それは、雲海の中をただひたすらに落ちていた。
四肢に力はすでになく、意識もすでに失われている。
ただ、その顔に浮かぶ表情はどこまでも晴れやかだった。
自身のすべてを賭けた戦いを終え、彼は地表に向けて一直線に落下していき――
――死なせないよ――
彼の中で声がした。
――あなたを、死なせない――
――たとえ――
――私のすべてを犠牲にしたとしても――
そして――
彼の身体は光に包まれた。
第89話
「みんなの力で反撃なの!」
「また会ったな、ビッグコンボイ」
「スカイクェイク……!?」
目の前に現れた、死んだとばかり思っていたかつての宿敵――何事もなかったかのように告げるスカイクェイクに、ビッグコンボイは呆然と声を絞り出した。
「そんな……!?
あの時、死んだとばかり……」
「オレもそう思ったんだがな……」
同様に呆然とつぶやくはやてに答え、スカイクェイクは息をつき、
「だが……“彼女”が、命をかけてオレの命を救ってくれた」
「“彼女”……?」
思わず聞き返し――ビッグコンボイは気づいた。
トランスフォーマーの域を超えたスカイクェイクの超回復能力、それを支えていた存在のことに。
その存在の“力”によって、スカイクェイクはデスザラスに転生した。その彼が元のスカイクェイクの姿に戻っているということは――
「まさか……“闇の書”の、防御プログラムが!?」
「あぁ。
そのおかげで、こうして傷を癒して決戦に間に合うことができたワケだ」
「そうなんか……」
ビッグコンボイに答えるスカイクェイクの言葉に、はやては思わず視線を落とした。
「自分の命と引き換えにしてでも、貴様には生きていて欲しかった、ということか……」
「やっぱり、あの子もリインフォースと同じで、本当は優しい子やったんやね……」
スカイクェイクの身に宿り、紆余曲折を経て心を通わせた、かつての“闇の書”暴走の原因ともなったプログラム――自分達と共にあった時には見られなかった一面を知り、はやてがビッグコンボイに同意し――
「…………おい」
そんな二人に、スカイクェイクは告げた。
「さっきから過去形だが……」
「誰が、ヤツが死んだと言った?」
『………………は?』
二人が思わず間の抜けた声を上げ――そんな二人を前に、スカイクェイクはイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべ、
「オレは『命をかけて治してくれた』とは言ったが……『命と引き換えに』だとか、そういったことを言った覚えはないぞ」
「え………………?
せやけど、スカイクェイク、元の姿に戻って……」
「あぁ、こいつか?
治してもらったおかげで、ちょっとした副産物があってな」
はやての言葉に答えると、スカイクェイクの傍らの空間がゆらぎ――彼に寄り添うようにして、ひとりの女性が姿を現した。
その姿は――
「リインフォース……!?」
《はわわ、わたしがおっきくなったみたいです……》
「だが……」
思わず声を上げるはやてとリインのとなりで、ビッグコンボイは眉をひそめた。
女性の姿は確かに初代リインフォースに瓜二つだった。
だが――明確に違うものもある。
ミもフタもない言い方になるが――色が違うのだ。
リインフォースの髪が初代もリインも共通して銀色であるのに対し、彼女の髪は黄色がかった白色――白金を思わせる輝きを見せている。
初代リインフォースにそっくりな容姿を持ち、スカイクェイクに寄り添う女性。その正体は――
「ま、まさか……!?」
「この女性が……あの!?」
《先代様の……相方さんですか!?》
「そうだ。
“闇の書”――いや、暴走した“夜天の魔導書”防御プログラム、その本来の姿だ」
はやて、ビッグコンボイ、そしてリイン――驚く3人に対しそう答えると、スカイクェイクは笑みを浮かべ、
「言っただろう? 『治してもらったおかげで』と。
オレ達トランスフォーマーもプログラムによって身体を制御する存在だ――オレを治療するために力の大半を失い、抵抗力の弱まった彼女であれば、システムに干渉
するのは難しくない。
暴走の原因となっているバグを検索し、取り除くのは不可能ではなかったさ。たとえプログラム本来の形を知らずとも、な」
《はい……
私がスカイクェイクを、スカイクェイクが私を――お互いがお互いを救うことで、我々は再びこの世界に存在することを許されたのです》
スカイクェイクの言葉に笑顔で付け加え――防御プログラムは突然表情を引き締めた。
《スカイクェイク……》
「あぁ……
世間話をしている時間は、もうそろそろ終わりのようだ」
答えて、スカイクェイクはこちらに対してじりじりと包囲網を狭めてきている、ユニクロンの量産型トランスフォーマー達へと視線を向けた。
「いけるな?」
《当然です。
未だ全快に届かずとも――私も偉大なる“夜天の魔導書”の一部。あの程度の匪賊に遅れを取ろうはずがありません》
尋ねる言葉に彼女がうなずくのを確認し――スカイクェイクは吼えた。
「いくぞ――“夜天の月光”!」
《ユニゾン――イン!》
スカイクェイクに応え――新たに月の女神の名を与えられた女性型プログラムは溶け込むようにスカイクェイクと同化し――その姿に変化が起きた。
巻き起こった魔力の渦がスカイクェイクの全身にまとわりつき、つま先から順に物質化、彼の装甲を再構築していく。
危険を察知し、阻止すべく量産型トランスフォーマー達が殺到し――その中から姿を現すのは、ギガロニアでこちらを再三苦しめた宿敵の姿――
「《絆がもたらす敵への絶望!
“絆の果てに高みあり”――覇道大帝、デスザラス!》」
ユニゾン完了と同時、放たれた余剰エネルギーが量産型トランスフォーマー達を薙ぎ払う――破壊神に従う白き眷属達が粉みじんに砕け散る中、デスザラスが高らかに名乗りを上げる。
と――
「おーおー、カッコつけてくれるね!」
「一番後から重役出勤しておいて、なんともまぁ態度のデカいことだな」
どうやら一番最後に現れておきながら一番目立っているのが気に食わないらしい――すぐそばに舞い降りて口を尖らせるのはギガストームとオーバーロードだ。
と、そんな彼らにも量産型トランスフォーマー達が殺到し――
『話のジャマをするな!』
ギガストームのハンドアックスが、オーバーロードのエネルゴンクレイモアが、迫り来る敵を一振りで薙ぎ払う!
「フンッ、デスザラスに突っ込んでいっても返り討ちならこちらを、か?
ずいぶんとなめられたものだな」
「そっちがそうなら、教えてやるよ!
自分達が、どんなヤツらにケンカを売ったのかをな!」
言って、ギガストームとオーバーロードは難を逃れた量産型トランスフォーマー達へと向き直り、
「どんな壁でもブチ砕く!
“突破の果てに高みあり”――爆走大帝、オーバーロード!」
「どいつもこいつも喰い尽くす!
“野性の果てに高みあり”――暴虐大帝、ギガストーム!」
そう各々に名乗りを上げる二人だが――
「……デスザラスのテンプレそのままだな」
《オリジナリティがないのですよ》
「30点やな」
『やかましいわっ!』
ビッグコンボイ、リイン、はやての3人から厳しい評価の3連コンボをもらい、二人は思わず怒りの声を上げる。
「やれやれ……
同じ大帝として、恥ずかしい限りだな」
そのやり取りを少し離れたところで戦いながら聞きつけ、スーパースタースクリームはため息まじりにつぶやき――そんな彼に告げた者がいた。
――大帝ではない――
「プライマス……?」
――お前は、お前の守りたい者のためにこの地に降り立った――
――“戦うため”ではなく、“守るために”――
――“戦う者”である大帝とは違う――
――そう。お前は“守る者”だ――
「オレが……コンボイ……!?」
プライマスの言葉にスーパースタースクリームがつぶやき――突如、その身体に異変が起きた。
体内に残っていたプラネットフォースの“力”が活性化。彼の身体を包み込んで再構築していく。
そして――光が消えた時、スーパースタースクリームの身体はギャラクシーコンボイ達と同クラスのサイズまで縮み、さらに以前のスマートさとは一変、力強さを感じさせるまったく新たなデザインのボディへと作り変えられていた。
「これは……!?」
――お前には、戦いの裏で苦労をさせた。そのボディは私からの礼だ――
思わずうめくスーパースタースクリームに、プライマスは落ち着いた口調でそう答える。
――私のプラネットフォースから得た“力”に合わせボディの再構築を行った――
――そのボディならば、今のお前の力を存分に発揮できるだろう――
「やれやれ……参ったな。
あのボディはけっこう気に入っていたのだが……なんてことをしてくれた」
苦笑まじりにつぶやくが――その言葉ほど声色に嫌悪感は感じられない。気を取り直して周囲の敵をにらみつけ、戦闘を再開すべくかまえを取る。
うがった見方をするなら『プライマス自身が勝つための戦力強化』とも取れるこの転生だが――自分の身体を作り変える際に感じたものは、そうした黒い感情ではなかったからだ。
そこに込められた想いは――
――大切な者のために……必ず生きて帰ってやるのだ。“星の勇者”よ――
「チッ……
フィアッセのことを本気で心配されては、怒るに怒れんか……!
まぁいい。それならばお言葉に甘えて――」
「スターコンボイ、参る!」
咆哮と共に宇宙空間を疾走――急加速と共にスーパースタースクリーム改めスターコンボイは敵陣を駆け抜け、その後で無数の爆発が巻き起こる。
スターコンボイの両腕に生み出された魔力刃が、すれ違いざまに間合いの中の敵を斬り刻んでいるのだ。
そのままブーメランを思わせる円弧状の軌道で戦場を駆け抜け、スターコンボイはノアの甲板上に着地し――そんな彼へと量産型トランスフォーマー達が一斉に銃口を向けるが、
「照準が遅いぞ!
トランスフォーム!」
むざむざ照準を合わせるまで止まっていてやるつもりはない。スターコンボイはその場で武装トレーラーへとトランスフォームし、ノアの甲板上を高速で駆け抜けながらコンテナ部の武装で頭上の敵を狙い撃つ。
「そらそら、どうした!?
オレはこっちだぞ!」
ハデに暴れ回りながら、スターコンボイは広域レーダーで状況を確認する。
狙い通り――敵はこちらに注意を向け、アースラからは離れつつある。
「バカが――オレがオトリだということにも気づかんか!」
フィアッセから離れてくれればもう手加減の必要はない――咆哮と共にスターコンボイはロボットモードへとトランスフォームし、
「フォースチップ、イグニッション!」
すかさず背中のチップスロットにフォースチップをイグニッション。コンテナ部が変形した両脚に内蔵されたビーム砲が姿を現し、
「スター、ブラスター!」
放たれた砲火が量産型トランスフォーマー達を薙ぎ払う!
と――
「おーい! スタースクリ――じゃない、スターコンボイ!」
「ん………………?」
かけられた声に振り向き――スターコンボイは眉をひそめた。
最大級の疑問を抱きながら、尋ねる。
「……何をしている?」
「簀巻きになってんだよ!」
尋ねる問いに、ノアの艦橋の下に吊るされたままになっているガスケットが力いっぱい言い返す。
「ボサッとしてないで、あたし達を放しなさいよ!」
「オイラ達だって戦うんだな!」
「おぅよ!
ユニクロンのヤツ、好き勝手しやがって! ブッ飛ばしてやる!」
「……いいだろう」
今は質はどうあれ頭数が欲しい――口々にわめくクロミア、アームパレット、ガスケットの言葉に、スターコンボイは威力を絞ったスターブラスターで一撃。ガスケット達を縛り上げているバインドを破壊し、彼らを解放する。
「よっ、と!」
最初に解放されたガスケットがノアの甲板の上に着地し――
「ほっ、と!」
「ぶぎゃっ!?」
その上にクロミアが着地、ガスケットが下敷きになり、
「どすこいっ!」
さらにそんな二人をアームパレットが押しつぶす!
「よーし! やってやるぜ!
……って、あれ? ガスケット? クロミア?」
自分のすぐ下にいるとも知らず、アームパレットは相棒達の姿を探し――
『……だぁぁぁぁぁっ!』
そんな彼を、下敷きになっていたガスケットとクロミアが押しのけ、立ち上がる!
「あ、いた!」
「『いた』じゃねぇよ! 『いた』じゃ!」
驚くアームパレットにガスケットが言い返し――
「せっかくきれいに着地できたのに台無しじゃない!」
「お前もだぁぁぁぁぁっ!」
となりで抗議したクロミアの言葉に、ガスケットは天を仰いで絶叫し――
「………………お前ら。
やる気ないならどいてもらうぞ」
『ごめんなさいすいませんまぢめにやります許してください。
だからスターブラスターこっちに向けて急速チャージすんのやめてください』
ユニクロン軍を蹴散らしつつ、ため息まじりに告げるスターコンボイの言葉に、3人は声をそろえて頭を下げる。
「もう、アームパレットのせいで怒られたじゃない」
「オイラのせいだってのか!?」
「あぁぁぁぁぁっ、もうっ!
今はンなコト言ってる場合じゃないだろ!」
責任をなすりつけ合うクロミアとアームパレットをなだめ、ガスケットはノアの前方のユニクロン軍へと向き直り、
「とにかく今はヤツらを叩くぜ!
デストロン軍にオレ達あり、ってことを教えてやるんだ!」
「おぅ!」
「当然よ!」
ガスケットの音頭にクロミアとアームパレットが答え――突如、3人の頭上に影が落ちた。
『………………?』
何があったのかと3人は頭上を見上げ――
ぷちっ。
ロボットモードにトランスフォームし、降下してきたグランダスがその巨大な足で3人を踏みつぶした。
「くっそぉ! 何押されてんだ!
しっかりしやがれ!」
大帝とその配下の参戦によってサイバトロン軍も息を吹き返し、戦況は一気に形勢逆転――押し返され始めた戦線を前に、ノイズメイズは思わず声を上げるが――当然、そんな程度でこの戦況が覆るはずもなく、
「そこだ!」
「ちぃっ!」
むしろ自分の身も危うくなってきた。ギャラクシーコンボイの放つギャラクシーキャノンを回避し、ノイズメイズはいったん距離を取る。もう先ほどのように戦況に気を取られて殴り飛ばされるのはゴメンだ。
そんなノイズメイズの後を追い――ギャラクシーコンボイは各所で反撃の始まっている戦場と意識を向けた。その後方の――傷つき、アースラで治療を受けているはずのパートナーのことを思う。
(見ているか……? 感じているか、なのは……?
これが、私達の紡いできた絆だ……)
「この絆――なんとしても断ち切らせはしない!」
「すごい……!」
「今まで戦ってきたみんなが、ボクらを助けに来てくれた……!」
宇宙の危機に際し、駆けつけてきてくれたかつての敵達――戦場を見渡し、フェイトとキングコンボイは思わず歓喜の声を上げ――
「メガザラック! わたし達も名乗りやろう! 名乗り!
ギガストームやオーバーロードでさえやったんだよ!」
「えぇい! ねだる前に手を動かせ!
名乗りを上げている間に落とされたいか!」
デスザラス達の名乗りをうらやましがるアリシアに言い返し、メガザラックは周囲の量産型トランスフォーマー達を蹴散らしながら言い返す。
「やれやれ、完全に大帝達に出番を持っていかれたね!」
「オレ達も負けてられないぜ!」
突然の参戦、見せつける圧倒的なパワー、そしてドハデな名乗り口上――今や戦場の注目は完全に3人の大帝と新たなコンボイに向いていた。苦笑まじりに言葉を交わし、ライブコンボイと真一郎はドランクロンと斬り結ぶ。
「こっちもいくぞ!」
「野郎ども! ギガストーム達があれだけ暴れてるんだ!
ここでヘバってなどいられんぞ!」
恭也とフレイムコンボイもまた仲間達を鼓舞。勢いを取り戻したサイバトロン軍は一斉にユニクロン軍へと突撃する。
「おーおー、対抗意識燃やしちまって。
てめぇら! 見せ場を取り戻させるなよ! バンディットロンの強さ、見せてやれ!」
「ホラートロン、全軍突撃!
我らの底力、ここで見せずにいつ見せる!」
『オォォォォォォォォォォッ!』
一方、大帝達も負けてはいない。ギガストームとデスザラスの号令でレーザークローが、ウィアードウルフが、タートラーやスカル、ワイプが――彼らの部下が一斉にユニクロン軍へと襲いかかっていく。
そして、オーバーロード達も――
「よぅし、メナゾール! オレ達も行くぞ!
オートーラーズのヤツらももう暴れてるみたいだしな――サイバトロンに後れを取るなぁっ!」
「いつも後れてまーす」
「まぢめにやらんかい」
「やれやれ、どいつもこいつも、元気なもんだな!」
意気盛んに暴れ回るデスザラスの姿を眺め、メガロコンボイは手近な白ノイズメイズをメガロアックスで粉砕する。
「こっちだって、ギャラクシーコンボイ達がリンクアップできれば負けてられないってのによ!」
忌々しげにうめき、激しく交錯するギャラクシーコンボイ達へと視線を向ける。
デスザラス達の参戦によって戦線を崩されながらも、それでもノイズメイズ達はギャラクシーコンボイ達のリンクアップにだけは最大の注意を払っているようだ。先ほどからフェイトやリインが何度もナビゲータの起動を試みているが、その度に量産型トランスフォーマー達の集中砲火を受けて阻まれている。
「オレだってリンクアップできれば、こんなヤツら……!」
「リンクアップのパートナーがいないものね、メガロコンボイは」
うめき、力任せにメガロアックスを振るうメガロコンボイにリンディは思わず苦笑する。
メガロコンボイを始めとしたギガロニアのトランスフォーマーは他の星のトランスフォーマー達に比べてあまりにも大きすぎる。リンクアップしようにも、合体に手ごろな体格の相手が、同郷の者以外にはいないのだ。
その“同郷の者”は皆ユニクロン軍と交戦中。ブレンダルも、モールダイブも――
そこまで考え――気づく。
一番目立つヤツの姿がない。
「メトロタイタンは!?」
「え――――――?」
声を上げたメガロコンボイの言葉に、リンディは彼の肩の上で周囲を見回し――
「どぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」
咆哮が響き――轟音と共に、近くを漂っていた惑星の破片が爆発、四散した。その向こうから飛び出してきた無数の閃光がユニクロン軍を薙ぎ払う!
そして――
「オレのこと、お探しかな?」
爆発の向こうから、メトロタイタンはニヤリと笑みを浮かべながらその巨体を現した。
「ったく、どこ行ってたんだよ?」
「ちょいと、コイツを連れてきてな」
メガロコンボイに答え、メトロタイタンが胸部の収納スペースから解放したのは――
「やれやれ、ようやく解放されるか……」
「いきなり来たと思ったら、問答無用だもんなぁ……」
「ドレッドバスター! 志貴!」
「そうか……そうよね!
志貴くんも、ナビゲータを使えるひとりだったじゃない!」
中から出てきたドレッドバスターと志貴の姿に、メガロコンボイとリンディは思わず声を上げる。
「これでギャラクシーコンボイ達もリンクアップできるぜ!」
光明が見えた――意気揚々と声を上げるメガロコンボイだが、
「おいおい、待てよ」
そんな彼を、なぜかメトロタイタンは呆れ半分といった様子でいさめた。
「アイツらにリンクアップさせようとしたって、今度は志貴が集中砲火を喰らうだけだろ」
「ならどうするんだ――」
そう言い返しかけて――ふとメガロコンボイは口をつぐんだ。
「おい……まさか……!」
「あぁ。そのまさかさ」
うめくように告げるメガロコンボイに、メトロタイタンはうなずき、告げた。
「オレ達二人でするのさ。リンクアップをな!
志貴!」
「わ、わかった!」
もうぶっつけ本番のリンクアップにはすっかり慣れっこだ。メトロタイタンの言葉に、志貴は久しぶりの使用となるストレージデバイスを取り出し――
〈Link up Navigator, Get set!〉
リンクアップナビゲータが起動した。
『メガロコンボイ!』
リンディと共に咆哮し、メガロコンボイはボディを変形、両手、両脚の順に四肢を後方に折りたたんで身体をブロック状に変形させ、
「メトロタイタン!」
次いでメトロタイタンが変形、両腕を左右にまっすぐに伸ばすとボディ上部が展開。二つに分かれた胸部を肩とした、より巨大な両腕となり、胸部中央を空けた大型のボディを形成する。
そして両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
メガロコンボイがメトロタイタンの胸部スペースに合体、固定されて一体化する。
メガロコンボイとメトロタイタン、二人のシステムがリンクし、リンディを加えた3人で高らかに名乗りを上げた。
その名は――
『タイタァン、コンボイ!』
「いぃくぞぉぉぉぉぉっ!」
元々巨大な二人がリンクアップ――もはやその巨体は戦艦トランスフォーマーにも匹敵する。その威容を前に一斉にユニクロン軍が攻撃を始めるが、その巨体を前にまったく歯が立たない。逆にタイタンコンボイの全身から放たれる砲火によって片っ端から薙ぎ払われていく。
「どうしたどうした!
さっきまでの勢いはどこに行ったよ!?」
「油断しないで、タイタンコンボイ!」
なおも強烈な弾幕をまき散らしながら告げるタイタンコンボイに、リンディはいさめるようにそう告げる。
「敵は無限に出てくるのよ。いくら叩いてもキリがないわ!
だから――」
「余裕を持たず、一気にユニクロンのところまで蹴散らしちゃいなさい!」
「おぅともよ!」
「シュベルトハーケン!」
〈Jawohl!〉
ビッグコンボイの言葉と同時、手にした剣十字の戦斧が魔力の輝きに包まれていく。
そして、それを勢いよく振りかぶり――
〈Flamme Schlag!〉
「吹き飛べぇっ!」
「ぐぅっ!」
渾身の一撃を叩き込んだ。ガードされはしたものの、強烈な一撃がランページを弾き飛ばす。
「ずいぶんと余裕がなくなってたな、ランページ!」
「やかましいわっ!」
言い返し、襲い来るランページだが――やぶれかぶれの攻撃など敵ではない。いともたやすくカウンターの一撃を叩き込む。
もはやユニクロン軍はデスザラス達の参戦と満を持しての初リンクアップを遂げたタイタンコンボイの前に総崩れとなっている。今なら――
「フェイト! リイン!」
「うん!」
《はいなのです!》
告げるビッグコンボイにフェイトとリインがうなずき、
『《リンクアップ、ナビゲータ!》』
宣言と共にリンクアップナビゲータが起動、コンボイとそのリンクアップパートナー達のスパークが活性化する!
『ニトロコンボイ!』
耕介とニトロコンボイが叫び、背中のニトロブーストで勢いよく上昇、頭上にマッハショットを放り投げ、
『ロディマス、ブラー!』
次いで美緒とロディマスブラーの叫びが響き、ロディマスブラーはビークルモードのドラッグカーにトランスフォーム、両腕にあたる後輪の駆動ユニットが分離する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、ロディマスブラー本体がニトロコンボイの背中に、そして分離した駆動ユニット部分が両足の外側に合体する。
ロディマスブラーの両足にあたる前輪部分が二つに分かれて展開され、両肩をカバーする追加装甲となり、落下してきたマッハショットを手にした4人が高らかに名乗りを上げる。
『ロディマァス、コンボイ!』
『フレイムコンボイ!』
恭也とフレイムコンボイが叫び、フレイムコンボイはビーストモードで大地を疾走し、
『ブレイズ、リンクス!』
次いで知佳とブレイズリンクスの叫びが響き、ビーストモードのブレイズリンクスがフレイムコンボイを追走。胸部装甲が分離し、合体用のジョイントが露出する。
そして――
『リンク、アップ!』
ブレイズリンクスがフレイムコンボイの背中に合体、フレイムコンボイがロボットモードへとトランスフォームする。
そして、ロボットモードとなったフレイムコンボイの胸にブレイズリンクスの胸部装甲が合体。高らかに名乗りを上げる。
『ブレイズ、コンボイ!』
『ライブコンボイ!』
真一郎とライブコンボイが叫び、両腕のアンカーフックとジャイロソーサーを分離させ、両腕を折りたたんだライブコンボイは上下が反転。腰から展開された両足に拳が飛び出し、上半身となる。
『メビウスショット!』
次いで美由希とメビウスショットの叫びが響き、メビウスショットは上半身を後方に折りたたみ頭部を収納、下半身となる。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
ライブコンボイの変形した上半身とメビウスショットの変形した下半身が合体。両肩にアンカーフックとジャイロソーサーが合体し、肩アーマーとなる。
最後に、ボディの中から新たな頭部が現れ、高らかに名乗りを上げる。
『メビウス、コンボイ!』
『ビッグコンボイ!』
はやてとビッグコンボイが叫び、ビッグコンボイはビッグキャノンを脇に抱えるとホバリングで大地を疾走し、
『ドレッド、バスター!』
次いで志貴とドレッドバスターの叫びが響き、ビーストモードのドレッドバスターが上空からビッグコンボイを追走。胸部装甲が分離し、合体用のジョイントが露出する。
そして――
『リンク、アップ!』
ドレッドバスターがビッグコンボイの背中に合体、そのまま上空へと舞い上がり、2本の竜の首がビッグコンボイの頭部の両側へ。まるでイグニッションしたフレイムコンボイのような容姿のショルダーキャノンとなる。
そして、ロボットモードとなったビッグコンボイの胸にドレッドバスターの胸部装甲が合体。展開された中から現れたサイバトロンマークが輝き、彼らは高らかに名乗りを上げる。
『バスター、コンボイ!』
『キングコンボイ!』
フェイトとキングコンボイが叫び、キングコンボイが四肢のパワードデバイスを分離させると下半身を展開。両足が新たな両腕に変形し上半身を形成する。
『ブリッツクラッカー!』
次いで晶とブリッツクラッカーの叫びが響き、ブリッツクラッカーが上半身のみをビークルモードに変形し、さらにそれを後方に展開。こちらは下半身を形成する。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、キングコンボイの変形した上半身とブリッツクラッカーの変形した下半身が合体する!
最後に、後方に展開していたブリッツクラッカーの上半身、ビークルモードの機首部分が背中に合体、フライトユニットとなり、4人が高らかに名乗りを上げる。
『ブリッツ、コンボイ!』
『ソニックボンバー!』
クロノと共に景気よく名乗りを上げ、ソニックボンバーはビークルモードへとトランスフォーム。そこから機首を後方にたたみ、主翼のバルカンシステムも展開。機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
『スター、セイバー!』
次いでシグナムとスターセイバーが叫び、背中に合体用のジョイントを展開。その両足にソニックボンバーの翼から分離した火器が合体する。
そして、クロノの誘導で両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、バックユニットとなったソニックボンバーがスターセイバーに合体する!
最後にソニックボンバーの胸部装甲がスターセイバーの胸部に装着され、合体を遂げた4人は高らかに名乗りを上げる。
『ソニック、セイバー!』
「ギャラクシーコンボイ!」
ギャラクシーコンボイの叫びが響き、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンを分離。両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、
『ビクトリーレオ!』
次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。
そして、ビクトリーレオの下半身がギャラクシーコンボイの両足に合体し――
『リンク、アップ!』
3人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身がギャラクシーコンボイの胸部に合体。両腕部がギャラクシーコンボイの両肩に露出したジョイントに合体する!
最後にビクトリーレオのバックユニットがギャラクシーコンボイの背中に装着され、3人が高らかに名乗りを上げる。
『ビクトリー、コンボイ!』
「よぅし、反撃開始だ!」
「暴れるよ、メビウスコンボイ!」
リンクアップを完了し、意気揚々と宣言するメビウスコンボイに、美由希は彼のライドスペースで意気揚々と同意し、
「ビクトリーコンボイ! ヴィータ!
ノイズメイズ達はオレ達で叩く! ユニクロンを!」
「わかった!」
ソニックセイバーの言葉にうなずき、ビクトリーレオはその場を離れ、一路ユニクロンを目指す。
「くそっ! アイツら!」
「ユニクロン様のもとへは行かせん!」
そんな彼らの動きに気づき、サウンドウェーブとラートラータが後を追い――
「そうはさせるか!」
「あんたらは、ここで通行止めや!」
そんな彼らの前に立ちふさがるのはバスターコンボイとはやてだ。
「ジャマをするなぁっ!」
対し、咆哮と共にサウンドブラスターが襲いかかり――その前に何者かが立ちふさがり、
「ジャマは貴様だ」
淡々と言い放ち、その人物は――デスザラスは右腕に装備したデステイラーでサウンドブラスターをブッ飛ばす!
「デスザラス!?」
「どうやら、人形どもの指揮はこいつらが執っているようだからな。
頭を叩きに来たんだよ」
声を上げるバスターコンボイに答え、デスザラスはノイズメイズ達をにらみつけ、
「こいつらの相手はオレ達が引き受ける。
貴様らも、ビクトリーコンボイとは別ルートでユニクロンに向かえ――全方位から攻めるんだ」
「大丈夫なのか?」
「オレ達を誰だと思っている?」
思わず聞き返す志貴だが――そんな彼に、デスザラスはニヤリと笑ってそう答える。
「早く行け。
ユニクロンとノイズメイズ達――連中の頭を一気に叩かない限り、この戦いはキリがないぞ」
「……そうだな。
はやて、志貴、行こう」
「あぁ……」
「せやね……」
合体したまま告げるドレッドバスターの言葉に志貴とはやてうなずき、彼らもまた転進し、ユニクロンを目指す。
同様に、他のコンボイ達もユニクロンのもとへと向かい――
「『オレ達を誰だと思っている?』だと?
それはこっちのセリフだ」
告げて、ドランクロンはノイズメイズ達と共にデスザラスを取り囲んだ。
「我ら7人をまとめて相手をするだと?」
「なめたことを……」
「あっという間に叩き伏せてくれる!」
ラートラータ、エルファオルファ、サウンドウェーブもまた口々に告げるが――
「フッ、『弱い犬ほどよく吼える』とは言うが……犬以外にもよく吼えるヤツはいるものだな」
「なんじゃとぉ!?
もっぺん言ってみぃ、ワレ!」
鼻で笑うデスザラスに対し、ランページが思わず声を荒らげる。
だが、デスザラスはあくまで余裕だ。彼らの殺気立った視線を平然と受け止めながら、ユニゾンしているアルテミスへと告げる。
「アルテミス、オレのデバイスを」
《はい》
その答えと同時――彼の前に剣十字をかたどった剣の柄が出現。ですテイラーを左手に装着し直したデスザラスがそれを握ると同時、柄からあふれ出した漆黒の魔力が凝縮され、魔力刃を形成する。
「さぁ、誰でもいいからかかって来い。
この“シュベルトノワール”の斬れ味、とくと味あわせてやろう!」
「なめるな!」
サウンドブラスターの言葉が合図となり――ユニクロンの側近7人が、一斉にデスザラスへと襲いかかる!
「ジャマすんな!
どきやがれぇっ!」
咆哮と共にギガント一発――ビクトリーコンボイの背中の上で仁王立ちし、ヴィータの振るったグラーフアイゼン・ギガントフォルムが、立ちふさがる敵群を一撃のもとに薙ぎ払う。
「いいぞ、ヴィータ!」
「このまま一気に、ユニクロンのもとまで突撃するぞ!」
そんな彼女を激励し、ビクトリーレオとビクトリーコンボイが告げ――
「――――――っ!?」
気づいた。あわてて急制動をかけたビクトリーコンボイの眼前を、上方から飛び込んできた何者かの一撃がかすめていく。
「なんだ!?」
いきなりの襲撃に警戒し、グラーフアイゼンをかまえてヴィータがうめくと、襲撃者はゆっくりと彼らの方へと振り向いて――
『――――――っ!?』
驚愕し、思わず動きを止めた。
襲撃者の正体、それは――
「マスターガルバトロン!?」
「いや――違う!」
思わず声を上げるヴィータの言葉を、ビクトリーコンボイはすぐさま否定した。
確かに彼で間違いはないだろう。だが――違う。
紫を基調とした“かつての”カラーリングは――
「マスター……メガトロン……!?」
ビクトリーコンボイがうめき――同時、マスターメガトロンは無言で急加速、ビクトリーコンボイとヴィータに襲いかかる!
「ど、どうしたんだよ、マスターメガトロン!?」
とっさに一撃をかわし、声を上げ――ヴィータは気づいた。
マスターメガトロンのカメラアイに輝きが見られない。これは――
(意識がないのか――?
じゃあ……)
「操られてるのか……ユニクロンに!?」
うめくヴィータだが――マスターメガトロンはかまわない。無言でフォースチップをイグニッションし、デスマシンガンを撃ち放つ!
「転送可能距離に入った!
シャマル!」
「はい!」
アースラを視界にとらえ、告げるフォートレスの言葉にシャマルはブリッジの転送ポッドの中で応える。
「なのはさん――今行きます!」
告げると同時に転送。シャマルが姿を消すのを見送ると、フォートレスは迫り来るユニクロン軍へと視線を戻し、
「さて……それでは私も、久しぶりに本気で戦うか!」
「フォートレス、スーパーモード!
トランスフォーム!」
フォートレスが咆哮すると同時――マキシマスが変形を始めた。
双頭の艦首の先端が起き上がりつま先となり両足が完成、次いで推進部が基部から回転し前面へと向き、収納された推進バーニアに代わり拳が現れる。
最後に変形するのはマキシマスのメインブロック――艦橋部が真っ二つに別れ、艦底側に折りたたまれてボディとなる。
そして――
「ヘッド、オン!」
四肢を折りたたんだフォートレスが頭部にトランスフォーム、変形を完了したマキシマスのボディに合体する。
すべてのシステムが起動し、メインブリッジが明るさを取り戻し、フォートレス自身の瞳にも輝きが生まれる。
力の通った拳を握りしめ、新たな姿となったフォートレスは高らかに名乗りを上げた。
「フォートレス、マキシマス!」
「なのはさん!」
「シャマルさん!?」
ようやく待ちかねた相手の到着だ――息を切らせて飛び込んできたシャマルの姿に、フィリスが顔を輝かせて振り向く。
「状況は!?」
「応急処置は終わっていますけど、未だに危険な状態で……!」
応えるフィリスの言葉にうなずき、シャマルは足元にベルカ式魔法陣を展開、魔力を解放する。
シャマルが得意とする治癒魔法“静かなる癒し”である。
だが――
「………………?」
ふと疑問を抱き、シャマルは眉をひそめた。
別に“静かなる癒し”が効かない、というワケではない。むしろ――
(…………治癒効果が……思っていたよりも高い……?)
そう。“静かなる癒し”による傷の治りが、自分の見立てよりも早いのだ。
まるで――“静かなる癒し”が増幅でもされているかのように。
どういうことかと思考をめぐらせ――シャマルは自分のものともなのはのものとも違う、別の魔力の流れに気づいた。
出所を追って視線を動かすと、その視線は先ほどフィリスが摘出した金属片で止まった。
(あれは……まさか……)
(デバイスの破片……?)
(……ん…………)
重いまぶたを開き、身を起こす――気がつくと、なのはは漆黒の空間の中にいた。
「ここは……?」
周囲を見回しながら記憶の糸を手繰り寄せ――自分の身に起きたことを思い出す。
「……そっか……ノイズメイズさんにやられちゃって……
それじゃあ……死んじゃったのかな? わたし……」
宇宙を、そしてマスターガルバトロンを救えぬまま――肩を落としてなのはがつぶやくと、
《……何をほざいている》
「え………………?」
突然聞こえた声に、なのはは思わず周囲を見回す。
《貴様があの程度で簡単に死ぬような根性なしなものか。
寝てるだけだ。安心しろ》
「あなたは……?」
思わず尋ねるが――声はかまわず続ける。
《オレの正体など気にしている場合か。
とっとと起きろ。そして貴様の本気を、ユニクロンに見せてやれ》
そして――声は告げた。
《そう簡単に貴様に死なれては困るんだ。
貴様がそんなザマでは――貴様に負けたオレの立場がないからな》
「え………………?
もしかして……」
《行け。そして戦え。
オレと戦い、勝ち取った未来を……あんなヤツに壊させるな!》
つぶやくなのはに声が答え――
周囲が光に包まれた。
(初版:2007/09/08)
(第2版:2007/09/08)(誤植修正)