(眠い…………)
意識がハッキリとしない――今自分は目覚めているのか、それとも眠っているのか――
まるで夢の中にいるかのような心地よさの中、はやてはゆっくりと目を開けた。
目の前には動きを止めたビッグコンボイの巨体――吐息が聞こえる。眠っているのだろうか。
自分達がいるのは漆黒の闇の中――と、ふと気配を感じ、振り向いたそこには、ひとりの女性の姿があった。
自分にとっては見覚えののない顔、記憶にない顔――のはずだが、なぜか初対面という気がしない。
白い――いや、透き通るような銀色の髪と宝石のような真紅の瞳。思わず感嘆の声を上げたくなるような美女だ。
「そのままお休みを、我が主。
あなたの望みは……すべて私が叶えます」
「目を閉じて、心静かに夢を見てください……」
まるで閉鎖された空間内で反響しているかのように、声の出所がハッキリしない――だが、それでも目の前の女性の言葉であることはわかった。
なんとなく――わかった。
彼女が何者なのか――
(――“闇の書”……なんか…………?)
「……リンディさん……
今、なのはやフェイトちゃん達が、がんばってますよ……」
アースラの医療スペース――ICUから通常の医務室へと移されたものの、リンディは未だ目を覚ましてはいなかった。
そんな彼女に呼びかけ、桃子は胸の前で重ね合わせた手に力を込める。
「大丈夫ですよ。
なのはちゃん達は負けませんし、はやてちゃんも助かりますし……」
「えぇ……きっと、リンディさんも目を覚ましてくれますね」
傍らで励ましてくれる愛の言葉に、桃子は笑顔でうなずき――突然、背後のドアが音を立てて開いた。
そこにいたのは――
『…………ゆうひさん(ちゃん)…………?』
第64話
「わずかに見えた希望なの」
「とりあえずは……暴走開始には、間に合ったようだな」
未だ最悪の事態には至っていない――ある意味で安堵の息をつき、メガザラックは手にしたブリューナクをかまえた。
「そんな、どうして……?」
「カン違いするな。
別に、親子の情に流されて助けに来たワケじゃない」
後ろで呆然とつぶやくキングコンボイに答え、ルインコンボイへと視線を戻す。
そして――告げた。
「ひとりの勇者の……想いに応えただけだ」
「…………ん……んん……っ!」
うめき声を上げ、メインシステムの立ち上がったブリッツクラッカーはゆっくりと身を起こし――
「――っつ――――――っ!」
全身を襲う痛みに顔をしかめる。
「そーいや、オレ、メガザラックにコテンパンにされて……」
同時に思い出す――意識を失う直前のことを。
しかし――
「どうして……生きてんだ……?」
それがわからない。不思議そうに周囲を見回し――
「気がついたか」
その声に振り向くと、そこにはレオザックの姿があった。
「ここは……?」
「メガデストロイヤーのメディカルルームだ。
あの戦いの後、貴様はメガザラック様の指示でここに運び込まれたんだ――」
「ぐぅ――――――っ!」
叩きつけられたのは衝撃――そして強烈な想い――ブリッツクラッカーの渾身の一撃を受け、ブラックザラックは大きく弾き飛ばされた。
なんとか受身を取り、その勢いで立ち上がり――
「……やはり、限界だったか」
その視線の先には――力尽き、その場に倒れるブリッツクラッカーの姿があった。
「自らの命が尽きようという時に、なおも立ち、一撃を放つか……」
まだ息があるようだが――それも時間の問題だろう。地に伏せるブリッツクラッカーの姿を見つめ、ブラックザラックはつぶやき――
「ブラックザラック様!」
声を上げ、レオザックがその傍らに降下してきた。
「ご無事ですか?」
「大事はない。
それより……」
答えて、ブラックザラックはブリッツクラッカーへと視線を戻す。
しばしの沈黙の後――レオザックへと命じる。
「この男をメガデストロイヤーへ」
「ブラックザラック様?」
「死なせるには惜しい男だ」
レオザックにそう答えると、ブラックザラックは頭上へ――そこから見上げることのできる地球へと視線を向けた。
そして――つぶやく。
「ひとつの命……その価値は決して重くはない。
そして――」「その命を賭けるほどの願いも、な……」
「え? え??
勇者……って、誰のこと……?」
メガザラックの言葉に、キングコンボイはワケがわからず目を白黒させる。
だが――その後に現れた人物には、さらに度肝を抜かれることになる。
最初は彼のパートナー、リニスかと思ったが、現れた彼女はもっと背丈も小さく、金髪をツインテールにまとめている。
そして――その手に握られているのは二股に分かれた矛先を持つ、真紅の槍型パワードデバイス。
バリアジャケットはどちらかと言えばなのはのそれに近い意匠を持つスカートタイプ。ただしフェイトに合わせたのかそのカラーリングは黒を基調にまとめられている。
「フッフッフッ……
天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!
妹を救えと轟き叫ぶ!」
そのセリフに隠れるのは明らかな喜び――しかし、よほど見栄切りを成功させたいのか、可能な限り平静を装い、彼女はメガザラックの肩の上で口上を述べる。
そして、手にした真紅の槍を振り回し、高らかに名乗りを上げた。
「薄倖の美少女魔導師アリシア・テスタロッサ!
妹救いに只今到着!」
「あ、アリシアちゃん!?」
「アリシア!?」
『意外』という表現では足りなさ過ぎる――あまりにも意外すぎる人物の登場に、キングコンボイだけでなく、フェイトもまた目を丸くして声を上げる。
「ど、どうして……!?
魔力を込めたメガデストロイヤーの中でしか生きられないんじゃ……」
「チッチッチッ、甘いよ、フェイト♪」
口をパクパクさせつつも何とか疑問を口にするフェイトに答え、すでにしっかりお姉さんぶっているアリシアは彼女の元へと降り立ち、
「今この空間には、これでもか! ってぐらい魔力が満ちてるんだよ。
魔力を取り込んで生きてるわたしにとって、これ以上はない! って感じかな?」
大げさに身振り手振りを交えて告げるアリシアに、今度はなのはが尋ねる。
「け、けど、どうして魔法を……?
確かアリシアちゃんって、生前は魔力資質持ってなかったよね?」
「あー……今言ったよね? 『魔力で生きてる』って。
それって、魔力を生きるために使ってる、ってコトだよ? リンカーコアが育ってなきゃできないでしょ? そーゆーの」
「え? え?」
アリシアの言葉に、なのはは何とか理解しようと思考をフル回転させていると、そのとなりからキングコンボイが助け舟を出すかのように尋ねた。
「えっと……それってつまり、魔力を取り込んで蘇生した際に、取り込んだ膨大な魔力がリンカーコアを発達させちゃった、ってこと?」
「だと思うよ。
……メガザラックの説明のとおりなら」
「そこでオレに同意を求めるな」
アリシアの言葉に一同から注目を受け――場もわきまえず和やかな空気に包まれていた一同から退避していたメガザラックは視線を向けることなく言い放つ。
「それに……今はヤツを何とかする方が先だ」
言って、メガザラックは新たな乱入者に対して警戒を強めていたルインコンボイへとブリューナクの切っ先を向ける。
『…………我が原初の製作者、メガザラックか』
「ほぅ、覚えていたか……
しかし、またずいぶんと感情的に暴れたな。なのは達の口撃がそんなに効いたか?」
つぶやくように告げるルインコンボイに答え、メガザラックは視線だけをアリシアに向け、尋ねる。
「いけるな?」
「大丈夫だよ。
だよね? ロンギヌス」
〈やぼーる〉
答え、さらに尋ねるアリシアの問いに、彼女の手にした真紅の槍――アームドデバイス“ロンギヌス”が舌足らずなドイツ語で答える。
「それじゃ……いくよ、メガザラック!
わたし達は最初から最後まで、最高潮なんだから!」
「了解だ!」
音頭を執るアリシアにメガザラックが答え――二人は跳躍、ルインコンボイへと襲いかかった。
「今、メガザラック様はリニスのバックアップの元、アリシアと共に完成した“闇の書”と戦っている」
「アリシア……?
確か、フェイトのオリジナルだよな……絶対安静なんじゃないのかよ?」
「今回はたまたま外で活動できる条件が整ってしまってな……『自分も役に立ちたい』と押し切ったんだ」
その時のことを思い出したのだろう――多分にため息まじりにレオザックはブリッツクラッカーにそう答える。
「無論、彼女の身体には制約がまとわりついている――リニスが前線ではなくバックアップに回ったのはそのためでもある」
「そっか……
しっかし、大丈夫なのかよ、アリシアは?
相手は“闇の書”だろ?」
「心配はいらない」
尋ねるブリッツクラッカーに、レオザックは答えた。
「条件が整った状況下で彼女に勝てるのは――リニスとメガザラック様ぐらいのものだ」
「ブリューナク!」
〈Explosion!〉
咆哮と同時にカートリッジをロード。メガザラックのかまえるブリューナクが雷光に包まれ、
「雷光、砕斬!」
放たれた雷光の刃がルインコンボイに迫り――だが、ルインコンボイも負けてはいない。投げつけたマンモスハーケンを連続的に命中させ、崩れかけた光刃にマンモストンファーを叩き込み、粉砕する。
「オレの“雷光砕斬”を……!?
アリシア!」
自分の最大攻撃が通じない――だが、すぐに決断を下し、メガザラックは共に戦うアリシアに声をかけた。
「ヤツにエネルギー斬撃は通じん! 物理斬撃でなければ!
となればお前の出番だ――やれるな!?」
「とーぜん!
未来のパートナーさんを信じなさいっ!」
メガザラックに答え、アリシアはルインコンボイへとロンギヌスをかまえ、
「ロンギヌス、カートリッジ、ロード!」
〈えくすぷろーじょん!
らけーてん、ふぉるむ!〉
アリシアの言葉にロンギヌスがカートリッジをロード。とたん、二股に分かれていた矛先がひとつに束ねられ、石突部分には推進器が、そして全体に頑強な装甲が追加される。
同じラケーテンフォルムでもヴィータのグラーフアイゼンとは趣が大きく異なる――全体で突撃する、まさに“ラケーテン”と呼ぶに相応しい意匠である。
石突に生まれた推進部から閃光があふれ――
〈らけーてん、ばれっと!〉
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
咆哮と共に、その身が弾かれるように加速した。その名が示すようにまるでロケットのように、まるで弾丸のようにルインコンボイに迫る。
だが――それだけの攻撃だ。当然、ルインコンボイは回避しようと身をよじり――
『………………っ!?』
その動きが封じられた。
「ミッド式は苦手だが……拘束系はミッドの方が充実しているからな……!」
そう告げるメガザラックの手、そこに展開された魔法陣から伸びるのは光の鎖――チェーンバインドだ。
『………………砕け』
だが、ルインコンボイも負けてはいない。すぐさまバインドブレイクでチェーンバインドを破壊するが――回避までは間に合わなかった。突撃してきたアリシアの一撃を、かろうじて展開したパンツァーシルトで防御する。
が――
((止めきれ――ない――っ!))
生身の人間の少女とはいえ、とてつもない加速と共に全身で突っ込んできているのだ――いかにルインコンボイといえど簡単に止められるものではなかった。パンツァーシルトは持ちこたえているが、チェーンバインドとそれに対するバインドブレイクのために姿勢をやや崩していたのが仇となった。踏ん張ることができず――そのまま一気に押し戻される。
噴射された推進ガスによる閃光は結界内を一直線に駆け抜け――
轟音と巨大な水しぶきと共に、ルインコンボイの巨体を海面へと叩き込んでいた。
「アリシア!」
「ぺっぺっ……水飲んじゃった……
ふえぇ〜ん、服ビショビショになっちゃったよぉ……」
後を追い、飛来したメガザラックの声を聞きながら、海中から姿を現したアリシアは海水を吐き出しながら愚痴をこぼす――どうやら海面への激突の衝撃で、彼女の結界が破れてしまったらしい。
「ヤツは?」
「ぜぇ〜んぜん無傷。ちょっと自信なくしちゃうかな。
けど、思いっきり頭のセンサーを揺すってたから……」
尋ねるメガザラックにアリシアが答えた、その時――にわかに海面が渦巻き始めた。
「……お戻りのようだな」
「えぇっ!?
いくら外傷なしって言っても、簡単に復活できるような衝撃は与えてないよ!?」
メガザラックの言葉に思わず声を上げるアリシアだが――渦の中心から浮上、海面に姿を現したのは確かにルインコンボイだった。
「むむーっ! クリーンヒットさせたのに!」
「再生、したんだろうな……
お前のラケーテンバレットは、確かに衝撃でヤツの内部機構にダメージを与えたはずだ。だが――“闇の書”の強力な自己修復能力がそのダメージをすぐに回復させてしまったんだ。
だが――」
口を尖らせるアリシアに答え、メガザラックはブリューナクをかまえる。
「今の状況では、むしろ好都合だ」
「どういうこと?」
「つまり――」
尋ねるアリシアに、メガザラックは口元に笑みを浮かべて答えた。
「ビッグコンボイやはやての命は、“闇の書”が保障してくれる、と言うことだろう?」
「あ、なるほど」
思わずポンと手を叩くアリシアの前で、メガザラックは彼女へと視線を向けることもなく続ける。
「ならば――こちらも遠慮はいらないな。
全力で行く――ただし、手はずどおりに頼むぞ」
「うん!
“闇の書”さん、わたし達に釣られてもらうよ!」
答えると同時――アリシアは弾かれるように加速。メガザラックもその後に続く。
すかさず放たれるルインコンボイのマンモストンファーだが――そう対応してくることはお見通し、来ることが前提のカウンターなど怖くもなんともない。急制動をかけたアリシアに代わりメガザラックが飛び込み、ブリューナクで受け止める。
続けて繰り出される打撃もなんとか受け流しつつ、思念通話で呼びかける。
《リニス、空間への影響はどうなっている!?》
《まだ、暴走の前兆は見られないわね……》
結界上層部、ギリギリの上空――展開したフローターフィールドの上で、リニスはメガザラックの問いにそう答えた。
メガザラックの本来のパートナーであるはずの彼女がここにいる理由、それは――
《ただ、ルインコンボイ自身のパワーが、通常空間にかなりの歪みを引き起こしてるみたい。
もし今の状態で暴走が始まれば――今までの事例とは比較にならない規模での空間崩壊を引き起こすのは確実よ》
彼らが思う存分戦うための、周囲の現状確認――ただルインコンボイを倒せばいいワケではなく、“闇の書”の暴走にも気を配らなければならない現状においては、バックアップに優れた彼女がオペレータとして機能する必要がある。実戦一辺倒のレオザック達にこの役は任せられないし、アリシアに至っては無論問題外だ。
《たぶん……もう余り時間はないわ。急いで!》
「急げ、ね……!
簡単に言ってくれる!」
告げるリニスの言葉に苦笑し、メガザラックは打ちかかってくるルインコンボイをかわし、
「今度こそ、いっちゃえぇぇぇぇぇっ!」
再びラケーテンバレットで突っ込むアリシアだが、ルインコンボイもそれをかわして後退する。
「もう、かわさないでよ!」
「いや――気にするな!
リニスの教育を疑うつもりはないが、お前には実戦経験が致命的に足りん――今はとにかく、ラケーテンバレットを当てることだけを考えろ! フォローならオレがしてやる!」
ムキになるアリシアに答え、メガザラックは胸部の収納スペースからデバイスカードを取り出す。
「ブラックスティンガー!」
呼びかけに答え、彼の相棒たるパワードデバイスが姿を現す――が、あえて合体はしない。連携戦を想定し、その背の上に舞い降りる。
(外部からの干渉では……管理者以外には“闇の書”は止められない)
それは厳然たる事実――だが、見方を変えればそれは違った意味を持つ。
(つまりそれは……“管理者ならば止められる”ということ……)
となれば――自分達が賭けられる可能性はひとつしかない。
(とにかくガンガン攻撃を当てまくって、ビッグコンボイを――八神はやてを叩き起こすしかあるまい!)
決意と共に、ブリューナクを振りかぶり――そんな彼に向け、ルインコンボイは素早くルインキャノンを向ける。
その銃口に光が生まれ――
『――――――っ!?』
しかし、放たれた閃光は別方向から――とっさに後退し、ルインコンボイは自分を狙った光の奔流を回避する。
そして――
「メガザラックさん、アリシアちゃん!
援護します――専門家として、対処はお願いします!」
バスターモードのレイジングハートをかまえ、なのははメガザラック達にそう呼びかけた。
「まったく、大帝ともあろう男が、物好きな……」
降下の際、自分のことには気づいていたはず――だがそれでもこちらを無視してルインコンボイの元へと向かったメガザラックの姿に、マスターメガトロンはため息まじりにつぶやいた。
現在戦いの場は海上へと移り、さらになのはまでもが参戦。ルインコンボイを中心に目まぐるしい機動戦を展開している。
その様子を見ているうち――先程から胸の奥でくすぶる苛立ちが、ますます大きくなるのを感じる。
「何をバカなことを……
戦いを制するのは力だ。心などで、どう戦えという……!」
自らの迷いを振り払うかのように毒づくが、苛立ちはむしろその勢いを増していく。
「どれだけ愚かでも……自分以外の何かのために限界以上の力をしぼり出す……!」
知らぬ内に拳を握り締めていた自分に気づく。
「それが……“守る者”の強さだとでも言うのか……!」
「ルインコンボイは、どうなっている……!?」
〈現在、海上でなのはちゃん、メガザラック、アリシアちゃんと交戦中です!〉
痛みに顔をしかめつつ、尋ねるギャラクシーコンボイに、アースラのアレックスは手元のモニターに視線を落としたままそう答える。
「くっ、なのは……!」
先行しているなのはの身を案じ、キングコンボイはフェイスガードの下で唇をかむ――防御力の高さが幸いしたか、いち早く回復したなのははメガザラックやアリシアを援護すべく、ひとり戦いの場へと向かってしまったのだ。
「ボク達も、行かないと……!」
「待て。
まだムリだ、その傷では!」
なんとか立ち上がり、告げるキングコンボイにギャラクシーコンボイがあわてて待ったをかけるが、
「それでも、行かないと……!」
同様に身を起こし、フェイトもまたギャラクシーコンボイに告げる。
「アリシアは……まだ身体が治ってないのに……それでも戦ってくれてる……!
メガザラックだって――キングコンボイのお父さんだって!」
「そ、それはわかってるが……!」
自分だって今すぐなのはを助けに行きたい。何といっても、彼女は自分のパートナーなのだ。
助けに行きたいが――
「……けど、我々だけで行ったって、今のままじゃまたやられてしまうだけだ!
他のみんなも回復させて、全員で助けに行かなければ!」
フェイトの言葉に、ギャラクシーコンボイはそう反論し――
「人手が必要かな?」
「え――――――?」
いきなりの声に、キングコンボイは思わず目を見開いた。
「現場に行くなら、乗ってくか?」
「この声って……」
新たな声につぶやき、フェイトは声のした方向へと――頭上へと視線を向け――ギャラクシーコンボイが声を上げた。
「復活したのか――守護騎士達よ!」
そこには、マキシマスの上に勢ぞろいした、ヴィータやビクトリーレオ、シグナムとスターセイバー、アトラスとザフィーラそしてフォートレスとシャマル――ヴォルケンリッターの面々の姿があった。
〈Schwarze Wirkung〉
“闇の書”の言葉と同時、ルインコンボイの拳に漆黒の“力”が宿り、渦を巻く。
素早く間合いを詰め、とっさに相手が展開した桃色の魔法陣に叩きつける。
だが、拮抗は一瞬――バリバリとイヤな音と共に魔法陣に亀裂が走り――なのはのラウンドシールドが粉みじんに粉砕される!
「ちょ――――――っ!?」
ちょって待って――そうアリシアがツッコみそうになるのも無理はない。知識はあれど実戦は素人同然であるアリシアの目から見ても強固だと断言できるなのはの防御――それが真っ向から打ち砕かれたのだから。
考えられるのは――
「なのは、下がって!
それ――結界破壊系だよ!」
リニスから叩き込まれた知識でそう判断。告げると同時にロンギヌスを振るい、
〈ふぉとん、らんさー!〉
リニス直伝のフォトンランサーが火を噴いた。多数の光の楔が降り注ぎ、なのはへの追撃を狙っていたルインコンボイをけん制する。
《大丈夫か? 高町なのは》
「は、はい……!
まだ、ちょっと手がしびれてますけど……!」
ルインコンボイをはさんだ反対側から念話で呼びかけるメガザラックになのはがうなずくと――ルインコンボイが動いた。素早くアリシアに肉迫し、マンモスハーケンを振りかぶる。
すかさず助けに向かうメガザラックだが――アリシアを狙ったのはフェイントだった。すぐさま反転し、メガザラックに向けてマンモスハーケンを振るうが、メガザラックもブリューナクでその一撃を受け流す。
渾身の一撃を流され、ルインコンボイが姿勢を崩し――
その瞬間、ルインコンボイが反対側の手に握っていたルインキャノンが火を噴いた。
暴発――ではない。
“その射線上になのはがいたのだから”。
(狙いは最初から高町か――!)
「逃げろ、高町!」
声を上げるメガザラックだが――間に合わない。迫り来る閃光を前に、思わず目を瞑り――
止められた。
飛び込んできた巨大な体躯が、左腕に装備したクローを盾代わりにしてルインキャノンの閃光を受け止めたのだ。
そして――右手にかまえたマシンガンが火を噴いた。放たれる無数の光弾をかわし、ルインコンボイは間合いを取る。
「そんな…………!?
どうして……あなたが……!?」
だが――その乱入は完全に予想の外。ある意味先程のメガザラックの参戦以上の衝撃をなのはにもたらしていた。
なぜなら、乱入してきたのは――
「ザコどもが……!
見ていて苛つく戦いをいつまでも続けおって……!」
本当に苛立たしげにそうつぶやく――
マスターメガトロンその人だったから。
「くだらん茶番を延々と……見ていて本当に腹が立ったぞ。
やる気があるのか? 貴様らは」
だが、そんななのは達の困惑など完全に考慮の外――デスマシンガンの銃口をルインコンボイに向けたまま、マスターメガトロンはまるで苦情でも申し立てるかのようになのはに告げる。
「や、やる気ならありますよ!
はやてちゃんも、ビッグコンボイさんも……“闇の書”さんも助けなきゃ!」
「それでそのザマか? 世話ないな」
ムッとして反論するなのはに答え、マスターメガトロンはフンと鼻で笑って見せる。
「どうせ貴様らにとっては格上の相手なんだ。全力でぶつかったって殺せるものか。
それなのに、余計な気を回して、非殺傷設定など施して手加減するからそういう目にあうんだ。
どうせあの再生能力の前には致命傷すら致命傷になりはしない――最初から殺すくらいのつもりでぶつかるべきだったんだ」
告げると同時――ルインコンボイをにらみつけるその視線に殺気が宿る。
「ま、まさかマスターメガトロンさん!?
ダメですよ! ルインコンボイさんは――」
「えぇい、まだゴチャゴチャぬかすつもりか!
“三騎士”、この小娘を抑えていろ!」
反論しかけたなのはだが――マスターメガトロンもそれを許すつもりはなかった。ダークライガージャック達をけしかけ、なのはを押さえ込ませてしまう。
「貴様らに任せていたら夜が明けてしまうわ。
ここからはオレが引き受ける――この下らん茶番、早々に幕を引かせてもらうぞ!
よく見ておけ――命を獲り合う、本当の戦いの手本というヤツをな!」
咆哮と同時、マスターメガトロンが飛翔し――マンモスハーケンとデスクローが激突した。
絶え間なく襲い来る眠気が、自分の眠気を断ち切ろうとする――
だが、それでも、眠ってはいけない気がした。
自分にはやらなければならないことがある――そんな確信にも似た予感が、はやての意識をつなぎ止めていた。
その源は、脳裏に浮かんだひとつの疑問――
(わたしは……何を望んでたんやっけ……)
そんな彼女に、女性は――“闇の書の意志”は諭すように語りかける。
「夢を見る事……
悲しい現実は、全て夢となる――さぁ、安らかな眠りを……」
(そう……なんか……?
わたしの……本当の望みは……)
『貴様も……もう眠れ』
「お断りだ」
真っ向からルインコンボイと対峙し、マスターメガトロンはハッキリと答えた。
「今のオレ様の望みはただひとつ。
貴様を黙らせて――この茶番を終わらせることだけだ!」
告げると同時に飛翔――再びデスクローが、マンモストンファーが交錯し、火花を散らす。
間合いが開いた瞬間、マスターメガトロンの雷撃とルインコンボイのルインキャノンの閃光が激突、拮抗し周囲にすさまじいエネルギーをまき散らす。
「め、メガザラック!」
「なんてパワーだ……!
あれではうかつに手が出せん――ヘタに撃てば、あの余波に引火して大爆発だぞ!」
戦いの余波を避け、後退して声を上げるアリシアの言葉に、同じく後退してきたメガザラックが彼女をかばいながらうめく。
「マスターメガトロンめ……こっちの段取りをムチャクチャにしてくれやがって……!」
こちらの思惑など完全に無視して暴れ回るマスターメガトロン――さすがのメガザラックも思わず呪詛の言葉を吐き――
次の瞬間、戦場を巨大な閃光が駆け抜けた。激突する両雄の放つ閃光を呑み込み、誘爆すら許さず押し流す!
そして――
「これは、わたし達の戦いなんです!
横から出てきて、勝手なことしないでください!」
マスターメガトロンをにらみつけ――攻撃の余波で“暗黒三騎士”を吹き飛ばしたなのはは高らかにそう言い放つ。
そして、今度はルインコンボイへと向き直り、
「マスターメガトロンさんの言ってるみたいに、甘いのかもしれない……
けど、わたしははやてちゃんを、ビッグコンボイさんを……そして“闇の書”を助けたい!」
言って――足元にフローターフィールドを展開。レイジングハートをかまえ、しっかりと踏ん張る。
「繰り返される哀しみも……悪い夢も……きっと終わらせられる……!
わたしの全力全開は――そのために注ぎ込む!」
宣言と同時――砲撃が放たれた。
(私が…… 欲しかった幸せ……)
ウトウトと眠気と戦うはやてに、“闇の書の意志”は優しく告げる。
「健康な身体――
愛する者達との、ずっと続いて行く暮らし――
眠ってください。そうすればあなたは、夢の中でずっと……そんな世界にいられます」
それは――彼女にとって抗いがたい誘惑――
不自由な両足から解放されること――
孤独から救ってくれた、大切な“新しい家族”とずっと一緒にいられること――
どちらも、彼女が心の底から望んでいたこと――
ずっと、叶ってほしいと願い続けてきたこと――
「……せやけど……」
だけど――
「そんなん……」
それは――
「ただの夢や!」
「くぁ………………っ!」
「どいてろ、小娘!」
弾き飛ばされるなのはに代わり、突撃するマスターメガトロン――デスクローを繰り出すが、ルインコンボイはマンモストンファーで受け流し、逆に蹴りの一撃でマスターメガトロンをブッ飛ばす。
「荒れ狂え! ブリューナク!」
「ロンギヌス! 焼いちゃえ!」
メガザラックとアリシアも左右から急襲――雷光と炎が襲いかかるが、ルインコンボイは両手でパンツァーシルトを展開。二人の攻撃を阻んでしまう。
「く………………っ!」
うめき、再びレイジングハートをかまえるなのはだが――放たれ、迫り来る閃光を前にしても、ルインコンボイの余裕の態度が崩れることはない。
『ひとつ覚えの砲撃……通ると思ってか』
告げると同時、前方にパンツァーシルトを多重展開。迫り来るバスターレイの閃光を受け止め――
「甘いわぁっ!」
そんなルインコンボイに向け、マスターメガトロンが雷撃を放つ!
ほぼなのはの真後ろから放たれた、彼女を巻き込むことに何のためらいもない一撃――だが、それは意外な副産物を彼らにもたらした。
バスターレイの閃光にマスターメガトロンの雷光が巻き込まれ、光の奔流がその勢いを増したのだ。
「あれは……
……アリシア!」
「うん!」
それが意味するところは明白だ――告げるメガザラックにアリシアが即答。二人もまたなのはの下へと駆けつけ、
『フォースチップ、イグニッション!
フォトン、スマッシャー!』
パートナーイグニッションでフォトンスマッシャー。なのはのバスターレイにそのエネルギーを加え、さらに強力になった光の渦がルインコンボイのパンツァーシルトに叩きつけられる!
『こっ、これは…………!』
「『ひとつ覚えの砲撃』――そう言ったよね……」
うめくルインコンボイに、なのはは静かに告げる。
「けれど……それはそっちも同じ!
ひとつ覚えの防壁――いつまでも、防がれてなんかいないんだから!」
その言葉と同時――閃光は防壁を呑み込み、ルインコンボイを吹き飛ばす!
「わたし……こんなん望んでない!
きっと、ビッグコンボイもそうや! わたしを、止めようとしてくれたもん!
あなたも同じはずや! 違うか!?」
今なら、ここがどこなのかわかる――自分を取り込んだ“闇の書”の中で、はやては“闇の書の意志”に呼びかける。
だが――そんな彼女に、“闇の書の意志”は答えた。
「……私の心は、騎士達の感情と深くリンクしています。
だから騎士達と同じように、私もあなたを愛おしく思います。
だからこそ……あなたを殺してしまう自分自身が許せない」
その胸に去来する思いは、きっと自分自身への怒りと悲しみ――
「自分ではどうにもならない“力”の暴走……
あなたを侵食する事も、暴走してあなたを喰らい尽くしてしまう事も、止められない……!」
視線を伏せ、告げる“闇の書の意志”の声は今にも泣き出しそうで――はやてはそんな彼女を見つめ返した。
伝えられるかわからない。うまく言葉にできるかわからない。でも――それでも“闇の書の意志”に告げる。
「……覚醒の時に、今までの事、少しはわかったんよ……
望むように生きられへん悲しさ……わたしにも少しはわかる!
シグナム達と同じや! ずっと哀しい想い、さびしい想いして来た……
そやけど!」
座っていた車椅子――その手すりに手をつき、身体を支えて身を起こす。“闇の書の意志”の頬に手をあて、
「忘れたらあかん――あなたのマスターは、今はわたしや。
マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかん!」
告げて――はやては自らを中心に真っ白な魔法陣を展開した。
今この子にできること――してあげられること――
ひとつしか思いつけなかったそれが、本当に正しいのかはわからないけれど――それでも、してあげたかった。
「……名前をあげる。
もう“闇の書”とか、呪いの魔導書なんて呼ばせへん……ううん、わたしが呼ばせへん!
わたしは管理者や。わたしにはそれが出来る!」
それは――彼女の、“闇の書の意志”の心にもっとも深く届く願い――
本来ならば主に英知を与えるはずの存在が、運命のちょっとした行き違いで主を喰いつぶす呪いの権化と化し、幾人もの主の命を奪ってきた――
その象徴たる“闇の書”の名からの解放――叶えば、これほどうれしいことはない。
だが――
「……ムリです。自動防御プログラムが、止まりません……!
管理局の魔導師が……彼女と想いを同じくする者達が戦っていますが、それもいずれは……」
けれど――それでも――
「…………なんとか、なるんじゃないか?」
そう答えたのは――
「ビッグコンボイ……気がついたん?」
「相棒が目覚めているのに、いつまでも寝ていられるか」
告げるはやてに答え、意志を取り戻したビッグコンボイは静かに彼女達の前に降り立った。
「“闇の書の意志”よ。確かに自動防御プログラムは止められそうにない。
だが……オレ達は孤立無援じゃない。オレ達を想ってくれる、仲間がいる」
そう――自分はもはや、かつての“一人軍隊”ではない。
はやてが、守護騎士の仲間達が、なのは達が、サイバトロンの面々が――そして“闇の書”がいる。
自分達だけではムリでも――
「アイツらと力を合わせることができれば……きっと、不可能なことなどない」
「せやね」
ビッグコンボイの言葉に答え、はやては目を閉じると意識を集中し、
「止まって……」
静かに、自らの権限の行使を試みた。
「さすがに、今のは効いたみたいだね……」
「うんうん! みんなで力を合わせれば怖いものなし!
みんなの心を合わせたら、信じた未来にがんばろう!」
全身を閃光によって焼かれ、各所から煙を上げているルインコンボイの姿に、つぶやくなのはにアリシアが元気に答える。
そんな彼女達を尻目に、マスターメガトロンは自らの右手に視線を落とし――
「………………どうした? マスターメガトロン」
「なんでもない」
尋ねるメガザラックに、マスターメガトロンはプイとそっぽを向いて答える。
と――――
「………………あれ?」
ふとその事実に気づき――なのはが眉をひそめた。
「どうしたの?」
「ルインコンボイさんの様子が……」
アリシアに答えるなのはの視線の先では、突如ルインコンボイの動きが止まり、まるでカラクリ人形のようなカクカクした動きを見せ始める。
「どうしたんだろ……
なんだか油が切れたみたいな動きしてるけど……」
眉をひそめてアリシアがつぶやいた、その時――
《なのはちゃん! みんな、聞こえる!?》
『――――――っ!?』
突然響いた思念通話は意外な相手から――思わず顔を見合わせ、なのはが声を上げる。
「はやてちゃん!?」
《よかった、通じた!》
なのはの返事に希望を見出したのか、必死に呼びかけていたはやての声がにわかに明るくなる。
と――なのは達に代わり、メガザラックがはやてに呼びかけた。
「オレはその“闇の書”の大元――“夜天の魔導書”の製作者、メガザラックだ。
貴様が“闇の書”の管理者、八神はやてだな?」
《あ、はい……》
「状況を教えてくれ。
今ビッグコンボイの身体を操っているのは、“闇の書”の意志なのか?」
《いえ……“闇の書”の自動防御プログラムです。
魔導書本体はコントロールを切り離したんで、もうわたしもビッグコンボイも表には出てません――二人とも、“闇の書”の内部空間の中です》
「なるほど……
さっき動きが鈍ったのは、八神はやてがコントロールを切り離し、ビッグコンボイの存在が表から消え去ったのが原因、か……」
つぶやき、メガザラックは思考をめぐらせる。
やがて、策が構築され――メガザラックは一同を見渡し、告げる。
「これからすることは簡単だ。
今の“闇の書”は自動防御プログラムにパフォーマンスの大半を独占されて管理者権限が使えない状況にある。まずはそれを奪還するんだ」
「奪還、って……どうやって?」
「言い方が難しかったか……ならわかりやすく言ってやる」
尋ねるなのはに答えると、メガザラックは彼女をまっすぐ指さし、
「今目の前にいるルインコンボイは、ただの魔力の塊にすぎない――それを吹き飛ばし、消滅させる。
同時に、ルインコンボイの身体が吹き飛ぶことで現実空間と“闇の書”の内部空間とをつなぐ歪みが生まれる――そこから、はやてとビッグコンボイも帰還できるはずだ。
そして――今この場にいる、魔法が使える3名の中で、もっとも火力の高い魔法が使えるのは貴様だ。
貴様の最大火力を総動員して、ヤツを問答無用で吹き飛ばせ。
遠慮はするな、容赦もするな。
ただひたすらに、徹底的にやれ――全力全開、手加減抜きで!」
「…………はい!」
要するに、自分の一番得意な方法で思い切りブッ飛ばせ、ということだ――メガザラックの言葉に笑顔でうなずき、なのははレイジングハートをかまえる。
「オレ達は援護だ。
ヤツに波状攻撃をかける――いけるな?」
「合点承知!」
メガザラックの言葉に、アリシアが敬礼して答えると、
「要するに、ヤツが動けなくなるまで叩きつぶせばいいんだろうが!」
「あぁっ、待て!」
あわてて制止の声を上げるメガザラックだが――マスターメガトロンはかまわず飛翔、ルインコンボイへと向かう。
「まったく……動けなくなるまで、じゃなくて動きを止めてくれれば十分なんだ……!
オレ達もいくぞ! ヤツひとりに任せたら、ルインコンボイをどこに弾き飛ばすかわかったものじゃない!」
「うん!」
アリシアの言葉が合図になった。二人もまたルインコンボイの下へと向かい――
「…………さて。
それじゃあ、いこうか、レイジングハート、プリムラ」
〈All right.〉
《うん!》
相棒の答えにうなずき、なのはは足元に魔法陣を展開した。
放つのは、自らの最強魔法――
先程ルインコンボイに模倣されたばかりのものだが――
(わたしには、これしかないから……!)
だから――迷わない。
(これで決めるしかない……
全力全開の、スターライトブレイカー+……!)
「マスターメガトロン、メガザラック、アリシアちゃん、ルインコンボイと交戦再開!」
「市街地の被害復旧開始!
負傷したメンバーの回収も並行!」
はるか上空、衛星軌道にて待機しているアースラ。
そのブリッジに響くのはアレックスとランディ以下オペレーター達の報告――だが、その報告を受けるべき人物の席は空白のまま……
「なのはちゃん達……大丈夫なのか……?」
「ギャラクシーコンボイ達が、間に合えばいいけど……!」
自分達をまとめてくれていた指揮官もおらず、ムードメーカーだった少女もそれ以前から不在――不安を隠しきれず、思わずつぶやくランディにアレックスが答えると――
「信じましょう、彼女達を」
そう彼らに告げたのは、ずっと彼らを支えてきた女性のもの――
「艦長!?」
思わず声を上げ、アレックスが振り向いた先には、待ちに待った存在――ゆうひに支えられたリンディの姿があった。
「みんな、心配をかけたわね」
「リンディさんもウチも、もう大丈夫!」
歓喜を顔いっぱいに浮かべるブリッジの一同に告げると、ゆうひはリンディを艦長席まで導くと、自らもまたエイミィと交代で使っていたオペレータシートに向かう。
(せや……フレイムコンボイの言うとおりや。
ウチにはウチのできることがある……なら、それを全力でがんばるだけや!)
「それで……状況はどうなっとるん?」
それを一番把握しなければならないのはリンディだろうが――自分とてオペレータとしてみんなの力にならなくてはならない。そんな判断からアレックス達から情報を求めるゆうひだが――
「そ、それが……」
「現在、マスターメガトロン、メガザラックとの共闘状態にあって……」
「………………は?」
返ってきたのはあまりにも予想外の答え――ゆうひの手が止まってしまったのも、ムリの話であろう。
「フォースチップ、ダブルイグニッション!
デスクロー、アンド、マシンガン!」
咆哮と共に飛来するフォースチップは2枚――マスターメガトロンの左右の推進ユニット、そのチップスロットに飛び込むと彼の持つ力の具現をその手に握らせる。
「いくぞ!」
一気に間合いを詰め、繰り出した左拳の一撃は空を斬り――すかさず後退したルインコンボイへとデスマシンガンで追い討ちをかける。
だが――通じない。ルインコンボイの周囲に展開された強力すぎる防壁がデスマシンガンのばらまいた光弾をことごとく飲みこみ、吸収してしまう。
「防ぐのはあきらめて、飲み込みに来たか……!」
相手のエネルギー量によっては危険な防御法だが、今回のような1発ごとの威力が小さい場合は十分な効果を発揮する――思わず舌打ちし、マスターメガトロンは体勢を立て直した。
ニトロメガトロンになれればなのはに代わり自分が吹き飛ばすこともできるため、一番手っ取り早いのだが――肝心のダークニトロコンボイは先程なのはに吹き飛ばされ、海中に没したままだ。何しろ自分の手助けがなければ飛ぶことすらできないのだから。
と――
「ならば――接近戦で圧倒するまで!」
「いくよ、ロンギヌス!」
そんな彼の両脇を駆け抜け、メガザラックとアリシアがルインコンボイへと突撃する。
『何度挑もうと……眠らせる!』
対し、ルインコンボイは迎撃すべくマンモスハーケンを両手にかまえ――
《そこで止まれ、メガザラック、アリシア!》
『――――――っ!』
脳裏に響くのは突然の念話――とっさに制動をかけた二人の目の前で――突然飛来した閃光の雨がルインコンボイへと降り注ぐ!
「これは……ギャラクシーキャノン、フルバースト……!?」
見覚えのある一撃――その正体を悟り、メガザラックがうめくと、
「メガザラック!」
「アリシア!」
真っ先に彼らの元に飛来したのはギャラクシーコンボイとフェイト――続いてキングコンボイが、守護騎士達がそれに続く。
「なのはは?」
「スターライトブレイカーのチャージ中。
わたし達はそれを援護しないと……」
尋ねるフェイトにアリシアが答えると、
「――――来るよ、みんな!」
キングコンボイが告げると同時――ルインコンボイが両肩のミサイルを斉射する!
「状況は聞いている!
共同戦線だな、マスターメガトロン!」
「知るか! 貴様らとつるむつもりなどない!
貴様らは貴様らで勝手にしろ!」
迫り来るミサイルをかわし、告げるギャラクシーコンボイにマスターメガトロンは反論しながらデスマシンガンで自らを狙うミサイルを薙ぎ払う。
「迷いはないな、ヴィータ!?」
「たりめーだ!」
尋ねるシグナムに答えると、ヴィータは周囲のミサイルをシュワルベフリーゲンで叩き落す。
「あれを倒さないと、はやては帰ってこないんだ……
例え“闇の書”の一部だろうと、遠慮なんか、してやるもんか!」
「夜天の主の名において、汝に新たなる名を送る。
強く支える者、幸運の追い風……」
はやてが告げるのは、目の前で涙を流す愛しい人に贈る新たな名前――
「祝福のエール……」
その名は――
「リィンフォース」
「――――――よし!」
確かに感じる手ごたえ――そして目の前には収束を終えた光球――すべての準備シークエンスを終え、なのははレイジングハートを振りかざす。
チャージのために動きを止めた自分をルインコンボイから守るため、上空で戦ってくれている仲間達の中には、いつの間にかギャラクシーコンボイやフェイト達の姿もある――彼らの回復を喜びたいところだが、それは自分達の果たすべき役目を終えてからだ。
《みんな――離れて!》
なのはの呼びかけに応え、仲間達が散っていく――後退しながらも攻撃を続け、ルインコンボイの動きを止めることも忘れない。
仲間達の援護に感謝しつつ、なのははルインコンボイへと狙いを定め――
「スターライトぉ……ブレイカぁぁぁぁぁっ!」
放たれるのは希望を込めた光の奔流――空を呑み込み、大きく広がりながら突き進むそれは一直線に目標へと迫る。
『く………………っ!』
かわしきれない――とっさに防壁を展開するルインコンボイだったが、結界破壊効果を持つスターライトブレイカー+の前には何の意味も成さなかった。
紫色に染まり、渦巻く魔力の壁はあっけなく呑み込まれ――ルインコンボイは閃光の渦の中に消えていった。
すでに世界に闇はなく――はやてはビッグコンボイと背中を預け合い、光り輝く想いの中にいた。
《新名称、リィンフォースを認識。
システム移行に伴い、管理者、八神はやてを再登録。再暴走防止措置として副管理者権限を追加、ビッグコンボイを副管理者に登録。
管理者権限の使用が可能になります》
「うん……」
「拝命しよう」
空間そのものから聞こえてくるのは、新たな名を得たパートナーの声――
《ですが、防御プログラムの暴走は止まりません。
私の管理から切り離された膨大な力が、じき暴れだします》
「だろうな。
こちらの管理者権限の行使のために、完全にコントロールを切り離したからな」
その声に、ビッグコンボイは苦笑まじりに肩をすくめて見せる――言葉とは裏腹に、その態度に悲壮感はない。
「せやな……
…………うん、まぁ、なんとかしよか。みんなで……」
そんなビッグコンボイに同意し、はやては笑顔で告げる。
「さぁ、いこか、ビッグコンボイ、リィンフォース」
「了解だ――依頼人」
《はい、我が主……!》
「…………やった、の…………?」
《ルインコンボイの反応は、もう検出されないけど……》
つぶやくその問いに答えるプリムラだが――その声色は困惑に満ちていた。
《けど……ルインコンボイが消し飛んだのに、“闇の書”の反応が消えてないの!
ううん……むしろ増大してる!》
「どういうこと――」
質問の声を上げかけたなのはだが――それよりも早く答えを悟り、その言葉を飲み込んだ。
簡単な話だ。
“闇の書”との戦いは終わったワケではない。
むしろ――これからが本番なのだということだ。
「まだまだ……がんばらなくちゃ、だね」
〈Yes.〉
《ふぁいと、いっぱぁ〜つっ!》
夜明けには、まだまだ時間がかかりそうだった。
(初版:2007/03/18)