「リインフォース」
《あ、はい!?》
突然声をかけられ、はやてにユニゾンしたまま応えるリインフォースに、ビッグコンボイは尋ねた。
「今のお前のシステムは、はやてとだけでなく、そのパートナートランスフォーマーとの共同運用も前提に作られている――そうだな?」
《はい……
リインのナビゲータも、そのためにつけてもらったのですし……》
「そうか」
その言葉にうなずき、ビッグコンボイは告げた。
「マンモスハーケン以上の獲物がいる。
はやてに杖を用意したように……オレにも用意できるか?」
《え………………?》
「ビッグコンボイ!?」
「どうやら、ヤツはバスターコンボイではなく、このオレ、ビッグコンボイとの1対1をお望みらしい」
声を上げるリインフォースとはやてに答え、ビッグコンボイはデスザラスをにらみつけ、
「怒りを選び、絆を捨てたヤツにとって――バスターコンボイに敗れても『他人に頼った勝利』としてしか見られないのだろう。それでは納得できるはずがない
」
「せ、せやけど……」
たったひとりでデスザラスと戦うつもりか――不安げにつぶやくはやてだが、
「心配するな」
そう答え、ビッグコンボイはその大きな手ではやての頭をなでてやり、
「オレは、ひとりじゃない。
お前らがここにいてくれる――それだけで、オレにとっては十分な助けになる」
「ビッグコンボイ……」
優しく告げるビッグコンボイの言葉に、はやてなおも逡巡していたが――
「…………リイン。
ビッグコンボイに杖を――ううん、戦斧を」
《マイスターはやて!?》
「大丈夫。
ビッグコンボイやったら負けへんよ」
《…………はい》
告げるはやてにリインフォースもうなずき――ビッグコンボイの目の前に長柄の戦斧が一振り投影、実体化した。
デザインははやての杖“シュベルトクロイツ”と同一だが――手に取ってみると先端の剣十字がより堅牢に作られ、確かに杖というよりも戦斧として作られていることがわかる。
デバイスとしてのシステムはきわめて単純だ。魔法に詳しくない自分の頭に合わせてくれたのだろうが――なんだかバカにされている気がする。ここは腹を立ててもいいところだろうかとチラリと考えたりもする。
「はやてのがシュベルトクロイツなら――オレのはさしずめ“シュベルトハーケン”といったところか」
ともかく、今はリインフォースへの説教よりもデスザラスの打倒だ――つぶやくと、ビッグコンボイはシュベルトハーケンをかまえてデスザラスと対峙する。
「さぁ、始めようか」
「そうだな」
告げる言葉に答え、デスザラスは静かにかまえ――
「始める前にひとつだけ告げておく。
貴様の言うとおり、最強が孤独を伴うものであるのなら――確かにオレは世界の頂点には立てないのかもしれない。
だが――オレは戦うことですべてをつかんできた! 今さらこの生き方は変えられん!
オレを真に諭したいのであれば――仲間の力を借りてのものではなく、貴様自身の武をもって、オレに答えを示してみろ!」
その言葉と同時――デスザラスはビッグコンボイに向けて地を蹴った。
第80話
「デスザラスさん、最後の戦いなの!?」
「始まったか……!」
「向こうのにらみ合いも、ヒートアップする一方だぜ」
うめくギャラクシーコンボイの言葉に、となりのソニックボンバーは上空でますます“力”のぶつかり合いを激化させているマスターガルバトロンとスーパースタースクリームの様子を見上げてつぶやく。
「ビッグコンボイさん……はやてちゃん……!
どうして……!」
なぜ、はやてはビッグコンボイをたったひとりでデスザラスに向かわせたのか――彼らの身を案じ、なのはが不安げにつぶやくと、
「…………きっと、大丈夫だよ」
そんな彼女に告げたのは――
「アリシアちゃん……?」
「はやてちゃんとビッグコンボイなら大丈夫。
リインちゃんもついてるんだし、きっと勝って――デスザラスも止めてくれる」
顔を上げたなのはに、アリシアはそう答えた。
「ビッグコンボイとはやてちゃんなら……“闇の書”を受け入れ、乗り越えたあの人達なら、きっとデスザラスの“闇”も受け止められるから……」
「デスザラスさんの、“闇”……?」
「そう。
怒り、絶望――そして、哀しみ……
“闇の書”が“闇の書”と言われた、その根本――それを誰よりもわかってる二人なら、きっとデスザラスの“闇”を昇華してあげられる。
止められなくなった妄執は、常に想いをもってしか止められないワケじゃない――人によっては、最後まで燃やし尽くしてあげることも必要なの」
「………………」
アリシアの言葉に、なのはは思わず視線を落とした。
彼女の言っていることに、心当たりがあったからだ。
自分がフェイト達と出会うきっかけとなった“プレシア・テスタロッサ事件”――自分達はただプレシアの行動すべてを止めようとした。
その結果、プレシアは虚数空間に消え、フェイトは最後まで母と分かり合うことができなかった――しかし、もしあそこで一番の問題であった時空震の阻止のみに目的を絞り、彼女の執念を徹底的に燃やし尽くしていたら――ひょっとしたら、結果は違っていたのかもしれない。
だが、自分達はもうその『もし』をやり直すことはできない。ならばせめて、ビッグコンボイとデスザラスには――
「大丈夫……だよね……」
「うん。
だから……」
なのはに答え、アリシアは激突するビッグコンボイとデスザラスへと視線を戻した。
「信じよう。
ビッグコンボイを、はやてちゃんを、リインを……そして、デスザラスさんを」
「オォォォォォッ!」
咆哮と共に、光に包まれたデステイラーが振り下ろされる――デスザラスの繰り出した一撃がビッグコンボイのシュベルトハーケンと激突、周囲にすさまじい衝撃をまき散らす。
圧倒的なプレッシャーと共ににらみ合い、静かな戦いを続けるマスターガルバトロン達と違い、こちらはすさまじい機動戦を展開していた。
戦いはこう着状態――かつてはサイバトロン軍を半壊滅状態に追い込んだデスザラスを相手に、ビッグコンボイは互角の戦いを繰り広げていた。
普通ならばビッグコンボイが強くなったと賛辞を贈るところだが――残念ながらそうではない。
デスザラスの動きから、以前の鮮やかさが明らかに消えている。
「くそ…………っ!」
舌打ちし、デスザラスは間合いを取る――この異変は、彼自身が一番よく理解していた。
以前のように集中できない。これは――
(なぜだ……!
なぜオレは、苛立っている……!)
胸中でうめき、デスザラスはデステイラーをバスターモードに切り替え――
「シュベルトハーケン!」
〈Schwalben Fliegen!〉
それよりも早くビッグコンボイが動いた。彼の呼びかけにシュベルトハーケンが応え――本家顔負けのシュワルベフリーゲンが飛翔した。デスザラスの周囲の地面に着弾、爆発を巻き起こし――
「動きに精彩がないぞ、デスザラス!」
「ちぃっ!」
追撃のビッグミサイルをかわし、デスザラスは後方へと間合いを離す。
ビッグミサイル程度ではダメージはないが――今の自分のコンディションでは明らかに姿勢を崩される。そうなれば、待っているのは本命の一撃による確実な敗北である。
「この、程度で!」
降り注ぐビッグミサイルをかわし、ビッグコンボイに向けて間合いを詰めたデスザラスはその機動のまま流れるような動きでデステイラーを振るい、ビッグコンボイもそれをシュベルトハーケンで受け止める。
(ここで――!)
間合いは零――すかさず呪文を唱え、デスザラスは“力”を解き放つ。
「刃もて血に染めよ!
穿て――ブラッディダガー!」
放つのは自らの取り込んだ“力”――周囲に生み出された真紅の刃を解き放つデスザラスだが、ビッグコンボイは包囲が完成するよりも一瞬早く後退。目標を見失った刃は互いに衝突し、砕け散る。
(逃がさん!)
「対する者達に、滅びの裁きを!
闇よ集え――すべてを撃ち抜く、破壊の渦となれ!」
間髪入れずに追撃に入る。デスザラスの呪文に伴い、周囲に霧散していた魔力の残滓が渦を巻いて収束していく。
プロセスはなのはが放ち、そしてかつてルインコンボイがコピーとしたスターライトブレイカーと同一のもの――だが、収束後のそれは違った。魔力の塊は渦を巻き続けたまま、どす黒く変色していく。
自らに宿る魔力と同質に変換され、極限まで収束された漆黒の魔力の塊を手に、デスザラスはビッグコンボイへと振りかぶり、
「撃ち抜け暗黒!
ダークネス、ブレイカー!」
咆哮と共に“力”が放たれた。漆黒の“力”の螺旋――デスザラス版スターライトブレイカー“ダークネスブレイカー”は周囲を破壊しながらビッグコンボイへと迫り――
〈Donner Schneider!〉
シュベルトハーケンが告げると同時――“力”の渦が斬り裂かれた。
衝撃は二つに分かれて虚空を貫いていき――その向こうから、ビッグコンボイは雷光をまとったシュベルトハーケンを手にその姿を現した。
「何だと……!?」
「ブラッディダガーに、スターライトブレイカーのアレンジ魔法か……
“闇の書”の防御プログラムの賜物なのだろうが……今まで使ってこなかった魔法まで使ってくるとは、それだけ貴様も本気だということなのだろうな」
決まったと思っていた一撃をいとも簡単に防がれ、驚愕するデスザラスに対し、ビッグコンボイは淡々と告げる。
「スターライトブレイカーは確かに強力な魔法だ。まともにくらえば、オレとて落とされるのは間違いない――たとえ防御の上からだったとしてもな。
だがな――使いどころを誤れば自殺行為も同然だ。チャージ時間の長さは相手に対処の時間を与えるし、放出系の砲撃であるがゆえに、光弾系の魔法と違ってエネルギー粒子の結束はもろい。刀身にエネルギーをまとう類の攻撃なら、エネルギー流の狭間を斬り裂き、受け流すことはそれほど難しくはないんだ。
そんなことも見極められなくなっているとは、いよいよやきが回ってきたようだな」
「知ったような口を――叩くなぁっ!」
咆哮し、大地に降り立ったビッグコンボイに向けて再び肉迫するデスザラスだが――
「遅い!」
今度はシグナムの紫電一閃――ビッグコンボイがカウンターで繰り出した一撃をかろうじてかわすが、デスザラスはまともに姿勢を崩し、その場にぶざまに倒れ込む。
「反応が鈍いぞ。
何をためらっている?」
「オレは――何もためらってなどいない!」
言い放ち、立ち上がりざまにデステイラーを一閃――しかし、その一撃も虚しく宙を薙ぐ。
「オレは……オレは貴様を殺すことしか考えていない!」
咆哮し、デスザラスは後退するビッグコンボイへと襲いかかり――見た。
「何が――」
ビッグコンボイが――
「気になるのかは知らんが――」
炎に包まれたシュベルトハーケンを振りかぶり――
「スキが――」
こちらに向けて――
「多い!」
〈Flamme Schlag!〉
振り下ろした。
「ぐ……ぅ………………っ!」
うめき、デスザラスはクレーターの中心で身を起こした。
ビッグコンボイの一撃はたったの一振り――しかし、その動きから精彩の消えたデスザラスの避けられるものではなかった。まともに一撃を受け、轟音と共に大地に叩き込まれたのだ。
「なぜだ……!
なぜ、オレはこうもお前に打ちのめされる……!」
うめき、デスザラスはゆっくりと身を起こした。上空のビッグコンボイをにらみつけ、告げる。
「オレは貴様より強い……!
能力も、武装も……!
なのに、なぜ!」
吐き捨てるように咆哮し――ビッグコンボイは答えた。
「簡単だ。
オレは、ひとりでお前と戦っている――だが、ひとりで戦うことと、孤独とは違う」
「何、だと……!?」
うめくデスザラスの視線を受けながら、ビッグコンボイは防御魔法で戦いの衝撃に耐えながらこちらを見守っているはやてへと視線を向け、
「アイツは――はやてとリインフォースは、オレを信じてくれている。信じてくれたから、オレをひとりで戦わせてくれた。
それだけで……安心できる。心が落ち着く。
それが、オレに限界以上の力を発揮させてくれるんだ」
そして、ビッグコンボイはデスザラスへと向き直り、
「デスザラス……
レーザークロー達は……アニマトロンはどうした?」
「何………………?」
「ハングルー達テラートロンは?
タートラー達シーコンズはどうした?」
思わず声を上げるデスザラスに、ビッグコンボイはさらに続ける。
「それが、オレと貴様の違いだ。
貴様はオレへの憎しみに取り付かれ、部下との絆を捨て去ってしまった――スカイクェイクからデスザラスへと転生し、圧倒的なパワーを得たのと引き換えに、お前はそれまで築き上げてきた部下との信頼関係を捨て去ってしまった。
絆を捨ててまで最強に近づいた貴様が、絆を得る代償に最強を捨てたオレに打ちのめされる――なんとも皮肉な話だな」
「何を……世迷いごとを……!」
ビッグコンボイに言い返し、デスザラスはその場に立ち上がる。
「絆だと? 安心だと……!?
そんなものは……ひとりではまともに戦えぬ弱者のたわ言だ!
オレや貴様のような、戦士の口にしていい言葉ではない!」
咆哮し――デスザラスは残された“力”のすべてを解き放った。吹き出した“力”の渦がクレーターをさらに削り取り、より巨大な穴を大地に穿つ。
「くだらんことを聞いたオレが愚かだった……
ひとりで戦いながらも絆が支えてくれるというのなら――その力でオレを打ち倒してみせろ!」
「…………いいだろう」
デスザラスに答え、ビッグコンボイはシュベルトハーケンを頭上に掲げ、
「このシュベルトハーケンを握るのはこの戦いが初めてだ。
だが――これはリインフォースがオレのために作り出してくれたものだ。
はやてが、オレを信じて託してくれたものだ。
この、オレ達の絆の結晶で――デスザラス、貴様を討つ!」
〈Vulkan Bombardieren!〉
その言葉と同時――ビッグコンボイもまた“力”を解き放った。シュベルトハーケンの言葉と同時、その刃に莫大なエネルギーが収束し――その周囲で炎をまき散らし、それが次第に渦を巻き始める。
互いの硬直は一瞬。次の瞬間――
『これで……終わりだぁぁぁぁぁっ!』
咆哮と同時、両者が振るった刃から閃光が放たれ――激突した。
「何だ!?」
さすがにこれには周囲のことを忘れてスーパースタースクリームとにらみ合っていたマスターガルバトロンも反応した。“力”を一度収め、眼下で繰り広げられている激突へと視線を向ける。
極限まで高められた、すさまじい“力”と“力”の激突――しかし、この激突はそんな単純なものではない。
ビッグコンボイとデスザラス、互いの想いのすべてを賭けた、誇りと誇りの激突でもあるのだ。
それは、見る者すべてに畏敬の念を植えつけるには十分すぎて――
「ぐぅ………………っ!」
突然頭脳回路を襲った痛みに、マスターガルバトロンは思わず顔をしかめた。
(頭痛だと……!?
バカな、オレ達トランスフォーマーが頭痛など起こすものか!
ならば、この痛みは一体……!?)
「オォォォォォッ!」
獣のごとき咆哮と共に、デスザラスは上空から迫り来るプレッシャーに向けて渾身の“力”を叩きつける。
“力”の渦は完全に拮抗。両者の閃光は互角の押し合いを続けている。
だが――
(押し……負ける…………!?)
デスザラスは確信していた。
今、目の前で互いに喰い合っている二つの“力”の渦――その一方が砕け散り、自分へと襲いかかる光景がハッキリと脳裏に描き出された。
トランスフォーマーの身である以上、決して流れるはずのない冷や汗が頬を流れたように感じた、その時――
「部下を、信じたらどうだ?」
そんなデスザラスに、ビッグコンボイは“力”を維持しながら静かに告げた。
「貴様が捨てた部下達を――もう一度信じてみる気にはならないのか?」
「戯言を……!
オレの集中を乱し、一気に押し切ろうという魂胆か!?」
「違う!」
吼えるデスザラスに、ビッグコンボイはすぐさま切り返してきた。
「オレは、“闇の書”に取り込まれ――はやてと共にギャラクシーコンボイ達に襲いかかった!
圧倒的な力で打ちのめし――あと少し何かが違っていれば、オレ達はアイツらを殺していた!
だが、それでもヤツらはオレ達を受け入れてくれた! 貴様の部下達も、きっと!」
「知ったことか!」
「デスザラス! 貴様の動きが鈍いのは――迷ってるからなんじゃないのか!?
貴様自身が思い出しつつあるんじゃないのか――部下達との絆を! だからこそ、今の自分が本当に正しいのか、迷ってるんじゃないのか!?」
「黙れ!」
「いや、黙らん!
デスザラス! 強くあるだけがリーダーじゃない!
時には部下を頼ってもいい! 仲間を信じてもいいんだ!」
「黙れぇぇぇぇぇっ!」
ビッグコンボイの言葉にデスザラスが絶叫し――
デスザラスの放った、紫電の“力”が砕け散った。
激突は一気に均衡を崩した。残されたビッグコンボイの“力”が渦を巻いて虚空を疾走。デスザラスを包み込む。
すさまじい“力”が身体を削り取っていくのがわかる。やがては自らの命をも――
「これ、までか……!」
不思議と痛みは感じない。つぶやき、デスザラスは意識を手放し――
――消エタクナイ……
声が聞こえた。
――消エタクナイ……
(また……お前か……!)
閃光の渦の中、デスザラスは内心で舌打ちした。
(今さら貴様が消えようが知ったことか!
オレは誰の力も必要ない! 黙れ!)
――消エタクナイ……
「消えろと、言っている!」
今度は声に出して言い放ち――“声”が変わった。
――モウ、ヒトリハ、イヤ……
「何…………っ!?」
――消エテ、ホシククナイ……
うめくデスザラスだが、“声”は続ける。
――ヤット、会エタ……イナク、ナラナイますたー……
――ますたーニ、死ンデホシクナイ……
――モウ、ますたーヲ死ナセタクナイ……!
抑揚のない、棒読みとも言えるような声――しかし、デスザラスは確かに感じ取っていた。
その言葉の、ひとつひとつに宿る――
哀しみを。
そして、唐突に理解する。
“声”は、ただ消えたくないのではない。
自分はもちろん――デスザラスにも消えてほしくないのだ。
自らの中に取り込み、ただ当たり前のように振るってきた“力”――しかし、その力の源である“声”の主は、ずっと自分を必要としていた。だからこそ、“力”を貸してくれていたのだ。
そう理解して――
「デスザラス様ぁーっ!」
「負けないでくだせーっ!」
その耳が、唐突に新たな声を聞き取った。
視界は光の渦にさえぎられているが――それでもわかる。
アニマトロンを従え、この階層まで登ってきたレーザークローが、仲間達と共に自分に向けて声を張り上げているのが。
「こんなところで負けるなんて、デスザラス様らしくないっスよ!」
「オレ達ゃ、デスザラス様の最強を信じてここまでついて来たんスよ!
負けたら承知しませんぜ!」
これはタートラーとハングルーの声だ。ということは、シーコンズやテラートロンもいるのだろう。
『貴様の部下達も、きっと!』
『貴様自身が思い出しつつあるんじゃないのか――部下達との絆を!』
『強くあるだけがリーダーじゃない!
時には部下を頼ってもいい! 仲間を信じてもいいんだ!』
ビッグコンボイの言葉が脳裏によみがえる。
彼らは今でも、自分の部下でいる――いや、い続けてくれている。
ビッグコンボイへの憎しみに取りつかれ、部下などどうでも良くなっていても――それでも、彼らは自分を信じて、このギガロニアまでついて来てくれたのだ。
――消エナイデ……
そして、“声”も懸命にデスザラスに呼びかけて――
(やれやれ……)
気づけば、デスザラスは苦笑を浮かべていた。
「貴様もよくよく回りくどいな……
言いたいことがあるなら、さっさと言ったらどうだ!」
その咆哮に――答えはあった。
――負ケナイデ……
――死ナナいで――
《勝って、デスザラス!》
「おぅっ!」
“声”に――“闇の書”の防御プログラムにデスザラスが答え――その全身に“力”がみなぎった。
周囲に巻き起こった“力”の渦はビッグコンボイの閃光を押し返すと、デステイラーの砲口に収束していく。
「どいつもこいつも――目に焼き付けるがいい!
このオレの――」
「覇道大帝デスザラスの、本当の力を!」
咆哮と共に、デステイラーから閃光が放たれた。ビッグコンボイの閃光を押し返し――炸裂、互いの“力”を粉砕する!
一瞬の静寂の後――デスザラスは改めてビッグコンボイと対峙した。
「目が覚めたみたいだな」
「おかげさまでな」
ビッグコンボイに答えるその態度は、ついさっきまでの彼のものとは明らかに違った。
《マイスターはやて……
あの人、怖くなくなったけど……怖いです……!》
「うん……」
額面どおりに聞くと意味のわからないリインフォースの言葉だったが――はやてにも、彼女の言いたいことは十分に感じられていた。
「さっきまでとは、明らかにプレッシャーが――“怖さ”の種類が変わってる……!
ビッグコンボイのせいで、正気に戻ったみたいやな……」
ユニゾンしたまま、恐怖に声を震わせるリインフォースに答え、はやてはビッグコンボイへと視線を向ける。
「決着をつけようか、ビッグコンボイ」
「あぁ。
シュベルトハーケン」
〈Jawohl!〉
静かに“力”を高めながら告げるデスザラスに、ビッグコンボイとシュベルトハーケンもまた自らの“力”を高め、二人の“力”は再び両者の間に拮抗を作り出す。
〈Sturm und Drang!〉
シュベルトハーケンが告げ、ビッグコンボイ側の魔法がスタンバイを完了。デスザラスも目の前にベルカ式の魔法陣を2枚展開。上下逆に重ね合わせ、六芒星の魔法陣を形成させる。
無限とも、一瞬とも思えるにらみ合いの末――二人が吼えた。
「シュトゥルム、ウント、ドランク!」
「ヘキサ、スマッシャー!」
瞬間――閃光が激突した。
「ビッグコンボイ――勝負はこれからだ!」
「それはこっちのセリフだ――デスザラス!」
すさまじい衝撃が巻き起こる中、お互いの咆哮がぶつかり合う。
お互いの“力”が。
お互いの誇りが。
お互いの魂が。
そして――お互いの絆が。
すべてが込められた閃光は二人の間の空間を焼き尽くし――
唐突に、終わりを告げた。
気づけば、ビッグコンボイは大地に仰向けに倒れていた。
数秒の思考停止の後――ぶつかり合っていた自分達の“力”が弾け飛んだ衝撃で吹き飛ばされたのだと思い出す。
「…………く……っ!」
うめき、ビッグコンボイはゆっくりと身を起こし、
「ビッグコンボイ……」
《大丈夫ですか?》
そんな彼に、すぐそばに舞い降りたはやてがリインフォースと共に心配げに声をかける。
「デスザラスは……?」
姿の見えない宿敵を探し、ビッグコンボイがはやてに尋ねると、
「…………ひとつだけ、負け惜しみを言わせてもらおうか」
その言葉に振り向くと――階層の裂け目に、デスザラスは静かに佇んでいた。
「少なくとも……オレはお前にはあらゆる能力で勝っていたはずだ。
しかし――オレが絆を捨て去ったことが、そのすべてをひっくり返した。
そのことは、今さら否定はしないが……それでも、オレは貴様に負けたワケではないと断言させてもらう」
こちらに背を向けていて、その表情は見えないが――
「オレは貴様に敗れたのではない。
たやすく怒りに身をゆだね、失ってはならないものを手放してしまった、オレ自身の弱さに敗れたのだ」
不思議と、その背中に悲壮感は感じられなかった。
「だが……貴様のおかげで、その手放してしまっていたものも取り戻すことができた。
我が覇道は成らねど……“ヤツ”を生かしてやることは叶わねど……武人として、納得のいく戦いだった」
「デスザラス、お前――っ!」
その言葉に、半ば直感的に彼の意図を悟ったビッグコンボイが声を上げるが――デスザラスはかまわずレーザークローに告げた。
「レーザークロー。
ホラートロンの指揮は貴様に任せる」
「…………了解しました……!」
彼も察しているのだろう。答えるレーザークローの声も震えている。
そして――
「さらばだ――」
「我が宿敵、ビッグコンボイよ」
告げると同時――デスザラスのヒザが落ちた。
全身から力を失い、その身は空中に投げ出され――静かに、雲海の中へと消えていった。
「終わったようだな……」
雲海の中に消えていったデスザラスの姿を見送り――スーパースタースクリームはマスターガルバトロンへと向き直った。
「マスターガルバトロンよ――貴様はあの戦いを前に何を感じた?
命を――誇りを賭けた戦士と戦士の激突を前に、何を思った?」
「フンッ、あんなもの……何のことはないわ」
尋ねるスーパースタースクリームに、マスターガルバトロンは吐き捨てるように告げ――
「ぐ………………っ!」
再びその頭脳回路に痛みが走った。思わず額を押さえ、うめき声を上げてしまう。
だが――それも一瞬のことだった。すぐにスーパースタースクリームをにらみ返し、告げる。
「スタースクリームよ。貴様は言ったな? 『命を賭した者の強さを見せてやる』と。
ならばこちらも教えてやろう! どれだけ命を賭けようと――ザコは所詮ザコなのだということを!」
「…………語るに落ちたな」
告げるマスターガルバトロンの言葉に、スーパースタースクリームは静かにかまえ、
「それならば……まずは貴様の寝ぼけた頭を叩き起こしてくれる!」
「やれるものなら、やってみろ!」
吼えるスーパースタースクリームの言葉にマスターガルバトロンが答え――
もうひとつの決戦の火蓋が、切って落とされた。
(初版:2007/07/07)