ユニクロンの消滅後、プライマスは再びセイバートロン星となって眠りについた。
 各惑星のプラネットフォースによって都市が築かれ、自然がよみがえり、融和する――真の姿のセイバートロン星で、トランスフォーマー達は新たな世界を始めようとしていた。
 

 そして――
 

「マスターメガトロンさん……
 もう、こっちはだいぶ落ち着いたよ……」
 昨日から宿泊しているホテルの一室から平和なセイバートロン星の街並みを見渡し、なのはは自分の手の中にある銀色のカードへと静かに告げた。
 ウェイトモードのオメガである。
 このカードを受け取った時のことは、今でも鮮明に思い出せる――

「わたしが……?」
「そうだ」
 聞き返すなのはに答え、ギャラクシーコンボイは自分の手の中のカードをサイズシフトによって縮小、なのはに手渡した。
「それは――オメガは、キミが持っているべきだ。
 きっと、マスターメガトロンもそれを望んでいる……」

「…………わたしなんかが持ってるには、もったいないとも思うけど……できれば、わたしが返してあげたい。
 だから……遅くなってもいいから、ちゃんと帰ってきてね……」
 本来の持ち主マスターメガトロンに届いてほしい――そんな願いと共に、なのはは銀色のカードに向けて告げて――
「なのはー♪」
 そんななのはを、美由希が呼びに来た。
「そろそろ集合時間だよ。
 ジャックプライム達が迎えに来てくれてるから」
「うん!」
 美由希に答え、なのはは笑顔でうなずいた。

 

 


 

最終話
「新たな未来へ、スタンバイなの!」

 


 

 

 全宇宙の命運をかけた、あの死闘からすでに数週間――各惑星のリーダー達によって今後のことを話し合う会議がセイバートロン星を会場に行われることとなった。
 アニマトロスからはフレイムコンボイ。
 スピーディアからはニトロコンボイ。
 地球からはライブコンボイとスカイクェイク、アルテミス。
 ギガロニアからはメガロコンボイとメトロタイタン。
 ミッドチルダからはエルダーコンボイとメガザラック。
 そして――地球とミッドチルダ、それぞれの人類の代表に選ばれた(近しい人間として丸投げされた、とも言う)秋葉とグレアム。
 それぞれの代表がスカイドームの大会議場に一同に会し、なのは達もその会談の場に参加する運びとなっていた。
 そんな彼らを迎えるのは――言うまでもない。
 セイバートロン・デストロンの新総司令官に就任したスターコンボイと――
「これより、“第1回宇宙平和会議”を開催する!」
 我らがサイバトロン総司令官、ギャラクシーコンボイである。
 

 その頃、スカイドームの一角、とある出入り口では――
「本当に、行ってしまうのか……?」
「あぁ。
 オレは、一匹狼の方が性にあってるのさ」
 尋ねるクロノの問いに、ソニックボンバーは軽く肩をすくめてそう答える。
「そうじゃない。
 なのは達にあいさつしなくてもいいのか、って言ってるんだ」
「それこそガラじゃねぇよ。
 第一、あの嬢ちゃん達が相手じゃ、ヘタしたら力ずくで出てくの止められるだろうが」
「……違いない」
 ソニックボンバーを行かせまいと全力で沈黙させにかかるなのは達の姿が、あまりにもリアルに脳裏に浮かんだ。ソニックボンバーの言葉に、クロノは思わず苦笑するしかない。
「正直、いろいろ迷惑をかけられた記憶の方が多いけど……やっぱり、残念ではあるな。
 コンビを組んでいて、退屈しない相手は久しぶりだったんだが」
「ハハハ、そいつぁ光栄だな」
 クロノの言葉に笑い――不意にソニックボンバーは表情を引き締めた。
「それより――なのは達のことを、頼んだぞ」
「あぁ、わかってる」
 言いたいことはわかる――クロノは真剣な表情でうなずいた。
「今回の件で、なのはもフェイトもはやても、管理局に対して名が売れすぎた。
 何しろ、第97管理外世界とその近隣の次元世界、ミッドチルダまでまとめて救った大英雄のひとりだからな。
 彼女達のことだ。自分達の魔法をみんなの役に立てようと管理局入りを目指すだろうけど……」
「今このタイミングで入ろうものなら、権力欲にまみれたバカどものいい操り人形にされちまうのがオチだ。
 しばらくは局に近づけず、自由にやらせてやるのが一番だろうな。
 そしてそれができるのは――お前とお袋さんだけだ」
 自分の言葉にクロノがうなずくのを確認し――ソニックボンバーは彼に背を向け、
「それじゃ……あばよ」
 いつもの調子でそう告げると、ソニックボンバーはビークルモードへとトランスフォーム。大空の彼方へと飛び去っていった。
 なんとも彼らしい――すがすがしい別れ方であった。
 

「本題だが……キミ達はプラネットフォースをどうするつもりなんだい?」
 会議が始まり、しばらくはなごやかな雰囲気が続いていたが――グレアムがそう切り出した瞬間、場の空気が一瞬にして引き締まった。
「確かに、またあの力を悪用しようとする者達が現れないとも限りませんし……やはり、厳重な管理は必要でしょう」
 秋葉の言葉に一同がうなずく中、メガロコンボイとメトロタイタンは顔を見合わせ、
「とはいえ……ギガロニアじゃ、こっちの宇宙への移住希望がけっこう出てるんだよな……」
「あぁ。ギガロニアだけでなく、もっと違った環境でも建築に携わりたいという者が後を絶たなくてな。
 だが、今お前らが言ったことを考えると、ギガロニアのプラネットフォースの守りがどうしても弱くなっちまう」
「単純に考えれば、移住する人数に制限をかけるのが一番なのだろうがな……」
「連中の熱意を考えると、それもどうもな……」
 エルダーコンボイの言葉にメガロコンボイが答えると、
「私にいい考えがある」
 そう口を開いたのはギャラクシーコンボイだ。
「かつて我々の祖先は、はるかな宇宙を旅して、プラネットフォースでスペースブリッジを築こうとした。
 そして、それが完成した今、私は――」

「“新スペースブリッジ建設計画”を提案する!」

「“新スペースブリッジ”だと……?」
 思わずスカイクェイクが眉をひそめると、スターコンボイはファストガンナーへと目配せし――それを受け、ファストガンナーは説明を始めた。
「私が説明します。
 現在、スペースブリッジで結ばれている4つの星とミッドチルダ――その間を結ぶ宙域で新たな惑星を探し出し、その惑星間にブリッジをかけ、結ぶんです」
「なるほど……
 それならばプラネットフォースの力を余すことなく活用できるし……」
「仮に奪われてもその力で維持されているスペースブリッジが消滅し逃走手段がなくなる……悪用も防げるというワケか」
 ライブコンボイとメガザラックが納得すると、今度はニトロコンボイがギャラクシーコンボイに尋ねた。
「それで……その建設隊のメンバーは?」
「それは、これから決めよう――志願者を募るんだ」
「もちろん、ギガロニアは全面協力だ。
 オレ達の建築技術が役に立つだろうし――建設隊に参加すれば、『新天地で建築をやりたい』っていう移住希望組の要望にも応えられる」
「助かる」
 メガロコンボイの言葉に、ギャラクシーコンボイは満足げにうなずいた。
「メガロコンボイ、キミには新たに建造する5隻のスターシップのうち、1隻のリーダーをお願いしたい」
「で? 他のリーダーは決まっているのか?」
「いや……おそらくは志願者の中から選抜されることになるだろう。
 だが……」
 横から尋ねるフレイムコンボイに答え、ギャラクシーコンボイは一同を見回し、
「ひとつは、私がリーダーとして行こうと思う」
「総司令官が!?」
 そんな彼の言葉に声を上げるのはドレッドバスターだ。思わず席を立ち、ギャラクシーコンボイに詰め寄り、
「私は反対です!
 総司令官が行ってしまっては、せっかく提唱した宇宙連合はどうなるんですか!
 この会議は、その第1歩だったのではないのですか!?」
 だが、そんな彼の言葉にギャラクシーコンボイは満足げにうなずき、
「そうやって、正面から私をいさめてくれるのはキミだけだ」
「総司令官……?」
 意図が読めず、首かしげるドレッドバスターに対し、ギャラクシーコンボイはハッキリと告げた。
「ドレッドバスター。
 宇宙連合の正式発足に際しては――」

「キミにその議長を任せたい」

「えぇっ!?」
 さすがにこの抜擢には度肝を抜かれた――ギャラクシーコンボイの言葉に、ドレッドバスターは思わず声を上げた。
「わ、私に、そんな力は……」
「…………私も、ビッグコンボイの後を継いで総司令官になった時は同じことを思ったものだ」
 自信が持てず、たまらず視線を落とすドレッドバスターに告げ、ギャラクシーコンボイは彼の肩を叩き、
「結果、何度も失敗をした。
 だが……仲間に支えられて、ここまでやってくることができたんだ」
「仲間に……」
 ギャラクシーコンボイの言葉に、ドレッドバスターはうつむいたまま彼の言葉を反芻し――
「心配するなって」
 かけられた声に振り向くと、そこにはエクシゲイザーを中心にセイバートロン・サイバトロンの面々がせいぞろいしている。
 いや、ブリッツクラッカーやラナバウト――セイバートロン・デストロンの二人も一緒だ。
「オレ達がついてるんだぜ」
「少し頼りない支えだろうがな……応援するぜ」
「みんな……」
 エクシゲイザーとラナバウトの言葉に、ドレッドバスターは感極まって視線を落とし――
「…………よろしく、頼む」
 その視線が上げられた時には、彼の瞳には強い意志の力が宿っていた。

 

 こうして、“新スペースブリッジ建設計画”は正式に承認され、準備が始まった。
 それと同時に、それぞれの惑星でも次々に新たな世界に向けてのスタートが切られていた。

 

 アニマトロスでは――

「ぐわぁっ!」
 とどめの一撃を受け、ファングウルフはリングの上から弾き飛ばされ、リング外でダウンしていたブレイズリンクスの真上に落下した。
 そして――
「オラオラ、どうしたぁっ!
 もうおしまいかぁっ!」
 神殿跡地に作られたリングの上で、フレイムコンボイは高らかに声を上げた。
 アニマトロスのリーダーの座をかけた、フレイムコンボイとの決闘――以前からもあった光景ではあるが、ここに来てフレイムコンボイへの挑戦者の数はグンと増えていた。
 だが、皆フレイムコンボイを追い落とそうとしているワケではない。ライガージャックのように純粋にリーダーを目指して挑戦する者もいれば、ブレイズリンクスのようにどちらかと言えば彼との戦いを楽しみたくて挑戦する者もいる。
 というより、最近はむしろ後者の方が多いくらいだ――それはすなわち、フレイムコンボイが皆から認められ、慕われるリーダーとなりつつある証拠でもあった。
 そんな中で――
「ちょぉっと待ったぁっ!」
 こいつは相変わらずだ。高らかに待ったをかけ、ギガストームはリングへと跳躍。コーナーの上に着地し、フレイムコンボイをにらみつける。
「フンッ、ようやくの登場か、ギガストーム! 待ちかねたぞ!」
「余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ、フレイムコンボイ!
 今日こそ、貴様を最強の座から転げ落としてくれる!」
 告げるフレイムコンボイに言い返し、ギガストームはフレイムコンボイに向けて跳躍した。

〈アニマトロスを舞台に、今日も獣の咆哮が響き渡る!
 チャンピオン、フレイムコンボイにチャレンジャー、ギガストーム! どちらも退かないぃっ!〉
 盛り上がる会場の中――いつの間にか実況席が用意されていた。“実況”と書かれた札の置かれた席で、マイクを握りしめた琥珀はテンションぶっちぎりで声を張り上げる。
 そのとなりには解説者席――座っているのはライガージャックとオーバーロードだ。
〈激しい打撃戦に会場が揺れている!
 まさにララパルーザぁっ!〉
 琥珀のハイテンションな実況の響く中、ギガストームとフレイムコンボイは激しく拳を交わし合う。
「そこだ! フレイムコンボイ!」
「勝てるぞ! ふんばれ!」
「負けたら承知しないわよ!」
 赤コーナーから声援を送るのはパートナーである恭也や彼に付き添っているシグナムと知佳。対して青コーナーから声援を送るのは――
「ギガストーム様! 押し切るんです!」
「そこです! 攻め抜いて!」
 セコンドを引き受けたボンブシェルとウィアードウルフ。そして――
「勝った方と結婚してあげるわよー♪」
 そんなオソロシイコトを言い出して、リング上の二人のやる気を著しく削いでくれるクロミアだった。

 現状ではギガストーム優勢だろうか――ユニクロンが滅んだ後も転生したままである彼の身体は、やはりスペック面でフレイムコンボイに優っている。その差が1対1という状況で如実に現れたのだ。
〈ギガストーム、プレッシャーをかける!
 チャンピオン、フレイムコンボイ! 後がないぞ!〉
 琥珀の実況のとおり、フレイムコンボイはギガストームに圧されてロープ際まで追い詰められている。
 お互いにパワーファイターだ。この状況で一発が入れば、ギガストームはこちらの多少の反撃などものともせずに一気に攻めかかってくるだろう。
 となれば――多少危険でもとっておきの一撃を叩き込むしかない。フレイムコンボイは拳を勢いよく振り上げ――
「――いかん!」
 それを見た恭也が目を見張った。
「ダメだ、フレイムコンボイ!
 大振りすぎる――かわされるぞ!」
 制止の声を上げるが――間に合わない。
「オォォォォォッ!」
 大振りのまま、咆哮と共にフレイムコンボイが拳を振るい――
「ぬるいわぁっ!」
 恭也の恐れが現実のものとなった。襲い来る拳をかわし、ギガストームがフレイムコンボイの懐に飛び込む!
(踏み込まれた――!?)
(頼みの綱が――!)
(切れた――!)
 起死回生の一打がかわされた――恭也、知佳、シグナムが目を見張り――
「いけぇっ! ギガストーム様!」
「一気に切り崩せぇっ!」
 反対側でウィアードウルフとボンブシェルの歓声が上がり――

 ――――めぎっ。

 イヤな音が響いた。
 出所はギガストームのわき腹――そこには、フレイムコンボイの左拳が突き刺さっていた。
「カウンター!?」
「フレイムコンボイのヤツ――最初から狙っていやがった!」
 解説者席で思わずオーバーロードとライガージャックが声を上げ――すかさずフレイムコンボイが追撃に入る。
(ストレート――来る!)
 痛むわき腹にかまっている余裕もない。向けられた殺気を頼りに次の攻撃を読み、とっさにギガストームはガードをかまえてフレイムコンボイの右ストレートに備え――

 ギガストームの顔面を“殺気だけが”突き抜けた。

(フェイント――!?)
 驚愕するギガストームだが――対応が間に合わない。フレイムコンボイは腰を落としながらギガストームの懐へと飛び込み――次の瞬間、身体ごと突き上げたショートアッパーが、まるでギガストームの首を引っこ抜くかのように弾き上げる!
 このコンビネーションは――
「あれは――!」
「リバーブローからショートアッパー“ガゼルパンチ”、そして――
 これは、某フェザー級日本チャンプが、ベルトを奪った時のフィニッシュパターンか!」
 知佳とシグナムの声が響く中、フレイムコンボイは身体を左右に揺らし――十分に勢いをつけ、そこから左右のフックで猛烈な乱打を叩き込む!
「逃げてください、ギガストーム様!
 すぐにそこから離れて――デンプシーロールの間合いから出るんです!」
「逃がすな! 仕留めるんだ!」
 ウィアードウルフと恭也が互いに声援を送る――“∞”を描くフレイムコンボイの動きに合わせ、必殺の乱打がギガストームに襲いかかり、打ちのめす。
 そして――
「どぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」
 フィニッシュとばかりに叩き込んだ一撃が、ギガストームをリングの外へと叩き落した。

「よくぞ最後まで正々堂々と戦ったな」
「アニマトロスのリーダーとして、ふさわしい戦いぶりだったぞ」
 目を回したギガストームがバンディットロンの面々に介抱されているのを尻目に、サイドスとファングウルフがフレイムコンボイに告げる。
「これは、アニマトロスのリーダーはしばらくはフレイムコンボイから動きそうにないな」
「まったくよね」
 賛辞を贈ろうとリングに上がってきたライガージャックとアルクェイドも口々フレイムコンボイをたたえ――

「………………あ」

 その言葉に、フレイムコンボイは言葉を失った。
 そして――
「……しまったぁぁぁぁぁっ!
 リーダーのままじゃ新スペースブリッジ計画に参加できねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁっ!」

「…………参加したかったんだ、新スペースブリッジ計画……」
「だったら代理リーダー選抜戦にして、自分は参加しなきゃ良かったんだろうに……」
「相変わらず、肝心なところで抜けているな……」
 頭を抱えて絶叫するフレイムコンボイの言葉に、知佳、シグナム、恭也が思わず苦笑する。
 が――そこはフレイムコンボイ。すぐに立ち直って一同を見回し、
「…………まぁいい。
 それならそれで、このアニマトロスを――旅立ったヤツらが帰ってきた時に驚くような、宇宙一の星にしてみせる!」
 持ち前のポジティブシンキングで復活。高らかに宣言するフレイムコンボイの言葉に、一同から歓声が上がり――
「だが、新スペースブリッジ計画の方にも、誰か行ってもらうぞ。
 まずはダイノシャウトとテラシェーバー!」
「えぇっ!?」
「オレ達っスか!?」
 いきなり指名され、思わず二人が声を上げるが、フレイムコンボイはかまわない。
「そして、そのリーダーは――」
 言いながら、フレイムコンボイはその“リーダー”へと視線を向け――

「………………オレ?」

 いきなり注目を受け――ライガージャックはキョトンとしたまま自らを指さした。

 

 そして、スピーディアでも――
 

「いっけぇっ! アトラス!」
「落ち着けシャマル」
「……いい加減、勘弁」
 ザフィーラとアトラスから制止の声が上がるが、ハイテンションなシャマルには通じない――彼女の運転でアトラスは復興したスピーディアのハイウェイを高速で駆け抜けていく。
 が――
「…………後方」
「来たわね、エクシゲイザー、すずかちゃん!」
 猛烈な勢いで追い上げてくる、すずかを乗せたエクシゲイザーの姿を捉え、警告するアトラスの言葉にシャマルは表情を引き締める。
「最終ラップ――ここで決めるよ、エクシゲイザー!」
「あぁ!」
 一方、すずかとエクシゲイザーもやる気は十分だ。トップを走るシャマル達のスキを狙い、少しも離れずついていく。
 対するシャマル達もさすがだ。後方から追いすがるエクシゲイザーの進路をふさぎつつ、スリップストリームにも入られないよう巧みに車体を揺らしてエクシゲイザーをブロックしている。
 だが――
「エクシゲイザー! そろそろいくよ!」
「わかってる!
 しっかりつかまってろよ、すずか!」
 すでにすずかとエクシゲイザーは勝負どころを見定めていた。その“勝負どころ”が目前に迫っているのを察し、声をかけてくるすずかにエクシゲイザーが応える。
 勝負の鍵は――ゴール直前の5連続S字ヘアピンカーブ。
 スポーツカータイプのアトラスならまだしも、高機動仕様とはいえ装甲車をスキャンしているエクシゲイザーにとって、この展開はかなり苦しいはずだ。
 しかし――だからこそここで攻める。エクシゲイザーは先行してヘアピンに突入したアトラスを追い――さらに加速する!
「加速した!?」
「バカな!? オーバースピードで吹っ飛ぶぞ!」
 それを見てシャマルとザフィーラが声を上げるが、それがエクシゲイザー達に届くことはない。一直線に最初のコーナーへと飛び込み――

 跳んだ。

 迷うことなく最大加速で最初のコーナーに突入、ガードレールとフェンスを踏み台にしてジャンプしたのだ。
 一気にコースを飛び越え、ショートカットを狙うつもりだ――確かに飛行するワケではないから、これなら『飛行禁止』というスピーディアのレースの共通ルールには抵触しない。
 しかし――飛距離が足りない。いかにエクシゲイザーが限界まで加速していても、この5連続ヘアピンを丸ごと飛び越えられるほどの飛距離は得られない。
 が――それすらもすずか達は計算に入れていた。ジャンプの際にひねりを加えて車体を回転。まるでライフルの弾丸のように空気を貫き、上空を飛び越えていく!
「バカな――!?」
「まさか――!?」
 ジャイロ回転によって飛距離を稼ぐ決死のジャンプショートカット――その姿にザフィーラとアトラスがうめき――シャマルが叫ぶ。

「あれは――マグナムトルネード!?」

 シャマルの叫び声と共に――5連続S字を飛び越えたエクシゲイザーは無事コースに着地し、1位でゴールを駆け抜けた。
 

「まったく、ムチャするなぁ。
 まぁ、確かに飛行禁止ってルールにジャンプショートカットは対象外だけどさ……」
「へっ、ムチャはオレの専売特許さ!」
 全員のゴールが確認され、苦笑するサイクロナスの言葉に、エクシゲイザーは胸を張ってそう答え、
「わたし達二人のコンビなら、どんなコースでも負けないんだから……っとと」
「ち、ちょっと、すずか、大丈夫!?」
 自信タップリに答えながらも、エクシゲイザーに乗ってマグナムトルネードに付き合ったすずかは未だに少々目を回している。フラついたところをアリサがわてて駆け寄って支えてあげる。
「くっそぉ! アレがOKならオレ達だって!」
「ロディマスブースターでびゅーんっ! ってできたのに!」
「はっはっはっ。思いついた者勝ちだってんだ!」
 悔しがるロディマスブラーと美緒にエクシゲイザーが勝ち誇ると――そんな彼らにニトロコンボイが声をかけた。
「さすがだな、エクシゲイザー。
 勝負どころで臆することなく突っ込める勇気――大したものだ。
 キミ達になら――」

「安心してスピーディアを任せられる」

『………………え?』
 いきなり何を言い出すのか――目を丸くする二人に対し、ニトロコンボイは告げた。
「新しい星を、走ってみたくてな……志願したんだ。新スペースブリッジ計画に」
「じゃあ……」
 つぶやくエクシゲイザーにうなずくと、ニトロコンボイは彼の肩を叩き、
「オレのいない間……スピーディアを頼んだぞ」
「ニトロコンボイ……
 ……あぁ、任せろ!」
 出会ったばかりの頃はまだヒヨッコでしかなかった自分を、彼は心から信じてくれている――ニトロコンボイの言葉に、エクシゲイザーは力強くそう答え、うなずいてみせた。

 そんな彼らの背後では――
「やっぱ、オイラ達じゃかなわねぇのかなぁ……」
「……ぢぐじょー……ビークルモードがロードローラーじゃ勝ち目ねぇっつーの……」
 もはやレースでは歯牙にもかけられていないこの面々――アームバレットとインチプレッシャーがうめくと、
「あぁ〜、クロミアたまぁ〜……」
「近寄らないで。
 弱い男に興味ないから」
 未練がましく声を上げるガスケットをあっさり袖にして、観戦しに来ていたクロミアはさっさと引き上げていってしまう。
「あぁ……『勝ったら結婚してくれる』って言ってたのに……」
『何ぃぃぃぃぃっ!?』
 うめくガスケットの言葉に、思わず反応したのは残りの二人だ。
「何だよ、お前、クロミアのことそー見てたのか!?」
「っていうか、聞いてないんだな!」
「うるせぇ! デクノボウ!」
 口々に声を上げるインチプレッシャーとアームバレットの言葉に、ガスケットはがばっ! と起き上がって言い返す。
「てめぇっ! 『オレ達の間に女はいらない』っつー鉄の掟を忘れたかぁっ!」
「抜け駆けは許さないんだな!」
「いつできたんだ、そんな掟!」
 口々にわめきながら、血涙と共に拳が飛び交う――

 なんと言うか――相変わらずの3人であった。

 

「今回はご苦労様」
〈ホントに『ご苦労様』だったよ〉
 時空管理局、本局内のとあるオフィス――笑顔で告げるレティに、通信の相手は不機嫌そうにそう答えた。
 声色からメビウスショットかとも思うが――違うようだ。確かに声は極めて似ているが、口調が明らかに違う。
〈とりあえず、いろいろと裏から政治・経済両面に手を回して、ミッドや管理局、魔法のことについては97管理外世界の地球じゃ極秘扱い。民間には知れないよう手は打った。
 トランスフォーマーの存在がうまくカモフラージュとして機能しててくれるし――匿名とはいえ、それぞれの利害がうまくけん制し合うように仕向けたから、理をもって説くよりは効果が上がるはずだ。
 まぁ、しばらくは滞在して、明かそうとしたり、魔法の力を悪用しようとするバカが出ないか監視しようと思うけど……〉
「じゃあ、しばらくはそのままなのはさん達の世界に?
 そっちではどこに滞在を?」
〈東京近郊にアジトを用意した。
 故郷の次元世界じゃ近辺で暮らしてたから勝手も知ってるし、何より日本が誇る中心地だからな。情報集めにゃ立地条件が整ってる〉
「そう……手間をかけさせるわね」
〈そう思うんならオレを引っ張り出さないでくれ。
 オレはよその管理外世界の生まれだぞ。『次元世界は違っても同じ地球出身でしょ♪』とか言って引きずり出しやがって。
 こっちだってこっちの戦いってもんがあるんだ。ゲンヤのオッサンの口ぞえがなかったら焼かれてたよ、レティさん〉
「それは幸運だったわね」
〈…………今すぐにでもそっち行って焼いてやろうか〉
 まったく悪びれた様子もなく告げるレティに、通信の主は声を震わせてうめくが――
「こちらはもちろん大歓迎よ。
 あなたから来てくれるなら“交渉”もしやすいし」
〈だぁかぁらぁっ! 何度誘われようと、オレは管理局なんざまっぴらなんだよ!
 それでなくてもゲンヤのオッサンの方断るのに毎回難儀してるのに!
 アンタといいリンディさんといいオッサンといい、管理局の上層部はスカウト魔の巣窟か!?〉
 笑顔で告げるレティの言葉に、彼は力いっぱい言い返す。
〈ったく……
 とにかく、依頼は果たしたからな――ゲンヤのオッサンにもよろしく言っといてくれ〉
「あら、あなたが連絡すればいいのに」
〈そうもいかねぇよ〉
 告げるレティに、彼はため息をついてそう答え、
〈あくまでプライベートな線での依頼だったんだ。仕事中に連絡するワケにもいかねぇでしょ。
 となりゃ。当然課業後になるけど――オッサンちに連絡すると娘っ子どもがうるせぇ〉
「なつかれてる証拠じゃない」
〈やかまし。
 話がややこしくなるだけだ――っつーワケでオレはゲンヤさんには報告しない。後はヨロシク〉
「えぇ。
 それじゃあ、そっちも大変だろうけどがんばって。
 何だったら、神のご加護でもお祈りしましょうか?」
〈神サマっつってもプライマスだろ? あんな超弩級をこんな細かい仕事であてにできるか〉
 口を尖らせてそう答え――そんな彼に、レティは笑顔で告げた。
「それじゃあ……気をつけてね」
〈らしくねぇな。リンディさんと肩を並べる敏腕提督と言われる御方が〉
「そうね。
 あなたに気遣いは無用ね――」

“ブレイカーズの黒き暴君”殿には♪」

 

「…………そうか……
 ミッドチルダ組の代表、引き受けてくれるか……」
「あぁ」
 ミッドチルダ・サイバトロンシティの指令室で、エルダーコンボイはメガザラックの言葉に静かにうなずいた。
「貴様にミッドチルダのリーダーを譲って、ようやく隠居できると思ったのだがな……
 まったく、人使いの荒い新リーダーだ」
「素直に楽隠居させるとでも思ったのか?
 こちらから新スペースブリッジ計画に回せる人材の中で、リーダーが務まるのは貴様しかいないだろうが」
 苦笑するエルダーコンボイに答え、メガザラックは手元の書類に目を通す。
 下から上がってきた、新スペースブリッジ計画に必要と見られる資材の目録だ。他にも目を通さなければならない書類は山のように残っている。リーダーをエルダーコンボイから引き継いだことについて後悔はないが――この一点にだけは『逃げたのか?』と邪推せずにはいられないメガザラックであった。
 ともあれ――気を取り直し、メガザラックは言葉を重ねる。
「ジャックプライムも、リーダーを任せるにはまだまだ未熟――しばらくは外で修行だな。
 パートナーのフェイトには、まだまだがんばってもらうことになりそうだ」
「まったくだな」
 メガザラックの言葉に苦笑し、エルダーコンボイは肩をすくめてみせた。
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
「なんの!」
 跳躍と同時に気合一閃――振り下ろされたロードシーザーの刃を、スペリオンは無駄のない剣さばきで受け流す。
 続いて、背後からレールレーサーがユキムラを繰り出すが、スペリオン素早く身をひねってその軌道から逃れ――レールレーサーの刺突はロードシーザーを直撃、吹き飛ばす!
「しまった!」
 思わずレールレーサーが声を上げ――
「詰みだ」
 静かに告げ、スペリオンはムラサメの切っ先をレールレーサーののど元に突きつけた。
 そして――
「それまで!」
 薫の号令が、彼らの模擬戦に終止符を打った。
「まだまだだな、二人とも」
「くっ……!」
「二人がかりなら、まだいけると思ったのだが……」
 告げるスペリオンの言葉にロードシーザーとレールレーサーがうめくと、
「3人とも、お疲れさま」
 そんな3人をねぎらい、みなみが薫と共に駆けてくる。
「相変わらず、みんな熱心だねー」
「戦いが終わろうと、我らの武の道が終わったワケではないからな」
 感心するみなみに答え、スペリオンはムラサメをウェイトモードのダガー形態に戻し、
「我ら3名、ミッドチルダ王室騎士団の代表として、若達をお守りせねばならんからな」
 そう告げるスペリオンの言葉に、みなみは周囲を見回し、尋ねる。
「けど……その『若様』がいないよ?」
「あぁ、若なら……」
 そのみなみの問いにはロードシーザーが答えた。
「セイバートロン星まで出かけているよ。
 『大丈夫だから』と我らの同行は止められた。俗に言う――」

「“初めてのお使い”というヤツだな」
 

 セイバートロン星の市街地――商店街としての発展を始めたその地に、その店はあった。
 風情を失わず、それでいて人間とトランスフォーマー、双方が利用できるよう配慮された内装――
 真っ先にこの地に店をかまえた、その店の正面に掲げられた看板にはハッキリとこう書かれていた。

 “翠屋”と――

「………………ぅわぁ」
 来店するなり、もれるのはその一言――中にいた面々の姿に、ジャックプライムはそううめかずにはいられなかった。
 別にイヤな相手だというワケではない。まぁ、いろいろ軋轢のあった相手ではあるがいつまでも引きずるようなつもりはない。
 ただ――会話をすると疲れる相手であるのは確かだ。迷わずその場で180度反転し――
「ごめん、来るべきタイミングを間違えた」
「えらい言いようだなヲイ」
「そんなにオレ達と顔を合わせたくないか」
 そそくさと店を出て行こうとするその姿に、オーバーロードとギガストームは口々に不満の声を上げる。
「ったく、次期リーダーがこんなところで油売ってていいのかよ?」
「残念でした。セイバートロン星には父上のお使いで来たの。
 それに、恭也さんからもここに顔を出すように言われてるし」
 尋ねるオーバーロードにジャックプライムが答えると、
「え? 師匠から?」
 その声を聞きつけ、キッチンの方から現れたのは晶だ。そして――
「何だよ、誰かと思えばジャックプライムじゃねぇか」
「久しぶりだな」
 続いてカウンターの奥から顔を出してきたのはブリッツクラッカーと真一郎だ。翠屋セイバートロン星1号店の主力スタッフはこのメンバーが担っているのである。
「恭也のパシリだって?」
「パシリなんて失礼な。査察だよ、サ・サ・ツ。
 二人がちゃんとやってるか見てきてくれ、って言われてね――あ、シュークリーム、TFサイズでひとつ♪」
 ブリッツクラッカーに答え、ジャックプライムは上機嫌でカウンター席に座るとさっそく注文する。
「やれやれ、シュークリームとはお子様味覚だねぇ」
「やっぱ、男ならしぶ〜くコーヒーだろ。しかもブラック!」
「つい最近まで食性機能眠らせてたクセによく言うよ」
 はやし立てるギガストームとオーバーロードに答え、ジャックプライムはブリッツクラッカーの出してくれた、トランスフォーマーのサイズに合わせた大きなシュークリームにかぶりつき、
「だいたい、そう言う二人こそなんでセイバートロン星にいるのさ?
 部下のみんなはどうしちゃったの?」
「――――ば、バカ!」
「え――――――?」
 あわてた晶の言葉に顔を上げるが――もう遅い。
「え? え? 何?」
 目の前には完全にフリーズしたギガストームとオーバーロード。どうしたのかとジャックプライムは声を上げ――

「真くーん」
 声を上げ、小鳥はキッチンの奥から顔を出した。
「シュークリーム用のカスタードクリーム、用意できたけど――って……」
 そう真一郎に告げる小鳥の目の前では――

「へっ、いいんだいいんだ、オレ達なんて……」
「どいつもこいつも『出稼ぎだぁ!』とか言ってよその星に行っちまってさ。
 どうせオレ達なんてどーでもいいリーダーだったんだよ……」

「あー、えっと……」
 店のすみにしゃがみ込み、ブツブツとつぶやきながらいぢけている二人の大帝――その姿を前に、小鳥は事態についていけずに呆然とするジャックプライムや頭を抱える晶、真一郎、ブリッツクラッカーへと向き直った。
 なんとかして――言葉をつむぐ。
「…………ひょっとして……ジャックプライムくん?」
「…………ごめん。
 なんか……地雷踏んだっぽい」
 小鳥の言葉に我に返り――ジャックプライムは申し訳なさそうに頭を下げた。
 

 同じ頃、セイバートロン星中央府では――
「……それが、ミッドチルダからの参加者のリスト?」
「あくまでも『現時点の』ものだがな。
 今朝早く、ジャックプライムが届けてくれた」
 尋ねるフィアッセに、スターコンボイはリストに目を通しながらそう答える。
「次期リーダー自らのお使い、ねぇ……」
「いいことじゃないか。
 リーダーを継ぐ者であろうと、下積みは必要だ――お前だって、『ティオレ・クリステラの娘』だからと特別扱いをされていたワケではなかろう?」
「そういえばそうね」
 スターコンボイの言葉にうなずき、フィアッセはスターコンボイのデスクのとなりに用意された自分のデスクに座る。
 戦後、歌手としての活動の拠点をセイバートロン星に移したフィアッセだが――スターコンボイのパートナーであることもまた、おろそかにするつもりはなかった。各地をコンサートで点々とする中、こうしてスターコンボイの補佐にも務めている。
 本人もこの生活が気に入っており、特に不満をもらすこともなく――現在のところは大きな問題も起きず良好な状態が続いている。
 ラナバウトやヘルスクリーム以下、かつての部下達もよくやってくれている。もはや自分に従う理由などないにもかかわらず、故郷に帰るでもなくセイバートロン星に居残って自分達の仕事を支えてくれている。
 ラナバウトなどはもはや完全にフィアッセのマネージャー状態だ。もっとも彼の場合、フィアッセを通じて大ファンであるSEENA――ゆうひとお近づきになりたい、というのが本音だろうが。
 近いうち、ご要望どおりゆうひと引き合わせてあげようか――そんなことを考えながら、フィアッセはオフィスの一角に飾られたそれへと視線を向けた。
 今回の戦いの中、自分が見てきたスターコンボイ――スタースクリームの覇道の証。
 自分とスタースクリームが、共に歩んできたその証――
 かつて彼のかぶっていた、あの王冠へと。
 

 一方、地球ではライブコンボイの指揮の元“地球平和協力隊”が創設され、人類に協力していた。
 主な活動はトランスフォーマーと地球人との異種族間のトラブルの調停やグランドブラックホールによる災害の復興支援――当初は特に前者の問題が心配されていたが、ライブコンボイらの誠意ある対応とレティの依頼していた“裏工作”が功を奏し、特に大きな問題が起きることもなくトランスフォーマー達は社会に受け入れられていった。

地球ここの作業もあと少しのようだな」
「あぁ……」
 その日も協力隊の仕事を終え、のんびりと夕日を眺めていた――そこへ声をかけられ、ライブコンボイは声の主へと振り向き、
「スカイクェイク、アルテミス……二人にも苦労をかけるな」
「気遣いは不要だ。
 元地球デストロンのことならオレの方が理解がある――彼らと人間達との調停にはオレが出て行くのが一番だ」
《我らも好きでやっているのですから、あなたが気にすることはありません》
 ライブコンボイの言葉にアルテミスと共に答え――スカイクェイクはライブコンボイに尋ねた。
「…………行くんだろう?」
「ん………………?」
「新スペースブリッジ建設隊さ」
「わかっていたか……」
「当たり前だ。
 オレは貴様と同じ、この地球のプラネットリーダーだぞ――立場を同じくする者として、考えていることは大体わかる」
 ライブコンボイの言葉に、スカイクェイクは肩をすくめてそう答える。
「スカイクェイク、お前はどうする?」
 ライブコンボイの問いに、スカイクェイクは一呼吸置いて答えた。
「……オレは、参加するつもりはない」
 そう答えると、スカイクェイクは沈みゆく夕日へと視線を向ける。
 彼の抱いている懸念――それに思い至り、ライブコンボイは尋ねた。
「ノイズメイズ達のことか……?」
「………………あぁ」
 否定はなかった。最後の戦いの時のことを思い出し――続ける。
「あの時……確かに手ごたえはあった。
 だが――ヤツらをひとり残らず、完全に消滅させるような一撃でもなかった。
 にも関わらず、ノイズメイズ達は残骸ひとつ見つかっていない……」
「生きて……いるんだろうな」
「少なくとも全滅はしていまい」
 ライブコンボイに答え、スカイクェイクは息をつき、
「ヤツらを取り逃がした責任が、対峙していたオレにはある。
 建設隊とは別に、宇宙に出ようと思っている――ヤツらの生死を確かめるために、な」
「そうか……」
 スカイクェイクの言葉に、ライブコンボイはスカイクェイクと並び立って夕日を眺め、
「…………気をつけろよ、スカイクェイク」
「誰にものを言っている?」
 ライブコンボイの言葉に、スカイクェイクは自信に満ちた笑みと共に答えた。
「オレには――世界最高のパートナーがついているんだぞ」
 

「そうですか……
 兄さんはやはり、セイバートロン星に……」
「あぁ……
 ドレッドバスターの補佐を、しようと思ってる」
 正直、彼女の怒りを考えたら話すのは恐かったが――それでも話さなければ先へ進めない。自分の決めた方針を聞き、うなずく秋葉に、志貴は言葉を重ねた。
 その場には琥珀と翡翠も控えているが――二人とも口をはさむつもりはない。ただ静かに志貴と秋葉のやり取りを見守っている。
「遠野の家の方を放り出すみたいで、秋葉には正直悪いと思うけど……やっぱり、パートナーだからね。
 出来る限り、力になってあげたいんだ」
「………………」
 秋葉からの答えはない。ただ無言で紅茶をすすっている。
 そして――静かに息をつき、
「兄さん」
「は、はいっ!」
 静かに、そしてハッキリと告げる秋葉に、志貴は思わず居住まいを正し――そんな彼に秋葉は告げた。
「遠野家の次期当主ともあろう者が、『補佐』ですか?」
「………………え?」
「まったく、そういう控えめなところが当主には向いていないんですよ。
 ドレッドバスターを押しのけて自分が議長を務める、くらいの勢いは欲しいところですね」
「じゃあ………………」
 顔を上げる志貴にうなずき、秋葉は再び紅茶をすする。
「まったく……こちらは魔法のことを世間から隠すために、今まで培ってきたパイプをフル回転させなければならないんですよ。
 レティ提督が“助っ人”を用意してくれるとおっしゃっていましたが、それでも手が足りないんですから……」
「すまん。ほんっとすまん」
 愚痴をこぼす秋葉の言葉に、志貴は両手を合わせてひたすらに謝り倒し――
「えー? 志貴はセイバートロン星に居残りなの?」
「って、あなたは何をナチュラルにこの場にまじってるんですか!」
 いつの間にか二人の会話の席に混じっていたアルクェイドの姿に、秋葉は思わず声を荒らげて――
「って、『居残り』?」
 先の言葉に気になるフレーズを見つけた。眉をひそめてアルクェイドに聞き返す。
「まさか……新スペースブリッジ計画に?」
「うん。
 フレイムコンボイに言われて、ライガージャックが行くことになっちゃったからね。
 パートナーとしては、やっぱついてった方がいいかなー、って」
「フンッ、さっさと行ってしまいなさいな」
 志貴に答えるアルクェイドに、秋葉は口を尖らせながらそう答え――
「そうですよ。
 どうせ戦うしか能が無いんですから、あなたは未開の惑星で怪獣とでも戦ってなさい」
「………………」
 いつの間にやらパート2――サラッとアルクェイドへの口撃に参加しているシエルの姿に、秋葉は思わず頭を抱える。
「シエル先輩は参加しないんですか?」
「えぇ。
 私は結局のところ教会の人間ですからね。当分はまた、死徒への対応を中心とした任務に戻る予定です。
 オートボルトも、手伝ってくれると言っていますし……こちらは何とかなると思います」
 志貴の問いに答え、シエルは少し残念そうに肩をすくめ、
「それで……あなたはどうするんですか? シオン」
「さすがと言うか……わかっていましたか」
 そのシエルの言葉に、シオンは部屋の窓にフワリと降り立った。
「あなたはアトラスの錬金術師――しかし、ワラキアの件と今回の件、すでにあなたは2度も門外不出を原則とするアトラスの教えに背いています。
 今後――どう動くつもりですか?」
 淡々と事実を告げるシエルの言葉に、シオンはしばし黙り込み――
「…………行きます」
 その場の一同に対し、ハッキリと、その意志を示した。
「アトラスの錬金術師ではなく――ファストガンナーのパートナーとして。
 並び立ち、共に戦った――友のために、私はこの知識を使います」
「…………そう」
 真っ先にうなずいたのはシオンの親友たる秋葉だった。
「あなたがそう決めたのであれば、私に止める権利はないわ。
 存分に、その力を振るっていらっしゃい」
「はい。
 ありがとうございます」
 秋葉の言葉に、シオンは静かに一礼してうなずいて――

「うっわー、グチのひとつもなしか」
「悪口のひとつもないわね」
「私達の時と比べて、ずいぶんと態度が違いますよね」
「まー、秋葉様ですから」
「姉さん、それで納得するのは……」

 そんな二人の友情を見守る周囲の視線は、かなり微妙なものだった。

 

 戦いが終わり、役目を終えたサイバトロン地球前線基地は、現在は地球平和協力隊の日本での拠点として使われている一方、かつての仲間達の憩いの場となっていた。
 そんな地球基地の一角では――
「そっか……
 はやてちゃん達、しばらくは管理局か……」
「うん……
 保護観察期間の間だけ、って話なんやけどね、今のところは」
 今日の作業を終え、戻ってきたトランスフォーマー達でにぎわう談話室――人間用のスペースで、はやてはなのはの言葉にそううなずいた。
「“闇の書”事件のことは、明らかに私達に非があります。その償いの意味も込めて……ってことらしいです」
「あ、“闇の書”事件って言えば……グレアム提督、結局辞任したんだってね?」
「あぁ」
 告げるシャマルに尋ねるアリシアにはシグナムが答えた。
「グランドブラックホールに対する各種の対応が認められ、残留を希望する声も多かったんだが――本人の意思を尊重する形となった。
 リーゼ達は、グレアムの指示に従っただけということで罪は軽く、本人達の希望もあって管理局の残留が認められた。監視付きではあるがな。
 使い魔のみの残留というのも異例らしくてな、してやったりと笑うリンディ提督の楽しそうな顔といったらなかったぞ」
「あ、あはは……」
 苦笑まじりに告げるシグナムの言葉に、フェイトは思わず苦笑し――そんな彼女達にヴィータが尋ねた。
「で? お前らはどーすんだよ?」
「え? わたし達?」
「おぅ。
 聞いたぞ。正式な局入りも新スペースブリッジ建設隊も、保留をくらったらしいじゃねぇか」
「う、うん……」
 ヴィータに答え、なのはは戸惑いまじりにうなずいた。
「クロノくんに言われちゃった。『将来を決めるにはまだ早い。もっと世界を見て来い』って……
 ギャラクシーコンボイさんはギャラクシーコンボイさんで、『まだ子供のキミ達は、家族と共にあるべき時期だ』って言って建設隊への参加を認めてくれないし……
 『世界に出ろ』って言うクロノくんと『家族のところにいろ』って言うギャラクシーコンボイさん、どっちもどっちで、もうどうしたらいいのか……」
「そうそう。あたしもバックギルドに止められちゃったのよね、建設隊入り。
 『まだ小学生なんだから、ちゃんと学校に行っておけ』とか言っちゃってさ」
 告げて、なのはとアリサは思わずため息をつき――
「…………一度足を止めて、そういうことをゆっくり考えてみろ、ということじゃないかしら?」
 そんな二人に告げたのは、彼女達にお茶を淹れてきてくれたリニスだ。
「世界を知り、その上で、自分がどんな道を選ぶべきなのか、どんな道を選びたいのか――そんなことを考える時間を、彼らはくれたんじゃないかしら」
「…………そう、ですね……」
 リニスの言葉になのはがうなずくと、ふと思い出したようにはやてが声をかけた。
「将来っていえば……アリシアちゃん、ミッドの大学から来ないかって言われてるんやって?」
「うん。
 ほら、わたしってアルファートリンの命と一緒に知識も受け継いだから……その知識を貸して欲しいって頼まれたの。
 ユーノくんも誘われたらしいけど……ユーノくんは無限書庫の方からも誘いが来てるんだって。今日いないのも、その件で本局に行ってるからなんだって」
「へー、そうなんだ……」
 アリシアの話を聞き、すずかが納得すると、
「みなさん、そろそろ帰らないと、夕飯の時間に間に合いませんよ」
「あぁっ! いっけない!
 急いで帰らないと!」
 声をかけてきたホップの言葉に、アリサはあわてて立ち上がる。
「はやてやすずかはどうするの?」
「わたしは……お姉ちゃんが帰ってくるのを待って、一緒に……かな?」
「わたし達も帰るよ。
 はよ帰って夕飯の支度せぇへんと」
 フェイトの言葉にすずかとはやてが答え、一同はその場で解散となる。
 なのは、フェイト、アリシア、リニスは高町家へ、はやてや守護騎士達は八神家へ。
 アリサも自宅へ。そして――
「ほら、バンパー、ブリット、帰りますよ」
 ホップ達もまた、自分達を引き取ってくれたさざなみ寮へ帰らなければならない。食性を必要としないトランスフォーマーである彼らだが、食事の席には同席するように言われている。『家族なんだから当たり前』というのは愛の弁。この一言で、ユニクロン消滅後も存在を保っているダークライガージャック達まで引き取ってしまったのだから、彼女のバイタリティも大したものだ。
 そんなこんなで、さざなみ寮に戻るべくホップ達は地上に出て――いつものところにいる二人へと声をかけた。
「ルーツ、久遠!
 二人とも帰りますよ!」
 そんな彼の言葉に、静かにシャトルカタパルトを――自分達の“大切な人”の使っていた発進カタパルトを眺めていた二人は顔を見合わせた。そしてもう一度カタパルトへと振り向き――いつものあいさつ。
「べくたーぷらいむ……
 また、あしたね……」
 そう言ってカタパルトへと手を振って――久遠はルーツと二人でホップ達のもとへと降りていった。
 

「そういえば……」
 途中までは帰り道も同じだ――海鳴の町を歩きながら、アリサはふと思い出してフェイトとアリシアに声をかけた。
「フェイトとアリシアって、なのはのところに正式に養子に行くんだって?」
「うん。
 リンディ提督やレティ提督も話を持ってきてくれたんだけど……」
「桃子さんがもう大張り切りで話進めちゃって。大論戦の末の決着、って感じかな。
 元々フェイトはなのはんちでお世話になってたし……そう考えるとリンディ提督達は最初から不利だったワケだけど」
 同じ子を持つ親ではあっても、『大家族の母親』という意味では桃子に分があった。リンディやレティを相手に繰り広げた熾烈な親権争奪戦の模様を思い出し、フェイトとアリシアは思わず苦笑する。
「ってことは、リニスさんもなのはのところに?」
「えぇ。お誘いを受けてます」
 アリサの問いに答え、リニスは優しげにうなずく。
「まだまだ、アリシアは目が話せませんからね」
「うー、いつまでも子供扱いしてぇ!」
「わたしのお姉ちゃんなのにね」
「実際子供です、アリシアは――それにフェイトも」
 口を尖らせるアリシアと笑顔で告げるフェイト、二人の言葉にリニスはキッパリと答える。
「二人とも、子ども扱いを卒業させて欲しかったら、ちゃんとひとりで髪を洗えるようになってくださいね」
『はぅっ!?』
 リニスの言葉は十分な説得力でフェイトとアリシアを容易に打ち倒し――そんな3人のやり取りに、なのはとアリサは顔を見合わせ、思わず笑みをもらすのだった。
 

「じゃあ、先に上がりますね」
『お疲れさまです!』
 店のスタッフに見送られ、その日の仕事を終えた桃子は翠屋を後にした。
 彼女よりもさらに早番だった士郎は先に帰宅している。迎えに来てもらってもいいのだが――
「桃子さーん♪」
 駆けて来たのは無人のまま走行するスクーター。かつてなのは達と一緒にアトランティスの紋様探しに参加したアーシーである。
 なぜここに彼が現れるのかというと――
「ありがと、時間通りね。
 じゃあ、今日もお願いね」
「はい!」
 近頃は彼が桃子を送ってくれているのである。以前なのは達に助けられた恩返しなのだそうだ。

「そういえば、いよいよ来月なんですね。
 総司令官達の出発」
「そうね……」
 夜風が気持ちよく拭き抜ける中、住宅街を走りながら桃子はアーシーに答える。
「一緒に行きたかった?」
「いえいえ、ボクなんて……
 ボクはこうして、地球でのんびり暮らしている方が性に合ってます」
「でしょうね」
 アーシーの言葉に桃子が笑いながら答え、二人は赤信号で停止して――桃子が唐突に尋ねた。
「それで……あなたはどうするの?」
「…………やっぱり……行きます」
 答えたのは、今まさに二人を止めている信号機――彼もまた、セイバートロン星から移住し、地球の生活に溶け込んでいた移民トランスフォーマーのひとりだったのだ。
「そう……
 ここで子供達の登校を見守っていてもらって、正直助かってたんだけど……」
「すみません……」
「いいのよ。
 あなたにはあなたの人生があるんだもの。旅立ちたいって言うなら、こんなところで縛られていちゃむしろいけないわ」
 彼とて今の生活への未練は残っている――申し訳なさそうに謝る信号機トランスフォーマーに、桃子はさとすように優しげな笑顔と共に告げる。
 そして――信号機トランスフォーマーが動いた。
「シグナルランサー、トランスフォーム!」
 咆哮と共に信号機本体がサイズシフトで巨大化。ロボットモードにトランスフォームし、信号の支柱を槍として手にする。
 トランスフォームを完了し、シグナルランサーは桃子とアーシーの前に着地し、
「それでは……行ってきます」
「身体に、気をつけてね」
「しっかりね!」
 二人から声援を受けると、シグナルランサーは二人に向けて一礼し、夜の闇の中へと消えていった。

 

 道を決めた者、道を探す者――

 それぞれがそれぞれの未来を目指す中、ついに新スペースブリッジ建設隊、出発の当日がやってきた。
 

 セイバートロン星の宇宙港に停泊するのは新たに建造された5隻のスターシップだ。
 アトランティス、ムー、レムリア、ミッドガルド、パンゲア――かつてのスターシップの名を継承したその5隻には、すでに建設隊の乗艦が始まっていた。
「えっと……オレはこの艦だっけか……?」
「オレ、グリムロック。乗る艦、どこだ……」
「おいおい、そこの恐竜軍団。オレ達はこっちだっての。
 ったく、出発早々世話が焼ける……」
 自分の乗る予定の艦を探すダイノシャウトやグリムロックらダイノボットの面々にテラシェーバーが告げ、彼らを案内して自分達の船へと向かう。
 なんだかもう――これから先の彼らの人間関係が容易に想像できる光景だった。
 

「メトロタイタン。ギガロニアを頼んだぞ」
「あぁ、任せとけ」
 メガロコンボイの言葉に、もうひとりのリーダーとしてギガロニアに残ることにしたメトロタイタンは胸を張って答える。
「フレイムコンボイのヤツがアニマトロスの発展に張り切ってるからな――こっちもギガロニアを負けないくらいすげぇ星にしないと。
 それに――」
 言って、メトロタイタンは背後へと振り向き、
「手伝ってくれるって言ってる、心強い仲間もいるしな」
「おぅともよ!」
「ギガロニアのことは任せてくれ。メガロコンボイ」
 告げるメトロタイタンの言葉に、『手伝ってくれる仲間』ことデモリッシャーとガードシェルは口々にメガロコンボイに告げる。
 そんな彼らに対し、メガロコンボイは満足げにうなずくとブレンダル以下建設隊参加組へと向き直り、
「いいか、お前ら。
 どこに行っても、安全第一だぞ!」
『安全第一! 安全第一! 安全第一!』
 告げるリーダーの言葉に、一同が安全第一を三唱。それぞれの船へと散っていった。
 

「ワガママリーダーを、よろしくな」
「フンッ、うるさいヤツがいなくなって、せいせいするぜ」
 アニマトロス組も見送りの真っ最中――ブレイズリンクスのとなりで告げるライガージャックの言葉に、フレイムコンボイは意地を張ってそっぽを向いてしまう。
 そんな自分達のリーダーの姿に苦笑し、ファングウルフはライガージャックの肩を叩き、
「心配するな。
 アニマトロスを、必ず立派な星にしてみせる」
「あたしらだって手を貸すんだ。大丈夫だよ」
「ライガージャックもブレイズリンクスも、帰ってきた時に驚かないでよ♪」
「頼んだぜ」
「それでこそ、我輩達も安心して旅立てるというものだ」
 ファングウルフや彼に同意するアルフと知佳、3人の答えにライガージャックとブレイズリンクスがうなずくと――
「ちょっと通るぜ」
 そんな彼らの前に圧倒的な巨体を持ち込んできたのはモールダイブだ。
「こっちがオレの乗る船か……
 よろしくな」
「お、おぅ、よろしく……」
 そのスケールの差に思わず気圧されながらライガージャックがうなずくと、
「それにしても……」
 ふと思い立ち、知佳がモールダイブとファングウルフを見比べながら口を開いた。
「モールダイブとファングウルフって……どうも声がそっくりな気が……」
『危険な発言禁止ぃっ!』
 全員で知佳を押しとどめた。
 

「このパーツがあれば、もっと速く走れるはずだよ。使ってみて」
「ありがとう、すずか」
 そうすずかに礼を言い、ニトロコンボイは彼女からパーツの入った小箱を受け取り――
「…………忍や琥珀は関わってないよな?」
「う、うん……だから安心して使って……」
 確認すべきところは忘れない。小声で尋ねるニトロコンボイに、すずかは苦笑まじりにうなずく。彼の気持ちもよくわかってしまうだけに複雑な心境だ。
 その一方で――
「ホントに行くの?」
「ムリなんじゃないのか?」
「ムリなものか!
 ワシはまだ走れるぞいっ!」
 心配そうに尋ねるスキッズと真雪の問いに、オートランダーはムキになってそう答える。
「荷物……持ちましょうか?」
 そこへ通りかかり、気になって声をかけるブレンダルだが――
「気遣いは無用じゃ!
 まだまだ若いもんには負けん!」
 その敬老精神がかえってオートランダーに火をつけた。力いっぱい言い返し、ブレンダル達を振り切ってスターシップに乗り込んでいき――その姿を見送り、真雪とスキッズは顔を見合わせ、思わず肩をすくめ合うのだった。
 

「父上、気をつけてね」
「はっはっはっ、心配するな。
 現役を退いた今でも、お前に心配されるほど落ちぶれてはいないさ」
 エルダーコンボイがリーダーを務めるのはかつての自分達のスターシップの名を受け継いだミッドガルド――搭乗口のすぐそばでジャックプライムに見送られ、エルダーコンボイは笑いながらそう答える。
「ジャックプライムのことなら任せてください」
「わたし達でしっかり守ってあげるから!」
「あー! フェイトもアリシアもひっどーい!
 むしろボクが守ってあげる立場なのに!」
《えっと……どっちもどっちなのではないかと……》
 そんなエルダーコンボイに告げるのはフェイトとアリシア――抗議の声を上げるジャックプライムをジンジャーがなだめるのを、エルダーコンボイは微笑ましく見守っていたが、そんな彼に今度はメガザラックが告げた。
「まぁ……ジャックプライムではないが、本当に気をつけろよ。
 ガイルダート達が同行する――存分に使ってやってくれ」
「すまないな、メガザラック。
 それより――」
 告げるメガザラックに答え――エルダーコンボイはメガザラックに小声で告げた。
「ジャックプライムのことを頼んだぞ。本当に」
「わかっている。
 確かに未熟だが、ちゃんと守ってやるさ――本当に心配性だな、お前は」
「む……確かにヤツの未熟も心配ではあるが……」
 メガザラックの言葉につぶやき――エルダーコンボイは告げた。
「貴様も知っているだろ。ヤツやフェイト嬢のなのは嬢に対する熱愛ぶりを。
 彼女に何かあれば――どう暴走するかわかったものじゃない」
「………………」
 否定できない――我が子とそのパートナーのぶっ飛び具合を思い返し、メガザラックはただ気まずそうに視線をそらすしかなかった。
 

「後はよろしくな」
「任せとけって」
 こちらは地球トランスフォーマーの面々だ。告げるライブコンボイの言葉に、オートボルトが笑顔で答える。
「みんな――身体に気をつけて」
「真一郎も、パティシエの修行、がんばれよ」
「真くんなら大丈夫だよ。
 晶ちゃんや私も一緒なんだから♪」
 真一郎に答えるブレインストームに小鳥が告げると、ライブコンボイは周囲を見回し、
「スカイクェイクとアルテミスは……やっぱり来ていないのか」
「ヤツはヤツで独自に宇宙に出るつもりみたいだったからなぁ……準備があるんじゃねぇか?」
 もういがみ合うような関係でもなくなったことだし、見送りくらい来てもいいと思うんだが――そんなことを考えながら、オートボルトはライブコンボイに答え――
「ワシは、この船でいいのかの?」
「これはこれは、サイドス先生。
 えぇ、そうですよ」
 やってきたサイドスの姿に、ライブコンボイは諸手を挙げて歓迎の意を示す。
「あなたとは、ぜひ一度ゆっくり話がしてみたくて……」
「ほっほっほっ、いいとも。何でも聞きたまえ」
 ライブコンボイの言葉にサイドスが答え――ブレインストームとレンはそんな二人を見て思わずつぶやいた。
『…………インテリコンビ誕生……』
 

「バンガードチームも、しばらく解散だな」
「スピーディアでも、しっかりな」
「あんまりムチャするなよ」
 バンガードチームもそれぞれがそれぞれの道を行く――告げるエクシゲイザーに、ファストガンナーとバックギルドが答える。
「そう言うそっちこそ、しっかりやれよ」
「心配無用。大丈夫さ。
 那美と二人で、地球でもがんばるよ」
「ロングマグナスが言うとすごく説得力に欠けるのはなんでだろう……」
 エクシゲイザーに答えるロングマグナスの言葉に、ハイブラストが苦笑する――“那美と二人で”という部分に特に不安を感じるのは決して気のせいではあるまい。
 ともあれ、これが彼らの晴れの門出であるのは確かだ。エクシゲイザーの差し出した手に、一同は次々に手を重ね、
「離れ離れになっても――バンガードチームは不滅だ!」
『おぅ!』
 エクシゲイザーの言葉に残る4人がうなずき――
「エクシゲイザー!」
「バックギルド!」
 すずかとアリサの声が上がった。シオンや那美、ノエル――それぞれのパートナーが彼らの元へと駆けてくる。
「みんな、絶対に帰ってきなさいよ!
 ……ううん、帰ってこなくてもいいから無事でいなさい! いつか必ず追いかけるから!」
「ハハハ……期待させてもらうよ」
 力強く宣言するアリサの言葉にバックギルドが苦笑すると、
「ふぅ、なんとか間に合ったか……」
「あぁ、リスティさん――」
 そこに新たな声が乱入してきた。仕事の関係で到着の遅れていたリスティの声に那美が振り向き――その後ろに控えていた意外な人物の姿に驚きの声を上げた。
「って、ガスケットさん!?」
「あー、そーいや今は地球でこき使われてるんだったね。アームバレットともども」
「へっ、悪いかよ!?」
「いや、悪くはないけど……」
 那美とロングマグナスに言い返すガスケットの言葉に、ハイブラストはそううめいてノエルと顔を見合わせる。
 ガスケットへと視線を戻し――全員が声をそろえて告げた。
『色がモノスゴイことになってるなー、と』
「それこそほっとけ!」

 ガスケットの全身は、白と黒を基本にした警視庁カラーに塗り替えられていた。
 

 そして――ついに出発の時がやってきた。
 一同の乗艦を確認し、最後に乗り込むのはギャラクシーコンボイだ。
「後は頼んだぞ、ドレッドバスター議長」
「議長は私ですが――総司令官はあなただけです」
 ギャラクシーコンボイのその言葉に、ドレッドバスターは謙遜まじりにそう答えた。
 そのとなりで、スターコンボイもうなずき、
「ドレッドバスターの言うとおりだ。
 貴様以外に、今のサイバトロンを率いるに相応しい者はいない」
「必ず、無事に戻ってきてください。
 ギャラクシーコンボイ総司令官」
「うむ」
 スターコンボイとドレッドバスターの言葉にギャラクシーコンボイがうなずくと、
「ギャラクシーコンボイさん」
 そんなギャラクシーコンボイに声をかけてきたのはなのはだ。振り向くギャラクシーコンボイの前で、傍らに控えていた久遠を促す。
 そして、久遠はギャラクシーコンボイの前に進み出て、
「ぎゃらくしーこんぼい、これ……」
 言って差し出したのは、ベクタープライムから託された、プラネットフォースのありかを示していたマップである。
「もし……うちゅうのどこかでまたであえたら……よろしく、って……」
「……あぁ。
 ありがとう、久遠」
 告げる久遠の言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイは人さし指で彼女の頭をなでてやる。
「みんな、無事に戻ってこないと許さへんからね!」
《身体に気をつけるですよ、ギャラクシーコンボイ》
「うむ」
 はやてとリインフォースの言葉にギャラクシーコンボイがうなずくと、最後になのはが彼の前に進み出て、
「ギャラクシーコンボイさん……元気でね。
 一緒に戦えて……本当に……
 ………………本当に、誇りに思います……!」
「……ありがとう、なのは……」
 いつの間にか目頭が熱くなってきた――感極まり、涙を抑えられないなのはに、ギャラクシーコンボイは笑顔でうなずいてみせる。
 と――
「………………ん?」
 ふと気づき、ビッグコンボイが顔を上げた。
「どないしたん? ビッグコンボイ」
 はやてが尋ねるが、ビッグコンボイは答えることなくしばし周囲をサーチし――
「…………ワープ反応だ」
 その言葉と同時――上空にワープゲートが出現する!
「な、何だ、アレ!?」
 思わずジャックプライムが声を上げると――
 

「がぁーっはっはっはっ!」
 

 聞き覚えのある声が、高らかな笑いとなってワープゲートの中から聞こえてきた。
 そして――
「新スペースブリッジ計画だと――? 笑わせてくれる!」
 そう告げて姿を現したのはギガストーム――ワープゲートの向こうから出てきた、戦艦モードのダイナザウラーの上で高笑いを上げる。
 その傍らにはオーバーロード――見れば、散り散りになったはずのスタントロンやバンディットロンも全員集合している。
「何のつもりだ、ギガストーム!」
「何のつもり、だと……?
 そんなの決まっている!」
 声を上げるギャラクシーコンボイに答え、ギガストームは自信たっぷりにそう答え――
「貴様らサイバトロンばかりにデカい顔をされてたまるか!
 よって、我々3星デストロン連合は、貴様らに対抗し――」

「“真スペースブリッジ計画”の発足を宣言する!」

『………………は?』

「新たなスペースブリッジを建設するのはオレ達だ!
 今度こそ、世紀の偉業を成し遂げた者として全宇宙にその名を轟かせてくれる!」
 まるっきり子供の意地の張り合いだ――思わず間の抜けた声を上げる一同に対し、ギガストームは呆れられているとも気づかず胸を張る。
「オーバーロード……」
「言うな……こうなったら、もうギガストームは止まらんさ……」
 うめくニトロコンボイの言葉に、オーバーロードはあきらめの表情と共にそう答え――
「………………ちょっと待て!」
 あることに気づき、ビッグコンボイが声を上げた。
“3星”デストロン連合だと!?
 アニマトロス、スピーディア――あとひとつの星は!?」
 ビッグコンボイが尋ねると、その問いに対してギガストームとオーバーロードは左右に別れ――
「放せぇっ! 放さんかぁっ!」
《スカイクェイク! 今助けますから!》
 そんな二人の後ろにいたのは、縛り上げられたスカイクェイクだ。アルテミスが必死に縄を解こうとがんばっているが、よほどしっかり縛ってあるのかビクともしない。
「おい、ギガストーム! なんでオレまで貴様らに付き合わねばならん!?」
「はっ、何を言う。
 『宇宙に出たいからダイナザウラーを貸せ』と言い出したのは貴様だろうが。
 オレ達の旅のついでに連れてってやろうってんだ。むしろ感謝してもらいたいもんだな」
「感謝など出来るか! この状況で!」
「スカイクェイク……相談すべき相手を思い切り間違ったな……」
「同じ大帝ってことで頼ったんだろうけど……明らかに人選ミスだよな」
 さも当然のように答えるギガストームと反論するスカイクェイク――二人のやりとりでだいたいの経緯を察し、耕介と真雪は思わず彼に同情の眼差しを向ける。
 と――
「その話、乗らせてもらうわよ!」
 ここに来て新たにデストロン側に参戦表明――高らかに宣言し、エネルゴンウェーブで作り出した波に乗って飛来したクロミアがダイナザウラーの上に降り立つ。
「クロミア! 貴様まで!?」
「宇宙は広いのよ! きっとマスターメガトロンよりも強くてカッコイイ男がいるはずよ! そいつを見つけるの!」
 驚き、声を上げるスカイクェイクに、クロミアは自信たっぷりにそんなことを言い出してくれる。
「とにかく! サイバトロンとデストロン――今度はスペースブリッジの建設で勝負ということだ!
 そーゆーワケで、先に行かせてもらう! 追いつけるものなら追いついてみろ!」
「未来のダンナ様、待っててね〜〜っ!」
 ギガストームとクロミアの言葉に、ダイナザウラーはその場を反転。ギャラクシーコンボイ達に先駆けて宇宙へと旅立っていく。
「…………いいのかなぁ? 最後の最後がこんなグダグダで……」
「いいのではござらんか?
 『いつもどおり』という意味では、実に拙者達らしいではござらんか」
 感動的な旅立ちの場面を粉みじんに粉砕してくれたギガストーム達に対し、思わず頭を抱える美由希だったが、となりのメビウスショットは肩をすくめてそう答える。
 そして――
「ギャラクシーコンボイさん!」
「あぁ。
 彼らに遅れを取るワケはいかない」
 なのはの言葉にうなずくと、ギャラクシーコンボイは高らかに宣言した。
「全艦――発進!」
 その言葉を合図に、全スターシップのエンジンが起動した。勢いよく推進ガスを噴出し、巨大な船体が上空に浮上していく。
 そして、ギャラクシーコンボイもまた自らの乗る艦の甲板に飛び移り、
「――なのは!」
 振り向き、地上で見送るなのはに向けて告げた。
「私も、キミのような素晴らしいパートナーを持てたことを、心から誇りに思う!
 必ず戻る。だから――」

「なのはも、元気で!」

「………………はい!」
 ギャラクシーコンボイの言葉に、なのはは満面の笑顔でうなずく――みんなが見守る中、5隻のスターシップはみるみるうちに上昇し、上空に広がる雲海の向こうに消えていった。
「………………行っちゃったね」
「うん…………」
 となりで告げるフェイトにうなずき、なのははもう一度真っ青な空を見上げた。
「…………ギガストームさん達にも、だけど……
 ギャラクシーコンボイさん達にも、負けてられないよね」
「…………せやな」
「わたし達も、がんばろー!」
 なのはの言葉にはやてとアリシアもうなずき――4人は顔を見合わせ、それぞれのデバイスを取り出す――

 

 

 

「レイジングハート、プリムラ」
〈All right.〉
《準備万端、おーるぐりーんっ!》

 

勇気――

 

「バルディッシュ、ジンジャー」
〈Get Set.〉
《起動準備、完了です》

 

友情――

 

「リインフォース」
《はいです、マイスターはやて!》

 

そして未来への希望がある限り――

 

「ロンギヌス!」
〈やぼーる!〉

 

冒険は続いていく――

 

 

 

「Stand――」

「by――」

「ready!」

「セーット!」

 

『アァップ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■SPECIAL THANKS
(50音順/敬称略)

インド象の太郎

A・ひろゆき

ガーゴイル

加賀 誠

神無

九尾

ゲロロ軍曹

ダークレザード

ダージ

タカちゃん

takku

バオウの使徒

はやて

火消しの風−ウインド−

ブラス・アンダーソン

夢想

山田恵資

ユッキー

AND ALL READERS...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

See you, Next Episode....

2008 Coming soon.


 

(初版:2007/09/22)
(第2版:2007/09/22)
(誤植修正)