――オォォォォォッ!――

 咆哮し、常識を超えた巨体が戦場を駆け抜ける――
 ユニクロン目掛けて一直線に突撃し、プライマスが拳を繰り出し――対し、カウンターを狙ったユニクロンも拳を繰り出し、互いの拳が相手を痛打する。
 続けて繰り出したユニクロンの蹴りを受け止めると、プライマスはユニクロンの顔面につかみかかり――ユニクロンもまたプライマスの顔面に手を伸ばす。
 そのまま、両者はギリギリと相手の顔面を締めつけ――

 次の瞬間、プライマスの両脚の兵器群“フォースブラスター”、ユニクロンの両脚のミサイル“プラネットストライク”が同時に火を吹き、両者の間で大爆発が巻き起こる!
 

(……ん…………)
 重いまぶたを開き、身を起こす――気がつくと、なのはは漆黒の空間の中にいた。
「ここは……?」
 周囲を見回しながら記憶の糸を手繰り寄せ――自分の身に起きたことを思い出す。
「……そっか……ノイズメイズさんにやられちゃって……
 それじゃあ……死んじゃったのかな? わたし……」
 宇宙を、そしてマスターガルバトロンを救えぬまま――肩を落としてなのはがつぶやくと、
《……何をほざいている》
「え………………?」
 突然聞こえた声に、なのはは思わず周囲を見回す。
《貴様がの程度で簡単に死ぬような根性なしなものか。
 寝てるだけだ。安心しろ》
「あなたは……?」
 思わず尋ねるが――声はかまわず続ける。
《オレの正体など気にしている場合か。
 とっとと起きろ。そして貴様の本気を、ユニクロンに見せてやれ》
 そして――声は告げた。
《そう簡単に貴様に死なれては困るんだ。
 貴様がそんなザマでは――貴様に負けたオレの立場がないからな》
「え………………?
 もしかして……」
《行け。そして戦え。
 オレと戦い、勝ち取った未来を……あんなヤツに壊させるな!》
 つぶやくなのはに声が答え――

 

 

 周囲が光に包まれた。

 

 


 

第90話
「未来へ続く約束なの」

 


 

 

 真っ先に視界に入ったのは、視界いっぱいの光だった。
 一瞬、夢の続きかとも考えるが――
「なのはちゃん!」
「よかった……気がついたんですね!?」
 耳に飛び込んできた二つの声が、自分の意識が現実の中にあることを報せてくれた。
「フィリス先生……シャマルさん……」
 つぶやき、なのはが身を起こすと、
「なのは!」
「大丈夫なのか!?」
 こちらのやり取りを聞きつけたのか、桃子と士郎が飛び込んできた。そのまま診療台の上のなのはに駆け寄り、満面の笑みで抱きしめる。
「ち、ちょっと、二人とも!」
「まだ気がついたばかりなんですから!」
 そんな二人にあわてて声をかけるシャマルとフィリスだが――
《なの姉ぇ〜〜〜っ!》
 そこへ、さらにメンテナンスルームでの修理を終えたプリムラまで乱入してきた。桃子達を飛び越えてなのはに飛びつき、もう処置室の中は上へ下への大騒ぎだ。
「お、おとーさん、おかーさん! プリムラも!
 大丈夫だから……少し落ち着いて!」
 3人にもみくちゃにされながらもなのはが呼びかけ、ようやく3人は落ち着きを取り戻し――そこへ、シャマルがなのはに尋ねた。
「身体の方は大丈夫ですか?
 けっこう、急激な回復だったから……負担になってませんか?」
「あ、えっと……」
 思わず「今思いっきり負担が――」と答えかけるが、その言葉はぐっと飲み込んだ。シャマルの問いに、なのはは試しに左手をぐるぐると回してみる。
 ……問題ない。むしろ傷を受ける前よりも調子がいいくらいだ。
 それに――
「……あれ…………?」
「どこか痛みますか?」
「いえ……そうじゃなくて……」
 眉をひそめたこちらの様子に、フィリスがあわててのぞき込んできた――あわてて否定し、なのはは告げた。
「なんだか……魔力も戻ってるみたいで……
 マスターガルバトロンさんと戦って、あれだけ大技を撃ってたはずなのに……?」
 首をひねりながらつぶやき――気づいた。
 魔力は回復しているワケではない。どこからか、自分の中に流れ込んできている。これは――
(ディバイトエナジー……?)
 かつて自分もフェイトと魔力を分け合うために使ったことがある、消耗した仲間に魔力を分け与える魔法だ。
 一体誰が――魔力の流れを感じ取りながら視線を動かしていくと、やがてその視線は例の金属片をとらえた。
「それは……?」
「あぁ、なのはちゃんの身体から摘出したんです。
 たぶん、戦闘の中で砕けた何かの破片が飛び込んでいたんだと思いますけど……」
「けど……その破片、ずっと魔力を放ってるんです。
 なのはちゃん……心当たり、ありませんか?」
「心当たり、って言われても……」
 フィリスの答えとシャマルの問い、二人の言葉になのはは破片を手に取って記憶の糸を手繰り寄せ――

「…………あ……」

 気づいた。
「これ……オメガの破片だ……」
 心当たりとして思い当たったのは零距離でエクセリオンバスターを叩き込んだあの時だ。
 マスターガルバトロンのことだ。とっさにオメガで防御したはず――その時にオメガの一部が欠けていたとしたら――
 そして思い出す。つい今しがた――気を失っていた間に見た夢のことを。
「そっか……
 マスターガルバトロンさんが……助けてくれたんだね……」
 つぶやき、なのははオメガの破片を優しく抱きしめる。
「なのは……?」
「……わたし……行ってきます」
 声をかける桃子に、なのはは静かに、だがハッキリとそう答える。
「マスターガルバトロンさんが……助けてくれた。
 わたしはまだ戦えるって……励ましてくれた。
 わたしに未来を……守れって言ってた……
 だから……」
 重傷を負い、今しがた死のふちから生還したばかりだ。自分のことを心から愛するこの両親は、そんな自分の出撃を許してくれないかもしれない。
 それでも――戦いたい。
 敵味方に分かれていても――自分を認めてくれていた、彼のために。
 そんななのはを、桃子は不安げな表情で見つめていたが――
「…………行ってらっしゃい、なのは」
 それでも、精一杯の笑みを浮かべてなのはに告げた。
「おかーさん……?」
 思わず声を上げるなのはの前で、桃子は士郎へと視線を向け――それを受け、士郎はなのはに告げた。
「ブリッジから……戦況については逐次聞いていたんだが……
 ユニクロンに操られたマスターガルバトロン――いや、マスターメガトロンが、ユニクロンへの直接攻撃を行おうとしたビクトリーコンボイと交戦状態に入ったそうだ」
「マスターガルバトロンさんが!?」
 驚いて声を上げ――そんな彼女に、桃子は告げた。
「なのはは……彼のことを助けてあげたいんでしょう?
 だから……行ってあげて」
「おかーさん……
 ……うん!」
 桃子の言葉にうなずくと、なのははプリムラへと向き直り、
「プリムラ!」
《はーい!
 パワード、クロス!》
 答えると同時に跳躍。プリムラは全身をパーツ単位で分割し、鎧となってなのはの身体を覆う。
「レイジングハート……いける?」
〈All right!
 Stand by Ready, Set up!〉

 なのはの問いに、レイジングハートはいつもとは明らかに違う元気な口調でうなずき、彼女の手の中で起動する。
 しかも――プリムラといいレイジングハートといい、のっけからエクセリオンモード発動だ。二人ともずいぶんと乗り気のようだ。
「ちょっとムチャします!
 みんな――巻き込まれないように少し離れて!」
 告げると同時、なのはの足元に魔法陣が展開。桃色の魔法陣が形成される。
「なのは!?」
「一気に長距離転送で――みんなのところに飛びます!」
 声を上げる桃子に答え――なのはの姿はその場から消えていった。
 

「ブラックスティンガー!」
 咆哮するメガザラックの言葉に、彼のパワードデバイスたるブラックスティンガーが尻尾を振るい、迫り来る量産型トランスフォーマー達を薙ぎ払い、
「いっくぞぉっ!
 ゲキガァン、フレアァァァァァッ!」
〈らけーてん、ばれっと!〉
 ブラックスティンガーの作り出した戦線のほころびを、ロンギヌスをかまえたアリシアがラケーテンパレットでむりやりこじ開ける。
 その一方で、ノアの甲板上では――
「いてて……ひどい目にあったぜ……」
「だなぁ……」
「なんであたしまで巻き込まれてんのよ……」
 口々にぼやきながら、先ほどグランダスに踏みつぶされていたガスケット達が身を起こしていた。
「とにかく! あたし達も暴れるわよ!
 このまま見せ場を奪われてたまるもんですか!」
「いきなり出だしで蹴つまずいた気がするんだが」
「その話はカットぉっ!」
 ツッコむガスケットに言い返し、クロミアは彼の頭を張り倒し、
「と、に、か、く! 行くわよ!」
『おぅっ!』
 クロミアの音頭にガスケットとアームパレットがうなずき――
「グァオォォォォォッ!」
『ぅわぁぁぁぁぁっ!?』
 すぐ目の前にビーストモードとなったダイナザウラーが着地。今しがたグランダスに踏みつぶされたばかりの3人はあわてて後退する。
「ふ、フンッ! そうそう何度も踏まれてたまるかよ!」
「オイラ達だって、やられてばっかりじゃないんだな!」
「そーよそーよ!」
 何とか踏みつぶされるのは回避した――乾いた笑いではあったが、なんとか笑いながらガスケット達が告げ――
「グァオォォォォォッ!」
『え――――――?』
 身をひるがえしたダイナザウラーの動きに、状況を確認するヒマもなかった。間の抜けた声を上げ――次の瞬間、敵の一群を狙ったダイナザウラーの尻尾が彼らもまとめて薙ぎ払う!
「なんでこうなるのぉぉぉぉぉっ!」
「最後までこんなんばっかぁぁぁぁぁっ!」
「なんであたしまでぇぇぇぇぇっ!?」
 口々に絶叫しつつブッ飛ばされ――結局いつものように星となり、退場するガスケット達であった。
 

「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し、ヴィータはグラーフアイゼンにフォースチップをイグニッション。ラケーテンフォルムのグラーフアイゼンの先端がより強力な魔力の輝きに包まれる。
「ラケーテン、バンカー!」
 そして、ヴィータは一気にマスターメガトロンへと打ちかかるが――マスターメガトロンには届かない。マスターメガトロンの振るったデスクローが、グラーフアイゼンもろともヴィータを弾き飛ばす!
「ぐぅっ!」
「さがれ、ヴィータ!」
「今度はオレ達だ!」
 うめくヴィータにビクトリーレオと共に告げ、ビクトリーコンボイは彼女をかばうように前に出て、
『フォースチップ、イグニッション!
 ビクトリーキャノン、フルバースト!』

 両肩のビクトリーキャノンでマスターメガトロンを狙うが、当のマスターメガトロンは素早く対応した。ほぼ鋭角に機動を変えて後退し、ビクトリーキャノンの閃光を回避する。
「くそっ、ちょこまかと!」
「パワーが落ちた分、機動性に余裕が生まれたか……!」
 今までの高出力に任せた力任せの高スピードとは違う、小回りに重点を置いた機動――周囲を素早く飛び回るマスターメガトロンの動きを捉えきれず、ヴィータとビクトリーレオがうめき――
「――――――っ!
 来る!」
 ビクトリーコンボイが叫ぶと同時、マスターメガトロンがこちらに向けて突撃してくる!
 とっさにカウンターの拳を放つビクトリーコンボイだが、マスターメガトロンはその一撃をかいくぐって懐に飛び込み――

「上に避けて!」

「――――――っ!」
 確認するまでもない――声に従い、ビクトリーコンボイは急上昇し――光があふれた。桃色に輝く閃光が空間を駆け抜け、マスターメガトロンに襲いかかる!
 とっさに後退して光の奔流をかわし、マスターメガトロンは光の飛来した方向へと振り向き――
「マスター、メガトロンさん……!」
 レイジングハートをかまえ、なのはは哀しげな表情と共にマスターメガトロンと対峙した。
 

 轟音、そして衝撃――立て続けにデスザラスの振るったシュベルトノワールの光刃を受け、ドランクロン、エルファオルファ、そしてサウンドブラスターが次々に弾き飛ばされる。
 そんな彼の背後にラートラータとサウンドウェーブが迫るが――
《デスザラス!》
「――――――っ!」
 アルテミスが奇襲に気づいた。彼女の報せでデスザラスはとっさに反応。振り向きざまにシュベルトノワールを振るい、ラートラータを弾き飛ばす!
「くそっ、なんちゅーヤツじゃ……!」
「7対1だぞ! 7対1!
 しかも、オレ達を相手に……」
「フンッ、ムリもあるまい」
 まったく歯が立たない――歯噛みするランページとノイズメイズにあっさりと答え、デスザラスは彼らに刃を向け、
「お前らとオレとじゃ、格ってヤツが違いすぎる」
「貴様……どこまで我らを愚弄する!」
 デスザラスの言葉に激昂し、ドランクロンが彼に向けて突撃し――
「軽口を叩いただけで心を乱すか……
 やはりお前らとじゃ格が違う!」
 怒りで乱れた刃など、デスザラスには届きはしない。逆にあっさりとかいくぐられ、カウンターの一撃を叩き込まれる。
「この程度では、貴様らの相手をしていても時間のムダか……
 さっさと終わらせて、オレもユニクロンの元へと向かわせてもらうぞ!」

「シュベルトノワール! カートリッジを!」
〈Explosion!〉
 デスザラスの言葉に従い、シュベルトノワールがカートリッジをロードし――
「シュベルトノワール! フルドライブ!」
〈Explosion!〉
 そして再度のカートリッジロード――送り込まれた魔力が雷光へと変質し、シュベルトノワールの魔力刃の周囲で弾け、荒れ狂う。
 魔力の高まったシュベルトノワールをかまえ――デスザラスの眼前に2枚のベルカ式魔法陣が展開される。
 色は漆黒、そして白金――デスザラスとアルテミス、二人の魔力で作り出されたそれぞれの魔法陣は上下逆に組み合わされ、六芒星の魔法陣を描き出す。
《術式展開!
 擬似バレル形成――魔力収束完了!
 デスザラス!》
「おぅ!」
 アルテミスに答え、デスザラスはシュベルトノワールを振りかぶり、
《「ヘキサ、ヴォルテック!」》
 解き放たれた魔力の渦が、雷光を伴ってノイズメイズ達を飲み込み――大爆発と共に吹き飛ばす!
 そして衝撃が過ぎ去り――そこには何も存在していなかった。
 

「こん、のぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮と共に振りかぶり、魔力で作り出した無数の鉄球を打ち放つ――放たれたシュワルベフリーゲンは一斉にマスターメガトロンに向けて飛翔、全方位から襲いかかる。
 だが――止まらない。全弾直撃を受けてもなお、マスターメガトロンはビクトリーコンボイへと突撃。対するビクトリーコンボイも真っ向から受けて立ち、お互いの拳が激突、すさまじい衝撃が両者を弾き飛ばす。
「やめろ……マスターメガトロン!
 今戦わなければならない相手は、私ではない!」
 再び突撃してきたマスターメガトロンと組み合い、告げるビクトリーコンボイだが、マスターメガトロンからの答えはない。無言のまま、ビクトリーコンボイを力で押し切りにかかる。
 と、そんなマスターメガトロンの背後で爆発――なのはの放ったブリッツシューターだ。
「マスターメガトロンさん、もうやめて!
 今はこんなことをしている場合じゃない――みんなで力を合わせないと、ユニクロンを倒せないんだよ!」
 なのはの言葉にも、マスターメガトロンに動きはない。
「くそっ、やっぱ力ずくで止めるしかねぇか!」
 うめいて、グラーフアイゼンを振りかぶるヴィータだが――
「待って、ヴィータちゃん!」
 そんな彼女を、なのははあわてて制止する。
「マスターメガトロンさんは、操られてるんでしょ!?
 だったら、ただ止めようとしても止まらない! ユニクロンに操られるまま、どれだけ傷ついても攻撃してくる!」
「じゃあ、どうしろってんだよ!」
「それは……
 軽めの攻撃で注意を引きつけて、後は……なんとかして、マスターメガトロンさん自身に正気に戻ってもらうしか……!」
 ヴィータの言葉にうめくなのはだったが――正直なところ、肝心な手段に思い当たらない。
 いつもならば砲撃をもって行動不能になってもらうところだが――今のマスターメガトロンは攻撃されてもおかまいなしだ。何しろその身体を動かしているのは彼自身ではないのだから。
 “攻撃”という手段が使えない以上、今回ばかりは言葉のみをもって説得するしかない。が――果たして自分の声が今のマスターメガトロンに届くのだろうか。
 しかし――
(それでも……やるしかない!)
 決意は固い。なのはは意を決し、ビクトリーコンボイと組み合うマスターメガトロンとの間――マスターメガトロンの目の前に舞い降りた。
「マスターメガトロンさん!
 お願い! 話を聞いて!」
 懸命に呼びかけるが――マスターメガトロンは答えない。それどころかビクトリーコンボイを振り払い、なのはに向けて拳を振り下ろす!
 とっさにラウンドシールドで受け止めるが――押し切られた。ラウンドシールドごと力任せに拳を振り抜かれ、なのははきりもみ状に回転しながら跳ね飛ばされる。
 そんななのはに、マスターメガトロンは追撃を叩き込むべく飛翔し――
「もう、やめて――!」

「マスターメガトロンさん!」

「――――――っ!」
 なのはの言葉に、マスターメガトロンの動きが一瞬停止した。
(届いた――!?)
 自分の声に反応した――とっさに体勢を立て直し、なのはは行動を再開したマスターメガトロンの拳をかわし、そんなマスターメガトロンにはビクトリーコンボイが飛びつき、動きを止める。
「なのは!」
「はい!」
 自分が動きを止めている間に――ビクトリーコンボイの意図を汲み取り、なのはは再びマスターメガトロンへと呼びかける。
「マスターメガトロンさん、聞こえてるの!?
 だったらもうやめて!
 こんなの……こんな戦い、マスターメガトロンさんだって望んでないでしょ!?」
「そうだ!
 真に王たる者ならば、今すべきことはおのずとわかるはず!」
 なのはの言葉に同意し、ビクトリーコンボイもまたマスターメガトロンに告げる。
「セイバートロン・デストロンのリーダーであるお前に――我が生涯のライバルであるお前に、それがわからないはずはないだろう!」
「ユニクロンさんに負けないで!
 マスターメガトロンさんなら……わたし達とずっと戦ってきたマスターメガトロンさんの強さなら、ユニクロンさんの支配にも絶対に勝てるよ!」
 その言葉に、マスターメガトロンはそれでもビクトリーコンボイを振り解こうとする腕の力を抜かず――しかし、静かにうつむき――

「ふざけるな……!」

 その口から、対峙して初めて言葉が紡がれた。
 同時、マスターメガトロンの両腕に力が込められて――
 

「……ふざけるなぁっ!」
 

 咆哮し、マスターメガトロンはビクトリーコンボイを押し返し、高らかに名乗りを上げた。

「オレ様は――デストロン破壊大帝、マスターメガトロン様だ!
 真に倒すべき敵など、貴様に言われるまでもなくわかっているわ!」

「マスターメガトロン……ようやく自分を取り戻したか」
「フンッ、余計なことをしおって……
 相変わらず心からムカつかせてくれるな、貴様らは」
 告げるビクトリーコンボイに答え、マスターメガトロンは静かに笑みを浮かべる。
「マスターメガトロンさん……」
 そんな彼女に、なのはが呼びかける――振り向く彼に対し、静かに告げる。
「ここで戦わないと……この宇宙のすべての命が危ないんです。
 わたし達のために戦わなくてもいい、自分のためでもいいから……
 ユニクロンさんを止めるために、力を貸してください」
 その言葉に、マスターメガトロンは静かに息をつく。
 しばしの黙考の末――

「……ふざけるな」

 淡々と、そう言い放った。
「何を言い出すのかと思えば勝手なことを……
 確かに貴様らのことは認めている。だが――オレはサイバトロンそのものを、人間達そのものを信じたワケではない」
「マスターメガトロンさん……!」
 告げるその言葉に、なのはは思わず視線を落とし――
「だが……」

「だまされてやるのも、また一興か」

「え………………?」
 その言葉に顔を上げると、マスターメガトロンは彼ならではの不敵な笑みを浮かべていた。
「『力を貸せ』だと? 貴様らしくない遠慮だな。
 『仲間になれ』くらい言うかと思ったがな」
 言って、マスターメガトロンはカード状態のオメガを取り出し、起動させる。
 プライマスと対峙するユニクロンへと視線を向け――次いで背後の戦場へと視線を向けた。
 その目に映るのは、ユニクロン軍と戦う各惑星の大帝達――
(ヤツらも立ち上がった……
 自分達の生まれた、世界を守るために……)
 しばしカメラアイの輝きを消してめをとじて黙考し――告げる。
「貴様らに力は貸さん。
 だが――ユニクロンは倒してやる」
「じゃあ……!」
 顔を輝かせるなのはに対し、マスターメガトロンはオメガを握りしめ、
「ヤツに見せてやる。自分が操ろうとした男の恐ろしさをな。
 貴様らは勝手にやればいい。好きに戦え。
 だが――」

「足を引っ張ったヤツは、全員先に叩き斬るからな」

 

「やはり、一番乗りはオレ達か!」
「当然だろ!
 オレ達は速さがウリなんだからさ!」
「他のみんなに先を越されていたら、立場がないのだ!」
 真っ先に敵の防衛ラインを突破し、プライマスと戦うユニクロンの元に駆けつけたのは、ロディマスコンボイのチームだった。声を上げるロディマスコンボイに耕介と美緒が答える。
 そんな彼らに向け、新たにユニクロンの中から生み出された眷族達が襲いかかるが――
「ジャマをするな!」
『フォースチップ、イグニッション!』
 ロディマスコンボイの咆哮と共にフォースチップをイグニッション。ランサーモードのロディマスライフルをかまえ、
『ロディマス、ディバイディング、スラァッシュ!』
 繰り出した一撃が、前方の量産型トランスフォーマー達を薙ぎ払う!
 が――
「――――――っ!
 ロディマスコンボイ、後ろ!」
 美緒が声を上げ、彼らを追ってた量産型ノイズメイズの群れがロディマスコンボイに襲いかかり――
「甘いわぁっ!」
 ブレイズコンボイがそれを阻んだ。フレイムアックスの一撃でまとめて薙ぎ払う!
「後ろががら空きだぞ、ロディマスコンボイ」
「フォローするこっちの身にもなってほしいよね」
「守ってくれる仲間がいるからな。安心してがら空きにできるのさ」
 告げる恭也と知佳にロディマスコンボイが答え――
『フォースチップ、イグニッション!
 ヴァニシング、スマッシャー!』

 二人と共にイグニッションしたブレイズコンボイが、ヴァニシングスマッシャーでユニクロンまでの道を一気に切り開く!
 そして――
『フォースチップ、イグニッション!
 メビウス、クロスブレイク!』

 ロディマスコンボイとブレイズコンボイの間を駆け抜け、ユニクロンへと肉迫するのはメビウスコンボイ――真一郎、美由希と共にイグニッション。必殺の一撃がユニクロンの腹部を直撃、そこに口を開けていた量産型トランスフォーマー達の排出口のひとつをその周辺もろとも粉砕。ユニクロンの表面に巨大なクレーターを作り出す。
「よし、まずはひとつ!」
「このまま残りもつぶすぞ!」
 声を上げるロディマスコンボイにブレイズコンボイが告げるが――さすがに一撃を入れられてはユニクロンも黙ってはいなかった。天を突かんばかりの巨体が彼らの姿を見下ろし――
「どこを――」
「見てるんだ!?」
 そんなユニクロンの顔面に、リンディを乗せたタイタンコンボイが飛び出す!
『フォースチップ、イグニッション!』
 そして、フォースチップをイグニッション。両拳の放熱口が展開され、そこから放たれる熱エネルギーが拳を灼熱の光の渦で包み込み――
『タイタン、ノヴァ!』
 両拳を合わせて突撃。全身をエネルギーの渦で包み込み、ユニクロンの胸部に強烈な体当たりをお見舞いする!
 自分と比べれば豆粒ほどにも満たない相手――しかし、全身全霊をかけて放たれた突撃はユニクロンすらたじろがせ、ほんのわずかではあるが動きを止めることに成功する。
「ムチャというか……なんとも豪快な突撃をする……!」
「けど、ユニクロンの動きが鈍ったよ!
 さすが最大サイズのコンボイだよ!」
「よぅし、もう一発いくぜ!」
 思わずうめくメビウスコンボイと美由希の言葉を背景に、タイタンコンボイは再びユニクロンへとタイタンノヴァを繰り出した。今度は顔面をとらえ、さすがのユニクロンもまともにのけぞる。
「よぅし、いける……!
 いくら惑星サイズでも、実体のあるトランスフォーマーであることは変わらない!
 私達の攻撃も、みんなで力を合わせれば……!」
「おぅよ!
 まだまだいくぜ!」
 手ごたえを感じ、つぶやくリンディに答え、タイタンコンボイは再びユニクロンへと突っ込み――
「――――危ない! 避けて!」
「何――――っ!?」
 リンディの言葉に反応するが――彼が軌道を修正するよりも早く、ユニクロンの巨大な腕がタイタンコンボイを弾き飛ばす!
「タイタンコンボイ!」
「大丈夫だ……!
 リンディもな……!」
 声を上げるブレイズコンボイに答えるタイタンコンボイだったが――ダメージ自体は決して軽いものではない。彼をかばうように、3人のコンボイはタイタンコンボイの元へと集結する。
 一方のユニクロンは、タイタンコンボイの2度のタイタンノヴァで確かにたじろぎはしたが――決定的なダメージには至っていない。依然として自分達やプライマスの前にその威容を見せつけている。
「やれやれ……ジリ貧とはまさにこのことか……
 いくら効かないワケじゃないとはいえ……あの巨体を黙らせるほど攻撃を叩き込まなければならないとなると、気が遠くなるな」
「弱音とはらしくないな、ブレイズコンボイ」
「『弱音』? 違うな。愚痴ってヤツだ」
「似たようなものじゃないか……」
 こんなデタラメな相手、軽口を叩きながらでなければやってられない――ロディマスコンボイに答えるブレイズコンボイにメビウスコンボイが肩をすくめ――

 瞬間、ユニクロンの顔面を閃光が叩いた。

「まだだよ、ユニクロン!」
「わたし達はまだ終わってない!」
「みんなの底力――最後の最後まで見せてやるぜ!」
 ブリッツコンボイ、フェイト、晶――

「オレ達みんなが力を合わせれば、破壊神であろうと敵ではない!」
「今からタップリとおしおきタイムや!」
「覚悟しろよ、ユニクロン!」
 バスターコンボイ、はやて、志貴――

「これが正真正銘、最後の戦いだ!
 いくぞ、マスターメガトロン!」
「貴様が仕切るな!
 力は貸さんと言ったはずだ!」
「だったらなんでいるんだよ……」
 ビクトリーコンボイ、マスターメガトロン、ヴィータ――

 そして――

「いくよ――みんな!」

 なのはが、ユニクロンに対してレイジングハートをかまえた。
 

「のっけから全力全開!
 エクスカリバー、フルドライブ!」
 咆哮し、ブリッツコンボイはカリバーンのフルドライブモード――エクスカリバーをかまえ、バスターコンボイもまたビッグキャノンをかまえる。
『フォースチップ、イグニッション!』
『スターダスト、カリバー、ブレイカー!』
『バスターキャノン、GO!』

 そして、一斉にイグニッションした彼らの攻撃がユニクロンの顔面へと光の奔流を叩きつけ――
「ビクトリーコンボイ!」
「おぅ!
 ネクサス!」
 光の奔流を維持しながら告げるブリッツコンボイに答え、ビクトリーコンボイがネクサスをかまえ、
「ネクサス、カートリッジ、ロード!
 エターナル、ブレイズ!」

〈Load cartridge!
 Eternal Blaze!〉

 放たれた一撃がブリッツコンボイとバスターコンボイの叩きつけていたエネルギーを起爆。ユニクロンの顔面で大爆発を巻き起こす!
「よくやったぞ、ビクトリーコンボイ!
 この好機――利用させてもらうぞ!」
 そこへすかさず飛び込むのがマスターメガトロンだ。カートリッジをロードしたオメガを振りかぶり、
「吹きすさべ――滅びの嵐!
 ジェノサイド、ストリーム!」
 解き放った魔力の嵐は強烈な雷光を伴い、ユニクロンの顔面で巻き起こる爆発をさらに増幅する!
 そして仕上げに控えるのは――
「いくよ――フェイトちゃん! はやてちゃん!」
「うん!」
「準備OKや!」
 この3人だ。なのはの号令に合わせ、フェイトがザンバーフォームのバルディッシュを、はやてもシュベルトクロイツをかまえ――

「スターライトぉ!」
「プラズマ、ザンバー!」
「ラグナロク!」

『トリプル、ブレイカァァァァァッ!』

 3人の放ったトリプルブレイカーが、ユニクロンの顔面に炸裂する!
 顔面に狙いを集中した、超特大の3連撃――この連続攻撃にはさすがのユニクロンもたまらない。惑星サイズの巨体を揺るがせて――
「プライマスさん!」

 ――おぅ!――

 ビクトリーコンボイの言葉にプライマスが動いた。のけぞるユニクロンを殴り飛ばし、なのは達のそばから弾き飛ばされた破壊神にプラネットキャノンを叩き込む!
 だが――

 ――オォォォォォォォォォォッ!――

 ユニクロンはそれでもひるまない。今度こそ十分なダメージを受けたはずなのだが、再び咆哮と共になのは達と対峙する。
「くそっ、なんてヤツだよ!
 あたしのギガントも、あの大きさ相手じゃ……!」
「何か、ヤツの弱点でもわかれば攻めようもあるのに……!」
 未だに衰えを見せないユニクロンの姿に、ヴィータとフェイトがうめき――

 ――弱点は、ある――

 そんな彼女達に答えたのはプライマスだった。
「弱点があるんですか!?」
「教えください、プライマス!」
 思わずなのはとビクトリーコンボイが尋ねるが、プライマスはその問いになぜか黙り込む。
「どうしたんですか……?」
 問いを重ねるなのはに――プライマスは答えた。

 ――マトリクスだ――

「マトリクスが……ユニクロンの弱点っちゅうことか?」
「なるほど、な……」
 思わず首をかしげるはやてだが、バスターコンボイはその意味に気づいたようだ。腕組みして思考をめぐらせながら告げる。
「マトリクスは、代々の総司令官の知識や経験を蓄積した叡智の結晶だ。
 だが、それは単なるデータバンクではない。代々、オレやソニックセイバー達を含めた時の総司令官達のスパークと直結してきたマトリクスには、彼らの魂の一部も宿っている――マトリクスそのものが命であり、“力”なんだ」
「そうか……マトリクスは、ユニクロンと相反するプライマスのトランスフォーマーの命の“力”の結晶だから……」

 ――そうだ――
 ――マトリクスの“力”を解放すれば、ユニクロンのスパークを対消滅させ、停止されることができる――

 ブリッツコンボイに答えるプライマスだったが――その声色にはどこか重いものが感じられる。
「プライマス……?
 マトリクスでユニクロンを倒すことに、何か問題でも?」
 そんなプライマスに思わず尋ねる耕介だが――
「ち、ちょっと待って!」
 突然声を上げたのは美由希だ。
「今……バスターコンボイは言ってたよね?
 マトリクスは『時の総司令官達のスパークと直結してきた』って……」
『――――――っ!』
 美由希の言葉に――その場の全員が気づいた。
「じゃあ……今、マトリクスはビクトリーコンボイ――いえ、ギャラクシーコンボイのスパークと直結しているということで……」
「そのマトリクスを解放したら……!」
 リンディと知佳の言葉に、全員の視線がビクトリーコンボイへと集まる。
 そんな中、ビクトリーコンボイは――

「……リンク、アウト」

 静かに告げ、リンクアップを解除した。
「ギャラクシーコンボイ!?
 まさか!?」
 思わず声を上げるビクトリーレオに、ギャラクシーコンボイは答えた。
「あぁ……
 私は――」

「ユニクロンの内部に突入し、中枢部でマトリクスを解放する」

「何が起きるかはわからない――みんなは、万一に備えて離脱しろ」
「そんな!」
 告げるギャラクシーコンボイに対し、真っ先に反論の声を上げたのはやはりなのはだった。
「マトリクスを解放したら、ギャラクシーコンボイさんのスパークだって……!
 そんなことになったら、ギャラクシーコンボイさんは……!」
「しかし、そうしなければユニクロンは倒せない……!」
「けど!」
 答えるギャラクシーコンボイになのはが声を上げると――
「そうだよ!
 ギャラクシーコンボイはみんなに必要な人なんだよ!
 ボクがいく! ボクだってマトリクスを持ってるんだ!」
「ブリッツコンボイ!?
 ダメ! ブリッツコンボイだってダメ!」
 なのはに代わってギャラクシーコンボイに詰め寄るブリッツコンボイに、フェイトがあわてて待ったをかける。
「みんなで戦おう!
 攻撃が効かないワケじゃないんだよ――みんなで力を合わせれば、マトリクスを使わなくてもユニクロンさんは止められる!」
「だが……それではより多くの犠牲を払うことになる!」
「そんなの、ギャラクシーコンボイさんが犠牲になっても同じだよ!」
 互いに一歩も譲らず、なのはとギャラクシーコンボイは真っ向からにらみ合い――

「いい加減にしろ!」

 そんな口論の場に乱入したのはマスターメガトロンだった。
「死ぬだの死ぬなだの、いつまでもグダグダと……ここが敵前だということを忘れたか!?」
「けど、ギャラクシーコンボイさんは……」
「もういい、黙れ!」
 反論しかけたなのはを一喝して黙らせると、マスターメガトロンは自分の手の中のオメガに向けて告げた。
「オメガ……
 こいつらを追い払え!」
「――――――っ!」
 マスターメガトロンの言葉にとっさにレイジングハートをかまえるが――そんななのはの身体をバインドが拘束した。
 なのはだけではない。他の面々にも次々にバインドがかけられ、次いで真下に青紫色の魔法陣を展開する。
 この場の全員へのバインドをかけ、さらに転送魔法――など彼の魔力では不可能だ。疑問を抱くなのはだったが、すぐに気づいた。
 マスターメガトロンの周囲にカートリッジの空薬莢が漂っている。こちらがなのはとギャラクシーコンボイの口論に気を取られている間に、マスターメガトロンは人知れずカートリッジのロードを済ませていたのだ。
「マスターメガトロンさん!」
「もう貴様らに任せておけるか。
 ユニクロンはオレが倒す! 貴様らははるか彼方で黙って見ていろ!」
 声を上げるなのはにマスターメガトロンが言い放ち――次の瞬間、なのは達の姿はその場から消えていた。
「…………フンッ、甘ちゃんどもが……」
 苛立ちを隠しもしないでつぶやき――マスターメガトロンは今度は自分の足元に転送魔法陣を展開した。
 しかし、すぐに転送はしない。目の前に新たにワープゲートを展開し、マスターメガトロンは手元のオメガへと視線を落とした。
 そして――
 

「ギャラクシーコンボイ!? なのは!? それにみんなも!?」
「どうした!? 一体何があった!?」
 ソニックセイバーと共にノアを守って戦っていたら、突然なのは達が姿を現した――あわてて彼女達の元に舞い降り、クロノとシグナムが声を上げる。
「マスターメガトロンさん……どうして……!」
「とにかく戻ろう! マスターメガトロンだけじゃ、どう考えたってムリだよ!」
 なぜここに来て自分を遠ざけたのか――うつむくなのはにブリッツコンボイが告げると、
「――――みんな! あれ!」
 突然ロディマスコンボイのライドスペースで美緒が声を上げた。見ると、彼女の視線の先に炎の縁取りで囲まれた空間の穴が――デストロンの使用するワープゲートが現れている。
 マスターメガトロンも離脱してきたのか――そんなことを考えるなのはだったが、その中から現れたのは――

 オメガだけだった。

 飛び出してきたのはマスターメガトロンの振るう大剣のみ。クルクルと宙を舞い、ノアの甲板上に突き刺さる。
「オメガだけ!?
 どうして!?」
 自分達の転送からすぐだ。タイミングから考えて、戦闘の結果とは考えられない。
 武器もなしにどうやってユニクロンと戦うつもりなのかと疑問を抱くなのはだったが――
「――――まさか!?」
 気づき、声を上げたのはギャラクシーコンボイだった。
 

「………………やはりか。
 さすがのユニクロンも、ずっと眠ったままでは魔法の存在は知らなかったようだな」
 ユニクロン体内、中枢部付近――転送魔法によってその場に現れ、デスクロー、デスマシンガンを装備したマスターメガトロンは静かにつぶやいた。
 相手はワープを駆使できるノイズメイズ達の親玉だ。ワープゲートによる強襲であれば対抗されただろうが――目覚めたばかりでは、さすがに眠りについた後に発展した魔法への対策を施す時間はなかったようだ。
 そんな、自分の警戒網をすり抜けて現れた侵入者に対し、ユニクロンの体内の防衛システムが作動、無数の触手が壁や床、天井から現れてマスターメガトロンを狙うが、
「それが――どうした!」
 そんなことは予測済み。すでに装備は整えている――デスマシンガンが火を吹いて触手群を薙ぎ払い、難を逃れたものもデスクローによって斬り払われる。
「ユニクロン……オレとリンクを持ったことが災いしたな。
 貴様の内部構造――手に取るようにわかるぞ!」
 迷う心配などない――防衛システムをものともせず、マスターメガトロンはまっすぐユニクロンの中枢部を目指して突き進む。
 そして――最後の防壁を粉砕、マスターメガトロンはその向こうにあるものと対峙した。
 ユニクロンの中枢部――チップスクェアに収められた、ユニクロンのプラネットフォースである。
「ユニクロンめ……!
 よくもこのオレ様をコケにしてくれたな!」
 咆哮し、デスマシンガンの引き金を引くが――放たれた銃弾はプラネットフォースの周りに巻き起こるエネルギーの渦によって弾き飛ばされてしまう。
 デスクローで殴りかかるが――これもダメだ。渦巻く高密度のエネルギーは物理的な防壁となり、マスターメガトロンの拳を真っ向から跳ね返す。
「チッ、やはりこうなるか……」
 うめき――マスターメガトロンは自らの胸部装甲を展開した。
 その中から姿を現したのは――
 

「どうしたんだ? ギャラクシーコンボイ」
「マスターメガトロンが何を考えているのか、わかるのか?」
 突然声を上げたギャラクシーコンボイに尋ねるメビウスコンボイとソニックセイバーだが、そんな彼らにギャラクシーコンボイは答えない。
「…………ギャラクシーコンボイさん?」
 なんだか、答えをためらっているように見えて――そんな彼になのはが声をかけると、ギャラクシーコンボイは静かに答えた。
「我々サイバトロンと同じく、デストロンもまた代々のリーダー達によってその歴史を紡いできた。
 もし、彼らが我々コンボイと同じく、破壊大帝の名と共に――」

「マトリクスを受け継いでいるとしたら!?」
 

「聞いたぞ、ユニクロン。
 貴様……このマトリクスの“力”に弱いらしいな」
 不敵な笑みを浮かべ、マスターメガトロンは自分の胸部に納められたデストロン・マトリクスを取り出し、
「オレはギャラクシーコンボイとは違う。
 敵を倒すのに――手段をためらうことはない!」
 咆哮し、取り出したマトリクスを頭上高く掲げるとその両側の握りに手をかけ――

 マトリクスが解放された。

 マスターメガトロンの頭上で、外殻から解き放たれたデストロン・リーダーの証は紫色の輝きを放った――その光を受けたとたん、ユニクロンの内部がひずみ、ねじれ、引きちぎられていく。
 自分を滅ぼそうとする、天敵とも言えるその存在に対し、ユニクロンの防衛システムはすぐに反応した。現れた無数の触手がマスターメガトロンを狙い、攻撃を開始する。
 そのうちのいくつかはマトリクスの輝きによってかき消されるが――それは逆に言えば、攻撃としての効果があるのはマトリクスの輝きのみである、といことだ。次第に触手群はマトリクスを避け、それを持つマスターメガトロンに対して攻撃を集中し始める。
「ぐぅ……!
 やってくれる……!」
 ユニクロンによって“力”を奪われた今、自分にかつてのような絶対的な力はない――触手群の攻撃が自分を容赦なく痛めつけていくのを感じ、マスターメガトロンは苦々しくうめく。
 だが――マトリクスの光の照射を続けている自分は動くことができない。そうしている間にも触手群の攻撃は着実に自分を追い込んでいく。
 そして、一際大きな触手がマスターメガトロンへと襲いかかり――

 その身体を貫いた。
 

「――――――え?」
 突然身体を駆け抜けた不安――得体の知れない想いに突き動かされ、なのははプライマスと対峙するユニクロンへと視線を向けた。
「どうしたの? なのは」
 フェイトが尋ねるが、なのははただ不安げにユニクロンを見返している。
 プライマスの前で、それまで悠然とたたずんでいたユニクロンの態度が一変、突然胸を押さえて苦しみ始めている。
 マスターメガトロンがマトリクスを解放したのだろう。となれば、彼の命は――
 だが――今感じた不安は、その想いとは別のものに思えた。
(マスター……メガトロンさん……?)
 

 一撃を受けた瞬間――

「いくよ、フェイトちゃん、クロノくん!」
「うん!」
「あぁ!」
「このオレ様と戦うつもりか……?
 人間風情が、なめるなぁっ!」

 脳裏によみがえったのは“彼女”との出会いの光景――

「目的のものは手に入れた。
 もう、ここに用はない」
「そうは――させない!」
「そんなコト言わないで、もう少し付き合ってください、マスターメガトロンさん!」
「フンッ、オレからチップスクェアを奪うつもりか……」

 炎に包まれたアトランティスでの、チップスクェア争奪戦――

「そんな…………!?
 どうして……あなたが……!?」
「ザコどもが……!
 見ていて苛つく戦いをいつまでも続けおって……!」

 二人の関係を変えた、ルインコンボイとの戦い――

「よかった……
 無事だったんですね……マスター、ガルバトロンさん……」
「質問に答えろ!
 貴様……なぜオレをかばった!
 敵であるオレを……なぜ!」
「……だ……って……
 “闇の書”さんとの戦いの時に――助けてくれたじゃないですか……」

 転生したデスザラスの攻撃にさらされた自分を“彼女”がかばったあの時――

「ありがとうございます、マスターガルバトロンさん」
「貴様らのためじゃない。
 このまま決着をつけられずに終わるのが不愉快なだけだ。
 オレが倒したいのは貴様らではない――貴様らの持つ“絆の力”だ。
 部下との絆を失った貴様らに勝っても、それはオレの力が勝ったことにはならんということだ」

 ギガロニア最下層で、自分を見失った“彼女”のパートナーを叱咤したあの時――

「今ならわかる。
 オレの中で、未だにユニクロンがわめいているのがな……
 すべてを破壊しろ、すべてを消し去れ、すべてを否定しろ、と……
 その意志に従ったワケではない……だが、オレはすべてを消し去る道を選んだ。
 もはや後戻りはできん――もう、止まれんのだ!」
「止めます! 止めてみせます!
 わたしが――わたしの持ってるすべての力で、マスターガルバトロンさんを!」

 暴走し、全宇宙を消滅させようとした自分を、“彼女”は命を賭して止めてくれた――
 

「アイツの生きる宇宙を……滅ぼさせはしない!」
 崩れ落ちそうになったヒザを立て直し、その場に踏みとどまる。
「オレを狙うというのならそれもいいだろう……
 だが――この程度でオレが倒れると思うな!」
 マトリクスの“力”が放たれるのに伴い、自分の命の灯もみるみるうちに削られていくのがハッキリとわかる。
 だが――
「この程度で……!」

「この、マスターメガトロンが止められるかぁっ!」

 咆哮と共に――マトリクスの輝きに流れが生じた。マスターメガトロンの周囲にまとわりつき、彼の身体を貫いた触手を吹き飛ばして渦を巻く。
 空になったマトリクスの外殻を放り出し、マスターメガトロンはユニクロンのプラネットフォースをにらみつけ、
「見せてやる……!
 このオレの――マスターメガトロンの、本当の力を!」
 その言葉と同時、彼の背中のバックユニットが変形した。彼の脇を通り身体の前面へ。そこで左右のバックユニットが連結されると、マスターメガトロンはそれをつかみ、ユニクロンのプラネットフォースへと狙いを定める。
「我が魂たるスパークよ!
 デストロンの魂たるマトリクスよ!
 すべての力を解き放て!」

「デス、キャノン!」

 咆哮と同時に引き金を引き――放たれた閃光がユニクロンのプラネットフォースに叩きつけられる!
 

「人間を……」

 

「トランスフォーマーを……」
 

 

「この宇宙を……」

 

 

「命の“力”を、なめるなぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 マスターメガトロンの咆哮と共に――

 

 ユニクロンのプラネットフォースが、光の奔流に押し流され、吹き飛ばされる!

 

 

 

 ――オォォォォォォォォォォッ!――

 マスターメガトロンの一撃はユニクロンの腹を内側から撃ち貫いた。腹部から吹き出したマトリクスの輝きに、ユニクロンは腹部を押さえて絶叫する。
「マスターメガトロンさん……!」
 腹部の傷を中心に、崩壊を始めるユニクロン――その中に独り残されているであろうマスターメガトロンを想い、なのははその場に崩れ落ち――

《…………泣くな……》

「え………………?」
 突然届いた念話に、なのはは思わず顔を上げた。

《……オレは死なん……
 まだ、貴様へのリベンジが残っている――ギャラクシーコンボイとの決着も、いずれつける。
 せいぜい、首を洗って待っていろ。
 オレは必ずお前らの前に帰ってくる。覚悟していろ――》

 

 

 

 その瞬間――ユニクロンの巨体が内部からふくれ上がった。全身からマトリクスの光を吹き出し、ユニクロンは巨大な光の渦と化し――

 

 

 

 その光が消えた後、そこには何も残されてはいなかった。

 

 

 

〈ユニクロン……エネルギー反応、検出されず……!
 消滅を……確認……〉
「そう……」
 アースラから報告してくるエイミィの声もどこか重い――静かにうなずき、リンディはノアの甲板に降り立ったタイタンコンボイのライドスペースから外に出た。
 シールドによって宇宙空間の真空から守られたその場には、すでになのはの周りにフェイトやはやて、恭也達が集まっている。
「なのは……」
 自分達の中で誰よりもマスターメガトロンを信じ、その身を案じていたのは間違いなくなのはだ――そのマスターメガトロンと別れることとなったなのはに向ける言葉が見つからず、フェイトは思わず視線を落とし――
「…………彼は、自分の“道”を貫いたのだ」
 そうなのはに告げたのはギャラクシーコンボイだった。
“力によって仲間達をまとめ、力によって仲間達に迫るすべての害悪を破壊する”――それが破壊大帝だ。
 なのはのおかげで、彼は最後の最後でなることができたんだ。
 本当の意味での、破壊大帝に……おそらく、この最期に悔いはなかったはずだ」
 そう告げるギャラクシーコンボイだったが――
「…………大丈夫です」
 そんなギャラクシーコンボイに答え、なのはは顔を上げた。
「マスターメガトロンさん、言ってました。
 わたしにリベンジして、ギャラクシーコンボイさんとの決着もつけるって……
 だから……」
 そう言って、ギャラクシーコンボイを始め、一同を見回して告げた。

「信じてる……いつか、必ずまた会えるって」

 そして、なのはは振り向き――ユニクロンのいた辺りの空間へと視線を向けた。
(そう……また会えるよね、マスターメガトロンさん……
 だって……わたし達の時間は、まだ始まったばかりなんだから……)
 そう胸中でつぶやき――なのはは先ほどの念話を思い返した。
 

 

《せいぜい首を洗って待っていろ。
 オレは必ずお前らの前に帰ってくる。覚悟していろ――》

 

 

 

 

 

《“なのは”》


 

(初版:2007/09/15)