「………………!」
 アースラの医療セクション、その中でも重傷者が担ぎこまれる、ICUにあたる緊急処置室――扉の前で“手術中”を示す赤ランプが転倒しているまさにその前で、桃子は用意してもらったベンチに座り込み、一心に祈りを捧げていた。
 願いはもちろん、中で手当てを受けている愛娘の命が助かること――
 となりの士郎はもちろん、秋葉も言葉を発することができず、ただ沈黙だけがそこにあった。

 そんな中、無言で立ち上がり、その場を後にした者がいた。
 那美によってその身を案じられ、決戦にあたりアースラに残されていた久遠である。
 外を見渡せる窓のある回廊に出て、戦いの続く外の様子へと視線を向ける。

 どこかから自分達を見守ってれているはずの、“彼”へとこの願いが届くように――
 

(べくたーぷらいむ……
 おねがい……なのはをまもって……!)

 一心に祈る彼女の手の中で――

 

 金色の金属球が、静かに光を放っていた。

 

 


 

第88話
「集まるみんなの想いなの」

 


 

 

「あれが、ユニクロン……!?」
 プラネットモードからのトランスフォームを完了し、ついにその威容を現したユニクロン――プライマスと対峙するその巨体を前に、ニトロコンボイが呆然とつぶやく。
「ち、ちょっと、何よ、あのバカデカさ!?
 いくらなんでも反則が過ぎるでしょ!」
「プライマスよりも……デカい……!?」
 だが、そのサイズは同じ惑星サイズでもプライマスをさらに上回るものだった。創造神よりも頭ひとつ分、一回りも巨大なその体躯を前に、アルクェイドとライガージャックがうめく。
 と、その時、突如ユニクロンが動いた。背中のチップスロットにフォースチップをイグニッション。胸部の装甲が展開され――そこに巨大な砲口が姿を現す!
「おいおい、マジか!?」
「離脱するぞ!
 あんなもの、まともに撃たれたら巻き込まれるぞ!」
 思わず声を上げるソニックボンバーにクロノが告げ、それを合図にサイバトロン軍は一斉に離脱。ユニクロンの正面から退避する。
 そして、ユニクロンの胸の砲口が――
 

 主砲“カオスブリンガー”が火を吹いた。
 

 グランドブラックホールを消滅させた、プライマスの“救いの光”とは違う――すべてを破壊し、虚空の彼方に消し去らんとする、“混沌”をその名に冠する死の閃光は一直線に宇宙を貫き、疾走する。
 しかし、その閃光が宿敵をとらえることはなかった。確かにプライマスのいる方角へと放たれたが――プライマスを直撃せず、その脇を駆け抜ける。
「よっしゃ、外れた!」
 とりあえず、いきなりプライマスが撃たれるという最悪の事態は避けられた――思わずガッツポーズをとり、声を上げるヴィータだったが――
「――――いや、違う!」
 そのとなりでビクトリーレオが気づいた。
 ユニクロンの放ったカオスブリンガー、その閃光の向かう先は――
「ヤツの狙いは――」
 

「プラネットフォースのあった星だ!」
 

 その言葉と同時、閃光が弾けた。5つほどの細かな閃光――それでもひとつひとつが大陸ひとつくらい簡単に飲み込めそうなほどの大きさがあるのだが――に分かれ、アニマトロスに、そしてプライマスの背後のスペースブリッジに次々に飛び込んでいく!
 まさか、あの巨大な閃光がそれぞれの星を直撃するのか――戦慄する一同だったが――直後、目の前のアニマトロスに起きた事態によって、その予想は裏切られたことを知った。
 ただし――
 

 

 “より最悪な方向”へ。
 

 

 すなわち――
 

 

 

 

 より細かく弾け、惑星全体に降り注いだのだ。

 

 

「…………ぅ……っ!」
 サイバトロン軍地球前線基地――うめき、突然の衝撃に跳ね飛ばされていたさくらは指令室で身を起こした。
「いったい、どうなったの……?」
 うめいて、さくらはモニターへと視線を向け――
「――――――っ!」
 息を呑んだ。
 そこには――
「………………ひどい……!」
 一瞬にして火の海と化した、地球各地の様子が映し出されていた。
 

「被害は!?」
「確認不能!
 都市部、郊外問わず、ミッドチルダ全域に被弾!」
 ミッドチルダ・サイバトロンシティ――声を上げるグレアムの問いに、部下からは果てしなく絶望的な答えが返ってくる。
「シェルターの方はどうなっている?」
「直撃は今のところありませんが……衝撃によるケガ人の報告がすでに何件か。
 これからも増えると思いますし……」
「直撃を受けたら、今回の比ではすまないということか……!」
 返ってきた報告に歯噛みして、エルダーコンボイはメインモニターを――そこに映るユニクロンの姿をにらみつけた。
「年老いた私では、今さら向かったところで役には立てん……
 お前達だけが希望だ、ジャックプライム――いや、キングコンボイ……!」
 

 同時刻、クラナガン行政府の地下シェルターでは――
「くそっ、なんとか直撃は避けられたか……!」
 攻撃による衝撃の去ったシェルター内で、避難誘導の指揮を取っていたゲンヤ・ナカジマは舌打ちまじりにうめいた。
「だが――いつまでももたんぞ、このままでは……!」
 突然の衝撃に混乱に包まれるシェルター内を見回し、ゲンヤがつぶやくと、
「お父さん……」
 ふと声をかけられ――振り向くと、そこには共に避難してきた二人の愛娘の姿があった。
 妹はもちろん、彼女を落ち着かせるように抱きしめている姉も不安そうにしていて――だから、ゲンヤは二人の肩を叩き、優しげな笑顔で告げた。
「心配するな。
 きっとみんな助かる――そのために、今みんな必死にがんばってるんだ」
「うん……」
 泣きじゃくりながら、それでも次女がうなずくのを見て、ゲンヤはうなずき――胸中で付け加えた。
(そうだ……きっと大丈夫だ。
 地上部隊のオレ達にはそう信じることしかできないが……彼らなら、きっと……!)
 

「アニマトロスが!
 ……おのれぇっ!」
「落ち着け、フレイムコンボイ!」
 目の前で故郷を火の海にされた――怒りに目を血走らせるフレイムコンボイに、恭也はあわてて制止の声を上げる。
「止めるな、恭也!」
「冷静になれ!
 怒りに任せて突撃しても、あのサイズが相手ではどうしようもない!」
 フレイムコンボイの言葉に恭也が答えると、
「恭也の言うとおりだ、フレイムコンボイ……!」
 静かに――しかし圧倒的なまでの迫力を全身からにじませながら、ライブコンボイがフレイムコンボイに告げた。
「故郷を撃たれて頭にきているのは、キミだけじゃないんだ……!
 アイツに頭にきている全員で、なんとしてもユニクロンを倒すんだ!」
「お、おぅ……すまん」
 危うく怒りに任せてかつてのように大切なものを見失うところだった。自分の怒りを懸命にかみ殺すライブコンボイの姿に、フレイムコンボイはなんとか冷静さを取り戻して謝罪する。
「これ以上アレを撃たせるな!」
「拡散ならともかく――収束で撃たれたら星ひとつ消えるぞ!」
 いずれにせよ、ユニクロンのカオスブリンガーをこれ以上撃たせてはならない――シグナムとスターセイバーの言葉に、サイバトロン軍は再度ユニクロンに向けて突撃する。
 だが――届かない。ユニクロンによって生み出された量産型トランスフォーマー達の分厚い防衛ラインがその突撃を阻んでしまう。
 それどころか、戦線は次第にサイバトロン側に不利に動き始めている。
 サイバトロン戦士達が弱いワケではない――純粋に数の問題だ。ユニクロンによって無尽蔵に生み出される量産型トランスフォーマーの数は今も現在進行形で増え続けている。倒す以上のペースで増えられてはいくら倒しても意味がない。
「くそっ、キリがねぇ!」
「ジャマすんじゃねぇよ!」
 うめき、ダイノシャウトとテラシェーバーは攻撃をかわして合流し、
『フォースチップ、イグニッション!』
「スラッシュナイフ!」
「クレストソード!」

 フォースチップをイグニッション。展開した刃で手近な白ノイズメイズと白ランページを斬り捨てる。
 が――敵はまだまだ数を残している。白ランページの一団が彼らを取り囲み、ミサイルの雨を降らせる!
「ダイノシャウト! テラシェーバー!」
「ファングウルフ――いくよ!」
 声を上げ、ファングウルフとアルフが援護に向かおうとするが――ダメだ。その眼前に白エルファオルファが立ちふさがる。
「そこをどけぇっ!」
 咆哮し、ファングウルフはソードモードのウルフェンショットで斬りかかる。対して白エルファオルファもそれを受け止め――瞬間、両者の間に多数の光球が現れる。これは――
「くらいな!」
 アルフだ。至近距離からのフォトンランサーをまともにくらい、腹部をハチの巣にされた白エルファオルファは爆発と共に大破し――だが、そんな彼らに今度は白ドランクロンが襲いかかる。

 ――全員、中央を開けてくれ! 私が行く!――

 自分が出るしかない――追い込まれるサイバトロン達を前に、ついにプライマスが己の沈黙を破った。ユニクロンに向けて両腕のブライトネスキャノン、両脚のフォースブラスターを展開、防衛ライン越しにユニクロンを狙う。
 猛烈な弾幕が量産型トランスフォーマー達を蹴散らし、仕上げとばかりに両肩のプラネットキャノンをお見舞いするが――
「――マズい!」
「逃げて、プライマス!」
 気づき、エクシゲイザーとすずかが声を上げるが――間に合わない。大爆発の中から飛び出してきた巨大ミサイルがプライマスを直撃する!
 そして――爆発の中からまったく無傷のユニクロンがその姿を現した。
 プライマスの攻撃、その効果は――
「ちょっ、無傷かよ!?」
「プラネットキャノン、まともにくらっただろ!?」
 ブリッツクラッカーと晶が声を上げるが――目の前のユニクロンが健在であることは否定できない事実だ。
 と――
「やはり、か……!」
「メガザラック……?」
 うめくメガザラックの言葉に、そのとなりに舞い降りたアリシアが眉をひそめた。
「プライマスは今、完全にパワー不足だ。
 プラネットフォースが戻ったとはいえ――グランドブラックホールを消し去るためにノアキャノンをフルパワーで放った後だ。完全復活を遂げたばかりのユニクロンとは、エネルギー残量に差がありすぎる……!」
「それじゃあ……!」
「あぁ」
 聞きつけ、声を上げるフェイトに、メガザラックはうめくようにうなずいた。
「プライマスとユニクロン、二人の直接対決となった場合――」
 

「プライマスに、勝ち目はない」

 

「なぁ…………」
「何だよ?」
「何よ?」
 答える声は不機嫌そうだ――アームパレットの声に、ガスケットとクロミアは低い声で反応を返した。
「オイラ達……このままでいいのかな……?」
「どうしろってんだよ?」
「そうよ。
 今のこの状況で、あたし達に何ができるってのよ?」
 尋ねるアームパレットだが、返ってくる答えはあっさりとしたものだった。
「けど……このままじゃ、オイラ達だって助からないんだぜ?」
「あのねぇ……」
 なおも食い下がるアームパレットの言葉に、クロミアはため息をついた。
 そして――同様にため息をつき、ガスケットはアームパレットに告げた。
「お前、今の状況ぜんっぜんわかってないだろ――」

「簀巻きでつるされたままだってのに、どーやって戦いに行けっつーんだ!」
「ちょっとぉ! 誰でもいいからこれほどきなさいよぉっ!」

 彼らは、相変わらずノアの艦橋に吊るされていた。
 

「………………っ!」
 切開に伴い、一瞬だけ出血が増す――しかし、すぐに止血を施し、処置を続ける。
 なのはの身体の中に飛び込んだ金属片の存在に気づき、フィリスはすぐにその摘出に取り掛かった。腹部の傷のすぐ脇に撃ち込まれたそれを探り出し、摘出する。
「これは……?」
 最初はプリムラの破片かとも思ったが――違った。プリムラの特徴である薄い桃色の装甲ではなく、真っ白な、白銀の金属片である。
 その正体はわからないが――今はなのはの手当ての方が先だ。ユーノかシャマルか――治療要員が駆けつけてくれるまで、何としてもなのはの命をつながなければならないのだ。
 すぐにフィリスはなのはの処置に戻り――そのせいで気づかなかった。

 わずかだが、金属片が魔力を放っていたことに。

 その色は――

 

 青紫色だった。

 

 

「ダイリュウジン!」
「おぅっ!」
 都古に答え、ダイリュウジンは手近な白ランページを捕まえ、ガーディオンに迫った白ドランクロンへと投げつけ、叩きつける。
「すまない!」
「ありがとう!」
 ダイリュウジンと都古に礼を言い、すぐに戦いに戻るガーディオンとシェリーだが、敵はまだまだ増え続けている。
「ギャラクシーコンボイ!」
「このままじゃマズいよ!」
「わかっている!」
 近くに飛来し、こちらを援護しながら告げるキングコンボイとフェイトに答え、ギャラクシーコンボイはノイズメイズと対峙する。
「今のままでは数で押し切られる――ならばこちらは質だ!
 誰でもいい、ナビゲータを! リンクアップするぞ!」
「はい!」
《了解なのです!》
 告げるギャラクシーコンボイの言葉に答え、フェイトが、そしてはやてにユニゾンしているリインがリンクアップ・ナビゲータを起動させ――
「させるか!
 全軍一斉射撃! 特にコンボイどもを重点的にだ!」
 それを阻んだのはライブコンボイと交戦していたラートラータだ。量産型トランスフォーマー達の一斉射撃が、ギャラクシーコンボイ達に降り注ぐ!
「くそっ、これではリンクアップできん!」
「なら、オレ達で!」
 キングコンボイとのリンクアップを阻まれ、うめくスターセイバーにビクトリーレオが告げるが、彼らの元にも攻撃は降り注いだ。回避が精一杯でとても合体する余裕はない。
「くっ、これでは……!」
「こっちは合体できないんだ――ちったぁこっちの土俵に合わせてくれてもいいんじゃねぇのか!?」
 うめくギャラクシーコンボイを鼻で笑い、ノイズメイズはあざけるように告げ、彼に向けて斬りかかる!
 

「ぅわわわわっ!」
「スキッズ、危ない!
 こっちに来るんじゃ!」
 ユニクロン軍の一斉攻撃はアースラ以下サイバトロン艦隊にも降り注いだ。マキシマスの甲板の上であわてるスキッズを、オートランダーはあわてて砲塔の影へと退避させる。
「くっそぉ! これじゃキリがないぜ!」
「グチを叩いている場合か! 次々落とせ!」
 ダブルヘッドハンマーで白エルファオルファを叩きつぶしながらうめくインチプレッシャーに言い返し、サイクロナスもスパイラルサイクロンで白サウンドウェーブの身体をねじ切り、粉砕する――

 すでにサイバトロン軍の防衛ラインはユニクロン軍の防衛ラインと完全に重なり、激しい乱戦状態となっていた。数を頼りに押し寄せるユニクロン軍はすでにサイバトロン艦隊にも次々に襲いかかってきている。
「アースラが!」
「くそっ、やらせるか!」
 ライドスペースで声を上げるリンディの言葉に、メガロコンボイが援護に向かおうとするが、自分達のもとにも敵は次々に押し寄せている。これを突破しなければ艦隊の救援にたどり着く前に叩き落とされてしまうのは目に見えている。
「ブレンダル! モールダイブ!」
「おぅ!」
「任せろ!」
 メガロコンボイに答え、代わりにアースラへと向かうブレンダルとモールダイブだが、彼らもまた量産型トランスフォーマー達のタックルで姿勢を崩され、アースラにたどり着く前に近くの小惑星に叩きつけられてしまう。
「くそっ!
 だったらこれでどうだ!」
 それに対抗したのがメトロタイタンだ。咆哮と共に全身の火器を起動、気合のままに斉射する。
 さすがは移動要塞都市にトランスフォームするだけのことはある。その火力は一気に敵陣の一角を吹き飛ばすが――すぐに難を逃れた敵によって戦線の穴をふさがれてしまう。
 一方、サイバトロン艦隊もむざむざやられているワケではない。対空砲火で弾幕を張って対抗しているが、それでも敵の攻撃は弾幕の隙間を縫って次々に各艦の甲板を叩く。
「右舷第3ブロックに被弾! 消火班が急行!」
「左舷ミサイル迎撃!
 くそっ、まだ来るか!」
「みんな、なんとか持ちこたえさせて!」
 衝撃に揺れるアースラのブリッジで、エイミィはアレックスとランディの言葉にすぐにそう切り返す。
「ったく、数が違いすぎる!
 エイミィ! このままやったら……!」
「わかってるけど……今の戦力じゃ……!」
 うめくゆうひに答え、エイミィは手元のレーダー画面を――今にも自軍を示す青色が敵を示す赤色に埋め尽くされようとしているその画面をにらみつけた。
「数で勝てるとは思ってない……!
 けど、せめて、コンボイ並みの戦力がもっといてくれれば……!」
「いないものをあてにしてもしょうがないだろ!」
 うめくエイミィにランディが言い返し――

「大丈夫」

 突然の声に振り向くと――彼らの視線の先で、フィアッセは静かにメインモニターを見つめていた。
「どれだけユニクロンが敵を送り出してきても……みんなが力を合わせれば、きっと……!」
 そのつぶやきは祈りにも似て――そんな彼女の姿に、誰もが口をつぐむしかない。
 だが、現実は残酷だ。防衛線はすでにないに等しく、迫り来る敵は弾幕を恐れもしない心のない機械人形――その苛烈な攻撃はサイバトロン艦隊を着実に追い込んでいく。
 そして――

「弾幕、抜けられた!」

 その時がついに訪れた。悲鳴に近いアレックスの叫びと同時――白いラートラータがアースラのブリッジに肉迫する!

 

 白ラートラータがポイズンアローをかまえ――

 

 

 

 一撃が、放たれた。

 

 

 

 アレックスとランディが思わず席を立ち、エイミィが息を呑み、フィアッセもまた目を閉じて――

 

 

 

 絶望と共に、死の一撃がアースラのブリッジに迫り――

 

 

 

 

 弾けた。

 

 

 

 

「………………?」
 生きている――そのことを知覚し、フィアッセは思わず閉じていた目を開いた。
 見渡すが、アースラのブリッジはまったくの無傷だ。明らかに直撃するはずだった一撃の痕跡が、そこにはまったく見当たらない。
 一体何が――ブリッジクルーの誰もが不思議そうに顔を上げる中、フィアッセは状況を把握すべく前方へと視線を向け――
「――――――っ!?」
 息を呑んだ。
 そこにあった、見覚えのある後ろ姿を前にして。
 ギガロニアのトランスフォーマーと比べてもさらに一回り巨大な体躯。
 特徴的な肩アーマーによって形成された、逆三角形の白い機体――
 自然と、その名を口にしていた。

 

 

「スター、スクリーム……!?」

 

 

「………………フンッ、ザコが」
 不機嫌そうに吐き捨て、スーパースタースクリームは手の中のそれを――白いラートラータだったモノを投げ捨てた。
 そして――無造作にアースラへと向き直り、尋ねる。

「無事か? フィアッセ」

「――――――っ!」
 間違いない――その言葉に確信を抱き、感極まったフィアッセの目に涙があふれた。
「……無事だったんだ……!」
「死にかけたがな」
 その場に崩れ落ち、歓喜の涙を流すフィアッセに対し、スーパースタースクリームは以前と変わらぬ調子でそう答え、
「だが――その涙を流すにはまだ早いぞ、フィアッセ」
 そう告げて、スーパースタースクリームはユニクロンへと向き直り、
「今は――」
 

ユニクロンヤツを黙らせる方が先決だ」
 

 その言葉と同時――

 

 

 放たれた一斉砲火が、ユニクロン軍の白いトランスフォーマー達を薙ぎ払う!

 

 

「バカな!?
 なんでスーパースタースクリームがここに!?」
 彼はマスターガルバトロンと激突し、消滅したはず――予想外の援軍の強力すぎるカウンターを前に、ノイズメイズは思わず驚きの声を上げ――
「ぶぎゃっ!?」
「これでようやく、お返しの一発だ!」
 それがスキにつながった。顔面に拳を叩き込み、ギャラクシーコンボイが言い放つ。
「だが、一体何が……!?」
 しかし、スーパースタースクリームの参戦が意外だったのは同じだ。ギャラクシーコンボイは思わずスーパースタースクリームへと――そして彼が守るアースラへと視線を向け――
「――――――っ!?」
 気づいた。
 アースラの側面から輝きが見える。あれは――
 

「べくたー……ぷらいむ……?」
 手の中のそれを見て、久遠は思わず声を上げた。
 白いラートラータによってアースラが落とされそうになった瞬間、突然緑色に輝いた手の中の金属球――ベクタープライムの“マップ”を見て。
 光を放ったマップ、突然現れたスーパースタースクリーム、そしてこのマップの本来の持ち主が持っていた“力”――それが意味するところを推理することは難しくなかった。

「…………べくたーぷらいむ……!
 みまもって、いてくれた……!
 ……やくそく……まもってくれた……!」

 だが――“彼”の“助け”はまだ終わらない。マップから放たれる輝きはますますその強さを増していき――

 

 戦場に、巨大な時空の穴が口を開けた。

 

「な、何だ、アレは!?」
「時空の……穴……!?」
 宇宙空間に突如として口を開けた巨大な時空の穴――驚き、ニトロコンボイと耕介が声を上げ――
「お兄ちゃん!」
「ニトロコンボイ!」
『――――――っ!?』
 知佳とブレイズリンクスの声と同時――エルファオルファとラートラータ、それぞれのオリジナルがニトロコンボイの背後に回り込む!
 二人の攻撃がニトロコンボイ達に襲いかかり――

「ぐわぁっ!?」
「がはぁっ!?」

 轟音と共に弾け飛んだのは――ラートラータとエルファオルファの方だった。
 そして――
 

「やれやれ……なんてザマだ。
 それじゃあ、オレがスピーディアのリーダーになった方がマシか?」
 

 軽いノリでそう告げると、オーバーロードは右腕に展開したエネルゴンクレイモアを軽く振るう。
「お、オーバーロード!?
 ということは……!」
「まさか……!?」
 突然現れたスピーディアの爆走大帝、オーバーロード。
 彼がいるということは――思わずフレイムコンボイと恭也は周囲の気配を探り――

「ギガ、スパイラル!」

「ぅおっとぉ!?」
 一撃は背後から――とっさに回避したフレイムコンボイのいた場を貫いた巨体が、さらにその先にいた白いトランスフォーマー達を次々に粉砕する!
「チッ、外したか」
「相変わらずか、ギガストーム」
 攻撃を終え、ロボットモードへとトランスフォームしたギガストームに答え、フレイムコンボイは彼に向けてフレイムアックスをかまえる。
「何のつもりだ?
 今の一撃、オレを倒すついでにユニクロン軍を蹴散らしたように思えたが」
「あぁ、両方まとめて狙ったさ」
 尋ねるフレイムコンボイの言葉に、ギガストームは悠々とそう答え――
「だが、ひとつだけ訂正だ」
「何………………?」
 眉をひそめるフレイムコンボイの前で、ギガストームは両ヒジからハンドアックスを抜き放ち――フレイムコンボイに向けて振りかぶる!
「――――――待て!」
 同時、フレイムコンボイもフレイムアックスを振りかぶった。恭也が制止の声を上げるが、二人の手から獲物が放たれ――
 

「……『ついで』なのはユニクロン軍ではない。
 貴様の方だ」
「そのようだな」
 

 お互いの放った刃は、相手の背後に迫った白いトランスフォーマー達を粉砕していた。
「なんだ、二人とも気づいていたのか」
「当たり前だ。
 フレイムコンボイ――貴様のパートナーはオレを何だと思っているんだ!?」
「バカだと思ってるんだろうよ!」
 恭也にギガストームが、ギガストーにフレイムコンボイが――それぞれ答えると同時、戻ってきた刃をつかみ取ってさらに襲いかかってきた別の敵を屠り、フレイムコンボイとギガストームは互いの背中を預け合う。
「まずはユニクロン! そして貴様らだ!
 この戦いの決着後――改めて勝負といこうか!」
「いいだろう――返り討ちにしてくれる!」
「『貴様“ら”』と言ったんだ。当然オレも一緒だろう?
 2対1だが――お前が言い出したんだ。卑怯だとか言うなよ!」
 その言葉と同時――彼らは敵群に向けて突撃した。

 

 スーパースタースクリーム、オーバーロード、そしてギガストーム――わずか3名。しかしその3名の参戦が戦いを大きく動かした。一騎当千の力を誇る彼らの力、そして彼ら大帝の圧倒的な存在感により、感情を持たないはずの量産型トランスフォーマー達の間にも確実な動揺が刻まれる。
「アイツら……!」
「助けに……来てくれたんやね……!」
 そんな光景を前に、時空の穴のすぐそばで戦っていたビッグコンボイとはやては感嘆の声を上げ――
 

「やれやれ……あいつらときたら……」
 

『――――――っ!?』
 静かに、しかしハッキリと聞こえたその声に、二人は驚き、目を見開いた。
「この声は……!?」
「まさか……!?」
 信じられない――だが、その声を聞き違えるはずもない。
「張り切るのはいいが、自分の部下を放り出して突撃してどうするんだ、まったく……」
 だが――“彼”はかまわない。ため息まじりにつぶやくと、悠然と時空の穴の中からその姿を現した。
 ギガストームの部下であるバンディットロン軍団、オーバーロードの部下であるメナゾール――そして自分の部下と共に戦艦モードのダイナザウラーの甲板上でその威容を見せつけるように腕組みして仁王立ちしている。
「まぁ、かまわんか……
 力を見せつけてこその大帝だしな」
 苦笑と共にそう納得し――こちらに気づき、押し寄せてきたユニクロン軍の量産型トランスフォーマー達に対して腕組みを解き、
「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮と共に青色の――地球の、プライマス側のフォースチップをイグニッション。“彼”の背中の翼が分離。“彼”の手の中に収まり――
「秘剣――」

 ――デススラッシュ、Tトロンベ

 翼の変形した大剣を振るい、そこから放たれたフォースチップの“力”が渦を巻き、迫り来る白き破壊の使徒を薙ぎ払う!
 破壊の奔流が過ぎ去り――“彼”は刃を掲げ、高らかに宣言する。
「ユニクロン軍よ――聞くがいい!
 そして恐れ、絶望せよ!
 我が名は――」

 

 

 

 

 

 

「恐怖大帝、スカイクェイクなり!」


 

(初版:2007/09/01)