「ウィザートロン……ヤツらもやって来たか……!」
セイバートロン星の上空に出現したメガデストロイヤー、その巨体を見上げ、ビッグコンボイは思わずうめき――すぐに傍らのキラーパンチをにらみつけた。
「まさか……アレも貴様らの仕業か!?」
「さてな」
あっさりと答え、キラーパンチは大げさに肩をすくめて見せる。
「さて……どうする?
ヤツらもチップスクェアを目指しているようだが?」
キラーパンチの言うとおり、メガデストロイヤーはゆっくりとチップスクェアに向けて転進している――彼らの狙いもプラネットフォースである以上、チップスクェアを目指すのは当然だが――
「守護騎士の天敵とも言えるメガザラックを、あのまま放っておいていいのか?
お前の目的は、守護騎士達を守ることなのだろう?」
「く………………っ!」
キラーパンチの言葉に思わず歯噛みして――それでも選択の余地などなかった。
「ビッグコンボイ、ビークルモード!」
咆哮と共に重戦車形態にトランスフォーム。キラーパンチに背を向け、チップスクェアを目指して疾走した。
「……それでいい」
静かにつぶやき、キラーパンチはプライマスの背に見える巨大なチップスクェアへと視線を向けた。
「さて、このまま事態が泥沼になってくれれば、守護騎士プログラムといえどそう簡単にプラネットフォースを手に入れることはできまい……
どこがプラネットフォースを得ようとかまわんが……守護騎士達だけはマズい。
まだ、“闇の書”を完成させられるワケにはいかないからな」
つぶやき、自分達の“切り札”へと思いを馳せる。
「あと少しの間――“デュランダル”が完成するまで、事態を進められては困るんだよ……」
「……む…………ぐぅ……!」
うめき、気がついたフレイムコンボイは起動したカメラアイの画像解像度をゆっくりと調整していき――
「気がついたか、フレイムコンボイ」
「高町、恭也か……」
声をかけてきた恭也に、フレイムコンボイは身を起こして応える。
「オレ達は……どうなったんだ……?」
尋ねるフレイムコンボイに答えたのはシグナムだった。
「スカイドームで、我々を戦いに巻き込んでくれた貴様とギガストームがもつれ合って倒れてきたんだ。
その際、彼が――恭也が我々をかばってくれたのだが、その拍子に全員が全員ノイズメイズのワープゲートに飛び込んでしまい、今に至る」
「なるほどな……」
納得してうなずき――フレイムコンボイは尋ねた。
「それで……ギガストームは?」
「そっち」
あっさりと答え、エイミィが指さした先では――ギガストームは未だ意識を取り戻さずに転がっていた。
一応床と激突した痛みは退いたのか、その寝息はいつの間にかイビキと化している。
「まったく、のん気なものだ……」
フレイムコンボイがつぶやくと、
「ところで……」
そんな彼に、リンディが声をかけた。
「事態はかなりややこしいことになってきたみたいです。
ここがどこかもわかりませんし……お互い孤立無援ですからね」
「何が言いたい?」
「簡単な話です」
そう答え、リンディはニコリと笑って告げた。
「共同戦線、張りませんか?」
第57話
「アトランティスの迷路なの」
その頃、セイバートロン星では――ライガーコンボイの攻撃をかわしたマスターメガトロンはダークライガージャック達を従え、ビークルモードでチップスクェアを目指して疾走していた。
だが、そう簡単にチップスクェアにたどり着けるほど現実は甘くはない――背後から自分を狙った閃光をかわし、ロボットモードとなって追跡者と対峙する。
そして――
「宇宙の平和を守るため、貴様にチップスクェアは渡せん!」
「おとなしく降参してください!」
追いついてきたサイバトロンを代表し、すでにリンクアップを完了していたライガーコンボイとなのはが宣言する。
だが――
「フンッ、まだそのような偽善をほざくか!」
そんななのは達の言葉に従うつもりなど当然ありはしない。マスターメガトロンは二人の言葉を鼻で笑い、
「リンクアップ!
ライガー、メガトロン!」
ダークライガージャックとリンクアップ。ライガーメガトロンとなってなのは達と対峙する。
「またリンクアップ!?」
「なのは、下がっているんだ!」
うめくなのはに告げ、ライガーコンボイは彼女を守って前に出て――
「むぅんっ!」
「く………………っ!」
襲いかかってきたライガーメガトロンと迎え撃つライガーコンボイ、双方の拳が激突する!
しかし――
(ホップや恭也達が行方不明な以上、あまり時間をかけるワケには……!)
一刻も早く決着をつけ、ワープしてしまった面々の行方を追わなければならない。そんな懸念がライガーコンボイの集中を削ぎ――
「スキあり!」
そんなライガーコンボイに、ライガーメガトロンが右手で雷撃を叩きつける!
「もらった!」
大地に叩きつけられるライガーコンボイに向け、ライガーメガトロンは地を蹴り――
「させるかよ!
ビクトリーレオ!」
「おぅよ!」
ヴィータの言葉に跳躍。ビクトリーレオが飛び蹴りでライガーメガトロンを弾き飛ばす。そして――
「いっけぇっ!」
〈Baster ray!〉
そこへなのはが追撃。放たれた特大の閃光を、体勢を立て直したライガーメガトロンは後退して回避する。
「大丈夫ですか!? ライガーコンボイさん!」
「あ、あぁ……!
すまない、なのは……!」
声をかけるなのはにライガーコンボイが答えると、そんな二人の前でヴィータがグラーフアイゼンをかまえ、
「てめぇの相手はあたしらだ!
いくぜ、ビクトリーレオ! クロ助!」
「おぅよ!」
「なんでボクの名前まで!?」
ヴィータの言葉に指名された二人からそれぞれに声が上がる。が――
「フンッ、それで有利に立ったつもりか?
リンクアウト!」
対し、ライガーメガトロンの悠然とした態度が消える事はなかった。むしろリンクアップを解除、ダークライガージャックと分離し――
「ダークファングウルフ! リンクアップだ!」
『――――――っ!?』
マスターメガトロンからもたらされた突然の宣言に、一同の間に戦慄が走る!
「リンクアップ!」
マスターメガトロンの号令にあわせ、ダークファングウルフはビーストモードにトランスフォーム。四肢を折りたたむとボディに合体用のジョイントを露出させる。
一方、マスターメガトロン自身も合体体勢に移行。右腕をボディ内部に収納するように変形、、本来の腕の甲にあたる部分にジョイントが露出する。
そして、右腕となったダークファングウルフがそのジョイントに合体。その頭部を拳のように振りかぶり、マスターメガトロンは高らかに新たな自分の名を名乗った。
「ファング、メガトロン!」
「バカな……!?
オレのコピーと、リンクアップだと!?」
マスターメガトロンとダークファングウルフのリンクアップ――その事実に最も驚愕したのは、もちろんダークファングウルフのオリジナルであるファングウルフその人である。
「だからどうした!
合体しようがしまいが、ブッ倒すってことに変わりはねぇだろ!」
だが――驚愕する一同の中、いち早く立ち直ったのはビクトリーレオだった。マスターメガトロンに向けて地を蹴り、拳を繰り出すが――次の瞬間、ファングメガトロンの姿がかき消える!
「何――――っ!?」
「後ろだ、ビクトリーレオ!」
とっさにライガーコンボイが声を上げるが――間に合わない。素早いフットワークで拳をかわし、背後に回り込んだファングメガトロンがビクトリーレオを殴り倒す!
「コイツ……速い!」
「いや……違う!」
うめくクロノに、ソニックボンバーは舌打ちしながら答えた。
「ありゃ、スピードっつーより、フットワークで小回りを利かせてやがる!
力のライガー、技のファング、ってことか……!」
「だが……ここで手こずっているワケにはいかない!」
うめくソニックボンバーに答え、ライガーコンボイはその場で身を起こす。
「……そうだね」
そんな彼の決意に、キングコンボイはスターセイバーへと向き直り、
「スターセイバー、リンクアップを!」
「だが……シグナムがいないことには、リンクアップは……!」
キングコンボイの提案にうめくスターセイバーだが、
「そんなのわかってるよ!」
対し、キングコンボイはキッパリと言い放った。
「だから、ボクとリンクアップしろなんて言わないよ!
けど――ビクトリーレオとのリンクアップならできるでしょ!? 元々システム上からできるようになってるんだから!」
「なるほど……そういうことか!
ビクトリーレオ、いけるか!?」
「当然だ!」
呼びかけるスターセイバーに対し、ビクトリーレオはファングメガトロンによって叩き込まれた建物の残骸の中から姿を現す。
「ニトロコンボイ! オレ達も!」
「あぁ!」
そして、こちらでも――リンクアップを提案するロディマスブラーにニトロコンボイが同意。それぞれのパートナーと視線をかわし、
「フェイト!」
「はい!」
ニトロコンボイの呼びかけに、フェイトがリンクアップナビゲータを起動させ――
『リンクアップ!』
2組の咆哮が轟いた。
その一方で――
『フォースチップ、イグニッション!』
「デス、シザース!」
「エネルゴン、クレイモア!」
咆哮と共にそれぞれフォースチップをイグニッション――スカイクェイクとオーバーロードの一撃が激突し、周囲にすさまじい衝撃が放たれる。
「うっひゃー、相変わらず、あのスカイクェイクとかゆーヤツもすげぇパワーだな……」
「転生してない分ボディスペックでは譲るが、出力はウチの大将達にも負けてないからなぁ……』
両者のすさまじいパワーの激突は、ウィアードウルフはもちろん、メナゾールですらも容易に手出しのできるものではなかった。物陰に隠れて口々につぶやく。
そしてそれはホラートロン側でも同様のようで――
「なぁ……合体して加勢しなくてもいいのか?」
「合体したらしたで、体格差がつきすぎる。
小回りの利くスカイクェイク様達の戦いに振り回されるのがオチだ」
尋ねるタートラーの問いに、レーザークローはそう答え、
「だいたい、今は合体できる状況じゃないだろ」
「まぁ、な……
合体しようって言うなら……」
タートラーが同意し、二人はクルリと振り返り――
「……まずはオボミナスをどかさないとな」
「あぁ」
彼らの目の前では、すでに乱入、吹き飛ばされて帰ってきたオボミナスが、二人のチームメンバー一同を下敷きにして目を回していた。
「…………ダメだな。
オレの通信も、どこにもつながらない」
「そっか……
デストロンの識別信号を持ってるフレイムコンボイなら、妨害もスルーできると思ったんだけど……」
通信を試みたが結果は失敗――肩をすくめるフレイムコンボイの言葉に、エイミィはため息をついてうなずく。
「なら、次にすべきはこの場所の特定だな」
「えぇ……
パーセプター、トゥライン、照合できないか?」
シグナムの言葉にうなずき、パーセプター達に尋ねる恭也だが――
「すみません……」
「我々は、この宇宙の星図データをまだインストールしていなくて……」
「まぁ、二人はこっちの宇宙に来たばかりだもん。しょうがないよ。
それじゃあ……」
肩を落とす二人の答えに苦笑し、エイミィは懐を探り――
「スッタカタッタッ、タッタッタァ〜〜♪
サイバトロンPDA〜〜♪」
「……なぜ掛け声がどこぞの青いネコ型ロボット風なんだ?」
「私としてはあなたにこのネタが通じたことの方が驚きなんだけど……」
シグナムの問いに、エイミィは思わず本音をもらしながらサイバトロンPDAを操作していく。
と、画面に星図が表示され、それが次第に拡大されていく。
やがて、現在位置の照合が終了し――画面をのぞき込んだ恭也は眉をひそめた。
表示されたのはセイバートロン星でもスピーディアでも、アニマトロスやミッドチルダでもなく――地球だ。
だが、現在位置を示すポインタは地球からわずかにずれている。それが示すのは――
「地球……いや、月か……?」
「どういうことだ……?
スタースクリーム達は、月にこんな基地を作っていたというのか?」
フレイムコンボイとシグナムが首をかしげると、
「……ううん……違う」
二人の言葉に異を唱えたのはユーノだった。エイミィからサイバトロンPDAを借り受け、さらに画面を拡大していく。
「ここは月の裏側。月面からおよそ100kmの上空……
シグナムやフレイムコンボイはまだボクらと出会う前だったから知らないのもムリはないけど……」
言って、ユーノは恭也へと視線を向け、
「恭也さんは、一度ここに来たことがある」
「何だと……?
どういうことだ? 恭也」
尋ねるシグナムには、リンディが答えた。
「私達がいるのは、ライブコンボイ達地球のトランスフォーマーの先祖が使っていた移民船――」
「スターシップ、アトランティスの中です」
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と同時、ビッグコンボイは肩に担いだビッグキャノンにアニマトロスのフォースチップをイグニッションし、
「ビッグキャノン――GO!」
放たれた閃光は一直線にメガデストロイヤーへと襲いかかった。展開された防壁を直撃し、爆発を巻き起こす。
「さぁて、もう1発!」
言って、ビッグコンボイは再びメガデストロイヤーへとビッグキャノンを向け――
「させるものか!」
「――――――っ!?」
声を聞くと同時に跳躍――背後からの刺突をかわし、そこに現れたメガザラックと対峙する。
「不意打ちなら、もう少し静かにすべきじゃないのか?」
「せめてものフェアプレイ精神、というヤツだ」
ビッグコンボイに答え、メガザラックはブリューナクをかまえ、
「リニス、レオザック。
ここは任せて、チップスクェアへ」
《わかりました》
《気をつけてね、メガザラック》
「そちらこそ、アリシアを頼むぞ」
念話で答えるリニスとレオザックに告げ、メガザラックは再びチップスクェアを目指して動き始めたメガデストロイヤーを守るようにビッグコンボイと対峙する。
「さて……悪いが、ここは足止めさせてもらうぞ」
「大帝ともあろう者が、ずいぶんと部下想いだな。
マスターメガトロンに、爪の垢でも煎じてやったらどうだ?」
「そんな義理はないさ」
メガザラックがビッグコンボイに答え――ブリューナクの矛先に雷が宿る。
「確かに。
バカにつける薬はないとも言うからな」
そんなメガザラックの言葉にビッグコンボイが苦笑し――ビッグキャノンの照準がメガザラックへと向けられる。
そして――両者が跳躍した。
「なるほど……誰も来ないことをいいことに、スタースクリーム一派が根城にしていた、ということか……」
恭也からかつてこの船で繰り広げられたチップスクェア争奪戦の顛末を聞かされ、話の流れを把握したフレイムコンボイは腕組みして納得する。
「確かに……
今、どの勢力もチップスクェアを確保するためにセイバートロン星に――プライマスに戦力を集めている。ここは隠れるのに絶好の場所だな」
「えぇ……うまいこと考えたものね」
シグナムの言葉にリンディがうなずくと、
「それより、急いでホップ達と合流しなくては……」
「それに、ブリットとバンパーも……」
そんな二人にパーセプターとトゥラインが告げるが、
「彼らだけじゃないさ」
そう答えたのは恭也だった。
「ここがスーパースタースクリーム達のアジトなんだとすれば……」
「あ………………」
恭也の言葉に、彼の意図に気づいたシグナムが思わず声を上げる。
そんな彼女にうなずき、恭也は告げた。
「ここには、フィアッセがいる」
「ファングメガトロンにエネルゴンキューブ3つ!」
「なら、オレはライガーコンボイに賭けるとしようか」
その頃、アトランティスのブリッジでは、セイバートロン星での戦いの様子が映し出されていた――激しく激突するライガーコンボイとファングメガトロンの姿に、ロードストームとラナバウトはそれぞれの勝利に夕飯のエネルゴンキューブを賭けていた。
と――
「こらーっ! そこの二人!」
そんな二人に声を張り上げたのはヘルスクリームだ。
「何油を売ってるの!
ブリッジの配線関係の修理は終わったの!? またフィアッセが怒るわよ!」
「いやー、そうは言うがさぁ……」
ヘルスクリームの言葉に、ロードストームは苦笑まじりにそちらを指さし――
「た、助けてぇっ!」
「こ、こら、動くな!
お前のメモリをダウンロードしてんだからさ!」
ベッドに縛り付けられた状態で騒ぐホップに、ノイズメイズが言い放つ。
「アイツに、作業スペース乗っ取られちまってさぁ……」
「まったく……戦場を放り出して帰ってきて、何をしてるのかと思えば……」
告げるラナバウトの言葉に、ヘルスクリームはため息をついてノイズメイズへと歩み寄り、
「ちょっと、ノイズメイズ!
そんなところにいるとブリッジの修理ができないのよ!」
「おいおい、どけってか? ムリ言うなよ。
今コイツのメモリをダウンロードしてる最中なんだぜ」
「どうせ無線アクセスでしょ!?
データは転送しといてあげるから、いいからさっさと作業室にでも移りなさい!」
「へーへー」
ヘルスクリームの剣幕に、ノイズメイズは『やれやれ』とばかりに腰を上げ、ホップを縛りつけたベッドを抱えてブリッジを出て行った。
「すまないな」
「いいのよ」
礼を言うロードストームに答え、ヘルスクリームは肩をすくめ、
「あんな虐待シーン見せたら、フィアッセが何を言い出すかわからないじゃない」
「……まず確実に、説教の嵐だな……」
ヘルスクリームの言葉に、ラナバウトは心の底から同意していた。
触らぬ神に祟りなし――それが彼らの共通見解だった。
一方、バンパーとブリットはアトランティス艦内の一室にとらわれていた――なんとか脱出しようとドアに向けて体当たりを繰り返すが、頑強な扉はびくともしない。
「まったく、しつこいヤツらだなぁ……」
そんな彼らを閉じ込めた部屋の前をノイズメイズが通りかかった。体当たりの物音を聞きつけてため息をつく。
そして、懐を探るとその中から1本の鍵を取り出し、
「これがないと開かないんだっての。
オレはまだお仕事があるから、お前らには付き合っていられませーん、と♪」
気楽にそう告げると、ノイズメイズは鍵をしまって作業室へと向かう。
作業室はすぐ目の前だった。ドアを開けてノイズメイズが中をのぞき込むと――
「おや、ノイズメイズ」
「そのチビの記憶データ、もうダウンロード終わっとるで」
そこにいたダージガンとスラストールが、現れたノイズメイズに告げる。
「どれどれ……?」
ともかく、ノイズメイズはモニターをのぞき込み――
「……あれ? あれれ?」
そこに表示されたデータの羅列を前に首をかしげた。
「どないしたん?」
そんな彼の背後から、スラストールはデータをのぞき込み――
「あららぁ……何やの? このバカでっかいデータの山は?」
「記憶データが多すぎるんだよ、コイツ」
尋ねるスラストールに、ノイズメイズはデータをスクロールさせながらそう答える。
「複雑な記憶装置に記録するためにデータを分割、それぞれをリンクさせた上で記憶してるから、そのままダウンロードするとこの通り。
このままじゃどうにもならないなぁ……」
つぶやき、ノイズメイズがどうしたものかと考え込んでいると、その肩がポンポンと叩かれた。
「マックス、ラジャー」
マックスビーだ。ホップを指さし、何やらコードを接続するかのようなジェスチャーをしてみせる。
「ダウンロードなんかやめて、直接コイツとコンピュータをつなげ、っちゅーんか?」
「マックス、ラジャー」
「そないなことしたら、コイツの記憶データにどんな影響が出るかわからんやろが」
ダージガンに答えるマックスビーにスラストールが言うと、
「いや、それでいこう♪」
言って、ノイズメイズは工具箱に向かい、
「直接コイツを接続して、いらない記憶をキレイサッパリ消しちまうのさ」
「い、いらない記憶って何ですかぁ!?」
「もちろん、ギガロニアに関すること以外全部♪」
思わず聞き返すホップに、ノイズメイズはあっさりと答える。
「そ、そんなのイヤですぅ!」
「こっちだってしたかねぇよ、ンなめんどくせぇこと!
配線からプログラムから、全部一からいじらなきゃならねぇんだぞ! めんどくせぇったらありゃしねぇ!」
叫ぶホップに言い返し、ノイズメイズは工具箱からコードや工具を取り出し、改めてホップに告げた。
「記憶を消されたくなかったら、準備が終わるまでにとっととギガロニアの場所を思い出せ!
でなきゃ、その先は知らないからな!」
「なら、改めて分担を確認しよう」
言って、恭也は一同を見回し、今しがた練り上げたばかりの作戦の確認を始めた。
「オレとシグナム――そして電子関係の担当としてエイミィ。この3人はホップ達やフィアッセを探し、救出する。
トゥラインとユーノ、パーセプターは通信妨害システムの発見と破壊。可能なようならおとりまで引き受けてくれると助かる。
リンディさんとフレイムコンボイはこの場で待機。ギガストームの監視を頼む」
「それはいいが……本当にオレがこいつの相手をしていていいのか?」
恭也に言って、フレイムコンボイは未だに目覚める気配のないギガストームへと視線を向ける。
「オレがいては、またキレるぞ、コイツは」
「だからフレイムコンボイを残すんだ」
あっさりと恭也はそう答えた。
「確かにキレるだろうけど……ギガストームを抑えられるのはフレイムコンボイ、お前しかいないんだ」
「むぅ……」
「もちろん、可能なようなら自重するよう説得してもらいたいけど……そっちはリンディさんに任せた方が無難だろうな」
「任せてください」
うめくフレイムコンボイから視線をはずし、告げる恭也にリンディがうなずく。
「なら、それぞれ行動開始だ。
なんとしてもみんなを救出するぞ」
改めて一同にそう告げて――恭也は天井へと視線を向けた。
そこにあるのは――
「なるほど……
通気ダクトとは考えたね」
「トゥライン達と一緒に行動して、まとめて見つかったら元も子もないからな。
幸いトランスフォーマーのサイズを考慮した船だ。たとえ通気ダクトでも、オレ達が歩き回るのに不自由はない」
未だ重力の戻らない艦内を慣性によって移動しつつ、つぶやくエイミィに恭也がうなずく。
ダクトの中は時折吸排気口からもれてくる明かりでそこそこの視界が利く。これなら探索もそう苦労することはないだろう――シグナムがそんなことを考えていると、
「……シグナム」
そんな彼女に、恭也が声をかけてきた。
「何だ?
何か見つけたのか?」
「いや……そうじゃない」
シグナムにそう答え、恭也は逆に彼女に尋ねた。
「お前達は……“闇の書”の状態についてどこまで把握してるんだ?」
尋ねる恭也だったが――返ってきた答えに思わず眉をひそめた。
「状態……?
把握も何も、蒐集はお前達に阻まれて進展はない――それ以外は至って正常だが?」
「何…………?
ちょっと待て。“闇の書”の異常について、お前達は何も知らないのか?」
「異常、だと……!?
どういうことだ、それは!?」
恭也の言葉に、シグナムの顔色が変わった。半ば食って掛かるように恭也に詰め寄り――
「………………む?」
ふと、その耳が話し声らしきものをとらえた。
見ると、恭也も声を聞き取ったのかその視線を鋭くして声の出所を探っている。
この件については後回しだ――顔を見合わせてうなずき、恭也とシグナムはエイミィと共に近くの吸排気口に近寄り、様子をうかがう。
そこは、奇しくも作業室に面した吸排気口だった――外に広がる作業室の中では、ノイズメイズがコードを相手に悪戦苦闘している。
スラストール達の姿はない。他の場所の作業に行ってしまったのだろうか。
「あれ……? こうだったかな……?
それともこうだったか……?」
「…………何をしているんだ?」
「なんだか……不器用そうだね?」
「まったくだ。
フォートレスならばあの程度の配線、すぐにこなしてしまうぞ」
ダクトの中で恭也達がつぶやくが、ノイズメイズはコードの相手に夢中で気づく様子はない。
無重力によって浮かび上がるコードに視界をさえぎられ、思うように作業を進められないでいるのだ。
「ったく、『記憶消去だ』なんて言ったけど、これじゃワケがわかんねぇや」
うめいて、ノイズメイズは傍らのスイッチを入れ――突然恭也達の身体に重圧がのしかかった。
人工重力システムが作動したのだ。そのままダクトの底に叩きつけられる――と思われたが、
「く………………っ!」
「ちっ!」
恭也はエイミィを抱えて何とか着地。となりにシグナムも静かに降り立つ。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
尋ねる恭也にエイミィが答えると、
「そんなことをしている場合か?」
二人に告げたのはシグナムだった。二人に――というかエイミィを抱きかかえている恭也に――冷たい視線を一瞬だけ向け、すぐにノイズメイズの様子をうかがい始める。
「初めに気づけよ、ってんだ♪
やっぱり重力って便利だよなー♪」
そのノイズメイズは未だに恭也達には気づかない。わずらわしいコードが地面に垂れ、視界が広がったことに機嫌を良くして作業を再開する。
「なんだか、つかみ所のないヤツだな……」
「ってゆーか、むしろ『変なヤツ』?」
恭也とエイミィがつぶやくと、
「となれば……叩いて情報を聞き出すには適任だな」
口元に笑みを浮かべてシグナムがつぶやき――3人は顔を見合わせ、うなずいた。
「さーて、と。
これでよし、と……」
最後の配線をつなぎ終え、ノイズメイズはホップへと向き直った。
「準備OKだよ。
これから、お前の記憶の余計なものを、ぜーんぶ消しちゃうからね♪」
「だから、何回言ったらわかるんです。
そんなことやめてくださいよ!」
全力で拒絶の意思を示すホップだが、ノイズメイズはかまわずスイッチを入れ――
「た、たぁすけてぇぇぇぇぇっ!」
『ホップ!?』
ノイズメイズの向こう――自分達から見て死角になっている位置から聞こえてきた意外な声に、恭也達は思わず驚きの声を上げた――あわてて口を押さえ、ノイズメイズが気づいていないことを確認する。
「ホップ、こんなところに捕まってたのね……」
「それより、問題はノイズメイズの方だ」
つぶやくエイミィの言葉に、恭也は小声でそう答えた。
「アイツ、『ホップの記憶を全部消す』って……」
「そんなことをすれば、ホップは……!」
恭也の言葉にシグナムがうなずき――
「た、大変じゃない、そんなの!」
『――――――っ!』
思わず声を上げたエイミィをあわてて取り押さえる恭也とシグナムだが――二人の対応はすでに手遅れだった。
「誰だ!?
どこにいる!?」
エイミィの叫びはノイズメイズに聞きつけられていた。声の主を探し、ノイズメイズは周囲を見回すが――
「その声は、エイミィ様ですか!?」
「何!? あの小娘か!?」
よりにもよってホップが声の主の正体をバラしてしまう。
「どうする? 迎撃するか?」
「いや……このままここで戦うのはマズい」
尋ねるシグナムに答え、恭也はチラリとエイミィに視線を向ける。
不意打ちならばともかく、ここでこのまま正面きってノイズメイズと戦っては、ホップはもちろんエイミィをも巻き込むことになる――恭也の意図を汲み取り、シグナムはエイミィと共にその場を離れる。
「ホップ、待ってろ!
必ず助けるからな!」
自分達のことがバレている以上、もう声を潜める必要もない。恭也は大声でホップにそう告げると、殿(しんがり)としてシグナム達の後を追う。
「くそっ、小僧どもが――いつの間に!?」
恭也達の気配が去っていく――うめき、ノイズメイズはすぐに駆け出し――
「どわぁっ!?」
思いっきりコードに足を引っ掛けて転倒していた。
「いてて……!」
思い切り打ち付けた顔面をさすり、ノイズメイズは身を起こし、
「小僧どもが……締め上げてやる!
お前のお友達の最後の日だ!」
そうホップに告げ、ノイズメイズは壁際の真っ赤なボタンを叩き押し――艦内に警報が響き渡った。
「警報……?」
自分に割り当てられた部屋の中で、フィアッセは聞こえてきた警報に顔を上げた。
先ほど艦内全体の重力が復旧したと思ったら、今度は何だろうか……?
「何かトラブルでもあったのかな?」
首をかしげながら壁際の端末に向かうと、サイクロナスから教わった手順を思い出しながら操作し、警報の内容を確認する。
そして――そこに表示された内容を見て眉をひそめた。
「『侵入者』……?
こんなところに、誰が……?」
「誰か、見つかってしまったようですね……」
「やれやれ……こちらはまだ、通信妨害システムを発見できていないというのに……」
警報の響く廊下を走りながらつぶやくトゥイランに、パーセプターはため息まじりにうなずいた。
「とにかく、我々は我々の仕事をするんだ」
「そうですね……
今は一刻も早く、通信妨害システムを発見しないと!」
パーセプターの言葉にユーノが同意すると、
「ここにいたのね!
どうやってもぐり込んだのかは知らないけど――好きにはさせないわ!」
「マックス、ラジャー!」
そんな彼らの前に、ヘルスクリームとマックスビーが立ちふさがる!
「さて……これからどうするか……」
あまり人の通りがないのだろう、照明の落ちた廊下を歩きながら、シグナムは静かにつぶやいた。
「ゴメン……思わず大声出しちゃって……」
「いや……エイミィのせいじゃないさ。
仲間が記憶を消されるかもしれない――あの状況で、平静でいられる者などいないさ」
背後でのやり取り――肩を落とすエイミィをなぐさめる恭也の言葉に、シグナムは憮然として振り返り――
「………………ん?」
ふと今の会話に引っ掛かりを覚えた。
「記憶…………記憶を消す……?」
「………………シグナム……?」
ブツブツと繰り返すシグナムの姿に首をかしげる恭也だが――
「……そうだね。
今は後悔するよりも、アイツらがホップの記憶からギガロニアの情報を引き出すのを止めないと!」
そんな二人の思考を、立ち直ったエイミィの声が断ち切った。
「よぅし、絶対にホップを助け出すよ!」
元気に言って、エイミィは拳を突き上げ――
「その元気もそこまでだ」
『――――――っ!』
その言葉と同時、ノイズメイズが3人の前に出現する!
「くっ、ワープか……!」
「ククク……お前らはここでお終いさ」
うめき、レヴァンティンをかまえるシグナムにノイズメイズが答え――
「――――こっちだ!」
そんなシグナムの手をつかみ、恭也はノイズメイズとは反対方向に走り出す。
「き、恭也!?」
あわてて声を上げ――シグナムはふとそのとなりのエイミィの様子に気づいた。
何やら自分に向けて右手でOKサインを出している。
(何か、策があるのか……?)
少なくとも、無意味な逃走ではないようだ――そう判断し、シグナムは恭也に手を引かれたまま彼らに追走する。
「逃げるのか?」
「当然でしょ!? べーっ、だ!」
尋ねるノイズメイズに答え、あっかんべーまでしたエイミィはそのまま廊下の角を曲がっていってしまった。
が――
「逃げても無駄さ」
あっさりそう告げると、ノイズメイズの姿はその場からかき消えた。
「おらおらおらぁっ!」
「これでもくらえぇっ!」
咆哮し、アームバレットとガスケットはそろってライブコンボイやエクシゲイザー達へと攻撃をしかける。
「ったく、しつこいな!」
「毎度のことだとは、思うがな!」
うめく美沙斗に、シックスナイトがガスケット達へと反撃しながら答えると、
「フォースチップ――イグニッション!」
突如響く咆哮――だがそれはガスケット達のものでもライブコンボイ達のものでもなく――
「ファントム、ウェーブ!」
頭上から放たれたクロミアの一撃が、ライブコンボイ達の布陣の中央に着弾。爆発を巻き起こす!
「ありゃ、クロミアじゃねぇか!」
「迎撃するぞ!」
一方、スーパースタースクリームの派閥に属していたクロミアはガスケット達にとっても敵という認識だ。ガスケットとインチプレッシャーが叫び、それぞれの獲物をかまえるが――
「ち、ちょっと待ちなさいよ!」
そんな彼らを制し、クロミアは彼らの前へと降り立った。
「マスターメガトロン様はどこ?」
「いや……向こうでライガーコンボイ達とど突き合ってるけど……」
「ってーか……『様』……?」
尋ねるクロミアのその問いに、ガスケットとアームバレットは思わず顔を見合わせる。
「いきなり何のつもりだ、お前!」
「ちょっと、そっちに寝返らせてもらおうかと思ってね。
スーパースタースクリームのところなんてもうこりごりよ。口うるさいったらなくて」
インチプレッシャーにそう答えると、クロミアは彼らに背を向け、
「じゃ――とりあえず、手土産でも用意しようかしらね!」
叫ぶと同時に発砲――放たれたミサイルがサイバトロン勢の先頭にいたライブコンボイに襲いかかる!
「…………まいた、みたいだな……」
廊下の角に身を潜め、後方を確認した恭也は息をついてつぶやく。
「とりあえず、これで時間が稼げたはずだ」
言って、恭也はここまで握っていたシグナムの手を放し――ほんの一瞬だけ「あっ」という顔をしたシグナムだったが、すぐに気を取り直してエイミィに尋ねた。
「それで……エイミィ。策があるのか?」
「まぁね」
笑顔で答え、エイミィと懐から取り出したサイバトロンPDAを操作し始め――
「へぇ、どんな?」
『――――――っ!?』
後ろから平然と声をかけてきたノイズメイズに驚き、思わず後ずさる。
しかも今回はノイズメイズだけではない。スラストールやダージガンも一緒だ。
「どないしたん? もう逃げへんのか?」
「そないにあっさり観念されたら、つまらへんなぁ♪」
「くそっ、またワープか……!」
「これじゃ、接近されても気がつかない……!」
ダージガンとスラストールの言葉にうめき、それでもそれぞれの獲物をかまえるシグナムと恭也だったが――
「ぅわぁっ! ごめんなさぁい!」
突然、エイミィはサイバトロンPDAを放り出して後ずさり――足をもつれさせ、その場に仰向けに倒れてしまう。
だが――
(………………?)
その動きはどこかわざとらしかった。思わず恭也は眉をひそめるが、
「降参したって許さないぞ!」
そんなエイミィの不審な態度に、こちらはまったく気づいていない――そう告げ、ノイズメイズは拳を振り上げ――
「ずいぶんと偉くなったものだな、ノイズメイズ」
『――――――っ!?』
背後からかけられた声に、ノイズメイズ達は思わず戦慄した。
この声は――
「降参するのは貴様の方だ」
「ま、マスターメガトロン!?
バカな、貴様……セイバートロン星にいたんじゃ!?」
振り向き、そこにいたマスターメガトロンの姿にうろたえるノイズメイズ――
だが、恭也達は気づいた。
エイミィの放り出したサイバトロンPDAから光が放たれ――その先にマスターメガトロンの姿があることに。
つまり、あれはエイミィがサイバトロンPDAに投影させている、精巧な立体映像なのだ。
そして、こっそりとマイクを口元に持っていったエイミィはボイスチェンジャー機能でマスターメガトロンの声色を作り出し、ノイズメイズ達に告げる。
が――
「この場でギャラクシーコンボイ達に降参すれば、今までの悪事は許してやる」
「ギャラクシーコンボイ達に……?」
「自分にやのうて?」
エイミィ扮するマスターメガトロンの言葉に、スラストールとダージガンは思わず顔を見合わせた。
何というか――あのマスターメガトロンの思考から考えれば、そのセリフは違和感がありすぎる。
「そして、宇宙の平和のために働くのだ」
「『宇宙の平和』って……
……何か変だぞ……」
さすがに不審に感じ、ノイズメイズは周囲を見回し――立体映像を投影しているサイバトロンPDAに気づいた。
「この、小娘が!」
「あ、ようやく気づいた?」
うめくノイズメイズと答えるエイミィ、二人のやりとりに、ようやくスラストールとダージガンもこのマスターメガトロンが立体映像であることに気づいた。
「この嬢ちゃんが! ナメたマネしくさって!」
「せやけど、芝居が下手やで!
マスターメガトロンがあないなこと言うかい!」
「下手な芝居でもよかったからね」
スラストールとダージガンの言葉に、エイミィはあっさりと答え――
「だって、ただの時間稼ぎだもん」
その言葉と同時――轟音と共にスラストールとダージガンは顔面から両側の壁に叩きつけられていた。
一撃を放ったのはシグナム――レヴァンティンの連結刃形態“シュランゲフォルム”から放たれた連続的な斬撃が二人を吹っ飛ばしたのだ。
「貴様――――っ!」
うめき、ノイズメイズはシグナムへと振り向き――その眼前には恭也が飛び出していた。そして――
「おぉぉぉぉぉっ!」
咆哮と共に顔面に叩き込まれた薙旋は、ノイズメイズの意識を刈り取るには十分すぎる衝撃を持っていた。
「二人とも、お疲れ♪」
「お前がヤツらの気を引きつけてくれたおかげだ」
労いの声をかけるエイミィに、シグナムはレヴァンティンを鞘に収めてそう答える。
と――
「――――――ん?」
ふと、恭也は倒れたノイズメイズの足元に、自分達が持つには少々大きめな大きさの鍵が落ちているのに気づいた。
「これは……?」
「もしかして……ホップ達を閉じ込めていた部屋の鍵じゃないの?」
鍵を拾い、首を傾げる恭也にエイミィが答え――3人は顔を見合わせ、同時にうなずいた。
となると、次はホップの救出だ。作業室を目指し、3人は廊下を駆けていく。
だが――そんな彼らの行く手に、奇妙な扉が見えてきた。
向こう側から何度も何かが叩きつけられているらしい――何かがぶつかる音が続けざまに聞こえてくる。
「何だろ、この部屋……?」
思わずつぶやくエイミィの背後で、恭也とシグナムは顔を見合わせた。
「ホップ達がいたのは、作業室でしたよね……?」
「おそらくな」
「作業室ってことは、当然道具や部品を持って出入りしますよね?」
「当然だな」
「ってことは、たいてい両手がふさがってることが多いワケで……」
「あぁ」
恭也の問いにシグナムが答え――二人の視線は、エイミィに預けていた先ほどの鍵に集まった。
一方、バンパーとブリットは、未だに脱出をあきらめてはいなかった。先ほどと同様、扉への体当たりを続けている。
だが、扉はやはりビクともしない。それでもあきらめず、二人は同時に扉へと突撃し――
突然、扉が開いた。
『――――――っ!?』
さすがにこれには対応できず、二人はそのまま廊下に飛び出してひっくり返る。
一体何が起きたのかと立ち上がり、周囲を見回すと――
「あらら、あの作業室の鍵かと思ってたのに……」
「やはり、この部屋の鍵だったみたいですね」
頭上の鍵穴に鍵を差し込んだシグナムを見上げ、エイミィと恭也がつぶやいた。
「大丈夫か? ホップ」
「えぇ……助かりました」
結局、あれから作業室へは大した妨害もなくたどり着くことができた――尋ねる恭也に、ようやくベッドから開放されたホップは息をついて答える。
「じゃあ、あとはフィアッセさんだね……」
「だが、どこにいるかがわからない。
それに、ここからの脱出ルートも確保しなければ……」
つぶやくエイミィにシグナムがつぶやくと、
「あのー、恭也さん……」
ふと、ホップが恭也に声をかけた。
「今、パーセプター様達が通信妨害システムの破壊に向かっているんですよね?」
「あぁ」
答え、恭也はエイミィへと視線を向け――彼女はパタパタと手を振って見せる。どうやらまだ通信システムは破壊されていないらしい。
「なら、なんとかして彼らと合流しましょう。
通信設備のあるような情報セクションなら、きっとこの艦内の状況監視システムもあるはずです」
「それでフィアッセを探す、か……
よし、ホップの案でいこう」
言って、恭也が立ち上がり――
「そうはいかんぞ、人間ども!」
突然の声に、一同が振り向き――そこには、彼らとは久々の対面となる相手が立ちふさがっていた。
「ノイズメイズに呼ばれてきてみれば、まさかお前らが騒ぎを起こしとるとはな……
じゃが、ここからはワシが相手をしてやるわい!」
ランページである。
「…………む……ぐぅ……!」
うめきながらもカメラアイを起動。ようやく意識を取り戻し、ギガストームはその場に身を起こした。
「ここは……」
うめいて、ギガストームは周囲を見回し――
「ようやく目が覚めたか」
「貴様……! フレイムコンボイ!」
声をかけてきたフレイムコンボイに、ギガストームはすぐさま飛び起き、ビーストモードとなって牙をむく。
が――
「待ってください」
そんな彼に制止の声を上げたのはリンディだった。
「貴様……ギャラクシーコンボイ達と共にいる……
なぜ貴様がフレイムコンボイと共にいる?」
「私達はノイズメイズのワープに巻き込まれて、アトランティスにワープしてしまったの。
みんな、今のところそれぞれの仲間達と連絡が取れなくて、脱出するために――」
「協力関係を築いた、か……
まったく、気楽なものだな」
自身の問いに答えるリンディに、ギガストームはあからさまに不機嫌そうに告げる。
「事態はかなり切迫しています。
できればあなたにも、協力してほしいのだけど……」
「冗談じゃない! 真っ平ゴメンだ!」
協力を持ちかけるリンディだが、案の定ギガストームは激しく拒絶の意思を示す。
そして、フレイムコンボイへと視線を向け、
「誰が好き好んで、そんなさん奪者と組むものか!」
「アニマトロスのリーダー争いのことですか?
しかし、それは――」
「待て、リンディ」
ギガストームに反論しかけたリンディを、フレイムコンボイはそう言って制止する。
「オレとギガストームの関係がからむと、それは『革命』の一言ですむような簡単な問題ではなくなるんだ」
「どういうことですか?」
フレイムコンボイの言葉にリンディが聞き返すと、
「『簡単な問題ではなくなる』? 何を言っている!
十分に簡単な問題だろうが!」
そんなフレイムコンボイに、ギガストームは敵意もあらわに言い返した。
「貴様はあの戦いでアニマトロスの前リーダーであるダイナザウラーをリーダーの座から引きずり下ろし、殺した――」
「オレ様の父親をな!」
「え――――――?」
その言葉に、リンディは思わず言葉を失った。
フレイムコンボイの姿を見上げるが、その表情は暗く、一言も言葉を発しない。
だが――その沈黙こそが、事実を雄弁に物語っていた。
「じゃあ……フレイムコンボイは……」
「……ギガストームの、仇……!?」
(初版:2007/01/28)