「くらえぇっ!」
咆哮し、すくい上げるように繰り出したメトロタイタンの拳は、ビーストモードとなって大地に降り立ったダイナザウラーの胸部を痛打。さすがのダイナザウラーもたたらを踏んで後退する。
戦艦からトランスフォームし、通常のトランスフォーマーの常識を超えた巨体を誇るダイナザウラーだが、要塞からトランスフォームするメトロタイタンの体躯はさらにその上を行っていた。自分を上回る体格の相手と戦ったことのないダイナザウラーは、勝手の違う戦いに完全に主導権を奪われてしまっている。
「ひるむな、ダイナザウラー!」
「アレだけデカいなら、動きはお前以下だ!
いい機会だ――いつもスピードで負けてるんだ! たまには勝っていい気になってやれ!」
そんなダイナザウラーをギガストームとオーバーロードが叱咤。体勢を立て直し、ギガストームは尻尾の一撃でメトロタイタンの足を払い、転倒させる。
すかさず熱戦で追撃。周囲の建物も連鎖的に爆発を起こし、メトロタイタンは瞬く間に炎に包まれる。
その巨体が災いし、メトロタイタンはなかなか起き上がれないようだが――
「なめるな!
全砲門、斉射!」
メトロタイタンは格闘戦をあきらめ全身の火器で応戦。放物線を描いた砲弾の雨がダイナザウラーへと降り注ぐ。
「くそっ、反撃だ! 撃ちまくれ!」
対し、ギガストームの指示でダイナザウラーも反撃。激しい砲撃戦が展開される。
だが――それが思わぬ副産物をもたらした。
繰り返される砲撃は大地をえぐり、さらには彼ら自身の自重が追い討ちをかけた。頑丈なはずのギガロニアの大地も、見る見るうちに歪みを広げていく。
そして――
『どわぁぁぁぁぁっ!?』
ついに大地が崩落。地下区画に転落したダイナザウラーとメトロタイタンはその勢いでさらに地面を突き破り、やがて別々に分かれて地下へと転げ落ちていった。
「あ、危なかったぁ……」
間一髪でギガストーム達から逃げ出し、ダイナザウラーから脱出していたランページを残して。
「あれに巻き込まれてたら、どこに落ちたかわからなかったな。
さて……」
つぶやき、ランページは移動すべく振り向き――
「見つけたぞぉっ! ランページ!」
「ぅわぁっ!?」
突然の大声に驚き――飛来したサウンドブラスターがその目の前に舞い降りた。
「それでは、これよりエイミィ達の救出作戦を開始する!」
ギガロニアの最下層を目指す途上で、偶然発見したアトランティス――この機を逃すまいと、なのは達はアトランティスの中に取り残されたままになっているエイミィ達の救出作戦を展開することにした。
「各員、細心の注意を持って臨むように!」
『了解!』
ギャラクシーコンボイの言葉に、一同はそれぞれに気合を入れる――
――エイミィ達はフィアッセに保護され、快適に過ごしているとも知らないで――
第73話
「地下世界へ出発なの!」
その頃、アトランティスのブリッジでは――
「……ん……んん…………っ!」
意識を取り戻し、コンソールに突っ伏していたノイズメイズは頭をさすりながら身を起こした。
「くっそぉ……何だってんだ……?」
状況がつかめない――周囲を見回してうめくと、
「ぐ………………っ!」
サイクロナス達も次々に意識を取り戻していく中、スーパースタースクリームもまた意識を取り戻した。
「だ、大丈夫っスか?」
「あぁ……」
身を起こし、尋ねるサイクロナスに答えると、スーパースタースクリームは先ほどのノイズメイズと同じように周囲を見回し、
「しかし……何が起きた?」
「さぁ……
我々も、つい今さっき気がついたばかりなので……」
「どうやら、どこかに墜落したようですが……」
尋ねるスーパースタースクリームにサイクロナスとノイズメイズが答え――突然、アトランティスが衝撃を受け、揺れた。
「どうした!?」
「今調べます!」
スーパースタースクリームの言葉に、ヘルスクリームはすぐさま自席のコンソールに向かい――ブリッジのメインモニターにそれは映し出された。
こちらに向けて攻撃を開始した、スターシップ・ムー、そしてフライトビークルモードで飛来するギャラクシーコンボイとビクトリーレオだ。
「ギャラクシーコンボイ……!?
ということは、ここはギガロニアか……?」
衝撃の正体はサイバトロンの攻撃か――そこから現在の自分達の居場所を推察、ノイズメイズがつぶやくと、
「ノイズメイズ、サイクロナス……それからヘルスクリームとマックスビー。
お前達はギャラクシーコンボイを迎え撃て。
ロードストームとラナバウト、ダージガンとスラストールは艦の修理。残りのメンバーは周辺の警戒だ」
すぐに指示を下し、スーパースタースクリームはメインモニターに映るギャラクシーコンボイ達に視線を向けた。
「どうやらフィアッセを連れ戻しに来たようだな……
だが……『はい、そうですか』と渡すと思うなよ……」
そうつぶやき――続きは声には出さず、胸中で付け加える。
(彼女は、お前達とこちらをつなぐ大事なパイプ役だからな……)
「何が起きたの……?」
「さぁ……
時空トンネルを抜けて、もう少しで向こう側の宇宙に出られる、って感じだったところまでは覚えてるんだけど……」
一方、フィアッセ達もまた、時空トンネル突破の衝撃で気を失っていた。意識を取り戻し、つぶやくエイミィにフィアッセが答える。
「艦の動きは止まっているようですね……
どこかに不時着したんでしょうか……?」
艦の状態をスキャンし、ホップがつぶやくと、
「だったら、情報セクションに行ってみよう。
あそこなら、何かわかるかも……」
「はい!」
提案するフィアッセにエイミィがうなずき、彼女達が廊下に出ると、
「――――っ!?
ちょっと待ってください!」
突然ホップが声を上げた。バンパーもまた、彼女達をかばうようにして警戒を促す。
「どうしたの?」
「不振な物音がします。
通路の奥に、何かがいるようです」
「スタースクリーム達じゃないの?」
「でしたら、もっと堂々と歩いてくるはずじゃないですか。自分達の拠点なんですから」
尋ねるエイミィとフィアッセの問いにそれぞれ答え、ホップは「それに……」と付け加えながら天井を見上げた。
「この物音は天井からです。
明らかに……誰かが潜んでます!」
その言葉と同時――『天井裏の誰か』が天井を踏み抜いた。轟音と共にそれは落下してきて――
「あ、アイツら!」
「セイバートロン星にいた、変な人達!」
赤、青、黄色――それぞれに色分けされた3体のランブルの出現に、エイミィとホップは思わず声を上げていた。
「よくも好き勝手やってくれたな!」
こちらが気を失っている間に、アトランティスはかなりの部分が被弾、破損していた――咆哮し、ウィングハルバードで斬りかかるノイズメイズの斬撃を、ギャラクシーコンボイとビクトリーレオは素早く回避。さらにサイクロナスのビームをかわすとロボットモードへとトランスフォームし、ライドスペースに控えていたなのは達を下ろす。
そんな彼らを背後から狙い、ヘルスクリームとマックスビーが襲いかかり――
「そうは――」
「させない!」
それを阻んだのはキングコンボイとスターセイバーだ。シグナム、フェイトと共に彼らの前に立ちふさがる。
「よっしゃ! いっちょハデにいくか!」
「うむ!」
ビクトリーレオの提案にスターセイバーがそううなずき――
「フェイトちゃん!」
「うん!」
なのはの言葉にうなずき、フェイトがバルディッシュをかまえた。
『ギャラクシーコンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイの叫びが響き、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンを分離。両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、
『ビクトリーレオ!』
次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。
そして、ビクトリーレオの下半身がギャラクシーコンボイの両足に合体し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身がギャラクシーコンボイの胸部に合体。両腕部がギャラクシーコンボイの両肩に露出したジョイントに合体する!
最後にビクトリーレオのバックユニットがギャラクシーコンボイの背中に装着され、4人が高らかに名乗りを上げる。
『ビクトリー、コンボイ!』
『キングコンボイ!』
フェイトとキングコンボイが叫び、キングコンボイが四肢のパワードデバイスを分離させ、
『スターセイバー!』
次いでシグナムとスターセイバーの叫びが響き、スターセイバーがVスターを分離させ、合体形態のままのVスターが上半身と下半身に、さらにそれがそれぞれ左右に分割される。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、分離したジャックプライムの両足に分離したVスターの下半身が、両腕に同様にVスターの上半身が合体する!
最後に、ビークルモードのスターセイバーが背中に合体、フライトユニットとなり、4人が高らかに名乗りを上げる。
『セイバァァァァァ、コンボイ!』
「覚悟!」
「なんの!」
「なめるなよ!」
咆哮し、両肩のビクトリーキャノンを放つビクトリーコンボイに対し、ノイズメイズもすかさず反撃。ブラインドアロー、スパイラルサイクロンで迎撃する。
そして、セイバーコンボイもヘルスクリーム、マックスビーとの交戦に入り――
「……総司令官達の陽動、バッチリだな」
「あぁ」
そう言葉を交わすのは、バンガードチームの面々と共に地上に潜むエクシゲイザーとニトロコンボイだ。
「よし、オレ達も行くぞ」
「はい!」
「作戦開始よ!」
ニトロコンボイの言葉にバックギルドとアリサが答えると、
「そうはいかないぜ!」
そう言って立ちふさがったのは、スナップドラゴンとエイプフェイスだ。
「スタースクリームの旦那の勘、大当たりだな! やっぱり地上にも潜んでいやがった!」
「久々のバトルだ! 暴れてやるぜ!」
言って、張り切ってビーストモードへとトランスフォームする二人だが――
「…………予定通りとも知らないで、なんだかかわいそうだね」
「そう言わない。
オレ達の役目は救出部隊のフリをしての、敵地上部隊の陽動なんだからな」
それすらの、彼らにしてみれば予定通りだった。まんまと策にはまった二人に同情するすずかの言葉に、エクシゲイザーは苦笑まじりにそう答える。
「さて、陽動といっても手は抜けないぞ。
遠慮なくこいつらを蹴散らして、潜入部隊の迎えに行かないとな」
「はい。
一気に突破しましょう!」
ファストガンナーの言葉にシオンがうなずき――次の瞬間、スナップドラゴン達がこちらに向けて跳躍した。
「な、なんでこんなところにランブルが……!?」
突然天井を突き破り、姿を現した3体のランブルの姿に、エイミィは思わずうめき、周囲を見回す。
だが、広い廊下の真ん中ではどこにも逃げ道はなく――
《エイミィ様!》
「………………え?」
正面の赤いランブルから聞こえてきたのは覚えのある声だった。エイミィは思わず呆けてしまい――
「私ですよ、私!」
「無事でしたか……」
突然ランブルの頭部ハッチが開き、姿を見せたのは琥珀と翡翠だった。
「こ、琥珀さん!? 翡翠さんまで!?」
「では……残りの、こちらも!?」
驚くエイミィのとなりでホップが残りのランブルへと視線を向けると、
「そういうこと!」
「エイミィ、助けに来たよ!」
同様に頭部のハッチが開放され――姿を現したのはアレックスとランディだ。
「ふ、二人とも!?
なんでここに!? アースラの方はどうしたのよ!?」
「それがさ、ゆうひちゃんに『助けに行って来い』ってケツを叩かれてね。
『一番近い同僚の二人が行かなくてどーすんのや』とか言い出してさ」
「しかもリンディ提督までノリノリで送り出すもんだからさ、断れなくなっちゃって。
おかげで突貫で琥珀さんから操縦のレクチャーを受ける羽目になっちゃったよ」
驚くエイミィに答える二人だが――エイミィの身を案じていたのは彼らも同じだ。苦笑するその態度はまんざらでもなさそうだ。
そして――
「監視システムのハッキング完了。
これで、入ってきた時と違って堂々と出て行けるぞ」
言って、最後にパーセプターが彼女達の前に姿を現した。
「パーセプターも来たんだ……」
「当然だ。
共に“闇の書”事件を調べたパートナーだろう?」
エイミィの言葉にそう答えると、パーセプターはフィアッセへと向き直り、
「事情は聞いている。
キミは、ここに残るつもりなんだろう?」
「えぇ……」
少し申し訳なさそうにフィアッセがうなずくと、パーセプターは息をつき、
「だが、十分気をつけるんだ。
マスターメガトロンとスカイクェイクが、マスターガルバトロン、デスザラスに転生した――どちらも油断のできない強敵だ。
スーパースタースクリームにも、それとなく警戒を呼びかけておくといい」
その言葉にフィアッセがうなずき――パーセプターはエイミィに告げた。
「さぁ、脱出しよう」
「OK!」
元気に答え、エイミィはパーセプターのライドスペースに乗り込むと琥珀達と共に一路脱出口へと移動を開始した。
「プリムラ!」
《了解っ!》
告げるなのはの指示で、プリムラは彼女から分離し、
《プリムラ、ビークルモード!》
エネルギープールをタイヤに、翼をカウルに変形させ、高速バギー形態に変形する。
そして――
《「フォースチップ、イグニッション!」》
二人の叫びが交錯。プリムラの背中から車体後部に移ったチップスロットへとミッドチルダのフォースチップが飛び込み、タイヤがさらにホバーユニットへと変形し、ホバーボードとなったプリムラはなのはを乗せて上空高く舞い上がる。
そして、レイジングハートをかまえたなのはと共に一転、急降下し――
《「パニッシャー、スコール!」》
なのはのイグニッションパニッシャーが、プリムラが口から放った魔力熱線と共にノイズメイズやサイクロナスへと降り注ぐ!
「あたしもいるんだぜ!」
さらに、ヴィータもシュワルベフリーゲンで攻撃に参加。ノイズメイズ達は懸命に回避行動を取り――
「ビクトリーコンボイさん!」
「今だ――やっちまえ!」
「うむ!」
なのはとヴィータの言葉に、ビクトリーコンボイはデバイスカードを取り出し、
「“つなぎし者”――Set Up!」
〈Stand by Ready, Set up!〉
ビクトリーコンボイの言葉に従い、起動したネクサスがその手の中に現れる。
「ネクサス、カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
そして、すぐにカートリッジをロード。左右のネクサスが立て続けにカートリッジを排莢し、
「覚悟しろ――ノイズメイズ、サイクロナス!」
〈Eternel Blaze!〉
ビクトリーコンボイが引き金を引き、放たれた閃光がノイズメイズ達に襲いかかる!
「ちぃっ!」
とっさに加速し、射線から退避するサイクロナスだが――ノイズメイズは回避が間に合わず閃光に飲み込まれた。閃光はそのままアトランティスに突き刺さり、爆発を巻き起こす!
「ノイズメイズがやられたか……」
その様子を、スーパースタースクリームはひとり残ったアトランティスのブリッジでモニターしていた。
「何を企んでいたかは知らないが、その目論見も潰えたということか……」
つぶやき、スーパースタースクリームは意識を集中させ――パーセプター達の気配が艦の外に出て行ったのを確かめる。
「これで、フィアッセの抱えていたお荷物も解消されたワケか……
フィアッセを残してくれたのは、感謝すべきかな……」
スーパースタースクリームがつぶやき――突然、システムが警報を発した。同時、アトランティスの艦全体が小刻みに振動を始める。
「何だ!?」
すぐに状況を確認し――スーパースタースクリームは驚愕に目を見開いた。
警報の正体、それは――
「何だ、この揺れは!?」
突然アトランティスを襲った振動――数で押し切るべくビクトリーレオと分離したギャラクシーコンボイがうめくと、
「みんな、待たせたな!」
甲板の一角を吹き飛ばし、パーセプターが琥珀達の乗るランブルと共に姿を現した。
「よし、みんな無事だな。
しかし、基地に帰るまでが救出作戦だ。油断をするのはまだ早いぞ」
「言いたいことはわかりますけど……その言い回しだとまるで遠足の注意事項みたいですね」
エイミィ達の無事を確認し、告げるファストガンナーの言葉にシオンがうめくと、
「総司令官!」
突然、バックギルドが声を上げた。
「アトランティスの上部甲板の温度が、急激に上昇しています!
このままでは、甲板ごと大爆発を起こします!」
「何だと!?」
「くそっ、オレ達ごと吹き飛ばすつもりかよ!?
スタースクリームのヤツ、やってくれるじゃねぇか!」
声を上げるギャラクシーコンボイのとなりでビクトリーレオがうめくと、
《人聞きの悪いことを言うなぁっ!》
甲板に備えられた外部スピーカーからスーパースタースクリームの声が響いた。
「何言ってんだ!
お前じゃないなら、誰がやったって言うんだ!?」
スーパースタースクリームの言葉にエクシゲイザーが反論すると、
「少なくとも、彼でないのは確かみたいですね」
そう告げたのは琥珀だ。
「アトランティス甲板の動力伝達系がいくつか断線してます。そのせいで、限られた部分にエネルギーが集中して、オーバーヒートを起こし始めてるんです。
特にひどい断線場所は……」
言って、琥珀の駆るランブルが前足で指した場所に一同は注目。そこに被弾させた人物へと視線を向け――
「ち、ちょっと待て! オレ達か!?」
「あ、あれはあくまで不可抗力で……!」
一同の注目を受け、エターナルブレイズで問題の箇所を吹き飛ばしたビクトリーレオとギャラクシーコンボイはあわてて弁明の声を上げる。
「そんなことより、早く逃げないと!」
「もしくは冷却だ。
デュランダルのエターナルコフィンならなんとかなると思うけど……!」
ともかく、一刻も早く離脱しなければ――あわてて志貴とクロノが一同の思考を軌道修正すると、
「おっと、待ちな!」
そんな彼らを制止し、ブレンダルが彼らの前に降り立った。
「『安全第一』のこの星で、事故なんて許さないぜ!
トランスフォーム!」
咆哮し、ブレンダルはビークルモードへとトランスフォームし、
「キリブル!」
彼の指示で、パートナーマイクロンのキリブルはレーザー工作車のビークルモードからロボットモードへとトランスフォーム。ビークルモードのブレンダルを操作し、アトランティスの周りに大量のセメントを流し込み始める――
「ミキサー車ごときが、何ができる……!
早く離脱しろ……!」
その様子を見守り、スーパースタースクリームは苦々しげにうめいた。
決して味方ではないが、彼らにも担ってもらわなければならない“役割”がある――ここで倒れられるワケにはいかないのだ。
そうしている間にも、アトランティスの甲板は温度の上昇を続け――
「………………む?」
ふと、その異変に気づいた。
数値的にはすでに爆散が始まってもおかしくないほどに温度が上がっている――が、一向に爆発が起きる気配がないのだ。
「これは……!?」
「どうやら、間に合ったみたいだな!」
一個に爆発が起きない――自分の作業の成功を確信し、ブレンダルは告げた。
「オレのセメントは万能無双! どんな状況下でも思いのままさ!
爆発前に瞬間凝固させちまうなんて朝飯前だぜ!」
そう――ブレンダルは自身の作り出すセメントを瞬間的に凝固するように調整。アトランティスの周辺のみならず、破損した装甲の隙間から内側にも流し込み、内外両面から押し固めて爆発を封じたのである。
これならアトランティス内部のフィアッセに被害が及ぶこともない。事前にフィアッセのことを聞いていたからこその、配慮の行き届いたブレンダルの見事なフォローである。
そうこうしている間にもブレンダルのセメント施工は進み、ついにはマスターガルバトロンの引き裂いた大地の裂け目はアトランティスごと大量のセメントの中に埋没していった。
「作業完了!
ふぅ、いい汗かいたぜ!」
作り出したセメントを残らず流し込み、ブレンダルはロボットモードにトランスフォーム。キリブルと共に背伸びして――
「…………汗、かくんですか?」
「いや、気分の問題で……」
冷静にツッコむすずかに答え、ブレンダルは思わず肩を落としてため息をついた。
「あわわ……アトランティスが完全に埋もれちまった……」
「スーパースタースクリームの旦那や、フィアッセ嬢ちゃんは無事なのか……?」
大地の裂け目を完全に埋め尽くした一面のセメント――その下に埋没したアトランティスの中に残された面々の身を案じ、ブルホーンとエイプフェイスがうめくと、
〈…………サイクロナス〉
突然、彼らをまとめるサイクロナスへと通信が入った。
確認するまでもない――スーパースタースクリームだ。
「スーパースタースクリーム様!
大丈夫ですか!?」
〈こちらは全員無事だ。
だが、しばらく動けそうにない――プラネットフォース探索は貴様らに任せる〉
「り、了解です!」
答え、通信を切り――サイクロナスは気づいた。
その場の一同をグルリと見回し――ヘルスクリームに尋ねた。
「…………このメンツをまとめろと?」
「……手伝ってあげるわよ」
「エイミィ、それにホップさんにバンパーさんも、お帰りなさい」
アースラに帰還したエイミィ達を待っていたのは、仲間達の盛大な歓迎だった。格納庫に集まった一同を代表し、リンディがエイミィ達に告げる。
「みんな、無事でよかった」
「ありがとう、みんな。
フィアッセさんに保護してもらったのはいいけど、脱出手段がなくて正直困ってたんですよ」
「どうも、ご心配をおかけしました」
告げるギャラクシーコンボイにホップと共にそう答え――エイミィは唐突にアレックスとランディへと向き直り、
「それにしても、二人とも……」
「琥珀もですよ。
一体何なんですか……」
『アレは!』
秋葉も加わり、二人で指さしたのは、もちろん彼らがエイミィ救出用に投入した有人型ランブルである。
「いつの間にあんなものを……
私の分はないんですか!?」
「いや、秋葉さん、そういう問題でもないんじゃ……」
琥珀に詰め寄る秋葉の言葉にフェイトがうめくと、そんな彼らの傍らでギャラクシーコンボイはこれを持ち込んだ主犯と思しき人物へと振り向き、
「セイバートロン星にいたヤツか?」
「えぇ。
比較的ダメージの軽いまま停止していたものを、みんなで改造したんです」
だが、当の本人に反省の色はない。忍は肩をすくめ、さも当然のようにそう答える。
と、琥珀は自分達の乗っていた赤いランブルの中に乗り込み、
「もちろん、ただ乗り回すだけじゃないですよ!」
言って、システムを起動させると目的の操作を行い――赤いランブルはその場で跳躍。トランスフォームし、ロボットモードとなって着地した。
「へぇ、トランスフォームのシステムもちゃんと残してあるんだ……」
「それだけじゃないわよ。アースラのブリッジシステムとリンクさせることで、移動司令部みたいな使い方もできるようになってるし」
感心するジャックプライムに答えると、忍は突然ため息をつき、
「ただ……残念だけど、火器関係は全部外すしかなかったのよねぇ……
火器管制システムとか、全部頭部に集中してたから……おかげで肩の主砲も作業用バーナーに全交換よ」
「いいじゃないですか。元々作業用に改造してたんですし」
やはり彼女としては火器関係は残しておきたかったらしい――肩を落としてつぶやく忍にランディが答えると、
「大したものだな。
だが……ひとつ忠告しておく」
突然、ギャラクシーコンボイが真剣な表情で琥珀達に向き直った。
まさか、戦いに巻き込まないために使用を禁止させるつもりだろうか――思わず一同が息を呑む中、ギャラクシーコンボイは告げた。
「モードを切り替える時には、『トランスフォーム!』と叫ぶんだ。
その方が気合が入るぞ」
『………………は?』
意外な言葉に間の抜けた声が上がり――しばしの沈黙の後、彼なりのジョークだとわかり、一同は思わず笑い声を上げる。
一堂の空気が和んだところで、ギャラクシーコンボイは改めて3体のランブルへと歩み寄り、
「と、いうワケで、これを渡そうと思う」
言って、それぞれのランブルに貼り付けたのは――サイバトロンのエンブレムだ。
「なのは達だけではない。キミ達も、立派なサイバトロン戦士のひとりだ。
これからもよろしく頼むぞ」
「お任せください♪」
「戦うことはできないけど、これからはオレ達も前線でみんなをサポートしてみせますよ!」
ギャラクシーコンボイの言葉に琥珀とアレックスが答えると、
「けど、そうなるとアースラはゆうひとリンディ提督だけで指揮することになるのか……」
「あ、そっか……ブリッジクルーが二人も欠けることになるから……」
ふと気づいた耕介の言葉に、そのことに思い至った美由希がつぶやき――
「いや……ギガロニアの地下には、リンディ提督達はもちろん、桃子や愛――小鳥達にも同行してもらう」
突然そんなことを言い出したのはビッグコンボイだ。
「ビッグコンボイ、それは……」
「お前が心配する気持ちもわかる。
だが、彼女達も立派な戦力だ――ゆうひも今や立派なオペレータだし、リンディ提督の指揮能力はやはりあてにさせてもらいたい」
リンディ達の身を案じ、反対の声を上げたギャラクシーコンボイだったが、ビッグコンボイはあっさりとそう答える。
「桃子達については……彼女達自身のため、といったところか。やはり留守番では心配だろう。
まぁ、それはアースラの他のクルー達にも言えることだが――さすがに全員はつれて行けん。そういう面々を代表して、というところだな」
「へぇ……意外な人が意外なことを言い出したもんだな」
「ちゃんとみんなのことを考えてくれたんやね。えらいよ、ビッグコンボイ」
「うるさいぞ、そこ」
すかさず茶化すライガージャックとはやての言葉に少し照れ気味に答えると、ビッグコンボイはメガロコンボイやブレンダル、そしてベクタープライムへと視線を向け、
「そこの3人は、まだパートナーを連れていないだろう。彼女達のことを任せたい。
士郎もだ。護衛として同行してくれ」
その言葉に指名された面々がうなずき――ギャラクシーコンボイは改めて一同に告げた。
「では、再会を喜ぶのはここまでだ。
いよいよ最下層に出発するぞ。
バックギルド、説明を」
「わかりました」
ギャラクシーコンボイの言葉にうなずき、バックギルドはメインモニターにデータを表示した。
「クロノが手に入れてくれたデータチップによって、ギガロニアの地下構造がだいぶわかりました。
それによると、この近辺からギガロニアの最下層に向かうためには、大きく分けて6つのルートがあると言えます」
「マスターガルバトロンが出てきた裂け目から行けば、まっすぐ行けるんじゃないか?」
「さっき、ブレンダルがアトランティスごとセメントづけにしてまったやろ」
尋ねるブレインストームにレンが答えると、
「方法はないワケではない」
そう答えたのはベクタープライムだ。
「マスターメガトロンは、精神体のみを地下に放ち、ユニクロンのプラネットフォースを吸収してマスターガルバトロンへと転生した。
同じように、我々もボディを捨て、スパークのみになれば、マスターガルバトロンの通ったのと同じルートをたどれるだろう」
「あう゛…………
謹んで辞退させてもらいます……」
サラリととんでもないことを言ってくれるベクタープライムの言葉に、ブレインストームはあっさりと白旗を揚げる。
「となれば、方法はひとつしかあるまい」
「うむ」
告げるスターセイバーにうなずき、ギャラクシーコンボイは告げた。
「我々にはそう多くの時間が残されているワケではない。
6つのルートがあるというのなら、チームに分かれて行動するとしよう。
チーム分けはドレッドバスター、フォートレス、二人に任せたい」
「了解です」
「任せてもらおう」
ギャラクシーコンボイの言葉に、ドレッドバスターとフォートレスはそれぞれに答え――
「どうせ、マキシマスを地下に持ち込めない私には、このくらいしか活躍の場はないのだからな……」
「あー、えっと……がんばれ」
涙ながらにつぶやくフォートレスの言葉に、志貴はそれだけしか告げることはできなかった。
その頃、ギガロニアの別の一角では――
「いやー、助かった。
いきなり誰かと思ったぜ」
「仲間を助けること――それが我らの掟」
告げるノイズメイズの言葉に、サウンドウェーブはそう答える。
ビクトリーコンボイのエターナルブレイズは、ノイズメイズを捕らえてはいなかった――間一髪で、飛来したサウンドウェーブが彼を助け出していたのだ。
「フッ、掟、か……」
ともあれ、サウンドウェーブの言葉にノイズメイズがどこか自嘲気味につぶやくと、
「そう思うんなら……」
新たな――だが聞き覚えのある声が二人の会話に割り込んできた。ノイズメイズ達は一様に振り向き――
「ワシのことも、助けてくれればよかったと思うんじゃがのぉ……」
そう告げるのは、サウンドブラスターに連れられたランページだ。
「まったく、みんなそろっとワシのことを忘れてたんじゃないじゃろうな?」
ため息まじりにつぶやくランページのとなりで、サウンドブラスターはマイクを取り出し――
「いや、お前は何も言うな!
こんなところで騒がれたら音声センサーがイカレる!」
そんな彼から、ノイズメイズはあわててマイクを奪い取る。
「とにかく、これで今“こっち”に来てるメンツは全員集合か」
「うむ。
いよいよ我らの悲願の時だ」
気を取り直し、告げるノイズメイズに答えると、サウンドブラスターは一同を見回し、告げた。
「作戦を最終段階に移行させる。
サイバトロンのプラネットフォースを奪い――プライマスの力を弱体化させる」
ギガロニアの最下層を目指すサイバトロン軍は、ドレッドバスターによるチーム編成を行い、6つのアタックチームと、3つのバックアップチーム、計9チームに分かれて行動することとなった。
チーム編成の内容は――
実際地下に突入するのはアタックチームの6チームだが、バックアップ
系の3チームも拠点を移動させながらバックアップを続け、最終的に最下層で合流する手はずになっている。
こうして、それぞれのチームは指定された突入ルートを目指し、出発していった。
「キミ達がいてくれて助かるな」
「こういう細かいところの作業は任せてください♪」
ギャラクシーコンボイ達の前に立ちふさがったのは、街を捨てた際に残された、ダストシュートからあふれ出るほどのガレキの山――サーチャーで突破できるポイントを探しながら、なのははギャラクシーコンボイの言葉にそう答える。
《身体が大きいっていうのも、何かと不便だよねー♪》
「ハハハ、そうだな」
プリムラの言葉にメガロコンボイが苦笑すると、サーチを終えたなのはが口を開いた。
「…………あ、ダストシュートの下の方に空洞があります。
ここにゴミを落とせば、通れるようになるかも……」
《ブリッツシューターなら、何とかなるんじゃない?》
「うん」
尋ねるプリムラに答えると、なのははレイジングハートから魔力弾を1発発射。ダストシュートの底で炸裂させ、その衝撃で行く手を塞いでいたガレキの山が崩落。目の前のダストシュートの中へと崩れ落ちていく。
「やれやれ……これで通れるな。
まったく、誰がこんなにしやがったんだ。面倒ったらありゃしねぇ」
「何言ってるの。
自分達で埋めたんでしょう?」
ため息をつき、ボヤくメガロコンボイに答えるのは、ベクタープライムの傍らに控える桃子だ。
「おっと、そうだったな」
「これは、桃子さんに1本取られましたね♪」
苦笑するメガロコンボイにリンディが答えると、プリムラがホップに尋ねた。
《ねぇ、最初のゲートは近いの?》
「少々お待ちを」
その問いに、ホップは背負っていた端末を下ろすとそこにギガロニアの地下データを表示する。
「もうすぐですね。
データは艦の方で分析したものをそのまま持ってきてますから、間違いはないでしょう」
「では、先を急ごう」
ホップの言葉にギャラクシーコンボイが答え、彼らは先へと進んでいく――
「ありゃ便利だな」
「だなだな」
そんな彼らの様子をうかがう者の存在に気づかずに――
「ここで間違いありません」
《そ、そりゃ、間違いないだろうけど……》
たどり着いた扉の前でつぶやくホップに答え――プリムラは扉を見上げた。
「さすがはギガロニア……
捨てられた街もビッグスケールねぇ……」
桃子がつぶやいた通り、その扉はとてつもなく巨大なものだった。サイバトロン基地の扉の倍以上の高さがある。その大迫力の前に、なのは達はただただ圧倒されるしかない。
「あまり……考えたくないんですけど……
『これを人力で開けろ』って言われたら、泣いていいですか?」
「電源が落ちていないことを祈るばかりね……」
尋ねるなのはにリンディが答えると、
「おいおい、オレの存在を忘れてないか?」
言って、メガロコンボイが扉の前に進み出た。
「みんな、下がってろ。
ちょっと力仕事をするからな」
そう告げると同時、扉に手をかけ――
「ぅおぉぉぉぉぉっ!」
ファイト一発。気合の雄叫びと共に、一気に扉を開け放つ!
とたん、その向こうの景色が視界一面に広がり――
《「ぅわぁ♪」》
『きれい』という以外に説明できる言葉など思いつかない――人がいないとはとても信じられない、整った街並みを見渡し、なのはとプリムラはそろって感嘆の声を上げていた。
「ふぅ、ようやく着きましたね……」
「と言っても、1階層分下に下りただけだがな」
つぶやく桃子にメガロコンボイが答えると、
「ねぇ、メガロコンボイさん」
そんなメガロコンボイに、なのはが声をかけた。
「こんなにきれいなのに……ホントに誰もいないんですか?」
「あぁ、誰もいない。
ひとり、捨てた街にも入り込んでそうなヤツに心当たりはあるが……さすがのヤツも、地下階層にまでは来ないはずだしな」
「モールダイブのようなヤツが、他にもいるのか?」
「あぁ。
メトロタイタンっていってな……プラネットXからの侵入者に対していつもピリピリしてて、捨てた街とかもあちこち見回ってるのさ。
掟を破ってでも星を守る――それがヤツの言い分だ。
結果的には、今のオレ達と同じことしてるんだけどな……」
尋ねるベクタープライムにメガロコンボイが答えると、
「誰もいないんだ……
なんだかもったいないわね」
「『もったいない』?」
ふとつぶやいた桃子の言葉に、メガロコンボイは眉をひそめて聞き返した。
と、桃子のとなりでホップもうなずき、
「確かに、資源のムダですね。
自分の生まれた星でありながら、反省です」
「ふむ……
そういえば、風習に従って移り住むばかりで、そういうことは考えたこともなかったな……」
ホップの言葉に改めて周囲を見回し、メガロコンボイはどこか感慨深げにつぶやく。
《けど……とても地下とは思えないよね、この街見てると》
「ですね……
上は青空まで再現されてますし」
「あぁ。
なんという文明の発達の仕方だ……このような街が地下にあるとは……」
見れば見るほど、ここが地下だということを忘れそうになる――青空まできっちりと再現された街並みを見渡してつぶやくプリムラにリンディとベクタープライムが答えると、ギャラクシーコンボイがホップに尋ねた。
「ホップ、現在位置はどの辺りになる?」
「あ、はい。今確認します」
答え、ホップは背中の地図マシンを下ろそうとし――突然、その姿が消えた。
「ぅわぁっ!?」
突如飛び込んできた何者かが、ホップを連れ去ったからだ。
「何者だ!?」
とっさに身がまえ、ギャラクシーコンボイが声を上げると――
『なぁーっはっはっはっ!』
高笑いと共に、ホップをさらった犯人達は目の前のビルの屋上に着地した。
その正体は――
『オイラ(ボク)達ことデストロンの最強コンビ!』
「ガスケット!」
「アームバレット!」
『只今参上!』
《あー! いつもの迷惑コンビ!》
「最近姿を見ないと思ってたら……やっぱりギガロニアに来てたのね!」
高らかに口上を述べるガスケットとアームバレットの言葉に、プリムラとリンディが思わず声を上げる。
そう。二人はかつてアトランティスが月の裏側からワープで逃走した際、ちゃっかり船内に忍び込んでいた――そのまま、誰にも見つかることなくギガロニアまで密航していたのだ。
そして、先のエイミィ救出作戦のどさくさにまぎれて脱出。アトランティスがセメントづけになる前にその場を離れ、なのは達の後を尾行し、この場に現れた、というワケだ。
「よっしゃあ! 久々の出番なんだな!」
「アトランティスに潜り込んでから丸々13話! ようやく見せ場が回ってきたぜ!
今戻りますから、待っててくださいね、マスターメガトロン様ぁっ!」
大はしゃぎで歓声を上げるアームバレットとガスケットだったが――そんな二人に桃子は笑顔で告げた。
「もうすっかり忘れてたりして♪
『誰だ、貴様ら?』みたいな感じで」
『シャレになってねぇ……!』
「あー、ゴメン。
ジョークだから。軽〜くジョークだから」
あまりにリアルすぎる光景が思い浮かんだのか、そろって崩れ落ちるガスケットとアームバレットの姿に、桃子は思わず謝罪の声を投げかける。
そんな桃子のなぐさめが効いたのかどうかは知らないが、彼女達の前で二人はすぐさま復活し、どさくさにまぎれて逃げ出そうとしていたホップを再び捕まえる。
「こらーっ! 放しなさい!」
「ヤだよーっ♪
お前のもってる地図さえあれば、オイラ達がプラネットフォースに一番乗り!」
「ついでに人質ゲットだぜ!」
「卑怯な……!」
アームバレットの、そしてガスケットの言葉にギャラクシーコンボイがうめくと、
「卑怯者にはオシオキだ!」
咆哮し、メガロコンボイが二人に飛びかかるが――ガスケット達は素早くその攻撃をかわし、そのままビルの屋上伝いに逃げていく。
「追うぞ!」
「はい!
プリムラ!」
《合点承知!》
ギャラクシーコンボイの言葉に答え、なのははアニマルモードのプリムラと共に飛翔、ガスケット達を追うが、
「へっ、やれるもんなら!」
「やってみろ!」
そんな彼女達に対してガスケット達は迎撃を開始。ホップを人質に取られているなのは達は手が出せず、再び飛びかかったメガロコンボイの腕からも逃げられてしまう。
「あれだけ小回りを利かせられたら、なのはさんでも狙いが絞れない……!
いったいどうすれば……!」
状況を見守り、リンディがつぶやくと――
「…………リンディさん」
突然、そのとなりで桃子が口を開いた。
「ひとつ……アイデアがあるんですけど……
ブレンダルさんを呼び出してもらえませんか?」
「え…………?」
「とりあえず、言われたとおりに作ったが……こんなもの、どう使うんだ?」
「それは見てのお楽しみ、ですかね♪」
桃子の案は、リンディによってすぐさまバックアップチームへと伝えられた。言われたものを作り上げたものの、その用途が思いつかないブレンダルに、琥珀は笑顔で答える。
「これ、動き回る相手には効果がバツグンなんですよ。
さすがは主婦の桃子さん。目の付け所が違いますね♪」
ともかく、ブレンダルは自らの作った球状のカプセルをそれぞれのランブルに積み込み、琥珀もそう言いながら自分達の真紅のランブルに乗り込む。
「しかし……キミ達だけで大丈夫か?」
「ガスケット達に追いつくには、最短ルートで行かないといけないからね……そうなると、みんなじゃ通れないような隙間を突っ切っていくしかない」
「みんなは後からのんびり来てくれればいいからさ」
「フッ、頼もしいな」
「ま、そうでなきゃ、ギャラクシーコンボイも参戦を許可した意味がないしね」
ガードシェルに答えるアレックスとランディの言葉にライブコンボイが苦笑し、真一郎がそれに答える。
「みんな……なのはのことをお願いね」
「大丈夫だって」
「任せといてくれ。
バッチリみんなを助けてくるからさ」
美由希の言葉にアレックスとランディが答えると、
「姉さん、準備完了です」
「はいはい♪
じゃあ、みなさん、一足先に行ってきまーす♪」
システムチェックを終え、告げる翡翠にそう答えると、琥珀は先頭に立ってなのは達の元へと出発した。
「愉快、ツーカイ!」
「カーイカイカイ♪」
ホップを捕まえている以上、なのは達は手出しができない――すっかり調子に乗って、ガスケット達は彼女達から逃げ回る。
何もできず、ただ追いかけ回すしかないなのは達に対し、ガスケット達はまさに余裕綽々。懐から扇子まで取り出して、完全にお遊びモードに突入している。
「鬼さんこちら♪」
「手の鳴る方へ♪」
「待ちやがれ!」
そんな二人を狙い、背後から飛び出すメガロコンボイだが――やはりダメだ。素早い二人の動きは、パワーの代償としてスピードに難のあるメガロコンボイでは追いきれない。
「だから遅いっての!」
そんなメガロコンボイの頭を踏みつけ、ガスケットが彼をからかい――
「悪ふざけは――」
「そこまでです!」
『何だ何だ……?』
突然の声に眉をひそめ、ガスケット達は近くのビルに降り立つと周囲を見回して声の主を探す。
「宇宙の平和を乱す者は」
「我々が決して許さない!」
「誰だコラぁ!」
「出てきやがれ!」
声だけで一向に姿を現さない――ムキになってわめくガスケット達の言葉に応えるかのように、彼らは近くのビルの上にその姿を現した。
その正体はもちろん――
『ランブルチーム、ここに参上!』
「な、何だ何だ、カッコつけやがって!」
現れた琥珀達のランブル3体の姿に、水を差されたガスケットは扇子を放り出して怒りの声を上げる。
と、となりでアームバレットも扇子を放り出し――
「気にくわねぇ!
まるでオイラ達が悪者みたいじゃねぇか!」
「いや、悪者だろ」
思わずガスケットがツッコみ――そのスキに琥珀達の駆る3体のランブルは一斉に跳躍し、
『レッドランブル!』
「ブルーランブル!」
「イエローランブル!」
『トランスフォーム!』
咆哮し、それぞれがロボットモードにトランスフォーム。ガスケット達に向けてブレンダルから受け取ったカプセルを一斉に投げつける。
だが――ガスケット達には当たらなかった。彼らの周りに落下し、中身の液体をぶちまける。
「へっ、バーカ! 当たってねぇっての!」
「こんな泥みたいな液体で何するつもりだったんだよ!?」
彼らの攻撃は不発に終わった――そう確信し、再び扇子を取り出してからかうガスケット達だが――
『…………あれ?』
気づいた。カプセルの中身の液体のかかった足を動かそうとしてみるが――
『あれ…………?
動けない……?』
そう――液体は完全に固まり、ガスケット達の足をビルの屋上に縫いとめているのだ。
「みなさん、今です!」
「琥珀、あれは!?」
告げる琥珀にベクタープライムが聞き返すと、
〈ブレンダルさんに作ってもらったセメントボール――すぐに固まっちゃう、っていう、あのセメントですよ。
“台所の黒い悪魔”対策、あるじゃないですか。ヒントはアレ♪〉
そう答えたのは、リンディからサイバトロンPDAを借りて通信してきた桃子だ。
「あ、あれ……?」
「どうなってんだ……?」
一方、ガスケット達は自分達の足を何とか動かそうと懸命の努力を続けていたが――ふと自分達の上に落ちた影に顔を上げ、
『げげぇっ!?』
自分達が動けないでいる間に目の前へと降り立ったギャラクシーコンボイの姿に、二人そろって絶叫する。
「さぁ、返してもらおうかな?」
「………………はい。スミマセーン」
威圧感タップリに告げるギャラクシーコンボイに素直に従い、アームバレットはホップを差し出し――
「なーんちゃって!」
ギャラクシーコンボイに引き渡そうとした瞬間、自分達の背後に向けてホップを放り投げる!
「こうなりゃやぶれかぶれだ!」
「だなだな!」
どうやらこちらを撃破し、その上でホップ達を連れて行こうというつもりなのだろう。ガスケット達はそれぞれの火器をかまえ――
「残念だったな!」
そんな彼らに告げたのはギャラクシーコンボイではなかった――ガスケット達の背後、ホップの落下していった先から、ビークルモードのライブコンボイが姿を現したのだ。
そして、彼のアンカーの先には救出されたホップの姿が。
「ホップは保護した!
後は思う存分やってくれ!」
「あーっ! ズルい!」
告げるライブコンボイの言葉にガスケットが声を上げ――
「お前達」
そんな彼らに、ギャラクシーコンボイは先ほど以上の威圧感を込めた口調で告げた。そのとなりになのはも舞い降り、プリムラを装着してレイジングハートをかまえる。
「これだけこっちをかき回してくれたんですから……」
「覚悟はできているんだろうな?」
「い、いえ……」
「できてませ〜んっ!」
なのはとギャラクシーコンボイの言葉に、ガスケット達は思わず絶叫し――
「ギャラクシーコンボイ!」
叫んで、メガロコンボイがギャラクシーコンボイに自らのメガロアックスを投げ渡した。
「ブッ飛ばすんならソイツを使え。
スカッとすること請け合いだぞ」
「すまない、メガロコンボイ。
では――やるか、なのは!」
「はい!」
メガロコンボイに答え、告げるギャラクシーコンボイになのはが答え、
『フォースチップ、イグニッション!』
なのはとギャラクシーコンボイの咆哮が交錯し、飛来したセイバートロン星のフォースチップはギャラクシーキャノン――ではなくメガロコンボイから託されたメガロアックスのチップスロットに飛び込んだ。刃が展開され、ギャラクシーコンボイは渾身の力で巨大なメガロアックスを振りかぶる。
《いっけぇ! ギャラクシーコンボイ!》
「ズバーンッ! とブッ飛ばしちゃってください!」
「おぅ!」
プリムラとなのはの声援に答え、ギャラクシーコンボイは一直線にガスケット達に突撃し――
「名づけて――
ギャラクシー、ギガクラッシュ!」
思い切り遠心力を加えたメガロアックスの一撃が、ガスケットとアームバレットをブッ飛ばす!
『ごぉめんなさぁぁぁぁぁいっ!』
思わず謝りながら、ガスケット達はブッ飛ばされていき――久しぶりに空の星になったのは、それから数秒後のことだった。
「ボク達は出る幕はなかったな」
「大したもんだ」
「頼りになるな」
「さすがは琥珀殿でござるな」
「ま、ざっとこんなもんですよ♪」
とりあえずは一件落着。口々にほめたたえるライブコンボイ達の言葉に、琥珀は「えっへん!」と胸を張って答える。
「ホント、すごいわねぇ……
なんだか、私も乗ってみたくなっちゃった」
「えー? お母さん、操縦できるの?」
《家のビデオの操作だってなの姉に任せきりなのに》
「うぅ、それを言わないでよぉ……」
ランブルに興味を抱いたもののなのはやプリムラに一蹴され、桃子が思わず肩を落とすと、
「しかし……もうデストロンがここまで入ってきてるなんてね……」
「他のルートに入ったみんなの方にも、現れる可能性は高いでござるな……」
ガスケット達の出現に懸念を抱く美由希の言葉に、メビウスショットもまた腕組みしてつぶやく。
「よし、我々も気を引き締めて先へ進もう。
ギガロニアのプラネットフォースを、ヤツらに渡すワケにはいかない」
「はい!
がんばりましょう、ギャラクシーコンボイさん!」
ギャラクシーコンボイの言葉に答え、なのはは手の中のレイジングハートへと視線を落とした。
「絶対に、プラネットフォースはデストロンには渡せない――」
(マスターガルバトロンさんを、止めるためにも……!)
言葉の後半は口に出さず――なのはが思い返すのはルインコンボイ戦で、そして先のデスザラス戦で自分を助けてくれたマスターガルバトロンの姿――
(そう――マスターガルバトロンさんだって、きっと本当は悪い人じゃない……!
だから――)
(わたしが……絶対に止めてみせる!)
決意を新たにし、なのはは改めてレイジングハートを握り締めた。
(初版:2007/05/20)