「…………リニス…………!?」
目の前に立つ、懐かしい存在――だが、彼女が目の前にいることが信じられず、フェイトは搾り出すようにその名を口にした。
だが、そんな彼女の驚きは予想の範囲内だったようだ。リニスはフェイトを落ち着かせるかのように優しげな笑みを浮かべ、告げる。
「久しぶりですね、フェイト」
「………………っ!」
リニスのその言葉に、フェイトはビクリと肩を震わせる。
「……まぁ、突然だから、しょうがないですね」
そんなフェイトの姿に、リニスはため息まじりに肩をすくめ――
〈Photon Lancer!〉
「ひゃあっ!?」
突然バルディッシュから放たれたフォトンランサーを、直前で気づいたリニスはあわててかわす。
「い、いきなり何をするの!?」
「うるさい!」
驚き、声を上げるリニスに対し、フェイトは鋭く言い放つ。
「あなたは……一体何者なんですか!?」
「何を言っているの?
私は――」
「リニスが生きてるはずない!」
言いかけたリニスだが、その言葉を断ち切ってフェイトは告げた。
「リニスは、わたしにバルディッシュをくれた後に姿を消した――それに、母さんが死んだ今、その使い魔であるリニスが生きてるはずがない!
正体を現せ――偽者!」
言って、フェイトはバルディッシュをリニスに向け――そんなフェイトにリニスは思わず苦笑するのみ。
「まったく、思い込んだら一直線なのは今も変わってないのね……
仕方ないわ――まずは、頭を冷やしてもらおうかしら」
告げると同時――リニスは魔法陣を展開した。
第51話
「それは哀しい再会なの?」
「なのはー?
なのは、いないのー?」
その頃、サイバトロンシティではジャックプライムがなのはの姿を探していた。
と――そんなジャックプライムの視界になのはが現れた。すぐに声をかけようと口を開き――
「………………?」
ふと気づいて口をつぐんだ。
どことなくなのはの元気がない。どうしたのか――
「どうしたの? なのは」
「うん……
フェイトちゃん、見なかった?
マリーさんが、ジンジャーのメンテナンスをしたいから、って探してたんだけど……」
「フェイト……?
ううん。ボクも見てないけど……」
なのはの問いに考え込み――ジャックプライムはなんとなくイヤな予感にとらわれた。
正体はわからない――だが、なぜかフェイトがここにいないことがたまらなく不安に感じられる。
だから――
「……うん、わかった。
ボク、ちょっと探しに行ってくるよ。
父上やギャラクシーコンボイさんにも、そう言っといてくれるかな?」
「うん。お願いね」
〈Photon Lancer!〉
「Shoot!」
咆哮し、フェイトの放った多数のフォトンランサーが一斉にリニスに向けて飛翔する。が――
「Defensor」
静かにリニスが告げ――展開された防壁が直撃弾をことごとく弾き返す。
「防がれた――!?
――――けどっ!」
しかし、それでもフェイトはすぐに次の動きに移った。再びフォトンランサーを生み出し――今度は一点集中、防御を固めたリニスに向けて撃ち放つ!
だが――
(一点集中で防御を打ち破るつもりね……
昔から、結界破壊は苦手だったし……)
「――それなら!」
それに対し、リニスもまたフォトンランサーを放った。
ただし――“一発だけ”。
その一発は放たれたフェイトのフォトンランサー群、その先頭の一発を直撃、爆発させ――残りのフォトンランサーがそれに巻き込まれ、次々に誘爆していく!
「そんな!?」
たった一発でほとんどのフォトンランサーを叩き落され、フェイトは思わず声を上げ――
〈Master!〉
「――――――っ!?」
バルディッシュの声にとっさに反応。バルディッシュをかまえるが――遅い。フェイトの目の前には、すでに眼前に飛び込んでいたリニスが生み出したフォトンスフィアが輝いていた。
「詰み――ですね。
チャージの長いファランクスシフトに頼らず、一点集中のフォトンランサーで防御を破ろうとしたのは悪い判断じゃないとは思いますが――もう少し、機動を削ってから狙うべきでしたね。あなたは元々スピードで攻める方が合っているんですから」
そう告げ――リニスはフェイトの目の前のフォトンスフィアを消し去った。
「動揺して冷静さを欠いていたとはいえ、もう少し慎重に攻めなければダメですよ。
もっと大局を、戦いの流れ全体を見渡せるように――そう教えたでしょう?」
「――――――っ!」
リニスのその言葉に、フェイトは思わず息を呑んだ。
確かに自分はリニスにそう教わっている。
そして、それを知るのは――自分とリニスだけだ。プレシアは自分の魔法の勉強を見に来ることなどなかったし、アルフもまだその頃は使い魔として生まれたばかりだったのだから。
つまり――
「…………本物……なの……!?」
「えぇ。
プレシア・テスタロッサの使い魔・リニス――正真正銘、間違いなく本人ですよ」
つぶやくように尋ねるフェイトに、リニスは優しさのあふれる笑顔で答える。
とたん――フェイトは自分の胸が熱くなるのを感じた。
「………………リニス!」
気づけば、フェイトはリニスの腕の中に飛び込んでいた。
「リニス、リニス……!」
「はいはい。泣かないで。
私は、ちゃんとここにいますから」
感極まり、涙を流すフェイトを優しく抱きしめ、リニスは彼女の頭を撫でてやる。
「強くなりましたね、フェイト」
「うん……うん……!」
告げるリニスに、フェイトは涙ながらにうなずき――
「だからこそ――残念ですね」
「え――――――?」
次の瞬間――
「Photon Lancer」
リニスのフォトンランサーが、フェイトの脇腹を撃ち抜いていた。
「――――――っ!?」
ビークルモードで草原を走りながら、ジャックプライムはそれを感じ取った。
(フェイトの魔力が――いきなり乱れて……!?)
「まさか……フェイトの身に、何か!?」
「…………ぇ……!?」
信じられなかった。
だが――現実に、リニスの一撃は自分の脇腹を撃ち抜いた。
出血する傷を押さえ、フェイトは後ずさりながらリニスを見返した。
「どう……して…………!?」
痛みに顔をゆがめ、尋ねるフェイトに対し、リニスは答えた。
「それは……あなたがサイバトロンに協力しているからです」
「どういう……こと……!?」
「こういう、ことです」
フェイトに答え、リニスは頭上に手をかざし――それを合図にしたかのように、それが頭上に出現した。
展開された巨大なベルカ式魔法陣から現れたのは――
「……メガ、デストロイヤー……!?
それじゃあ……!」
つぶやくその間にも、出血に伴い意識が遠のいていく――大地に崩れ落ちたフェイトは、意識を手放す前にリニスの声を聞いた。
メガデストロイヤーが現れた時点で予想できた――だが、決して聞きたくなかった一言を。
「今の私は……メガザラックのパートナーです」
「嫌われ役、だな」
「それも承知の上での行動よ」
意識を失ったフェイトを抱きかかえ、メガデストロイヤーのブリッジに備えられた転送ポートに現れたリニスは、自分の帰還を待っていたメガザラックの言葉にそう答えた。
「あの人によって再生され、あなたのとなりに立ち、虚数空間から脱出して――あの日、あの子の姿を見つけたその時から、この日のことは覚悟していたから……」
そう告げると、リニスは腕の中のフェイトに視線を落とす。
「この子は……きっと私のやっていることを納得はできないでしょうね……
とても真っ直ぐな、いい子だから……」
「それでも、我々には必要な存在だ」
答えるメガザラックの言葉に、リニスは小さくうなずいた。
「そう、ね……
この子は……今や“あの子”にとってかけがえのない存在なのだから――」
そして、リニスは『フェイトの手当てをする』と言い残してブリッジを後にし――それを見送ったメガザラックはつぶやいた。
「覚悟はできていても――それは辛さに耐えられるだけだ。
辛さそのものが変わる事はあるまいに……」
ともかく、気を取り直してメガザラックは多人数用の転送ポートのある転送待機室へと艦内回線をつないだ。
「レオザック、ガイルダート、準備はいいか?」
《当然です》
《いつでもいけまっせ!》
返ってくる二人の返事にうなずき、メガザラックは告げた。
「いいか――確認するがお前達はあくまで陽動だ。
サイバトロンシティを2方向から強襲、敵の注意をこちらから逸らす――調子に乗って攻めすぎるなよ」
《了解です》
《要は深入りしないでひたすらバンバン撃ってりゃいいってことでしょう? 任せてください!》
「うむ。
では、各員の健闘を祈る」
言って、メガザラックは自ら転送システムを起動。部下達の姿はメガデストロイヤーから消え去った。
(まさか、連中もこちらの守りを捨て去ってまで囮を大量に投入するとは思うまい。
我々が安全圏に離脱するまで、今しばらく踊ってもらうぞ、サイバトロン……)
胸中でつぶやき、メガデストロイヤーを引き上げさせようとした、その時――レーダーに反応があった。
その反応は――
「あれは……メガデストロイヤー!?」
前方上空に静かに佇むメガデストロイヤーの威容を確認し、ジャックプライムは思わず声を上げた。
「フェイトは……!?」
反応はこの近辺からしたはずだ――フェイトの行方は気になるが、だからと言って放ってもおけない。ジャックプライムは転進を始めたメガデストロイヤーを追うが――
「仕留めろ――ブリューナク!」
「――――――っ!?」
突然の咆哮に対し、ジャックプライムはとっさにロボットモードにトランスフォーム――その勢いを利用して左方へ跳躍し、上空から迫った一撃をかわした。
そして――
「まぁ、このくらいはかわすか」
言って、メガザラックは大地に突き立てられたブリューナクを引き抜いた。
「メガザラック……!
フェイトはどこ!?」
「答える必要はない」
ジャックプライムの問いに、メガザラックはブリューナクの切っ先を向けながらそう答える。
「私はただ、メガデストロイヤーに接近した敵対勢力のトランスフォーマーを排除しに現れただけだ」
告げるメガザラックだが――ジャックプライムは確信した。
「……フェイトは、メガデストロイヤーにいるね?」
「………………っ!?」
断言したジャックプライムの言葉に、メガザラックは思わず目を見張った。
「だってそうでしょう?
ボクはキングコンボイに合体しないと飛べないし、キングフォース自体、システム上高速機動ができるようにはできてない――空中のメガデストロイヤーなら、キングコンボイになったボクの射程に入る前に転送魔法で逃げられるんだ。
そんなボクに対して、わざわざリーダーのメガザラックが迎撃に出る理由なんか普通はない。それ相応の理由があるはず。
で、ここにフェイトがいた可能性を考えれば……」
「……なるほど。
的確な推理だ」
オレ自らが迎撃に出たのは、ただ人手がなかっただけなのだがな――胸中でそう付け加え、メガザラックは苦笑まじりにジャックプライムと対峙する。
「ずいぶんと余裕だね」
「当然だ。
彼女の居場所を知られたところで――お前がその場にたどり着くことはない!」
告げると同時、メガザラックはブリューナクを振るい、放たれた雷撃がジャックプライムに迫り――
弾き飛ばされた。
突如上空から飛来した真紅の閃光が、雷撃を大地に叩きつけたのだ。
「まったく、またお前か……」
「つくづく縁があるようだな、お前とは」
言って、ジャックプライムの元に降り立ったのはシグナムとスーパーモードのスターセイバーだ。
「どうしてここが?」
「おそらく、お前と同じ理由だ」
尋ねるジャックプライムにスターセイバーがそう答え、シグナムが続ける。
「おそらく攻撃を受けたのだろう、テスタロッサの魔力が弾けるのを感じたんだ。
彼女を倒すほどの相手――蒐集の対象として申し分ないと判断し、追ってきたんだ」
「蒐集、ってところに激しくツッコみたいんですけど、ツッコんでいいですか?」
「助けない方が良かったか?」
「大イニ助カリマシタ。スミマセン」
尋ねるスターセイバーに、ジャックプライムは思わず頭を下げて謝辞を述べる。
と――
「ほぉ……守護騎士プログラムのご登場か」
対するメガザラックは余裕だ。スターセイバー達を前に悠然とブリューナクをかまえる。
「お前達はオレとの相性が最悪だということは知っていよう。
それでも、オレに挑むつもりか?」
「その程度のことで退くようで、ヴォルケンリッターの将は務まらん!」
メガザラックに言い返し――次の瞬間、スターセイバーはメガザラックの眼前に飛び込んでいた。裂帛の気合と共にスターブレードを振るい――
「――――――っ!?」
刃が目標をとらえようとした直前で後方に跳躍。スターセイバーの眼前を何かが駆け抜けた。
先端に鋭いエネルギースパイクを備えた、しなやかに動くムチ状の何か。それが伸びている先は――
「ほぉ、オレの隠し武器に気づいたか……」
言って、メガザラックはビークルモード時の機首――細かく分割され、多数の関節によってしなやかに動くビーストモード時の尾を引き戻す。
「卑怯――とは言うまいな?」
「言うものか。
その尾もまた、貴様の武装のひとつなのだから」
メガザラックに答え、スターセイバーは刃をかまえる。
「そもそも――卑怯と言われるならば我らの方だ」
静かに告げ、ゆっくりと間合いを詰め――
「今の状況は3対1だ」
その言葉と同時――メガザラックの背後にシグナムとジャックプライムが迫る!
が――
「ぬるい!」
その攻撃はすでに予測されていた。背後から迫った二人を、メガザラックは尾の一振りで弾き飛ばす!
「やはり、そう簡単にはいかんか!」
「ウィザートロン・リーダーの肩書きは、ダテではないということだ!」
弾き飛ばされ、うめくシグナムにメガザラックは言い返し――
「だから――何度やってもムダなのだ!」
振り向きざまにブリューナクで一閃。ジャックプライムが突っ込ませたキングドリルを叩き落す!
「あきらめて退け。
こっちとしても、今は余計な交戦は望んではいない」
「そんなワケにいくもんか!」
シグナムとスターセイバー、そしてジャックプライム――3人を相手にしても動じることのないメガザラックだったが、対するジャックプライムも退かない。毅然として言い返す。
「メガデストロイヤーにはフェイトが捕まってるんだ――助けなくちゃ!」
「何!?
では、テスタロッサはあの艦の中に!?」
ジャックプライムのその言葉に、思わず驚きの声を上げたのはシグナムだ。
「となれば、ますます貴様を逃がすワケにはいかないな」
一方でスターセイバーは改めてスターブレードをかまえ――
「残念だが――時間切れだ」
『――――――っ!』
その言葉に、ジャックプライム達は同時に思い至った。
とっさに見上げると、メガデストロイヤーの周囲にも巨大なベルカ式魔法陣が描かれている――メガデストロイヤーの離脱準備が完了したのだ。
「フェイト!
――キングジャイロ!」
このままではフェイトを連れ去られる。もはやキングコンボイになっている時間はない――とっさにキングジャイロを呼び出し、その足に捕まって飛び立つジャックプライムだが――
「行かせるものか!
トランスフォーム!」
それをメガザラックが阻んだ。ビークルモードのジェット機形態へとトランスフォームし、キングジャイロを弾き飛ばしてジャックプライムを叩き落す。
落下するジャックプライムを見下ろし、メガザラックは上空でロボットモードに戻ると改めてスターセイバーとシグナムに告げる。
「貴様らは、今しばらくオレの相手をしてもらうぞ!」
「そうはいくか!」
メガザラックに言い返し、スターセイバーはスターブレードを振りかぶり、
「飛燕、煉獄斬!」
一気に間合いを詰め、繰り出した斬撃がメガザラックのブリューナクと激突する!
「シグナム! 今のうちにヤツの転送魔法に割り込みを!」
「だが、生半可なパワーで干渉すれば、魔法の暴走を招くぞ!」
告げるスターセイバーにシグナムが答え――
「だったら、生半可じゃないパワーで止めればいいんでしょ!?」
そう答えたのは、大地で再び立ち上がったジャックプライムだった。
「いっくぞぉっ!」
元気に叫び、ジャックプライムはウェイトモードのデバイスカードを取り出し、
「キングフォース、召喚!」
その叫びに応え――それは彼の周囲に出現した。
ヘリコプター型のキングジャイロ。
潜水艦型のキングマリナー。
ドリルタンク型のキングドリル。
消防車型のキングファイヤー。
ジャックプライムをサポートする4機のパワードデバイス“キングフォース”である。
そして――
「ジャックプライム、スーパーモード!
キング、フォーメーション!」
ジャックプライムが叫ぶのにあわせ、キングフォースは彼の周りを飛翔し、合体体勢に入る。
「キングジャイロ! キングファイヤー! 各アームモードへ!」
キングジャイロとキングファイヤーはそれぞれジャックプライムの左腕、右腕に合体、より巨大な腕となり、
「キングドリル! キングマリナー! 各レッグモードへ!」
同様の指示を受け、キングドリルが右足に、キングマリナーが左足に合体、こちらもより巨大な両足となる。
その一方で彼の胸部装甲が展開――ミッドチルダのリーダーに受け継がれてきた“第2のマトリクス”の輝きによって内側から照らされた新たな胸部装甲が姿を見せる。
「ディスチャージサイクル、スパークパルスコンディション、メインプログラム・システムチェック、各ウェポンシステム――その他いろいろ、オールオッケイっ!」
各キングフォースと自身のシステムが連結されていくのを体感しながら、ジャックプライムはヘッドギアを装着。新たな姿となった自分の名を名乗った。
「スーパーモード――キングコンボイ!」
「いっくぞぉっ!」
咆哮と同時に跳躍。ジャックプライム改めキングコンボイは勢いよく大空へと飛び立つ。
狙いはもちろん――メガザラックの帰還を待っていたがために転送できずにいたメガデストロイヤーだ。
「いかん!」
対し、メガザラックもすぐに動いた。キングコンボイを叩き落すべくブリューナクの先端に雷光を生み出し――
「――なんちゃって!」
「――――――っ!」
瞬間的に反転、こちらに向けて放たれたキングコンボイのビームが、メガザラックを直撃する!
「貴様……!」
「フェイトを追いかけるのに、そっちが最大のジャマ者だってのはわかりきってるでしょ!」
うめくメガザラックに答え、カリバーンをかまえるキングコンボイだが――
《メガザラック》
突然の通信――いや、念話がメガザラックに呼びかけた。
リニスである。
「彼女の手当ては終わったのか?」
《えぇ。
それより、時間をかけすぎよ。戻って》
「だがな――」
《ギリギリまでおとりを引き受けてくれるつもりなのはいいけど、それ以上ハデにやると合流のためのマーカーも見失うことになるわ》
こちらの反論を一蹴するリニスの言葉に、メガザラックはしばしスターセイバーやシグナムの様子をうかがい、
「そうは言うが、この包囲の中を突破するのは骨が折れるぞ」
《その心配はないわ》
「何………………?」
思わず疑問の声を上げ――次の瞬間、メガザラックの足元の転送魔法陣が輝きを増す!
「ちょ――――――っ!?」
狙いに気づいたメガザラックが思わず抗議の声を上げ――だが、それが言葉となるよりも早く、その姿はスターセイバー達の前から消えていく。
次いで、メガデストロイヤーの真下の魔法陣も発光。数秒の内にメガデストロイヤーもまたその姿を消していった。
「まさか……外部からの干渉か?」
「そんなバカな……
他人の展開途中の魔法を、外部から発動させたというのか?
並の技量でできることではないぞ」
スターセイバーの言葉に、シグナムはレヴァンティンを待機状態に戻して答える。
「それより、今はヤツを追わなければ……
フォートレスに連絡を。おそらくシャマルと共に我々をトレースしていたはずだ」
「あぁ」
シグナムの言葉にスターセイバーがうなずくと、
「その必要はないよ」
二人に答えたのは、パワードデバイスとの合体を解いたジャックプライムだった。
「どういうことだ?」
眉をひそめ尋ねるシグナムに対し、ジャックプライムはイタズラを成功させた時のように満面の笑みを浮かべ、
「えへへ……コレ、なぁ〜んだ♪」
取り出した端末から3Dマップが表示され――その一角に光点が表示された。
「貴様もずいぶんとやるようになったな」
転送ポートから姿を現し、メガザラックは半眼でリニスに告げた。
「ミッドの魔導師である貴様がベルカ式魔法に干渉だと? 無茶無謀もたいがいにしろ」
「あら、あなたの術式の確かさを信頼してのことだったのだけど」
メガザラックの言葉に、リニスは肩をすくめると笑顔を浮かべてそう答える。
ずいぶんとメガザラックを信頼しているようだ――敬語を基本とするリニスが砕けた話し方をしていることからもそれは用意に読み取れる。
「……まぁいい。
とにかく、フェイト・テスタロッサの身柄の確保には成功した。
負傷の具合は?」
「手加減したし、とっさにあの子も急所を外してたけど――後半日は安静が必要ね」
「そうか……」
リニスの答えに、メガザラックはしばし考え、
「……なら、彼女が落ち着いたらそれとなくセイバートロン星について聞き出してくれ。
彼女も、“あの子”のことを知れば少しはこちらの話に耳を傾ける気にもなるだろう」
「セイバートロン星のことを?」
「そうだ」
リニスに答え、メガザラックはブリッジ正面のメインモニターにそのデータを表示した。
「以前、管理局を襲った際、ガイルダート達にハッキング端末でデータを収集させておいた。
連中はセイバートロン星にプラネットフォースを集めようとしている――ヤツらがこちらを後回しにした場合を仮定するなら、追跡のためにもその位置を知っておくことは必要だ」
「そうね……
わかったわ。フェイトのことは任せて」
うなずき、リニスはブリッジを後にして――メガザラックはふと視線を落とした。
(しかし……解せないこともある。
いかにデッドエンド特製のハッキング端末といえど、あぁも簡単に情報を得られるだろうか……)
ワナとしてのニセ情報だとも考えたが――その脳裏を別の可能性がよぎった。
「何者かが……目的を持ってこちらにリークしたというのか……?」
思わずつぶやいた――その時、メガザラックの表情が強張った。
艦内に魔力反応。これは――
「まったく、大したイタズラ小僧だな」
「えへへ……あれはメガザラックが油断してるのが悪いの♪」
無事メガデストロイヤーの格納庫に姿を現し、呆れるシグナムにジャックプライムは笑顔で肩をすくめる。
「ボクが当てた攻撃、ただの攻撃だと思って安心しきってるんだもん。
アレが追尾魔法のマーカーを打ち込むためのカモフラージュとも知らないでさ」
「確かに。
おかげで敵艦に乗り込めたんだ。今回はジャックプライムの手柄だ」
ジャックプライムに同意すると、スターセイバーは周囲を見回し、
「だが……おかしいな。
不意をついたとはいえ、転送魔法で正面から乗り込んだんだ。
当然、迎撃のひとつもあるはずと踏んでいたが……」
「そういえば……静かすぎるね」
スターセイバーの言葉に、その事に思い至ったジャックプライムも周囲を見回し――
「残念ながら、レオザック達は出払っていてね」
『――――――っ!?』
その言葉に振り向くと、そこにはブリューナクをかまえたメガザラックの姿があった。
「今この艦にいるトランスフォーマーはオレひとり。
何なら倒してみるか? 増援の望めない中、アウェイで大立ち回りを演じるつもりがあるのならな」
「上等だよ!
お前さえ倒しちゃえば、ウィザートロンもおしまいなんだ!」
メガザラックに言い返し、デバイスカードをかまえるジャックプライムだったが、
「待て」
それを押し留め、スターセイバーは彼に代わってメガザラックと対峙した。
「ジャックプライム――ここは私とシグナムが引き受ける。
キミはテスタロッサを」
「けど!」
思わず反論の声を上げるジャックプライムだったが、そんな彼に今度はシグナムがさとすように告げた。
「今、テスタロッサはこの艦の中でひとりきりのはずだ。
パートナーを、いつまでも孤独にさらすものじゃない」
「…………はーい」
ヴォルケンリッターと対立した経緯がなく、元々特に意地を張っていないジャックプライムはシグナムの言葉に渋々ながら同意した。ビークルモードにトランスフォームすると彼らに背を向け、
「それじゃ、ここはヨロシク!」
「よろしくされてやる。行け!」
シグナムの声を合図に、ジャックプライムは走り出し――
「そうは――」
「させない!」
阻もうとしたメガザラックを、スターセイバーが牽制の斬撃で後退させる。
「すまないな。
セリフの後半、横取りさせてもらったぞ」
「…………フンッ、余裕だな。
さっきも言ったはずだ――お前達守護騎士プログラムは、このオレとは絶対的に相性が悪いということを忘れたのか?」
スターセイバーに答え、悠々とブリューナクを振りかぶるメガザラックだが――
「――――――っ!」
とっさにそのブリューナクをかまえ直し、スターセイバーの斬撃を受け止める!
「あいにくだったな。
私は騎士としての才には恵まれていなかったらしくてな……ビクトリーレオか、“闇の書”の力を借りなければ満足に魔法も使えないんだ。
つまり――貴様に対して不利となる要素などない!」
言って、メガザラックを弾き飛ばすスターセイバーだったが、
「“闇の書”、だと……!?」
その単語に、メガザラックは思わず眉をひそめた。
「…………気が変わった。
あの小僧は後回しだ――まずはお前達の相手をしよう」
そう言って、メガザラックはブリューナクの矛先をスターセイバーに向け、付け加えた。
「お前達に――聞きたいことができた」
「ジャックプライムの反応がない?」
「はい……5分ほど前に全員の反応をチェックした時には、確かに山岳地帯で確認されていたんですけど……」
尋ねるギャラクシーコンボイに、パーセプターは端末を操作しながらそう答える。
「確か、彼は外出したフェイトを探しに出ていたのだったな……
エイミィ。フェイトの反応は?」
〈ダメです。
依然、その所在を特定できません……〉
すぐにエイミィに尋ねるが、返ってくる答えも芳しくない。
「やれやれ……あの子はまたどこかで先走ったようだな。
すまない、ギャラクシーコンボイ。手間をかけさせる」
「いえ。正義感の強い子です。悪いことではないでしょう」
ため息をつき、謝罪するエルダーコンボイに答えると、ギャラクシーコンボイは改めて告げた。
「それよりも、今は二人の行方です。
何かが起きた可能性は高い。一刻も早く見つけ出さなくては――」
だが、そうは簡単に物事も進んではくれなかった。突然の警報がシティ内に響く。
「どうした?」
「レーダーに反応!
急速に接近する飛翔体が多数!
識別はデストロン――敵襲です!」
尋ねるギャラクシーコンボイに答え、パーセプターはメインモニターにレーダー画面を映し出した。
「魔力反応を同時に検知!
この反応はレオザック達――ウィザートロンです!」
「おーい、フェイトーっ!
どこにいるんだよ、フェイトぉーっ!」
いくらスターセイバー達が強いといっても、メガザラックは現役の魔導大帝だ。父と違い封印されていたおかげで若さを保ってきた彼の力は最盛期のまま。そう簡単に勝てるとは思えない。
そのため、一刻も早くフェイトを見つけ出して合流しようと走るジャックプライムだったが――肝心のフェイトの居場所がわからない。
メガザラック達の母艦のためか、通路は自分達が問題なく走れるサイズな点はありがたかったが――
「…………っていうか……
そう言うボクもどこにいるの?」
今回はそれが災いした。フェイトを探すことにばかり意識を向けて走り回ったジャックプライムは、気づけば自分の現在位置もわからなくなっていた。
「これじゃ、フェイトを探すどころじゃないよぉ……」
仮にフェイトを見つけ出しても、現在位置がわからなくてはどうしようもない。思わず泣き言をもらし――
「……よし、仕方ない。
こうなったら――トランスフォーム!」
だが、すぐに意を決して再起した。ロボットモードとなると周囲を見回し、
「どこかの部屋からハッキングして、マップを手に入れよう」
そんなことをすれば敵にもこちらの居場所を知らせてしまうことになる。できれば使いたくなかった手だったが、背に腹は変えられないというヤツだ。
どこかロックの甘そうな部屋はないかと周辺の様子をサーチし――
「………………あれ?」
気づいた。
ただ1ヶ所、魔力が異様に満ちている部屋がある。
研究施設なのかと一瞬考えるが――
「ここ……居住区だよね……?」
目の前にあるプライベートエリアを示す表示がその仮説を否定した。
「じゃあ、なんであんなに魔力が……?」
不思議に思い、ジャックプライムは問題の部屋の前に立った。
意を決して扉を開き――
「ギャラクシーコンボイ達の隠れ家で戦闘だと?」
〈はい!〉
尋ねるマスターメガトロンに、通信してきたインチプレッシャーは勢いよくうなずく。
〈どうやら、襲ってきてるのはメガザラックの部下サマご一行のようですけど……どうします?〉
「決まっている」
インチプレッシャーに答えると、マスターガルバトロンは立ち上がり、
「探索に出ているガスケット達を呼び集めろ。オレもすぐに行く」
〈了解!〉
答え、インチプレッシャーが通信を切ると、となりでフレイムコンボイもまた笑みを浮かべて立ち上がった。
「やれやれ、やっと出番か。
あのキングコンボイとかいう小僧にようやくリベンジできるというものだ」
「魔法を使うコンボイ――エルダーコンボイとかいうオイボレは大した事はなかったが、若さが加わるとあぁも化けるか……
油断し、不覚を取ったが――今度は油断はない。
全力で――叩きつぶしてやる」
自信たっぷりでつぶやくマスターメガトロンだったが――彼らは知らない。
肝心のキングコンボイ――ジャックプライムが、サイバトロンシティにいないということを。
「ほぉ……ずいぶんとハデに動いたようだな、メガザラックも……」
一方、スカイクェイク達ホラートロンも、レオザック達によるサイバトロンシティ強襲の報せを受けていた。
「狙いは、やはりプラネットフォースでしょうか……?」
「普通に考えれば、そうだろうな」
尋ねるレーザークローに答え、スカイクェイクはすぐに命令を下した。
「ハングルー、タートラー。
チームを率いてサイバトロンシティへ向かえ。
どうせマスターメガトロンがちょっかいを出すだろうが、ダメ押しだ――存分に暴れて、場を濁してやるがいい」
「スカイクェイク様は?」
尋ねるタートラーに、スカイクェイクは笑みを浮かべて答えた。
「メガザラックは出てきていないのだろう? ヤツを探す。
あ奴も武人――先陣に立って部下を鼓舞するタイプだ。それが出てこないとなれば、相応の理由があると考えていいだろう。
レーザークロー。アニマトロンを全員召集だ。
メガザラックの母艦を探す――お前達の鼻、頼りにさせてもらうぞ」
「かしこまりました」
元々トランスフォーマー用なのかずいぶんと広い室内は見るからに人間の子供、小学生くらいの年頃の子供に配慮したとわかる内装が施されている。
そして、ジャックプライムの視線が向いたのはその壁際の一角――ベッドの上にパジャマ姿で座り、こちらに驚きの表情を向けていたのは――
「――――フェイト!」
思わず声を上げ、ジャックプライムは部屋の中へと足を踏み入れた。
「よかった……無事だったんだ!
なのはも心配してる! 早く帰ろう!」
フェイトの座るベッドへと駆け寄り、ジャックプライムはそう告げて――ふと違和感を感じた。
彼女の様子がおかしい。驚きの中には明らかに困惑の色が浮かび、こちらに向けて訝しげな視線を向けている。
「………………どうしたの?」
尋ねるジャックプライムだったが――フェイトは逆に彼に尋ねた。
「キミは………………誰……?」
(初版:2006/12/17)