「アームバレット達はもう戦えまい」
「残るは、マスターガルバトロンのみか……」
数に任せた猛攻でアームバレット、ガスケット、クロミアの3名はすでに捕縛。分身体もほぼすべて撃破――戦闘の終了したノアの甲板上で、投石の的になっている彼らを見ながらつぶやくシグナムにスターセイバーが答える。
「ねぇ……ホントにフェイト達を助けに行かなくてもいいの?」
「オレ達はともかく、周りの連中は危ないからな」
残るはマスターガルバトロンただひとり。一気に決めてしまえばいいのではないか――そう提案するアリシアだったが、対してメガザラックは周囲のサイバトロン軍の面々を見渡してそう答えた。
「オレ達はともかく、並のトランスフォーマーではマスターガルバトロンには歯が立たん。むしろ足手まといとなってギャラクシーコンボイ達の足を引っ張ることが予想される。
オレ達はここで連中の先走りを抑え、ギャラクシーコンボイの帰る場所である――このノアを守るぞ」
「うん……」
メガザラックの言葉にうなずき、アリシアはグランドブラックホールのコアへと視線を向けた。
「なのは、フェイト、はやて……
3人とも、大丈夫だよね……?」
「いくぞ――オメガ!」
〈O.K, My Boss!〉
告げる言葉にオメガが応え、マスターガルバトロンは魔力をまとい、切れ味の増したオメガでなのはに向けて斬りかかる。
が――
《そんなスピードで!》
〈Flash Move!〉
プリムラとレイジングハートが反応。なのはは急加速でその場を離れて斬撃をかわし、
〈Blitz shooter!〉
放たれた多数の魔力弾が、全方位からマスターガルバトロンに降り注ぐ。
が――
「効かぬわ、この程度!」
マスターガルバトロンを止めるには火力不足だ。爆発の中から飛び出してきたマスターガルバトロンは再びなのはへと斬りかかるが、なのはもまたそれをかわして離脱し、
「それなら――
バスターレイ、Shoot!」
〈Baster ray!〉
今度はバスターレイ――必殺の主砲はまともにマスターガルバトロンを直撃。これにはさすがのマスターガルバトロンも耐え切れず、吹き飛ばされる!
「もうやめてください!
このままグランドブラックホールが暴走したら、みんな死んじゃうんですよ!
アームバレットさんや、ガスケットさんや、クロミアさんも!」
「フンッ、だからどうした?」
グランドブラックホールの停止を呼びかけるなのはだが――相手はマスターガルバトロンだ。なのはの呼びかけを鼻で笑い飛ばし、告げる。
「自分の力で生き残れない、弱い者になど用はない。
この宇宙もろとも、消えてしまえばいい!」
《ガスケット達を――部下のみんなを見捨てるつもりなの!?》
「『見捨てる』……?」
言い返すプリムラだが――マスターガルバトロンは不敵な笑みと共に答えた。
「『守ってやるから部下になれ』などと言ったことは一度もないぞ。
アイツらが勝手についてきただけの話――使える連中だから追い払わなかったまでだ」
「――――――っ!」
なんという物言いか――悪びれる様子もなく告げるマスターガルバトロンの言葉に、さすがのなのはも言葉を失う。
「マスターガルバトロンさん!」
「許せんか?
ならばかかってこい!」
思わず声を上げるなのはに答え、マスターガルバトロンはオメガをかまえる。
「聞き出したいのだろう? オレがこの道を選んだ理由を。
『悪魔らしいやり方で聞かせてもらう』――その言葉が偽りでないのなら、その力で道を切り開いてみろ!」
言い放つと同時――マスターガルバトロンは弾かれるかのように飛翔した。
第86話
「終末の時と希望の光なの」
「オメガ!」
〈Hound Shooter!〉
マスターガルバトロンの言葉に従い、オメガの周辺に多数の魔力光が生まれ――彼特有の魔力スフィア“ハウンドスフィア”となって一斉に飛翔。まさに“猟犬”の名のごとくなのはに向けて飛翔する。
だが――
「プリムラ! レイジングハート!」
《お任せ!》
〈Load cartridge!
Blitz shooter!〉
なのはの言葉にプリムラとレイジングハートが対応した。ばらまくように撃ち放ったブリッツシューターでマスターガルバトロンのハウンドシューターを撃ち落とす。
だが――撃ちもらしが起きた。各所で魔力弾がぶつかり合う中、1発だけ――なのはの死角でブリッツシューターを回避したハウンドシューターの魔力弾が、背後からなのはに襲いかかる!
なのはもすぐに反応するが――間に合わない。魔力障壁越しの直撃ではあったが、マスターガルバトロンの魔力弾は背中を痛打。衝撃が彼女の肺から空気を叩き出す。
「くぁ…………っ!」
一瞬呼吸が停止し、声がもれる――直撃の衝撃と重なり、なのははたまらず姿勢を崩し――
《なの姉!》
〈Protection Powered!〉
そんな彼女を追撃から救ったのはプリムラとレイジングハートだった。プロテクション・パワードとスケイルフェザー、二つを併せた複合防壁で斬りかかってきたマスターガルバトロンの斬撃を受け止める。
《なの姉、追撃が来る! 動いて!》
「う、うん!」
衝撃までは殺せず、弾き飛ばされる――だが、このままむざむざ追撃まで許すワケにはいかない。プリムラの言葉にうなずくと、なのははとっさに後退し、突っ込んできたマスターガルバトロンの斬撃をかわすが――
「逃がすか!」
逃げ切れない。斬撃は回避したものの距離を詰めてきたマスターガルバトロンがすかさず雷撃。防御も回避も間に合わず、なのはは直撃を受けて吹き飛ばされる!
「《きゃあぁぁぁぁぁっ!》」
「フンッ、やはりか……」
吹き飛ばされ、結界内を漂っていた小惑星に叩きつけられるなのはを見下ろし、マスターガルバトロンは笑みを浮かべてつぶやいた。
「貴様の砲撃戦での強さは理解している。
ならば接近戦なら、と思ったが……どうやら正解だったようだな」
告げて、マスターガルバトロンは小惑星の上で立ち上がるなのはを指さし、
「強靭な防御力で相手の攻撃をしのぎ、ブリッツシューターに代表される精密誘導射撃で敵の追撃の足を鈍らせつつ敵の射撃を迎撃。
フラッシュムーブのような瞬間加速機動で砲撃に最適な距離とアングルを確保、一撃必倒の砲撃で相手を沈黙させる――それが貴様の戦い方の基本スタイルだ。
確かに、砲撃に的を絞れば、この方法で相手の接近も射撃も封じ、圧倒的な火力でねじ伏せることが可能だ。
砲撃に特化した貴様にとって、よく考えられた、バランスのとれた戦い方だが――」
「その内のどれかひとつでも欠ければ、貴様の戦略は破綻する」
「………………っ!」
マスターガルバトロンから叩きつけられたその指摘に、なのはは思わず息を呑んだ。
「貴様の戦い方は突き詰めれば“近寄らせないこと”、その一点に要約できる。
まぁ、近づいたところで貴様の防御を抜かなければ意味はないが――逆に言えば、それが可能な相手に接近を許した場合、貴様に勝ち目はない」
その言葉に、なのはは反論することができない。
かつて、初めてヴィータと出会い、戦った時――まさに今指摘された要素によって敗れ去ったのだから。
新たに手にしたレイジングハート・ブローディアも、自身の戦い方を究極的に突き詰める方向で強化されている――すなわち、付け入るのが困難になっただけで、「接近戦における不利」という自身の欠点は何ひとつとして解決されていないのだ。
実際、レイジングハート・ブローディアを得た後も――ルインコンボイとの戦いでも接近を許し、結界破壊効果を付加した打撃で防御を破られ、一度叩き落されている。
「防御はできても姿勢をまともに崩される。
ブリッツシューター程度ではオレは止まらん。
貴様の攻撃でオレにダメージを与えられるのはバスター以上の砲撃のみだが――戦略の破綻した貴様に、それだけの砲撃を撃つチャンスを得るのは不可能。
お前には――オレを倒すことはできん」
「――――――あっ!」
その言葉に――なのはは先ほどの攻防における一幕を思い出した。
ブリッツシューターとバスターレイ、二つの攻撃をマスターガルバトロンがまともにくらった、あの時の攻防のことを。
まさか――
(耐えられる攻撃レベルを――測られた!?)
シューター系の攻撃は防御なしでも耐えることが可能で、バスター系以上の攻撃になって初めて防御が必要となる――すなわち、マスターガルバトロンはこちらがバスター以上の砲撃の体勢に入った時にだけ警戒すればいい。
たったひとつの要素――だが、そのひとつの要素を測られただけで――自分の攻撃パターンが大きく削られた。自分の不利を明確に突きつけられ、なのはの頬を冷や汗が伝った。
『フォースチップ、イグニッション!』
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」
『デス、フレイム!』
咆哮し、ギャラクシーコンボイの放った閃光の雨と恭也、フレイムコンボイの放った火炎を、ノイズメイズ達は散開してかわし、
「フォースチップ、イグニッション!
アンカーミサイル、ばーんじゃいっ!」
ランページが反撃に出た。フォースチップをイグニッションし、放たれたミサイルの雨がギャラクシーコンボイ達に襲いかかるが――
『フォースチップ、イグニッション!』
『マッハショット!』
『ジェットミサイル!』
ニトロコンボイと耕介、ライブコンボイと真一郎が対応した。彼らとランページ、両者の放った一撃が中間で激突し、強烈な爆発が両者の間の視界をさえぎる。
と――
「フェイト! 今のうちになのはを!」
「え………………?」
「はやてもだ!
早くなのはを探しに行け!」
「せ、せやかて……」
キングコンボイとビッグコンボイがそれぞれの相棒にそう告げた。突然の提案に、フェイトとはやては思わず戸惑いの声をもらす。
「こっちはボク達で何とかするから!」
「幸い、デバイスを持つオレ達はフォースチップが弱体化しても戦いようはある。ギャラクシーコンボイ達もいるしな。
なのははおそらくマスターガルバトロンのところだ――少しでも早く彼女を探し、手助けしてやれ」
「…………うん。
キングコンボイ、ここはお願い。がんばってね」
「ビッグコンボイも、気ぃつけや」
キングコンボイとビッグコンボイの言葉にうなずき、はやてとフェイトは姿を消したなのはを探すためその場を離れる。
「ちぃ…………っ!」
そんな二人の動きに気づき、ラートラータがポイズンアローを向け――
「させないよ!」
そんなラートラータをキングコンボイが阻んだ。カリバーンで斬りかかり、ラートラータはフェイト達を狙うのをあきらめて後退する。
「なのはの声援だったらもっと効果的だったろうけど――フェイトの声援だって効果バツグン!
今のボクは、絶対無敵で元気爆発! もひとつオマケに――熱血最強だ!」
咆哮し、キングコンボイは勢いよく突撃していく――その姿を見送り、ビッグコンボイはギャラクシーコンボイに告げた。
「お前も行っていいんだぞ」
「いや……私もここでヤツらと戦う」
答えて、ギャラクシーコンボイは敵も味方も目まぐるしく交錯する戦場を見据え、
「マスターガルバトロンがヤツらの手によって暴走したのだとすれば、ヤツらを倒せば、あるいは……」
そう告げて――ギャラクシーコンボイは胸中で付け加えた。
(私ではマスターガルバトロンを変えることはできなかった……
だが……ヤツは確実に変わりつつある。それがなのは達の“力”によるものなのだとすれば……)
「向こうは、なのは達に任せるべきなのかもしれないからな……」
〈Reload.〉
空になったマガジンを交換し、レイジングハートがカートリッジを補給する――追いすがるマスターガルバトロンの攻撃をかわしながら、なんとか体勢を立て直そうとするなのはだが――先ほどから一度として有利なポジションを取れていない。
けん制に放つブリッツシューターもスケイルフェザーも、オメガによってマスターガルバトロンの周囲に展開された防壁に弾かれてしまう。たとえ抜けても――防壁突破で威力を削がれていて、頑強な装甲によってやはり弾かれる。
すなわち、なのはがマスターガルバトロンにダメージを与えるには射撃ではなく砲撃――バスター以上の攻撃が必要となるが、そんなことは先ほどマスターガルバトロン自身によって看破、指摘されたことだ。当然向こうもその阻止を念頭においていて、こちらにまったく距離をとらせてくれない。
「マガジン、残り三つ――カートリッジ、18発……!
これが尽きるまでに、スターライトブレイカーを当てられなきゃ……!」
《そのためには……なんとか、マスターガルバトロンから距離をとらないと……!》
つぶやくなのはの言葉にプリムラがつぶやくと――
――――――
《え………………?》
最初にそのことに気づいたのはプリムラだった。
“彼女”とシステムが連動しているからこそ気づいた――あわてて制止の声を上げる。
《ち、ちょっと待ってよ、レイジングハート!
本気なの!?》
「どうしたの? プリムラ」
尋ねるなのはには――レイジングハート自身が答えた。
なのはに、“その一言”を求めるという形で――
〈Call me――“Exelion-mode”.〉
「――――――っ!?
だ、ダメだよ!」
だが、それは決して容認できるものではなかった。レイジングハートの言葉に、なのはは思わず声を上げる。
「あれは今のレイジングハートじゃ耐えられないよ!
わたしがコントロールに失敗したら……レイジングハートが、壊れちゃうんだよ!」
《そうだよ!
エイミィさんやマリーさんからも、『フレームを強化するまでは使っちゃダメ』って言われてるでしょ!?》
自分達にとっても手に余る力なのだ。絶対に使わせるワケにはいかない――あわてて制止の声を上げるなのはとプリムラだったが、
〈Call me.〉
レイジングハートも譲らない。ただそれだけ――決意に満ちた声でそう告げる。
〈Call me, My master and My friend.〉
「レイジングハート……!」
繰り返し告げるその言葉に、なのははしばし迷い――
機動を止めた。
《ち、ちょっと、なの姉!?》
マスターガルバトロンが追ってきているというのに――あわてて声を上げるプリムラだが、なのははかまわず振り向き、追ってくるマスターガルバトロンへと向き直る。
「ほぉ……観念したか」
一方、マスターガルバトロンにはそんななのはの行動があきらめたように見えた。一気に襲いかかるようなことはせず、なのはの目の前で停止。真正面から対峙する。
「いい覚悟だ。
ならば、せめてもの情けだ――苦しまぬよう、一瞬で永遠の眠りにつかせてやる」
言って、オメガをかまえるマスターガルバトロンだったが――
「いつかは眠るよ。
けど――それは今じゃない」
対し、なのはは静かにそう告げた。
「わたしは、みんなを守るって決めたから……
だから、助ける。アニマトロスを、地球を……
スピーディアや、ミッドチルダや、ギガロニアを……
みんなが生きてる、この宇宙を……
そして……」
「マスターガルバトロンさんを!」
その言葉と同時、レイジングハートがカートリッジをロード。解放された魔力が隅々にまで行き渡る。
《なの姉……
レイジングハート……》
「ごめん、プリムラ……
ちょっと制御が大変になっちゃうけど……なんとかがんばって」
〈Sorry, My friend.〉
なのはの意図は明確だ――気遣わしげに声をかけるプリムラだが、対し、なのはとレイジングハートは静かにそう告げる。
そんな二人に、プリムラは――
《………………
……そんな『これから悪いことします、ごめんなさい』なんて顔されたら……断れないよ。
こうなったら一蓮托生! やろう、なの姉! レイジングハート!》
「うん!」
〈All right!〉
レイジングハートとふたりでうなずき――なのはは吼えるようにその名を叫んだ。
「レイジングハート・ブローディア――エクセリオンモード!」
《ドラァイブ!》
〈Ignition!〉
その言葉と同時――レイジングハートがその姿を変えた。
カートリッジシステムが後方にスライド、本体がより大型にパーツを展開し、新たなフィンを配置する。
同時――プリムラにも異変が起きた。なのはの身に装着された鎧の各部がスライド式に展開され、露出した装甲の継ぎ目の下からは放熱用の排気口が姿を現す。
そして、右肩――さらに展開された肩アーマーに口を開けたのは、マガジンの受け口――プリムラ自身のカートリッジシステム。
背中の翼もより巨大に再生成され――なのははプリムラのカートリッジシステムにマガジンをセット。エクセリオンモードへの変形を完了した二人の相棒と共にマスターガルバトロンと対峙する。
「ほぉ……
それが貴様の切り札か」
「はい……
キングコンボイくんのカリバーンがエクスカリバーになるのと同じ――
レイジングハートと、プリムラ……二人のフルドライブモード“エクセリオンモード”です」
マスターガルバトロンに告げ、なのははレイジングハートをかまえた。
「わたし達と出会う前のマスターガルバトロンさんのことを、わたし達は知らない……
どんな人だったのか……どんな思いをして戦ってきたのか……そういうこと、ぜんぜん知らない……
マスターガルバトロンさんだって、最初から強かったワケじゃないよね……戦いの中で何度も傷ついて、何回も負けて……辛い思いや、悲しい思いもいっぱいしてきたと思う……それを全部わかれ、って言われても、やっぱりムリだと思う。
――けど!」
なのはのその決意に応えるかのように、両足のアクセルフィンが、背中のプリムラの翼が力強く羽ばたく。
「それを、『弱さ』だなんて否定しちゃいけないんだよ!
自分だってそうだったんだよ――弱い人達の弱さを、否定しちゃいけないんだよ!
『弱い人達には生きる資格なんかない』なんて――そんなこと、言っちゃダメなんだよ!」
「フンッ、戯言を……!」
告げるなのはに対し、マスターガルバトロンもまたオメガを大上段にかまえる。
「自分の力で生き抜けない者などに用はない……
弱き者は、強く者に搾取され、滅びるしかない……
それは、この宇宙に生きる絶対の真理だ!」
「だから!」
マスターガルバトロンの言葉に、なのはは言い返し――
「――――――っ!」
そんな彼女の姿に、マスターガルバトロンは言葉を失った。
「だからこそ……強い人達は、弱い人達を守らなきゃいけないんじゃないの……!?
強くなれたその力で、弱い人達が、以前の自分と同じ思いをしないですむように、守ってあげないといけないんだよ!」
そう告げて――涙を流すなのはの姿に。
「マスターガルバトロンさんが本気なら、わたしはとっくに落とされてたはず……
グランドブラックホールだって、もっと早くに暴走してたはず……
迷ってるんじゃないんですか!? 苦しんでるんじゃないんですか!? だから!」
「うるさい!」
告げるなのはの言葉を、マスターガルバトロンはその一言で遮断した。
「迷ってるだと……!? 苦しんでるだと……!?
このオレが……!? そんなことがあるものか!」
「そんなことない!」
言い返すマスターガルバトロンの言葉に、なのはは力強く言い放った。
「マスターガルバトロンさん、あの時の……“闇の書”さんと――ルインコンボイさんと一緒だよ!
今の自分のあり方に悩んで、苦しんで……破壊に、消滅に逃げてる!」
「何を根拠に――」
「根拠ならある!」
今度は、なのはがマスターガルバトロンの言葉を両断する番だった。
「魔力は心の力……想いの力……!
オメガさんが放ってる、マスターガルバトロンさんの魔力――とっても悲しそうだよ! とっても辛そうだよ!」
「――――――っ!」
自らに叩きつけられたなのはのその言葉に、マスターガルバトロンは唇をかんだ。
「誰かに頼ってもいいんだよ……辛さを打ち明けてもいいんだよ……!」
「うるさい…………!」
「自分の弱さを人に見せるのは、弱いことなんかじゃない……!」
「うるさい……!」
「自分の弱さから目を背けて、強がってる方が、よっぽど弱いんだよ!」
「うるさい!」
なのはに言い返し――マスターガルバトロンはオメガに“力”を叩き込んだ。その刀身から放たれる魔力が勢いを増し、渦を巻き始める。
「知ったような口を叩きおって……!
頼ればいいだと!? 打ち明ければいいだと!?」
吐き捨てるように――自分の中の苦々しい思いを吐き捨てるかのように――マスターガルバトロンは告げた。
「それならば――」
「頼りたい相手と相容れない者は、どうすればいい!」
「え――――――?」
マスターガルバトロンのその言葉に、なのはは思わず言葉を失った。
「認めた相手が、自分と共に歩くことのできない――敵だった者はどうすればいい!」
そう告げるマスターガルバトロンは、本当に辛そうで――
「それって……まさか……」
「貴様も、あの男も……
オレの認めた相手はすべて敵――オレに頼れる相手など、現われはしない」
呆然とつぶやくなのはの前で、マスターガルバトロンは静かに告げる。
「手に入らぬものばかりの、こんな宇宙など……!
だから消すのだ! こんな宇宙は!」
「マスターガルバトロンさん!」
声を上げるなのはだが――マスターガルバトロンは止まらない。オメガを振りかぶり、なのはに向けて斬りかかる!
「リィン! 結界の反応、わかる!?」
《ごめんなさいです、まだ……》
「ジンジャーは?」
《私も……
グランドブラックホールの影響で、検索対象の空間が安定しなくて……!》
尋ねるはやてとフェイトだが――リィンフォースとジンジャーの答えは芳しくない。
「もう、グランドブラックホールの暴走まで時間があらへん……!」
「早く、なのはとマスターガルバトロンを見つけないと……!」
うめいて、フェイトはグランドブラックホールにらみつけるはやてのとなりで周囲を見回し――
(あれ…………?)
気づいた。
歪み、流れるように渦を巻く空間の中――明らかに周囲とは違った歪み方をしている部分に。
かなり大きい。まるで“戦闘エリアが丸ごとひとつ収まるような”――
「――――まさか!?
ジンジャー、あそこをスキャンして!」
《は、はい!》
フェイトの言葉に、ジンジャーはあわてて問題の空域をスキャンして――
《――――ありました!
極めてステルス性の高い、封時結界の一種です!》
「やっぱり……
あそこに、なのはが……」
つぶやき、フェイトは静かに渦を巻く空間の歪みを――マスターガルバトロンの結界をにらみつける。
「はやて、破れる?」
「わたしがやろうとすると、ちょっとハデになってまうかな……なのはちゃん、巻き込まれてまうかも……
フェイトちゃんは?」
「ひとつ、方法がある……」
「きゃぁっ!」
幾度となく激突するが――パワーの差は歴然としていた。いかに出力を増していようと、マスターガルバトロンの攻撃はなのはに耐え切れるレベルを超えている。防壁越しに直撃を受け、なのはは大きく弾き飛ばされる。
だが――ここで落とされるワケにはいかない。なんとか体勢を立て直し、レイジングハートをかまえ直す。
「しつこいヤツだ……いい加減にあきらめろ。
言ったはずだ――貴様にオレは止められんと」
「止めてみせます!
レイジングハートが力をくれてる! プリムラが支えてくれてる!
二人とも――命と心を賭けて、応えてくれてる!」
答えるなのはの言葉と同時――レイジングハートが、そしてプリムラがカートリッジをロードする。
「泣いてる子を――救ってあげてって!」
〈A.C.S. Stand by!〉
《アクセルチャージャー、起動! 全出力、限界域で安定!
レイジングハート! ストライクフレームを!》
〈Open!〉
プリムラの言葉にレイジングハートが答え――その先端に半実体化した魔力刃“ストライクフレーム”が展開される。
そして――
「エクセリオンバスターA.C.S.――」
《「〈Drive!〉」》
咆哮と共に突撃――マスターガルバトロンが横薙ぎに振るったオメガとレイジングハートのストライクフレーム、二つの刃が激突する!
「なかなかの突撃だ……
――だが、この程度の攻撃で、オレに届くと思っているのか!」
「届けて――みせます!」
マスターガルバトロンの言葉になのはが答え――彼の手から抵抗感が消えた。阻むもののなくなった空間を勢い余って薙ぎ払うマスターガルバトロン――その頭上で、なのははマスターガルバトロンの魔力障壁にストライクフレームを突き立てる!
(真っ向勝負を避け――回り込んだ!?
――――――まさか!?)
ようやく、マスターガルバトロンは気づいた。
それまで、ずっとなのはが自分と正面からぶつかってきた――自身の欠点を見抜かれても退かず、幾度となく接近戦に持ち込まれ、打ちのめされても、ものともしないで戦い続けてきた、その意味に。
(最後まで真っ向勝負と見せかけ――着実に裏をかき、砲撃を当てられる状況を作り出す――
しかもこれは、ヤツの苦手なクロスレンジ――使ってくるなど、こちらが夢にも思わない……!
今までの攻防は、この一撃のための布石か!)
あわててなのはを振りほどこうとするが――ストライクフレームはマスターガルバトロンの魔力障壁に深々と突き刺さっていて抜けはしない。
そして――
「ブレイク――シュート!」
なのはの一撃が、結界内を貫いた。
至近距離で攻撃を叩き込むための技とはいえ、砲撃には変わりない――反動で痛みの走る左肩を抑え、なのはは効果のほどを見極めようと周囲を見回す。
「ほぼ零距離……!」
《バリアを抜いてのエクセリオンバスター、文句なしの直撃……!
これでダメなら……!》
つぶやき、マスターガルバトロンの姿を探すなのはとプリムラだが――
〈Master!〉
《「――――――っ!?」》
レイジングハートが告げ、なのは達が見上げる先で――
小惑星に叩きつけられていたマスターガルバトロンは、ゆっくりとその身を起こしていた。
「バルディッシュ……あの結界を破って、なのはを助けに行くよ……」
《ザンバーフォーム、いけますね?》
〈Yes, sir.〉
静かに告げるフェイトとジンジャーの言葉にバルディッシュが答え、フェイトは彼を大きく背後に振りかぶる。
〈Zamber Form!〉
そして、バルディッシュがカートリッジをロード、雷の戦斧の刃が展開、つばとなり、ストライクフレームと同種の――ただしはるかに巨大な魔力刃が形成される。
それに伴ってジンジャーも各部の装甲を展開。プリムラと同様に翼を再形成、放熱デバイスを、カートリッジシステムを解放する。
これがバルディッシュ・リリィのフルドライブモード“ザンバーフォーム”である。
変形の完了したバルディッシュをかまえ、フェイトは魔力を流し込む――同時にカートリッジもロードし、雷光を放ち始めた魔力刃を振りかぶり――
「疾風、迅雷!
スプライト、ザンバー!」
咆哮と共に――振り下ろした。
「やってくれたな、小娘が……!」
「何度でもやります。
マスターガルバトロンさんが止まってくれるまで」
小惑星の上に立ち上がり、告げるマスターガルバトロンになのはは静かにそう答える。
「まったく、しつこいことだな……」
「よく言われます」
軽口を叩き合いながらも、互いに一撃を叩き込むスキをうかがい合う。
鋭い視線が交錯する中――なのははマスターガルバトロンに尋ねた。
「マスターガルバトロンさん……
……本当に、わたし達は戦い合うしかないんですか?」
「………………」
「言ってましたよね……?
『オレの認めた相手はすべて敵――オレに頼れる相手など、現われはしない』って……
マスターガルバトロンさんが頼りたいのは……わたし達なんじゃないんですか?」
「…………だったら、どうだと言うんだ」
静かに――吐き捨てるかのようにマスターガルバトロンは答えた。
「オレは確かに貴様らを認めている。
お前達の持つ“絆の力”――それが強大であることも。
依存し合うのではない――本当の意味で頼り合い、支え合うパートナーの関係……それこそが、貴様らの強さなのだとも。
オレが肩を並べるにふさわしいヤツらがいるとすれば――お前やギャラクシーコンボイ以外にはいないということも」
「だったら、マスターガルバトロンさんだって――」
「だが!」
答えようとしたなのはだったが、マスターガルバトロンはその言葉をさえぎった。
「貴様はサイバトロン。オレはデストロン……相容れることなどありはしない。
敵同士なんだ! 共に歩めぬ者同士なんだ!
オレとお前らが真に支え合うことなど――絶対にない!
だからこそ――オレはこの舞台を用意した!
手に入らないものしかないこの宇宙など、消え去ってしまえと!
共に歩めぬのなら――せめて貴様は、このオレの手で討つと!」
「そんなことない!」
最後の方はほとんど悲鳴に近かった――自らの胸の内をぶちまけるマスターガルバトロンに、なのはは思わず反論した。
「今までだって、何度もわたしを助けてくれた! ギガロニアの最下層でだって、ギャラクシーコンボイさんを支えてくれた!
ブリッツクラッカーさんだってサイバトロンに来てくれたよ! サイバトロンとか、デストロンとか……そんなの、今さらじゃない!
頼ってくれていいんだよ。マスターガルバトロンさんだって……!」
告げるなのはだったが――
「ブリッツクラッカーなどと、一緒にするな!」
そんななのはに対し、マスターガルバトロンはハウンドシューターを撃ち放った。とっさにプロテクションで耐えるなのはに告げる。
「いかに古参であろうと一兵卒にすぎないヤツとこのオレと、事情が同じだと思うな。
オレはデストロンの頂点に立つ破壊大帝だぞ――いくらその力を認めたからといって、簡単にサイバトロンと手を組めるか!」
「そんなことない!
マスターガルバトロンさんと同じ大帝だったデスザラスさんだって、最後はビッグコンボイさんと認め合えた!
だから、マスターガルバトロンさんだって、きっと!」
「それこそ……今さらだ」
言いたいことをすべて吐露して落ち着いたか、懸命に呼びかけるなのはに対しマスターガルバトロンは静かにそう答えた。
「今ならわかる。
オレの中で、未だにユニクロンがわめいているのがな……
すべてを破壊しろ、すべてを消し去れ、すべてを否定しろ、と……
その意志に従ったワケではない……だが、オレはすべてを消し去る道を選んだ。
もはや後戻りはできん――もう、止まれんのだ!」
「止めます! 止めてみせます!
わたしが――わたしの持ってるすべての力で、マスターガルバトロンさんを!」
告げるマスターガルバトロンになのはが答えた、その時――
轟音を立てて、結界が崩壊した。
「何!?」
「どうした!?」
突然の結界の崩壊――事態に思考がついていかず、なのはとマスターガルバトロンは周囲を見回し――
「なのは!」
「大丈夫、なのはちゃん!」
そこへ舞い降りてきたのはフェイトとはやてだ。
「フェイトちゃん、はやてちゃん……」
「よかった、無事で……!」
「よくひとりでがんばったな。
せやけど――こっから反撃開始や!」
その名をつぶやくなのはに答え、フェイトとはやてはマスターガルバトロンに向けて各々のデバイスをかまえる。
「3人で来るか……いいだろう。
それも貴様らの“絆の力”ならば……受けて立つまでだ」
対し、マスターガルバトロンは彼女達の乱入に気分を害した様子もなかった。告げて、オメガの刃を振りかざし――
「…………待って、フェイトちゃん、はやてちゃん」
静かに、なのはは二人の親友を制止した。
「ごめん……
ここは、わたし達だけで行かせてくれないかな……?」
「なのは……?」
「マスターガルバトロンさん……今ならきっと止まれると思うの。
そして、それができるのは――」
「……せやな」
フェイトに答えるなのはの言葉に、はやてはそう答えてうなずいた。
「1対1の勝負を望むくらい入れ込んでるなのはちゃんが相手やったら、もしかしたら……」
「けど……なのは達だけじゃ!」
「大丈夫」
なのはやレイジングハート達だけで勝てるのか――声を上げるフェイトだったが、なのははハッキリとそう告げた。
「きっと……次が最後の激突だから。
でしょう? マスターガルバトロンさん」
「……どうだかな。
だが……次で幕引きというのは賛成だ」
なのはに答え、マスターガルバトロンは自身のカートリッジをオメガに装填する。
「もう、グランドブラックホールの完全暴走まで時間はない……
ここでオレを落とせなければ――宇宙は消え去ると思うがいい」
「心配いりません」
告げるマスターガルバトロンの言葉に、なのはは迷うことなくそう答えた。
「誰も……消えたりしません」
「…………そうか」
その言葉が意味するところは明白だ――なのはの『勝利宣言』に思わず笑みを浮かべ、マスターガルバトロンは自らの相棒に告げた。
「オメガ――カートリッジ、ロード!」
〈Load cartridge!〉
答えると同時、オメガはカートリッジをロード――解放された魔力がオメガに宿り、全体が青紫色の魔力の輝きに包まれる。
「先手は譲るぞ。やりたいことがあるならやるがいい」
「余裕ですか?」
「全力の貴様を倒してこそ意味がある――『できることは全部やれ』と言っているんだ」
「ですか……
じゃあ……遠慮なく!」
マスターガルバトロンの言葉に、なのははレイジングハートをかまえ、
「エクセリオンバスター、バレル展開!」
《中距離砲撃モード――スタンバイ!》
〈All right.
Barrel Shot!〉
なのはとプリムラに答え、レイジングハートはグリップ部分をさらにスライドさせて延長――本体内部のバレルを展開する。
それに呼応し、ストライクフレームの先端に魔力が収束し――不可視の、バインド効果を伴った魔力弾が、マスターガルバトロンに襲いかかる!
不可視の攻撃だ。目視で目標を認識する彼にはかわしきれない――魔力弾はマスターガルバトロンを直撃、その動きを封じ込めることに成功する。
「エクセリオンバスター、フォースバースト!」
告げるなのはの言葉に、レイジングハートは本命の砲撃へ――ストライクフレームの先端に集う魔力がそのふくらみを増していき――
「ブレイク、シュート!」
放たれた桃色の閃光の渦が、荒れ狂いながらマスターガルバトロンに襲いかかる!
だが――
「この程度で!」
〈Bind Break!〉
マスターガルバトロンとオメガも負けてはいない。なのはのバインドを粉砕し――
「吹き飛ばせ、オメガ!」
〈Yes, My Boss!
Energy Vortex!〉
渾身の力でオメガを振り下ろし――解き放たれた“力”の渦が、エクセリオンバスターの閃光と激突する!
激突し、荒れ狂う“力”は周囲を巻き込み、ねじ切り、破壊の渦となって広がっていく。
そして、その中心は――
(お、押されてる……!)
二人の“力”のぶつかり合う接点は、次第になのは側に移りつつある――自身が押されていることを感じ、なのはの頬を冷や汗が伝う。
だが――退けない。
退くワケにはいかない。
「ここで退いたら……何も救えない……!
この宇宙も……フェイトちゃん達も……ギャラクシーコンボイさん達も――マスターガルバトロンさんも!
だから――もう少しがんばって! レイジングハート、プリムラ!」
〈Don't Worry!〉
《まだまだイケるよ、あたし達!》
なのはの言葉に二人の相棒が答える――が、それが強がりであるのは明白だ。すでに自分達の光の奔流は、維持するだけで精一杯というところまで追い込まれている。
均衡が破れるのは――時間の問題だった。
「これで……終わる……!」
確かに先手は譲ったが、まさかそこでいきなりバインドを放ってくるとは思っていなかった。おかげでバインドに阻まれ、対応が自分の思っていた以上に遅れたが――そこは人とトランスフォーマーの差か、やはり自身の力の方が大きい。なのはのエクセリオンバスターの閃光を押し戻しているのを確信し、マスターガルバトロンは静かにつぶやいた。
なのはの方はもはや限界だ。遠からず桃色の閃光は砕け散り、自身の放つ破壊の奔流がなのはを包み込み、吹き飛ばすだろう。
そうすれば、すべてが終わる――グランドブラックホールの暴走が始まれば、もはや誰にも止められまい。
そこに存在するすべてを飲み込み――自分の望み通り、気に食わないこの宇宙のすべてが消滅することになる。
そんなことを考えている内に、自身の魔力の渦がなのはのそれを飲み込みにかかった。一気に圧力を増し、桃色の閃光を押し戻し、なのはの顔に苦悶の表情が浮かび――
「――――――っ!」
瞬間――思考が飛んだ。
脳裏に浮かんだ――自らの青紫色の魔力の渦に飲み込まれ、全身をグシャグシャに捻じ曲げられながら吹き飛ばされていく少女の姿を前にして。
そして――その一瞬だけで、なのはにとっては十分だった。
(魔力の構築が乱れた――!?)
「レイジングハート! プリムラ!」
《うん!》
〈O.K.!〉
この一瞬にすべてを賭ける――残されていた渾身の魔力を叩き込むなのはにプリムラとレイジングハートが呼応。なのはの放つ桃色の閃光が勢いを増し、マスターガルバトロンの力の渦、その中心を深々と抉っていく!
マスターガルバトロンの魔力をすべて押し返すのは不可能だ――ならば攻撃ポイントを極端に絞り、一点突破で撃ち貫くしかない。難を逃れ、襲いかかるマスターガルバトロンの魔力が四肢に襲いかかるが、かまわず魔力の奔流にすべての力を注ぎ込む。
「ば、バカな!?」
あわてて魔力の流れを強めるマスターガルバトロンだが――止められない。驚き、集中を乱したマスターガルバトロンに、極限まで凝縮された桃色の魔力を止める手段など残されてはいなかった。
そして――
「想いよ――通じて!」
桃色の光は青紫の渦を突き抜けて――マスターガルバトロンの胸を貫いていた。
「やった!」
「なのはちゃんの勝ちや!」
完全に直撃だ――閃光がマスターガルバトロンを貫き、大爆発を巻き起こすのを前に、フェイトとはやてが声を上げる。
「なのは! プラネットフォースを!」
「う、うん!」
呼びかけるフェイトの言葉にうなずき、なのははマスターガルバトロンへと向き直り――
「え――――――?」
その視線の先に、異変を見た。
マスターガルバトロンが、自分のものとは明らかに違う“力”の渦に包まれている。
「な、何!?」
《何が起きてるの!?》
驚き、声を上げるなのはとプリムラだが――
「……あわてるな、このバカ小娘が」
そんな彼女に答えたのは“力”の渦の中心にいる――力なく漂うマスターガルバトロンだった。
「貴様の魔力に、反応し……活性化しているだけだ……
オレの背中に収納された、プラネットフォースがな……」
「プラネットフォースが……?」
「安心しろ……オレにもう、この力を抑えるだけの余力はない……
活性化したプラネットフォースは……本来の持ち主の下に戻る……それだけだ……
……至近にいる、オレを……吹き飛ばしてな……」
「そんな……!
マスターガルバトロンさん! 早くプラネットフォースを放して!」
それではマスターガルバトロンが――あわてて声を上げるなのはだったが――
「……つくづく、人の話を聞かない小娘だな、貴様は……
言った……はずだぞ……『余力はない』とな……
もはや……腕一本、動かんわ……」
そう答えるマスターガルバトロンの声からは――本当に力が感じられなかった。
そんな彼の背中で、プラネットフォースはますます活性化し――弾けた。マスターガルバトロンの背中のブースターユニットを粉みじんに吹き飛ばし、収納スペースから飛び出したプラネットフォースは一直線に本来の主の――プライマスの下へと飛翔する。
そして、マスターガルバトロンは――
「マスターガルバトロンさん!」
プラネットフォースが弾けた衝撃で、彼の身体はグランドブラックホールの中心へと落ちていく――すぐになのははプリムラの翼を羽ばたかせて飛翔。マスターガルバトロンの元に向かおうとするが、
「な、なのは、危ない!」
「せやで! 離れるんや!」
「け、けど、マスターガルバトロンさんが!」
そんななのはに、フェイトとはやてがあわててしがみついて制止する――なんとかマスターガルバトロンの元に向かおうと、なのはは思わず身をよじらせる。
「もうムリだよ……もう、間に合わない!
これ以上進んだら、今度こそコアの重力圏に捕まって、出られなくなる!」
「プラネットフォースが戻れば、プライマスはグランドブラックホールを消し去る!
わたし達もここにいたら危ないんよ! 離れんと!」
「………………っ!」
フェイトとはやての言うとおりだ――二人に肩を抱かれ、なのはは力なくうなだれる。
「やっと本音が聞けたんだよ……やっと想いが通じ合ったんだよ……!
終わりなんかじゃない! わたし達は、これからなのに……!」
そうつぶやき――なのははただ涙した。
今まで命を賭けて戦い合っていた――心を通じ合わせた“宿敵”のために。
一方、プラネットフォースはプライマスの元に戻り――その背に巨大なチップスクェアとして顕現した。“力”を取り戻し、プライマスはグランドブラックホールの深部に突入。ノアの下へと駆けつけ――両手で左右の主翼をつかみ、まるで大砲でもかまえるかのように正面に据える。
いや――『ように』ではない。ノアの艦首、そこにあしらわれていたサイバトロンマークが内側に折り込まれ――その奥から砲口が姿を現し、スターシップ・ノアはプライマスの主砲“ノアキャノン”へとその姿を変える。
――みんな、道を空けてくれ!――
「了解!
全員、射線上から退避!」
プライマスの言葉に答え、ドレッドバスターが一同に号令。ガスケット達を簀巻きにし、戦いの行方を見守っていたサイバトロン軍は一斉に散開していく。
そして、もっと奥で戦う彼らも――
「よし、全員離脱だ!」
『了解!』
ノイズメイズ達と戦っていたギャラクシーコンボイ達も一斉に離脱。ノイズメイズ達を残してグランドブラックホールの深部から脱出する。
「あとはなのは達か……!」
「フェイトも……」
「はやても、突入したままだ……!」
最も奥に突入したなのは達の身を案じ、ギャラクシーコンボイやキングコンボイ、ビッグコンボイがつぶやくと――
「わたし達なら――」
「大丈夫です!」
力なくうつむくなのはを連れ、フェイトとはやてが転送魔法で彼らの元に姿を現す。
そして――
ノアキャノンが火を吹いた。
解き放たれた超特大の閃光が漆黒の闇を貫き――グランドブラックホールの中心に突き刺さる!
「見ろ! グランドブラックホールが!」
そんな中、最初に気づいたのはニトロコンボイだった。グランドブラックホールの外郭部を指さして声を上げ、そちらに視線を向けた一同はグランドブラックホールの闇が見る見るうちに収縮していくのに気づく。
最後に、撃ち込まれた閃光が大きく弾け――
その光が消えた後、グランドブラックホールはわずかな闇を残滓として残し、ほぼ完全に消滅していた。
「や、やった……!
グランドブラックホールが消えたぞ!」
「これで……宇宙は救われたんだよね!?
ボクらのミッドチルダも!」
「あぁ。
オレ達のアニマトロスもな!」
あらゆるものに牙をむいていた漆黒の闇の消滅――歓喜の声を上げるライブコンボイとキングコンボイの言葉に、フレイムコンボイも満足げにうなずく。
「ノイズメイズ達は……?」
「わからん。
だが、生きていたとしても、グランドブラックホールが消滅したのだ。ヤツらの野望は費えたも同然だ」
まだ肝心な連中の消息がわからない――周囲を見回し、つぶやくニトロコンボイに、ビッグコンボイは息をついてそう答える。
誰もが一様に喜びを表し――だが、そんな中、ただひとり表情を沈めている人物がいた。ひとりうつむくなのはに、フェイトとはやては優しく呼びかけた。
「なのは……マスターガルバトロンは、きっと後悔なんかしてなかったと思うよ……」
「せやで、なのはちゃん。
デスザラスと同じや――満足のいく戦いができたから、マスターガルバトロンは何もせず、素直にプラネットフォースをプライマスに返してくれたんや思うよ。
もしも、納得できてへんかったら……あの人のことや。きっと、グランドブラックホールの中心にプラネットフォースを投げ込む、くらいのことはしたやろうし……」
「うん……
わかってる、けど……!」
答える声には、深い哀しみが宿っていた。顔を上げることができず、なのははフェイトの胸に顔をうずめて嗚咽を漏らす――
宇宙を救った喜びと――
救えなかった哀しみと――
二つの想いの中、すべてを滅ぼす滅びの闇はこの宇宙から姿を消し――
――てはいなかった。
「ちょっと待て!」
最初に気づいたのはギャラクシーコンボイだった。
真剣な表情で、グランドブラックホール――その中心があった場所に残る、わずかな闇の残滓をにらみつける。
「どうした? ギャラクシーコンボイ」
「マスターガルバトロンにも勝った。グランドブラックホールも消えた。
この上、何があるっていうの?」
ライブコンボイとキングコンボイが尋ねた、その時――
〈待って!〉
そんな一同を止めたのはエイミィだった。
「グランドブラックホールの中心座標にエネルギー反応!」
アースラのブリッジで、エイミィはデータを分析しながら告げる。
「そこに何かがある!」
そして――エイミィは告げた。
「――うぅん、違う……」
「何か……“いる”!」
(初版:2007/08/18)