「マスターガルバトロンを倒し、デストロンを止める――
それが、オレの選んだ道……」
下の階層に向かうエレベータの中で、フレイムコンボイは静かにつぶやいた。
(だが……それだけではない……
オレにはもうひとつ――つけなければならない決着がある……)
アニマトロスのトランスフォーマーの、野性の本能が告げている――“決着をつけるべき相手”との距離が、少しずつではあるが近づきつつある。おそらくは相手の通っているルートと自分の通っているルートが合流しつつあるのだろう。
「これもまた、オレのけじめだ……
いずれはつけなければならない勝負。立ちふさがるというのなら――」
「たとえヤツが相手であろうと、倒すまでだ」
第76話
「それぞれの迷い、
それぞれのけじめなの」
その頃、天井に描かれたホログラムの青空の下、地下都市の一角では――
「また会ったな、マスターガルバトロン」
レーザークロー以下アニマトロンを従えたデスザラスが、モールダイブやダークライガージャック、ダークニトロコンボイ、そしてインチプレッシャーを従えたマスターガルバトロンと対峙していた。
「フンッ、こりずにまたやられに来たか……」
「あまりこちらをなめるなよ、マスターガルバトロン。
貴様にやられた傷を癒す内、熱くなっていたこちらの頭も少しは冷えた――今のオレが、先の戦いの時のオレと同じだと思うなよ」
不敵に告げるマスターガルバトロンにデスザラスが答えると、
「少々お待ちを」
言って、レーザークローがデスザラスの前に進み出た。
「ここは我らが。
デスザラス様は先へ」
「どういうつもりだ、レーザークロー」
だが、レーザークローのその言葉に、デスザラスは不快感をあらわにした。
「こ奴もオレの狙うターゲットのひとりだ。それを横から……」
「しかし、『もっとも優先すべき相手』ではないでしょう」
言いかけたデスザラスに告げ、レーザークローは改めて彼と向き合い、
「デスザラス様がもっとも倒さねばならない相手はビッグコンボイのはず――ヤツに集中するためにも、目先の敵にかまっているヒマなどないのではありませんか?」
「ふむ…………」
自分がマスターガルバトロンに告げたとおり、かつて怒りに支配されていた頭が冷えていたのが幸いした。レーザークローの言葉に、デスザラスはしばし考え、この場で自分の取りうる行動を吟味する。
そしてそれぞれの行動のメリットとデメリットを考慮し、その結果――
「……いいだろう。
レーザークロー、ここは貴様に任せる」
「心得ました」
「フンッ、適当に理由をつけて逃げるか」
「優先順位というヤツがある、ということだ」
こちらに背を向けたデスザラスを鼻で笑うマスターガルバトロンだが、当のデスザラスはあっさりとそう答える。
「次に貴様の前に現れる時は――ビッグコンボイの首を持ってきてやる。
貴様も急いだ方が良くないか? 早くしないと――オレが貴様の目当ての連中を蹴散らしてしまうかもしれんぞ」
「何…………?」
その言葉に、今度はマスターガルバトロンが眉をひそめる番だった――だが、再びマスターガルバトロンが口を開くよりも早く、デスザラスはビーストモードのドラゴン形態へとトランスフォーム。その場から飛び去っていってしまった。
「…………フンッ、まぁいい。
貴様らが相手だというのならば……さっさと片付けるまでだ」
気を取り直し、そう告げながらレーザークローらアニマトロンの面々へと向き直るマスターガルバトロンだが――
(デスザラスめ……まさかまた先の戦いのように……!)
なぜかその胸中は落ち着かなくて――そんな彼の前で、レーザークロー達は合体。プレダキングとなってその場に降り立った。
「どう?
大丈夫? ライガージャックやアルクェイドさん達は」
〈心配はいらないみたいです。
ライガージャック達のダメージも比較的軽傷ですし、ライドスペースにいたアルクェイドさんもアルフも、軽い脳震盪ですんでます〉
尋ねるリンディの問いに、サイバトロンPDAのモニター画面に映る忍がそう答える。
と、そんな忍と通信を代わったのは、彼女達メディカルチームと合流していたのだろう、バックアップチームの真一郎だった。
〈それより、フレイムコンボイがここを抜けていったみたいです。
他のチームとも連絡を取り合って、警戒を促してください〉
「わかりました。
では、また後で」
真一郎に答え、リンディは通信を終え、
「聞いての通りです。
ライガージャック達は心配いらないみたいですね」
「うむ」
告げるリンディの言葉に、ギャラクシーコンボイは静かにうなずく。
無事シグナム達のチームと合流したなのは達のチームは、現在行く手を阻む扉の前で、ベクタープライムとルーツがパスコードを解析するのを待っていた。
「あとどれくらいでつくんだろうな……」
「えっと……あと2、3階層した、ぐらいだと思うけど……」
つぶやくクロノの言葉に答え、知佳は確認しようと地図マシンを持っているホップの姿を探すと――
「はーい、みんな、集合して♪」
「点呼を取りますよー♪」
「はーい♪」
当のホップは、桃子やリンディの招集に応えて他のマイクロン共々彼女の前に集合していた。
「何をしてるんだ……?」
「桃子とリンディが、オレのパートナーのホリブルも含めて、マイクロンのチームを作っちまったんだよ」
「おかーさん達、子供が増えたみたいで大喜びなんですよ」
眉をひそめる耕介にメガロコンボイとなのはが答えると、
「というか……早速ヴィータがその中に組み込まれているように見えるんだが……」
集まったマイクロンに混じってヴィータの姿を発見したシグナムの言葉に、なのは達は思わず苦笑い。この場にジャックプライムがいたら絶対組み込まれていただろうと全員が確信するがそれはさておき。
と――
「よし、開くぞ」
ベクタープライムが告げると同時、重い音と共に行く手を阻んでいた扉がゆっくりと開き始めた。
「じゃあ、整列!」
これで先に進める――桃子の言葉にマイクロン(+1)チームは彼女の前に整列し、
「番号!」
「1!」
「2!」
リンディの号令にヴィータ、ホップと応えた後は電子音声でカウントが返ってくる。
「はい、よくできました♪
じゃあ、先に進みますけど……ヴィータちゃん、先導して、先の警戒とみんなのガード、よろしくね♪」
「おぅっ!」
そして、桃子の言葉にヴィータが先頭に立ち、彼女達は扉をくぐり――
「…………あら?」
ふと、リンディは扉の向こうの壁面――ちょうど自分達の視線の高さに描かれた壁画に気がついた。
自分達と同じくらいの大きさにトランスフォーマーが描かれている。これは――
「ひょっとして、マイクロン……かしら?」
「じゃねぇの?
ホップ、ちょっと背ェ比べてみろよ」
「はいはい」
ヴィータの言葉にうなずき、ホップは壁画に描かれたトランスフォーマーと背を比べ、ブリットやバンパー、ホリブルもそれにならう。
「やっぱりピッタリだろ?
ほら、あたしじゃ背も足りないし……なのは、お前も比べてみろよ!」
「わ、わたしも?」
ホップ達と同じように壁画と背を比べ、さらに呼びかけるヴィータの言葉になのはが声を上げると、
「そうねぇ……確かに、なのはだとちょうどいいかも……」
言って、桃子が一足先にヴィータ達の下へ。ヴィータと壁画を比較するように壁に手をかけ――突然、桃子の触れた場所が発光。同時にヴィータ達の背後の壁が消滅する!
『ぅわぁっ!』
「ヴィータちゃん! みんな!」
当然、背を比べるために壁に寄りかかっていたヴィータ達はまともにバランスを崩した。後ろに口を開けた、滑り台のような通路に向けて倒れるヴィータ達に手を伸ばす桃子だが――彼女ひとりでヴィータ達を支えることは不可能だった。そのまま、彼女も通路に引き込まれ、すべり落ちていく!
「おかーさん!」
「待て、なのは!
キミまで落ちてしまうぞ!」
あわててその後を追おうとするなのはだったが、ギャラクシーコンボイはあわててそれを制止した。
それならせめて――フローターフィールドかバインドで桃子達を救おうとレイジングハートをかまえるなのはだったが、すでに桃子達の姿は彼女達の視界から完全に消失していた。
その頃――
「データによれば、この街に最下層に続くルートはないはずです」
「よし、ならさっさと突っ切ろう!」
ノイズメイズ達を相手に勝利を収めたバンガードチームやロディマスブラー達は、そのまま次の階層の無人都市に足を踏み入れていた。告げるロングマグナスの言葉にバックギルドが答えると、
「いや――そううまくもいかないみたいだよ。
前を見て!」
そんな彼らを、頭上を飛ぶハイブラストが制止した。彼の示した先を見ると――
「――あれは、デスザラス!」
そこにはマスターガルバトロンをプレダキングに任せ、ビーストモードのまま先に進むためのルートを探しているデスザラスの姿があった。その姿を発見し、ロングマグナスのライドスペースで那美が声を上げる。
「ここで会ったが100年目、ってヤツか!
トランスフォーム!」
「む………………?」
デスザラスには一度、その転生直後に痛い目にあわされている――声を上げ、ロボットモードにトランスフォームするエクシゲイザーの声に、デスザラスはようやく彼らの姿に気づいた。
「なんだ、誰かと思えば……
貴様らとは、すでに勝負がついているはずだが?」
「あの時は不意を突かれた!」
「それに、あなたの力を知らなかった――情報のなさで不覚を取っただけです!」
「今度も勝てるとは――」
「思わない方がいいのだ!」
本当にあてが外れたと言わんばかりにため息をつくデスザラスの言葉に、ファストガンナーとシオン、そしてロディマスブラーと美緒が言い返す。
「…………仕方あるまい。
デスザラス、トランスフォーム!」
すでに供はひとりもいない。この場は自分で切り抜けるしかないようだ――デスザラスはロボットモードへとトランスフォームし、彼らと対峙する。
「ザコどもが……
こっちは急いでいるんだ。10秒でつぶしてやる」
「やれるものなら――」
「やってみてください!」
告げるデスザラスにエクシゲイザーとすずかが言い返し――両者は同時に地を蹴った。
「こん、のぉっ!」
「なめんな!」
咆哮し、一撃を繰り出すキングコンボイだが――実戦経験においては相手に圧倒的に分があった。ブリッツクラッカーはキングコンボイの斬撃を難なくかいくぐり、逆にキングコンボイを蹴り飛ばす!
「ぅわぁっ!」
「キングコンボイ!」
「大丈夫! この程度で!」
戦いの舞台は階層間の通路から下の階層の都市部へと移っていた――青空の中を吹っ飛ばされながらも、キングコンボイはライドスペースに座る晶に答えて体勢を立て直し――
「じゃなくて! 次が来る!」
「――――――っ!」
その言葉に、キングコンボイはとっさに身をひねり――追撃とばかりにブリッツクラッカーの放ったディバインバスターを回避する。
「ゴメン、助かった!」
「礼よりブリッツクラッカーに集中!」
「う、うん!」
晶の叱咤にうなずくと、キングコンボイは気合を入れ直してブリッツクラッカーと対峙する。
「ボクが参加してからはずっと仲間みたいな感じだったからわからなかったけど……強い……!」
「あぁ……最初の頃に比べて、確実に実力をつけてやがる……!
その上、サルマネとは言え、なのちゃんやフェイトちゃんの魔法まで使えるときたもんだ……!」
うめくキングコンボイにそう答え、晶もまたブリッツクラッカーへと視線を向けた。
デストロンに戻り、敵として立ちふさがるブリッツクラッカーに対し、その制止のためにコンビを組んで立ち向かう晶とキングコンボイだったが、予想に反し思わぬ苦戦を強いられていた。
ブリッツクラッカーに対する仲間意識が攻撃を鈍らせていることも決して否定できないが――それを抜きにしても、ブリッツクラッカー自身が強いのだ。
サイバトロンとデストロンの間で戦い歩くうち、数々の激戦が彼の実力を引き上げた――今のブリッツクラッカーの戦闘能力は、新米とはいえコンボイであるキングコンボイをも圧倒するレベルにまで到達していた。
「けど……負けられないんだ、ボク達は!」
「あぁ!
プラネットフォースを手に入れるためにも――ブリッツクラッカーを連れ戻すためにも!」
だが、それでも負けるワケには行かない。気合を入れるキングコンボイに晶が答え――
だが、異変は突然訪れた。
「ぅわぁっ!?」
驚き、後退するキングコンボイの目の前を落下していったのは、突然砕け散った天井の破片――突然、何の前触れもなく爆発を起こし、砕け散ったのだ。
「な、何だ!?」
これは相手側にとっても予想外だった。ブリッツクラッカーもまた破片をかわして後退し――
「どわぁっ!?」
続いて落下してきた巨大な何かが直撃し、ブリッツクラッカーを大地に叩きつける!
「ブリッツクラッカー!」
あわてて降下し、ブリッツクラッカーの安否を確かめようとするキングコンボイだったが――
「ほぅ……ミッドチルダのチビガキか」
落下してきた『何か』――強引に階層を破って降下してきたオーバーロードが、ブリッツクラッカーを踏みつけたままキングコンボイの前に立ちはだかった。
「……ゆるやかに傾斜していることから考えて、下の階層のどこかに移動するためのものだろうな」
「けど、アイツら勢いよくひっくり返ったからなぁ……あの勢いで滑り落ちてったんなら、まず間違いなくこの通路の終わりまで滑り落ちてっただろうな」
桃子達の落ちていった通路をのぞき込み、つぶやくベクタープライムの言葉に答えると、ビクトリーレオは「非戦闘思考のままパニクったヴィータが、魔法で切り抜けるような機転を利かせられるとも思えないし」と付け加えて肩をすくめて見せる。
と――
「たぶん、マイクロン用の通路だな」
そう一同に告げたのはメガロコンボイだった。
「聞いたことがある。
昔は、各階層にマイクロン用の通路を、オレ達用の通路とは別に作っていた、って……」
「それが、この通路か……」
メガロコンボイの言葉にスターセイバーがつぶやくと、ソニックボンバーがメガロコンボイに尋ねた。
「で? そのことを知ってんなら想像つくだろ。
この通路は、どこにつながってんだ?」
「それは……」
メガロコンボイがソニックボンバーの問いに対して下した予想は正解だった。
通路を滑り落ちていった桃子達が到達したのは――
「何だろ、この街……
この星の街にしちゃ、なんかちっこくねぇか?」
「そうね……
どちらかと言えば、私達人間が暮らすのに向いてるサイズね」
たどり着いた街は今までの街とは明らかに違った――まるで自分達にスケールを合わせたかのような、このギガロニアの都市にしては明らかに小さい建物の数々を見渡し、ヴィータと桃子は首をかしげて言葉を交わす。
と、そんな二人の疑問に答えたのはホップだった。
「おそらく……我々マイクロンのご先祖が作った都市なんでしょうね」
「マイクロンの街、ってこと?」
「はい。
私も、データでは知っていたんですけど、実際見るのは初めてです。私達の時代には、もうマイクロンが独自の街を作る習慣はなくなっていましたから」
聞き返す桃子にホップが答えると、ちょうど周囲の様子を見に行っていたブリットが戻ってきた。
そして、ホップに偵察の結果を報告し――それを聞いた桃子は思わず声を上げた。
「え? 『博物館があった』って?」
「わかるのかよ?」
「なんとなく。
子供との会話、っていうのは、言葉で理解しようとしちゃダメなの――身振りとか声色とか、いろんなもので意味を読み取るの」
「なのはが生まれた時になんとか身につけた技なんだけどね」と付け加えると、桃子は再びブリットの報告に耳をかたむけ――そんな彼女から視線を外し、ヴィータはホップに尋ねた。
「けどさ……なんで博物館なんかあるんだ?
ギガロニアの掟って……」
「どうやら、マイクロンのご先祖には『過去を振り返るな』という掟はなかったようですね」
「ふーん……
ま、どーせあたし達は振り返っても戻れそうにないけどさ。あたしはともかくお前やなのはのかーちゃんがムリそうだ」
ホップの言葉に、ヴィータが自分達の滑り落ちてきた通路の出口を見ながらつぶやくと、そんな彼女達に桃子が告げた。
「じゃあ、その博物館を見に行って見ましょう。
この星の歴史について、何か新しいことがわかるかも」
そんな桃子の提案により、一向はマイクロンの街の博物館へと立ち寄ることにした。
当初は過去の遺物ばかりが収められた博物館に対して難色を示していたヴィータだったが――
「ぅわぁ、すっげぇ♪」
当初の退屈そうな苦手意識はどこへやら。気がつけばヴィータは思う存分博物館を満喫していた。
特にヴィータが興味を引いたのはやはり武具――ギガロニアがプラネットXに襲われた際、マイクロン達もやはり故郷を守るために武器を取って戦ったらしく、そこには銃器や剣を初めとした様々な武器が展示されていた。
「ふふふ、やっぱり何だかんだ言ってもまだまだ子供ね」
喜色満面といった様子のヴィータを微笑ましく見守り、桃子が微笑みながらつぶやくと、
「桃子様!」
そこへ、ホップが何やら興奮気味に駆けつけてきた。
「何かわかったの?」
「はい。
私達マイクロンのような小型種族が、どうして生まれたのか――その理由がわかりました!」
「マイクロンの……生まれた理由?」
思わず桃子が聞き返し――その声を聞きつけたヴィータが駆けてくるのを見ながら、ホップは桃子に説明を始めた。
「ギガロニアのトランスフォーマーは、知っての通り他の星のトランスフォーマー達に比べて巨大なボディをしています。
これは、ギガロニアのプラネットフォースの影響ではなく、その文化に適応したためだったのです」
「っていうと……」
「でっかい街をパパッと作っちまえるように、自分達の身体をでっかくしていった、ってことだろ?」
「その通りです」
桃子のとなりで尋ねるヴィータに、ホップは元気にうなずいてみせる。
「ですが……ある時、巨大化の弊害に気づいたんです」
「そりゃ、あれだけ大きくなっちゃ、細かいところの作業はたいへんだったでしょうね……」
「はい。
その結果、異なる進化として、小型化が求められたんです」
桃子の言葉にうなずき、ホップは自分達の祖先をモデルにしたと思われる石像に視線を向け、
「こうして小型化する方向に進化したおかげで、私達マイクロンはシステムの複雑化と引き換えに、柔軟な思考のできる、いわゆるアナログに近い仕組みの頭脳回路を手に入れたワケです」
「そういえば……前にファストガンナーがお前をスキャンした時に、ンなようなことをなのはに説明したらしいな。あたしらはいなかったけど」
ホップの言葉にヴィータがつぶやくと、
「それは、ホップくん達にとって幸運だった、ってことね」
ふと、そんなことを言い出したのは桃子である。
「幸運……ですか?
そのおかげで、ノイズメイズに捕まった時にひどい目にあったんですが……」
「それよりも、もっと大きな幸運があったじゃない」
ホップに答えると、桃子はヴィータに視線を向け、
「だって……そのおかげで、ホップくん達はなのはやヴィータちゃんと友達になれたワケでしょう?」
「友……」
「達……?」
その言葉に、ヴィータとホップは思わず顔を見合わせて――そんな二人に、桃子は優しく微笑んでみせた。
『ぅわぁっ!』
オーバーロードの放った一撃で力任せに弾き飛ばされ、晶を乗せたキングコンボイは大地に叩きつけられた。
「晶! ――と、キングコンボイ!
くっそぉ! ジャマしやがって!」
ついさっきまで対峙していたことも忘れ、怒りの咆哮と共にオーバーロードに突撃するブリッツクラッカーだが、
「なめるなぁっ!」
通じない。ブリッツクラッカーの拳を真っ向から受けながらも、オーバーロードはブリッツクラッカーを大地に叩きつける。
「フンッ、ニトロコンボイと同じだな。
スピードがあろうとパワーがない――いかに攻撃を当てても、効かなければ意味はないぞ」
「る、せぇっ!」
言い返すと同時――ブリッツクラッカーは跳躍。オーバーロードの顔面を狙って蹴りを放つ。
しかし、オーバーロードはその一撃を難なく受け止めた。右手1本で蹴りを受け止め、そのままキングコンボイの傍らに投げ飛ばす。
「くそっ、パワーが違いすぎる……!
いつもバカやってても、さすがは大帝ってことかよ……!」
「そういうことだ。
オレだってスピーディアの大帝なんだ。いつもいつもやられてばかりだとは思わないでもらいたいな」
「やられ役云々は、むしろこっちのセリフだぜ!」
オーバーロードに言い返し、立ち上がるブリッツクラッカーだが――
「――くぁ…………っ!」
そのヒザから力が抜けた。予想以上のダメージに片ヒザをつき、全身を襲う痛みに顔をしかめる。
「ブリッツクラッカー!」
「かまうな!」
思わず声を上げる晶だが、そんな彼女をブリッツクラッカーはピシャリと一喝した。
「このままじゃ、ダメなんだ……!
もっと、強くならないと……大帝のヤツと肩を並べられるくらい、強くならないといけないんだ!」
「どういうことなの?」
尋ねるキングコンボイに対し――ブリッツクラッカーは答えた。
「強くならねぇと――」
「マスターガルバトロン様を、止められない……!」
「マスター、ガルバトロンを……!?」
「今のオレじゃ、マスターガルバトロン様から見れば弱くて、ちっぽけで……今のままじゃ、話なんか聞いてもらえない……
けど、フレイムコンボイみたいに、もっと強くなれば……!」
つぶやくキングコンボイに答え、ブリッツクラッカーは拳を握り締める。
「プラネットフォースはマスターガルバトロン様に渡せない……マスターガルバトロン様を出し抜いて、止めなきゃならないんだ……!」
「そうか……お前がデストロンに戻ったのも……」
「なのは達と戦って強くなったみたいに、ボクらと戦って、もっと強くなるためだったんだ……!」
ブリッツクラッカーの独白を聞き、晶とキングコンボイは思わず顔を見合わせてつぶやく。
「マスターガルバトロン様のパワーは、大帝の中でも段違いなんだ……
ここでオーバーロードを倒せないようで、マスターガルバトロン様を止められるかよ!」
咆哮し、オーバーロードに向けてさらなる突撃を試みるブリッツクラッカーだが――
「ぬるい――ぬるすぎる!」
オーバーロードには通じない。防御もせずに真っ向から突撃を受けるが――重量の差が物を言った。突撃した側であるブリッツクラッカーが一方的に弾き飛ばされる!
「貴様ごときがオレ達大帝と肩を並べる、だと……? 笑わせるな。
フォースチップ、イグニッション――エネルゴン、クレイモア!」
咆哮し、オーバーロードはフォースチップをイグニッション、右腕にエネルゴンクレイモアを装備する。
「貴様らの力などたかが知れている。
オレ達大帝と対等までに強くなる――そんなことは未来永劫不可能だと教えてやる。
――貴様の命と引き換えにな!」
咆哮と共に跳躍。オーバーロードが刃を振るい――
「そんなこと――」
「――させない!」
咆哮と共に、刃が受け止められた。
二人の間に割って入った、キングコンボイによって。
「こん……のぉっ!」
そして――全身のバネで押し返す。突然の乱入に虚を疲れ、オーバーロードはたまらずたたらを踏んで後退する。
「キングコンボイ、晶……」
「ったく、ひとりで突っ走りやがって……!
そんなこと考えてたんなら、どうしてあたし達に相談しなかったんだよ!」
思わず声を上げるブリッツクラッカーに対し、晶はキングコンボイのライドスペースでそう告げた。そして、キングコンボイもまた彼に告げる。
「父上が言ってた。『責任はひとりで背負わなきゃいけないワケじゃない』って……
マスターガルバトロンを止めたいって考えてるのは、ブリッツクラッカーひとりだけじゃないんだよ。なのはだって、マスターガルバトロンはホントは悪い人じゃないって思ってるし、なのはLOVEなボクはそんななのはの願いを叶えてあげたい。
それに、何より……キミのパートナーだって」
「オレの……パートナー……?」
キングコンボイの言葉にブリッツクラッカーが聞き返すと、
「そんなの……オレに決まってんだろ!」
キングコンボイのライドスペースから降り、晶がブリッツコンボイに言い放つ。
「お前と一番付き合いが長いのはオレなんだぞ!オレがパートナーにならなくて、誰がお前のパートナーになるんだよ!」
そう告げると、余裕の現われなのか律儀にこちらのやり取りが終わるのを待ってくれているオーバーロードをにらみつけた。
「お前はひとりじゃない――オレ達がいる。それに、デストロンのヤツらにだって、仲間はいるだろ。
お前がひとりで抱え込む必要なんかない。みんなで力を合わせて、マスターガルバトロンを止めればいいんだよ」
「晶…………」
告げる晶の言葉に、ブリッツクラッカーもまたオーバーロードへと視線を向ける。
「……そうだな。
考えてみれば、今までだってみんなでガン首そろえて戦ってきたんだ――デストロンにいた頃も、お前らとつるんでからも……今さら、ひとりで何とかしようとか考えなくてもよかったんだよな」
「そういうこと。
だから――」
最後に、キングコンボイが二人に加わった。告げながらブリッツクラッカーのとなりに並び立つ。
「まずは、ボクら3人でアイツをブッ飛ばそう。
マスターガルバトロンを止めたいんなら、まずはこの場を切り抜けないとね」
「おぅともよ!」
「いくぜ、キングコンボイ、ブリッツクラッカー!」
「やれるものなら――やってみろ!」
3人の言葉にオーバーロードも応じ――戦闘が再開された。
「こ、これって……!?」
博物館の中を通り抜け、入ってきた方とは反対側に出た桃子は、目の前に広がっていた光景に愕然とした。
都市の一角が無残に破壊されてしまっているのだ。しかも――
「こ、これは、ごく最近破壊されたものですよ!」
「何だって!?」
残骸を解析したホップの言葉に、ヴィータは思わず声を上げた。
ギガロニアに『捨てた街に立ち入るな』という掟がある以上、ここは本来無人のはずだ。それなのに、ここが破壊されているということは――
「まさか……誰かこの街で戦ったんじゃ!?」
その可能性に思い至り、ホップが声を上げると――
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
次の瞬間、絶叫と共に何者かがすぐそばに叩きつけられた。
「きゃあっ!」
「あぶねぇ!」
とっさに降り注ぐ破片から桃子を守り、ヴィータは落下してきた相手へと視線を向け――
「ぷ、プレダキング!?」
思わず声を上げるが、プレダキングは彼女達に気づくことなく立ち上がり、
「ほぉ……まだ立てるのか」
そんなプレダキングの前に、マスターガルバトロンが降り立った。
「ま、まだまだ……!」
「強がるな。
貴様ももうわかっているはずだ。オレには勝てんと」
うめき、かまえるプレダキングだが、マスターガルバトロンはあくまで余裕でそう告げる。
「今なら見逃してやる。
とっとと尻尾を巻いて逃げるがいい」
「何を……!」
マスターガルバトロンの言葉にうめくプレダキングだが――
「気づいていないか……
貴様らの最初の目的は何だった? オレとデスザラスとの対決を避け、デスザラスをビッグコンボイのもとに向かわせることではなかったか?
それならば、目的は果たしただろう――もうオレと戦う理由もないはずだ」
「………………っ!」
告げたマスターガルバトロンの言葉に、プレダキングは思わず息を呑んだ。
「まぁ、貴様がここで討ち死にしたいというのなら手伝ってやらんこともないが……どうする?」
「ぐ………………っ!」
マスターガルバトロンの言葉に歯噛みして――プレダキングは彼に背を向け、背中の翼を広げて飛び去っていった。
「……本音は貴様の相手も飽きたからなのだがな」
ポツリ、と付け加え――立ち去ろうとしたマスターガルバトロンはようやく桃子達の存在に気づいた。
「ほぅ、貴様ら……」
「ちぃ…………っ!」
とっさに桃子をかばい、グラーフアイゼンをかまえるヴィータだが――相手がマスターガルバトロンでは明らかに分が悪い。
実際、マスターガルバトロンはヴィータをまったく脅威に感じていなかった。彼女達を見回し、考えるのは彼らしい冷たい計算――
(こいつらを連れて行けば……ギャラクシーコンボイ達の動きを封じられるか)
「貴様ら……ちょうどいい。
オレと一緒に来てもらおうか」
「へっ、人質ってワケか!
誰がそんな命令を聞くか!」
マスターガルバトロンの言葉にヴィータが言い返し――新たな返答が背後から。
「いいですよ♪」
………………
…………
……
「……あー、えっと……」
「………………?
どうしたんですか?」
「いや……たぶん、抵抗するだろうと思ってたところにあまりにもナチュラルに答えが返ってきて、リアクションに困ってるんじゃねぇかな……?」
目の前には、30秒が経過するも未だに満足に言葉をしぼり出せず、固まったままのマスターガルバトロン――首をかしげる桃子に、ヴィータはため息まじりにそう答えていた。
「これで――」
「どうだ!」
咆哮が交錯し、絶妙なタイミングで放たれたバックギルドとエクシゲイザーの攻撃を、デスザラスは回避しきれずにガードする。
もちろん、この程度では自己再生能力を持つデスザラスにとって大したダメージにはならないが――
「まだまだぁっ!」
「いきます!」
ガードによって動きの止まった一瞬を、ファストガンナーとシオンが見逃さなかった。二人の放った一撃が、デスザラスを背後から打ち据える。
「ちぃっ!」
いくらダメージを受けないと言っても、彼の体格と重量では攻撃の衝撃に対してまで無敵というワケにはいかない――降り注ぐ攻撃に動きを封じられ、たまらず上空に逃げるデスザラスだが――
「逃がさないよ!」
そこにはハイブラストが待ちかまえていた。すかさずブラストランチャーで一撃。さらに地上からもロングマグナスとロディマスブラーが追撃をかけ、直撃を受けたデスザラスはバランスを崩し、ハイウェイの上に落下してしまう。
「どう!? わたし達の力は!」
「10秒でカタをつけるって言ってた割には、ずいぶんとのんびりしてるじゃないか!」
手ごたえを感じ、声を上げるすずかとエクシゲイザーだが――
「……やってくれるな……!」
そんな彼らの前で、デスザラスはゆっくりと身を起こした。
「こっちは一刻も早くビッグコンボイを見つけ出し、決着をつけたいんだ。
これ以上ここでもたついているワケにはいかん」
言いながら、エクシゲイザーから順にバンガードチームやロディマスブラーを順に見回していき、告げた。
「そこまで倒されたいなら……本気を出してやる」
「………………」
とりあえずは先ほどの場を離れたものの――正直なところ、マスターガルバトロンは頭を抱えたい気分でいっぱいだった。
理由はもちろん、ぜんぜん人質らしくしてくれない若干1名にあるワケで――
「へぇ……また元通りのギガロニアの街並みになっちゃったわね」
「そりゃ、この階層が丸ごと全部マイクロンの街、ってワケでもないだろ」
「ま、これから先に進めばまた出くわす可能性はあるだろうけどさ」
その『若干1名』こと桃子は、すでにモールダイブやインチプレッシャーと意気投合。自分同様状況に取り残されているヴィータやホップ達を完全に置き去りにして和気あいあいと話している。
ダークファングウルフやダークニトロコンボイも特に不満があるようには見えない。桃子を排除するでもなく、ずっとその様子を見守っている。
まぁ、元々彼らは自己主張というものをしない。日和見でも決め込んでいるのだろう。
「何なんだ、あの女は……」
「まぁ……なのはのかーちゃんだし……」
頭を抱えたいのは彼女も同様のようだ。あっという間にその場に解け込んでしまった桃子の姿に、思わず肩を落とすマスターガルバトロンにヴィータがうめくように答えると、
「あぁ、そういえば」
ふと何かに気づき、桃子はマスターガルバトロンへと向き直り、
「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね。
初めまして、マスターガルバトロンさん――私、なのはの母の高町桃子といいます。
ウチのなのはがお世話になっているみたいで……」
「あ、これはどうもごていねいに――」
………………
…………
……
「だから、違うだろ、そうじゃないだろ……!
そもそもオレは世話してないだろ……!」
またしても桃子の調子に流されてしまった――思わずていねいな受け答えをしてしまい、マスターガルバトロンは今度こそ頭を抱えてしまう。
(まったく、調子が狂ってしょうがない……!
こうなったら縛り上げて……)
胸中でうめき、マスターガルバトロンは桃子へと視線を向け――インチプレッシャーとも自己紹介を交わす桃子の姿を見てしばし考え、
「…………まぁ、逃げ出すような様子もないし、このままでもかまわんか。
縛り上げるのもこの体格差では手間だしな……」
意外とあっさり引き下がった。ふと思い直してそうつぶやくと、となりでモールダイブが一言。
「ひょっとして……あの光景に和んでます?」
間。
「余計なことは言わんでいい」
「…………ふぁい……」
静かな怒りと共に告げるマスターガルバトロンの言葉に、一撃の下に大地に沈んだモールダイブは息も絶え絶えにそう答える。
その一方で、桃子はしきりに周囲を見回し――インチプレッシャーに尋ねた。
「ところで……さっきから気になってたんだけど、なんだか聞いてたのよりも人数が少ないんじゃない?」
「あぁ、みんなバラバラに最下層目指してっからな」
「じゃあ……ブリッツクラッカーくんも?」
「アイツが真っ先に飛び出していきやがったなぁ……」
「ふーん……」
「で、アイツが何?」
「あぁ、そうそう。
バンパーくん、ちょっと♪」
尋ねるインチプレッシャーの言葉に、桃子はバンパーを呼び寄せ、ビークルモードになってもらうとその車内からひとつの紙箱を取り出した。
「じゃ〜ん♪ 翠屋特製シュークリーム♪
晶からブリッツクラッカーが大好きだって聞いて、差し入れ♪」
「て、敵に対して差し入れって……
……ひょっとしてアイツ、最初からオレ達が敵だって認識ないんじゃないのか……?」
「まぁ……なのはのかーちゃんだし……」
満面の笑顔ですさまじいことをのたまってくれる桃子の言葉を聞き、復活してつぶやくモールダイブにヴィータは先ほどと同じ言葉を繰り返す――というか、他に言うべきセリフが見つからない。
「まぁ、誰であろうと無条件に受け入れようとするのは、確かにあの小娘にそっくりだが……」
そんなヴィータの言葉にマスターガルバトロンも思わず同意してしまい――
「あ、何だったらみんなも食べる?
はい、まずはマスターガルバトロンさん♪」
「うむ、すまんな」
………………
…………
……
「オレが……オレが壊れていく……!」
完全に桃子に振り回されている――もはや自己嫌悪と言ってもいいような勢いで、マスターガルバトロンは頭を抱えてうめくしかない。
最初の対峙から始まって、桃子にはマスターガルバトロンに対する畏怖の念というものがまったくない。むしろ嬉々としてこちらの領域に踏み込んでくる分、とにかく主導権を取り返しづらい。
自分ともあろう者が、ちっぽけな人間にやり込められっぱなし――現在の状況は、マスターガルバトロンにとってあまり心地いいものではなかった。
(何をいいようにやられている!
それでも超破壊大帝か! 威厳を取り戻せ!)
「おい、女――」
懸命に自分を叱咤し、マスターガルバトロンは反撃を試みるべく桃子へと向き直り――
「お茶もありますよ♪
あ……けど、私達のコップじゃ小さいですし……水筒ごとでいいですか? たくさん持ってきてますから気にしなくていいですよ♪」
「あぁ、もらおう」
………………
…………
……
「そうじゃない……そうじゃないだろうが……!」
「さっきから何なんでしょうね?」
「あー、えーっと……」
再びマスターガルバトロンは大地に崩れ落ちた。まったく無自覚のまま天下の破壊大帝を翻弄する桃子の言葉に、ホップもコメントに困ってうめくしかない。
「まぁ、グレてるヤツほど家庭の味に飢えてたりするからなぁ……」
「何でそのセリフをオレを見ながら言うんだよ?」
なんとなくマスターガルバトロンに同情しながら告げるインチプレッシャーにモールダイブがムッとしてうめくと、
「……ぬがぁぁぁぁぁっ!」
とうとうマスターガルバトロンがキレた。怒りの咆哮と共に目の前の地面に拳を叩きつけ、まるでちゃぶ台返しのごとく地盤をひっくり返す!
「ぅわぁっ! とうとうキレた!」
「不良少年の反抗期か!」
「ドメスティック・バイオレンス発生!?」
「やかましいっ!」
口々にわめくヴィータ、インチプレッシャー、モールダイブに雷撃を落とすと、マスターガルバトロンは桃子へと向き直り、
「さっきから何なんだ、貴様は!
オレはデストロンの超破壊大帝、マスターガルバトロン様だぞ!
そのオレに対して、どうしてそんなに馴れ馴れしくできる!? オレをなぜ恐れん!?
貴様に警戒を解かせているのは、一体何なんだ!?」
桃子のリアクションを許せばまた流される――先手を打って一気にまくし立て、大きく肩を上下させるマスターガルバトロンだったが、そんな彼に桃子はあっさりと答えた。
「だって……マスターガルバトロンさん、そんなに悪い人とは思えないし♪」
「何だと……!?」
「実際、2度もなのはを助けてくれたじゃないですか」
「フンッ。貴様もそのテのカン違いをしているクチか……やはり親子だな。
いいか。オレが小娘を助けたのはただの気まぐれであり、ただのついでだ。結果論だけで人を善人扱いするな!」
告げる桃子の言葉にため息をつき、マスターガルバトロンはそう言い放ち――
「それだけじゃないんだけどなー」
「何…………?」
続いた桃子の言葉に、マスターガルバトロンは思わず眉をひそめた。
「だって、マスターガルバトロンさんが助けたのって、なのはだけじゃないでしょ?」
「何をバカなことを……
さっきも言ったが、小娘を助けたのはただの結果だ。他のヤツらなどどうでもいい!
そんなオレが、一体誰を助けたというんだ!?」
「あら、そう?」
言い放つマスターガルバトロンだが、桃子もまたあっさりと返してくる。
「じゃあ聞くけど……どうしてデスザラスと戦った後――」
「モールダイブを見捨てなかったの?」
「――――――っ!?」
意外な人物の名前が挙がった――思わず目を丸くして、マスターガルバトロンはモールダイブへと振り返った。
「あの時、あなたは戦いが終わった後、目を回してるモールダイブを背負って帰っていったわ。
本当にどうでもいいと言うのなら――その場に放り出していってもよかったのに」
「何を………………」
桃子のその言葉に、マスターガルバトロンは反論しようと口を開くが――そこから反撃の言葉は出てこない。
(なぜだ……?
オレはなぜ、あの時モールダイブを助けた……?)
思い返すのは、桃子に指摘されたデスザラスとの一度目の対峙――確かにあの時、自分はデスザラスに敗れ、意識の戻らないモールダイブを連れてその場を離れた。
最初はプラネットフォースを手に入れるための水先案内人として仲間に引き入れたが、結果得られた情報は『最下層にそれらしいものがある』というウワサだけ。最下層へのルートを知らないモールダイブの役目はすでに終わっており、何の利用価値もなかった。
基本的に、自分のスタイルは「来る者拒まず去る者追わず」だ。ついて来たいならついて来ればいい。ついて来たくないなら、ついて来れないなら去ればいい――それが自分の在り方だったはず。その理屈で言うのなら、あの場で目を覚まさなかったモールダイブは置き去りにしてもかまわなかったはずだ。
それなのに――自分はあの時、倒れているモールダイブを見捨てなかった。わざわざ背負って、彼を連れて離脱したのだ。
(なぜだ……なぜ、オレは……!)
自分がわからない――思わずマスターガルバトロンは拳を握り締め――
「その様子だと、どうして自分がモールダイブを助けたのかわからないみたいね」
さすがと言うべきか、そんな彼の中の疑問を桃子は的確に見透かしていた。そう告げると静かに息をつき――そこで初めて真面目な表情を見せた。マスターガルバトロンと正面から向き合い、告げる。
「そりゃ、私だって昔のあなたを知らないから、あまり偉そうなことは言えないかもしれないわ。ひょっとしたら、昔のあなたは自分で言ってるみたいな血も涙もない大悪党だったのかもしれない。
けど――それは“昔のあなた”の話。少なくとも、私から見た“今のあなた”は明らかに違うわ」
「今の……オレ、だと……!?」
思わず聞き返すマスターガルバトロンに、桃子は静かにうなずいた。
「命がある人は――心がある人は、みんな前に進む。変わっていくの。
……ううん、違うわね。変わっていかなきゃいけないの。
生きていく内に経験したこと、感じたことを受け入れて、少しずつ変わっていく――たとえその結果が、本人の望んでいないものだったとしても、ね」
「………………」
桃子の言葉に、マスターガルバトロンは無言で自らの右手に視線を落とした。
「オレが……変わっているというのか……?
このオレが……絶対の存在の……誰にも屈しない存在である、このオレが……!」
納得できない。自分が誰かに左右されているなど、自分を絶対の存在とすることで自己を保っているマスターガルバトロンにとって、決して認めることはできなかった。
だが――
「何言ってるの?」
そんな彼のつぶやきに、桃子はキョトンとして聞き返した。
「そんなの、別に屈したワケじゃないじゃない」
「………………?」
「誰かの影響で変わったからって、その『誰か』に屈したワケじゃないじゃない。
その人に何かされたの? その人のせいで何か損した? 違うでしょ?」
「不愉快だ」
「そんなの気の持ちようじゃない」
即答するが一蹴された。
「誰かのせいで変わった、なんて思うから不愉快になるのよ。
それよりも、誰かのおかげで変われた、誰かのおかげで、もっと上に行けた――そう考えた方が気が楽じゃない。
あなたの理屈で言うのなら――『誰かのしたことを踏み台にして、もっと強くなれた』ってとこかしら?」
「むぅ……」
スラスラと言ってのける桃子の言葉に、マスターガルバトロンは思わず唸り声を上げていた。
桃子の言うことに心当たりがあったからだ。
(確かに……オレはメガロコンボイに敗れ、その悔しさを糧にユニクロンのプラネットフォースを取り込み、この姿に転生した……
それも、考えようによってはヤツによって変わった、ということか……)
「なるほどな……確かに、『気の持ちよう』という貴様の言葉には一理ある」
気づけば、マスターガルバトロンの口元には確かな笑みが浮かんでいた。
「いいだろう……今は貴様の口車に乗ってやる」
告げて、マスターガルバトロンは頭上に広がるホログラムの青空を見上げた。
「変わったというのなら……オレは更に変わるまでだ。
小娘やギャラクシーコンボイを打ち倒し――オレは、オレの中に生まれた甘さを叩きつぶしてくれる!」
「あら、そう来たの?」
だが、そのマスターガルバトロンの宣言を前にしても動じることはなかった。むしろ楽しそうにこちらを見返してくる。
「そんなこと宣言しちゃっていいのかしら?
今までだって、なのはやギャラクシーコンボイさんには何回もやられてるでしょう?」
「フンッ、オレをなめるなよ。
この姿になってからは、ヤツらとは一度も戦っていないんだ」
そう桃子に答えると、マスターガルバトロンは桃子を見下ろし、告げた。
「女、貴様は生かしておいてやる。
その目で、娘がオレに倒される様を見届けるがいい――」
「『殺す』じゃなくて『倒す』なんだ……」
「やっぱ丸くなってら、マスターガルバトロン様」
余計なことをほざいたモールダイブとインチプレッシャーに向けて雷撃が降り注いだ。
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と同時、背中のチップスロットに地球のフォースチップが飛び込み、カカトに位置していたビークルモード時の尾翼が展開され、鋭い刃“ライザーブレード”となる。
そのまま、ブリッツクラッカーはオーバーロードに突撃。直前で跳躍すると上空で一回転し、
「ブリッツ、ヒール――クラァッシュ!」
「なんの!」
繰り出された一撃が、オーバーロードのエネルゴンクレイモアと激突する!
「ぐぅ……!」
さすがにこの一撃を悠々と受け止めることはできなかった。頭上から勢いよく叩きつけられたブリッツクラッカーの一撃を、オーバーロードは全身で踏ん張って受け止め――
「いけぇっ! キングコンボイ!」
「あいあいさー!」
そんなオーバーロードの腹に、晶に応えたキングコンボイのドロップキックが炸裂する!
「ちぃっ! クソガキがぁっ!」
だが――やはり重量の差は大きい。オーバーロードの重装甲の前には大したダメージを与えられず、力任せに振り払われ――
「なんの!
フォトン、ランサー!」
吹っ飛ばされながらも、ブリッツクラッカーはすぐさま反撃に転じた。とっさに放ったフォトンランサーの魔力弾が降り注ぐが、やはりオーバーロードにダメージを与えるには至らない。
「くそっ、デカいだけあってニブい!」
「けど、ちゃんとクリーンヒットさせられてる! 効いてないワケじゃない!」
なんとか受身を取って着地し、うめくブリッツクラッカーに晶が答える。
「アイツが倒れるまではひたすら根気!
チクチクチクチク、いぢめ倒すのみ!」
「えげつないなー」
「他に手がある?
ブリッツヒールクラッシュ、通じないじゃない」
「…………ありません」
ツッコんだはいいものの逆にツッコみ返された。ブリッツクラッカーはキングコンボイの言葉に息をつき――
「そんなムカつく戦い方――される側にもなってみろ!」
咆哮し、オーバーロードが両肩のキャノン砲にエネルギーをチャージする!
それも今までの出力の比ではない。そんなものを撃たれたら――強力な防御手段を持たない彼らはひとたまりもあるまい。
「ち、ちょっと待ったぁっ!」
「タンマ! ストップ!」
「誰が、やめるかぁっ!」
キングコンボイとブリッツクラッカーに言い返し、オーバーロードは両肩から巨大な閃光を放ち――
〈Absolute Panzer〉
その言葉と同時、閃光は突然発生した魔法陣の壁に受け止められた。強靭な防壁の向こうで大爆発を巻き起こす。
そして――
「やれやれ……
世話のやける小僧どもだな」
そう告げて、メガザラックはキングコンボイ達へと向き直った。
「め、メガ、ザラック……?」
「ってことは……」
どうしてここに――目を丸くするブリッツクラッカーだが、キングコンボイが気づいたのは別のことだった。キョロキョロと周囲を見回し――
「ここだよぉ〜っ♪」
目当ての人物は頭上から――元気な声と共に、アリシアがキングコンボイに飛びついてくる。
「えへへ……久しぶり!」
「うん!
久しぶり、アリシア! 生き返れたんだね!」
元気な様子のアリシアに応えるキングコンボイだったが――
「う、うん……」
その言葉に、それまで笑顔だったアリシアの表情が曇った。どこか応えづらそうに視線を泳がせる。
「ありゃ? どしたの?」
「うん、実はそれがらみでいろいろあって……」
尋ねるキングコンボイに答えると、アリシアはパチンと頬を叩いて気合を入れ直し、
「それは後で話すから……それより、今はアイツ!
ズバーンっ! とやっつけて先に進まないと!」
「う、うん!
メガザラックやアリシアが来てくれて助かったよ。ボクらだけじゃ攻撃力が足りなくてさ……」
アリシアの言葉に告げるキングコンボイだったが――
「いや……貴様らだけで十分だ」
突然そう告げたのはメガザラックだった。
「どういうことだよ?
アイツ、オレのヒールクラッシュだって受け止めたんだぜ」
「確かに、今のままではムリだが、お前ら二人が……」
ブリッツクラッカーにそう答え――メガザラックは二人に告げた。
「リンクアップすれば話は別だ」
『………………は?』
予想外と言えば予想外――メガザラックの提案に、キングコンボイ以下3名は思わず目を丸くした。
「ぼ、ボクと……」
「オレが……」
『リンクアップ!?』
「ふむ。いいコンビネーションだ。心配はいらないな」
声をハモらせるキングコンボイとブリッツクラッカーの姿に、メガザラックは余裕の笑みと共にうなずく。
「け、けど、フェイトがいないんだよ!
それにブリッツクラッカーはリンクアップの経験だってないし! ナビゲータがいないと!」
あわててキングコンボイが問題点を挙げる――ナビゲータが不在のままのリンクアップはソニックセイバーの前例があるが、二人はまだそのことを知らない。
しかし、ソニックセイバーの件は二人ともリンクアップ経験者だったことが幸いした。だが今回はブリッツクラッカーが未経験者だ。ナビゲータはどうしても必要となる。
だが――
「フッフッフッ……大丈夫だよ、ご両人♪」
そこに口をはさんできたのはアリシアだった。自分の肩の後ろに向けて声をかける。
「おどかそうと思って隠れててもらったけど、そんな場合でもないみたいだし。
もう出てきていいよ♪」
《はいなのです♪》
かけられた声に答え、出てきたのは人形と見まごうほどのサイズの小さな女の子。
だが、その顔立ちにはどこか覚えがあって――
「ひょっとして、その子……」
「り、リインフォースか……!?
ずいぶんとまぁ、ちっこくなっちまって……」
《一応、初めましてなのです!
リインフォースU、ただいまマイスターはやてとの合流待機中なのです♪》
呆然とつぶやくキングコンボイとブリッツクラッカーの言葉に、新たなリインフォースはペコリとおじぎしてみせる。
「け、けど、この子とリンクアップと何の関係が――」
しかし、今この状況で彼女が出てくる理由がわからない。思わず尋ねるキングコンボイだったが――
「――――――っ!?」
気づいた。
自分のスパークの一部が変質している。
その一方でブリッツクラッカーも不思議そうに自らのスパークが収められた胸元に視線を向けている。おそらく彼にも同じ現象が起きているのだろう。
これは――
「コンビネーション、スパーク……!?」
《はいなのです♪》
つぶやくキングコンボイに、リインフォースは笑顔でうなずく。
「驚いた?
リインフォースの身体を構築する際に、メガザラックはちょっと機能を追加したの。
これがその新機能――ナビゲートまではできないけど、リンクアップさせたいトランスフォーマーの中に、コンビネーションスパークを作り出すことができるの」
《名づけて、“ライト・リンクアップ・ナビゲータ”です♪》
「まんまな名前だな」
思わずツッコんだのは晶だ。
「そいつの能力なら、お前達もリンクアップできる。
無論、合体の座標軸調整は貴様らでやることになるが――さっきのコンビネーションを見る限り、その必要はあるまい」
『………………』
メガザラックの言葉に、キングコンボイとブリッツクラッカーは思わず顔を見合わせる。
言葉は――いらなかった。
「キングコンボイ!」
叫び、キングコンボイが四肢のパワードデバイスを分離させると下半身を展開。両足が新たな両腕に変形し上半身を形成する。
『ブリッツクラッカー!』
次いで晶とブリッツクラッカーの叫びが響き、ブリッツクラッカーが上半身のみをビークルモードに変形し、さらにそれを後方に展開。こちらは下半身を形成する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
3人の叫びと共に、キングコンボイの変形した上半身とブリッツクラッカーの変形した下半身が合体する!
最後に、後方に展開していたブリッツクラッカーの上半身、ビークルモードの機首部分が背中に合体、フライトユニットとなり、3人が高らかに名乗りを上げる――
『ブリッツ、コンボイ!』
「ほぉ……合体したのか……」
「そういうこと!
もう、そっちの好きにはさせないんだから!」
新たなリンクアップを前にしても、余裕の態度は崩れない――オーバーロードの言葉に、ブリッツコンボイは元気にそう言い返す。
「ならば――その力、見せてもらおうか!」
「望む、ところっ!」
オーバーロードに答え――次の瞬間、ブリッツコンボイの姿が消えた。そして――
「ぬがっ!?」
衝撃は突然襲ってきた。腹部に一撃を受け、オーバーロードは実に10数mも押し返され、
「す、すっげぇ……」
驚いたのはこちらも同じだ。蹴りを叩き込んだそのままの姿勢で、ブリッツコンボイに合体しているブリッツクラッカーが驚きの声を上げる。
「やってくれるな……!
だが、どうせそれもまぐれだろ!」
「あー、ゴメン。ボクらも一瞬そう思った」
うめくオーバーロードの言葉に、ブリッツコンボイは思わずそう同意して――
「だから――もう一回試させてね♪」
そう告げた、次の瞬間には、すでにオーバーロードの懐に飛び込んでいた。
「何――――――っ!?」
「いっ、けぇっ!」
そして、驚愕するオーバーロードに向け、飛び込んだ勢いのまま正拳――自身のパワーと飛び込んだ勢いを併せた一撃が、オーバーロードをブッ飛ばす!
「こいつ…………近接スピード型か……!?」
「だけじゃないんじゃないかな?」
うめくブリッツクラッカーに答え、ブリッツコンボイは愛用のアームドデバイス、カリバーンを抜き放った。その刀身に魔力を流し込み――
「ストームイリュージョン――マキシマム!」
放たれた竜巻がオーバーロードを吹き飛ばした。さらに周囲のガレキも吹き飛ばし、宙を舞うオーバーロードに次々に叩きつける!
「うひゃー、えげつねぇ……」
「なるほどな。
近づいたらスピードに物を言わせてブッ飛ばして、離れたら強力な魔法で吹っ飛ばす、か……
お前らの特性、最大限に活きてんじゃんか」
ブリッツクラッカーと晶がつぶやく中、吹っ飛ばされたオーバーロードが落ちてきた。地響きを立てて大地に落下する。
「よぅし、ブリッツコンボイ、やっちゃえぇっ!」
《手加減無用なのです!》
「うん!」
アリシアとリインフォースに答え――ブリッツコンボイはカリバーンをかまえ、叫ぶ。
「カリバーン――カートリッジロード!」
〈Roger!〉
告げるブリッツコンボイの言葉に、カリバーンはカートリッジをロードし、
「フォースチップ、イグニッション!」
『フルドライブモード、スタンバイ!』
ブリッツコンボイ、ブリッツクラッカーと晶が告げ――飛来したフォースチップを取り込んだカリバーンの刀身が音を立てて弾け飛んだ。
その中から光があふれ出し――それは収束、物質化し、より強大な大刀となる。
「いくよ――エクスカリバー!」
告げて、ブリッツコンボイはカリバーン改めエクスカリバーを頭上に掲げ――巻き起こったエネルギーが雷と風を巻き起こした。雷光の渦となって荒れ狂い、エクスカリバーの刃にまとわりつく。
そして、ブリッツコンボイはエクスカリバーを振りかぶり、
「ブリッツクラッカー!」
「おぅよ!」
告げるその言葉に下半身のブリッツクラッカーが応え――その刀身に、周囲の魔力が収束されていく!
一際輝きを増したエクスカリバーの刃を振りかざし、ブリッツコンボイはオーバーロードへと突撃し――
『スターダスト、カリバー、ブレイカー!』
「く………………っ!」
放たれた斬撃を、オーバーロードはエネルゴンクレイモアで受け止める――が、そんなものは何の役にも立たなかった。刃にまとわりついていた雷光の渦が至近距離から解放され、オーバーロードを吹き飛ばす!
そのまま、雷光はオーバーロードをビル群の中へと叩き込んだ。轟音と共にビルがいくつも倒壊し――それが収まった時、完全に意識を手放したオーバーロードがその場に倒れ伏していた。
「よっしゃあ! 大金星!」
「大帝ひとり、撃破!
これで残りはギガストームとデスザラス、マスターガルバトロンの3人だね!」
本当はもうひとり、巨大なヤツが人知れず参戦していたりするのだが――それはさておき。合体を解除し、ジャックプライムとブリッツクラッカーは手を叩いて歓喜の声を上げる。
「しかし、最後の技を撃つ時は気をつけるべきだな。
スターライトブレイカーやスターダストスマッシャーと同じだ――チャージに時間がかかりすぎる。ここ一番という時に、援護を受けた上で撃つべきだろう」
「うーん……強力な攻撃も考え物だよねぇ……」
喜んでいるところに水を差すようだが、言うべきことは言わなければ――気づいた点をアドバイスするメガザラックにジャックプライムがつぶやくと、
「あ、あのさぁ……」
そんな彼らに、ブリッツクラッカーが声をかけてきた。
「えっと、オレ……」
どこか言いにくそうに、ブリッツクラッカーは視線を泳がせて――
「……うん。
一緒に行こう、ブリッツクラッカー」
「最初からそのつもりだったし」と付け加え、ジャックプライムはブリッツクラッカーに向けて右手を差し出した。
「みんなで、マスターガルバトロンを止めようぜ」
「…………おぅ!」
となりで告げる晶の言葉に笑顔でうなずき――ブリッツクラッカーもまた右手を差し出し、ジャックプライムとガッチリと握手を交わすのだった。
「エクシゲイザー! しっかりして!」
「ロディマスブラー!」
すずかや美緒が懸命に呼びかけるが、相棒からの答えは返ってこない――
倒れているのは彼らだけではない。ファストガンナーも、バックギルドも――ロングマグナスやハイブラストもまた、炎に包まれた街の中に力なく倒れ伏している。
命に別状はないようだが――意識は完全に断ち切られている。アリサ達の懸命の呼びかけにも一向に反応がない。
と――
「おい、娘」
「――――――っ!?」
突然の声にすずかが振り向くと、そこには彼らを打ち倒した張本人――デスザラスが悠然とかまえていた。
「ずいぶんと手こずらせてくれたな」
「まだ何かするつもり!?」
「み、みんなに手を出すな!」
告げるデスザラスに言い放ち、とっさにすずかをかばう美緒やアリサだったが――
「………………フンッ」
そんな彼女達にかまうつもりはなかった。デスザラスはそのまま彼女達に背を向け、歩き出す。
と――ふと立ち止まり、告げた。
「そいつらが起きたら伝えろ。
『ザコと言ったのは訂正してやる』とな」
「え――――――?」
「久々に楽しめた。礼としてとどめは見逃してやる」
思わず顔を上げたすずかだったが――かまわずそう言い放つと、デスザラスはその場から飛び去っていってしまった。
「…………すずか……」
「うん……」
声をかけてくるアリサに、すずかは答えた。
「倒れた相手にとどめは刺さない……
まるで……昔のスカイクェイクに戻ったみたいだった……」
「む…………?」
目の前の扉を吹き飛ばし――先に進もうとしたところで、ギガストームはそれに気づいた。
“ヤツ”がいる。まるで自分を待ちかまえていたかのように――
「貴様……!」
「やはり来たか。
待っていて正解だったな」
うめくギガストームに答え、その人物はギガストームへと刃を向けた。
「最後の最後でジャマをされてもつまらん。
ギガストーム。貴様との決着――今ここでつけてやる!」
咆哮と共に跳躍。彼はギガストームへと跳躍。ギガストームもまた両肘のアックスを抜き放ち――
フレイムコンボイとギガストーム、両者の刃が激突した。
「しっかし、まぁずいぶんと大所帯になっちまったよな、オレ達も……」
「まぁ、バックアップ系の3チームが結局合流しちゃったワケだし……」
つぶやくデモリッシャーの言葉に、ユーノは思わず肩をすくめてそううなずく。
結局、ライガージャック達の手当てをしている間に最後のバックアップチーム、グランダス達情報管制チームが追いついてきた。現在彼らはそのグランダスに乗り込み、彼の通れる大きな通路を選びながら最下層を目指していた。
だが――『大所帯』となった理由はそれだけではない。
「すまんな、オレ達まで乗せてもらって……」
「いいっていいって。
どうせあたしらは裏方だ。のんびり行こうぜ」
そう真雪が答える相手はレオザックだ――『メガザラックの露払いに』と別ルートを選んだ彼らウィザートロンもまた、グランダスに合流していたのだ。
「アリシアとリインフォース、無事フェイトやはやてちゃんと会えたかしら……」
「まぁ、少なくとも誰かしらのチームとは合流できてると思いますけど……」
やはり心配なようで、不安げにつぶやくリニス――そんな彼女にシャマルが答えると、
「………………おっと」
グランダスが何かに気づいた。突然その場に停止し――直後、目の前を多数のガレキが落下していく。
「どうしたの?」
「上の階層からの崩落のようだ。
どこのチームもかなりハデにやり合っているようだからな……あちこちガタがきているのだろう」
尋ねるさつきにグランダスが答え、再び前進――
「――――――ちょっと待って!」
――しようとしたところを愛が呼び止めた。
「どうしました?」
「あれ!」
尋ねる琥珀に答え、愛が指さした先では――先ほど崩落したガレキの中に、動くものの存在があった。
漆黒のたてがみを持った獅子。彼は――
ダークライガージャックだった。
(初版:2007/06/10)