なのは達の活躍でガスケットとアームバレットがブッ飛ばされた、同じ頃――
「ここまでは順調だな……」
「この分では、一番乗りはオレ達かもしれないな」
ライドスペースでつぶやく耕介の言葉に、スターセイバーやソニックボンバーの眼下で通路を疾走するニトロコンボイが答える。
彼らのチームは現在、ギガロニアの地下第1層をすでに通過、次の階層に向かうための通路を進んでいた。
「ま、オレとしちゃ、少しくらいは敵が出てきてくれないと、任務をやり遂げた、って気がしないけどな」
「ハハハ、まったくだぜ」
「その時は頼むぞ、二人とも」
一方、何事もなくて逆に退屈しているのがソニックボンバーとビクトリーレオだ。二人の言葉に、クロノは肩をすくめてそう告げる。
と――ブレイズリンクスのライドスペースで、知佳は「う〜ん」と背伸びして、
「確かに、二人じゃないけどちょっと退屈だよねぇ……
あ〜ぁ、恭也くんと同じチームになりたかったなぁ……」
「それはこちらのセリフだ。
どうして我々が恭也と引き離された挙句、一まとめで同じチームにならなければならないのだ」
(まとめて隔離しとかないと、絶対モメるからだろうな……)
知佳や、彼女に答えるシグナムの言葉に、原因に思い至ったスターセイバーは絶対的といってもいいほどの確信と共に胸中でつぶやく。
3人とも同じチームにしようものなら、恭也を巡ってモメるのはまず間違いない。かと言って、3人をバラバラのチームに散らしても、合流にかこつけて抜け駆けが発生し、またモメる可能性がある。
ならばいっそ、知佳とシグナムを同じチームにしてけん制し合ってもらおう、という意図なのだろうが……
(巻き込まれるこちらの苦労も察してくれ……)
思わずチーム編成を担当したドレッドバスターへの怨嗟の念を抱きながら、スターセイバーは通路の奥に向けて加速した。
第74話
「女の戦い!
巻き添えさん達の挽歌なの!」
そしてまた、別のルートでは――
「む………………?
トランスフォーム!」
ビッグコンボイ達を先導し、先を急いでいたドレッドバスターは、前方に見えてきた“それ”に気づき、ロボットモードとなって着地した。
「どうした?」
後に続き、ビッグコンボイが尋ね――彼もまた、目の前の“それ”に気づいた。
通路の先で大きく口を開けた縦穴である。
「ぅへぇ……ひでぇな……」
「崩落したのかしら?」
「デストロンが突破した、とも考えられるよな」
「可能性、五分」
ライガージャックやアイリーン、ブロードキャストの言葉にアトラスが答えると、
「どうするん? ビッグコンボイ」
ビッグコンボイのライドスペースで、はやてが彼に尋ねた。
「このチームのリーダーはビッグコンボイや。ビッグコンボイが決めればえぇ」
「ふむ……」
はやての言葉に、ビッグコンボイはしばし考え――
「……よし、この穴を降りよう。その方が早く下に行ける」
「しかし、デストロンのワナという可能性も……」
「だが、時間的な余裕は生まれる」
慎重派であるがゆえか、思わず危険性を提示するドレッドバスターだが、そんな彼にはファングウルフが答えた。
「我々の目的はデストロンを倒すことじゃない。一刻も早くプラネットフォースを手に入れることだ。
たとえこれがワナだとしても、まっすぐ進むよりはそのワナをムリヤリ突破する方が早く進めるはず――ここは安全性よりも時間的余裕を選ぶべきだ」
「へぇ、いつも冷静なあなたからそんな強攻策が出るとは意外ね」
「これでも信頼してる、ということさ。
このメンバーなら、並大抵のワナは突破できる、とね」
「……せやね。
わたしらやったら、きっと大丈夫や。
行こう、ビッグコンボイ」
「おぅ」
肩をすくめてアルフに答えるファングウルフの言葉にはやても同意し、彼らは一路縦穴から下の階層へと向かっていった。
スターセイバー達、そしてビッグコンボイ達――それぞれが最下層を目指している中、なのは達もまた、次の階層への通路に突入していた。
そして、彼らの通り過ぎたすぐ後には――
「…………また、やられたな……」
「また、やられた……」
ボロボロになって大地に転がるガスケットとアームバレットの姿があった。
「帰ってくるなり、秒殺だったな……」
「秒殺だな……」
「オイラ達、このままでいいのかな……?」
「いや、よくないでしょ……」
「よくないよなぁ……」
そこで会話が止まり――ガスケット達はガバッ! と身を起こし、走り去っていったなのは達へと声を張り上げる。
「やいコラ、ギャラクシーコンボイ! 高町なのは!」
「オイラ達の底力、っていうか、しつこさを、これでもか、って見せつけてやるぜ!」
『なーっはっはっはっ!』
再戦を宣言し、高笑いを上げる二人だが――
『………………むなしい……』
当然、すでに立ち去ったなのは達からの答えはなく、二人は口をそろえて肩を落としたのだった。
「………………ん?」
地下に続くエレベータを発見、降りていくことしばし――停止したエレベータから出て、ニトロコンボイはふと足を止めた。
同様に、後に続いたスターセイバーやソニックボンバーも足を止め――そんな彼らに知佳が尋ねた。
「どうしたの?」
「さっきまでと、どこか構造が違う。
どうやら、別の階層に入ったのかもしれん」
そう答えるブレイズリンクスだが――わからないことはそれだけではない。
「けど、どうして立ち止まるの?」
「おいおい、よく考えてもみろって」
そう答え、ヴィータはグラーフアイゼンを取り出し、
「ここは広い空間で、しかも出入り口はひとつだけ……
ワナや待ち伏せをするには――」
「絶好の場所よね!」
そうヴィータに答えると同時――彼らの前に降り立ったのはクロミアだ。
そして、そんな彼女のとなりに降り立ったのは――
「フレイムコンボイ!」
「フンッ、また会ったな、お前達」
声を上げるシグナムに、フレイムコンボイは悠々とそう答え――
「『また会ったな』じゃない!」
「ぅおっとぉ!?」
そう言い放ったのはシグナムだ。突然の剣幕に一同が驚きを見せる中、たじろぐフレイムコンボイをビシッ! と指さし、
「まったく、何考えているんだ、貴様は!
ルインコンボイとの戦いやギガロニアまでの道中で助けてくれて、みんな『やっと改心してくれた』と喜んでいたのに、あっさりとデストロンに戻って!
確かに、あの時は戦友だったマスターメガトロンが危ない状態だったからわからないでもないが、マスターガルバトロンになって元気になったのなら、ヤツの身を案じて戻った貴様がデストロンに居残る理由はないだろう!
ブリッツクラッカーといい貴様といい、サイバトロンとデストロンの間を行ったりきたり! 忠義というものはないのか!?
まぁ、ブリッツクラッカーは最初からずっとデストロンに戻りたがっていたようだからまだ許せるが、貴様の場合はどうだ!? デストロンにいたいとかサイバトロンにいたいとか、自己主張したことがあったか!?」
「い、いや……別に、フラフラしているワケじゃ……」
「だったら何なんだ!」
一気にまくし立てるシグナムに対し、何とか反論を試みるフレイムコンボイだが、彼女はそんなフレイムコンボイの弁明すら一蹴してしまう。
「貴様、図体ばかり大きくて、実は何も考えてないんじゃないのか!?」
「ちょっと、言いすぎじゃないのか――」
「言いすぎなものか!」
またもや一蹴。フレイムコンボイの反論を完全に封じ込め、シグナムの追及はさらに続く。
「だいたい、貴様はスキャニング対象のセンスからして悪すぎるだろう!
ドラゴンだなどとカッコをつけているが、結局のところはトカゲだぞ! トカゲ!
いや――色だってムダに極彩色で目が痛くなってくるし、それにゴツゴツした腕! トカゲと言うよりガマガエルじゃないか!」
「な、何なんだ、アレは……?」
「ものすごい剣幕だな……」
「ってゆーか、途中から追及のポイントがなんだかおかしな方向に向かってないか……?」
フレイムコンボイに対し容赦のない口撃を続けるシグナムに対し、彼女の変貌の理由が読めないままクロノ、耕介、ソニックボンバーがうめき――
「貴様がそんなだから、パートナーの恭也も私達に対してハッキリしてくれないんだろうが!」
「それが本音か貴様ぁっ!
だいたいアレはそれ以前の問題だろうが!」
おそらくは一番言いたかったであろう本音をぶちまけたシグナムに対し、思わずフレイムコンボイが反論するが、
「相棒なんだ。貴様にも責任はある!」
今のシグナムには通じない。『連帯責任』という大義の元にあっけなく叩きつぶされてしまう。
「昔は掟だ何だと言っていたクセに、堕落したんじゃないのか!?
恥ずかしいとは思わないのか!?」
「こんなところにまで色恋沙汰の八つ当たりを持ち込む貴様に言われたくないわぁっ!」
「私のことは関係ない!
今は貴様のことを言っているのだ!」
(自分のことを完全に棚上げしやがった……)
強引にフレイムコンボイの反論を叩きつぶすシグナムの姿にビクトリーレオが胸中でうめき――
「ちょっとちょっと! 何なのよ、この状況は!」
シグナムとフレイムコンボイの(一方的な)論争に乱入したのはクロミアだ。
「さっきから聞いてれば言いたい放題!
私を無視してて話を進めてんじゃないわよ!」
そうシグナムに言い放つと、今度はフレイムコンボイに向き直り、
「それにアンタもアンタよ!
こんな小娘相手にやり込められてるんじゃないわよ!」
「いや、しかしだなぁ……」
「しかしもへったくれもない!」
反論しかけたフレイムコンボイに言い放つと、クロミアはもう一度シグナムへと向き直り、
「やい、そこの小娘!」
「小娘、だと……?」
「そうよ。アンタ達なんて『小娘』で十分よ。
だって実際に“小”さいんだし」
「何だとぉ!
やい、もう一度言ってみやがれ! このヴィータ様が黙っちゃいねぇぞ!」
「って、お前がキレてどーすんだよ」
クロミアの『小さい』発言にキレたヴィータをビクトリーレオがなだめるが、当のシグナムは落ち着いたものだ。
「そんな安い挑発には乗らんさ」
「あらあら、枯れちゃってるわねぇ」
だが、シグナムのその言葉を、クロミアは鼻で笑い飛ばし、
「そんなだから、未だにカレシのひとりもつかまえられないのよ。
このイ・キ・オ・ク・レ♪」
「はんっ! ムダムダ!
シグナムがそんな見え見えの挑発に乗るもんか!」
そんなクロミアのあからさまな挑発にヴィータが言い返し――
プツンッ。
音がした――ような気がした。
小さな、だが決定的な、何かが切れる音――
訝り、ヴィータはゆっくりと振り返り――後にこの時のことを彼女はこう語った。
『修羅を見た』と。
「……上等だ、貴様……!」
「お、おい……? シグナム……?」
「お、落ち着け……頼むから……」
静かに――だが圧倒的な迫力で告げるシグナムに、スターセイバーとソニックボンバーが恐る恐る声をかける。
今の彼女が相手では、オレ様タイプなことで知られるソニックボンバーも強くは出られない。出たらどうなるかわかりすぎるくらいにわかる。
すなわち――地獄だ。
一方で、そんな彼女の様子に、耕介は思わず胸中でつぶやいた。
(確かに、色恋云々は今の彼女には地雷ワードだよなぁ……)
彼は――というか、この場の全員が知っている。シグナムが恭也に対し恋愛感情を抱いていることを。
しかし、シグナムが感情を自然に表に出せるようになったのはつい最近のことだ。当然、ずっと感情を押し殺して生きてきた彼女が色恋のノウハウなど知るはずもなく――自分の抱いている感情すら扱いかねている始末。結果として、同じく恭也に想いを寄せる知佳に対して終始押されっぱなしの状態だ。
その上、肝心の恭也が自分達の好意にまったく気づいてくれない超鈍感ときた――先ほどのフレイムコンボイへの追求も、元を辿ればそういった状況に対するフラストレーションによるものだろう。
そんな彼女に対しては色恋がらみの挑発がもっとも効果を発揮する――永年地球デストロンとして人間達を翻弄していたクロミアの本領発揮である。
案の定、シグナムはクロミアに剣を向け、怒りもあらわに宣告した。
「いいだろう……相手をしてやろう!」
「そうこなくっちゃ♪」
レヴァンティンを抜き放ち、告げるシグナムの言葉に、クロミアもまた余裕の態度で応じる。
「……ブッタ斬る」
「こっちこそ♪」
静かににらみ合う二人を見て――その場にいる他の一同は同時につぶやいた。
『………………怖っ!』
その頃、縦穴からさらに下を目指したビッグコンボイ達は、長い落下の末に狙い通り下の階層にたどり着いていた。
「どうやら、ワナはないようだな……」
「あぁ……」
周囲を見回して特に異常がないことを確かめ、つぶやくファングウルフにアルフが答え――
「いや……そうでもないようだぞ」
そんな二人に告げると、ビッグコンボイはビッグキャノンをかまえ、
「出て来い。もう隠れてるのはバレてるぜ」
「やれやれ、待ち伏せの意味がないねぇ」
ビッグコンボイのその言葉に、柱の影から肩をすくめて現れたのはメナゾールだ。
「メナゾール!?」
「やっぱりヤツらもギガロニアに来ていたのか!」
「まぁな。
とはいえ、来た早々こっちのトランスフォーマーとドンパチやらかしてな……そのせいでみんなともはぐれちまって散々なんだけどな」
驚きの声を上げるアイリーンとブロードキャストに答えると、メナゾールはこちらに向けてかまえ、
「まぁ、オレがいるのがわかったんなら、用件も想像がつくだろう?
ここから先へ進むのはこのオレだ――お前らには、ここでリタイアしてもらうぜ」
「ったく、こっちは急いでるってのに!」
告げるメナゾールの言葉にアルクェイドがうめくと、
「時間がない。二手に分かれよう」
そう告げて、ドレッドバスターが志貴と共にメナゾールの前に進み出た。
「ビッグコンボイ、ここは私と志貴に任せてもらえませんか?」
「いいのか?
オレが行けば確実だぞ」
「いえ……あなたはこのチームのリーダーです。皆を率いて先へ進んでもらわなくては。
それに……」
ビッグコンボイの言葉に、ドレッドバスターはそう答え――
「あなたはデスザラスに対するエサ……もとい、切り札なんですから」
「オイ。お前今何て言いかけた?」
思わず問い詰めるビッグコンボイだが、ドレッドバスターはプイと視線をそらす。
「ホンマに大丈夫なん?」
「心配いらないよ、はやてちゃん。
すぐに倒して、合流するから」
尋ねるはやてに志貴が答えると、
「では――いくぞ!」
咆哮し、ドレッドバスターはメナゾールに突撃する!
「ドレッドバスター!」
「任せろ! 早く行け!」
ライガージャックに答え、ドレッドバスターはメナゾールにつかみかかり、その動きを押さえ込む。
「……よし、任せるぞ」
そんな彼の意図を汲み取り、ビッグコンボイはドレッドバスターにそう告げるとライガージャック達へと向き直り、
「ここはドレッドバスターに任せて、先を急ぐ!」
「了解」
「いくぞ、ライガージャック!」
「お、おぅ!」
ビッグコンボイの言葉にアトラスがうなずき、ザフィーラに促されたライガージャックもまた彼らに続いて先を急ぐ。
「くそっ、逃がすか!」
そんな彼らを追撃すべく、メナゾールはドレッドバスターを振り払って全身の火器を起動。照準を合わせ――
「させるか!」
「おっと!」
それを阻んだのは志貴だった。“直死の魔眼”を全開で発動、振り下ろした小刀“七夜”の一撃を、メナゾールはとっさに後退して回避する。
「くそっ、ジャマすんじゃねぇよ!」
「するに決まってるだろ!」
うめき、こちらに狙いを向けるメナゾールに言い返し、志貴は彼の攻撃をかわしてドレッドバスターと合流する。
「大丈夫か? 志貴」
「問題ないさ」
尋ねるドレッドバスターに答え、“七夜”をかまえる志貴だが――
(そうだ……“すぐに終わらせれば”問題ない……!)
胸中で繰り返し――志貴は思わず額を押さえた。
魔眼を発動したとたん、頭の中がうるさく騒ぎ始めた――“直死の魔眼”の全開発動は本来は生物にのみ限られる“魔眼”の“力”を無機物にまで広げることができるが、代わりに脳に絶大な負担を強いるその代償が頭痛という形で現れたのだ。
ただでさえトランスフォーマー達の戦いに関わるようになって以来、全開での使用頻度がグッと増した。後のことを考えるなら、できれば使わずに済ませたいところだが――
「ここが踏ん張りどころなのは向こうも一緒、か……!」
まだ誰の手にも渡っていないプラネットフォースがこのギガロニアのものだけである以上、彼らはなんとしても手に入れようとするだろう。必死なのは自分達だけではないのだ。
勝負が長引くとこちらが危ない――そう判断し、志貴は改めて“七夜”をかまえ、
「速攻で決めるぞ、ドレッドバスター!」
「あぁ!」
答え、ドレッドバスターもまたかまえるが――
「フンッ、オレをなめるなよ、ドレッドバスター」
「何………………っ!?」
答えるメナゾールの言葉に、ドレッドバスターは思わず眉をひそめた。
だが、そんな彼らにかまわず、メナゾールは腰を落とし、告げた。
「いつもいつも、オーバーロード様の後ろに控えているせいで、お前は知らないだろう?
このオレ様の――本気をな!」
「むぅ……
オレ、グリムロック。こういうとこ、嫌い」
「自然がいっぱいのところが好きだもんね、グリムロックは」
どこまで行っても鉄骨の支柱とコンクリートの天井ばかり――次の階層への通路を進みながら、周囲の様子に不満の声をもらすグリムロックの言葉に、その背中に乗る都古は笑いながら答える。
「もうしばらくの辛抱じゃよ、グリムロック」
「次の階層に行けば、緑はなくとも広い空間には出られるだろう」
「むむ……
オレ、グリムロック。それで、ガマンする」
励ます薫やシルバーボルトの言葉にグリムロックが答えると、
「そうはいかないぞ」
『――――――っ!?』
突然の声に一同が身がまえ――そんな彼らの前に、ハングルーを先頭にテラートロンの面々が姿を現した。
「ハングルー!?」
「じゃあ……他のホラートロンも!?」
彼らが姿を現したということは――あわてて周囲を見回すブラッカーとみなみだが、
「デスザラス様達ならいないぜ。
お前らと同じように、オレ達もチームに分かれて最下層を目指してるからな」
そんな彼らに対し、ハングルーはあくまで余裕の態度のままそう告げる。
「いいんですか? そんなことを言ってしまって」
「デスザラスに比べれば、貴様らなど!」
そんなハングルーに対し、それぞれの獲物をかまえるシエルとレールスパイクだが――
「そっちこそ甘く見るなよ。
オレ達だって、お前らに負けるつもりはねぇっての」
ハングルーもまた、自信に満ちた態度でそう答え――
「ってゆーか、いつになくよくしゃべってるよね」
「合体したらまともに話せなくなるから、今のうちにセリフを稼いでおこうという魂胆じゃないのか?」
「やかましいっ!
こっちも必死なんだよ! ただでさえ最近出番ないんだから!」
サラリと告げるみなみとブラッカーの言葉に、ハングルーは思わずツッコミの声を上げる。
「そういうことを言うなら、望みどおり合体してやる!」
完全に戦闘態勢に入り、ハングルーは薫達に向けて咆哮した。
「テラートロン、スーパーモード!
スクランブル、クロス!」
その頃――
「しつこいぞ、お前達!」
「いいかげん、あきらめてくださいっ!」
「覚えてろぉっ!」
「また来週ぅ〜〜〜〜〜〜っ!」
ギャラクシーコンボイとなのはの一撃によって、アームバレットとガスケットが再び宙を舞っていた。
絶対に許さない――全身を包み込む怒りの炎に身を焦がしつつ、シグナムはレヴァンティンをかまえ、己の魔力を高めていく。
対し、クロミアも悠然と見下ろしながらも注意深くその挙動を観察し――
「あ、アンタのカレシ!」
「何っ!? 恭也か!?
どこ!? どこだ!?」
唐突に告げたクロミアの言葉に、シグナムは思わず周囲を見回し――
「――って、何いきなり逃げているんだ、貴様ぁっ!」
迷わずこちらに背を向け、走り出したクロミアの姿に怒りの声を上げる。
だが――
「できるもんなら捕まえてごらんなさい!
あっかんべーっ!」
そんな彼女の怒りもどこ吹く風。クロミアはシグナムへと振り返り、ご丁寧にさらなる爆弾まで投下して逃げていく。
「………………あの、年増女ぁぁぁぁぁっ!」
結果、狙い通りシグナムの怒りは大爆発。憤怒の形相でスターセイバーへと向き直り、
「追うぞ、スターセイバー!」
「ち、ちょっと待て、シグナム!」
告げるシグナムの言葉に、スターセイバーは思わず声を上げた。
「せっかく相手が逃げてくれたのだ。わざわざ追わずとも――」
「ち、ちょっと!」
反論を試みるスターセイバーだったが、それをあわてて知佳が制止する。
なぜ止める――と知佳に尋ねようとしたスターセイバーだったが、答えはシグナムによってもたらされた。
「………………追うぞ」
言葉ではない。そこに込められた強烈極まりないひとつの感情――それがすべてを物語っていた。
「い、いや……」
「…………追うぞ」
「しかしだな、シグナム……」
「……追、う、ぞ」
それ以上、反論することなどできなかった。
「ハイヨ、セイバー!」
「…………はいはい……」
自分の背に乗り、告げるシグナムの言葉にうなずくと、ビークルモードのスターセイバーは一気に加速、逃げていったクロミアを追う。
「やれやれ……
シグナムの怒りがクロミアに向いてくれて、ホント助かったぜ」
そんな二人の姿を見送り、フレイムコンボイは息をつき――
「安心するのは、まだ早いんじゃないのか?」
そう告げたのはニトロコンボイだ。
「オレ達はまだ、ここにいるんだぜ」
「フンッ、お前らなぞ、あのシグナムの怒りに比べたらヘでもないわ!」
「確かに」
告げるニトロコンボイだが――フレイムコンボイはあっさりとそう返した。思わず納得するニトロコンボイ達へと向き直り、
「お前とは、一度サシでやりたいと思っていたんだ。
スピーディアとアニマトロス、どっちのリーダーが強いか、決着と行こうじゃないか」
「…………いいだろう。
みんな、ここはオレと耕介だけでいく。手出しは無用だ」
その言葉に耕介が、ヴィータ達がうなずくのを確認し、ニトロコンボイはフレイムコンボイへと向き直り、
「いくぞ、フレイムコンボイ!」
咆哮と同時――フレイムコンボイへと跳躍した。
「絶対に逃がさんぞ……!」
ビルの屋上伝いに逃げるクロミアの姿を追うスターセイバーの背の上で、怒りの多分に込められたつぶやきをもらすシグナムだが――
「何か……おかしくないか?」
そんな彼女に、スターセイバーが尋ねた。
「ヤツはさっきから本気で逃げていない。
まるで、我々を誘っているかのように――間違いなくワナだぞ、あれは」
そう告げ、撤退を促すスターセイバーだったが――
「だから何だ!?」
「え? あ、いや……だから……」
そんなスーセイバーの諫言さえ、シグナムは一言で斬って捨てた。
「ワナだろうが何だろうが関係ない!
何としてもあの女に思い知らせてやるのだ! いいな!?」
「…………はい。わかりました……」
もはやどんな言葉も彼女には届くまい――心の中で涙するスターセイバーの行く手に、それは見えてきた。
立ち並ぶ倉庫やクレーン、そして捨てられた貨物船――
そう、港である。
「くらい……やがれぇっ!」
咆哮と同時、放たれた無数の砲火が降り注ぎ――ドレッドバスターと志貴は左右に跳んでメナゾールの砲撃を回避する。
だが――
「そのくらいは――読めるんだよ!」
ドレッドバスターの回避先にはメナゾールが回りこんでいた。動きを読まれ、驚愕するドレッドバスターを蹴り飛ばす!
「ドレッドバスター!」
思わず声を上げ、援護に向かおうとする志貴だが――
「いくらお前のナイフが危なくても――近づけなけりゃ問題はねぇんだよ!」
メナゾールはすかさず弾幕を展開。志貴をまったく近づけさせない。
「オレをなめてかかっていたのが裏目に出たな。
スタントロン、ナンバー2の肩書きは、飾りなんかじゃないんだよ!」
たったひとりでドレッドバスターと志貴を圧倒し、メナゾールはそう告げて勝ち誇るが――
「…………やるな……!」
うめいて、ドレッドバスターはメナゾールの目の前でゆっくりと身を起こした。
「なめていたことは謝ろう。
だが……これからが本番だ!」
「いいだろう!
そっちの小僧もろとも、ブッ飛ばしてやる!」
「まるで海だな……」
「あぁ……
もう見ることのできない本来の地表の海に代わり、メガロコンボイ達の祖先はこうしてその時代その時代の地表にも海を再現していたのだろうな」
クロミアの逃げ込んだと思われる港を探索し、つぶやくシグナムにスターセイバーが答える。
と――次の瞬間、海中から無数のエネルギーミサイルが飛び出し、シグナムとスターセイバーに襲いかかる!
「く………………っ!
やはりヤツは水中か!」
「だから言わんことじゃない!
こいつはクロミアのワナだ!」
ミサイルをかわして港に降り立ち、うめくシグナムにスターセイバーが告げる。
「水中のクロミアが相手では、炎属性の魔法を操るお前はもちろん、私にだって勝ち目はない」
「だから何だ!」
しかし、シグナムはそれでも鋭く言い放つ。
「あれだけ侮辱されたんだ。このまま引き下がっては腹の虫が収まらん!
それに――」
と、そこで一度言葉を切り、シグナムはスターセイバーへと向き直り、
「経緯はどうあれ、騎士が挑まれた勝負に背を向けるワケにはいかん!
なんとしてもこの場を切り抜け、クロミアを倒す! ヴォルケンリッター、烈火の将の名にかけて!」
「……騎士の誇りを持ち出すとは、少しは頭が冷えてきたようだな」
そんなシグナムの言葉に苦笑し、スターセイバーはさらに降り注いできたミサイルをかわし、
「ならば、こちらとしても手を貸さないワケにはいかないな。
ヴォルケンリッター・トランスフォーマー、雷光の将の名にかけて!」
追撃のミサイルを迎撃すべくフォースチップをイグニッション、スターブレードを抜き放ち――
『フォースチップ、イグニッション!』
新たな咆哮が響いた。同時、彼らの頭上をセイバートロン星のフォースチップが駆け抜け――
『ギャラクシー、キャリバー!』
飛来したクロノとソニックボンバーの一撃が、飛来したミサイルを薙ぎ払う!
「ブルァアァァァァァッ!」
咆哮し、フレイムコンボイの振るうフレイムアックスの一撃を、ニトロコンボイは素早く身をひるがえしてかわしていく。
相変わらずそのパワーはすさまじいものがある。まともにくらえば、ニトロコンボイもただではすまないだろう。
だが――それも当たらなければいいだけの話。ニトロコンボイは一際大振りの一撃をかわして間合いを取り、
『フォースチップ、イグニッション!』
“御架月”を抜き放った耕介と共にフォースチップをイグニッション。互いに視線を交わし――
「マッハショット!」
「真威・楓陣刃ぁっ!」
二人の同時攻撃が、フレイムコンボイへと降り注ぐ。
だが、フレイムコンボイもさすがと言うべきか。二人の攻撃をガードを固めてしのぎ、
「フォースチップ、イグニッション!
デスフレイム!」
すかさず反撃。フレイムコンボイの方から放たれた火炎を、耕介とニトロコンボイは左右に跳んでかわす。
そんな彼らの戦いを応援し――ふと息をつき、ヴィータはビクトリーレオに尋ねた。
「クロノ達、間に合ったかな?」
「そろそろ着いた頃なんじゃないか?」
肩をすくめてビクトリーレオが答えると、
「あぁ〜あ、私も行けばよかったかなぁ……」
「う〜ん」と背伸びして、そんなことを言い出したのは知佳だ。
「あれ、知佳、恋敵に助太刀か?」
「まぁ、ね。
だって……」
尋ねるビクトリーレオに答え、知佳は満面の笑みで答えた。
「クロミアってば……シグナムを挑発した時、恭也くんをシグナムの彼氏呼ばわりしたから♪」
「あー、えっと……」
素晴らしい笑顔でとてつもない怒気を解き放つ知佳のその言葉に、ビクトリーレオは思わず視線をそらしていた。
「ソニックボンバー!?
どうしてここに!?」
「アイツに対して頭に来てんのは、何もお前らだけじゃないんだぜ。
仲間をコケにされて、黙ってられるかってんだ」
「……と、まぁ、ソニックボンバーが言い出してさ。
パートナーとしては、ほっとけないからね」
突然の乱入者の登場に、思わず声を上げるスターセイバーの問いに、ソニックボンバーとクロノはそう答えて肩をすくめる。
「そういうワケだ。
オレにもヤツをブッ飛ばさせてくれると、個人的には感謝感激なんだけどな♪」
「まぁ、確かに助太刀はうれしいところだが……状況は正直厳しいな」
ソニックボンバーに答え、スターセイバーはクロミアの潜む海へと視線を向ける。
「確かに、水中に潜り込まれると厄介だな……」
そうしている間にもクロミアの対空砲撃は続く――次々に飛来するミサイルをかわし、ソニックボンバーがうめくと、
「となれば――ボクの出番だな?」
言って、クロノはS2Uをしまい、代わりにデュランダルを起動させ――
〈Eternal Coffin!〉
真下の海域を中心に氷結魔法を発動。周辺からクロミアを囲むように氷結させる!
「よっしゃ! 捕獲完了!
やっちまうぞ、シグナム!」
「おぅ!」
告げるソニックボンバーに答え、シグナムもまたレヴァンティンをかまえ――
「な、何よ、コレ!?」
とっさにエネルゴンフィールドで防御して凍結は免れたものの、それでも周囲は完全に凍結させられてしまった――驚き、うめくクロミアだが、完全に氷結した周囲の氷はいくら拳を叩きつけようとビクともしない。
このままではやられてしまう。クロミアの顔に焦りが浮かび――
「………………あら?」
気づいた。周囲の氷が振動を始めている。
その振動は見る見るうちに大きくなり――次の瞬間、
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
周囲の氷を打ち砕き、衝撃の主はクロミアをも弾き飛ばしていた。
「よっしゃ! 捕獲完了!
やっちまうぞ、シグナム!」
「おぅ!」
告げるソニックボンバーに答え、シグナムもまたレヴァンティンをかまえ――突然、氷原の中心が粉々に砕け散る!
「な、何だ!?」
突然の異変に、スターセイバーが驚きの声を上げ――
「何よ何よ、何なのよぉぉぉぉぉっ!?」
豪快に吹き飛ばされたクロミアが宙を舞い、難を逃れた氷の上に落下した。
「クロミアの仕業じゃないのか!?」
「では、誰が……!?」
思わず声を上げ、ソニックボンバーとクロノが砕け散った氷原の中心へと視線を向けると、
「やれやれ……せっかく戦いのどさくさに紛れて先に進ませてもらおうと思ったのに、とんだとばっちりだぜ」
うめいて、グレートポントスがゆっくりと海中から姿を現した。
「グレートポントス!?
ホラートロンも、最下層を目指して動き始めたというのか!?」
「なんて間の悪い……!
せっかくクロミアの動きを止めたと思ったのに……!」
まったく予期していなかった、グレートポントスの突然の出現――思わず歯噛みしてうめくシグナムとクロノだったが、
「おいおい、まだ弱音には早いんじゃないのか?」
そんな彼らに告げるのはソニックボンバーだ。
「オレ達があんなヤツらに遅れを取るとでも思ってんのかよ?
とっとと蹴散らして、ニトロコンボイ達のところに戻るぜ」
「簡単に言うな。
相手は合体戦士だぞ。楽に勝てると言える相手ではないだろう」
もうすでに、彼の中ではグレートポントスにもクロミアにも楽勝する、ということが決定事項らしい――平然と告げるソニックボンバーの言葉にスターセイバーが苦言を呈するが、
「何言ってんだよ?
切り札ならあるだろ」
そんな彼の言葉にも、ソニックボンバーは平然とそう答える。
「忘れたのか? お宅のビクトリーレオは、ウチの総司令官とリンクアップしたんだぜ。
その組み合わせが可能だっつーなら……」
「おい、まさか……!」
「そうさ」
うめくスターセイバーに、ソニックボンバーは答えた。
「オレが、お前にリンクアップするんだよ!」
その頃――
『旋風、粉砕!
ストーム、カリバー、ブレイカー!』
「どわぁぁぁぁぁっ!」
「まぁたやられたぁっ!」
「久々の出番が、コレですかぁぁぁぁぁっ!」
キングコンボイとフェイトの一撃によって、スタースクリーム配下の3大やられ役――ワイルダー、ブルホーン、キャンサーが宙を舞っていた。
「私とお前が、リンクアップ……?」
「総司令官とお前のVスターは、ロボットモードじゃかなりフレームやジョイントの構造が似通ってんだろう? だから、お前と合体するビクトリーレオが総司令官と合体できたんだ。
なら逆の発想だ――オレとお前の組み合わせでも、合体できるってことにならねぇか?」
また突拍子もないことを言い出した――突然のソニックボンバーの提案に目を白黒させるスターセイバーだが、当のソニックボンバーはいたって真面目にそう答える。
「まったく、何を言い出すかと思えば……
仮にリンクアップできる構造だったとしても、ここには遠野もテスタロッサもいない――リンクアップに必要な、リンクアップナビゲータを使える者がいないんだ」
そんなソニックボンバーに、極めて現実的な問題を投げかけるシグナムだが――
「そんなもんは経験と気合でカバーだ!」
一方のソニックボンバーはあっさりとそんなことをのたまってくれる。思わず再度の反論を試みようとするシグナムだが――
「あー、もう! まどろっこしいな!
アイツらをブッ倒したいんだろ!? 特にクロミアを! だったらゴチャゴチャぜーたく言ってる場合じゃないだろ!」
「――――――っ!」
間髪入れずに放たれたソニックボンバーの言葉に、シグナムは思わず虚を突かれた。
「オレと総司令官が、火山島でソニックコンボイにリンクアップした時のことを思い出せよ!
あの時と同じだ――オレ達がリンクアップすればヤツらに勝てる! それは確かなんだ!
なら、次は『できるかどうか』じゃなくて、『どうすればできるか』じゃねぇのかよ!?」
「…………なるほど。
確かに、ソニックボンバーの言うとおりだな」
一気にまくし立てるソニックボンバーの言葉に、クロノは苦笑まじりにデュランダルをかまえた。そのとなりでスターセイバーも肩をすくめ、
「確かに、我々みんな、あの時と同じ思考の袋小路にはまっていたみたいだな……」
「やれやれ、ボクとしたことが、同じ失敗を繰り返すなんてね」
「別にいいんじゃねぇか?
人間もトランスフォーマーも、そう簡単に性格変えられたら苦労はねぇんだしさ」
「そうだな。
お前を見ていると本当にそう思う」
「あー、ひっでぇな、それ」
二人に答えたところにシグナムにツッコまれ、ソニックボンバーは笑いながらグレートポントスを見下ろし、
「さて、と……
どうやら奴さん、こっちまで届く飛び道具を持ってないみたいだけど……こっちのジャマをしようと思ったらいくらでもやりようはあるだろうしな。
クロミアが起きてジャマしてくる前に、さっさと合体してケリをつけるぜ!」
「……やれやれ、止めてもムダのようだな」
ソニックボンバーに答え、スターセイバーもまた彼のとなりに並び立ち、
「ならば、役割を明確に分担してさっさとキメるぞ。
ソニックボンバーと私はコンビネーションスパークの生成と維持に専念する。今までのリンクアップの経験データがある以上、そのデータの通りにやれば可能なはずだ。
クロノ、キミは合体の座標軸の調整を頼む。ストレージデバイスを二つ持つキミが適任だ。
シグナムはグレートポントスのけん制だ――もちろん、クロミアが目を覚ましたらそちらも頼む」
告げて、スターセイバーは頬を叩いて気合を入れ、
「おそらく、チャンスは一度だ――オレ達の狙いが知れれば、ヤツらは敵対関係も放り出してこっちを止めにかかるだろう。
このリンクアップ――是が非でも成功させるぞ!」
「おう!」
「いくぞ――二人とも!」
告げて、クロノは両手にS2Uとデュランダルをかまえ、コンビネーションスパークを生成したスターセイバーとソニックボンバーに合体用のランデブーコースのデータを転送する。
「ソニックボンバー!」
景気よく名乗りを上げ、ソニックボンバーはビークルモードへとトランスフォーム。そこから機首を後方にたたみ、主翼のバルカンシステムも展開。機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
「スター、セイバー!」
次いでスターセイバーが叫び、背中に合体用のジョイントを展開。その両足にソニックボンバーの翼から分離した火器が合体する。
そして、両者が交錯し――ガギィッ! と音を立て、ソニックボンバーが弾かれる!
「ソニックボンバー!」
「気にするな!」
驚き、声を上げるスターセイバーに答え、ロボットモードに戻ったソニックボンバーは体勢を立て直し、
「ヤツらにジャマされる前に、もう一度だ!」
「あぁ!」
「あれは……!?」
上空で一度交錯――激突し、弾き飛ばされたスターセイバーとソニックボンバーの姿を氷結した海面から見上げ、グレートポントスは眉をひそめた。
彼らの動き――似たような行動をしていた光景を、自分達は見たことがある。
火山島での戦いの際の――リンクアップしようと奮戦するギャラクシーコンボイとソニックボンバーの姿だ。
「ヤツら……合体するつもりか!?
そうはさせるか!」
うめき、グレートポントスは銃をかまえ――
「ジャマよ!」
そんな彼の頭を踏みつけ、復活したクロミアがスターセイバー達に向けて跳躍する。
「踏んづけてった!?」
「合体なんて、させるもんですか!」
うめくグレートポントスにかまわず咆哮。クロミアがスターセイバー達に向けてランチャーをかまえ――
「そうはいくか!」
そんな彼女に、シグナムが猛然と襲いかかる!
「思えば、この戦いの発端は貴様だったな!
順番が前後するが――当初の目的、果たさせてもらうぞ!」
〈Explosion!〉
シグナムの言葉と同時、レヴァンティンがカートリッジをロードし――
「紫電、一閃!」
繰り出した斬撃がクロミアを吹き飛ばし、眼下のグレートポントスに叩きつける!
「今だ、スターセイバー!」
「おぅ!」
「オレ達ゃ声援なしかいっ!」
「仕方ないさ、二人はパートナー同士なんだからさ!」
シグナムに答えるスターセイバーのとなりでうめくソニックボンバーに答え、クロノは再び自らのデバイスをかまえ、
「気を取り直して――もう一度だ!
クロミアはともかく、グレートポントス相手じゃ、シグナムだっていつまでも持たないぞ!」
『おぅ!』
「ソニックボンバー!」
景気よく名乗りを上げ、ソニックボンバーはビークルモードへとトランスフォーム。そこから機首を後方にたたみ、主翼のバルカンシステムも展開。機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
「スター、セイバー!」
次いでスターセイバーが叫び、背中に合体用のジョイントを展開。その両足にソニックボンバーの翼から分離した火器が合体する。
そして、クロノの誘導で両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
二人の叫びと共に、バックユニットとなったソニックボンバーがスターセイバーに合体する!
最後にソニックボンバーの胸部装甲がスターセイバーの胸部に装着され、合体を遂げた二人は高らかに名乗りを上げる。
『ソニック、セイバー!』
「あー、もうっ! 合体しちゃった!
グレートポントス! アンタが足を引っ張るからよ!」
「仲間でも何でもない貴様に言われたくない!
だいたい、人を踏み台にしておいてほざけるセリフか!?」
合体を遂げ、こちらへと向き直るソニックセイバーの姿に、思わず声を上げるクロミアにグレートポントスが言い返し――
「おいおい、こんなところで仲間割れか?」
『――――――っ!?』
告げられた声は背後から――あわてて振り向くと、そこにはソニックセイバーが悠然と佇んでいる。
「な、なんで!?
アンタ、さっきまで上に……!」
「どうやら、オレ達自身でも思ってなかったくらいにスピードが増してるみたいでな」
うめくクロミアにソニックセイバーが答えると、とっさにきびすを返したグレートポントスが先ほど自分が砕いた氷原の穴へと向かう。
地上でのスピード勝負に付き合うよりも、自分達に有利な水中戦に持ち込もうと言う魂胆なのだろうが――
「だから――遅いっての♪」
そんな彼の前に、ソニックセイバーはあっさりと回り込んだ。合体したそのままで、ソニックボンバーがグレートポントスに告げる。
「くっ、くっそぉっ!
こうなりゃパワーでねじ伏せるまでだ!」
うめいて、逃げられないと悟ったグレートポントスはソニックセイバーにつかみかかる――が、ソニックセイバーはその腕をかいくぐり、
「力だけでは――戦いには勝てん!」
見事な一本背負いが一閃。グレートポントスの巨体が宙を舞い――クロミアを押しつぶし、大地に叩きつけられる!
「ち、ちょっと、何してくれてんのよ!」
完全にグレートポントスの下敷きになり、クロミアが声を上げ――
「――って、言ってる場合なのか?」
告げられたその声に顔を上げると、そこにはシグナムと共に佇むクロノの姿が。
「女のヒステリーほど、見苦しいものはないぞ。
覚悟しろ――この、おばさん!」
(前半のセリフ、そっくりあなたにも当てはまるんですけど……)
多分に失礼なことを胸中でつぶやきつつ、クロノはシグナムと共に各々の獲物をかまえる。
「決めるぞ――ソニックセイバー!」
「あぁ!」
告げるシグナムの言葉にソニックセイバーもうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
それぞれの咆哮が交錯。ソニックセイバーが背中のギャラクシーキャリバーを起動させ、シグナムのレヴァンティンやクロノのS2Uもフォースチップをイグニッションする。
そして――
『ギャラクシー、キャリバー!』
「紅蓮、一閃!」
「ヴァニッシャー、キャノン!」
彼らの一斉攻撃が、グレートポントスとクロミアを吹き飛ばす!
「オレの出番、これで終わりじゃありませんようにぃぃぃぃぃっ!」
「おばさんって言うなぁっ!
『クロミアちゃん』って、呼んでねぇぇぇぇぇっ!」
断末魔の悲鳴を残し、グレートポントスとクロミアは水平線の彼方まで吹き飛ばされていき――
「…………さて、戻るか」
そう告げたシグナムの表情を――後にスターセイバーやクロノ達は口をそろえてこう証言した。
『あんな晴れ晴れとした笑顔のシグナムは初めて見た』と――
「ぐ…………ぅ……!」
最後の力を振り絞った拳が交錯し――ドレッドバスターのヒザから力が抜けた。ゆっくりとその場にひざまずき、メナゾールの前に崩れ落ちる。
「ドレッドバスター!」
「す、すまない、志貴……!
私は、ここまでのようだ……!」
あわてて駆け寄る志貴に、なんとか身を起こしたドレッドバスターが答えると、
「……何、謝ってやがる……!」
そんな彼に答えたのはメナゾールだった。
「この勝負は……てめぇの勝ちだ」
その言葉と同時――身体の各部がショートし、メナゾールの全身から煙が吹き出す。
「どうせ……てめぇらは仲間に助けてもらえるだろ……
それに引き換え、こっちは身内の手当てができるのはオレだけ――そのオレが倒れちまえば……」
そう告げるメナゾールの身体がバランスを失い――
「争奪戦、への、復帰……はもう……ムリって、ことさ……!」
その言葉が終わる頃には、メナゾールはその場に倒れ込み、完全に意識を手放していた。
「ぬぅありゃあぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に跳躍――こちらのマッハショットの連射もものともしないで飛び込んできたフレイムコンボイの一撃を、ニトロコンボイは後方に跳躍して回避する。
フレイムコンボイの一撃が床に巨大なクレーターを作り出す中、ニトロコンボイは再びマッハショットをかまえ――
「――ニトロコンボイ!」
突然の声に、フレイムコンボイはびくぅっ! と肩をすくませた。
その声は、今最も帰ってきて欲しくなかった人物のものだったからだ。
そして――
「待たせたな!
クロミアは片付けてきたぜ!」
駆けつけてきたシグナムの後を追い、ソニックボンバーやスターセイバー、クロノも合流してくる。
「大丈夫だったか?」
「心配無用だっての。
きっちり新リンクアップの実験台にさせてもらったぜ」
「えぇっ!?
ソニックボンバーとスターセイバー、リンクアップしたのか!?」
ブレイズリンクスに答えるソニックボンバーにヴィータが驚きの声を上げると、
「感動的な再会だな!」
「――って、いつの間に!?」
こちらの合流に全員の意識が向いたスキに動いたのだろう、次の階層に向かうエレベータの中に飛び込んでいたフレイムコンボイの言葉に、ヴィータが思わず声を上げる。
「ニトロコンボイ、貴様との決着がまだだが、こっちも時間がないのでな。
他の連中に出し抜かれない内に、先に進ませてもらうぜ」
対し、余裕の態度と共にそう告げるフレイムコンボイだが――
「貴様、勝負を捨てて逃げるのか!?」
そんなフレイムコンボイに対して声を荒らげたのがシグナムだ。
「対峙している相手を放り出していくなど――戦士としての誇りはどこへ行った!?」
「ご、誤解ですよ、お嬢さん!」
シグナムの言葉に、フレイムコンボイはあわてて弁明する――敬語になっているのは、先の剣幕に対する畏怖が原因だろうか。
「決して戦いを放棄するワケでは、そんな、めっそうもない!」
「…………本当か?
ならなぜこの場から背を向ける?」
「いや、だって、この勝負はあくまで『誰がプラネットフォースの元にたどり着くのか』というものでしょう。
なら、ここで余計な戦いを繰り広げてタイムロスを招くのも愚の骨頂かと……」
眉をひそめ、追求するシグナムに答えると、フレイムコンボイはエレベータを操作し、
「えー、それじゃあ、先を急ぎますので、これにて、失礼させていただきます」
言って、フレイムコンボイは丁寧に一礼し――エレベータの扉が閉じた瞬間、シグナムや彼女に気圧されていた一同はふと我に返り、そろって声を上げた。
『あぁぁぁぁぁっ! 先を越された!』
「ふんっ!」
気合一閃。リンクアップし、渾身の拳を叩きつけるビクトリーセイバーだが、頑強なエレベータの扉はビクともしない。
「ダメだ……ビクともしない。
ここから降りるのはムリなようだ……他のルートを探すしかあるまい」
「せっかくここまで来たってのに……くそっ!」
ビクトリーセイバーの言葉に、ヴィータは苛立ちと共に手近な壁に蹴りを入れ――唐突にその足の裏から感触が消えた。
ヴィータの蹴りを受けた部分の壁が、まるで何かのスイッチだったかのように奥に押し込まれたのだ。
同時――部屋が静かに振動を開始。点灯していた明かりも消えてしまう。
「な、何!?」
驚いて知佳が声を上げると――突然部屋の中央の床が開いた。そして中から姿を現したのは――
「何だ、ありゃ……?」
「まるでプラネタリウムの投影装置みたいだけど……」
床の下からせり出してきた投影装置を前に、うめくソニックボンバーに耕介が答える。
「なぜ、こんなところに投影装置が……?」
エレベータホールになぜこんなものが――訝るシグナムだったが、そんな彼女の前で投影装置は記録されていた映像の再生を始めた。壁一面に宇宙空間が映し出される。
と――その映像がある一点を拡大。その中心にあったギガロニアをクローズアップする。
「ギガロニアだ……
けど、今よりずいぶんと小さくない?」
「おそらく、まだ今ほど階層が作られていなかった頃のものなのだろう」
つぶやく知佳に答え、ビクトリーセイバーは投影装置をチェック。データの内容を確認する。
記録されている日付は、地球時間に換算しておよそ1000年前――つまりこれは、1000年前のギガロニアの様子だということだ。
と――
「な、何だよ、アレ!?」
そこに新たに映し出されたものを見て、ヴィータが思わず声を上げた。
新たな惑星だ――だが、その新たな惑星には、『惑星』と呼ぶにはあまりに異質な雰囲気をかもし出すものが付属していた。
2本の巨大な角だ。
一同が見守る中、記録映像の中で新たな惑星はギガロニアへと降下し――そこから大量のトランスフォーマーを吐き出し始めた。
それは――
「ノイズメイズ……!?」
「いや……違うようだ」
思わずうめく耕介にブレイズリンクスが答える――確かに、自分達の知る彼が黒一色のボディを持つのに対し、映像の中のノイズメイズは全身が白く染め抜かれており、しかも多数の同タイプが確認できる。
それに――
「サウンドウェーブ達や、ランページもいるぞ……!」
「それだけじゃない。
見たことのないヤツらもいる……!」
シグナムの言葉に付け加えるニトロコンボイ達だが――彼らは知らない。
その『見たことのないヤツら』は――ドランクロン、エルファオルファ、ラートラータと同じタイプのトランスフォーマー達であることを。
「どういうことだよ……」
ワケがわからない――頭をかきむしり、ヴィータは思わず声を上げた。
「なんでアイツらの仲間がギガロニアに現れるんだよ……
何なんだよ、この映像は!」
その頃――
「ようやくたどり着いたな……」
「えぇ……」
メガデストロイヤーのブリッジで、告げるメガザラックにリニスが答える。
彼らの前には、宇宙空間にその存在を誇示するギガロニア――ミッドチルダのプラネットフォースを手に入れた彼らは、サイバトロンと合流すべく“こちら側”の宇宙へと駆けつけたのだ。
「もう、フェイト達はプラネットフォースを目指してるんだよね……」
一方で、アリシアもまたそのギガロニアの姿を前につぶやき――
《そして……マイスターはやても、あの星にいるんですね!》
そんな彼女の肩でつぶやく者がいた。
小さな――本当に小さな少女だ。小柄なアリシアと比べても、人間とトランスフォーマーほどの対比がある。
そして、その少女には“彼女”の面影があった。
かつて、“闇の書の闇”との戦いの中で主を守り、散っていった魔導書の顕現の面影が――
そんな彼女の言葉にうなずき、アリシアは彼女に告げた。
「向こうに着いたら、すぐにマスターと会わせてあげるからね――リインフォース♪」
《はい♪》
アリシアのその言葉に――心優しき魔導書の名を受け継いだその少女は、満面の笑顔でうなずいてみせた。
(初版:2007/05/27)