「おーい、大丈夫か……?」
「これが大丈夫に見えるのかよ……?」
 ラナバウトの問いにそう答え、黒コゲになったサイクロナスは口の中のススを吐きながらそう答える。
 パンゲアを巡る決戦の中、メトロタイタンの放った流れ弾によって無様にリタイアしてしまった彼らだが――ヘルスクリーム達やスナップドラゴン達もなんとか無事だったようだ。向こうでロードストームやダージガン、スラストールによって救助されている。
「お前らが来たということは……スタースクリーム様やフィアッセも?」
「あぁ……」
 尋ねるサイクロナスの問いに、ラナバウトはうなずきながら頭上を見上げた。
「今、二人は――」
 

「すべてを賭けた、最後の戦いに挑もうとしている」

 

 


 

第81話
「それは信念の決戦なの」

 


 

 

「…………デスザラスが敗れたか……」
 己のすべてを賭けた、ビッグコンボイとデスザラスの最終決戦――最下層の地上からその決着を見届け、ギガストームは静かにつぶやく。
 と――そのとなりで、オーバーロードはギガストームに尋ねた。
「ギガストームよ……お前もは、あの戦いに何を感じた?」
「何…………?」
「絆を取り戻したデスザラスの戦いに、貴様は何も感じなかったのか?」
「……オレとヤツとでは事情が違う。
 オレに答えをもたらすには、あの戦いは参考にはならん」
 オーバーロードに答え、ギガストームは再び上空を見上げ、
「だが……やはり、オレも挑まねばならぬようだな。
 オレ自身の答えを得るために、今再びフレイムコンボイと……
 …………しかし」
 そう告げると、ギガストームはオーバーロードに背を向け、歩き出す。
「どこに行く?」
「その前にやることがある」
 尋ねるオーバーロードに、ギガストームは迷わずそう答えた。
「あれほどの男……むくろを野にさらすには惜しい。
 墓のひとつも、作ってやらねばな……」
 

「オォォォォォッ!」
「ハァァァァァッ!」
 両者の咆哮が響き――マスターガルバトロンとスーパースタースクリームの拳が激突。放出されたエネルギーが周囲に強烈な衝撃をまき散らす。
 一瞬の硬直の後、両者は弾けるように互いに間合いを取り、
「フォースチップ、イグニッション!
 デス、マシンガン!」

 すかさずマスターガルバトロンはデスマシンガンで追撃。対するスーパースタースクリームはその攻撃を滑らかな機動ですべるようにかわしていき、
「トランスフォーム!」
 ビークルモードで一気にその場から離脱。マスターガルバトロンの懐に飛び込み――ロボットモードとなり、体当たりですぐそばの階層に叩きつける!
 すかさず、スーパースタースクリームはマスターガルバトロンを大地に残して上空に離脱し――
「ナル光線、キャノン!」
 両肩のナル光線キャノンで、マスターガルバトロンに追撃の閃光を叩き込む!
「どうした?
 まだ戦いは始まったばかりだぞ、マスターガルバトロンよ」
 体当たりの衝撃、そしてその後のナル光線の爆撃によって舞い上がった土煙が晴れていき――大地に倒れるマスターガルバトロンに、スーパースタースクリームは悠然とそう言い放った。
 

「なんてパワーの戦いだ……!」
 ついに始まった、セイバートロン星に産まれた二人の大帝の最終決戦――ビッグコンボイVSデスザラス戦に続くさらなる死闘に、ライブコンボイは思わずうめく。
「次元が違いすぎる……!」
「うまいことすべり込んでプラネットフォースを取り返さないと、巻き込まれてあっという間にオダブツだよ」
 戦場に巻き起こるすさまじいパワーの渦を前に、ドレッドバスターとキングコンボイもまたそううめき――
「臆するな!」
 そんな二人を叱咤したのはギャラクシーコンボイだった。
「この戦いの意味を考えろ!
 ここでプラネットフォースを取り戻すことができなければ、宇宙は滅びる!
 そのことを忘れるな――必ず、プラネットフォースを取り戻すんだ!」
 ギャラクシーコンボイのその言葉に奮起し、一様にうなずくなのは達だが――

「おっと、そうはさせないぜ!」

 その言葉と同時――降り注いだビームの雨を、なのは達はとっさに散開して回避する。
 そして――そんな彼女達の前に、奇襲の犯人は悪びれることなくその姿を現した。
「ノイズメイズ!」
「サウンドウェーブに、サウンドブラスターも……!」
「悪いけど、お前達に乱入してもらうワケにはいかないんだ」
 思わずうめくアリシアとフェイトに、ノイズメイズは笑いながらそう告げる。
「今のマスターガルバトロンは、我らにとって都合のいいイノシシだ。倒れてもらうワケにはいかん。
 ヤツがスタースクリームに遅れをとるとは思わんが――お前達が参戦するとなると、話が違ってきそうなのでな」

「――――――っ!」
 そう告げるサウンドウェーブの言葉に――なのはは悟った。
 自分達に理解を示してくれたマスターガルバトロン、彼が突然豹変したその原因に――
「まさか――あなた達がマスターガルバトロンさんを!」
「いかにも!
 マスターガルバトロンの変貌は、我らが同志、ランページの所業なり!」

 声を荒らげるなのはだが、ノイズメイズ達は一向に悪びれる気配はない。逆にサウンドブラスターが堂々と大声を張り上げる始末である。
「とにかく、そういうワケだ。
 余計な手出しはしないでもらおう!」
「そうはいきません!」
 告げるサウンドウェーブに言い返し、なのははレイジングハートをかまえた。
「宇宙も、マスターガルバトロンさんも――あなた達の思い通りになんかさせません!」
「そうだそうだ!
 第一、キミ達だけで何ができるんだ!」
「まさか、たった3人でわたし達を止められると思ってないよね?」
 告げるなのはのとなりに並び立ち、キングコンボイとフェイトもそれぞれの獲物をかまえるが――
「そんなこと――」
「やってみなけりゃ――」
「わからんな!」
 ノイズメイズ達はかまわない。なのは達に向けて一斉に突撃し――新たな戦端が開かれた。
 

「己の力を過信したな、マスターガルバトロン。
 自分にかなう者などいないと思っていたのだろうが――信念のために命がけで挑む戦士の力、思い知ったか」
「何、だと……!?」
 上空から淡々と告げるスーパースタースクリームの言葉に、マスターガルバトロンは怒りに顔を歪めながら立ち上がる。
「調子に乗るなよ、スタースクリーム!」
「悪いが――乗らせてもらうぞ、調子に、な!」
 言い返し、腹部の機銃から強烈な閃光を放つスーパースタースクリームだが、マスターガルバトロンもまたそれをかわして飛翔する。
 そのまま、マスターガルバトロンはスーパースタースクリームへと肉迫する――と思われたが、
「フィアッセ!」
「うん!」
『フォースチップ、ダブルイグニッション!
 バーテックスキャノン、アンド、ブレイド!』

 スーパースタースクリームはフィアッセと共にイグニッション。展開したバーテックスキャノンでマスターガルバトロンを狙い、
「バーテックス、ストーム!」
 そのままの動きでバーテックスストームを放ち、マスターガルバトロンの放ったデスマシンガンの銃弾を吹き飛ばす。
「その程度なのか?」
「ほざけ!」
 淡々と、余裕の態度で告げるスーパースタースクリームへと突撃するマスターガルバトロンだが――スーパースタースクリームはその蹴りを受け止め、さらに放たれたデスマシンガンの銃弾もかわす。
 そのまま、スーパースタースクリームは間合いをとり――唐突に、マスターガルバトロンに向けて拳を突き出した。
 しかし、マスターガルバトロンは間合いの外。当然ながらその拳はむなしく宙を貫くのみに終わる。
「何のつもりだ?
 そんな距離から拳を突き出して、何になるというのだ?」
「こうするのさ!」
 尋ねるマスターガルバトロンにスーパースタースクリームが答えると、彼の身体からあふれる金色のオーラ――プライマスのスパークの“力”が鼓動を刻むかのようにゆらめいた。
 と――次の瞬間、スーパースタースクリームの前腕部が巨大化、マスターガルバトロンの方へと突っ込んでいく!
「何――――――っ!?」
 思わず驚きの声を上げるマスターガルバトロンだが――予想外の攻撃を前に完全に反応が遅れた。指1本だけでも自分の身体よりも大きな拳の直撃を受け、背後の階層に叩きつけられる!
「度重なるスパークの吸収を経て、私はこの力を自在にコントロールできるようになったのだ。
 大きさを変えることぐらい、当然のようにな」
「……く…………っ!」
 告げるスーパースタースクリームの言葉に、マスターガルバトロンは階層を大きく穿った穴の底で口元を歪めた。
「調子に乗りおって……!
 どうやら、本気にならねばならぬようだな……!」
 

 そんな彼らの戦う場から、ちょうど1層下の階層では――
「マスターガルバトロン様ぁっ!」
「オレ達も復活して!」
「駆けつけましたぜぇっ!」
 駆けてきたのはクロミア、アームバレット、ガスケットの3名――復活したデストロンの面々がマスターガルバトロンの元に駆けつけるが――
「って、何だよアレぇっ!?」
「すんげぇことになってるんだなぁ!」
 そこで繰り広げられているのは、自分達のレベルをはるかに超越した戦い――対峙する両者の間で荒れ狂うエネルギーの渦を前に、ガスケットとアームバレットはたまらず後退する。
「ちょっと、あんた達!
 ボサッとしてないで加勢しに行きなさいよ!」
「真っ先に逃げてたヤツが言うな!」
「あんなのに巻き込まれたら、オイラ達だって一巻の終わりだっての!」
 そんな二人に文句を言うクロミアだが――その二人よりも先に逃げていた彼女が言っても説得力はない。案の定ガスケット達は力いっぱい言い返してくる。
「そんなに言うなら、お前が行けよ!」
「え!? あ、あたし!?」
 ガスケットが言うのはある意味で当然の反論――援護要員に指名され、クロミアはまともにうろたえた。
「あ……あたしはいいのよ! かよわい女の子なんだし♪」
「何が『かよわい女の子』だコラぁっ!」
「聞いてんのかぁっ!」
 ガスケットやアームパレットがわめくが、クロミアはかまわずマスターガルバトロンへと視線を向け、
(マスターガルバトロン様、どうかご無事で……!)
 そう自らの主の勝利を願い、祈りを捧げるクロミアだったが――
(…………あれ? でも、勝った方について行けばいいのよね?)
 ふとその脳裏にそんな考えがよぎった。
(となると、どっちが勝っても問題はないワケで……)
 思考をめぐらせ、クロミアの至った結論は――
「どっちもがんばれぇ〜っ♪」
 両方の応援だった。
 

「このこのこのこのぉっ!」
「当たれぇっ!」
 キングコンボイとフェイトの咆哮が響き、二人の放った一斉射撃を、サウンドブラスターはアクロバティックな機動でかわしていく。
「なのは!」
「はい!」
 告げるギャラクシーコンボイになのはがうなずき、二人でノイズメイズを狙うが――
「イィヤッホォウッ!」
 ノイズメイズは二人の展開した弾幕をワープでやりすごし――逆にギャラクシーコンボイを蹴り飛ばす!
「ギャラクシーコンボイさん!」
 思わずなのはが声を上げる中、サウンドブラスターが体勢を崩したギャラクシーコンボイを狙い――しかし、頭上のスーパースタースクリーム達の戦いでもろくなっていた階層の一部が崩落。落下してきたガレキの一部が幸運にも楯となり、ギャラクシーコンボイは難を逃れる。
「よ、よかったぁ……」
 地上でギャラクシーコンボイの無事を喜び、安堵の息をつく桃子だったが――崩落がもたらしたのは幸運だけではなかった。回避も間に合いそうにないほど巨大なガレキが、桃子達に向けて落下する!
 しかし――
「危ない!」
「どぉりゃあっ!」
 そんな桃子達の前に飛び出したのはブレンダルとモールダイブだ。ブレンダルのミキサーアームとモールダイブのドリルアームがガレキを粉みじんに粉砕し――
「おっと!」
 メガロコンボイが桃子達の上に覆いかぶさり、バラバラに砕けた破片から彼女達を守る。
「あ、ありがとう、メガロコンボイ……」
「なぁに、いいってことよ」
 礼を言う愛にメガロコンボイが答えると、
「おい、人間ども!」
 そんな彼女達に、ビークルモードの移動要塞形態となったメトロタイタンが声をかける。
「さっさと乗り込め!
 特等席で戦いを見物させてやる!」
「け、見物って……!」
 みんなが戦っている時に――不謹慎だとばかりに口を尖らせる唯子だったが、
「つべこべぬかすな!
 そこにいたら危ねぇっつってんだよ! 応援ならオレの中でやれ!」
 そんな彼女に対し、メトロタイタンも負けじと言い返す。
「まぁ……言い方に問題はあるが、ヤツの言うとおりだ。
 ここは危険だ、今はメトロタイタンの中に」
「は、はい……」
 少なくともメトロタイタンの言うとおり、ここにいてはまた同じような危険に見舞われる可能性がある――告げる士郎の言葉に小鳥がうなずき、彼女達は士郎に守られながらメトロタイタンに乗り込んでいく。
「それにしても……
 ここから見ていることしかできないなんて……!」
「くそっ、ランブルも空が飛べれば……!」
 これで非戦闘メンバーの安全は確保されたが、だからと言って自分達にできることはあまりにも少ない――それぞれの搭乗するランブルのコクピットでアレックスとランディがうめくと――
「そんなに戦いに参加したいんじゃったら――」
『――――――っ!?』
「ワシが相手をしたるわいっ!」
 そんな二人に告げて――ワープでその場に現れたランページが、地上に残っていた面々に向けてミサイルを乱射する!
 

「『本気を出す』だと……?
 強がりもほどが過ぎるぞ、マスターガルバトロンよ」
 大きく穿たれた穴の中で身を起こし、告げたマスターガルバトロンの言葉に、スーパースタースクリームは思わず眉をひそめた。
「ぬかせ!」
 そんなスーパースタースクリームに言い返し、宙に身を躍らせるマスターガルバトロンだったが――
「遅い!」
 スーパースタースクリームの動きが上を行った。マスターガルバトロンの視界から突如として姿を消し――巨体を感じさせないスピードでその背後に回り込み、巨体から来るパワーに物を言わせた蹴りで、マスターガルバトロンを思い切り蹴り上げる!
 さらにナル光線で追い討ち。真上に跳ね上げられたマスターガルバトロンは一気にギガロニアの最上層まで吹き飛ばされ――
「逃がさん!」
 スーパースタースクリームはそのスピードでマスターガルバトロンの吹っ飛ぶ先へと回り込み――渾身の力で地上に向けて叩き落とす!
 そして、勢いよく大地に叩きつけられ、バウンドしたマスターガルバトロンに追いつくとその身体を蹴り飛ばし、マスターガルバトロンの身体はまるで小石の水切りのように大地を跳ねながら吹っ飛ばされていき――
「バーテックス――キャノン!」
 トドメの一撃が直撃。ギガロニアの地上で大爆発を巻き起こす!
 すさまじい衝撃が放たれた後、場には静寂がもたらされ――
「…………どうやら、ここまでのようだな、マスターガルバトロンよ」
 クレーターの底で倒れ伏すマスターガルバトロンに、スーパースタースクリームは淡々とそう告げた。
「もう一度言う――プラネットフォースを渡せ。
 貴様にオレは倒せん――何も背負うもののない、今の貴様にはな。
 だが――オレは違う。オレには、貴様に負けるワケにはいかない理由がある」
 告げるスーパースタースクリームだが、マスターガルバトロンからの答えはない。
 しかし、それでもスーパースタースクリームは油断なくマスターガルバトロンの動向を見守る。
 なぜなら――
「スタースクリーム……!」
「あぁ……」
 戦いについては素人であるはずのフィアッセでさえ気づいたのだ。
 自分の言葉が届くと同時――倒れ伏したまま、マスターガルバトロンが拳を握り締めるのを。
 

(……負ける……!?)
 胸中でうめき――マスターガルバトロンは拳を握り締めた。
(このオレが……負けるというのか……!?)
 しかし――立ち上がろうとしても、それ以上力が入らない。
(スタースクリームごときに……宇宙の帝王たる、このオレが……!
 無様に、大地に這いつくばらされて……!)
 対峙して思い知った。スーパースタースクリームのそのパワーを。
 今まで何かとジャマが入り、真っ向からぶつかることこそなかったが――3つのプラネットフォースから“力”を取り込んだスーパースタースクリームのパワーは、自分のそれを完全に上回っている。
 だが――それを認めるワケにはいかなかった。
 自分はセイバートロン星の正当なる破壊大帝なのだ。
 スーパースタースクリームのような――自分を裏切って大帝を名乗ったような、いわゆる“ぽっと出の新人”風情とは違うのだ。
 そして何より――
(貴様のその“力”――見ているだけで虫唾が走る……!)
 スーパースタースクリームの身体からにじみ出る“力”――そこから感じるのは、プライマスのスパークの“力”だけではなかった。
 その“力”は、まるでギャラクシーコンボイやなのは達から感じるものと同じ――
(ぐぅ………………っ!)
 そこまで思考が至り――またもや頭脳回路に痛みが走った。動かない身体では頭を押さえることもできず、痛みに顔をしかめる。
 その痛みは、まるで彼らの“力”に思考を向ける自分をいさめているかのような――
(……そうだ……!
 認めてたまるか……! 力が……絶対的なパワーが、ザコどもの絆に劣るなど……認めてたまるか……!)
 未だ身体は動かない――しかし、先ほどよりも強い力で拳を握る。
 そんな中――気配で、頭上のスーパースタースクリームがバーテックスキャノンをかまえるのがわかった。
 

「マスターガルバトロンさん!」
 誰もが予想していなかったであろう一方的な展開――スーパースタースクリームに打ちのめされ、今まさにトドメの一撃を受けようとしているマスターガルバトロンの姿に、眼下でノイズメイズ達との機動戦を繰り広げていたなのはは思わず声を上げた。
 状況から考えれば、彼は明らかに自分達の敵だ。しかし――
 プラネットフォースを彼から取り戻さなくてはならない。だが――
 いずれ、彼とも戦うことになるだろう。それでも――
(死んで、ほしくない――!)
 何度も守ってくれた。
 自分達に力を貸してくれた。
 迷いに陥ったギャラクシーコンボイを救ってくれた。
 たとえ敵であろうと――心を通わせた相手だから――
(死なないで――)

「マスターガルバトロンさん!」
 

(…………小娘……!)
 人間の声が届く距離ではない――だが、それでもその声はマスターガルバトロンに届いていた。
(……バカに…………するな……!)
 とたん――身体に力がみなぎった。
(オレは……貴様に心配されるような、ザコではない……!)
 ゆっくりと手をつき、身を起こす。
(貴様の気遣いなど……!
 “絆の力”など、オレには必要ない……!)
 先ほどから、頭脳回路は立て続けに襲いかかる痛みに悲鳴を上げている。
(オレは……オレは……!)
 だが、それでも――

「超、破壊大帝マスターガルバトロン様だ!」

 咆哮し――マスターガルバトロンはスーパースタースクリームの前で敢然と立ち上がっていた。
 

「ほぉ……まだ立つか……」
 自分の向けた銃口の先で、ゆっくりと立ち上がるマスターガルバトロン――その姿に、スーパースタースクリームは静かに感嘆の声を上げた。
「許さん……! 許さんぞ、スタースクリーム……!」
「『許さん』か……
 許さぬのなら、どうする?」
「この屈辱……貴様の死をもって、晴らしてくれる!
 オメガ!」
〈Combat-System,Start up!〉
 答えると同時、マスターガルバトロンが“力”を解き放った。アームドデバイス“オメガ”を起動し――彼の周囲で“力”が渦を巻き、雷光となって荒れ狂う。
「その心意気や良し。
 だが――こちらも負けるワケにはいかんのだ!」
 だが、スーパースタースクリームも負けてはいない。マスターガルバトロンと対峙し、自らも“力”を解放する。
「このままでは――誰もが死ぬ。
 オレも、デストロンも、サイバトロンも――そして貴様も!
 それを防ぐためにも――貴様の奪ったプラネットフォースは、本来あるべきところに返さねばならんのだ!」
 

「何――――――っ!?」
 その言葉は、眼下で戦うギャラクシーコンボイの耳にも届いた。スーパースタースクリームの告げた意外な宣言に、思わず戦いの手を止めて頭上を見上げる。
「まさか――スーパースタースクリームは……!」
 今まで、そんな可能性は考えもしなかった。
 だが、今の言葉が彼の真意だとすれば――
「プラネットフォースを……プライマスの元に返そうとしている……!?」
 

『フォースチップ、ダブルイグニッション!』
 フィアッセとスーパースタースクリームの咆哮と共に、2枚のフォースチップが飛来した。両肩のチップスロットに飛び込み、すでに展開しているバーテックスブレードにその“力”のすべてをエネルギーとして注ぎ込む。
「たぶん、これが今出せる全力……!
 スタースクリーム、この“力”で……」
「わかっている。
 オレとお前――二人の“力”で、今度こそマスターガルバトロンを打ち倒す!」
 告げるフィアッセに答え、スーパースタースクリームはマスターガルバトロンに向けて拳をかまえ――
「しかし――」
「え――――――?」
 続いたその言葉にフィアッセが顔を上げ――気づいた。
 自分の身体が、エネルギーの幕に覆われていることに。
 そして――
「お前の仕事は……ここまでだ」
 告げると同時、スーパースタースクリームはフィアッセをライドスペースから放り出した。エネルギースフィアに守られたフィアッセは空中に投げ出され――スーパースタースクリームとマスターガルバトロン、二人の放つエネルギーの渦に吹き飛ばされ、なのは達の方へと飛ばされていく。
「――――――っ!
 なのは、あれ!」
「あれは――フィアッセさん!?」
 その様子にはフェイトやなのはも気づいた。あわてて落下するフィアッセの元へと飛翔し、彼女を覆うエネルギースフィアを受け止める。
「フィアッセさん!」
「大丈夫ですか!?」
「う、うん……
 それより、スタースクリームを止めて!」
 呼びかけるなのはとフェイトに答え、フィアッセはスーパースタースクリームへと視線を向けた。
「スタースクリームは……死ぬ気だよ!」
 

「ヤツらの元に返せば、フィアッセも安全だろう……」
 フィアッセを覆ったエネルギースフィアがなのは達によって回収されたのを視界のすみで確認し、スーパースタースクリームは目の前のマスターガルバトロンへと視線を戻した。
「これで憂いは消えた。
 このすべての“力”を――遠慮なく貴様に叩きつけることができるというものだ」
「フンッ、ザコとはいえそれなりにプライドのあった貴様が、ひとりの人間風情を気にかけるとはな……」
 しかし、そんなスーパースタースクリームの態度を、マスターガルバトロンは余裕の態度と共に鼻で笑う。
「ずいぶんとお優しくなったものだな、スタースクリームよ」
「当然だ」
 マスターガルバトロンの挑発的な物言いにも、スーパースタースクリームの態度が揺らぐことはなかった。
「彼女はオレに道を示した女の娘だ。
 そして――オレが愛した、ただひとりの女性だ
 言葉の最後は渦に流されて聞き取ることができなかった。
 だが――別に聞いてほしくて告げたワケではない。スーパースタースクリームはかまわずマスターガルバトロンへと拳を向けた。
 

「なんてパワーの放出なんだ……!」
「まるで台風だよ、こんなの……!」
 スーパースタースクリームとマスターガルバトロン、両者が極限まで高めたパワーは大気をも震わせた。荒れ狂う暴風の中、メガザラックとアリシアがうめく。
「マスターガルバトロンさん!
 スタースクリームさん!」
「待って、なのは!」
 あんなものがぶつかれば二人ともただではすまない。なんとしても止めなければ――対峙する二人の元へ飛ぼうとするなのはだったが、それをキングコンボイが制止する。
「もう間に合わないよ!
 今突っ込んでったら、なのはまで巻き込まれちゃう!」
「けど――」
「ずぇえったいにダメ!」
 反論しかけるなのはを抱きしめるように捕獲。想い人を抱きしめている現状に冷却能力を大きく上回る熱量が全身を駆け回るのを感じるが――それどころではないことは重々承知している。キングコンボイはギャラクシーコンボイへと向き直り、
「ギャラクシーコンボイ!」
「あぁ!
 総員退避だ! 激突の衝撃に備えろ!」
 キングコンボイに答えたギャラクシーコンボイの言葉に一同が離脱、自身も離脱しようと反転し――ギャラクシーコンボイは一瞬だけ頭上の戦いに視線を向けた。
(次の一撃で、すべてが決まる……!
 勝つのはスーパースタースクリームか、それとも……!)
 

『オォォォォォッ!』
 咆哮と共に、二つのエネルギーは頂点に向けて高まり続ける――マスターガルバトロンとスーパースタースクリーム、二人の激突はついに最終局面を迎えようとしていた。
 そんな中――
「いつからだ……?」
「何………………?」
 突然マスターガルバトロンから投げかけられた問いに、スーパースタースクリームは眉をひそめた。
「野心のある内は、貴様はオレの手の中であがく、身の程知らずでしかなかった……
 だが、今の貴様を動かしているのは野心ではあるまい。
 あの女か……? あの女の何が貴様を変えた?
 わからん――なぜ、ちっぽけな人間ひとりのために、このオレにここまで歯向かえる?」
「……答える理由はないな」
 そのマスターガルバトロンの問いに、スーパースタースクリームは静かにそう答える。
「この戦いの後、もし生きていたら自分で考えるがいい」
「そうさせてもらおうか」
 告げるスーパースタースクリームにマスターガルバトロンが答え――

「いくぞ――スタースクリーム!」

「マスターガルバトロン――オレは貴様を超える!」

 咆哮と同時、両者の距離は一瞬にして零となった。刃が激突、ぶつかり合った莫大なエネルギーは大爆発を巻き起こし――

 

 

 ――マスターガルバトロンよ――
 

 ――何だ?――
 

 ――貴様のその問い、オレが答えるまでもない――
 

 ――どういうことだ……?――
 

 ――その問いの答えを――貴様はすでに持っているのだから――

 

 

 

そして――

 

“力”が弾けた。

 

 

「…………く……っ!」
「なんとか、やりすごせたか……!」
 爆発の衝撃をやりすごし、ドレッドバスターと志貴は楯にしたガレキの下からはい出し、衝撃でクラクラする頭を振りながら立ち上がった。
 大爆発によって上空に立ち込めていた暗雲も消し飛び、ギガロニアを覆っていた階層もまた、何層にも渡って抉り取られている――それは、二人の激突がどれほどすさまじいものだったかを明確に物語っていた。
 ノイズメイズ達は――爆発に紛れて離脱したのか、彼らはもちろん、地上にいたランページの姿もない。
 そして――ドレッドバスター達のいる場から離れた別の一角でも、ギャラクシーコンボイがゆっくりと身を起こした。
「大丈夫か? なのは、フェイト、フィアッセ」
「は、はい……」
「キングコンボイが、守ってくれたから……」
 尋ねるギャラクシーコンボイになのはとフェイトが答えるが、
「きゅう〜〜〜〜……」
 当のキングコンボイは目を回していて答えるどころではない。
「それより、スタースクリームは……!?」
 しかし、フィアッセにとって、安否を確かめなければならない相手はもうひとり。つぶやきながら、一面に広がる青空の中スーパースタースクリームの姿を探し――
「――――マスターガルバトロンさん!」
 上空に佇むマスターガルバトロンの姿に、なのはは思わず声を上げた。
 一方、スーパースタースクリームの姿はなく――

 それは、二人の戦いがマスターガルバトロンの勝利で終わったことを示していた。
 

「…………フンッ、どうやらオレの勝ちのようだな……」
 傷だらけの身体で宙に佇み、マスターガルバトロンは淡々とそうつぶやいた。
 ダメージは予想以上に深い。一歩間違えれば、消滅していたのは自分の方――いや、どちらかが残ることすらできず、二人とも消滅していたかもしれない。
「……愚かなヤツめ……
 命を捨ててまでつかむ勝利に、何の意味がある……」
 はき捨てるように――消滅したスーパースタースクリームを静かにあざ笑うマスターガルバトロンだったが――
「…………だが……」
 その表情に、先ほどまでの怒りはなかった。
「……見事な戦いだったぞ、スタースクリームよ……」
 そうつぶやき、マスターガルバトロンは戦いの跡に背を向け、スペースブリッジへと飛び込んでいく。
 そんな彼の後を追い、スペースロードを駆け上がったガスケット達がスペースブリッジへと入っていくのを、衝撃で散り散りになってしまったなのは達はただ黙って見送ることしかできなかった。
「そんな……!
 スタースクリーム……!」
 マスターガルバトロンが勝利し、スーパースタースクリームは消滅――共にこの戦いを見続けてきた相棒との別れに、フィアッセはその場に崩れ落ち――
「…………きっと、生きている」
 そんなフィアッセのとなりに降り立ち、合流してきたベクタープライムは彼女を励ますようにそう告げた。
「確かにすさまじい爆発だったが――それでも、3つのプラネットフォースからプライマスのスパークを吸収したスーパースタースクリームが、残骸ひとつ残さずに消滅したとは考えられない。
 おそらくは――爆発の衝撃でどこか別の次元世界に飛ばされたと見るべきだろう」
「…………本当に、そう思うんですか?」
「確証はない――だが、信じるに値すると私は考える」
 そう答えるベクタープライムの言葉に、フィアッセはしばし考え――
「…………そうだね……
 私が、一番あの人のことを見てきたんだもの……私が信じなくて、誰が信じるのか、ってことだものね」
 そうつぶやくフィアッセの瞳には、いつもの意志の力がよみがえっていた。
「今は、悲しんでる時でも……スーパースタースクリームの無事を祈っている時でもない。
 マスターガルバトロンからプラネットフォースを取り戻して、グランドブラックホールを止める――スーパースタースクリームのできなかったことを、私達がやらなきゃいけない……
 そうだよね? なのは?」
「うん!」
「私達みんなで力を合わせれば、きっとできます!」
 告げるフィアッセの言葉になのはとフェイトが同意し――
「み、みんな!」
 そこに、はやてが応急手当を終えたビッグコンボイと共に合流してきた。
「あれを見て!」
 だが――その様子がおかしい。あわてた様子で空を指さすはやての言葉に、なのは達は空を見上げ――
『――――あぁっ!』
 そこに広がっていた光景を見て、思わず声を上げた。
 スペースブリッジの入り口がバリバリにひび割れ、光り輝く欠片を周囲に振りまいている。あれは――
《スペースブリッジが……》
《壊れちゃってる……!?》
《はいなのです。
 たぶん、最後の二人の激突による衝撃で……!》
「そんな……!」
 ジンジャーとプリムラの言葉にリインフォースが答えるのを聞き、なのはは再び破壊されたスペースブリッジを見上げた。
 元の世界とギガロニアをつないでくれたスペースブリッジが崩壊してしまったということは――
「わたし達……」
 

「元の宇宙に帰れなくなっちゃったの……!?」


 

(初版:2007/07/14)