フレイムコンボイを筆頭とした各惑星のプラネットリーダー達の加勢で窮地を脱したなのは達。
プライマスの力によって5隻のスターシップが合体した“ノア”に乗り、一路グランドブラックホールの中心を目指していた。
「分析結果が出ました。
コアの内部はグランドブラックホールの外郭と同じく強力な重力場の内側に重力の安定域が存在しています。
取り込んだものを消滅させている、真の意味での中枢核は、そのさらに奥の方にあります。よほど深入りしなければ押しつぶされることはないでしょうが――あまり近づけば周辺の超重力の余波につかまり、そのまま中枢核まで引きずり込まれることになります。十分に注意してください」
「大気も確認できますね……おそらくは、取り込んだ惑星の大気が重力に捕まって収束したものでしょう。
相当量の大気がかき集められているためか、かなり高濃度ですが……デバイスを持つなのは達なら、周囲の大気組成の変換を行うことで活動が可能です」
「そうか……」
バックギルドとファストガンナーの言葉に、ギャラクシーコンボイはうなずき、前方に見えるグランドブラックホールのコアを見据える。
「では、これよりグランドブラックホールのコアに突入する!」
『了解!』
ギャラクシーコンボイの言葉に一同がうなずき、サイバトロン艦隊はノアを先頭としてグランドブラックホールのコアへと突入していく。
「超重力外郭、突破。重力安定域に入ります!」
「さて、マスターガルバトロンはどこにいる……?」
報告するパーセプターの言葉に、ビッグコンボイは前方の重力の渦を見渡し――
「探す必要などないぞ、サイバトロンのザコども」
そんな彼らの正面に、部下を引き連れたマスターガルバトロンは悠然と佇んでいた。
第85話
「決戦・グランドブラックホールなの!」
「こんなところまでよく来たな、ギャラクシーコンボイ」
「マスターガルバトロン、観念してプラネットフォースを渡すんだ!」
まるで客を相手にするかのように、悠々とそう告げるマスターガルバトロンに対し、プラネットフォースを返すよう勧告するギャラクシーコンボイだったが――
「フンッ」
そんな彼の言葉を鼻で笑い飛ばし、マスターガルバトロンは告げた。
「わかってきたじゃないか、ギャラクシーコンボイ」
「何…………!?」
「相手を従わせるものは力だ。
圧倒的な力があれば、欲しいものは手に入る」
聞き返すギャラクシーコンボイに対し、マスターガルバトロンは手にしたプラネットフォースを頭上にかざし、
「そうだ――相手を従わせるのは、圧倒的な力だ!」
その言葉と同時――マスターガルバトロンの意志に従い、プラネットフォースが“力”を放った。背後にいるクロミア、アームバレット、ガスケットを包み込み――瞬く間に巨大化させる!
「な、何が起きたの!?」
突然の巨大化に驚くクロミアに、マスターガルバトロンは余裕の笑みを浮かべて告げた。
「お前達はプラネットフォースの力で巨大化したのだ。
パワーも上がっているはずだ」
「まじ!?」
「ボクだけなんかちっけぇ……」
驚くアームバレットのとなりで、サイズ比がそのままに巨大化したため比較的小柄なガスケットがうめくと、
「フォースチップ、イグニッション!」
その力を早速試したのはクロミアだ。フォースチップをイグニッションし――
「ファントム、ウェーブ!」
展開されたランチャーから放たれた閃光が、傍らの巨大な小惑星を粉々に爆砕する!
「な、なんて威力なの……!?
砲撃はわたしの専売特許なのに!」
「って、怒るのはそこ!?」
「まぁ、なのはだし……」
強力な破壊力を見せつけたクロミアにライバル意識を燃やすなのはにアリシアがツッコみ、そのとなりでフェイトがややあきらめ気味につぶやく。
だが――マスターガルバトロンの示威行為は続く。再びプラネットフォースをかざし、
「それに――こんなこともできる!」
その言葉と同時、マスターガルバトロンの身体から漆黒の“何か”が吹き出した。
その“何か”は、なのは達も見覚えのあるもので――
「あれは――セイバートロン星でマスターガルバトロンを復活させた!」
「あぁ……
間違いない、あれは“黒い霧”だ……!」
声を上げるユーノにトゥラインが答えると、“黒い霧”はプラネットフォースの“力”を受けてその勢いを増し、ガスケット達を包み込む。
かつてのセイバートロン星ではアームパレットを転生させ、“暗黒三騎士”を誕生させた“黒い霧”だ。何が起きるのかと一同が警戒する中――今回起きた現象は後者だった。ガスケット達を取り込むことなくその場を離れた“黒い霧”は凝縮され、漆黒のガスケット、アームパレット、クロミアを作り出す。
だが――問題はその数だ。大きさこそ巨大化前のそれだが、“黒い霧”はその代わりに数を大量に作り出した。マスターガルバトロンや巨大化したガスケット達の周囲は、生み出された無数の分身体によってあっという間に埋め尽くされてしまう。
「これが『圧倒的な力』というヤツだ。
観念してオレに従え、ギャラクシーコンボイ!」
「残念だが、そういうワケにはいかない!」
これで数の差はなくなり、さらにこちらにはプラネットフォースの力で巨大化した部下が3名――余裕の態度と共に降伏を勧告するマスターガルバトロンだったが、ギャラクシーコンボイはそれを真っ向から突っぱねた。
「我々が信じている力は、お前の信じているものとは違う!
お前の言う『力』に屈するワケにはいかない!」
「そうか……ならば、叩きつぶすまでだ!」
ギャラクシーコンボイの言葉に、マスターガルバトロンはどこか楽しそうに答え――同時、
「ぜんぜん負ける気がしないわよ!」
「オイラもやっちゃうもんねぇっ!」
「でっかくなっても一番ちっけぇっ!」
クロミア達が動いた。散開し、自らの分身体達を伴い、一斉にサイバトロン艦隊へと襲いかかる!
対し、サイバトロン側も数に物を言わせて彼らに襲いかかるが――
「へへぇ〜んっ! チョロイチョロイ!」
アームバレットの腕の一振りが、自分に迫るトランスフォーマー達を力任せに薙ぎ払う!
対し、遠巻きに取り囲み、射撃での攻撃に切り替えるが――
「パラパラパラパラぁ〜っ♪
やーいやーい、みんなボクよりちっちぇーぞぉ♪」
そんな彼らにはガスケットが襲いかかった。迫り来るビームをものともせずに突撃。手当たり次第に蹴散らしながらサイバトロン軍の間を駆け抜ける!
「いっくわよぉ♪
えいっ!」
クロミアはビークルモードにトランスフォームし、底部から噴出するエネルゴンビームで宇宙空間を駆け抜ける――そのまま背中のランチャーを乱射し、後を追ってくるサイバトロン軍を吹き飛ばす!
だが――
「これならどうだ!」
そんな彼女に襲いかかったのはダイノシャウトとテラシェーバーだ。クロミアのランチャーにしがみつき、その動きを封じ込める!
「何いきなり抱きついてんのよ!
離れなさいよ!」
「はい、そうですか、って素直に聞けるか!」
「ちょっと、どこ触ってんのよ、いやらしい!」
「これ、お前の手持ち武器だろうが!?」
わめくクロミアにダイノシャウトが、テラシェーバーが口々にツッコむが――
「こんっ、のぉっ!」
業を煮やしたクロミアはランチャーを振り回し始めた。勢いに任せ、二人を思い切り投げ飛ばす!
「私を落とそうなんて、100万年早いのよ!」
吹っ飛ぶ二人に言い放ち、クロミアは気を取り直して次の獲物を狙――おうとしたが、そんな彼女に新たな攻撃が襲いかかる!
放ったのは――
「今度はオレ達の相手をしてくれよ、クロミア」
「ロードストーム!?
あんた、スタースクリームのとこにいたんじゃ……裏切ったの!?」
「おいおい、お前だって元々スタースクリーム様のところの所属だったろうが。人のこと言えるのかよ?」
とっさにロボットモードとなって攻撃を回避し、驚くクロミアに言い返しながら攻撃を仕掛けるロードストームだが、クロミアも彼の放ったビームをかわし、逆にランチャーからビームを放って応戦する。
「私は強い男が好きなのよ!」
「価値観がハッキリしてるとこ、嫌いじゃないぜ」
「あんたなんかに好かれたくなんかないわよ!」
「連れないな!」
「強引なのは、嫌いじゃないけど――ぜんぜん好みじゃないのよね!」
言い返し、クロミアは再びビークルモードにトランスフォーム。突撃し、ロードストームをはね飛ばす!
「ごめんあそばせ♪」
そうロードストームに言い残し、クロミアは次の獲物を探して――
「そうはいかないぜ!」
「裏切り者、こっちにも参上♪」
そんな彼女の前に、晶をライドスペースに乗せたブリッツクラッカーが立ちふさがった。
「ブリッツクラッカー!? あんたまでなんで!?」
「ンなの、決まってんだろうが……!
あんなの、オレの知ってるマスターガルバトロン様じゃねぇ! だから止めるんだ!」
まさかマスターガルバトロン一筋の自分が立ちはだかるとは思っていなかったのだろう。驚き、まともにうろたえるクロミアにブリッツクラッカーは力強く言い放つ。
「けど、その前にまずはジャマ者の片づけ!
その手始めがてめぇ、ってワケだ! 覚悟しやがれ、クロミア!」
「やれるもんならやってみなさいよ!」
「…………フンッ、せいぜい派手に暴れるがいい」
そんな光景を眼下に眺め、マスターガルバトロンはグランドブラックホールの中心に向けて振り向き――
「マスターガルバトロンさん!」
突然の声に動きを止めた――わずかに振り向き、自分を追ってきたなのはへと視線を向ける。
「マスターガルバトロンさん! もう、こんなことはやめてください!
宇宙を消したりなんか……そんなことをして、何になるんですか!?」
告げるなのはの言葉に、マスターガルバトロンはしばし視線を落とし――告げた。
「貴様がそれを言うか……
オレにこの道を選ばせた、貴様が……!」
「え………………?」
いきなり何を――思わず動きを止めるなのはだが、マスターガルバトロンはかまわず動いた。今度こそなのはに背を向け、グランドブラックホールの中心を目指す。
「マスターガルバトロンさん!」
あわててその後を追おうとするなのはだが――
「おっと、そうはいかないわよ!」
そんな彼女の前には、自分を追ってくるブリッツクラッカー達を蹴散らしてきたクロミアが立ちふさがる。
「あなたの相手はわ、た、し♪
消えて、なくなれぇっ!」
咆哮と同時にランチャーを斉射――ばら撒かれた無数のエネルギーミサイルが、全方位からなのはへと襲いかかる!
「こっ、このぉっ!
チョロチョロしやがって!」
ノアの甲板上では、アームバレットがビークルモードで大暴れ――といいたいところだったが、現実はそうも行かなかった。周囲を走るオートローラーズやインチプレッシャー達に足元をかき回され、逆に機動性を削がれてしまっている。
と――
「スピーディアのトランスフォーマーの戦いにおいて――」
「小回りが利かなくなるのは、致命傷だ!」
艦橋を駆け下り、真上から襲いかかるのはニトロコンボイだ。耕介と共に叫び、アームバレットの頭上でロボットモードにトランスフォーム、真上から攻撃をかける!
「考えなしに巨大化したお前さんが、うかつだということじゃ!」
「えぇい!」
さらにオートランダーとスキッズが襲いかかった。目の前でロボットモードにトランスフォーム、すれ違いざまに連撃をもらい、アームバレットはバランスを崩してしまう。そして――
「オレ達は何があっても――スピードが命!」
インチプレッシャーの体当たりでアームバレットはついにスピン。体勢を立て直すこともできずに高速で全身を振り回し――
『フォースチップ、イグニッション!
ロディマスショット!』
ロディマスブラーと美緒が、とどめの一撃を叩き込む!
「こん、のぉっ!」
一方、ガスケットはギガロニア組や地球組の合体戦士達と交戦中。ブレンダルやガーディオンの打撃をかわすが、メガロコンボイ、モールダイブ、そしてダイリュウジンと立て続けにとび蹴りを食らう。
プラネットフォースのパワーで巨大化し、戦闘力を格段に上げたガスケットだったが――元々小さかった彼と元々大きかったギガロニア組との戦いだ。その体格差はあまり大きなものではない。その上――
「うぉおりゃあっ!」
さらにデカいヤツまでいる。グランダスに組み付かれ、ガスケットは力任せに投げ飛ばされ――
「一本足、打法ぉぉぉぉぉうっ!」
吹っ飛ぶ先に待ちかまえていたのはメトロタイタンだ。所詮は彼も建築惑星ギガロニアの生まれか、装備品にしっかり含まれていた巨大シャベルをバット代わりに振りかぶり――ガスケットを打ち返す!
そして――
『フォースチップ、イグニッション!』
「ミキシング、キャノン!」
「エグゾースト、ショット!」
すかさずブレンダルが追撃をかけるが――これにはガスケットも反応が間に合った。エグゾーストショットでミキシングキャノンの一撃を撃墜する。
「くそっ、デカブツ組相手じゃ大きさが微妙でムカツくぜ!
アームバレット! そっちと交代しろ!」
言って、ガスケットはノアの甲板上で戦っているはずのアームバレットに視線を向けるが――
「…………ムリですね、はい」
アームバレットはすでにミノムシっぽく艦橋から吊るされ、投石(砲撃だと彼を拘束しているバインドまで破壊してしまうからだ)の的になっていて――
5分後、ガスケットは的の仲間入りを果たしていた。
「フォースチップ、イグニッション!
ファントムウェーブ、乱れ撃ち!」
「レイジングハート、カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!
Blitz shooter!〉
「ギャラクシー、キャノン!」
咆哮し、ファントムウェーブを雨あられと撃ち放つクロミアだが、なのはとギャラクシーコンボイも負けてはいない。それぞれの広範囲砲撃で迫り来るエネルギーミサイル群を薙ぎ払う。
「やるわね!
じゃあ、これならどう!?
ファントムウェーブ乱れ撃ち――×2!」
対し、クロミアはさらにファントムウェーブを乱射し――さらにそのエネルギーミサイルが分裂、無数の弾幕となってなのは達に襲いかかる!
『フォースチップ、イグニッション!』
〈Force-tip, Ignition!〉
「イグニッション――パニッシャー!」
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」
すかさずフォースチップをイグニッション。より広範囲の砲撃で弾幕を蹴散らしにかかるなのはとギャラクシーコンボイだが――止めきれない。こちらの弾幕をすり抜けたエネルギーミサイルが迫るが、
《危ない、二人とも!》
それにはプリムラが対応してくれた。スケイルフェザーでエネルギーミサイルを叩き落し、なのはとギャラクシーコンボイを守る。
「強い……!」
「前よりも、遥かに……!」
《こっちの予測データよりも増幅率が高い……!》
「思えば、初めて会った時から気に食わなかったのよね、あんた達。
できれば、あたしの手で叩き落したいと思っていたのよ!」
うめくなのは達に言い放ち、クロミアはランチャーをかまえ――
「そいつは――奇遇ね!」
アリサの言葉と同時――彼女を乗せ、飛び込んできたバックギルドが背後からクロミアを蹴り飛ばす!
「あたしも、あなたに対して同じこと考えてたわよ!」
「そういうこと!」
「ったく、いきなりジャマすんじゃ――!」
告げるアリサとバックギルドの言葉に、クロミアは二人の方へと振り向いて抗議の声を上げるが、
「後方不注意!」
「ケガ一生!」
そんなクロミアの背に、すずかとエクシゲイザーの放ったダブルエクスショットが炸裂する。そして――
「ゴチャゴチャうるさいよ、お前!」
「まったくだな」
真雪を乗せ、ガードシェルが合体したデバステイターが参戦。共に追いついてきた志貴とドレッドバスターがなのは達に告げる。
「総司令官、なのは!
ここは我々で食い止めます!」
「二人は早く、マスターガルバトロンを追うんだ!」
「はい!」
「すまない!」
「待ちなさい! 逃がすもんですか!」
うなずき、グランドブラックホールの中心を目指すギャラクシーコンボイとなのはにクロミアが声を上げるが――
「あなたの相手は――」
「我々だ!」
シオンとファストガンナーが吼え、みんなで彼女を取り囲む。
「上等よ!
相手になってあげるわ!」
自分の動きを阻まれ、怒りもあらわにクロミアが言い放ち――
『あと5分……』
「…………はい?」
一同が口をそろえてつぶやいたその一言に、クロミアは思わず眉をひそめた。
『あと5分……』
「ち、ちょっと? 何の話?」
『あと5分……』
「ねぇ! 『あと5分』って何が!?」
『あと5分……』
「何なのよぉっ!」
そんなものはわかりきっている。
すなわち――
クロミアが的になるまでの残り時間だった。
「ギャラクシーコンボイ!」
「なのはちゃん!」
クロミアを仲間達に任せ、グランドブラックホールを目指すなのは達――そんな彼女達の後を追い、ビッグコンボイとはやてが二人に声をかける。
見れば、彼らだけではない。ニトロコンボイと耕介、ライブコンボイと真一郎、フレイムコンボイと恭也、メガロコンボイとリンディ、そしてキングコンボイとフェイト――各惑星のプラネットリーダーとそのパートナーが勢ぞろいしている。
「『プラネットフォースは、プラネットリーダーが取り返して来い』ってみんなに言われてな」
「一緒に行かせてくれないか?」
「どーせ、もう向こうで残ってるのは分身体だけだしね。残っててもしょうがないでしょ?」
「っていうか……連れて行ってくれなきゃ、ここまで来た意味がないんですよ。
エイミィに代理を頼んで、飛び出してきたんですから♪」
「みんな……」
「……ありがとうございます!」
ニトロコンボイとライブコンボイ、そしてキングコンボイやリンディの言葉に、ギャラクシーコンボイのとなりでなのはが元気に一礼して礼を言う。
「よぅし――いくぞ!」
『了解!』
告げるギャラクシーコンボイの言葉に一同がうなずき、なのは達はグランドブラックホールの中心に向けて進撃を再開した。
「………………?
あれは……」
中心部を目指して進むことしばし――なのは達の前方に何かが見えてきた。
超重力の渦に包まれた惑星だ。あれは――
「アニマトロス……!
必ず、オレが救い出してやる……!」
囚われた故郷の姿を前に、フレイムコンボイは決意も新たにつぶやいて――
「……けど……」
ライブコンボイのライドスペースで、真一郎は唐突にその疑問を口にした。
「どうして、マスターガルバトロンは宇宙を消滅させようなんて考えたんだろう……」
「そりゃ、やっぱりノイズメイズ達に暴走させられたからだろ?」
ニトロコンボイのライドスペースで答える耕介だったが――真一郎は首を左右に振って答えた。
「いくら暴走してる、って言っても……今までのことを統合するなら、マスターガルバトロンはただ単に破壊衝動だけが暴走してるだけで、理性はまだ残ってたはず。
アイツだってバカじゃない。破壊衝動に従っていることを考慮したって……ううん、破壊衝動に従ってるからこそ、少し考えればわかるはずです」
「…………『宇宙を消滅させたら、破壊衝動をぶつける先がなくなる』……ですか」
尋ねる恭也に、真一郎は無言でうなずいた。
「破壊衝動、っていうのは、自分の手でものを破壊するからこそ満たされるものでしょう?
なのに、マスターガルバトロンはただグランドブラックホールを暴走させて、宇宙そのものを消滅させようとしている。
自分の手では何ひとつとして壊さずに……」
「何か……アイツ自身の中の“何か”が、破壊衝動を超えてすべての消滅を望んでる、ってことか?」
「え………………?」
真一郎に尋ねるフレイムコンボイの言葉に、なのはは先程マスターガルバトロンがもらしたつぶやきを思い出した。
『貴様がそれを言うか……
オレにこの道を選ばせた、貴様が……!』
「………………?
なのは、どうしたの?」
「う、うん……」
そんな彼女の異変に気づき、寄ってくるフェイトの問いに、なのはは思わず視線を伏せ、
「マスターガルバトロンさん……言ってたの。
『わたしが、マスターガルバトロンさんに宇宙の消滅を選ばせた』って……
もし、本当に私のせいでマスターガルバトロンさんが今の行動をとってるんだとしたら……!」
責任は自分にある――思わずレイジングハートを握る手に力が入るなのはだったが――
「……そんなことあらへんよ」
そんななのはを諭すように、はやては優しく告げた。
「なのはちゃんは、マスターガルバトロンがホントはいい人なんや、って、ただ信じてただけやんか。
なのはちゃんはなんも悪くあらへん。悪いんは、それをヘンな風に曲解してるマスターガルバトロンの方や。
せやから……」
「わたし達みんなで、マスターガルバトロンを止めよう!」
はやての言葉に加わるように、フェイトもまたなのはに告げる。
「デスザラスとビッグコンボイの決戦の時、アリシアが言ってたよね?
『止められなくなった妄執は、常に想いをもってしか止められないワケじゃない――人によっては、最後まで燃やし尽くしてあげることも必要なんだ』って……
マスターガルバトロンにとって、今がその時なんじゃないのかな?」
「はやてちゃん、フェイトちゃん……
……そうだね! まずは、マスターガルバトロンさんを止めないと!」
親友二人の言葉に、なのはは力強くうなずいて――
「ようやくやる気になったようだな」
その言葉と同時――なのはの視界が暗転した。
「ここは…………?」
気絶したような覚えはない。だが――気がつくと、なのはは今までいた場所とはまったく違った景色の中にいた。
周囲の空間が揺らめいて見えている様子から、グランドブラックホールのコアの中であることはわかるのだが――と、そんな彼女の疑問にはプリムラが答えた。
《なの姉……
ここ……結界の中だよ。多分、速効型の転送魔法か何かで、こっちが知覚するよりも早くここに引きずり込まれたんだよ……》
「結界の!?」
思わず声を上げ、周囲を見回し――なのはは気づいた。
この周囲の光景は、今まで見ていたグランドブラックホール内の光景にある色の光が割って入ったものであることを。
その色とは――
「青紫色の魔力光……
ということは!」
「その通りだ」
「――――――っ!?」
いきなりの声に振り向き――そこに彼がいた。
「ようこそ、小娘。
オレと貴様の――決戦のリングに」
自身の放つ特有の色の――青紫色の魔力光を放つオメガを手にした、マスターガルバトロンが。
「結界だと?」
「うん……」
なのはの行方を捜していたところに、キングコンボイから知らされた意外な存在――思わず声を上げるギャラクシーコンボイに、キングコンボイは深刻な面持ちでうなずいた。周囲のものを次々に引き寄せているグランドブラックホールのコアをにらみつけて続ける。
「あのコアが放ってる超重力の影響で正確な探知ができないけど……確かに結界の反応がある。
きっと、マスターガルバトロンの持ってるオメガの仕業だよ――なのはも、たぶんそこに引きずり込まれたんだと思う」
「こんな空間の歪みのひどいところで結界なんて……!」
「ギガロニアでの転生でバケモノじみた出力を得た、マスターガルバトロンだからこそできる芸当か……」
フェイトとビッグコンボイがうめくと、そんな彼らに恭也が尋ねた。
「助け出せるのか?」
「結界の位置が特定できれば、たぶん……」
「ただ……こうまで空間が歪んでると、そう簡単には……」
自分達だってなのはを助けたい。しかし、それは決して容易なことではない――目の前の障害の高さに、キングコンボイとフェイトは悔しさで顔をしかめながらつぶやき、周囲を見回す。
「なのは……無事でいてくれ……!」
リンカーコア特性のない自分にはどうすることもできない――相棒の無事を願い、ギャラクシーコンボイは自らの拳を強く握り締めると、
「………………ん?」
何かを感じ取り、フレイムコンボイは唐突に顔を上げた。
「どうした? フレイムコンボイ」
「……何だ、この感じは……?」
尋ねる恭也に答えるでもなく、フレイムコンボイはしきりに周囲を見回し――
「……何か、来るぞ!」
そうフレイムコンボイが叫ぶと同時――ギャラクシーコンボイ達の下に、無数の黒い飛翔体が襲いかかる!
「あれは――コンドル!?」
「ギガロニアで擬似スペースブリッジを開いた時と同じだ……!
じゃあ、また時空に歪みが!?」
飛翔体の正体に気づき、ビッグコンボイとフェイトが声を上げると、
「その通りさ!」
その言葉と共に――ノイズメイズがサウンドウェーブ、サウンドブラスター、ランページを連れて姿を現す!
「ノイズメイズ!」
いきなりの乱入者の出現にライブコンボイが声を上げると、
「我らもいるぞ」
そんな彼に淡々と告げて――ドランクロンがラートラータ、エルファオルファと共に現れる。
「ユニクロン軍の、全員集合というワケか……!」
「へぇ、オレ達がどこの所属か、わかってんだ?」
思わずうめくギャラクシーコンボイの言葉に、ノイズメイズはあくまで余裕の態度を崩さないままそう告げる。
「お前達の目的は、やはり全宇宙の消滅か!
そのために、マスターガルバトロンを……!」
「そのせいで、なのははずっと悩んでたんだ!」
「絶対に、許さへんからね!」
うめくギャラクシーコンボイのの言葉にフェイトとはやてが同意し――
「許さなかったら、どうするってんだ!?」
「我らはここで、ただ時を稼げばいい。
グランドブラックホールの消滅は、ただそれだけで阻めるのだからな!」
告げるノイズメイズとドランクロンの言葉と同時――ユニクロン軍の7戦士が散開、ギャラクシーコンボイ達に襲いかかる!
「マスター、ガルバトロンさん……!」
「このまま結界内で貴様らのムダなあがきを見物していてもよかったが……貴様だけはオレがこの手で叩き伏せなければ気が済まん」
彼が自分をここに連れてきたのか――意図が読めず、思わずその名を呼ぶなのはに、マスターガルバトロンは淡々とそう告げる。
「そうだ――貴様は今や、ギャラクシーコンボイよりも目障りな存在として、オレの前にいる。
絶対の存在である――いや、絶対の存在でなければならないこのオレを惑わせた罪――その命をもって償わせてやる」
「そんな……!
やっぱり、わたしのせいなんですか!? わたしが、マスターガルバトロンさんにつきまとったから!?」
いざとなれば力で止める。そう決意したばかりだが――やはり聞けるものならば聞いておきたい。マスターガルバトロンの言葉に、なのはは思わず聞き返すが――
「貴様がつきまとってきたことは関係ない」
対し、マスターガルバトロンはそう答えて――付け加えた。
「だが、関係している、とも言える」
「どういうことなんですか!?」
尋ねるなのはだが――マスターガルバトロンは首を左右に振った。
「これ以上、オレが答えるべきことなどない。
オレはこの宇宙を消滅させる。貴様はそれを止めに来た――それが今のオレ達の現実だ。
このままではすべての命が消え去るぞ――貴様は所詮、オレと戦うしかないのだ」
「なんで……! なんでそんなことを言うんですか!
なんで、宇宙を消すなんて……みんなが死んじゃうような、ひどいことができるんですか!」
思わず声を上げる――が、そんななのはの言葉にも、マスターガルバトロンは余裕の笑みを浮かべて答えた。
「フンッ、『ひどい』か……オレが悪魔だとでも言うつもりか?
ならば貴様はどうなのだ? 力をもって道を通そうとしているこのオレを、同じ力をもって止めに来たお前は。
オレが悪魔だと言うのなら――同じ手段に訴えた貴様もまた悪魔だ!」
反論など許さない――力強く断言するマスターガルバトロンだったが――
「…………それでもいい」
「何………………?」
眉をひそめるマスターガルバトロンに対し――レイジングハートをかまえ、プリムラの翼を広げ、なのはは告げた。
「悪魔でも、いいよ……」
「悪魔らしいやり方で、話を聞かせてもらうから!」
その言葉と同時――
たった二人の最終決戦、そのゴングが鳴り響いた。
(初版:2007/08/11)