「くぁ………………っ!」
衝撃が全身を襲う――スターセイバーの一撃を受け、キングコンボイは海面に叩きつけられた。
すぐに浮上し、自身の状態を確かめる。
(くらったのは――左腕か……!)
肩部の関節のロックが外れている――これでは動力を伝えてもうまく動かせない。人間で言うところの“肩が外れた”ようなものか。
だが、自分の一撃もスターセイバーをとらえていた。刃は右足を深々とえぐり、メインフレームまで届いているのがわかる。
「こっちは打撃力、向こうはスピードが半減、か……!」
うめくが――だからと言って退くことはできない。
(アイツは……フェイトを痛めつけたんだ……!
ボクのパートナーを……絶対に許せない!)
絶対に倒れるワケにはいかない――満足に動かない左手をなんとかカリバーンに添え、スターセイバーに向けてかまえ、
「カリバーン、カートリッジ、ロード!」
咆哮と同時にカートリッジをロードし、刃が旋風に包まれる――
(右足は……まともに動きそうにないな……)
自己診断の結果、右足のメインフレームまで刃が届いていた――鋭い痛みを感じながら、スターセイバーはスターブレードをかまえた。
自分の一撃もキングコンボイの左腕をとらえたはず。一方的にやられた、というワケではないだろうが――
(以前に比べて、確実に腕を上げている……!)
原因は恐らく、彼が受け継いだ“第2のマトリクス”――そこに蓄積された経験値がキングコンボイの持つ力を引き出しているのだろうが――
(だがそれも、引き出すべき才能がなければ意味がない……
真に恐るべきは、ヤツ自身の潜在能力か……!)
そして今、それほどの才覚を持つ者が自分達に牙をむいている――
「ここで叩かなければ……主はやてに危害が及ぶ!」
この場で叩きつぶすしかない――決意を固め、スターセイバーはスターブレードの刀身に炎を宿す――
「あそこか……」
その戦いの現場に向かっていたのは、なのは達だけではなかった。二人の激突に気づいたスーパースタースクリームもまた、彼ららしからぬその戦いを直に確かめるべく駆けつけていた。
なのは達に対し、結界に阻まれて死角となる位置から内部の様子を探る。
「……双方共に、大きくダメージを受けているか……」
だが、ますます解せない。仲間、というワケではなかっただろうが、彼らの関係はさほど険悪なものではなかったはずだ。
それがここまで激しく激突する――彼らの間に、一体何が起きたというのだろうか。
それに、この結界も意味がわからない。
侵入も脱出も許したくないのであれば全体を覆えばいい。なのにわざわざ頂上部に穴を開け、そこにエネルギーを渦巻かせてフタをしている。
なぜわざわざそんな回りくどいことをしているのか――その一点がまったくわからない。スーパースタースクリームは頭上へと――そこから見える結界の頂上で渦を巻くエネルギーの渦へと視線を向けた。
(何か……“こういう形にしなければならない”理由があるのだとしたら……)
思わず胸中でそうつぶやき――
「――――――っ!?」
気づいた。
エネルギーはただ単純に渦を巻いているワケではない。竜巻のように、次第に上昇していっている。
同時に思い至る。渦を巻いているエネルギーの出所――そしてこの結界を張った犯人の思惑に。
「そうか…………!
そういうことだったのか!」
とっさに二人に向けて叫ぶ――
「これはワナだ!
必殺技を撃つな!」
だが、スーパースタースクリームの声は届かず――
「ストーム、カリバー、ブレイカー!」
「飛燕、煉獄斬!」
両者の一撃が、激突した。
第61話
「破滅のコンボイ、誕生なの!?」
両者の必殺技の激突によって生じた衝撃は、とても結界で抑えきれるものではなかった。内側から結界を吹き飛ばし、周囲にいたなのは達に襲いかかる。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」
「ぅあぁぁぁぁぁっ!」
「なのは、フェイト!
私の後ろへ!」
吹き飛ばされかけたなのは達をギャラクシーコンボイがかばい、他の面々もまき散らされた衝撃に懸命に耐える。
やがて衝撃も収まり、海上に静寂が戻り――結界の消えたそこには、何も動くものはなかった。
スターセイバーも、そしてキングコンボイもその姿を確認することはできない。
「二人とも、どうなったの……?」
「海の中に沈んじゃったのかも……!」
戦っていた二人の姿を探し、なのはとフェイトがつぶやくと、
〈み、みんな……!〉
突然、ゆうひから通信が入った。通信妨害は解除されたようだ。
だが――ゆうひの様子がおかしい。その声色はどう考えても苦しそうだ。
「どうした? ゆうひ」
尋ねるギャラクシーコンボイに、ゆうひは答えた。
〈すぐに……戻って……!
仮面の戦士に……はやてちゃんが、リンディさんが……!〉
「みんながジャックプライムくん達を止めに向かった後、突然指令室にあの仮面の戦士が、それも二人も現れて……」
「リンディ提督や秋葉さん達も必死に抵抗したんですけど、不意打ちを受けたのが大きくて……」
「オレ達もさんざんにやられて……はやてちゃんは……」
目の前には、意識のないままアースラ艦内のICUで治療を受けるリンディの姿――恭也や志貴達に説明するアレックスやランディ、そして晶も、身体に巻かれた包帯が痛々しい。
聞けば、秋葉達の怪我も決して軽くはなく、別室で手当てを受けているらしい。
「やはり、アイツらの目的は主はやてか……!」
「“夜天の魔導書”でも“闇の書”でも、完成したらはやてちゃんにしか使えなくなる――
アイツら、今の内にはやてちゃんをどうにかすることで、“闇の書”の力を使うつもりなのかも……!」
まさかこんな時に、直接はやてを狙ってくるとは――全員で出てしまった自分達のうかつさを呪い、拳を握り締めてうめくシグナムに志貴が仮説を告げる。
「シャマル、ザフィーラとアトラスとの連絡は?」
「ダメ……
フォートレスが探してるけど、今のところ……」
尋ねるアルフにシャマルが答えると、
〈みんな、少しいいか?〉
そんな彼らに、地球のサイバトロン基地からギャラクシーコンボイが通信して来た。
〈ダイバーが、海中で意識を失っていたスターセイバーを発見した。
ひどいダメージを負っていて、現在この基地へ移送中だ〉
「キングコンボイは――ジャックプライムは!?」
〈…………いや……〉
思わず声を上げ、尋ねるフェイトだが――ギャラクシーコンボイは力なく首を左右に振る。
「ジャックプライム……
いったい、どこに行っちゃったの……!?」
すでに周囲は地球基地に戻り、スターセイバーから事情を聞く方向で話がまとまり始めている――そんな中、フェイトは胸を締めつける不安に、気づかぬ内に拳を握り締めていた。
「………………ん……!」
意識が戻った時、ジャックプライムは合体も解け、洞窟の中に寝かされていた。
「ここは……!?」
なぜ自分がこんなところに――身を起こし、思わずつぶやくジャックプライムだが――
「気がついたか」
そんな彼に、突然声がかけられた。
振り向き、声の主を確認し――ジャックプライムは目を丸くした。
セイバートロン星で見た時とは体格があまりにも違いすぎるが――間違いない。
「スーパー……スタースクリーム……!?」
「ゆうひ」
基地中を探し回った挙句、結局見つけたのはさざなみ寮の自室だった――鍵のかけられた扉越しに、耕介はゆうひに声をかけた。
しばしの沈黙の後――力のない声が答えた。
「耕介くん……
……ウチ……何もできんかった……!
リンディさんも秋葉ちゃんも、あんなになってまではやてちゃんを守ろうとしたのに……!」
つぶやくゆうひの脳裏に、仮面の戦士に打ちのめされ、傷だらけの状態でストレッチャーに乗せられ、運ばれていったリンディの姿がよみがえる。
「なのはちゃん達が戦って、耕介くん達だってニトロコンボイ達を支えてる……
なのにウチは、あっという間にやられてもうて……気がついたら、もうみんな終わってた……!」
次第に言葉が震えてきている。泣いているのだろうか。
いつもみんなを明るくしてくれる、さざなみ寮のムードメーカーであるゆうひのそんな姿に、耕介は何も告げることができず――
「情けないな」
そう答えた声は、廊下とは反対側――ゆうひの部屋の窓から聞こえてきた。
突然の声にゆうひは思わず顔を上げ――そこに意外な顔を見つけた。
「フレイムコンボイ!?」
「まったく、ニトロコンボイが耕介を探しているようだから見に来てみれば、とんだ腰抜けを見つけてしまったな」
「なんやて!?」
フレイムコンボイの言葉に思わず声を荒らげるゆうひだが――
「違うのか?
自分の弱さをただ嘆くだけで、何もしようとしない腰抜けだろうが、貴様は」
「………………っ!」
毅然と言い放つフレイムコンボイの言葉に、ゆうひは反論を封じられて唇をかむ。
「力の有無など関係ない。もたらされた結果など問題にすらならん。
大切なのは己のできることに対して全力を尽くすことじゃないのか?
各々が出し切った全力が積み重なることで、それはより巨大な力となる――それは、貴様らがオレに対して示したことだろうが」
そう告げるフレイムコンボイの脳裏によみがえるのは、先日のブレイズリンクスとのリンクアップ、アニマトロスで繰り広げたライガーコンボイとの決闘、そして――
「我那覇舞は、貴様と同様に何の力もなかったが、オレに向かって堂々と対したぞ。
リンディ・ハラオウンも遠野秋葉も、より強い敵を相手に己の力のすべてを尽くした。
そんな中、貴様は何もせずただ嘆くだけか?」
告げるフレイムコンボイの言葉に、ゆうひは答えることもなく、ただ静かにうつむくのみ――
「貴様の力――貴様のできること――
もう一度、よく考えてみることだ」
最後にそれだけ告げると、フレイムコンボイはその場を後にした。
(ジャックプライム……)
地球基地直上の山中――木陰に座り込み、フェイトは力なくうなだれていた。
(どうして、あんなこと……!)
リンクアップして共に戦いもした、信頼を寄せる相手であるスターセイバーとの激突――今となっても信じられない。
そして何より――
(わたしは……何も知らなかった……!)
相棒の身に起きたことなのに、自分は何ひとつ把握していない――それが一番辛かった。
(どこにいるの……ジャックプライム……!)
仲が悪い、というワケではないものの、普段は衝突の耐えない相手だが――
(…………会いたいよ……!)
今は、無性にその姿を見たかった。
一方、そのジャックプライムは――
「なるほどな……」
一通りの事情を聞き、スーパースタースクリームは納得し、つぶやくように告げた。
「つまり、スターセイバーがテスタロッサを襲い、貴様はその借りを返すためにヤツに挑んだ、ということか……」
「うん……」
まだダメージは残っている――時折襲う痛みに顔をしかめながら、ジャックプライムはスーパースタースクリームの言葉にうなずいた。
「みんなを守らなきゃいけないプラネットリーダーが、怒りとか、憎しみとか……そんな感情で戦っちゃいけない……
そんなこと……ボクも、スターセイバーも、わかっていたはずなのに……!」
そのジャックプライムの言葉に、スーパースタースクリームはしばしの沈黙の後に答えた。
「貴様は……本当にスターセイバーがやったと思っているのか?」
「え………………?」
「本当に、スターセイバーがテスタロッサを襲ったと思っているのか?」
「そ、それは……」
その言葉に、ジャックプライムは思わず視線を伏せた。
そんなジャックプライムに、スーパースタースクリームは息をつき、
「おそらく……それが正解だ。
スターセイバーはテスタロッサを襲ってなどいない」
「けど、それじゃあどうして……!」
「そうなることを、望んだ者がいたということだ」
尋ねるジャックプライムに、スーパースタースクリームが答える。
「あの時――お前達の戦いによって生じたエネルギーの余波は、周囲に展開された結界によって集められ、上空へと流されていた。
結界を張った者――おそらく、今回の件を仕組んだ者によって、な」
「それって、まさか……」
「そうだ。
お前達の激突によって生じる、強大なエネルギーこそが犯人の狙いだったんだ」
つぶやくジャックプライムに、スーパースタースクリームが答える。
「トリックとしては簡単だ。
まずはテスタロッサに化け、お前に対し『スターセイバーに襲われた』というウソを吹き込む。
同様にスターセイバーにもウソを吹き込み、貴様と戦うように仕向けたんだ。
貴様の到着と同時に違和感なく戦闘に突入したことを考えれば、化けたのはおそらく――」
「ボクの、ニセモノ……」
「そうだ。
そうやってお前達が戦い合うように仕向け、犯人はその激突の余波で巻き起こったエネルギーをまんまといただいたワケだ」
ジャックプライムに答え、スーパースタースクリームは息をつき、
「この事態を仕組んだのが何者か、そんなことはオレには皆目見当もつかない。
だが、ここまで用意周到に仕組んだ上で行動を起こしたのだ――この程度のことで終わるとも思えん」
「どういうこと?」
尋ねるジャックプライムに、スーパースタースクリームは正面から彼を見据え、答えた。
「これはまだ……始まりに過ぎない、と言うことだ」
「ん………………!」
急速に意識が戻り、視界が戻ってくる――目が覚めたはやては、地面に放り出された状態で薄暗い空間の中にいた。
次第に暗闇に目が慣れていき――辺りが薄暗いのは幾重にも張られた結界によって外の光が遮断されているのが原因だとわかる。
「ここは……!?」
周囲を見回し、はやては呆然とつぶやき――
「ザフィーラ!? アトラス!?」
すぐ近くに倒れているザフィーラとアトラスの姿に気づいた。
二人ともかなりの重傷を受けており、倒れたままわずかな動きも見せていない。
「な、何がどうなって……!?
ザフィーラ、アトラス、大丈夫なん!?」
生きていてほしい――二人に向けて必死に呼びかけるはやてだが、車椅子がなければ満足に動くこともできない。
と――
「気がついたか、“闇の書”の主よ」
突然かけられた言葉に振り向き――そこには仮面の戦士達とダブルフェイスのサイバトロン形態――久々の登場となるカウンターパンチの姿があった。
彼らの背後には巨大なエネルギーが魔法陣によって拘束され、激しく渦を巻いている。
その正体は――先の戦いで放出された、スターセイバーとキングコンボイのパワーだ。
スーパースタースクリームが推理したとおり、二人の戦いでまき散らされたエネルギーは、彼らによって回収されていた――展開されていた結界は外部からの侵入を防ぐと同時、二人の放つパワーを拡散させない役割も果たしていたのだ。
「な、何やの……? あなた達……」
「我々は、“闇の書”を滅ぼさんとする者」
「数多の世界を滅ぼした邪悪なる存在――“闇の書”をこの世から抹殺することを望む者だ」
尋ねるはやてに、二人の仮面の戦士が答える。
「“闇の書”を……抹殺……!?」
「貴様を蝕んでいるのは病気ではなく、“闇の書”の呪い」
「“闇の書”は、蒐集を――自らの完成を望まぬ主を認めはしない。
早々に喰い尽くし、新たな主の元へと転生する」
うめくはやてに仮面の戦士達が答え、二人の間に立つカウンターパンチがはやてに告げる。
「そして、完成を望んだ主にも未来はない。
主の、そして蒐集された“力”を用い、その世界に大いなる破壊をもたらす。
八神はやて――貴様が得た“闇の書”は、存在そのものが世界にとって害悪なのだ」
「そんな……!
何やの、それ!?」
カウンターパンチの言葉に、はやては思わず声を張り上げた。
「“闇の書”が害悪やて!? そんなことない!
あの子は……とっても優しい子や! あの子が生み出したシグナム達を見ていればわかる!」
だが、そんな彼女の言葉に、仮面の戦士の一方はため息をつき、
「八神はやてよ……
“闇の書”や、守護騎士達のその優しさも……“作られたものだとは考えられぬのか”?」
「………………っ!?」
その言葉に、はやては思わず言葉を失った。
(作られた、もの……!?
あの子達の、優しさが……!?)
「“闇の書”のシステムも、守護騎士プログラムも――所詮はロジックを集積させて作り出した人工自我にすぎない。
主に蒐集をさせるべく、主に都合の良い存在を作り出すことに何の不合理があろうか」
「そん……な……!?」
「無論、当人達に貴様をたばかっているという自覚はあるまい」
「そうするのが彼らにとって当然なのだから」
呆然とつぶやくはやての胸に、仮面の戦士達の言葉が突き刺さる。
「貴様は所詮、“闇の書”がその力を振るうための生贄にすぎない。
お前達が育んできた絆も――ただの虚構にすぎなかったのだ」
驚愕に思考が追いつかず、ただ目を見開くばかりのはやてにそう告げて――カウンターパンチははやての目の前にそれを投影した。
激しく斬り結ぶ、スターセイバーとキングコンボイ――先ほどまで繰り広げられていた、キングコンボイとスターセイバーの激突の光景である。
その光景をはやてに見せる、その意図は――
「貴様の知らないところで、守護騎士達は“闇の書”の完成を目論んでいた。
すべては“闇の書”を完成させ――」
「世界を滅ぼすために」
「ジャックプライムが!?」
「あぁ……
突然、キングコンボイとして攻撃を仕掛けてきた」
思わず声を上げるギャラクシーコンボイに、スターセイバーはファストガンナーやレッドクロスの手当てを受けながら答える。
「フォートレスやお前達と連絡を取ろうとしたが、通信も念話も妨害されていた。
おそらく……ジャックプライムによってな」
「バカな…………!
若がそのようなことをするはずがない!」
「では、オレを襲ったジャックプライムは誰だったというんだ?」
詰め寄るシルバーボルトに、スターセイバーは淡々とそう答える。
「お前達も、途中からはその目で確かに見ていたはずだ――あれは確かにキングコンボイだった」
「そ、それは……!」
スターセイバーの言葉に、シルバーボルトは反論できず――
「あー、スターセイバー、ちょっといい?」
突然、アルクェイドがスターセイバーに声をかけた。
「本当に、ジャックプライムに襲われたの?」
「貴様……今の話を聞いていたのか?
ヤツが本物だったのは、お前達だって見ただろう。
ヤツの必殺技――ストームカリバーブレイカーは、ヤツ独自の魔法剣なんだぞ」
「あー、いや、そうじゃなくて……」
あきれるスターセイバーに、アルクェイドはため息まじりに訂正した。
「“最初の方は”、どうだったの?」
「――――――っ!?」
「最初でも途中でもいい。
本当にジャックプライムだったと――キングコンボイだったとしたら、おかしい部分があったりしなかった?」
その言葉に、スターセイバーはしばし考え、
「……そういえば……
確か、ヤツの魔法の主要属性は風だったはず……
だが、あの戦いの中、ヤツは一度だけ雷属性の魔法を使っていた……」
「やっぱりね……」
「どういうことですか?」
アルクェイドの言いたいことがわからず、尋ねる晶だったが――気づいた者はいた。
「……途中で、“ニセモノと本物が入れ替わった”っていうのか?」
「そ」
尋ねる恭也に、アルクェイドはあっさりと答える。
「あたし達が駆けつけた時、戦ってたのは確かに本物のキングコンボイだった――
けど、それ以前なら――目撃者がスターセイバーしかいなかった状態なら、ごまかすことは十分にできたんじゃない?」
「つまり、あの激突は、何者かによって仕組まれたものだということか……」
アルクェイドの言葉にニトロコンボイが納得すると、
「となると、ンなことをやらかすのは一勢力しかないな」
「あぁ」
告げるソニックボンバーに答え、ビクトリーレオはうめくように告げた。
「間違いない……!
あの仮面ども……何考えてやがる……!」
と、その時――
〈みなさん、聞こえますか?〉
突然、アースラのランディから通信が入った。
〈移民サイバトロンからの通信です。
何でも……ビッグコンボイからの伝言だとかで……〉
その言葉に、一同はようやく気づいた。周囲を見回し、先ほどからビッグコンボイの姿がないのに気づく。
「アイツ……こんな時にどこ行ってんだ!?」
「とにかく、応答しよう。
ランディ、こちらに回してくれ」
〈了解〉
ビクトリーレオに告げるギャラクシーコンボイに答え、ランディは通信回線をサイバトロン基地につないだ。
「そんなの、ウソや……!
シグナム達が……スターセイバー達が……世界を滅ぼそうとするなんて、そんなことあるはずない!」
仮面の戦士達の言葉は、はやてにとって衝撃的なものだった。これ以上は聞きたくないと両の耳をふさぎ、叫ぶはやてだったが――
「彼らが望んでいるかいないか――そんなことは問題ではない」
「ヤツらは“闇の書”の完成を目指し――結果世界には滅びがもたらされる。それが現実だ」
それでも、二人の仮面の戦士の言葉は容赦なくはやての耳を穿つ。ただ淡々と、はやての心を痛めつける。
「我らはそれを良しとしない。世界のため、貴様達を討つ」
そう言うと、仮面の戦士の一方がはやてにそれを見せた。
彼が持っている1冊の本、それは――
「“闇の書”!?」
「全員がスターセイバーの戦いに気を取られていたからな――実に盗み出しやすかったぞ」
驚くはやてに答えると、仮面の戦士達は背後のエネルギーの渦へと視線を向け、
「このパワーを“闇の書”に与え、“闇の書”を完成させる」
「完成した“闇の書”は貴様を取り込み、その“力”を行使する」
「その時こそ、我らの狙う瞬間――
主と融合した“闇の書”を、主もろとも永久に封印する」
仮面の戦士二人の言葉に付け加え、カウンターパンチがはやてに向けて一歩を踏み出し――
「……待て……!」
うめくようにそう告げたのは――
「ザフィーラ!?」
驚きの声を上げるはやての目の前で、ゆっくりと立ち上がったザフィーラは仮面の戦士達と対峙する。
「主には……指一本触れさせん!」
「使命、遂行……!」
告げるザフィーラのとなりで、アトラスもまた立ち上がり、カウンターパンチに向けて言い放ち――
「がっ!?」
次の瞬間、カウンターパンチの拳がアトラスの顔面を大地に叩きつけ、
「ぐぁ………………!?」
仮面の戦士達の魔力光弾を受け、ザフィーラが吹っ飛ばされる!
「アトラス、ザフィーラ!」
「傀儡風情が……身の程を知れ」
声を上げるはやての目の前で、カウンターパンチはアトラスを踏みつけて言い放ち、
「心配せずとも、貴様らから先に滅ぼしてやる」
「肝心の“闇の書”を討つ際、余計なジャマをされても困るからな」
言って、仮面の戦士達はさらなる一撃を見舞うべく、それぞれの手に魔力を収束させる。
「やめて! ザフィーラ達を放して!」
「止められるものなら――」
「止めてみろ」
悲鳴を上げるはやてに答え、仮面の戦士達はザフィーラへととどめの一撃を放――
――とうとした瞬間――
結界の一角が大爆発を起こした。
『――――――っ!?』
突然の異常事態――驚愕し、警戒を強めた仮面の戦士達とカウンターパンチは一度後退。集結して爆発のあった部分をにらみつける。
そして――
「ジャマをする。
ここに、ウチの者がいるはずだ――返してもらいに来たぞ」
ごく普通にそう告げて、ビッグコンボイは結界の中へと踏み入った。
「あぁ、エクシゲイザー! こっち、こっち!」
先頭を切って駆けつけたエクシゲイザーに、待っていたスーパーカー型トランスフォーマーはビークルモードのまま声をかける。
見ると、今エクシゲイザーに声をかけた者の他にも2名ほどが待機している。
そして、エクシゲイザーの後に続いたギャラクシーコンボイがなのはとフェイトを下ろし、ロボットモードにトランスフォームして尋ねる。
「話は本当か? ガゼンダ」
「もちろんです。
そっちのシアーナやスローと3人で確認しましたから」
答えて、ガゼンダと呼ばれた赤いトランスフォーマーはロボットモードとなり、向こうに見える廃倉庫へと向き直った。
「あの倉庫か?
ずいぶんとまた、ベタなところに隠れやがったな」
「だが、潜伏するのに有効な場所でもあることは確かだ」
肩をすくめるソニックボンバーにクロノが答え、ガゼンダの後ろに控えた他の二人――シアーナとスローが続ける。
「あの倉庫、あぁして目視では確認できるのに、センサー類には何の反応もないんです」
「どう見ても、意図的な空間限定ジャミングで隠されてるとしか思えません。
今、ビッグコンボイ前司令が内部の様子をうかがいに行ってますが……」
「……あの人が、単なる様子見だけで終わるはずがねぇよな……」
二人の言葉にライガージャックがうめくと、
「そうだな。
おそらく、ビッグコンボイはすでに突入しているはずだ。我々も後に続くぞ」
一同を見回し、ギャラクシーコンボイが告げ――
「こそこそと、何の相談だ?」
『――――――っ!?』
突然の声に、なのは達はとっさに頭上を見上げ――
「戦いの前触れなら、オレも混ぜてもらおうか」
そこには静かに佇むスカイクェイクの姿があった。
「貴様……どうしてここが……!?」
「何、単なる人海戦術さ。
サイバトロンが地球に戦力を集中させていた現状で、はやてを連れて遠くまで逃げられるとも思えないからな。移民トランスフォーマー達に動員をかけて、怪しい建物を片っ端から調べてもらったのさ」
突然の乱入に驚き、うめくカウンターパンチに、ビッグコンボイは余裕の態度を崩すことなくそう答える。
「すでにギャラクシーコンボイ達にも連絡させている。
偉そうにしていられるのも、これまでだ」
言って、ビッグコンボイははやてへと向き直り、
「そういうことだ。
すぐに助ける――そこで待っていろ」
そう告げるビッグコンボイだったが――
「…………ビッグコンボイ……」
そんなビッグコンボイに、はやては尋ねた。
「本当、なんか……?
スターセイバー達が、“闇の書”を完成させようとしている、っていうの……!」
「………………っ!」
思わず息を呑む――だが、いまさら隔しても仕方がない。ビッグコンボイは静かにうなずいた。
「あぁ。その通りだ。
シグナム達は、“闇の書”の侵食によって蝕まれたお前の命を救うため、“闇の書”を完成させようとしている」
「せ、せやけど……“闇の書”を完成させたら、世界が大変なことになる、って……」
うめくように告げ、うつむくはやての姿に、ビッグコンボイはカウンターパンチへと向き直り、
「お前達か……はやてに余計なことを吹き込んでくれたのは……」
「事実だろう」
「確かにな。
だが――オレ達はそれも含めて、はやてを救おうとしてるんだ。ジャマをしないでもらおうか」
あっさりと答えるカウンターパンチに、ビッグコンボイは怒りをあらわにして答える。
「こいつはな、初対面な上に傭兵なんて物騒極まりない職業のオレでさえすぐに信用するようなお人よしなんだ。
そんな優しいヤツをここまで追い込んでおいて……何の覚悟もないとは言わせんぞ!」
告げると同時――ビッグコンボイの放った無数のミサイルが、一斉にカウンターパンチへと襲いかかる!
「おぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」
「ブルァアァァァァァッ!」
咆哮と共に真上に跳躍。落下の勢いを加えてデスシザースで斬りかかるスカイクェイクの一撃を、フレイムコンボイはフレイムアックスで真っ向から受け止める。
さすがはフレイムコンボイ。ギャラクシーコンボイすらも上回るパワーを持つスカイクェイクにも決して力負けしていないが――
「甘いっ!」
剣技においてはスカイクェイクが上を行った。刃をすべらせてフレイムアックスの防御をかいくぐり、そのわき腹に一撃を見舞う!
「ぐぅ…………っ!」
直撃は避けたが、かわしきれなかった。わき腹を浅く斬られ、後退するフレイムコンボイをスカイクェイクは追撃し――
「させるか!」
それを阻んだのはリンクアップを遂げたソニックコンボイだった。フラップソードの十字受けでスカイクェイクの斬撃を受け止める。
「スカイクェイク……なぜこんなところに!?」
「前回、セイバートロン星で全力で無視してくれたヤツの言うセリフか!?」
ソニックコンボイに言い返し、スカイクェイクは間合いを取って大地に降り立つ。
「地球に戻った理由など簡単だ。
貴様らを見つけ出し、貴様らの持つプラネットフォースを奪うこと――そのために手分けして探索を行っていたところ、オレが見事に当たりを引き当てたワケだ」
「そんなこと、させると思ってるのかよ!?」
「プラネットフォースは渡しません!」
スカイクェイクの言葉に、ライガージャックとなのはが言い返すが――
「もっとも、オレとしてはそれだけでもないがな」
言って、スカイクェイクはブレードモードのデスシザース、その切っ先をソニックコンボイへと向ける。
「貴様らは、セイバートロン星でオレ達を完全に無視してくれた。
それはすなわち、貴様らにとって、オレ達ホラートロンは無視してもかまわない、その程度の存在だということ――その認識はオレ達に対する最大級の侮辱だ!
オレ達ホラートロンはその武によっていずれは宇宙を制する――そしてオレはその頂点に立つ男だ!
そのオレの武をないがしろにすることは、許されざる罪と知るがいい!」
「ずいぶんと勝手な理屈だな。
こっちを無視してオーバーロードに向かっていったのはそっちだろう」
「昔から変わってないな、スカイクェイク。
武力至上主義は今さら流行らないぞ」
咆哮するスカイクェイクに答えるのはニトロコンボイとライブコンボイだ。
「ここは我々で抑える!
他のメンバーは突入を! 指揮はドレッドバスターに任せる!」
「了解!
突入はヴォルケンリッターとバンガードチーム! リンクアップの可能なメンバーはこの場に残り、総司令官達の援護!
残りのメンバーは周囲の警戒だ!」
ソニックコンボイの言葉にうなずき、ドレッドバスターの下した指示で一同はそれぞれに動き出す。
「ソニックコンボイさん!」
「わたし達も戦う!」
「あぁ。頼む」
はやてのことも気になるが、そちらにはビッグコンボイが向かってくれた――彼らならば大丈夫だと信頼し、参戦を表明したなのはとフェイトにソニックコンボイもまたうなずき、
「来るぞ!」
耕介が告げると同時、スカイクェイクが彼らに向けて襲いかかり――!
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と同時、ビッグコンボイのかまえたビッグキャノン――そのチップスロットにミッドチルダのフォースチップが飛び込んでいく。
そして、ビッグコンボイはビッグキャノンをカウンターパンチに向け、
「ビッグキャノン――GO!」
放たれた閃光が渦を巻き、一直線に襲いかかる――が、カウンターパンチもそれをかわし、頭上へと逃れる。
だが――
「逃がすな!」
「何っ!?」
ビッグコンボイが吠えた、次の瞬間――閃光が突然軌道を変えた。驚くカウンターパンチを、強烈な閃光が直撃する。
「甘く見るなよ。
ビッグキャノンは使用するチップによって特性が変わる――状況に応じて使い分けることはもちろん、チップの連携で戦術の幅は劇的に広がる」
「なるほど、な……
ミッドチルダのチップでは、追尾弾というワケか……」
告げるビッグコンボイの言葉に答え、カウンターパンチは爆炎の中から姿を現す。
多少すすけているがダメージは軽そうだ――どうやら結界によって防がれたらしい。
「だが、複数のチップを同時に使うことはできないようだな。
となれば――つけ入るスキはある」
「つけ入ってくる余裕など、与えるものか!」
告げるカウンターパンチの言葉にビッグコンボイが言い返し――突然、その四肢の動きが鈍った。
仮面の戦士達の展開したバインドである。
「我らのことを、忘れていたようだな」
「幾重にも張り巡らせたバインド――破れるものなら破ってみるがいい!」
「よくやった。
これで終わりだ――ビッグコンボイ!」
仮面の戦士達に告げ、カウンターパンチはブレードを抜き放ってビッグコンボイへと襲いかかり――
「マンモスハーケン!」
ビッグコンボイが吠えると同時、両足のホルスターから射出されたマンモスハーケンがカウンターパンチを直撃し、
「ビッグミサイル!」
両肩から放たれたミサイルの雨が、仮面の戦士達に降り注ぐ。
直撃は避けたが、仮面の戦士達は至近弾の爆発で吹き飛ばされ――そのスキにバインドの光鎖を粉砕したビッグコンボイは大地に転がったマンモスハーケンを素早く拾い上げ、カウンターパンチの眼前に突きつける。
「そこの仮面二人もおとなしくしていろよ――照準はすでに合わせていることを忘れるな」
そう仮面の戦士達をけん制し、ビッグコンボイはカウンターパンチへと視線を戻し、
「形勢逆転だな。
さて、まずははやてを解放してもらうとして――その後、お前らがどこの誰か、聞かせてもらうとしようか」
「答えると思っているのか?」
ビッグコンボイの言葉に、カウンターパンチがお決まりのセリフで応じ――
次の瞬間、倉庫が大爆発を起こした。
「何だ!?」
「攻撃!?」
スカイクェイクをソニックコンボイやなのは達に任せ、いざ突入――といったところで突然倉庫が吹き飛んだ。驚き、バックギルドとアリサが声を上げると、
「く………………っ!」
うめき、ビッグコンボイが爆発の中から飛び出してきた。距離をとって着地し、手の中に抱えたはやてをしずかに地面に下ろす。
「はやて!」
「主はやて!」
すぐに声を上げ、ヴィータとシグナムがはやての元へと舞い降りる――彼女の様子を見て、気を失っているだけだと知って安堵する。
「よかった……無事か」
「はやて、はやて!」
息をつくシグナムのとなりでヴィータが懸命に呼びかけると、
「う…………ん……!」
はやてがそれに応えた。意識を取り戻し、ゆっくりとまぶたを開き、
「…………ヴィータ……?
それに、シグナムも……」
「ご無事で何よりです、主はやて」
つぶやく言葉に、シグナムが優しく微笑んでそう応える。
と、ビクトリーレオがビッグコンボイに声をかけた。
「しかし、乱暴な助け方するな。
普通、倉庫丸々吹き飛ばすか?」
「いや……オレの仕業じゃない」
「え…………?
では、一体誰の……?」
ビッグコンボイの答えに眉をひそめ、ロングマグナスが聞き返すと、
「ちょっと、あれ!」
オートボルトのライドスペースで、それを発見したエリスが声を上げる。
注目する一同の視線の先で――
「フンッ。
厳重にジャミングされていたから、もしやと思ったが……ここにはプラネットフォースはないようだな」
ダークライガージャック達を従え、マスターメガトロンは眼下の面々に対して悠然とそう告げた。
「マスターメガトロンさん!
プラネットフォースを探しに来たの……!?」
「“暗黒三騎士”もいる……!」
「なんてこった……最悪のタイミングじゃねぇか!」
一方、スカイクェイクと対峙していたなのは達もマスターメガトロンの登場には気づいていた。なのは、フェイト――そしてソニックコンボイにリンクアップしているソニックボンバーが口々にうめく。
と――
「そうだったな……
貴様も、オレ達を無視してくれたひとりだったな!」
そんなマスターメガトロンも、彼にとっては標的のひとりでしかなかった。スカイクェイクはデスシザースをかまえ、眼下のビッグコンボイ達に雷撃を放つマスターメガトロンへと跳躍する!
「あのバカ……!
自分達を無視した相手なら手当たりしだいかよ!」
「だが、逆に好都合でござる。
二人がつぶし合ってる内に、はやて殿の救出を」
うめくロディマスブラーにメビウスショットが告げると、
「ち、ちょっと、あれ!」
突然、美緒がマスターメガトロン達の真下――ビッグコンボイ達を指さして声を上げた。
マスターメガトロンの放つ雷撃の中、ダークライガージャック達と戦うビッグコンボイ達が守っている人物――その姿に気づき、なのはは思わず声を上げた。
「――はやてちゃん!?」
「グオォォォォォッ!」
咆哮し、飛びかかるダークファングウルフの牙をかわし、ビッグコンボイはマンモスハーケンを振るってけん制するが、
「ぅわわわわっ! 来るなぁっ!」
「ハイブラスト、危ない!」
襲いかかるダークライガージャックから逃げ惑うハイブラストを、ロングマグナスが援護する。
「大丈夫ですか?」
「うぅ……助かりましたぁ……」
「接近戦は不得手ですからね、あなたは」
ロングマグナスのライドスペースに座る那美にハイブラストが答えると、ノエルが淡々とそれに同意する。
一方、エクシゲイザーはダークニトロコンボイとのカーチェイスを繰り広げていた。倉庫の間の路地を、猛スピードで駆け抜けていく。
「エクシゲイザー、振り切れない!」
「くそっ、しつこいんだよ!」
後ろにぴったりと食いついて離れないダークニトロコンボイに、すずかとエクシゲイザーは思わず声を上げる。
そして、二人はそのまま仲間達の戦っているエリアまで戻ってきて――
「すずか!」
「エクシゲイザー!」
そんな二人を援護すべく、ビークルモードのバックギルドとアリサが前方から駆けつける。
「二人とも射線からズレて!」
「巻き込んでも知らないよ!」
「頼む!」
アリサとバックギルドの言葉に、エクシゲイザーは横にズレ、二人とダークニトロコンボイを結ぶ射線から対比し――
『フォースチップ、イグニッション!
ツインサーチ、ミサイル!』
バックギルド達の一撃が、ダークニトロコンボイへと襲いかかる!
だが、当然スピードに優れるダークニトロコンボイには通じない。すぐに安全にコースを見通し、回避しようとするが――
「オレ達だっているんだぜ!」
そんなダークニトロコンボイの背後に、退避していたエクシゲイザーが回り込み、
『フォースチップ、イグニッション!
ダブル、エクスショット!』
すずかと二人で放った一撃が、ダークニトロコンボイに炸裂する!
「フォースチップ、イグニッション!
デス、クロー!」
一方、マスターメガトロンとスカイクェイクの戦いは、デスシザースを分離していて飛べないスカイクェイクをマスターメガトロンが真っ向から迎え撃つ形で地上戦へと移行していた。フォースチップをイグニッションし、デスクローを装着したマスターメガトロンがスカイクェイクの斬撃を正面から受け止める。
だが――元々出力においてはスカイクェイクに分がある。徐々にマスターメガトロンを押し返し始める。
「どうした? それが全力か?
オレを無視して大暴れしていたわりには大したことはないな――相手をしてくれたオーバーロードの方がまだ手ごたえがあったぞ」
「く………………っ!」
余裕で告げるスカイクェイクの言葉に、マスターメガトロンの胸中に黒いモノがよぎる。
思えば、地球で始めて対峙した時に投げ飛ばされたことを始め、スカイクェイク相手には満足な戦果を挙げていない。それがマスターメガトロンのプライドを刺激する。
だが――今の自分はあの時とは違う。マスターメガトロンはデスシザースを弾くと間合いを取り、
「ダークライガージャック!」
その呼びかけに答え、バンガードチームと対峙していたダークライガージャックがマスターメガトロンの元へと駆けつけ、
「リンクアップ!
ライガー、メガトロン!」
マスターメガトロンの号令で合体。ライガーメガトロンへとリンクアップする。
「ほぉ……お前も合体したか……
なら、その力、見せてもらおうか!」
「なめるな!」
あくまで余裕の態度を崩さないスカイクェイクに対しライガーメガトロンが言い返し――
そして、両者が激突した。
「ビッグコンボイ、今のうちに主はやてを安全なところに」
「あぁ」
そんな中、ビッグコンボイ達の周囲は戦闘の空白地帯となっていた。今のうちにはやてを避難させるべきだと判断したシグナムの言葉にビッグコンボイがうなずくと、
「ま、待って……!」
そんな彼らに、はやてが弱々しく声を上げた。
「さっきの、仮面の人達に……“闇の書”が取られてまったんや……」
「“闇の書”が!?
シャマル!」
〈ち、ちょっと待って!〉
思わず声を上げるシグナムの言葉に、マキシマスでバックアップに回っていたシャマルはあわててスキャンを行い、
〈そんな……!
家に施してあったセキュリティが、全部解除されてるなんて!?〉
「だが、“闇の書”自身が危機を教えなかったのはどういうことだ?」
〈たぶん念話妨害のせいです。
いくら“闇の書”が強力なロストロギアでも、通信に関する技術は既存のものと変わらないはずですから……〉
そう答えるのはアースラのアレックスだ。
「とにかく、そういうことなら話は違ってくる。
ビクトリーレオ、ヴィータ、お前達は主はやてを安全なところへ。
ビッグコンボイ、一緒に来てくれ。“闇の書”を奪還する」
「あぁ」
驚きはしたが、“闇の書”を奪われたとなれば取り返さなくては――素早く分担するシグナムの言葉に、ビッグコンボイを始めヴィータやビクトリーレオも同様にうなずく。
だが――
「その必要はない」
『――――――っ!?』
そう告げて現れた仮面の戦士のひとりの姿に、一同はとっさにかまえる。
「現れやがったな!」
「ちょうどいい、“闇の書”は返してもらうぞ!」
それぞれに獲物をかまえ、ヴィータとシグナムが告げるが――
「いきり立つのは――これを見てからにしてもらおうか」
告げる仮面の戦士の背後の空間が歪み――
「アトラス! ザフィーラ!」
そこに現れた二人――囚われたアトラスとザフィーラを前に、ビッグコンボイが思わず声を上げる。
「おのれ……! 人質とは卑怯な!」
これではうかつに手を出せない――思わずうめくシグナムだったが、
「別に、人質に取ろうなどとは思っていないさ。
返してほしいと言うなら、返してやるさ」
意外にも、仮面の戦士はあっさりと二人を解放した。バインドの解けた二人が、シグナム達のすぐそばに落下する。
「ザフィーラ!
アトラス!」
「大丈夫か!?」
あわてて駆け寄る二人だが、二人とも傷ついているものの息があることを知って安堵する。
そして――
「あと、こいつも返してやろう」
言って、仮面の戦士はあっさりと“闇の書”も手放した。放物線を描き、はやての目の前に落ちる。
「どういうつもりだ?」
「主の手元になければ、“闇の書”はただの書物に過ぎないからな」
尋ねるビッグコンボイに、仮面の戦士はあっさりとそう答える。
「それに……」
「もうすでに、王は詰まれた」
その言葉と同時――背後で鈍い音が響き――
「が…………ぁ……っ!?」
「何………………っ!?」
ヴィータとビクトリーレオの胸を、一撃が貫いていた。
ザフィーラとアトラスの一撃が。
「え………………?」
自分の目が信じられなかった――ヴィータとビクトリーレオを背後から貫いたザフィーラ達の姿に、はやての思考が停止する。
そんな彼女の前で、ザフィーラ達は腕を引き抜き――力を失ったヴィータとビクトリーレオはその場に崩れ落ちる。
「ヴィータ! ザフィーラ!」
悲痛な声を上げ、呼びかけるはやてだが、ヴィータ達はピクリとも動かない。
「そ……ん、な……!
ザフィーラ……アトラス……どうして……!?」
ザフィーラとアトラスも答えない。ただ静かに振り向き、はやてへと冷たい視線を投げかける。
「そんな……
そんなことって……!」
信じたくない――
「こんなん……こんなん夢や……!」
認めたくない――
「こんなん……!」
これは――
「こんなん……悪い夢や!」
だから――
全部、消えてしまえばいい。
「うぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
絶叫が響き渡り――はやての目の前に落ちた“闇の書”が震えた。
「始まったか……」
集めたエネルギーが急速に喰われていく――“闇の書”の発動を悟り、仮面の戦士がつぶやく。
「少々予定とは違ったが、急場の策としては上出来か」
予定でははやてを徹底的に言葉責めにして精神的に追い詰め、さらに目の前でアトラスとザフィーラを破壊。絶望したはやてに“闇の書”を発動させる手はずだったが――
「もういいぞ、変身を解け。
急ぎこの場から離脱する」
告げたその言葉に、アトラスとザフィーラの姿が崩れた。
そして、ザフィーラ達から元の姿へと戻ったもうひとりの仮面の戦士とカウンターパンチは、転送魔法でその場から姿を消した。
「あれは……!?」
「“闇の書”が……発動した……!?」
“闇の書”の発動は、周囲にすさまじいエネルギーの渦をまき散らした。吹き飛ばされないよう懸命に耐え、クロノとフェイトがうめくようにつぶやく。
渦の中心では、エネルギーの流れに導かれ、はやての身体が宙に浮き上がっている。
そして――その口から言葉が紡がれた。
「我は“闇の書”の主なり……」
静かに頭上へと手をかざし、
「この手に……力を……」
つぶやくその手に“闇の書”が現れ、握られる。
「いかん!
“闇の書”の封印が解かれる!」
「何だと!?」
声を上げるシグナムの言葉に、ビッグコンボイは彼女の方へと振り向き、
「どうなるというんだ!?」
「わからない……!
おそらく、構造の狂った“闇の書”によるデータ改ざんが原因だろうが、“闇の書”の発動した後の正確な記憶がないんだ。
ただ漠然と『偉大な主として天寿をまっとうした』という認識はあるが……」
「明らかにデタラメだな、そいつは……」
シグナムの言葉にうめき、ビッグコンボイは巻き起こるエネルギーの渦を――その中心にいるはやてをにらみつける。
すでに仮面の戦士達が集めていたエネルギーは吸い尽くされた。このままでは、はやては間違いなく“闇の書”を発動させるだろう。
もし、管理局に残っていた記録どおり“闇の書”がはやてを喰らい、暴走するのなら――
「止めるしか……ない!」
決断と行動は同時だった――巻き起こるエネルギーの嵐に逆らい、はやてに向けて走る。
「やめろ、はやて!
“闇の書”を発動させるな!」
咆哮と共に、ビッグコンボイの手がはやてへと伸び――
「封印、開放」
〈Freilassung〉
その瞬間――“力”が放たれた。
解放された“力”は、それまででさえ耐えるのが精一杯だったすさまじいエネルギーの渦すらもたやすく吹き飛ばした。懸命に耐えていたなのは達はもちろん、激しくぶつかっていたマスターメガトロンやスカイクェイク、ダークライガージャック達もこの衝撃の前には耐えられるものではなかった。その場の全員が、まるで木の葉のように吹き飛ばされる。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
「なのは!」
吹き飛ばされたなのはの元にはフェイトが向かった。衝撃に逆らわず、むしろそれを利用して加速。なのはの吹き飛ぶ軌道上に回り込み、彼女の身体を受け止める。
「大丈夫?」
「な、なんとか……
プリムラは?」
《ふえぇ〜……目が回りゅぅ〜……》
答えるプリムラも、平衡感覚を司るセンサーが思い切り振り回された以外は特に問題はないようだ。
「く……っ!
どうなったと言うんだ……!?」
一方、こちらも大した被害はなかったようだ。頭を振りながらソニックコンボイが立ち上がり、衝撃の中心へと視線を向ける。
すでに衝撃も、エネルギーの渦も収まっている。舞い上がった土煙が視界を覆っているが、それも徐々に晴れていき――
「ビッグ……コンボイさん……?」
そこにいたのは、静かにたたずむビッグコンボイただひとり。その足元にいたはずのはやての姿はどこにもない。
「ビッグコンボイさん、はやてちゃんは――」
「待て、なのは!」
ビッグコンボイに声をかけようとしたなのはだったが――それを突然、クロノがさえぎった。
「どうしたの?」
尋ねるなのはには、フレイムコンボイが――そして彼のとなりに立つ恭也が答えた。
「気配が違う……ヤツはビッグコンボイではない。
――いや……ビッグコンボイではない、というより……」
「“ビッグコンボイでは、なくなった……”!」
その言葉に、一同の間に衝撃が走る。
そんな中、ビッグコンボイは――いや、ビッグコンボイだった何者かはゆっくりとなのは達へと振り向いた。
胸部に収められた“闇の書”が“力”を全身に流し込み、その身体が見る見るうちに漆黒へと染まっていく。
『また……すべてが終わってしまった……』
そうつぶやく声は、ビッグコンボイとはやて――二人のものにさらに何者かの声が混じったものだった。
『いったい幾度、こんな悲しみを繰り返せばいいのか……』
その瞳が、静かになのは達を見据える。
『我は“闇の書”……我が力のすべては……』
頭上にゆっくりと手を挙げて――
〈Diabolisch Emission〉
胸部から聞こえた“闇の書”の声と共に、かざした手の中に巨大なエネルギーの塊が形成される。
『主の願いの、そのままに……
主が願う、そのままに……世界のすべてを否定する』
告げるその言葉と共に、エネルギー塊は禍々しく余波をまき散らしながらその大きさを増していく。
『我は“闇の書”……
“闇の書”の“力”の顕現……』
そして――
『我が名は……ルインコンボイなり』
『破滅』の名を冠せられた漆黒のコンボイ――
はやてと共に“闇の書”に取り込まれ、一体となった破壊の化身――
ルインコンボイが、“力”を解き放った。
「あら………………?」
周囲を索敵しても敵の姿はなく、次の動きに備えての休息中――メガデストロイヤーのブリッジで、リニスは眉をひそめた。
「どうした?」
「えっと……今、地球の方をサーチしてたんだけど……ほら、これ」
尋ねるメガザラックに答え、リニスはサーチ結果をメインモニターに表示した。
「……デカいな」
「でしょ?
こんな巨大な魔力の放出反応……一体何があったのかしら?」
そこに示されたのは、通常ではまずありえないほどの巨大な魔力の放出反応――つぶやくメガザラックの言葉にリニスもまた首をかしげて答える。
と――その時、突然リニスの手元の端末が警報を鳴らした。
「ワープ反応……?」
警報の鳴り方から内容を看破し、眉をひそめたリニスは端末のモニターをのぞき込み、
「前方にワープ反応。誰かがワープアウトしてくるわ。
けど……規模が小さいわね。せいぜいトランスフォーマーひとり分、ってところかしら」
「たったひとり、だと……?」
リニスの言葉にメガザラックが眉をひそめると、彼女の言葉どおりメガデストロイヤーの前方にワープゲートが展開される。
炎に縁取られた真紅のゲート――デストロンの使うものだ。
そして、その向こうから姿を現したのは――
「ようやく見つけたぜ、メガザラック」
晶を地球に残し、独りウィザートロンの探索を行っていたブリッツクラッカーだった。
(初版:2007/02/25)