「な、なんてヤツだ……!」
「スカイクェイクを、たった一撃で……!?」
 その実力は、かつて彼から瀕死の重傷を負わされた自分たちが一番よくわかっている――スカイクェイクを一瞬にして叩き伏せたルインコンボイの底知れぬ力を見せつけられ、エクシゲイザーとロングマグナスが驚愕と共にうめく。
 そんな中、ルインコンボイは周りの障害物を次々に薙ぎ払いながら、徐々にこちらへと近づいてくる。
『……敵性対象、多数確認。
 広域、対多数戦闘』
 どうやら、こちらの戦力を把握していたらしい――告げると同時、ルインコンボイは右手を頭上へとかざし――
『……眷族、生成』
 その言葉と同時、周囲に浮かぶ無数の魔法陣――とたん、中から巨大な生物が次々にその姿を現す!
「な、何だよ、アレ!?」
「魔力を持つ、大型生物達だ……」
 思わず声を上げるライガージャックに答えるのはシグナムだ。
「我らが蒐集のために倒してきた巨大生物達――“闇の書”は集めたリンカーコアの情報からその存在を把握し、コピーを作り出したんだ。
 自らに付き従う、眷族として……!」
 こちらの数が多いのに対抗し、自分も数をそろえたということか――自らの本体である“闇の書”と戦うことは気が引けるが、その“闇の書”を止めなければはやての命がない。自らの取るべき道に迷い、シグナムは唇をかみ締め――
「シグナム、お前は下がれ」
 そう告げたのは、フレイムコンボイの肩の上の恭也だ。
「し、しかし……」
「ヴィータ達のことを頼みたい」
「………………っ!」
 反論しかけたところに恭也からそう告げられ、シグナムは思わず息を呑む。
「彼女達やザフィーラ達をこのままにはしておけない。
 結界が展開されていない今のうちに、彼らをサイバトロン基地へ」
「恭也……」
 無論、それだけではあるまい。“闇の書”と、その主であるはやて――自らの主と戦うことに苦悩する自分への、恭也なりの配慮にシグナムは静かにうなずいた。
「わかった。
 では、恭也。ここは任せる!」
「あぁ」
 告げて、転送魔法で離脱するシグナムに答え――恭也はルインコンボイへと視線を向ける。
「さて……ルインコンボイだけでもやっかいなのに、あれだけの眷族まで呼び出されてはな……
 どうする? フレイムコンボイ」
「そんなもの、決まっている」
 尋ねる恭也に答え、フレイムコンボイはフレイムアックスをかまえ、
「ただ全力で――ぶつかるのみよ!」
「…………言うと思ったよ」
 肩をすくめて苦笑するのは、となりでフレイムコンボイの宣言を聞いたライブコンボイだ。
「なら、ぶつかる相手を分担しようか。
 眷族は数が多い――当然そちらに多く戦力を割くことになるが、だからと言って対ルインコンボイの戦力を削るのも愚策だ。
 となれば――」
「リンクアップしたコンボイ級全員でルインコンボイを抑え、その間に他のメンバー全員で眷族を蹴散らし、しかる後に総攻撃、だな」
「それしかないか……」
 ライブコンボイの言葉にニトロコンボイが提案。ソニックコンボイがそれに同意し、
「なのは……しばらくの間厳しい戦いになるだろうが……いけるな?」
「はい!
 フェイトちゃん、いくよ!」
「うん!」
 ソニックコンボイにうなずくなのはの言葉に同意し、バルディッシュをかまえたフェイトはまだリンクアップを遂げていないメンバーのためにリンクアップナビゲータを起動させる。
 そして――

『リンクアップ!』

 咆哮が響き――対峙する4人のリンクアップ戦士と二人の魔導師に対し、ルインコンボイは封鎖領域を展開した。

 

 所変わって、時空管理局本局――
 オフィス棟の一角、とある執務室の前には、バインドでダブルフェイスを拘束したシックスナイトと美沙斗の姿があった。
 だが――二人ともその表情は重く、目の前の扉をどこか悲しげな視線で見つめている。
 そして、その中では――
「リーゼ達の行動は、あなたの指示ですね?
 ……グレアム提督」
 アリアとロッテ――リーゼ達をこの場に連行したクロノが、一角と共にグレアム提督と対峙していた。

 

 


 

第63話
「涙と想いの行方なの」

 


 

 

「違う! クロノ!」
「すべてあたし達やダブルフェイスの独断だ!
 父様には関係ない!」
 クロノの言葉に、すぐさま異論を唱えるロッテとアリア――だが、クロノがそれを聞き入れることはなかった。
 その理由は――クロノの正面にいる人物の口から放たれた。
「ロッテ……アリア、いいんだ。
 クロノはもう、おおよそのことはつかんでいる」
 そう告げて、グレアムは「違うかい?」とクロノに確認。クロノもまた静かにうなずく。
「詳細は、一角さんとグレートショットがリーゼ達を追いながら独自に調べ上げてくれました。
 提督は11年前の……前回の『“闇の書”事件』以降、独自に転生先を探していた。
 そして――発見した。
 “闇の書”のありかと、現在の主――八神はやてを。
 しかし、完成前の“闇の書”と主を抑えても、あまり意味はない。転生機能が働き、すぐに転生してしまうだろうから――
 だから、監視をしながら、“闇の書”の完成を待った――完成させなければ“闇の書”の侵食ではやてが死ぬ。守護騎士達が動くのは、すでにあなたの中では確定事項だった」
「………………」
 グレアムからの言葉はない。アリアや、ロッテからも。
 それが意味するのは肯定。そして――
「…………見つけたんですね。
 “闇の書”の、永久封印の方法を」
 それは推測ではない。
 確固たる確信――でなければ、このような回りくどい方法を取る意味がない。永久封印の方法がなければ“闇の書”が完成しても巨大な災厄を引き起こすのみ。それならばむしろはやてを抑えて転生を暴発させた方が、よほど確実な時間稼ぎになる。
 なぜこんなことを――確信と叱責を込めたクロノの視線を受け、グレアムは手元に置かれた写真に――そこに写されていたはやての姿に視線を落とし、語り始めた。
「両親に死なれ、体を悪くしていたあの子を見て、心は痛んだが……だが、運命だと思った。
 孤独な子であれば……それだけ、悲しむ人は少なくなる」
「そして……あの子の父の友人を騙って生活の援助をしていたのも、あなたですね?」
 尋ねるクロノに、グレアムはうなずく。
「永遠の眠りにつく前くらい……せめて、幸せにしてやりたかった。
 ……偽善でしかないと、わかっていても……せずにはいられなかった」
「永久封印の方法は、主ごと完全に凍結させ、いずこかへと封印する……そんなところですね?
 それなら、封印対象を閉じ込めている氷に限定することで“闇の書”の防衛機能は働かない……」
「そう。それならば、“闇の書”の転生機能を抑えることができる」
 クロノのとなりで尋ねる一角に、グレアムは静かに答える――と、とうとうたまらなくなったのか、アリアとロッテが声を上げた。
「これまでの闇の書の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてんだ――それと、何にも変わらない!」
「クロノ。今からでも遅くない。
 あたし達を解放して――凍結が掛けられるのは、暴走が始まる前の数分間だけなんだ」
 だが――
「今までやってきたからって……それが正しいことなのか?」
 そう二人に尋ねたのは一角だった。
「事を起こしてからじゃ止められない……だからって、まだ何もしていないヤツを氷漬けにして、永遠に眠らせる……
 それが、お前達の守る法ってヤツなのか?」
「そんな……決まりのせいで!」
 思わず叫ぶロッテ――その言葉には、怒りだけではない、別の感情も込められていた。
「そんな決まりがあるせいで、悲劇が繰り返されてんだ。
 クライドくんだって――」
 それは後悔。そして――
 

「クロスケの父さんだって、それで!」
 

 哀しみ、だった。

 

「ダメですよ、スターセイバー!
 まだ交換したパーツが馴染んでいないんです! 安静にしていないと!」
「しかし、今の戦力では、あのルインコンボイには対抗できん!
 今はひとりでも多くの戦力が必要な時だろう!」
 一方、サイバトロン基地では手当てが終わるなり基地を飛び出そうとしたスターセイバーがファストガンナーと押し問答を繰り広げていた。
「“闇の書”の完成は我々が行っていたこと――この事態の責任の一端が我らにはある!」
「だが、その身体では出て行ったところでまともに戦えまい」
 まくし立てるスターセイバーにホイルジャックが答えると、
「ホイルジャックの言うとおりだ、スターセイバー」
「シグナム!?」
 突然の声に振り向くと、そこには大型転送ポートから現れたシグナムの姿があった。
 そんな彼女の後ろに続くのは――
「今の我らのすべきことは、戦うことではない」
「ヴィータちゃん達を手当てして、万全の体制で復帰することよ」
 ストレッチャーでヴィータやザフィーラ、アトラス、ビクトリーレオを運ぶ、フォートレスとシャマルだった。
 

「クロノの父さん――当時提督だったクライドくんは、11年前の『“闇の書”事件』の時、回収した“闇の書”を運んでいた……」
 すべて調べ上げたのなら、今語っていることも承知の上だろう――だが、それでも言わずにはいられないのか、アリアは力なく語り始めた。
「けど、暴走した“闇の書”がクライドくんの艦を乗っ取って……」
「結局、父さんは艦と運命を共にした。
 乗っ取られた艦は“アルカンシェル”の発射体勢に入っていた――それを阻止し、“闇の書”を艦ごと消し去るために……」
 視線を伏せたアリアに変わり答えたのはクロノ本人――言いようのない沈黙が周囲に満ちた。
 そんな中――沈黙を破ったのもまたクロノだった。
「……人道とか、法だけじゃない……それ以外にも、提督のプランには問題があります。
 凍結の解除は、そう難しくない筈です――どこに隠そうと、どんなに守ろうと……いつかは誰かが手にして使おうとする。
 怒りや憎しみ、悲しみや欲望……その願いが、導いてしまう――封じられた、力へと……」
 その言葉に――誰も答えることができない。
 特に、グレアム達は何も言葉を発せられない――クロノの言葉は、彼らに気づかせてしまったのだ。
 自分達がしていたこと、自分達の抱えていた想い――それがまさに、『封じられた力に導かれる者』そのものの姿であることに。
 自らの後悔にとらわれ、手段を問わずに目的だけを追い求めてしまった――そんな自らの姿を、クロノは言外に、だがハッキリと指摘していた。
 だが――今はそんな感傷に浸っていられる時ではない。クロノはソファから立ち上がると、一礼した。
「現場が心配なので……すみません。一旦、失礼します。
 行きましょう、一角さん」
 淡々と告げ、一角と共にドアへと向かい――
「………………クロノ」
 その背中に声がかけられた。
 振り向くと、そこにはあきらめたかのような――だが、そんな中にもある種の決意を固めたかのようなグレアムの姿があった。
 いつもと変わらない口調で、となりのアリアに声をかける。
「アリア……
 ……デュランダルを彼に」
「と、父様……!?」
 思わず声を上げるアリア――だが、無理もない。デュランダルは彼らにとって“闇の書”停止のための最後の切り札なのだから。
 だが――そんな彼女にグレアムは告げた。
「私達に……もうチャンスはないよ。
 持っていたって、役に立たん」
 その言葉に、ついにアリアも観念したようだ。クロノに歩み寄り、1枚のデバイスカードを手渡す。
「どう使うかは、キミに任せる。
 氷結の杖――デュランダルだ」
 そして――クロノに向けて頭を下げる。
「今さらこんなことを言えた義理ではないが……ひとつだけ頼まれてくれ。
 彼女達を救うにせよ……別の道を選ぶにせよ――」
 

「どうか……後悔だけは、しないでくれ」

 

「…………殿も、知っておられたのですね……
 グレアム提督の、行動を……」
「…………あぁ」
 ミッドチルダ・サイバトロンシティ、謁見の間――告げるグレートショットの言葉に、エルダーコンボイは静かにうなずいた。
「だが……ひとつだけ訂正させてもらうならば、彼は私を巻き込んではいない。
 私から巻き込まれたのだ――私を巻き込むまいと、ただ自分達だけで“闇の書”と対しようとした、あの不器用なパートナーにな……」
「でしょうね……
 提督は、事が露見しても自分ひとりで罪をかぶるおつもりだったようですから……」
 エルダーコンボイの言葉にうなずき、グレートショットはしばし沈黙し――尋ねた。
「……若とスターセイバーをハメたのも、あなたの承知の内ですか?」
「………………」
 返ってきたのは沈黙――
 相棒がクロノにして見せたのと同じ、それは肯定の証だった。
「あぁしてスターセイバーとぶつけ合わせ、傷を負えば……すべてが終わるまでには出てこられまい。
 無論、それで退いてくれる子ではないとわかってはいるが――それでも、退いてくれることを願うしかなかった。
 薄汚い手段だが……私はあの子を失うワケにはいかないのだ。
 私自身よりも……」
「メガザラックのため、ですか……」
「…………そうだ」
 静かにうなずき、エルダーコンボイは外を見渡せる回廊へと視線を向けた。
「あの内戦の後、私はメガザラックに代わりあの子を育てることを決意した。
 それが我が手によって封印した、メガザラックに対するせめてもの償いだと考えて……
 あの子に何かがあれば……私はメガザラックに顔向けできん」
「私は親ではありませんが……義理とはいえ弟を持つ身です。
 危険にさらしたくはないという、そのお考えは理解できるつもりです」
 エルダーコンボイの言葉に、グレートショットはそう答え――それでも彼に告げた。
「しかし……もはや若を守ってやる段階は過ぎ去ったのではないですか?
 若ももう、子供ではありません。管理局の皆と出会い、守るものを見出し――彼は変わりつつあります。
 我らの愛情を一身に受ける子供から、ひとりの戦士へと……」
「…………そうだな。
 それすら見極められない私は……やはり真に父親になることはできなかったようだ……」
「見極められないからこそ、親なのではないですか?」
 自嘲気味につぶやくエルダーコンボイに、グレートショットは苦笑まじりにそう答える。
「前後不覚となり、大切なことを見抜けなくなるほどの愛情――それが何よりの証明です。
 確かに、『良き父親』にはなれなかったかもしれない……しかし、それでも殿は『最高の父親』ですよ」
 そう告げると、グレートショットはエルダーコンボイへと一礼し、
「その想い……必ずや若の励みとなりましょう。
 私もこれより現場へと赴きます――きっと現れるであろう、若を助けるために」
 言って、グレートショットはエルダーコンボイに背を向け――
「待て」
 そんな彼を、エルダーコンボイは呼び止めた。
「現場に戻るならば……持っていってもらいたいものがある」
 そう告げると、エルダーコンボイはこちらへと向き直ったグレートショットへとそれを手渡した。
 銀色に輝く、1枚のカード――
「デバイス……ですか……?」
「すべてが露見し、打つ手を失ったグレアムは、おそらくクロノにデュランダルを託すだろう。
 それと同じ――お前達を守るために、今の私ができる精一杯のことだ。
 これを――誰よりもあの子達を守ってくれる者に渡してくれ」
「それは……託す相手の選別は私に任せる、と?」
「隠密局局長の目、信頼しているからな」
 エルダーコンボイの答えに、グレートショットはデバイスカードへと視線を落とし、
「………………は?」
「次代を切り開く閃光――
 世界を次へと導く者――」
 

「“ネクサス”だ」

 

「はぁぁぁぁぁっ!」
「ブルァァァァァッ!」
 咆哮が、一撃が交錯する――メビウスコンボイのジャイロソーサー、ブレイズコンボイのフレイムアックス、ブレイズアックス二刀流を、ルインコンボイはマンモスハーケンで巧みに受け流し、
『フォースチップ、イグニッション!
 ロディマス、ライフル!』

 耕介や美緒と共にイグニッションしたロディマスコンボイの放ったロディマスライフルの一撃を、素早く後退して回避する。
 だが――それこそが彼らの狙いだった。
「バスターレイ、Shoot!」
〈Baster ray!〉

 なのはの――
「ファルコンランサー、Shoot!」
〈Falcon lancer, shoot!〉

 フェイトの――
『ギャラクシーキャリバー、フルバースト!』
 そしてソニックコンボイの――3人の放った閃光が、一直線にルインコンボイへと襲いかかる!
 だが――
『…………盾』
〈Panzer schild〉
 ルインコンボイと“闇の書”の言葉に、彼の周囲に魔法陣の盾が出現する。
 数は3。さらに――
『高速機動』
 ルインコンボイの指示でそれらの盾が周囲を高速で飛翔。『受け止める』のではなく『弾き飛ばす』防壁となって迫りくる閃光を受け流してしまう。
 さらに――
『刃もて、血に染めよ。
 穿て――ブラッディ、ダガー』
〈Blutig Dolche〉
 静かに告げると同時、周囲に無数の赤い刃が出現。それは瞬時に姿を消し――次の瞬間、自分に対する全員に降り注ぐ!
「ちぃ………………っ!
 やってくれるな、まったく!」
「ブレイズコンボイ、大丈夫!?」
「オレ様を誰だと思ってる!?
 アニマトロス最強の兄弟が合体した、ブレイズコンボイ様だぞ!」
 尋ねる知佳に答え、爆煙の中から飛び出したブレイズコンボイは近くのビルの上に着地。そのすぐ下の地上にロディマスコンボイも降り立ち――
「――――――っ!?
 あれは!?」
 追撃に入ったルインコンボイ――その眼前に展開された魔法陣を見て、ソニックコンボイは思わず声を上げた。
 使用されている魔力の違いからか色は違うが――
『咎人達に、滅びの光を……』
 告げるルインコンボイの正面――魔法陣の目の前に光が収束していく。
「あれは……!?」
「そんな……!?」
「まさか……!?」
 メビウスコンボイも――そのライドスペースに座る真一郎や美由希も驚きを隠せない。
 もう間違いない。あれは――
『星よ、集え……
 すべてを撃ち抜く、光となれ』
 信じられない――そんな思いと共に、なのはがつぶやく。

「スターライト……ブレイカー……!?」
 

「そんな……!?」
「なんでアイツが、スターライトブレイカーを!?」
 一方、他の面々はルインコンボイの眷族と交戦中――背中の甲羅から火炎弾を放つ巨大亀をダブルエクスショットで吹き飛ばし、すずかとエクシゲイザーが上空の戦いの様子に気づいて声を上げる。
「なのはちゃん、リンカーコアを奪われてないのに……!?」
「いや……ブリッツクラッカーだって、付け焼刃ではあったけどマネできたんだ。
 ビッグコンボイくらいの大物になれば、完コピくらいワケねぇよ……!」
 ライドスペースでうめくアイリーンに答え、ブロードキャストもまたルインコンボイをにらみつける。
 さすがはルインコンボイと言うべきか、収束されている魔力はなのはが撃つ本家のそれよりもはるかに上だ。並外れた魔力を持つとはいえ所詮は人間でしかないなのはと、トランスフォーマーの高出力に“闇の書”の力が加わったルインコンボイ――両者の差が明確に現れた形だ。
 もしアレが解き放たれたら――最悪の事態を察し、ドレッドバスターが声を上げる。
「総員退避!
 予想される射程内から、可能な限り離脱する!」
『了解!』

「ソニックコンボイ、私達も!」
「うむ!
 なのは!」
「え!? はい!?」
 自分達も退避しなければ――告げるフェイトの言葉にうなずき、ソニックコンボイは彼女や戸惑うなのはを抱えてその場からの緊急離脱を試みる。
「そ、ソニックコンボイさん、いくらなんでも離れすぎじゃ……」
 ソニックコンボイのスピードをもってすれば、回避などたやすいはず――ただひたすらに距離をとろうとするソニックコンボイになのはが告げるが、
「至近でくらったら、防御の上でも落とされる……!
 あれだけの魔力じゃ、範囲も相当広くなってるはず。回避距離をとらないと……!」
 さすがは以前直撃を食らった経験者――フェイトは決して現状を楽観視していなかった。深刻な表情でなのはに答える。
 すでに彼我の距離は数キロに達している――だが、未だ各々に示された予想射程の中にほぼ全員が納まっている。ルインコンボイのすさまじい魔力出力が、射程距離を飛躍的に高めているのだ。
 しかも――
《マ、マズいよ、なの姉!
 向こうのチャージシークエンスが終わる! これじゃ逃げ切れない!》
「えぇっ!?」
 告げられたプリムラの言葉に、なのはは思わず声を上げた。
 自分のチャージシークエンスよりもはるかに時間が短い――これも自分とルインコンボイの出力差からくる差異なのだろうか。
 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。逃げ切れない以上、どうにかして難を逃れる方法を見出さなくては――
「………………ソニックコンボイさん!
 ルインコンボイさんの方を向いて!」
「なのは……!?」
「逃げ切れないなら――防ぐしかないよ!」
 尋ねるソニックコンボイに、なのはは毅然とそう答える。
 自分の魔法をコピーされ、みんなを危険にさらしている――ならば、自分がこの事態を打破しなければ――決意と共に、自身の技に対する打開策を提示する。
「確かに射程はものすごく長くなってるけど……それを撃つルインコンボイさんの目が良くなってるワケじゃない……
 だとすれば、確実に私達に当てるためには、広範囲に撃つ必要がある……」
「ブリッツクラッカーの、スターダストスマッシャーみたいに?」
 聞き返すフェイトに、なのはは無言でうなずく。
「確かに、そう考えれば実際に我々が受ける攻撃は幾分か軽減されるだろうが……どう防ぐ?
 キミのあの魔法は、結界が通じないのだろう?」
 そんな二人にソニックコンボイが尋ねるが、その問いにはフェイトが答えた。
「こっちも、特大の一発を撃つんです。
 スターライトブレイカーが無効化できるのは防御結界だけ……こちらからの攻撃は、力ずくで吹き飛ばすしかないんです」
《ですから、我々の一斉攻撃でエネルギーを削げば、少なくとも直撃だけは避けることができるかと》
「なるほど……」
 フェイトとジンジャーの言葉にうなずき、ソニックコンボイは離脱を停止。ルインコンボイ――その目の前の光点へと向き直り、
「このまま直撃を許すよりは――はるかにマシか……
 よし! 我々の一斉攻撃で、スターライトブレイカーを防ぐぞ!」
「はい!」
「うん!」
 ソニックコンボイの言葉にうなずき、なのはとフェイトはそれぞれの相棒をかまえ、
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
『カートリッジ、ロード!』
〈Load cartridge!〉
 カートリッジをロード。その周囲に強烈な魔力を解放する。
 そして――
『フォースチップ、イグニッション!』
 ソニックコンボイもまたフォースチップをイグニッション。背中のギャラクシーキャリバーを展開、さらにギャラクシーキャノンを呼び寄せ、その銃口をルインコンボイへと向ける――

『…………迎撃するつもりか』
 視界の届く限界ギリギリの距離――最大の望遠映像でも像のぼやけて見える目標がこちらへと向き直り、攻撃態勢に入ったのを確認し、ルインコンボイは静かにつぶやく。
『…………無意味だな』
 だが――そんなものがどれほど役に立つ。
 自分の放つ特大の一発――威力よりも確実性を優先したそれは周囲一帯に放たれるだろうが、それでも防ぎきれるはずがない。それほどの出力で放つのだ。
 それを打ち破ることなど――不可能だ。
 システムがチャージの完了を告げ――ルインコンボイは発射準備シークエンスへと移行した。
 

「これで終わるか……」
 戦いの決着を予感し、マスターメガトロンは結界の外――戦場の上空でつぶやいた。
 彼我のパワーの差は歴然――ソニックコンボイ達は迎撃しようとしているようだが、ルインコンボイの一撃はそんな彼らを容赦なく薙ぎ払うだろう。
 せめて、あとひとりくらいいれば受け流すことぐらいはできるだろうが――いない者を当てにしても仕方がない。
「このオレに討たれるでもなく、こんな場所で散るか、ソニックコンボイ……」
 かつて自分を打ち破った者の最期にしては、あまりにもあっけない――少々落胆を覚え、マスターメガトロンはため息をつき――
「………………ん?」
 気づいた。
 こちらに高速で向かってくる反応がひとつ。これは――
「キングコンボイか……?」

「もう、始まってる……!?」
 結界がジャマで、まだ距離のある現状では内部の状況まではわからない――焦りを隠しきれず、キングコンボイはうめくようにつぶやいた。
「急がないと!」
 展開されている結界は封鎖領域だ。これならば内部への突入は容易だろうと判断し、キングコンボイはさらに加速し――
「――――――っ!?」
 行く手の結界――その上空で戦いの様子を見つめている存在に気づいた。
「マスターメガトロン!」
 すでにこちらには気づいているようだ――こちらへと視線を向けるマスターメガトロンに対し、キングコンボイはとっさにカリバーンを抜き放って対峙する。
「小僧……今さら何の用だ?」
「それはこっちのセリフだよ!
 なんでお前がここにいるんだ!」
「最初からいたさ。
 ただ、連中がオレをほったらかしにして戦っているだけでな」
 キングコンボイに答え、マスターメガトロンは眼下の戦場へと視線を向ける。
 同じようにキングコンボイも結界内へと視線を落とし――ようやく把握できた戦場でなのは達がルインコンボイと――ビッグコンボイと対峙しているその光景に目を丸くした。
「な、なんでビッグコンボイがなのは達と!?」
「あの男が、今は“闇の書”だ」
「取り込まれたっていうのか……!?」
 答えるマスターメガトロンの言葉にうめき、キングコンボイは結界内に突入しようと向き直り――
「貴様が行ったところで何ができる?」
 そんなキングコンボイに待ったをかけ、マスターメガトロンは尋ねた。
「貴様の力などたかが知れている。
 もはやヤツらは逃げられん――助けてもムダなヤツを、なぜ助けようとする?」
「ムダかどうかなんて……そんなのまだわからないよ!」
 マスターメガトロンの言葉に、キングコンボイは声を荒らげて答えた。
「お前なんかにはわからないよ! 守りたいものがある人の気持ちなんて!
 たとえ無意味でも……助けてもムダだとしても……ボクはなのは達を助ける!
 それが……ボクらの戦いなんだ! ボクはキングコンボイとして――それ以前にジャックプライムとして、大好きな人達を守りたい!
 お前なんかにかまってられないんだ! まだ何か言いたいんなら、後にしてよ!」
 一気にそうまくし立てると、キングコンボイはマスターメガトロンに背を向け、結界の内部へと突入していった。
「………………このオレ様を『なんか』呼ばわりか」
 ひとり残され、マスターメガトロンは静かにつぶやく。
 自分に対する無礼な物言い――背を向けた時点で叩き落すこともできたはずだが――なぜかそんな気にはなれなかった。
「…………『守りたいもの』……
 ……“守る者コンボイ”……か……」
 

 結界の中では、衝撃の時が刻一刻と迫っていた。
『貫け……閃光』
 告げるルインコンボイの言葉に従い、彼のスターライトブレイカーはついに発射体制に入る。
 狙いなど――必要ない。ただ、倒すべき者達の方へと手をかざす。
 そして――
『スターライト、ブレイカー』
〈Starlight breaker!〉
 閃光が――

 破壊の渦が、放たれた。
 

「来るぞ!
 こっちはいつでもOKだ!」
「なのは、フェイト、いけるか!?」
「はい!」
「こっちも!」
 合体したままのソニックボンバー、ソニックコンボイの問いになのはとフェイトが答え、一同はそれぞれの獲物を迫り来る閃光の渦へと向ける。
 それぞれの最大威力の攻撃の一点集中によって、スターライトブレイカーの光の瀑布を撃ち貫き、直撃を避ける――単純にしてきわめて難しい防御。
 だが――やらなければならない。
 『正確な照準』という意味で言えば、自分達は射程の外にいる。だが――『威力』を基準に考えた場合、誰ひとりとして――最速を誇るエクシゲイザーやロディマスコンボイですら射程の外に出ることはかなわなかった。
 ここで抑えなければ――確実に全滅する。
 チャンスは一度――覚悟を決め、咆哮する。
「イグニッション――パニッシャー!」
〈Ignition punisher!〉
「ヴォルテック、スマッシャー!」
〈Volteck smasher!〉
『ギャラクシーキャリバー、フルバースト!』

 瞬間――こちらも全力全開の閃光を解き放つ。いくつもの光の筋がひとつに束ねられ、迫り来る破壊の渦へ向けて天を駆ける。
 それは遠目にはか細く、迫ってくる死の波に対し、あまりにも無力に見える。
 だが――退くワケにはいかなかった。
 

「これは……!」
「き、つい…………!
 さすが、なのはの最強魔法だけあるぜ……!」
 返ってくる手ごたえは、ただその場に踏みとどまることすら難しいとわかるほどに強烈なもの――踏ん張る足元のアスファルトが自らの足でえぐられていくのを感じ、ソニックコンボイとソニックボンバーがうめく。
 そして、なのはやフェイトも――
《ま、マズいよ、なの姉……!》
《威力を殺しきれない……!
 このままでは、安全レベルまで砲撃の威力を削れません!》
「わ、わかってる、けど……!」
「なんとか……耐えるしかない……!」
 プリムラとジンジャー、それぞれのパートナーの言葉に、なのはもフェイトも苦悶の表情で答えることしかできない。
 確かに今のままでは押し切られる――だが、だからといって次の行動を起こそうとした瞬間、かろうじて保たれている均衡は一瞬にして崩れてしまうだろう。
 そうなれば、破壊の渦がまともに自分達を薙ぎ払うことになる――このままではダメだとわかっていながら、彼女達はどうすることもできない。
「万事、休すか……!」
 足場がもろくなってきた。踏みとどまるのも限界だと悟り、ソニックコンボイは思わずうめき――
 

 その瞬間、救世主が飛来した。

「いくよ……カリバーン!」
〈Roger!〉
 そう告げる愛剣はすでにカートリッジをロード済み。刃の周りに旋風を巻き起こしている。
「いっくぞぉっ!」
 咆哮と共に刀身を大上段に振りかぶる。そして――
 

「ストーム、カリバー、ブレイカー!」
 

 キングコンボイの放った一撃は強烈な竜巻を解き放ち、迫り来る破壊の渦をからめ取り、吹き飛ばす!
 そして、吹き飛ばされたエネルギーの流れが周囲の光の渦の流れをも乱し――見る見るうちにルインコンボイのスターライトブレイカーの波動は消滅していった。
 

「キングコンボイくん!」
「へへ〜ん、ブイッ!」
 絶望的だと思われたところに現れた救援――思わず歓声を上げるなのはに、キングコンボイはVサインで応える。
「大したものだ。
 ルインコンボイのスターライトブレイカーを吹き飛ばしてしまうとは……」
「そう大したことでもないよ。
 むしろみんなの対応が失敗だったの」
 すぐそばに降り立ち、告げるソニックコンボイに、キングコンボイは少し得意げにそう答えた。
「向こうのパワーが上だったんだもん。真っ向からぶつかってもジリ貧だよ。
 あーゆーのは正面からぶつかるんじゃなくて、エネルギーの流れの勢いを利用して受け流さなくっちゃ」
「そっか……
 “風”の属性を使うキングコンボイくんは、そーゆーのは得意だもんね」
 キングコンボイの言葉に、合点のいったなのはは納得してうなずき――
「キングコンボイ……」
「ん………………?」
 突然かけられた声に、キングコンボイは不思議そうに振り向き――
「……バカぁっ!」
「ぅわぁっ!?」
 放たれたのは光のくさび――フェイトのフォトンランサーが、キングコンボイの顔面で炸裂する。
「ったぁ……!
 何――」
 するのさ――という言葉は続かなかった。改めてフェイトを見て――キングコンボイは動きを止めた。
「今まで……どこ、行ってたの……!?」
 うつむき、静かに告げるフェイト――
「……心配……してたんだから……!」
 その頬には――
「パートナーなんだから……いつも一緒なんじゃないの……!?」
 涙が筋となって流れていた。
「………………ゴメンナサイ」
 さすがにそんなフェイトを前にしては怒ることもできず、キングコンボイは素直に謝り――
「痴話喧嘩は終わりか?」
『違うっ!』
 ソニックコンボイに合体したまま声をかけるソニックボンバーの言葉に、二人は声をそろえて言い返す。
「3人とも、そこまでだ。
 今は、ルインコンボイを何とかする方が先だ」
 そんな彼らをなだめ、ソニックコンボイはこちらに向けて移動を開始したルインコンボイへと視線を向ける。
 今の一撃は、彼が自ら生み出した眷族達をも薙ぎ払った。事実上戦力はルインコンボイただひとり――だが、その『ただひとり』が問題だった。
《元々ケタ外れに強い上に、二人ともやっつけちゃうワケにはいかないし……》
「アレを止めるとなると、ちょっとシャレにならないよなぁ……
 クロノのヤツも戻って来ねぇし……」
 プリムラの言葉にソニックボンバーが同意すると、
「来るぞ!」
 ソニックコンボイがかまえ、告げると同時――ついにルインコンボイが飛来した。
「おいでなすったな!」
「だが、残念だったな!
 こちらも全員集合だ!」
 しかし、体勢が整ったのはこちらも同じ――フェイトとキングコンボイがモメている間にこちらに向かっていた仲間達も合流し、エクシゲイザーとロディマスコンボイがルインコンボイに言い放つ。
「袋叩きというのは趣味ではないが……そうも言ってられん。
 悪いが、全力で叩きつぶさせてもらうぞ」
 言って、両手にアックスをかまえるブレイズコンボイだったが――
『叩きつぶすのは……こちらだ』
 静かにそう告げて――ブレイズコンボイはビッグキャノンをかまえた。
『主の愛する騎士を傷つけた、この世界のすべてを……我は消し去る』
 そして――
『フォースチップ――“オール”イグニッション』
 フォースチップが、チップスロットへと飛び込んだ。
 セイバートロン星の――
 スピーディアの――
 アニマトロスの――
 地球の――
 そして――ミッドチルダの。
 現在使え得るすべてのフォースチップをイグニッションし、かまえたその銃口にすさまじいエネルギーが収束していく。
「そんな……!?
 ビッグキャノンにイグニッションできるチップは、1発に1枚だけのはず!」
「“闇の書”に取り込まれたことで、強化されたのか……!」
 ソニックコンボイの言葉にメビウスコンボイがうめく間にも、ルインコンボイのチャージは続く。
 しかも、その速度は先のスターライトブレイカーの比ではない――射程外に逃げるのは事実上不可能だ。
「き、キングコンボイ! ストームカリバーブレイカー!
 さっきみたいに吹き飛ばして!」
「む、ムリ言わないでよ!
 今からチャージしたって、とてもじゃないけど間に合わないよ!」
 あわててキングコンボイに告げるフェイトだが、返ってくる答えは絶望的なもの。
 ならば――
「全員、総攻撃!
 何としても撃たせるな!」
 ドレッドバスターが咆哮、全員が一斉に攻撃を仕掛けるが――ルインコンボイは目まぐるしく飛翔し、降り注ぐ攻撃をことごとくかわしていく。
「チャージ中でも動けるなんて!?」
「マズいぞ――チャージが終わる!」
 声を上げるアリサの言葉にバックギルドが叫び――
『闇に……消えよ』
 淡々と告げ、ルインコンボイはなのは達へと銃口を向け――
 

『ルインキャノン――ジェノサイドバースト』
 

 閃光が、結界内のすべてを飲み込んだ。

 

 

 光が消えた時――すべてが動きを止めていた。
 建築物はことごとくが薙ぎ払われ、対峙していた者達もその上に倒れ込み、誰ひとりとして動く気配はない。
 最も高い戦闘能力を有していたコンボイ達のリンクアップもことごとくが解けている――彼らの戦闘不能は一目瞭然だった。
『……また……同じことが繰り返されるのか……』
 唯一、上空にたたずむ存在――ルインコンボイは銃口を下ろし、静かにつぶやく。
『だが……かまわない。
 我は主の望みを遂行する……それだけだ』
 誰に告げるでもなく、静かにつぶやき――

「……何が……『主の望み』…だよ……!」

 そのつぶやきは眼下から――見下ろすルインコンボイの視線の先で、キングコンボイはゆっくりと身を起こした。
 その身体の下にはなのはとフェイト――とっさの判断でかばっていたのだ。
 そして、キングコンボイは弱々しいながらもなんとか立ち上がり、ルインコンボイをにらみつける。
「そんなのが……本当に、はやてちゃんの望みだって言うの!?
 シグナム達が……スターセイバー達が守ろうとした子が……
 あの人達に愛された子が……本当にそんなことを願うと思ってるの!?」
「そうだよ……!
 そんな願いをかなえて……はやてちゃんは本当に喜ぶの!?」
 告げるキングコンボイの足元で立ち上がり、なのはもまたルインコンボイに呼びかける。
 そして、ギャラクシーコンボイやフェイトも――
「はやても……ビッグコンボイも……そんなことは望んでいない!
 それは……ルインコンボイ、お前もわかっているはずだ!」
「それなのに、心を閉ざして……何も考えないで……
 ただ、主の願いをかなえるだけの道具でいて……あなたは本当にそれでいいの!?」
 だが、その言葉にもルインコンボイは静かに答える。
『我は魔導書……
 ただの、道具だ』
「そんなのウソ!」
 だが、なのははその言葉を真っ向から否定した。
「ただの道具なはずがない……! 心がないはずがないよ……!」
 なぜなら――
「心がないのなら……!」
 見てしまったから。
「どうして……泣いてるの!?」
 ルインコンボイの頬を流れる、涙の筋を。
「涙を流さないはずのトランスフォーマーが、どうして泣いてるの!?
 それはビッグコンボイの涙じゃない――あなたの涙なんじゃないの!?」
 その言葉に――初めてルインコンボイは視線を伏せた。そのままの体勢で告げるが――
『これは主の涙……
 我は……ただの、道具……哀しみ、など……ない……!』
「そんなこと……あるもんか!」
 告げるルインコンボイに言い返し、キングコンボイはよろめく身体をカリバーンで支える。
「そんなに声を震わせて……説得力ないよ!
 それははやてちゃんの涙なんかじゃない――キミの涙だよ!」
『違う……』
「違わない!」
 今度はフェイトが言い返す。
「キミだって哀しいんでしょ……!? 泣きたいんでしょ……!?
 だったら、泣いてもいいんだよ!」
『違う……!』
「はやてちゃんは、きっとそれを受け入れてくれる……
 きっと、あなたの涙に応えてくれるよ!」
『違う…………!』
 なのはの言葉にも、ルインコンボイは否定の言葉を繰り返すのみ。
「だから、もうやめるんだ……
 はやてを、ビッグコンボイを解放し、武装を解くんだ!」
『違う!』
 告げるギャラクシーコンボイの言葉に、ついにルインコンボイは声を荒らげた。
『我は魔導書……ただの道具……
 主の望むまま……すべてを、消滅させる!』
 ついにぶちまけられた感情の赴くまま――咆哮と共にマンモスハーケンを抜き放ち、飛翔し――
「そんなこと――させるもんか!」
 その斬撃を、いち早く動いたキングコンボイが真っ向からカリバーンで受け止める。
 叩きつけられる強烈な力にヒザが折れそうになる。だが――
「そんな望みなんか……叶えさせるもんか!」
 うめくように告げ、キングコンボイは懸命に両足で全身を支える。
「誰も望んでない望みなんか……叶えさせて、たまるもんか!」
『黙れ!』

 言い返すと同時、ルインコンボイはマンモスハーケンを手放し――マンモストンファーでキングコンボイを殴り飛ばす!
 

「未だあがくか……」
 すでに、先のルインキャノンで決定的なダメージを受けているはず――それでも食い下がり、ルインコンボイと斬り結ぶキングコンボイの姿を、マスターメガトロンは上空から見つめていた。
「何がそこまでさせる……
 何が、お前達を突き動かす……」
 いつもそうだ――パラメータ上では自分に及びもしないくせに、いくら追い詰めても立ち上がる。
 自分と彼ら、違いがあるとすれば――
「“守るもの”……か……」
 自分になく、彼らにあるもの――それくらいしか思いつかない。
「取るに足らない、ただちっぽけな弱者どもを守る……
 それが、自分の限界以上の力を引き出すとでも言うのか……!?」
 そんなはずはないと思う。だが――
「そんなものが、オレの力を制するとでも言うのか……!?」
 言いようのない苛立ちを感じながら、マスターメガトロンは戦いの場をにらみつけ――
「む!?」
 自身のセンサーが急速接近する何かをとらえた。
「アレは…………!?」
 

 カリバーンを覆っていた“力”が吹き飛び、強烈な衝撃が全身を襲う――立て続けに繰り出されたマンモストンファーで全身を痛打され、キングコンボイは大地に叩きつけられる。
「キングコンボイくん!」
「こん、のぉぉぉぉぉっ!」
 そんなキングコンボイを援護しようと、左右から砲撃魔法を繰り出すなのはとフェイトだが――閃光が放たれるよりも早く、ブラッディダガーとビッグミサイルが降り注ぐ。
 そして――
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」
『ルインキャノン!』

 ギャラクシーコンボイの攻撃を真っ向から粉砕。ギャラクシーキャノンの一撃をルインキャノンで吹き飛ばす。
 ルインコンボイの――“闇の書”の感情を暴き出し、説得の芽を見出したなのは達だったが――戦闘においてそれはむしろマイナスに働いてしまった。暴き出された感情のまま、惜しむことなく全力を注ぎ込むルインコンボイの前に、なのはやギャラクシーコンボイ、そしてフェイト、キングコンボイも成す術なく打ちのめされるしかない。
「こ、このままじゃ……!」
 痛みに顔をしかめ、身を起こすなのはだが――状態は芳しくない。プリムラも機能はしているがボロボロで、“無数の翔刃”とうたわれたスケイルフェザーもすでに弾切れだ。
 すでに戦闘力も乏しい彼女だが――今のルインコンボイが見逃すはずもない。ただ淡々と――彼女にとどめを刺すべく歩を進め――
「……させない、よ……!」
 そんな彼に、背後から声がかけられた。
「なのはには……手は出させない……!」
 告げて、カリバーンをかまえるキングコンボイだが、その息は粗く、足にもキている――もはや限界などとうに超えていた。
 だが――ルインコンボイはそんなキングコンボイへと向き直り、マンモスハーケンを振りかぶる。
「逃げて、キングコンボイ!」
「イヤだ!」
 思わず声を上げるフェイトに、キングコンボイはハッキリと拒否の意志を示した。
「ボクは守りたいんだ。
 なのはを……フェイトを……はやてちゃんや、ビッグコンボイや……“闇の――“夜天の魔導書”も!
 だから……ここで退くワケにはいかないよ!」
 告げるキングコンボイだが、そんな彼に、ルインコンボイはためらうことなくマンモスハーケンを投げつける。
 直撃すれば間違いなくその命を奪うであろう一撃が、一直線にキングコンボイへと飛翔し――

(ダメ……!)
 時間にすれば一瞬にも満たなかっただろう――だが、フェイトにはそれが永遠のように永く感じられた。
(誰か――キングコンボイを助けて!)
 それは、心の底からの願い――

(キングコンボイを守って!
 誰でもいいから――)

 

 

 

 

 

 

(お願い!)

 

 

 

 その願いは聞き届けられた。

 

 響くのは、金属同士のぶつかり合う甲高い音――
 宙を舞うのは真紅のくさび――
 一瞬の沈黙の後――勢いを失ったマンモスハーケンは大地に突き刺さった。
「え………………?」
 そして――呆然とするキングコンボイの前で、彼は静かに獲物をかまえ、
「……なかなかに重い一撃だな」
 何事もなかったかのように告げるが――そんな彼の登場に、その場の誰もが驚きを隠せない。
 呆然と――キングコンボイがその名をつぶやく。

 

 

 

 

 

「…………メガザラックとうさん……!?」


 

(初版:2007/03/11)