「調子はどうですか?」
「悪くない」
 新たなアジトの中心――尋ねるノイズメイズの問いに、スーパースタースクリームは自身の調子を確かめながらそう答える。
「さっそく出撃するぞ。
 サイバトロンの手から、再びプラネットフォースを奪い取るのだ」
 前回の雪辱とばかりに張り切るスーパースタースクリームだったが――
「あー、それなんですけど……」
 そんなスーパースタースクリームに、ノイズメイズはどこかすまなそうに告げた。
「どうした?」
「今、サイバトロンはミッドチルダとかいう異世界に行ってるんスけど……」
「だったら追えばいいだろう」
 何を言っているんだとばかりに尋ねるスーパースタースクリームだったが――
「ミッドチルダの次元座標、知ってるんスか?」
 サイクロナスの言葉が、二人の間の空気を一瞬で凍らせた。
「私達のワープゲート、行き先の座標がわからないと展開できないのは、スーパースタースクリーム様も知ってるでしょう?」
「だいたい、旦那の巨体を通せるぐらいの大きさのゲートを開けようと思ったら、ちょっとやそっとのパワーじゃ足りないんスよ」
「それこそ、“ここ”のシステムフル稼働させてパワーを借りないと、旦那でもムリっスよ」
「む、むぅ……」
 ヘルスクリーム、ロードストーム、ラナバウトの言葉にさすがのスーパースタースクリームも気まずくなって視線を逸らし――
「そんなワケで」
 そんなスーパースタースクリームに、ノイズメイズが提案した。
「みんなで協議した結果――まずはヤツらがチップスクェアとプラネットフォースを持ち込む先である、セイバートロン星を押さえるのが最善だという結論に達したワケっス」
「みんなで……?」
 その言葉に、スーパースタースクリームは一同を見回した。
 サイクロナス。
 ヘルスクリーム。
 マックスビー。
 ダージガン。
 スラストール。
 クロミア。
 ロードストーム。
 ワイルダー。
 ブルホーン。
 キャンサー。
 スナップドラゴン。
 エイプフェイス。
 ラナバウト。
 そしてノイズメイズ――全員を一通り見回した上で尋ねる。
「いつの間に?」
「そりゃもちろん、旦那がグースカいびきをかいてる間に――」
「イビキなんぞかくかぁっ!」
 セリフが終わるよりも先に、ノイズメイズの姿はスーパースタースクリームの足の下に消えた。
 ぐりぐりと踏みつけつつ、スーパースタースクリームは静かにノイズメイズに告げる。
「……小学校の時、通知表に『一言多い』と書かれなかったか?」
「惜しいっスね。
 正確には『腹黒い』です――がはっ!?」
「……キジも鳴かずば撃たれまい……ってヤツかいな?」
「ってか、『小学校の通知表』の部分に誰もツッコまへんのか?」
 再びスーパースタースクリームに踏みつけられたノイズメイズの姿に、ダージガンとスラストールがつぶやくと、
「ねー、話続けなくていいの?」
 尋ねるクロミアの一言で、一同のやり取りはようやく本題に戻ってきた。
「そ、そうだな。
 そんなこんなで、まずは旦那がセイバートロン星を制圧して、連中がプラネットフォースを持ってきたら、そいつを奪い取ってやればいい、ってな風に、オレ達は考えたワケっスよ」
「まぁ……確かに悪い案ではないが……」
 サイクロナスの言葉に同意し――スーパースタースクリームはふと首をかしげた。
「…………今、『オレが』と言わなかったか?」
「言ったっスよ」
 あっさりとサイクロナスは答える。
「まだ“ここ”のシステムも本調子じゃないし……まだ、オレ達総出であちこち修理しないと現状維持も危いんですよ、実際」
「帰ってきたらアジトがなくなってた、なんてイヤでしょう?」
「い、いや、だからと言って、セイバートロン星に向かうのは別にオレでなくても……」
 ラナバウトや復活したノイズメイズの言葉に、スーパースタースクリームはなおも反論を試みるが、
「そのデカい手で細かいところの修理をしてくれるというのならどうぞ。止めませんから」
「ぐ………………」
 あっさりとサイクロナスにやり返され、思わず反論に詰まる。
 なんだか、寝ている間に部下達にすっかりナメられている気がする。
 いや――そんな表現とは微妙に今の雰囲気はかみ合わない。
 どちらかと言えば、まるで友人や家族に対するような――そんな空気。
 その違和感の正体は気になるが、この集まりはあくまで組織であり、自分がそのリーダーだ。とりあえずその組織としてのケジメだけはつけようかと、スーパースタースクリームは口を開き――
「こらぁーっ!」
 いきなりの声が彼らのやり取りを断ち切った。何事かと振り向くと、そこにいたのは――
「ヘルスクリーム、マックスビー! 二人ともまた修理したところの片づけしてないでしょ! 今すぐ片付けなさい!」
『は、はいっ!』
(お前か、このムダにアットホームな空気の発生源は……)
 彼らの母親役でも気取っているのか、仁王立ちでヘルスクリームとマックスビーに説教を始めるフィアッセの姿に、スーパースタースクリームは思わず頭を抱えていた。

 

 


 

第49話
親友ともと手にする力なの」

 


 

 

 一方、その頃ミッドチルダでは――
「逃がすんじゃないよ、ガードシェル!」
「言われなくとも!」
 声を上げる真雪に答え、ビークルモードで疾走するガードシェルは頭上を飛行する目標へとカメラを向けた。
 そこには、高速で飛翔するジェット戦闘機――地球のものとは大きく趣きの異なる、地球でならば間違いなく特撮などでしか見られないであろう、SFじみたデザインのそれはライトグリーンを基調としたカラーリングに染め抜かれている。
 ウィザートロンの誇る副官――ライオカイザーことレオザックである。
「アイツをとっ捕まえれば、きっとメガザラック達の居場所の手がかりがつかめるはずだ!
 何が何でも捕まえるぞ!」
「捕獲するのか?」
 真雪の言葉に、ガードシェルは思わず疑問の声を上げた。
「このまま追い回して、連中の母艦まで案内させるべきなんじゃないのか?」
「そううまくいくかよ!
 アイツだってバカじゃない――素直にメガデストロイヤーまで戻るとは思えないし、仲間を呼び寄せるかもしれない――そうなる前に、叩き落として捕まえるんだよ!
 メガザラック達の居場所を吐かなくても、パワードデバイスを持ってるアイツを捕獲したとなれば、ウィザートロンの戦力もガタ落ちになるはずだしな!」
「なるほど――了解だ!」
 真雪の言葉に、ガードシェルはさらに速度を上げる――岩の多い荒野地帯の荒れた大地も、ショベルドーザーにトランスフォームするガードシェルにとっては何の問題もない。
「ちっ、偵察に出てみたら、まさか向こうの斥候と鉢合わせしてしまうとはな……!」
 その一方で、頭上のレオザックにとってはこの状況は芳しいものではなかった。現在ミッドチルダの空は雲ひとつない快晴。加えて開けた荒野では隠れる場所もない。飛行可能高度ギリギリまで上昇したところでトランスフォーマーの索敵性能の前ではどこまで身を隠せるか疑問だ。
 一瞬、蹴散らしてしまおうかとも考えるが――時間をかければなのは達も報せを聞きつけて駆けつけてくるだろう。速攻で決めようとライオカイザーになっても、合体の際の魔力反応をキャッチされて結果は同じだ。
 結局、現状においてはスピードで逃げ切るしか選択肢はなく、レオザックは改めて自身に気合を入れ――突然、その後尾で爆発が巻き起こる!
「何…………っ!?」
 一体何が起きたのか――バランスを崩し、ロボットモードとなって大地に降り立ったレオザックが周囲を見回すと、
「フンッ、マスターメガトロン様に意外な手土産ができそうだな」
 言って、レオザックの前に現れたのは――
「デモリッシャー!?」
「ガードシェルか……!」
 うめくガードシェルの言葉に、レオザックの前に立ちはだかったデモリッシャーは複雑な表情で視線を向ける。
「どうしてここに……!?」
「知れたこと。
 オレ達だってプラネットフォースを狙ってるんだ――手がかりを求めて駆けずり回るのは当然のことだろう?」
 ガードシェルにそう答えると、デモリッシャーは改めてレオザックへと視線を向ける。
「油断するな、デモリッシャー。
 武装されると、我々だけでは手に負えなくなるぞ」
 言って、慎重にレオザックの出方をうかがうガードシェルだが――
「そんなもの――武装させなければいいだけの話だ!」
「お、おい、待てよ、デモリッシャー!」
 真雪があわてて静止の声を上げるがかまいはしない――デモリッシャーは真っ向からレオザックに突っ込み、クレーンを叩きつける。
 だが、レオザックも負けてはいない。サイドステップで一撃をかわし、逆にデモリッシャーに向けてカウンターの蹴りを放つ。
 思い切り前方に体重をかけていたところに一撃をくらい、デモリッシャーの身体は大きくのけぞり――
「危ない、デモリッシャー!」
 そんなデモリッシャーを追撃から救ったのはガードシェルだった。零距離でビームを撃とうとしていたレオザックに飛びつき、その射線からデモリッシャーを外す。
「大丈夫か、デモリッシャー!?」
「余計なことを……!」
 尋ねるガードシェルだが、デモリッシャーは舌打ちしながら体勢を立て直した。
「今のオレは敵なんだ。気を遣っている場合か」
「お前……まだそんなことを言っているのか!」
 デモリッシャーの言葉に、ガードシェルは思わず声を荒らげ――
「フンッ、仲間割れか……
 だが、こちらにしてみれば好都合!」
 告げると同時、レオザックは上空に飛び立つと三角形を基調としたベルカ式魔法陣を展開。転送魔法の体勢に入る。
「アイツ――逃げるつもりか!?」
「させるか!」
 声を上げる真雪の言葉に、デモリッシャーは右腕のシールドをかまえ、
「フォースチップ、イグニッション!
 シールド、ランチャー!」

 シールドに備えられたチップスロットにフォースチップをイグニッション。シールドランチャーを展開する。
「逃がす――ものか!」
 咆哮と同時にデモリッシャーが発砲。放たれたエネルギーミサイルがレオザックの魔法陣を直撃する!
 だが――
「ば、バカが!
 よりにもよってそこに当てるか!?」
 レオザックの焦りは、攻撃されたことよりも、むしろ魔法陣を攻撃されたことにあった――声を上げる彼の足元で、魔法陣が安定を失い、周囲に歪みを巻き起こす!
「な、なんかヤバいぞ、これ!
 ガードシェル、離れろ!」
「だ、だが、デモリッシャーが!」
 真雪の言葉に、ガードシェルはデモリッシャーへも退避を呼びかける。
「デモリッシャー! ここは危険だ、離れるんだ!」
「うるさい!
 お前の指図は受けん!」
 だが、デモリッシャーは下がらせようとするガードシェルの手を振り払い、再びレオザックに狙いを定める。
「く………………っ!
 意地を張っている場合か! 今すぐ下がれ!」
 そんなデモリッシャーに業を煮やし、ガードシェルは背後からデモリッシャーに飛びつき、引きずってでも下がらせようとする。
 だが、そんなガードシェルの行動は間に合わなかった。レオザックの魔法陣が弾け、魔力が周囲にまき散らされ――!

「…………ん……んん……!」
 身じろぎし、真雪が目を覚ますと、空は分厚い雲に覆われていた。
 気絶していた間に天気が崩れてきたのだろうか――そんなことを考えながら真雪は身を起こし――
「………………は?」
 目を丸くした。
 自分達は確か、ミッドチルダの荒野地帯で戦っていたはずだ。
 だが――周囲は一面、青々とした木々で囲まれている。
「さっきの場所から飛ばされてきたのか……?」
 ポツリと真雪がつぶやくと、
「ある意味では、その表現は正解だな」
「――――――っ!?」
 背後からの声に、真雪はすぐに反応した。すぐにその場を飛びのき、静かに佇むレオザックと対峙する。
「お前…………あたしをどうした!?」
「別にどうもしていない。
 あのデモリッシャーの攻撃で転送魔法が暴走し、オレ達全員をこの次元世界に飛ばしたんだ」
 だが、レオザックは特にこちらに対して敵対行動を取っては来なかった。あっさりと真雪の問いに答えると空を見上げる。
「お前の連れなら気にするな。
 デモリッシャーと二人で周囲の探索に出ている」
「何だって……?」
「オレもお前らもデモリッシャーも、敵対していられる状況ではない、ということだ」
 そう答え、レオザックは再び真雪へと視線を戻した。
「転送魔法の暴発でランダム転移したオレ達は、今現在完全な遭難状態にある――オレの転送魔法も、自分の現在位置がわからなければ使えないからな。
 それに、オレ達はこの世界がどういうところかわからない。どんな危険が待っているかも想像がつかない以上、この次元世界からミッドチルダに戻るためにも味方は多い方がいい――オレ達全員の利害が一致しているワケだ」
「なるほど、ね……」
 レオザックの言葉に、真雪は納得したことでスッキリしたのか、満足げにうなずいた。
「お前さんの魔法で帰れるんなら、叩きのめして転送させればOKだったんだが――魔法も万能じゃないワケだ」
「なめるなよ、人間。
 貴様らごときにこのオレを叩きのめせるものか」
「恭也や志貴に悪戦苦闘してたクセによく言うぜ。
 アイツらほどじゃなくても、あたしだってそれなりに腕に覚えがあるんだぜ」
 答えるレオザックに真雪もまた応じ、しばし二人の間で火花が散り――
「……やめておこう。
 今はそんなことをしている時ではない――戦力がひとりでも必要な現在、お前を叩きのめしてガードシェルを敵に回すのは避けたいからな」
「そうだな。
 で? これからどうするんだ?」
 答え、尋ねる真雪に対し、レオザックはまるで父親が子供にするように彼女を抱き上げ、肩の上に乗せる。
「お、おいっ!?」
「この場はあくまで気絶した貴様の介抱のために確保していたにすぎん――貴様が目覚めたのならここに用はない。
 ガードシェル達の位置はつかんでいる。合流して移動するぞ」
 いきなり抱きかかえられ、あわてる真雪にあっさりと答え、レオザックは森へ向かって歩き始める。
「しっかりつかまっていろよ、人間。
 振り落とされても知らないぞ」
「わ、わかってるよ!」
 レオザックの言葉に半ば言い返すように答え――真雪は付け加えた。
「それからもうひとつ!
 あたしは『人間』じゃない! 仁村真雪だ!」

「ガードシェルと真雪の行方はまだつかめないのか?」
「えぇ……」
 尋ねるギャラクシーコンボイに、ドレッドバスターは肩を落として答える。
「確か、レオザックを発見し、追跡しているという報告が最後なんだな?」
「はい。
 パーセプターが連絡を受け、エイミィが全員に援護要請を通達しています」
「大丈夫なんでしょうか……」
 二人の会話に、なのはが不安そうにつぶやくと、
「――って、一番心配してそうな人が一番冷静じゃない?
 お姉ちゃんなんでしょ? 真雪さんって」
「うん。
 けど……実際心配はいらないと思うし」
 尋ねるジャックプライムに、知佳はあっさりと笑顔で答える。
「ガードシェルはベテラン中のベテランだし……何よりお姉ちゃんだもん。
 だから、きっと大丈夫!」
「ぅわぁ、無条件に信頼100%だぁ……」
 ジャックプライムが思わずつぶやくと、
「それだけ二人の絆は強い、ということさ」
 そんなジャックプライムに、恭也は肩をすくめて告げた。
「真雪さんは実家を出てからずっと知佳さんを守って生きてきた。
 そして、知佳さんもそんな真雪さんを信頼して、真雪さんを助けてきた。
 実の姉妹という以上に、二人は強い絆で結ばれてるんだ」
「へぇ……」
「も、もうっ、恭也くんってば!
 そんなにほめても何もでないよ!」
 恭也の言葉に納得するジャックプライムの前で、照れた知佳は顔を真っ赤にして恭也の肩をバシバシと叩く。
 ジャックプライムはそんな二人から視線を外し――
「……あのー、フェイトちゃん。
 どうしてボクの視線の前に立ちふさがるのかな?」
「だって、ジャックプライム、なのはを見ようとしてたでしょ。
 どうせ『自分もなのはとそんな関係になれたらなー♪』とか考えてたんでしょ」
 尋ねるジャックプライムに、フェイトは口を尖らせてそう答える。
 そのまま静かに火花を散らす二人――そんな二人をのん気に見物しながら、エイミィはパーセプターに声をかけた。
「あれも、ひとつのパートナーの形、かな?」
「何だかんだで、若とフェイト嬢も以心伝心ですからねぇ……」
 まぁ、あぁいう以心伝心ぶりはどうかと思いますが――そう付け加え、パーセプターはエイミィへと苦笑して見せた。

「真雪!」
 こちらを確認してからの行動は早かった。レオザックの肩の上の真雪に対し、ガードシェルは声を上げて駆け寄ってくる。
「もう大丈夫なのか!?」
「あぁ、なんともないさ。
 あたしのタフさは、ガードシェルだって知ってるだろ?」
「スタミナはないだろ」
「うるさいよ」
 尋ねるガードシェルに真雪が答えると、今度はレオザックが彼らに尋ねた。
「それで、探索の結果は?」
「あぁ、そうだったな。
 とりあえず、今お前に連絡を取ろうと思っていたのだが……」
 レオザックの問いに、ガードシェルはそう答えながら彼方へと視線を向け、今度はデモリッシャーが答えた。
「今さっき、オレとガードシェルのセンサーに、妙な反応があったんだ」
「妙……とは?」
「魔力の反応なのは間違いないんだが……」
 聞き返すレオザックにそう前置きし、ガードシェルは告げた。
「その魔力反応が、生命体にしては不自然に無機質なんだ」

「まったく、何を言い出すと思えば……
 そんなもの、魔力動力炉の発する人工魔力に決まっているだろう」
「そうは言うが、オレもデモリッシャーも魔法については明るくないんだ――わかるワケがないだろう」
 森の中を進みながら、呆れるレオザックの言葉に、ガードシェルは肩をすくめてそう答える。
 ともかく、彼らは反応のあったポイントを調べるために移動中――すでに目的地まであと少しというところまで来ていた。
「反応はこの先か……
 広範囲にパワーをまき散らしていて、今ひとつ正確に位置がつかめないな」
「あぁ。
 だが、スキャンによれば森はここまで――この茂みを抜ければ見えるはずだ」
 デモリッシャーがレオザックに答え――その言葉どおり、茂みを抜けた彼らの目の前に目的地が姿を現した。
 すでに朽ち果てた、巨大な建築物だ。研究所か何かだったのだろうか。
「…………調べてみよう。
 魔法動力炉があるということは、ミッドであろうとベルカであろうと、魔法系の文明圏だということは間違いない――転送システムがあれば、現在位置の特定もできるはずだ」
 レオザックの言葉に、ガードシェルや真雪、デモリッシャーは顔を見合わせ、レオザックへと視線を戻し――ため息まじりにうなずいた。

「オレ達でも通れるほどの通路な割には、システムの方はすべて人間用だけのようだな……」
「推測だが、人間だけが使っていた施設なのだろう――研究所自体がトランスフォーマーとの共同施設だったとしても、ここは人間用の研究棟だった、といったところだろうな。
 廊下が広いのは、おそらく機材を運搬していたためだろう」
 廊下を歩きながらつぶやくガードシェルに、レオザックはそう答えて先へ進む。
 と――
「おい……少しいいか?」
 そんなレオザックに、後ろでガードシェルのとなりを大股で歩く真雪が声をかけた。
「ちょっと、お前さんに聞きたいことがあるんだが」
「何だ?
 我らウィザートロンに不利になることでなければ答えよう」
「不利かどうかは、あんたが判断すればいいさ」
 答えるレオザックに告げると、真雪はその疑問を口にした。
「お前ら――どうしてプラネットフォースを欲しがってるんだ?」
 その言葉に、レオザックは思わず足を止めた――そんな彼に、真雪は続ける。
「オーバーロードはプラネットフォースをそろえることで完成するスペースブリッジが欲しくて、ギガストームは自分の手でグランドブラックホールを消してヒーローになるため。
 マスターメガトロンとスーパースタースクリーム、スカイクェイクは自分達が宇宙の支配者になるため――みんながみんな、それぞれの理由でプラネットフォースを狙ってる。
 で、メガザラックは……どうしてプラネットフォースが欲しいんだ?」
 続ける真雪だが――レオザックは答えた。
「答えることはできない」
「つまり、知られる事はお前らにとって不利になる、ということか?」
 先ほどの真雪とのやり取りを思い出し、尋ねるガードシェルだが――
「そういうことではない」
 あっさりとレオザックはそれを否定した。
「貴様らが……お人好しだからだ」
「なんであたしらがお人好しだと理由が話せないんだ?」
「それ以上語れば推測を許す――勝手にいろいろ想像していろ」
 真雪に答え、レオザックは再び歩き出した。
「だが……オレ達自身は、もっと違った目で見ているがな」
「どういうことだ?」
「メガザラック様の目的は覇権とはまったくの無縁だ。
 だが――我らはあのお方にこそ世界の頂点に立ってもらいたい。それ故にプラネットフォースを狙う」
「つまり、メガザラックとお前らとでは、プラネットフォースを狙う理由が違う、ということか……」
「そういうことだ。
 メガザラック様は己の目的を果たすため。我らはメガザラック様に覇権を手にしていただくため――そのために動いている」
 ガードシェルにそう答えると、レオザックはこちらに視線のみを向けて話題を変えた。
「それよりも気をつけろ。どこにどんな仕掛けがあるかわからんぞ」
「それは……侵入者避けのトラップがある可能性がある、ってことか?」
「もしくは、暴走した研究対象の鎮圧用、だな。
 ま、魔法関係の研究所なんてそんなものさ」
 デモリッシャーにレオザックが答え、そのまま施設を進むことしばし――彼らはもっとも奥のフロアにたどりついた。
「おそらくここがメインの制御室だな……」
「だが、ここもやはり人間用だ。
 内部はオレ達でも動けるだろうが――出入り口は通れないぞ」
 つぶやくレオザックに答え、ガードシェルは真雪を見下ろした。
「真雪。門外漢なところを悪いが、中でのデータ収集を頼めないか?」
「うーん、こういうのはあたしよりもむしろ知佳の得意分野なんだよなぁ……」
 ガードシェルの言葉に、真雪は思わずため息をつき――次の瞬間、目の前の壁は轟音と共に打ち砕かれた。
 粉砕したのは――
「これで通れるだろう?」
「『通れるだろう?』じゃないわ、このバカタレが!」
 あっさりと告げるデモリッシャーに告げ、レオザックは彼を思い切り張り倒した。
「何怒ってるんだ?
 別に遺跡を発掘しているワケじゃないんだ。破壊したところで問題はないだろう」
「あるに決まっているだろう!」
 心外だとでも言いたげに告げるデモリッシャーに、レオザックは鋭く言い返す。
「さっき言ったことを聞いていなかったのか!?
 どんなガードシステムがあるかわからないんだ。なのにそんな破壊活動を行えばどんなことに……なるか…………」
 言いかけて――レオザックの言葉は途中から途切れた。
 背後――自分達が入ってきた方角から地響きが聞こえてくる。
 恐る恐る、4人は背後へと振り向き――
『どわぁぁぁぁぁっ!?』
 あわてて一同が散開したその中心に、巨大な拳が叩きつけられる!
「な、何だぁ!?」
 声を上げ、真雪が見上げた先には、ガードシェル達よりもさらに巨大な、通路いっぱいの巨体を誇る傀儡兵が佇んでいた。

『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
 声を上げ、真雪を抱えたガードシェルはデモリッシャー、レオザックと共に傀儡兵から逃げ回る。
「デモリッシャー! なんとかしろ!
 元々はお前がガードシステムに引っかかったのが原因だろうが!」
「ムリを言うな!
 あんなデカブツ相手じゃ、メガクレーンブレードだって届くものか!」
 こんな屋内では飛ぶこともできない――必死に走りながら告げるレオザックに、デモリッシャーはとなりを疾走しながら答える。
「くそっ、ガードシェル! イグニッションだ!」
「バカを言うな!
 こんなところでトルネードカッターを使えば、施設を崩壊させるぞ!」
 真雪の言葉にガードシェルが答え――全員の視線がレオザックに集まった。
「と、ゆーワケで!」
「レオザック! お前がなんとかしろ!」
「ライオカイザーになりゃ、あんなヤツ楽勝だろ!」
「ったく、こんな時だけ都合よく頼るな!」
 デモリッシャー、ガードシェル、真雪に順に告げられ、レオザックは舌打ちしながらデバイスカードを取り出し、
「行け! カイザーフォース!」
 ライオカイザーに答え、呼び出されたカイザーフォースは一斉に飛び立ち――ガガガガッ! と音を立て、壁や天井に頭から突っ込んだ。
『あ………………』
 傀儡兵から逃げ回る足を止めないまま、カイザーフォースを置き去りにした一同の間に気まずい空気が流れる。
「考えてみれば……」
「カイザーフォースは全部ジェット機型だから……」
「こんな屋内で飛べるワケはないな――でなければレオザックも飛んで逃げているだろうし」
「気づけよ! 呼び出す前に!」
 今度はデモリッシャー、真雪、ガードシェルの順――つぶやく3人に、レオザックは心の底から抗議の声を上げ――そんな彼らを、傀儡兵が蹴り飛ばす!
 そのパワーはすさまじく、吹っ飛ばされた一同は近くの壁を突き破り、研究室の一室に叩き込まれる。
「くっそぉ……! やりたい放題しやがって……!
 大丈夫か!? ガードシェル!」
「あ、あぁ……」
 尋ねる真雪に答え、とっさに彼女をかばい、衝撃から守っていたガードシェルは身を起こし――気づいた。
 室内の机や作業台、その大きさは――
「トランスフォーマー用のサイズ……!?
 どういうことだ? この施設は人間の施設のはず……」
「いや、そうでもない」
 デモリッシャーに答えたレオザックの視線、その先にはミッドチルダ式の魔法陣が床に描かれている。
「転送魔法陣――ここを使っていたトランスフォーマーは、どうやら転送魔法で出入りしていたんだろう。
 魔法陣がミッド式だということを考えると、ここを使っていたのはエルダーコンボイ達の祖先か……」
「――って、のん気に解説してる場合じゃないだろ!」
 つぶやくレオザックの言葉に、傀儡兵の足音を聞きつけた真雪は思わず言い返す。
「ここを使ってたのがトランスフォーマーだって言うなら、何か武器はないのかよ!?
 あのデカブツをなんとかしないと、こっちも危ないんだ!」
「わかっている。
 探せばいいんだろ、武器を……」
 真雪に答え、レオザックは作業台へと視線を向け――
「………………?」
 それを見つけた。
 重ねるように放り出された、銀色に輝く2枚のカード――
「デバイスカード……?」
 手に取り、データを検索してみる。
 パワードデバイスだ――それも完成品の。
 しかも、効率化や汎用化を推し進めたモデルなのか、必要とされるスパークのリンカーコア適性もかなり低い。一般の、本来ならば魔導師や騎士としての適性のないトランスフォーマーでも、十分な出力があれば使えるほどだ。
 そして何より――
「…………これは、お前達向きだな」
 言って、レオザックはガードシェルとデモリッシャーにそのデバイスカードを投げ渡した。
「オレ達向き、だと……?」
「どういうことだ? レオザック」
「何、簡単な話だ」
 尋ねるガードシェルとデモリッシャーに、レオザックは答えた。
「そいつは、建機型のパワードデバイスだ」

 一方、その頃傀儡兵は自分がブッ飛ばしたガードシェル達の行方を追っていた。
 どこかの部屋に飛び込んでしまったのか、その姿をカメラで視認する事はできない――センサーをフル稼働させ、目標の所在を探る。
 と――
「どこを見ている、デカブツ!?」
「オレ達はこっちだ!」
 そんな傀儡兵の背後から声がかけられた。
 振り向くと、そこにはガードシェルとデモリッシャーの二人が傀儡兵を前に仁王立ちしている。
「真雪は下がっていろ。
 ぶっつけ本番だ。呼び出したパワードデバイスがどう動くかわからないからな」
「おぅ!
 そんなヤツ、ブッ飛ばしてやりな!」
 答え、物陰に身を潜める真雪を確認し、ガードシェルはデモリッシャーと顔を見合わせ、
「なら――やるか!」
「あぁ!」

「デバステイトフォース!」
 咆哮するガードシェルの言葉に、それはデバイスカードから本来の姿へと変化した。
 ダンプカー、ミキサー車――そして設置式クレーンを牽引するトレーラートラックである。
 そして――
「ガードシェル、パワード、クロス!」
 咆哮し、ガードシェルはビークルモードへ――さらに後輪を展開、スクレーパーを運転席側へと抱え込み、後輪側を上部とした合体用のコア形態へとトランスフォームする。
 続いてトレーラートラックがクレーンを分離させ、前方が左右に分割。運転席部分が情報へと起き上がり、下半身へと変形する。
 さらにダンプカーが荷台をシールドとした左腕、ミキサー車がミキサーを固定ランチャーとした右腕に変形、それぞれがクレーンユニットの左右に合体。胸部から上を構成する上半身ユニットとなる。
 そして、下半身ユニットと上半身ユニットがガードシェルをはさみ込むように合体。ガードシェル本体の車輪が高速で回転し、各デバイスにパワーを送る。
 最後に、胸部となったクレーンユニットのクレーン部が、操作席とクレーン本体の境目において左右に分かれるようにスライド。中から新たな頭部がその姿を現す。
 四肢にパワーが行き渡り、新たな姿となったガードシェルが咆哮した。
「武装拳士、デバステイター!」

「ランドアームズ、Go!」
 デモリッシャーの呼びかけに答え、デバイスカードは光を放ち、その中から彼のパワードデバイスが姿を現した。
 ダンプカー、ミキサー車――そしてショベルカーの3機だ。
「デモリッシャー、パワードクロス!」
 そして、デモリッシャーはロボットモードのままシールドとクリーンアームを分離して両腕を背中側にたたみ込み、続けて両足を縮め、さらにつま先を収納。頭部をボディ内部にしまって合体形態となる。
 そんなデモリッシャーの両足に連結するようにダンプカーとミキサー車が合体。運転席部分が起き上がってつま先となり、両足が完成する。
 ショベルカーは真ん中から左右に分離。ショベルを備えた右側が右腕に、運転席を分離させた左側が左手となり、デモリッシャーに合体する。
 最後にデモリッシャーのシールドが背中に、クリーンアームが左腕に合体し、最後に頭部のあるべき位置にショベルカーの運転席が前後逆の形で合体。屋根が上方へとスライドするとカメラアイが現れ、新たな頭部となる。
 四肢にパワーが行き渡り、新たな姿となったデモリッシャーが咆哮した。
「武装闘士、ランドフィル!」

 立て続けのパワードデバイスとの合体――新たな姿となった二人の戦士を前にしても、感情を持たない傀儡兵は臆することなく拳を振るい――
「そんなもの――」
「通じるか!」
 ガードシェル改めデバステイターがそれを受け止め、デモリッシャー改めランドフィルがカウンターとばかりに渾身の拳で一撃。さらに右肩に配置されたショベルでオマケの一発を叩き込む。
「なるほど……大したパワーの増幅率だな」
「あぁ。
 ウィザートロンの主力がそろって武装しているはずだ」
 さっきまで対応に苦労させられた傀儡兵がまるで相手にならない――つぶやくランドフィルにデバステイターが答えると、
「なら、とっとと決めちまえ!」
 そんな二人に告げるのは真雪だ。
「イグニッションするぞ!」
「あぁ、頼む!」
 真雪に答えるデバステイターに、身を起こした傀儡兵はそうはさせるかと地を蹴り――
「させるものか!」
 彼の存在を失念していた。傀儡兵の目の前に飛び出したレオザックが、その顔面に至近距離からビームを叩き込む!
「転送システムから現在位置はつかんだ!
 もうこの施設に用はない――被害など気にせず、思い切りやってやれ!」
「あぁ!
 いくぜ、ガード――じゃない、デバステイター!」
「おぅ!」
 レオザックの言葉にうなずき、真雪とデバステイターは顔を見合わせ、
『フォースチップ、イグニッション!』
 二人の咆哮が響き、飛来したフォースチップがデバステイターの背中、ガードシェル本体のチップスロットへと飛び込んでいく。
 とたん、チップスロットのあるガードシェル部の後輪に刃が展開。さらに後輪が高速で回転するとそれはプロペラの役目を果たし、周囲の空気をかき回す。そして――
『タイフーン、カッター!』
 より強力になったトルネードカッター、名づけて“タイフーンカッター”が、施設の廊下の壁を大きく抉り、傀儡兵を包み込む!
 内部のものをねじ切るかのように荒れ狂う竜巻とそれによって吹き飛ばされた施設の残骸、2重の攻撃に傀儡兵はまともに吹き飛ばされ――
「狙いバッチリ!」
「決めろ、ランドフィル!」
「おぅ!」
 傀儡兵が飛んでゆく先には、ランドフィルが待ちかまえていた。
「フォースチップ、イグニッション!
 メガクレーン、ブレード!」

 そして、ランドフィルは左手のクレーンアームに備えられたチップスロットに地球のフォースチップをイグニッション。メガクレーンブレードを展開し、
「いっ、けぇっ!」
 飛んできた傀儡兵を、右肩のショベルで思い切り跳ね上げ――
「ランド、ストラッシュ!」
 フォースチップのパワーを込めたメガクレーンブレードで、宙を舞う傀儡兵を一刀の元に両断する!
「爆発するぞ、下がれ!」
 レオザックの言葉に、デバステイターとランドフィルはとっさに後退し――次の瞬間、傀儡兵は大爆発を起こし、四散した。

「ここまで来れば、もうオレの助けなど必要あるまい」
 転送を終え、ミッドチルダの大地に降り立ったガードシェルとデモリッシャー、そして真雪にそう告げると、レオザックは空中で彼らに背を向ける。
「そのデバイスはお前らにくれてやる――構造上ガイルダート達とは相性も悪そうだからな。
 だが、忘れるな――今回は共に帰還するために力を合わせたが、オレ達はあくまで敵同士なんだ。
 次に会う時は、敵として全力で相手をするぞ」
「あぁ、かまわない」
「まだいろいろ聞きたい事はあるけど――次は力ずくで聞かせてもらうとするさ」
 ガードシェルと真雪の言葉にうなずくと、レオザックは「さらばだ」と言い残すとビークルモードにトランスフォームし、飛び去っていった。
 そして――
「デモリッシャー」
 残るはこちらの問題だ――先ほどから一言も発しないデモリッシャーに、ガードシェルは静かに声をかけた。
「やはり……戻ってくるつもりはないのか?」
「オレはデストロンに与した身だ――今さら戻れるか」
 答え、デモリッシャーもまたビークルモードにトランスフォーム。ガードシェルに向けて背を向け――
「なら、最後に聞かせてくれ」
 そう声をかけたのは真雪だった。
「あたしらと初めて会った時、お前は再会したガードシェルに言ったよな?
 『オレはオレのやり方で宇宙を救う』って……」
 デモリッシャーは答えない。だが真雪はかまわず本題を突きつけた。
「マスターメガトロンの下にいて――本当にできるのか?」
「………………」
「本当にそう思ってるんなら、そのままデストロンにいればいいさ。
 けど、もしそのことに疑問を感じてるんなら……」
 そこで言葉を切る真雪に対し、デモリッシャーはしばし沈黙し――
「もしその時が来ても……オレはサイバトロンには戻れないさ」
 それだけ言うと、デモリッシャーは走り去っていった。
「………………脈ありだと、思うか?」
「思うさ」
 尋ねる真雪に、ガードシェルは迷うことなくそう答えた。
「アイツは、少しばかり臆病なだけさ。
 薄々気づいてる、自分の過ちと向き合うことを――あいつは少しだけ恐れてる」
 そう言うと、ガードシェルはビークルモードにトランスフォームすると真雪を乗せて走り出す。
 すぐにサイバトロンシティへと連絡を入れ――ガードシェルは真雪に告げた。
「ほんの少しでいい。アイツの背中を後押ししてやれば、アイツはきっと自分の失敗を受け入れられる。
 だから――オレがその役目を担ってやりたい」
「そっか」
 それ以上は何も告げず、真雪は窓の外へと視線を向けた。
(お前さんならできるさ、きっと……)
 口に出すのはなんとなく恥ずかしくて、真雪は胸中で相棒へとエールを贈る――

 そんな彼らの視界の中に、捜索に出ていた仲間達の姿が現れたのは――それからすぐのことだった。


 

(初版:2006/12/03)