「では、頼むぞ」
「お任せください」
 告げるギャラクシーコンボイに、ファストガンナーは敬礼してそう答える。
 ライブコンボイの要請によって派遣が決定した、セイバートロン星への追加増員は、バンガードチームとシックスナイトに決定した。
 ミッドチルダ行きの時といい、何やら先遣隊に選ばれることの多い彼らだが、チーム内で担当がバランスよく分担されているため適任ではある。
 それに――

「改造される……!
 帰ったら絶対ホイルジャックに改造される……!」
「忍さんのタチ悪いアイデアに実現できちまうホイルジャック……
 最悪の組み合わせじゃねぇか……!」

 ホイルジャックと忍(9割くらい忍)に改造手術を宣告されたシックスナイトとエクシゲイザーがシティに帰りたがらないためでもあった。
「…………本当に、頼むぞ」
「…………はい」
 完全にビビり倒している二人を尻目に、ギャラクシーコンボイとファストガンナーはため息まじりに言葉を交わし――
「――――――あれ?」
 なんとなく二人を直視できずに視線を泳がせていたフェイトは、ふと格納庫のすみにその姿を発見した。
「…………ジャックプライム……?」

 

 


 

第47話
「逆転のビクトリー合体なの!」

 


 

 

「むー…………」
 アースラの格納庫の一角で、ジャックプライムは不満げに口を尖らせていた。
 エルダーコンボイから、シティに戻るよう指示があったためだ。
 これからアースラは再びウィザートロンの追跡任務に戻ることになる。戦闘になるかもしれない場所においてはおけないという父の配慮なのはわかるが――
(……また、ボクだけ仲間外れ……)
 それがおもしろくない。
 自分が戦闘要員でないことは理解しているが――だからと言って何もできないワケでもないのだ。
 魔法だって使えないワケではないし、ホイルジャックのところに遊びに行って得た知識でパワードデバイスのメカニズムについても一般のトランスフォーマー達よりも詳しい自信がある。戦いに出られなくても、バックアップ側ならばできることはあるはずなのに、それでも外されるのが納得いかなかった。
 だから――
「………………よぅし!」
 決意を固め、ジャックプライムは立ち上がった。
 これからすることを気づかれよう、自分の周囲に探知妨害の魔法陣を展開。魔力が陣の外に漏れるのを防いだ上で術式を組み上げる。
 そして――ジャックプライムの姿は格納庫から消え失せた。

「バンガードチームは大丈夫でしょうか……?
 セイバートロン星の敵は、弱くても数が多いようですが……」
「まぁ、若干2名ほど、帰らずに済んで張り切っている子達がいるから、大丈夫だとは思うけど……」
 アースラのブリッジ――セイバートロン星に向かったバンガードチームとシックスナイト、そしてそれぞれのパートナーの身を案じるアレックスの言葉に、リンディは肩をすくめてそう答える。
 現在アースラはミッドチルダ山岳部に出現。サイバトロンシティを目指して移動していた。
「こちらは、とにかくメガザラックの行方をつかまないと……」
「ジュエルシードを狙っている以上、再び現れるのは確実ですけど……」
「何も、敵が準備を整えるのを待つ必要はない。
 一刻も早く、行方をつかむ事は彼らに立ち向かう上で重要だ」
 リンディの言葉にランディとクロノが答えると、
「………………あれ……?」
 ふと、画面の一部に反応を見かけ、エイミィは眉をひそめた。
「どうしたの?」
「あ、いえ……
 艦内に、わずかですが魔力反応が……
 魔法を行使できるほどの出力ではないのですが……」
 リンディに答え、エイミィは画面に視線を戻した。
(今までで確認されてない魔力波形……
 今まで魔法を使っていなかった誰かの魔力、ってこと……?)

「ふぎゃっ!?」
 出現座標を間違った――地上から10m以上も上空に出現し、ジャックプライムは顔面から地面に落下した。
「いたた……ちょっと間違えちゃった……」
 全身を痛打したが、特に問題となるようなダメージもない――うめいて、ジャックプライムは身を起こし、身体についたほこりを払う。
「とにかく、まずは脱出成功、と……
 次は……」
 言って、周囲に魔法陣を展開。探査魔法を起動させる。
 対象はもちろん――
(絶対にメガザラックを見つけて――ボクだって役に立てるんだって証明してやる!)
 決意を固め、ジャックプライムは拳を握りしめ――
(………………あれ?)
 探査魔法に反応があった。
 だが、これはメガデストロイヤーの反応ではない。
 この反応は――

「若ーっ!」
「若、どちらにいらっしゃいますか!」
 一方、アースラの格納庫ではシルバーボルトとブラッカーがジャックプライムの姿を探していた。
「いたか?」
「いえ……見当たりません。
 間もなくシティに到着するというのに……」
 ブラッカーの答えに、シルバーボルトはブリッジへと通信をつなぎ、
「エイミィ。
 若の反応は、間違いなく格納庫の中にあるんだな?」

「間違いなく、ね。
 反応は確かに格納庫から出てるんだけど……見つからないのよね?」
〈あぁ……〉
「ふーん……」
 そのシルバーボルトの答えに、エイミィは思わず腕組みをして考え込み――
「…………ん……?」
 ふとある可能性に思い至った。
「まさか……さっきの魔力反応!」
 イヤな予感と共にデータを呼び出し、シミュレートして――
「………………ビンゴ」
 ジャックプライムのスパークのエネルギーを魔力変換したものの波形が、検知した魔力の波形と一致した。
 つまり、あの魔力はジャックプライムが魔法を使った結果だということだ。
 アースラの艦内でジャックプライムが魔法を使う、その理由があるとすれば――
(…………転送魔法!
 連れ戻されるのがイヤで飛び出しちゃったんだ!)
「艦長!」
 となると、格納庫内の反応は発見を遅らせるためのダミーに違いない――声を上げるエイミィにうなずき、リンディは格納庫へと通信をつなぎ、
「ギャラクシーコンボイ、エルダーコンボイ。
 ジャックプライムくんは転送魔法で艦の外に脱出した可能性があります」
〈何だと!?〉
〈まったく、アイツは……
 わかった。すぐに探しに行こう〉
「お願いします」

「聞いての通りだ。
 すぐにジャックプライムを探しに出るぞ」
「はいはい。
 なんか最近人探しばっかりやってるな……」
「ボヤくなボヤくな。
 見捨てるワケにもいくまい?」
 ギャラクシーコンボイの言葉に肩をすくめるライガージャックに、ブレイズリンクスもまた苦笑まじりにそう告げる。
「フェイトちゃん、わたし達も!」
 言って、なのはは振り向いて親友に告げ――
「――――あれ?」
 そこでようやく、先ほどからフェイトの姿がないことに気づいた。
「フェイトちゃん……?」

「ジャックプライム……どこ行ったんだろ……」
 そのフェイトは、すでにアースラ艦内にはいなかった――ジャックプライムの姿を探し、山岳地帯を飛翔していく。
 ジャックプライムが転送魔法でアースラから抜け出すのを目撃したのはまったくの偶然だった。あわて後を追ったものの、リンディへの連絡を忘れてしまったのは失策だった。
 気づいて連絡をとろうとしたが、フェイトの今いるエリアは大気中の魔力濃度が濃く、満足な念話や通信ができない状態にあった。
 しばらくは自分だけで何とかするしかない――この近辺にはいないと判断し、フェイトはスピードを上げた。

〈はわぁ…………〉
 気の抜けた声は通信モニターの向こう――通信越しにビクトリーレオと対面したはやてのリアクションである。
〈ホンマに、ジンライなんか……?〉
「まぁな。
 安心しろ。見てくれはずいぶんと変わっちまったが、人格なかみは前のままだぜ」
「そういう割にはずいぶんとワイルドな戦い方になっちまったよな」
「それについては無駄に荒っぽい野性アグレッシブプログラムを組んだフォートレスに言ってくれ」
 茶々を入れるヴィータにビクトリーレオが答えると、
「む…………?」
 コンソールに向かっていたフォートレスがそれを発見した。小声でスターセイバーに報告する。
「スターセイバー。
 何者かの探査魔法の網にかかったようだ」
「何だと……?」
 その言葉に、スターセイバーは思わず声を上げた。
 休眠時にはどうしても劣るが、通常稼動時でもマキシマスのステルスシステムは健在だ。未だに管理局に先手を打たれないのはそのためでもある。
 そのマキシマスのステルスシステムをかいくぐり、こちらを探知したというのか――?
「…………よし。私とシグナムで偵察に出よう。
 万一の増援要員はビクトリーレオとヴィータ。ザフィーラとアトラスはバックアップ兼マキシマスの護衛だ。
 ビッグコンボイも残ってくれ。偵察任務は趣味じゃないだろう?
 では行こう、シグナム」
「あぁ」
 一度命を落とした身だ。はやてと積もる話もあるだろう――モニター越しにはやてと談笑するビクトリーレオを残し、スターセイバーとシグナムはマキシマスのブリッジを後にした。

「やっぱりマキシマスだ……」
 上空に滞空するように停泊するマキシマスを見上げ、ジャックプライムはビークルモードの小型トラックからロボットモードへとトランスフォームした。
「うーん、別にこっちは探してなかったんだけどなぁ……」
 自分が探していたのはあくまでもメガザラック達ウィザートロン――ヴォルケンリッターと敵対的な立ち位置になったことがなく、彼女達もまた追跡対象であるという認識のないジャックプライムは困ったようにつぶやき――
「――――――っ!」
 気づき、とっさに飛びのいたその目の前に、三角形の魔法陣が出現した。
 そして、中から姿を現したのは――
「む………………?
 貴様、エルダーコンボイの息子の……」
「確か……ジャックプライムといったか」
「スターセイバーに……シグナム……?」

 マキシマスはシグナムの要請によってフォートレスが時空間に退避させてくれた。これでジャックプライムを連れ戻しになのは達が現れてもマキシマスを抑えられる事はないだろう。
 そして――なぜここにいるのかと尋ねたスターセイバーにジャックプライムは事情を説明した。
「なるほど……
 それで、手柄を立てて認めてもらおうと……」
「だって……ボクだってできることはあるのに、何もやらせてくれないんだもん……」
 そして返ってきたのはため息まじりのリアクション――シグナムの言葉に、ジャックプライムは口を尖らせた。
「そりゃ、ボクだって戦えるほど強いワケじゃないのはわかってるよ。
 けど……できることはちゃんとあるんだよ。アースラでデータの分析を手伝ってもいいし、トランスフォーマー用ならデバイスのメンテだってできる。
 それに……」
 ふくれっ面から一転。ジャックプライムの表情が今までとは違った方向にくもった。
「シー兄もブラ兄も、そうじゃない理由でボクを現場から遠ざけてる……」
 ジャックプライムの言う『そうじゃない理由』――なんとなく想像がついた。
「……『リーダーの息子だから』か……」
「………………うん……」
 つぶやくシグナムに、ジャックプライムは力なくうなずいた。
「ボクが父上の――エルダーコンボイの息子だから……ミッドのリーダーを継がなきゃいけない立場だから……だから、二人ともボクを現場に出したがらない……」
「『父上は現場に出ているのに』というヤツか?」
 軽く肩をすくめ、告げるスターセイバーだったが――
「そんなこと言わないよ」
 返ってきた答えは、彼の予想に反するものだった。
「父上はすごいもん。
 ミッドチルダ式魔法を当時の人間の人達と作って、反乱を起こしたメガザラック達ウィザートロンを虚数空間に封印した稀代の英雄――ボクと違って、現場に出たって誰も文句は言わないよ。
 ボクが作ったキングライナー、アレけっこうクセの強いパワードデバイスなのに、それだって問題なく使いこなしてるし……」
「我らは彼の闘いを目にしてはいないが……確かに相当の手誰だと聞いている――」
 意外にしっかりした考えを持っているようだ――ジャックプライムの言葉に感心しながらそう答え――スターセイバーはふと違和感を覚えた。
 相棒と視線を交わし――彼に代わってシグナムが尋ねる。
「ちょっと待て。
 エルダーコンボイのパワードデバイスは……貴様が作ったのか?」
「うん。
 シー兄やブラ兄、レー兄のもボクが作ったんだよ。
 もちろん、アームドデバイスの方もね」
 開いた口がふさがらないとはこのことだ。
 あっさりと答えるジャックプライムの言葉に、スターセイバーとシグナムはあ然とするしかない。
 ジャックプライムの言葉が正しければ、ミッドチルダのサイバトロンの主力メンバー、そのデバイスの製作を彼は一手に引き受けていることになる。
 人間で言えばなのは達と同年代だろうというのに、その若さでその才覚――なるほど。うぬぼれを抜きにしても立派に戦力としてカウントできる。というか、しないヤツはよほどの事情があるかよほどのバカか、そのどちらかだろう。
 むろん、ジャックプライムのケースは『よほどの事情』に当てはまるのだが。
「父上は実際に自分の力を見せることで、みんなに大丈夫だって認めさせた……
 けど……ボクは後ろでみんなのデバイスをいじってるだけ。みんなが認めてくれてるのはデバイス作りだけ……
 他にも手伝える事はあるはずなのに……それを認めてもらう機会すらもらえない……!」
 だんだんと涙声になってきた。
 トランスフォーマーは構造上涙を流すことはないが、それでも感情がある以上人間達と同様に泣くこともある。そしてまだまだ子供であるジャックプライムが泣けば――ある意味ちょっとした台風よりもタチが悪い。保育士や子育ての経験のある親御さんならばだいたい想像がつくだろう。
 なんだか『お悩み相談室』の様相を呈してきた。どうしたものかとシグナムとスターセイバーは顔を見合わせ――
「――――――っ!」
 突然、ジャックプライムが顔を上げた。
「どうした?」
「……探査網に何か引っかかったみたい」
 自分と話しながら、あれだけテンションが落ち込んでいながらも探査魔法を使っていたというのか。デタラメにもほどがある。
 サポート系ではヘタをすればシャマル&フォートレスのコンビすらしのぐかもしれない――今さら驚くのもバカらしくなり、シグナムはスターセイバーに答えたジャックプライムの言葉にため息をつく。
「それで……対象は何者かわかるか?」
「ちょっと待って。補足するから」
 尋ねるスターセイバーに答え、ジャックプライムは意識を集中し――その表情が引きつった。
「……フェイトだ……」
「テスタロッサか……?
 どうやら、キミを追ってきたようだな」
 つぶやくジャックプライムの言葉にシグナムがつぶやき――
「――――――っ!」
 ジャックプライムの表情がそれまでとは違った意味で強張った。
「どうした?」
「フェイトを追いかけて、また別の反応が出た!
 誰だろ……初めて見るデータだけど……」
「見せてみろ」
「うん。転送するね」
 スターセイバーに答え、ジャックプライムは彼にデータを転送し――
「…………マズいぞ」
 その表情に、ジャックプライムと同様の焦りが浮かんだ。
「マスターメガトロン達だ」

「――――――っ!?」
 背後からの追跡者の存在にはフェイトもまた気づいた。反転し、迫り来る一団をにらみつける。
 その先頭に立つのは――
「フンッ、傷が癒えてサイバトロンを探していたら、ちょうどいい獲物を見つけたものだな」
「マスター、メガトロン……!」
 ロボットモードにトランスフォームし、悠然とこちらを見据えるマスターメガトロンを前に、フェイトはバルディッシュをかまえ、ジンジャーを装着する。
 眼下を見れば、フレイムコンボイやインチプレッシャー以下、デストロンの地上メンバーもこちらに向かっているのが見える。状況は圧倒的に不利だが――
「ジンジャー。少しキツい戦いになるけど……いけるよね?」
《当然です》
 尋ねるフェイトに、ジンジャーは彼女を鼓舞するかのように優しげな声で答える。
「この場を切り抜けようと思ったら――」
《方法はひとつしかありませんね》
 言って、二人は正面のマスターメガトロンを見据える。
 攻め入るところは――ある。
 サンダークラッカーが不在となっている現デストロンの中で、飛べるのはマスターメガトロンただひとり。最高速度で勝る彼から普通に逃げるのは難しいが――逆に言ってしまえば、マスターメガトロンさえ叩いてしまえば逃げ切ることは可能だ。
 すなわち――
《「このまま空中で、マスターメガトロンを叩く!」》
 告げると同時――弾かれるようにマスターメガトロンへと飛翔した。

「戦闘!?」
〈そう!
 今なのはちゃんがいるところから、東に10kmくらいの山岳地帯で!〉
 声を上げるなのはに、通信してきたエイミィが答える。
「誰が戦ってるのか、わからないのか?」
〈それが、あの辺りは魔力の濃度が濃くて、通信も観測も困難なの。
 今のところはパーセプターの分析待ちなんだけど……あ、来た来た〉
 ギャラクシーコンボイに答え、エイミィは回ってきたデータに目を通し――ウィンドウの向こうでその表情が引きつった。
 真っ青な顔で、ポツリと告げる。
〈………………フェイトちゃんだ〉
「えぇっ!?」
「何だって!?」

「く………………っ!」
 ディフェンサーで一撃を受け止めたものの、衝撃で弾き飛ばされたフェイトはマスターメガトロンから距離を取って体勢を立て直す。
「まだまだぁっ!」
 そんなフェイトを追撃すべく、左腕に装着したデスクローを振るうマスターメガトロンだが――これはかわされた。紙一重で回避し、フェイトはアックスフォームのバルディッシュの光斧をマスターメガトロンの肩口に見舞う。
 一瞬の交錯の後、二人は間合いを取り直して再び対峙する。
 が――
(…………重い……!)
 攻撃を受けた際の腕のしびれを実感し、フェイトは胸中でうめいた。
(両手がこんな状態じゃ、今の一撃もきれいに入ったかどうか……!
 こんなの、クリーンヒットなんか必要ない――かすっただけでも、十分に持っていかれる……!)
 警戒を強めるフェイトだったが――それはマスターメガトロンも同様だった。
(クソッ、ろくにパワーもないクセに、スピードを加えて十分に重い攻撃を打ってくるか……!)
 攻撃自体は大した事はないが、高速でこちらの攻撃をかわし、防御をすり抜け、一撃を見舞ってくる。しかも、その攻撃が加速をプラスして十分な攻撃力を得ているからさらにタチが悪い。
 今まではなんとかクリーンヒットは避けてきたが――
(一撃でもクリーンヒットをもらえば――そこから一気に崩される……!)
 胸中でうめき――だが、マスターメガトロンは首を左右に振ってその考えを振り払った。
(ならば、くらう前にこちらが一撃を叩き込むまで!)
 決意と同時に加速、マスターメガトロンはフェイトへと襲いかかり、デスクローを振るう。
「そんなの!」
 今までどおりのパワー任せの一撃だ――フェイトは難なくかわすとマスターメガトロンの死角に回り込み――

「甘い」

 瞬時に空中で前転。振り上げた両足が真下からフェイトを蹴り上げる!
「ぅわぁっ!」
 強烈な一撃がバリアジャケットの防壁越しに襲いかかり、フェイトは真上に跳ね飛ばされ――そこへさらにマスターメガトロンの雷撃が襲いかかり、フェイトを上空で拘束する。
「っつ…………!」
 完全に裏をかかれた――ダメージと悔しさで顔をしかめるフェイトに、彼女を捕獲したマスターメガトロンは悠々と告げる。
「考え方が甘いぞ。
 このオレ様がいつまでもただ力任せに戦うばかりだとでも思っていたか?」
「スンマセン。思ってました」
 地上で答えるガスケットには迷わず雷撃を叩き落とす。
「貴様のようにスピードで攻める相手の戦い方は、細かな違いがあろうと根ざすところは同じ――スピードに物を言わせて死角に回り込んで一撃。実にわかりやすい。
 ならば――“そいつが視界から消えた時は、必ず死角に現れる”。死角に探知の目を向ければ、見つけ出すのは簡単なこと」
 言って、マスターメガトロンは手の中に雷撃を生み出した。
「手こずらせてくれたが――これで終わりだ!」
 咆哮と共に雷撃を解き放ち――
「飛燕――」
「――――――っ!?」
「煉獄斬!」
 上空から襲いかかった一撃に対し、とっさに狙いを切り替えた――放たれた雷撃は炎をまとった刃と激突、爆発を巻き起こす。
 瞬間、フェイトを捉えていた雷光の球が破壊され、フェイトの姿が消える。
 そして――
「ここから先は――」
「我々が相手だ!」
 スターブレードをかまえるスターセイバーとフェイトを助け出したシグナムが、マスターメガトロンに向けて宣告した。

「ふー、やっと追いついた……」
 戦いの様子を見通せる高台へとたどりつき、ジャックプライムはロボットモードにトランスフォームしてつぶやく。
 もちろん、ここに来たって戦えるワケではない。だが――
「シグナムさん達のナビゲートくらいなら、何の装備もない今のボクでも……!」
 それでも、できることはある。ジャックプライムは頭部のセンサー類の感度を上げ――
「――――――っ!」
 気づいた。
 ビーム発射の前兆である高エネルギー反応を感知。だがこれは――
(マスターメガトロンからじゃ……ない……?)
 反応のあった方へと視線を向け、カメラアイの解像度を上げていき――
(――――――アイツら!)
 地上で火器を起動し、上空に狙いをつけるランドバレットとガスケットを見つけた。
 その狙いはもちろん――
「――――――っ!」
 気づいた時には、すでにジャックプライムは地を蹴っていた。
 渾身の力で跳躍し――
「やめろぉぉぉぉぉっ!」
 フェイトに狙いを定めていたガスケットに思い切り飛び蹴りを叩き込んでいた。

「おぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と共に交錯、スターブレードとデスクローが激突、火花を散らし――
「あわせろ、テスタロッサ!」
「はい!」
 シグナムとフェイトが追撃。炎と雷、2種類の魔力弾がマスターメガトロンへと降り注ぐ!
「ちぃっ! 小細工を!」
 このコンビネーションにはさすがのマスターメガトロンも後退。憎々しげにフェイト達をにらみつける。
 対し、フェイト達もそれぞれの武器をかまえ――

「そこまでだぜ!」

 その声は眼下の地上から聞こえた。何事かとフェイト達は見下ろし――
「動くなよ、お前ら!」
「動くとコイツらがどうなるかわかんないんだな!」
 顔面にジャックプライムの足跡を着けたガスケットが、ジャックプライムを捕まえたランドバレットと共に告げる。
「放せ! 放せよ!」
 脱出しようと必死にもがくジャックプライムだが、頑強なランドバレットの両腕はジャックプライムのパワーではビクともしない。
「ジャックプライム!」
 そんなジャックプライムを助けようと、バルディッシュをかまえるフェイトだが――
「動くなっつってんだろ!」
 言って、ガスケットはジャックプライムの眼前にエグゾーストショットを突きつける。
「動くと、コイツの顔が吹っ飛ぶぜ!」
「くっ、卑怯な……!」
 ガスケットの言葉にうめくシグナムだが、やはり彼女もどうすることもできない。
「フンッ、よくやったぞ、ガスケット。
 フォースチップ、イグニッション――デス、マシンガン!」
 一方、言うまでもなくマスターメガトロンにとってこの状況は有利に働いた。笑みと共にデスマシンガンを装備し、狙いを定める。
「まずは貴様だ――スターセイバー!」
 咆哮と共に、デスマシンガンの引き金に指をかけ――

「ダメぇぇぇぇぇっ!」

 咆哮と同時、ジャックプライムの足元に魔法陣が展開された。
 そして――そこから放たれた光がガスケットやランドバレットをはね飛ばし、さらに上空のマスターメガトロンをも吹き飛ばす!
 とても『戦う力がない』とこぼしていた少年の放つ魔法とは思えない、それほどにすさまじい破壊力だ。が――
「何だ――あの魔法陣は!?」
 その魔法陣を前に、シグナムは思わず声を上げた。
 ミッドチルダ式の円形魔法陣ではない。
 ベルカ式の三角形を基本としたものとも違う。
 強いて言うなら、その両方の特徴を併せ持つ――円形と三角形を組み合わせた、そんな形の魔法陣だった。
「あの魔法陣は、一体……!?」
 同様にその魔法陣の正体を測りかね、フェイトもまた疑問の声を上げ――
「油断するな! 来るぞ!」
 告げるスターセイバーの目の前で、体勢を立て直したマスターメガトロンがデスマシンガンをかまえ――
「させるかよ!」
 突如その前に割り込み、デスマシンガンを叩き落した者がいた。
 その姿を見とめ、シグナムがその名を叫ぶ。
「――ビクトリーレオ!」
「よっ、お待たせ♪」

「いてて……何なんだ、今の……」
「サッパリなんだな……」
 一方、吹っ飛ばされたガスケットとランドバレットはといえば、ぶつけた頭をさすりながら身を起こしたところだった。
「とっ、とにかく! もう一度あのガキを捕まえるぞ!」
「OKなんだな!」
 ガスケットに答え、ランドバレットがジャックプライムの姿を探すと――当のジャックプライムは大地に倒れ込んでいた。
 意識を失っている。先ほどの魔法の影響だろうか。
「ちょうどいいぜ!
 捕まえろ!」
「任せるんだな!」
 告げるガスケットにランドバレットが答えるが――
「ぶぎゃっ!?」
 突然の一撃は背後から――巨大な何かの直撃を受け、ランドバレットは文字通り杭のように大地に叩き込まれる。
「なっ、何だ――どわぁっ!?」
 驚くガスケットもまた、光弾を受けて吹き飛ばされた。そして――
「やれやれ、相変わらず汚いマネしてやがるな」
 ため息をつき、ヴィータはグラーフアイゼンを肩にかついだ。

「下は片付いたぜ。
 フレイムコンボイ達は別んトコみたいだな――反応が遠くにありやがる」
「ま、アイツらは足遅いし、仕方ないだろ」
 インチプレッシャーもロードーローラーになっちまったしな――上昇してきたヴィータにそう付け加え、ビクトリーレオは改めてマスターメガトロンと対峙する。
「さて、形勢逆転だな、マスターメガトロン」
「く…………っ!
 なめるな! オレ様にはまだ、武器は残っている!」
 余裕の笑みと共に告げるビクトリーレオの言葉に、マスターメガトロンはデスクローを装備してかまえる。
「『なめるな』? それはこっちのセリフだぜ!」
「一気に叩きつぶしてくれる――覚悟しろ!」
 対して、それぞれのデバイスをかまえて告げるヴィータとシグナムだったが――
〈だったら、さらにダメ押ししてみるか?〉
 突然通信してきて、そう告げるのはフォートレスだ。
「ダメ押し?
 何か切り札でもあるのか?」
 横から割り込んで尋ねるビクトリーレオだったが――フォートレスは笑いながら答えた。
〈何を言っている。
 お前がその『切り札』だ〉
「………………は?」
〈おいおい、忘れたのか?
 “お前のそのボディは、元々何のために用意されたものだったんだ?”〉
「あ………………」
 その言葉に、ようやく気づいた。
 傍らでは、フェイトもまた同様の結論に達したのか目を丸くしている。
 そして――シグナムが結論を口にした。
「それはつまり――
 “ビクトリーレオは、スターセイバーとリンクアップできる”……!?」
〈元々ビクトリーレオのボディは彼のパワードデバイスとして作られたものだ。当然だろう?〉
 フォートレスの言葉に、一同は思わず視線を交わし――無視されて腹を立てているマスターメガトロンへと視線を戻す。
〈基本システムからして合体を前提としているから、リンクアップ・ナビゲータなしでも合体は可能だ。
 フェイト、キミはマスターメガトロンの足止めを頼む――初の合体だからな、座標軸の調整で若干時間がかかる〉
「はい!
 じゃあ、お願いします!」
 答え、マスターメガトロンへと飛翔するフェイトの姿を見送り、スターセイバーとビクトリーレオは顔を見合わせ、
「…………やるか」
「おぅともよ!」
「させるか!」
 一方、二人の合体を妨害すべくマスターメガトロンがデスクローをかまえるが――
「ジャマはさせない!」
《あなたのジャマは、大歓迎ですけどね!》
 そんなマスターメガトロンに、フェイトとジンジャーが襲いかかる!

『スターセイバー!』
 シグナムとスターセイバーの叫びが響き、スターセイバーは両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、
『ビクトリーレオ!』
 次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。
 そして、ビクトリーレオの下半身がスターセイバーの両足に合体し――
『リンク、アップ!』
 4人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身がスターセイバーの胸部に合体。両腕部がスターセイバーの両肩に露出したジョイントに合体する!
 最後にビクトリーレオのバックユニットがスターセイバーの背中に装着され、4人が高らかに名乗りを上げる。
 その名も――

 

『ビクトリー、セイバー!』
 

「ちっ…………! 合体したか……!」
 周囲を高速で飛び回るフェイトに手を焼いている内、ムザムザ合体を許してしまった――うめき、マスターメガトロンは改めて合体したスターセイバー達――ビクトリーセイバーと対峙する。
「それが、二人の合体した姿……」
「すっげぇ! すげぇぜ、ビクトリーレオ……じゃなくて、ビクトリーセイバーか」
「ハハハ、早く慣れるんだな」
 つぶやくフェイトのとなりではしゃぐヴィータに、合体したそのままでビクトリーレオが答えると、
「……なるほど、大したパワーのようだな」
 大地を踏みしめ、マスターメガトロンはビクトリーセイバーに告げる。
「だが、所詮は付け焼刃。
 その身体に慣れない内に、叩きつぶすまでだ!」
 リンクアップの力は自分自身再三味わっている――脅威とならない内に叩くべきだと判断し、マスターメガトロンはデスクローをかまえ、地を蹴る。
 あっという間に間合いを詰め、デスクローを力任せに叩きつけるが――
「くらうものか!」
 対し、ビクトリーセイバーは左手をかざし――そこに展開された三角形の魔法陣が盾となり、マスターメガトロンのデスクローを受け止める。
 ベルカ式の防御魔法“パンツァーシルト”である。
「魔法だと……!?」
「おいおい、オレのボディは、元々デバイスだぜ!」
 うめくマスターメガトロンにビクトリーレオが言い返し、ビクトリーセイバーは思い切りマスターメガトロンを蹴り飛ばす!
 そして――
「シグナム!」
「あぁ!」
 ヴィータの言葉にシグナムがうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
 二人のサポートでビクトリーセイバーはフォースチップをイグニッション。黄色のフォースチップがビクトリーセイバーのバックユニットに溶け込むように飛び込んでいく。
『ビクトリー、キャノン!』
 そして、バックユニット越しに両肩に装備されたビクトリーレオのキャノン砲“ビクトリーキャノン”が起動。放たれたビームがマスターメガトロンの左腕からデスクローを弾き飛ばす。
「仕上げだ、ビクトリーセイバー!」
「あぁ!」
 シグナムに答え、ビクトリーセイバーはスターブレードをかまえ、
「ビクトリーレオ!」
「合点承知!」
 答えると同時、ビクトリーレオは魔法陣を展開。周囲に強烈な炎を発生させるとスターブレードの刀身に宿していく。
 そして、ビクトリーセイバーは一直線にマスターメガトロンへと突っ込み、
『獅子王――煉獄斬!』
 4人の咆哮が交錯――放たれた斬撃が、マスターメガトロンに叩きつけられる!
「ぐわぁっ!?」
 強烈な一撃を受け、大きく吹き飛ばされたマスターメガトロンは大地に叩きつけられ――
「………………」
 そんなマスターメガトロンに対し、ビクトリーセイバーは無言でスターブレードを収めた。
 そのまま、静かにマスターメガトロンに対して背を向ける。
「何の、つもりだ……!?」
「貴様の汚れたスパークなどを取り込んでしまえば、“闇の書”完成の暁に、主へどんな影響を与えるかわかったものではない。
 見逃してやる――悔しければ傷を癒して挑んでくるがいい」
 答え、ビクトリーセイバーはジャックプライムを助けようと歩き出し――マスターメガトロンは告げた。
「オレ様が、背中から撃つとは思わんのか?」
 その問いには、ビクトリーレオが答えた。
「思ってるさ。
 だから――こっちの照準は、あんたにセットされたままだぜ」
「油断はない、というワケか……」
「貴様の強さを、なめてかかることなどできるものか」
 つぶやくマスターメガトロンに、ビクトリーセイバーはチラリと視線を向けて答える。
 にらみつけるマスターメガトロンとそれを受けるビクトリーセイバー、両者の無言のやり取りはしばし続き――
「……その選択、後に心から後悔するがいい」
 そう告げて、マスターメガトロンもまた、ビクトリーセイバーに背を向けて立ち去っていった。

「大丈夫か?」
「う、うん……」
 自分のところまでやって来て、尋ねるビクトリーセイバーに、意識を取り戻したジャックプライムは立ち上がって答えた。
 だが――その態度にはどこか元気がない。
「……ごめんなさい……ムチャして、捕まっちゃって……」
 頭を下げ、ジャックプライムが告げたのは謝罪の言葉――
「けど……アイツらがフェイトを狙ってるのを見て……」
「そうだったのか……」
 ジャックプライムのその言葉に、ビクトリーセイバーはしばし考え、
「……確かに、結果としては捕まってしまったが、そういうことなら話は別だ。
 そうだろ? フェイト」
「え?
 あ、うん……」
 突然ビクトリーセイバーから話を振られ、フェイトは戸惑いがちにうなずく。
「けど……結局、何もできなかった……!
 やっぱり、ボクは現場じゃ何もできなくて……!」
 だが、それもなぐさめにはならなかった。ジャックプライムはうつむいてつぶやき――
「そんなことないよ!」
 そんなジャックプライムに、フェイトは思わず声を上げていた。
「ジャックプライムは、わたしが撃たれそうになっていたのを助けてくれたんでしょ?
 それに、ガスケット達に捕まっても、自分の力で脱出できたじゃない」
「けど、それだってどうやったのか、ぜんぜん覚えてないし……」
 フェイトの言葉に、ジャックプライムは肩を落とし――
「それでも、ありがとう……」
 そんなジャックプライムに、フェイトは優しく笑いかけた。
「どれだけみっともなくても……ジャックプライムは助けてくれた。
 なのはのことは譲れないけど……それでも、ジャックプライムは私の命の恩人だよ」
「え………………?」

 ――ドキンッ!

 そんなフェイトの笑顔を前に、ジャックプライムは自分のスパークパルスが高鳴るのを感じた。
(え? あれ? どうして?
 ボクが好きなのはなのはで、フェイトはそれをジャマするオジャマ虫なのに、なんでドキドキするの!?)
「…………?
 どうしたの?」
 そんなジャックプライムの様子に、フェイトは不思議そうにその顔をのぞき込み――その瞬間、ジャックプライムのパルスはさらに跳ね上がった。
「え? あ、ううん、なんでもない!」
「………………?」
 あわてて取り繕うジャックプライムの態度に、フェイトは首をかしげることしかできなかった。

「……生きてるか……?」
「おーう……」
 尋ねるガスケットに、ランドバレットは地面に叩き込まれたそのままで答えた。
「……忘れられてるよな、オレ達……」
「だな……」
 再びランドバレットが答えた、その時――
「いやいや、忘れてないさ」
 その言葉と同時、ランドバレットの身体が引き抜かれた。
 引き抜いたのは――
「だからこそ、こうしてお前らを回収しに現れたんだろう?」
 そう告げるフレイムコンボイだが――その笑顔はどこか冷たい。
 そして、インチプレッシャーやデモリッシャーもガスケットを助け起こし、
「それに……今回の戦いでのお前らの行動もいろいろ聞かせてもらいたいしな」
「人質を取る、なんて卑怯なマネ、マスターメガトロン様はともかくフレイムコンボイの旦那が許すワケないもんなー」
「あ……いや、えっと……」
「それには、いろいろとワケが……」
 デモリッシャーの、インチプレッシャーの言葉に、しどろもどろになりながらも弁明しようとするガスケット達だが――
「……お前達……帰ったらオシオキだ」
『うそ〜〜〜〜んっ!』
 フレイムコンボイが告げ、二人の絶叫が響き渡った。


 

(初版:2006/11/19)