「観光に出向いた先で瘴魔が出るなんて、災難だったわね」
「まぁ、幸いわたくし達は直接現場には出くわしませんでしたし、、柾木くんが迅速にやっつけてくれましたから……」
その晩、外での食事を済ませて帰宅したみほ達は風呂も済ませてまったりと休憩中――夕方の出来事について話題を振ってくる霞澄に華が答える。
「そんな簡単に片づくような弱い相手だったなら、見物に行ってもよかったかもねー」
「いいワケあるか。
オレが到着する前に使い切ってくれたからよかったものの、あんにゃろ、無差別広域攻撃持ってやがったんだぞ。
戦闘能力はザコでも殺戮能力は超一級――そんな危ない相手のいるところについて来られてたまるかよ」
一方で気楽なことを言い出してくれる杏をたしなめるのはジュンイチだ。ため息まじりに牛乳を飲み干し、
「んじゃ、明日に備えてもう休むわ」
「うん、おやすみ、柾木くん」
返すみほに手を振って応えると、ジュンイチはリビングを後にして自室へと引き上げる。
部屋に入るとドアを閉めて――
「…………っ、ぐ……っ!」
ドアに背を預け、崩れ落ちた。
「ハァッ、ハァ……ッ!」
苦しそうに、必死に呼吸する――その理由は、ジュンイチの“システム”が伝えてくる警告にあった。
――肺内部に異物確認
――異物確認。菌類と断定
――呼吸器系からの酸素供給量、必要量の50%以下
――異物除去開始……完了
――肺内部に異物確認
この繰り返しである。
おかげで頭の中はアラートが鳴り止まないわ目の前は視覚に投影される警告メッセージで真っ赤だわとジャマでしょうがない。
だが――
(『菌類』ね……)
異変の正体には察しがついていた。
(呼吸を通じて肺に達した胞子がキノコを大繁殖させやがるのか……
オレの身体の異物除去機能がどれだけ排除しようが、わずかでも菌が残っていたら元通り……そうやって相手の呼吸器をつぶして窒息させるってワケかよ……)
菌類――すなわちキノコ。
(キノコの分際で相手の栄養吸い取るとかナマイキなことしてくれると思ったが……こんな隠し玉まで持ってやがったとはな……)
つまり――
「やってくれるじゃねぇか、あのキノコ野郎……っ!」
あのキノコの瘴魔獣が、まだ生きている――その何よりの証左であった。
第30話
「OK, My Boss!」
「ここだ」
明けて翌日――自身の不調は迷わず極秘に。何食わぬ顔で朝食を済ませると、ジュンイチはみほ達をつれて一年近くぶりとなる学校へと向かった。
「ここが柾木くん達の通ってた学校?」
「なんかフツー。
学園艦じゃない、地上の学校だって言うから、どんなところか楽しみにしてたのに」
「そりゃ、ここだけ見ればそうだろうよ」
建物自体はそれほど古くないが、デザインや校舎のレイアウトは大洗と変わらない、言うなれば「ありがち」なものだ。みほのとなりで拍子抜けしている沙織にジュンイチが答える――「『ここだけ』……?」と優花里が首をかしげるが、かまわず校門をくぐる。
日曜だというのに、学校にはまるで平日のように多数の生徒が登校してきているのだが、その服装は制服だったり私服だったりと様々だ。
「私服の人が多いですね」
「日曜だからじゃない?」
「平日でもこんなもんだよ。
指定の制服はあるけど、着用義務があるのは中等部だけなんだ」
「それで、大洗でも常日頃から公私を問わずその恰好だったんだな」
“向こう”の世界から相変わらずの道着姿のジュンイチが梓や杏に答えるのを見て、麻子がため息まじりに納得するが、
「それに、平日だろうか休日だろうが、来るのは現役学生や教師だけじゃないからな。
中等部以上は人の流れが激しいからな――大学部や中等部のヤツらも頻繁に出入りしてるし、こっちからも向こうにけっこう行き来してる。割とどこの校舎も日常的にごった煮状態だぜ」
「中等部? 大学部?」
「『“どこの”校舎も』……?」
ジュンイチの話には続きがあった。みほと梓が首をかしげるのを受け、ジュンイチは校舎を指さし、
「ここにあるのは、高等部の施設“だけ”だぞ」
「『だけ』!?」
驚く沙織に、ジュンイチはうなずいた。
「龍雷学園は、幼等部から大学院まで一貫のマンモス校なんだよ。
けど、今日び東京でそこまでの規模の学校を一ヶ所にまとめて作れるような土地を確保するのはぶっちゃけ不可能だ――だから、幼等部だけ、初等部だけ、中等部だけ……って具合に就学段階ごとに校舎を分散して、この府中を中心に周りの自治体やその範囲内の他の学校まで巻き込んだ一大学園都市を形成してるのさ」
「それって……この街全部が龍雷学園の中ってことですか!?」
ジュンイチの説明に優花里が驚いて――
「そう!
その通りなのだよお嬢sぶぎゃっ!?」
「あ」
背後に現れ、優花里に答えた声は途中で途切れた――いきなり背後に現れたことに反応した優花里が、反射的にその顔面に裏拳を叩き込んだからだ。
「気をつけろよー。
コイツら、オレの弟子だからな。うかつに背後に立つとそうなるぞ」
「人のことゴルゴみたいに言わないでくださいよ……まぁ、実際ノしちゃった私が言うのもアレですけど……って」
「柾木くん、知り合い?」
「“こっち”でのクラスメートだったんだよ――進級時のクラス替えでどうなってるかは知らんけど」
ツッコみ、途中で気づいて首をかしげる優花里や彼女のとなりから尋ねるみほに、ジュンイチは肩をすくめてそう答える。
「コイツは相川信也。
まぁ見ての通りいろいろとアレなヤツだから、基本無視する方向で」
「おいおい、ひどい言われようじゃないか、ジュンイチ」
ジュンイチの言葉に、復活した相川はため息まじりに肩をすくめてみせる。
背丈はジュンイチより少し(みほの目算で拳ひとつ分くらい)高い――いわゆる「イケメン」に分類してもよさそうなくらいには整った顔立ちをしているが、今は優花里の裏拳で吹いた鼻血がそのままなのでいろいろと残念なことになっている。
「それじゃまるでオレが変質者じゃないか。
こんなにも、常日頃から紳士たれと努めているというのにっ!」
「お前の場合紳士は紳士でも『変態という名の紳士』だろうが」
「まぁそれはそれとして……ジュンイチ」
ツッコむジュンイチに答えて――相川の目つきが変わった。ジュンイチの肩をガシッ、とつかまえ、
「何だこの子達はっ!?」
「ようやくそこか……
コイツらは、今滞在してr
「またか!? また女の子たらし込んだのか!?
しかもこんな美少女ばかりよりどりみどりっ!」
「お前こそ人聞きの悪いことぬかしてんじゃねぇっ!
誰がたらし込んだ!? あと『また』って何だ!?」
こちらの答えも聞かずに声を上げた相川にジュンイチがツッコむ――その光景に「あぁ、柾木くんってどこでもそーゆー認識なんだ」とみほ達に納得されていたりするのだが、そんな彼女達の心の声は幸いにもジュンイチに気づかれることはなかった。
「こいつらは今関わってる案件の関係者だよっ!
今日の試合に興味を持って、見に来たんだよ!」
「なんだ、そういうことか」
「わかってくれたか」
ジュンイチの説明に引き下がった相川に、ジュンイチは安堵のため息をつk
「つまり手を出すのはこれから、と」
「ちっともわかってないだろお前っ!」
真顔で言い放った相川を殴り倒した。
「あー、もうっ。付き合ってられるか。
いくぞ、みんな」
「え? でも……」
「そいつなら大丈夫だよ」
倒れた相川を前に戸惑うみほにそう答える。
「殴った瞬間、首をひねってダメージを逃がしやがった。
しばらく転がしとけば復活するよ」
「えぇっ!?」
「柾木殿のパンチを相手にですか!?」
「さすがは龍雷の生徒……と言うべきなのか……?」
まさか、ジュンイチの拳を相手にダメージを逃がす余裕があったというのか――驚く梓のとなりで、麻子も思わず驚きの声をもらす。
「でも、このままここに転がしておくのは……」
「あー、それもそうか」
それでも相川のことを気にかける華に、ジュンイチも納得したようにつぶやいて――否、つぶやいただけだ。ジェスチャーでみほ達に離れるように合図する。
そしてハンドサインでメッセージ。曰く――『話を合わせろ』。
「仕方ないなー、
じゃあ五十鈴さんが保健室に連れてって介抱してあげなよ」
「わ、私がですか……?」
「言い出しっぺなんだからとーぜんでしょ?」
「……わかりました。
では、この私が責任を持って、保健室で介抱してあげますね」
「マジでか!?」
ジュンイチと華のやり取りに、興奮した相川がガバッ!と起き上がり――
「さーて、起きた起きた。
そんじゃ行くぞー」
『はーい』
彼の気絶がみほ達の同情を引くための狸寝入りであることなどとうにお見通し――あっさり相川にボロを出させると、ジュンイチはみほ達を連れて早々に引き上げていった。
◇
武道推奨校である龍雷学園では、校風のフリーダムさも相まって、種目・流派を越えた異種格闘技試合、他流試合は昔から盛んに行われてきた。
それに対し、安全性の確保などを目的に有志による管理・運営の動きが生まれ、リーグ戦化されたのが“Dリーグ”である。
今回の試合は、その“Dリーグ”のために校庭に常設されたリングで、武道系科目の教師を相手に行われる。みほ達をリング周辺の観客席へと案内すると、ジュンイチは控え室で装備をチェックしていた。
と――
「ジュンイチ」
かけられた声に振り向く――すでに気配を捉えていた兄に対し、尋ねる。
「何の用だよ、鷲悟兄?」
「試合、大丈夫か?」
「だーいじょうぶだって。
センセーっつっても、リーグ上のランク帯はCの相手だし。昇格条件に阻まれてなければ今すぐにでもAランクに殴り込めるオレの敵じゃねぇよ」
尋ねる鷲悟に、ジュンイチは笑いながら答えるが、
「今の状態でも……か?」
「――――――っ」
続く言葉に、ジュンイチの動きが止まった。
「……気づいてたのか」
「オレとお前の“システム”はリンクしてるんだぜ。
お前に何か異常があれば、こっちにもアラートは伝わってくるんだよ」
黙っていたのが気まずいのか、視線をそらすジュンイチに鷲悟が答える。
「で? どういうことなんだよ?」
「昨日の瘴魔獣だよ」
鷲悟に答え、ジュンイチは簡単に状況を説明した。
「瘴魔獣の胞子が体内で増殖、か……」
「間違いなく、ヤツの能力だ。
つまり、ヤツの放った胞子に、ヤツの瘴魔力が供給され続けてるってことだ」
「それで、瘴魔獣がまだ生きてるって結論になったワケか……」
ジュンイチの話に納得すると、鷲悟は軽くため息をつき、
「……で、みほちゃん達には伝えないワケだ」
「伝えたところで、異能のない西住さん達にはどうすることもできないだろ」
ジュンイチの答えに迷いはなかった。
「それでも、西住さん達は優しいからな……事情を知れば、きっと何か力になろうと動いてくれる。
けど、そんなことをされたら、西住さん達を危険にさらすことになるだろうが」
「異能の力のないあの子達にできることといったら、瘴魔獣を探し回ることぐらい……でも、それは瘴魔獣との接触のリスクを増やすことになる……だろ?」
「わかってんなら言うなよ」
鷲悟に返すと、ジュンイチは紅夜叉丸を手に取り、
「そんなことはさせねぇよ。
試合に勝つ。瘴魔獣も倒す。西住さん達も守る――試合をさっさと片づけて、瘴魔獣をさっさと狩るとするさ」
そう宣言するジュンイチに、鷲悟は軽くため息をつき、
「阿呆」
ジュンイチの額を軽く小突いた。
「全部自分ひとりで解決しようとすんじゃねぇ。
他にも対処できる人間はいるんだ――オレだって協力するに決まってるだろ」
「え? ダメだろ。
いくら双子だからって替え玉で試験受けたりしたら」
「なんで試験しか選択肢ないんだよ」
真顔で返してくるジュンイチに、鷲悟はすかさずツッコんだ。
「じゃなくて、瘴魔獣の方を何とかしてやるって言ってるんだ。
お前は試合。オレは瘴魔獣――分担するなら、お互いそれぞれに集中できるし、オレの方が早く済めば、お前もその胸の中のキノコから解放されて晴れてフルパフォーマンスで闘えるだろ」
「そううまくいくとは思えねぇな。
『オレの方が早く』? バカ言え。オレの方が早く済むに決まってんだろ」
「そこで負けん気を出すなよ。話進まなくなるから……」
ムキになって反論してくるジュンイチに、鷲悟はため息まじりにツッコんだ。
「とにかく、瘴魔獣のことはオレに任せとけ。
お前はこっちで試合に集中。いいな?」
「…………わかったよ」
どの道、試合をすっぽかせない自分はここから動けない。その間鷲悟がどう動こうが、それに対して取れる手段などありはしない。
結局、自分がここでいくら反対しようが、鷲悟のプラン通りに事が進むのは確定のようだ――理解はできるが納得はいかない、渋々といった様子で、ジュンイチがうなずいた。
◇
〈皆さんは覚えているでしょうか!?
昨年、“Dリーグ”に彗星の如く現れ、話題をさらったひとりの新星のことを!〉
先にも触れた通り、龍雷学園は非常に校風がフリーダムである。
そしてその校風は、学業だろうが試験だろうが容赦なく適応される――そこに話題となる、盛り上げ得る要素があるのなら、何のためらいもなくお祭り騒ぎにしてしまう。それが龍雷学園である。
そんな学校であるから、当然進級試験試合もネタにされる。出席日数が足りなくなるほど修行に明け暮れた受験者がどれほど力を伸ばしたか、武道推奨校に通う以上大なり小なり武に関わることになる龍雷の生徒の興味を惹かないワケがない。
増してやその受験者が、高等部に進学して本リーグへの参加資格を得るなり破竹の勢いで大暴れ、同学年最強の名を欲しいままにしたと思ったら夏休みを境にプッツリと消息を絶ち、一年近く経ってひょっこり戻ってきた――なんて話題性マシマシな存在であればなおさらである。
と、いうワケで――リングの周りは黒山の人だかり。報道部&実行委員会による実況も入り、まるで大会の決勝戦でも始まるかのような盛り上がりである。
〈一時はCランク最速昇格も期待されましたが、夏休みを境に突然の休学!
消息もつかめないまま約一年! ついに彼が! 柾木ジュンイチが帰ってきました!〉
『オォォォォォッ!』
こうまで人が集まるとは。早めにみほ達を観客席に案内しておいて正解だった――周囲の盛り上がりにみほ達が目を白黒させているのを尻目に、すでにリングに上がっているジュンイチは内心で苦笑した。
自分だけではない。相手もすでにリングに上がっている。その相手とは――
(総格部の柴木先生か……)
総合格闘技部の顧問の先生だ――対角のコーナーで身体をほぐしている、その動きをじっくりと観察する。
一応、事前に試合の映像を入手して闘い方は研究済み――曲がりなりにも試験なのだ。“試験勉強”は万全である。
かと言って気を抜けるはずもない。一瞬の油断が死を招くことは、実際に何度も死んで身に染みている。やる時は徹底的にやらなければ――
「フンッ、一年もみっちり修行とは、いいご身分だな、柾木」
「えぇ。
みっちり鍛えてきましたよー……戦車相手に」
挑発のつもりか、声をかけてきた柴木にそう返して――最後に小声で付け加える。
「そーゆー先生こそ、この一年の成果はどうだったんスか?」
「フンッ、オレだって遊んでたワケじゃないさ。
この一年でさらに強くなっt
「去年、『今年こそ彼女作る! 結婚を前提に!』って息巻いてたのはどうなりましたー?」
「殺ォース!」
柴木は血涙を流して激怒した。
◇
「――少なくとも、ノリはいつも通り、か……」
“リンク”をつないでいるので、ジュンイチの様子はある程度、言動くらいなら把握できる――ジュンイチが柴木をおちょくるのを感じ取り、鷲悟はため息まじりに肩をすくめた。
彼がいるのは、市街地のとあるビルの屋上。瘴魔獣の気配を追っているのだが、今のところ特に反応はない。
ジュンイチへの“攻撃”のために瘴魔力の供給が続いている以上、瘴魔獣が生きているのは確定なのだが……
「ジュンイチに攻撃してる“力”の流れを追えれば、楽なんだけどなぁ……」
残念ながら、自分の索敵スキルはそこまで優秀ではない。本体が活動を開始してくれたならまだしも、そこから送信されている“力”の流れを追うとなると、微弱すぎて自分のスキルでは追いきれない。
超攻撃特化型である自分の能力特性がこういう時は恨めしいが、今は地道に“力”の気配を探るしかない。
「あずさ、そっちはどうだ?」
〈ううん、ダメ。
レーダーの方に、瘴魔力反応は出てないよ〉
無線越しに尋ねるが、あずさからの答えも芳しくない。兄としてジュンイチの身を案じずにはいられないが、今は待ちだ。気持ちを落ち着け、慎重に“力”を探る。
瘴魔獣が動き出した時、いち早くその動きを捉えられるように――
◇
「……だいぶ力が戻ったか……」
一方、その鷲悟が探している瘴魔獣は、下水道の中に潜んでいた。
本質的には瘴魔獣とはいえ、ベースがキノコであるためか、湿気の強い下水道は居心地がよかったようだ。周囲は彼(?)からこぼれた胞子が増殖したキノコで埋め尽くされている。
「まったく、ひどい目にあったぜ……
とっさに身体を切り離していなきゃ、あのまま終わってたぜ……」
そう。ジュンイチによって倒されかけた時、身体の一部を分離、そこから一晩かけて身体を再生させたのだ。菌の集合体であるキノコがベースだったからこそできた生き残り策である。
「まだ完全回復とは言えないが、アイツも吸い込んだオレの胞子を増殖させてやってるからロクに身動きとれないだろ……つかなんでまだ生きてんだアイツ。普通もう死んでるだろ。
まぁいい。アイツが動けないならこっちのもんだ」
だが、無事生き残れたという結果を得た今、それもどうでもいいことだ。言って、瘴魔獣はゆっくりと立ち上がった。
「ここからは……」
「人ブッ殺しまくって、その恐怖で回復するとしようか」
◇
ジャブで間合いを離されたところに上段回し蹴り――だが、遅い。ジュンイチのガードは余裕で間に合うが、
「ぐ……っ!」
痛みが走り、踏ん張りがきかない。とっさの判断で、側転の要領で受け流しつつ距離を取る。
「逃がすかっ!」
「逃げるかよっ!」
が、相手も素直に距離を取らせてくれない。むしろ助走距離ができてちょうどいいとばかりにタックルを狙ってくる――迷わず脳天にゲンコツのごとく下段突き。止められないまでも前傾姿勢をさらに前に崩された相手の上を、突きの反動を活かし跳び箱の要領で跳び越える。
互いに改めて距離が開いて、闘いは仕切り直しとなる――
「……みほさん」
「うん……」
しかし、気づく人は気づいていた。声をかけてくる華に、みほはうなずいた。
「柾木くんの動き、少し悪いような……」
「だよね……」
沙織もだ。みほのつぶやきに同意して――「こんなのわかっちゃうなんて……」といつものように頭を抱える。
「戦車道の時みたいに、異能を使わないようにしてる……ってワケじゃないね、アレ」
「明らかに、動きの中、突発的に動きを阻害する何かが起きているな」
「そういえば、たまに動きが変にぎこちないような……」
杏と麻子の会話に納得して――そんな梓の脳裏に浮かぶのは当然の疑問。
「でも……いったいどうして……?」
「まさか、昨日の瘴魔獣との戦いでケガを……?」
梓の疑問に不安を覚えた優花里がつぶやくと、
「いやー、それはないでしょ。
ジュンイっちゃんの治癒能力なら、私達に見つからないように隠せる程度のケガならすぐ治っちゃうでしょ」
そう否定したのは杏だ。
しかし、その言葉とは裏腹に、その表情は硬い。
「会長……?」
「何か、他にも問題が……?」
「だから……問題は別にあると思うんだよね。
だって、そうやって多少のケガならすぐ治っちゃうジュンイっちゃんが、あぁして苦しそうにしてるんだよ?」
「そういえば……」
華や梓に答える杏の指摘に優花里が眉をひそめると、
「多少のことならすぐ治るんだとしても……」
そう口をひらいたのはみほだった。
「治る側から、また傷ついてるんだとしたら……?」
「みぽりん、どういうこと?」
「能力バトルもののフィクションとかだと、たまに能力を活かした遠隔攻撃とか出てくるから……ひょっとしたらそういう類のものかな、って」
「西住殿がマンガからの知識でたとえ話を……」
「え? いや、柾木くんちにいると自然とそういうのに触れる機会って多くなるし……」
「それ、ジュンイっちゃんに着実に染められてきてるって気づいてる?」
「はぅっ!?」
「いやいや、それよりもっ!」
沙織に答えたら優花里にツッコまれ杏からいじられる――話が脱線してきたみほに対し、沙織があわてて話を軌道修正。
「それって、柾木くんが今でも攻撃されてるってこと!?
いったいどこの誰が!?」
「順当に考えれば、昨日の瘴魔獣をちゃんと倒せていなかった……そんなところだろうな」
そう推理してみせるのは麻子だ。
「相手はキノコを媒介にした瘴魔獣だったと聞いた。
キノコといえば菌の集合体だ。切り離すことができるなら、トカゲの尻尾切りのように柾木の攻撃から生き延びることもできるだろうし……」
「胞子を空気中に飛ばせば、呼吸を通じて相手の体内に……まさか、それを利用して攻撃を!?」
頭脳明晰な麻子が推理を進めてくれたおかげで、ほぼ真相にたどり着くことができた。
しかし、その真相は不安要素でしかなかった。つぶやく梓が青ざめるのも無理はない。
「じゃあ、柾木くん、そんな状態で試合に出てるの!?」
「ひょっとして、試合が始まってから攻撃が始まった、とか……!?」
「いやー、ジュンイっちゃんのことだから、知っていてもかまわず試合してたと思うよ」
声を上げる沙織と優花里に対し、杏はため息まじりにそう答える。
「わたくしもそう思います。
柾木くんは、いつもわたくし達のことを気にかけてくれますから……」
「私達に心配をかけないように、ずっと隠していたとしてもおかしくない……よね」
「でも、大丈夫なの!?
この試合は柾木くんの進級がかかってるんだよね!?」
華やみほの仮説は十分にあり得る話だ――しかし、それでジュンイチ自身が危うくなっていたら意味がないだろう。沙織が上げた声は当然の主張だ。
しかし――
「んー、絶対、とは言えないけど……まぁ、なんとかなるんじゃないかな?」
杏は、まだ不安げながらもそう答えた。
「会長……?」
「少なくとも、瘴魔獣の方は心配いらないと思う。
問題は、そっちが解決するまでこっちが持ちこたえられるかどうか……でも逆に言えば、持ちこたえてしまえば、ジュンイっちゃんなら……」
みほに答える杏だが、それでもまだ肝心な部分の欠落した話に、一同は首をかしげるしかない。
「いや、だってあからさまでしょ。
龍牙さん霞澄ちゃんはともかく、兄も妹も応援に来てないなんて」
『あ…………』
そんな一同に、杏は要点を指摘する――ようやく気づいた一同に「もうすっかりジュンイっちゃんしか目に入らなくなってるよねー」と苦笑し、杏は結論を告げる。
「ま、よーするに……」
「もうとっくに、ジュンイっちゃんを助けられる人が、助けに動いてるってことだよ」
◇
その頃、街では事態が動いていた。
瘴魔獣が活動を開始したのだ――すでに一帯は、瘴魔獣がまき散らした胞子でキノコまみれ。さらにそれらのキノコも胞子を放出しているため、まるで砂塵が舞っているかのような有り様となっている。
すでに一度痛い目をみている警察もうかつに近づけない。阻止することもままならず、ただ市民を非難させるので精一杯だ。
結果、瘴魔獣は完全にやりたい放題だ。胞子をさらにまき散らし、自らのテリトリーを広げていく。
「そらそら、逃げろ逃げろ!
ビビれ! 怖がれ! その恐怖をオレによこせ!」
そして、逃げ惑う人々の恐怖は負の思念を糧とする瘴魔獣の力となる。みなぎる力を実感し、瘴魔獣が高笑いを上げて――
押さえつけられた。
突然、重圧が全身にのしかかってくる――高笑いで身体をそらしたところに完全に不意をつかれた形で、仰向けにひっくり返った瘴魔獣が後頭部を強打する。
しかも、重圧を受けたのは自分だけでなく、周辺に発生させたキノコもまた重圧を受け、次々に押しつぶされていく。
そして――
「はーい、動かないでねー」
そんな声と共に“黒い閃光”が奔る――狙いは瘴魔獣のすぐそばのビルの屋上。給水タンクを破壊し、一帯に水を降り注がせる。
「これでよし」
“仕込み”を終え、一連の異変の元凶が姿を現す――その姿に、瘴魔獣が思わず声を上げる。
「お、お前……昨日のブレイカー!?
なんでだ!? お前はオレの攻撃で……」
「んー……まぁ、そうだよね。
その反応は予想してた」
案の定、自分の姿を見てジュンイチと見間違えている瘴魔獣の言葉に、鷲悟は軽くため息をつく。
「ま、いいけどさ……
今からお前さんをボコることに、変わりはないんだからさ」
しかし、そんな反応はいつものこと。すぐに気を取り直してブレイカーブレスをかまえ、
「と、ゆーワケで……踏みつぶすけど、恨むなよ!」
◇
「ブレイク、アァップ!」
鷲悟が叫び、眼前にかまえた左手のブレイカーブレスが光を放つ。
その光は漆黒の“力”の渦となり、鷲悟の身体を包み込むと人間に近い体格の双頭竜の姿を形作る。
そんな中、鷲悟が腕の渦を振り払うと、その腕には鈍く輝く漆黒のプロテクターが装着されている。
同様に、両足の渦も振り払い、プロテクターを装着した足が現れる。
両腕を交差させ、勢いよく開く――身体を覆う渦を吹き飛ばし、ボディアーマーを装着した鷲悟の全身がこれであらわになった。
両肩に残る双頭竜の首を形作った“力”が吹き飛び、その中から現れたカラミティキャノンが背中側に格納される――両肩のグラヴィティキャノン、両腕のバスターシールドが形成、装着されると、最後に目の前に生み出されたグラヴィティランチャーを左右それぞれの手でキャッチする。
最後に額にヘッドギアが形成され、鷲悟が名乗りを上げる。
「敵への怒りを力に変えて、哀しき運命を踏みつぶす!
漆黒の暴竜、G・ジェノサイダー!」
◇
「昨日と、装備が違う……!?」
「そりゃ、別人のだから……なっ!」
うめく瘴魔獣に言い放ち、鷲悟が両手に握る二門の大型ライフル“グラヴィティランチャー”をかまえた。
迷うことなくトリガーを引く――放たれたのは鷲悟の精霊力のオーラと同じ漆黒のエネルギーの奔流。
高密度の重力波をビームとして放ったのだ。瘴魔獣にはかわされてしまったが、射線上のキノコの群れを歪め、ねじ切り、その熱量で焼き払う。
「ハッ! オレは倒せなくてもキノコは蹴散らせたからよしってか!?
残念だったな! その程度じゃ、生き残ったキノコがまた増殖するだけなんだよ!」
一方、キノコを蹴散らされても瘴魔獣は余裕だ。自分の能力を高らかに自慢するが、
「そいつぁどうかね?」
「何……?
そりゃどういう――って!?」
返す鷲悟の言葉に、気づいた。
先ほどまで周囲に立ち込めていた胞子が、一切消え失せていることに。
今の鷲悟の砲撃で吹き飛んだのかとも思ったが、だとしても生き残ったキノコから新たに胞子が放出されるはず……
「てめぇ……何しやがった!?」
「お前だってやられただろ」
うめく瘴魔獣だが、対する鷲悟はあっさりと答える。
「お前やキノコどもに、思いっきり水ぶっかけてやっただろ」
「それがどうしt……あぁっ!?」
そこに至って、瘴魔獣はようやく何が起きたかを理解した。
「水か!」
「そういうこと。
キノコ本人のクセに気づくの遅いぜ」
対する鷲悟は余裕だ。声を上げる瘴魔獣に対し、ニヤリと笑ってそう答える。
「お前のキノコ、胞子を花粉みたいに空気中に舞わせることで周りにまき散らすタイプだろ。
けどその方法じゃ、風に乗せて広範囲に胞子をばらまける代わりに、雨の日や強い湿気の中じゃ使えない。胞子に水分がまとわりついて重くなるから、風に乗せて飛ばせなくなっちまうもんな。
これが胞子を弾き飛ばして増殖する方式だったら、こうはいかなかったんだろうけど……広く増殖できる方式をとってくれたのは、オレ達にとって幸いだったぜ」
「ぐ……くそぉっ!」
鷲悟の言葉に、瘴魔獣が地を蹴った。一番の武器である胞子攻撃を封じられ。やぶれかぶれの突撃だが――
「あきらめろよ――もう詰んでるんだよ、お前はな!」
両肩のグラヴィティキャノンが火を吹いた。下を向いていたそれが前方に、瘴魔獣へと素早く向けられた。すでにチャージ済みの砲撃をカウンターで叩き込む!
そのままグラヴィティランチャーとグラヴィティキャノン、さらに両腕のバスターシールドに内蔵されたに連装砲×2も併せ、計八門の高出力砲による大規模砲撃の嵐が瘴魔獣へと襲いかかる!
「ちょっ! おまっ! ムチャクチャすぎるだろ!」
「お前をほっとくぐらいなら、多少の犠牲はやむを得まいよ!」
「『多少』ですむレベルか、これぇっ!?」
しかしその攻撃は瘴魔獣や彼の生み出したキノコだけでなく、周辺の町にも多大な被害をもたらしていた。思わず指摘するも暴論で返され、瘴魔獣が逃げ回りながらツッコミの声を上げる。
だが、鷲悟も逃がしはしない。上空へと舞い上がり、真上から瘴魔獣の周囲に砲撃――否、爆撃。爆発に圧されて足の止まった瘴魔獣へと上空から強襲をかけ、
「ぅるぁっ!」
殴った。
右手のグラヴィティランチャーで、思いっきり。
「がはぁっ!?
なっ、殴った!? 銃だろそれ!?」
「両手ふさがるのが前提のフル砲撃装備で単騎やろうってんだぞ!
近接装備してねぇと思ったか!?」
ツッコみながらも瘴魔獣が反撃。回し蹴りを身を沈めてかわし、水平に振るわれた裏拳を左のグラヴィティランチャーで受け、
「しっかり、近接鈍器としても使えるようにできてんだよっ!」
力に逆らわず、身をひるがえす回転運動で受け流す――さらにその回転の勢いをプラスした右のグラヴィティランチャーでの殴打が、瘴魔獣の横っ面を張り飛ばす。
もはや戦いは鷲悟によるワンサイドゲームだ。胞子を封じられた瘴魔獣には近接戦しか攻撃手段が残されていないのに対し、鷲悟には砲撃があるし、それをかいくぐったところで近接戦対策も万全だ。
蹴りを受け、瘴魔獣のアゴが跳ね上がる――間合いが開いたところで全門斉射。直撃を受けた瘴魔獣が吹っ飛ばされる。
「とどめだ!」
もはや相手は死に体。大技を叩き込んでフィニッシュ――咆哮し、鷲悟の高めた漆黒の精霊力が彼の背後で双頭の竜を形作る。
「いけぇっ!」
その双頭竜が、鷲悟の指示で瘴魔獣に向けて飛ぶ――その身を構成する精霊力をまき散らしながら瘴魔獣の周囲を飛び回り、漆黒の、重力場の竜巻を作り出して瘴魔獣を閉じ込める。
「ハァッ!」
その竜巻の上へと鷲悟が跳躍。重力によって落下の勢いを加速、さらに竜巻となって周囲で渦巻いている重力場の影響で錐揉み回転まで加わり、勢いよく瘴魔獣へと突っ込んでいき――
「潰黒――圧蹴!」
「グラヴィトン、ドロップ!」
精霊力を込めに込めた両足蹴りが、瘴魔獣の脳天へと叩きつけられる!
耐えることもままならず、瘴魔獣の全身がバキバキにへし折れて踏みつぶされる。竜巻がほどけ、跳びのいた鷲悟はクルリと背を向け、
「――Revenge Completed.」
宣告と同時、瘴魔獣の身体……の、残骸が爆発、四散した。
◇
「ぐ…………っ!」
かわしきれないと判断し、とっさに額で受ける――柴木の拳を最小限のダメージでしのぐと、ジュンイチは間合いをとって仕切り直した。
脳に伝わる衝撃に、さすがの彼も少し頭がクラクラする。それに額も切ったようで、垂れてきた血が左目にかかって視界を阻む――が、アゴを打ち抜かれるよりはマシだとすぐに割り切る。
問題はそれよりも――
(……くそっ、やっぱキノコがすんげぇウザい……っ!)
瘴魔獣によって植えつけられたキノコの方がよほど問題であった。
増殖速度が、免疫機能による除去速度を上回ってきている――呼吸もままならず、痛みも走っていちいち動きを阻んでくる。
「ちょっ、柾木くん、本格的にヤバくない!?」
「う、うん……」
もちろん、見守るみほ達も気が気ではない。このままでは――
「フンッ、どうした。
始まる前の余裕が見る影もないな!」
「人の気も知らないで……っ!」
一方、何も知らないのは相手の柴木だ。挑発してくるその言葉にうめくが、ジュンイチも正直かなり厳しい状況であるのはわかっている。
「なら、そろそろ終わらせてやるよっ!
あきらめて留年しろ!」
「誰がっ!」
だがそれでも、あきらめるつもりはない。むしろひっくり返すつもりマンマンだ。柴木に言い返し、ジュンイチがかまえるが、
「ぐ……っ!」
またしても肺の痛みがそれを阻んだ。柴木のタックルを受け止めるものの、踏ん張りが足りずに押し切られ、押し倒されてしまう。
そのままマウントポジションに持ち込まれた。とっさにジュンイチの固めた顔面のガードの上から、乱打の雨をお見舞いする!
ガードの上からでもおかまいなしだ――この体勢からの脱出は難しい。やりたい放題できると開き直っているのだ。
だが、実際にジュンイチは何もできていない。ガードを固めてされるがままだし、そのガードも度重なる殴打でダメージが積み重なり、ゆるんできている。このままでは――
「これで――終わりだ!」
その懸念を現実のものにすべく、ついに柴木がフィニッシュを決めに入った。ガードもろとも打ち砕かんと、大きく拳を振りかぶる。
「柾木くん!」
思わずみほが声を上げる中、拳が振り下ろされて――
それは、拳が振り下ろされ、ジュンイチに届くまでのわずかな時間の出来事であった。
ジュンイチの肺の中で増殖を続けていたキノコが、突如一瞬にして消滅した。
それに伴い、ジュンイチの視界や脳内を占拠していたアラートも一斉停止。
視界、思考がクリアになり、ジュンイチはガードを解いて手を伸ばし――
最高測定記録三桁超えを誇る握力で、柴木の両脇腹を思い切りつねり上げた。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
言葉にならない悲鳴が上がる中、追撃。マウントポジションがゆるんだスキに身を起こし、さらに上へと手を伸ばして、
「ふんぬらばっ!」
ロクに処理されていなかった柴木の腋毛を勢いよくむしり取った――しかも左右両方。
『〜〜〜〜〜〜っ!?』
(いろんな意味で)えげつないジュンイチの攻撃に、柴木だけではない、観客席からも悲鳴が上がる――悶絶する柴木の下から脱出し、ジュンイチはひるむ柴木を蹴り飛ばす。
「よくも好き勝手やってくれたな。
こっからは反撃開始だぜ、センセーよ」
獰猛な笑みを浮かべ、ジュンイチが言い放つ――すっかりいつもの調子を取り戻したジュンイチの姿に、みほ達は気づいた。
「柾木くん、ひょっとして……」
「治ったでありますか!?」
沙織や優花里の声が聞こえたか、ジュンイチは柴木を見据えたまま、彼女達に向けてサムズアップで応える。
「もう安心だな」
「ほら、みほさん」
「う、うん……」
安堵の息をつく麻子のとなりに座る華に促され、みほは大きく息を吸って――
「がんばれ、柾木くん!」
「OK, My Boss!」
みほの声援がジュンイチの背中を押した。地を蹴り、柴木の懐へと飛び込んだ。
それも、瞬間移動したとみほ達が錯覚するほどに素早く――特殊な歩法によって踏み出した一歩目から瞬間的にトップスピードに加速。あまりにも大きな速度の落差によって対峙する相手にすら自分の姿を見落とさせる、いわゆる“縮地”を習得しているジュンイチだからこそできる芸当である。
間合いに入るなり身を沈めてローキック一閃。柴木の足を乱暴に刈り払う。
が、相手もさるもの。素早い受身ですぐに立ち上がる――が、そんな対応はジュンイチも予想の範疇だ。ローキックの名残で背を向け、かがんだ状態から後方へ、すなわち柴木に向けて跳躍。身をひるがえしての裏拳で柴木をはり飛ばす。
「さぁ、ガンガンいくぜ!」
「ぬかせ!」
ジュンイチの言葉に柴木が言い返し、二人が再度激突した。
◇
「さて、と、どうなる……?」
瘴魔獣が爆発、四散――まだチロチロと燃えている残り火を前に、鷲悟は油断なく周囲に視線を巡らせた。
確かに瘴魔獣は倒した――“ひとまずは”。
だが、瘴魔獣の場合それで終わりとはいかないのが厄介なところだ。このまま終わってくれるパターンもないワケではないが、すでに一度ジュンイチのブレイジングスマッシュから生き延びた実績のある相手だ。
それに、よしんば倒せていたとしても――
「――きた!」
最近では、倒して終わるよりも“こちらのパターン”の方が圧倒的に多い。これを予感していた鷲悟の目の前で、空中の一点に向けて風が吹き始めた。
その原因は、倒した瘴魔獣の“力”の残滓――周囲の負の思念エネルギーを見境なく取り込みながら、そのエネルギーをもって復活しようとしている。それが周囲の空気の流れも巻き込み、気流を作り出しているのだ。
そして――
「グォオォォォォォッ!」
瘴魔獣が巨大化、復活する!
その巨体は30メートルを越える――しかもこうなると多くの場合は理性も失われ、ただ破壊衝動のみで動く、言葉そのままの意味での獣と化してしまう。
だが――
「ブイリュウ!」
「はいはーいっ!」
こちらにも対抗策はある。鷲悟に名を呼ばれ、姿を現したのはブイリュウだ。
「ゲートを頼む!」
「はーいっ!
オープン、ザ、ゲート!」
鷲悟の頼みに、ブイリュウが叫ぶ――先日みほ達に語った通り、彼の身体を構築している精霊力をエネルギー源として、空間に巨大な穴が、空間転移のゲートが展開される。
空中に大きく口を開けたゲートに向けて鷲悟が叫ぶのは、自らの“相棒”の名――
「ルシファー、ワイバァァァァァンッ!」
その叫びに応え、ゲートを構築しているエネルギーが赤から漆黒へと変わる――鷲悟の干渉を受けて変質したゲートの向こうから姿を現すのは、漆黒の双頭、双尾のドラゴンをかたどった機動兵器。
鷲悟と共に戦うブレイカービースト、ルシファーワイバーンである。
「――いくぜ!」
◇
「エヴォリューション、ブレイク!
ルシファーブレイカー!」
鷲悟が咆哮し、ルシファーワイバーンがそれに応えて変形を開始する。
両足が根元から、二本の尻尾が中ほどから分離すると、尻尾の残った部分が起き上がるように後方へと展開された。そのまま180度展開され、人型の両足となる。
ビーストモードの両足は首の付け根、ボディの両サイドに合体。つま先が後方にたたまれて拳が姿を現し、付け根のカバーが起き上がって肩アーマーとなって両腕の変形が完了する。
双つの首の間に内部から人型の頭部がせり出してくる。人のそれをかたどった顔、口元がフェイスカバーで覆われる。
「ルシファー、ユナイト!」
変形した機体を前に、鷲悟が叫ぶと、その身体が漆黒に染まる――精霊力のエネルギー粒子の集合体へと変換されたその身体が量子レベルで機体と一体化する。
内部からせり出し、輝くのは精霊力の増幅、制御サーキット“Bブレイン”。変形のために停止させていた各部の制御システムが再起動し、カメラアイに輝きが生まれる。
「魔竜、合身!
ルシファー、ブレイカー!」
◇
召喚したルシファーワイバーンと一体化、ルシファーブレイカーとなった鷲悟が、地響きと共に着地。巨大化した瘴魔獣と対峙する。
「悪いが、時間はかけさせないぜ。
あんまり巨大戦が長引くと、ジュンイチ達にも避難指示が出るかもしれないんでな!
ルシファーライフル!」
宣言と共に両手を頭上に。そこに降ってきて、キャッチするのは分離した尾が変形した二丁の大型ライフルだ。
瘴魔獣に向け、左右交互に立て続けの連射。瘴魔獣に先制攻撃をかける。
もちろん瘴魔獣側も負けてはいない。銃撃に耐えながら鷲悟に向けて突っ込んでくるが、
「はい、ご苦労さん!」
鷲悟には通じない。突っ込んできた瘴魔獣にカウンターの蹴りを叩き込む。
正面からはダメだと判断したか、今度は跳んだ。頭上から重量任せに強襲をしかけてくるが、
「ムダだっての!」
やはり迎撃が待っていた。両肩の竜の首が対応。かみついて瘴魔獣を捕獲する。
「伊達や酔狂で、この首を変形させずに残してるワケじゃないんだぜ!」
そのまま、力任せに瘴魔獣の巨体を振り回す――上半身のバネの力も込みで、前後の道路に何度も叩きつけ、
「オマケだ!」
上空に放り投げ、追撃。ルシファーライフルとと両肩の竜が放つ熱線の一斉射が瘴魔獣を吹き飛ばす。
それでも立ち上がる瘴魔獣に対し、ルシファーライフルを手にしたまま右手をかざす――反重力で瘴魔獣を空中に持ち上げ、身動きのとれない相手に再度の斉射を、今度は連続で叩き込む!
「さぁ、そろそろ踏みつぶさせてもらおうか!」
◇
「カラミティシステム、起動!」
鷲悟が咆哮し、ルシファーブレイカーが広げた翼が淡い光に包まれる。
と、周囲に異変が発生。一帯の温度が下がり始め、さらに電波障害も発生。影響を受けた街灯や周りの建物の照明がチカチカと点滅を始める。
熱や光、電波すなわち電気――周囲一帯のエネルギーというエネルギーを徹底的にかき集め、増幅して自身のエネルギーに転化する、鷲悟の“装重甲”にも備わるエネルギー補助システム、“カラミティシステム”の仕業だ。
しかも、ルシファーブレイカーに備わるそれは鷲悟のそれとは規模が違う。影響圏内では熱を奪われすぎて水分が凍結を始めているし、日光すら降り注ぐそばから吸収されてしまうため、空が快晴にもかかわらず薄暗くなってきている。
「ルシファー、パニッシャー!」
そして、鷲悟がルシファーブレイカーの胸部装甲を観音開きに展開させた。露出した左右二門のエネルギー集束器にはすでにエネルギーがチャージされている。
それだけではない。両肩の竜の口腔内からも光があふれ、両手のルシファーライフルにもエネルギーが注ぎ込まれていく。
両足、両腕、両肩に背中――全身各所の放熱システムを介して余剰エネルギーを排出、凍結していた周囲の氷を今度は瞬時に蒸発させ、水蒸気が周囲に立ち込める中瘴魔獣をにらみつける。
と、瘴魔獣の周囲に重力場が発生し、瘴魔獣を拘束する――重力波の渦で動きを封じ込め、反重力で空高くへと持ち上げる。
これで、周辺への被害を気にすることなく、高めに高めた火力を思い切り叩き込める。空中でもがく瘴魔獣へと狙いを定め、
「魔竜、虐滅!」
「ジェノサイド、インフェルノ!」
放たれた漆黒の奔流が、ひとつの巨大な塊となって瘴魔獣を直撃する!
重力波と精霊力の混ざり合った超高密度のエネルギーの渦が、瘴魔獣の巨体をズタズタに引き裂く。精霊力の干渉で分解され、ちぎれた瘴魔獣の身体がちぎれるそばから圧潰していく。
そんな破壊の嵐が続いたのはほんの数秒――その数秒で相手の身体を決定的なまでに破壊し尽くすと、渦は一瞬だけ収縮。直後に大爆発を起こし、残骸をこっぱみじんに吹き飛ばした。
瘴魔獣の“力”の気配が完全に消え去ったのを確認し、鷲悟が勝ち鬨の声を上げる。
「爆裂! 究極!
ルシファー、ブレイカァァァァァッ!」
◇
「く…………っ!」
放ったローキックは靴の裏で止められる――どころかヤクザキックでカウンター。反撃をつぶされ、柴木は舌打ちまじりに後退s
「オラァッ!」
ジュンイチも逃がしはしない。ヤクザキックを放った足を軸足に、大きく踏み込む形で水平に放った回し蹴りは後退中の柴木に届いた。真横へのベクトルを不意に叩きつけられ。柴木はバランスを崩して転倒する。
「確かに、ローキックは長い格闘技の歴史の中で研鑽に研鑽を重ねる中で生まれた、近代格闘技において最も洗練された技と言っていい」
身を起こす柴木に対し、ジュンイチは悠長に語って聞かせる――もちろん挑発だとわかっているが、付き合わなければいいだけだ。かまうことなく、柴木はジャブで反撃に出る。
「けどさ」
しかし、戦車の砲弾にも反応できるジュンイチの反射神経の前には通じない。あっさりと回し受けで払われて、
「来るとわかっていれば、洗練もナマクラもないわな」
左ジャブを弾かれ、ガラ空きになった柴木の左顔面に、ジュンイチの掌底が右ストレートの形で打ち込まれる。
のけぞり、防御のおろそかになった腹にボディブロー。今度はくの字にかがんだところを返す刀のアッパーカット。
「とどめだ!」
このまま一気に押し切る。最後の一撃を叩き込むべく、ジュンイチは一気に柴木との距離を詰めて――
――ゾクリッ。
みほの背筋を悪寒が駆け抜けた。
ギロリッ――と、柴木がジュンイチをにらみつけたのに気づいて。
のけぞったまま、乱れた髪のすき間から、未だ闘志を失っていない。野獣の如き眼光で。
「――危ない!」
気づいた杏が声を上げる――が、遅かった。
「オォォォォォッ!」
渾身の咆哮と共に、柴木が動く――距離を詰めてきたジュンイチに向けて、カウンターの拳を放つ!
もし自分達ならこれはかわせない。沙織達が息を呑む中、拳がジュンイチへと迫り――
「柾木くん!」
かわした。
みほが声を上げた、まさにその瞬間――柴木の拳は、ジュンイチの頬をかすめて振り抜かれていた。
切れのいい拳がかすめ、ジュンイチの耳が裂ける――が、かまわない。起死回生のカウンターが不発に終わり、絶望に染まる柴木の顔面に右の拳を叩き込む。
「柾木流――撃法!」
拳は引かない。むしろ全身で踏み込む――柔道の崩しの要領で右足で相手の足を引っかけ後ろにバランスを崩させて、
――流星墜!
拳を振り抜き、相手の頭をマットに、思い切り叩きつけた。
柴木の頭はジュンイチの拳とマットとのサンドイッチ――拳を引くと、天を指すように右手を頭上に掲げ、
「Finish Completed.」
宣言と同時、振り下ろす――残心の必要もないほど明らかに、正真正銘白目をむいている柴木を尻目に、フィニッシュパフォーマンスをバッチリ決めるジュンイチであった。
◇
「柾木くん!」
リングを降りたジュンイチに真っ先に駆け寄ってきたのは、ジュンイチの勝利に大はしゃぎの沙織だ。その後に続いて他の面々もやってくる。
「これで、進級決定なんでしょ!? やったね!」
「ま、全部が全部解決ってワケじゃねぇけどな。
進級自体はこれでOKだけど、プライド的な意味で学業もきっちりしときたいからな。
戦車道の全国大会が終わったら、期末に備えてさすがに勉強始めないと……」
沙織に答えて、ジュンイチはため息まじりに肩をすくめてみせる。
「しっかし、えげつなかったねー、最後の技」
「流星墜のことか?」
「そう、それ。
マットとパンチのサンドイッチとか」
「そりゃえげつないさ。
本来ダメ押しのトドメに使う“殺し技”なんだから」
一方で口をはさんでくるのは杏だ。「だからお前らにゃ教えなかったんだよ」と付け加え、ジュンイチは頬をかき、
「まぁ、技としては見ての通りさ。
拳をそのまま振り抜いて、地面なり床なりに叩きつける――柔道の“崩し”を入れてるところからもわかるだろうけど、打撃よりも投げを意識するのがワンポイント」
「打撃よりも投げを意識……と」
「覚える気……?」
ジュンイチの説明に、メモを取り出し書き留める――勉強熱心さとジュンイチへの想いがおかしな方向に向いている梓に、沙織が苦笑まじりにツッコんだ。
と――
「えっと……」
ジュンイチの勝利にわき立つ一同の輪に入り損なっていたみほが声をかけてきた。
「柾木くん、進級おめでとう」
「おぅ。ざっとこんなもんだいっ!」
みほの祝辞に、ジュンイチはVサインで応えて――
「うん……
本当に、よかった……っ!」
――ドキンッ。
安堵し、心からの笑顔を見せるみほを前に、ジュンイチの胸が高鳴った。
(あ……あれ……?)
自分でも予想だにしなかった反応に、ジュンイチが戸惑って――
「まぁ、それはそれとして」
ジュンイチに、その感覚の正体を見極めるヒマは与えられなかった――不意に話の流れに割り込んできた華が、ジュンイチの肩をポンと叩いた。
「柾木くん。
何か、わたくし達に隠している……いえ、もう解決したみたいですから、隠していた、ですか。
とにかく、わたくし達に言ってないことがあるんじゃないですか?」
「え゛?
い、いやー、何の話だ?」
「今、『え゛』で声上ずりましたよね?」
華ににらまれ、冷や汗まじりに返すジュンイチだったが、耳ざとくジュンイチの焦りを看破した優花里に反対側の肩を捕まえられる。
「試合中、明らかに動きが乱れてたよね?」
「それも不調とかじゃない。ダメージを受けたみたいに唐突なのが何回も」
さらに前後を固めるのは沙織と麻子だ。
「さーて、ジュンイっちゃん」
「洗いざらい、話してもらいますからね、先輩」
杏と梓は少し引いたところに――しかし、非難に加わっていないワケではない。むしろジュンイチが何らかの方法で包囲を脱出した時の備えとして、待機しているのだ。
もちろんジュンイチの指導の賜物だ――教えが正しく活きているようで、ジュンイチとしては喜べばいいのか、それともこんなところで発揮しないでくれと嘆けばいいのか、複雑な心境である。
本気でこちらを逃がすつもりのない、スキを許さぬ布陣を前に、ジュンイチもうかつに強硬手段に出られない。視線でみほに助けを求めるが、
ぷくーっ。(←比喩的表現)
(あ。こらアカン)
当のみほも今回の一件は不服なのか、頬をふくらませてにらんできている。どうやら彼女も今回は“向こう側”のようだ。
完全に退路も支援も断たれた、絶体絶命の四面楚歌――そんなジュンイチの両腕を、優花里と華がガツシリと捕獲し、
「さて、柾木殿」
「ここじゃ話せないこともあるでしょうから。取調しt……控え室にでも行きましょうか」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
哀れ、ジュンイチはそのままズルズルと連行されていくのだった。
◇
「まったく、ジュンイっちゃんときたら……」
「大変だったねー」
夜空の下、柾木家の縁側でため息をつく杏に答え、霞澄は彼女へとホットコーヒーの注がれたカップを差し出す。
結局、あれからジュンイチは洗いざらい吐かされた。「そうだとわかった時には本当に驚かされたんだからね!」と主張する沙織を中心にこってりとしぼられ、すっかり疲労困憊となったジュンイチは帰宅するなり自室に引っ込んでしまった。
「そりゃ……心配かけまいと黙っててくれたっていうのはわかるよ。
でも、それで結局バレて私達を心配させてちゃ世話ないでしょうに……」
「確かにねー」
同意して、霞澄は杏のとなりに腰を下ろし、
「おかげでいろいろ考えてたハーレム作戦がみんなパーだもんね。
“みんなでジュンイチにお風呂でスク水マッサージ作戦”とか“間違えて祝勝会にお酒出して酔った勢いで既成事実作戦”とか」
「お酒使った作戦は私も賛成してませんけどね。
さすがにお酒はまずいですよ、お酒は」
「ハーレム容認してもお酒は容認しないんだ?」
「個人的にはかまわないと思ってますけど、さすがに生徒会長って立ち場じゃ、公的には反対しとかないとねー」
霞澄の問いに、杏は肩をすくめてそう答える。
「それより、霞澄ちゃん。問題はこれからでしょ。
この里帰りの間に、私達が先陣切ってジュンイっちゃんの鈍感バリア崩すはずが、作戦全部御破算じゃないですか」
「一年ぶり、無事に家に戻れて安心した状態なら、少しはガード緩むと思ったんだけどねー。
まさかあの子とは別のところで問題が起きてそれどころじゃなくなっちゃうパターンで来るとは。さすがに一筋縄じゃいかないわー」
口々に意見を交わし、二人は同時にため息をついて――
「……それにしても」
不意に、霞澄が杏に告げた。
「さっきのツッコミじゃないけど……よくハーレム容認したわよね」
「別に、全面的に話にノッてるワケじゃないですよ?
私だって女の子ですから。好きな人からの愛情は、やっぱり独り占めしたいですよ」
「じゃあ……なんで協力してくれるの?」
「ジュンイっちゃんのあの鈍感バリアを単騎で突破って、それこそ至難の業じゃないですか」
「あー……」
杏の答えに、霞澄は彼女の意図に察しがついた。
「だから、当面はジュンイっちゃんのことが好きな子達総出の共同戦線……というか総力戦。
みんなでアタックかけて、まずはジュンイっちゃんに私達のことを意識してもらう――それが私の狙いです。
そこから先はそれぞれのがんばり次第だと思ってますよ……誰が一番ジュンイっちゃんのハートをつかめるか、ジュンイっちゃんが誰を選ぶか……」
(そう……ジュンイっちゃんが、誰を選ぶか……)
霞澄に対してそう告げて――杏は直前の自らの発言を心の中で反芻した。
ジュンイチが誰かを選ぶ、その可能性に思いを馳せた時――気になることがあったからだ。
(あの時、ジュンイっちゃんは……)
昼間の試合の時のことだ――あの時、声援に対するジュンイチの反応が明らかに違った時があった。
ジュンイチが反撃の狼煙を上げた時、柴木の最後のあがきが危うく直撃しそうになった時――
(ひょっとして……
自分で気づいてないだけで、ジュンイっちゃんは……)
「……そういうことだったんですね……」
――ぎくりっ。
そんな擬音が、聞こえた気がした。
霞澄と二人で、杏は声のした方へと振り向いて――
「そういう考えで、会長は今回ついてきたんですね……」
「に、西住ちゃーん……」
「み、みほちゃん……?」
「私達に何にも相談しないで……勝手に動かすようなことをして……っ!」
恐る恐る声をかける杏と霞澄に、みほは肩を震わせながら、うめくように告げる。
「まっ、マッサージとか……よっ、よっ、酔った勢いで、きききっ、既成事実とか……っ!」
「あ、これ恥ずかしさでいろいろリミットオーバー寸前だ」と杏が察して――
「会長達の……バカぁぁぁぁぁっ!」
顔を真っ赤にした、恥ずかしさのあまり半泣き状態のみほの叫びは、幸い防音の効いた自室に引っ込んだジュンイチに聞かれることはなかった。
次回、ガールズ+ブレイカー&パンツァー
第31話「シュルツェン万歳」
(初版:2019/08/05)