」
軽口を叩き合う二人だが、その動きはむしろ加速している。ガイルダート達もそれに伴い動きを早めていくが――彼らにばかり意識が向き、そこにスキが生じた。
そして――そのスキを逃がす“彼ら”ではなかった。
「おぉぉぉぉぉっ!」
咆哮し、恭也はエクシゲイザー達ので動きの鈍ったガイルダートのボディ、その装甲の継ぎ目へと正確に“薙旋”を叩き込み、弾き飛ばす。
一方、シエルも黒鍵でアルカディスを牽制。そのスキに恭也は次の獲物にデッドエンドを定め、跳躍する。
が――
「なめるな!
デッドエンド、トランスフォーム!」
対し、デッドエンドはビーストモードのアンモナイト形態へとトランスフォーム。殻の中へと閉じこもってしまい、恭也の小太刀を弾き返してしまう。
攻撃を弾かれ、後は擬似重力に従い落下するだけとなった恭也へと、背後からセイバーバックが襲いかかり――
「紫電、一閃!」
それを阻んだのはシグナムだった。レヴァンティンから放った一撃がセイバーバックの足元を粉砕、後退させる。
「すまない」
「かまわん。
それよりも――」
「あぁ」
すでに彼らも連絡は受けていた――メガザラックに敗れたゴッドジンライを案じ、告げるシグナムに恭也はうなずいた。
そう。自分達がここですべきことはただひとつ――
手当てを受けるゴッドジンライのためにも、ここで彼らを食い止めなければ――
「これでも――」
「くらいやがれぇっ!」
冷静なバトルガイヤー、ハイテンションなレーザーウェーブ――ある意味両極端な二人の咆哮と共に、放たれた砲火が“時の庭園”へと降り注ぐ。
「くそっ、調子に乗るなよ!」
うめき、飛び出そうとするライガージャックだが、
「お前の相手はオレだ!」
そんなライガージャックの、そして彼に続いたアルクェイドの前にはダイノキングが立ちふさがった。
「ジャマすんじゃないわよ!」
言い返し、爪を振るうアルクェイドだが、ダイノキングはその攻撃をあっさりと受け止め、逆に腕の一振りで弾き飛ばす!
「なんてパワーだよ、アイツら……!」
「合体戦士と同等のパワー……いや、パワーは若干劣るが、その分スピードで合体戦士を上回っている……!」
たった4人を相手に、完全に押されている――芳しくない状況に舌打ちする真雪にガードシェルが答えると、
「それがどうした!
どんな強敵が相手であろうと――押し通るのみ!
いくぞ、知佳!」
「うん!」
告げるスカイリンクスに知佳が答え、二人は上空へと飛び立つが――
「――後ろでござる、スカイリンクス殿!」
「――――――っ!?
危ない、知佳!」
メビウスショットの上げた声に、スカイリンクスはとっさに知佳をかばい――
「油断したな!」
そのスカイリンクスの背に、ライオカイザーが蹴りを叩き込む!
「スカイリンクス!」
「知佳さん!」
“時の庭園”に叩きつけられるスカイリンクスと知佳の姿に、ドレッドロックと志貴が声を上げると、
「援護など――許すと思うか!?」
そんな彼らにはバトルガイヤーが襲いかかった。全身から放たれた砲火を、志貴を乗せたドレッドロックは小回りを活かしてかわしていくが――
「待っていたぞ」
『――――――っ!?』
その行く手にはライオカイザーが待ちかまえていた。すなわち――
(誘い込まれた!?)
驚愕するドレッドロックの前で、ライオカイザーはそれを取り出した。
チェーンでつながれた、人間で言うと自身とペーパーナイフほどのサイズ比の小さな刃――
「覚醒――“ムラマサ”」
〈Jawohl!〉
ライオカイザーの言葉に、彼のパワードデバイス――日本刀型の“ムラマサ”が彼の手の中に現れ、繰り出した斬撃がかろうじて防御したドレッドロックを弾き飛ばす!
「…………ど、どう……?」
一通りゴッドジンライの診察を終え、無言のファストガンナーとすずかに、なのはは恐る恐る尋ねた。
ゴッドジンライの傷は、メカニックに無知ななのはの目から見ても重傷なことがわかる。ヘタをすればバンガードチームが転生前に受けていたあのダメージよりもひどいかもしれない
だが、彼もギャラクシーコンボイへとマトリクスを伝えたサイバトロン軍歴代総司令官のひとりだ。もしかしたら――そんな期待と共に向けた問いだったのだが――
「………………ヴィータ」
口を開いたファストガンナーの声は沈んでいた。
「辛いだろうが――悲しいだろうが、聞いてくれ。
いや――パートナーのキミは、聞かなくてはならない」
「ふ、ファストガンナー……!?」
ファストガンナーの言葉は、不安をかき立てるには十分すぎた――ヴィータの声も震えている。
そして――
「残念だが――」
ファストガンナーは――
「ゴッドジンライは――」
“希望”を――
「すでに、死亡している」
“現実”によって打ち砕いた。
《そんな……!》
「手遅れだった……
スパークからボディへの伝達系がひとつ残らず、完全に破壊されている。ここに運ばれた時には、すでに彼のボディは生命活動を停止していたようだ」
残酷な現実を前に、息を呑むプリムラにファストガンナーは静かに告げる。
「まだ、スパークは活動を続けているが……ボディがすでに死亡している以上、維持し続けるにも限界がある。すぐに活動を停止するだろう。
人間で言えば、死亡した肉体に幽霊が必死にしがみついているようなものだ――いかにトランスフォーマーの科学技術でも、死亡した身体を蘇生することはできない」
告げるファストガンナーの声も震えている――彼も辛いのだ。転生によって瀕死の中から生還しておきながら、同じ境遇に陥った者を救えない、自分の無力が。
だが――
「……そんなの……ウソだ……!」
拳を握りしめ、ヴィータはつぶやくように口を開いた。
「ジンライが、そう簡単に死ぬもんか……! 絶対にあきらめないに決まってる!
悪あがきじゃエクシゲイザーにだって負けないヤツなんだ……! まだアイツががんばってる内に手当てすれば!」
「確かに、私もあきらめないことがもたらす奇跡を体感した身だ。尽くせる手があるなら尽くしたい。
だが――すでに彼は死亡している。彼の意識もなく、転生すら期待できない現状で、一体何をすればいいのか……!」
ヴィータの言葉にファストガンナーがうめくと、
〈………………ちょっと待ってくれ〉
そんな彼らの会話に割り込んできたのは、通信してきたフォートレスだった。
〈ファストガンナー。ジンライの肉体は死亡しているんだな?〉
「あぁ。
彼の制御システムはサブも含めて完全に破壊されている――再起動させようにも、そのためのシステムが使えないのでは……!」
〈だが……スパークはまだ生きている……〉
そうつぶやいて考え込み――フォートレスは告げた。
〈ファストガンナー。ジンライのスパークのパワーを維持し続けてくれ。スパークだけでも延命させるんだ――できるか?〉
「あ、あぁ。その程度なら……」
〈ならば頼む。
ヴィータ。こちらに皆を転送してくれ。大至急〉
「どうするんだよ……?」
思わず尋ね――ようやく悲しみという名のフリーズ状態から再起動し始めたヴィータの思考は“そこ”にたどり着いた。
なぜ今、この状況でジンライを連れてくるように言うのか――答えはひとつしかない。
ジンライを助けるためだ。それ以外に何があろうか。
「助かるのか!? ジンライは!?」
声を上げるヴィータに、フォートレスは深刻な表情で答えた。
〈一か八か――賭けに出る〉
「出番だぜ――タスラム!」
咆哮し、レーザーウェーブがかざした右手の中に、鉄球型パワードデバイス“タスラム”がその姿を現す。
右手でタスラムをつかみ、レーザーウェーブはその表面に開けられた装填口にカートリッジを装填し、
「タスラム――カートリッジ、ロード!」
〈Explosion!〉
咆哮が交錯すると同時、タスラムの排莢口からロードの済んだカートリッジが弾き出される。そして――
「くらえ!
ドンナー、ヴルフ!」
レーザーウェーブの投げつけたタスラムは雷光を放ちながら自律飛行。上空のシックスナイトへと迫るが、
「させないでござる!」
その前に立ちふさがったメビウスショットが、手にした苦無でタスラムを弾き飛ばす。
かつて初めてヴィータやゴッドジンライと対峙した時、使おうとしていたあの苦無である。
あの時はメビウスショットの正体を知らなかったが、彼がミッドチルダのトランスフォーマーだとわかった現在考えると、それは――
「目覚めよ――“霧幻”!」
〈御意〉
告げるメビウスショットの言葉に、苦無は直刀型のパワードデバイスへとその姿を変える。
「へぇ、忍者刀タイプのパワードデバイスか。
それで、オレのタスラムに対抗できるのか?」
対し、レーザーウェーブは余裕だ。戻ってきたタスラムをもてあそびながら悠々と告げる。
が――
「するしか、ないでござろう?」
答え、メビウスショットは霧幻をかまえた。
“時の庭園”の地表で戦っている美由希へと想いを馳せつつ、告げる。
「拙者には――まだ師匠に乞わねばならない教えが山とあるのでござるからな」
告げると同時――メビウスショットは弾かれるようにレーザーウェーブへと飛翔した。
「ファストガンナー、それからすずか。
ジンライのスパークの維持、頼んだぞ」
「わかった」
「任せてください!」
マキシマスに再度転送するなり、フォートレスはヴィータや付き添ってきたなのは達についてくるように告げた。ファストガンナーとすずかにジンライを任せ、格納庫へと足を向ける。
「格納庫なんかに何があるんだ?」
「ヴィータちゃんなら、覚えはあるはずよ」
尋ねるヴィータにシャマルが答えると、フォートレスは格納庫の隅、収納スペースへと向かうとその扉を開き――
「こ、これって……!?」
「トランスフォーマー……!?」
その中のハンガーに身を納めていた1体のトランスフォーマーの姿に、なのはとクロノは思わず声を上げる。
黄色――いや、金色のボディは力強い体躯を見せつけ、両肩には大型のキャノン砲。背中のウィングから飛行能力も備えているようだ。
だが、
「正確には違う」
二人のもらしたつぶやきをフォートレスが否定。シャマルが二人に告げる。
「ジンライのゴッドボンバーと同じ――スターセイバー用にフォートレスがコツコツ作っていたパワードデバイスよ」
「動力システムの製作がまだで未だ稼動には至っていないが、他の部分はおおむね完成している。
そして――動力についてはこれから解決する」
付け加えるフォートレスの言葉に、クロノは気づいた。
「それは、まさか……」
つぶやくように聞き返してくるクロノに、フォートレスはうなずいた。
「ジンライのボディはすでに死亡している。彼の意識がなく、プラネットフォースの力を引き出すことができない以上、転生も期待できない。
ならば、他の方法で彼をよみがえらせるしかない」
そして――フォートレスは告げた。
「このパワードデバイスに、ジンライのスパークを移植する。
ジンライは転生するのではない――新たな身体を得て、“新生”するんだ」
閃くのは二条の赤い閃光。受け止めるのは漆黒の長き刃――
振り下ろされたビックコンボイのマンモスハーケンを取り戻したブリューナクで受け止めると、メガザラックはその力に逆らわず、方向を多少ずらすことで受け流し、
「フォースチップ、イグニッション!
ギャラクシー、キャリバー!」
ソニックコンボイの放ったギャラクシーキャリバーも、真っ向から受け止めるような事はせず、角度を傾けて展開したパンツァーシルトで受け流してしまう。
「ならば!」
それならとビッグミサイルを放つビッグコンボイだが――
「どれほどパワーがあろうと、当たらなければ意味はあるまい!」
メガザラックは転送魔法でそれに対抗。短距離転送でビッグミサイルをかいくぐり、ビッグコンボイの背後に回り込む!
そのままビッグコンボイに向けてブリューナクを繰り出し――
「ならば、こちらもスピードで対抗するまでだ!」
かろうじてソニックコンボイがその前に滑り込んだ。フラップソードでブリューナクを弾きビッグコンボイを救うが、
「それで――防いだつもりか!?」
弾かれた勢いを活かしてメガザラックはブリューナクをひるがえし、石突でソニックコンボイを弾き飛ばす。
「くっ、こちらの攻撃をのらりくらりと……!」
「やりにくい相手だぜ、まったく!」
「同感だな。今までにいなかったタイプの相手だ。
しかし、だからと言って退くワケにはいくまい」
うめくソニックコンボイとソニックボンバーに答え、ビッグコンボイはマンモスハーケンをかまえ直し、
「ここを死守すればヤツらの目的は阻めるのだろう?
ならば――そのために全力を尽くすのみ!」
「了解!」
ソニックコンボイがビッグコンボイに同意し――二人は改めてメガザラックと対峙した。
「ぅおぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
咆哮が交錯し、ライオカイザーのムラマサとベクタープライムの剣がぶつかり合う。
「ベクタープライム、下がって!」
その声と同時、ライオカイザーと斬り結んでいたベクタープライムは素早く後退し、
『フォースチップ、イグニッション!
ブラストランチャー!』
「ちぃっ!」
ハイブラストとノエルの放ったブラストランチャーを、ライオカイザーはパンツァーシルトで受け止め――
「――――――下っ!?」
『フォースチップ、イグニッション!
マグナ、スマッシャー!』
眼下から放たれた、ロングマグナスと那美による第2撃も、直前で気づいて回避。そして――
「ムラマサ、カートリッジ、ロード!」
〈Explosion!〉
ライオカイザーのかざしたムラマサがカートリッジをロード。その刀身の周りに魔力が集まり、しきりに小爆発を繰り返し始める。
「スラッシュ――エクスプロージョン!」
咆哮と共に一閃――刀身の周りで巻き起こっていた爆発が一気にその勢いを増し、大爆発の嵐となってサイバトロン一同に襲いかかる!
「かわせ!」
「わかっている!」
志貴に従い、爆発の嵐をやり過ごしべくドレッドロックは後退、“時の庭園”に降り立ち――
「待っていたぞ!」
そこにいたダイノキングが、ドレッドロックを殴り飛ばす!
「来い! ミュルニョール!」
〈Jawohl!〉
さらに、ダイノキングは追撃に移った。ハンマー型パワードデバイス“ミュルニョール”を起動させ、
「カートリッジ、ロード!」
〈Explosion!〉
そのままカートリッジをロード。かざしたミュルニョールの先端に重力の渦が発生、空間を歪め――
「グラヴィタツォーン――ツェアシュラーゲン!」
振り下ろした一撃がドレッドロックを直撃。その外装を粉々に粉砕する!
「ドレッドロック!」
それを見て、思わず声を上げるスカイリンクスだが――
「スキを見せるとは――いい度胸だ!」
その背後からバトルガイヤーが仕掛けた。ビームの雨を受け、被弾したスカイリンクスは墜落し――
「ナイスフォローだ、ライオカイザー」
そう告げるバトルガイヤーの視線の先には――スカイリンクスの落下先に回り込んだライオカイザーの姿があった。
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮したのはライオカイザー。飛来した白いフォースチップが背中の――レオザックのチップスロットに飛び込み――次の瞬間、ライオカイザーの体が大爆発を起こす!
「何………………っ!?」
「自爆したの!?」
突然のことに、スカイリンクスと知佳が声を上げるが、
「――――――っ!
知佳、危ない!」
気づいたのはほんの偶然だった。スカイリンクスはとっさにかがみ込んで知佳をかばい――
「バトル、エクスプロージョン!」
自爆に見せかけた爆発に紛れ、分離していたレオザックと4機のカイザーフォースが、スカイリンクスに一斉攻撃を叩き込む!
機銃、ミサイル、体当たり――立て続けに襲い来る攻撃は、アニマトロスのナンバー2であるスカイリンクスと言えど耐え切れるものではなかった。知佳を守りきったものの、装甲の各所を粉砕され、吹き飛ばされる!
「ドレッドロック! スカイリンクス!」
重傷を負った二人を救うべく、彼らの元へと向かおうとするスペリオンだったが、
「させるかよ!」
「ジャマはさせん!」
レーザーウェーブとバトルガイヤーが一斉射撃。広範囲にまき散らされたビームがスペリオンだけではなく他の面々の動きをも封じてしまう。
「ライオカイザー! ダイノキング!
ここはオレ達で足止めしておいてやる」
「さっさとトドメを刺しちまえ!」
「言われなくとも」
告げる二人に答え、ライオカイザーはダイノキングと視線を交わし、ドレッドロックに、スカイリンクスに向き直る。
「くそっ、させるか!」
なんとかドレッドロック達を救おうとするロディマスコンボイだったが、バトルガイヤー達の砲撃は止むことがない上に極めて濃い弾幕となっており、素早い彼でさえ、うかつに動けばむしろ自分達の身が危ない状況である。
もはや、ドレッドロック達を救える者はいない――
――かと思われた。
「………………む?」
その存在に気づき、ダイノキングは足を止めた。
となりでも、ライオカイザーもまた足を止めている。
彼らの前に佇むのは、彼らからすればはかない存在。
だが――
「ここから先へは――」
「一歩も行かせない!」
強い意志を秘めた、二人の人間だった。
「ドレッドロックは――」
「スカイリンクスは――」
『オレが(私が)守る!』
決意の宣言が交錯し――志貴と知佳は跳躍した。
最初に狙いを定めたのはダイノキングだった。知佳はHGS能力者特有のエネルギー翼“リーフィン”を展開。ダイノキングに向けて一直線に飛翔する。
「なめるな――人間!」
人間である志貴達が自分達にかなうものか――咆哮し、知佳に向けてミュルニョールを振り下ろすダイノキングだったが、
「残念♪」
知佳が告げると同時――その姿が消えた。
瞬間移動だ。そして――
「こっちは――ただの人間じゃないんだ!」
真下を駆けていた志貴が跳躍。ミュルニョールの長い柄の中ほどに見える“死線”に向けて刃を走らせ、一閃の元に断ち切る。
「何――――――っ!?」
まさか人間の斬撃でミュルニョールが斬られるとは――だが、重要な機能の集中していない柄だったのが幸いした。とっさに後退すると、ダイノキングはミュルニョールの自己修復機能を働かせる。
「気をつけろ、ライオカイザー」
「あぁ……
なかなかにできるようだな」
告げるダイノキングに答え、ライオカイザーはムラマサをかまえ直す。
「もはや油断はしない――」
「最大戦力で、叩き伏せる!」
咆哮し、二人は志貴と知佳へと襲いかかり――!
「ファストガンナー、そっちは!?」
「スパークパルス正常! ジンライのスパークは安定状態にある!」
「こちらも間もなく移植準備が整う!」
「ファストガンナー、もう少しもたせてください!」
一方、マキシマスの内部では、すずかとファストガンナー、そしてフォートレスやシャマルによる懸命の移植手術が続けられていた。質問と返答、そして指示が矢継ぎ早に飛び交う。
そんな彼らを前にして、ヴィータは手伝うこともできず、ジンライの復活を祈ることしかできないでいた。
と――
「ヴィータちゃん……
わたし達……行ってくるね」
言って、なのははレイジングハートを手に取り、分離していたプリムラを再装着する。
「ここにいても……わたし達は何もできないから……
だから……わたし達ができることをしてくる」
決意と共に、クロノと視線を交わし、うなずく。
「安心して。手術は成功するよ」
そう告げて――思い直し、訂正した。
「――ううん、させる。
メガザラックさん達にジュエルシードは渡さないし……マキシマスにも近づけさせない」
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と同時、ガイルダートは背中のチップスロットへと純白に輝くフォースチップをイグニッションし、
「ヘッド、クラッシャー!」
「ぅわわわわっ!」
右腕に装備したビーストモードの――トリケラトプスの頭部を射出。その一撃をトゥラインはあわててかわすが、
「フォースチップ、イグニッション!」
そんな彼の行く手で、デッドエンドはガイルダート同様背中のチップスロットに純白のフォースチップをイグニッションし、
「ソーサー、シェル!」
両肩の、ビーストモードの外殻を円盤として射出。逃げ場を失ったトゥラインへと襲いかかり――
「させない!」
それを阻んだのはユーノだった。両手に展開したラウンドシールドでデッドエンドのソーサーシェルを受け止めるが、
「ぅわぁっ!」
生身で受け止められる衝撃ではなかった。パワー負けし、弾き飛ばされてしまう。
「ユーノ!」
とっさに援護に向かおうとする恭也だったが、
「お前の相手は、オレだぁっ!」
そんな彼やシグナムに向け、アルカディスが羽を刃として放ちその足を止め、
「そう簡単に、我々を抜けると思うな!」
セイバーバックが右腕に装備したビーストモードの尾を展開。内部からビームを拡散モードで放ち、フェイトやスターセイバー、ダイアトラスをも牽制してみせる。
「くそっ、こっちが防衛戦だからって、好き勝手しやがって!」
うめき、反撃を試みるエクシゲイザーだが、パワーで攻めるライオカイザー達と違いガイルダート達は素早く動き回ってこちらをかき回してくる。そのため、本局への流れ弾を恐れるこちらは思い切った攻撃ができない。数で優り、一時はアドバンテージを握っていたサイバトロン側だったが、結果として思いがけない接戦を強いられていた。
ユーノとトゥラインが引き離されたのは、ちょうどそんな中でのことだった。彼らを一気にしとめようと、ガイルダートとデッドエンドが襲いかかり――
「させない!」
新たな声と共に、ガイルダート達は思い切り弾き飛ばされていた。そして――
「無事か? トゥライン」
そう告げたのは、トゥラインの前に停車した列車型のトランスフォーマーだった。
「レールスパイク、トランスフォーム!」
掛け声と共にロボットモードにトランスフォーム。レールスパイクと名乗ったそのトランスフォーマーはトゥラインとユーノを守ってガイルダート達と対峙する。
「なんとか、最悪の事態だけは避けられたようだな」
「そうかな?
すでに我らが主が内部に突入している――目的の品を手に入れるのも時間の問題だ」
告げるレールスパイクに答えるガイルダートだったが――それにかまわず、レールスパイクはデバイスカードを取り出し、咆哮した。
「ツインライナー、出発進行!」
召喚の咆哮と同時、出現したのはビークルモードの彼とほぼ同サイズの列車型ビークルだった。
ただしこちらは2両編成。数は――2。
そして、レールスパイクはガイルダートに告げた。
「ならば――お前達をすぐに片付けて、そちらを助けに向かうまでだ!」
「レールスパイク、パワードクロス!」
力強く咆哮し、大きく跳躍するレールスパイクの眼下で、ツインライナーが変形を始める。
後部の車両を分離。2つの先頭車両は車体下部のバーニアで飛び立ち、車体後部が展開。運転席を肩アーマーとした両腕となる。
一方、後部車両はそれぞれ両足に変形。左右が合わさるように合体し、下半身が完成する。
そして、レールスパイクはビークルモードにトランスフォーム。両足に当たる車体後部が前方へと展開し、ボディとなり、下半身と合体する。
そして、両腕もまた合体。ボディから新たな頭部がせり出す。
ボディからの指令が四肢に行き渡り、新たな姿となったレールスパイクは名乗りを上げた。
「武装槍士――レールレーサー!」
「ちょこまかと……うっとうしいヤツらだ!」
「あの小僧の、何でも断ち切る刃さえガードできれば……!」
素早い動きでこちらを翻弄してくる志貴と知佳に対し、ライオカイザーとダイノキングは大いに手を焼いていた。もう何度目になるか、志貴に傷つけられたミュルニョールを修復し、ダイノキングがうめく。
バトルガイヤーやレーザーウェーブの足止めもそう長くはもつまい。ライオカイザー達としてはこの予想外の苦戦、なんとしても早期決着を狙わなくてはならなかった。
「ダイノキング!
あの二人の足を止めろ!」
「わかった!」
ライオカイザーに答え、ダイノキングはミュルニョールをかまえ、
「ミュルニョール、カートリッジ、ロード!」
〈Explosion!〉
カートリッジをロード。先ほどドレッドロックを撃破した時のようにその先端のハンマー部分に重力場が生まれる。
だが――今回は先ほどのように収束しなかった。重力場は固まることなく、周囲に拡散していく。そして――
「グラヴィタツォーン――テリトリー!」
ダイノキングがミュルニョールをその場に叩きつけ――志貴や知佳、さらにはベクタープライムら他のサイバトロン戦士達の背に強烈な重圧が襲いかかった。そのまま彼らを大地に縫いつける!
「なっ、何だ……!?」
「重力を……操作した……!?」
うめく志貴と知佳だが――今は詮索している場合ではない。大地に叩きつけられた彼ら二人は、ライオカイザーの前に完全に無防備な姿をさらしてしまっている。
「人間の身でありながら、ずいぶんと手こずらせてくれたな。
その戦闘力――敬意を払うには十分すぎる」
「そいつは……どうも……!」
ライオカイザーに答え、立ち上がろうとする志貴だが――ダメだ。上からのしかかってくる重圧の前に、踏ん張ることすらできない。
「ムダだ。
ダイノキングが使っているのは重力系の拘束魔法――相手を押しつぶすような非道はしないが、相手に対する拘束性は万全。人間であろうとトランスフォーマーであろうと、脱出はたやすいものではない」
そんな志貴に告げ、ライオカイザーは彼に右腕を向け――そこに装備された機銃を起動させる。
「終わりだ――人間」
最後の宣告とばかりに言い放つライオカイザーだったが――
「……まだ、だよ……!」
知佳の目の輝きは、まだ失われてはいなかった。周囲に“力”の防壁を展開し、重力場による影響を緩和、なんとかその場に立ち上がる。
「私は……スカイリンクスとは出会ったばかりだけど……それでも、私は彼のパートナーなんだもの……!」
自らに言い聞かせるように告げ、知佳はライオカイザーをにらみつける。
「レスキューにとって、パートナーは一心同体にならなきゃいけない……!
まだ、スカイリンクスと話してないことがたくさんある……一緒にやりたいこともたくさんある……!
だから――スカイリンクスは、殺させない!」
その瞬間――“それ”は目覚めた。
「大した心がけだが――立ち上がったところで何ができる?
仲間達はダイノキングの重力場で動きを止められたまま。対してこちらは援護に徹する必要もなくなったバトルガイヤー、レーザーウェーブも含めて三人。
貴様ひとりで、この状況をひっくり返せるとでも言うのか!?」
知佳の言葉に反論し、ムラマサをかまえるライオカイザーだったが――
「ひとりじゃ――ない!」
「――――――っ!?」
背後に出現した志貴に驚きながらも反応。前方に転がり、その斬撃を回避する。
「貴様――どうして!?」
うめいて――気づいた。
志貴の倒れていた一角――その周辺だけ、ダイノキングの重力場が完全に消滅している。
「シックスナイトが、魔力の流れを視覚化してくれたんだ。
どんな強力な存在でも、見えてしまえばこっちのもの――オレの目に見えるもので、殺せないものはないんだよ!」
動揺するライオカイザーに答え、志貴は知佳と並び立つ。
「みんなの重力場はどうにかならないの?」
「さすがに、そこまで広範囲には“殺”せませんでした。
素直にヤツらがみんなを解放するまで待ってくれるとも思えませんし……ここはオレ達でなんとかするしかないみたいです」
尋ねる知佳に答え、志貴は知佳の周囲の重力場を“殺”し、知佳の背を守るようにバトルガイヤー、レーザーウェーブと対峙する。
「どちらにしても――退けないでしょう? お互いに」
「当然!」
尋ねる志貴に知佳が答え――
“それ”は彼にも反応した。
二人の想いに呼応するかのようにその“力”を強め、そして――
「だが――現実は残酷なもんだぜ!」
咆哮し、レーザーウェーブがタスラムを投げつけ――
“それ”から“力”が解き放たれた。
「何――――――っ!?」
投げつけたタスラムが突然弾かれた――驚愕するレーザーウェーブの、ライオカイザーの――その場にいる一同の目の前で、突如“力”の渦が巻き起こる。
「バックギルド……
あれって、まさか……!」
「あぁ……」
つぶやくアリサに、バックギルドは答えた。
「間違いない……
プラネットフォースの“力”――ボクらが転生した時と同じだ!」
「け、けど……!」
バックギルドの言葉に、アルフが疑問の声を上げた。
「今まで転生の“力”を引き出してきたのはどの場合もトランスフォーマーだったろ?
けど、二人のパートナーはさっきやられて気絶したままなんだよ」
「そういえば、ライガージャックの時もジャックショットが“力”を引き出していた……」
アルフの言葉に、ファングウルフも自分がライガージャックの転生に立ち会った時のことを思い出し、“力”の渦へと視線を向ける。
「一体……どうなるんだ……!?」
「こ、これって……!?」
「プラネットフォースの、“力”……!?」
“力”の渦は自分達を中心に巻き起こっていた。今までにない状況に戸惑い、知佳と志貴がつぶやく。
渦は先ほどレーザーウェーブのタスラムを弾いたことからもわかるように、自分達の周囲で激しく荒れ狂っている――だが、二人は不思議と恐怖は感じなかった。
そして――
「……志貴くん」
「えぇ」
なぜかわかった。
自分達がその“力”をどうすればいいのか。
二人の想いに従い、“力”の渦は流れを変え、ドレッドロックを、そしてスカイリンクスを包み込んでいく。
(ドレッドロック……)
望むのは、強大な敵に立ち向かっていける新たな力。
(スカイリンクス――)
願うのは、二度と彼らが傷つかないこと。
だから――
((よみがえれ!))
〈転生〉
その瞬間――光はより一層輝きを増した。全員の視界を奪い、世界を真っ白に染めていく。
そして――光が消えた時、ドレッドロックとスカイリンクスの姿は倒れていた場所から消えていた。
「あ、アイツら!?」
「どこに消えた!?」
驚愕し、周囲を見回すライオカイザーとバトルガイヤーだったが――
「ぐわぁっ!?」
うめき声は背後から上がった。振り向くと、ダイノキングが強烈な衝撃を受けて弾き飛ばされている。
同時にダイノキングの展開していた重力場も消滅した。重圧から解放され、ベクタープライム達は一斉に身を起こす。
「今のは、副司令達が……!?」
「けど、どこに……」
つぶやき、ライガージャックとアルクェイドは周囲を見回し――
「――――あそこなのだ!」
最初に見つけたのは美緒だった。彼女の視線の先で、二つの影が高速で飛翔している。
漆黒の双頭竜と、真紅の鳳凰だ。
「あれが……ドレッドロック達だっていうのか!?」
「転生したんだ……姿がどんな形になっていても不思議じゃない!」
驚くロディマスコンボイに耕介が答え、飛翔する二人のトランスフォーマー達は彼らの頭上を駆け抜ける。
そして――
「ドレッドバスター!」
「ブレイズリンクス!」
『トランスフォーム!』
咆哮と共にロボットモードへとトランスフォーム。双頭竜――ドレッドロック改めドレッドバスター、鳳凰――スカイリンクス改めブレイズリンクスはそれぞれのパートナーの元に降り立った。
「ドレッドロック……?」
「あぁ」
「スカイリンクス……なの……?」
「心配をかけたな、知佳」
呆然とつぶやく志貴と知佳に、ドレッドバスターとブレイズリンクスはそれぞれに答える。
「しかし……我輩はともかく、ドレッドバスターはずいぶんと様変わりしたな」
「それに、今までの転生と違って、スキャニングも行われませんでしたしね。
おそらく、一度志貴達の元で滞留した際、二人の考える“強大な存在”のイメージを取り込んだのでは……」
自分達の姿を確認し、ドレッドバスターがブレイズリンクスに答えると、
「お前ら……余裕だな」
「復活したことを、後悔させてやるぜ!」
無視されたことに腹を立てたのか、ライオカイザーとレーザーウェーブが怒りの声を上げる。
「やれやれ。短気なものだ」
「いいじゃないですか、ブレイズリンクス。
こちらとしてもやられた借りは返してやりたいところですし」
そんな彼らに対し、ドレッドバスターとスカイリンクスは互いに言葉を交わすと志貴や知佳へと向き直った。
「聞いての通りだ、二人とも」
「これからアイツらに反撃を開始する。
我輩達に、力を貸してくれるか?」
その提案を断る理由など、ありはしなかった。
「これなら――どうだ!」
咆哮し、ビッグコンボイの投げつけたマンモスハーケンを、メガザラックは素早く左方へ跳躍してかわし――
「プリムラ!」
《はいはいっ!
スケイルフェザー、射出しまーっす!》
参戦したなのはの言葉にプリムラが答え、射出された無数のスケイルフェザーがメガザラックへと襲いかかる。
「ちぃっ!」
さすがにこれはかわしきれない――とっさに全方位防御魔法“パンツァーヒンダネス”で防御を固め、メガザラックはスケイルフェザーを防御する。
「耐えられてる!?」
《あー、もうっ! 大帝のクセにナマイキ!》
「えーっと、大帝だからこそだとわたしは思うんだけどなー……」
ムキになるプリムラになのはが思わずツッコんだ、その時――
「ジャマだ! スケイルフェザーをどけろ!」
言って、彼女はなのはのすぐとなりを駆け抜けた。
渾身の力で自らの相棒を振りかぶり――
「ラケーテン――バンカァァァァァッ!」
ヴィータの叩きつけたグラーフアイゼンの一撃が、メガザラックのパンツァーヒンダネスを粉砕する!
「ヴィータちゃん!?」
「心配すんな。
もう……大丈夫だ」
思わず声を上げるなのはに、ヴィータはそう答えた。
「ジンライだってがんばってる……スパークだけになっても、それでも生きようとしてる。フォートレス達と一緒に戦ってるんだ。
なのに……そのパートナーが情けなく座り込んでちゃ、カッコがつかねぇだろ!」
「フンッ、立ち直ったか……」
告げるヴィータの前で、メガザラックは体勢を立て直し、改めて二人と対峙する。
「だが、パートナーのいないお前に、この私の相手が務まるのか?」
言って、ブリューナクをかまえるメガザラックだが――
「残念だったな♪」
「戦ってるのは、わたし達だけじゃありませんから♪」
言うと同時、ヴィータとなのはは左右に離脱し――
「ブレイズ、キャノン!」
「ビッグキャノン――GO!」
「ギャラクシー、キャリバー!」
クロノの、そしてすでにイグニッションを終えていたビッグコンボイ、ソニックコンボイの一斉射撃が、メガザラックに襲いかかる!
「何だと!?」
まさかこんな場所でそんな大火力を――予想外の攻撃にうろたえはしたが、メガザラックはパンツァーシルトを2枚重ねに展開し、その攻撃を受け止める。
だが、それでも勢いに負けて押し戻され――メガザラックは気づいた。
自分の背後に壁がない。そのまま押し戻され続けている。
そう――彼は今、自分が突入のために空けた穴から外へと押し戻されているのだ。
(まさか――今の一撃はこのために!?)
驚愕するメガザラックだが――すでに遅かった。彼らの目論見どおり、攻撃の勢いに負けて本局の外へと放り出される!
「くらえっ!」
「なんの!」
高速で頭上から急降下し、そのままの勢いで放たれたドレッドバスターの蹴りをかわすと、ライオカイザーは反撃とばかりにムラマサをかまえ――
「させるか!」
その背後から志貴が襲いかかった。繰り出された防御完全無視の斬撃を、ライオカイザーはとっさに前方に転がることでかろうじて回避する。
一方、ブレイズリンクスはダイノキングとガッチリと組み合い、力任せの真っ最中だった。
「いくら転生しようが――パワードデバイスを装着したオレ達にパワーで勝てるものか!」
「それは……試してみなければわかるまい!」
一気に組み伏せようとするダイノキングに言い返すと、ブレイズリンクスは全身のバネを総動員してダイノキングを押し返し――
「それに――私もいるんだから!」
その顔面に、知佳がリスティ直伝の雷撃を叩き込む!
「ライオカイザー!」
「ダイノキング!」
転生した二人とそのパートナーから逆襲されるライオカイザー達を援護すべく、バトルガイヤーとレーザーウェーブが振り向くが――
「今度は、こっちが連携を断つ番だ!
アリサ!」
「OK!」
『フォースチップ、イグニッション!
ツイン、サーチミサイル!』
そんな二人にバックギルドとアリサの放ったツインサーチミサイルがバトルガイヤーに襲いかかり、
「拙者もいくでござるよ!
霧幻、カートリッジ、ロード!」
〈御意〉
メビウスショットの言葉に霧幻がカートリッジをロード。その刀身の周りで空気が渦を巻き――
「真空――鎌鼬!」
放たれた疾風の刃が、レーザーウェーブを吹き飛ばす!
「こっちは任せてください!」
「二人は思う存分――」
「やっちゃえぇっ!」
「任せろ!」
ロングマグナスや那美、久遠の声援にドレッドバスターが答え、反撃開始の4人は視線を交わし、
『フォースチップ、イグニッション!』
志貴とドレッドバスター、ブレイズリンクスと知佳の咆哮が交錯、飛来した黄色のフォースチップがドレッドバスター、ブレイズリンクスの背中のチップスロットへと飛び込み――その両脇のシステムが起動した。
と言っても、それは今までのイグニッションのように武器ではなく――
『カートリッジシステム、Set Up!』
『なにぃぃぃぃぃぃっ!?』
さすがにこれには敵味方問わず度肝を抜かれた。驚きの声が“時の庭園”に響き渡る。
「アイツら……カートリッジシステムをボディにつけてるってのか!?」
「安心しろ! こっちも驚きだ!」
うめくライオカイザーに言い返すと、ドレッドバスターは背中に接続したマガジンからカートリッジをロードし、
「ドレッドランチャー、エクスプロージョンアタック!」
両肩に装備された、ビーストモードの竜の首が変形した新たなドレッドキャノン“ドレッドランチャー”から放たれた閃光が、ライオカイザーを吹き飛ばす!
そして――
「カートリッジ、ロード!」
ブレイズリンクスもまたカートリッジをロード。翼に備えられたローターが高速で回転し――
「アブソリュート、ゼロ!」
放たれた吹雪が、ダイノキングの下半身を凍結させ――動きの止まったダイノキングを、ブレイズリンクスは渾身の力で蹴り飛ばす!
「ライオカイザー! ダイノキング!」
「おいおい、ヤバいんじゃないのか、アレ!?」
ドレッドバスターとダイノキング――決定打に近い一撃を受けた二人の姿にバトルガイヤーとレーザーウェーブが声を上げ――
『――――――っ!?』
突如、ウィザートロンの4人の足元に魔法陣が展開された。
一方、本局外周の戦いもサイバトロンの猛反撃が始まっていた。
「力を示せ――ユキムラ!」
〈御意〉
咆哮するレールレーサーに応える声――彼のかまえた、十文字の刃を備えた槍形パワードデバイス“ユキムラ”からのものだ。
同時に炸裂するカートリッジ――発生した魔力は炎となった刃を包み込み――
「紅蓮――大文字!」
横薙ぎに一閃、さらに左右に袈裟斬り――その名の通り『大』の字に繰り出された斬撃が炎の刃となって飛翔。ガイルダート達はあわててそれをかわし――
「――そこっ!」
《いただきます!》
フェイトとジンジャーの放ったファルコンランサーがカウンターとなって顔面に炸裂。ガイルダートはまともにひっくり返る。
「うっわー、痛そう……」
「さすがに同情しますね、アレは」
ひっくり返った拍子にぶつけた後頭部を抱え、転げ回るガイルダートの姿に同情の声を上げるエクシゲイザーとシオン――もっとも、二人そろってアルカディスに集中砲火をかましている現状では説得力は皆無だったりするのだが。
レールレーサーの出現によって、パワーバランスはサイバトロン側へと大きく傾いた。デッドエンドもダイアトラスに投げ飛ばされた挙句ザフィーラの蹴りで上空高く舞い上がり、スターセイバーとシグナムは恭也と共同でセイバーバックを翻弄している。もはや完全にウィザートロン側の負けムードだ。
上空でもメガザラックが苦戦中。外に出て大火力を惜しみなく使えるようになった二人のコンボイ――しかも一方はリンクアップ体――になのは、クロノ、ヴィータまで加わった現状では、さすがのメガザラックも苦戦を強いられている。
「うーん……さすがにこっちが悪者みたいなムードなんですけど……」
「知るか!
ジンライを半殺しにしやがって……! ギッタギタにしてやる!」
思わず本音をもらすなのはに怒りで血走った目を向け、ヴィータが言い返し――
《ち、ちょっと、二人とも!》
プリムラの声に我に返った。二人の視線の先では、メガザラックの周囲に魔法陣が展開されている。
だが――様子がおかしい。メガザラックを捕獲――というか、制止するかのように複数枚の魔法陣がメガザラックを包み込んでいる。
見ると、眼下のガイルダート達も同様の魔法陣で包まれている。
そして――人工次元断層での戦いの時に聞いたあの声がメガザラックに告げた。
〈撤退よ、メガザラック〉
「だ、だがな……!」
〈お願い――素直に戻って。
時間をかけすぎたの〉
反論しかけたメガザラックを、通信の声はなだめるように告げる。
〈これ以上は奇襲の意味はない――間違いなく総力戦になるわ。
速攻性を重視したこちらに、これ以上の戦闘における勝率はきわめて低いと言わざるを得ないの。
お望みなら、もっとこちらの不利な要素を教えてあげるけど?〉
「……降参だ」
両手を挙げてそう答え――メガザラックはガイルダート達と共に転送、離脱していった。
「あぁっ! くそっ、待ちやがれ!」
「ヴ、ヴィータちゃん、落ち着いて……」
声を上げるヴィータをなのはがなだめると、
〈なのはちゃん、ギャラクシーコンボイ!〉
そこにエイミィからの通信が入った。
〈何かあったの!? こっちも敵がいきなり引き上げていったけど!〉
「こっちもなんです。
時間をかけすぎたから、これ以上は不利だ、って……」
尋ねるエイミィになのはが答えると、
「それよりもジンライだ、ジンライ!」
「あ、待ってよ、ヴィータちゃん!」
急いで魔法陣を展開するヴィータにあわてて飛びつき――なのはは彼女と共にマキシマスへと転送した。
「もう、なのはもヴィータも急ぎすぎ!」
「あはは……ゴメン、フェイトちゃん……」
後を追って転送、追いついてきたフェイトになのはが答え、彼女達はマキシマスの転送ポートから一路格納庫を目指して駆けていた。
そして、角を曲がれば後は格納庫まで一直線、というところまで来た、その時――突如マキシマスが揺れた。
「ぅわぁっ!?
な、何!?」
「格納庫の方だ!」
突然の衝撃に驚くなのはに答え、ヴィータは格納庫の前にたどりつくと人間用の扉にキーコードを打ち込み、
「おい、どうしたんだ!?」
あわてて格納庫に駆け込み――ヴィータは呆然とその場に立ち尽くした。
格納庫の中はメチャメチャだった。
物が、機材が散乱し、踏み荒らされ、壁もところどころが破壊されている。
そんな中、外壁の一角が破られ、時空間がその向こうに広がっている。
そして――ジンライの姿はどこにもなかった。
彼がスパークを移植されたはずの、パワードデバイスの姿も――
「ど、どうなってるの……?」
散々な有様を前に、なのはもまた呆然とつぶやき――気づいた。
「そうだ、すずかちゃん達は!?」
あわてて周囲を見回し――見つけた。ぶつけたと思われる頭をさすり、ゆっくりと身を起こすところだった。
「すずか、大丈夫!?」
すぐに駆けつけ、フェイトが助け起こすと、ヴィータがすずかに尋ねた。
「おい、どうしたんだよ!?
ジンライはどうなったんだ!?」
「え、えっと……」
ものすごい剣幕で尋ねるヴィータに、すずかは思わずしり込みし――
「心配ない。
ジンライのスパークの移植は無事に終了した」
そう答えたのはファストガンナーだった。
「成功!? これが成功かよ!?
成功したんなら、ジンライはどこに行っちまったんだよ!?」
「ちょっと落ち着いて、ヴィータちゃん」
言い返すヴィータをシャマルがなだめ、フォートレスはいきさつを説明し始めた。
「ジンライのスパークの移植は無事に終わった。
新たなボディにも適合し、安定。後は起動させるだけとなったのだが――そこで問題が発生した」
《何があったんですか?》
「ジンライの精神が適合しなかったんだ」
尋ねるジンジャーに、フォートレスはそう答えた。
「新たなボディとかつてのボディ、双方のシステムの差異に、人格プログラムがうまく適応できなかったんだ。
結果、自我の覚醒が阻害され、闘争本能のままに行動。この格納庫を飛び出していき――」
「えっと……わかりやすく言ってくれると助かるんですけど……」
降参、とばかりに手を挙げたなのはの言葉に、フォートレスは言葉を捜すかのようにしばし視線を宙に泳がせ――
「…………暴走、と言った方が適切か」
《初号機みたいに?》
「えっと……わかる人にしかわからないたとえはやめようね、プリムラ」
なのはがプリムラをたしなめる一方で、ヴィータは新生したジンライが飛び出していったと思われる外壁の穴へと視線を向けた。
「ジンライ……どこに行っちまったんだ……!?」
(初版:2006/10/29)