「ぅわぁっ!?」
落下は一瞬――思わず地面との激突を覚悟した恭也だったが、その身は落下することなく空中で静止した。
いや、静止したというより――
「重力が……ない……!?」
同様に空中で静止したリンディがつぶやくと、
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
「でぇぇぇぇぇっ!?」
こちらは重量がある分勢いが消えなかったのか、フレイムコンボイとギガストームはまともに地面とキスしていた。
そして――
「リンディ提督! 恭也さん!」
「二人とも、ご無事ですか!?」
彼らに続いてユーノとトゥラインが、そしてパーセプターと彼に抱えられたエイミィもワープアウトしてくる。
「みんな、無事か!?」
「な、なんとかな……」
「真下の二人を除いてね」
尋ねる恭也にシグナムが、そして眼下で目を回すフレイムコンボイ達を見ながらパーセプターが答え――
「それにしても……ここは……!?」
周囲を――明かりの消えた広間らしき部屋の中を見回し、ユーノは不安げにそうつぶやいた。
第56話
「破壊大帝、復活なの!」
《何だ、この黒い霧は……?》
漆黒の闇の中を漂い、それはボンヤリと周囲を認識していた。
《オレは……死んだのか……?
だが……ヤツらはオレが見えているようだ……》
つぶやき、それは――“黒い霧”に包まれたマスターメガトロンは自らの右手へと視線を落とす。
《そうだ……オレは生きている……
だが、何故だ……? オレはプラネットフォースによって初期化されたはず……》
「マスター、メガトロン……!」
上空に佇む、“黒い霧”に包まれたマスターメガトロンをにらみつけ、ロディマスブラーは両手のロディマスライフルをかまえるが――
「待て!」
それを止めたのはニトロコンボイだった。
「よく見ろ。
何か……様子がおかしい」
ニトロコンボイの言うとおり、“黒い霧”に包まれたマスターメガトロンは空中に佇んだまま動かない――まるで自分の意識がハッキリしていないかのようだ。
やがて、ゆっくりと降下を始めるが、それも自分の意思によるもの、というよりただ単に重力に捕まっただけのようだ。
「とにかく追うぞ!」
「お、おぅ!」
とにかく、もし本当にマスターメガトロンがよみがえったのだとすると放っておくワケにはいかない。エクシゲイザーの言葉にニトロコンボイがうなずき、彼らやバンガードチームの面々はマスターメガトロンの予想降下地点へと向かう。
「あの霧は……一体、何だ?」
「うむ……」
うめくライブコンボイの言葉にソニックコンボイが考え込むと、
〈ソニックコンボイ!〉
突然、アレックスから通信が入った。
〈大変です!
ノイズメイズに、ホップくん達がさらわれて……!〉
「なんだって!?」
思わずソニックコンボイが声を上げると、
「私が行こう!」
「頼む!」
真っ先に名乗りを上げたのはワープに精通するベクタープライムだ。跳躍し、ビークルモードとなってスカイドームへと飛翔した。
「しっかりしろよ、相棒!」
「……ぅ……ぁ…………っ!」
急ぎ戻ると、ランドバレットはすでに――必死に呼びかけるガスケットだが、ランドバレットは弱々しくうめき声を上げるばかりだ。
「くそっ、なんとか助けられないのかよ……!?」
うめくが、どうすることもできず、インチプレッシャーは天を仰ぎ――
「………………ん?」
それに気づいた。
上空からゆっくりと降下してくる――“黒い霧”に包まれたマスターメガトロンである。
「マスターメガトロン様!」
「ランドバレットが……ランドバレットが!」
ガスケットとインチプレッシャーが声を上げるが――返事はない。ただその場に佇み、彼らを見返すのみ――
《マス………ガ……ン様!》
《……ド……ットが……ラン……レ……が!》
《どうした……何を言っている……?》
ガスケットとインチプレッシャーがいる。だが、その言葉はよく聞こえない――“黒い霧”の中で、マスターメガトロンは眉をひそめた。
見ると、彼らの足元に倒れているのは――
《ランドバレットか……?
ランドバレットがどうした……?》
思考をめぐらせるが、頭の中にまで霧がかかったかのように意識がハッキリしない――それでも、マスターメガトロンはわずかに地面から浮かんでいる身体を彼らの方へと前進させていく。
だが――そんなマスターメガトロンを狙う者がいた。
生き残っていたランブルだ。マスターメガトロンへと狙いを定め、背中のキャノン砲が放たれ――しかし、その攻撃はマスターメガトロンの“黒い霧”に飲み込まれてしまう。
業を煮やして跳躍、マスターメガトロンに襲いかかるランブルだったが――今度はその身体に“黒い霧”がまとわりつく。
危険を察知し、離脱しようとするランブルだったが――すでに手遅れだった。その身はあっという間に“黒い霧”に包まれ、みるみる内に飲み込まれ、消滅してしまった。
「今の、見たか……!?」
「え、えぇ……!」
その光景は、物陰に隠れているニトロコンボイ達も目の当たりにしていた――うめくロディマスブラーに、ロングマグナスは呆然とつぶやく。
「ノエル……どうですか?」
「解析不能です。
あの“黒い霧”には、既存のデータでは解析しきれない未知のエネルギー体が含まれています」
尋ねるハイブラストだが、ライドスペースに座るノエルの答えは芳しくない。
そうしている間にも、マスターメガトロンはゆっくりとガスケット達の元へと進んでいく。
思わずガスケットやインチプレッシャーが後ずさる中、静かにランドバレットへと手をかざし――そこから伸びた“黒い霧”がランドバレットを包み込んでいく。
やがて、ランドバレットの身体が“黒い霧”に飲み込まれ――
「……ぎ……ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
唐突に、ランドバレットの絶叫が響き渡った。続いて金属がひしゃげる轟音が“黒い霧”の中から聞こえてくる。
「ま、マスターメガトロン様!?
ランドバレットに何を!?」
あわてて声を上げるガスケットだが、マスターメガトロンは一切反応を見せず、ランドバレットの身体を襲う異変も止まらない。
「まさか……!」
先ほど飲み込まれたランブルのことを思い出し、うめくインチプレッシャーだったが――
唐突に異変が、そして絶叫が止まった。
そして――
「…………どしたよ? お前ら」
『え………………?』
かけられた声にガスケットとインチプレッシャーが顔を上げると、ランドバレットの身体を包む“黒い霧”はゆっくりと晴れていき――
「お、お前、誰だ!?」
そうガスケットが声を上げたのもムリはない。
全体的なフォルムは変わらないものの――ランドバレットはその姿を漆黒に染めていたのだから。
よく見ると、細部の装飾も微妙に変化している。
だが――当のランドバレットは自分の身体に起きた変化に気づいていないようだ。首をかしげて聞き返してくる。
「誰って……オレだよ。ランドバレットに決まってるじゃねぇか?」
「ら、ランドバレット、って……
お前、その身体を見てから今のセリフをよーく考えてみろ」
「はぁ?」
インチプレッシャーの言葉に、ランドバレットは自分の身体に視線を落とし――
「な、何だ、こりゃ!?」
ようやく自分の変化に気づいて声を上げる。
「ま、まさかお前……転生しちまった!?」
「転生……?
言われてみりゃ、そうかも……」
うめくガスケットに答え、ランドバレットはなおもしばらく自分の新たな身体を観察し、
「だったら、名前も変えなくちゃな!
今日からオレは――アームバレット様だ!」
そうガスケット達に告げると、ランドバレット改めアームバレットは名の由来であろう自らの豪腕を振り上げてみせた。
《ランドバレットが転生した……
この“黒い霧”のせいか……》
つぶやき、マスターメガトロンは“黒い霧”に包まれた自らの右手に視線を落とした。
《今なら、なんとなくわかる……
この霧が、オレを初期化から救ってくれたのか……
……おもしろい。どうやらオレは、また新しい力を手に入れたようだ……》
ほくそ笑むマスターメガトロンの前で、アームバレットはビークルモードへとトランスフォーム。自らの新しい身体の調子を確かめるかのようにガスケットと共に走り回る。
と――
「おっと、あれは……?」
その拍子に、アームバレットは物陰に隠れてこちらの様子をうかがっているニトロコンボイ達に気づいた。
「ちょうどいい!
アイツら相手に暴れようぜ!」
「合点!
ランド……じゃない、アームバレット!」
告げるアームバレットにガスケットが答え、インチプレッシャーを加えた3人はニトロコンボイ達へと向き直って停車する。
「来るぞ!」
「あぁ!」
うめくエクシゲイザーにロディマスブラーがうなずくと同時――アームバレット達は一斉にこちらに向けて走り出す!
対するのはスピーディア以来因縁のあるニトロコンボイ、エクシゲイザー、ロディマスブラーの3人だ。ビークルモードにトランスフォームし、アームバレット達に突撃するが――
「フォースチップ、イグニッション!」
彼らの体当たりをかわし、アームバレットはロボットモードにトランスフォームするとフォースチップをイグニッション。両肩のバズーカが起動する。
その名も、ランドバズーカ改め――
「アームバズーカ!」
咆哮と共に発砲。放たれた強力なビームが、ニトロコンボイ達の足元を爆砕する!
「ぐわぁっ!?
大丈夫か、耕介!?」
「な、なんとかな……!」
「すずか!?」
「うん……わたしも大丈夫……!」
ニトロコンボイとエクシゲイザーの問いに答える耕介やすずかの表情は緊張に満ちている――警戒を強めずにはいられないほど、アームバレットのパワーは向上していた。
一方、アームバレット達は余裕シャクシャクだ。
「わははははっ!
どうだ! 生まれ変わったボクちんの力を!」
「って、違うよ。
生まれ変わったのはオイラだい!」
調子に乗ってふんぞり返るガスケットをアームバレットがたしなめると、
「いい気になってんじゃないわよ!
バックギルド!」
「あぁ!」
『フォースチップ、イグニッション!』
そんな彼らに対し、アリサとバックギルドがイグニッション。展開されたグランドバズーカとツインサーチミサイルをかまえるが――
「――危ない!」
その背後にインチプレッシャーが迫っていた――不意打ちで振り下ろされたダブルヘッドハンマーを、メビウスショットがメビウスブレードで受け止める。
「オレの相手はお前かい?」
「その余裕も――ここまででござる!」
インチプレッシャーに答え、メビウスショットは彼を力任せに押し返し――
「師匠!」
「うん!」
告げるメビウスショットの言葉に美由希が動いた。投げつけた飛針がインチプレッシャーの右腕、その関節部にねじ込まれる。
「くそっ、何だ、こりゃ!?」
うめき、飛針を引き抜こうとするインチプレッシャーだが、人間の美由希の使う飛針は彼にとっては細く、なかなか引き抜くことはできず――
「拙者を忘れてはいないか!?」
そんなインチプレッシャーを、メビウスショットが弾き飛ばす!
「リンディ提督達からの連絡は!?」
「いえ……今のところ、何も……」
こちらはスカイドーム――駆けつけたベクタープライムの問いに、アレックスは力なく肩を落とす。
すぐに救出に向かえるようなら、とブレイズリンクスや知佳、ドレッドバスターと志貴も同行してきていたが、今のところ彼らにできる事はない。
ともかく、リンディ達の行き先がわからなければどうしようもない――ベクタープライムは通信回線を開き、ファストガンナーを呼び出した。
「ファストガンナー、来てくれ!
解析を手伝ってくれ!」
「わかった。すぐに向かう!」
ベクタープライムの言葉に、ファストガンナーはすぐに同意した。バックギルドと顔を見合わせ、エクシゲイザー達に告げる。
「エクシゲイザー、すずか。
ここは任せていいか?」
「あぁ!」
「恭也さん達をお願いします!」
エクシゲイザーとすずかの答えを聞き、ファストガンナーはビークルモードにトランスフォーム、バックギルドと共にスカイドームへと向かう。
「逃がすかよ!」
そんなファストガンナー達にエグゾーストショットをかまえるガスケットだったが、
「させるかよ!」
その背後から、ガスケットを蹴り飛ばしたのは――
「て、てめぇ!?」
「よぅ」
身を起こし、うめくガスケットにライガージャックは余裕の笑みと共に答える。
「てめぇがここにいるってことは――」
イヤな予感がする――ガスケットはあわてて周囲を見回し――
「遅いっての♪」
すでに遅かった。衝撃波を伴ったアルクェイドの一撃が、ガスケットを天高くブッ飛ばしていた。
「プリムラ!」
《了解っ!》
繰り出された一撃をかわし、スカイクェイクと対峙するなのはの指示で、プリムラは彼女から分離し、
《プリムラ、ビークルモード!》
エネルギープールをタイヤに、翼をカウルに変形させ、高速バギー形態に変形する。
そして――
《「フォースチップ、イグニッション!」》
二人の叫びが交錯。プリムラの背中から車体後部に移ったチップスロットへと黄色の――ミッドチルダのフォースチップが飛び込み、タイヤがさらにホバーユニットへと変形。ホバーボードとなったプリムラはなのはを乗せて上空高く舞い上がる。
そして、レイジングハートをかまえたなのはと共に一転、急降下し――
《「パニッシャー、スコール!」》
なのはのイグニッションパニッシャーが、プリムラが口から放った魔力熱線と共にスカイクェイクへと降り注ぐ!
だが、スカイクェイクも負けてはいない。素早く後退して回避し、
「フォースチップ、イグニッション!
デス、シザース!」
こちらもフォースチップをイグニッション。飛行ユニットとして背中に戻していたデスシザースをかまえる。
「デスシザース、バスターモード!」
咆哮、かまえると同時に発砲――放たれた閃光は一直線になのはへと襲いかかるが――
《させるもんか!》
それにはプリムラが対応した。スケイルフェザーを射出するとなのはの前面に展開。防壁となってスカイクェイクの一撃を防ぐ。
そして――
「なのはに――!」
「何してんのさ!」
スカイクェイクを挟撃するように、キングコンボイとフェイトが突撃する!
「グァオァアァァァァァッ!」
咆哮と共に大きく背を反ると、ダイナザウラーは口から熱線を放射。グランダスを狙う。
だが、グランダスとてダイナザウラーと同じ戦艦トランスフォーマーだ。ガードを固めて熱線に耐えると、そのままダイナザウラーに向けて突き進む。
対し、ダイナザウラーは再び熱線を放つべく口を開け――
「させるものか!」
それを阻んだのはフォートレスだった。マキシマスと合体したその巨体で、ダイナザウラーを思い切り殴り倒す。
「フォートレス……!?」
「すみません。助かりました」
「礼には及ばない」
「アレを撃たれたら、シグナム達まで巻き込まれちゃいますからね」
グランダスとさつきにフォートレスとシャマルが答えると、ダイナザウラーはゆっくりと身を起こし、こちらに向けて低く唸り声を上げる。
「おやおや、どうやら怒らせてしまったようだな。
シャマル、しっかり捕まっていろよ」
「さつきもだ。
いくら死徒といえど、痛い思いはしたくないだろう?」
こちらに対して怒りをあらわにするダイナザウラーに対し、フォートレスマキシマスとグランダスがそれぞれの相棒に告げ――次の瞬間、ダイナザウラーが地を蹴った。ものすごい勢いでグランダス達に襲いかかる!
「これでもくらえ!」
一方、マスターメガトロンと対峙するロングマグナスやハイブラストの元にはファングウルフやシックスナイト、そしてホットスポット達プロテクトボットが駆けつけていた――オートボルトを先頭に一斉攻撃を仕掛けるが、マスターメガトロンの周囲の“黒い霧”がその攻撃のすべてを飲み込んでしまう。
「それなら!
シックスナイト、トランスフォーム!」
状況を打破すべく、動いたのはシックスナイトだ――美沙斗を残してトランスフォームし、巨大なレーザーガンとなるとサイズシフトで縮小。オートボルトの手の中に納まる。
「美沙斗!」
「あぁ!」
『フォースチップ、イグニッション!』
そして、美沙斗と共にフォースチップをイグニッション。脚部が変形した銃身の中からさらに新たな銃口が姿を現し、
『シックス、メガバスター!』
オートボルトの照準で発射。強烈なビームがマスターメガトロンに襲いかかる――が、これも通じない。“黒い霧”がマスターメガトロンの前面に集まって防壁となり、シックスナイトの渾身の一撃すらも弾き飛ばしてしまう。
「おいおい……あの霧、なんとかならないのかよ……」
「そんなコト言われたって……!」
まさに『のれんに腕押し』状態だ――思わずこぼすブロードキャストにアイリーンがうめくと、
「みんな!」
「大丈夫!?」
そこに、ガスケットを片付けたライガージャックとアルクェイドがニトロコンボイや耕介と共に駆けつけてきた。
「いや……悔しいが、今のヤツには何をやってもダメだ!」
うめき、オートボルトは改めてマスターメガトロンをにらみつける。
「あの“黒い霧”さえなんとかできれば……!」
「けど、どうやって?」
つぶやくロングマグナスに那美が尋ねると、
「なら……オレがあの霧を吹き飛ばしてやる!
トランスフォーム!」
告げると同時、ビーストモードへとトランスフォーム――ライガージャックが地を蹴り、マスターメガトロンへと突撃する!
「やめろ、ライガージャック!」
「お前まで取り込まれるぞ!」
先ほどランブルが飲み込まれた一連の流れを思い出し、制止の声を上げる耕介とニトロコンボイだったが、
『フォースチップ、イグニッション!
プラティナム、クロー!』
ライガージャックはかまいはしない。アルクェイドと共にフォースチップをイグニッション。両前足にプラティナムクローを展開する。
そのままマスターメガトロンに一撃――だが、その周囲の“黒い霧”に、プラティナムクローもまた受け止められてしまう。
すぐさまライガージャックに“黒い霧”がまとわりつく――だが、
「こん…………のぉぉぉぉぉっ!」
咆哮と共に、ライガージャックは一気に爪を振り抜き、力任せに“黒い霧”を斬り裂く!
「やったぜ!」
ついに“黒い霧”を排除した――思わず声を上げるオートボルトだったが、
「いや……待て!
様子がおかしい!」
ファングウルフが叫ぶと、マスターメガトロンの口元に笑みが浮かび――次の瞬間、その周囲にすさまじい光が放たれる!
「な、何だ!?」
そのまぶしさに、ライガージャックは思わず目を伏せて後ずさり、その目の前で光は徐々に収まっていく。
そして――
「ククク……
…………ふははははっ!」
ついに“黒い霧”の中から解き放たれ、完全復活を遂げたマスターメガトロンが高笑いを上げる。
そう。あの“黒い霧”は確かにマスターメガトロンを守っていた――初期化から逃れはしたものの、ファイヤースペース消滅によって次元の狭間に落ち込んだマスターメガトロンをこの次元世界につなぎとめる、一種の命綱のような役割を果たしていたのだ。
だが、こちらの次元世界へ完全に戻るにはパワーが足りず、その結果、マスターメガトロンを“黒い霧”の中に封じ込めていた――マスターメガトロンを守ると同時、その帰還を阻んでいたのである。
しかし、ライガージャックの一撃はその“黒い霧”にほころびを生じさせ、結果としてマスターメガトロンの復活を許してしまったのだ。
「な、なんてこった……!
マスターメガトロンが、復活しやがった……!?」
「くそ……っ!
オレが復活させちまった、ってのか……!?」
ファングウルフの言葉にライガージャックがうめいた、その時――マスターメガトロンの足元でくすぶっていた“黒い霧”の残滓が動いた。渦を巻き、ライガージャックに襲いかかる!
「な、何だ、コイツ!?」
「ライガージャック!」
「大丈夫か!?」
とっさにファングウルフとニトロコンボイが助けに向かうが――そんな彼らにも、“黒い霧”は容赦なく襲いかかる!
「ヤバいな……!
ニトロコンボイ!」
「あぁ!」
このままでは3人とも危ない――ファングウルフに答えるとニトロコンボイはなんとかライガージャックを捕まえ、ファングウルフと共に“黒い霧”の中から脱出する。
「す、すまねぇ……!」
「礼なら後だ。
どうやら、あの“黒い霧”はまだ活動しているらしい……!」
ニトロコンボイがライガージャックに告げると、再び“黒い霧”に異変が起きた。三つに分かれ、収束すると何かの形を作り出していく。
その姿とは――
「何ぃ!?」
「そんな……!?」
「バカな……!?」
驚愕するライガージャック達3人の前に、“黒い霧”から作り出された“3人”は堂々と佇む。
「ほぅ、これはこれは……」
対し、マスターメガトロンは新たに生み出されたその存在に思わず笑みを浮かべた。
「“黒い霧”は失ったが、代わりにおもしろいものが手に入ったか……」
余裕の笑みと共につぶやくと、さっそくマスターメガトロンは指示を下した。
「今日からお前達はオレ様を守る漆黒の騎士――“暗黒三騎士”だ。
さぁ、ゆけい! ダークライガージャック!
ダークファングウルフ!
ダークニトロコンボイ!」
その言葉と共に、黒いライガージャック、ファングウルフ、ニトロコンボイは一斉に動いた。言語機能を持たないのか、無言のままそれぞれのオリジナルへと襲いかかる!
「くそっ、何者だ、てめぇ!」
「おそらく、あの“黒い霧”がオレ達をコピーしたんだ!」
漆黒の自分と組み合い、うめくライガージャックに答え、ファングウルフは自分にかみつこうとしたダークファングウルフの攻撃をかわす。
「マスターメガトロンから切り離された“黒い霧”が、存在を保つためにオレ達の姿を借りて具現化した、ということか……!」
「そんなニセモノに、負けるものか!」
耕介の言葉に答え、ダークニトロコンボイと対峙するニトロコンボイだが、今のところ両者の力はまったくの互角――姿だけでなく、戦闘経験などを含めた思考や記憶までそっくりコピーされているようだ。
そしてそれはライガージャックとダークライガージャック、ファングウルフとダークファングウルフも同様らしく、両者は一度間合いを取り、ロボットモードにトランスフォームして仕切り直す。
「フンッ、なかなか使える連中だ……」
その光景を前に、マスターメガトロンは余裕の笑みを浮かべてつぶやき、
「だが、お楽しみはこれからだ……
ダークライガージャック!」
自身の呼びかけにダークライガージャックがうなずくのを確かめ――告げる。
「リンクアップだ!」
「な、何だと!?」
驚くライガージャックだが、ダークライガージャックはそんな彼にかまわず跳躍――両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な左腕に変形する。
同時、マスターメガトロンの左腕も変形。一部をボディ内部に収納する形で折りたたみ、本来の腕の甲にあたる部分にジョイントが露出する。
そして、左腕となったダークライガージャックがそのジョイントに合体。先端に収束した光が拳を作り出し、マスターメガトロンは高らかに新たな自分の名を名乗った。
「ライガー、メガトロン!」
「り、リンクアップしただと!?」
「バカな……!
コンビネーションスパークもなしに、どうやって……!?」
ダークライガージャックとのリンクアップを遂げ、大地に降り立つライガーメガトロン――その威容を前に、ファングウルフとニトロコンボイが思わずうめき――
「だから……どうしたぁっ!」
しかし、ライガージャックはひるまなかった。咆哮と共にライガーメガトロンへと襲いかかるが――
「今さら――貴様ごときが!」
合体したライガーメガトロンのパワーは圧倒的だった。左拳の一撃で、ライガージャックを殴り飛ばす!
「あれは……!?」
「マスターメガトロンが、リンクアップしたのか……!?」
その様子には、ソニックコンボイや彼と戦うオーバーロードも気づいた。斬り結ぶ手が止まり、思わずライガーメガトロンに視線を向ける。
「ほぉ……復活しただけでなく、新たな力まで得たか……」
同様に、スカイクェイクもまたなのはとの戦いを中断し、ライガーメガトロンの様子をうかがう――そのスキに、なのははソニックコンボイと合流し、
「ソニックコンボイさん、あのままじゃ……!」
「わかっている。
ライブコンボイ、真一郎! ここを頼む!」
どうすべきかは確認するまでもない――ライブコンボイにこの場を任せ、ソニックコンボイはライガーメガトロンの元へと跳ぶ。
「逃がすか!」
そんなソニックコンボイの行動に気づき、両肩のキャノンをかまえるオーバーロードだったが、
「そうはいかないよ!」
その前にライブコンボイが立ちふさがった。棍形態のジャイロソーサーをかまえ、オーバーロードと対峙する。
「お前の相手はオレ達だ!」
「ほざくなよ――若造どもが!」
ライドスペースから告げる真一郎に言い返し、オーバーロードは彼らに向けて突進し――!
「フンッ、次はどいつだ?」
傍らにダークファングウルフとダークニトロコンボイを従わせ、ライガーメガトロンは悠々とニトロコンボイ達に告げる。
「くそっ、ライガージャックを一撃でブッ飛ばすなんて……!」
「とんでもないバカ力ね……!」
あのパワーが相手ではうかつに仕掛けられない。オートボルトの言葉にエリスがうめき――
「ならば――私が相手だ!」
その言葉と同時、ソニックコンボイが飛来した。勢いのままにライガーメガトロンを体当たりで弾き飛ばす!
「くっ、このぉっ!」
対し、ライガーメガトロンはなんとか踏ん張り、反撃すべく拳を握りしめ――
「そうは――!」
「させるもんか!」
対応したのはなのはとフェイトだ。なのはのバスターレイとフェイトのファルコンランサーがライガーメガトロンへと降り注ぎ、
「追撃――いただき!」
その攻撃にまぎれて接近したキングコンボイが、ライガーメガトロンの顔面に思い切り跳び蹴りをお見舞いする!
だが――
「おのれ……!」
「うっわー、タフー……」
「防御力も、相当パワーアップしてるみたいだね……」
それでもライガーメガトロンは倒れない。体勢を立て直し、こちらをにらみつけるのを見てキングコンボイとフェイトが思わずつぶやく。
「どうする?
ソニックコンボイの攻撃力じゃ、フルバーストだって当たったところで効きゃしねぇぞ、きっと」
「わかっている。
リンクアウト!」
尋ねるソニックボンバーに答え、ソニックコンボイは彼と分離するとライガージャックへと向き直り、
「ライガージャック!
こちらもリンクアップだ!」
「本物の力、見せつけてあげよう!」
「お、おぅ!」
分離したギャラクシーコンボイとフェイトに答え、ライガージャックは力強くその場に立ち上がった。
「いくよ――みんな!」
言って、フェイトがバルディッシュをかざし――その中枢部から光が放たれる。
その中で、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『ギャラクシー、コンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが右腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な右腕に変形する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
フェイトを加えた5人の叫びと共に、右腕となったライガージャックがギャラクシーコンボイに合体する!
背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャックの変形した右腕に拳が作り出され、5人が高らかに名乗りを上げる。
『ライガァァァァァ、コンボイ!』
その頃、スカイドームでは――
「おそらく……スタースクリームのアジトにワープしたんだと思う。
だが……一体そこがどこなのか……!」
ベクタープライムの応援として駆けつけ、とりあえずの分析を終えたファストガンナーは一同を前に自らの仮説を述べる。
「地球の、火山島基地じゃないのか?」
尋ねるバックギルドには、アレックスが首を左右に振って見せた。
「さっきダイバーやアーシー達に見に行ってもらったけど……もぬけの殻だって」
「くっ…………!
パーセプター達もいるんだろ?――なんで通信してこないんだ!?」
バックギルドが思わずうめくと、
「ひょっとして……」
口を開いたのはアリサだった。
「敵のアジトのド真ん中なんだもの――通信を妨害されてるんじゃ……」
「どうですか?」
「ダメですね……外部との連絡が取れません」
「こっちもです。
妨害されていると考えるのが、自然でしょうね……」
尋ねるリンディに、パーセプターとトゥラインはため息まじりにそう答えた。
アリサの懸念は的中していた。ワープの際にはぐれることもなく無事にワープアウトしたリンディ達だったが、そこから外部との連絡が取れずにいた。
「なんとかして、ここを脱出してホップ達を助けないと……」
「けど、そもそもここがどこなのか……」
つぶやくエイミィにユーノが告げると、
「それよりも、だ」
そんな彼らにシグナムが声をかけた。
「彼らはどうする?」
そう尋ねるのは、未だに目を回しているギガストームとフレイムコンボイのことだ。
どちらにせよゲートに飛び込む予定ではあったが、元々二人の争いが原因でこの場に飛ばされてしまったようなものだ――目覚め、また争われても面倒だ。
一同が考え込む中――真っ先に口を開いたのは恭也だった。
「ある程度話の通じるフレイムコンボイを起こしましょう。
ギガストームに先に起きられると、どう考えても話がややこしくなりますし」
その意見に、反対する者はいなかった。
「くらえぇっ!」
「おっと!」
ビークルモードで疾走、ガスケットの体当たりをかわすロディマスブラーだったが、
「オラオラオラァッ!」
咆哮し、今度はアームバレットが体当たり。壁とはさみ込んで弾き飛ばす!
「見たか! 生まれ変わった、友情のタッグ攻撃!」
すっかり調子に乗って叫ぶアームバレットだったが――
『フォースチップ、イグニッション!』
その後方にはエクシゲイザーとすずかが控えていた。フォースチップをイグニッションし、
『ダブル、エクスショット!』
放たれたミサイルの雨が、アームバレットとガスケットを吹き飛ばす!
「やられっぷりは……ちっとも変わってないのな……」
「すまねぇ……」
黒こげになった顔を見合わせて言葉を交わし――アームバレット達は大地にブッ倒れた。
『フォース――』
『――チップ!』
「イグニッション!」
ライガーコンボイとなのは、ライガージャックとアルクェイド、そしてフェイト――3組の声が響き、飛来したアニマトロスのフォースチップがライガーコンボイの右腕のチップスロットに飛び込む。
そして、右腕のプラティナムクローを展開したライガーコンボイはそれを天高く掲げ――その全身がフォースチップの“力”の輝きに包まれる!
だが――
「フォースチップ、イグニッション!」
それはライガーメガトロンも同じだった。フォースチップをイグニッションし、ダーククローを展開する。
そして――
『ライガー、グランド、ブレェイク!』
「ライガー、デスブレイク!」
咆哮と共に突進――ライガーコンボイとライガーメガトロン、双方の一撃が激突する!
ぶつかり合ったそのエネルギーはすさまじく、二人の周囲で渦を巻き、激しく荒れ狂う。
「ライガーコンボイさん!」
思わずなのはが声を上げ――次の瞬間、双方のエネルギーが弾けた。解き放たれたすさまじい衝撃波が、敵味方関係なくその場にいるすべての者を吹き飛ばし――!
「……いたた……」
《大丈夫ですか?》
最初に気がついたのはフェイトだった。身を起こす彼女に、ジンジャーが気遣いの声をかける。
「ライガーメガトロンは!?」
すぐに敵の姿を確認するが、ライガーメガトロンはもちろん、ダークニトロコンボイやダークファングウルフの姿もない。
「いない……?」
「どこに行った……?」
同様に身を起こし、なのはとライガーコンボイがつぶやくと、
〈マスターメガトロン発見!〉
そう連絡してきたのはソニックボンバーだ。
〈チップスクェアに向かってるぞ!〉
「えぇっ!?」
「くっ、先を越されたか……!」
思わず声を上げるなのはのとなりでうめき、ライガーコンボイは一同へと通信し、
「マスターメガトロン達に、チップスクェアを奪われてはならない!
全員で阻止するんだ!」
「なんだって!?
マスターメガトロンが!?」
その報せはヴィータと対峙するクロノの元にも届いていた。ヴィータのラケーテンハンマーをかわしてクロノがうめくと、
「くそっ、出し抜かれたか!
ビクトリーレオ! 追うぜ!」
うめいて、ヴィータはクロノにかまわず戦線を離脱。ビクトリーレオと共にチップスクェアへと向かう。
そして――
「ちっ、ギャラクシーコンボイ達め、マスターメガトロンを抑えきれなかったか……!」
ライブコンボイ、スカイクェイクとの三つ巴の戦いの戦いを繰り広げていたオーバーロードも動いた。ビークルモードの重戦車形態からさらに重爆撃機形態へと変形、一足先にチップスクェアを目指し、
「しまった!」
「逃がすものか!」
ライブコンボイとスカイクェイクもそれを追う――
「あらら……
行っちまいやがった……」
主の敗退と予期せぬマスターメガトロンの復活――うかつに乱戦に飛び込むようなマネはせず、隠れて様子をうかがっていたワイルダーは、一同がチップスクェアに殺到していくのを見ながら肩をすくめてつぶやいた。
振り向き、暴れたがっているスナップドラゴンとエイプフェイスを必死に押さえつけているサイクロナス達に尋ねる。
「おい、どうするよ?」
「どう、するって……言われても!」
「スーパースタースクリーム様がいないんじゃ……出てってもあっと言う間にやられちまうって」
ワイルダーの問いに、ブルホーンとキャンサーがスナップドラゴンの怪力に振り回されながら答えるが、
「何よ何よ、だらしないわね!」
そんな彼らに対してキレたのはクロミアだ。
「まったく、男のクセして、情けないったらないわ!」
「戦いに飽きて、真っ先に引っ込んだのは誰だよ……」
思わずうめくワイルダーだが、そんなものでクロミアが黙るワケがない。
「うるさいわね! 私はいいのよ、私は!」
言って、クロミアは彼らに背を向け、足早にその場を後にする。
「おい、どこに行く!?」
「もうアンタ達とつるむのなんてウンザリよ! 口うるさいったらありゃしない!」
尋ねるサイクロナスに、クロミアはそう言い放ち、
「アンタやスーパースタースクリームについて行くくらいなら、あのマスターメガトロンにくっついて行った方がまだマシよ!
じゃあね!」
「こ、こら! 待てクロミア!」
あわてて声を上げるサイクロナスだが、クロミアはかまわず水上艇へとトランスフォーム。底部からエネルゴンの波動を噴射し、まるでホバークラフトのように飛び去っていってしまった。
「……どうする? サイクロナス」
「どうするもこうするも……もうこうなったら行くしかないだろ」
ワイルダーに答え、サイクロナスは一同に告げた。
「スナップドラゴンとエイプフェイスを放せ。
オレ達もチップスクェアに向かうぞ!」
サイバトロン、ヴォルケンリッター、マスターメガトロン一派、混成デストロン、ホラートロン、そしてサイクロナス達――チップスクエアを巡って疾走する面々を、ビッグコンボイは近くのビルの上で静かに眺めていた。
なぜ戦いに加わらないのか?――その答えは、彼の背後に音もなく出現した。
「……遅かったな。
貴様のことだから、すぐさま乱入してくるかと思って待機していたんだが……おかげで戦いをサボってしまったぞ」
「それはすまなかったな。
だが、こちらにも都合というものがある」
あっさりと答え、現れたキラーパンチはビッグコンボイと対峙する。
「スカイクェイク達を連れてきたのは貴様だな?
一体何を考えているのか――聞かせてもらおうか」
「答える義理はない」
「言うと思ったさ。
ならば――」
あっさりと答えるキラーパンチに、ビッグコンボイは淡々とそう答え――
「力ずくで、聞き出すまでだ」
その言葉と同時、彼の視線に殺気がみなぎる。
「貴様が何を企んでいるのかは知らないが――魔法を操り、ミッドチルダにも現れたことから考えれば、貴様がキングコンボイ達かウィザートロンか、いずれかに関係していることは容易に想像がつく。
そして、魔法がからんでいる以上、シグナム達とも無関係ではあるまい」
そのままマンモスハーケンを抜き放ち、二刀流でかまえる。
「悪いが、オレの仕事は守護騎士達を守ることだ。
アイツらに危害が及ぶというのなら――全力で排除するまでだ」
だが――キラーパンチはそんなビッグコンボイの言葉にも動じることはなかった。淡々と答える。
「フンッ、こちらも貴様がどう思っていようと関係ない。
しかし――忠告はしてやろう」
そう言うと、キラーパンチは天を指さし、
「守護騎士達の天敵が、お出ましだぞ」
「なんだと……!?」
『守護騎士達の天敵』――その言葉の意味はすぐに理解できた。ビッグコンボイはキラーパンチの指さす先へと――セイバートロン星の上空へと視線を向け――
展開された巨大な魔法陣の中から、メガデストロイヤーがその姿を現した。
(初版:2007/01/21)