「え………………!?」
 最初、自分の耳が信じられなかった。
 さすがにこんな時にアニメを見る気にもなれず、せめて自分達のために戦ってくれているみんなを見守ろうと外のモニターに視線を向けていたアリシアは、キラーパンチの口から放たれた言葉に大きく目を見開いた。
「メガザラックとジャックプライムくんが……
 親子……!?」

「どういうことなの!?
 ボクがメガザラックの子供って――ボクは父上の子供なんじゃないの!?」
 突然キラーパンチの口から語られた衝撃の事実――思わず声を上げ、キングコンボイはキラーパンチを問い詰める。
「だって、ボクはサイバトロンで……メガザラックはデストロン勢力のウィザートロンで……!」
 信じたくない――拳を握り締め、告げるキングコンボイだったが、
「……デストロンではない」
 そう答えたのは、意外にもメガザラックだった。
「確かにオレ達は今でこそデストロンの識別パターンを使っている。
 だが――生まれながらにしてデストロンだったワケじゃない」
「どういう……こと……?」
 尋ねるキングコンボイには、キラーパンチが答えた。
「ウィザートロンのメンバーは全員、元々はお前達と同じサイバトロン戦士だったのだ。
 ただ――かつての内乱の際、意見を違え、争った結果、敵味方の識別のためにデストロンの識別パターンを使ったに過ぎない。
 そして――」
 そこで一度言葉を切り、キラーパンチはメガザラックへと視線を向けた。
「彼はエルダーコンボイと並ぶもうひとりのリーダー……“もうひとりのコンボイ”だったんだ。
 そうだろう? メガザラック――いや……」
 

「ザラックコンボイ」

 

 


 

第59話
「反撃の2大リンクアップなの!」

 


 

 

 プライマスの上で激しく戦い合う各勢力――そんな中、彼もまたその戦場に戻るべく飛翔していた。
 先刻の戦闘でプライマスに吹き飛ばされたスーパースタースクリームである。
「まったく……サイクロナス達はどこにいる……!?」
 とりあえず『プライマスの覚醒の促進』という目的は果たした。後ははぐれてしまった部下達を回収、適当に理由をつけて帰還するだけなのだが――肝心のサイクロナス達が見つからない。
 そんな彼の眼下では、ガスケット達がエクシゲイザーやオートボルト、ガードシェルに追い掛け回されている。
 そのまま無視して行こうと速度を上げるが――
(いや……待て。
 このまま相手をせずに引き上げるのも不自然か)
 敵、それも格下と見ている相手を無視していくのは、今はともかくかつての自分らしくない。ヘタにシカトして怪しまれる方がマズいか――とりあえず適当に相手だけはすることにし、スーパースタースクリームは一気にガスケット達の前へと急降下。ロボットモードにトランスフォームして大地に降り立つ。
「げぇっ!? スーパースタースクリーム!?」
「フンッ、こんなところでオレと出会った、己の不幸を呪うがいい」
 あわてるガスケットに言い放ち、スーパースタースクリームはかつての自分の尊大な態度を思い出しながらかまえ――
「いい気になるなよ!」
 その反論はガスケット達を追ってきたオートボルトから――ガードシェルやエクシゲイザーと共にトランスフォームし、スーパースタースクリームと対峙する。
「ザコどもが……
 貴様らにかまっている時間などないが……まぁ、相手をしてやろう」
 意外とノリノリにかつての自分を演じる自分に内心苦笑しつつ、スーパースタースクリームはガードシェル達に告げるが――
「へっ、そいつはどうかな!」
「こっちにだって、切り札はあるんですから!」
「………………何?」
 自信に満ちたエクシゲイザーとすずかの言葉に、今度は思わず本心から疑問の声を上げる。
「ガードシェル!」
「あぁ!」
 だが、そんなスーパースタースクリームにかまう理由などない。真雪の言葉に応え、ガードシェルはデバイスカードを取り出し、かまえた。

「デバステイトフォース!」
 咆哮するガードシェルの言葉に、それはデバイスカードから本来の姿へと変化した。
 ダンプカー、ミキサー車――そして設置式クレーンを牽引するトレーラートラックである。
 そして――
「ガードシェル、パワード、クロス!」
 咆哮し、ガードシェルはビークルモードへ――さらに後輪を展開、スクレーパーを運転席側へと抱え込み、後輪側を上部とした合体用のコア形態へとトランスフォームする。
 続いてトレーラートラックがクレーンを分離させ、前方が左右に分割。運転席部分が情報へと起き上がり、下半身へと変形する。
 さらにダンプカーが荷台をシールドとした左腕、ミキサー車がミキサーを固定ランチャーとした右腕に変形、それぞれがクレーンユニットの左右に合体。胸部から上を構成する上半身ユニットとなる。
 そして、下半身ユニットと上半身ユニットがガードシェルをはさみ込むように合体。ガードシェル本体の車輪が高速で回転し、各デバイスにパワーを送る。
 最後に、胸部となったクレーンユニットのクレーン部が、操作席とクレーン本体の境目において左右に分かれるようにスライド。中から新たな頭部がその姿を現す。
 四肢にパワーが行き渡り、新たな姿となったガードシェルが咆哮した。
「武装拳士、デバステイター!」

「それは……スーパーモードか……!?」
 つい先日まで戦線を離れていたスーパースタースクリームにとって、ガードシェルの合体パワードクロスは予想外だった――思わず警戒を強め、慎重にその動きをうかがう。
「よっしゃ、やってやれ! デバステイター!」
「おぅ!」
 一方、ガードシェル改めデバステイターはやる気マンマンだ。真雪の言葉に応え、スーパースタースクリームに向けて突撃する!
「くらえっ!」
「ちぃっ!」
 あっという間にこちらに肉迫してきたデバステイターの拳をかわし、スーパースタースクリームは後方へ跳躍、デバステイターから間合いを取り、
「フォースチップ、イグニッション!
 バーテックス、ブレード!」

 右肩のチップスロットにフォースチップをイグニッション。バーテックスブレードを展開する。
「なめるなよ――合体したところで!」
 咆哮し、スーパースタースクリームが斬りかかるが、デバステイターは真っ向からその一撃を受け止め、
「オレ達だっているんだぜ!」
 エクシゲイザーが叫び、オートボルトと共にスーパースタースクリームへと攻撃を仕掛ける。
「く………………っ!」
 思った以上にやる――苦戦を装ってやればいいか、などと余裕ぶっていた自分の尻を思い切り蹴り飛ばしたくなる衝動に駆られつつ、スーパースタースクリームはエクシゲイザー達の攻撃をかわして後退し――
〈スーパースタースクリーム様!〉
 突然、ラナバウトから通信が入った。
 だが――その回線は通常のものではなかった。
(対通信妨害用回線だと……?
 アトランティスに通信妨害フィールドが張られているのか……?)
 自分はそんな指示を下した覚えはない――眉をひそめ、スーパースタースクリームは通信に応答した。
「何事だ!?」
〈侵入者です!
 ギガストームと、フレイムコンボイが!〉
「何だと!?」
〈どうやら、ノイズメイズがこっちに戻ってきた際のワープに巻き込まれていたらしく……!〉
「ちぃっ、あのバカが……!
 姿が見えないと思ったら、何をやっている……!」
 ラナバウトの言葉にうめき――それでもスーパースタースクリームはすぐに動いた。デバステイターの追撃をかわし、上空でビークルモードへとトランスフォームする。
「ガードシェル――いや、デバステイター。
 この勝負、預けるぞ!」
 そうデバステイターに告げ――スーパースタースクリームは上空にワープゲートを展開。その向こうのアトランティスに向けて飛び込んでいった。

「どうやら、敵はこの通信妨害下でも通信が可能なようですね……」
「あぁ……」
 ラナバウトによる緊急通信は、彼らもまた傍受していた――つぶやくトゥラインに、彼と共に物陰に隠れて攻撃をやりすごしているパーセプターがうなずいた。
 現在彼らはヘルスクリームやマックスビーと交戦中――順調に移動する恭也達と違い、完全に足止めされていた。
「このままだと、スーパースタースクリームまで戻ってきますね……
 こっちも早く動かないと!」
「あぁ」
 告げるユーノに答え、パーセプターはトゥラインへと向き直り、
「トゥライン、ヤツらを頼めるか?」
「いいですけど……けっこうハデにやりますよ?」
「緊急事態だ。やむを得まい」
「了解♪」
「何するんですか?」
「コレだよ♪」
 尋ねるユーノに答え、トゥラインが取り出したのは――デバイスカードだった。

「テックファイター、Take Off!」
 告げるトゥラインの呼びかけに応じ、デバイスカードが起動。あふれ出した光の中から1機の大型ジェット機が飛び出す。
「トゥライン、パワードクロス!」
 そして、トゥラインの指示と共に変形を開始。機種が左右に分かれて両足に、後部エンジン部が展開されて両腕となり、巨大な人型のボディが完成する。
 胸部が展開され、そこにビークルモードのトゥラインが合体。新たな頭部が飛び出し、高らかに名乗りを上げる。
「武装弓士、コンピューティコン!」

「さぁ、覚悟はいいかい、二人とも!」
「こ、ここまで来て合体なんて卑怯じゃない!?」
「マックス、ラジャー!」
 合体を完了し、告げるコンピューティコンに言い返し、形成を一気に覆されたヘルスクリームとマックスビーはあわてて攻撃を開始する。
 だが――
「効かないよ!」
 コンピューティコンには通じない。展開されたラウンドシールドが彼らの攻撃を阻んでしまう。
「破損した艦内でハデに戦えばどうなるかわからないから、こっちもできることなら合体したくはなかったんだけどね……
 もうそうも言ってられないから、さっさと終わらせてやる!
 ウズメ!」
 今度はこっちの番だ――ヘルスクリーム達に告げ、コンピューティコンは弓型のアームドデバイス“ウズメ”を起動させる。
 狙いをヘルスクリームに向けると生み出した光の矢を引き絞り、
「飛燕、疾風弾!」
 放たれた光の矢は渦を巻いてヘルスクリーム達へと飛翔。彼らの間に着弾し、爆風で吹き飛ばす!
「パーセプター、ユーノ!」
「あぁ!」
「はい!」
 彼らの復活まで待つつもりはない――コンピューティコンの言葉にパーセプターとユーノがうなずき、彼らも情報セクションに向けて移動を再開した。

「この扉の向こうが、情報セクションですね……」
「つまり、この向こうにノイズメイズやランページが待ちかまえている可能性は、十分にあるということか……」
 一方、恭也達はついに情報セクションへと続く扉の目の前までたどり着いていた。告げるホップの言葉に、シグナムは緊張もあらわにつぶやく。
「ここに入り込んだトランスフォーマーの人達はみんながみんな長距離飛行のできない人ばかりだもの――私達がここから脱出するには、通信して助けを呼ぶしかない。少し考えれば、そのくらいわかりますからね……」
 リンディがつぶやくと、そのとなりでエイミィはサイバトロンPDAを操作し、
「いるかいないかは、この仕掛けを作動させればわかりますよ。
 恭也くんのアイデア、吉と出るか凶と出るか……」
 そして、仕掛けを作動させるための最後の実行キーを押し――次の瞬間、衝撃と共にアトランティスが揺れた。

「何だと……!?」
 一方、扉の向こう側――予想どおりランページと二人で恭也達を待ち伏せていたノイズメイズは、突然の衝撃と警報に思わずうめき声を上げた。
「エンジンルームに異常、だと……?
 くそっ、いくぞ、ランページ!」
「おいおい、チビどもはえぇんか?」
「そんなことを言ってる場合じゃない!
 エンジンがやられちまったら、この艦はおしまいなんだぞ!」
 尋ねるランページにノイズメイズが言い返し、二人はあわてて情報セクションを飛び出していく――その様子を、恭也達は扉の陰に隠れてうかがっていた。
「作戦成功、だな……
 大したものだ、恭也」
「エイミィの仕掛けが的確だっただけさ」
 笑顔で賛辞を述べるシグナムに、恭也は肩をすくめてそう答え、
「それより、今は」
「あぁ……
 すぐにギャラクシーコンボイやスターセイバーに連絡だ」
 言って、二人は先頭を切って情報セクションに飛び込み――すぐに戻ってきた。
 理由はもちろん――
「エイミィさん! 機械の操作をお願いします!」
「よく考えたら我々では通信システムは使えない!」
「…………はいはい……」
 結局またこのパターンか――思わず苦笑し、エイミィは二人の後に続いて情報セクションに入っていった。

 そして、まんまとエンジンルームにおびき出されたノイズメイズ達は――
「な、何じゃい、これは……?」
 目の前の光景に、ランページは思わず呆けた声を上げていた。
 エンジンルームに異常はない。ただ、メンテナンス用の広い作業スペースの中央に焼け焦げたような跡があるのみだ。
 そう――エンジンの直接破壊をあきらめた恭也は、その案を元にノイズメイズ達の誘導を思いつき、エイミィにガラクタを爆破、エンジンルームの火災を偽装する仕掛けを作ってもらったのだ。
 そして、壁にはデカデカとだまされた彼らへのメッセージ。

『やーい、やーい、だまされたー♪  Byエイミィ』

「この、ガキどもが……!」
 完全に遊ばれている――苛立ちのままに、ノイズメイズはすぐ近くの機材を蹴り飛ばし――その衝撃でシステムが誤作動を起こした。きしむような音と共に足元が振動を始める。
「な、何じゃい!?」
 あわててランページが声を上げ――ノイズメイズは気づいた。
 自分達が危険を知らせる黄色と白のラインの中にすることに。
 そして――次の瞬間、足元のダストシュートが開放。二人を飲み込み、吸い出される空気と共に宇宙に放り出さんと牙をむく!
「くそっ、しまった!
 ダストシュートの誤作動か!?」
「じゃが、こんなものワープで!」
 うめき、ノイズメイズとランページはワープで脱出し――ようとしたが、
「………………しまったぁぁぁぁぁっ!」
「ワシらがワープ妨害シールドを張ったんじゃんかぁぁぁぁぁっ!」

 結局ワープもままならず、二人はそこに放り出され――
「ふぎゃっ!?」
「どわぁっ!?」
 災難はさらに続いた。二人と共に吸い込まれたメンテナンス用の大型機材が、二人をまともに直撃する!

「よし、これで通信できるはず。
 恭也くん、こっちは任せていい?」
「あぁ。そこまで操作してもらえば、後は何とか」
 通信妨害システムは解除。加えて艦の通信システムを拝借して電波の強さも十分――通信準備を完了し、尋ねるエイミィに恭也は彼女と席を代わりながら答える。
「じゃあ、フィアッセの方を頼む」
「任せて。バッチリ位置は特定してあげる♪」
 エイミィの答えにうなずき、恭也はエイミィに教えられたスイッチを入れ、呼びかける。
「サイバトロンのみんな! こちら恭也! 聞こえるか!?」

「恭也さん!?」
 通信が入るとしたらエイミィからだと思っていた――スピーカーから響いた意外な声に、シオンは思わず声を上げた。
「恭也、無事か!?」
〈とりあえず、ここにいるメンバーは全員無事だ。
 今のところ、トゥライン、パーセプター、ユーノの3人が別行動中。フレイムコンボイとギガストームは別の場所で交戦中だ〉
 尋ねるベクタープライムに恭也が答えると、今度はファストガンナーが尋ねた。
「みんな、今どこにいるんだ!?」
〈それが……アトランティスの中なんだ。
 つまり……地球の月の、裏側だ〉
「アトランティスの!?」
「そうか……スタースクリーム達はそこをアジトにしてたのね……」
「道理で、愛さん達にダイバー達を火山島基地に向かわせても何も出なかったワケですよ……」
 恭也の答えにアレックスやアリサ、ランディがつぶやくと、
「わかった。すぐに迎えに行く!」
 言って、ベクタープライムは立ち上がるとブレイズリンクス達に向き直り、
「待たせたな。
 キミ達の出番だ」
「本当に待ちくたびれたぞ、ベクタープライムよ」
 告げるベクタープライムに、ブレイズリンクスは笑みを浮かべてそう答えた。

「うーん……」
 口から漏れるのはうめき声――フィアッセは腕組みして考え込み、現状に対して思いを馳せた。
 先程から、アトランティスの艦内は度重なる振動に見舞われている。ブリッジに問い合わせるとラナバウトから『大掛かりな修理をしている』との返事があったが――
「どう考えても……戦闘だよね? コレ……」
 そうとしか思えない――現に先程侵入者を示す警報が鳴っているのだ。ヘタな言い訳にもほどがある。
 だが、そう考えると今度は別の疑問がわいてくる。
「誰と戦ってるんだろ……」
 そもそも侵入者の警報が先にあった、という点からして解せない。どうやって侵入されたのだろうか――?
 いくら考えても答えは出ず、かといって彼らの足手まといにもなりたくないからここから出て行くのも正直マズい。フィアッセは思わずため息をつき――突然、扉が開いた。
 ラナバウトでも来たのだろうか。問い詰めてやろうとフィアッセは振り向き――
「フィアッセ!」
「恭也……!?」
 そこにいたのは意外な人物だった――先頭に立って飛び込んできた恭也の姿に、フィアッセは思わず目を丸くする。
 その後ろにはシグナムやエイミィ、リンディもいる。
「どうして、ここに……?」
「話せば長くなりますから、説明は後で。
 それよりも、今は脱出です――ホップ達が脱出ポッドで待ってます」
 尋ねるフィアッセに答えるのはシグナムだ。フィアッセに対して脱出を促すが――
「あー……えっと……」
 そんな彼らに対して、フィアッセはばつが悪そうに告げた。
「私……ここに残っちゃ、ダメかな……?」

「デス、フレイム!」
 咆哮と共に両肩の竜から火炎を放つフレイムコンボイだが――
「なめるなぁっ!
 ギガ、フレイム!」
 ギガストームもビーストモードのドラゴン形態でそれに対抗。自身の炎でデスフレイムを相殺する。
「フンッ、元々大帝とコンボイとして我らの力は互角だったのだ――転生を遂げた今となっては、オレ様の方が有利だということだ!」
「パワーだけで、勝てるものか!」
 ギガストームに言い返し、フレイムアックスをかまえて突撃するフレイムコンボイだが――
「バカめ!」
 そんなフレイムコンボイを、ギガストームは尾の一撃で弾き飛ばす!
 さらに、ギガストームは壁に叩きつけられたフレイムコンボイを踏みつけ、
「パワーがダメならテクニックで、とでも言うつもりか?
 そいつは貴様の弟弟子ファングウルフの領分だろうが!」
 フレイムコンボイへと向けられた尾――その先端の鋏がギラリと不気味な光を放つ。
「終わりだ――フレイムコンボイ!」
 そして、ギガストームは尾をフレイムコンボイへと突き立――

「させるかぁっ!」

 ――てようとした瞬間、真横からの衝撃で弾き飛ばされる!
「なんでこぉなるのぉぉぉぉぉっ!?」
 壁を突き破り、ブッ跳んでいくギガストーム――それを見送ると、一撃の主はフレイムコンボイの前に着地した。
「無事か? フレイムコンボイ」
「ブレイズ、リンクス……!?」
 なぜこんなところに――突然の兄の登場に、フレイムコンボイはワケがわからず目を白黒させるしかない。
 と――
「フレイムコンボイ!」
 そんな彼の元に駆け寄ったのは、ドレッドバスターと共に現れた志貴だ。
「恭也さん達は!?」
「知らん!
 こっちはこっちで、かまっているヒマなどありはせん!」
 尋ねる志貴にフレイムコンボイが答えると、
「ククク……わかっているじゃないか……」
 言って、崩れた壁の向こうからギガストームが姿を現した。
「どうやら数が増えたようだが――かまうものか!
 みんなまとめて、叩き潰してくれる!」
 言い放つと同時――ギガストームの両膝のガトリング砲が起動。フレイムコンボイ達に向けて弾丸をばらまき始める!

「え? え……?
 ……えぇぇぇぇぇっ!?」
 自分とメガザラックが親子、そして今度はメガザラックが元コンボイ――立て続けに明かされる衝撃の事実に、キングコンボイは目を白黒させて声を上げるしかない。
「メガザラック達が……元々サイバトロンだったって言うの!?
 けど……どうして!?
 あなたは――何を知ってるの!?」
 真相を問いただすべく、キングコンボイはキラーパンチに詰め寄り――
「………………なるほどな……」
 口を開いたのはメガザラックだった。
「つまり貴様も、内乱以前のオレ達のことを知っているひとり、ということか……」
「メガザラック……?」
 思わず疑問の声を上げ――キングコンボイは気づいた。
 彼の口調に落ち着きが戻っている。
(動揺、してない……!?)
 それはつまり、動揺を落ち着けるに足る“何か”を彼が持っている、ということに他ならないのではないだろうか?
「どういうことなの? メガザラック」
 もしや、彼にも自分達の過去について心当たりがあるのかもしれない――尋ねるキングコンボイに、メガザラックは答えた。
「かつて――オレがキングコンボイに封印されることになったあの戦いの前……オレには確かに息子がいたんだ。
 まだ、ボディも生成されていない、スパークが定着する前の段階だったんだがな……」
「え…………?」
 その言葉に、キングコンボイは眉をひそめた。
 エルダーコンボイとメガザラックの戦いは、トランスフォーマーである自分の目から見ても大昔の話だ。もし自分がその子供なのだとしたら明らかに計算が合わない。
 だが――そんなキングコンボイの困惑をよそにメガザラックの回想は続く。
「キラーパンチの言うとおり、当時、オレはエルダーコンボイと共にミッドチルダを治めていた。ザラックコンボイという名でな……
 だが――ちょうどその子供が生まれた頃、ある問題が発生した。
 他の次元世界との政治的摩擦――折衝のため、オレは子供を育てる時間を放棄せざるを得なかった。
 それが、息子に対して父親として接する、最後の機会だったとも知らないで、な……」
「じゃあ……メガザラックはそのまま……?」
 なんとなく話がつながってきた――尋ねるキングコンボイに、メガザラックは無言でうなずいた。
「結果として、政治的摩擦は解消された。
 だが――その過程に起きた意見の相違によって、オレとエルダーコンボイは対立することになる。
 徹底交渉を望んだエルダーコンボイと、武力強化による相手の抑止を選んだオレとの間に生まれた亀裂――それが互いの支持者を巻き込むのに、大した時間はかからなかった。
 そして、争いは両陣営の支持者による権力闘争へと姿を変え――あの戦いが起きた。
 その結果はお前達も知っての通り、エルダーコンボイ達ミッドチルダ・サイバトロン軍の勝利に終わった。
 囚われる直前、オレは息子を守るため、その身に世界そのものから隔離する次元凍結魔法をかけ、厳重に封印した。
 その後、内乱の首謀者として囚われたオレ達ウィザートロンは、エルダーコンボイの尽力によって死罪は免れたが、虚数空間への封印刑に処された……」
「だが、メガザラック――あなたの子供は、エルダーコンボイによって回収されていた」
 メガザラックの言葉に、その先をつなげるかのようにキラーパンチが続ける。
「周囲は当然、封印を解き、スパークを破棄することを提案した――当然だ。反逆者の、それも首謀者の息子なのだからな。
 しかし、エルダーコンボイは永い時間をかけてスパークの封印を解析、解除し、その子供を育てる道を選んだ……
 すべてはメガザラック――戦い合い、討ち破ることとなってしまったあなたへの、せめてもの罪滅ぼしとして……」
「罪滅ぼしか……大層な偽善だな」
「かもしれん。
 それでも……殺すよりはマシな選択だったのではないか?」
 吐き捨てるかのように告げるメガザラックに、キラーパンチはそう答えるが――
「……まぁ、いい。
 だが――」
 つぶやき、メガザラックはキラーパンチへとブリューナクを向けた。
「貴様……なぜそのことを知っている?
 我らをこのセイバートロン星に導いておきながら、そんな重大な秘密を明かしてまでキングコンボイとの激突をやめさせようとする――その真意は何だ?」
「……今は、まだ語れない」
 静かにそれだけ答えると、キラーパンチは上空へと飛び上がり、
「だが――我が意図を知る時はいずれ訪れる。
 そう遠くない、未来にな」
 その言葉と同時――突如、キングコンボイの周囲に魔法陣が描かれる。
 これは――
「強制転送!?」
「その“時”が来るまで、お前達につぶし合ってもらうワケにはいかないからな」
 驚くキングコンボイにキラーパンチが答え、彼を包み込む魔法陣の光はますます強くなっていく。
「ま、待って!
 まだ、聞きたいことが――!」
 あわてて魔法陣の外へと手を伸ばすキングコンボイだったが――その手が何かをつかむことはなかった。
 一瞬大きく光が弾け――キングコンボイの姿はその場から消えていた。
「…………では、オレも引き上げさせてもらおうか」
 キングコンボイの戦線離脱を確認し、キラーパンチは息をつき――
「逃がすと――思っているのか!」
 言い放ち、瞬時に間合いを詰めたメガザラックはキラーパンチに向けてブリューナクを振るう。
「どうやら、貴様からはいろいろと聞き出さなければならないようだ。
 おとなしく、同行してもらうぞ」
「それは困るな。
 それに、お前達と事をかまえるつもりもない」
 言って、キラーパンチはメガザラックに対して距離をとり、
「お前達ウィザートロンも……我々の悲願のためには必要な存在だからな」
「どういう意味だ……!?」
「いずれわかる――そう言ったはずだ」
 尋ねるメガザラックにそう答え――キラーパンチは転送魔法を展開。その場から離脱していった。
「……メガザラック……」
「リニス、下で戦っているライオカイザー達を呼び戻せ。
 セイバートロン星から撤退し、状況を見極める」
 メガデストロイヤーのブリッジから声をかけるリニスに、メガザラックはすぐさまそう指示を下した。
「少なくとも……今この場で急ぐのはかえって良い結果を招きそうにない」
「そう、ね……」
 メガザラックの言葉にうなずき、リニスはライオカイザー達へと撤退を告げ――
「……それだけじゃないでしょうに、ね……」
 静かに虚空を見つめるメガザラックを見つめ、つぶやく。
 彼が見ているのは――

 つい先ほどまでキングコンボイがいた場所だった。
 

「トランス、フォーム!」
 ワープゲートを越えると同時にロボットモードへとトランスフォーム。スーパースタースクリームは月の重力にその身をゆだね、アトランティスへと降下していく。
 途中、空気を逃がさないための防護フィールド(フィアッセのために展開していたのだ)に接触。一瞬減速するが、それでも難なくアトランティスの甲板に着地、すぐに目的の区画に向けて移動を開始する。
 目指すは最も激しく爆発が繰り返されている場所――おそらくそこが、ギガストームとフレイムコンボイの戦う戦場だろう。
 そして――見えた。フレイムコンボイ、ブレイズリンクス、ドレッドバスターがギガストームを相手に大立ち回りを演じている。
「ナル、光線キャノン!」
 射程に入るなり一撃――スーパースタースクリームの放った一撃は、狙いたがわず戦場の中心に着弾。爆発を巻き起こす。
「な、何だ!?」
 突然の攻撃にドレッドバスターが声を上げると、
「貴様ら、よくも好き勝手暴れてくれたな!」
 飛来したスーパースタースクリームが、一同に対して怒りもあらわに言い放つ。
 チラリと視線を向け――居住区に被害が及んでいないことを確認する。
「我らが拠点を荒らし回ってくれた罪――その命をもって償ってもらうぞ!」
 だが、だからといってフィアッセのいるアトランティスを危険にさらした罪を許すつもりはない――バーテックスブレードをかまえ、スーパースタースクリームがフレイムコンボイ達やギガストームに襲いかかる!

「残る……って、どういうことだ!?」
 いざ脱出しようとしたところにもたらされた意外な言葉――フィアッセの言葉に、恭也は思わず聞き返した。
「まさか……フィアッセさん以外にも人質がいるとか!?」
「あ、ううん、そういうことじゃないの」
 尋ねるシグナムに両手をパタパタと振って答えると、フィアッセは少し考えるような仕草と共に告げた。
「なんて言うんだろ……
 スーパースタースクリームの様子が、最近おかしいのが気になるの」
「スーパースタースクリームが……?」
「うん……
 火山島の頃のとげとげしい感じが消えてるし……なんだか、『宇宙を支配する』っていうのとは無縁のところを見てるみたいな……」
 自分でもうまく説明できないのか、フィアッセはリンディにそう答えて首をかしげる。
「なんとなく、だけど……断言できないんだけど……たぶん、スーパースタースクリームは何かを知って……それを私達に隠してる。
 それも単純なものじゃなくて、もっと根本的な――それこそ『宇宙そのものの未来にかかわるような』なんて例えられそうなぐらい、重大な秘密……」
 そして――彼女はそのことを彼が知ったタイミングに心当たりがあった。
 かつてスカイドームで見た、スーパースタースクリーム宛の暗号データだ。
 あの時から、スーパースタースクリームの様子が明らかに変わった。以前の不遜さや人を寄せ付けない壁のようなものが弱まり――その一方で、いつも張り詰めているような危うさを感じさせるようになった。
 野望を捨てたワケではないだろう――だが、それを後回しにせざるを得ないような、重大な情報を彼は握っている――そしてそれを、彼はたったひとりで背負おうとしている。
 だから――
「……なんとなく……ほっとけないの」
「け、けど、相手はデストロンですよ!?」
「うーん、確かにそうなんだけどね……
 でも、みんないい人――とは言えないかもしれないけど、残虐非道、ってワケでもないし、何だかんだでよくしてもらってるし。
 だから、私なら大丈夫」
 エイミィに答え、微笑んでみせるフィアッセ――その瞳の裏に潜む決意の色を読み取り、恭也は思わずため息をついた。
「……ダメだ。
 ティオレさんと同じだ――フィアッセがその目をした時は、周りが何言ったって聞かないんだ、絶対……」
「うんうん、さすが恭也は私のことをわかってくれてるねー♪」
 その言葉に機嫌を良くしたか、フィアッセはこちらの頭をなでてくる――抵抗をあきらめ、されるがままになりながらも、恭也はフィアッセに尋ねた。
「本当に……大丈夫なんだな?」
「うん。大丈夫」
 尋ねる恭也に、フィアッセは迷うことなく断言する。
 後ろでシグナムがなおも渋い顔をしているのがわかる。が――
「………………わかった」
 それでも、恭也はうなずいた。
「恭也!」
「言いたいことはわかる。
 スーパースタースクリーム達を信用しろ、と言われても、正直うなずきかねるのも事実だ。
 だが――」
 声を上げるシグナムに答え、恭也はフィアッセへと視線を戻し、
「アイツらを信じるというフィアッセのことは、信じたいんだ」
 その言葉に、さすがのシグナムもため息をつき、
「…………わかった。
 恭也がそう言うのなら、私も彼女を――そして彼女を信じると言ったお前を信じよう」
「すまない」
 シグナムに告げると、恭也はフィアッセへと向き直り、
「なら……こっちは頼むぞ」
「うん。任せて!」
 元気にうなずくフィアッセに見送られ、恭也達は先を急ぐ。
 エイミィとリンディは脱出ポッドへ。そして恭也とシグナムは――

「むぅんっ!」
 ニトロメガトロンから分離し、今度はライガーメガトロン――力任せに繰り出された一撃をかわし、ソニックコンボイは後退して着地し、
「フェイトちゃん! ヴィータちゃん!」
「うん!」
「任せな!」
 なのはの呼びかけにフェイトとヴィータがうなずき、ブリッツシューター、ファルコンランサー、シュワルベフリーゲンがライガーメガトロンに向けて降り注ぐ。
 と――
「ソニックコンボイ!」
 そんな彼らの元に、ベクタープライムがアリサやシオンを乗せたバックギルド、ファストガンナーと共に合流してきた。
「恭也やリンディ提督の居場所がわかった!
 現在、ブレイズリンクスと知佳、ドレッドバスターと志貴が先行している!」
「わかった。
 ここは我々で抑える。ベクタープライム達も!」
「うむ!」
 ソニックコンボイの指示にうなずき、ベクタープライムは剣を振るってワープゲートを展開。ファストガンナー、バックギルドと共にその向こうのアトランティスに向かう。
 と――
「オイラ達も行こうぜ!」
「おぅよ!」
 言って、ガスケットとアームバレットもワープゲートへと突撃。次々に飛び込んでいってしまう!
「あーっ! アイツら!」
「待て、ヴィータ!
 今はヤツらよりライガーメガトロンだ!」
 うめき、ガスケット達を追おうとするヴィータをクロノが制止すると、彼らの眼下でビクトリーセイバーがライガーメガトロンへと斬りかかるが、ライガーメガトロンもそれをかわして後退。すぐさま間合いを詰め直し、ビクトリーセイバーを殴り飛ばす!
「このままじゃ……!」
 リンクアップを巧みに使い分け、こちらをまったく寄せ付けない――新たな力を得たマスターメガトロンの攻勢を前に、なのはの頬を冷や汗が伝う。
 この状況を打開するには――
「…………やるしかない!
 レイジングハート――“エクセリオンモード”!」
 決意を固め、なのははレイジングハートをかまえ――
《ま、待ってよ、なの姉!》
 それをあわてて止めたのはプリムラだった。
《フルドライブは――エクセリオンモードはマズいよ!
 今のレイジングハートのフレーム強度でも、エクセリオンモードの高出力にはついていけるかいけないかのギリギリ綱渡りなんだよ!
 その上ライガーメガトロンのパワーとぶつかったりしたら、レイジングハートがもたないよ!》
「け、けど……!」
 プリムラの言葉になのはが反論しようとするが――そんな彼女達に、ライガーメガトロンの雷撃が襲いかかる!
 が――
「危ない!」
 そんな彼女を抱え、雷撃の渦の中から離脱したのは――
「無事でござるか?」
「怪我はない、なのは!?」
「お姉ちゃん!? メビウスショットさん!?」
 思わず声を上げるなのはだが、美由希をライドスペースに乗せたメビウスショットはかまわず彼女を地面に降ろし、
「どうやら、あの形態に対抗するにはスピード勝負が最適のようでござるな……」
「そうだね」
 同意するのは、となりに着地したライブコンボイだ。
「ソニックコンボイ、なのは。
 ボク達がなんとかライガーメガトロンを速さで振り回すから……」
「ヤツが動きを止めたところで、一発デカいのをお見舞いするでござるよ」
「確かに、それしかないか……」
 ライブコンボイとメビウスショットの言葉に、ソニックコンボイはうめくようにつぶやく。
 ライガーメガトロンが相手となると、ライガーコンボイではまったくの互角で千日手。ソニックコンボイでは攻撃こそ食らわないが、打撃力不足によってやはり千日手――その均衡を崩すには、相手があくまでライガーメガトロン単独である点に付け込むしかあるまい。
「わかった。
 なら、二人に頼もう」
「わかった」
「心得たでござる!」
 ソニックコンボイの言葉に、ライブコンボイやメビウスショットがうなずき、
「オレ達は何をすればいい!?」
「決まってる。オレ達はライガーメガトロンの包囲、およびダークファングウルフ、ダークニトロコンボイの牽制だ。
 ヤツがライガーメガトロンのままでいる内にケリをつけなければ手に負えなくなる――ヤツのリンクアップの切り替えを許すワケにはいかない」
 尋ねるライガージャックにはロディマスコンボイが答える。
「では――ゆくでござる!」
「あぁ!」
 そして、メビウスショットの呼びかけにライブコンボイが答え、彼らはライガーメガトロンへと跳躍し――!

「バーテックス、ストーム!」
 咆哮し、スーパースタースクリームがバーテックスブレードを一閃。放たれた衝撃波をギガストームが回避し、
「デス、フレイム!」
 そんなスーパースタースクリームに、フレイムコンボイがデスフレイムで急襲する。
「ちぃっ!
 ジャマをするな!」
 対し、スーパースタースクリームはフレイムコンボイへとバーテックスキャノンを向けるが、
「させるか!
 ドレッドバスター!」
「ブレイズリンクス!」
「あぁ!」
「うむ!」
 志貴と知佳の呼びかけで、ドレッドバスターとブレイズリンクスがスーパースタースクリームに攻撃を仕掛ける。
 だが――
「オレの存在を、忘れてもらっては困るな!」
 そんな二人にギガストームが襲いかかった。ドリルタンク形態で突撃し、二人を弾き飛ばす!
「コレで終わりだ、ブレイズリンクス!」
 咆哮し、ビーストモードとなったギガストームはそのままブレイズリンクスに襲い掛かり――
「させない!」
「ぐわぁっ!?」
 咆哮と共に放たれた衝撃波を背中に受け、ギガストームは顔面から大地に突っ込む。
 知佳が瞬間移動テレポートによってブレイズリンクスのライドスペースから一瞬にして飛び出し、援護したのだ。
 だが――
「やってくれたな、小娘が……!」
 その一撃はむしろギガストームの怒りを買った。起き上がると怒りに満ちた視線を彼女に向け、
「大人しく家でPS3でもやっていればいいものを……!
 よっぽど死にたいらしいな!」
「おあいにく! さざなみ寮はXbox派!」
 咆哮し、ギガフレイムを吐き放つギガストームに言い返し、知佳もその炎を回避するが、
「それでかわしたつもりか!」
「――――――っ!?」
 ギガフレイムは彼女の視界を奪うための囮だった。背後に現れたギガストームの姿に知佳の背筋に寒気が走る。
 そのまま、ギガストームの牙が知佳を遅い――
「――――――っ!?」
 ギガストームの顎は空をかんだ。そして――
「大丈夫ですか?」
 知佳を抱きかかえてすぐそばに着地。恭也が彼女に尋ねる。
「う、うん……大丈夫……」
 そんな恭也に、知佳は頬を赤らめて答え――
「何をしている!
 敵はまだ健在だぞ!」
 なぜかどこか不機嫌そうに、シグナムが二人に言い放つ。
「フレイムコンボイ!」
「わかっている!」
 告げる恭也に、フレイムコンボイは答えて彼のとなりへと降り立つ。
「共同戦線だと言うんだろう!?
 言われるまでもない――敵だ味方だと、私情で戦況を見誤るほど愚かではない!」
 言って、フレイムコンボイがフレイムアックスをかまえ――!
 

 その瞬間、二つの戦場で異変が起きた。
 

「こ、これは……!?」
 セイバートロン星ではフェイトが――

「デバイスが――起動してる……!?」
 アトランティスでは志貴が――
 

 二人が、突如起動した自らのデバイスを前に驚きの声を上げる。

 起動したシステムは――
 

 リンクアップナビゲータだった。
 

『フレイムコンボイ!』
 恭也とフレイムコンボイが叫び、フレイムコンボイはビーストモードで大地を疾走し、
『ブレイズ、リンクス!』
 次いで知佳とブレイズリンクスの叫びが響き、ビーストモードのブレイズリンクスがフレイムコンボイを追走。胸部装甲が分離し、合体用のジョイントが露出する。
 そして――
『リンク、アップ!』
 ブレイズリンクスがフレイムコンボイの背中に合体、フレイムコンボイがロボットモードへとトランスフォームする。
 そして、ロボットモードとなったフレイムコンボイの胸にブレイズリンクスの胸部装甲が合体。高らかに名乗りを上げる――

 

『ブレイズ、コンボイ!』

 

『ライブコンボイ!』
 真一郎とライブコンボイが叫び、両腕のアンカーフックとジャイロソーサーを分離させ、両腕を折りたたんだライブコンボイは上下が反転。腰から展開された両足に拳が飛び出し、上半身となる。
『メビウスショット!』
 次いで美由希とメビウスショットの叫びが響き、メビウスショットは上半身を後方に折りたたみ頭部を収納、下半身となる。
 そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
 ライブコンボイの変形した上半身とメビウスショットの変形した下半身が合体。両肩にアンカーフックとジャイロソーサーが合体し、肩アーマーとなる。
 最後に、ボディの中から新たな頭部が現れ、高らかに名乗りを上げる――

 

『メビウス、コンボイ!』

 

「メビウス……コンボイ……!?」
 突然のリンクアップを遂げたライブコンボイとメビウスショット――メビウスコンボイとナットその姿を前に、フェイトは呆然とバルディッシュへと視線を落とした。
 ライガーコンボイの時も、ロディマスコンボイの時も――今まで半ば暴発的にリンクアップナビゲータが起動し、新たなリンクアップを遂げてきた例はある。
 だが――今のはそれらの事例とはどこか違和感があった。
 まるで“外部からの干渉で起動した”かのような……
 それが可能な存在がいるとしたら――
「まさか……
 プライマスが、わたし達を助けるために……!?」

「フンッ、またしょうこりもなく、新しいリンクアップか」
「正直、キミに言われたくないね」
 一方、メビウスコンボイを前にしてもライガーメガトロンは余裕だ。悠々と告げるその言葉に、メビウスコンボイはため息まじりにそう答える。
「第一、強敵だとかザコだとか、評価を下すこと自体、まだ早いんじゃないのかい?」
 言って、メビウスコンボイは左肩のジャイロソーサーを取り外し、棍棒形態でかまえ――
「――いくぞ!」
 咆哮と共に突撃――急激な加速と共に、一足飛びにライガーメガトロンへと肉迫する!
「――――――っ!?」
 一瞬にして懐に飛び込まれ、とっさにダーククローを振るうライガーメガトロンだが――間に合わない。メビウスコンボイのジャイロソーサーに受け止められ、腹に痛烈な蹴りを叩き込まれる!
 さらに――
「ロディマスコンボイ!」
「おぅ!」
 ライガーメガトロンの敵はメビウスコンボイだけではない――呼びかけに応じて飛び込んできたロディマスコンボイが、ランサーモードのロディマスライフルでライガーメガトロンを弾き飛ばし、
『フォースチップ、イグニッション!』
『ビクトリー、キャノン!』
『ギャラクシーキャリバー、フルバースト!』
「イグニッション――パニッシャー!」

 ビクトリーセイバー、ソニックコンボイ、なのはの一斉射撃が、体勢の崩れたライガーメガトロンを直撃する!

「ブレイズコンボイだと!?
 合体したところで、このオレ様に勝てるとでも思っているのか!」
 こちらも、新たなリンクアップを遂げたブレイズリンクスを前にしても自身の優位を疑いはしなかった――咆哮し、ギガストームはビーストモードのままブレイズコンボイへと突撃するが、
「そんなもの!」
 ブレイズコンボイは真っ向から対抗。ギガストームの突進を正面から受け止める。
「何だと!?」
「貴様こそ――リンクアップを遂げたコンボイ級に、パワーで対抗できると思うなよ!」
 驚くギガストームに言い返し、ブレイズコンボイはそのままギガストームを投げ飛ばし、
「ブルァアァァァァッ!」
 そのまま、甲板に叩きつけられたギガストームを追撃の体当たりでブッ飛ばす!

 一方、ワープによってアトランティスへと向かったベクタープライム達――その後を追ったアームバレットやガスケット達もまた、アトランティス近宙へとワープアウトしていた。
「しっかし、あの兄ちゃん達助けるのにずいぶんとご執心だったけど、何かあるのかねぇ?」
「きっと、プラネットフォースの手がかりなんだぜ!」
 ワープアウトした勢いそのままにアトランティスへと向かいながら、首を傾げるガスケットにアームバレットが答える。
「手がかりつかんで帰ったら、大手柄なんだな!」
「おぅよ! 一足飛びにデストロンのナンバー2になんてなれたりしてな!
 よぅし、早速ライガーメガトロン様に連絡だ!」

『フォースチップ、イグニッション!』
 メビウスコンボイと真一郎、そしてメビウスショットと美由希――4人の咆哮と共に、飛来したミッドチルダのフォースチップがメビウスショットのチップスロットへ。腰の後ろで展開されたメビウスブレイドが分離、棍棒形態のジャイロソーサーの両端に合体し、
『メビウス、ランサー!』
 自らの最強の力を手に咆哮、メビウスコンボイはマスターメガトロンへとメビウスランサーをかまえる。
「なんの!
 フォースチップ、イグニッション!」
 対し、ライガーメガトロンもフォースチップをイグニッション。ダーククローを振りかざし、先手を打ってメビウスコンボイへと突撃する。
「ライガー、デスブレイク!」
 咆哮し、ライガーメガトロンが必殺の一撃を繰り出し――

 空を薙いだ。

 メビウスショットはライガーメガトロンの渾身の一撃を受け止めることはせず、回避し、背後に回り込んだのだ。
 そして――
『メビウス、クロスブレイク!』
 メビウスコンボイの一撃――いや、メビウスランサーの両端の刃による連撃が、『X』kの字を描きながら立て続けにライガーメガトロンに叩きつけられる!
「ぐわぁっ!?」
 これにはさすがのライガーメガトロンもたまらなかった。リンクアップも解け、そのまま大地に叩きつけられ――
〈ライガーメガトロン様!〉
 ガスケットからの通信が入ったのは、ちょうどそんな時だった。
「く………………っ!
 えぇい、何だ、この忙しい時に!」
 逆転された苛立ちを隠すこともせず、きつい口調で言い放つマスターメガトロンだったが――
〈プラネットフォースの手がかり、見つけました!〉
「……何…………?」
 続いたガスケットの言葉に、思わず眉をひそめた。
「それはどこだ?」
〈それが、あのアトランティスなんですよ!〉
「ほぉ……」
 答えるアームバレットの言葉に、マスターメガトロンは遠くに――プライマスの背中にそびえ立つ巨大チップスクェアへと視線を向けた。
(ならば、こちらは後回しにしても……)
「……仕方あるまい。
 貴様ら……この場の勝利は譲ってやる。
 だが――決着はまた次の機会に預けるぞ!」
 言うなり、マスターメガトロンは上空にワープゲートを展開し、
「引き上げるぞ! お前達!」
「あぁっ、待ってくださいよ!」
「マスターメガトロン様ぁっ!」
 ダークライガージャック達と共に離脱、インチプレッシャーやクロミアもその後に続く。
「いきなり、どうしたんだ……!?
 なんか、いつもの『不利になったぞ、さぁ逃げろ』って雰囲気じゃなかったけど」
「あぁ……」
 首を傾げるヴィータの言葉に、となりに降り立ったクロノがうなずき――
『………………あぁぁぁぁぁっ!』
 気づいた。顔を見合わせて声を上げる。
『アトランティス!』

『フォースチップ、イグニッション!
 カートリッジシステム、Set Up!』

 ブレイズコンボイ、ブレイズリンクス、そして恭也と知佳――4人の咆哮に伴い、ミッドチルダの黄色のフォースチップが背中の――ブレイズリンクスのチップスロットへと飛び込み、ブレイズリンクスのカートリッジシステムが起動する。
「させるか!
 ギガ、フレイム!」
 彼自身カートリッジシステムの脅威は未体験だ。しかし、それでも警戒に足ると思ったのか、ギガストームはギガフレイムでカートリッジのロードを阻みにかかる。
 だが――ブレイズコンボイの方が早い。素早くカートリッジをロードすると眼前に右手をかざし――次の瞬間、展開されたプロテクションがギガストームの炎を阻んでしまう。
 そのまま、ブレイズコンボイは次のカートリッジをロードし――背中の翼が一度後方にたたまれ、空いた肩のスペースを通ってフレイムコンボイの左右の竜の首が展開される。
 そして、再び開かれた翼のローターに凍気が、両肩の竜の口腔内に炎が蓄えられ――
『ヴァニシング、スマッシャー!』
 咆哮と共に、放たれた凍気と炎は飛翔する過程で混じり合い――お互いのエネルギーが反発、より強大なエネルギーをまき散らしながら、ギガストームへと突き進み――直撃し、大爆発を巻き起こす!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
 まともに吹き飛ばされ――それでも、ギガストームは空中で体勢を立て直した。忌々しげに眼下のブレイズコンボイをにらみつけつつ、自身の状態をチェックする。
 結果――
「戦闘効率、75パーセントまで低下、か……!」
 その状態はあまり良いとは言えないものだった。
「くそっ、後一歩でフレイムコンボイのヤツを倒せるんだ……!
 ここで退いてたまるか!」
 だが、ここで引き下がるワケにはいかない。
 いくら合体していると言っても、本体であるフレイムコンボイは自分との戦いのダメージが回復していないはず――撤退よりも戦闘続行を決意し、ギガストームは再び翼を広げ――
 

 突然、アトランティスが鳴動を始めた。

「な、何!?」
 いきなりの振動に、知佳が思わず声を上げると、
「ちぃっ!」
 舌打ちし、動いたのはブレイズコンボイとギガストームの戦いへの手出しを控えていたスーパースタースクリームだ。いきなりブレイズコンボイの翼をつかむと、そのまま有無を言わさず頭上に向けて放り上げる!
「す、スーパースタースクリーム!?」
「貴様らも早く離脱しろ!」
 驚くドレッドバスターに、スーパースタースクリームは焦りもあらわに言い放つ。
「今のブレイズコンボイの一撃――その衝撃で、緊急離脱用のワープシステムが作動したんだ!
 このままこの艦に留まれば巻き込まれるぞ!――敵陣の中で孤立したいか!?」
「フンッ、苦し紛れに何を!」
 敵の言葉など信じられるものか――スーパースタースクリームに言い返し、ドレッドバスターがかまえるが、
「待て、ドレッドバスター!」
「シグナムさん……!?」
 それを止めたのはシグナムだった。訝る志貴にかまわず、スーパースタースクリームに尋ねる。
「それは……事実なのか?」
「貴様らを巻き込むのは、お互いデメリットしか生まないと思うが?」
 あっさりとスーパースタースクリームは答える――その言葉の裏に潜む真意を吟味するかのように、シグナムは真っ向からスーパースタースクリームを見返し――
「………………わかった。
 貴様も剣の道に生きる者――信じよう」
「シグナムさん!?」
「おそらく信じられる。
 ここはヤツの言うとおり、離脱するのが賢明だろう」
 思わず声を上げる志貴に答え――シグナムは胸中で付け加える。
(……今のヤツには、守るべき者もいるようだし、な……)

「あぁっ! こっちです、こっち!」
 エイミィ達の到着を、ホップ達は脱出ポッドで心待ちにしていた――ようやく姿を見せた二人に、ホップが手を振って声をかける。
「……あれ? フィアッセ様は?」
「うーん、いろいろあって、ここに残るって……」
「えぇっ!?」
 答えるエイミィの言葉にホップが声を上げると、
「二人とも、それより今は脱出を!」
「あ、はいはい!」
「急いでください! 緊急ワープシステムが作動しているようです!」
 リンディに促され、エイミィとホップはあわてて脱出ポッドに乗り込む。
 ポッドは2基――内訳はリンディとブリット、エイミィとバンパー、ホップである。
 だが――
「逃がしゃしねぇぜ!」
「よくがんばったけど、ここまでだな」
 彼女達の乗り込んだポッドの前に、ラナバウトとロードストームが姿を現す!
「おっと、抵抗するなよ。
 お前達の中には見かけによらずムチャクチャ強いヤツがいるからな。ポッドから出ようとするなら――容赦なく撃つぜ」
「………………っ!」
 ポッドに入ったままでは抵抗できまい――ライフルを向けて告げるラナバウトの言葉に、さすがのリンディもどうすることもできず、その頬を冷や汗が伝い――
「ぎゃあっ!?」
「どうした!?」
 響いた声は勝利を確信したラナバウトのとなりから――突然背後から殴り倒されたロードストームの姿にラナバウトが声を上げ――
「お前も、寝てなさいっての!」
 そんなラナバウトを、コンピューティコンが殴り倒す!
 そして――
「リンディ提督!」
「エイミィ、無事か!?」
 コンピューティコンの後ろから、ユーノとパーセプターが姿を現した。
 これで戦闘に参加していないメンバーは全員集合。後は脱出するだけだが――
〈エイミィ、リンディ提督!〉
 そんな彼女達の元に、ベクタープライムから通信が入った。

「今どこにいる!?」
〈脱出ポッドに二手に分かれて乗り込んだところ!〉
 月の裏側へのワープを完了し、尋ねるベクタープライムの言葉に、通信の向こうでエイミィが答える。
 と、今度はリンディが通信を代わり、ベクタープライムに告げた。
〈今、パーセプターとトゥライン――コンピューティコンに転送魔法で射出軌道上に先回りしてもらいます!
 射出されたら、二人と協力して回収を!〉
「わかった!」
 答えて、ベクタープライムは通信を切り、左右に控えるファストガンナー、バックギルドに告げる。
「よし、我々も急ごう!」
『了解!』

「む………………?」
 ワープゲートを抜け、クロミアやロードストーム、“暗黒三騎士ダークネス・トライナイツ”を引き連れたマスターメガトロンは眉をひそめた。
 アトランティスから膨大なエネルギーが放たれ、その影響で周囲の空間が歪み始めている――大質量のワープが行われる前兆だ。
「逃げるつもりか……!?」
 思わずうめき――そんなマスターメガトロンの視界のすみをよぎった者達がいた。
「急げ急げェっ!」
「早くワープフィールドに飛び込まないと、置いてかれるぞ!」
 ウィザートロンの撤退によってフリーとなったものの、アトランティスでの騒ぎを聞きつけて戻ってきたサイクロナス達である。

 そんな中、リンディ達のポッドは射出口の中を猛スピードで宇宙空間に向けて突き進んでいく。
 すでに外にはパーセプターとコンピューティコンが待機している。ベクタープライム達もすぐに合流するだろうし、飛び出してしまえば回収は目前だ。
 そして、まずリンディ達のポッドが脱出。続いてエイミィ達の乗るポッドが射出口から飛び出し――
「ぅわぁっ!?」
 そんな彼女達をアクシデントが襲った。宇宙に放り出され、気を失ったまま漂っていたランページがエイミィ達のポッドに激突。その衝撃でランページは外部へと弾き飛ばされ、そのおかげで失速してしまったエイミィ達のポッドはアトランティスの人工重力に捕まり、アトランティスに向けて落下していく!
「しまった!」
「もうひとつのポッドが!」
 一方、リンディ達のポッドは無事パーセプター達によって受け止められていた。コンピューティコンが声を上げるが、今から戻ってはワープに巻き込まれてしまう。
 どうすることもできず、彼らや合流してきたベクタープライム達、ブレイズコンボイ達が見守る中――アトランティスはついにワープシステムを発動、虚空に呑まれて消えていった。

〈すまない……我々の力不足で、エイミィやホップ、バンパーを助けることができなかった……〉
「そうか……」
 通信し、報告するベクタープライムの言葉に、ギャラクシーコンボイはうなずき、息をついた。
「大丈夫でしょうか、エイミィさん達……」
 こうしている間にも、彼女達の身に危険が迫っているかもしれない――不安そうにつぶやくなのはだが、
〈彼らについては、心配は要らないと思います〉
 そうギャラクシーコンボイに告げたのは恭也だった。
〈たぶん……フィアッセがうまく立ち回ってくれるんじゃないかと〉
「フィアッセが?
 そういえば、スーパースタースクリーム達に捕まったままだったけど……
 恭ちゃん、それ、どういうこと?」
〈詳しい報告は戻ってからする。
 とりあえず、オレ達は地球の基地に運んでもらう――ギャラクシーコンボイ達も来てくれると助かる〉
「わかった。すぐに向かおう」
 美由希に答える恭也にギャラクシーコンボイが同意し――なのはと視線を交わし、うなずいた。

 一方、フェイトは戦場後を離れ、セイバートロン星の上空を飛び回っていた。
「……どこ行っちゃったんだろ、ジャックプライム……」
 戦いの最中に姿を消した、ジャックプライムの姿を探すためである。
 と――
「…………いた!」
 見つけた。前方の視界の一角――そこにジャックプライムの姿を見つけた。
 そのとなりにいるのは――
「ビッグコンボイ?
 どうしてあなたがここに?」
「フェイトか……
 離脱したメガザラックを探していたら、こいつを見つけてな……」
 尋ねるフェイトに答え、ビッグコンボイはジャックプライムへと視線を向ける。
 そのジャックプライムは――完全に生気を失っている。心ここにあらず、といった感じで、フェイトがここに現れたことにも――そもそもビッグコンボイが傍らにいることすらも気づいていないようだ。
 まぁ、それだけショッキングな事実を目の前に突きつけられた直後なのだから、無理もない話ではあるのだが――
「……どうしたんだ? コイツ」
「こっちが聞きたいくらいです……」
 だが、その原因を知らないこちらとしては首をひねるしかない。尋ねるビッグコンボイにフェイトが答え――
「若ぁーっ!」
 突然の声はシルバーボルトのものだった。見ると、ブラッカーやレールスパイクらと共にこちらへと向かってくる。
 と――
「シルバーボルト!?」
 それまでまったく無反応だったジャックプライムが突然顔を上げた。勢いよく立ち上がり、こちらに向かってくるシルバーボルトの姿を見つける。
「ご無事ですか、若!?」
「あ、う、うん……」
 だが、相変わらずフェイト達のことには気づいていないようだ。さすがに頬を膨らませ、フェイトは声をかけようと口を開き――
「あの、さ――シルバーボルト……」
 それよりも早く、ジャックプライムは口を開いた。
「シルバーボルト達は、知ってたの……?」
「………………?
 何を、ですか……?」
 尋ねるシルバーボルトに、ジャックプライムは告げた。

「……ボクが……本当はメガザラックの子供だ、って……」

『――――――っ!?』
 その言葉に、シルバーボルト達の間に衝撃が走る。
 だが、それは単純な驚きではなかった。
 彼らの表情に浮かぶ想いはただひとつ。
 『なぜ知っている――?』
 つまりそれは、彼らもまた知っていたということだ。
 そして――
『………………っ!?』
 事情の呑み込めないフェイトとビッグコンボイは、その衝撃的な内容に、思わず顔を見合わせていた。

 その頃、緊急ワープが作動し、宇宙のどこかへワープしてしまったアトランティスでは――
「ま、間に合った……!」
「ギリギリセーフだったぜ……!」
「ブルホーン……お前、太っただろ……
 だからスピードが出なかったんじゃねぇのか!?」
「失礼な!
 これでもちゃんとダイエットしてるっつーの!」
 なんとかワープの直前でアトランティスにたどり着き、置き去りを免れたサイクロナス達が息を切らせ――
「……えっと……とりあえず忍び込んだはいいけれど……」
「オレ達、どこに向かってるんだ……?」
 別の区画では崩落した外壁から内部へと侵入していたアームバレットとガスケットが、孤立した状態で途方にくれていた。
 そして、彼女達も――
「うーん……これからどうしよう……」
「完全にみなさんとはぐれてしまいましたしねぇ……」
 腕組みしてつぶやくエイミィに、ホップもまた肩を落として答える。
「今助けを呼んでも、その通信が傍受されたらあっという間に見つかってアウト、だろうしね……」
 今は艦内に潜伏し、時期を待つしかないか――ため息をつき、エイミィがつぶやくと、
「だったら、ウチに来る?」
「え………………?」
 突然の呼びかけに振り向くと、そこにいたのは――
「そんなに広い部屋じゃないけど、ね♪」
「フィアッセさん!?」

「……とはいえ、一刻も早く助けたいのは本音だよな……」
 状況が落ち着いたとはいえ、あまり楽観できる現状ではない――地球に戻る道中、ドレッドバスターのライドスペースで、志貴はため息をついてつぶやく。
 と――突然、志貴の脳裏に声が響いた。
《…………志貴》
「え………………?
 シグナ――」
 思わず声を上げかけた志貴だったが、シグナムは口元に人差し指を当ててそれを制した。
《ドレッドバスターも聞いているんだ。声に出しての会話は避けたい。
 思念通話の回線は私が維持している――キミは頭の中で答えてくれればいい》
《あ、はい……》
 思念通話で話しかけてくる――それはつまり、ドレッドバスターには聞かれたくない話だということだ。
 そして、二人の間にある『聞かれたくない話』とは――
《はやてちゃんのこと……ですか……?》
《あぁ。シャマルから、貴様が主はやてのことを知っていることは聞いている。
 主はやての状態は思わしくない……こちらとしては、すでに一刻の猶予もないんだ》
 そのシグナムの口調から感じられるのは、隠し切れない焦りの色――その焦りを感じ取り、志貴はセイバートロン星で彼女達が現れた時のことを思い出した。
 マスターメガトロンの復活によって結局うやむやになってしまったが――彼女達はこちらの話に耳を貸さず、問答無用で襲ってきた。
 今にして思えば、あれもはやての状況が悪くなっていたからこそ――こちらの話を聞けるような、精神的な余裕がなかったからこそなのだろう。
《こうなってしまっては、もはやお前達の協力を仰ぐしかあるまい。
 だから……》
 

《聞かせてほしい。
 お前達の知る、“闇の書”の異常とやらを……》

 

 

 その頃、セイバートロン星の一角では――
「……向こうの戦い、終わったみたいだな……」
「あぁ……」
 つぶやくウィアードウルフに、彼はただそれだけ言ってうなずく。
「なのに、誰も来ないな……」
「乱入のひとつも、あっても良いとは思うな。確かに」
「忘れられてる……ってことだろうなぁ……」
「だろうな」
 そこで会話が止まる。
 周りもまた、現在の状況にすっかりやる気を削がれている。すっかりダレてしまった現状を前に、二人は――レーザークローとウィアードウルフはため息をつき、告げた。
「スカイクェイク様。もう帰りません?」
「オーバーロードの旦那も。
 ギガストーム様もどっか行っちまって帰ってきませんし……」
 だが、そんな二人の呼びかけにも――
「なかなかやるな、貴様!」
「なんの、まだまだこれからよ!
 スタントロン・リーダーの力、思い知るがいい!」
 スカイクェイクもオーバーロードも、相変わらず互いしか見えていない。両者の激しい戦いは、すでに1時間を過ぎようとしているにもかかわらず、一向に決着の気配がない。
「……こりゃ……まだしばらくかかるな……」
「スカイクェイク様も、こんなのジリ貧なんだからさっさと切り上げれば良いのに……」
 二人とも、こっちの話など聞いてもくれない――二人は心の底からため息をつく。
「……お互い、上司にゃ苦労するな」
「今夜は飲むか。付き合うぞ」

 宇宙空間なのに、なぜかすがすがしい夕焼け空が見えたような気がした。


 

(初版:2007/02/11)