ウィザートロンの襲撃も収まり、時空管理局は壊滅の危機を免れた。
だが――それでもまだ、懸念は残されていた。
メガザラックの凶刃に倒れ、蘇生の可能性に賭けてスパークの移植手術を受けたものの――自我を失い、逃走してしまったジンライの捜索である。
「あー、もうっ! また逃げられた!」
またしてもレーダー画面には「SIGNAL LOST」の一文――思わず声を上げ、エイミィはコンソールを両手で叩く。
〈エイミィ。相手も只者ではない。
根気よく、じっくりと追跡しなければな〉
「それはわかってるんだけど……こうも逃げられるといい加減頭にきちゃうわよ」
通信モニターの向こう――アースラの格納庫で肩をすくめるパーセプターの言葉にエイミィが答えると、
「状況はどう?」
ブリッジに姿を見せたリンディが、二人に向けてそう尋ねた。
「よくないですね。
補足自体は難しくないんですけど、動きが速い上に転送魔法を乱発していて……」
「そのせいで、先ほどからこちらの探査網をかいくぐられてばかりで……
捜索隊の増員を提案しますが」
「そうか……」
コンソールからこちらへと振り向き、告げるパーセプターの言葉に、エルダーコンボイはしばし考え、
「ギャラクシーコンボイ」
「あぁ。
バンガードチームやメビウスショット達だけでは、明らかに手が足りていない……
かと言って、管理局の方も被害復旧でそれどころではないし……」
そうつぶやくと、ギャラクシーコンボイはモニターの向こうのリンディに告げた。
「リンディ提督。
やはり我々で追加の捜索隊を編成するしかあるまい」
〈わかりました。
では、捜索に出ているメンバーを呼び戻して、改めて捜索隊を編成しましょう〉
「ったく、さっさとしてくれよ。
こっちはさっさとジンライを探しに行きたいんだっての」
アースラの格納庫に呼び戻され、ヴィータは不満を隠しもしないでリンディに告げた。
彼女にしてみれば相棒の一大事なのだ。一刻も早く探しに行きたいその気持ちはわかるが、ウィザートロンという強敵が控えている現状で単独行動は避けるべきだ。
「わかってるわ。
一時は共に戦った間柄だもの――こちらとしても、彼の身を案じる気持ちは変わらないわ」
そんなヴィータにそう告げると、リンディは一同を見回し、告げた。
「では、これから捜索隊のチーム編成を発表します」
第45話
「野獣の騎士!
ビクトリーレオさん新生なの」
そして――
「どうだった? ギャラクシーコンボイ」
「いや……こちらには何の反応もない」
合流してきたザフィーラの問いに、スーパーモードとなって上空から探していたギャラクシーコンボイは落胆もあらわに答えた。
「なのは、アトラス、そっちはどうだ?」
〈反応皆無〉
〈わたしもです。
この次元世界にはもういないのかも……〉
尋ねるギャラクシーコンボイだが、別区域を捜索しているアトラスやなのはの答えも芳しくない。
「仕方ない。
次の次元世界に移動しよう。
なのはとアトラスはすぐに合流。ザフィーラは転送魔法の準備を」
〈了解〉
〈はい!〉
「わかった」
ギャラクシーコンボイの指示にそれぞれが答え――不意にザフィーラはギャラクシーコンボイに尋ねた。
「しかし……“彼ら”は大丈夫だろうか……?」
「シルバーボルトと薫がついている。戦力面では問題はないだろうが……」
そう答え――ギャラクシーコンボイはため息をつき、付け加えた。
「……まず間違いなく、モメるだろうな」
「まったく……なんでボクがフェイト達と同じチームなの!?」
「それはこっちのセリフ!」
唇をとがらせてボヤくジャックプライムに、フェイトはムキになって言い返した。
「だいたい、何でジャックプライムが参加してるの!?」
「いいでしょ! 捜索任務なんだから、人は多い方がいいじゃないか!
それにシー兄も護衛についてくれたし!」
「若……いい加減その『シー兄』はやめていただきたいのですが……」
巻き込まれたシルバーボルトがとりあえず抗議の声を上げるが、そんなことはおかまいなしに二人の論争はヒートアップしていく。
「シルバーボルト……『シー兄』って呼ばれてるのかい?」
「まぁ、な……
私やブラッカーは、若が幼い頃からの付き合いだからな。若にしてみれば兄も同然なのだ」
薫の問いに、シルバーボルトはため息まじりにそう答え――
「ンなコトはどうでもいいんだよ!」
そんな彼らに文句を言うのはヴィータである。
「バカやってる場合じゃないんだぞ!
とっととジンライを探すんだよ!」
「わ、わかってるよ!」
ヴィータの言葉に答え、フェイトはシルバーボルトへと向き直り、
「それで……ジンライの最後の確認地点は?」
「少々お待ちを」
その問いに、シルバーボルトは端末を操作。中空に展開されたウィンドウにジンライの確認されたポイント、見失ったポイントの次元座標が時系列順に3D表示されていき――
「………………あれ?」
ふとジャックプライムが気づき、口を開いた。
「ちょっと待って、シルバーボルト。
もう1回、最初から表示してみてくれる?」
「え?
あ、はい…………」
ジャックプライムの言葉に、シルバーボルトはもう一度画面を再表示していき――
「………………やっぱりだ!」
「何かわかったのか!?」
「うん!
シルバーボルト、もう1回! ヴィータちゃん達はよく見てて!」
ヴィータに答え、告げるジャックプライムの指示でシルバーボルトはもう一度再表示し――
「わかった?」
「……悪い。さっぱりだ」
「そっか。
えっとね……」
白旗を揚げるヴィータの言葉に、ジャックプライムは各ポイントを示す光点を順に指さしていき、
「ジンライさんは最初にミッドチルダに現れてから、ボクらが捜索してるのに気づいたら別の次元世界に転送魔法で脱出してる。
で……次の発見地点は?」
「あ………………」
そのジャックプライムの言葉に、ようやくフェイトは気づいた。
「またミッドチルダだ……」
「そう。
その後も一緒。監視の目に見つかって、逃げたジンライさんは、逃げ切るたびにミッドチルダに戻ってきてるんだよ。
原因はわからないけど……一種の帰巣本能みたいなもの、って言えばわかるかな?」
「き、帰巣本能!?」
ジャックプライムの言葉に、ヴィータの眉がつり上がった。
「てめぇ、ジンライを動物みたいに言うんじゃねぇよ!」
「ご、ゴメン……」
ヴィータの剣幕にあわてて謝るジャックプライムだが――
「……いや、案外的外れではないのかもしれない」
そうつぶやいたのはシルバーボルトだった――となりで薫もうなずき、ヴィータに説明する。
「確かに……今のジンライが自我の目覚めていない状態だと仮定するなら、本能で動いているんだと思っていい。
どうしてミッドチルダなのか? という点は置いておくとして――ジャックプライムの言うとおり、何かの本能のようなものでミッドチルダに戻りたがっている、というのは、あながちありえない話じゃないんよ」
「じゃあ、ミッドチルダにメンツを集中すれば……!」
ヴィータの言葉にうなずき、シルバーボルトは告げた。
「そうだ。
発見次第、最寄の部隊に確保してもらえる」
「わかった。
では、こちらもミッドチルダに向かう」
ジャックプライム達の発見はすぐにアースラを通じて全捜索隊に伝えられた。連絡を受け、フォートレスはマキシマスの進路をミッドチルダへと向ける。
と――
「トランスフォーム!」
ビーストモードの双頭竜形態からロボットモードへとトランスフォームし、ドレッドバスターが甲板上に着艦。すぐに通信が入った。
〈ミッドチルダに向かうんですか?〉
「えぇ。
ドレッドロッ――ドレッドバスターも、一度艦内に戻ってください」
〈了解〉
肩をすくめ、ドレッドバスターが通信を終えると、
「ドレッドバスターが戻ったんですか?」
眼鏡をかけ直しながら、志貴がブリッジに姿を見せた。
「あぁ、志貴くん。
貧血はもういいんですか?」
「えぇ。少し休ませていただいたおかげで、もう大丈夫です」
シャマルに答えると、志貴はシャマルに尋ねた。
「それにしても……アースラからの連絡は聞きましたけど、どうしてジンライはミッドチルダに?」
「さぁ……
フォートレス、わかりますか?」
「おそらく、エネルギーがまだ十分ではないのだろう」
そんな二人の疑問はすでに予測していたのだろう、フォートレスはすぐにそう答えてきた。
「ジンライの新たなボディは元々パワードデバイスとして用意されていたものだ――そのため、通常のトランスフォーマーよりも稼動のために魔力に依存している部分が大きい。
そしてミッドチルダは大気中に満ちる魔力の質がいい――ミッド式が大きく発展することになったのもそのおかげで研究がしやすかったためなワケだが――おそらくジンライは、稼動のために必要なエネルギーを得ようとミッドチルダに居座りたがっているのかもしれない」
「なんだかどっかの原子力怪獣みたいだな……」
思わず苦笑し――志貴はシャマルに声をかけた。
「ところで……シャマルさん」
「はい?」
「ドレッドバスターが来ないうちに聞いておきますけど……
はやてちゃんには、今回の事は……」
「いえ……まだ……」
志貴の言葉に、シャマルの表情が一瞬曇る――だが、彼女はすぐに気を取り直し、志貴に告げた。
「大丈夫ですよ。
ジンライは必ず帰ってきますから」
「………………そうですね」
ミッドチルダはすでに深夜――雲ひとつない星空を、ブレイズリンクスはジンライの姿を探して飛行していた。
「こちらブレイズリンクス。
一足先に捜索を始めさせてもらっているが……今のところレーダーに反応はない」
〈わかりました。
発見しても決して手を出さないように。他の班の到着と共に一気に取り押さえます〉
「心得た」
リンディに答え、ブレイズリンクスが通信を切ると、ライドスペースに収まる知佳が地上のメンバーへと告げる。
「ライガージャックもアルクェイドさんも、そういうことだから」
〈おいおい、なんでいちいち確認するんだよ?
オレ達だって聞いてたっての〉
〈また先走るとでも思ってるワケ?
まったく、失礼しちゃうわね〉
「あ、いや、そういうワケじゃないんだけど……」
返ってきたライガージャックとアルクェイドの言葉に、あわててフォローしようとする知佳だったが、
「いやいや、知佳。的確な忠告だ。
お前は合流して日が浅いから知らないだろうが、あの二人はアニマトロスでさんざん先走ったあげく死にかけてな……」
〈そっ、そんな前のこといちいち持ち出すか!?〉
〈いいじゃないの! おかげで転生できたんだから!〉
告げるブレイズリンクスの言葉にライガージャック達二人が反論し――
「――――待って!」
ふと、そんな彼らのやりとりを知佳が断ち切った。
「……どうした? 知佳」
ブレイズリンクスの問いにも答えることなく、知佳はしばし意識を集中させ、
「…………すごく混濁した意識を感じる……
たぶんジンライさんだよ!」
「どっちだ!?」
「えっと……2時方向!」
「わかった!
ライガージャック達は地上で待機! まずは我輩達で確認してくる!」
〈あぁ、任せたぜ!〉
〈見失わないでよ!〉
地上の二人の言葉にうなずき、ブレイズリンクスと知佳はジンライのものと思われる気配を追って飛翔した。
だが――事態は確実に悪い方向へと進んでいた。
ジンライの姿を発見したのは、知佳達だけではなかったのだ。
「ほぉ……どうやら真夜中のお散歩らしいな……
しかも、マッハ2で」
まだ飛行には慣れていないのか、背中のジェットブースターを全開にふかして大地を疾走する目標を確認し、スカイクェイクは笑みを浮かべてつぶやいた。
黄金のボディを輝かせた、鋼鉄の獅子――ジンライの新たな姿である。
「しかし、あのトランスフォーマーのスパークパルス、どこかで覚えがあるのだが……」
「ほら、こないだのヤツっすよ。
ヴォルケンリッターとかいう連中の、ジンライです」
つぶやくスカイクェイクに、ロブクロウがデータを参照しながら答える。
「なるほど……いつかのバンガードチームとかいう小僧達と同じく、転生か他の方法かでボディを進化させたというワケか?」
「進化? アレが?」
「獣そのものではないですか……むしろ退化じゃありませんか?」
「お前らにだけは言われたくないと思うぞ。少なくとも」
肩をすくめてタートラーとハングルーに答えると、スカイクェイクは一同へと指示を下した。
「全員出撃! ヤツを捕獲しろ!」
「捕獲ですか? 何のために?」
思わず尋ねるレーザークローだが、その問いにスカイクェイクは余裕の笑みと共に答えた。
「どういう原理であの姿になったのかは知らないが――少なくともあのボディは我らにとって未知の技術の宝庫のはず。
その技術を手に入れ、我らのさらなる強化の糸口とするのだ!
ホラートロン、Attack!」
『了解!』
スカイクェイクの言葉に、ホラートロン一同は声をそろえて応じ――レーザークローがスカイクェイクに声をかけた。
「あの……スカイクェイク様」
「何だ?」
「今の号令、タイミング的に元ネタって……」
「戦隊シリーズとは関係ないぞ――指は鳴らしてないからな」
憮然としてスカイクェイクはそう答えた。
「…………見つけた!」
「外観がデータと一致――間違いないな」
上空からジンライの姿を確認し、声を上げる知佳にブレイズリンクスが答える。
「ブレイズリンクス、すぐにヴィータちゃんに連絡して!」
「彼女に? リンディ提督ではなく?」
「今一番ジンライさんの心配をしているのは、ヴィータちゃんだからね」
「なるほど。了解だ。
まずヴィータに、次いでリンディ提督に――」
知佳の答えに苦笑し、ブレイズリンクスは通信回線を開き――
「………………む?」
ふと眼下に動きを見つけた。
「どうしたの? ブレイズリンクス」
「知佳、これを見ろ!」
答えて、ブレイズリンクスは知佳に拡大したその映像を見せ――知佳の顔から血の気が退いた。
「あれは――ホラートロン!?」
「………………?」
レーダーなど利いていない――本能から来る野性の直感によって、ジンライは接近してくるものの存在に気づいた。
スカイクェイクである。
逃げなくては――とっさに転送の魔法陣を展開するジンライだったが、
「逃がすな!」
スカイクェイクの指示と共に、シーコンズの面々が動いた。彼らの投げつけた錨がジンライの四肢や身体に巻きつき、
「よっしゃ! かかれぇっ!」
「ヤツを絶対に離すな!」
ハングルーやレーザークローの号令のもと、テラートロン、アニマトロンが一斉に飛びかかってジンライを取り押さえる。
「よぅし、よくやった」
そして、一同にそう告げるとスカイクェイクは大地に組み伏せられたジンライと対峙した。
「……グルル……」
「フンッ、ビーストモードの野性プログラムに理性の覚醒を阻害されているようだな……
だが、そうとわかれば対処は容易い。
フォースチップ、イグニッション!」
文字通り獣のごときうなり声を上げるジンライを前に、スカイクェイクはフォースチップをイグニッションし、デスシザースをかまえる。
「安心しろ――苦しませず、一撃で終わらせてやる!」
咆哮し、スカイクェイクはブレードモードのデスシザースをふりかざし――
「そうはさせん!」
「――――――っ!?」
突然の声にとっさに飛びのくと、その眼前を真紅の影が駆け抜けた。
ブレイズリンクスである。
「貴様……何者だ!?」
「フンッ、転生しただけで我輩が誰かわからなくなるとは、情けないな!
ブレイズリンクス、トランスフォーム!」
うめくスカイクェイクに答え、ブレイズリンクスはロボットモードとなって彼らの前に降り立ち、
「ブレイズリンクス!」
「まったく、先走るなって釘を刺してきたのは誰よ?」
口々に言いながら、ライガージャックやアルクェイドが合流してくる。
「ジンライさんを放しなさい!」
「フンッ、放せと言われて誰が放すか!」
ブレイズリンクスから降り立ち、告げる知佳に、スカイクェイクはデスシザースの切っ先を向けて言い返す。
「スカイクェイク様、我々も!」
「必要ない。
お前達はそのままヤツを抑えているんだ」
声を上げるレーザークローに答え、スカイクェイクはデスシザースを背中に装着。ウィング形態に戻す。
「こいつらの相手など――私ひとりで十分だ!
スカイクェイク――セパレーション!」
咆哮し――3体のドラゴンに分離したスカイクェイクは一斉にブレイズリンクス達に襲いかかる!
「何だって!?」
報せを受け、ヴィータは思わず声を上げた。
「ジンライが襲われてるって……」
「あちゃー、敵に見つかっちゃったのか……」
つぶやき、フェイトとジャックプライムが顔を見合わせると、
「フェイト、若を任せてもかまわないか?」
そんな二人に、シルバーボルトが声をかけた。
「現場へは我々が向かう。
二人はここで待機しているんだ」
「け、けど……!」
「若を戦場まで連れて行くワケにはいかない。
襲っている連中を追い払ってすぐに戻る。それまでの間、若を頼む」
反論しかけたフェイトを制すると、シルバーボルトは薫と顔を見合わせ、
「では、行こうか、ヴィータ」
「おぅよ!」
シルバーボルトの言葉にヴィータが答え、彼らは転送魔法で現場に急行。残されたフェイトとジャックプライムは――
「……ジャックプライムのせいだからね」
「だったら勝手に行けばいいじゃないか」
互いにそう告げて――
『フンッ!』
そのままそっぽを向いてしまった。
「スカイクェイク、ビーストモード!」
咆哮と同時に合体。巨大な合体ドラゴン形態となり、スカイクェイクは尾の一撃でライガージャックとアルクェイドを薙ぎ払い、
「トランスフォーム!
さらに――フォースチップ、イグニッション!」
間髪入れずに上空から迫るブレイズリンクスの蹴りを素早くかわすとロボットモードにトランスフォーム。そのままイグニッションし、デスシザースを手に悠然と大地に降り立つ。
「くっ、やるな……!
知佳!」
「うん!」
『フォースチップ、イグニッション!
カートリッジシステム、Set Up!』
対し、ブレイズリンクスと知佳はフォースチップをイグニッション。背中の2基のカートリッジシステムを起動し、
「カートリッジ、ロード!」
さらにブレイズリンクスがカートリッジをロード、胸部の鳳凰の頭部、その口腔内に光が生まれ――
「インフィニティ、ブレイズ!」
放たれた炎が、渦を巻いてスカイクェイクへと襲いかかる!
「フンッ、そんなもの!
デスシザース、シールドモード!」
対し、その炎を真っ向から耐えるスカイクェイクだったが――
「耐えられることなら想定済み!
ブレイズリンクス!」
「おぅっ!
カートリッジ、ロード!」
ブレイズリンクスと知佳はかまわない。カートリッジを再度ロードし、翼に備えられたローターが高速で回転し――
「アブソリュート、ゼロ!」
「無駄骨、無駄骨!」
放たれた吹雪をもスカイクェイクはデスシザースで防ぐ。
だが――知佳はかまわず叫んだ。
「今だよ――二人とも!」
「おぅっ!」
「今度こそ!」
答えるのはライガージャックとアルクェイド。真っ向からスカイクェイクへと突撃する。
『フォースチップ、イグニッション!
プラティナム、クロー!』
「また弾き飛ばされたいか、貴様ら!」
迫るライガージャックに対し、スカイクェイクはブレードモードのデスシザースを振るい――
「――――――っ!?」
交錯した瞬間、スカイクェイクは驚愕に目を見開いていた。
ライガージャックのプラティナムクローによって、デスシザースの刃に亀裂が走ったからだ。そして――
「いっ、けぇっ!」
アルクェイドの爪から放たれた衝撃波で動きを止められ、さらに追撃で放たれた“空想具現化”の鎖の渦がデスシザースの刃を叩き折る!
「バカな……!?
このオレの、デスシザースが……!?」
うめき、後退したスカイクェイクは思わず疑問の声を上げ――それに答えたのは知佳だった。
「熱膨張の原理だよ。
ブレイズリンクスのインフィニティブレイズで極端に熱せられたデスシザースは、続けて放たれたアブソリュート・ゼロで今度は極端に冷やされた――その急激な温度変化に、デスシザースの構成金属が耐え切れなかったんだよ」
言って、どんなもんだとばかりに胸を張る知佳だったが――
「その通り!
使ってすぐの土鍋に水をぶっかけるとバリンといく、あの原理だ!」
「って、なーんでそんな所帯じみたたとえをするのかなぁ……?」
続くブレイズリンクスの言葉がシリアスな空気を粉みじんに粉砕してくれた。思わず肩をコケさせて苦笑する。
「とにかく! もう頼みのデスシザースは使えまい――覚悟しろ!」
気を取り直し、スカイクェイクと対峙して告げるブレイズリンクスだが――
「フォースチップ、イグニッション!」
「――――――っ!?」
突然、背後から響いた声に振り向き――
「レーザー、ブラスト!」
咆哮と共にレーザークローが両肩から放ったビームが、ブレイズリンクスを吹っ飛ばす!
「ご無事ですか、スカイクェイク様!」
「あぁ。よくやったぞ、レーザークロー」
尋ねるレーザークローに答え、スカイクェイクは立ち上がり、倒れたブレイズリンクスを踏みつける。
「さて、形勢逆転だな」
「くっ………………!」
ブレイズリンクスを人質に取られた形だ。告げるスカイクェイクの言葉にライガージャックが歯噛みし――
「そんでもって――また逆転だ!」
「――――――っ!?」
突然の声に、スカイクェイクはとっさに横に跳び――背後から自らの後頭部を狙った一撃を回避する。
そして、
「お前ら――ジンライをどうするつもりだ!」
ラケーテンフォルムのグラーフアイゼンをかまえたヴィータが舞い降り、スカイクェイクに言い放つ。
さらに、パワードクロスを遂げたスペリオンも薫を乗せて飛来。スカイクェイクと対峙する。
「ジンライ! 大丈夫か!?」
「グルル……」
ハングルー達に捕獲されているジンライに呼びかけるヴィータだったが、肝心のジンライはうなり声を上げるのみ。
「ジンライ! 返事しろよ!
あたしがわからないのか!?」
まだ理性が戻っていないのか――なおも呼びかけるヴィータだが、その視界のスミでスカイクェイクが立ち上がるのに気づいた。
「貴様ら……!」
「あきらめて離脱しろ。
他の同志達もこちらに向かっている――優勢なのは今だけだぞ」
「フンッ、ならばその前に貴様らを薙ぎ払えばすむ話!
アニマトロン! 始末しろ!」
「了解!
アニマトロン、スクランブル、クロス!」
スペリオンに言い返すスカイクェイクに答え、レーザークローはアニマトロンのメンバーと合体。プレダキングとなってスペリオンと対峙する。
「スカイクェイク様に仇なす者は、このプレダキングが討ち倒すのみ!」
「そのデカい図体で、できるのか!?
薫――しっかりつかまっていろよ!」
言い返し、スペリオンは跳躍。素早い動きでプレダキングの背後へと回り込むが、
「かわせぬのなら――受けるのみ!」
プレダキングは最初からかわすつもりなどなかった。スペリオンの振るった刃をヒジの装甲で受け止め、そのまま力任せに薙ぎ払う!
「こいつ、スピードは最初から度外視か……!」
「こういう相手は、素早い相手とも戦い慣れてる――ウチも最初から降りておくべきやったか……!
スペリオン、気をつけて!」
うめくスペリオンにライドスペースの薫が告げ――そんな二人にプレダキングが襲いかかる!
「さて……こちらは他愛のなさそうな相手が残ったな」
「なめるな!」
一方、スカイクェイクの言葉に言い返し、ヴィータはグラーフアイゼンをかまえ、
「グラーフアイゼン!」
〈Explosion!〉
ヴィータの言葉に、グラーフアイゼンはカートリッジを2発ロード。グラーフアイゼンを巨大ハンマーモード“ギガントフォルム”へと変化させる。
「ここなら障害物もねぇ――こないだみたいに取り回しに困ることはねぇ!」
咆哮と共に跳躍し、ヴィータはグラーフアイゼンを振り上げ、
「ギガント、シュラーク!」
振り下ろされたグラーフアイゼンがスカイクェイクに襲いかかる。が――
「むんっ!」
巨大なグラーフアイゼンを、スカイクェイクは真っ向から受け止めた。衝撃で両足が地面にめり込むが――それだけで終わり、逆にグラーフアイゼンをガッシリと抱え込む。
「こっ、こいつ……! ギガントシュラークを!?」
「確かに、なかなかのパワーだ。
予測される重量以上の衝撃――質量だけでなく、魔力とやらで重量を増しているようだな。
だが――大帝クラスや合体戦士を相手にするには、まだまだ不足だ!」
驚くヴィータに答え、スカイクェイクはグラーフアイゼンを力任せに投げ捨てる。
とっさにグラーフアイゼンを手放し、巻き込まれずに済んだヴィータだったが、
「もらった!」
武器を手放したスキをつき、スカイクェイクがヴィータを殴り飛ばす!
「頼みの綱の武器すら手放し、もはや勝ち目はあるまい」
大地に叩きつけられるヴィータに言い放ち、スカイクェイクは彼女に向けて歩を進める。
「地球で出くわしてからというもの、さんざん手こずらせてもらったが――これで終わりだ!」
告げて、スカイクェイクは腕のビーム砲を起動させ――
「……グァオォォォォォンッ!」
突如轟いた咆哮は、スカイクェイクの背後から上がった。
同時――拘束されていたジンライが身を起こし、目の前にいたシナーツインやテンタキル、オーバーバイトに次々に噛みつき、空の彼方に投げ飛ばす!
「なっ、何だ……!?」
突然の凶暴化に驚き、タートラーが声を上げると、
「…………てめぇ……ら……!」
今の身体になってから、初めてジンライが口を開いた。
「……人の、パートナーに……!」
「ヴィータに、何しやがる!」
咆哮と同時、ジンライは背中のジェットブースターで一気に加速。スカイクェイクを体当たりで弾き飛ばす!
「ジンライ!」
「ったく……まだ頭がクラクラするぜ……!」
駆け寄るヴィータの目の前で、ジンライは頭をブンブンと振り、
「とにかく、だ……」
言って、気を取り直したジンライは立ち上がるスカイクェイクをにらみつけた。
「この新しいボディのパワー、さっそく試させてもらうぜ!
ジンライ――じゃねぇ……
ビクトリーレオ、トランスフォーム!」
次の瞬間、ジンライの――ビクトリーレオの姿が変わった。ロボットモードとなり、スカイクェイクの前に着地する。
「なめるなよ――死にぞこないが!
スカイクェイク、ビーストモード!」
対し、スカイクェイクはビーストモードへとトランスフォーム。真っ向からビクトリーレオに襲いかかる!
だが、ビクトリーレオはその突進を受け止め、
「『なめるな』……?
そいつは、こっちのセリフだ、このヤロー!」
逆にスカイクェイクの巨体を持ち上げ、大地に叩きつける!
「しかも何だよ、いきなりビーストモードって!
こっちもビーストモードで対抗しろってか?――こっちはせっかくロボットモードを披露したってのに!」
言って――ビクトリーレオはビーストモードに戻り、スカイクェイクに襲いかかる。
「大丈夫!? ヴィータちゃん」
「あ、あぁ……」
駆け寄る知佳に答え、ヴィータが身を起こすと、
「無事か、二人とも!?」
プレダキングの拳をかわし、スペリオンがすぐそばに着地した。
「くっ、救援はまだか……!」
スピードのスペリオンとパワーとプレダキング――どちらも譲らぬ一進一退の状況にスペリオンが舌打ちするが、
「ねぇ、スペリオン」
そんなスペリオンに知佳が声をかけた。
「どうした?」
尋ねるスペリオンだが――薫は気づいた。ライドスペースの中でスペリオンに告げる。
「あと半歩下がった方がえぇよ」
「………………?」
その言葉に眉をひそめながらも、言われたとおりスペリオンは半歩下がり――
「どっせぇいっ!」
「ぅわぁっ!?」
「なぁっ!?」
響いたのはひとつの怒号と二つの悲鳴――ビクトリーレオに投げ飛ばされたスカイクェイクがプレダキングに激突し、二人は仲良く転がっていく。
その光景を前に――薫はスペリオンに尋ねた。
「救援……いる?」
「………………いらないかも」
「親分を救えーっ!」
「テラートロンに遅れを取るなーっ!」
苦戦するスカイクェイク達を救うべく、他のホラートロン達も動いた。ハングルーやタートラーの号令で一斉にビクトリーレオに襲いかかるが――さっきビクトリーレオに投げ飛ばされた面々がまだ帰ってきていない。合体もできず、逆に蹴散らされる始末である。
「くっ、デスシザースさえあれば……!」
芳しくない状況に思わずうめくスカイクェイクだが、ないものをねだってもしょうがない。その上ビクトリーレオまで正気に戻ってしまったとあっては、今回の戦闘の目的そのものが費えたということだ。
「この辺りが潮時か……!
総員、撤退するぞ!」
「り、了解!」
「すんませーん! タートラーの旦那が目ぇ回してんスけど!」
「引きずってでも連れて来い!」
撤退を決意したスカイクェイクの言葉に一同が反応。口々に言いながらホラートロンは撤退していった。
「ざまーみやがれ!
出てきたばっかりの頃のカッコよさはどこいきやがったーっ!」
逃げ出すスカイクェイクに言い放ってやり――知佳に支えられたヴィータは改めてビクトリーレオの巨体を見上げた。
「えっと……ジンラ――じゃない、ヴィクトリーレオ……」
「ん? どうした?」
何事もなく尋ねるビクトリーレオの姿に、ヴィータはようやく実感した。
帰ってきたのだ――ジンライが。
「……よかった……
ホントに、無事だったんだ……!」
感極まり、その場に崩れ落ちるヴィータ――そんな彼女の頭を人さし指で優しく撫でてやり、ビクトリーレオは告げた。
「『よかった』だって――?
何言ってやがる。お前らががんばったから、こうして無事に帰ってこれたんだろうが。
ヴィータが自分の力で勝ち取った結果だ――よくがんばってくれた。ありがとうな」
「………………いいってことよ」
そんなビクトリーレオから視線を背け、ヴィータはぶっきらぼうにそう答えた。
面と向かって答えたら、止められないでいる涙まで見られそうだったから――
「そう……無事覚醒したのね」
〈えぇ。
『今後はまた敵同士だから、礼は戦いの場で示す』――そう言って、合流したスターセイバー達と共にマキシマスで離脱しましたが〉
報告を聞き、安堵の息を漏らすリンディに、モニター上のギャラクシーコンボイはそう答えた。
「いずれにしても、彼には地球で手助けしてもらった恩もあるし、無事で本当によかったわ」
〈よくないよ!〉
つぶやくリンディに異を唱えたのはジャックプライムだった。
「せっかく捜索隊に加えてもらったのに、敵が出たとたんにお留守番じゃないか!」
〈そうは言っても、キミは元々非戦闘員なのよ。
いくら護衛にシルバーボルトがついていてくれたと言っても、戦闘の行われている場所に連れて行くワケにはいかないわ〉
抗議の声を上げるジャックプライムに、リンディはまるでなだめるように言い聞かすが、
「リンディ提督の言うとおりだよ、ジャックプライム。
わたしなんか、ジャックプライムのお守りで今回戦えなかったんだから。
戦えないんだし、おとなしくしててよ、もう……」
「むーっ! それを言うなら、フェイトだって未だにパートナーなしで単独行動厳禁じゃないか!」
「わ、わたしはジンジャーもバルディッシュもいるから、戦闘員に数えられてるもん!」
フェイトの乱入によって事態は収まるどころかヒートアップ、またもや二人は口論に突入してしまう。かつてジャックプライムのかました電撃告白の際には過剰反応してしまった恭也やギャラクシーコンボイ、クロノらもこの勢いには肩をすくめるしかない。
「まったく、また始まった……」
そんな二人の様子に今日1日二人のケンカに付き合わされた薫がため息をつくと、なのははウェイトモードのレイジングハートの中に戻らず、となりで見物を決め込んでいるプリムラに尋ねた。
「ねぇ、プリムラ」
《何?》
「なんだかフェイトちゃん、ジャックプライムくんにはずいぶんと突っかかってるけど……どうしてかな?」
《………………》
その言葉に思わず沈黙し――プリムラはとなりへと視線を向けた。自分達のやり取りが聞こえていたのか、苦笑している美由希に小声で尋ねる。
《美由希さん……
なの姉、本気で言ってると思います?》
「……たぶん、本気」
《…………やっぱりですか……》
「………………?
どうしたの?」
やはり自覚がないのか、尋ねるなのはにプリムラと美由希は顔を見合わせ――同時にため息をついていた。
「あ、あはは……
フェイトちゃん、ジャックプライムにライバル意識むき出しだ……」
「ホント、普段が普段なだけに、すごい勢いだね……」
そのやり取りは、アースラのブリッジでもモニターしていた。苦笑するランディにアレックスが告げると、
「………………あれ?」
突然、エイミィの手元のコンソールに通信が入ったことを示すコールサインが表示された。
「艦長、通信が入っています」
「誰から?」
「シティに残っていた、ホイルジャックと忍さんからですね。
メインモニターに出します」
尋ねるリンディにそう答えるとエイミィは通信をつなげ、メインモニターにホイルジャックの姿が映し出された――続いて忍の姿がサブウィンドウに映し出された。
とたん――エクシゲイザーとシックスナイトから茶々が入った。
〈あ、42話の“時の庭園”サルベージ作戦以来すっかり忘れられてたホイルジャックと忍さんだ〉
〈出番が欲しくて顔出してきたのか?〉
〈……あんた達二人、帰ってきたら改造手術ね〉
忍の言葉に、刑を宣告された二人から悲鳴が上がる――が、気にすることなくホイルジャックは本題を切り出した。
〈我々は単なる伝言役です。
先方から通信がつながらない、ということでシティの方に通信してきたらしいのですが……〉
「アースラもジンライの捜索で移動司令部としてあちこち飛び回ってましたからね……トランスフォーマーの通信設備じゃ次元間通信は苦手みたいですし」
肩をすくめるエイミィの言葉にホイルジャックがうなずくと、リンディが尋ねた。
「それで……あなた達に通信してきたのは、ひょっとして……」
その言葉に、ホイルジャックは答えた。
〈ご明察です、提督。
通信の相手は――〉
〈セイバートロン星に向かった、ライブコンボイ達からです〉
(初版:2006/11/05)