月の裏側の攻防から一夜明け、海鳴市、八神家――
「……以上が、管理局が把握している“闇の書”の現状だ」
 そうシグナムが締めくくり――その場に沈黙が落ちた。
「気づかないはずだ……
 現在の我々を生み出した“闇の書”は、“夜天の魔導書”に異常が生じ、変質したもの――異常が発生した状態が基本だったのだから……」
「けど……そうだしとたら、たとえ“闇の書”を完成させても、はやてちゃんは……」
 つぶやくザフィーラの言葉に、シャマルも思わず視線を落とすが――
「……志貴のにーちゃんの話がホントなら、“闇の書”が完成しないと停止させるためのはやての管理者権限が使えない、ってことなんだよな?」
「あぁ」
 尋ねるヴィータに、シグナムは静かにうなずく。
《ならば……完成させるしかあるまい》
 そんな彼女達に告げるのは思念通話をつなげていたスターセイバーである。
《あくまで我らの手で――そう考えていた以前とは、状況が大きく異なっている。
 管理局はともかく、アースラの面々やサイバトロンは、信用に値するのではないか?》
「確かに……頼めば、プラネットフォースの力をわけてくれるでしょうけど……」
「グランドブラックホールによる宇宙の破滅が迫っている現状において、プラネットフォースの消費は避けたいのも、また本音だ……
 主はやてが助かっても、この宇宙が消えてしまうのでは意味がない」
 シャマルとザフィーラがスターセイバーに答えると、
「それに……ウィザートロンも、あたしらに近い理由でプラネットフォースを欲しがってるんだよな……」
「テスタロッサちゃんのオリジナル……アリシアちゃんを助けるため……」
 ヴィータの言葉に、シャマルはそう答えてため息をつく。
 今や事態は複雑にからみ合っている。これを解くのはそう簡単なものではないだろうが――
「それでも……動かなければ始まらない」
 うつむく一同に告げ、シグナムはソファから立ち上がると窓際に向かう。
 朝日に照らされる住宅街を見渡しながら、胸中でつぶやく。
(それに……今までも我らの蒐集の罪が、消えるワケではない……
 どう動くにせよ……)
「やはり……けじめは必要だろうな……」

 

 


 

第60話
「聖夜の哀しい激突なの!」

 


 

 

 所変わって、国守山のサイバトロン地球基地――
「こちらサイバトロン基地。
 ソニックボンバー、そっちの様子はどうですか?」
〈こちらソニックボンバー!
 何の反応もない――どうもこのエリアはハズレらしいな〉
「そうか……
 引き続き探索を頼む」
 尋ねる秋葉に答えるソニックボンバーからの通信にそう答え、ギャラクシーコンボイは回線を切ってため息をついた。
 と――
「やはり……見つかりませんか?」
 その問いに振り向くと、そこにはリンディが立っていた。
「あぁ……
 現在、長距離飛行が可能なメンバーを総動員して捜索にあたっているが……」
「少なくとも、地球圏にはもういないんじゃないでしょうか……?
 以前とは違い、今回は修理の片手間にエネルギーを蓄えていたようですし……」
「そう……」
 ギャラクシーコンボイと琥珀の言葉に、リンディはレーダー画面の投影されたメインモニターへと視線を戻し――
「……やっぱり、心配ですか?」
「もちろんです。
 エイミィもホップさん達も……大切な仲間達なんですから……」
 尋ねる愛に答え、リンディは優しく微笑んで見せる。
「けど――同時に安心もしていますけど」
「安心……?」
「えぇ」
 聞き返す翡翠に、リンディはうなずく。
「あの子達なら、きっと大丈夫ですから。
 むしろ、アトランティスの中でもけっこう快適に潜伏してるんじゃないかしら?」
「……否定できないところが逆に怖いな……」
 思わず苦笑し、ギャラクシーコンボイはメインモニターへと視線を戻した。
「となれば……我々も負けていられないな」
「えぇ。
 ギガロニアで、最後のプラネットフォースをなんとしても手に入れましょう!」
 ギャラクシーコンボイに答え、リンディは元気にうなずいて見せた。

 その頃、高町家では――
「クリスマスパーティー……ですか?」
「うん。
 こんな時やからこそ、みんなでパーッと、ね」
 聞き返すフェイトに、レンは物置から飾りの入った段ボール箱を取り出しながら答える。
「で、せっかくやから、みんなにも声かけて、サイバトロン基地でやろうと思うんやけど」
「サイバトロンのみんなも誘うの?
 確かに、メビウスショット達もクリスマスなんて初めてだろうし、ちょうどいいかもね」
 レンの言葉に美由希が納得するが――
「うーん……けど、ギャラクシーコンボイさん達が何て言うか……」
 やはりと言うべきか、現実的な問題に気づくのはパートナーとしてギャラクシーコンボイのことをよく知るなのはである。
 だが――
「ま、その辺りはみんなで説得すれば大丈夫やろな」
 対し、レンはなのはの不安をあっさりと否定してしまう。
 いや――どこか真剣味のあるその表情の裏にあるのは『否定』というよりも『期待』か。ギャラクシーコンボイが許可してくれることを切実に期待している、そんな感じ――
「何か……サイバトロン基地でやることにこだわる理由でも?」
「あ、うん……
 ちょっと、みんなに紹介したい友達がいるんよ」
 尋ねるなのはに、レンは少し困ったように答える。
「前、ウチが心臓のことで入院しとった時に知り合った子なんやけどね。
 何や知らんけど、最近また入院してまったらしくて、元気出してほしいんよ。
 しっかりしたいい子やから、きっとみんなの秘密も守ってくれるやろうし、いい友達にもなれると思うし……」
「なるほど、そういうことだったんだ……」
 納得し、美由希がうなずきながらつぶやくと、フェイトが尋ねた。
「そのお友達……なんていう名前なんですか?」
「はやてちゃん――八神はやてちゃんや」

(え――――――?)

 その言葉に、人知れず反応した者がいた。
 無視して準備に取り組んでいた晶である。
(今……『はやてちゃん』って言ったか?)
 脳裏によみがえるのは、病院で偶然聞いてしまったシグナム達の会話――

『はやてちゃんを助けるためには……』
『あぁ。わかっている。
『主はやてが入院ということになったのは、ある意味好都合かもしれないな……
 今夜にでも発つぞ』

(ちょっと待て……
 まさか、レンの友達の『はやてちゃん』って……)
 

(“闇の書”の主の『はやてちゃん』だっていうのか……!?)

 

 クリスマスパーティーの報せは、すぐさまサイバトロン地球基地へと伝えられた。
 そんな中――
「クリスマス、ねぇ……
 地球には、そんな不可思議な行事があるんだな」
「ってーか、オレはお前がナチュラルにこの場にいることの方が不可思議だよ」
 話を聞き、感心するのはフレイムコンボイ――そのコメントに呆れ、ライガージャックがうめく。
「仕方なかろう。
 あのアトランティスのワープの後、マスターメガトロンのヤツ、オレに気づかず追いかけていってしまったんだ」
「まぁ……さすがにオレ達と共闘していたとは、思ってないだろうしなぁ……」
 フレイムコンボイの言葉に思わず納得し、ライガージャックは少し大げさに肩をすくめて見せる。
「そんなワケで宿がないんだ。少しばかり滞在させろ。
 心配するな。いる間はそれなりに働いてやる」
「ずいぶんと態度のデカい居候だな……」
 ため息をついてうめき――気を取り直し、ライガージャックはフレイムコンボイに告げた。
「なら、さっそく働いてもらおうか」
「ん………………?」
 言って、ライガージャックがフレイムコンボイに渡したのは――
「総司令官、結局許可しちまったんだよ、クリスマスパーティー。
 っつーワケで準備手伝え」
 パーティーの飾り付け用の、金色に輝くモールだった。

「はぁ…………」
 厄介なことになった――ひとりになりたくていつもの鍛錬場を訪れ、晶はため息をついた。
(まさか、レンの友達が、“闇の書”のマスターだったなんてな……)
 同姓同名の別人であってほしい――わずかな希望にすがり、フィリスにそれとなく確認してもらったが――イヤな予感を確定させるだけの結果となってしまった。
 現在、海鳴大付属病院に入院している『はやて』という名前の患者はレンの友達の『八神はやて』ただひとり。つまり――
「モロにビンゴじゃねぇか……!」
 ということは、彼女の入院の原因は間違いなく“闇の書”の侵食だ。思わず晶が頭を抱えた、その時――
「おー、いたいた!」
 声を上げ、ブリッツクラッカーが舞い降りてきた。
「レンのヤツがカンカンだぜ。
 『パーティーの用意もしないでどこにいったんやー!』って」
「こっちはそれどころじゃなくてな……」
 わざわざレンの声色を真似るブリッツクラッカーに答え、晶は再度ため息をつく。
「ったく、何だよ何だよ? シケたツラしやがって」
 そんな彼女に、ブリッツクラッカーは首をかしげて尋ね――そんな彼に晶は尋ねた。
「あのさぁ……
 もし、そうするのが最悪の事態を招く、ってわかってるのに、それでもそれをやらなきゃ問題が先に進まない……ってことになったら、お前ならどうする?」
「えっと……
 よくわかんねぇけど……そいつぁ『やっちゃダメだけど、それでもやらなきゃならない』……ってことか?」
 晶の問いに、ブリッツクラッカーは腕組みしてしばし考え、
「……やるしかねぇんじゃねぇか?
 だって、それをやらないと問題が解決しないんだろう?」
「そうだよなぁ……」
 つぶやき、頭を抱える晶――そんな彼女の態度に眉をひそめ、ブリッツクラッカーは尋ねた。
「……何があったんだよ?」
 その問いに――彼を見返した晶は静かに告げた。
「ブリッツクラッカー」
「あん?」
「今から話すこと……まだ、誰にも言うんじゃねぇぞ」

「あー……確認するぞ」
 一通りの説明を終えた晶に対し、そう前置きしたブリッツクラッカーは指折り数えながら確認を始めた。
「ひとつ、レンの友達の八神はやてっていう小娘が“闇の書”のマスター。
 二つ、そいつは“闇の書”の浸食を受けていて、入院するくらいに弱ってる。
 三つ、助けるためには蒐集して“闇の書”を完成させるしかない。
 四つ、けど、それをしたら“闇の書”が暴走しちまって、結局はやては死んじまう。
 五つ……そのはやてを、レンがクリスマスパーティーに招待する気マンマンでいる、か……」
「そういうことだよ」
 少し投げやり気味に答え、晶は空を見上げた。
「そりゃ、ヴォルケンリッターのみんなとは今まで何度も協力して戦った仲だしさ、はやてちゃんのことも、きっとみんな受け入れると思う。
 けど……」
「問題なのは二つ目から四つ目、か……」
「あぁ……
 せっかく仲良くなれても、“闇の書”の問題がある限り、はやてちゃんは……」
 つぶやくブリッツクラッカーの言葉に、晶はうなずいてため息をつく。
「アトランティスから戻って、ユーノがまた無限書庫での調査を再開したけど、あまり切り札になりそうな情報も入ってこないし……」
 結局自分達にできることなどないのか――そんなことを考えるうち、ますます晶のテンションは落ち込んできて――
「なら、専門家に聞いてみればいいじゃんか」
 まるでそれが当然だと言わんばかりに、ブリッツクラッカーはそんなことを言い出した。
「あ、あのなぁ……
 専門家に聞く、って、相手はベルカ式魔法のロストロギア“闇の書”だぜ。
 そんなものについて詳しく語れるヤツなんて、一体どこに――」
 言いかけ――晶は動きを止めた。
 ひとりだけ――たったひとりだけ、心当たりに思い至ったのだ。
 自分達はまだ会ったことがなく、話に聞いた限りの情報しかない相手だが、確かに“彼”なら――
「まさか……」
「そう。そのまさか。
 運がいいっつーかなんつーか、オレ達とは直接の面識はないからな。そう警戒されることはないと思うしな」
 晶に答え、ブリッツクラッカーは笑みを浮かべて告げた。
「ベルカ式魔法を作ったっていうメガザラックなら、きっと何かに気づけるはずさ」

「クリスマスパーティー?」
「せや。
 はやてちゃんもどうかな、って誘いに来たんやけど」
 聞き返すはやてに、病室を訪れたレンは笑顔で答える。
 その背後には付き添いのなのはやフェイト――すでに互いの自己紹介は済ませ、もはやすっかり仲良しさん状態である。
「せやけど、石田センセが何て言うか……」
「フフフ、心配無用やで。
 すでに石田センセの了解は取付済みやで♪」
「おー♪ さすがレンさん、手際がえぇな♪」
 ニヤリと笑って答えるレンに、はやてもまた笑顔で手を叩き、喜びの声を上げる。
 そんなはやての顔をのぞき込み、なのはもまた彼女に笑顔で告げる。
「準備ができたら迎えに来るから、はやてちゃんも待っててね♪」
「うん、待っとる♪」

「じゃあ、ウチらはこれで」
「うん、また今度♪」
 先頭に立って病室の扉に手をかけるレンに、はやても笑顔で見送りの言葉をかける。
 そして、レンが扉を開け――

 ――ようとした瞬間、扉が反対側から開かれた。
 その向こう側にいたのは――

「…………お前達……!?」
「シグナム……!?」

 シグナムを先頭としたヴォルケンリッターの面々――意外な場所での対面に、フェイトは思わず驚愕の声を上げていた。
 

「な、なぜお前達がここに……?」
 まさかはやての病室から彼女達が現れるとは――突然のことに思考がついていけず、さすがのシグナムも呆然とつぶやくしかない。
「そ、そっちこそ、なんでここに……?」
 一方、ワケがわからないのはなのは達も同様だった。目を丸くしてレンがつぶやき――
「あぁ、その子達、前からの友達なんよ」
 そんな彼らに声をかけたのははやてだった。
「以前からの……ですか……?」
「うん。
 最近、ちょうご無沙汰やったから、シグナム達が知らへんのもしゃあないわ」
 尋ねるシグナムに、はやては満面の笑みでうなずく。
《……どう思う?》
《はやてちゃんがそうだというのなら、そうなんじゃないかしら……?》
 思念通話――それも他の誰にも聞かれないよう、暗号化まで施した秘匿回線で尋ねるシグナムに、シャマルはそう判断し、答える。
《古くからの友人というのなら、“闇の書”の主だと知って近づいてきた、ということもないでしょうし……》
《ま、まぁ……
 第一、主はやてが“闇の書”の主だと気づいていたのなら、彼女達はともかく、あの生真面目なクロノやドレッドバスターが黙ってはいない、か……》
 シャマルの言葉にシグナムがつぶやくと、
「………………あれ?
 シグナムさん達も、はやてちゃんのお見舞い?」
 そんな彼女達に新たに声をかけてきたのは――
「あ、志貴さん」
「レンちゃん……?
 それになのはちゃん達も……どうしてここに?」
 声を上げるレンに、志貴は意外そうに首を傾げる。
「志貴さんも、はやてちゃんの知り合いなんですか?」
「あぁ。
 前に、シャマルさんと一緒にいるところに会ってね」
 なのはに答え、志貴はシャマルに視線を向け――その意味するところに気づいたシャマルは小さくうなずいてみせる。
 一方、なのは達はそんな志貴の言葉に顔を見合わせ、
《ねぇ、なのは……》
《うん……
 志貴さんが、もうシグナムさん達との関係を知ってたってことは……はやてちゃんが“闇の書”の主、ってことはないかも……》
 念話で尋ねるフェイトに、なのはは少し考えながらそう答える。
 二人とも――そしてレンも、志貴が事情を知った上ではやてをかばっていることなど知りはしない。
 さらに、普段の志貴のマジメさをよく知っていることから、もし彼がはやてが“闇の書”の主だったとしたら絶対に放っておかないだろうとも考えてしまう。
 結果――その志貴が平然と対していることから。すっかりはやてとシグナム達の関係が主従ではないと信じ込んでしまった。
 だから――
「だったら、大丈夫かな……?」
「………………?
 大丈夫、って……何がだよ?」
 フェイトのつぶやきに眉をひそめるヴィータに、なのはは心からの笑顔で告げた。
「ヴィータちゃん達も……ウチのクリスマスパーティー、来れないかな?
 はやてちゃんと、一緒に……」
「え…………?
 あ、あたしらも……って、おい!?」
 その提案に、ヴィータは思わず目を丸くした。
 自分達となのは達は、今となってはお世辞にも敵対状態とは言えない状態であることは認める――度重なる共闘で、それくらいの絆ができていることは認めざるを得ない。
 だが――逆に言えば仲間となったワケでもないのだ。そんな相手を易々とパーティーに招待して、果たして問題はないのだろうか――?
 そんなことを考え、辞退を申し出ようとするヴィータだったが――
「あぁ、それもえぇね」
「はやてちゃん!?」
 あっさりと快諾してしまったはやての言葉に、シャマルは思わず声を上げるが、
「みんな……都合悪いん?」
『う゛っ…………』
 不安そうにそう尋ねるはやての顔を前にして、彼女達に反論などできるはずもない。
 結局、シグナム達はあっけなく降参。とんとん拍子に話が進み、彼女達の参加も決定してしまったのだった。

「……どうするべきなんでしょうか……」
「ま、まぁ……こうなったら出たとこ勝負しかないんじゃないんですか?」
 あの後、なのは達は準備のために帰ってしまい――シグナム達を病室に残し、廊下で尋ねるシャマルに志貴は苦笑まじりにそう答えた。
「とりあえず、はやてちゃんには『余計な心配をかけさせないように』ってことで“闇の書”についてはオフレコにしてもらうとして……」
「後は、私達で口裏を合わせていくしかないですね……」
 志貴の言葉につぶやき、シャマルは申し訳なさそうに志貴に告げる。
「すみません、志貴さん……
 はやてちゃんのことで、いろいろとご迷惑を……」
「気にしてませんよ、そんなこと」
 答え、志貴は軽く肩をすくめる。
「オレだって、はやてちゃんを助けたいって思ってるのは同じですから。
 それに……」
 告げて、志貴は窓から外へと視線を向けた。
「なのはちゃん達も、それは同じですよ。
 今はまだ、足並みをそろえられないだけで……いつかきっと、本当の意味で一緒に戦えるようになりますよ」

「八神、はやてか……」
 なのは達から告げられた意外な参加者の名前――ヴォルケンリッターの名前と共に挙がったその名を繰り返し、ギャラクシーコンボイはしばし考え込む。
「やはり、“闇の書”の関係者だと見るべきなのだろうが……」
「けど……もしただの知り合いなんだとすれば、“闇の書”のことを知らずに付き合ってる可能性もありますよね?
 “闇の書”に侵食された主の治療で病院に来て、そこで知り合った、とか……」
 つぶやくギャラクシーコンボイに答えるのは、真一郎と共にクリスマスパーティーの準備で基地を訪れていた唯子だ。
 と、エリスが手元の書類に目を通し、
「一応、こちらでも彼女の線から調べてみたけど……その可能性はないわ。シグナム達は彼女の家で寝泊りしているみたい。
 ただ……彼女とシグナム達のつながりについては、いくら調べてもほとんど何も出てこなかったわ。あるのは『親戚だ』って主治医の先生や身近な人間に語ったはやてちゃんの証言だけ――
 彼女が“闇の書”の主である、という可能性はもちろん強いけど……前線基地代わりとして自分達だけが下宿させてもらってるだけ、という可能性も否定できない、ということね」
「可能性は半々、か……」
 ギャラクシーコンボイが答えるが――
「うーん……望み薄なんじゃないでしょうか……?」
 エリスの手にした書類を覗き込んでいたシェリーがそんなことを言い出した。
「どういうことだ?」
「だって、話を聞いた限りじゃ、そのはやてちゃんって争いは嫌い、どころかそれを避けるためなら喜んで自分から貧乏クジを引きに行くようなタイプじゃない。
 今までの“闇の書”の主とは、どうもイメージがかみ合わないのよねぇ……」
「確かに、記録にある“闇の書”の主は、皆高圧的で、シグナム達を道具扱いするような者ばかりだったな……
 総司令官、やはりそういった共通点を考慮すると、八神はやてはますますかけ離れるのでは……?」
「うむ……」
 ファストガンナーの言葉に、ギャラクシーコンボイはしばし考える。
 リンディの意見を聞ければいいのだが――間の悪いことに彼女は現在翠屋で桃子とパーティーの打ち合わせ中だ。後で相談するしかあるまい。
「……では、彼女については一時保留としよう。
 リンディ提督とも相談し、今回のパーティーでは様子見に徹する。
 “闇の書”については一切話題に挙げず、彼女の人柄を直接見て判断することにする」
 つぶやき、ギャラクシーコンボイは小さく息をついた。
「願わくば……ハズレであってほしいものだな……」
 

 そして、クリスマスパーティー当日――
 

「……アースラチームが、“闇の書”の主に接近したようだ」
「だが、まだ彼女が主とは気づいてはいないようだ」
 告げる仮面の戦士に、ダブルフェイスもまた静かに答える。
「いずれにしても、時を進める必要はありそうだ……」
「わかっている」
 ダブルフェイスの言葉に仮面の戦士が答え、ダブルフェイスは自身の足元に魔法陣を展開し――その姿が変化した。
 変身魔法だ――数秒の後には、その姿はキングコンボイのそれへと変わっていた。
「こんなところか」
「まぁ、それならばバレることはないだろう」
 つぶやくダブルフェイスに答えると、仮面の戦士は自身の足元に魔法陣を展開し、
「では、手はずどおりに」
「わかった」
 そうダブルフェイスと言葉を交わし――仮面の戦士はダブルフェイスの前からその姿を消した。

『メリー、クリスマース!』
 指令室に続く大扉が開かれると同時――はやてや守護騎士の面々を出迎えたのは元気な掛け声と盛大に鳴らされたクラッカーだった。
 その場にはアースラクルーやサイバトロン軍の面々がほぼオールスターで勢ぞろいしている――さすがに全員が参加、というワケにもいかず、若干名が警戒のために席を外してしまっている。
 一方、守護騎士達の参加者はシグナム、シャマル、ヴィータの3人にはやて、そしてトランスフォーマーからはビッグコンボイとビクトリーレオが顔を見せている。
「ようこそ、サイバトロン基地へ。
 八神はやて――だね。志貴やレンから話は聞いている。
 私はサイバトロン軍総司令官、ギャラクシーコンボイだ。よろしく」
「よろしくお願いします。
 八神はやて、いいます」
 代表して自己紹介するギャラクシーコンボイに答え、はやては彼の差し出してきた人差し指と握手を交わす。
 彼女が“闇の書”の主なのではないか――その疑念は消えてはいない。だが、それを今ここで口にしても話をややこしくするだけだ。表面に出すことなく、ギャラクシーコンボイははやてと相対する。
「私は副司令のドレッドバスター。
 志貴のパートナーだ。よろしく」
 続いてドレッドバスターが名乗り、他の面々もそれにならって自己紹介していく。
「しかし、まさかお前らも来るとは思わなかったぞ」
「こっちこそ、お前がいるとは思わなかったさ。
 だが……もし参加したことについて礼が言いたいのなら、それはオレ達よりもなのは達だ」
「フフフ、そうですね。
 最初に私達を誘ったのはなのはちゃんですし」
 感心し、告げるフレイムコンボイにビッグコンボイとシャマルが答えると、
「それはいいんだけどさぁ……」
 そんな彼らに声をかけたのは真雪だ。
「“あっち”は、なんとかならないのか?」
 そう告げて、彼女が見た先では――

 さっそく混沌カオスが生まれていた。

「フンッ、所詮貴様など、地球での騒ぎが起きてようやく合流したようなものだろうが。
 私と恭也は、もっと以前から刃を交え、互いのことを知ってきた」
「へー、そうなんですか。
 けど、それって敵対関係だったワケでしょう? その点私達は、最初から仲間でしたから♪
 それに、知り合いって意味じゃ、私の方が先に恭也君と出会ってますし♪」
 鋭い視線を向けるシグナムに対し、知佳は余裕の笑みと共にそれを迎撃する。
「だが、仲間であればこそ見えないものもあるだろう。
 貴様……戦いの場での恭也を見たことなど、この一件までなかったのではないか?」
「まぁ、恭也くんはいつもみんなに心配をかけないことを最優先で考えますからねー。
 私達のことを想ってくれるからこそ見せないでいてくれる――恭也くんの愛情の顕れなんですよ♪」
「あ、愛じ――!?」
 今のところ、相対する二人の戦況は知佳がやや有利、といったところか。
 そんな二人にはさまれた最大の当事者、高町恭也はといえば――
「二人とも――何をそんなににらみ合ってる?
 ケンカするために顔を合わせたワケじゃないだろう?」
 状況をまったくわかっていなかった。

「……真雪さんは、やっぱり知佳ちゃんの応援ですか?」
「もちろんさ」
 微妙な三角関係から視線を外し、尋ねるシャマルに真雪はキッパリと答える。
「知佳には相応の相手を用意してやらないと、って思ってたんだ。
 そこに恭也みたいなおあつらえ向きなヤツが現れたんだ。もう『コイツしかいない!』って思ったね。
 そういうそっちはシグナムを応援か?」
「もちろんですよ♪
 シグナムってば、守護騎士の使命にばっかりまっすぐで、女の子としての幸せって考えたこともなかったんですよ。
 そのシグナムに気になる異性が現れたんですよ。応援しないはずがないじゃないですか」
 聞き返す真雪に、シャマルもまた満面の笑みと共に答え――
「けど……」
「あぁ……」
 そこから先は二人ともまったくの同意見だった。火花を散らす二人と首を傾げる恭也に視線を向け、告げる。
「声援は離れたところで送りましょうか。
 巻き込まれたら軽く死ねますし」
「同感だな。
 やっぱ痴話ゲンカってのは巻き込まれないで観戦するから楽しいワケで。許せ知佳」
 ヘタに近場で応援しようものなら、二人が実力行使に出た時点で確実に巻き込まれる――さすがの真雪もそれに巻き込まれるのは勘弁なようで、シャマルと共に後退する。
 その一方で――
「おや……?
 ザフィーラの姿がないな。それにフォートレスやアトラスも」
「スターセイバーもいないじゃねぇか」
「あぁ。
 そっちと同じで、こっちも全員参加、というワケにもいかないからな。
 3人で留守番だ。実働要員のアトラス、ザフィーラと警戒担当のフォートレス、って具合にな。
 スターセイバーは……近くまでは来たんだけど、『やっぱりいい』って言い出して逃げた。こういう場は苦手なんだってさ」
「フンッ、おかげでオレが代わりの生贄だ」
 気づき、尋ねるニトロコンボイとエクシゲイザーにビクトリーレオやビッグコンボイが答えると、
「だ、そうだぞ。
 ザフィーラがいなくて残念だったな、アルフ」
「なんであたしに振るんだよ!?」
 告げるファングウルフに、アルフが思わず声を上げる。
「え? 何々?
 ひょっとして、ザフィーラといい仲やったりする?」
「そ、そんなことないない!」
 そんなやり取りを聞きつけ、とたんに目を輝かせるはやてにアルフが顔を真っ赤にして否定の声を上げると、
「ま、そうだよな……
 そういう話題なら、むしろヴィータだし」
「ぅおぉいっ!?」
 ソニックボンバーの言葉に、突然話を振られたヴィータはあわてて声を上げる。
「何っ!?
 ヴィータ、貴様、いつの間に!?」
「な、なんだよ、シグナムまで!
 あ、あたしには別に、そんな相手はいないって!」
 そんなことは聞いていない――知佳とのにらみ合いをも放り出し、詰め寄ってくるシグナムに答えるヴィータだったが――
「そうか?
 こっちと連携するたびに、よくつるんでたろ、お前ら」
「だぁぁぁぁぁっ、違うっつーの!」
 心の底から意外そうに告げるソニックボンバーに、ヴィータは頭を抱えて声を張り上げる。
「あたしは、別にどうも思っちゃいねぇよ、あんなヤツ!」
「え? そうなの?」
 ムキになって反論するヴィータの言葉に、意外そうに聞き返したのはなのはである。
「わたしはてっきり……」
 言って、なのはは“そちら”へと振り向き、それにつられて一同の視線も動き――
 

「………………ボク?」
 

 注目を受けたクロノは、思わず間の抜けた声を上げていた。
 

「主達は、楽しんでいるだろうか……」
「心配、恐らく無用」
 サイバトロン、管理局とは事実上の停戦状態だが、だからと言って他の勢力が黙っていてくれるとも思えない――国守山の周囲をパトロールのために走りながら、獣形態のまま器用に運転席に座ってつぶやくザフィーラに、アトラスは簡潔にそう答えた。
「我らの役目はただひとつ」
「あぁ……
 主達が安心してクリスマスパーティーを楽しめるよう、全力を持って守らなければな」
 告げるアトラスにザフィーラが答え――
 

 次の瞬間――

 

 彼らの姿は、その場からかき消えていた。

 

 

「はぁ……」
 もうクリスマスパーティーが始っている頃か――そんなことを考えながら、ジャックプライムは国守山から少し離れた山中で座り込み、ひとりため息をついた。
 本来ならば自分もあの場にいたのだろうが――とてもじゃないがそんな気分にはなれなかった。フェイトにはパーティーを楽しむように告げ、彼はシルバーボルト達の同行も断り、ひとりでパトロールに出ていた。
 思い出すのは先日のセイバートロン星での戦いのこと――
「メガザラックが、ボクの本当のお父さん……」
 それが虚言だという可能性も考えるが――何よりもメガザラック当人の口からその可能性が語られてしまった。
 だからこそ――怖い。
 父エルダーコンボイに本当のことを問いただすのが――
「ボクは……どうすればいいんだろう……!」
 いくら考えても思考が堂々巡りを繰り返すばかり。ジャックプライムは自らのヒザを抱え込み――
「――――――っ!?」
 気づいた。
 すぐ近くから感じる、どこか弱々しい魔力の気配――
「フェイト……?」
 自分を探しに来たのだろうか。だが、それならこの魔力の弱々しさは一体――疑問に思いながらも、ジャックプライムはビークルモードへとトランスフォーム。確認のためにフェイトの反応のあった辺りに走る。
 そこで見たのは――
「――――フェイト!?」
 ボロボロになり、大地に倒れるフェイトの姿だった。
「どうしたの!?」
「じ、ジャックプライム……!」
 ロボットモードへとトランスフォームし、尋ねるジャックプライムに、フェイトは顔を上げ、
「いきなり、スターセイバーに襲われて……!」
「スターセイバーに!?」
 その言葉は、ジャックプライムに衝撃を与えるには十分すぎた。まさか、スターセイバーがこんな不意打ちじみたマネをするはずが――
 だが――フェイトがウソをつくとも思えない。
(スターセイバー……まさか、裏切ったの……!?)
 信じたくないという想いと裏切られたという想い――二つの感情がせめぎ合い、ジャックプライムは拳を握り締める。
「念話も通信も妨害されてて……みんなと連絡が取れなくて……!」
 つぶやき、身を起こしたフェイトはその身を近くの木に預け、
「私なら大丈夫だから……スターセイバーを追いかけて。
 きっと狙いは――」
「うん……」
 フェイトに答え、ジャックプライムは立ち上がり、
「フェイト……もうしばらくガマンしててね。
 スターセイバーは……ボクが止めるから。
 キングフォース!」
 言って、ジャックプライムはキングフォースを召還。合体し、キングコンボイとなって飛び立っていく。
 その後姿を、フェイトはしばし見送り――
 

「…………頼むぞ、キングコンボイ」

 静かに告げると同時――その姿は仮面の戦士のそれに変貌していた。
「さぁ……最終章の始まりだ」
 

「やれやれ……」
 ため息をつきながら、スターセイバーは哨戒飛行を終え、海上から海鳴への帰路を取っていた。
 途中までははやてに同行したが――やはりパーティーのような華やかな場に出ることに引け目を感じて逃げ出してしまった。我ながら難儀な性格をしていると思う。
「さて、と……
 フォートレス、こちらスターセイバー。
 現在のところ異常なし。これからそちらに戻る」
 とりあえずマキシマスに戻ることにし、連絡しようとするスターセイバーだが――
「む………………?」
 通信はつながらず、ただノイズが聞こえるだけ――すぐに通信妨害が行われていると気づき、スターセイバーの脳裏に警報が響く。
 と――
「――――――っ!?」
 気づくと同時に離脱――スターセイバーはすぐさま転進し、飛来したビームを回避する。
「何者だ!?」
 すぐに迎撃体勢へと移行、ロボットモードにトランスフォームしたスターセイバーが周囲を見回し――上空に反応が現れた。
 そこにいたのは――
「キング……コンボイ……!?」
 そこに現れた意外な人物に驚愕するが――その驚愕にまぎれ、スターセイバーは気づけなかった。
 

 キングコンボイのエンブレムがサイバトロンでもデストロンでもなく――
 左がサイバトロン、右がデストロンという、左右がそれぞれ各勢力に分かれた独特のものだったことに――

 そして――

 ダブルフェイスの化けた偽キングコンボイは、スターセイバーへの攻撃を開始した。
 

「――――戦闘の反応!?」
 スターセイバーの戦いの反応は、キングコンボイのレーダーにもとらえられていた。
「まさか……また誰かを襲ってる!?」
 反応の一方が確認不可能なのが気になるが――だからと言って放っておくこともできない。
「スターセイバー……これ以上はやらせない!」
 とにかく、スターセイバーを止めなければ――通信妨害でなのはやギャラクシーコンボイ達に連絡できないことに歯噛みしながらも、キングコンボイは反応のある地点に向けて飛翔した。

「ぐぅ………………っ!」
 自分の斬撃をかわし、反対にカウンターを狙われた――強引に身をひねって回避し、キングコンボイに扮するダブルフェイスは距離をとった。
(さすがはヴォルケンリッター側のトランスフォーマーではビッグコンボイに次ぐ実力者なだけはある……!)
 芳しくない状況だが――ダブルフェイスは特に焦っているワケでもなかった。
 自分の役割はあくまで時間稼ぎ――“彼”が来るまで、この場を持たせられればよかった。
 そして、“彼”は――
(視認可能距離まであとわずか、か……
 ならば、そろそろ潮時か……)

「どういうつもりだ?
 なぜオレを襲った?」
 間合いが離れ、戦いは一度仕切り直し――静かに尋ねるスターセイバーだが、目の前のキングコンボイは無言でカリバーンをかまえる。
「問答無用、か……
 貴様らしくない――それとも、オレが見誤っていただけか?」
 少なくとも向こうは本気だ――応じるべく、スターセイバーはスターブレードをかまえる。
(シグナム達をクリスマスパーティーに誘っておいてこの行動……
 最初から、狙っていたということか……?)
 だとすれば、許されざる裏切りだ――胸の奥に沸き起こる怒りに、スターブレードを握るその手に力が込められる。
 と、そんなスターセイバーを前に、キングコンボイは突然右手を頭上にかざし――その手の中に雷光を生み出す!
「何――――――っ!?」
 キングコンボイの魔法属性は“風”ではなかったのか――思わず警戒するスターセイバーにかまわず、生み出した雷光を海面に叩きつける!
 とたん、巻き起こる大爆発――衝撃は大量の海水を上空に舞い上げ、両者の間の視界を完全に奪う。
 そして――それが消えた時、スターセイバーの眼前にキングコンボイの――ダブルフェイスの姿はなかった。
「どこへ消えた……!?」
 自分を攻撃してきた意図は未だ知れない。だが――そこには明確な敵意があった。奇襲を警戒し、スターセイバーは周囲を見回し――
「――スターセイバー!」
 声は頭上から――見上げたその先で、彼は怒気を多分に含んだ視線をこちらに向けていた。
 ダブルフェイスの化けた偽者などではない――本物のキングコンボイが。

「スター、セイバー……!」
 眼下で戦闘態勢に入っているスターセイバーの姿を前に、キングコンボイは思わず歯噛みした。
 やはり、誰かと交戦していたようだ。姿が見えないということは、すでに――
「どうして、こんな……!」
 自分を励ましてくれたこと――
 リンクアップし、共に戦ったこと――
 そして、傷つけられ、倒れていたフェイト――
 さまざまな想いが脳裏をよぎる。
「どうして……こんなことをぉっ!」
 許せない――裏切られたという想い、そこから来る怒りに突き動かされ、キングコンボイはスターセイバーに向けて突撃した。

「……やはり、ここだったか……」
 北極、地球デストロン封印の地――
 自分の荒らした封印カプセルの保管庫――そこに新たな破壊の跡があるのを見つけ、スーパースタースクリームは静かにつぶやいた。
 アトランティスは今のところ誰にも見つけられていない――時間ができたのを幸いに、気にかけていたことを確かめるべく地球に舞い戻ったのだ。
 そんな彼の目の前では、封印カプセル跡の並ぶ地下ドーム――その中央が、大きく穿たれている。
「ここに地球のユニクロン・プラネットフォースが……
 結局、オレは“ヤツら”の手助けをしてしまったというのか……!」
 あの頃の――といってもつい先日の――自分の浅はかさを呪い、スーパースタースクリームは舌打ちし――
「――――――っ!?」
 そのレーダーが反応を捉えた。
 だが――その反応の正体にスターセイバーは眉をひそめた。
「スターセイバーと……セイバートロン星でギャラクシーコンボイとつるんでいたあのガキか……?
 なぜ、あの二人が戦っている……?」

「えぇっ!?」
 パーティーも盛り上がってきたところにアースラから入ってきた突然の連絡に、なのはは思わず声を上げた。
 だが――驚愕しているのはこちらも同じだった。信じられない、といった表情で、シグナムがモニターに映るアレックスに尋ねる。
「そんな、バカな……!
 スターセイバーがキングコンボイと戦っているだと!? どういうことだ!?」
〈そ、そんなの、こっちが聞きたいですよ!
 二人に事情を聞こうにも、通信も念話もジャミングフィールドが展開されていて、確認のしようがないんです!〉
「妨害、されてる……!?
 けど、誰が、何のために……?」
「それに、妨害されてるなら、何で戦闘の反応を探知できたんだ?
 通信関係だけが妨害されてるってのか?」
 答えるその言葉にアルクェイドとオートボルトが首を傾げると、
「とにかく、今は状況を確認することです」
 そんな中、いち早く対処したのはやはりリンディだった。告げるその言葉にギャラクシーコンボイもうなずき、
「よし、全員出動だ。
 戦いの現場に急行し、事の次第を確かめる!」
『了解!』
 その言葉になのは達一同がうなずき、
「シグナム」
 今までのなごやかなものとは一変。ハッキリした口調で、はやてもまたシグナムに声をかけた。
「シグナム達も行くんや」
「し、しかし……!」
 その言葉に、シグナムは思わずリンディ達の様子をうかがう。
 志貴が口裏を合わせてくれたおかげで紹介した時は『知人』ということで済ませていたが、この状況で自分達に命令を下すとなれば――もはや、彼女達にもバレたののは間違いない。
 案の定、そんな彼女達に、リンディは静かに告げた。
「……話を聞いた時から、もしかして、とは思っていましたが……
 はやてさん、やっぱり、あなたが……?」
「はい……」
 そううなずいて――はやては告げた。

 

「ウチが、シグナム達のマスターです」

 

 ハッキリと断言したその一言に、一同の間にざわめきが走る。
「そんな……!?」
「はやてちゃんが、“闇の書”のマスター……!?」
 特に、一度その仮説にたどり着きながらも否定していたなのは達の衝撃は大きかった。顔を見合わせてつぶやくと、
「今は、そんな話をしている時じゃないだろ」
 そんな二人に告げるのは志貴だ。
「志貴さん……もしかして、はやてちゃんをかばって……!?」
「そのことは……移動の間に話すよ。
 とにかく、今はスターセイバーとキングコンボイを止めるのが先だ」
「そ、そうですね!
 ギャラクシーコンボイさん、みんな、急ごう!」
 フェイトにそう答える志貴の言葉に、我に返ったなのはが号令を下す形で一同は指令室を出て行く。
「では、私達もバックアップしましょう」
「はい!」
 告げるリンディに愛が答えると、
「ウチも手伝います!
 ウチの子達も関係してることです――見てるだけっちゅうワケにもいきません!」
 そんな彼女達に、はやてもまた協力を申し出る。
 その言葉に、リンディはしばし考え――
「……わかりました。
 では、はやてさんも手伝ってください」
「はい!」
 彼女が“闇の書”のマスターだとなれば、後々いろいろと問題も生じるだろうが――今は予想だにしなかったキングコンボイ達の戦いに対処するのが先だ。リンディの言葉にはやてがうなずき、彼女達は指令室内でそれぞれ所定の位置へとついていった。

「はぁぁぁぁぁっ!」
 ビクトリーセイバーに合体しなければ魔法は使えない――Vスターの機銃を乱射し、スターセイバーはキングコンボイをけん制。海面を叩いたビームの熱で巻き起こった水蒸気を隠れ蓑にキングコンボイに肉迫し、両足で連続蹴りをお見舞いする。
 そのままスターブレードで本命の一撃を狙うが、さすがにキングコンボイも蹴られた勢いに逆らわず後退し、自分を狙う斬撃を回避する。
 間髪入れず蹴りで追撃するスターセイバーだが、
「そうそう、何度も!」
 キングコンボイもその蹴りを受け止め、逆にスターセイバーを投げ飛ばす!

「あそこか……!」
 激しくぶつかり合う二人――現場を視界に捉え、なのはと共に飛翔するギャラクシーコンボイがうめくようにつぶやいた。
 戦いの現場は結界に覆われている――封鎖領域だ。
 海上ということで、現場に向かっているのは飛行可能な面々のみ――フレイムコンボイ以下地上メンバーは海岸で待機だ。
 結界による空間のゆがみで、内部の様子はわからない。だが、二人の気配は感じられる――その気配は気迫に満ちている。間違いなく二人は本気で戦い合っている。
「キングコンボイ……どうして……!」
「スターセイバーもだ。
 なぜ今、キングコンボイと……!」
 どうしてこんなことになったのか――それぞれの相棒の身を案じ、フェイトとシグナムがつぶやくと、
「よし、内部に突入する。
 何としても二人の戦いを止めるんだ!」
「おぅよ! 任せとけって!」
 告げるギャラクシーコンボイに答え、真っ先に突撃するのはソニックボンバーだ。
「ま、待て、ソニックボンバー!
 うかつに結界に突撃しても――」
「コイツぁ、ベルカのヤツらの結界なんだろ!?
 だったら出るのが厄介なだけで、突入は簡単だろうが!」
 ライドスペースで声を上げるクロノに答えると、ソニックボンバーはそのまま封鎖領域の結界面を突破し――その内側で、突然もうひとつの結界面に激突する!
「どえぇぇぇぇぇっ!?」
「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」
「ソニックボンバーさん!?」
「クロノ!?」
 外側の封鎖領域と内側の結界――二つの結界面の間でまるでスーパーボールのように跳ね回るソニックボンバーの姿になのはとフェイトが声を上げると、
「これは…………!」
 結界をスキャニングしたメビウスショットがギャラクシーコンボイに報告する。
「ギャラクシーコンボイ殿。
 内部に張られているのは、ミッド式の封時結界でござる」
「ミッド式の?」
「左様。
 封鎖領域を突破し内部に突入しようとしても、内側に張られた封時結界がそれを阻む……さらに脱出を阻む外側の封時結界によって、突入した者はその間に閉じ込められてしまう……」
「そんなの、ブッ壊しちまえばいいだろ!
 結界もろともブッ飛ばすような、凶悪邪悪極悪無比な一撃で!」
 そうメビウスショットに答えると、ヴィータはなのはの肩をポンと叩き、
「ってなワケだ。頼むぞ、高町」
「……今のやり取りの後だとものすごく釈然としないものがあるんだけど……」
 ヴィータの言葉にうめくが――この結界を破るためには自分のスターライトブレイカーがもっとも有効であることも事実だ。なのははため息まじりにレイジングハートをかまえ――
「ち、ちょっと待てぇ!」
「そんなの撃たれたらボク達も巻き込まれるって!」
 あわてて制止の声を上げるのは、その結界に閉じ込められている当事者、ソニックボンバーとクロノだ。
「だいたい、中にもまだ二人いるんだぞ。
 そいつらごと吹っ飛ばしてどうするんだ!?」
「ケンカは止まるよ?」
「なんで現場に出たとたんに穏便な方向に話を進められなくなるんだ、キミは!?」
 すっかりヴィータの言うとおりブッ飛ばす気でいたらしい――しれっと答えるなのはの言葉に言い返し――
「………………え?」
 クロノはふと違和感にとらわれた。
「どうした……?」
「そういえば……スターセイバーとキングコンボイの戦闘の反応をキャッチしたんだよな?」
「あぁ」
 うなずくソニックボンバーの答えに、クロノはさらに尋ねた。
「……“結界の反応じゃなくて”?」
「あ………………」
 思わず声を上げるソニックボンバー。なのは達もようやくその点に思い至り、互いに顔を見合わせる。
 言われてみれば確かにそうだ。結界の内側での戦闘反応は、通常空間で戦うよりも確実に捉えにくくなる。そのため、通常は結界の反応を頼りに戦闘の発生を監視するのが普通なのだが――
「結界よりも、戦闘の反応の方が強くキャッチされた……?
 どういうことだ……?」
 一体どういうことなのか――眉をひそめ、ビッグコンボイはしばし考え、
「……シャマル。
 サイバトロン基地のシステムでスキャンできるか?」

「今ゆうひちゃんと二人で分析中!」
 サイバトロン基地では、リンディやはやてが事の成り行きを見守る一方で、ゆうひとシャマルが懸命に状況の分析に取り組んでいた。
 やがて――
「これは……!?」
 表示された結果に、シャマルは思わず眉をひそめた。
「シグナム、ビッグコンボイ……それにギャラクシーコンボイさん達も聞いて!
 スターセイバー達の真上――結界の頂上部に穴が開いてるの!」
〈なら、そこから突入できるということか?〉
「ううん、やめといた方がえぇわ」
 ライブコンボイに答えるのはゆうひだ。
「そこから、何や知らんけどでっかいエネルギーが放出されてるんよ。
 うかつに突っ込んだらあっという間にバラバラやで」

「それほどまでに強力なエネルギー流が発生しているのか……?」
 なのは達の会話はこちらでも傍受していた――海上を日本に向けて飛翔し、スーパースタースクリームはうめくようにつぶやいた。
「だが……どうしてそんなエネルギーが……!?」
 現象はわかった。だが原因がわからない――それにわからないことはもうひとつ。
(結界は……誰が張った……?)
 普通ならキングコンボイとスターセイバーが張った、と考えるべきだろう。だが――“侵入させない張り方”をしている点が気にかかる。
 聞こえた話の内容から考えて、決闘などというものではないだろう。外部からの助力を拒否する理由が今の二人にあるとも思えない。
「一体……誰が、何の目的で……!?」

「くっ……目の前にいるというのに、何もできないとは……!」
 現場にたどり着きながら、突入することのできない現状に、ギャラクシーコンボイは歯噛みしてうめく。
「ゆうひさん、シャマルさん!
 中の様子はモニターできないんですか!?」
〈映像は確認してるわ。
 そっちにも送ります〉
 尋ねるなのはにシャマルが答えると、目の前に展開されたウィンドウに激突するスターセイバーとキングコンボイの姿が映し出された。
 だが――
「ち、ちょっと待て!」
 それを見て、志貴はドレッドバスターのライドスペースで思わず声を上げた。
 スターセイバーの手にはスターブレード。キングコンボイの手にはカリバーン。
 しかも――
「チャージ済み!?
 総司令官、二人とも必殺技を撃つつもりですよ!」
「いかん!
 総員、即刻退避! ソニックボンバーとクロノは対衝撃防御だ!」
 あわてて声を上げるハイブラストの言葉に、ギャラクシーコンボイもすぐに指示を下す。
 もし、この現状で二人の必殺技が激突したりすれば――結界上部で荒れ狂っているエネルギーに引火したりすれば――どんなことになるか、想像もしたくない。
 だが――
「け、けど、キングコンボイが!」
「スターセイバー!」
 二人のパートナーは――フェイトとシグナムはまったく逆の動きを見せた。二人を救出すべく、結界に向かう。
「フェイト! シグナム!」
「バカ! 二人とも、下がれ!」
 そんな二人の動きに、クロノとソニックボンバーが声を上げ――!

「シグナム、戻りや!」
「フェイトさんも! そこは危険です!」
 サイバトロン基地でもその様子はモニターしていた。相棒の下へと向かうシグナムとフェイトの姿に、はやてとリンディが声を上げる。
「アレックス! 二人を強制転送回収!」
〈わ、わかりました!〉
 告げるリンディの言葉にアレックスが答え――
 

「それは困るな」
 

「え――――――?」
 静かに告げられた声に振り向き――次の瞬間、リンディは激しい衝撃を受け、壁に叩きつけられていた。
「何や!?」
 とっさにシートから立ち上がろうとするゆうひだが――彼女もまた、腹に一撃を受けて意識を刈り取られる。
 そして――
「八神はやて。
 我らと共に来てもらおうか」
 淡々とそう告げて――“二人の”仮面の戦士は愛や舞、秋葉にかばわれたはやてへと向き直った。

 

「これで……決める……!」
「二撃目は――ない!」
 互いの刃には渾身の力――最大の一撃を放つべくそれぞれの獲物をかまえ、キングコンボイとスターセイバーは静かに告げる。
 二人とも、結界の外にいる面々には気づいている。
 だが、助けを求めることはしない。
「よくも、フェイトを……!」
「我らの信頼を裏切り、しかけてきたお前を……!」

『許すワケにはいかない!』

 

 

 そして――
 

 

「ストーム、カリバー、ブレイカー!」

 

「飛燕、煉獄斬!」

 

 両者の一撃が、激突した。


 

(初版:2007/02/18)