グランドブラックホールの重力場につかまり、そのコアへと引きずり込まれたアニマトロス。
 各地で異常気象や地殻変動に襲われる地球やミッドチルダ。

 しかし――グランドブラックホールの脅威にさらされているのは、それだけではなかった。
 

 スピーディアにもグランドブラックホールの影響は現れていた――度重なる地震によってハイウェイが次々に寸断され、多くのトランスフォーマーが転落、孤立している。
 そしてここでも、突然目の前で崩落したハイウェイの裂け目をかわしきれず、ひとりのトランスフォーマーが宙に投げ出され――
「フォースチップ、イグニッション!
 スパイラル、サイクロン!」

 間一髪でサイクロナスが駆けつけた。背中の翼、ローターから放たれた竜巻がトランスフォーマーの身体を空中で受け止め、落下が止まった一瞬の間にロディマスブラーがその身をかっさらい、無事大地に降り立たせる。
「大丈夫か?」
「あ、はい……」
 返ってきた答えにうなずき、ロディマスブラーは顔を上げ、
「インチプレッシャー! その高架の上にはもう誰もいない!」
「そのままほっとく方が危ない! ブッ壊すのだ!」
「おぅよ!」
 告げるロディマスブラーと美緒の言葉に、インチプレッシャーはガッツポーズで答え、
「フォースチップ、イグニッション!
 ダブルヘッドハンマー!」

 展開したダブルヘッドハンマーで支柱を粉砕、傷ついていた高架にとどめを刺し、崩壊させる。
「よし、次に行くぞ!」
「あぁ!」
「サクサクいこうぜ!」
 顔を見合わせ、サイクロナスとインチプレッシャーがロディマスブラーに答えると、
「おい、お前ら!」
 突然かけられた声に振り向くと、そこにいたのはオーバーロードの部下、オートローラーズの面々だ。今の声はリーダーのオートスティンガーだ。
「おい、一体こいつぁどーなってんだよ!?
 オーバーロード様は!?」
「……悪い、オーバーロードがどうなったかは、オレ達もわかんねぇんだ。
 オレ達自身、こっちに戻ってくるだけで精一杯だったし……」
 尋ねるオートスティンガーにインチプレッシャーが答えると、
「ちょうどいい!
 お前ら、手ェ貸せ!」
 そんな彼らの間に割って入り、サイクロナスがオートスティンガーに、そしてオートローラーズ一同に告げる。
「今この星はかなりヤバいことになってる!
 今、ニトロコンボイ達と手分けして各地で救援に当たってる――お前らも!」
「おいおい、なんでオレ達がそんなこと……」
「ンなコト言って場合か?
 たぶん、このままだとオレ達だってヤバいぜ」
 どうして自分達がロディマスブラー達に従わなければならないのか――案の定口を尖らせるオートクラッシャーだが、オートランチャーがそれをたしなめる。
「……いいだろう。
 オレ達は何をすればいい?」
 協力を了承し、尋ねるオートスティンガーの言葉にロディマスブラーはオートジェッターへと向き直り、
「特に航空要員が足りない。
 オートジェッター、サイクロナスと二人で空中からパンピーの避難誘導と要救助ポイントの検索を!」
「わかった、任せろ!」
 うなずき、すぐさまオートジェッターはサイクロナスと共に飛び立つ――それを見送り、ロディマスブラーはオートスティンガー達に告げた。
「オレ達は二人の誘導とニトロコンボイ、エクシゲイザーの指揮で、各地の救援に回るぜ!
 人海戦術だ――手数が勝負だぜ!」
『おぅ!』
 

「アニマトロスの状況は!?」
「依然、グランドブラックホールに引きずり込まれつつあります!」
 尋ねるギャラクシーコンボイの言葉に、バックギルドは懸命に電磁スロープの電圧を維持しながらそう答える。
「お願い、ライガージャックさん……!」
 つぶやき、なのはは急ぎアニマトロスへと向かう、ライガージャック達を乗せたムーへと視線を向けた。

 アニマトロスがグランドブラックホールのコアに飲み込まれるまで――もう時間は残されてはいなかった。

 

 


 

第84話
「サイバトロン戦士、全員集合なの!」

 


 

 

「早く行け、高町恭也。いつまでももたんぞ」
「フレイムコンボイ!」
 どうあってもここを離れるつもりはないらしい――相棒に告げるフレイムコンボイに、ファングウルフは思わず声を上げた。
「『この星に残る』って、何を言い出すんだ!
 お前が残って、どうなると言うんだ!」
「うるせぇ!」
 なんとか説得を試みるファングウルフだが――言葉による説得など、彼に対してはむしろ逆効果だ。案の定フレイムコンボイはフレイムアックスを振りかざしてかんしゃくを起こす。
「オレの責任の取り方に、文句をつけるなぁ!」
 言って、ファングウルフに向けてフレイムアックスを振り下ろすフレイムコンボイたが――ファングウルフもそれをかわし、フレイムコンボイに飛びかかる!
「責任!? 『責任を取る』だと!?
 笑わせるな! そんな責任の取り方などあるか!」
「お前に、何がわかる……!
 リーダーとしてのこのオレの、何が!」
「わかるものか! オレはリーダーじゃない!
 だが!」
 咆哮し、ファングウルフを跳ね除けるフレイムコンボイだが、ファングウルフも譲らない。
「だがな、リーダーじゃなくても――リーダーじゃないからこそ、わかることもある!」
「戯言を!」
 咆哮を交わし、ガッシリと二人は組み合う――体格、パワーで劣るファングウルフだが、ここでフレイムコンボイに譲るワケにはいかなかった。
 だからこそ――組み合ったまま、ファングウルフはフレイムコンボイに告げた。
「忘れたのか!?
 お前は何のために――どうしてリーダーになったのかを!」
「――――――っ!」
 ファングウルフの言葉に、フレイムコンボイは思わず息を呑んだ。ファングウルフを押さえ込む腕の力が弱まり――そのすきを逃さず、ファングウルフはフレイムコンボイをふりほどくとその顔面に左拳の一撃をお見舞いする!
「オレはリーダーとなることを決意し、そのために戦ったお前をずっと見てきた! だからこそわかる!
 お前はその力で、『皆を守る』と言った! 『安心できる国を作る』と言った!
 今こそその力をアニマトロスの民を守るため――いや、全宇宙の民の平和のために使う時ではないのか!?」
「ぐぅ…………」
 こちらに対し、真っ向から告げるファングウルフの言葉に、フレイムコンボイは思わずうめき――
「………………なら、こうしよう」
 そんな二人の間に割って入ったのは恭也だった。どういうつもりなのかと二人が見守る中、彼は――

「フレイムコンボイが残るなら、オレも残る」

 そう告げるなり、その場にドッカリと腰を下ろす。
「き、恭也!? 何を言い出す!
 貴様はこの星のリーダーでも民でもない! 貴様は関係ないだろう!」
「いや、もう立派な関係者さ」
 驚き、声を上げるフレイムコンボイに答え、恭也は座ったまま彼を見上げ、
「オレはこの星のリーダー、フレイムコンボイのパートナーだ。
 パートナーとして、オレはお前を置いて、お前を見捨ててここを離れるつもりはない」
「しかし!」
 恭也の言葉にフレイムコンボイがなおも声を上げると、
「では、我輩も残ろうかの」
「恭也くんが残るなら、私も♪」
「ファングウルフも当然残るだろうし、あたしもだね」
 口々に言いながら、ブレイズリンクスと知佳、アルフもまた恭也の周りに腰を下ろす。
 そして――
「オレ達だって残ります!」
「フレイムコンボイ様! オレ達はいつまでもあなたの部下です!」
「お前達もか……!」
 ダイノシャウトやテラシェーバーまでそんなことを言い出した――留守を任せていた部下達もまたここに残ると言い出すのを聞き、フレイムコンボイは思わず視線を背け――
「――――――っ!?」
 気づいた。
 自分の背後――そこには、避難したはずのアニマトロスの民達が皆一様に戻ってきていたのだ。そして誰もが、フレイムコンボイに対して気遣わしげな視線を向けている。
 民達だけではない。ギガストームらの部下だったはずのボンブシェル達もだ。
「お前達……
 オレに、『生きろ』と言うのか……!」
 つぶやき、フレイムコンボイは空を――たまに切れ目を見せる暗雲の向こうに見え隠れしているグランドブラックホールをにらみつけた。
 そのまましばし考え――口を開く。

「……聞けぇっ!
 改めて言おう! オレはアニマトロスのリーダー、フレイムコンボイ!
 貴様らの命、オレが預かる――いいか! 誰ひとり、オレの許可なく死ぬことは許さん!
 たとえ今、アニマトロスがなくなろうとも、貴様らとこのオレがいる限り……」

 

「アニマトロスは、生き続ける!」

 

『ぅおぉぉぉぉぉっ!』
 フレイムコンボイの力強き宣言は、民衆に一様に力を与えた。巻き起こった歓声が文字通り神殿を揺るがす。
 と――そんなフレイムコンボイに声をかける者がいた。
「やっと思い出しおったか。
 なぜ力を欲したかを」
「先生……」
「お前のその力はアニマトロスの民のため、平和な国を作るためのものだということを」
 こちらへと振り向くフレイムコンボイにうなずき、サイドスはフレイムコンボイへと右手を差し出した。
「今こそ認めよう――お前がアニマトロスの真のリーダーだと」
「先生……!
 ありがとう、ございます……」
 一礼し、フレイムコンボイはサイドスの手を握り返し――そこにファングウルフが、ブレイズリンクスが手を重ねる。
 そして――フレイムコンボイは集まった民を見回し、告げた。
「オレはこれから、この星に災いをもたらした者と戦う!」
「言われるまでもねぇ!」
「オレ達だって、アニマトロスにその人ありと恐れられたギガストーム様の部下、バンディットロンのインセクトロン部隊だ!
 アニマトロス魂、見せてやるぜ!」
 力強く宣言するフレイムコンボイの言葉に、テラシェーバーやボンブシェルもまた興奮して拳握り締め、共に賛同する。
「フレイムコンボイ、みんな、考えていることは同じだ」
「おぅよ!」
 告げる恭也にうなずき、フレイムコンボイは一同に対し改めて続ける。
「オレ達の戦う本能は、この時のためにあったのだ!
 自分の故郷、仲間――誇りを守るために、オレは――いや、オレ達は力を授かったのだ!
 だから戦う! いくぜ、野郎ども!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
 告げるフレイムコンボイの言葉に民衆が歓声をもって答え――

「急げ! フレイムコンボイ!」

 その声は天空からフレイムコンボイ達へと投げかけられた。
 そして――
「もう、スロープ、もたない!」
「早くしないと、この橋が壊れちゃいます!」
「ボサッとしてないで、早くこっちに移りなさいよ!」
 すぐ上空にたどり着いたムーの甲板に現れたライガージャックの周りで、ダークライガージャックや愛、アルクェイドが口々に声を張り上げた。

「ライガージャック!」
「よし、OK! つかまえた!」
 電磁スロープ上の避難民の収容は順調に進んだ。最後のひとりをテラシェーバーから受け渡され、ライガージャックが告げる。
「残り、フレイムコンボイ達……」
 テラシェーバーもまたこちらに乗り移るのを確認し、ダークライガージャックがつぶやくが――時間の経過は残酷だった。エネルギーが完全に安定を失い、電磁スロープが轟音を立てて消滅してしまう。
「な、なんてこった……!」
「ここまでか……!」
 これではムーに乗り移れない。フレイムコンボイと共に神殿に取り残され、ファングウルフとサイドスが思わず声を上げ――
「………………ちょっと待て!」
 突然、恭也が一同を黙らせた。
「どうした?」
「…………何か動いてる。
 この感覚だと、大元は……」
 つぶやき、恭也が足元に視線を落とし、他の面々もそれにならい――突然、大地が鳴動を始めた。
「とうとうここまで地震が!?」
「いや、違う!
 これは……機械的な振動だ!」
 驚き、声を上げる知佳にブレイズリンクスが答えると、今度は大地が鳴動を続けたまま隆起し始める。
 周囲の大地が、そして神殿が次第に砕けていき、十数秒後――
 

 上部の岩片や神殿の残骸を地上へと振り落とし、新たなスターシップがアニマトロスの空へと浮上していた。
 

「こ、これは……!?」
「我々の祖先がこの星に来た時の、“始まりの船”に違いない……!」
「つまり……スターシップってこと……?」
 うめくフレイムコンボイに答えるサイドスに知佳が聞き返し――そのやり取りを聞き、恭也はかつてスピーディアのスターシップ“ムー”が発掘された時に美由希がつぶやいた言葉を思い出した。

『ってことは、アニマトロスのスターシップは……レムリアとか?』

「そうか……こいつが“レムリア”か」
「“レムリア”か……ふむ、良き名だ。
 この船の真の名は失伝して久しい――よし。この船は今日から“レムリア”だ」
 つぶやく恭也の言葉を聞きつけ、サイドスがつぶやくと、
「…………よぅし!」
 改めて握り締めた拳を振り上げ、フレイムコンボイは高らかに宣言した。
「いくぜ、野郎ども――」
 

「アニマトロス・サイバトロン、出撃だぁっ!」
 

 一方、地球でもライブコンボイやドレッドバスター達の指揮の下、被害を最小限に留めるため、懸命に被災者の救出作業にあたっていた。
「まったく、死者が出ていないのが不思議なくらいだな……
 このまま救助を続けるぞ」
「あぁ……
 けど、この状況もいつまでもつか……!」
 幸い、まだ命を落とした者はいないが、物的な被害はすでに天文学的レベルにまで達している――懸命の救助活動を続けながら、ライブコンボイの言葉に真一郎が答える。
〈被害の拡大速度も加速度的に増してるわ。
 このままじゃ――手に負えなくなるのも時間の問題よ!〉
〈逆に言えば、災害そのものよりもむしろ時間との勝負だということか……〉
 地球基地で状況を把握し、伝えてくるさくらに答えるのは、別の場所で志貴と共に救助にあたっているドレッドバスターだ。すぐに決断し、彼は回線をオープンに切り替えて呼びかける。
〈移民トランスフォーマーの諸君! そして地球のトランスフォーマー、モンスターハンターの諸君! 聞こえるか!?
 今この星は、きわめて危険な状況に置かれている! 全員で地球の人達を、安全な場所に避難させるんだ!〉
《了解!》
 打てば響くかのように返事が返ってくる――が、彼らの奮闘もむなしく、状況は悪くなる一方だ。
 地球だけでなく、ミッドチルダも――それにアニマトロスもだ。すでにアニマトロスは重力の渦に飲み込まれ、外部から観測できる範囲からはその姿を消してしまっていた。

「やはり、根本的な問題を取り除くのが近道のようね……」
 地球基地の指令室からその様子を見つめ、さくらは再びドレッドバスターやライブコンボイへと通信し、
「ドレッドバスター、ライブコンボイ、それに志貴さんと先輩も。
 こちらはいいですから、マスターガルバトロンからプラネットフォースを取り戻してください!」
〈了解だ!〉
 さくらの言葉にうなずき、ドレッドバスターはすぐに地球上の全トランスフォーマーへと呼びかける。
〈みんな、聞いてくれ!
 作戦変更――今から、マスターガルバトロン撃退に向かう!
 スペースブリッジを通り、至急プライマスの元に集合せよ!〉

「よし、じゃあ、その前に大事なことを済ませておくか」
「大事なこと?」
 さくらの提案でマスターガルバトロン撃退に目的を切り替えたとたん、ライブコンボイがそんなことを言い出した――意図が読めず、真一郎は思わず首をかしげるが、
「北極だったら、オレも行くぜ♪」
「オートボルト?」
 ライブコンボイに同意したのは、真下を走るオートボルト――車内ではやはり意図が読めず、エリスが首をかしげ――
「――――って、ちょっと待った!」
 彼女よりも一足早く、真一郎がライブコンボイ達の意図に気づいた。
「北極、って……まさか、“アイツら”をあてにするつもりか!?
 確かに、今のマスターガルバトロンを相手にするにはひとりでも戦力がほしいけど……それで“アイツら”が素直に言うことを聞くのか……?」
 悪くはないアイデアだが、正直現実味は乏しい――そう目下の懸念を口にする真一郎だったが――
「それでも、やるしかないでしょう?」
「マックス、ラジャー」
「ヘルスクリーム!? マックスビーも!?」
「オレ達だっているんだぜ!」
「そういうこと!」
「エイプフェイス、スナップドラゴン……お前達まで……」
 突然現れ、当然のように合流するヘルスクリーム達の姿に、真一郎とライブコンボイがそれぞれ声を上げる。
「“アイツら”の説得なら、私達がしてあげるわよ♪
 生まれた星は違っても同じデストロン同士――あなた達よりは、話が通じるはずよ♪」
「よし、頼もう。
 時間がない――急ぐぞ!」
 ヘルスクリームの申し出は正直ありがたい――素直に厚意を受け取ることにして、ライブコンボイは北極を目指してそのスピードを上げた。
 

「お待たせ!」
 各地の救援を切り上げ、ミッドチルダ・サイバトロンの、ウィザートロンの面々が次々にサイバトロンシティに帰還していく中、最後に戻ってきたのは最も遠方に出ていたジャックプライムだった。息を切らせて集合場所に指定されていた格納庫へと駆け込み――
「――――――っ!?」
 そこに収められていた、1隻のスターシップの威容を前に思わず言葉を失った。
「これが“ミッドガルド”……
 初めて見た……」
 感嘆の声が口をついて出るが――今はそれどころではない。すぐに周囲を見回し、出港準備を指揮しているエルダーコンボイやその傍らに控えるフェイトの元へと駆け寄る。
「父上!」
「ジャックプライム! 遅いよ!」
「これで全員そろったようだな」
 声をかけるジャックプライムにフェイトが答え、エルダーコンボイは全員の集合を確認してつぶやく。
「これでみんなを逃がすの?」
「当初はその予定だったが……事情が変わった」
 尋ねるジャックプライムに答え、エルダーコンボイはスターシップ“ミッドガルド”を見上げた。
「作戦変更の連絡があった――このまま救助を続けていてもらちがあかない。それよりもマスターガルバトロンを倒し、プラネットフォースを取り戻してグランドブラックホールを消滅させる方が早い」
「だから、ミッドチルダのチームはこの船でプライマスのところに帰ろう、ってことになったの」
「ふーん……」
 エルダーコンボイとフェイトの言葉に、ジャックプライムはミッドガルドを見上げてしばし考え――エルダーコンボイに尋ねた。
「それで、指揮は?
 父上? それとも父さん?」
「セリフだけ聞くとややこしいな……」
 ジャックプライムの言葉に思わず苦笑し、エルダーコンボイはその問いに答えようと口を開き――しかし、それよりも早くそんな彼らのもとにやってきたメガザラックが告げた。

「お前だ、ジャックプライム――いや、キングコンボイ」

「えぇっ!?
 ぼ、ボクが!?」
「そうだ」
 驚き、自分を指さして聞き返すジャックプライムだが、メガザラックはあっさりとそう答える。
「け、けど、ボクは前線で戦うし、そもそもみんなをまとめることなんて……」
 いきなりの大役だ、不安になるのもムリはない――思わず声を落としてつぶやくジャックプライムだが――
「心配するな」
 そんな彼の肩を叩き、メガザラックは告げた。
「お前は“闇の書”との戦いやギガロニアでの旅路の中で、戦士として、トランスフォーマーとして大きく成長した。
 今のお前を、リーダーに不適格だなどと、言える者などいはしない」
「そうだよ、ジャックプライム!
 ジャックプライムは、立派にミッドチルダのトランスフォーマーのリーダーとして戦ってきたよ!」
 メガザラックの言葉に同意し、フェイトもまたジャックプライムに駆け寄って告げる。
「一緒に――みんなの力を合わせて戦おう!
 ジャックプライムなら――きっとそれができるよ!」
「フェイト……」
 フェイトの言葉に、ジャックプライムはしばし何も言うことができず――やがて、視線をそらしてつぶやくように告げた。
「……パートナーのキミにそんなこと言われちゃ、やらないワケにはいかないじゃない」
「そうこなくちゃ!」
 告げるフェイトに答え、ジャックプライムはミッドガルドの出航準備を続ける一同を見回し、
「みんな! 急いで!
 準備ができ次第出航、なのは達を助けに行くよ!」
『了解!』
 

 しかし――彼らの到着を待たず、プライマスの元では事態が大きく動き出そうとしていた。
 

「レーダーに反応!」
 最初に気づいたのはバックギルドだった。メインモニターにレーダーが捉えたその存在を映し出し――
「あれは……マスターガルバトロン!?」
「くっ、プライマスが動けない時を狙ってきたか……!」
 驚くシオンのとなりでファストガンナーがうめくと、ギャラクシーコンボイはなのはへと向き直り、
「なのは……
 おそらく戦場となるのはプライマスの表面だろう。プライマスが空気は維持してくれているだろうが……いけるか?」
「はい!」
 彼が心配してくれている、その理由はわかっている――答えて、なのはは待機モードのレイジングハートを手に取った。
「ベクタープライムさんや、スーパースタースクリームさん……
 二人のためにも、マスターガルバトロンさんは何が何でも止めないと!」
「よし、行くぞ!」
 なのはの言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイは一同を見渡し、告げた。
「総員出撃!
 マスターガルバトロンから、プラネットフォースを奪還する!」
 

「マスターガルバトロン!」
「来たか、ギャラクシーコンボイ……」
 スカイドームを出て、力強くその名を呼ぶギャラクシーコンボイの姿に、マスターガルバトロンは不敵な笑みと共にこちらへと振り向いた。そのとなりにいるなのはの姿に一瞬だけ動きが止まるが――気にせず続ける。
「わざわざ、そろってやられに来るとはな……
 お前達は手を出すな。ギャラクシーコンボイ達はオレが倒す!」
 背後のクロミア達に告げると同時、マスターガルバトロンはすぐさまこちらに向けて雷撃を放った。襲い来る破壊の渦をかわし、ギャラクシーコンボイとなのはは戦闘態勢に入り――
「大丈夫か、ギャラクシーコンボイ!」
 そこへ駆けつけてきたのはビクトリーレオだ。ヴィータと共に彼らの元へと舞い降りてくる。
「リンクアップだ! 一気に決めるぞ!
 はやて!」
〈うん!〉
 告げるヴィータの言葉に、はやては通信の向こうでうなずき――
《“ライト・リンクアップ・ナビゲータ”、起動するのです!》
 はやてから頼まれたのだろう、リインフォースの声がリンクアップの準備完了を伝えた。

『ギャラクシーコンボイ!』
 なのはとギャラクシーコンボイの叫びが響き、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンを分離。両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、
『ビクトリーレオ!』
 次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。
 そして、ビクトリーレオの下半身がギャラクシーコンボイの両足に合体し――
『リンク、アップ!』
 4人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身がギャラクシーコンボイの胸部に合体。両腕部がギャラクシーコンボイの両肩に露出したジョイントに合体する!
 最後にビクトリーレオのバックユニットがギャラクシーコンボイの背中に装着され、4人が高らかに名乗りを上げる。
『ビクトリー、コンボイ!』

「まずはあいさつ代わりだ!
 ビクトリー、キャノン!」
 咆哮と同時に閃光一発。ビクトリーレオの操作で放たれ、マスターガルバトロンへと襲いかかったビクトリーキャノンの閃光だが、
「この程度!」
 マスターガルバトロンには通じない。目の前に手をかざし――彼の“力”が渦を巻き、ビクトリーキャノンの閃光を力任せに弾き飛ばす!
「レイジングハート!」
〈All right!
 Divine Buster!〉

 なのはの呼びかけにレイジングハートが答え、ディバインバスターが火を吹くが――こちらは防御すらしない。真っ向から受けきり、マスターガルバトロンはとっさに離脱機動を取るなのはに向けて雷撃をまき散らす!
「ならば――!
 ヴィータ!」
「はいよ!
 グラーフアイゼン!」
〈Explosion!
 Gigant form!〉

 意図はすぐに読めた――ビクトリーコンボイの求めに応じ、ヴィータはグラーフアイゼンのカートリッジをロード、巨大な鉄槌ギガントフォルムへと変化させ――
「ほらよ!」
「助かる!」
 ビクトリーコンボイへと投げ渡した。ヴィータと比べれば巨大でも自分と比べればちょうどいいクラスの鉄槌を受け取り、ビクトリーコンボイは渾身の力でマスターガルバトロンめがけて振り下ろし――
「そんな攻撃が――このオレ様に通用するものか!」
 やはりダメだ。マスターガルバトロンは再び目の前に防壁を展開。グラーフアイゼンもろともビクトリーコンボイを弾き飛ばす!
 

「みんな! 準備はいいか!?」
『おぉぉぉぉぉっ!』
 スピーディア、かつてプラネットフォースが納められていた神殿の目の前のメインストリート――ビークルモードでエンジンをふかし、尋ねるニトロコンボイの言葉には星中から避難し、集まってきたスピーディアのトランスフォーマー達が歓声をもって答える。
「よぅし――いくぞ!
 耕介! カウントを!」
「あぁ!
 5!
 4!
 3!
 2!
 1!」
 ニトロコンボイに答え、耕介は大声でカウントを取り――
「――スタート!」
 その言葉と同時、全員が一斉にスタートを切った。地震の難を逃れているハイウェイを高速で駆け抜け、スターロードを経てスペースブリッジへと飛び込んでいく。
 行っているのはもちろんスピーディアからの避難、そして対マスターガルバトロンのための戦力の集結だ――だが、なぜそれがこんなレース形式になっているのかと言えば――
「誰が一番にセイバートロン星に着くか競争だ!
 最初の約束どおり、上位のヤツには次のグレートレース、ファイナルレースへのシード権をくれてやる!」
『オォォォォォッ!』
 こういうことだ。スピーディアの住民ならば誰もが憧れるファイナルレース――そのシード権をニトロコンボイは条件として提示したのだ。自分の星の価値観をうまく利用したニトロコンボイの作戦勝ちである。
「しっかし、ホントにいいのか? そんな約束しちまって。
 ヘタすりゃ次のグレートレース、えらいことになるぞ」
「何、心配はいらないさ」
 となりを走り、告げるエクシゲイザーに対して、ニトロコンボイは笑いながら答えた。
「どうせ、上位はオレ達が独占だ」
「…………なんだか、サギの匂いがするんだけど……」
「気のせいだ。
 それより――油断しているとお前達も出遅れるぞ!」
 つぶやくすずかに答え、ニトロコンボイはスペースブリッジの出口を目指して加速した。
 

 そして、地球からセイバートロン星宙域を結ぶこちらのスペースブリッジでも――
「ドレッドバスター! 志貴!」
 先行してプライマスの元へと向かっていたドレッドバスター達に声をかけ、ライブコンボイが真一郎やオートボルト達と共に追いついてきた。ヘルスクリーム達も一緒だ。
 だが、追いついてきたのは彼らだけではなく――
「お、お前ら!?
 火山島でオートボルトに封印されたはずじゃ!?」
 なんと、封印されたはずの地球デストロン達がそろってついてきていた。思わず声を上げる真一郎だが――そんな彼にはスナップドラゴンやエイプフェイスが答えた。
「宇宙をどうこうしちまおうなんて、気に食わないんだよ!
 オレ達も、こいつらもな!」
「そりゃ、オレ達は、お前らから見れば悪党だがな――お前らの決めたルールから自由になりたくて戦っただけだ!
 オレ達ゃ自由が好きなんだよ――それを奪おうとするヤツがいるんなら、誰であろうとオレ達の敵だ!」
 そう告げると、エイプフェイスは地球デストロン達に向けて音頭をとった。
「野郎ども! オレ達の力、支配者面して偉そうにしてる連中に見せつけてやろうぜ!」
『おぉぉぉぉぉっ!』
 

「ここまでのようだな、ギャラクシーコンボイ、小娘」
 すでに、受けたダメージでリンクアップも解けてしまっている――倒れるギャラクシーコンボイや彼に駆け寄るなのはに、マスターガルバトロンはデスマシンガンを向けた。
「なかなかに楽しめたが――それももうここまでだ。
 これで……最後だ」
「く………………っ!」
 告げるマスターガルバトロンの言葉に、ギャラクシーコンボイはとっさになのはをかばい――

「そう簡単にはいかねぇぜ、マスターガルバトロン!」

『――――――っ!?』
 突然の声は、その場にいる誰のものでもなかった。敵味方関係なく、誰もが声の主の姿を探し――
「あぁっ! あそこ!」
 なのはが指さした先――上空には、アニマトロスから帰還したムーとアトランティスの姿があった。
 そして――
「待たせたな、ギャラクシーコンボイ!」
「総司令官! 我輩達全員、マスターガルバトロンを倒すためにやってきた!」
「アニマトロスの民、全員まとめてサイバトロンだ!」
 高らかに告げるフレイムコンボイの両脇で、ファングウルフとブレイズリンクスもまた力強く宣言する。
「アニマトロスのトランスフォーマーを、なめるんじゃねぇ! マスターガルバトロン!」
「チッ…………!」
 仕上げとばかりに言い放つフレイムコンボイの言葉に、いいところでジャマされたマスターガルバトロンは思わず舌打ちする。
「フレイムコンボイ達か!」
「じゃあ……お兄ちゃん達も!?」
 声を上げるビクトリーレオの言葉になのはが顔を輝かせると、

「ちょっと待て! フレイムコンボイ!」
「キミにだけいいところはもっていかせないよ!」

 ニトロコンボイやライブコンボイらも合流。さらに――

「すまん! 遅くなった!」
「オレ達の出番、まだあるよな!?」

 メガロコンボイ、メトロタイタンらギガロニア組もパンゲア、アトランティスで合流。となれば残る“彼ら”も――

「じゃじゃーんっ!
 なのはを守る愛の戦士、キングコンボイ!
 ミッドチルダのスターシップ“ミッドガルド”で只今参じ
――って、痛っ! 痛いよ、フェイト!」

 最後のひとりはやっぱり最後までキメられない。ムキになってバルディッシュを振るうフェイトに追い回され、すでにキングフォースとの合体を済ませているジャックプライム――キングコンボイは“ミッドガルド”の甲板上を逃げ回る。となりのメガデストロイヤーのブリッジでは、今頃メガザラックが頭を抱えていることだろう。もちろん息子のふがいなさに。
「みんな……!
 来てくれたんだ……!」
 次々に駆けつけてくる仲間達。あまりの数に未だ集合が終わらないその光景になのはがつぶやくと、
「………………フンッ。興が削がれたわ」
 言って、マスターガルバトロンはなのは達に対して背を向けた。
「そんなにムダなあがきがしたいのなら、グランドブラックホールの奥まで追ってくるがいい。
 そこまで、たどり着けるのならな……」
「ま、待ってくださいよ! マスターガルバトロン様ぁっ!」
 あわててガスケットが声を上げ、クロミア達もまた飛び立ち――彼らを引き連れ、マスターガルバトロンはグランドブラックホールの奥へと離脱していった。
「マスターガルバトロンさん!」
「待て、なのは!
 今は体勢を立て直すのが先決だ!」
 とっさに後を追おうとするなのはだが――そんな彼女をギャラクシーコンボイがいさめる。
「今追っていっても、キミだけではクロミア達の妨害までは防げない。
 本当にヤツを止めたいのなら――みんなで力を合わせて、真っ向から向き合える状況を作らなくては……」
「うん……そうだね……
 じゃあ、まずはみんなと合流しよう!」
 言って、なのはは魔力障壁で自らを宇宙の真空から保護し、ギャラクシーコンボイ達と共に上空に集結したスターシップ群の上へと舞い上がる。
 そんな彼女達を迎えるのは、各惑星の頼もしいリーダー達――
「オレはやるぜ!」
「ボクも!」
「みんなウズウズしてるんだ!」
「さっさと終わらせちまおう!」
「なのはや――この宇宙を守るんだ!」
 フレイムコンボイ、ライブコンボイ、ニトロコンボイ、メガロコンボイ――そしてジャックプライム。
 プラネットフォースを――プライマスの命を伝えてきたリーダー達の言葉に、フェイト達パートナーを筆頭にみんな一様にうなずいてみせる。
「わたし達も、当然戦うで、ビッグコンボイ!」
「当たり前だ。
 オレが守るのははやてだけで十分だ――宇宙を守る使命なんか、マスターガルバトロンを叩きつぶしてさっさと終わりにしてやるさ!」
 そして、彼らも忘れてはいけない。はやての言葉にうなずき、ビッグコンボイもまたヴォルケンリッターを代表して宣言する。
 と――そんな彼らを、突然まばゆい光が包み込んだ。
 そして告げるのは、光と共に彼らの輪に加わった最後のひとり――

 ――皆の思いがひとつとなる時は今なのだ――

 ――すべての者よ、力を!――

「はい!
 プライマスさんも、一緒に戦いましょう!」
 答えるなのはにプライマスがうなずき――光はその大きさを増した。5隻のスターシップを包み、飲み込んでいき――光の消えた後には、アースラやマキシマス、メガデストロイヤーを従えるかのように、巨大なスターシップがその威容を見せつけていた。

 ――サイバトロン最強の艦……“ノア”だ――

「ノア……って、あの箱舟の……?」
「世界の滅亡に立ち向かう、命の船……
 なるほど、確かにサイバトロンの旗艦の名にふさわしい」
 告げるプライマスの言葉に美由希と士郎がつぶやき、
「よぅし、行こう、みんな!」
 一同を導くように、なのははグランドブラックホールの中心へと向き直った。
 そして、ギャラクシーコンボイと顔を見合わせ――二人は声をそろえて宣言した。
 

『サイバトロン戦士――反撃、開始!』
『了解!』


 

(初版:2007/08/04)