「――――――っ!」
 巨大な魔力の解放――遠く離れた場所で起きたその気配を感じ取り、ジャックプライムは顔を上げた。
「……どうした?」
 尋ねるスーパースタースクリームに、ジャックプライムは答えない。気配の感じる方角へ――日本の方角へと視線を向ける。
「このバカでっかい魔力……!」
 こんなものを放つ存在――心当たりはひとつしかない。
「“闇の書”が……発動した……!?」
「ついに始まった、ということか……」
 ジャックプライムのつぶやきに、スーパースタースクリームは静かにうなずき――
「ジャックプライム」
「え………………?」
 強い口調で名を呼ばれ、ジャックプライムは振り向き――

 その身にスーパースタースクリームの光弾が打ち込まれた。

「な………………っ!?」
 突然のスーパースタースクリームの攻撃――驚愕し、ジャックプライムは後ずさり――
「………………あれ?
 痛くない……?」
 自分はまったく傷ついていない。思わず眉をひそめるジャックプライムに、スーパースタースクリームは告げた。
「今の貴様のパワーだけで、どこまで戦える?
 オレの取り込んだ、プライマスの“力”も分けてやった――これで少しはまともに戦えるはずだ」
「そんな……
 どうして、ボクにそこまで……!?」
 スーパースタースクリームは自分達の敵のはず。それがなぜ自分を助け、知恵を貸し、力まで分けてくれるのか――ワケがわからず、首を傾げるジャックプライムだったが、
「簡単な話だ」
 あっさりとスーパースタースクリームは答えた。
「オレにはオレの目的があり――そのためにお前達に倒れられるワケにはいかない」
「なら、直接出向いて代わりに戦えばいいじゃないか。なのに、なんで……」
「まだ、オレの目的を白日の元にさらすワケにはいかない。
 今貴様にこうして断片的な情報を与えているだけでも、本来ならば危険ととなり合わせの綱渡りなんだ」
 その言葉は、言外に『これ以上は追求するな』と告げていた――野望から来るものだとは思えないその真剣な表情に、ジャックプライムは彼の“本気”を感じ取った。
 こちらの意図を汲み取り、ジャックプライムがうなずくのを確認し、スーパースタースクリームは改めて告げた。
「早く行け。
 貴様の相棒が、お前の帰りを待っているはずだ」
「うん!」

 合体パワードクロスをとげ、日本に向けて飛び立つキングコンボイの後ろ姿を、洞窟から出たスーパースタースクリームは無言で見送った。
 サイズシフトによる身体の縮小を解き、元の巨体へと戻ってつぶやく。
「死ぬなよ……ジャックプライム。
 宇宙を救い、再びオレが覇道を歩み始めたその時――」
 それは、やがてそうなるであろう――そうなってほしいという願望――
「貴様とは……一度剣を交えてみたいからな」
 

「あれは……一体……!?」
 “闇の書”の完成、そして発動――その姿を現したルインコンボイの姿に、マスターメガトロンは警戒もあらわにうめき声を上げる。
 ビッグコンボイの突然の変貌、それは今まで見てきた転生に類する現象とは明らかに違う。一体、何が起きているのか――
「……見極める必要が、ありそうだな……」
 自分の力に対する絶対の自信は今も揺るがない。だが、正体もわからない相手にいきなりぶつかるほど愚かでもない。
 それに――
「うまくすれば、つぶし合ってくれることもあり得るしな……
 いったん退くぞ」
 混乱に乗じて合流したダークライガージャック達に告げると、マスターメガトロンはその場から離脱していった。
 

「何用だ?」
「アンタの力を借りたい」
 部下を引き連れつつも、メガザラックは堂々とブリッツクラッカーの前に姿を現した――尋ねるその言葉に、ブリッツクラッカーはストレートにそう答えた。
「アンタ……ベルカ式の魔法を作ったひとりなんだろ?
 そのアンタに、頼みたいことがある」
「何………………?」
 その言葉に、メガザラックは思わず眉をひそめた。
 自分に対し、ベルカ式魔法がらみで彼らが頼りそうな案件があるとすれば――
「それはもしや……お前らが“闇の書”と呼ぶロストロギアに関することか?」
「あぁ」
 またもや、ブリッツクラッカーはあっさりとうなずく。
 メガザラックの背後ではレオザック達がこちらに向けて思い切り殺気立っている――ちょっとした刺激でこの“交渉”は“戦闘”へと変貌するだろう。
 だが――
(それでも……オレ達にはこいつしか頼れるあてがないんだ……!
 晶のたっての願いなんだ――真正面からぶつかって、活路を見出すまでだ!)
 改めて決意を固め、ブリッツクラッカーはメガザラックに告げた。
「こっちの抱えてるありったけの情報をくれてやる。
 だから……知恵を、貸してくれ」

 

 


 

第62話
「それは魂の一撃なの!」

 


 

 

『デアボリック……エミッション』
 淡々と放たれたのは魔法の発動宣言――ルインコンボイの頭上に生成されたエネルギー塊がその言葉に反応、周囲に強烈な破壊の嵐を発生させる。
 その攻撃は――
(空間攻撃――!?)
 瞬時にその特性を分析し、ソニックコンボイの背筋を寒気が走る。
 衝撃を周囲に解き放つ広域攻撃とは違う――空間そのものを攻撃効果で満たしてしまう類の攻撃、それが空間攻撃だ。自分達の物理的な防御は指向性の攻撃に対するものであり、この手の攻撃にはあまりにも無力だ。
「総員退避!
 効果範囲から離脱しろ!」
「り、了解!」
 ソニックコンボイの言葉にドレッドバスターが答え、一同はそれぞれのパートナーを連れて全力で離脱を試みる――

「デュランダルの準備は?」
「できている」
 その光景は、少し離れたビルの屋上に出現した仮面の戦士達やカウンターパンチも見つめていた。尋ねるカウンターパンチに、仮面の戦士のひとりがデバイスカードを取り出して答える。
「もつかな、彼らは……?」
「暴走開始の瞬間まで――もってもらわなければ困る。
 そのためにパワーバランスを保ち、戦いを長引かせ、実戦経験を積ませたのだから」
 一方の仮面の戦士の言葉にもう一方が答えた、その時――
『――――――っ!?』
 突如、彼らの全身を光の鎖がからめ取った。振りほどこうとするが――全身から力が抜けていくのがわかる。これは――
「強化魔法の……キャンセル……!?」
 自らの身体に起きた異変の正体に思い至り、カウンターパンチがうめくと、
「ストラグル、バインド……
 相手の全身を拘束し、強化魔法を無効化する」
 そう告げて、彼らの前に現れたのは――
「貴様……グレートショット……!?」
「なぜ、こんなところに……!?」
 その場に現れたのは、一角を連れたグレートショット――意外な相手の出現に、驚く仮面の戦士達だが――
「ボクが、キミ達の追跡を依頼していたんだ」
 言って、戦いの現場を離れていたクロノが彼らの元へと降り立つ――仮面の戦士達を拘束していたストラグルバインドは、グレートショットからの連絡を受け、駆けつけた彼が放ったものだったのだ。
「すまない、グレートショット、一角さん。
 手間をかけさせてしまった」
「謝るのはこっちの方だよ、クロノくん」
「こやつらの動きを追いきれず、結局“闇の書”の完成を許してしまった……」
 告げるクロノに一角が、そしてグレートショットが答える――そのスキを逃さず、脱出しようとする仮面の戦士達やカウンターパンチだったが――
「ムダなコトはしない方がいい」
 クロノが告げると同時――ストラグルバインドの拘束力がその力を増す。
「今ひとつ使いどころのない魔法だけど――こういう時は重宝する。
 相手の強化魔法や――“変身魔法を強制的に解除する”からね……」
 クロノのその言葉と同時――仮面の戦士達の姿が光に包まれた。
 同時、カウンターパンチもまたパワードデバイスとの合体が解除。分離したその下から素顔をさらし――
「……やはり、あなただったか……」
 そこに現れた姿は、グレートショットにとって予想通りの存在だった。
「公儀隠密局前局長にして我ら義兄弟きょうだいの師……
 隠密師範、ダブルフェイス殿……」
 グレートショットの言葉に、ダブルフェイスは答えない。ただ視線をそらし、沈黙を守る。
 一方、仮面の戦士たちの変身魔法も解除された。身体を覆っていた光が弾け、本来の姿に戻った“彼女達”の顔から仮面が外れ――
「クロノ……!」
「こんな魔法……教えてなかったんだがな……!」
「『ひとりでも精進しろ』と教えたのは……キミ達だろ……
 アリア、ロッテ……」
 うめく二人――リーゼアリア、そしてリーゼロッテの言葉に、クロノは哀しげな表情でそう告げた。
 

 漆黒の衝撃はルインコンボイの周囲を満たし、存分に荒れ狂い――やがて消える。
 思っていたよりも効果の広がりが遅かったのが幸いし、こちらで今の攻撃を受けた者はいない――だが、直撃を受けていればたとえソニックコンボイであってももたなかったはず――そう確信させるには十分な出力を今の攻撃は有していた。
「なんてパワーだ……!」
「その上、それを行使するのはあのビッグコンボイ……
 まさに最悪の組み合わせだな……!」
 ルインコンボイが見せた恐るべき力――その一端を目の当たりにし、エクシゲイザーとニトロコンボイがうめくと、
「へぇ……やるじぇないか……」
 不敵な笑みと共に、ルインコンボイを正面から見返す者がいた。
「だが――オレの戦いを阻んだのは許せん。
 その罪――死をもって償え!」
「ま、待て、スカイクェイク!」
 敵だということも忘れ、思わず制止の声を上げるライブコンボイだが――スカイクェイクはそれを無視して飛翔。ルインコンボイへと向かう。
 対し――ルインコンボイは静かにスカイクェイクへと向き直るが――遅い!
「もらったぁっ!」
 いまだ明確な動きを見せないルインコンボイに対し、スカイクェイクは咆哮と共にブレードモードのデスシザースを振るい――

 砕けた。

 ルインコンボイが瞬時に振るったマンモスハーケンによって粉砕され、デスシザースは無数の金属片となって周囲に飛び散る。
「な………………!?」
 驚愕し、スカイクェイクは思わず動きを止めてしまい――その眼前にビッグキャノンが突きつけられる。
(いかん――!)
 とっさに防御を固めるのと、閃光が放たれたのはほぼ同時だった――ガードの上から、強烈なエネルギーの渦がスカイクェイクに襲いかかる!
「ぐ………………っ!」
 だが、スカイクェイクもホラートロンを統べる恐怖大帝だ。強烈なその一撃にもなんとか耐えしのぎ――
「――――――っ!?」
 見た。
 無造作にマンモスハーケンをかまえ、こちらに狙いを定めるルインコンボイの姿を。
 そして――ルインコンボイの一撃は、スカイクェイクの身体を深々と斬り裂いていた。

「が………………!?」
 衝撃は一瞬――その一瞬で宙を貫き、吹き飛ばされたスカイクェイクはまるで隕石でも落下したかのような勢いで大地に突っ込んだ。
 周囲の大地を打ち砕き、形成されたクレーターの中でなんとか身を起こそうとするが、その傷は深く、まともに手足を動かすこともできない。
 そんな彼の前にルインコンボイが降り立つ――ゆっくりと近づくその姿に、スカイクェイクは自分に止めをさすであろう一撃を予感し――
 通り過ぎた。
 まるでそこに何もないかのように――完全にスカイクェイクを視界の外に据えて。
「な………………!?」
 驚愕し、振り向くが――ルインコンボイは静かに歩を進める。
 その先に集結している、ソニックコンボイや――なのは達に向けて。
 その目の前を阻む建物や障害物はことごとく斬り飛ばされる――ただ一直線になのは達を目指すその姿に、その態度に思い知らされる。
 彼にとっては、目の前に現れたジャマのものをどけた、ただそれだけの話だったのだと。
 自分は、彼にとってはただの障害物のひとつに過ぎなかったのだと。
 自分の存在は――彼にとってはその程度のものなのだと。
 彼とて戦士だ。戦場で散る覚悟はある。それもまた武人の誇りだと信じてきた――だが、自らを打ち倒した者はその『誇り』すら踏みにじったのだ。
「……ぐ………………っ!」
 自らの存在を忘れられるのではない。認識していながら歯牙にもかけられていない――なのは達に対して感じた以上の、今まで味わったこともないほどのない屈辱だ。悔しさから歯をかみ締める。
「待て……ルインコンボイ……!
 オレはここだ……貴様に挑んだ者がここにいる!
 相手をしろ、ルインコンボイィィィィィッ!」

 魂の限り咆哮するが――その咆哮がルインコンボイに届くことはなかった。
 

「なるほど……
 “闇の書”と“夜天の魔導書”は同一の存在――何代目かの主がそのシステムに手を加えた結果、“闇の書”へと変貌することとなった……」
「そうだ。
 アイツらが言うには、完成してから暴走するまでの間、それも管理者ってことになる持ち主にしか停止させられないらしい」
 『地に足をつけて話せる場を』という双方の共通した要望で、場は地球を見上げることのできる月面上へと移されていた――レオザック達を頭上のメガデストロイヤーへと帰し、確認するメガザラックの言葉に、ブリッツクラッカーが答える。
「だが、その管理者も完成と同時に“闇の書”へと取り込まれてしまう……
 あげく、発動したからには周囲の存在を片っ端から取り込み、自らの力としてしまう……」
「正直、アイツらじゃお手上げだ。
 だから、ベルカ式魔法に通じてるアンタをあてにしたんだ」
 メガザラックに告げ、ブリッツクラッカーは思わず彼に向けて一歩を踏み出す。
 なのは達から聞いたメガザラックの評価からすれば、彼は決して悪人ではなく、むしろアリシアを――人を救うために動いている。そんな彼が、“闇の書”に喰われようとしているはやてを見捨てるとは考えづらい。
 もし、彼から有力な情報が聞き出せれば――
 もし、彼が協力を申し出てくれれば――
 わずかな可能性に対し、期待を抱くブリッツクラッカーだったが――
 

「………………ムダだ」
 

 静かに――だがハッキリとメガザラックは告げた。
「完成したら管理者にしか使うことはできない――それは“闇の書”となって付加された機能ではない。
 第三者による不正使用を避けるためのセーフティシステム――“夜天の魔導書”の頃からあった安全装置だ。
 “闇の書”への変質の際にも影響を受けなかった、それほどに頑強なそのシステムを破る手段などない。
 事実上――外からの干渉では“闇の書”を止めることも八神はやてを救うことも不可能だ」
「そ、そんな……!
 何かないのかよ!? システムの抜け道とか、何か……」
「ない」
 なおも食い下がるブリッツクラッカーに、メガザラックはハッキリと断言した。
「現状、八神はやて以外に“闇の書”を停止させられる者は存在しない」
「なんでそんなにハッキリ言えるんだよ!」
 メガザラックの言葉に、ブリッツクラッカーは思わず声を荒らげた。
「他に抜け道がないなんて、どうしてわかるんだよ!? あの本の、元々のシステムを知ってでもいない限り、そんなこと――」
 そこまで言って――
(――――――え?)
 気づいた。
 メガザラックがここまでハッキリと“闇の書”のシステムについて断言できる、その根拠に。
 それは、今自分が否定しかけたある要素――
「まさか……
 …………“お前が”?」
「そうだ」
 詳しく言葉を並べる必要などなかった――ブリッツクラッカーの意図を正確に汲み取り、メガザラックはうなずいた。
「“闇の書”は――
 ――いや、“夜天の魔導書”は……オレが作った。
 後の世の魔導師や騎士達に、より多くの知識を伝えられるように、とな」
 呆然と尋ねるブリッツクラッカーに、メガザラックは静かに答える。
「正直、こんなことになるとは思っていなかったが――だからと言ってオレに責任がない、とは言わん。できることがあればしよう。
 だが――オレ達には、その“できること”すら残されてはいない。
 あきらめろ――“闇の書”に対し、オレ達は無力だ」
 そう告げ、メガザラックは上空のメガデストロイヤーに戻ろうと背を向け――
「――――まだだ」
 そんなメガザラックに、ブリッツクラッカーは告げた。
「実際調べてもいないのに、どうしてそんなに断言できるんだよ!?
 “闇の書”を止められないって、なんで決め付けるんだよ!?
 まだ何もやってないのに――なんで何もしようとしないんだよ!」
 次の瞬間に待っていたのは感情の爆発――メガザラックを真っ向からにらみつけ、ブリッツクラッカーは一気にまくし立てる。
「そりゃ、オレだって昔は何かあるたびにあきらめてたけどな――あきらめなけりゃ、何だってできるって教えてくれたヤツがいる!
 だからオレはあきらめない! アイツが助けたがってるはやてを、絶対に助けてやりたい!
 そのためには、お前の協力が必要なんだ!」
「オレにそのつもりはない」
「知るかよ、そんなの!」
 淡々と答えるメガザラックに、ブリッツクラッカーはハッキリと言い返す。
「オレは晶の願うとおりにはやてを助ける! そのためにお前を地球に連れて行く!
 イヤだって言っても聞かねぇぞ――力ずくでも連れて行く!」
「オレを……力ずくで、だと……!?」
 その言葉に、メガザラックの口調に怒りの色が混じり始めた。
「図に乗るなよ。
 お前がオレを倒せるものか」
 言って、メガザラックは右手をかざし――ビーストモード時のハサミを篭手としたその手の中にブリューナクが現れる。
「……いくぞ」
 淡々と告げ――跳躍。決して素早そうに見えないメガザラックの身体は、一瞬にしてブリッツクラッカーの眼前へと飛び込んでいた。
「――――――っ!」
 かろうじて反応し、後退しようとするブリッツクラッカーにブリューナクで一撃――さすがにガードは許したものの、パワーの差に物を言わせ、力任せに吹き飛ばす。
「ぐあぁっ!」
「その程度でオレと戦おうとは、なめられたものだな!
 フォースチップ、イグニッション!」
 吹っ飛ぶブリッツクラッカーに告げると同時、メガザラックの尾に備えられたチップスロットに白いフォースチップが飛び込み――先端の巨大な針が収納。代わりに砲門が姿を現す。
 そして――
「フォトン、スマッシャー!」
「ぅわっとぉ!?」
 放たれた閃光は月面を深々とえぐり、あわてて逃げ出すブリッツクラッカーの足元を吹き飛ばす。
「フンッ、無様だな」
「るせぇ!
 無様なのはオレのライフスタイルなんだよ!」
「どんなライフスタイルだ……」
 上下逆にひっくり返った姿勢から飛び起き、反論するブリッツクラッカーの言葉に、メガザラックはあきれながらブリューナクをかまえる。
「だが……わかったはずだ。
 お前程度では、オレには勝てん――あきらめて退け」
 歴然たる実力差はすでに証明された――無益な戦いを望まず、撤退を促すメガザラックだが――
「誰が退くかよ。
 まだ始まったばかりだろうが」
 あっさりと答え、ブリッツクラッカーはその場に立ち上がった。
「今まで散々叩き落されてきた身だ――オレがザコなのは否定しねぇが、だからっておとなしくやられると思うなよ。
 一寸のザコにも五分の魂ってな!」
「…………仕方あるまい。
 その勇猛さ、できればこの場で散らせたくはなかったが――」
 あくまで退こうとしないブリッツクラッカーの言葉に、メガザラックは腰を落とし、ブリューナクの切っ先をブリッツクラッカーへと向ける。
「うなれ、ブリューナ――」
 告げると同時にブリューナクを繰り出――そうとした、その瞬間――
「――――――っ!?」
 目の前に金色の閃光が飛来した。攻撃をあきらめ、驚愕しながらブリューナクで叩き落す。
 だが――メガザラックを驚愕させたのは不意打ちそのものではない。
 不意打ちのためにブリッツクラッカーが放った、その一撃だった。

「あれは…………!?」
 ブリッツクラッカーの放った一撃が予想外だったのは、メガザラックだけではなかった。ブリッジから見守っていた二人が戦闘態勢に入ったのを見て、急ぎ駆けつけようとしたその姿勢のまま、レオザックは呆然とつぶやく。
 そして――自分と同様に呆然としているリニスへと視線を向けた。
 白銀に輝く、雷光のくさび――色は違えど、間違いはない。
 リニスの得意とする射撃魔法――
 彼女に師事した、まだ宿敵と呼ぶには幼い主の好敵手、そのパートナーの主力魔法――
 気づけば、リニスがその一撃の名を口にしていた。
「フォトン、ランサー……!?」

「お前……いつの間に魔法を……!?」
「実践投入はこれが初めてさ」
 警戒を強め、うめくメガザラックにブリッツクラッカーは苦笑まじりに答えた。
「けど――もっと前から、使うための条件は整いつつあったんだ。
 なにしろ、地球に行ってからこっち、なのはやフェイトからしこたま魔法を喰らいまくったからな――その上ヴィータにボコられて、“闇の書”に蒐集までされたし……魔法に触れる機会なんていくらでもあったんだ。ただセンサーで知覚しただけのデータでも、山みたいな量になれば原理の解明なんて難しい話じゃない」
 実際、スターダストスマッシャーはなのはのスターライトブレイカーの原理を応用したものだしな――胸中でそう付け加える。
 “闇の書”の収集対象になったことも、自分に適性があったことを証明している――自分にそのことを気づかせてくれたことといい、蒐集による消耗を癒そうと海鳴に潜伏したのが晶と出会うきっかけになったことといい、結果的に“闇の書”にはずいぶんと世話になった形である。
 だからこそ――放っておけない。
 意図的なものでなかった、結果的なものだったとしても、自分が変わることができたきっかけに“闇の書”が関わっている点は否定しようがない。恩人とも言える“闇の書”を――その主であるはやてを見捨てることなど、昔の自分ならともかく、今の自分にはできない。
 マスターメガトロンの元に帰還する意志は未だに強く持っているが――それでも、この意地だけは通さずにはいられなかった。
 デストロンに戻る、その前にこの借りだけは返しておきたかった。
「覚えとけよ、メガザラック。
 善人も悪人も関係ない――どんなヤツにだって、通さなきゃならない筋はある。
 ただ、その“筋”が人に迷惑をかけるかどうか、ってだけの話――そしてこれが、オレの通す“筋”だ」
 言って、ブリッツクラッカーは手にしたブリッツヘルの銃口をメガザラックに向けた。
「デストロンナンバー3、ブリッツクラッカー!
 八神はやてを救うため、いざ尋常に――勝負!」
 告げると同時に引き金――放たれ、襲い来る閃光をメガザラックはパンツァーシルトで受け止め――
「――――――っ!?」
 次の瞬間、感じた気配は背後から――とっさに横に跳び、ブリッツクラッカーが左手から放った閃光をかわす。
 今度は銀色の光の奔流。その正体は――
「フェイトのブリッツアクションから、高町なのはのディバインバスターか!」
 だが、とらえられない動きではない。反撃すべくメガザラックは空中でブリューナクをかまえ――
「――だけじゃないぜ」
 そうブリッツクラッカーが告げると同時――無数の光弾が全方位からメガザラックを襲った。
 ディバインシューターだ――最初のブリッツヘルを目くらましに、ブリッツアクションで飛び込む前にばら撒いていたのだ。
「ぐぅ………………っ!」
 それでも、メガザラックは何とか直撃に耐えた――うかつに離れては砲撃の餌食だと判断。ブリッツクラッカーに向けて一気に間合いを詰めようと突撃するが――
「――――――何っ!?」
 ブリッツクラッカーの姿が消えた――そして、
「離脱機動は、ブリッツアクションよりフラッシュムーブの方が使い勝手がいいみたいだな♪」
 そう告げるブリッツクラッカーは、すでにはるか後方でイグニッションを終えている。そして――
「ブリッツ、ヘル!」
 彼の武器は魔法だけではない――放たれたブリッツヘルの閃光が、メガザラックを直撃、さらに――
「コイツは……オマケ!」
 ブリッツクラッカーが告げると同時――まだ数を残していたディバインシューターがメガザラックへと降り注いだ。

「メガザラック!」
 自分達が見守る中、メガザラックは爆発の中に消えた――メガデストロイヤーのブリッジで、リニスは思わず声を上げた。
「ヤバくないか、レオザック!」
「あぁ!
 全員出るぞ! メガザラック様を援護する!」
 うめくショックウェーブに答え、レオザックが指示を下し――
〈待て!〉
 突然の通信がそれを止めた。
 メガザラックからである。

「これはオレとブリッツクラッカーとの戦いだ。
 手出しは無用――黙って見ていろ」
 言って、爆煙の中から姿を現したメガザラックはブリッツクラッカーに向けてブリューナクをかまえる。
「いいのか? ンな余裕かまして。
 ま、オレとしちゃ願ったりかなったりだけどな。フクロ叩きなんてもうたくさんだし」
 対し、そう告げながらブリッツヘルをかまえるブリッツクラッカーだが――
「図に乗るなよ、小僧」
 そんな彼に、メガザラックは静かに告げた。
「確かにオレはお前を侮っていた――そのことは否定しないし、気に入らないというのなら謝罪もしよう。
 だが、ならばこそ――以後は全身全霊を持って叩きつぶす」
「やれるもんなら――やってみろ!
 フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し、ブリッツクラッカーはブリッツヘルにフォースチップをイグニッション。その銃口にフォースチップの“力”の輝きが生まれ――
「ブリッツ、ヘル!」
 放たれた閃光が迫り、メガザラックは上方に跳躍してそれをかわし――
「ディバイン――バスター!」
 ブリッツクラッカーはすでに次弾の準備を終えていた。銀色の閃光を解放、メガザラックを狙う。
 だが――次の瞬間、メガザラックの姿が消えた。
「何――――――っ!?」
 驚愕に目を見張るが――瞬時に身体が反応した。真横に飛び、背後からの刺突を回避する。
「やってくれるぜ……!」
 背後に回り込んだのはフラッシュムーブやブリッツアクションと同じ高速機動魔法だろう――自分ができることなのだ。相手ができないはずがない。
 だが――
「けどな――ガタイの違いは致命的だぜ!」
 メガザラックはその体躯ゆえにスピードを殺しきれていない。未だ大地に踏ん張るその姿に狙いを定め、フォトンランサーを放ち――
 突然、その一撃が薙ぎ払われた。
 メガザラックではない――何者かの手によって。
 次の瞬間、更なる衝撃がブリッツクラッカーを襲う――フォトンランサーを叩き落した乱入者の一撃が、ブリッツクラッカーを弾き飛ばす!
「何――――――っ!?」
 突然の事態の急変に戸惑いながら、ブリッツクラッカーはなんとか体勢を立て直して着地し――乱入者もまた、メガザラックのすぐそばに着地した。
 巨大な――自分達の背丈の倍ほどもあろうかという巨体を持つ、サソリ型のロボットである。トランスフォーマーだろうか――
「おいおい……助っ人はナシなんじゃなかったのか?」
 警戒し、身がまえながら告げるブリッツクラッカーだが――
「助っ人などは呼んでいないさ」
 対し、メガザラックはあっさりと答えた。
「こいつは……“オレの武器だ”」
「何だと……!?」
 思わず疑問の声を上げ――ブリッツクラッカーは気づいた。
「まさか……ソイツは!?」
「そうだ。
 考えが甘かったな――ベルカ式魔法の創始者のひとりであり、ウィザートロンの頂点に立つこのオレが――ブリューナクアームドデバイスしか持っていないとでも思っていたのか?」
 うめくブリッツクラッカーに答え、メガザラックは告げた。
「改めて紹介しよう。
 リニス、ブリューナクと並ぶオレの相棒――パワードデバイス“ブラックスティンガー”だ」
 その言葉に、ブラックスティンガーが意気込んで両手のハサミを振り上げる――そして、メガザラックはブリッツクラッカーに向けて言葉を続ける。
「ブリッツクラッカー。お前の魔導師としての力は確かにすさまじい。
 原因はおそらく超回復――かつてお前は一度蒐集を受け、スパーク内のリンカーコアを著しく消耗した。そこから回復したことがリンカーコアの成長を促し、より強大な魔力を得るに至ったのだろう。
 だが――だからこそ、オレはお前を全力で叩きつぶす」

「メガザラック、スーパーモード!
 パワード、クロス!」
 メガザラックが咆哮すると同時、ブラックスティンガーは上方へと跳躍。変形を開始する。
 背部ユニットが起き上がり、後方へと展開。左右二つに分割されて両足となり、次いで両手のハサミがスライド、メガザラック自身のトランスフォームと同じように篭手となり、内部から拳が飛び出す。
 人型への変形が完了し、その胸部が展開。その内部にメガザラックが飛び込むと再び装甲を閉じ、彼の身体を保護する。
 唯一露出した頭部にもヘッドギアが装着され、より巨大な姿となったメガザラックは新たな名を名乗った。
「魔将大帝――ブラックザラック!」

「そ、それがどうした!」
 合体を遂げ、その巨体を現したブラックザラック――その圧倒的な威容を前に、ブリッツクラッカーは自らを襲うプレッシャーをはねのけるかのように声を上げる。
「お前がどんな姿になろうが――やることなんざ変わらねぇんだ!
 オレはお前をブッ倒して、はやてのところへ連れて行く!」
 宣言と同時、ブラックザラックへとディバインバスターを放ち――
 

「どこを狙っている?」
 

 そう尋ねるブラックザラックは――

 

 

 ブリッツクラッカーの背後にいた。
 

「な………………っ!?」
 見えなかった。
 おそらくは高速移動魔法――だが、さっきまでとは速度が違いすぎる。あれほどの巨体の動きを、追う事ができなかった。
 ブラックザラックの底知れぬ実力の一端を垣間見、ブリッツクラッカーの背筋を寒気が走り――

 次の瞬間、その身体は月面上から消えていた。
 ブラックザラックの拳によって、地中へと叩き込まれて。

「終わりか」
 一撃でブリッツクラッカーの姿は地中へと消えた――そのまま何の反応も返ってこない状況に、ブラックザラックは静かにつぶやく。
 ブリッツクラッカーの消えた大地の穴からの何の気配もない。ブリッツクラッカーの動きも、彼の魔力の行使も――
 今度こそ引き上げようと、ブラックザラックは静かにその場に背を向け――ようとした瞬間、背後で轟音が響いた。
 地面に叩き込まれたブリッツクラッカーだ――素直に自分が穿った穴から出て行っても返り討ちにあうだけだと判断し、そのまま地中を掘り進んでブラックザラックの背後に飛び出したのだ。
 両手にはすでにディバインシューターの無数の光球。今度こそブラックザラックを逃がすまいとそのすべてを解き放ち――
〈Absolute Panzer〉
 ブリューナクの言葉と共にブラックザラックの周囲に防壁が展開。ディバインシューターをことごとく防いでしまう。
 だが――
「フォースチップ、イグニッション!」
 それもブリッツクラッカーにとっては予想の範囲内だった。大地に降り立ち、ブリッツヘルにフォースチップをイグニッション。周囲にばら撒かれたエネルギーの残滓をその銃口へと収束させ、
「スターダスト、スマッシャー!」
 特大の閃光を解放。エネルギーの渦は荒れ狂いながらブラックザラックへと襲いかかり――
「………………ムダだ」
 告げると同時、ブラックザラックはブリューナクを振るい――放たれた雷光がブリッツクラッカーの閃光の渦をいともたやすく撃ち貫くと、さらにブリッツクラッカー自身をも吹き飛ばす!
 スターダストスマッシャーは、波動として放つ関係上、どうしてもそのエネルギーの渦にはムラが生じる――特に中央部は回転の中心ということできわめてエネルギーの密度が薄い。ブラックザラックはその密度の薄い一点に狙いをつけ、撃ち抜いたのだ。
「これでわかっただろう――オレとお前の、力の差というものが」
 吹き飛ばされ、大地に落下するブリッツクラッカーに、ブラックザラックは淡々と告げる。
「確かに、魔導師や騎士の戦いは魔力の強さやその運用の是非が勝敗を左右する。
 だが――だからと言ってデバイスの存在を無視できるワケでもない。いかに強力な魔導師であろうと、その力を最大限に引き出してくれるデバイスがなければ勝てる戦も落とすことになる。
 魔導師も騎士も、優れた魔導技術と優れたデバイスがそろって初めて最強となれる――自らの魔力のみに頼り、デバイスを持たぬままオレに挑んだお前は、最初から敗北していたんだ」
「……ぅ……る、せぇ……!」
 言い返し、ブリッツクラッカーは力なく身を起こした。
 たった2発――だが、その2発の直撃で全身の装甲はひび割れ、各所からオイルが血液のごとく噴き出している。
 左腕は力を失い、ブリッツヘルもすでに握られていない――それでも、ブリッツクラッカーは立ち上がり、ブラックザラックをにらみつける。
「それが……どうした……!
 昔のオレならいざ知らず、今のオレは生半可な覚悟でここにいるんじゃねぇんだ……!
 どれだけブッ飛ばされようと――オレはてめぇに喰らいつく!
 お前が首を縦に振るまであきらめねぇ――絶対、はやてを助けてもらうからな!
 フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮と同時、背中のチップスロットに地球のフォースチップが飛び込み、カカトに位置していたビークルモード時の尾翼が展開され、鋭い刃“ライザーブレード”となる。
 全身にみなぎるフォースチップの“力”が傷ついた身体をさらに痛めつけ、追い込んでいく――だが、ブリッツクラッカーはかまわない。そのエネルギーが右足のライザーブレードに集中。そのまま急加速したブリッツクラッカーはブラックザラックへと突っ込み、直前で跳躍。空中で前回りに一回転し――
「ブリッツ、ヒール――クラァッシュ!」
 渾身の一撃がブラックザラックの顔面を狙い――

「あきらめろ」

 淡々と告げるブラックザラック――彼の繰り出したブリューナクが、ブリッツクラッカーの腹を容赦なく貫いた。
 そのままブリューナクを一閃。ブリッツクラッカーの身体を空中に放り出し――
「これは貴様への敬意の証だ。
 受け取るがいい」
 静かに告げると共に、ブリューナクの刃、その全体に雷光が走り――
「雷光、砕斬!」
 解き放たれた雷光は収束、刃となって飛翔し――ブリッツクラッカーの全身を切り刻み、吹き飛ばす!
 すでに受身を取る力も残されてはいない――全身の装甲を打ち砕かれ、ブリッツクラッカーは力なく大地に落下する。
 どうやら、まだ息はあるようだが――
「何度言えばわかる。
 お前の力はオレには届かない――それはどうしようもない事実だ。
 そして――“闇の書”を止めることができないというのもまた、どうしようもない現実だ」
 そんなブリッツクラッカーに告げると、ブラックザラックは彼に対して改めてその切っ先を向ける。
「選択肢を与えてやる。
 選ぶがいい。ここでオレに討たれるか――
 “闇の書”の暴走に飲まれて消えるか――」
 告げるブラックザラックの周囲に、強大な魔力が渦巻き始める。
 正真正銘の全力――もしこれでもなおブリッツクラッカーが立ち向かうとなれば、その力は彼を完膚なきまでに打ち砕くだろう。
 そして――ブリッツクラッカーは答えた。
 

「ブラックザラック……!」
 その光景は、メガデストロイヤー内の自室で休んでいたアリシアも見守っていた。
 ブラックザラックの圧倒的なパワーを前に、ブリッツクラッカーはなす術もなく打ちのめされる――凄惨なその光景に思わず目を背けたくなるが――それでも、見続けていた。
 なぜなら――
(こんなの……ブラックザラックらしくない……!)
 その一点が気にかかったからだ。
 彼は一度命を落とし、ほんの小さな偶然によって生き返った自分を完全な形で救おうと戦っている――そんな彼が、なぜ同じような目的で戦いを挑んできたブリッツクラッカーをここまで否定するのか、それが胸中に引っかかる。
「もしかして……ブラックザラックは……!」
 そして――彼女が見守る中、ブリッツクラッカーは答えた。

 

「どっちも――」

 

 

「お断りだ」
 

「そうか……」
 その答えはある意味予想どおりのものだった。ブラックザラックが静かにうなずくその前で、ブリッツクラッカーは懸命にその身を起こす。
 対し、ブラックザラックは動かない――だが、彼を見逃そうというワケではない。立ち上がった彼を――当初の宣言どおり『全力で叩きつぶす』ためだ。
 ついに立ち上がり、こちらをにらみつけるブリッツクラッカーに向けて口を開く。
「……最後にひとつだけ尋ねよう。
 なぜそこまでして“闇の書”を止めようとする?
 貴様にとって、“闇の書”の主とは何なのだ?」
 だが、ブリッツクラッカーの答えは――
「ンなコト言われても――正直、何の関係もねぇよ……!」
「何だと……?」
 もはや限界などとうに超えている――息も絶え絶えに答えるブリッツクラッカーの言葉に、ブラックザラックは思わず眉をひそめた。
「オレが……どうして、“闇の書”を止めたいか、だと……!?
 そんなの……晶に頼まれたからに決まってんだろ……!」
 告げて――ブリッツクラッカーはブラックザラックに向けて一歩を踏み出す。
「アイツ……強がりだからさ…………
 付き合いの長い、ヤツらにだって……弱音を吐いたりしないんだよ……!」
 ま、少なくともレンには絶対弱みは見せないだろうけど――胸中で付け加え、苦笑する。
「そんな……アイツが、オレに……相談……してきたんだ……!
 支えて、やらない、ワケ……には、いかないだろうが……!」
 口の中にオイルがもれ出してきた。まるで血でも吐くかのように吐き出し、ブラックザラックをにらみつける。
「アイツが……オレを頼ってくれたんだ……!」
 その拳を握り締め、宿った“力”が雷光へと変わる。
「アイツが……晶が――!」
 その言葉と同時――ブリッツクラッカーは跳躍した。
 弱った身体からは想像もできないほどの鋭い加速――
(すべての力をかけた――命をかけての突撃か!)
 だが――こちらとしてもそれを喰らうワケにはいかない。全力を持って叩き伏せるべくブリューナクを振るい――
 次の瞬間、ブリッツクラッカーの身体が沈んだ。ブリューナクから放たれた雷光の刃は目標を見失い、漆黒の宇宙空間へと飛び去っていく。
 だが、ブリッツクラッカーの身体はそのまま大地へと倒れていく。
(限界を、超えたか……)
 このまま倒れたが最後、彼が立ち上がることは二度とあるまい。
 その最後の様を見届けようとでも言うのか――ブラックザラックは、ブリッツクラッカーの倒れる動きをまるでスローモーションのようにゆっくりと感じていた。

(……く…そ…………っ!)
 ゆっくりと月面が近づいてくる――自身の限界を全身で感じ、ブリッツクラッカーは言葉を発することもできず胸中でうめくしかなかった。
(せめて……一撃でも………と、思ったんだがな……)
 生身同士の戦いでは善戦したと言えるだろう。だが――合体パワードクロスを許してからはなす術なくいたぶられた。たった数発の攻撃で瀕死にまで追い込まれ、切り札であるブリッツヒールクラッシュもまた打ち砕かれた。
 そして、すべての力を振り絞ったこの突撃も、今まさに終わろうとしている――
(……これで…………終わりか………………!)
 晶と出会って、変われたと思っていた。
 強くなれたと――あきらめない強さを手にしたと思っていた。
 それでも、結局最後はあきらめて倒れるしかないのか――そんな思いが脳裏をよぎった瞬間――

 

 

(――――――っ!)
 

 

 思い出した。
 自分に“闇の書”の事を相談してきた、晶の不安そうな顔を――

(そうだ……!  ブラックザラックに言ったばかりだろうが……!
 晶が……頼ってくれたんだ……!)

 まだ終われない――その想いが全身に満ちる。

(オレを……頼ってくれたんだ……!)

 右手に宿った“力”が勢いを取り戻す。

(オレは…………晶のために……戦ってるんだ……!)

 思い切り振り上げ――月面に叩きつける。

(晶の……)

 突然動きを見せたことで驚愕するブラックザラックの頭上を飛び越え――

 

 

 

 

 

 

(惚れた女のために!)

 

 

 すべての力を込め、ヒールクラッシュを放った。


 

(初版:2007/03/04)