「マスターガルバトロン、か……」
高らかに新たな名を名乗ったマスターメガトロン改めマスターガルバトロン――その姿を眺め、追いついてきたフレイムコンボイは思わずその名を反芻した。
(敗北にまみれた名に未練はない……それは向こうの、デスザラスとやらも同様か……
だが……)
追いついてくるブリッツクラッカー達の気配を感じながら、胸中でつぶやく。
(敗北したからこそ、得られるものもあろう……
名を改め、敗北を遂げた自分と決別し――それで貴様らは、本当に強くなったのか……?)
と――
「あぁぁぁぁっ! お前ら!」
その姿を見つけ、声を上げたのはホラートロンのタートラーだ。
「やはり、お前らもいたか……
しかし、貴様ら、どうやってこの宇宙に……?」
「ちょうどいい水先案内人を見つけてな」
尋ねるフレイムコンボイに答え、レーザークローが視線で示したのはサウンドブラスターだ。
だが――その姿にフレイムコンボイは眉をひそめた。ムリもない。自分達の陣営にいるサウンドウェーブに、色こそ違えど瓜二つなのだから。
思わず背後に視線を向けるが――サウンドウェーブは確かにそこにいる。別人であることは間違いないようだ。
だが――二人の関係をフレイムコンボイが問いただそうとするよりも早く、サウンドブラスターは懐からマイクを取り出した。サウンドウェーブと同じようにマイク越しにしゃべるのかと眉をひそめたフレイムコンボイだったが――直後、不思議なものを見た。
レーザークロー達が突然耳をふさいだのだ。どういうことなのかと眉をひそめると、そんな彼の目の前でサウンドブラスターがまるで大きく息を吸うかのように胸をそらし――
「いかにも! オレがホラートロンの水先案内人、サウンドブラスター!」
直後、渾身の力で絶叫した。マイクによって増幅された大音量が周囲のビルをも震わせる。
「我がサウンドは滅びの調べ! 恐れぬならばかかってこい!
全身全霊を持ってお相手しよう!」
「やかましいわ!
絶叫せずにしゃべると死ぬとでも言うのか、このフォルテシモ野郎!」
大音量でわめき立てるサウンドブラスターに叫ぶが――フレイムコンボイの声は大音量の中に虚しくかき消えていくのだった。
第72話
「誇りと怒りの一撃なの!」
「オレの名は――超破壊大帝、マスターガルバトロンだ!
我が名をその魂に刻み込め――貴様を、そしてサイバトロンどもを叩きつぶす男の名だ!
フォースチップ、イグニッション――デス、クロー!」
咆哮と同時、デストロンマークの刻まれたフォースチップが飛来した。左肩のチップスロットに飛び込み、その左腕にデスクローを装備させる。
「それがどうした!
フォースチップ、イグニッション!」
対し、デスザラスも――背中のチップスロットに青紫色のフォースチップをイグニッションし、
「デス、テイラー!」
デスザラスの胸部装甲が分離――さらにそれが変形し、デスザラスの右腕に合体。2枚の胸飾りを鉤爪とした大型の武器ユニットとなる。
「そんなもので!」
だが、そんなデスザラスの威容を前にしてもマスターガルバトロンはひるまない。迷うことなく突撃し、デスクローによる一撃を見舞う。
対し、デスザラスもその一撃をデステイラーで受け止め、逆にマスターガルバトロンの腹を狙った蹴りを繰り出す――マスターガルバトロンがそれをかわし、両者は一旦間合いを取る。
「フンッ、やるな……ならば!
フォースチップ、イグニッション――デス、マシンガン!」
自分の一撃を止めて見せたデスザラスに、マスターガルバトロンはどこかうれしそうに告げるとさらにフォースチップをイグニッション。今度は右手にデスマシンガンを装備する。
「死ねぇっ!」
咆哮と同時にトリガーを引き、無数の銃弾がデスザラスに襲いかかり――
「なめるな!
デステイラー、バーストモード!」
デスザラスの言葉と同時、デステイラーの中央部からビームが発射。デスマシンガンの光弾を薙ぎ払う!
「す、すごい……!
マスターガルバトロンも、デスザラスも、まったくの互角だ……!」
圧倒的なパワー同士の激突――思わずベクタープライムがつぶやくと、両者は再び激突すべく地を蹴り――
「――――――むっ!?」
異変は突然訪れた。何の前触れもなくマスターガルバトロンの動きが鈍り――そのスキを逃さず、デスザラスの一撃がマスターガルバトロンを弾き飛ばす!
「な、何……?
マスターガルバトロンさんの動きが……!?」
突然の事態の変化になのはが疑問の声を上げ――身を起こしたマスターガルバトロンの身体の各所が小爆発を繰り返し始める。
「こ、これは……!?」
自らの身体に起きた異変にマスターガルバトロンがうめくと、
「思ったよりも早かったな」
そんなマスターメガトロンの姿を前に、デスザラスは悠々とそう告げる。
「貴様……何をした!?」
「オレは何もしていないさ」
マスターガルバトロンが尋ねるが、答えるデスザラスの余裕が崩れることはない。
「強いて言えば――待っていただけだ」
「『待っていた』……?」
「あぁ。待っていた。
そう――“貴様の限界を”な」
「――――――っ!
そういうことだったんだ……!」
デスザラスの言葉に、事の真相に気づいたのはキングコンボイだった。
「どういうこと?」
「ホントに、デスザラスは何もしてなかった、ってことだよ」
尋ねるフェイトに答え、キングコンボイはマスターガルバトロンへと視線を戻した。
「マスターガルバトロンは、プラネットフォースを身体の中に取り込むことで、トランスフォーマーという種族の限界すら超越した存在に転生した。
けど……マスターガルバトロンの転生の引き金になったのはユニクロンのプラネットフォース――それだけの条件なら、ギガストームやオーバーロードのケースと変わらないけど……マスターガルバトロンの場合、そこに決定的な違いがあった……」
《――――そうか!
マスターガルバトロンは、ユニクロンのプラネットフォースを直接スパーク中に取り込んでいる!》
「そう」
気づき、声を上げたジンジャーに、キングコンボイはうなずいた。
「今までの転生の事例と違って、直接プラネットフォースを取り込んでの転生――そこから得られるパワーは、多分、スーパースタースクリームのケースだって上回るはず。
スーパースタースクリームだって、時間をかけてプラネットフォースの力を吸収して、ようやくの進化だったんだよ。こんな短時間で転生して、身体の適応が追いつくはずがないよ。
結果的に、マスターガルバトロンは、自分の使う“力”に自分の身体が耐えられない……!」
「それじゃあ、今のマスターガルバトロンさんは……!」
キングコンボイの言葉に、なのははマスターガルバトロンへと視線を向けた。
「“力”を使うだけで、ダメージになってる……!?」
「バカな……!
オーバーヒートだと……!?」
なのは達のたどり着いた結論には、当事者であるマスターガルバトロンもまた思い至っていた。デスザラスの前で身を起こし、全身を襲う痛みに顔をしかめる。
「このオレが、自分の力を扱いかねるなど……そんなことがあるものか!」
「それが、あるんだよ!」
マスターガルバトロンに言い返し――デスザラスは容赦なく彼を蹴り倒し、その胸倉を踏みつける。
「所詮、貴様も特別な存在なんかじゃない――ただ強いだけのトランスフォーマーだった、ってことだ」
「ならば……貴様はどうだと言うのだ……!?
そのオレと互角のパワーを発揮する貴様は、なぜ……!?」
「おいおい……忘れたのか?」
うめくマスターガルバトロンの言葉に、デスザラスはニヤリと笑みを浮かべた。
「何の力を使って、オレはこの姿になったか忘れたのか?」
「――――――っ!
“闇の書”か……!」
「そういうことだ。
オレは“闇の書”の防御プログラムを取り込み、無限の再生能力を手に入れた――この力がある限り、オレはいくら傷つこうがすぐに回復することができる。
そして――それは当然、オーバーヒートも例外ではない。
つまり、オレは容易に自分の限界を振り切ることができる、というワケだ。」
言って、デスザラスはマスターガルバトロンに向けてデステイラーをかまえ、
「己の限界すら超えられぬお前に、全宇宙の覇者など荷が重かろう。
貴様の覇業はオレが継いでやる――安心して、死ぬがいい!」
振り上げたデステイラーの鉤爪がエネルギーの渦に包み込まれ――
「フォースチップ、イグニッション!」
「――――――っ!?」
突然の咆哮に、デスザラスはとっさに真横へと跳躍し――
「ダブルヘッド、ハンマーっ!」
後方から自分を狙ったインチプレッシャーのハンマーをかわす。
「フンッ、命知らずが!」
そんなインチプレッシャーに対し、デスザラスはデステイラーをかまえ――
「……“はい、次”」
そう告げたインチプレッシャーの言葉と同時――
「フレイム、ストライク!」
背後のインチプレッシャーにデスザラスの意識が向いた一瞬の間に間合いを詰め、フレイムコンボイが渾身の力でフレイムアックスを振るい――
「甘い!」
その不意打ちを、デスザラスはとうに読んでいた。デステイラーをシールド代わりにフレイムアックスの一撃を受け止める。
「あんなバレバレの不意打ち、囮だと気づけないとでも思っていたか!」
フレイムコンボイの一撃を受け止め、勝ち誇るデスザラスだが――
「……しかし、貴様は動きを止めた」
「――――――っ!?」
そのフレイムコンボイの言葉に、デスザラスは気づくが――
「ブリッツ、ヒール――クラァッシュ!」
間に合わなかった。急降下の勢いを加えたブリッツクラッカーの一撃が、デスザラスを頭から大地に叩きつける!
「へっ、どんなもんだ!
いくらパワーがあっても、ウェイトは見た目どおりだろ――今の一撃は、さすがに踏ん張れなかったみたいだな!」
土煙の中に消えたデスザラスに、見事一撃を決めたブリッツクラッカーが自信満々に告げるが――
「バカ! ブリッツクラッカー、逃げろ!」
「え――――――?」
晶の言葉に振り向くが――彼が答えを知ることはできなかった。土煙の中から平然と姿を現したデスザラスに殴り飛ばされ、ビルの中に叩き込まれる!
「ブリッツクラッカー!」
「バカが……あの程度で、今のオレを倒せるとでも思ったか!」
その光景に思わず晶が声を上げる中、デスザラスはそう告げながら自らの身体に降り積もったほこりを払い、
「だが――このオレを大地に倒したことはほめてやる。
こいつは商品だ――遠慮なく受け取れ!」
言って、デスザラスはデステイラーの銃口をブリッツクラッカーの叩きこまれたビルに向け――
「ジャイアント――ドリル!」
一撃は再び真上から――飛び込んできたモールダイブの一撃がデスザラスを直撃。その姿を再び舞い上がった土煙で覆い隠す。
だが――
「同じ不意打ちを立て続けに使うとは思うまい、か……
目の付け所は悪くないが――貴様のスピードでそれが叶うと考えたのは甘かったな」
その名の通り巨大なジャイアントドリルを片手で受け止め、デスザラスは衝撃で作り出されたクレーターの中心で平然と告げる。
「打つ手はこれで全部か?
なら――」
言って、デスザラスはジャイアントドリルの先端をつかみ、
「もういい――退場だ」
そのままモールダイブの巨体を振り回し、フレイムコンボイやインチプレッシャーを薙ぎ払う!
「貴様は行かんのか?」
「ジョーダン。
誰があんなバケモノ相手に自殺しに行くもんですか」
デスザラスに蹴散らされるフレイムコンボイ達から視線を外し、尋ねるサウンドウェーブに、クロミアは平然とそう答えた。
すでにレーザークロー達と共に完全に観戦モードだ。ダークニトロコンボイとダークファングウルフも、基本的にはマスターガルバトロンの命令以外で動くことはないためこちらで待機だ。
「…………まぁ、いいがな」
誰にも気づかれぬままサウンドブラスターと視線をかわし――サウンドウェーブは自分の手の中にある“それ”に視線を落とした。
漆黒の鎖につながれた、結晶体のような何か――
それはかつて、ラートラータが時空管理局で奪ったものだった。
「ブルァアァァァァァッ!」
咆哮し、フレイムアックスを振り下ろすフレイムコンボイ――デスザラスは平然とそれを振り払うが、
「甘いわぁっ!」
同時、フレイムコンボイの両肩からデスフレイムが放たれた。デスザラスの全身を真紅の炎が包み込み――
「どっちがだ?」
それすらもデスザラスには通じない。無造作に繰り出された拳が、フレイムコンボイの胸を痛打する。
「ぐぅ…………っ!
この、バケモノめ……!」
「そのバケモノの一撃に持ちこたえておいてよくも言う」
うめくフレイムコンボイ答え、デスザラスは傍らに倒れるモールダイブとインチプレッシャーに視線を向けた。
二人ともデスザラスの猛攻で完全に意識を刈り取られ、その動きを止めている。
「リラックスこそしていても、手を抜いた一撃を叩き込んだつもりはないんだがな。
さすがはコンボイというところか」
余裕の笑みを浮かべ、デスザラスが告げ――
「…………でも、ないぜ……!」
背後から聞こえたその声にデスザラスが振り向くと、
「……大帝じゃなかろうと……
コンボイじゃなかろうと……!
耐えたヤツなら、ここにいるぜ!」
言って、ブリッツクラッカーが先ほど叩き込まれたビルの中から姿を現した。
「ほぉ……耐えたのか」
「へっ、ぜんぜん効かねぇよ、こんなの……!」
感心するデスザラスに答えるブリッツクラッカーだが――その足はふらついている。どう見てもダメージは軽くない。
「フンッ、強がりやがって。
いいだろう。そこまで言うなら――強がりも言えないほどに叩きつぶしてやる!」
そんなブリッツクラッカーに対し、デスザラスは殺気を膨れ上がらせ――
「――――――っ!?」
気づいた。直前で跳躍し、放たれた雷撃をかわす。
そして――
「いい気になるなよ――デスザラス!」
咆哮し、マスターガルバトロンがデスザラスの前に立ちはだかった。
「マスターガルバトロン……
あの身体で、まだ戦うつもりか……!?」
「そんな……!
オーバーヒートのダメージも、まだ残ってるはずなのに……!」
今再び立ち上がり、デスザラスと対峙するマスターガルバトロン――その姿を見守り、うめくギャラクシーコンボイのとなりでなのはは声を上げた。
「どうする? ギャラクシーコンボイ。
常道で行くならば、このまま同士討ちを狙うのがセオリーだが……」
「むぅ……」
尋ねるスターセイバーの問いに、ギャラクシーコンボイは思わずうめいた。
デスザラスもマスターガルバトロンも、自分達の力を完全にしのいでいる――確かに、スターセイバーの言うとおりこのまま二人を争わせるのは得策と言える。
だが――ハッキリ言ってマスターガルバトロンは劣勢だ。自身のパワーに身体の方がついていけず、オーバーヒートで全身の関節が火を噴いている。この状態で自分と互角のパワーを持つデスザラスと戦うのは、あまりにもリスクが大きすぎる。
現状のままでは、マスターガルバトロンの敗北は必至だ。そうなれば――デスザラスの矛先が次に向く相手は決まっている。
ビッグコンボイ――そして自分達だ。
となれば、この場を切り抜けるには「マスターガルバトロンとの共闘」をも視野に入れるべきだろうが――
(今の我々が参戦して……何ができるというんだ……!?)
自分達の無力を思い知らされ、ギャラクシーコンボイは思わず拳を握り締める。
そして――
(なんとかしないと……!)
なのはもまた、ギャラクシーコンボイのとなりでレイジングハートを握り締めた。
(……そう……なんとかしないとダメ……!
だって……わたしは――!)
「往生際の悪いヤツだ。
もはや貴様に勝ちはない――それでもなお、醜くあがくか」
マスターガルバトロンが再び立ちふさがろうと、デスザラスの余裕の態度が崩れることはなかった。自信に満ちた笑みを浮かべ、悠然と告げる。
「それほどまでに部下が大事か?
天下の破壊大帝ともあろう者が、ずいぶんとお優しいことだ」
「知ったことか、そんなもの」
しかし、当のマスターガルバトロンは、デスザラスのそんな態度を一言で斬って捨てた。
「ヤツらのことなどどうでもいい。
オレが望むのはただひとつ――オレのジャマした貴様を、叩きつぶすことのみだ!」
宣言し、左腕のデスクローを繰り出すが――やはりオーバーヒートによって全身を襲ったダメージは深刻だった。その動きは先程までと比べて明らかにぎこちなく――
「遅い!」
それは、デスザラスにとってはちょうどいい的でしかなかった。打撃はあっさりとかいくぐられ、逆に零距離からの打撃がマスターガルバトロンを弾き飛ばす!
「やれやれ、何度ガツンとやられれば、貴様のその頭は理解するんだろうな。
貴様がオレに勝つのはもはや不可能。それは揺るぎようのない事実――所詮、挑戦者はチャンピオンには勝てないんだよ」
「『挑戦者』……?」
告げるデスザラスのその言葉に、マスターガルバトロンの表情が歪んだ。
「そうだろう?
お前はオレよりも弱い――今そこで死にそうになっているのが、何よりの証拠だ」
「なめるなよ……若造が……!
オレが挑戦者だと……? 思い上がりもそこまでだ!」
咆哮し、マスターガルバトロンは雷撃を放つが――まともに動けない状態で攻撃を当てるにはそれ以外に手段がないのはすでに読まれていたし、そもそもモーションが大きすぎた。デスザラスはすぐにその場から後退し、あっさりとマスターガルバトロンの雷撃を回避する。
「あきらめろ。
今の貴様に、オレに当てられる攻撃はない。リンクアップも許しはしない」
言って、デスザラスはおもむろに振り向き――
「そして!」
告げながら、デステイラーから放ったビームが、不意打ちを狙っていたブリッツクラッカーを吹き飛ばす!
そして、デスザラスは改めてマスターガルバトロンへと向き直り、
「部下の乱入ももう許さん。
つまり完全に手詰まりだ。もはや――王手は詰まれたんだ」
もはやトドメの一撃を放てばすべてが終わる段階だ――デステイラーの銃口を向け、そこにエネルギーを集中させる。
「そういえば、お前もあの“闇の書”との最後の戦いでは活躍したんだったな……
礼を言うぞ。お前達が防御プログラムを弱らせてくれなければ、取り込まれていたのはオレの方だった。
ありがとう。そして――」
「さよならだ」
その一言と共に――閃光が放たれた。
空間を駆け抜け、死を呼ぶ光は目標目掛けて疾走し――
〈Protection!〉
桃色の魔法陣に、受け止められていた。
「な――――――っ!?」
マスターガルバトロンは、自分の目が信じられなかった。
なぜ、彼女が自分を守っているのか――その行動が理解できなかった。
だが――わかることもあった。
彼女では――この攻撃を止められないと。
しかし――
彼がそのことを口にすることは間に合わず――
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
デステイラーから放たれた死の閃光は大爆発を起こし、ビークルモードのプリムラやその上に乗るなのはを飲み込んでいった。
攻撃の阻止――当初の目的はその身と引き換えに達成された。バリアジャケットをボロボロにされ、なのはは受身も取れずに大地に落下した。
かろうじてレイジングハートが衝撃を殺してくれたようだが――そのレイジングハートもフレーム全体に亀裂が走り、デバイスモードの維持も困難な様子だ。
一方のプリムラもダメージは深い。アニマルモードに戻り、なのはのすぐそばに倒れ伏している。
「なのは!」
そんななのはの姿に、ギャラクシーコンボイは思わず駆け寄ろうとするが――それよりも早く、なのはに声をかけた者がいた。
「なぜだ……?」
その問いかけは背後から――なのはは痛みをこらえて頭だけを向け、自分が守ろうとした相手が無事であることを知り安堵する。
「よかった……
無事だったんですね……マスター、ガルバトロンさん……」
「質問に答えろ!」
つぶやくなのはに、マスターガルバトロンは苛立ちを隠しもせずに声を荒らげた。
「貴様……なぜオレをかばった!
敵であるオレを……なぜ!」
「……だ……って……」
そんなマスターガルバトロンに、なのはは答えた。
「“闇の書”さんとの戦いの時に――助けてくれたじゃないですか……」
「なん……だと……!?」
その言葉に、マスターガルバトロンは言葉を失った。
「それだけで……オレをかばったというのか!?」
「だって……その、おかげで……はやてちゃんや、ビッグ、コンボイさんや……リインフォースさんを、助けることが……できたから……
……だから……今度は、わたしの……番……おあいこです……」
答え、なのはは弱々しく微笑んでみせる。
「バカが……!」
だが――その答えは、マスターガルバトロンにとって到底納得できるものではなかった。知らぬ内に拳を握り締める。
確かにあの時、自分はなのはをかばった。
だが、それは決して彼女のためではなく――ただ、その戦いが見ていられなかったから手を出したにすぎなかった。
なのはを助けたのは、情けない戦い方を続ける彼女に力の差を見せつけんがため――ただそれだけだった。
それだけだったのに――
「なぜ、それだけのことに、そこまで命をかけられる……!」
だが、そんなことよりも許せないことがあった。
(オレの力は……この程度のものだったのか……!?
フレイムコンボイ達どころか、こんな小娘に守られる――その程度の力だったのか!?)
自分に力がないからこうなる――誰かにそう言われているような気がし、拳を握るその手に力が戻る。
だが――そのことをマスターガルバトロンは否定できなかった。
どれだけ御託を並べ立てようと、自分がオーバーヒートで自滅し、そんな自分を救うためにフレイムコンボイが、ブリッツクラッカーが――そしてなのはが身を挺したのは事実なのだ。それを自分の都合のいいように解釈できるほど、マスターガルバトロンは融通の利く頭を持ってはいなかった。
自分の目にしたもの、身の回りで実際に起きたことしか信じようとしない――理想というものを一蹴するリアリストであるマスターガルバトロンだが、そのリアリストであるがゆえに、マスターガルバトロンは自らの目の前で起きたことを受け入れないワケにはいかなかった。
だが――
(なめるな……!)
それでおとなしく引き下がれるマスターガルバトロンでもなかった。
(お前達が手を出さずとも、オレは勝てた……!)
行き場のない怒りに突き動かされ、マスターガルバトロンはデスザラスへと向き直る。
(今からそれを証明してやる……)
その全身に、巻き起こったエネルギーの渦がまとわりついていく。
(だから……!)
(生きて、その目で見届けろ!)
その瞬間、“力”は解放された。
だが――それは決してマスターガルバトロンを傷つけることはなく――むしろその身体に刻まれた傷を見る見るうちに修復していく。
しかも、それだけではない。解き放たれ、周囲に拡散した“力”はなのはやブリッツクラッカー、フレイムコンボイ、そして周囲の建築物――接触したものすべてにまとわりつき、その傷を癒していく。
「こ、これは……!?」
“力”は自らの傷をも修復した――呆然とギャラクシーコンボイがつぶやくと、その問いにはキングコンボイが答えた。
「…………ユニクロンの“力”だ……」
「ユニクロンの……?
どういうことだ?」
「ほら、最初にプライマスが覚醒した時にユーノが説明してくれたよね?
『プライマスもユニクロンも、元々創造と破壊、両方を司っていた』って……
だから、今は破壊神になっちゃったユニクロンも当然、創造の力を持ってるワケだから……」
「まさか……」
キングコンボイの言葉に、ギャラクシーコンボイはマスターガルバトロンへと視線を戻した。
「ヤツは……自らの意志で、ユニクロンの“力”を破壊の力から創造の力へと変換したというのか……!?」
「マスター、ガルバトロンさん……?」
ものすごい勢いで痛みが退いていく――ユーノやシャマルの回復魔法などとは段違いの治癒効果を受け、なのはは呆然とマスターガルバトロンを見返した。
「フンッ、回復したか……
ならばそこにいられてもジャマだ」
そんななのはの様子に気づき、マスターガルバトロンはヒョイと彼女とプリムラをつまみ上げ――
「ギャラクシーコンボイ!」
そのまま、二人を無造作にギャラクシーコンボイへと投げ渡す。
「わひゃあぁぁぁぁぁっ!?」
《にゃあぁぁぁぁぁっ!?》
「なのは、プリムラ!」
情けない悲鳴を上げ、クルクルと回転しながら宙を舞うなのはとプリムラをギャラクシーコンボイが受け止めると、
「相棒の手綱くらい、しっかり握っておけ!」
マスターガルバトロンはそうギャラクシーコンボイに言い放ち――今度はなのはに向けて告げた。
「貴様はそこで見ているがいい――真の最強が誰か、今からそれを見せてやる!」
言って、マスターガルバトロンは改めてデスザラスへと向き直り、
「待たせたな。
では、続きを始めようか」
「フンッ、どうやら少しは“力”の扱い方を考えてきたようだが……その程度で、オレと貴様の差が埋まると思うなよ!」
マスターガルバトロンにそう答え、デスザラスは右手のデステイラーをかまえる。
「貴様の武装はデスクローとデスマシンガン、そして雷撃の3つだけ。
デスクローは離れてしまえば無力。雷撃もデスマシンガンもデステイラーのバーストモードで対応が可能だ。
今の貴様に――オレに当てられる攻撃はないぞ」
自信タップリにそう告げるデスザラスだが――
「ある」
淡々とそう告げたのは、マスターガルバトロンではなかった。
「攻撃手段なら……ある」
言って、いつの間にか上空に飛来していたサウンドウェーブがマスターメガトロンにそれを投げ渡した。
例の結晶体である。
「貴様に倒れられるワケにはいかん。使うといい」
「…………フンッ、いいだろう」
そんなサウンドウェーブの真意は読めないが――マスターガルバトロンにとっては些細な問題だった。結晶体を吊るしている鎖を握り締め、咆哮する。
「目覚めろ――すべてを滅ぼす竜の牙よ!
“終末の黒竜”――オメガ!」
〈Combat-System,Start up!〉
その瞬間、光があふれた。マスターガルバトロンのフォースチップの色と同じ、青紫色のエネルギーの渦がその周囲で荒れ狂う。
そして――突如としてその渦が断ち切られ、それは姿を現した。
マスターガルバトロンの手に握られた――漆黒に輝く、巨大な片刃の大剣が。
「な、なのは……!
まさか、あれって……!」
「うん……」
自分を支え、声をかけてくるフェイトに答え――なのははマスターガルバトロンの手の中の大剣を見つめた。
「あれ……アームドデバイスだ……
でも、どうしてデストロンの人達がデバイスを……!?」
「悪いが、こっちも機嫌が最悪でな……早くスッキリしたいんだ。
オレに叩きつぶされて、さっさと退場してもらうぞ」
もはや『剣』として定義することすらおこがましいほどに巨大な刃を振りかざし、マスターガルバトロンはデスザラスに告げる。
「フンッ、そんな巨大な刃、まともに振り回せるものか!」
だが――デスザラスはその巨大さゆえの弱点を早々に見抜いていた。マスターガルバトロンが刃を振り下ろすよりも早く、その内側に飛び込むべく地を蹴り――
次の瞬間、デスザラスは顔面から大地に突っ込んでいた。
全身を、すでに振り下ろされていた巨大な刃に打ち据えられて。
「バカめ。
大剣が取り回しに難があることなどこちらも知っているさ」
言って、マスターガルバトロンは再びオメガを振り上げ、
「だが――貴様はそこから先を考えなかった。
こいつに刃を加速させる機構があると、なぜ予測できなかった?」
その言葉と同時、大剣の峰にあたる部分が一斉に火を吹いた。推進器によって瞬時に加速した大剣を、マスターガルバトロンは軽く振るって見せる。
その一方で、彼自身はまったく姿勢を崩さない――ギガロニアのトランスフォーマーにも負けないパワーを誇る、マスターガルバトロンだからこそできる芸当だ。
「さて、では、宣言どおり決めさせてもらおうか。
オメガ――カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
告げるマスターガルバトロンの言葉に従い、オメガはカートリッジをロード。ツバ飾りに備えられた排薬口から3発分のカートリッジが排出される。
同時、オメガの巨大な刃が漆黒の輝きに包まれた。渦巻くエネルギーを刃にまとい、マスターガルバトロンはデスザラスに向けて飛翔する。
そして――
「くたばれぇっ!」
〈Energy Stampede!〉
繰り出された渾身の斬撃はデスザラスを防御の上から吹き飛ばし、近くのビルへと叩き込む!
だが――
「やってくれたな、貴様……!」
それでも、デスザラスを倒すには至らなかった。崩れ落ちたガレキの中から、デスザラスがその姿を現す。
「だが――それが全力か?
ならば、今度はこちらから行くぞ!」
咆哮し、デスザラスは反撃すべくマスターガルバトロンへと跳躍し――
その全身が火を噴いた。
突然、デスザラスの全身の関節という関節が小爆発を起こしたのだ。
これは――
「オーバーヒート、だと……!?
バカな……!? “闇の書”の自動修復機能は……!?」
「心配するな。自動修復機能は作動しているさ」
うずくまり、うめくデスザラスに、マスターガルバトロンはそう告げ――付け加えた。
「ただし――“少々、元気すぎるくらいにな”」
「なん、だと……!?」
その言葉に、デスザラスはマスターメガトロンのした事に気づいた。
「貴様……まさか、自動修復機能を……!」
「そういうことだ。
今のオレの一撃は貴様を倒すために放ったものではない――貴様にフォースチップの生命エネルギーを叩き込み、活性化した自動修復機能を暴走させるためのものだったんだ。
その結果、異常活性化した自動修復機能は本来修復すべきダメージレベルを超えた修復を行おうとし――過負荷によって、自己診断システムのセーフティが自動修復システムをロックさせるに至ったワケだ」
「あとは、オレ自身が出力に耐え切れずにオーバーヒートを起こすのを待てばいい、か……!
やってくれる……!」
うめき、デスザラスはマスターガルバトロンから距離を取り、
「とはいえ、この有様では自動修復システムを再起動させない限り戦闘の続行は不可能か……!
まったく、獲物であるビッグコンボイを前にして、とんだジャマが入ったものだ……!」
退くしかない――改めての屈辱に思わず歯噛みするが、それでこの状況が好転するはずもない。
「いいだろう。今回は貴様に譲ってやる。
だが――いずれは貴様も倒してやる。オレのジャマをする者、オレに地をなめさせた相手は、すべてオレの獲物だ」
そう告げ――デスザラスは大きく後方に跳躍するとビーストモードにトランスフォーム。タートラー達を引き連れて離脱していった。
「フンッ、負け惜しみを……」
そんなデスザラスに対し、吐き捨てるように告げ――マスターガルバトロンは改めてなのは達へと向き直った。
今度は自分達を襲うつもりか――思わず身がまえるギャラクシーコンボイ達だが、
「…………興が削がれた。
目当てのメガロコンボイもボロボロのようだしな――今日は退いてやる。
次に会う時までに、そのダメージを治しておけ」
つまらなさそうにそう告げると、マスターガルバトロンは彼らに背を向け、オメガをウェイトモードに戻すと気を失っているモールダイブを軽々と担ぎ上げる。
「ま、マスターガルバトロンさん!」
そんなマスターガルバトロンに、なのはが声をかけ――
「小娘」
なのはが先を続けるよりも早く、マスターガルバトロンは彼女に告げた。
「貴様……オレと対等になれるなどと考えるなよ」
「え………………?」
「今回貴様はオレに借りを返したつもりだろうが……その後オレの“力”でそのケガを治されたのを忘れていないか?」
何のことを言っているのかわからず、思わず目を丸くするなのはだが――そんな彼女に答え、マスターガルバトロンは不敵な笑みを浮かべ、
「何が『おあいこ』だ――貸しひとつのままだ。バカめ」
言って、マスターガルバトロンはフレイムコンボイ達を伴い、引き上げていく。
「マスターガルバトロンさん……ひょっとして、ジョークを飛ばしたつもりなんでしょうか……?」
「あ、あぁ……
私も、初めて見た……」
その後ろ姿を見送り、呆然とつぶやくなのはにギャラクシーコンボイが答えると、
「しかし……ヤツもデスザラスも、恐ろしいヤツに転生したものだな……」
「えぇ……」
同様にマスターガルバトロン達を見送り、つぶやくベクタープライムにうなずき、ドレッドバスターはギャラクシーコンボイへと向き直り、
「我々も気を引き締めて、更なる結束で対抗しましょう!」
「同感だぜ」
そのドレッドバスターの言葉に同意の声が上がり――その瞬間、場の空気が固まった。
「………………?
何だよ?」
一変した場の雰囲気に、その声の主は思わず尋ね――
「そ、そんな……
ソニックボンバーが『結束しよう』って意見に同意するやなんて!」
「まさか、天変地異の前触れか!?」
「今度は何が起きるっていうの!?」
「てめぇら……緊張感が解けたとたんにソレか!」
心の底から驚愕の声を上げるゆうひ、クロノ、フェイトの3人に、ソニックボンバーは思わず怒りの声を上げていた。
ともあれ、デスザラスやマスターガルバトロンの襲撃をかわしたなのは達は、再びギガロニアのプラネットフォース獲得に動き出すことにした。
「みんなの働きのおかげで、最下層に向かうためのデータをかなり集めることができた」
〈よって、我々はこれより、そのルートの入り口に向かいます〉
ムーのブリッジでギャラクシーコンボイが、そして通信モニター上でアースラのリンディが一同に対して告げると、
「ギャラクシーコンボイ総司令官」
突然、バックギルドが声を上げた。
「どうした?」
尋ねるギャラクシーコンボイには、彼の手元をのぞき込んでいたアリサが答えた。
「それが……この先に、おっきな裂け目があるの。
もうすぐ、右側に見えてくると思うけど……」
「裂け目、だと……?」
アリサの言葉にギャラクシーコンボイが首をかしげると、
〈こっちはもう見えている。
今から画像を送る〉
グランダスに乗るライブコンボイが答え、ムーのブリッジのメインモニターにその裂け目が映し出された。
ギガロニアの都市を斬り裂き、深々と口を開けた巨大な大地の裂け目――マスターガルバトロン転生の際、その力が大地を引き裂いたものである。
だが――そこにあるのはそれだけではなかった。
「あ、あれは……!?」
裂け目の中央に、はまり込んでいるものがある――その姿を確認し、恭也は思わず声を上げた。
「アトランティス…………!?」
一方――
「ここがギガロニアか……」
「でっかい建物ばかりだな……」
彼らもまた、ギガロニアに到着していた――都市の上空を飛行するダイナザウラーのブリッジで、つぶやくオーバーロードにギガストームが同意する。
「ここに最後のプラネットフォースがあるのか……」
「フレイムコンボイ……今度こそ必ず……!」
それぞれに決意を固め、二人がつぶやくと――
「レーダーに動体反応!」
突然、メナゾールが声を上げた。
「どこだ?」
「そ、それが……イマイチ反応の位置がハッキリしなくて……」
「どういうことだ?」
オーバーロードに答えるメナゾールの言葉にギガストームが聞き返すと、
「ぅわっと!?
止まれ、ダイナザウラー!」
突然、ウィアードウルフが声を上げ、ダイナザウラーを停止させた。
「どうした!?」
「そ、それが……建物が動いて……」
「建物が、だと!?」
ウィアードウルフの答えにオーバーロードが声を上げ――
「トランス、フォーム!」
咆哮が響き――突然、都市の一部が動き始めた。
都市の一角が切り離され、ゆっくりと起き上がる。
両腕が、両足が形成され――最後に頭部がせり出す。
トランスフォームを完了し、そのトランスフォーマーはダイナザウラーの前にその姿を現した。
「き、貴様は何者だ!?」
戸惑いながらも外部マイクを起動し、オーバーロードが問いかけ――そのトランスフォーマーは逆に聞き返してきた。
「貴様らこそ何者だ?
ここは捨てられた街――なぜここにいる?
まさか、プラネットXの連中じゃないだろうな?」
「プラネットX……?」
その言葉にギガストームが眉をひそめるが、トランスフォーマーはかまわず告げた。
「まぁ、いい……
どちらにせよ、怪しいよそ者には消えてもらわないとな……
この要塞大帝メトロタイタンに出会ったことを、後悔するがいい!」
咆哮し――メトロタイタンと名乗ったトランスフォーマーはダイナザウラーに向けて地を蹴った。
(初版:2007/05/13)