「空間そのものが震えてやがる……!」
「くそっ、何が起きようとしてるってんだ……!」
前方に見えるのは、収束を始めた正体不明の黒いよどみ――そこから放たれる“力”が空間そのものを震わせているのを感じ取り、ヴィータとビクトリーレオがうめくようにつぶやく。
「暴走開始時の記憶が改ざんされているのが、今は痛手だな……!」
マキシマスのブリッジで思わずうめき――それでもフォートレスはすぐに次の手を打った。アースラへと通信をつなぎ、確認を取る。
「ゆうひ嬢。
はやて嬢は、完全に防衛プログラムと分離しているんだな?」
〈それはこっちでも確認しとる。間違いあらへんよ〉
「そうか……」
ゆうひの答えにうなずき、フォートレスは一同に告げた。
「おそらく、その黒いよどみの中心が暴走の発動点となるはずです。
ですが――主と切り離された状態での暴走など、管理局のデータにも前例がないはず。
何が起きるかわかりません――うかつな手出しは控え、今は機を待ちましょう」
《了解!》
第65話
「想いよ届け!
ビクトリーコンボイさん爆参なの!」
「管理者権限代行。暴走プログラムに割り込みをかけろ」
《了解》
光に包まれた“闇の書”――いや、“夜天の書”の内部空間で告げるビッグコンボイに、本体である書の中に戻ったリインフォースが静かに答える。
《…………割り込み処理完了。
数分程度ですが、暴走開始の遅延が可能です》
「…………だそうだぞ」
「それだけあったら、十分やね」
告げるビッグコンボイに、はやては彼のライドスペースでうなずき、
「守護騎士システム、現状確認。
プログラム、再リンク」
そう告げるはやての周囲に、4つの光球が出現した。
色は紫、真紅、深緑、白銀――
「――――――む?」
最初に気づいたのはシグナムだった。不意に何かを感じ取り、自分の胸元に手を当てる。
次いでヴィータ、シャマル、そしてザフィーラ――
「どうしたの?」
尋ねるなのはだが、ヴィータはかまわず意識を自分の内に巡らせ、
「…………この感じ……
……はやてだ! はやてが帰ってくる!」
「えぇっ!?」
ヴィータの言葉にアリシアが思わず声を上げると、
「あそこだ」
メガザラックが告げ、一同が見上げたその先――“闇の書”の残した黒いよどみの上空に、白く輝く光の塊が生まれている。
その光はやがて形を変えていき――
「――ビッグコンボイ!」
「世話になったな、ギャラクシーコンボイ」
思わず声を上げたギャラクシーコンボイに、ベルカ式の魔法陣の上に立つビッグコンボイはいつもの調子でそう答える。
そして、そんなビッグコンボイの陰から姿を見せたのは――
「みんな……ありがとうな」
シグナム達のそれに近い意匠の騎士甲冑。
リインフォースをその身に受け入れたことでやや銀色の混じった髪。
そして手にするのは“闇の書”のシンボルを模した十字を先端にかまえた、錫杖を思わせる杖――
リインフォースから贈られた騎士甲冑に身を包み、自らの杖を手にしたはやてだった。
「はやて!」
やはりと言うか、復活を遂げたはやてに対して真っ先に動いたのはヴィータだった。姿を見せた彼女の元へと一直線に飛翔する。
だが――そのまま彼女の胸に飛び込むかと思われた矢先、その機動が急停止した。
そんなヴィータの顔に浮かぶのは――悔恨と、覚悟。
「は、はやて……」
弱々しくその名を呼ぶヴィータの背後からシグナム達も、そしてマキシマスからシャマルやフォートレスも追いついてくる――彼女達も、そしてスターセイバー達も、皆一様にその表情は重い。
理由など考えるまでもない――改変によって誤った道に進んでしまった“闇の書”に記憶を改ざんされていたとはいえ、自分達は主であるはやてとの誓いを破って蒐集を行った。それは主従と言う立場で言えば決して許されることではない。
「すみません……」
「あの……はやてちゃん。私達……」
「……申し訳、ない……」
代表して謝罪するのはシグナム達人間組――だが、そんな彼女達にはやては答えた。
「えぇよ。
みんなわかってる。リインフォースが全部教えてくれたから……
そやけど、細かい話は後や。今は……」
暴走への対処――そう告げるだろうと読み、シグナム達の顔に緊張が走るが――そんな彼女達にはやては優しく告げた。
「おかえり、みんな」
『――――――っ――!』
虚を疲れ、目を丸くする一同に、はやては変わらぬ笑顔を向け――そんなはやての姿に、まず彼女が限界を超えた。
「はやて! はやてぇっ!」
感極まってはやてに飛びつき、ヴィータはその名を何度も呼びながら泣きじゃくる。
そんなヴィータの頭をはやては優しくなでてやり――そんな彼女にスターセイバーは告げた。
「…………そうだな。
まずは言うべきことを言っておかねばな。
我らが主よ……守護騎士一同、只今戻りました」
「はい、おかえり♪」
代表して告げるスターセイバーに、はやては笑顔でうなずき、
「ほら、ビッグコンボイも」
「………………フンッ」
うながすはやてだが、ビッグコンボイはそんな彼女に対してそっぽを向いてしまう。
と、そんな彼女達の元に舞い降りてくる者達がいた。
なのはとフェイトだ――それぞれパートナーを連れ、はやて達の前に舞い降りる。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも……それにサイバトロンのみんなも、ごめんな。
わたしのために、うちの子達が迷惑をかけてもうたみたいで……」
「ううん、気にしてないよ」
「うん。わたし達は平気だから……」
ヴィータをあやしながら告げるはやてになのはとフェイトが答えると、
「えっと……初めまして、なのかな?」
少し照れ気味に口を開いたのはキングコンボイだった。
「クリスマスパーティーには出てなかったから、自己紹介♪
ボクはジャックプライム――今の姿はキングコンボイ。フェイトのパートナーだよ。
将来の夢はなのはのだんn――」
だが、キングコンボイは最後まで告げることができなかった――金色に輝く、湾曲した刃がそののど元に突きつけられたからだ。
「それ以上言ったら――許さないんだから」
刃の主は案の定フェイト。だが――そんな彼女の態度に、シャマルはふと気づいて尋ねた。
「…………テスタロッサちゃん……もしかして拗ねてる?」
「な――――――っ!?」
その言葉に、フェイトの顔が一気に紅潮した。今にも湯気を吹き出さんばかりに真っ赤になり、あわててシャマルに詰め寄り、
「そ、そんなことない! 絶対ない!
わたしはただ、なのはをキングコンボイに渡したくないだけで……」
「そう?」
「そう!」
シャマルの言葉にものすごい勢いでうなずく――そんなフェイト達から視線を外し、はやてはなのはに尋ねた。
「えっと……いつもあんな感じなん?」
「あ、あはははは……」
「すまない。緊張感の持続しないコンビで……」
苦笑するなのはの頭上でギャラクシーコンボイが謝ると、
《アー……水を差すようで悪いんだが……》
不意に新たな念話が脳裏に響く――その場の全員が振り向くと、ようやくこの場に到着したのだろう、クロノがジェット機モードのグレートショットと共に降下してきたところだった。
「クロノくん……?」
「グレートショット……?」
「時間がないから、簡潔に説明する。
グレートショット」
「うむ。
グレートショット、トランスフォーム!」
声を上げるなのはとキングコンボイに答える形でクロノはグレートショットに呼びかけ、ロボットモードとなったグレートショットが説明を始めた。
「今我らの目の前に見えるあの黒いよどみ――“闇の書”の防衛プログラムが、後数分で暴走を開始する。
最初は実体化した防御プログラムによる破壊活動だが――やがてそれは次元世界そのものを巻き込む破壊の嵐となる」
「ボクらはそれを、何らかの方法で止めないといけない」
「現時点での選択肢は?」
「二つあります。
ひとつは――」
尋ねるギャラクシーコンボイに答え、クロノは手にしたデバイスカードを彼らに見せた。
「このデュランダルを使い、きわめて強力な氷結魔法で停止させる。
ミもフタもない言い方をすれば一時しのぎでしかない方法だけど……一時的にでも停止させることができれば、再起動までの間に何らかの方法を見つけ出せる可能性は出てくる。
そしてもうひとつは――軌道上に待機しているアースラの魔導砲“アルカンシェル”で消滅させる」
「長距離砲撃ってこと?」
聞き返すキングコンボイに、クロノは無言でうなずき、
「これ以外に、他にいい手はないか?“闇の書”の主と、その守護騎士のみんなに聞きたい」
そんなクロノの問いに、まず手を挙げたのはシャマルだった。
「えっと……最初のは、多分難しいと思います……
主の管理の外にある防衛プログラムは、魔力の塊みたいなものですから……」
「凍結させても、コアがある限り再生機能は止まらん」
「“アルカンシェル”も絶対ダメ!」
付け加えるシグナムのとなりで、頭上に両手で『×』の字を描くのはヴィータだ。
「こんなとこで“アルカンシェル”撃ったら、はやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」
「そんなにすごいの?」
「えっと……この世界で言うところの、核兵器みたいな最終兵器だから……」
尋ねるなのはに答え、キングコンボイは指先に集めて魔力で空中にわかりやすく図示してみせる。
「ブッ放す戦艦の出力や、着弾点の魔力濃度にも左右されるから、一概には言えないんだけど……アースラのようなL級艦が魔力が充満した状態にある今この場に撃ったと仮定した場合、発動地点を中心に、100数十キロの範囲が影響下に入るんじゃないかな?
中はもう地獄。空間そのものが歪曲されて相転移。反応消滅させちゃうんだから」
「えぇっ!?
わ、わたしも反対!」
「ボクだって使いたくないよ」
キングコンボイの説明にあわてて反対の声を上げるなのはにクロノが答え、
「ってなワケで、同じ理由でジェノサイドバーストも却下な。
アレだってこんな魔力の濃いところで撃ったら十分街まで余波が届くぞ」
「あれは“闇の書”の助けがあって初めて撃てた技だ。どの道今のオレには撃つことなどできん」
告げるビクトリーレオの言葉に、ビッグコンボイはため息まじりにそう答える。
「メガザラック、あなたは何かないのか?
“夜天の魔導書”の製作者として、何か……」
「ないな」
尋ねるギャラクシーコンボイに、メガザラックはあっさりとそう答える。
「あぁなってしまっては、もはやプログラム停止の手段はない――だからそうなる前に管理者に止めさせようとしたんだ。
だが、それも叶わなかった――したがって、力ずくで叩き伏せる以外にはないのだが……」
「用意してた手段二つが使えないとなると、ねぇ……」
メガザラックの言葉にキングコンボイがつぶやくと、
「あー、まったく、さっきから聞いていれば細かいことをグチグチと!」
そんな彼らのやり取りにキレたのはマスターメガトロンだ。
「要はアレを叩き伏せればいいのだろう!
なら、全力で挑めばいいだけの話!」
「そういう簡単な問題ではない」
「ギャラクシーコンボイの言う通りだ。
アレは一度暴走が始まったが最後、触れたものすべてを取り込んで無限に広がっていくんだ」
断言するマスターメガトロンをギャラクシーコンボイとメガザラックがたしなめると、
「ち、ちょっとストップ!」
いきなり手を挙げてそう告げると、なのははメガザラックに尋ねた。
「メガザラックさん。暴走を始めた防衛プログラムは、初期段階じゃ実体化するんですよね?」
「ん? あ、あぁ……」
メガザラックがうなずくと、なのははフェイト、はやて、そしてアリシアと視線を交わす。
「つまり……触れたらダメだけど攻撃はできる……」
「プログラム自体は止められないから、力ずくで止めるしかない……」
「けど、切り札はココじゃ危なくて撃てへん……」
「だったら……ここじゃなければいいんだよね?」
なのは、フェイト、はやて、アリシアの順につぶやき――
「クロノくん、キングコンボイくん!
“アルカンシェル”ってどこでも撃てるの!?
たとえば、今アースラのいる軌道上とか!」
「う、うん……撃てるよ」
なのはの問いに、キングコンボイは戸惑いがちにそう答えた。
「“アルカンシェル”は、以前の“闇の書”事件の教訓で改良されて、3バージョン前から真空状況下はもちろん、時空間内でも撃てるようになってる。
アースラについてる“アルカンシェル”は、記録によればついこの前のオーバーホールの時に追加されてる――だとしたら、たぶん最新型のモデルが組み込まれてるはずだから……」
言いかけ――キングコンボイも気づいた。その表情に輝きが生まれる。
「そうか――その手があった!
さすがみんな! ナイスアイデア!」
「ち、ちょっと待て。
お前達、まさか……!」
可能性として脳裏によぎったのは半ばバクチに近い作戦内容――あわてて声を上げるクロノの目の前で、なのは達は一様にうなずいて見せた。
「相変わらず、何とまぁ……」
「計算上だと、実現可能、って言うのがまたコワいんですけど……」
アースラのブリッジでも、なのは達の『作戦』は伝えられていた。苦笑するリンディに、アレックスがシミュレーションデータをまとめながら答える。
「そんなにすごいん?」
「普通なら、大型の魔導兵器を師団クラスで運用して初めて実現できるようなもんですよ」
尋ねるゆうひにランディが答えると、
「けど……彼女達ならできますよ」
そう答えたのは、愛と桃子に支えられてブリッジを訪れた秋葉だった――背後には琥珀や翡翠もいる。
「なのはちゃん達なら……きっとできます」
「そうですね……」
秋葉の言葉にうなずき、リンディは改めてメインモニターへと視線を戻した。
「実に個人の能力頼りで、ギャンブル性の高いプランだが……」
「ま、やってみる価値はあるんじゃないのか?」
ため息まじりにつぶやくクロノに、ビクトリーレオは肩をすくめてそう答える。
そして、はやてが口火を切る形で作戦内容の確認が始まった。
「防衛プログラムのバリアは、物理と魔力の複合四層式。
まずは、それを破る」
「バリアを抜いたら本体に向けて、わたし達の一斉砲撃でコアを露出」
「そしたら、サポート組の皆さんが強制転移魔法でコアをアースラの前に転送!」
フェイト、なのはが続け、一同はその都度うなずいていく。
「で、後はリンディさん以下戦艦メンバーにお任せ。
先回りさせておいたメガデストロイヤー、並びにウィザートロンご一同の一斉砲撃で再生しかけてるだろう防衛プログラムの外殻を改めて吹き飛ばして――」
「仕上げの一発、“アルカンシェル”!」
締めくくるのはキングコンボイとアリシアだ。
「確かに、うまくいけばこれがベストか……!」
もっとも“闇の書”のシステムに通じているメガザラックですらそう認めざるを得ない、現時点でもっとも被害を抑えられるプランだ。ならば――
「やるしかない、な……
マスターメガトロン、今回ばかりは下がっていてもらうぞ」
「どの道直接攻撃ができないのだろう? ならばオレはもはやお払い箱だ」
ギャラクシーコンボイにそう答えると、マスターメガトロンは前方にワープゲートを展開。その中に手を突っ込むと、なのはにブッ飛ばされて海中に沈んでいたダークライガージャック達を次々に引っ張り出す。どうやらワープゲートは海中に向けて展開したようだ。
「オレもそれなりに暴れてスッキリした。今回は譲ってやる。
次会う時は――再び敵同士だ」
そう告げると、マスターメガトロンは再びワープゲートを展開。その向こうに広がる宇宙空間へと消えていった。
「マスターメガトロンさん……変わってくれるかな……?」
「道は、まだ遠いと思うぞ」
つぶやくなのはにギャラクシーコンボイが答えると、
〈はい、おしゃべりはそこまでにして、準備してや!
“闇の書”防衛プログラムの再起動まで、30秒きったで!〉
ゆうひの言葉に一同が気を引き締める中――眼下の黒いよどみが徐々に晴れていく。
「始まるぞ……!」
起動したデュランダルをかまえ、クロノが気合を入れると――
「だったら、オレ達もがんばらないとな」
そう告げた言葉と共に、彼らは戦場に舞い降りた。
「待たせたな」
「オレ達も完全復活だ!」
「暴れるのだ!」
ロディマスコンボイ、耕介、美緒――
「接近戦厳禁か……面倒だな」
「ちょうどいいじゃないか。
この合体の火器の扱いにも、慣れておきたいしな」
「二人とも。サポートなら、私がしてあげるよ!」
ブレイズコンボイ、恭也、知佳――
「これ以上、地球で好き勝手されるワケにはいかないからね」
「それに、ボクらの街を巻き込むワケにもいかないしね」
「ここで一気に、ケリをつけましょう!」
メビウスコンボイ、真一郎、美由希――
リンクアップを遂げた3人のコンボイが、パートナーと共に戦線に復帰してきてくれたのだ。
「みんな――来てくれたのか!?」
「けど、リンクアップは……?」
「そんなの、志貴ががんばってくれたに決まってるだろう?」
声を上げるギャラクシーコンボイのとなりでなのはが尋ねると、ロディマスコンボイが肩をすくめて答える。
「彼や他のメンバーは全員街の被害復旧に向かわせた。
ヤツの相手も大事だけど、ジェノサイドバーストの余波が何ヶ所か結界を抜いていたみたいでね」
「悪かったな」
ギャラクシーコンボイに告げるメビウスコンボイの言葉に、憮然として告げるのはもちろんビッグコンボイだ。
と――
「バカをやってないで、さっさとかまえろ。
どうやら本命のお出ましだぞ」
告げるブレイズコンボイの前で、黒いよどみが収束、その内側にいたモノがその姿を現した。
巨大な6本の足と漆黒の翼。
昆虫を思わせる体躯の正面には巨大な口。そこを頭部として、額に見えるのはまるでそこが中枢だとでも言わんばかりに存在する、女性の上半身。
それこそが、本来ならば叡智の結晶となるはずだった“夜天の魔導書”を呪われた“闇の書”に変えてしまったすべての元凶――
“闇の書の闇”の顕現だった。
「ほな、いこか……」
「あぁ」
いよいよ作戦開始だ――告げるはやての言葉にビッグコンボイがうなずき、彼らの周りで守護騎士達がフォーメーションを組む。
その口からほとばしるのは気高き名乗り――
「我ら、夜天の主の下に集いし騎士」
「誇り高き、夜天の剣」
シグナムとスターセイバー。
「我らが命は主の命」
「主ある限り、我らの魂尽きることなし」
フォートレスとシャマル。
「この身に命ある限り、我らは御身の元にあり」
「常に御身を守り続けん」
ザフィーラとアトラス。
「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に!」
「集いし我ら、天下無双の刃なり!」
ヴィータとビクトリーレオ。
そして――
「ヴォルケンリッター……出陣!」
『応っ!』
ビッグコンボイの号令を合図に、守護騎士達は一斉に飛び出していく。
「頼むぞ……みんな」
だが――ビッグコンボイは動かない。そう告げると静かに戦場に背を向ける。
「すまないな、はやて。つき合わせてしまって」
「えぇよ。
このままほっといて、ジャマされてもあかん。
これも立派な“闇の書”対策や」
告げるビッグコンボイにはやてが答え、二人は彼と対峙した。
傷ついた身体でこちらをにらみつける、スカイクェイクと――
「一番手はオレ達だ!
速き勇者ロディマスコンボイとそのパートナー!」
「槙原耕介!」
「陣内美緒!」
『参る!』
まずは敵の防衛ラインの撃破――ロディマスコンボイの言葉にライドスペースの耕介、美緒が応え、3人はランサーモードのロディマスライフルをかまえて“闇の書の闇”が周囲に展開した触手の防衛ラインへと突撃し、
『ロディマス、ディバイディング、スラァッシュ!』
放たれた光刃が、触手の一団をまとめて叩き切る!
それでも多数の触手が残っているが――
「甘いわ!
熱き勇者ブレイズコンボイ!」
「そのパートナー、高町恭也!」
「同じく、仁村知佳!」
その前に立ちふさがり、名乗りを上げるのはブレイズコンボイ、恭也、知佳の3人だ。
「いっ、けぇっ!」
知佳の雷撃が触手に炸裂。効きはしないもののその注意が彼女に向き――
「どこを見ている!」
『ヴァニシング、スマッシャー!』
恭也とブレイズコンボイが吼えた。放たれた光の渦が触手を一直線に薙ぎ払い、さらには“闇の書の闇”の防壁、その一層目を大きく穿つ!
「今だ!」
「任せろ!」
ブレイズコンボイの声に従うのはメビウスコンボイ――ブレイズコンボイの一撃によってできた防衛ラインの穴を駆け抜け、再生の始まった防壁へと迫る。
「高き勇者メビウスコンボイ!」
「そしてそのパートナー、相川真一郎と高町美由希!」
「狙ったチャンスは――逃がしません!」
『メビウス、クロスブレイク!』
咆哮と同時にメビウスランサーで連撃。『×』の字に斬撃を叩き込まれた防壁は全体にその亀裂を広げ――砕け散る!
「次! シグナムとテスタロッサちゃん! スターセイバーとキングコンボイくん!」
「はい!」
「任せろ!」
「心得た!」
「いっきまーす!」
指揮を執るのはシャマル――彼女の言葉に従い、指名された4人が飛翔、“闇の書の闇”へと突撃する!
「いくよ――みんな!」
言って、フェイトがバルディッシュをかざし――その中枢部から光が放たれる。
その中で、キングコンボイとスターセイバー、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『キングコンボイ!』
フェイトとキングコンボイが叫び、キングコンボイが四肢のパワードデバイスを分離させ、
『スターセイバー!』
次いでシグナムとスターセイバーの叫びが響き、スターセイバーがVスターを分離させ、合体形態のままのVスターが上半身と下半身に、さらにそれがそれぞれ左右に分割される。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、分離したジャックプライムの両足に分離したVスターの下半身が、両腕に同様にVスターの上半身が合体する!
最後に、ビークルモードのスターセイバーが背中に合体、フライトユニットとなり、4人が高らかに名乗りを上げる。
『セイバァァァァァ、コンボイ!』
「カリバーン――カートリッジロード!」
〈Roger!〉
告げるセイバーコンボイの言葉に、カリバーンはカートリッジをロードし、
『フォースチップ、イグニッション!』
『フルドライブモード、スタンバイ!』
セイバーコンボイとフェイト、スターセイバーとシグナムが告げ――その刀身が音を立てて弾け飛んだ。
その中から光があふれ出し――それは収束、物質化し、より強大な大刀、聖剣エクスカリバーとなる。
「清き勇者セイバーコンボイとその愛刀、炎風の聖剣エクスカリバー!
全身全霊、一刀両断しちゃいます!」
宣告と共に刃を振りかざし――その刀身が炎の渦に包まれ、
『フレイム、カリバー、ブレイカー!』
解き放たれた炎は渦を巻いて空を疾走。“闇の書の闇”の防壁に叩きつけられ、2層目の防壁を構成するエネルギーもろとも焼き尽くす!
「2層目突破!」
「我らも続くぞ!」
間髪入れずに追撃をかけるべく、フェイトとシグナムがかまえ――
「はーい、二人は防壁突破後の総攻撃に備えて温存ね♪」
そんな二人を制し、セイバーコンボイは“そちら”へと向き直り、
「お次はお願い、メガザラック、アリシア!」
「おぅ!」
「はーい!」
応え、メガザラックとアリシアは“闇の書の闇”へと向き直り、
「アリシア、掛け声を合わせるぞ」
「いいの?」
「たまには、貴様に趣味を合わせてやるのも悪くない」
尋ねるアリシアにメガザラックはニヤリと笑みを浮かべてそう答え、二人はそれぞれの獲物をかまえ、
『二人の刃が真っ赤に燃える!』
「“闇の書”救えと!」
「轟き叫ぶ!」
二人の掛け声に合わせ、メガザラックのブリューナクに雷光が、アリシアのロンギヌスに炎が宿る。
そして、二人はそれぞれの矛先を“闇の書の闇”に向け、
『ばぁくねつ!
プラズマ、ストライク!』
咆哮と同時に突撃、繰り出された刺突は“闇の書の闇”の防壁に深々と突き刺さる。
当然、闇が二人を侵食しようとするが、周囲に展開された二人の魔力がそれを阻み――
『解放!』
二人の叫びと同時、解放されたエネルギーが防壁を吹き飛ばす!
「よぅし、4層目!」
「次はとーぜん、あたしらだろ!」
言って、なのはとヴィータはそれぞれのデバイスをかまえ――
「フォースチップ、イグニッション!」
『――――――っ!?』
響いた咆哮は頭上から。何事かと見上げたその先で――
「スターダスト――スマッシャー!」
巻き起こった閃光が、一直線に“闇の書の闇”の防壁に叩きつけられ、そこに込められた結界破壊効果が“闇の書の闇”に残された最後の防壁を粉々に粉砕する!
その一撃の主は――もはや推理するまでもない。
「ブリッツクラッカーさん!?」
「へっ! 加勢に来てやったぜ!
ありがたく思えよ、チビども!」
思わず声を上げるなのはに、飛来したブリッツクラッカーはVサインで応え、
「――――って、晶はいないのか?」
だが、一番目当ての人物はそこにはいない――キョロキョロと周囲を見回してなのはに尋ね――
「がはぁっ!?」
それが油断につながった。“闇の書の闇”の触手に思い切りブッ飛ばされる!
「なんでオレだけぇぇぇぇぇっ!?」
「…………えっと……
まさか、あの人の出番はコレで終わりなんでしょうか……?」
「ヘッ、あたしの出番を奪いやがった天罰だ」
ブッ飛び、「ポチャンッ」と水音を立てて海中に消えるブリッツクラッカーの姿を見送り、なのはに答えるヴィータはどこか涙声だ。
だがそれも無理もない。直接打撃を中心とした魔法を使うヴィータにとって、直接の接触が厳禁とされるこの戦闘で見せ場となり得たのは防壁突破作戦のみ――その見せ場がいともたやすく奪われたのだから。
ともあれ、これで防壁は完全突破。あとは本体を叩くのみだ。
「よぅし、いくぞ!」
まずは氷結魔法で動きを封じる――デュランダルをかまえるクロノだが、そんな彼に“闇の書の闇”は敏感に反応した。彼に向けて一斉に触手を伸ばす!
だが――
「させるかよ!」
触手の到達よりも先に飛び込んできた者がいた。クロノを捕まえ、その場から離脱する。
彼を救ったのは――
「ソニックボンバー!?」
「へっ、相棒ほっといて、ひとりだけいいカッコはさせないぜ!」
驚くクロノに答え、ソニックボンバーはビークルモードへとトランスフォーム。クロノを背中に乗せて“闇の書の闇”の触手をかいくぐって飛翔する。
そして――
「クロノ殿、お早く!」
「援護は任せな!」
グレートショットと一角が吼え、手にした刃をかまえ――その足元にミッド式の魔法陣が展開され、
「スティンガースナイプ――パレットショット!」
放たれた多数の魔法弾が、迫り来る触手を牽制する。
「ソニックボンバー! 少し冷えるぞ!」
「かまうな、ブッ放せ!」
振りかぶるクロノにソニックボンバーが答え――
「凍てつけぇっ!」
〈Eternal Coffin!〉
なのは達や相棒の熱血が伝染したか、咆哮するクロノの言葉と同時に凍気が放たれた。“闇の書の闇”を包み込み、その動きを封じる。
だが――止められない。凍結した部分を自ら砕き、“闇の書の闇”は失った部位を再生してしまう。
しかも、それだけでは終わらない――さらに新たな触手や第2の頭部を生み出し、それらがその場の全員に狙いを定める。
そのすべてに魔力の輝きが生まれ――
「“盾の守護獣”ザフィーラと“鉄拳の騎士”ダイアトラス!」
「攻撃など、通させん!」
それを阻んだのはザフィーラとスーパーモードに合体したダイアトラスだ。各々の拳から放たれた魔力弾は仲間達の下へと飛翔。なのは達の目の前で防壁に変化し、“闇の書の闇”の一斉砲撃をシャットアウトする。
そして――
「“城砦の騎士”フォートレス!
我が自慢のマキシマスの一斉砲撃――止められるものなら止めてみろ!」
フォートレスの言葉と同時――マキシマスからの一斉砲撃が、新たな触手を薙ぎ払う!
「よし、一斉砲撃だ!
効いてないワケじゃない――ヤツの再生スピードを上回る速度で攻撃を叩き込む!」
「了解です!」
ギャラクシーコンボイに答え、なのははレイジングハートをかまえ――
「へっ、どーせあたしの出番なんてもうないもんなー……」
「って、ヴィータちゃんも拗ねてないで!」
出番を失い、いじけるヴィータに思わずツッコミを入れる。
「ヴィータちゃんにだって遠距離攻撃はあるじゃない!
ギガントフォルムみたいに、アレもでっかくできないの!?」
そんなことできるのか――そんな疑問はあったが何も言わないよりはマシだ。なだめるようになのはが声を上げ――
「――――その手があったか」
マジだよ、オイ――その場の一同がそんなことを考える中、ヴィータはゆっくりと“闇の書の闇”へと向き直った。
先ほど出番を奪われたフラストレーションによるものか、その目は完全に据わっている。
「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵、グラーフアイゼン!」
高らかに(多分に怒りの込められた)名乗りを上げ、ヴィータはグラーフアイゼンをかまえて左手を前方にかざしてシュワルベフリーゲンの鉄球を生み出す。
ただし、数はひとつだけ――と、グラーフアイゼンがカートリッジをロードし、その魔力の供給を受け、鉄球が彼女の背丈の倍以上の大きさへと巨大化する!
さらにカートリッジをロード。グラーフアイゼンそのものをギガントフォルムへと変化させると、ヴィータはそれを渾身の力で振りかぶり――
「ギガント、フリーゲン!」
放たれた即興魔法は一直線に“闇の書の闇”へと飛翔――阻んだ触手を薙ぎ払い、本体を直撃した巨大鉄球が大爆発を巻き起こす!
「次だ、高町なのは!」
「うん!
高町なのはと、レイジングハート・ブローディア! いきます!」
告げるヴィータに応え、なのははレイジングハートをかまえ――同時にプリムラが再生成を終えたスケイルフェザーを一斉に射出する。
かまえたレイジングハートの先端に光が生まれ――
「バスターレイ――フルバースト!」
《いっけぇぇぇぇぇっ!》
バスターレイの巨大な閃光とその“力”を受けて輝くスケイルフェザー、それらが一斉に“闇の書の闇”へと襲い掛かり、その身を大きく穿つ!
「フェイトちゃん!」
「シグナム!」
なのはとヴィータの言葉に動き、飛翔するのはフェイトとシグナムだ。
「剣の騎士、シグナムが魂――炎の魔剣、レヴァンティン!
剣、連結刃に続く第3の姿――」
告げ、シグナムはレヴァンティンの柄に鞘を連結。レヴァンティンがカートリッジをロードすると、その姿が変化。白銀の弓となる。
〈Bogen Form!〉
告げるレヴァンティンの言葉と共に、シグナムは弦を引き絞り、
「駆けよ隼!」
〈Strum Falken!〉
放たれた炎の矢が“闇の書の闇”の腹部に突き刺さり、大爆発を巻き起こし――
「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・リリィ――行きます!」
それに続くのはフェイトだ。
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と共にバルディッシュにフォースチップをイグニッション。周囲一体にまき散らされた雷光がバルディッシュ本体へと収束していき――
「ヴォルテック、スマッシャー!」
〈Volteck smasher!〉
放たれた雷光の渦が“闇の書の闇”に穿たれた傷を直撃。さらにその傷をこじ開ける。
そして――
「ギャラクシーコンボイさん!」
「ビクトリーレオ!」
「うむ!
眩き勇者、ギャラクシーコンボイ!」
「そして“撃砲の野獣騎士”ビクトリーレオ!
この一撃にすべてを賭ける!」
なのはとヴィータの呼びかけに応え、ギャラクシーコンボイとビクトリーレオは“闇の書の闇”と対峙し、
「フォースチップ、イグニッション!」
口火を切ってビクトリーレオがフォースチップをイグニッション。展開した両肩のビクトリーキャノンをチャージする。
そして、ギャラクシーコンボイも――
「フォースチップ、ダブルイグニッション!」
咆哮と共にイグニッション――ただし、今までのそれと違い、左右の砲それぞれのチップスロットにフォースチップをイグニッションする。
結果巻き起こるのは以前のそれをはるかに上回る超出力――巻き起こるエネルギーの中、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンのバレルを展開。ビクトリーレオと共に照準を合わせ――
「ビクトリーキャノン――フルバースト!」
「ギャラクシーキャノン、フルバースト――デュアルチップブラスト!」
放たれた閃光はみんなの攻撃で開かれた傷の奥底へと飛び込み――大爆発。“闇の書の闇”を内部から粉々に爆砕する!
「よっしゃ! ここまでバラバラにすれば!」
ここまでやればさすがにコアまで届いただろう――声を上げるビクトリーレオだったが、
「いや――まだだ!」
ロディマスコンボイが叫ぶと同時――各部を再生させた“闇の書の闇”が姿を現す。
しかもただ再生するだけではない――爆砕され、飛び散った先の自分の残骸をも取り込み、さらに巨大な姿に自己進化する!
「く………………っ!
これではキリがない!」
思わず舌打ちするギャラクシーコンボイの言葉と同時――“闇の書の闇”が一斉攻撃を開始する!
「オォォォォォッ!」
「ちぃっ!」
繰り出されるのは気迫の込められた拳――スカイクェイクの一撃をさばき、カウンターのマンモストンファーを叩き込むビッグコンボイだが――
「なめるなぁぁぁぁぁっ!」
直撃を受けながらもスカイクェイクは止まらない。むしろ背中のブースターの推力を高め、ビッグコンボイを押し返す!
傷ついた身体で挑んできたスカイクェイク――撃退は容易かと思われたが、そこに込められた執念はすさまじく、“闇の書”から脱出したばかりで万全の状態にあったビッグコンボイに思わぬ苦戦を強いていた。
「ビッグコンボイ!」
思わず声を上げるはやてだが――彼女の本質は広域攻撃型だ。スカイクェイクがビッグコンボイとの接近戦を繰り広げている内はどうすることもできない。
「しつこいヤツだな、つくづく!」
「貴様を倒すためなら、修羅にもなるさ!」
ビッグコンボイに言い返し、スカイクェイクは彼の振るったマンモスハーケンを受け止め――逆にその1本を奪い取り、斬りかかる!
「我が武を前にしながら、歯牙にもかけぬその非礼――武人に対する最大の侮辱だ!」
「それは“闇の書”の判断――と言っても聞かんか!」
「当然だ!」
答えると同時に再度突撃。スカイクェイクはうめくビッグコンボイに肉迫し、激しい斬撃を繰り返す。
「我が誇りを取り戻すため――オレは貴様を討つ!」
「討てるものなら――討ってみろ!」
言い返すビッグコンボイだが――状況は芳しくない。スカイクェイクの気迫はコンディションの差を容易に覆し、すさまじい勢いでビッグコンボイを追い込んでいく。
「く――――――っ!
ビッグコンボイ、なんとか離れて!」
こうなったら、ムリでも何でも援護するしかない――意を決し、はやてはビッグコンボイに呼びかけると“夜天の書”を開き、呪文を詠唱する。
―― | 彼方より来たれ、宿木の枝 銀月の槍となりて、撃ち貫け! |
「石化の槍!」
ビッグコンボイもはやての意図を汲み取り、なんとか呪文詠唱の完了に合わせてスカイクェイクとの距離を取り――はやてが魔法を発動。作り出された空間の歪みから打ち出された光の矢がスカイクェイクへと降り注ぎ――
「そんな――ものでぇっ!」
スカイクェイクはそれを真っ向から打ち払った。手にしたマンモスハーケンで光の槍を薙ぎ払い――
「――――――っ!
はやて!」
「――――――っ!?」
その内の1本がはやてに向けて弾き返された。ビッグコンボイの声に気づくも反応が間に合わず、はやてに光の槍が迫り――
《させません!》
その声と同時、はやての身体から何かが抜け出ていく感触。そして――
〈Panzer schild!〉
はやてから分離したリインフォースが、展開したパンツァーシルトで光の槍を受け止める!
「リインフォース!」
《ご無事ですか、マスター》
声を上げるはやてに答え、リインフォースは彼女の目の前に舞い降り、
《マスター、現在、防衛プログラムと交戦しているみなさんも、かなりの苦戦を強いられている模様です》
「わかっとる。
せやから、ここをなんとか……」
言いかけたはやてだったが――リインフォースはそんな彼女を無言で制した。
そして――告げる。
《ひとつだけ、方法があります。
スカイクェイクを倒し、防衛プログラムにもその再生速度を上回る損傷を与える手段が……》
「ホンマか!?
ホンマに、そんな方法があるんか!?」
《マスターの承認さえいただければ、すぐにでも実行可能です》
驚くはやてにそう答えると、リインフォースはスカイクェイクへと向き直り、
《マスター……承認を》
「………………」
改めて促すリインフォースの言葉に、はやてはしばし考え――
「わかった。
リインフォース。みんなを守って」
《わかりました》
はやての言葉にうなずき、リインフォースはその足元に魔法陣を展開し――
《ありがとうございました、マスター》
「え――――――?」
なぜ過去形なのか――尋ねようとしたはやてだったが、次の瞬間、リインフォースの身体が光の塊となり、スカイクェイクへと突撃する!
「何――――――っ!?」
そして――驚愕するスカイクェイクに激突、その身体をからめ取るとそのまま“闇の書の闇”へと突っ込んでいく!
「リインフォース!?」
驚愕し、声を上げるはやてだが――リインフォースは止まらない。一直線に飛翔し、スカイクェイクの巨体を“闇の書の闇”へと叩きつける!
同時――“闇の書の闇”の侵食が始まった。スカイクェイクの身体に魔力の渦がからみつき、その身に取り込もうとする。
そしてそれは、同時にリインフォースにも及んでいて――
「あかん!
離れるんや、リインフォース!」
《いえ……離れるワケには参りません》
声を上げるはやてに、リインフォースは静かにそう答えた。
《防衛プログラムから切り離されたといっても、私の中の歪められた基礎構造はそのまま残されています……》
そう告げると同時――
「え――――――?」
シャマルがそれに気づいた。自らに起きた異変を確かめるように意識を集中させ――気づいた。
「はやてちゃん! 私達と、リインフォースとのリンクが――切断されました!」
「――――――っ!」
せっかくつないだはずのリンクの再切断――シャマルからのその報せに、はやてはリインフォースのしようとしている事を悟った。
歪められた基礎構造がそのまま残っている――それはつまり、自己再生能力もそのまま残されていると言うことだ。
つまりそれは、防衛プログラムも遠からず再生してしまうことを意味している。
それを阻止する手段は――ひとつしかない。
「あかん!
自分から――自分だけ消えるなんて、そんなんあかん!」
《他に方法はありません。
管制プログラムである私の中から、“夜天の魔導書”本来の姿のデータは抹消されています。
もはや修復が不可能である以上――防衛プログラムを生み出す大元である私が消える以外に、“闇の書”による災害を鎮める手段はありません》
「せやけど……せやけど、こんなんないやろ!
暴走やったらわたしが抑える! もう二度と、リインフォースに哀しい想いはさせへん!」
《…………泣かないでください》
泣きじゃくるように声を上げるはやてに、リインフォースは優しく語りかけた。
《哀しい想いなどとんでもない――私は世界で一番幸せな魔導書です。
最後に再び、主の声を聞く機会を得ることができた――最後の時だけでも、この呪わしき宿命から解放してもらえた。
そして何より――あなたに清らかな名前と心を頂きました》
その言葉に偽りはあるまい。
なぜなら――
《最後の主が……あなたでよかった》
そう告げる彼女は――本当にうれしそうに笑っているから。
《ただ、最後に願わくば……私が頂いた、この綺麗な心と名前を――私一代で終わらせないでください。
あなたと共に歩む者達の魂に遺されたその名を――私の跡を継ぐ者に、託してあげてください。
“祝福の風”――リインフォースの名を》
そして――リインフォースは静かに告げた。
《フォースチップ、イグニッション》
その言葉に――その願いに従って飛来したフォースチップは、静かにリインフォースの身体に溶け込んでいく。
みなぎる“力”は主への想い――その“力”に抱かれて、リインフォースは静かに呪文を詠唱する。
――響け、終焉の笛――
そして――
――ラグナロク――
光があふれた。
「リインフォース――――――っ!」
もはや悲鳴に近いはやての声の響く中、光は強力な破壊の嵐へと変貌した。“闇の書の闇”を、そしてスカイクェイクを包み込み、強烈な“力”の渦がその身を穿っていく。
あまりにも壮絶な――しかし、それでも本当に幸せそうだったリインフォースの最期――あふれる光を前に、ギャラクシーコンボイとなのはは無言で敬礼する。
悲しみにくれるはやての嗚咽が場を支配する中、他の者達もギャラクシーコンボイに倣い敬礼。リインフォースの想いを見届け――
『――――――っ!?』
驚愕し、目を見開く彼らの目の前で、それはゆっくりと姿を現した。
大きく身を穿たれながらも、それでも活動を停止しようとしない、“闇の書の闇”が――
「そんな……!
リインフォースさんが、命を賭けてくれたのに……!」
傷ついた部分はすでに再生を始めている――なのはが思わずつぶやくと、
「………………撃って」
静かに告げた、その声は――
「はやて……?」
「リインフォースの想い――遂げさせてあげて!」
振り向くフェイトに、はやては涙をぬぐってそう告げる。
「リインフォースだけじゃ届かんかった願いも――わたし達みんななら、きっと届く!
せやから……!」
「…………皆まで言うな」
告げるはやてに答え、ビッグコンボイはビッグキャノンをかまえた。
「リインフォースは死んでいない――その魂は、我らヴォルケンリッターが受け継ぐ!
彼女の想いは――オレ達で叶える!
フォースチップ、イグニッション――ビッグキャノン、GO!」
咆哮と同時にイグニッション。放たれたビッグキャノンの閃光が再生を始めた“闇の書の闇”の腹部に突き刺さり、再生された部分を大きく抉り抜く!
「あたしらもやるぜ!」
「あぁ。
リインフォースの願い――必ずや!」
声を上げるヴィータにシグナムが答え、彼女達もまた攻撃を再開。ギャラクシーコンボイもまた行動に移ろうと――
「ギャラクシーコンボイ殿!」
「――――――っ!?」
突然の声に振り向くと、グレートショットからそれが投げ渡された。
「これは……デバイスカード、か……?」
「殿から託されたものです。
若を守るためのものとして渡されましたが――」
ギャラクシーコンボイに答え、グレートショットは“闇の書の闇”へと視線を向けた。
「これを使って……あの誇り高き魔導書の願いを、どうか……」
「だ、だが……私は魔法を使えない」
グレートショットの言葉に申し訳なさそうに告げるギャラクシーコンボイだが――
「いや――手はある!」
そう答え、彼の元に舞い降りたのはビクトリーレオだ。そのままギャラクシーコンボイに詰め寄り、告げる。
「オレと、リンクアップするんだ!」
「私とビクトリーレオが、リンクアップを……?」
「オレのボディは元々、スパークにリンカーコア適性のなかったスターセイバー用に作られていたパワードデバイスだ。
つまり――オレにはできるんだよ! 合体した相手に、魔法を使わせることが!」
「なるほど……
フォートレス、ビクトリーレオが言ったことは本当に可能か?」
〈可能ですよ。
私の技術を甘く見ないでいただきたい〉
尋ねるギャラクシーコンボイに、フォートレスはマキシマスのブリッジで自信タップリに答える。
〈見たところ、合体のための変形にも構造上の問題は見られません。
賭けてみる価値はあります――どうせこの作戦そのものがバクチのようなもの。今さらバクチが増えたところで大して変わりますまい。
そして何より――そのくらいしなければ、彼女の思いに報いることはできないでしょうしね〉
「うむ……そうだな。
よし、やるぞ」
「おぅ!」
ビクトリーレオが意気揚々とうなずくのを聞きながら、ギャラクシーコンボイは上空で戦うなのは達にも呼びかける。
「なのは、ヴィータ!
話は聞いての通りだ――かまわないな!?」
「はい!」
「やってやるさ!
あの子の願いが叶うなら――どんな賭けにも付き合ってやる!」
なのはとヴィータがうなずき――次に呼びかけるのはフェイトだ。
「フェイト!」
「はい!」
意図など確認するまでもない――うなずき、フェイトはバルディッシュをかまえ、
〈Link up Navigator, Get set!〉
リンクアップナビゲータが起動、ギャラクシーコンボイとビクトリーレオが飛翔する!
『ギャラクシーコンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイの叫びが響き、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンを分離。両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、
『ビクトリーレオ!』
次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。
そして、ビクトリーレオの下半身がギャラクシーコンボイの両足に合体し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身がギャラクシーコンボイの胸部に合体。両腕部がギャラクシーコンボイの両肩に露出したジョイントに合体する!
最後にビクトリーレオのバックユニットがギャラクシーコンボイの背中に装着され、4人が高らかに名乗りを上げる。
その名も――
『ビクトリー、コンボイ!』
「目覚めよ、次代の希望!
“つなぎし者”――Set Up!」
〈Stand by Ready, Set up!〉
デバイスカードをかまえ、呼びかけるビクトリーコンボイ――その言葉に従い、銀色のカードは形を変えた。
光の塊となり、ビクトリーコンボイの両腕に。そして現れたその姿は――
「銃………………?」
思わずつぶやくなのはだが――彼女よりも過敏に反応した者がいた。
「もしかして、それ……ツインバスターライフル!?」
「なるほど……確かに、火力に優れた貴様に似合いのデバイスだな」
「そ、そうか……?」
アリシアとメガザラックの言葉に、ビクトリーコンボイは戸惑いがちに2門のライフル――自らに託されたアームドデバイス“ネクサス”へと視線を落とす。
ビクトリーレオと合体し、スパークのリンカーコア特性が強化された今ならわかる。
このネクサスのパワーなら――
「…………やるぞ。
ネクサス、カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
ビクトリーコンボイの言葉にネクサスがカートリッジをロード。左右のネクサスが立て続けにカートリッジを排莢する。
「全員、退避しろ!
なのはのパートナーの名に恥じない――全力全開の一撃が行くぞ!」
咆哮すると同時、ビクトリーコンボイは左右のネクサスを重ね合わせるように合体させ、“闇の書の闇”へと照準を向ける。
狙うは、リインフォースが己のすべてを賭けて穿った腹部の巨大な穴――
「“闇の書の闇”よ――
お前の見続けてきた悪夢も――これで終わりだ!」
〈Eternel Blaze!〉
ネクサスが告げると同時にトリガーを引き――巨大な光の奔流が放たれた。一直線に虚空を貫き、“闇の書の闇”の身体に叩きつけられる!
しかも――叩きつけられただけでは終わらない。その身を深々と抉り――完全に撃ち貫く!
大きく口を開けた“闇の書の闇”の巨体、その中心に見えるのは――
「本体コア、露出を確認――捕まえました!」
その動きを補足していたのはシャマル――得意の対象転移魔法“旅の鏡”で防衛プログラムの本体を拘束する。
「リニスさん!」
〈座標確認!
転送準備完了!〉
声を上げるシャマルに答えるのは、メガデストロイヤーで衛星軌道上に先回りしたリニスだ。
「ライオカイザー! みんな!
そろそろ来るわよ――撃ち方用意!」
「わかっている。
こちらはすでに万端だ」
声を上げるリニスに答え、ライオカイザーは自身のアームドデバイス、ムラマサをかまえる。
「いいぞ、“湖の騎士”シャマル!
かまうことはない――リニスの示す位置に、手加減なく飛ばしてやれ!」
「じゃあ、行きます!」
リニスから目標座標のデータは受け取った――意を決し、シャマルは防衛プログラム本体を拘束する魔力をさらに強める。
そして――
「目標、衛星軌道上!
長距離転送!」
シャマルの言葉と同時、本体コアが衛星軌道に向けて転送される!
「コアの転送、来ます!」
「転送されながらも、生体部品を修復中! すごい速さです!」
「けど――それも計算の内!
怖いことなんかあらへんわ!」
アレックスとランディの言葉に、ゆうひは“アルカンシェル”の発射準備を進めながら答える。
「“アルカンシェル”、バレル展開!
えぇですよ、リンディさん!」
告げるゆうひの言葉にうなずき、リンディは艦長席で立ち上がり、
「ファイヤリング・ロック・システム――オープン!
命中確認後、反応前に安全圏まで退避します――準備を!」
告げるリンディの目の前に、球体状の発射キーが形成。保護カバーに覆われ、鍵穴のみを露出させる。
そして――彼らの目の前の宇宙空間に、転送された防衛プログラムの本体がその姿を現す!
すでにかなりの部分が再生しているが――
「そんな不完全な再生なんか!
ライオカイザー!」
「おぅ!
総員一斉射撃! 絶対に逃がすな!」
リニスに答えたライオカイザーの号令で、ウィザートロンが一斉攻撃。メガデストロイヤーとの砲撃も合わせ、防衛プログラムの外郭を完全に粉砕する!
そして、リンディは発射キーに手にした最終セーフティキーを差し込み――
「“アルカンシェル”――発射!」
鍵を回し――閃光が放たれた。本体コアを直撃し、その周囲の空間ごと歪め、捻り、粉々にしていく。
幾重にも空間の湾曲を繰り返し――“力”の渦は完全に弾け跳んだ。眼下の地球の輝きに照らされた漆黒の世界に静寂が戻る。
「効果空間内の物体――完全消滅。
再生反応も、ありません」
「そう……」
ゆうひの報告に、リンディは静かに息をつき、
「準警戒態勢を維持。
もうしばらく、反応空間を観測します」
「了解です」
リンディの言葉にうなずき――ゆうひは通信回線を開いた。
〈そういうワケやから……現場のみんな、お疲れさまや。
状況は無事に終了――街の方も、バンガードチームやプロテクトボットのみんなからの連絡によれば、管理局の災害復旧班のおかげでもうそろそろ復旧完了やて〉
「…………そうか……」
うなずくビクトリーコンボイだったが――その声色は重い。
他のみんなも一様に表情は暗く――なのははビクトリーコンボイに尋ねた。
「ビクトリーコンボイさん……
これ……勝った、って思っていいんでしょうか……?」
「あぁ。確かに勝った……
だが――これは我々の勝利ではない」
なのはに答え、ビクトリーコンボイは振り向き、
「彼女のために散っていった――リインフォースの勝利だ」
緊張の糸が切れたのだろう。ビッグコンボイにすがりつき、泣き崩れるはやてを見守りながらそう告げる――
長かった夜が――ようやく明けようとしていた。
あまりにも――大きな犠牲と共に――
(初版:2007/03/25)