「…………やはり、それしかないか……」
「あぁ。
この宇宙に戻ったマスターガルバトロンがどこに向かったかわからない以上、手分けして探すしかないだろう」
今後の方針を話し合うため、全リーダーとそのパートナーが集合したムーの作戦室――つぶやくギャラクシーコンボイに、メガザラックは深刻な面持ちでそう答えた。
「それに、グランドブラックホールの影響はもう、アニマトロス以外の星にも及んでると思うし……」
「被災に対する救援にも、人員を割かなきゃいけない、ってことだね……」
ジャックプライムの言葉にアリシアがうなずくと、
「では、提案どおりチームを分割して事態に当たることにしよう」
そう切り出し、ギャラクシーコンボイはその場の全員を見渡した。
「メガロコンボイ、メトロタイタン――ブレンダル、モールダイブと共に、マスターガルバトロンの捜索に当たってくれ。
艦はパンゲアとアトランティスを。現在乗り込んでいるクルーをそのままキミ達の指揮下に編入してくれ」
「了解だ」
「マスターガルバトロンは、オレ達が必ず止めてやる!」
ギャラクシーコンボイの言葉にうなずき、メガロコンボイとメトロタイタンは意気揚々とうなずいてみせる。
そして、ギャラクシーコンボイは残る一同を見渡し、
「他のメンバーは一度プライマスへ。
闇雲に救援に向かってもキリがない――現状を把握し、的確な救援を実行する」
『了解!』
その頃、マスターガルバトロン率いるデストロン軍はグランドブラックホール内――中心をはさみ、その消滅のために奮闘するプライマスと正反対の位置にいた。
そこから、マスターガルバトロンは己の中に宿るユニクロンの“力”をプラネットフォースによって増幅、照射し、グランドブラックホールの拡大を謀っていたのだ。
「オレのこの力を得て、宇宙のすべてを飲み込んでしまうがいい。
こんな宇宙になど、存在する価値などない」
誰に告げるでもなくそうつぶやき――マスターガルバトロンの脳裏にある人影がよぎった。
その人影は、自分にとても悲しそうな視線を向けていて――
「そうだ……
こんな宇宙に、存在する価値などない……!
オレの願いが叶わぬ、こんな宇宙など……!」
また、頭の奥底で痛みが走った。
第83話
「終わりを迎える世界なの!?」
「そう……わかったわ。
フィアッセさん、話してくれてありがとうございます」
アースラの艦長室で、畳の上で正座したリンディはそううなずくと目の前に座るフィアッセに向けて微笑んだ。
「ノイズメイズ達ユニクロン軍の目的は、プライマスのプラネットフォースを奪うことによるその弱体化、そして――ユニクロンのプラネットフォースをそろえ、破壊神をよみがえらせ、プライマスの作り上げたこの宇宙のすべてを消し去ること……
そのためにマスターガルバトロンは利用され、それを止めようとして、スタースクリームは……」
「大丈夫よ」
告げて、視線を落とすフィアッセに答え、リンディは彼女の手を優しく握った。
「スタースクリームは、きっと生きている……
私達がすべきなのは、彼が帰ってくるこの宇宙を――ベクタープライムに未来を託された、この宇宙を守り抜くこと……
彼らのためにも、私達は戦わなくてはなりません」
「はい……」
そう答え、フィアッセもまた力強くうなずいた。
「リンディさん……私にも、きっとできることがあるはずです……
その時が来たら、ぜひ」
「わかっています。
けど……」
そう前置きし――リンディは少しばかりイジワルな笑みを浮かべて告げた。
「私も馬に蹴られて地獄に落ちたくはありませんから。
スタースクリームが帰ったら……すぐにでもあなたを彼に押し付けさせてもらいますからね♪」
そんなやり取りの一方で、メガロコンボイらと別れ、グランドブラックホール内の重力安定域にいるプライマスの元へと急ぎ帰還したなのは達だったが――
「ギャラクシーコンボイさん!
プライマスさんが!」
驚き、声を上げるなのはの視線の先で、プライマスは動きを止め、沈黙していた。
これはおそらく――
「グランドブラックホールに、エネルギー照射を続けていたんだ。
おそらくあぁやって、エネルギーを蓄積しているのだろう」
なのはにそう答えると、ギャラクシーコンボイはプライマスに向けて呼びかけた。
「プライマス!」
――みんな、よく戻った――
「けど、ベクタープライムさんが……」
――知っている――
――だが、『記憶』という無限の時間を、ベクタープライムは生き続ける――
なのはに答えると、プライマスは艦隊を見回し、告げた。
――今は一刻も早く、プラネットフォースを取り戻さなくては……――
「わかっています」
プライマスの言葉にギャラクシーコンボイがうなずいた、その時――
「ギャラクシーコンボイ、それになのは達も。
地球に残った、さくらちゃん達から通信や」
「さくらから?」
口を開いたゆうひの言葉に、真一郎が真っ先に反応した。一同がメインモニターに注目する中、その中央にサイバトロン地球前線基地から通信してきた忍の叔母、綺堂さくらの姿が映し出された。
〈みなさん、無事でよかったです……〉
「そっちもね」
おそらく彼女には各艦のメインブリッジの様子が映像として届いているのだろう――こちらがみんな無事な様子に安堵し、さくらは本題を切り出した。
〈ただ……地球そのものは、『無事』と言うワケにはいかないですけど……
とにかく、地球の様子です、見てください〉
そう告げ、さくらが各地の様子をモニターに転送してくれるが――正直、かなりひどい。同時に送られてきた気象データによると各地で大規模な低気圧が発生し、相当の被害が出ているようだ。
《世界各地で、突如超大型の熱帯低気圧が発生しています。また、付近の船舶からは無線障害が報告されていて――》
一緒に送られてきたニュース映像も、世界各地で起きている異常を伝えるものばかりだ。
「お父さん達、大丈夫かな……?」
「大丈夫だよ、おじさん達なら……!」
不安げにつぶやく小鳥を唯子がなだめていると、さくらは一同に向けて続けた。
〈この異常気象は着実に勢力を増しているわ。たぶん、今後も被害はさらに拡大する……
ギャラクシーコンボイ、これも……〉
「あぁ……」
さくらの言葉に、ギャラクシーコンボイは沈痛な面持ちで答えた。
「これもまた、グランドブラックホールの影響だろう。
おそらくはスピーディアにも――遠からずミッドチルダにも影響が現れるだろう」
「そんな……!」
「これからどうなるんだ……?」
ギャラクシーコンボイの言葉に、ジャックプライムとニトロコンボイは思わず顔を見合わせる。
「アニマトロスの恭也達は、大丈夫だろうか……?」
「地球のことも心配だ……」
つぶやくシグナムのとなりで、故郷の危機を目の当たりにしたライブコンボイもまた不安を隠し切れずに視線を落とす。
と、ギャラクシーコンボイはそんなライブコンボイや真一郎へと向き直り、
「ライブコンボイ、真一郎。
プロテクトボット、シェリー以下、地球出身のメンバーとそのパートナー達と共に、地球に大至急向かってくれ。
こちらからはドレッドバスターと志貴をつける――地球の移民トランスフォーマー達と協力して、被害を最小限に食い止めるんだ」
「わかった」
ギャラクシーコンボイの言葉にうなずき、ライブコンボイは真一郎やドレッドバスター達と共にブリッジを後にして――
「ギャラクシーコンボイ! オレとブリッツクラッカーも行かせてくれ!」
「あぁ、頼む」
すぐに声を上げた晶にも、ギャラクシーコンボイは地球行きを許可した。
「よし、行くぜ、ブリッツクラッカー!」
「おぅよ!
翠屋をつぶされてたまるか!」
「なんでそんなにピンポイントなんだよ!」
口々に言い合いながらブリッジを飛び出していく彼らを見送り、ギャラクシーコンボイは一同を見渡して告げた。
「我々はプライマスに上陸、指揮所をスカイドームに移す。
各艦はこのまま現状を維持。各地の救援、及びマスターガルバトロン追撃に備えてくれ」
「スピーディアやミッドチルダの映像は出せるか?」
「やってみます」
スカイドームに移動し、尋ねるギャラクシーコンボイにそう答えると、バックギルドはすぐさまオペレータシートにつき、監視システムを立ち上げていく。
そして、いくつかのモニターにスピーディアの、ミッドチルダの様子が映し出され――
「こ、これは……!」
「ひどい……!」
映し出された光景に、ニトロコンボイとジャックプライムが思わず息を呑んだ。
どちらも、すでにグランドブラックホールの影響をまともに受けている――地震によってスピーディアはハイウェイのほとんどが寸断され、ミッドチルダでも地震が頻発。さらに異常気象も重なり、都市部、郊外を問わずかなりの地区に被害が広がっている。
「そんな……ミッドチルダは、次元座標もかなり離れてるのに……!」
「きっと、こっちの宇宙とを結んだスペースブリッジを通じて、ダイレクトに影響を受けてるんだよ……!」
つぶやくフェイトにアリシアが答えると、
「ギャラクシーコンボイ!」
「ボクらを行かせて!」
ギャラクシーコンボイへと詰め寄り、ニトロコンボイとジャックプライムが救援部隊に志願する。
「よし。
耕介、ロディマスブラー、美緒、そしてエクシゲイザーとすずか――ニトロコンボイと共に、スペースブリッジでスピーディアへ。
ジャックプライム、フェイト――ミッドチルダ組とそのパートナーを指揮してミッドチルダに向かえ。ウィザートロン部隊もだ。
メガザラック――ジャックプライム達を頼みます」
「任されよう」
ギャラクシーコンボイの言葉にメガザラックがうなず、指名された面々は急いでスカイドームの指令室を飛び出していく。
さらに、
「オレもスピーディアに行くぞ!」
「もちろんだ!
止めてもムダだぜ! オレ達ゃ元々サイバトロンの指揮下に入ったワケじゃねぇんだ!」
口々に立候補したのはスピーディア生まれであるサイクロナスとインチプレッシャーだ。こちらの返事も聞かずに指令室を飛び出していき、ニトロコンボイを追う。
だが――
「総司令官!」
「アニマトロスが!」
異常事態はそれだけに留まらなかった。アニマトロスに起きた事態を感知し、バックギルドとアリサが声を上げる。
そして、バックギルドの操作でメインモニターにアニマトロスの姿が映し出され――
『な………………っ!?』
そこに映し出された異様な光景を前に、その場にいる全員が言葉を失った。
スペースブリッジの出口から伸びる漆黒の帯が、何本もアニマトロスに巻きついているのだ。
「何だ、あれは……!?」
「おそらく、高密度の重力場です。
スペースブリッジ越しにアニマトロスに至ったグランドブラックホールの重力場が、帯状となってアニマトロスを捕らえているようです」
うめくビッグコンボイに、モニターでデータを分析しながらファストガンナーが答える。
「アニマトロスのみんなは……どうなってるんだ……!?」
「大丈夫……!」
つぶやくユーノに答え、なのはにモニターに映るアニマトロスへと視線を向けた。
「そう……大丈夫……!
だよね……フレイムコンボイさん……お兄ちゃん……!」
「お前達! 早く逃げろ!」
「神殿に向かえ!
造りのしっかりしたあそこなら、まだ持ち堪えられる!」
絶え間なく地震の続くアニマトロスの地表では、住民達の懸命の避難作業が今も続いていた。フレイムコンボイと恭也が陣頭指揮を執り、民をファングウルフとアルフが受け入れ作業を進めているはずの神殿へと誘導していく。
「力のある者はケガをした者を助けろ!」
「空を飛べる人達は進路の安全を確認! みんなを確実に誘導して!
ただし、高く飛んじゃダメだよ! 雷の的になっちゃう!」
ブレイズリンクスや知佳も懸命に声を張り上げるが、そう言う彼らも今自分達で言ったとおりの理由であまり上空からの指示が出せない。
結果、どうしても指揮に不備が出てしまう――あちこちで地割れに遭遇、ケガ人が続出している。
「ぅわぁっ!」
そして、その脅威は民の避難誘導にあたっている者達にも容赦なく襲いかかった。地上で避難民を先導していたダイノシャウトの目前で地割れが発生。突然のことで避けきれなかったダイノシャウトがマグマの海へと転落し――
「危ない!」
「しっかりしろ!」
間一髪でボンブシェルとシャープネルが間に合った。二人で落下するダイノシャウトを受け止め、問題の地割れで足止めを受けていた民のもとへと送り届ける。
そんな中、またもやトラブルが発生した。避難民達の進路上でガケ崩れが発生。崩れた巨大な岩が避難民達へと倒れ込み――
『フォースチップ、イグニッション!』
「ブラッディ、ホーン!」
「スプリング、キック!」
その脅威から避難民を守ったのはサイドスとキックバックだった。展開したサイドスのブラッディホーンが巨岩に一撃。さらにキックバックが後ろ足で渾身の蹴りを叩き込み、粉砕する!
とりあえず、ではあるが目の前の障害を排除し――しかし、それでも根本的な問題が解決したワケではない。荒れ狂うアニマトロスの空を見上げてつぶやく。
「長くはもたんぞ……!
この星も、我々も……!」
そんな中、アニマトロスにはさらなる異常事態が巻き起ころうとしていた。
だが――そのことに気づいたのはフレイムコンボイや恭也達ではなく――スカイドームのなのは達だった。
地上にいた彼らが気づかなかったのもムリはない。何しろ――
惑星そのものに、異変が起きていたのだから。
「こ、これは……!?」
目の前の光景が信じられない――モニターに映るアニマトロスの姿に、ギャラクシーコンボイは驚愕の声を上げていた。
漆黒の帯に――グランドブラックホールの重力場にとらわれたアニマトロスが次第にスペースブリッジに引き寄せられているのだ。
やがて、アニマトロスの半分ほどがスペースブリッジの入り口に飲み込まれ――次の瞬間、光と共にアニマトロスはモニターの映像の中からその姿を消していた。
「あ、アニマトロスが……!?」
「消えた……!?」
惑星ひとつが跡形もなく姿を消した――思わずなのはとユーノが声を上げると、
「いや――ちょう待って!」
「はやて、見つけたのか!?」
「どのモニタ!?」
声を上げたはやての言葉に、ヴィータとシャマルがモニターの中にアニマトロスの姿を探し――
「ちゃう!
映像やない――外や!」
言って、はやてはスカイドームの外を見渡せる天窓を指さし――
『な………………っ!?』
そこにあったものを目の当たりにし、誰もが声を失った。
アニマトロスだ。
スペースブリッジを抜けた先にあるはずのアニマトロスが、プライマスの目の前に浮かんでいたのだ。
その光景が示すのは、恐るべき事実――
「な、なんて吸引力だ!
スペースブリッジ越しに、アニマトロスを引き寄せやがった!」
思わずライガージャックがうめく間にも、アニマトロスは着実にグランドブラックホールに引き込まれ始めている。このままでは――
「ギャラクシーコンボイさん!」
「あぁ!」
声を上げるなのはに答え、ギャラクシーコンボイは一同に指示を下した。
「これより、アニマトロスの避難民の救出作戦を開始する!」
「父上!」
「ジャックプライム!」
サイバトロンシティに到着するなり、真っ先に駆けつけるのは育ての父親の元――声を上げ、駆け込んできたジャックプライムに、エルダーコンボイは災害対策本部となっている謁見の間で顔を上げた。
「ご無事でしたか、殿……」
「シルバーボルトか。
他の皆は?」
「ブラッカー達は、レオザック達と共に、すでに各地の救援に向かっています。
私と薫も、現状の把握が済み次第すぐに」
「そうか……
正直助かった。こちらも、通信障害のせいで本局のグレアムやレティとの連携が断たれて困っていたんだ。
このサイバトロンシティも避難先として解放しているが、つい先日まで存在を秘匿していたのが災いし、迅速な避難ができないでいる状態だ」
シルバーボルトの答えにエルダーコンボイが答えると、
「エルダーコンボイ」
「ザラック……」
彼らの後ろから現れたメガザラックの姿に、エルダーコンボイの顔が曇った。
因縁のある二人の対面に、辺りの空気が重くなり、さすがのジャックプライムも口をはさめずオロオロするばかりで――
「って、今はそれどころじゃないでしょ!」
そんな二人の間に割って入ったのはアリシアだった。彼女のとなりに踏み出し、フェイトもまた二人に告げる。
「今はグランドブラックホールの被災救援が先決です。
エルダーコンボイ、メガザラック、指示を」
告げるフェイトの言葉に、エルダーコンボイとメガザラックは互いに顔を見合わせ――同時にうなずいた。
「なんだかんだ言って、結局、マスターガルバトロン様が一番強かった、ってことよね♪」
「まったくだぜ♪」
グランドブラックホールの活性化を続けるマスターガルバトロンの姿を見守りながら、つぶやくクロミアの言葉にガスケットは肩をすくめてそう応える。
「このまま、マスターガルバトロン様が宇宙の支配者になれば、オレ達だっていい暮らしができるってもんだぜ♪」
「ホントよねぇ♪」
ガスケットの言葉にクロミアがうんうんとうなずくと、
「けど……」
『………………?』
口を開いたアームバレットに、ガスケット達は怪訝そうな視線を向け――
「仲間も、ずいぶんと減っちまったんだな……」
『あ………………』
アームバレットの言葉に、彼らはようやくそのことに気づいた。
「そーいやそうだよなー。
元々しばらくいなかったブリッツクラッカーや元々いるのかいないのかわからないダークニトロコンボイやダークファングウルフはいいとして、インチプレッシャーがいなくなっちまったのはなー……」
「だなだな……」
「あら、あんた達も相応に仲間意識ってもんがあったのね」
肩を落とし、つぶやくガスケット達にクロミアが感心し――
「ツッコミ役がいなくなっちまったから、うかつにボケらんねーよなぁ……」
「だなだな……」
「そっちなのね……」
続いた二人の言葉にクロミアが肩をコケさせて――そんな彼女のリアクションに、ガスケットとアームバレットはふと顔を見合わせた。そのままクロミアへと視線を戻し――
「そーいやお前がいたっけな」
「いたんだな」
「へ?
ち、ちょっと、まさかアンタ達、今度はあたしをツッコミ要員に、とか考えてるんじゃないでしょうね!?」
イヤな予感を全開にクロミアが声を上げ――ふと気づいた。
マスターガルバトロンの手から“力”の奔流が止まっている。
訝しげな視線を向ける3人だったが――彼らにかまうことなく、マスターガルバトロンはつぶやいた。
「さて……次はジャマ者を消しに行くか」
つぶやくその脳裏にまた“人影”の姿がよぎり――
頭だけでなく、胸まで痛んだ。
「総司令官、準備できました!」
「よし! 電磁スロープ、作動!」
バックギルドの言葉にギャラクシーコンボイが号令――同時、プライムマスの胸からエネルギーの帯が放たれた。それは一直線にアニマトロスへ飛ぶとフレイムコンボイらの避難した神殿に到達。エネルギーの流れが安定し、スペースロードと同質のエネルギー通路を作り出す。
その終端、アニマトロスの神殿では――
「こ、これって……!?」
「きっと総司令官が作ってくれたんだ!
みんな! あそこから逃げるんだ!」
突然のことに戸惑うアルフに答え、ファングウルフが避難民を電磁スロープへと誘導する。
避難は順調に進み、後は自分達だけ――振り向き、フレイムコンボイ達にも避難を促そうとしたファングウルフだったが、
「……後は、頼んだぞ」
「何っ!?」
先手は向こうから放たれた。フレイムコンボイから静かに告げられたその言葉に、ファングウルフは思わず声を上げる。
「何言ってるんだ! フレイムコンボイ!」
「そうだよ! 一緒に避難しないと!」
「お前達だけで行け」
思わず詰め寄る恭也と知佳だが、そんな二人にもフレイムコンボイは静かな、しかし強い口調でそう告げる。
「オレは……この星と運命を共にする。
この星の最期を、見届ける……」
その言葉に、迷いはなかった。
「フレイムコンボイ! お前、死ぬ気か!?」
「オレはこの星のリーダーとして、ここに残る……」
ブレイズリンクスの言葉にも、フレイムコンボイのその決意が揺らぐことはなかった。
その頃、スカイドームでは――
「総司令官!」
またもやトラブル発生だ――モニターに表示されたそのデータに、バックギルドが思わず声を上げた。
「グランドブラックホールの影響で、電磁スロープの電圧が急激に下がっています!」
「このままだと、もったとしてもあと2分――フレイムコンボイ達どころか、アニマトロスの避難民の受け入れだって、とても間に合わないわよ!」
「そんな!」
バックギルドとアリサの言葉になのはが声を上げると、ギャラクシーコンボイはすぐに向き直り、告げた。
「ライガージャック、アルクェイド! ダークライガージャック、愛!
出動だ――ムーで避難民やフレイムコンボイ達の収容を!」
「了解!」
「OK!」
「ウヌ!」
「はい!」
四者四様に答え、4人はすぐにきびすを返してスカイドームを後にし――ようとしたが、そこに意外な人物が立ちはだかった。
「…………ダークファングウルフ……?」
眉をひそめるライガージャックの前で、ダークファングウルフは自分を指さし、次いで彼らを手招きして見せる。
そのジェスチャーの意味は――
「…………よっしゃ! お前も来い!
いいですよね、総司令官!?」
「あぁ。人手は多い方がいいだろう」
ギャラクシーコンボイがうなずいて答えると、今度はダークニトロコンボイが彼の前に進み出る。
今の流れから見て、彼がダークファングウルフの行動に触発されたのは明白で――
「……よし。許可しよう。
スペースブリッジでスピーディアに向かい、ニトロコンボイ達と合流、サポートするんだ」
そのギャラクシーコンボイの言葉に、ダークニトロコンボイは整った敬礼によって彼に応えた。
「こちらアリシア! クラナガンの市街地に入ったよ!」
《避難の状況はどう?》
「うん……この近辺のエリアは、だいたい避難は終わってるみたい」
ミッドチルダの首都・クラナガンの上空を飛行し、空から地上の様子を確かめながら、アリシアは別の地区の救援に向かったフェイトからの念話にそう答えた。
「けど……街そのものはかなりひどいよ。
この辺りも地震が起き始めてるし……それで電源がやられたみたい。避雷システムもダウンしてるっぽいよ。
そのせいで、あちこちで雷が落ちてるよ……まるで怒った時のリニスみたい」
《ふーん、どういう意味かしら?》
「あ、いや、えっと……」
念話越しに強烈なプレッシャーを叩きつけてくれるリニスの言葉に、アリシアは思わず視線を泳がせる。
「と、とにかく、逃げ遅れた人がいないか、サーチしてみるね!」
《えぇ……お願い》
《お前のサーチは範囲は狭いが正確だ。頼んだぞ》
とにかく今は救助活動が優先だ――気を取り直して告げるアリシアにリニスとメガザラックが答え、
「いくよ――ロンギヌス!」
〈やぼーる!〉
彼女の手の中のロンギヌスが答え――次の瞬間、アリシアの足元に魔法陣が展開。周辺のサーチを始める。
高速で、しかし着実に周囲の建物をスキャンして――
(――――――っ!
地下シェルターに――逃げ遅れをひとり発見!)
避難が終わっているのだから、何も反応がないのが正解――しかし、静寂の中に確かな反応がひとつ。
しかも、この反応は――
(女の子……!?
しかも、わたしとそんなに変わらない……!)
「た、大変だ!」
一刻も早く救出しなくては――すかさずサーチを解除し、アリシアはロンギヌスに告げた。
「ロンギヌス! ラケーテンバレットで地下まで突入! 助けに行くよ!
崩落させちゃ意味がないから、少し離れたところでもいいからとにかく安全なところに飛び込む――突っ込める場所をスキャンして!」
〈やぼーる!〉
そこに逃げ込んだのは、ひとえに「不安だったから」だった。
避難の途中で兄とはぐれ――幼いながらの知識でその存在を知っていた避難シェルターに逃げ込んだのだ。
今回の避難先が、行政府、そして一般にもその存在を明かされたサイバトロンシティであることを知らず――
いくら待っても、兄はもちろん、誰ひとりとして避難してこない。密室の中で孤独に震え、座り込んだ少女は両足を抱え込み――
「大丈夫!?」
光明は、彼女を気遣う声と共に差し込んできた。
シェルターの入り口の扉をその細腕で懸命に押し開き、ひとりの少女が姿を見せたのだ。
金色の髪をツインテールにまとめ、槍型のデバイスをかまえた、シェルターの中の少女とほぼ同年代の少女――アリシアである。
「もう一回聞くけど……大丈夫? ケガはない?」
「う、うん……」
「そう、よかった♪」
うなずく少女の答えに、アリシアは安堵の息をついて彼女の元へと駆け寄り、
「ねぇ、いつもの避難だったらよかったんだけど……今回はここも危ないの。
家族の人とか、いる? ここからだと、たぶん行政府の方に避難してると思うんだけど……」
「うん……お兄ちゃんが……」
「そっか。
じゃあ、わたしが行政府まで連れてってあげる!」
そう答えると、アリシアは少女を立ち上がらせ――ふと動きを止めた。ずっと使われていなかったシェルターに逃げ込み、ほこりまみれになっている少女の全身を見回し、
「あー、でも、その前にホコリとか払っちゃおっか。
女の子だもん。やっぱり気にしちゃうよね」
そう言いながら、自分と同じように――ただし長さにずいぶんと差のある――ツインテールにまとめ上げた少女の頭からポンポンとほこりを払ってあげる。
「じゃ、行くよ。
しっかりつかまってね!」
「うん……」
うなずき、少女が自分にしがみついたのを確認すると、アリシアはラケーテンフォルムのままのロンギヌスをかまえ、
「ロンギヌス!」
〈らけーてん、ばれっと!〉
アリシアの叫びと同時――ロンギヌスが瞬間的に加速。一気に天井を突き破り、アリシアと少女を連れて地上へと飛び出す。
「雷が怖いからあまり高くは飛べないけど――わたしのスピードなら行政府まですぐだから!」
「う、うん……」
そのまま行政府を目指して飛翔し、告げるアリシアに答える少女だったが、その表情はとても不安げで――
「…………大丈夫だから……」
そんな彼女に、アリシアは笑顔で告げた。
「お兄ちゃんも、きっと行政府で待っててくれるよ。
それに……」
言って、アリシアは荒れ狂うミッドチルダの空を見上げた。
「この空だって、いつまでもこんなじゃない――どんな嵐だって、いつまでも続いたりしない。
約束するよ――わたし達で、絶対元通りの青空にして見せるから」
宣言どおり、行政府へはすぐに到着した。着地時の制動で多少地面を抉りはしたものの、アリシアは少女に傷ひとつ負わせることなく着陸する。
「じゃあ、ここからは自分で行けるよね?
わたし達もがんばるから、キミもがんばってお兄ちゃんを見つけて、ここで待っててね!」
言って、アリシアは巨大なシェルターを備えた行政府の巨大なビルを見上げて――
「……ホント、だよね?」
そんなアリシアに、少女は静かに尋ねた。
「本当に、また晴れるよね……?」
言って、不安げに空を見上げる少女だったが――
「うん、大丈夫!」
迷うことなく断言して、アリシアは少女に向けてサムズアップしてみせる。
「この空は絶対に晴れる――そう信じて!」
「……うん!」
告げるアリシアの言葉に、ようやく少女の顔に笑顔が戻った。アリシアと同じようにサムズアップしながらうなずき――
《アリシア、聞こえるか!?》
そこに、突然メガザラックからの通信が入った。
「もう、何よ、いきなり。
こっちは今、助けた女の子と女同士の友情を育んでたのに」
《………………? 何やってるんだ、お前?
……まぁいい。そっちの用件が終わってからでかまわん、サイバトロンシティに集合だ。
今から――》
《“ミッドガルド”を飛ばす!》
(初版:2007/07/28)