「な、何かいる、って……?」
エイミィの見つけた、グランドブラックホールの中心に潜んでいた“何か”――その正体がつかめない中、キングコンボイは中心部に残された漆黒の闇の残滓へと視線を向けた。
「あの闇の中にいる、ってことか……?」
「けど、何がいるっていうんだ?
すべてを飲み込むはずの、グランドブラックホールの中心に……」
だが、今までの流れから考えれば、あらゆるものを消滅させるグランドブラックホールの中心に何かがいるなど考えづらい。思わず首をかしげ、晶とブリッツクラッカーがつぶやくと、
「――待って!」
「闇が、晴れていきます!」
アリサとバックギルドが声を上げ、グランドブラックホールのコアの跡に残っていた漆黒の渦が少しずつ晴れていき――
「な、なんや、アレは!?」
現れたモノを見て、レンの上げたその声はまさに全員の総意だった。
なぜなら――
巨大なマシーン惑星が――
地表から伸びる巨大な角で別の惑星を捕まえ――
その巨大な口で、捕食していたのだから。
第87話
「本当の敵・出現なの!」
「何なんだ、アレは……!?」
「星が……星を、食べてる……!?」
星が星を喰らう――信じがたいその光景を前に、ライブコンボイと真一郎は呆然とそうつぶやき――
「……シグナム……」
「あぁ……」
そんな中、声をかけてきた知佳にシグナムはうなずいた。
「知佳ぼー、アレが何か知ってるの?」
「シグナム……?」
尋ねる美緒とシャマルの声に、二人は顔を見合わせ、告げた。
「あの姿……
ギガロニアで見た、記録映像にそっくりだ……」
「あぁ。
間違いない。アレは1000年前にもギガロニアを襲った――」
「プラネットX――」
「ユニクロンだ」
「そんな!?」
知佳の言葉に、真っ先に声を上げたのは那美だった。
「けど、私達と戦った時に、ノイズメイズさんは言ってたんですよ!
『時空の裂け目が発生した時の余波で、プラネットXは消滅した』って……」
滅びたはずの惑星が、どうして目の前に存在しているのか――思わずそう告げる那美だったが、
「確かに、『消滅した』って言ったな」
「ノイズメイズ!?」
「生きてやがったのか!?」
突然目の前に――自分たちとマシン惑星との間に現れたノイズメイズの姿に、すずかとエクシゲイザーが身がまえ、声を上げる。
「どういうことだ、ノイズメイズ!?」
「オレ達は確かに『プラネットXは消滅した』って言ったさ。ウソは言ってない。
けどな……この話には実は続きがあるんだよ」
警戒もあらわに尋ねるギャラクシーコンボイだが、ノイズメイズは気にする様子もなく、ひょうひょうとそう答える。
「考えても見ろ。プラネットXは、貴様らの創造主プライマスと対となるユニクロン様の肉体なんだぞ。
対となるプライマスが存在する限り――ユニクロン様のスパークが存在し続けている限り、その肉体は無限に再生する。
そうして復活したプラネットXだが、やはりプラネットフォースが欠けたままでは完全復活とまではいかなかった――そこで、復活のためにユニクロン様が利用したのが――」
「グランドブラックホールか……!」
ノイズメイズの言葉に、メガザラックはだいたいの事情が飲み込めた。ブリューナクをかまえ、警戒を解かないままつぶやく。
「あのグランドブラックホールは、確かにその存在そのものは自然現象だが――同時にプライマスとユニクロン、二人の神の“力”の産物でもある。その“力”の出所の一方であるユニクロンにとって、潜伏は比較的容易のはずだ。
つまり、ユニクロンはこのグランドブラックホールを、傷つき、動けない自分が復活するためのエネルギーを得るためのエサ場として利用したというワケか……!」
「超重力で引きずり込んだ惑星を食べて、エネルギーにしてたってこと?
まるでアリジゴクじゃない」
納得し、つぶやくメガザラックのとなりで、アリシアもまたゲンナリしてそううめく。
「けど、そのグランドブラックホールももうないわよ!」
「ユニクロンの復活――お前達の野望もここまでだぜ!」
しかし、それももはや過去の話――ノイズメイズに対し自信タップリに言い放つアイリーンとブロードキャストだったが、
「そいつぁどうかな?」
対し、ノイズメイズは不遜な態度でそう答えた。
「お前らが宇宙を救おうと東奔西走していたように――オレ達もオレ達で、いろいろ飛び回ってたんだぜ!」
その言葉と同時、彼らの周りにサウンドウェーブ達がその姿を現した。
彼らの手の中にあるのは――
「フォースチップ!?」
「スピーディア、アニマトロス、地球、ミッドチルダ……
まさか、ユニクロンのプラネットフォースか!?」
彼らの持つ、それぞれの星の紋章の刻まれたフォースチップ――ユニクロンのプラネットフォースを前に、美沙斗とシックスナイトが声を上げる。
「すでに、そこまでプラネットフォースを集めていたでござるか……」
「けど、チップスクェアは!?
それに、ギガロニアのユニクロン・プラネットフォースはマスターガルバトロンが……」
隠密ともあろう者が、容易に敵の暗躍を許してしまったとは――歯噛みするメビウスショットのライドスペースで美由希が声を上げるが、
「問題はない」
そう告げて、ドランクロンがラートラータ、エルファオルファと共に姿を現した。
グランドブラックホールと共に消滅したと思われていた、マスターガルバトロンを捕獲して。
「マスターガルバトロンさん!?」
「礼を言うぞ、高町なのは。
貴様がマスターガルバトロンを叩き伏せてくれたおかげで、容易にギガロニアのプラネットフォースとチップスクェアを確保できた」
思わず声を上げるなのはにドランクロンが答える。その言葉が示す意味は――
「最初から――狙っていたということか……!」
「そういうことだ。
マスターガルバトロンが勝てばそのまま宇宙を消させればいい。負けてもプラネットフォースとチップスクェアの回収が容易になる――どちらに転んでも、我らに損はない」
フレイムコンボイのライドスペースでうめく恭也に答えるドランクロンだったが――つじつまが合わないことがある。
「それより……さっきから『チップスクェアも手に入れた』って言ってるのはどういうことよ!?
マスターガルバトロンが取り込んだのは、ギガロニアにあったユニクロンのプラネットフォースでしょ!?」
思わず声に出し、アリサが指摘し――そんな彼女を乗せているバックパックはあることを思い出した。
かつてプライマスが明かした、グランドブラックホールの成り立ち――その中で語られたあの事実を。
「ち、ちょっと待つんだ、アリサ」
「何よ!?」
「前にプライマスが言ってたよね?
『ユニクロンのプラネットフォースとチップスクェア、その内のどれかを何者かが吸収したせいで、グランドブラックホールが発生した』って……」
その言葉は、一同に真相を推理させるには十分すぎた。サイバトロン軍の間に無音の衝撃が走る。
「吸収されたのは5つのプラネットフォースとチップスクェアのいずれか……」
「マスターガルバトロンの捕獲によって、ノイズメイズ達の手の中にそろった5つのプラネットフォース……」
「そして、マスターガルバトロンの捕獲をチップスクェアの獲得と結びつけるドランクロンの言動……」
リニス、ライオカイザー、ガイルダートがうめき――ビッグコンボイが真相を告げた。
「つまり……マスターガルバトロンだったワケか。
ユニクロンのチップスクェアを吸収したのは……!」
「そういことだ。
ギガロニアでユニクロンのプラネットフォースそのものを取り込むことができたのも、ヤツがチップスクェアを取り込んでいたからに他ならん。
すなわち――マスターガルバトロンは直接プラネットフォースをその身に取り込んだワケではない。自らの取り込んだチップスクェアにセットする形で、ヤツはギガロニアのプラネットフォースをその身に取り込んだのだ」
ビッグコンボイの言葉にそう答え――ドランクロンは続ける。
「さすがに、これには我らも頭を抱えたぞ――ただでさえチップスクェアを取り込み、トランスフォーマーにあるまじき異能の力を振るっていたマスターメガトロンが、ギガロニアのプラネットフォースを取り込んだことでさらに強大なマスターガルバトロンへと転生してしまった。おかげでチップスクェアも、ギガロニアのプラネットフォースも回収が困難になってしまった。
――だが」
そこで一度言葉を切り――ドランクロンはその口元に獰猛な笑みを浮かべ、
「そこの高町なのはがマスターガルバトロンを倒してくれたおかげで、その問題も解決した。
正直、いくら感謝しても足りないくらいだ」
「――――――っ!」
ドランクロンのその言葉に、なのははビクリと肩をすくませた。その顔から血の気が引いていくのが、傍から見ていてもハッキリとわかる。
「そんな……
それじゃあ……わたしのせいで、マスターガルバトロンさんが……!?」
「気にするな。
なのはは悪くない――真に糾弾されるべきはお前を利用したノイズメイズ達だ」
呆然とつぶやくなのはに告げると、ギャラクシーコンボイはノイズメイズへとギャラクシーキャノンの銃口を向けた。
「だが、それ以上はさせない!
ユニクロンは復活させないし――マスターガルバトロンも返してもらうぞ!」
高らかにそう宣言するギャラクシーコンボイだが――
「いいぞ、やってみるがいい。
ただし――」
「やれるものならな!」
「――――――っ!」
サウンドウェーブとサウンドブラスターの言葉と同時――ギャラクシーコンボイは素早く後退。頭上から迫った一撃をかわす。
その攻撃の主は――
「白い、ノイズメイズだと!?」
「アイツ……1000年前のギガロニアの映像にいたヤツか!」
攻撃をかわされ、後退するのは真っ白なボディカラーのノイズメイズ――驚くメガロコンボイのとなりで、ニトロコンボイが声を上げる。
しかも――現れた白いトランスフォーマーはノイズメイズの同型1体だけではなかった。サウンドウェーブ(サウンドブラスターかもしれないが、元々二人が同型なのだから白くなられてはもはや判別不能だ)やランページ、ドランクロン達の同型トランスフォーマー達が次々に――しかも大量にその姿を現す。
「な、何だ、コイツら!」
「こいつらも、ユニクロンの眷属か……!」
次々に現れる増援を前に、エクシゲイザーやインチプレッシャーがうめくと、
「そういうことじゃ!」
そう一同に答えたのはランページだった。
「ただこの場にプラネットフォースがそろっただけでも、ユニクロン様は活動を開始したんじゃ!
おかげで、こっちはいくらでも自分達の量産型を戦力として用意できるっちゅうワケじゃ!」
そう告げると同時、ランページは背中のアームを――ビーストモード時のハサミを展開する。
ハサミが光に包まれ、その輪郭がぼやけたかと思われた、次の瞬間――
「――そして!」
一撃の下に、マスターガルバトロンの身体を打ち貫く!
その光景に、なのはだけでなく一同が息を呑む中――引き抜かれたそのハサミには、1枚のプラネットフォースをセットした漆黒のチップスクェアが握られていた。
一方、マスターガルバトロンの身体は元のまま。ランページのハサミによる傷は見られない――どうやら今の一撃は物理的なものではなく、マスターガルバトロンのスパーク、その中に取り込まれたチップスクェアとプラネットフォースに対するエネルギー的干渉だったようだ。
「これで残りのプラネットフォースもセットできる!
ユニクロン様の復活は、もう目の前っちゅうワケじゃ!」
言って、マスターガルバトロンの身体を放り出したランページは黒いチップスクェアを高々とかかげ――
「そうは――!」
「させるか!」
それを阻むべく動いていたのはシグナムとスターセイバーだった。素早く彼らの元に肉迫し、刃を繰り出し――しかし、その一撃がランページ達に届くことはなかった。
周囲から、無数の端末トランスフォーマーが二人に襲いかかってきたからだ。とっさに防御を固めるが、すべて対応しきることはできず、死角からの蹴りを受けて二人とも弾き飛ばされる!
「シグナム!」
「スターセイバー!」
その姿に知佳とビクトリーレオが声を上げるが――
「よそ見なんかしてるヒマがあるのか?」
淡々とラートラータが告げ、端末トランスフォーマー達は一斉にサイバトロン軍へと襲いかかる!
「そこでせいぜい、そいつらの相手でもしているがいいさ!」
「その間に、ユニクロン様は完全に復活される!
そして――その時こそ、今度こそ宇宙の終わりが訪れるのだ!」
これでなのは達は端末トランスフォーマーへの応戦でこちらにかまっている余裕はなくなった。ノイズメイズとドランクロンが高らかに宣言すると、彼らは頭上にプラネットフォースをかかげ――まだセットされていないそれらのプラネットフォースが一斉に光に包まれた。
チップスクェアに反応しているのだ。
「マズい!
ユニクロンのプラネットフォースが発動してまう!」
「誰でもいい!なんとかして発動を止めろ!」
「って、どーやってだよ!?」
はやての言葉にビッグコンボイが叫ぶが、次々に現れる端末トランスフォーマーを前にしてはそんな余裕のある者などいない。グラーフアイゼンを振るいながら、ヴィータがビッグコンボイに反論する。
そうしている間にも、ノイズメイズ達の持つプラネットフォースの反応はますます強くなっていく。チップスクェアにセットすれば今すぐにでも発動しそうな勢いだ。
このまま、発動を許すしかないのか――誰もがそう思った、その時――
「みんな――どいて!」
カートリッジをロードしたのだろう。強烈な光を放つ魔法陣の中央でレイジングハートをかまえ、なのはが一同に告げる。
その視線は先ほどまでのショックに打ちのめされたものではない。強烈な意志の元にノイズメイズ達を鋭く射抜いている。
「――――よし!
全員、なのはの射線上から退避するんだ! 巻き込まれるぞ!」
彼女の意図を察し、告げたギャラクシーコンボイの言葉にサイバトロン軍は一斉に戦場の中央から離脱。なのはの射線を確保する。
そして、なのははレイジングハートにありったけの魔力を叩き込み、
「マスターガルバトロンさんは――返してもらうんだから!
エクセリオンバスター、フォースバースト!
ブレイク――」
「させるかよ」
静かな宣言がなのはの背後から放たれ――
次の瞬間、一振りの光刃が、なのはの身体を貫いていた。
「え………………?」
一瞬、思考が停止した。
サイバトロン軍が離脱し、射線を確保したなのはが必殺の一撃を放とうとした瞬間、何かがその背後に現れ――気がつくと、すでになのはは背後に現れた敵によってその身を貫かれていた。
「――――――なのは!」
ようやく思考が追いつき――悲鳴が上がる。叫ぶフェイトの目の前で、ノイズメイズは無造作にブラインドアローを振るい、その先端に生み出された光刃で貫いていたなのはの身体を振り払う。
自らを貫いた刃から解放され、なのはの身体が虚空に投げ出され――
「レイジング……ハート!」
〈Blitz shooter!〉
「――――――っ!?」
とっさに離脱しようとするが――逃がさない。仕留めたと思っていたなのはの放った桃色の光球が、襲撃の時と同じようにワープで離脱しようとしていたノイズメイズを直撃、吹っ飛ばす!
「うぉっ!?
こいつ、まだ……!?」
うめき、後退するノイズメイズの眼前で、なのははプリムラの広げた翼でなんとか体勢を立て直す。
《ごめん、なの姉……
かわしきれなかった――急所を外すだけで精一杯だった……!》
「ううん……
気づけなかったわたしも悪いよ……! ノイズメイズさん達がワープできることを、すっかり忘れてた……!」
謝罪するプリムラの言葉に、なのはは脇腹を貫かれた傷を押さえながら答える。
レイジングハートとプリムラが応急処置をしているのだろうが、桃色の魔法陣で守られている傷口からはそれでもかなりの出血が確認できる。彼女の受けた傷がかなりの深手である証拠だ。
それでも、負けるワケにはいかない。なのはは空いている利き手でレイジングハートをかまえ、ノイズメイズに向け――
「待つんだ、なのは!」
そんななのはを、ギャラクシーコンボイがあわてて制止した。
「その傷で戦闘はムリだ!
マスターガルバトロンから受けたダメージもある! 一度アースラで手当てを受けるんだ!」
「でも……!
マスター、ガルバトロンさんを……助けなきゃ……!」
告げるギャラクシーコンボイに対し反論するなのはだが――痛みに顔をしかめながら言われても安心などできようはずもない。
「仕方あるまい……!
ゆうひ! 強制転送だ! なのはを回収してくれ!」
〈り、了解っ!〉
自分で退いてくれないならばムリヤリ退場してもらうまでだ――告げるギャラクシーコンボイにゆうひが答えると同時、なのはの周囲に魔法陣が展開される。
「ギャラクシーコンボイさん!」
「なのは。まずは傷の手当てだ」
声を上げるなのはに答え、ギャラクシーコンボイは彼女をかばうようにノイズメイズと対峙し、
「マスターガルバトロンを救いたいのなら――なおのこと、万全の状態で戻ってきてくれ」
「――――――っ!」
その言葉に、なのはは思わず唇をかみ――アースラからの強制転送により、その場から姿を消した。
「チッ、逃がしたか……
まぁいい。一番厄介な小娘がいなくなったことに変わりはないからな」
そんななのはとギャラクシーコンボイのやり取りを前に、ノイズメイズは舌打ち混じりにそうつぶやき――
「本当に……そう思っているか?」
そんなノイズメイズに、ギャラクシーコンボイは静かに告げた。
「もし、これが自分達に有利に働いたと思うのなら――今すぐ考えを改めた方がいいぞ」
そう告げるギャラクシーコンボイは――
「私のパートナーを――なのはを傷つけてくれた以上――」
「それなりの覚悟をしてもらうぞ!」
初めて、本気で怒っていた。
「――――――っ!
ひどい……!」
アースラへと転送されてくるなり、なのはは意識を失って崩れ落ちた――急いで医務室に運び込まれたなのはの傷を診て、フィリスは思わず息を呑んだ。
ノイズメイズの一撃はプリムラの鎧すらもまるで紙切れ同然に貫いていた。一撃を受けた辺りの鎧やバリアジャケットは完全に溶解、または焼け焦げ、なのは自身にも刺し貫かれた傷の他に重度の火傷が刻まれている。
かなりの重傷だ。治癒魔法に長けた者が不在であるアースラの医務室で手に負える傷ではない。
とっさのこととはいえ、アースラに転送してしまった判断ミスを悔やむが、今はそんなことを言っている場合ではない――なのはに同行してきていた秋葉は迷わず通信回線を開き、呼びかける。
「ユーノくん、シャマルさん!
今すぐこちらに来られますか!? なのはちゃんが!」
〈わ、わかってますけど……!〉
〈マキシマスにも、敵が殺到していて……とても転送ゲートにエネルギーを回せる状況じゃ――きゃあっ!?〉
「シャマルさん!?」
返ってくる答えは芳しくない。特にシャマルは相棒のフォートレスもろともかなり追い込まれているようだ。彼女達の治癒魔法だけが頼りだったのだが――
「…………フィリスさん」
「わかってます」
静かに告げる秋葉に、フィリスはハッキリとそう答え、うなずいて見せた。
それを受け、秋葉はプリムラを連れて医務室を出て行き――フィリスはなのはを見下ろし、告げた。
「確かに、私は外科は専門外ですけど……
それでも、絶対に死なせませんからね、なのはさん……!」
「秋葉ちゃん!」
廊下に出るなり声がかけられた――振り向くと、ちょうど桃子が廊下の向こうからこちらに向けて駆けて来たところだった。
戦闘開始以来、彼女達には安全のため居住区に移動してもらっていた。そのためこちらに来るのが遅れてしまったのだろう。
「なのはは……!?」
「今は……フィリス先生に任せるしかありません」
桃子に答えて、秋葉は改めて医務室の扉へと振り返った。
「信じましょう。
フィリス先生なら、きっとなのはさんを救ってくれる……そして、なのはさんも、きっと自分の死に打ち勝って、帰ってくると」
「えぇ…………」
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と共に、飛来したフォースチップはギャラクシーキャノンのチップスロットへ――展開されたギャラクシーキャノンのバレルの中で、巻き起こったエネルギーがまるで彼の怒りを表すかのように荒れ狂う。
そして、ギャラクシーコンボイはノイズメイズへと狙いを定め、
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」
間髪入れずトリガーを引き、放たれた閃光の奔流がノイズメイズへと襲いかかる!
だが――
「なめるな!」
ノイズメイズが叫ぶと同時、彼の眼前の空間が揺らぎ――ギャラクシーキャノンの閃光は、まるでその歪みに飲み込まれるかのように消えうせる!
「何っ!?」
決まったと思った一撃の突然の消失――予想外の事態にギャラクシーコンボイは驚愕の声を上げ――
「驚いてるヒマなんか――あるのかよ!?」
ノイズメイズの言葉と同時――ギャラクシーコンボイの背中に強烈なビームが叩きつけられる!
これは――
「私の、フルバースト……!?」
自分が放ち、ノイズメイズの眼前で消失したはずの攻撃が、背後から自分に襲いかかった、ということか。
考えられる可能性は――
「私の背後に――私の攻撃をワープさせたか……!」
「やっぱ、この程度の小細工は簡単に見破るか。
そうさ。火山島でアンタの仲間がやったことと同じさ。
ま、ワープも時には使いよう、ってことだな」
うめくギャラクシーコンボイのつぶやきに対し、ノイズメイズは余裕だ。あくまでも悠々とそう告げる。
「だが――それならば!」
しかし、仕掛けがわかればどうということはない。ギャラクシーコンボイはノイズメイズを狙っていた銃口を放り出し、一気に彼との距離を詰めていく。
「接近戦ならば――そう簡単にワープさせられまい!」
「確かに、ワープの兆候に気づかれればそれまで、だな」
咆哮するギャラクシーコンボイの言葉に、ノイズメイズはうんうんとうなずき――
「――だけどな」
次の瞬間、ギャラクシーコンボイの全身で爆発が巻き起こった。
ノイズメイズの周囲の白い量産型ノイズメイズが、一斉にギャラクシーコンボイへの攻撃をしかけたのだ。
「ぐぅ………………っ!」
「残念だったな!
これだけ数の差がある状況で――悠長に接近戦なんかできると思うな!」
立て続けに直撃を受け、うめくギャラクシーコンボイに告げ――ワープで眼前に飛び込んできたノイズメイズが、ウィングハルバードでギャラクシーコンボイに斬りかかる!
「こんっ、のぉぉぉぉぉっ!」
咆哮と共に光刃が煌く――ザンバーフォームのバルディッシュによる斬撃を受け、上半身と下半身とが永遠の別離を果たした白いラートラータが、フェイトの背後で爆発、四散する。
スパークの、命の息吹が端末トランスフォーマー達からは感じられない。どうやら見た目が彼らにそっくりなだけで、傀儡兵と同じ量産型の機動端末なのだろう。おかげで遠慮なく叩き落せるのだが――問題はその数だった。
ユニクロンによる眷属の創造の速度はこちらの迎撃スピードをはるかに上回っていた。いくら倒してもきりがないどころか、1体倒せば次は2体、3体で襲いかかってくる。
そうしている間にも、ユニクロンのプラネットフォースはすでにドランクロン達の手を離れ、チップスクェアの周りに集まっている。
そして――
スピーディアの――
アニマトロスの――
地球の――
ミッドチルダの――
セットされていなかった4つのプラネットフォースがチップスクェアにセットされ――
ユニクロンのプラネットフォースが完全に発動した。
一瞬にしてプラネットフォースの姿が消える――プライマスの時と同じく、ユニクロンの元へと転送されたのだ。
そして、マシーン惑星の内部――自身の中枢部にプラネットフォースが戻り、惑星の表面をいくつもの光が駆け抜けていく。
光が消え、一瞬の静寂――しかし、異変はすぐに始まった。
これもまたプライマスの時と同じだ。星全体が鳴動を始め、外殻が轟音と共に割れていく。
巨大な口の存在する北半球の外殻が展開され、まるで翼のように広げられると、赤道にあたる部分が大地もろとも展開。北側にスライドし、固定されるとその先端に巨大な拳が姿を現す。
次いで、沈黙を保っていた南半球が動いた。下方に展開されると左右に分割され、つま先が展開されて人型の両足となる。
最後に頭部が現れ――
――オォォォォォォォォォォッ!――
まるで自らの復活を誇示するかのように、すべてを揺るがす咆哮が轟く。
プラネットモードからの変形を完了し、その威容を現した破壊神はゆっくりと自らと対を成す創造神へと向き直る――
それは、神話の時代から続く、創造神と破壊神を決める戦い――
プライマスとユニクロン、二人の“神”の戦いが、今再び、この宇宙で始まろうとしていた。
(初版:2007/08/25)