「…………決着がついたようだな……」
 すべてのプラネットフォースをそろえたなのは達の様子を高台から見つめ、マスターガルバトロンは静かにつぶやいた。
「考えてみれば、グランドブラックホールを消滅させるのはオレ達とサイバトロンに共通する目的――そこまでオレが請け負ってやる理由などない。ヤツらにやらせておけばいいんだ。
 とっととプラネットフォースをそろえてグランドブラックホールを消し飛ばせ――その後で、オレがプラネットフォースを手に入れ、全宇宙を支配してくれる」
 最後に勝つのは自分だ――新たにした決意を自らに刻みつけるかのように、マスターガルバトロンはその胸中を口にして――
 

「それじゃ困るんじゃがのぉ」
 

「――――――っ!?」
 言葉と同時に衝撃――振り向こうとしたマスターガルバトロンの胸を、それが背後から貫いた。
 巨大なハサミだ。これは――
「貴様……ランページか……!」
「油断したのぉ。
 あまり得意じゃないんじゃが、ワシだってプラネットX生まれじゃ、ワープができなくとも、隠密行動ぐらいできるわい」
 うめくマスターガルバトロンに答え、ビーストモードのランページはマスターガルバトロンを貫いたままその身体を持ち上げる。
「で、本題じゃが……安心せぇ。別に殺したりせんわ」
 「殺しても損するだけじゃしのぉ」と付け加え、ランページは笑みを浮かべ、
「じゃがのぉ――サイバトロンと仲良くケンカ、なんて関係になられても困るんじゃ。
 悪いが、ヌシの破壊本能を暴走させてもらうわ。
 ヌシの取り込んだ――ユニクロン様のスパークを使ってのぉ!」
 とたん――ランページのハサミからマスターガルバトロンへと“力”が流し込まれた。マスターガルバトロンの体内に取り込まれたユニクロンのスパークと反応し、その全身で激しい“力”の渦が巻き起こる!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 全身を駆け巡る“力”の暴走に、マスターガルバトロンの絶叫が響き――しかし、それは唐突に終わりを告げた。あふれ出していた“力”は消え去り、ランページはマスターガルバトロンを放り出す。
 と、マスターガルバトロンの胸を貫いていた傷がみるみるうちにふさがっていき――そんな彼にランページが尋ねた。
「質問じゃ。
 貴様は誰じゃい?」
「オレは……超破壊大帝、マスターガルバトロン……」
 尋ねるその問いにマスターガルバトロンは答え――続いた言葉に、ランページは満足げにうなずいた。

 

「すべてを破壊し――滅ぼす者だ」

 

 


 

第79話
「それは終末の序曲なの!?」

 


 

 

(ぐぅ…………!
 身体が……動かん……!)
 パンゲアの眠るギガロニア最下層の湖――その湖底に、バスターコンボイに敗れ去ったデスザラスの姿があった。
(この程度なのか……?
 オレは、こんなところで終わるのか……?)
 傷は全身に深々と刻まれ、すでに身体の全機能の8割以上が停止している。自身の限界を感じてうめくが――
(いや…………まだだ……!)
 これで終わるワケにはいかない――痛む身体にむち打って、デスザラスは湖底で身を起こした。
「オレは……オレは、こんなところで……終わるワケには、いかんのだ……!」
 改めて口にしたその言葉は彼の心を奮い立たせた。強靭な執念に自らの取り込んだ“闇の書”の防御プログラムが反応し、その傷をみるみるうちに修復していく。
「戦士にとって、終末とはすなわち“死”のみ……
 この命がある限り……オレの戦士としての“生”は、終わっていない……!」
 その場に立ち上がり、デスザラスは頭上の水面を見上げる。
 その先にいるであろう、自らの宿敵の姿を思い浮かべて。
「オレの名は、覇道大帝デスザラス……!
 ビッグコンボイを……打ち倒す者だ!」

 すでに、彼の意志からは宿敵との決着以外のすべてのことが消え去っていた。

 

 その頃、なのは達はギガロニアのプラネットフォースの収められていたパンゲアの玉座の間に集合。ギガロニアとミッドチルダ――手に入れた二つのプラネットフォースを発動させようとしていた。
「準備はいいか?」
「あぁ」
「う、うん!」
 尋ねるギャラクシーコンボイに答え、ギガロニアのプラネットフォースを手にしたメガロコンボイは堂々と、ミッドチルダのプラネットフォースを手にしたジャックプライムは緊張感を隠し切れないまま、それぞれチップスクェアの前に歩み出る。
「これで、長かった旅も終わるんだね……」
「うん……」
 ようやくすべてのプラネットフォースがそろった――この戦いに最初から加わっている自分達にとってはやはり感慨深いものがある。つぶやくフェイトにアリサがうなずき、
《これから何が起きるんでしょうか……?》
「わたしも、プラネットフォースの発動に立ち会うんは初めてやからな……」
 対し、はやてやリインフォースはこれから起きることに興味津々の様子だ。
「ジャックプライム、がんばって!」
「うぅ、人事だと思ってぇ……」
 明るく声援を送るアリシアの言葉に、緊張の極地に達しているジャックプライムは半泣き状態でうめき――
「ジャックプライムくん、がんばって!」
「うん! もちろんだよ!
 ジャックプライム、全力全開でがんばりまーす♪」
「って、ちょっと!
 何ナニ!? わたしとのその態度の違い!
 わたし達、魂の同志じゃなかったの!?」
 なのはからの声援に一変。満面の笑みで答えるジャックプライムの言葉に、アリシアは頬を膨らませて抗議の声を上げる。
「おいおい、痴話げんかはそのくらいにしておけ。
 今はプラネットフォースの発動だろう」
「はーい♪」
 メガロコンボイの言葉に、ジャックプライムは意気揚々とチップスクェアと相対する――経緯はどうあれ、アリシアとなのはの声援で緊張もすっかりほぐれたようだ。
 他の一同も固唾を呑んで見守る中、ジャックプライムとメガロコンボイはプラネットフォースをかざし――チップスクェアが反応した。宙に浮き上がると二つのプラネットフォースを引き寄せ、ギガロニアのプラネットフォースを側面に残っていたスロットに、ミッドチルダのプラネットフォースを上面のアンテナ状の飾りの間に備えられた最後のスロットに差し込む。
 と――チップスクェアから光が放たれた。それは天井に描かれたアトランティスの紋様に吸い込まれていき――それにパンゲアそのものが応えた。各部のシステムが起動し――より強烈に増幅された光が、天に向けて一気に放たれる。
「な、何……?」
「外に出てみよう」
 ここからでは状況がわからない――なのはのつぶやきにギャラクシーコンボイが答え、一同はパンゲアの甲板上に出て、事の成り行きを見守る。
「む………………?」
 異変に最初に気づいたのはベクタープライムだった。背中の剣を抜き放ち、その感触を確かめ、
「…………ワープができるようになっている。
 どうやら、この星の防衛システムが解除されたようだ」
「防衛システムが……?
 どういうこった? プラネットフォースが発動するのに、防衛システムがジャマだった、ってのか?」
 ベクタープライムのつぶやきにメトロタイタンが聞き返すと、
「あぁっ! あれ!」
 それに気づいた美由希が、天を指さして声を上げた。
 見ると、彼女の指さした先でギガロニアの空が――ギガロニア本体を覆う各階層が次々に割れていく。
 そして――地表層のさらに上空に口を開いたのは、久方ぶりに見るスペースブリッジの入り口である。防衛プログラムが解除されたのは 、最下層からスペースブリッジへと通ずる一本道を展開するためだったようだ。
「スペースブリッジが開通したのか!」
「よぅし、これで元の宇宙に帰れるぜ!」
 思わずアルフとライガージャックが声を上げ――突然、通信の着信を示すコール音が響いた。
 代表してギャラクシーコンボイが応答、目の前に展開されたウィンドウに映し出されたのは――
〈ふぅ、ようやくつながったか……〉
「グレアム提督。
 お久しぶりです」
 そこに現れたのは管理局に残ったグレアムだった――安堵の息をつくグレアムに、ギャラクシーコンボイが答える。
〈全員無事か?〉
「もちろんだよ、父様」
「ってゆーか、出る幕なんてほとんどなかったんだけどね……」
 尋ねるグレアムに答えるのは、今回ほとんど戦闘に出くわさず、若干不完全燃焼気味のロッテとアリアだ。
「それで……そちらの状況は?」
〈うむ。
 次元を隔てたミッドチルダには、まだそれほどの影響は出ていないが……キミ達の宇宙がかなりひどいことになっている。
 各地の映像をこれから送る〉
 尋ねるスターセイバーに答え、グレアムは自分の周囲に各惑星の様子を映したウィンドウを展開した。
 スピーディアや地球はまだ悪天候、くらいの影響しか出ていないが――
「覚悟はしていたが……アニマトロスが特にひどいな。
 ずっと感じ続けてきた予感は、やはり正しかったか……」
「あぁ……
 元々不安定な星だ。影響をまともに受けているようだ」
 アニマトロスの様子はひどいものだった――ただでさえ厳しい自然が異常気象によって更に激しく牙をむいているその姿を目の当たりにし、フレイムコンボイのつぶやきに ブレイズリンクスがうなずく――
 

「なん、だと……!?」
 その光景を見ているのは、なのは達だけではなかった。
 意識を取り戻し最下層へ急行――彼らの不意をつき、あわよくばプラネットフォースをいただこうとしていたオーバーロードもまた、その光景を目の当たりにしてうめいていた。
「おい、お前らの故郷、なんかヤバいことになってるぞ」
 振り向き、そう告げるが――
「フンッ、だからどうした」
 対するギガストームの答えは芳しくない。不満げに口を尖らせてそう答える。
「オレはフレイムコンボイを倒す。我が一族の名誉のためにもな。
 アニマトロスなどどうでもいい」
「ギガストーム!」
 告げるギガストームの言葉に、オーバーロードは声を荒らげた。
「いい加減に冷静になれ!
 お前だって、プラネットフォースの力でグランドブラックホールを消滅させることは考えていたはずだろ!
 親父さんの敵討ちを止めるつもりはないが、今はそれどころじゃないはずだ!」
「なら、どうすればいいんだ!」
 オーバーロードの言葉に、ギガストームはついに声を張り上げた。
「今さらアイツらと手を組んで宇宙を救えとでも言うつもりか!?
 仇であるフレイムコンボイと、手を取り合えと言うのか!?」
 オーバーロードに言い返すと、ギガストームは彼に対して背を向け、
「オレはまだ……そこまで割り切ることはできん」
「ギガストーム……」
 しかし、吐き捨てるように告げる言葉は苦しげで――そんな彼に、オーバーロードはそれ以上何も言うことができなかった。
 

「よぅし、みんな、急ごう!」
「なのはの言うとおりだ。
 グズグズしている時間はないぞ」
 一刻も早くプライマスの元にプラネットフォースを届けなければ――告げるなのはとギャラクシーコンボイの言葉に一同がうなずくと、
「ギャラクシーコンボイ」
 突然、フレイムコンボイがギャラクシーコンボイに声をかけた。
「世話になったな。
 だが――ここまでだ。オレはアニマトロスに戻る」
「フレイムコンボイさん……?」
「故郷の危機を、黙って見過ごすワケにはいかねぇ。
 プラネットフォースはお前達に任せ、オレはアニマトロスの民を、守りに戻らせてもらう」
 声を上げるなのはに答えると、フレイムコンボイは背を向け――
「水臭くないか? フレイムコンボイ」
 そんな彼に声をかけたのは、ブレイズリンクスだった。
「アニマトロスを放っておけないのは、我輩達も同様だ」
「オレも行くぜ、フレイムコンボイ!
 オレも、アニマトロスを見捨てられない!」
 ブレイズリンクスのとなりでファングウルフが告げ、二人はギャラクシーコンボイへと視線を向ける。
 その視線が意味するところは明白で――だからこそ、ギャラクシーコンボイは静かにうなずき、
「うむ。部隊からの離脱、及びアニマトロスへの帰還を許可する」
 そう告げて――ギャラクシーコンボイはふと笑みを浮かべ、
「というより――むしろ、言い出さなければこちらから指示していたところだ。
 アニマトロスの民も、我々と同じプライマスの元に生きる者――彼らもまた、我々の同胞なのだから」
「恩に着るぞ、ギャラクシーコンボイ」
 ギャラクシーコンボイの言葉に一礼し、ブレイズリンクスが告げると、
「なら、早く行こう、ブレイズリンクス!」
 そんな彼に駆け寄り、知佳が告げる。
「パートナーなんだもの。当然でしょ?」
「いいのか?
 グランドブラックホールの影響は、遠からず地球にも現れよう。そうなれば、レスキュー隊員である知佳の力を必要とする事態も訪れるはずだ」
「助けが必要なのは、アニマトロスだって同じでしょう? それも今現在、緊急に」
 聞き返すブレイズリンクスだが、知佳はあっさりとそう答える。
「あたしも行くよ!」
 そしてさらに上がる決意表明――アルフもまた、拳を打ち合わせて気合を入れながらそう宣言する。
「いいだろ? フェイト」
「うん。
 アニマトロスはわたしもお世話になったところだし……止める理由はないよ」
 尋ねるアルフに、フェイトは笑顔でそう答えるとファングウルフへと向き直り、
「ファングウルフ……アルフをお願い」
「あぁ、任せろ」
 ファングウルフがうなずき、アルフの同行も決定。となれば当然――
「ここまで話が進んで、今さらオレだけ同行拒否、とは言わないだろう?」
「フンッ、好きにしろ。
 来るというのなら、とことんこき使ってやるまでだ」
 告げる恭也にフレイムコンボイが答えると、
「………………知佳」
 唐突に、シグナムが知佳に声をかけた。
「何? 私と恭也くんが一緒だと心配?」
「茶化すな。
 貴様が仕事の場レスキューに私情をはさまないことくらいわかる」
 尋ねる知佳に苦笑まじりに答え――シグナムは告げた。
「私とて、あそこはお前達と出会った思い出の地だ――なくしたくはない。
 アニマトロスは……任せる」
「任されるよ♪」
 

「頼むぞ、みんな……!」
 アニマトロスは自分にとっても縁のある星だ――ブレイズリンクスに運ばれ、一足先にスペースブリッジへと消えていったフレイムコンボイ一行を見送り、ビッグコンボイは静かにつぶやく。
「よし、我々も急ごう」
 時間がないのはこちらも同じだ。出発を促すギャラクシーコンボイの言葉に一同がうなずき――

「そうはさせん!」

 突然の声は、彼らの頭上から響き渡った。
 一同が見上げる中、上空にワープゲートが開き――そこから飛び出してきた人物が、地響きを立ててなのは達の目の前に着地する。
 舞い上がる土煙の中、彼はゆっくりと立ち上がり――
「どうやら、すべてのプラネットフォースを発動させたようだな」
「ま、マスターガルバトロンさん!?」
 悠然と告げるマスターガルバトロンの言葉に、なのはが思わず声を上げる。
「すべてそろったプラネットフォース、今度こそいただくぞ!」
「くっ、一刻も早くプライマスの元に戻らなければならないというのに!」
 告げるその言葉にうめき、身がまえるスターセイバーだったが、
「待って!」
 そんな彼に対し、なのはが制止の声を上げる。
「おいおい、まさかヤツが襲ってきたこの場で『ヤツは悪い人じゃない』とか言うんじゃないだろうな?」
 マスターガルバトロンに対する警戒を解かないまま、ビクトリーレオがうめくが――
「いや……今回はそういう問題ではない」
 そう答えたのはギャラクシーコンボイだった。
「マスターガルバトロンは、一度『する』と決めたことを自分から曲げることは絶対にしない。
 たとえ相手をだますとしても、だます内容に自分の取り得る行動は含まれない。
 敵対勢力を悪役に祭り上げても、自分の行動は決して偽らないのがマスターガルバトロンのやり方だ――そんなヤツが『譲る』と言った以上、あの場でプラネットフォースを譲るつもりだったのは間違いない。
 それがここにきていきなりの方針転換――明らかにマスターガルバトロンらしくない」
「どうしちゃったんですか、マスターガルバトロンさん!」
「どうもこうもない!
 抵抗する気がないのなら――さっさとプラネットフォースを渡せ!」
 懸命に呼びかけるなのはだが、マスターガルバトロンはかまわない。そのまま、一直線にこちらに向けて突っ込んでくる!
「やるしかないか――!
 全員、チップスクェアを守れ! マスターガルバトロンには、指一本触れさせるな!」
「おぅ!」
「任せろ!」
 ギャラクシーコンボイの言葉に真っ先に動いたのはブレンダルとモールダイブだ。巨体に物を言わせ、一気にマスターガルバトロンを押さえ込もうとするが――
「ジャマだぁっ!」
 そんなもので止まるマスターガルバトロンではない。雷撃をまとった拳で一撃の下に二人を弾き飛ばし、こちらの迎撃体制が整うのを待たず、一気に間合いを詰めてくる!
「させん!」
「ここから先へは行かせん!」
 そんなマスターガルバトロンの前に立ちふさがるベクタープライムとスターセイバーだが――彼らの斬撃が届くと思われた瞬間、マスターガルバトロンの姿がかき消える!
「何っ!?
 どこへ――!?」
 一瞬にしてその姿を見失い、ギャラクシーコンボイがうめき――
「上だ!」
「守りを固めて!」
 その動きを見極め、先回りしていたのはシグナムとフェイトだ。頭上に跳んでいたマスターガルバトロンの前に飛び出し、眼下のなのは達に告げながら同時に刃を振るうが――
「ぬるいわ!」
 そんな二人の攻撃を真っ向から受けながら、マスターガルバトロンは右拳の一振りで二人を弾き飛ばし、
「死ねぇっ!」
 なのは達に向けて、広範囲に雷撃を叩き落とした。

「大丈夫か?」
「え、えぇ……」
 距離的にギリギリだったが、なんとかなった――“神速”で駆けつけ、尋ねる士郎の問いに、彼に守られた桃子はまだ事態についていけないでいながらもなんとかうなずく。
「とーさん、かーさん、大丈夫!?」
「こっちは大丈夫だ!
 それより、プラネットフォースを!」
 上空から尋ねるなのはに士郎が答えると、
「――――あぁっ!」
 気づいた。土煙の向こうを指さして美由希が声を上げ――
「ククク……
 プラネットフォース、確かにいただいたぞ」
 美由希の人差し指の先で、チップスクェアとそこに接続されたプラネットフォースを手にしたマスターガルバトロンが、笑みを浮かべながらそう告げる。
「マスターガルバトロンさん!
 プラネットフォースを返してください!」
 そんなマスターガルバトロンへとなのはが呼びかけ――
《――――――っ!
 危ない、なの姉!》
 一瞬早く気づいたプリムラがスケイルフェザーを全弾射出。そのすべてをもって構築した防壁を、マスターガルバトロンの雷撃が激しく叩く。
「マスター、ガルバトロンさん……!」
「うるさいぞ、小娘。
 貴様がどうあがこうと、プラネットフォースはすでにオレの手の中――勝負はすでに決したのだ」
 わずかではあったが、こちらを認めてくれたはずなのに――問答無用の攻撃を放たれ、呆然とうめくなのはに、マスターガルバトロンは悠然と言い放つ。
「これで、宇宙の命運はオレの手の中だ!
 プラネットフォースとグランドブラックホール――せいぜい有効に使わせてもらうぞ!」
 告げると共に跳躍。マスターガルバトロンは高笑いと共に上空のスペースブリッジに向かう――スペースブリッジを通じて元の宇宙に戻るつもりなのだ。
「逃がすか!」
「プラネットフォース、返してもらうよ!」
 それに対し、真っ先に動いたのはビッグコンボイとキングコンボイだ。すぐにマスターガルバトロンの後を追って飛び立つ。
「ギャラクシーコンボイさん!」
「あぁ!
 飛行可能なメンバーはマスターガルバトロンを追うんだ!」
 告げるなのはにうなずき、ギャラクシーコンボイもまた一同に指示を出してマスターガルバトロンを追う。
 だが――
「――――――っ!?
 みんな、あれ!」
 先陣を切ってマスターガルバトロンを追っていたキングコンボイが、行く手に立ちふさがっている者の存在に気づいた。
 あれは――
「スーパースタースクリーム!?」
「ここから先へは行かせんぞ、マスターガルバトロンよ」
 フェイトが驚きの声を上げる中、スーパースタースクリームは目の前で停止したマスターガルバトロンに向けてそう勧告した。

「スタースクリーム……!」
 マスターガルバトロンと対峙するスーパースタースクリーム――その胸部、ライドスペースの中にはフィアッセの姿があった。
「勝てるよね……?」
〈勝たねばなるまい〉
 尋ねるフィアッセに、スーパースタースクリームは口に出すことなく、専用回線でそう答える。
〈ヤツにだけは、プラネットフォースを渡すワケにはいかない。
 この戦い……宇宙の命運を握ることになるのは誰の目にも明らかだろうが……宇宙の命運を握ることになる、その“真の理由”を知るのは我々だけなのだから……〉
「そうだね……」
〈貴様も、それを理解したからそこにいるのだろう。
 後方で黙って見ていればいいものを……〉
「あんな話聞いて、他人事みたいな顔なんか、してられないよ……」
 告げるスーパースタースクリームに、フィアッセは視線を落として答える。
「あなたにだけ、重荷は背負わせたくない……!
 私にできるのはパートナーイグニッションだけかもしれないけど……それでも、手伝わせて」
〈…………好きにしろ〉
 フィアッセにそう答えると、スーパースタースクリームは改めてマスターガルバトロンへと向き直り、告げる。
「命が惜しければ、そのプラネットフォースを渡せ。
 そうすれば、見逃してやってもいいぞ」
「フンッ、何の冗談だ?
 貴様のようなヤツが、このオレに命令するのか?」
 しかし、マスターガルバトロンも余裕の態度を崩すことはない。
「貴様にかまっているヒマはないのだ。
 オレはこれから、元の宇宙に戻ってやることがある」
「ほう、それは何だ?
 宇宙の支配か? それともそのためにジャマなグランドブラックホールの排除か?」
 告げるマスターガルバトロンに聞き返すスーパースタースクリームだったが――
「そんなことは決まっている。 
 あの宇宙の――すべての破壊だ」
「何………………?」
 マスターガルバトロンの言葉に、スーパースタースクリームは眉をひそめた。
「貴様……元の宇宙を破壊し尽くすつもりか?
 自らの支配する宇宙を……」
「くどいぞ、スタースクリーム。
 オレは破壊大帝だ――破壊以外の選択肢がどこにある?」
 あっさりと答えが返ってくる――明らかに様子のおかしいマスターガルバトロンの態度に、さすがのスーパースタースクリームも戸惑いを隠せない。
 マスターガルバトロンの望みは全宇宙をその力によってひれ伏させ、支配することだったはずだ。それなのに、なぜ――?
「どういうこと……?」
〈わからん……〉
 尋ねるフィアッセに専用回線で答えると、スーパースタースクリームは改めてマスターガルバトロンに視線を向け、
「こちらも長々と語り合うつもりはない。
 戦うか、大人しくそいつを渡して立ち去るか――決めるがいい」
「スタースクリームよ。
 前にも言ったが、貴様にオレは倒せない」
 再度の勧告に対しても、やはりマスターガルバトロンの余裕は揺るがない。笑みを浮かべてそう告げる。
「貴様は弱い。弱い貴様に、このオレを倒せるワケが――」
「マスターガルバトロンよ」
 しかし、スーパースタースクリームはマスターガルバトロンのそんな口上を一言で断ち切った。自分のセリフを寸断させ、顔をしかめるマスターガルバトロンに告げる。
「貴様の考える……“強さ”とは何だ?」
「何………………?」
「“強さ”とは何だと聞いている」
 眉をひそめるマスターガルバトロンに、スーパースタースクリームは改めて尋ねる。
 そんな彼の問いに対し、マスターガルバトロンは――
「決まっている。
 破壊だ! すべてを凌駕する、破壊の力――それこそが強さだ!」
(やはり……そうか)
 マスターガルバトロンの言葉に、スーパースタースクリームは自らの仮説が正しかったことを確信した。
 彼が知るマスターガルバトロンならば、この問いに対する答えは決まっている。
 自らの力だ――自己の力に絶対の自信を持つマスターガルバトロンにとって、自らの持つ強大なパワー以外に“強さ”を象徴するものなどありはしないはずだ。
 だが――マスターガルバトロンはそれを差し置き、破壊をその答えとした。いつもどおりの、自信に満ちた彼ならではの態度で。
 明らかに正気を保ったまま、それでいて自分を見失っている。これは――
「何かわかったの?」
〈あぁ〉
 尋ねるフィアッセに、スーパースタースクリームはあっさりと答えた。
〈少なくとも、ヤツの口ぶりから正気を失っているワケではなさそうだ。
 しかし、ヤツの答えは明らかにヤツらしくない。
 となれば、考えられるのは……暗示だな〉
「暗示……?
 催眠術か何か、ってこと?」
〈方法まではわからん。
 だが、術者にとって完全に操る必要がないというのであれば、その精神のすべてを支配しなければならない洗脳よりもむしろ効果的で、確実な手段だ。
 おそらく、今のヤツは破壊衝動を大きく増大させられている――元々ヤツの中にあった感情だ。本人が異常に気づかないのも当然だ〉
「いったい、誰がそんなことを……!」
〈考えるまでもなかろう。
 マスターガルバトロンがあのように暴走して、得をする勢力など――“ヤツら”以外には考えられん。
 それに、“ヤツら”ならばマスターガルバトロンの取り込んだユニクロンのプラネットフォースに干渉し、ヤツの精神をかき乱すことも容易なはずだ〉
 フィアッセに答え、スーパースタースクリームはマスターガルバトロンをにらみつける。
「どうするの?」
〈決まっている〉
 尋ねるフィアッセの言葉に、スーパースタースクリームはマスターガルバトロンに告げた。
「それが貴様の答えか。
 ならば――オレの答えを教えてやろう!」
 そう言い放つと同時――スーパースタースクリームは“力”を解放した。強烈な“力”の発動は、周囲に衝撃波を巻き起こし――
「ぬぅっ!」
「ぅわぁっ!」
 それは、マスターガルバトロンを追ってきていたなのは達をまともに直撃した。先頭のビッグコンボイ、キングコンボイが吹き飛ばされたのを合図にでもしたかのように、全員が薙ぎ払われる!
「“強さ”とは決意――“強さ”とは、意志だ!
 強靭な意志の力は、不可能をも可能にする!」
 だが――そんな彼らにかまうことなく、スーパースタースクリームはマスターガルバトロンにそう告げる。
「もう、二度と貴様の顔を見ることはないだろう……
 見せてやる。オレの強さを……命を賭した者の強さを!」
「いいだろう……
 調子に乗るなよ――プラネットフォースから絶大なパワーを得たのは、貴様だけではない!」
 告げるスーパースタースクリームに答え、マスターガルバトロンもまたチップスクェアをしまい“力”を解放。スーパースタースクリームとの間に“力”の衝突による小爆発が立て続けに巻き起こる。
 同じセイバートロン星に産まれた二大大帝――もはや、二人の激突を避けることはできそうになかった。

「くそっ、なんてパワーだ……!」
「あれじゃ、うかつに近づけないよ……!
 突っ込むとしたら、二人がぶつかってあの“力”の場が乱れる瞬間を狙わないと……!」
 一方、吹き飛ばされたビッグコンボイ達はなんとか体勢を立て直すことに成功していた――うめくビッグコンボイのとなりで、キングコンボイもさんざん振り回された頭を抱えて答える。
 二人はスーパースタースクリームとマスターガルバトロンの様子に気づいていたためなんとか反応できたが――後続のなのは達はそうも行かなかったようだ。遠目でしか事態を把握できていなかったのが災いし、突然の衝撃波でまともに吹き飛ばされてしまったようだ。
「なのはやフェイト、大丈夫かなぁ……?」
 つぶやき、キングコンボイは想い人やパートナーの安否を気遣って眼下に視線を向け――
「――――――っ!?」
 それに気づき、声を上げた。
「ビッグコンボイ――危ない!」
「何――――――っ!?」
 キングコンボイの言葉に反応しようとするビッグコンボイだったが――間に合わなかった。
「オォォォォォッ!」
 咆哮と共に、後方からものすごい勢いで突っ込んできた何者かが、ビッグコンボイを背後から吹き飛ばす!
 乱入者はビッグコンボイを捕まえたまま階層の隙間を駆け抜け――上方の天井に叩きつける!
 その正体は――
「貴様の相手はマスターガルバトロンなどではない……!
 このオレだ、ビッグコンボイ!」
「デスザラス!?」
 驚きながらも身体が動いた。ビッグコンボイはデスザラスを振り払い、今いる階層の地面に降り立って対峙する。
「ビッグコンボイ!」
「かまうな! ヤツの狙いはオレだ!」
 復活したデスザラスの突然の乱入――声を上げるキングコンボイに、ビッグコンボイは鋭く言い放った。そのままデスザラスへと視線を戻し、
「お前もしつこいな。
 パンゲアで、完全に決着はついたと思っていたんだが」
「戦士の決着は生きるか死ぬか――互いが生きている限り、戦士の戦いに終わりはない」
 告げるビッグコンボイに答え、デスザラスは静かにかまえる。
「今はただ――オレの“敵”を倒すのみだ。
 今のオレには――貴様を倒す以外、前に進む道はない!」
「やるしかないということか……」
 デスザラスの宣告に、ビッグコンボイは思わずうめき――
「ビッグコンボイ!」
 突然の声は相棒のもの――リインフォースとユニゾンし、追いついてきたはやてがビッグコンボイの傍らに降り立ち、デスザラスと対峙する。
「デスザラスさん……無事やったんですね」
「気遣いは無用だ。
 オレと貴様らは敵同士――むしろ再び貴様らの命を狙いに現れたことを嘆くべきだろうが」
 敵とはいえ、やはり命を奪うのは忍びない――こちらの無事な姿に安堵の息をつくはやてに答え、デスザラスはビッグコンボイへと向き直り、
「“闇の書”と同化した貴様に敗れて以来、オレは屈辱の道を歩み続けてきた」
「そいつは悪かったな」
「気にするな。
 貴様も同じ目にあう――今度こそな」
 ビッグコンボイに答え、デスザラスはフォースチップをイグニッション。デステイラーを右腕に装着する。
「貴様がオレを討ったのと同じ“闇の書”の力で――オレは貴様を討ち砕く」
「それどころじゃない……と言っても聞かないんだろうな」
「知ったことか。
 貴様がどれだけ先を急いでいようと、オレは貴様を倒すまでその前に立ちふさがる。
 先に進みたくば――このオレを倒す以外にはないぞ」
「やれやれ、だ……」
 デスザラスの言葉に、ビッグコンボイは改めて息をつき――
「リインフォース」
《あ、はい!?》
 突然声をかけられ、はやてにユニゾンしたまま応えるリインフォースに、ビッグコンボイは尋ねた。
「今のお前のシステムは、はやてとだけでなく、そのパートナートランスフォーマーとの共同運用も前提に作られている――そうだな?」
《はい……
 リインのナビゲータも、そのためにつけてもらったのですし……》
「そうか」
 その言葉にうなずき、ビッグコンボイは告げた。
「マンモスハーケン以上の獲物がいる。
 はやてに杖を用意したように……オレにも用意できるか?」
《え………………?》
「ビッグコンボイ!?」
「どうやら、ヤツはバスターコンボイではなく、このオレ、ビッグコンボイとの1対1をお望みらしい」
 声を上げるリインフォースとはやてに答え、ビッグコンボイはデスザラスをにらみつけ、
「怒りを選び、絆を捨てたヤツにとって――バスターコンボイリンクアップしたオレに敗れても『他人に頼った勝利』としてしか見られないのだろう。それでは納得できるはずがない 」
「せ、せやけど……」
 たったひとりでデスザラスと戦うつもりか――不安げにつぶやくはやてだが、
「心配するな」
 そう答え、ビッグコンボイはその大きな手ではやての頭をなでてやり、
「オレは、ひとりじゃない。
 お前らがここにいてくれる――それだけで、オレにとっては十分な助けになる」
「ビッグコンボイ……」
 優しく告げるビッグコンボイの言葉に、はやてなおも逡巡していたが――
「…………リイン。
 ビッグコンボイに杖を――ううん、戦斧を」
《マイスターはやて!?》
「大丈夫。
 ビッグコンボイやったら負けへんよ」
《…………はい》
 告げるはやてにリインフォースもうなずき――ビッグコンボイの目の前に長柄の戦斧が一振り投影、実体化した。
 デザインははやての杖“シュベルトクロイツ”と同一だが――手に取ってみると先端の剣十字がより堅牢に作られ、確かに杖というよりも戦斧として作られていることがわかる。
 デバイスとしてのシステムはきわめて単純だ。魔法に詳しくない自分の頭に合わせてくれたのだろうが――なんだかバカにされている気がする。ここは腹を立ててもいいところだろうかとチラリと考えたりもする。
「はやてのがシュベルトクロイツなら――オレのはさしずめ“シュベルトハーケン”といったところか」
 ともかく、今はリインフォースへの説教よりもデスザラスの打倒だ――つぶやくと、ビッグコンボイはシュベルトハーケンをかまえてデスザラスと対峙する。
「さぁ、始めようか」
「そうだな」
 告げる言葉に答え、デスザラスは静かにかまえ――
「始める前にひとつだけ告げておく。
 貴様の言うとおり、最強が孤独を伴うものであるのなら――確かにオレは世界の頂点には立てないのかもしれない。
 だが――オレは戦うことですべてをつかんできた! 今さらこの生き方は変えられん!
 オレを真に諭したいのであれば――仲間の力を借りてのものではなく、貴様自身の武をもって、オレに答えを示してみろ!」
 その言葉と同時――デスザラスはビッグコンボイに向けて地を蹴った。


 

(初版:2007/06/30)