「…………よぅし!」
自身に気合を入れ、ジャックプライムは目の前にそれをかざした。
ウェイトモードのデバイスカードである。
「いっくぞぉっ!」
元気に叫び、ジャックプライムはデバイスカードを頭上にかざし、
「召喚!」
その叫びに応え――それは彼の周囲に出現した。
ヘリコプター型、潜水艦型、ドリルタンク型、消防車型――ジャックプライムが作った4機のパワードデバイスである。
そして――
「ジャックプライム、スーパーモード!
トランス、フォーム!」
ジャックプライムが叫ぶのにあわせ、キングフォースは彼の周りを飛翔し、合体体勢に入る。
「ジャイロ! ファイヤー! 各アームモードへ!」
ヘリコプター型と消防車型はそれぞれジャックプライムの左腕、右腕に合体、より巨大な腕となり、
「ドリル! マリナー! 各レッグモードへ!」
同様の指示を受け、ドリルタンクが右足に、潜水艦型が左足に合体、こちらもより巨大な両足となる。
「よぅし、いける……!」
順調に合体が進むのを感じ、ジャックプライムはつぶやき――突然バランスが崩れた。
スラスターの出力バランスがおかしい。推力が上がり、下がりをしきりに繰り返し、ジャックプライムを上空で振り回す。
「ぅわっ、ちょっ、待って!」
あわてて声を上げるジャックプライムだったが、次の瞬間決定的にバランスを崩し――
「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」
上下が逆転、頭から地面に落下した。
第48話
「受け継がれる魂
キングコンボイくん誕生なの!」
「いたた……」
ぶつけた頭をさすり、ジャックプライムは取り外したパワードデバイスの破損のチェックを始めた。
その作業の最中――今の失敗の原因を発見した。
「あちゃー、ジャイロからのパワーの戻りが大きすぎるのか……
ファイヤーの方からの戻りとパワーが違うから、スラスターのバランスが崩れて……」
つぶやき、すぐにパラメータを調整しようとメンテナンスカバーを外し――ジャックプライムはため息をついた。
「こんな調子で、大丈夫なのかなぁ……?」
思い出されるのは先日の戦い――自分はフェイトや居合わせたスターセイバー達の足を引っ張ってしまった。
フェイトの危機に気づき、援護しようとしても、逆に敵に捕まり人質にされてしまう始末――自分の無力をイヤというほど思い知らされる形となった。
(今のままじゃ、ダメなんだ……!
もっと、強くならないと……!)
そう考え、自分なりに方法を模索し始めたが――
「やっぱり……魔法が使えないと、デバイスも使いこなせないのかな……」
思わず声に出してつぶやく。
だが――それも彼の場合は至難の業だった。先日の戦いで彼が暴発させた魔法――その際に発現した魔法陣は、ミッド式のものでもベルカ式のものでもなかった。
双方の特徴を併せ持つ、今までのそれとはまったく違う術式――過去の歴史の中で、この二つの大系を使い分けた魔導師がいないワケではないが――二つを融合させた魔導師の話など聞いたことがない。
結果、ジャックプライムは自分の魔法がどういうものなのか、その術式はどんな法則の元に成り立っているのか――そういった基本を知ることから始めなくてはならなかった。
やらなければならないことは膨大だ――ジャックプライムがため息をつきたくなるのも、ある意味で当然かもしれなかった。
「若はまだ……?」
「うむ……」
ミッドチルダ・サイバトロンシティ、中央区画――廊下で出くわし、尋ねるレールスパイクに、シルバーボルトはうなずいた。
「やはり、先日の失態がこたえているのだろう。
上様にも相当絞られたようだしな」
「まぁ、勝手に飛び出してしまった挙句、敵に捕まってしまった――ともなれば、むしろ叱られただけですんで良かったともいえるんでしょうけど……」
「本人としては、そう簡単な問題でもないんでしょうね……」
薫の言葉にシエルが同意すると、
「だが、それも本人が解決しなければどうしようもないことだ」
そんな彼女達に告げるのはエルダーコンボイだ。
「とはいえ、やりすぎても困るからな……
すまないが、私の留守中、あの子のことを見ていてもらえないか?」
「あ、了解です」
「ウチらの方でも、それとなく疲れたら休むように言っておきます」
シルバーボルトと薫の言葉に、エルダーコンボイは「すまない」と一礼してその場を後にしていった。
「エルダーコンボイ、出発しました」
「そう……」
アースラのブリッジで、リンディはエイミィの報告を聞いてそううなずいた。
「行政府との折衝、うまくいくといいんですけどね……」
「そうね……」
つぶやくアレックスに、リンディは息をついてうなずく――
ミッドチルダ社会においてもトランスフォーマーの存在を公にする方向で話が進んでいるが、いきなりその存在を明かしてしまうのは、余計な混乱を招きかねない。
地球での騒動の例もある――スタースクリーム達の半ば侵略じみたプラネットフォース探索があったとはいえ、地域によっては地球人の軍が出動するほどの騒ぎになったのだ。それを避けるためにも、行政レベルでの両者の連携は不可欠なものとなるだろう。
「護衛には誰が?」
「ブラッカーとみなみさん、ニトロコンボイと耕介さん、それから、ロディマスブラーと美緒ちゃんだね……」
気を取り直し、尋ねるクロノにエイミィが答えると、
〈おーい、クロ坊〉
「だから、その呼び方はやめろと言ってるだろ……」
通信してきたソニックボンバーに、クロノは思わず肩を落とす。
「で? 用件は?」
〈いやな、ライガージャックとアルクェイドが偵察に出るっつーからさ、オレ達も、と思ってさ〉
「本音は気晴らしに飛び回りたいだけなんじやないのか……?」
ソニックボンバーの言葉に嘆息し――それでも偵察への同行を認めたクロノは少し待っているようにソニックボンバーに告げるとブリッジを出て行く。
「……結局、いいコンビなのよね、二人とも」
「そうですね」
つぶやくリンディのその言葉に、エイミィは肩をすくめ、笑顔でうなずく。
「あの子達にも、そんなパートナーができればいいんだろうけど……」
「…………ですね」
“あの子達”というのが誰を指すのか――そんなことは今さら確認するまでもなかった。笑顔で同意し、エイミィは自分の作業に戻っていった。
「だぁーっ! またダメだ!」
声を上げ、ジャックプライムはその場で仰向けに寝転がった。
風に吹かれ、よく冷やされた大地が、トランスフォーマーの身でも心地よく感じる――だが、一向に進展を見せない現状に、ジャックプライムの心は暗く落ち込んだままだった。
「パワードデバイスもダメ、アームドデバイスもダメ……
そもそも、肝心要の魔法の術式がわからないんじゃ、メインシステムからして組みようがないよ……」
つぶやき、ジャックプライムは仰向けに寝そべったままため息をつき――
「えっと……ジャックプライム?」
「――――――っ!?」
突然かけられた声に、ジャックプライムは驚いて飛び起きた。
というのも、声をかけてきたのは――
「な、なのは!?」
「あ、えっと……」
一瞬で元気になった。目をキラキラと輝かせるジャックプライムに、なのはは少しばかり気圧されて――
「………………」
その前に無言で立ちふさがったのはフェイトだ。
彼女の意図は明白だ――しばしジャックプライムとフェイトの間で火花が散る。
先日の戦いで少しばかり距離は縮まったが――こういうところではやはりライバル関係のままのようだ。
――と思いきや、
「あ、でも、『わたしが行けばジャックプライムも元気になるかも』ってわたしを誘いに来たの、フェイトちゃんなんだよ」
「な、なのは!?」
「え――――――?」
意外な事実を明かしたなのはの言葉に、フェイトとジャックプライムはそれぞれに声を上げる。
どういうことかと、ジャックプライムは尋ねようと口を開き――
「なのは!」
それよりも速く、フェイトがなのはを連れ去ってしまった。
50mほど離れたところでフェイトがなのはに詰め寄っている――が、甘い。ジャックプライムは集音機能のレベルを上げて二人の会話に耳を傾ける。
「な、なのは、それは言わないって約束だったでしょ!?」
「あ、ごめーん♪」
「え? 何? 何その棒読みの返事!?
あー! さては最初から話すつもりだったとか!?」
「あ、あははー……」
「『あはは』じゃないよ、もう……」
「……えっと……
ボク、置いてきぼり?」
顔を真っ赤にしているフェイトとどこか楽しげななのは、きゃいきゃいとじゃれ合う女の子二人を前に、ジャックプライムはつぶやき、思わずため息をつき――
――ピピピ……
「え………………?」
突然ジャックプライムの腕の端末部分から電子音が響き、ジャックプライムの表情に不安がよぎった。
「どうしたの?」
「うん……」
電子音に気づき、戻ってきて尋ねるなのはにジャックプライムは端末を操作しながら応じる。
「コレ、つけた相手の不安や焦りに反応するセンサーとその周囲の状況を確認するセンサーを複合させた、一種のエマージェンシー・センサーなの。
まだ試作品で、テストのために端末を父上にこっそり仕掛けておいたんだけど……」
「こ、こっそり……?」
「うん。
そりゃもう、寝てる間にスパッと」
(マッドだ……この子も立派にマッドだ!)
うめくなのはにサラリと答えると、ジャックプライムは密かに確信を抱いているフェイトをよそにデータを読み出し――
「――この反応…………ウィザートロン!?」
「えぇっ!?」
思わず驚きの声を上げるなのはだが――それで終わりではなかった。
「それに……こないだの、マスターメガトロンってヤツも!」
『えぇぇぇぇぇっ!?』
「ぐわぁっ!」
「ロードシーザー!」
パワードデバイスを身にまとっても多勢に無勢――大地に叩きつけられたロードシーザーの姿に、みなみが思わず声を上げる。
「くっ、こんなところでウィザートロンと出くわすとは……!」
「確かに、お互い不意の遭遇だったがな……こちらにとっては好都合だ」
スーパーモードへのトランスフォームを終え、うめくエルダーコンボイに答え、メガザラックはブリューナクをかまえる。
「ジュエルシードを手に入れる上で、貴様は見過ごせない傷害のひとり……叩ける時に叩いておくべきだ」
「そうはいくか!
いくぞ、耕介!」
言い返し、耕介と共にニトロコンボイが跳躍。一直線にメガザラックへと突撃する。
だが――
「ジャマはさせん!」
その目の前にライオカイザーが立ちふさがった。ムラマサの一撃でニトロコンボイを弾き飛ばす。
「貴様ごときの重量で、我が一撃を受け止められるとでも思ったか!」
吹っ飛ばされるニトロコンボイに告げるライオカイザーだが――
「まだまだぁっ!」
吹っ飛ぶニトロコンボイの影から飛び出した耕介が、ライオカイザーに肉迫。そして――
「真威・楓陣刃ぁっ!」
ほぼ零距離からの楓陣刃が、ライオカイザーの胸で大爆発を巻き起こす!
「ライオカイザー!?」
一撃を受け、たまらず後ずさるライオカイザーの姿にバトルガイヤーが声を上げ――
「てめぇらの相手は――」
「あたし達なのだぁっ!」
そんなバトルガイヤーには美緒とロディマスブラーが襲いかかった。ロディマスブースターで一気に加速したロディマスブラーが、バトルガイヤーに渾身のドロップキックを叩き込む!
「コイツら……!」
「ナメるなよ!」
だが、まだ敵は残っている。ダイノキングとレーザーウェーブが声を上げ――そんな二人を突然の雷撃が襲う!
「何だ!?」
「魔法じゃ、ない…………!?」
うめき、二人は雷撃の飛来した方向へと振り向くと、
「なかなか楽しそうなことをしているではないか」
「我々も混ぜてもらおうか!」
雷撃を放ったマスターメガトロンと共に告げ――突っ込んできたフレイムコンボイが、フレイムアックスの一撃で二人を弾き飛ばす!
そして、彼らに続いてガスケット達も乱入。ガイルダート達と激しくぶつかり合う。
「マスターメガトロン達まで!?」
「くそっ、話をややこしくしてくれやがって!」
混乱する戦場を見渡し、美緒とロディマスブラーが声を上げると、そんな二人に背後からバトルガイヤーが襲いかかり――
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」
突如戦場に飛び込んできたギャラクシーコンボイが、ギャラクシーキャノンの一撃でバトルガイヤーを吹き飛ばす!
「総司令官!?」
「ウィザートロンの探索に出ていたら、ジャックプライムから連絡をもらったんだ」
「今、他のメンバーもこちらに向かっているはずだ」
声を上げるロディマスブラーにギャラクシーコンボイや共に駆けつけたベクタープライムが答えると、
「久しぶりだな、ギャラクシーコンボイ!
今度は負けんぞぉっ!」
そんなギャラクシーコンボイに、フレイムコンボイが襲いかかる!
「ジャックプライムはここにいて。
またこの間みたいに、捕まっちゃったら困るし」
「う、うん……」
戦場から少し離れた岩山の影――告げてバルディッシュを起動させるフェイトの言葉に、彼女やなのはをここまで乗せてきたジャックプライムは肩を落として答える。
女の子である彼女達だけが戦いに赴くというのはいささか情けない気もするが、自分にはすでに一度、敵に捕まってしまった経緯がある。その一件を持ち出されては、ジャックプライムに反論の余地は残されてはいなかった。
「ここまで乗せてきてくれて、ありがとう。
じゃあ、行ってくるね」
そんなジャックプライムをなぐさめるようになのはが告げ――
「なのは……」
ふと、ジャックプライムが彼女に声をかけた。
「父上を、お願い……
それから……気をつけて」
「うん!」
元気にうなずき、なのははプリムラを呼び出して装着。同じくジンジャーを装着したフェイトと共に飛び去っていった。
「フレイム、ストライク!」
「させるか!
ギャラクシー、キャノン!」
フレイムアックスをかざし、襲いかかるフレイムコンボイに対し、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンでカウンターをお見舞いするが、
「オレを忘れるなよ、ギャラクシーコンボイ!」
そんなギャラクシーコンボイにマスターメガトロンが雷撃を放ち、ギャラクシーコンボイはたまらず後退する。
「フレイムコンボイ!」
「おぅっ!」
告げるマスターメガトロンに答え、フレイムコンボイは今度こそギャラクシーコンボイに一撃を加えるべく地を蹴り――
「――――――っ!?」
突如その身体に光り輝く鎖がからみつき、動きを封じる。
拘束を目的としたミッド式魔法“ストラグル・バインド”だ。
そして、光の鎖はマスターメガトロンにもからみつき――その魔法をかけたエルダーコンボイは二人を引き寄せ、自らを狙ったメガザラックの魔力光弾を防ぐ盾にする!
「く………………っ!
やってくれたな、ジジイ!」
対し、盾にされたマスターメガトロンは激昂し、エルダーコンボイへと標的を変えるが、
「そんなこと――!」
そんなマスターメガトロンへ、飛来したなのはがディバインバスターを叩き込み、
「させない!」
フェイトもまた、ファルコンランサーを雨のように降り注がせる!
「なのは、フェイト!」
「お待たせしました!
高町なのは、フェイトちゃんと一緒に只今到着です!」
声を上げるギャラクシーコンボイに答え、なのははそのすぐ目の前に舞い降りる。
と、フェイトもまたギャラクシーコンボイのすぐそばへと舞い降り、
「ギャラクシーコンボイ、リンクアップは!?」
「ソニックボンバーも、ライガージャックもまだ到着していない。
代わりにニトロコンボイ達のリンクアップを」
「はい!」
ギャラクシーコンボイの答えに、フェイトはバルディッシュをかざし、
〈Link up Navigator, Get set!〉
バルディッシュが、“リンクアップ・ナビゲータ”を起動させた。
「なのは、フェイト……!」
戦いを繰り広げるなのは達の様子を、ジャックプライムは岩陰からひっそりとうかがっていた。
自分が何もできないのは先日の戦いで思い知っている――今回はさらにウィザートロンまでいる。自分の力など、ますます何の役にも立たないだろう。
だが、それでも――
(何も、しなくていいの……!?)
その迷いは、ずっとジャックプライムの胸を締めつけていた。
(何もできなくても……だからって何もしなくていいの……!?)
その拳に力が込められる。
(……ううん、違う……
“本当に、ボクは何もできないの?”)
胸の中で、そんな想いがわずかに顔を上げた。
(何もできない、って思う前に……本当にすべての力を出し切ったの?)
その想いはますます強くなる――
(できることをやらないウチに……何もできない、なんて決めつけて……!)
気がつけば、ジャックプライムは一歩を踏み出していた。
(ボクは……できることを……)
「まだ――全部やってない!」
「吼えろ――ブリューナク!」
その言葉に呼応し、メガザラックのかまえたブリューナクに雷光が収束し――放たれた。一直線に飛翔し、エルダーコンボイを吹き飛ばす!
「エルダーコンボイさん!」
「マズいよ、なのは!」
思わず声を上げるなのはとフェイトだが――
「よそみをしている余裕など、あるのか!?」
そんな二人に、デスクローをかまえたマスターメガトロンが襲いかかる!
「く――――――っ!
プラズマフェザー!」
「スケイルフェザー!」
『Shoot!』
だが、なのは達も負けてはいない。マスターメガトロンの一撃をかわすとそれぞれにフェザーを展開。マスターメガトロンに向けて射出する!
が――
《――――――っ!?
フェイト!》
「え――――――?」
ジンジャーの声に反応するが――行動までは間に合わなかった。眼下から放たれたビームが、フェイトの背中――ジンジャーの翼を直撃する!
眼下で交戦するガイルダート達とガスケット達――その流れ弾の射線に、フェイトは運悪く居合わせてしまったのだ。
「フェイトちゃん!」
《ジンジャー!?》
墜落していくフェイトとジンジャーの姿に、なのはとプリムラが声を上げるが、彼女達もマスターメガトロンに阻まれて援護にいけない。
助ける者もなく、フェイト達はそのまま大地に叩きつけられる――
――はずだった。
「間に合えぇぇぇぇぇっ!」
だが、フェイトが墜落する事はなかった。
咆哮と共に跳躍――飛び込んできたジャックプライムがフェイトを受け止めたのだ。
そのまま大地を転がり、停止したジャックプライムはフェイトの様子を確かめ――
「ふえぇぇ……ギリギリセーフ……」
「じ、ジャックプライム!?」
フェイトは無事だ――安堵のため息をもらすジャックプライムの腕の中で、フェイトは思わず声を上げる。
「どうして!?」
「そんなの、決まってるよ」
フェイトの問いに、ジャックプライムは答えて立ち上がる。
「ボクにはまだ……やれることが残ってる!」
告げると同時、ジャックプライムはマスターメガトロンに向けて地を蹴る。
「フンッ、前回何の役にも立たなかった小僧が!」
一方、マスターメガトロンはジャックプライムなど歯牙にもかけていなかった。一撃で薙ぎ払うべく拳を振るい――
「そんなの!」
その言葉と同時――ジャックプライムの姿がマスターメガトロンの視界から消えた。
とっさに身を沈め、大地を転がったジャックプライムはマスターメガトロンの拳をかわして背後に回り込み、その背後に蹴りを入れる。
だが――
「効かんわ!」
「ぅわぁっ!」
たとえ当てることができても、ジャックプライムのパワーでは脅威になどなり得なかった。マスターメガトロンの振るったデスクローが、ジャックプライムを弾き飛ばす!
「ジャックプライムくん、下がって!」
大地に叩きつけられるジャックプライムをかばい、なのはがレイジングハートをかまえるが、
「なのはこそ……下がって!」
そんななのはを、ジャックプライムは立ち上がりながら押しのけた。
「前衛はボクが行く……後ろから援護して!」
《そんな! ムチャだよ!》
「相手はマスターメガトロンさんなんだよ!」
「それでも……やるんだ!」
反論するプリムラやなのはに、ジャックプライムは毅然と言い返す。
「貴様……まだやるつもりか?」
「当たり前だよ」
尋ねるマスターメガトロンだが、そんな彼にもジャックプライムはハッキリと答える。
「ボクは今まで……ギリギリまでがんばったことなんかなかった……!」
マスターメガトロンから受けた傷が痛むが、それでもジャックプライムはかまえる。
「賢かったから……できることとできないことがわかっちゃったから……できなくなる前にやめちゃってた……!
けど……それじゃダメなんだ!」
言って、ジャックプライムは再びマスターメガトロンへと突っ込む。
「ムダなことを!」
対し、マスターメガトロンはジャックプライムの拳を受け止め――真上に蹴り上げる!
今度こそ終わった――そう確信するマスターメガトロンだったが、
「まだ、だぁっ!」
そう告げたジャックプライムの言葉と同時、マスターメガトロンの首に何かが巻きついた。
ジャックプライムのウィンチから伸びたワイヤーだ。
そのまま、ジャックプライムはマスターメガトロンの背後に着地、マスターメガトロンもジャックプライムへと向き直るが――
「これで――どうだ!」
ジャックプライムの動きの方が速かった。ワイヤーを通じ、マスターメガトロンに電撃をお見舞いする!
「ぐぅ…………っ!」
さすがにこれはたまらず、マスターメガトロンは思わずヒザをつく。
「ボクはミッドチルダのリーダーにならなきゃいけないんだ……!
どんなに辛くたって、みんなのためにがんばらなきゃいけないんだ!
まだリーダーじゃないからって……今がんばらなくて、後からがんばれるはずなんかない!」
「ほざくな――ガキが!」
言い返すなり電撃――マスターメガトロンの一撃がワイヤーを断ち切り、ジャックプライムを吹き飛ばす!
「ジャックプライムくん!」
思わずなのはが声を上げるが――
「救援など、させるものか!」
そんななのはに向け、マスターメガトロンがエネルギーミサイルを放つ!
「ジャックプライム!?」
マスターメガトロンに吹き飛ばされる息子の姿に、エルダーコンボイは思わず声を上げるが、
「貴様の相手は、このオレだろう!」
そんなエルダーコンボイの前に、メガザラックが立ちふさがる。
「く………………っ!
そこをどけ、メガザラック!」
「そうはいくか!」
言い放ち、繰り出したエルダーコンボイの拳を、メガザラックはブリューナクの矛先でそれを受け流す。
が――
「――――――っ!」
半ば直感に従って後退。メガザラックは上空から突っ込んできたベクタープライムの刃をかわす。
「ベクタープライム……!」
「行くんだ、エルダーコンボイ」
うめくエルダーコンボイに、ベクタープライムはメガザラックと対峙して告げる。
「この困難は、彼にとって越えなければならない試練だ……
だが、ひとりで越えなければならないものでもないはずだ」
「…………わかった。
ここは任せる!」
ベクタープライムの言葉に、エルダーコンボイはうなずいてその場を離れる。
「逃がすか!」
そんなエルダーコンボイを追おうとするメガザラックだが――
「ここは通さん!」
その目の前に立ちふさがったベクタープライムが、メガザラックに斬りかかる。
「なめるなよ!
貴様ごときが!」
対し、迎撃すべくブリューナクを振るうメガザラックだったが――
「そちらこそ、こっちをなめないでもらいたいな!」
そんなメガザラックに、ロディマスブースターで急上昇してきたロディマスコンボイが襲いかかる!
「オレ達だって、コンボイとそのパートナーなんだ!」
「なめてると、痛い目見るのだ!」
耕介と美緒が言い放ち、ロディマスコンボイはマッハショットでメガザラックを狙い撃つ!
「ジャックプライム!」
大地に叩きつけられたジャックプライムに、フェイトはすぐに駆け寄って呼びかけた。
「これ以上はムリだよ、下がって!」
告げるフェイトだが――
「ま……まだだ……!」
それでも、ジャックプライムは立ち上がった。
「みんなは……今までもっと傷ついてきたんだ……!」
つぶやき、なのはを追い回すマスターメガトロンをにらみつける。
「フェイト達だってそうだろ?
ドレッドバスターやブレイズリンクス。それに、今まで転生してきたっていうなのはの仲間達――それにフェイトだって……どれだけ傷ついてもあきらめなかったんだろ?
それに比べたら……ボクのこのダメージなんて、なんでもない!」
言って、ジャックプライムは拳を握りしめた。
「ボクは……守りたい……!
ミッドチルダの次のリーダーとして、この手でなのはを……ううん、みんなを守りたいんだ!」
ジャックプライムが言い放つと、
「それは違うぞ、ジャックプライム」
そう告げ、その目の前にエルダーコンボイが降り立った。
「お前は確かに次代のリーダーだ。
先頭に立って皆のために戦わなければならない。
だがな――」
そこで言葉を区切り、エルダーコンボイは告げた。
「それは、ひとりで戦わなければならない、という意味ではないのだ」
「え………………?」
「お前はひとりではない。
わたしや、シルバーボルト達。そして――フェイト達がいる。共に戦う仲間達がいるのだ。
仲間のために、仲間と共に戦う――その中心に立つことこそが、本当の意味で、リーダーとして仲間を率いる、ということだ」
「仲間と……一緒に……」
「そうだ。
現に今、お前のとなりにも共に戦う仲間がいるだろう?」
つぶやくジャックプライムに答え、エルダーコンボイはフェイトへと視線を向ける。
「お前はまだまだ子供だ。リーダーを任せられるほどにはなってはいない。
だが、お前は『守りたい』という想いを知った。そのために勇気を振り絞った。
今のお前は、リーダーではなくても――立派な『守る者』だ」
「ボクが……コンボイ……!?」
つぶやくジャックプライムに、エルダーコンボイはうなずいた。
そして、エルダーコンボイは胸部の装甲を展開し、
「コンボイの名に相応しい心を得た今こそ、お前はこの力を使うことができるだろう」
そして、エルダーコンボイは胸部から取り出したそれをジャックプライムの前に差し出し――フェイトは目を見張った。
多少外装の違いはあったが、それは紛れもなく――
「……ま、マトリクス……!?」
「あれは!?」
ジャックプライム達の様子は、ギャラクシーコンボイも気づいた。エルダーコンボイの取り出したマトリクスを見て驚きの声を上げる。
「バカな……なぜエルダーコンボイがマトリクスを!?」
フレイムコンボイを弾き飛ばし、ギャラクシーコンボイがうめくと、
「マトリクスの在り方を考えれば、ありえない話ではない」
言って、メガザラックを牽制したベクタープライムがそのとなりに降り立った。
「マトリクスとは、代々の司令官の記憶や経験の納められた叡智の結晶だ。
もし、スペースブリッジ計画で外宇宙に旅立った古代のトランスフォーマー達が、代々のリーダーの記憶や経験を蓄積させていたとしたら――それは新たなマトリクスとなるだろう」
「では……あれは、古代トランスフォーマー達の作り出した、“第2のマトリクス”だというのか!?」
「ボクに、マトリクスを……!?」
エルダーコンボイの差し出した“第2のマトリクス”を前に、ジャックプライムは思わずエルダーコンボイの顔を見返した。
「今のお前なら、マトリクスは必ずや応えてくれるだろう。
お前の大切なものを――大切な人達を守れるように……」
そんなジャックプライムにエルダーコンボイが告げると、
「そうは、させるかぁっ!」
わざわざジャックプライムがマトリクスを得るのを待ってやるつもりなどない。マスターメガトロンが地を蹴り、ジャックプライムに襲いかかる!
だが――
「させないのは、こっちだよ!」
それを阻んだのはなのはだった。マスターメガトロンの右足を狙い撃ち、バランスを崩したマスターメガトロンは大地に倒れる。
「ジャックプライムくん、早く!」
「う、うん!」
なのはの言葉に、ジャックプライムは言われるままにエルダーコンボイの手から“第2のマトリクス”を受け取り、
「こうなったら、ぶっつけ本番!
このマトリクスのパワー……必ず引き出してやるんだから!」
胸部の装甲を開くと“第2のマトリクス”を収納し、やや乱暴にふたを閉じる。
「見てろよ、マスターメガトロン!
ここから、反撃開始だよ!」
「いっくぞぉっ!」
元気に叫び、ジャックプライムはウェイトモードのデバイスカードを取り出し、
「キングフォース、召喚!」
その叫びに応え――それは彼の周囲に出現した。
ヘリコプター型のキングジャイロ。
潜水艦型のキングマリナー。
ドリルタンク型のキングドリル。
消防車型のキングファイヤー。
ジャックプライムをサポートする4機のパワードデバイス“キングフォース”である。
そして――
「ジャックプライム、スーパーモード!
キング、フォーメーション!」
ジャックプライムが叫ぶのにあわせ、キングフォースは彼の周りを飛翔し、合体体勢に入る。
「キングジャイロ! キングファイヤー! 各アームモードへ!」
キングジャイロとキングファイヤーはそれぞれジャックプライムの左腕、右腕に合体、より巨大な腕となり、
「キングドリル! キングマリナー! 各レッグモードへ!」
同様の指示を受け、キングドリルが右足に、キングマリナーが左足に合体、こちらもより巨大な両足となる。
その一方で彼の胸部装甲が展開――“第2のマトリクス”の輝きによって内側から照らされた新たな胸部装甲が姿を見せる。
「ディスチャージサイクル、スパークパルスコンディション、メインプログラム・システムチェック、各ウェポンシステム、スラスターバランス――その他いろいろ、オールオッケイっ!」
各キングフォースと自身のシステムが連結されていくのを体感しながら、ジャックプライムはヘッドギアを装着。新たな姿となった自分の名を名乗った。
「スーパーモード――」
「キングコンボイ!」
「キングコンボイ、だと……!?」
「そう!
父上から『守る者』の名を受け継いだ、みんなを守る王様――キングコンボイだ!」
立ち上がり、うめくマスターメガトロンに、ジャックプライム改めキングコンボイは真っ向から人さし指を突きつけて言い放つ。
「なめるなよ……!
たかがマトリクスを得ただけで!」
だが、そんなキングコンボイに臆することなく、マスターメガトロンは雷撃を放つが、
「そんなの――効かないよ!
ハイブリッドシールド!」
キングコンボイの目の前に円形と三角形をあわせた形状の魔法陣が展開された。シールドとなってマスターメガトロンの雷撃を防ぐ。
「ジャックプライム……?
まさか、魔法が……!?」
「うん!」
つぶやくフェイトに、キングコンボイはうなずく。
「マトリクスが教えてくれるんだ。
ボクの魔法の使い方や、まだまだじゃじゃ馬のキングフォースの制御まで……
それから、今のボクの名前はキングコンボイ!」
ビシッ! とフェイトを指さして告げると、キングコンボイはマスターメガトロンへと向き直り、
「そっちが雷ならボクは風!
ストーム、シューター!」
告げて、キングコンボイは再び展開した魔法陣から無数の圧縮空気弾を放ち、マスターメガトロンに降り注がせる!
「くっ、このガキが……!」
「狙いを定めて当てるんなら、ただぶちまけるより固めた方が痛いに決まってるだろ!
そして、ぶちまけるんなら……このくらいやらなくちゃ!」
うめくマスターメガトロンに言い返し、キングコンボイは上空で魔法陣を展開し、
「ストーム、ブラスター!」
魔法陣の真下で巻き起こった嵐が、マスターメガトロンを周囲の地面ごと巻上げ、吹き飛ばす!
思い切り振り回され、マスターメガトロンは大地に叩きつけられ、
「まだまだいくよ!
カリバーン、Set Up!」
〈Ready.〉
キングコンボイの言葉にシステム音声が応え、手の中でウェイトモードから変化した剣型のアームドデバイス“カリバーン”がマスターメガトロンに一撃を見舞う!
「マスターメガトロン!」
弾き飛ばされるマスターメガトロンに、フレイムコンボイはギャラクシーコンボイの相手を放り出して駆けつけるが、
「そこにいると、巻き込まれるよ!」
カリバーンをかまえてキングコンボイが告げ――その周囲で巻き起こった風が、多数の岩を巻き上がらせる。
「ストーム、イリュージョン!」
叫び、キングコンボイがカリバーンを振るうと同時、風に導かれて飛翔した岩がマスターメガトロンやフレイムコンボイの周囲を飛び回り、死角から次々に襲いかかる!
「す、すごい……!」
「フェイト達の持ってた記録映像に、似たような攻撃してたヤツがいたでしょ?
それを、魔法でちょっと再現してみたんだ♪」
つぶやくフェイトに告げると、キングコンボイはカリバーンをかまえ、
「さて、と……
それじゃ、メタメタにやっつけてボクが油断しちゃわないうちに、一気に決めちゃうんだから!」
「カリバーン、カートリッジ、ロード!」
〈Roger!〉
告げるキングコンボイの言葉に、カリバーンはカートリッジを2発連続でロード。巻き起こったエネルギーがあふれ、刀身の周りで渦を巻く。
その渦は周囲の空気を巻き込んで竜巻を作り出した。荒れ狂う嵐の中でキングコンボイはカリバーンをかまえ、
「旋風、粉砕!
ストーム、カリバー、ブレイカー!」
振り下ろしたカリバーンから放たれた竜巻が、マスターメガトロンとフレイムコンボイに襲いかかり――吹き飛ばす!
「ぐわぁあぁぁぁぁぁっ!」
「ブルァアァァァァァッ!」
さすがにこれはたまらない。マスターメガトロンもフレイムコンボイも襲いかかる竜巻の前に受け身すら許されず、そのまま空の彼方まで吹き飛ばされていった。
「…………キングコンボイ、か……」
トップ2人を吹き飛ばされ、ガスケット達があわてて逃げ出すのを上空から見下ろし、メガザラックはベクタープライムと対峙したそのままでつぶやいた。
「潮時、だな……
メガデストロイヤー。こちらメガザラック――回収を頼む」
《わかったわ》
通信し、告げるメガザラックに女性の声が答え、メガザラックがベルカ式の魔法陣に包まれる。
「逃げる気か!?」
「まぁ、な。
元々今回は遭遇戦――タナボタ狙いだったんだ。欲張る理由はない」
ベクタープライムに答え――メガザラックは告げた。
「だが……忘れるな。
こちらにも守らなければならないものがある――いずれ貴様らを倒し、ジュエルシードを、プラネットフォースをいただく」
その言葉を最後に――メガザラックもまた姿を消していった。
こうして、ジャックプライムが“第2のマトリクス”を受け継ぎ、今回の一件は無事落着した。
――かと思われたのだが――
『えぇぇぇぇぇっ!?』
サイバトロンシティ・指令室――その宣告を受け、二人は声を上げた。
「ボクと……」
「わたしが……」
『パートナーになれって!?』
「そ」
口をそろえて声を上げるジャックプライムとフェイトに、リンディはあっさりとうなずいた。
「だって、なんだかんだで二人ともよく一緒に行動してるじゃない。
だから、ジャックプライムのパートナーとして、フェイトさんはピッタリだと思うんだけど」
「そ、それは……」
「一緒に行動、というより、たいてい目的地が一緒、というか……」
笑顔で答えるリンディに、フェイトとジャックプライムは困惑の声を上げる。
だが――リンディとてこちらの思惑などお見通しだろう。100の反論を繰り出したところで100のカウンターをもらうことは目に見えている。
その上――
「いいんじゃないですか?
パートナーになれば、フェイトちゃんもジャックプライムくんもケンカしないようになるかもしれませんし」
「でしょう?
さすが、なのはさんはわかってますね♪」
(ズルっ! リンディさんズルっ!)
(なのはを味方につけられたら、反論できないよぉ……)
こっちの気持ちをわかっているのかいないのか(多分後者)、笑顔でなのはが同意するのを前に、ジャックプライムもフェイトも胸中で嘆くしかない。
そんなフェイトの困惑や嘆きが伝わっているのか、アルフなどは苦笑を浮かべているが――彼女とてリンディに口で勝てるワケがない。視線を向けるフェイトに対し、『ごめん!』と両手をあわせて見せる。
「二人とも、これからは一緒に戦うんだから、もうケンカしちゃダメだからね」
「う、うん……」
「わかってるよ、なのは」
だが、それを面に出すワケにもいかない。なのはの言葉にどこかあいまいな笑みと共にうなずき――ジャックプライムとフェイトは顔を見合わせた。
「足引っ張ったら怒るよ」
「そのセリフ、そっくり返すよ」
そこで会話が止まり――二人はクルリと反転し、指令室を出て行き――
30分後、壊滅状態に陥った訓練場で二人がさっそくなのはに叱られている光景が、目撃されたとかされなかったとか。
(初版:2006/11/26)