「ぐ……ん…………っ!」
「しっかりしてください!」
「傷は浅いっスよ!」
 ギガロニア、地表層地下通路の一角――フレイムコンボイの肩を借りて移動しつつ、痛みに顔をしかめるマスターメガトロンに、ブリッツクラッカーとインチプレッシャーが懸命に呼びかける。
 だが――そんな二人の励ましの言葉も、今のマスターメガトロンには届かない。
(なぜだ……なぜ負ける……!
 このオレが……なぜ……!)
 その脳裏を占めるのはぬぐいがたい敗北感――そして、そんな心情を察していた者がひとり。
(マスターメガトロン……!
 辛かろう……悔しかろう……!)
 彼に肩を貸しているフレイムコンボイだ――彼もまた、アニマトロスで己の力を信じ、そして力によって敗れ去った経験がある。今のマスターメガトロンの味わっている屈辱は、痛いほど理解できた。
 と――そんな彼にマスターメガトロンが尋ねた。
「…………フレイムコンボイ……
 ダークライガージャックは、どうなった……?」
「わからん。
 メガロコンボイの一撃を受けて以来、行方知れずだ……生きているのか死んじまったのか……」
「そうか……」
 フレイムコンボイの言葉に、マスターメガトロンは足元へと視線を落とす。
(安易にリンクアップに頼ったから……
 他人の力などあてにしたから……こんな無様な目に……!)
 再び胸中で荒れ狂う屈辱感に、ろくに力の入らない拳を握り締める。
 “暗黒三騎士ダークネス・トライナイツ”とのリンクアップ、そして“闇の書”戦でのなのは達の共闘――
 その中で、彼なりに感じてきた“絆の力”――それを頑なに否定しようとしてきたその心は、この敗北でさらに確固たる物となりつつあった。
 なのは達の信じる“絆の力”を己の持つ“個の力”で打ち破り、自らの力の正当性を示す――そう意気込んで、自分はギガロニアのプラネットフォース争奪戦に乗り込んできた。
 だが、結果はどうだ――“絆の力”どころか、ギガロニアのリーダー、メガロコンボイの“個の力”に自分は打ち負かされた。
 “個の力”を信じつつ、それでも無意識のうちにリンクアップという“絆の力”を頼り、“個の力”の前に敗れ去った――そのことは、マスターメガトロンの心に深い影を落としていた。
(パワーが足りん……!
 このオレに相応しいパワーが……!)

 マスターメガトロンは、再び“個の力”の権化へと立ち戻りつつあった。
 

「……まさか、星の反対側だとはな……」
 新たにたどり着いた街を見渡し、スカイクェイクは静かにつぶやいた。
 “闇の書”の防御プログラムを取り込んだことで、彼もまた“力”に対する知覚が鋭敏化していた。ギガロニアのプラネットフォースを探して各都市を探索していたところにマスターメガトロンとメガロコンボイの戦いの気配を感じ取り、現在なのは達のいる都市に向けて移動中なのだ。
「後少しだ……後少しで、貴様を殺せる……!
 覚悟しておけよ、ビッグコンボイ!」
 その全身にみなぎるのは、もはや暴走の域に達しつつある極限の殺意――今までのスカイクェイクならば絶対に見せなかったであろうその感情を前に、後に続くレーザークロー達も声をかけられないでいる――

 だが――彼らは気づいていなかった。
 その感情に――強く反応しようとしている存在があったことに。

 

 


 

第71話
「最凶最悪!
2大大帝、転生なの!」

 


 

 

「では、さっそくだが……プラネットフォースのある最下層へ、案内してくれないか?」
 マスターメガトロン達を撃退し、次の問題はこの星のプラネットフォースだ――さっそく回収に向かうべく、ギャラクシーコンボイはメガロコンボイへとそう告げた。
 だが――メガロコンボイはそんな彼に向けて手をパタパタと振り、
「悪いが、そいつはムリだ」
「どういうこと?
 協力してくれるんじゃなかったの!?」
「おいおい、そうカッカしないでくれよ」
 ブレイズリンクスの傍らで思わず知佳が声を上げるが、そんな彼女にメガロコンボイはあわてて弁明の声を上げる。
「さっき言ったことをもう忘れたのか?
 オレ達は、『捨てた街には立ち入るな』って掟を守ってきたんだぜ。
 今回みたいなことがない限り、普通なら捨てた街にはもう二度と立ち入ることはない。つまり――」
「もしかして……街と一緒に、データも捨ててきてるの?」
「その通りだ」
 聞き返す美由希に答えるのはブレンダルだ。
「確かに、二度と街に入らないのであれば、必要のないデータでござるからな……」
「掟を守るためには、むしろ持っていてはいけないデータなんだ」
 思わず納得するメビウスショットにブレンダルが答え、一同の間になんとも言えない沈黙が下りる。
「結局、最下層への入り口はわからないのかよ……」
 ここまで引っ張っておいて、結局は振り出しか――思わず肩を落とすソニックボンバーだったが、
「……あれ?
 ちょっと待って」
 ふと首をかしげたのはジャックプライムだった。一同を見渡し、告げる。
「それって……逆に言えば『捨てた街にはデータが残ってる』ってことだよね?
 だったらそれを集めて、照合すれば……」
「ほぅ、いいカンしてるな、坊主」
 そんなジャックプライムの慧眼に感心し、メガロコンボイはギャラクシーコンボイへと向き直り、告げた。
「聞いての通りだ。
 まずはそのデータ集めをやんなきゃ、ってことだ。
 もたもたしてたらデストロンに先を越されちまう――急ごう」
「うむ」
 

 こうして、次の方針を決定したなのは達は、さっそくギガロニアの各都市へと探索に繰り出――さなかった。艦隊へと戻り、全員で何やら機材を準備し始める。
 そんな作業を傍から眺め、アリサはちょうど目の前に機材を運んできたエクシゲイザーやファストガンナーに尋ねた。
「これは……?」
「捨てた街に、データを集めに行くんじゃなかったの?」
「おいおい、アリサもすずかも、よく考えてみろよ。
 メガロコンボイ達を探す手がかりを見つけるのにだって、1週間もかかったんだぞ――また何週間もかけて、捨てた街すべてを探すつもりだったのか?」
「この星の表層は、もはや恒星クラスに匹敵するサイズだから、地球にあるすべての街を回るより、はるかに大変なことになるな」
「あ、そっか……」
「じゃあ、どうするの?」
「だから、プラネットフォースの位置を特定して、その直上に探索エリアを絞り込むんだ」
 思わず納得するすずかのとなりで尋ねるアリサに、続いて機材を運んできたバックギルドが答える。
「どうやって?」
 続けて尋ねるアリサだが――それに答えたのは彼らではなかった。
「これを使うんだ」
 そう告げ、ベクタープライムは用意の出たメインの装置にそれをセットした。
 帰りの際にスペースブリッジを開通させるため、プライマスから預かってきた――チップスクェアである。
 

「ぐぅ………………!」
 全身を襲う痛みはまだ退かず、それは自分の敗北をいつまでも示し続けている――痛みと屈辱、双方を全身で感じながら、地下に潜伏するマスターメガトロンは怒りのうめき声を上げた。
 その周囲にはすさまじいエネルギーが荒れ狂っている――マスターメガトロンの“力”が、彼の怒りに反応して発現しているのだ。
「ま、マスターメガトロン様……?」
「早く、お怪我の治療を……!」
 そんなマスターメガトロンの身を案じ、ブリッツクラッカーとインチプレッシャーが声をかけるが、周囲に渦巻くエネルギーに阻まれて近づくこともできない。
「何だ、ありゃ?」
「あれは怒りのオーラだ」
 思わずうめくモールダイブに、フレイムコンボイは肩をすくめてそう答える。
「何に怒ってるって言うの?
 ひょっとして私達?」
「だったら、オレ達はとうに無事ですんでいないさ」
 クロミアにフレイムコンボイが答えると、そんな彼らから距離を置いたところでサウンドウェーブがつぶやいた。
「自分への怒りか……」
「あぁ……
 パワーを絶対的に信じるヤツが、そのパワーで不覚を取ったのだ。
 その怒りはどれほどのものか、計り知れん……」
「け、けど、このままじゃ治療もできねぇ……ヘタすりゃ死んじまうよ!」
「フンッ、このまま死ぬようなヤツじゃねぇ」
 あわてて声を上げるブリッツクラッカーに答え、フレイムコンボイはマスターメガトロンへと視線を戻す。
 そうしている間にも、マスターメガトロンの周囲で渦巻くエネルギーはますますそのパワーを増している。
「お、おいおい……マズいんじゃないのか!?」
「おぅ。
 全員離れろ! デカいのが来るぞ!」
 うめくインチプレッシャーの言葉にフレイムコンボイが声を上げ――次の瞬間、マスターメガトロンの“力”が弾けた。周囲のすべてを薙ぎ払い、天井を吹き飛ばす!
「び、ビビったぁ……!」
「シャレになってねぇ……!」
 降り注いだガレキの下からはい出し、ブリッツクラッカーとインチプレッシャーがうめくと、ダークニトロコンボイを救出しながらモールダイブが尋ねた。
「怒るといつもあぁなるのか?」
「いや……あんなの初めて見るよ」
「しかも……まだまだ荒れそうだぞ、あの分だと」
「えーっ!? 瀕死の重傷なのに!?」
 ブリッツクラッカーとフレイムコンボイの答えにクロミアが声を上げると、
「まったく、付き合いきれんな」
 うめいて、立ち上がったサウンドウェーブは身体のほこりを払い、
「収まったら教えてくれ!
 トランスフォーム!」

 ステルスジェット機へとトランスフォーム。キラーコンドルと共にそそくさとその場を後にした。

(パワーだ……!
 パワーが足りない……!)
 だが――そんな周囲の戸惑いなど、マスターメガトロンにとっては何の意味も持たなかった。
(オレが持つべきパワーは、こんなものではない……!)
 彼にとって、今大切なのは自らの存在意義を支えられるだけの絶対的なパワーへの渇望――
(足りない……足りないぞ……!
 もっと、圧倒的な――絶対的なパワー……!
 この手に――)
 

「パワーを、この手に!」
 

 その感情に、“それ”は人知れず反応した。
 まるでその想いに呼応するかのように“力”が鼓動を刻み――それはさらに、対となる存在にも影響を及ぼして――
 

「――――――っ!?
 プラネットフォースが、反応している……!?」
 最終的に、その影響は彼らの元へ――目の前で反応を始めた、チップスクェアに収められた3つのプラネットフォースを前に、ベクタープライムは思わず声を上げた。
「探査に成功したのか?」
 尋ねるギャラクシーコンボイだが、その問いにベクタープライムは首を振って答えた。
「いや……反応したのは別の何かだ。
 しかも……その“別の何か”はさらに別の――何者かの強い感情に反応している」
 

「む………………?」
 もはや、目標の街は目と鼻の先――上空を一直線に飛翔していたスカイクェイクは、ふと“それ”を感じて動きを止めた。
「どうしたんスかー?」
 地上を追走していたレーザークローが尋ねるが、スカイクェイクは答えない。
「感じる……
 すさまじい怒りの……憎しみの爆発……」
 そうつぶやいたとたん――
「――――――っ!?」
 突然自分の中でざわめくものがあった。思わず自らの両肩を抱きすくめる。
(“闇の書”が、この感情に反応しているのか……!)
「なめるな……! 貴様の思惑など知ったことか……!」
 強烈な怒りの感情に反応し、自らの中で脈動を始めた“闇の書”の防御プログラム――だが、そんな反応をスカイクェイクは一蹴する。
「オレの望みはただひとつ――
 ビッグコンボイを打ち倒し、我が誇りを取り戻すことだ!
 貴様は黙って――オレに使われていればいいんだ!」
 声に出し、咆哮するスカイクェイク――その周囲に巻き起こった漆黒の“力”が、全身にまとわりついていく。
「オレは最強の戦士だ……!」
 その両足が――
「誰にも負けるはずがない……!」
 その両腕が――
「それを、この手で証明してくれる!」
 全身が、からみついた“力”によって変質していく。
「オレは――もはやかつてのオレ、スカイクェイクではない……!
 “闇の書”の“力”を取り込んだからと言って、その名を継ぐつもりもない……!
 オレは……全宇宙の覇者となる者……!
 そうだ、オレは――――!」
 

「感じるぞ、パワーの源……!」
 つぶやき、マスターメガトロンは“それ”に向けて手をかざした。
 発動した、ギガロニアのプラネットフォース――にではない。
 その発動を促した、最初に自分の感情に反応したものに、マスターメガトロンは反応していた。
「そのパワー……このオレによこすのだ!」
 だが、そんなことはマスターメガトロンにとってはどうでもいい。ただその力を欲するのみ――
 その強すぎる執念は、“それ”と自分との間で強くリンクした。もはや距離も間の階層の隔たりも関係なく、その命の根源――スパークの段階で強く結びついていく。
 そのリンクに導かれ、マスターメガトロンの意識ははるか地下へと――“それ”の元へと飛んだ。目の前に現れた、茶色に染められ、金色の縁取りで飾られたギガロニアのフォースチップへと手を伸ばす。
 だが――届かない。あまりにも強すぎる反応が障害となり、伸ばしたその手が弾かれてしまう。
「抗うか……抗うのか、このオレに……!」
 その反応は、怒りに取り付かれたマスターメガトロンには反逆としてしか見られなかった。自らの意識を導いておきながら自らとの接触を拒んだ“それ”にさえも、殺意に満ちた視線を向ける。
「許さん……許さん……!」
 

「許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 

 怒りのままに、もう一度手を伸ばす――マスターメガトロンの意識体は渦巻くエネルギーを突き破り、ついに“それ”へと接触。両者の反応がさらに強まっていく。
 荒れ狂うエネルギーの渦の中、“それ”はゆっくりとマスターメガトロンの意識体の中に飲み込まれていき――

 次の瞬間、解き放たれた“力”は地上へと吹き出し、巨大な裂け目を作り出していた。

 

「……もう間違いない。
 プラネットフォースの位置は特定できた」
「そうか……」
 チップスクェアの反応が収まり、告げるベクタープライムの言葉にギャラクシーコンボイは静かにうなずいた。
 だが、その表情は優れない。理由はもちろん――
「けど……プラネットフォースは何に反応したんだろ……?」
「何かに反応して、しかもそれもまた別の何かに反応してて……」
 顔を見合わせ、アリサとフェイトがつぶやくと、ベクタープライムもまた複雑な表情で告げる。
「プラネットフォースの発動を促した“何か”――それを呼び覚ました者は、その“何か”をその内に取り込み、強大な力を引き出したようだ」
「発動させた方から? プラネットフォースからじゃなくて?」
「うむ」
 思わず尋ねるジャックプライムにベクタープライムが答えると、
「…………えっと……」
「何か気づいたのか、なのは?」
「あ、いえ……ちょっと状況を整理しようと思って……」
 ポツリ、とつぶやいたのはなのはだった。尋ねるギャラクシーコンボイへと向き直り、答える。
「今のベクタープライムさんの話だと、まず誰かが“何か”を発動させて、その“何か”の発動に反応して、ギガロニアのプラネットフォースが発動した……ってことですよね?
 そして――ベクタープライムさんはギガロニアのプラネットフォースの発動にチップスクェアが反応したから、そのことに気づいた……
 つまり、最初に誰かの強い思いに反応して“何か”が発動、その後ギガロニアのプラネットフォースに、チップスクエアに……って具合に、順番に反応が連鎖してる……」
「…………あれ?
 ちょっと待って、なのは」
 その言葉に首をかしげ、声を上げたのはアリサだった。
「最後の二つ――ギガロニアのプラネットフォースとチップスクェアの連動はわかるわよ。同じプラネットフォースだもん。
 けど、“何か”とギガロニアのプラネットフォースの間の連鎖はどう説明するの? 誰かの感情に反応した、っていう点はプラネットフォースと共通してるけど、ギガロニアのプラネットフォースの他に、別のプラネットフォースなんて……」
 言いかけて――アリサは動きを止めた。その顔から血の気が引いていく。
「…………まさか……ひょっとして……」
 この推測が外れていて欲しい――そんな想いと共に、言葉をつむぐ。
 そう――自分達は知っている。
 プライマスの5つのプラネットフォース以外にも、宇宙にはプラネットフォースが存在していることを。
 プライマスのそれと対を成す、“もうひとつのプラネットフォース”、それは――

「ユニクロンの、プラネットフォース……!?」

 

 だが、せっかくたどりついた仮説も確認する術は彼女達にはなく――ともかく、なのは達は現在できること、すなわちギガロニアのプラネットフォースへの道を探し出すことを優先した。手分けして、地下に向かう道を探し出すためのデータ収集を開始した。
 

「そらそらそらそらぁっ!」
 トリッキーな機動はお手の物――素早くビルの間を駆け抜け、ソニックボンバーは街中を飛翔する。
「あ、危ないって、ソニックボンバー!」
「大丈夫だって! この程度!」
 そのライドスペースでは、次々に眼前に迫るビル群にクロノが大慌て――思わず抗議の声を上げるが、ソニックボンバーは涼しい顔でそれに答える。
「だいたい、後ろの嬢ちゃんはぜんぜん平気だろうが!」
 そう告げるソニックボンバーに、クロノは後ろの席へと視線を向け――
「せやせや♪ こんなの、絶叫マシンみたいなもんやて♪」
「いや……そもそも、なんでついて来てるのかをボクは聞きたいんだが……」
「そんなの、直接現場でデータ分析した方が早いからに決まっとるやん♪」
 後ろの座席で上機嫌なのはゆうひだ――クロノの抗議の声にも、満面の笑みで答えてくれる。
 と――
「ソニックボンバー!
 遊びじゃないんだ、真面目にやれ!」
 説教と共に追いついてきたのは、志貴を乗せたドレッドバスターだ。
 だが――彼の説教がソニックボンバーに通じるはずもないのは、すでにわかりきったことでもあるワケで――
「うっせぇな、素早くビルをチェックして回ってんだろうが!
 そっちこそ、トロトロやってると、置いてくぜ!」
「何だと!?
 待て、ソニックボンバー!」
「って、ちょっと、ドレッドバスター!?」
 むしろ挑発されてムキになる始末だ。志貴が声を上げるのにもかまわず加速、ソニックボンバーを追い抜いてみせる。
「どうだ!」
「なんの!」
 だが、ソニックボンバーも負けてはいない。すぐに追いつき、二人はビル群を駆け抜けていく。
「やれやれ……二人とも子供ねぇ」
 そんな彼らの様子に、アイリーンはジェット機モードのブロードキャストのライドスペースで思わず苦笑した。
「止めなくていいの? ブロードキャスト」
「まぁ、活気はないよりあった方がいいからな。
 むしろオレも混ざりたいんだけど……ダメか?」
「ダメに決まってるでしょ」
 ブロードキャストに答えて、アイリーンは思わず肩をすくめてみせる。
「アンタに振り回されるのはヲタクネタだけでたくさんよ。
 もしあの中に混ざったりしたら、もうアニメのDVD仕入れてきてあげないから」
「う゛っ………………了解しました……」

「これでどうだ!」
 生じたスキは渡り廊下をかわしたほんの一瞬――だが、そのスキを逃さず、ドレッドバスターはソニックボンバーをかわして距離を広げる。
「ハッハッハッ! 口ほどにもないな!」
「まったく……」
 もはやすっかりノリノリだ。勝ち誇るドレッドバスターの高笑いに、志貴は思わずため息をつき――
〈ドレッドバスター、そっちはどうだ?〉
「あ、いえ……こちらはまだ、何も発見できていません!」
 突然通信してきたギャラクシーコンボイの問いに、我に返ったドレッドバスターはあわててそう答える。
〈………………?
 どうかしたのか?〉
「い、いえ……なんでもありません!」

「…………まぁいい。
 引き続き、よろしく頼む」
〈了解しました〉
 答え、どこか焦った口調のドレッドバスターは通信を切った――思わず首をかしげるギャラクシーコンボイだったが、すぐに意識を切り替えて上空から降下してきたなのはに声をかける。
「どうだ? 何か見つかったか?」
「ダメです……
 広域サーチも試してみましたけど、今のところ、地下に続いてそうなルートは……」
「そうか……」
「ま、気長に探すしかないさ」
 息をつくギャラクシーコンボイにメガロコンボイが答えると、
「ギャラクシーコンボイ」
「大変だ!」
 突然、ベクタープライムとスターセイバーがあわてた様子で駆けてきた。
「どうした?」
「ガードシェルや真雪達の応答がないんだ」
「えぇっ!?」
 答えるベクタープライムの言葉に、なのはは思わず声を上げた。
 『応答がない』――それはつまり、妨害されているとかそういうことではなく、つながった通信に対して向こうからの答えがない、ということだ。
 ということは――
「ガードシェルと真雪は誰と組んでいた?」
「ライガージャックとアルクェイド、ファングウルフとアルフだ」
 尋ねるギャラクシーコンボイにスターセイバーが答えると、すぐにプリムラが通信を試みた。
《ガードシェル! 真雪姉! 応答して!》
 

《ライガージャック! アルク姉! ファングウルフ! アルフ!
 誰か答えてよ!》
 プリムラの通信は確かに届いている――だが、その言葉に答える者は誰ひとりいない。
 なぜなら――

「…………力試しにもならんな」

 そうつぶやく何者かによって、完膚なきまでに叩きのめされていたのだから。
 

「…………大丈夫。命に別状はない」
「そう……ですか……」
 ガードシェルを診断し、告げるベクタープライムに、リンディは沈痛な面持ちでうなずいた。
 彼らが襲われたのを知り、ギャラクシーコンボイはすぐに艦隊と連絡を取り、最寄にいたアースラがその場に急行した。格納庫へと運ばれていくガードシェル達を、なのは達はリンディと共にただ回復を祈って見送るしかない。
「それにしても、一体何が……?」
 一体誰に襲われたのか――思わず考え込み、ギャラクシーコンボイがうめくと、
「なのは!」
 声を上げ、駆けてきたのはビークルモードのジャックプライムだ――目の前で停車すると、すぐにその中からフェイトが飛び出してくる。
「アルフは!?」
「大丈夫。命に別状はないって……」
「そ、そうなんだ……」
 答えるなのはの言葉に、安心して緊張の糸が切れたのか、フェイトはその場にへたり込む。
「いきなりリンクが切れて、わたしの方からも何回も呼びかけてたんだけど……」
《いきなり切れちゃったの? リンクが?》
 つぶやくフェイトにプリムラが尋ねると、
「だろうな。
 おそらく勝負は一瞬だったはずだ」
 そう答え、メガロコンボイは周囲を見回した。
「辺りが破壊されていない――戦いが長引かなかった証拠だ」
「彼らを相手に、一瞬で勝負を……?
 信じがたい話ですね……」
 メガロコンボイの言葉にリンディがうめくと、
〈こちらグレートショット!〉
〈ギャラクシーコンボイ、聞こえるか!?〉
 そこへ、グレートショットや一角が通信してきた。
〈またやられた! 今度はガーディオンやさつきちゃんが!〉
「なんだと!?」
 一角の言葉にギャラクシーコンボイが声を上げると、
「ギャラクシーコンボイ。
 シックスナイトと美沙斗も、ダイリュウジンと都古がやられているのを見つけたそうだ」
「ち、ちょっと待ってよ!」
 告げるベクタープライムの言葉に、ジャックプライムは思わず声を上げた。
「みんな、散り散りにデータを集めてるんだよ!
 バラバラに動いてるのに――それがなんで、こうも次々に!?」
「うむ……」
 ジャックプライムの言葉に答えることができず、ギャラクシーコンボイは思わず天を仰いだ。
 

 だが――そうしている間にも襲撃は続いた。
 

「く………………っ!」
「何だってんだ!」
 ビークルモードでハイウェイを疾走――うめき、さらに加速するニトロコンボイとロディマスブラーだったが、追走してくる“影”はピッタリとくっついて離れない。
「ブラー達が、振り切れないなんて!」
「何てスピードだ!?」
 それぞれのライドスペースで美緒や耕介がうめき――次の瞬間、“影”が爆発的に加速、ニトロコンボイとロディマスブラーを弾き飛ばす!
『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
「おっと!」
 強烈な衝撃で吹き飛ばされるニトロコンボイ達――空高く弾き飛ばされた彼らを受け止めたのはブレンダルだった。
 ニトロコンボイ達の反応はない――内部の耕介達もろとも、今の体当たりの衝撃で完全に意識を刈り取られている。
「バケモノか、ヤツは!?」
 うめき――それでも左腕のエネルギーミサイルを放つが、“影”はビークルモードからロボットモードへとトランスフォーム。ミサイルをかわしてこちらに向かってくる。
「ちぃっ!」
 素早くニトロコンボイ達を大地に下ろし、“影”に向かって右腕のセメントタンクを叩きつけるブレンダルだが――
「――――――片手だと!?」
 “影”にはまったく通じない。何事もなかったかのように片手で受け止められ、ブレンダルは思わず声を上げる。
 そして、“影”はそのままブレンダルを振り回し――力任せに大地に叩きつける!
「………………つまらん。
 もっと骨のあるヤツはいないのか……」
 いともたやすく彼らを一蹴し――それでも“影”にとっては満足のいく結果ではなかったようだ。退屈そうにそうつぶやき――そのままその場を去っていった。
 

「こ、こいつぁ……!?」
 ニトロコンボイ達が襲われた現場に駆けつけたのもなのは達だった――大地に叩きつけられ、巨大なクレーターの中心に埋まるブレンダルの姿を前に、メガロコンボイは思わずうめいた。
「ブレンダルがここまでやられるとは……
 一体、どんなパワーをしてやがるんだ……!?」
 うめくメガロコンボイの背後では、ギャラクシーコンボイやなのは達がニトロコンボイを介抱していた。
「大丈夫か?
 一体、誰に襲われたんだ?」
 尋ねるギャラクシーコンボイの問いに、かうじて意識を取り戻したニトロコンボイが答えた。
「ま、マスターメガトロンが……」
「マスターメガトロンが!?」
「だが…………!」
 驚くギャラクシーコンボイに答えかけ――だが、それが限界だった。ニトロコンボイは再び気を失い、カメラアイから輝きが消える。
「……『だが』……?
 マスターメガトロンが襲ってきたこと以外に、まだ何かあるんでしょうか……?」
 最後のニトロコンボイが告げかけたことが気になり、メガロコンボイに乗って同行してきていたリンディが思わず考え込むと、
〈こちらジャックプライム!
 なのは、ギャラクシーコンボイ、聞こえる!?〉
 通信してきたのは、スターセイバー達と共に他の襲われた面々の元に向かっていたジャックプライムだ――彼に代わり、フェイトがなのは達に告げる。
〈今度は、シルバーボルトやブラッカー、レールスパイクがやられてた……
 今、転送魔法でマキシマスに搬送したところ〉
〈みなみさんが意識があったから、転送する前に少し話を聞いたんだけど……襲ってきたのは見たことのないトランスフォーマーだったらしいよ〉
「なんだって!?」
「えぇっ!?」
 フェイトの、そしてジャックプライムのその報告に、ギャラクシーコンボイとなのはは思わず顔を見合わせた。
 こちらはマスターメガトロン、そして向こうはまったく未知のトランスフォーマー、襲撃犯の目撃情報がまったく違うのはどういうことか。
 単純に考えれば複数犯、という見方だろうが、こうも次々に仲間達を薙ぎ払うほどの実力者が、マスターメガトロンの他にいるとは正直考えられない――と言うより考えたくない。
 ともかく――
「このまま分散しているのはマズいな……」
「そう、ですね……」
 うめくベクタープライムの言葉になずき、リンディはギャラクシーコンボイに告げた。
「残ったメンバーを呼び集めましょう。
 このままでは、ひとり残らず確固撃破されてしまう可能性も……」
「……そうだな。
 全員に連絡し、集結させよう」
 リンディの言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイは通信回線を開いた。
 

「なー? データ見つかった?」
〈まだですね。
 もっと奥だと思います〉
 尋ねるゆうひに、クロノは通信の向こうでそう答える。
 現在位置は彼らの立ち寄った都市のコントロールルーム――メインシステムのデータチップを探し、クロノが内部に潜り込んでいるのである。
 最初「小回りの利くサーチャーを使えばいいのでは?」と提案したゆうひだったが、それは他ならぬクロノによって却下された。こういった奥まったところの探索は、サーチャーではその小回りがむしろ災いして見落としが出やすいため、やはり目視による確認が一番なのだそうだ。
「うーん……ホンマに残っとるんかなぁ……?」
「このコンピュータは、おそらくこの街を統括していたもののはずだ。
 必ずデータは残っているはずだ」
「あー、せやなくて……」
 答えるブロードキャストの言葉に、ゆうひは困ったように頬をかき――彼女の意図を読み取ったアイリーンが告げた。
「ゆうひさんが心配してるのは、データが破棄されていないか、ってことよ。
 ギガロニアのトランスフォーマーにとっては、街を捨てた時点でもう要らなくなるデータなんだもの。破棄されてる可能性は0じゃないわ」
「なるほど……一理あるな」
 アイリーンの言葉にソニックボンバーが納得すると、
「その作業は一時中止だ」
 言って、外に出ていたドレッドバスターが戻ってきた。
「どないしたん?」
「ギャラクシーコンボイ総司令官から通信が入った――集合命令だ」
 ゆうひに答えると、ドレッドバスターはクロノの潜り込んでいるすき間にも声をかける。
「クロノ、戻ってくれ。
 集合命令が出たんだ」
「そ、そんなこと言われても、こう狭くちゃ……!」
 ドレッドバスターの言葉に思わずうめき――そんなクロノの視界に、わずかだが奥の様子が見えてきた。
 幾分開けた場所になっているようだ。そこまで行けば反転することができそうだ。
「奥が開けてる! そこまで行ってから反転して戻る!」
「あー、せやったら一緒にデータチップも回収してきてねー♪」
「……はいはい……」
 ゆうひの言葉にため息まじりにうなずき、クロノはさらに奥へと進んでいった。
 

「ぐわぁっ!」
「きゃあっ!」
 すさまじい衝撃と共に弾き飛ばされ――すずかを乗せたエクシゲイザーは大地に叩きつけられた。
 彼らだけではない。バックギルド、ファストガンナー、ロングマグナス、ハイブラスト、そしてメビウスショット――バンガードチーム全員が、パートナーもろとも完膚なきまでに打ちのめされ、沈黙の中に沈んでいる。
 立ち向かう者がいなくなり、一撃の主は周囲を見回した。
「……歯ごたえのないヤツばかりだ……」
 倒れ伏すバンガードチームの面々に対して、さして興味もなさそうにそうつぶやくと、彼は悠々とその場を立ち去っていく。
 だが――エクシゲイザーのライドスペースの中、すずかは薄れ行く意識の中で彼のもらしたつぶやきを聞き取っていた。
 

「ビッグコンボイ……どこにいる……!?」
 

「全員一撃かよ……!?」
 圧倒的なパワーを見せつけるその姿は、後に続く彼らも目の当たりにしていた。そうつぶやき、タートラーはレーザークローと顔を見合わせる。
 なぜ彼らが謎のトランスフォーマーと行動を共にしているのか? その答えは――
「一体どうなっちまったんだ? スカイクェイク様は」
「わからん。
 転生した、と考えるのが自然だろうが……」
 尋ねるハングルーに答え、レーザークローは謎のトランスフォーマーへと視線を戻す。
 そう――マスターメガトロンの異変に呼応し、活性化した“闇の書”の防御プログラムと、それを押さえ込もうとしたスカイクェイクの強靭な意志――主導権を奪われ、行き場を失った防御プログラムの“力”は、スカイクェイクの身体を更なる形態へと作りかえたのだ。
「どうする?」
「ふむ……
 スカイクェイク様に何が起きたのかはわからんが……しばらくは様子見に徹するべきだろう」
 そうタートラーに答えると、レーザークローは仲間達を先導してスカイクェイクの後を追う――そんな彼らをしばし見送り、サウンドブラスターはビークルモードにトランスフォームし、彼らの後を追っていった。
 

「お待たせ。
 データチップも一緒だ」
「はい、ご苦労様♪
 あー、もう。すすだらけやないの」
 なんとか仲間達の元へと戻ってきて、告げるクロノを労うと、ゆうひは彼の頬にこびりついたすすをぬぐってやる。
「よし。
 では、総司令官のもとへ――」
 そうドレッドバスターが言いかけた時だった。
〈ドレッドバスター〉
 一足先に外に出ていたソニックボンバーから通信が入った。
 だが、その声色は彼らしくなく深刻そうで――思わず眉をひそめ、ドレッドバスターは尋ねた。
「…………どうした?」

「今回は、素直にお前に従って、すぐに離脱すべきだったのかも、だ」
〈どういうことだ?〉
「どうやってこっちの宇宙に来たのか知らないが――ホラートロンだ。
 だが……」
 尋ねるドレッドバスターに答え、ソニックボンバーは眼下の“それ”へと視線を向けた。
「何なんだ、ありゃ……!」
 そううめくソニックボンバーがにらみつけるのは、レーザークロー達を引き連れた、“何か”だった。
 全身が真っ黒な、まるで影のようなエネルギーの渦に包まれ、その全容はハッキリと確認できない。
 いずれにせよ、危険な相手であることは確かなようだ――ソニックボンバーはブロードキャストやそのライドスペースのアイリーンと視線をかわし、クロノ達と共に外に出てきたドレッドバスターに告げた。
「ドレッドバスター、ここはオレ達で時間を稼ぐ。
 その間に、データチップとゆうひを安全なところに!」
 告げると同時、ソニックボンバーはビークルモードへとトランスフォーム。ブロードキャストと共にホラートロンに向けて突撃する!
 だが――“影”もまたそれに対抗するように跳躍した。ドラゴン型のビーストモードへとトランスフォームし、ソニックボンバーと交錯し――すれ違った衝撃だけで、ソニックボンバーはまともに弾き飛ばされた。すぐそばのビルの中へと叩き込まれる!
「ソニックボンバー!
 ブロードキャスト!」
「あぁ!」
 うめくアイリーンに答え、ブロードキャストが突撃する勢いで飛び蹴りを放つが――“影”はロボットモードにトランスフォームしてそれを受け止める。
 そして――まるで押しのけるように投げ飛ばし、大地に叩き込む!
 その勢いのまま、“影”は一気にビルの屋上へと飛び上がると、ドレッドバスターの反応すら許さず背後の壁へと叩きつけ――そこでようやく口を開いた。
「ビッグコンボイはどこだ……?」
「き、貴様……!?」
 その言葉に、ドレッドバスターの脳裏にある可能性がよぎった。
 ホラートロンを引き連れ、ビッグコンボイを探している目の前のトランスフォーマー。もしかしたら――
「貴様……スカイクェイクか……!?」
「さぁて、な!」
 うめくドレッドバスターに答えると、スカイクェイク“と思われる何者か”は彼の顔面をつかんだまま、その頭部を大地に叩きつける!
 そして、ドレッドバスターを踏みつけ、さらに尋ねる。
「もういちど聞く――ビッグコンボイはどこだ?」
「そんなの知るワケあらへんわ! 別行動中なんやから!」
「知ってたって、教えるか!」
 ドレッドバスターに代わって反論したのはゆうひだ――志貴と共に彼女をかばい、クロノもまた気丈に言い放つ。
「ほぉ……いい度胸だ」
 だが、それも“影”にとっては戯言に過ぎなかったようだ。不適な笑みと共に告げると、ドレッドバスターを放してクロノ達と対する。
 頭上に右手をかざし、そこに光が生まれ――

 次の瞬間、爆発が襲ったのは“影”の方だった。
 飛来したビームが、“影”の胸部を直撃したのだ。
 その一撃の主は――
「そこまでだ、スカイクェイク!」
「これ以上は、やらせません!」
 フライトビークルモードのギャラクシーコンボイと、その上でレイジングハートをかまえたなのはだ。
 だが――
「スカイクェイク、だと……?」
 その言葉を、“影”は不敵な笑みと共にあざ笑った。なのは達に向けて跳躍し――ギャラクシーコンボイの運転席部にカカト落としで一撃。とっさに彼をかばい、ラウンドシールドで受け止めるなのはだが、“影”の全体重をかけた一撃は二人をまとめて大地に叩きつける!
「ぎ、ギャラクシーコンボイとなのはまで一撃かよ!?」
 目の前に落下してきたなのは達の姿に、思わずハングルーが声を上げる――そんな彼らとなのは達の間に、“影”が勢いよく着地する。
「ギャラクシーコンボイ!」
「嬢ちゃん、無事か!?」
 あわててギャラクシーコンボイやなのはの元にベクタープライムとメガロコンボイが駆けつける――ベクタープライムに助け起こされ、ギャラクシーコンボイは“影”をにらみつけた。
「く………………っ!
 スカイ、クェイク……!」
 だが――そんな彼の言葉に、“影”は静かに告げた。
「残念だったな、ギャラクシーコンボイ。
 スカイクェイクはもういない――オレは新たなパワーを得て、生まれ変わったのだ」
 そう告げる“影”の言葉に、全身を覆う漆黒のエネルギーはまるで彼の姿を見せつけるかのように消えていく。
 そして――新たな姿となったスカイクェイクは高らかに新たな名を名乗った。
 

「オレの名は――覇道大帝、デスザラス様だ!」
 

「デス、ザラス……!?
 まさか……スカイクェイクさんも転生しちゃったの……!?」
 目の前に圧倒的な存在感と共に立ちはだかる、新たな姿となったスカイクェイク――デスザラスの姿に、なのはの頬を冷や汗が伝う。
「しかし、オレもよくよく運が悪い……
 貴様らには用はない――オレが用があるのはビッグコンボイのみ」
「ビッグコンボイを探していたのか……!?
 では、狙いは彼への雪辱か!」
 デスザラスの言葉にうめき、とっさにかまえるベクタープライムだが、
「おっと、そういきり立つな。
 安心しろ。このオレの前に現れた以上、貴様らも全員オレひとりで相手をしてやる」
「フンッ、ずいぶんと大きな口を叩くじゃないか」
 告げるデスザラスに言い返し、メガロコンボイはその眼前に立ちはだかり、
「どこのどいつか知らないが――このギガロニアで好き勝手はさせねぇぜ!」
 咆哮と同時、メガロコンボイは渾身の力でメガロアックスを振り下ろし――
「なかなかのパワーだな」
 悠々とそう答え――デスザラスはその一撃を人さし指一本で受け止めた。しかも、まるでそれが発泡スチロールで作られたハリボテであるかのように、そのまま押し返して見せる。
「な、何だと!?」
「どうした? もう終わりか?」
「なんの、なめるな!
 フォースチップ、イグニッション!」
 余裕の態度と共に告げるデスザラスの言葉に、メガロコンボイは負けじとフォースチップをイグニッションし、
「これならどうだ!
 メガロ、クラッシュ!」
 メガロアックスをかまえ、必殺の一撃が放たれ――
「ムンッ!」
 その一撃すら、デスザラスは片手で受け止めた――強烈な一撃の反動で、逆にメガロコンボイの巨体が宙に浮き上がる!
「ば、バカな……!?」
「このパワー……どうやら貴様がこの星のコンボイのようだな」
 うめくメガロコンボイに告げ、デスザラスは攻撃を受け止めたその手でメガロアックスをつかみ、続ける。
「だが――まだまだ視野が狭い。
 パワーとボディの大きさは必ずしも一致しない――今のオレとお前のようにな!」
 言って、デスザラスはメガロアックスを奪い取り――
「そうら――忘れ物だ!」
「ぐわぁっ!?」
 投げつけられたメガロアックスの直撃を受け、メガロコンボイが吹き飛ばされる!
「そんな……! メガロコンボイさんが……!」
「どうした? もう来ないのか?」
 メガロコンボイを悠々と一蹴し、デスザラスは驚愕するなのはに告げ――
「それなら――!」
「遠慮なく、行かせてもらうぞ!」
 突然の宣言は頭上から――次の瞬間、
「ストーム、カリバー、ブレイカー!」
「飛燕、煉獄斬!」

 上空から急降下してきたキングコンボイとスターセイバーが、デスザラスに渾身の一撃を叩き込む!
「フェイト!」
「シグナム!」
「うん!」
「応っ!」
 しかも、それで終わりではない――二人の呼びかけに答え、フェイトとシグナムが突っ込み、
「紫電、一閃!」
「アックス、セイバー!」

 二人の斬撃が、爆煙の向こうのデスザラスを直撃する!
 だが――
「それで、終わりか?」
『な――――――っ!?』
 刃はまったく通っていない――炎をまとったレヴァンティンの刃とバルディッシュの光刃を額に受け、それでも平然と尋ねるデスザラスの問いに、シグナムとフェイトの表情に驚愕が走る。
「そんな…………!?」
「傷ひとつ、つけられないだと……!?」
「残念だったな。
 だが、貴様らが現れたということは――」
 うめくフェイトとシグナムに告げ、デスザラスの口元に危険な笑みが浮かび――
「そこの二人、どけ!」
 新たな声に、フェイトとシグナムはとっさに離脱し――
「ビッグキャノン、GO!」
 降下しながら放たれたビッグコンボイのビッグキャノンが、デスザラスを直撃する!
「これなら、どうだ……!」
「大丈夫。
 ビッグコンボイの一撃をまともに喰らったんや。無傷なはずが……!」
 着地し、うめくビッグコンボイにライドスペースに座るはやてが答えるが――
「………………フンッ。
 貴様の自慢のビッグキャノンも、今となってはこの程度か」
 爆煙の中から現れたデスザラスには傷ひとつついていない。
「なんてバケモノだ……!」
「反則が過ぎるやろ、こんなの……!」
「オレとしてもそう思うぞ。
 おかげでどいつもこいつも歯ごたえがない」
 うめくビッグコンボイとはやてに答え、デスザラスは一歩踏み込み――次の瞬間、その姿が消えた。
 いや――すさまじい加速と共に、ビッグコンボイの眼前に飛び込んだのだ。
 そのまま、反応の間に合わないビッグコンボイに向けて拳を繰り出し――
 

「………………何っ!?」
 そこで初めて、それまで余裕満面だったデスザラスの表情に驚愕が走った。
 止められたのだ。確実にビッグコンボイを捉えると思われた、その拳が。
 一撃を止めたのは、新たに飛び込んできた何者かの左手――次の瞬間、カウンターとして放たれた拳の一撃を受け、デスザラスが弾き飛ばされる!
 そして――ビッグコンボイの前にそれは降り立った。
 マスターメガトロンだ――だが、その全身はまるで先ほどのデスザラスのように漆黒のエネルギーに包まれている。
 その姿はエネルギーの渦によって完全に周囲の目からさえぎられており、シルエットによってしか彼だとはわからないほどだ。
「ま、マスターメガトロン……!」
「一体、何が……!?」
 突然のマスターメガトロンの乱入――彼の身に起きている異変も含め、わからないことが多すぎる。警戒を解かないまま、ビッグコンボイとはやてがうめき――
「マスターメガトロン……
 そんな負け犬の名など……とうに捨てたわ!」
 苛立たしく言い放ち――次の瞬間、マスターメガトロンはビッグコンボイを振り向きざまの一撃で弾き飛ばす!
「ヤツはオレの獲物だ。
 そして――貴様らサイバトロンもオレの獲物だ」
 そう告げると、マスターメガトロンは改めてデスザラスへと向き直り、
「どうやらプラネットフォースの力ではないようだが……貴様も転生を果たしたということか。
 だが……オレの獲物であるメガロコンボイを横取りしてくれたのは、やりすぎたな。余計なジャマをしおって……」
「それはお互い様だろう。
 ビッグコンボイは、この新たな力でオレが倒す――ジャマをした以上、貴様もオレに斬られて散れ!」
 告げるマスターメガトロンに答え、デスザラスは堂々と彼と対峙する。
「ゆくぞ、マスターメガトロン!」
「フン……転生しても武人バカはそのままか。
 その名は捨てたと言っただろうが」
 告げるデスザラスに答え、マスターメガトロンは彼に向けて一歩を踏み出す。
「では改めてその新たな名を聞こうか」
「聞いてどうする?」
「墓標が名無しでは貴様も困ろう」
「……いいだろう」
 デスザラスとお互い不敵な笑みと共に言葉を交わし、同時に全身の“闇”を振り払い――全身が白く染め抜かれたマスターメガトロンは高らかに名乗りを上げた。
「オレの名は――」
 

「超破壊大帝――マスターガルバトロンだ!」

 

 

 ユニクロンのプラネットフォースを取り込んだマスターガルバトロン――
 

 そして、“闇の書”の防御プログラムを取り込んだデスザラス――

 

 

 最凶にして最狂の二人の激突が、今まさに始まろうとしていた。


 

(初版:2007/05/04)