「ギャラクシーコンボイめ……何をやっている……!」
桃子が回線をつないだサイバトロンPDAを奪い取り、一部始終を聞いていたたマスターガルバトロンは、苛立ちを隠しもしないでそううめき――
「――って、のんきに盗み聞きなんかしてないで手伝ってくださいよ!」
降り注ぐメトロタイタンの砲撃に対して懸命に応戦しながら、インチプレッシャーが思わず声を上げる。
が――マスターガルバトロンはかまわない。サイバトロンPDAを放り出し、桃子がそれを拾いに行くのを尻目にキングコンボイ達へと向き直り、告げる。
「おい、小僧ども」
「何さ!?」
「ここは好きにしろ」
「え!? あ、ちょっと!?」
突然告げられ、思わず声を上げるキングコンボイだが――マスターガルバトロンはかまわず飛び立ち、その場を離れる。
(何なのだ、そのブザマな姿は……!
それが、このオレを幾度となく退けてきた男の姿か!)
「バカにするなよ――ギャラクシーコンボイ!」
怒りと共に咆哮し――マスターガルバトロンはその速度を上げていった。
「…………言語機能をONにした。
これで話すことが可能なはずだ」
「ありがとう、レッドクロス」
告げるレッドクロスに礼を言い、愛はホイルジャックや忍の手当てを受けているダークライガージャックへと向き直り、
「教えて、ダークライガージャック。
どうして、あんなところにひとりでいたの?」
「……マスターメガトロン、探してた……
オレ、マスターメガトロン、家来……マスターメガトロン、そばに、いる……」
「そっか……あのメガロクラッシュの一撃で、離れ離れになってたマスターガルバトロンを探して……」
「ずいぶんと一途なんだな、コイツ……」
つぶやく美由希のとなりで真雪がつぶやくと、
「…………ねぇ」
しばし考えた末、リニスはダークライガージャックに尋ねた。
「ダークライガージャックは、マスターメガトロン――今はマスターガルバトロンと名乗ってるらしいけど、彼のことが大事?」
「オレ、家来……
マスターガルバトロン、大事……守る、役目……」
「そう」
その答えは、リニスにとって予想通りのものだった。満足げにうなずくと、リニスはマスターガルバトロンに告げた。
「じゃあ、ひとつだけお願いしてもいいかな?」
「………………?」
眉をひそめるダークライガージャックに、リニスは告げた。
「マスターガルバトロンを止めたいの。
だから……力を貸して」
第78話
「リーダーとしてのあり方なの」
「やれやれ……ようやく最下層か……」
「さんざんだったわね……」
降下エレベータの扉が開き、仲間達と共に転がり出たサイクロナスとヘルスクリームは疲れを隠す余裕もなくそうつぶやいた。
彼らは確か、スペリオンや薫らのチームと交戦していたはずだが――
「くっそぉ、納得いかねぇな」
「サイバトロンの連中なんか、あのままやってても勝てたってのによぉ」
「マックス、ラジャー」
「そう言うな。エイプフェイス、スナップドラゴン、マックスビー」
「私達の勝利条件はプラネットフォースの獲得よ――あんなところで時間を食っているワケにはいかないじゃないの」
こういうことである。
要するに戦っている間に他の勢力に先を越されてしまったため、急ぎ戦いを避けて離脱した――今頃は薫達もまた最下層に向かってきているはずだ。
「よし、急いでプラネットフォースの元に向かうぞ」
最下層にたどり着いた以上、プラネットフォースはもはや目前のはず――そう一同をうながすサイクロナスだが――
「あ、あれ!」
「――――――?」
声を上げたヘルスクリームの言葉に、サイクロナスは彼の指さした方へと振り向いて――
次の瞬間、降り注いだ砲弾の雨がサイクロナス達を吹っ飛ばしていた。
「オラオラオラぁっ!」
サイクロナスを蹴散らしたのは彼の攻撃の流れ弾――懸命に応戦するキングコンボイ達に対し、体格ではるかに勝るメトロタイタンは頭上から砲撃を雨のように降らしていく。
「このこのこのぉっ!」
「いい加減止まれっつーの!」
対し、それぞれの火器や魔法で応戦するキングコンボイやブリッツクラッカーだが、モールダイブ達との一斉攻撃にも拘らずメトロタイタンはビクともしない。
「オイオイ……誰かあのオッサン止めてくれよぉ……」
「オッサン、だぁ?
オレはこれでも――メガロコンボイよりも年下だぁっ!」
うめくインチプレッシャーに言い返し、メトロタイタンは両腕をかまえ――その両腕が打ち出され、大地に打ち込まれる!
「ロケットパンチ!?」
「目を輝かせるな!
両腕を戻す前にたたみかけるぞ!」
声を上げるアリシアに告げ、突撃するメガザラックだが――
「そんなの――お見通しなんだよ!」
そんなメガザラックの攻撃をメトロタイタンは読んでいた。全身の火器を斉射し、メガザラック達を一切寄せつけない。
「くそっ、晶! キングコンボイ!
リンクアップするぞ!」
「うん!」
「リインフォース! ナビゲータをお願い!」
《はいなのです!》
ブリッツクラッカーに同意するキングコンボイと晶の言葉にリインフォースが答え――
「何するつもりか知らねぇが――させるかよ!」
そんな彼らの行動をメトロタイタンも見逃さない。全方位に向けて相対する全員をけん制していた砲塔、そのすべてをキングコンボイ達に向ける!
「ぅわわっ! こっち狙ってきた!」
「ち、ちょっとタンマぁっ!」
あわてるキングコンボイとブリッツクラッカーだが、メトロタイタンはかまわず照準を合わせ――
「ぅおぉぉぉぉぉっ!」
そんな彼らの元に救援が駆けつけた――飛び込んできたメガロコンボイがロボットモードにトランスフォーム、メトロタイタンに背後から強烈な体当たりをお見舞いする!
「よせ、戻るんだ、ビクトリーレオ!」
「へっ、オレ達に命令できるのははやてだけだぜ!
いくぞ、ヴィータ!」
「おぅよ!」
後方から自分達を追い、声を上げるギャラクシーコンボイに答え、ビクトリーレオはデスザラスを追って飛翔、ビクトリーキャノンやシュワルベフリーゲンで攻撃を仕掛ける。
だが――
「こざかしい!」
デスザラスには通じない。二人の攻撃をものともせずに反転。体当たりで二人を吹き飛ばす!
「ビクトリーレオ! ヴィータ!」
「貴様ぁっ!」
そんなデスザラスに向け、今度はシグナムとスターセイバーが斬りかかるが――
「剣など――近づかせなければこちらのものよ!」
対してデスザラスは口から吐き放った熱線で応戦。直撃を受け、シグナムとスターセイバーが大地に叩きつけられる!
「スターセイバー、シグナム!」
あわててギャラクシーコンボイが駆け寄るが、その間にデスザラスは再びパンゲアを目指し、残るブレイズリンクスと知佳がその後を追う。
「すまない、スターセイバー……!」
「気にするな。
それより、今はヤツを!」
「待つんだ! その身体では!」
とっさに制止の声を上げるギャラクシーコンボイだが、スターセイバーはビークルモードにトランスフォーム。同じく立ち直ったシグナムを乗せてデスザラスを追う。
「く………………っ!」
またしても止められなかった――自分の無力を痛感し、ギャラクシーコンボイはもはや彼らを追う気力も失っていた。立ち上がることもできず、その場に崩れ落ちてしまう。
もちろん、スターセイバー達に悪気はない。ただギャラクシーコンボイの力になりたいという想いから動いているにすぎない――だが、今のギャラクシーコンボイには、その信頼すらもそれを裏切ってしまったという罪の意識をもたらすものでしかなかった。
「ギャラクシーコンボイさん、かわいそう……」
《うん……
気持ちばっかり空回りしてて……余裕がぜんぜんなくなっちゃってる……》
そんなギャラクシーコンボイを案じるなのはとプリムラだが、落ち込むギャラクシーコンボイの姿があまりにも痛々しくて、つい声をかけるのをためらってしまう。
「こうしてる間に、デスザラスさんは……」
「てめぇ……メガロコンボイ!」
「もうやめろ、メトロタイタン!
こんなことをして何になる!」
背後からの一撃を受け、まともに地面に突っ込んだ――身を起こし、うめくメトロタイタンに、メガロコンボイはメガロアックスを突きつけてそう告げる。
「てめぇこそ何考えてんだ!
よそ者なんかとつるみやがって――そいつらがネコかぶってるだけで、プラネットXのヤツらだったらどーすんだ!」
「誰でも彼でもそうやって疑ってかかっていても、いたずらに敵を増やすだけだとどうしてわからない!」
「うるせぇ!
敵がどれだけいようと知ったことか! オレはギガロニアを守る――それだけだ!」
「それがダメだって言ってんだ!」
立ち上がり、言い放つメトロタイタンの言葉に、メガロコンボイもまた毅然と言い返す。
そして、自分の胸元に――そのライドスペースに座るリンディへと視線を向け、
「もう、ことはギガロニアだけの問題じゃないんだ!
オレ達の祖先の故郷、セイバートロン星のある宇宙が、グランドブラックホールに飲み込まれようとしてる――そんなことになれば、時空トンネルでつながってるこっちの宇宙だって、どんな影響が出るかわからないんだ!
ギガロニアだ、よその星だって言ってる場合じゃない――今は生まれの星なんかにこだわってないで、みんなで力を合わせないといけないんだ!」
「――――――っ!」
メガロコンボイの言葉に、二人の対峙に圧されて傍観していたモールダイブは思わず息を呑んだ。
『なら、何がしたいと言うんだ? 貴様は』
『貴様はやはり甘ちゃんだ。ただ指図されるのがイヤで逆らってるだけの、反抗期のクソガキだということだ』
『オレはギガロニアを守る――それだけだ』
『今は生まれの星なんかにこだわってないで、みんなで力を合わせないといけないんだ!』
メトロタイタンの、メガロコンボイの言葉が脳裏をグルグルと駆け巡る。
「オレは……何がしたかったんだ……!」
答えの出せない自分が、とてもちっぽけに思えた。
「グオォォォォォッ!」
「ぅわぁっ!」
咆哮し、ダイナザウラーの吐き放った熱線の直撃を受け、プレダキングが吹き飛ばされる。
「おいおい、合体戦士最強のプレダキングが、まるで子供扱いじゃねぇか!」
「やられるつもりはないが……あんなデカブツ相手じゃジリ貧だぞ!」
彼我の体格差、重量差は、両者の実力差をひっくり返すには十分すぎる――思わず舌打ちするソニックボンバーにニトロコンボイが同意すると、ダイナザウラーは今度はそんな彼らに標的を変更する。
「くるぞ!」
クロノが叫ぶと同時、ダイナザウラーは口を開き――
『ダイノ、ブラスター!』
咆哮と共に、放たれた閃光がダイナザウラーの背中を叩く。
そして――
「恐竜戦士同士、オレが相手になるぞ!」
そう告げて、ダイナザウラーの前に立ちふさがったのは、都古を連れたダイリュウジンだ。
「ダイリュウジン!? 都古ちゃん!?」
「彼らがここに現れたということは――」
思わず声を上げ、耕介とニトロコンボイは周囲を見回し――
『アフターバーナー、キャノン!』
上空から、フォースチップをイグニッションしたスペリオンと薫が砲撃を仕掛け、
「しっかりつかまっていろよ――みなみ!」
「はい!」
みなみの答えと同時、飛び込んできたロードシーザーがダイナザウラーのこめかみに体当たり。頭脳回路を揺さぶられ、さすがのダイナザウラーもたたらを踏んで後退する。
そして仕上げは――
『紅蓮――大文字!』
レールレーサーとシエルだ。二人の放った炎の刃の直撃を受け、ダイナザウラーはついに転倒する。
「やれやれ、ようやくご到着か?」
「ま、助かったけどさ」
「待たせてしまったようで、すまなかったな」
「耕介さん、みんな!
一気に叩きましょう!」
声をかけるソニックボンバーにスペリオンが答え、薫が一同を鼓舞し――そんな彼らの前で、ダイナザウラーは再び立ち上がり、こちらに怒りに満ちた視線を向け、渾身の熱線を吐き放つ。
当然一同はそれを回避し、熱線は大地を深々と抉っていき――
「じゃじゃーんっ♪」
「スピーディア暴走コンビ、しぶとく復活!」
『って、ぎゃあぁぁぁぁぁっ!』
ようやく追いついてきたアームバレットとガスケットが巻き添えを受け、薙ぎ払われた。
「オラァっ!」
咆哮し、腕を振り下ろすと同時に勢いよくロケットパンチを発射――遠心力を存分に加えたメトロタイタンの拳は、飛びのいたメガロコンボイのいた場所を深々とえぐる。
「くそっ、やりたい放題だな!」
「それがオレの、戦い方だぁっ!」
うめくメガロコンボイに答え、メトロタイタンは全身の火器を斉射する――先の攻防と同様に、腕を回収するまでの間、メガロコンボイ達を近づかせないつもりだ。
砲撃は一斉にメガロコンボイに迫り――
「させるか!」
それを阻んだのはメガザラックだ。カートリッジをロードしたブリューナクで魔力を増幅、巨大なパンツァーシルトを展開し、メトロタイタンの攻撃からその場の全員をガードする。
「どうする、メガロコンボイとやら!」
「今のオレにできるのは、真っ向勝負だけだよ!」
すぐとなりに着地し、尋ねるメガザラックに答え、メガロコンボイはメガロアックスをかまえる。
「そっちはどうなんだ? 魔法使いさん達よ!」
「オレは騎士、アリシアは魔導師だ。誤解を招く言い回しはよせ」
メガロコンボイに答えると、メガザラックはパンツァーシルトを支えているブリューナクを握り直し、
「できれば一斉攻撃で一気に決めたいが……」
「ヤツの弾幕が相手じゃ、攻撃が届く前にこっちの半分は攻撃をつぶされるぞ」
「やれやれ、ジリ貧か」
うめくメガザラックだが、状況が思わしくないのは事実だ。ブリューナクにロードされた魔力が尽きる前に次の手を考えなければ、メトロタイタンの砲撃はメガザラックのパンツァーシルトを突き破り、こちらに降り注ぐことになる。
「どうする? チビスケ、晶」
「どうするって言われても……
ボクの“風”の魔法じゃ、あれだけの砲撃を一斉に逸らすことはできないし……!」
「こっちもアイデアなし。
なんとかスピードでかき回してブッ飛ばしたいところだけど、それだと一番スピードのないメガロコンボイの旦那がハチの巣になっちまうし……!」
尋ねるブリッツクラッカーだが、キングコンボイと晶の答えも芳しくない。
このまま、打つ手もなく終わる――かに見えたその時、事態は突如として急変した。
「な、なんだぁ!?」
驚愕の声を上げるメトロタイタンの足元の岩盤が、突如としてひっくり返ったのだ。
いきなりの異変に対応できず、メトロタイタンは仰向けにひっくり返り――その足元の地面が突然盛り上がり、
「へっ、ざまぁみやがれ!」
言って、姿を現したのはモールダイブだ。さらに――
「おい、お前ら!
お連れさんはこっちだぜ!」
言って、インチプレッシャーがダークニトロコンボイ達や桃子達を引き連れて合流する。
「お前ら、どうして……?」
「ンなの決まってんだろ!
マスターガルバトロン様がどっか行っちまった以上、アイツをブッ倒すにはオレ達全員でかかるしかないっての!」
うめくブリッツクラッカーにインチプレッシャーが答えると、
「モールダイブ、てめぇ、ザコのクセに……!」
怒りの声と共に、メトロタイタンはゆっくりと身を起こした。
だが、モールダイブも負けてはいない。真っ向からメトロタイタンをにらみ返し、言い放つ。
「メトロタイタン……お前言ったよな? 『何がしたいんだ?』ってさ。
悪いけど、オレには先のことなんか見えないからな。その質問には答えられねぇが……」
そこで一度息をつき――ハッキリと告げる。
「それでも、お前に任せてたら後々えらいことになりそうなのはわかる。
止めさせてもらうぜ――ウチのボス達と一緒にな!」
「モールダイブ、お前……!」
「すまない、ボス。
オレが間違ってた……!」
うめくメガロコンボイに答え、モールダイブは改めて彼と正面から向き合う。
「桃子が言ってた。 『マスターガルバトロンは、デスザラスと戦った時にオレを見捨てなかった』って……
マスターガルバトロンは確かに自己中だけど、そんなアイツだって、自分の部下だと決めたヤツらは見捨てない。だからこそ、インチプレッシャー達がついていく。
自分のことばかり考えて、やりたいことしかやらなくて、それで一人前になんかなれない――そのことに、もっと早く気づくべきだったんだ」
そう告げると、モールダイブはメトロタイタンに向き直り、
「メトロタイタン。誰も信じないで、ずっとひとりでこの星を守ってきたお前にはわからないことだろうな。
だから――わからせてやる! 力を合わせた、ザコの底力ってヤツをな!」
「そうだな。
力を合わせて、この星を――宇宙を救うんだ!」
モールダイブの言葉にうなずき、メガロコンボイはメガザラックへと向き直り、
「ここはオレとモールダイブが引き受ける。
メガザラック、みんなを連れて、プラネットフォースの元へ」
「メガロコンボイ!?」
「こいつに、プラネットフォースは渡せない――もちろん、デスザラスやマスターガルバトロンにも!
お前らは先に行って、プラネットフォースを!」
驚くキングコンボイに答え、メガロコンボイはメトロタイタンと対峙する。
「で、でも……」
「…………行こう、キングコンボイ」
それでもなお納得できないでいるキングコンボイに、アリシアは諭すようにそう告げる。
「デスザラスが来たっていうことは、ビッグコンボイが危ないよ。
早くはやてちゃんと合流して、リインちゃんと会わせてあげないと……!」
「……そうだね。急ごう」
アリシアの言葉にキングコンボイがようやくうなずくと、ブリッツクラッカーはインチプレッシャーやダークニトロコンボイ、ダークファングウルフへと向き直り、
「お前らはいいのか?
オレ達、これからマスターガルバトロン様のジャマしに行くんだけど」
「ま、なるようになるさ。
どっちみち、ダークニトロコンボイ達はマスターガルバトロン様がいないと何にもしないし。さっさと追いつかせてやらねぇと」
対し、インチプレッシャーはのんきなものだ。肩をすくめ、自嘲気味にそう答える。
「じゃあ……メガロコンボイ、ここはお願い!」
「引き受けた!」
告げるキングコンボイの言葉にメガロコンボイが答え――メガザラック達は一路、パンゲアへと移動を開始した。
「私は、私は……!」
「ギャラクシーコンボイ、しっかりしてくれ!」
力なくうつむき、うめくギャラクシーコンボイに駆け寄り、ベクタープライムは懸命に彼に呼びかけた。
「キミがしっかりしなければ、みんなが!」
「わかっている。だが……!」
ベクタープライムに答えると、ギャラクシーコンボイは再びうつむき、
「私のせいなんだ……!
プラネットフォース探しも大事だが、そのために部下を危険な目にあわせてしまったのは、誰のせいでもない……私の、ミスだ……!」
「だ、誰もそんなこと思ってないですよ!」
《そうだよ!
バンガードチームのみんなだって、ギャラクシーコンボイのことを信頼していたから!》
「いや……それは間違いだ」
なのはやプリムラも説得に加わるが、それでもギャラクシーコンボイは首を左右に振り、
「思い出してくれ……地球で初めて、まだスカイクェイクだった頃のデスザラスと戦った時のことを……
あの時、私は彼らに大怪我を負わせてしまった……!
転生したから良かったが、そうでなければ……!」
「あ、あれはギャラクシーコンボイさんが悪いワケじゃないよ!」
「いや、私のせいだ!
明らかに格上だったヤツを前にしながらも、バンガードチームのみんなを下がらせなかった。その結果、彼らは……!」
なのはの懸命の訴えも、ギャラクシーコンボイには届かない――今のギャラクシーコンボイは、彼の信頼に応えようとする仲間達の想いすら重荷に感じている状態だ。何を言っても、むしろ彼を追い詰めてしまうだけだ。
「そしてまた、私は同じことを繰り返してしまった……!
あの時から、私は何ひとつ変わっていない……! そんな私が、今さらリーダーなど……!」
「哀れだな、ギャラクシーコンボイ」
『――――――っ!?』
告げられたその声は、今までこの場にいなかったはずの人物のもの――思わずなのは達は声をした方向へと振り向き――なのはは呆然とつぶやいた。
「マスター……ガルバトロンさん……!?」
しかし、マスターガルバトロンはなのはにかまわず着地。ギャラクシーコンボイへと歩み寄り――
「目を覚まさんか……
この……バカモノがぁっ!」
咆哮するなり、すくい上げるかのように放たれた拳がギャラクシーコンボイを殴り飛ばす!
「貴様……いつからそんな腑抜けになった!?
このオレに幾度となくヒザをつかせた男は……その程度の男だったのか!?」
そして、マスターガルバトロンはギャラクシーコンボイの目の前で仁王立ちし、
「さっきから聞いていれば、女々しいことをグチグチと……!
ならば貴様は、危ないことは部下に任せず、すべて自分でやるとでも言うつもりか!?」
「いや……そういうワケじゃ……!」
「ならばどういうワケだ!?」
立ち上がり、うめくギャラクシーコンボイに言い放ち、マスターガルバトロンはさらに彼を殴り倒す。
「結局、貴様は部下を信用していないのだ!」
「違う! 信頼はしている!」
「ウソをつくな! 貴様は信頼などしていない!」
反論するギャラクシーコンボイに、マスターガルバトロンは鋭く言い放った。
「オレにとって部下は道具も同然だ――だが、それでも使える以上遠慮なく使う。
だが、今の貴様はどうだ? 今の貴様にとって、仲間は道具どころか、ただのお荷物も同然ではないか。
今の貴様など、オレには遠く及ばん――貴様らサイバトロンがオレを最低だと罵るのなら、貴様はそれ以下のクズだ!」
「マスターガルバトロンさん!
いくらなんでも言いすぎです!」
言い放つマスターガルバトロンに抗議の声を上げるなのはだったが――
「貴様は黙っていろ!」
鋭く切り返してきたマスターガルバトロンの言葉に思わず黙り込んだ。
何と言うか――いつもの彼と違った。
全身が怒りに満ちあふれている――だが、その怒りの空気がいつもと違う。
今まで彼が怒りをあらわにする時は、どちらかと言えば感情的なものが色濃く出ていた。だが――今の彼を突き動かしている怒りは、そういったものとは趣が違った。
己に誇りを持つ者の――自身の在り方のようなものに突き動かされている類の怒りだった。
「いいか、ギャラクシーコンボイ。
このオレ様でさえミスはある――ミスをしない完璧な戦士ならば、とうの昔に貴様らからプラネットフォースを奪い取っていたはずだからな」
その口から放たれるのは、彼を知る者からすれば信じられない言葉――あの超絶的なまでに自分至上主義であるマスターガルバトロンが、己のミスを、ひいては今までの自らの敗北を認めたのだ。
だが――なのはは不思議とその言葉に違和感を感じない自分を自覚していた。
確かにマスターガルバトロンは極端なまでの自分至上主義だが、同時に自分の目にしたもの、自分の体験したことしか信じない、強烈なリアリストでもある――表に出すことがなかっただけで、自分の今までの敗北はくつがえせない事実として彼の心の中に刻まれていたのだろう。
「オレでさえそうなんだ。ビッグコンボイからリーダーを継いで日の浅い貴様ごときがミスを避けられるものか。
だがな――貴様がそう思っているのと、部下がどう思っているのかは別問題だ。被害にあった部下から文句を言われて、そこで初めて自分のミスを認めればいい。
――だが!」
言って、マスターガルバトロンはギャラクシーコンボイの胸倉をつかみ上げ、
「貴様は今、部下に言われる前に自分の判断が半端だったとほざいたんだぞ!
『これなら勝てる』という言葉の前に『多分』がつくような指揮に、部下が命を預けられるのか!
指揮官というものは常に勝つための指揮を執るものだろう! 勝てない指揮を執るヤツなどいないだろうが!
貴様もリーダーなら――常に『自分の指揮は完璧だ』とほざいてみろ!」
まくし立てるマスターガルバトロンの言葉に、なのは達は思わず言葉を失った。
そして――同時に気づく。
マスターガルバトロンは確かに部下を道具としてしか見ていない――だが、それは別の言い方をするならば『道具である以上使えない者には用がない』ということでもある。
だとすれば――マスターガルバトロンは使えると判断したからこそ、今の部下達を連れていることになる。
使える者だからこそ、部下として支配下に置く――たとえ道具としてのそれであっても、マスターガルバトロンは今の部下達の実力に絶対の信頼を置いている。使えない部下ならば、すでに彼自身がお払い箱にしているはずなのだから。
そこにいるマスターガルバトロンは、“宿敵”の姿ではなかった。
リーダーとしての方針は違えど、ギャラクシーコンボイと同じ“本物のプロ”の姿だった。
と――
《ギャラクシーコンボイさん、なの姉……
今回ばっかりは、わたしもマスターガルバトロンさんが正しいと思うよ》
そんなギャラクシーコンボイやなのはに告げたのはプリムラだった。
《すずか姉達がバンガードチームと一緒にデスザラスと戦ったのは、みんななりに考えたからだよ。
なのに、負けちゃったからってそれをつべこべ言っちゃ、みんなの判断を否定することになる――それこそ、バンガードチームのことを信じてないってことじゃない》
「――――――っ!?」
プリムラのその言葉に、ギャラクシーコンボイは思わず息を詰まらせた。
「信じてよいのだ……いや、信じよう!」
そして、ベクタープライムもまた、ギャラクシーコンボイの手を取ってそう告げる。
「この私から見ても、お前の部下は――そしてお前の元に集った仲間達は、皆頼もしい者達ばかりだ。
みんなを信じろ! 自分を信じるのだ!
そして――」
言って、ベクタープライムはなのはへと視線を向け、
「キミを一番近くで支えてくれる、パートナーを信じるのだ」
「なのはを……信じる……」
ベクタープライムの言葉に、ギャラクシーコンボイはなのはへと向き直り、
「…………信じて……いいのか……?」
「もちろんです!」
《わたしもね!
一緒に戦おう、ギャラクシーコンボイ!》
なのはとプリムラが元気に答え、ギャラクシーコンボイの表情にもようやく安堵の色が戻った。
「フンッ、立ち直ったようだな……」
そんなギャラクシーコンボイの姿に、マスターガルバトロンは不敵な笑みと共にうなずき、
「ありがとうございます、マスターガルバトロンさん」
「貴様らのためじゃない。
このまま決着をつけられずに終わるのが不愉快なだけだ」
一礼し、礼を言うなのはに対し、マスターガルバトロンは「フンッ」と鼻を鳴らしながらそう答える。
「オレが倒したいのは貴様らではない――貴様らの持つ“絆の力”だ。
部下との絆を失った貴様らに勝っても、それはオレの力が勝ったことにはならんということだ。
トランスフォーム!」
なのはにそれだけ告げると、マスターガルバトロンはメガジェットモードへとトランスフォームし、パンゲアめがけて飛び去っていく。
それを見送ると、ギャラクシーコンボイはなのはに告げた。
「よし、マスターガルバトロン、デスザラスを追うぞ!
力を貸してくれ、なのは!」
「はい!」
「死ねぇっ! フレイムコンボイ!」
「く………………っ!」
最下層に舞台を移しても、二人の死闘は続く――ビーストモードで襲いかかるギガストームの突進を、フレイムコンボイは真横に跳んで回避する。
「どうしたどうした、フレイムコンボイ!
逃げてばかりでは、このオレには勝てんぞ!」
「うるさい!」
ギガストームに言い返すフレイムコンボイだが――状況が劣勢なのは誰の目にも明らかだ。烈火のごとく激しい猛攻を繰り出すギガストームを前に、フレイムコンボイはなかなか反撃の糸口をつかめないでいた。
だが――逆転の目はあった。
(この状況を覆す方法はひとつ――!)
そのわずかな目を逃すワケにはいかない。そしてそれを気取られるワケにもいかない。もし気づかれれば、ギガストームは“そこ”に到達する前にこちらを叩きつぶしにくるだろう。
(やれやれ……まさか、“ヤツ”に気づかされるとはな……)
その逆転の目を見出したきっかけを思い出し、フレイムコンボイは内心で苦笑した。
きっかけは、状況を確認しようとオープンで開いた通信回線から聞こえてきた会話――
(確かに、オレは貴様とは違う。
オレ達は部下を、仲間を信じてナンボのコンボイだ――たとえオレ自身がケリをつけるべき問題でも、そのケリのために力を貸してくれる仲間がオレにはいる。
そうだろう? マスターガルバトロン)
ギガストームの牙をかわし、フレイムコンボイは再び目的地へと跳ぶ。
ギガロニアのプラネットフォースの眠る地――パンゲアは、すでに視界に入っていた。
「ビッグコンボイ……どこにいるんだろ……」
「とにかく、パンゲアに行ってみようぜ!
そこにいなくても、アイツならその内やって来るって!」
ビークルモードで地上を疾走するジャックプライムに、ブリッツクラッカーは上空を飛翔しながらそう答える。
メトロタイタンをメガロコンボイ達に任せ、ビッグコンボイとの合流を急ぐ彼らだったが――肝心のビッグコンボイの居場所がわからないというのは誤算だった。
とにかく、全員の最終目的地であるパンゲアに向かおうとした彼らだったが――
「ジャックプライムーっ!」
「フェイト!?」
上空から聞こえてきた声にジャックプライムが停車すると、そんな彼の元に、上空からフェイトが舞い降りてきた。
そして、後に続くのは――
「ダイアトラス? それにブロードキャスト……じゃあ、ザッフィーとアイリーンさんも一緒?
恭也さん達は?」
「先にスターシップに向かってる。
わたしは『先にジャックプライムと合流しろ』って言われて……そしたら、ダイアトラス達と出会ったの」
ロボットモードにトランスフォームし、尋ねるジャックプライムにフェイトが答えると、
「フェイトぉ〜っ♪」
「あ、アリシア!?」
そんな彼女に飛びついてきたのはアリシアだ。待ちに待った妹との再会に、満面の笑みと共にフェイトに頬ずりする。
大喜びのアリシアの様子に苦笑しつつ、メガザラックはダイアトラスへと向き直り、
「ダイアトラス、ブロードキャスト……
聞けばお前らは、ビッグコンボイと同じチームだったはず……ヤツはどうした?」
「別行動中」
「デスザラスとの決着に備え、我らに主はやてを預けて……」
「え? じゃあ……はやてもいるの?」
「うん。ここにおるよ」
ダイアトラスとザフィーラの答えにつぶやくジャックプライムに告げ、はやてはダイアトラスに車椅子ごと降ろしてもらう。
「そうか……ちょうどよかった。
アリシア」
「うん。
リインちゃん、出ておいで♪」
《はいなのです!》
そんな彼らのやり取りに、告げるメガザラックの言葉にうなずくと、アリシアはリインフォースに呼びかけ、実体化してもらう。
「ほえぇ〜、その子が新しいリインフォースなん?」
《はいなのです!
よろしくおねがいします、マイスターはやて!》
ようやくの対面に顔をほころばせるはやてに答え、リインフォースは元気に一礼し――
《………………あ、あれ?》
気づいた。自らの頬を流れる水分の筋に、思わず戸惑いの声を上げる。
《お、おかしいのです……
悲しくないのに、なんで、涙が……?》
突然のことに戸惑い、あわてるリインフォースだが――
「……えぇよ、リインフォース」
そんな彼女を、はやては優しく抱きしめた。
「それは、別におかしいことなんかやない。
安心してえぇよ……!」
リインフォースの涙の正体には察しがついたが――それを告げるのは野暮と言うものだろう。はやては優しくリインフォースに言い聞かせ――
「――――感動の対面のところを悪いんだが」
そんな彼女達に告げたのはメガザラックだった。
「ビッグコンボイは、ひとりでデスザラスと戦うつもりではないのだろう?」
「あ、はい……
私に『リインとの合流を優先しろ』としか言ってませんから、たぶん……」
「なら、早くヤツと合流するぞ。
このままでは、ヤツは本当にひとりでデスザラスと戦うことになる」
『了解!』
《なのです!》
「見えたぞ――あれがこの星のスターシップか!」
パートナーと共にこちらを追ってくるブレイズリンクスやスターセイバー、ビクトリーレオの追跡をかわし、デスザラスはついにパンゲアの上空へと到着した。
すぐそばでニトロコンボイ達がダイナザウラーと戦っているが――競争相手がつぶしあっているのをわざわざ邪魔することもない。ビーストモードのままパンゲアの甲板に降り立ち、熱線で甲板の一角を破壊。内部に突入する。
「いかん!
デスザラスが、スターシップの中に!」
「追うぞ!」
そんなデスザラスの動きを見て、ブレイズリンクスとスターセイバーが声を上げるが、
「グァオォォォォォッ!」
そんな彼らにダイナザウラーが気づいた。熱線を吐きかけ、彼らの行く手を阻んでしまう。
「くそ、ジャマすんな!」
舌打ちに、シュワルベフリーゲンを放つヴィータだが、ダイナザウラーの巨体の前にはビクともしない。
「く………………っ!
スターセイバー!」
「わかっている!」
シグナムに答えると、スターセイバーはビクトリーレオと顔を見合わせ、
『リンクアップ!』
咆哮、合体し――ビクトリーセイバーとなってダイナザウラーと対峙した。
そして――
「…………見つけた!」
突入したのはスターシップの中枢部――アトランティスの時はチップスクェアが安置されていた場所で静かに輝くプラネットフォースを発見し、デスザラスは会心の笑みを浮かべる。
そのまま、ギガロニアのプラネットフォースへと飛びかかり――
「ビッグキャノン――GO!」
突如、床下から閃光が吹き出した。デスザラスをまともに直撃し、その身体を天井へと叩きつける!
「何だ!?」
うめき、体勢を立て直すデスザラスだが――
「やれやれ……まっとうに船内に入ったオレが迷わされて、強行突入したお前がビンゴとはな……」
そんな彼に告げ、ビッグコンボイは床に開いた穴の中からにその姿を現した。
「やるぜ――リンディ!」
「えぇ!」
告げるメガロコンボイにリンディが答え――
『フォースチップ、イグニッション!』
メガロコンボイのイグニッションをリンディがサポート。より強大な力を解放しつつ、フォースチップの飛び込んだメガロアックスが展開される。
そして、メガロコンボイはメガロアックスを振りかぶり――
『メガロ、ブーメラン!』
投げつけたメガロブーメランが飛来する砲火を薙ぎ払い、メトロタイタンの胸元を痛打する。
「く………………っ!」
強烈な一撃に、メトロタイタンは思わずたたらを踏み――
「まだまだぁっ!」
そんな彼にモールダイブが体当たり。まともにくらい、メトロタイタンはまともにひっくり返る。
「今だ!
メガロ、クラッシュ!」
一気に勝負を決める――咆哮し、倒れたメトロタイタンへと飛びかかるメガロコンボイだが、
「させるかよ!」
そんな彼に、メトロタイタンは全身の火器を斉射。強烈なカウンターをお見舞いする!
「メガロコンボイ!」
その姿に思わずモールダイブが声を上げ――
「てめぇもブッ飛べ!」
そんな彼を、立ち上がったメトロタイタンが蹴り飛ばす!
「くそ…………っ!」
うめき、立ち上がろうとするメガロコンボイだが――
「おっと、そこまでだ」
言って、メトロタイタンは彼やモールダイブに向けて両腕を――そこに満載された火器を向ける。
「いろいろとやってくれたが……ここまでだ。
所詮、街ばっかり作ってたお前らと星を守るために戦い続けてきたオレとじゃ、戦士としての格が違うんだよ!」
言い放ち、メトロタイタンは全砲門にエネルギーをチャージし――
「――――――っ!?」
そんな彼の前に立ちふさがった者がいた。
メガロコンボイのパートナーマイクロン、ホリブルと、モールダイブのパートナーマイクロン、ブルブルだ――それぞれのパートナーを守るように、メトロタイタンの前に立ちはだかる。
「お前ら……何のマネだ?
お前らの妨害ごとき、オレの砲火の前じゃ……」
言いかけるメトロタイタンだが――次の瞬間、彼はさらに驚愕した。
なんと、両肩の砲座に座っていた彼のマイクロン、ガルブルとギルブルまでもが彼の元を離れ、ホリブル達に加わったからだ。
「お、お前らまで……!」
うめくメトロタイタンに対し、マイクロン達は身振り手振りでメトロタイタンを説得しようとする。
「もうやめろ……って、言うのか……?」
彼らの意図を悟り、メトロタイタンは思わずうめき――
「ざけんな!
ここまでやられて、黙ってられるか!」
対し、怒りの声を上げたのはモールダイブだ。立ち上がるなりメトロタイタンにつかみかかろうとするが――そんな彼に対してはブルブルが動いた。すぐにモールダイブの方に向き直り、彼を制止する。
と――
「みんな、いいパートナーを持ったみたいですね」
そんな彼らに、メガロコンボイのライドスペースから降りてきたリンディが告げた。ホリブル達の列に加わり、続ける。
「どういうことだ?」
「戦いに、仕事に協力するだけが、パートナーじゃないということです。
時には、道を間違えた相方に正しい道を教えてあげるのも、パートナーの役目なんです」
メトロタイタンに答えるリンディの言葉にホリブルやブルブルがうなずき、ガルブルとギルブルはさらに一歩踏み出し、メトロタイタンに向けて両手を振り回してメッセージを伝える。
「さっき、メガロコンボイが言ったでしょう?
今はギガロニアだけにこだわっている時じゃないんです……ギガロニアを守るために、宇宙全体を守るために戦わなければならない時です。
なのに、ここでギガロニアのトランスフォーマー同士が争っても意味がない――この子達は、それをわかってもらいたいんじゃないかしら?」
そのリンディの言葉に、メトロタイタンとメガロコンボイは気まずそうに顔を見合わせる。
「今さら……協力なんてできるのか? オレ達が……」
「できるさ。きっとな。
これまでのことは水に流して、また一緒にがんばろう。
このギガロニアを――宇宙を守るために」
うめくメトロタイタンに答え、メガロコンボイは彼に向けて右手を差し出した。
「さぁ、握手だ」
「…………いいだろう。
せいぜい足手まといにならないようにがんばれよ」
言って、メトロタイタンは不敵な笑みを浮かべてメガロコンボイと握手を交わし――そんな彼らを前に、リンディはモールダイブへと向き直り、
「さぁ、モールダイブも」
「オレも握手しろってか?
残念だがそいつはムリだね」
そう答えるとモールダイブは全体がドリルユニットである自らの両腕を見せ、告げた。
「手……ないんだけど、オレ」
「ぐわぁっ!」
とうとう、かわしきれずに一撃を受けた――ビーストモードのギガストームの尾で打ち据えられ、フレイムコンボイは大地に叩きつけられた。
「ようやくつかまえたぞ。
まったく、ノラリクラリと逃げ回りおって……」
告げて、ギガストームはフレイムコンボイを踏みつけ、
「これで決着だ――
貴様を討ち、オレは父の仇を討つ!
そして、アニマトロスのリーダーとなる!」
「フンッ、貴様にアニマトロスのリーダーが務まるものか!」
「ほざけ!」
フレイムコンボイの言葉に、ギガストームは思い切り彼を蹴り飛ばす。
「そんなザマで何をほざく。
貴様の敗北はすでに決まっているんだ――いいかげん観念しろ!」
「そうは、いかんな……!」
ギガストームに答え、フレイムコンボイはゆっくりと身を起こした。
「悪いが、見てしまったんでな。
幾度吹き飛ばされようと、そのたびに立ち上がり――ついには一級の戦士に成長したヤツをな」
言って、フレイムコンボイはフレイムアックスをかまえ、
「あ奴の姿を見てしまった手前、格上のオレが情けない姿を見せるワケにはいかんのだ!」
「フンッ、だからどうした!
貴様ひとりで――今さら何ができる!」
言い返し、ギガストームはフレイムコンボイへと襲いかかり――
「残念だが――」
「ヤツはひとりじゃない!」
咆哮が交錯、次いで衝撃――突然の一撃が、ギガストームを吹き飛ばす!
そして――大地に叩きつけられたギガストームの前に着地したのはシックスナイトとブレインストーム、そして美沙斗とレンだ。
「大丈夫か!? フレイムコンボイ!」
「まったく、ずいぶんとやられたようね」
そして、フレイムコンボイの元に駆けつけたのはオートボルト――ビークルモードの彼から降り、恭也はエリスと共にフレイムコンボイに告げる。
「き、貴様ら……!」
「どうやら、形勢逆転のようだな。
いくら貴様でも、今この状態でこのメンツを相手にしては分が悪かろう」
立ち上がり、うめくギガストームに対し、フレイムコンボイもまた立ち上がって告げる。
「貴様、どういうつもりだ!?
これはオレと貴様の問題――オレ達だけでケリをつけなければならんはずだ!」
「そう――確かにコレはオレ達の問題だ。
だからこそ、オレはオレひとりの手で決着をつけようと、ひとりでお前と戦った。
だが……」
言って、フレイムコンボイは傍らの相棒――恭也へと視線を落とし、
「それは間違いだった。
オレには仲間ができた……そして仲間とは、楽しみも困難も、時には責任も分け合える、かけがえのない半身なのだ。
オレの問題だからと言って、オレひとりで抱え込まなければならないワケではなかったのだ」
その言葉に、恭也は満足げにうなずいてみせる――その姿を前に、フレイムコンボイは改めてギガストームをにらみつけ、
「ギガストーム……貴様の父を討ったのは確かにオレだ。恨みたければ恨むがいい。
だが――オレは何があろうと負けるワケにはいかん。
アニマトロスの民のため――そして、こいつらの仲間として!」
「ぬかせぇっ!」
フレイムコンボイに言い返し、突撃するギガストームだが――
『フォースチップ、イグニッション!』
咆哮と共に多数のフォースチップが飛来。そして――
『フォース、ミサイル!』
『ストーム、ブラスター!』
オートボルトとエリス、ブレインストームとレンの放った一撃がギガストームに降り注ぐ。
『ナイトキャリヴァー、スパイラルクラッシュ!』
続いて、シックスナイトと美沙斗の刺突がギガストームを打ち据え、ブッ飛ばす!
「ぐぅ………………っ!
こんな、もので、このオレが……!」
うめきながらもなんとか踏みとどまるギガストームだが、その足はやはりおぼつかなくて――
「これで終わりだ、ギガストーム!」
そんな、フラフラのギガストームの前に、両肩の竜の首を展開したフレイムコンボイが恭也と共に立ちふさがる。
そして――
『デスフレイム――ブラストショット!』
放たれたデスフレイムは火球となってギガストームを直撃――大爆発と共にギガストームを吹き飛ばす!
「…………思い知るがいい、ギガストーム。
それが――怒りや憎しみを越えた、絆の力だ」
告げて、フレイムコンボイは仲間達の元へときびすを返し――意識を刈り取られたギガストームが、独り大地に落下した。
「フォースチップ、イグニッション!
デス、テイラー!」
咆哮と共にフォースチップをイグニッション。デステイラーを装着し、デスザラスは素早くビッグコンボイに肉迫する。
対し、両腕にマンモスハーケンをかまえて迎え撃つビッグコンボイだが――やはりパワーや獲物の差は歴然だ。重量級であるビッグコンボイをもってしてもその猛攻の前には後退を余儀なくされ、マンモスハーケンにも刃こぼれが次々に刻まれていく。
「覚悟しろ――ビッグコンボイ!
貴様を討ち、オレは己の武を取り戻す!」
「己の武、か……」
宣言するデスザラスの言葉に、ビッグコンボイはボロボロのマンモスハーケンを放り出し、代わりにマンモストンファーを装備する。
「ならば聞こう。
お前はその“己の武”とやらを取り戻して、どうするつもりだ?」
「知れたこと……
立ちふさがる者すべてを打ち倒し、最強の戦士として全宇宙に君臨する!
地球で人間達から隠れ住むようなことは必要ない! トランスフォーマーこそがこの宇宙でもっとも優れた種なのだから!
オレは――トランスフォーマーを頂点とする世界を作り出す! そして、その頂点に立ち、すべてを手に入れる!」
だが――
「…………ククク……」
その答えに、ビッグコンボイは思わず笑い声をもらしていた。
「何がおかしい!?」
「いやな……貴様ができもしないことをほざくから、おかしくてつい、な」
デスザラスに答え、ビッグコンボイは笑いを抑えてデスザラスに告げた。
「オレも昔は“一人軍隊”と呼ばれ、サイバトロンの一員として最強の座に君臨していた。
だがな――それは同時に、孤独を伴うものでしかなかった。最強であるがゆえに、それは他の者達との間に見えない溝を作り出していた。
最強の存在など、所詮組織とは相容れん存在だ。しかし貴様はそんな中で社会という組織の頂点に立とうとしている――これがこっけいでなくて何だと言うんだ」
「何を…………っ!?」
ビッグコンボイの言葉に、デスザラスの言葉に怒りが宿る。
「世界の頂点に立つなど、貴様にとってはただの口実だ。
貴様は他のヤツらより弱いのが許せないだけだ。だからすべてを打ち倒し、その頂点に立ちたいだけなんだ。
所詮、貴様はただ人の上であぐらをかきたいだけの、お山の大将なんだよ!」
「ほざくな!」
ビッグコンボイに言い返し――デスザラスが動いた。素早く間合いを詰め、ガードの上からビッグコンボイを弾き飛ばす!
そして、倒れるビッグコンボイをデスザラスは思い切り踏みつけ、
「オレがお山の大将だと……?
ならば、そのお山の大将にも勝てない貴様は何だ?
そんなデカい口は、このオレを倒してからほざいてもらおうか!」
言って、トドメの一撃を振り下ろそうとデステイラーを振りかぶり――
「そうは――」
「させるかぁっ!」
咆哮と共に衝撃が襲いかかった――志貴とドレッドバスターが真横から体当たり。デスザラスはたまらず吹き飛ばされ、
「大丈夫か!? ビッグコンボイ!」
「危ないところでしたね、ビッグコンボイ」
言って、二人はビッグコンボイの傍らに着地する。
「はやてちゃんは!?」
「デバイスを受け取りに、メガザラックの元へと向かわせたが……」
志貴に答え、ビッグコンボイは立ち上がるデスザラスへと視線を向けた。
「ザコがまたひとり、ナメたマネをしてくれたな……!
デステイラー、バーストモード!」
怒りのままに咆哮し、デスザラスはデステイラーを砲撃モードに切り替え、ビッグコンボイ達へと狙いを定め――
「――――――っ!?」
直前で気づいて跳躍――背後から迫ったメガザラックのブリューナクを回避する。
そして、メガザラックはビッグコンボイの目の前に着地し、
「ビッグコンボイ、大丈夫!?」
《しっかりしてくださいなのです!》
メガザラックのライドスペースから降り、はやてとリインフォースがビッグコンボイの元に駆けつける。
さらに、キングコンボイやブリッツクラッカー、ダイアトラス達やインチプレッシャー達も続々と到着、一斉にデスザラスを包囲する。
「ちっ、ザコどもが……!
そんなに蹴散らされたいか!」
新たな乱入者に苛立ちを隠せず、デスザラスが咆哮するが、一同もまたひるまずデスザラスと対峙する。
「よし、一気に決めるぞ!」
言って、メガザラックはブリューナクをかまえ――かたわらのビッグコンボイに告げた。
「さて、ビッグコンボイ……
元はといえば貴様の受けた勝負だ。フィニッシュはゆずってやりたいが……今の貴様では決定力不足だ。
となれば……」
「言いたいことはわかる。
リンクアップして、パワーアップしろと言うんだろう?」
答えて、ビッグコンボイはドレッドバスターへと向き直り、
「ドレッドバスター」
「え? ち、ちょっと、ビッグコンボイ!?」
この会話の流れで呼ばれる理由はひとつしかない――ビッグコンボイに指名され、ドレッドバスターはあわてて声を上げた。
「まさか……私とリンクアップしろと!?」
「そういうことだ。
貴様とはウマが合う方じゃないが……パートナーの方はそうでもないだろう?」
ドレッドバスターの戸惑いに笑いながら答えると、ビッグコンボイははやてと、彼女を守ってデスザラスと対峙する志貴やリインフォースへと視線を向ける。
「はやて、聞いての通りだ。
リインフォースとユニゾンを」
「うん!
やるよ、リイン!」
《はいです!》
メガザラックの言葉にうなずき、はやてとリインは顔を見合わせ、
《「ユニゾン、イン!」》
掛け声と共にリインフォースがはやてにユニゾン。はやての髪の色が変わり、まだマヒの残る両足が自由を取り戻す。
騎士甲冑を身にまといながら剣十字をあしらった騎士杖“シュベルトクロイツ”を手にし、はやてはビッグコンボイの目の前、志貴のとなりに降り立つ。
「志貴さん……いくよ!」
「あぁ!」
告げるはやてに志貴がうなずき、そしてドレッドバスターとビッグコンボイも――
「あぁ、もうっ!
わかりましたよ! やればいいんでしょ!?」
「そういことだ。いくぞ!」
「させるかぁっ!」
咆哮し、リンクアップを防ぐべく突撃するデスザラスだが――
「甘い!」
そんなデスザラスの前にメガザラックが立ちふさがった。ブリューナクを繰り出し、デスザラスの足を止める。
「素直に妨害させると思ったか!」
「みんな、はやてちゃん達を援護するよ!」
『おぅっ!』
メガザラックとアリシアの言葉に、一同が一斉にデスザラスへと襲いかかる!
『ビッグコンボイ!』
はやてとビッグコンボイが叫び、ビッグコンボイはビッグキャノンを脇に抱えるとホバリングで大地を疾走し、
『ドレッド、バスター!』
次いで志貴とドレッドバスターの叫びが響き、ビーストモードのドレッドバスターが上空からビッグコンボイを追走。胸部装甲が分離し、合体用のジョイントが露出する。
そして――
『リンク、アップ!』
ドレッドバスターがビッグコンボイの背中に合体、そのまま上空へと舞い上がり、2本の竜の首がビッグコンボイの頭部の両側へ。まるでイグニッションしたフレイムコンボイのような容姿のショルダーキャノンとなる。
そして、ロボットモードとなったビッグコンボイの胸にドレッドバスターの胸部装甲が合体。展開された中から現れたサイバトロンマークが輝き、彼らは高らかに名乗りを上げる。
『バスター、コンボイ!』
「なんでオレだけ……!
ってーかやられる描写すらナシかい……!」
「チッ、合体を許したか……!」
大地に倒れ伏すインチプレッシャーを無視し、舌打ちするデスザラスの前で、合体を遂げたバスターコンボイはゆっくりと大地に降り立つ。
「悪いな、デスザラス――もう貴様に勝ちはない。
思い知らせてやるよ。他人の上に立つことしか考えないお前に、仲間と力を合わせたオレ達の力を!」
「なめるな!」
言い返し、デスザラスはバスターコンボイへと襲いかかるが――
「なんの!」
繰り出されたデステイラーの一撃を、バスターコンボイはビッグキャノンで真っ向から防御。そのまま力任せにデスザラスを押し返し――
「キングコンボイ! ブリッツクラッカー!」
「うん!」
「合点承知!」
『トリプル、フォトンランサー!』
フェイト、キングコンボイ、ブリッツクラッカーのフォトンランサー一斉射撃が、たたらを踏むデスザラスに降り注ぐ!
さらに――
「いっけぇっ!」
〈らけーてん、ばれっと!〉
バランスを崩したデスザラスの胸をアリシアの一撃が痛打し、
「雷光、砕斬!」
『サウンド、ボンバー!』
そこにメガザラックやブロードキャスト/アイリーン組からの追い討ちがかかる。
「今だ、一斉射撃!」
仕上げはダイアトラスの主導によるダークニトロコンボイ、ダークファングウルフの一斉射撃。これにはさすがのデスザラスもまともに吹き飛ばされ、背後の壁に叩きつけられ、
「こいつは――オマケだ!」
そこにバスターコンボイが飛び込んだ。全重量を乗せた飛び蹴りが壁を突き破り、デスザラスをその向こう側へと叩き込む。
「仕上げだ、バスターコンボイ!」
「ハデなの、お見舞いしたろうやないの!」
「おぅ!」
告げる志貴とはやてに答え、バスターコンボイはビッグキャノンを頭上にかざし、
『フォースチップ、イグニッション!』
彼らの呼びかけに応え、セイバートロン星のフォースチップがビッグキャノンのチップスロットへ。イグニッションしたビッグキャノンをまっすぐにかまえると、バスターコンボイはそれを胸部のコネクタに接続。連動して両肩のショルダーキャノンもまたデスザラスに狙いを向ける。
これが、バスターコンボイとなってパワーアップした新たなビッグキャノン――
『バスターキャノン、GO!』
咆哮と同時に引き金を引き――放たれた閃光が、立ち上がったデスザラスを直撃する!
「ぐ…………ぉお……っ!」
強烈なエネルギーの奔流を受け、それでも懸命に耐えるデスザラスだったが――
「……ぐわぁぁぁぁぁっ!」
それもついに限界が訪れた。足元の床もろとも吹き飛ばされ、デスザラスは一気にパンゲアの外まで吹き飛ばされ、そのままパンゲアの沈む池の中へと放り込まれる!
(バカな……!
このオレが……負けるだと……!?
一度は蹴散らしたヤツらに……なぜ、負ける……!
負けるはずがない……! 負ける……はずが……!)
身体に力が入らない。それでも懸命に頭上の水面へと手を伸ばすデスザラスだが――その視界は、次第に闇の中へと消えていった。
「あれは……!?」
パンゲアを視界からさえぎっていた丘を駆け上がり――ギャラクシーコンボイは思わず声を上げた。
目に入ったのはパンゲアの目の前で繰り広げられているダイナザウラーとの死闘――あまりにも体格の違いすぎるダイナザウラーを相手に、ニトロコンボイ達は一歩も退かずに立ち向かっている。
「みんな……!
あれほどの差がありながら、それでも……!」
「そうだ。
彼らは強くなった――だが、強くなったのは力だけではない。心もだ」
思わず声を上げるギャラクシーコンボイに、ベクタープライムはそう答えた。
「お前の部下達は、みんな強くなったのだ。
お前もそれがわかっていた――わかっていたからこそ、チーム分けをしたのではなかったのか?」
「……そうだったな……」
ベクタープライムの言葉に、ギャラクシーコンボイは静かにうなずいた。
「確かに、部下を危険な目に合わせることは避けなければならない……
しかし、その部下達は、仲間達は皆、強く、たくましく成長してくれた。
だから私は、何をすべきか、あえて言わなくても良かった――そして彼らは、私の期待に見事に応えてくれた!」
戦場には、他で戦っていた仲間達が続々と駆けつけている。フレイムコンボイ達やバスターコンボイ達、メトロタイタンを加えたメガロコンボイ達、そして――
《あれ……バンガードチームのみんなじゃない!?》
「よかった……アリサちゃん達も、みんな無事だったんだ!」
彼らに混じって戦いに加わるバンガードチームの面々を発見し、プリムラとなのはが思わず声を上げる。
そんな彼女達の姿を見下ろし、ギャラクシーコンボイは戦場へと視線を戻し、
「私は結果に囚われ、大切なことを見失っていたようだ。
仲間を信じるということを――そして、みんなで力を合わせて、宇宙を守るんだということを。
もう、私は迷いはしない!」
決意を新たに、ギャラクシーコンボイが宣言し――突然、彼の胸の中でマトリクスが輝きを放った。
「これは……!?」
突然のことに戸惑うギャラクシーコンボイだが――
「取り戻したようだな。
貴様が貴様である、本当にあるべき姿を」
「マスターガルバトロン!」
それに答えたのは、上空で高みの見物を決め込んでいたマスターガルバトロンだった。とっさになのはをかばい、身がまえるギャラクシーコンボイだったが――
「………………む?」
突然何かの接近を感じ取り、マスターガルバトロンはギャラクシーコンボイから視線を外した。
上空からゆっくりと降下してきたのは――
「グランダスか!」
「これで、サイバトロンも勢ぞろいだね!」
声を上げるベクタープライムになのはが告げると、グランダスからレオザック達ウィザートロンやブレンダル達バックアップチームの面々が次々に降下。ダイナザウラーとの交戦に加わっていく。
そして、なのは達の元にも――
「総司令官!」
「なのは、無事!?」
言って、グランダスの甲板からこちらに向けて飛び降りてきたのはライガージャックとアルクェイド。さらに――
「ダークライガージャックさん!?」
ライガージャックに続いて飛び降りてきたのはダークライガージャック。しかも――
「なのはちゃん、大丈夫だった!?」
「あ、愛さんまで!?」
それに愛が同行しているとなれば驚きは倍増。なのはは「ひえーっ!」とばかりに両手を挙げて驚愕する。
《なんで、ダークライガージャックと!?》
「うん……
怪我してたところに通りかかって、助けたら懐かれちゃって……」
驚くプリムラの問いに、愛は苦笑まじりにそう答え、
「それに……ダークライガージャック、リニスさんにちょっと頼まれたことがあってね……」
《リニスさんに?》
思わず疑問の声を上げるプリムラだが、当のダークライガージャックが見つめるのは一点のみ。すなわち――
「ほぉ……
貴様もサイバトロンに合流したか……」
そんなダークライガージャックの視線を受け、マスターガルバトロンは彼と対峙するかのように大地に降り立つ。
そのまま、両者は一言も発することなく、しばし緊迫した空気が流れ――
「…………ギャラクシーコンボイ」
マスターガルバトロンが声をかけたのはダークライガージャックではなくギャラクシーコンボイだった。
「ダイナザウラーを、放っておいてもいいのか?」
「何…………?」
思わず疑問の声を上げるギャラクシーコンボイだが、マスターガルバトロンはかまわず彼から――そしてパンゲアからも背を向け、
「貸してやる。
ダークライガージャック――貴様なら使いこなせよう」
「何だと!?」
「プラネットフォースは譲ってやる――そう言っているんだ」
振り向くことなくそう答え――マスターガルバトロンはそのまま続ける。
「カン違いするな。別に正義に目覚めたワケではない。
オレとて、支配すべき宇宙が消えるのは歓迎すべき事態ではない、ということだ」
そう告げると、マスターガルバトロンはそれ以上何も告げることなく、その場から飛び去っていった。
「マスターガルバトロンさん……」
そんなマスターガルバトロンを、なのははしばし見送り――気を取り直し、ダークライガージャックへと向き直り、
「えっと……それじゃあ、ダークライガージャックさん!
力を合わせて、がんばろう!」
その言葉に、ダークライガージャックはうなずく代わりに天高く咆哮し――
〈ギャラクシーコンボイ、聞こえる!?〉
そこへ、キングコンボイから通信が入った。
〈今から、ボクらをリンクアップさせるためにフェイトがナビゲータを使うんだ!
そっちにライガージャックとアルク姉ちゃん、行ってるでしょ!? うまいこと便乗しちゃって!〉
「了解だ」
そうキングコンボイに答えると、ギャラクシーコンボイはライガージャックとダークライガージャックへと交互に視線を向け、
「よし――この際だ。
ダイナザウラーを倒すには生半可なパワーでは通じない――二人を両腕にリンクアップさせる!」
「了解!」
「ウヌ!」
『ギャラクシー、コンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが両腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な右腕に変形する。さらに――
『ダーク、ライガー、ジャック!』
咆哮するのは愛とダークライガージャック。ダークライガージャックもライガージャックと同じシークエンスで変形、こちらは巨大な左腕に変形する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
一同の叫びと共に、ライガージャックとダークライガージャックがギャラクシーコンボイの両腕に合体する!
背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャック達の変形した両腕に拳が作り出され、彼らが高らかに名乗りを上げる。
『ライガァァァァァ、コンボイ、D!』
「パワーが上がった分、スピードはかなり落ちている!
2度目はない――この一撃で確実に決めるぞ!」
「はい!」
「わかりました!」
「オマカセ!」
ライガーコンボイの言葉になのはが、そして愛とアルクェイドが答え、
『フォースチップ、ダブルイグニッション!』
彼らの咆哮と共に、飛来したアニマトロスのフォースチップがライガーコンボイの両腕のチップスロットに飛び込む。
そして、右腕のプラティナムクロー、左腕のダーククローを展開したライガーコンボイはそれを天高く掲げ――その全身がフォースチップの“力”の輝きに包まれる!
「メビウスコンボイ! ブリッツコンボイ! ビクトリーセイバー!
ヤツの顔面に一発入れる――離れろ!」
告げるライガーコンボイの言葉に、ダイナザウラーの眼前を飛び回り、かく乱していたブリッツコンボイ達が離脱。渦巻くエネルギーに導かれ、浮き上がったライガーコンボイは一気にダイナザウラーへと突っ込み、
『ライガー、デュアル、ブレェイク!』
渾身の力で振るった両腕の連撃が、ダイナザウラーの額に深々と叩きつけられる!
同時――叩きつけられたエネルギーが爆裂し、ダイナザウラーの額で大爆発を巻き起こす!
そして、ダイナザウラーの巨体がゆっくりと傾き――やがて、轟音と地響きと共に、ダイナザウラーは大地に沈んでいった。
「ギャラクシーコンボイ。
ギガロニアのプラネットフォースだ」
「こっちは、ミッドチルダのプラネットフォースだ」
「すまない」
ビッグコンボイがパンゲアから回収してきたギガロニアの、そしてメガザラックが“時の庭園”から回収してきたミッドチルダのプラネットフォースを受け取り、ギャラクシーコンボイが二人に礼を言う。
「みんな、心配をかけた。
だが、もう大丈夫だ」
「気にするな、ギャラクシーコンボイ」
「そうそう。
ギャラクシーコンボイも普通に悩むって知って、こっちはむしろ安心したぐらいさ」
デスザラスの揺さぶりによって心を乱したことを謝罪するギャラクシーコンボイにスターセイバーとビクトリーレオがおどけて答え、一同の間に笑いがあふれる。
「しかし、マスターガルバトロンに説教されるとはねぇ……」
「マスターガルバトロンも、我々との戦いを通じ、リーダーとして成長していたということだ」
肩をすくめてつぶやくソニックボンバーに、ギャラクシーコンボイはうなずきながらそう答える。
「今回は譲ってくれたが……いずれは決着をつけなければならないだろう。
もちろん――」
そこで言葉を切り、ギャラクシーコンボイは一同を見回し、
「その時は、みんなの力を私に貸して欲しい」
「言われるまでもないですよ♪」
笑顔でうなずくなのはの言葉は、他の面々にとっても総意だった。皆一様にうなずいてみせ――
「うーん……マスターガルバトロン様がいい人になってくれる、っつーのは歓迎なんだが……
そのために戦わなきゃ、ってのはなぁ……」
「いや……そもそも似合わねぇだろ、『いい人』なアイツなんて」
「ま、まぁ、確かにな……」
反面、気が進まないのがマスターガルバトロン配下のインチプレッシャーだ。つぶやくその言葉に真雪がツッコみ、ガードシェルも苦笑まじりに同意する。
「とにかく、今はグランドブラックホールだね」
そんな一同を見回し、なのはは笑顔で呼びかける。
「みんなの力で、この宇宙を救おう!
みんなーっ、ファイトーっ!」
『おぉーっ!』
「…………決着がついたようだな……」
その様子を高台から見つめ、マスターガルバトロンは静かにつぶやいた。
「考えてみれば、グランドブラックホールを消滅させるのはオレ達とサイバトロンに共通する目的――そこまでオレが請け負ってやる理由などない。ヤツらにやらせておけばいいんだ。
とっととプラネットフォースをそろえてグランドブラックホールを消し飛ばせ――その後で、オレがプラネットフォースを手に入れ、全宇宙を支配してくれる」
最後に勝つのは自分だ――新たにした決意を自らに刻みつけるかのように、マスターガルバトロンはその胸中を口にして――
「それじゃ困るんじゃがのぉ」
「――――――っ!?」
言葉と同時に衝撃――振り向こうとしたマスターガルバトロンの胸を、それが背後から貫いた。
巨大なハサミだ。これは――
「貴様……ランページか……!」
「油断したのぉ。
あまり得意じゃないんじゃが、ワシだってプラネットX生まれじゃ、ワープができなくとも、隠密行動ぐらいできるわい」
うめくマスターガルバトロンに答え、ビーストモードのランページはマスターガルバトロンを貫いたままその身体を持ち上げる。
「で、本題じゃが……安心せぇ。別に殺したりせんわ」
「殺しても損するだけじゃしのぉ」と付け加え、ランページは笑みを浮かべ、
「じゃがのぉ――サイバトロンと仲良くケンカ、なんて関係になられても困るんじゃ。
悪いが、ヌシの破壊本能を暴走させてもらうわ。
ヌシの取り込んだ――ユニクロン様のスパークを使ってのぉ!」
とたん――ランページのハサミからマスターガルバトロンへと“力”が流し込まれた。マスターガルバトロンの体内に取り込まれたユニクロンのスパークと反応し、その全身で激しい“力”の渦が巻き起こる!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
全身を駆け巡る“力”の暴走に、マスターガルバトロンの絶叫が響き――しかし、それは唐突に終わりを告げた。あふれ出していた“力”は消え去り、ランページはマスターガルバトロンを放り出す。
と、マスターガルバトロンの胸を貫いていた傷がみるみるうちにふさがっていき――そんな彼にランページが尋ねた。
「質問じゃ。
貴様は誰じゃい?」
「オレは……超破壊大帝、マスターガルバトロン……」
尋ねるその問いにマスターガルバトロンは答え――続いた言葉に、ランページは満足げにうなずいた。
「すべてを破壊し――滅ぼす者だ」
(初版:2007/06/23)