「あんこう、間もなくHS地点!
 レオポンさん、今どこですか!?」
〈こちらレオポン、HS入りました〜〉
 一方、みほ達は目的の作戦ポイントをもう目の前に捉えていた。尋ねるみほに、ポルシェティーガーからナカジマが答える。
 黒森峰の追跡をかわすために何度も回り道を強いられてしまったが、これでようやく作戦の総仕上げに取りかかれる。
「0017に移動してください!」
〈りょーかーい〉
 ナカジマの答えを聞きながら、みほ達も目的地である高校の廃校舎――すなわちHS(High School)地点に突入する。
 キューポラから顔を出し、みほは後方を確認する――追ってくる敵集団の先頭はまほが車長を務めるティーガーTだ。
 フラッグ車だろうが関係ない。指揮官が自ら先陣に立つことで部隊の士気を高める。西住流らしいやり方だ。
 だから、こちらはそれを利用させてもらう。
 追跡をかわしながら、校舎に沿って走ることしばし、目的のポイントが見えてきた。
 全体の外壁のように一周する形で建てられた校舎の一階を貫き、内側に通じる通路だ。W号がその中に飛び込み、まほのティーガーTもその後に続き――
「おっと!」
 そこにすべり込んできたのはレオポンさんチームのポルシェティーガーだ。みほ達が来たのとは反対方向から走ってきて、勢いよく入口と突っ込んだ。
 ただし――



 後ろ向きに。



 バックして、黒森峰の後続車両に主砲を向けつつ、通路をふさぐようにななめに陣取る。これで後続の黒森峰の戦車はポルシェティーガーをどうにかしない限りここを通ることはできない。
 しかも、この廃校舎、内側への出入り口はここしかない。これで黒森峰側はティーガーTと後続部隊が完全に分断されてしまった。
 もちろん、これも最初から計画の内だ。入口がひとつしかない、それでいて戦車戦をやるには十分な広さがある場所に敵フラッグ車を誘い込み、入口をふさぐことで後続と分断。あんこうチームとの一対一に持ち込んで数の上での不利を解消する――それこそが“フラフラ作戦”の全貌であった。
 そして――
「さぁ……ここから先は、通行止めだよ!」
 砲手のホシノが放った砲撃が、“フラフラ作戦”の最終ファイナルフェイズの開幕を告げた。

 

 


 

第36話
「やろうぜ! 戦車道!」

 


 

 

「…………っ」
 一方、みほ達のもとへ向かうべく市街地を駆けていたジュンイチであったが、行く手に見えてきた一団の姿に思わず眉をひそめた。
 黒森峰の戦車隊――まほ達から分断され、市街地で戦っていた連中だろうか。
 だが、だとしたら大洗の誰かと戦ってるか追いかけっこをしているはず。その相手はどこにいるのか。
 すでに撃破されたにしては仲間達からそれ関係の報告は入っていない。別れる前に残っていたアヒル、カメ、ウサギ、レオポンはまだ健在のはずだし、見失ったら見失ったで、こんなところで執拗に探し回るよりもフラッグ車との合流を優先した方が堅実な選択だ。未だこの辺りをフラフラしている理由としては考えづらい。
 あと考えられるのは――
(戦車ほったらかしてでも、オレを叩きに来た?)
 しかし、ジュンイチがその可能性をそれ以上追及することは叶わなかった。
 なぜなら、黒森峰側の攻撃が開始されたからだ――前衛の数輌から一斉にペイント弾が掃射される。
 回復しつつあるとはいえ、エリカとの戦いでのダメージが残っている身体では余裕で回避、というワケにはいかない。いつもより大きく跳んでペイント弾の雨から離れる。
 が――そこに追撃。ペイント弾を斉射する前衛の後ろ、後続の戦車から放たれた砲弾が左右の住宅を破壊、巻き起こった土煙がジュンイチから視界を奪う。
 もちろん、気配で相手の位置を捉えられるジュンイチにとっては狙いの正確性が若干薄れるぐらいの効果しかないが――
「本格的に、オレの足止めに徹するつもりだな、コイツら……っ!」
 一刻も早くみほ達のもとに向かいたいのに、面倒なところで面倒なヤツらに絡まれた――今の体調で相手をするにはリスクが大きい。相手からも見えない今の内に路地に入ってやりすごすかとも考えるが、
(……クソッ、読まれてたか……)
 手近な路地は今の砲撃によって崩落した住宅のガレキで埋まっている。どうやら土煙を起こすだけでなく、こうして逃げ道をふさぐ狙いもあったようだ。
(ガレキを足場に上に……あかん。上は視界クリアだ。対空斉射なんてされたら、今のオレじゃしのぎきれるかどうか……
 かと言って、正面突破ってのもなぁ……)
 脇道をつぶして退路を制限してきた以上、相手もこちらが強行突破に活路を見出す可能性は想定しているだろう。並の選手ならいざ知らず、今まで実際に戦車相手に大立ち回りを演じてきた自分を相手にしているのだから。
 となれば、向こうも当然身がまえているはず。いかにジュンイチでもこれに突っ込むのは無謀もいいところだ。返り討ちにあう可能性の方がはるかに高いし、仮に突破できるとしてもそうとう手間取ることになるだろう。みほ達のところへと急いでいる現状では、あまり賢い選択とは言えそうになかった。
(どこかに抜け道を見つけないと……!)
 だがそれであきらめるジュンイチではない。突破口を求めて周囲に意識を向けて――
「――――っ!?」
 気づいた。こちらに接近してくる味方の気配に。
 位置は――
〈伏せて!〉
「りょーかいっ!」
 そこまで把握していたから、いきなり無線から聞こえた声の意図を察するのは容易かった――声へと返すと同時に身を伏せ、まさにそのタイミングに合わせたとしか思えないほどにドンピシャのタイミングで、背後から飛来した砲弾が一瞬前までジュンイチの頭のあった位置を駆け抜け、黒森峰側に着弾した。
 一歩間違えばジュンイチの頭が木っ端みじんになっていたかもしれない。そんな紙一重の連携を不意打ち同然の状況でも苦もなく成功させる、そんなマネができる砲手は大洗の中でも限られている。
 精密無比の腕前と鋼のメンタルを持つ華か、あるいは――
「ごめん、ジュンイっちゃん。
 鼻っ柱を抑えたくて回り込もうとしてたら間に合わなかったよ」
「いんや、そのっくらいがお前ららしいよ――何たって“カメさん”だし」
 腕前で華に譲るも付き合いの長さで優る彼女くらいのものだ。合流してきたヘッツァーから顔を出して謝る杏に、ジュンイチは彼女達のチーム名に絡めた軽口を返し、
「あぁぁぁぁぁっ! また履帯がぁぁぁぁぁっ!」
 一方の黒森峰側では、またしても履帯に直撃を受けたヤークトパンターの車長が悲鳴を上げていた。
「ジュンイっちゃん、ここは私達で抑えるから、そのスキに突破して!」
「おいおい、大丈夫かよ?」
「だいじょーぶ。
 ま、勝敗的には瞬殺されるだろうけど……ジュンイっちゃんなら一瞬あれば十分でしょ?」
「いやそーじゃなくて」
 自分は杏達自身の身の安全を心配してるんだとジュンイチが声を上げると、
「だったら……」
「私達も加われば、一瞬×3で三瞬!
 ますます余裕だね!」
 新たな声がそこに加わる――梓が、典子が言いながら、M3と八九式が合流してくる。
「お前らまで!?
 でも、どうしてここに?」
「いや、私達の役目は分断された黒森峰の戦車の足止めなんだから、黒森峰の戦車が集まっていればそりゃ来るでしょ」
「私は、柾木先輩そろそろエリカさんと決着つくだろうから、みほさん達のところに向かうまでの“足”になって、休ませてあげようと思って迎えに来たんですけど……」
 典子と共に答えると、梓は自分達の合流で警戒を強める黒森峰側へと視線を向け、
「すみません。ちょっと送っていけそうにないです。
 どう考えても、“足”より“盾”になった方がいいですよね、この状況」
「私達が行くより柾木くん行かせた方が勝率上がるんだから、ここは私達に任せて!」
「お前ら……」
 梓と典子の言葉に、ジュンイチは二人を、そして杏を順に見回し――
「…………報酬のご要望は?」
『祝勝会での手料理増量!』
「現実的に可能なラインを攻めてくる辺り抜け目ないよなお前ら」
 車中のメンバーも含めたその場の味方全員からの答えに、ジュンイチは軽くため息をついた。
「まったく、図々しくなりやがって。
 いったい誰の影響なんだか」
『ん』
 車中のメンバーも含めたその場の味方全員がジュンイチを指さした。
「やれやれ、失礼な話だな。
 とはいえ……戦況的に最適解なのも事実、か」
 自画自賛にも聞こえるセリフだが、当人が言ってるからそう聞こえるだけで、実際にジュンイチがみほ達への援軍として最も適任なのは確かなのだ。生身で戦車と戦える立ち回りを心得ているのはもちろん、マジメなまほを引っかき回せるトリッキーさを持ち、みほと息ピッタリで……何より、ポルシェティーガーに唯一の入口がふさがれている今の状況でも、生身のジュンイチなら校舎の窓をぶち破って突破し、みほ達のもとへと駆けつけることが可能と、彼だからこその好条件がそろっているからだ。
「あー、もうっ、わかったよ。任せるよ。
 その代わり、しっかり抑えろよ」
「お任せ!」
「がんばりますっ!」
「根性見せるよ!」
 ジュンイチの言葉に杏、梓、典子の順に答える――そんな彼女達にうなずくと、ジュンイチはいつでも飛び出せるように重心を落としてかまえる。
 そして――
「行って!」
「らじゃった!」
 杏の号令と同時、大洗側の三輌の戦車が発砲。黒森峰側へと突撃する彼女達が自分の左右を駆け抜けたそのタイミングで、ジュンイチはその場から離脱した。



    ◇



 廃校舎の内側は、内側にもいくつかの棟が立ち並び、その一番奥に広場が広がる構造となっていた。
 そんな、校舎と校舎の間を駆け抜けながら、あんこうチームのW号とまほ達のティーガーTが砲火を交わす。
 みほ達が逃げながら後方に砲撃をしかけ、まほ達が迎え撃ちながらそれを追う形だ。真っ向勝負では性能差で押し切られる、何とか相手の攻撃をかわして有利なポジションを取りたいみほ達に対し、まほ達もそうはさせないとW号の後ろに食らいついていく。
 麻子の腕がなければとうに直撃をもらって終わっている。そんな圧倒的不利なドッグファイトを続けることしばし――
(…………?)
 ふと、ティーガーTの動きに気づいたみほが眉をひそめた。
 砲塔を回している――自分達から狙いを外し、内側の校舎へと向ける。
 何のつもりかと様子を伺うみほだったが、そこでW号が曲がり角に差し掛かってしまった。角を曲がったことで、ティーガーTがみほの視界から消える。
 ティーガーTの発砲音が聞こえたのはその直後。そして、校舎を撃ったにしては妙に豪快なその音は――
(榴弾……?)
 単に校舎を撃ち抜いただけではない。榴弾による爆発も伴っていたことを意味していた。気づいたみほが眉をひそめる中、次の角に差しかかり――
「――――っ!
 止まってください!」
 気づき、麻子を止めるが、時すでに遅く麻子は曲がり角を右折してしまう。
「やっぱり……!」
 そんなW号の目の前では、崩れたガレキで行く手の道が崩落していた。傍らの校舎が破壊され、崩落したのだ。
 さっき通った時にはこんな状態ではなかった。先のまほ達の砲撃の仕業であることは想像に難くない。単に撃ち抜くのではなく、榴弾で内部から爆破することで、ガレキを大量に降らせて道をふさいだのだ。
 ということは――
(――背後を取られる!)
「全速後退!」
 まほの意図に気づいたみほがあわてて指示を出した。麻子が素早く対応、W号を後退させ――追いついてきたティーガーTと出会い頭に衝突した。
 ティーガーTの砲撃はその直後。懐に飛び込む形になって難を逃れることができた。
 砲撃の余波で砲塔左側を守るシュルツェンを一部吹き飛ばされてしまったが、直撃されるよりもマシだとすぐに割り切る。
 ともかく長居は無用だ。麻子の操縦でW号はすぐにその場を離れ、ティーガーTもその後を追って走り出した。



    ◇



 その頃、黒森峰の別働隊を相手にしているアヒル、カメ、ウサギの三チームは、市街地を駆け回りながらの機動戦に移行していた。
 真っ向勝負ではあっという間につぶされる。ジュンイチを送り出すというひとまずの目的は達したが、どうせなら一秒でも長く足止めしたい。戦いながら縦横無尽に駆け回り、黒森峰の戦車が廃校舎に向かおうとするのをブロックする。
 とはいえ、状況はジリ貧だ。何しろこちらの攻撃がまったく通用しないのだから。重戦車の装甲の厚さにモノを言わせて押し込んでくる黒森峰を相手に、ジリジリと廃校舎に向けて押しやられていく。
「くっそーっ!」
「もっと火力を……っ!」
「泣き言言ってもしょーがないでしょー」
 いくら当ててもロクにダメージを与えられない。当たりどころによっては牽制にすらならない――苛立つあゆみやあけびの声は各車のマイクが拾ってチーム全体に聞こえていた。そんな各車の砲手達を杏がなだめる。
「私達の役目はコイツらの足止め。押し込まれてはいるけど、目的は果たせてるんだから気にしない気にしなーい」
「いや、会長の場合、足止めって言うより……」
 杏に答えて、梓は車上に顔を出して――
「よくも履帯をぉぉぉぉぉっ!」
「わーっはっはっはっ! ここまでおいでーっ!」
「完全にターゲッティングされてますよね……会長自身が」
 むしろ率先してヘッツァーを追いかけ回しているのは、案の定杏によって再三履帯を破壊されて恨み骨髄のヤークトパンターだ。行く手の道を横切る形で追いかけっこをくり広げている二輌の戦車を見送り、梓はため息まじりにツッコんだ。



    ◇



 ティーガーTの主砲が火を吹き、W号を狙う。飛来した砲弾が右側、砲塔を守るシュルツェンを蹴散らすようにはぎ取った。
 さらに、続く砲撃が右履帯のシュルツェンも――今までなんとか回避してきたが、相手もさすが黒森峰の隊長車の砲手を任されるだけある。麻子の挙動に慣れてきたようで際どい砲撃が増えてきた。
 これはいよいよ危ない。これ以上長引かされると、いかに麻子でもかわしきれなくなる。
 そうこうしている内に、両車輛は中央広場に飛び出した。互いに思うところは同じだったか、四角い広場の対角線上に陣取る形で停車、場の流れが仕切り直される。
(柾木くんはこっちに向かってるらしいけど、間に合うかどうか……
 入口だって、ポルシェティーガーがいつまでもちこたえてくれるかわからないし……)
 不安要素は相手砲手の慣れだけではない。決着を急ぎたいところだが、さてどう攻めたものか――
「やっぱり、一撃をかわして、その隙に距離を詰めるしか……」
 だが、それも読まれてしまえば意味はない。仕掛けるギリギリ直前まで、それまで通りの撃ち合いを挑んでいるように見せかけなければならない。
 つまりそれは、その“仕掛けるギリギリ直前”のところまで、ティーガーTと砲火を交えなければならないことを意味していて――
「優花里さん!
 装填時間、さらに短縮って可能ですか!?」
「はい! 任せてください!」
 実現のためには、装填速度が重要な鍵となる。尋ねるみほに、優花里は笑顔でうなずいてみせる。
「華さん!」
「行進間射撃でも可能ですが、0.5秒でもいいので、停止射撃の時間をください。
 確実に撃破してみせます」
 そしてもちろん、射撃の正確性も。華からはより確実性を上げたいと要望が返ってくる。
「麻子さん!
 全速力で、正面から一気に後部まで回り込めますか!?」
「履帯切れるぞ」
「大丈夫。
 ここで決めるから」
 何より、懐に飛び込めなければ始まらない。できるがチャンスは一度きりだと答える麻子に、みほもキッパリと返す。
 そして、みほは車上に顔を出し、まほを、ティーガーTを見据える。
(この一撃は、みんなの想いを込めた一撃……!)
 失敗したらすべてが終わる一発勝負――だが、やらなければならない。
 この試合に負ければ、大洗存続の希望は事実上絶たれてしまう。大洗は今年度いっぱいで廃校になり、みんなとも離れ離れになってしまう。
 そんな結末――絶対に嫌だ。
(聖グロリアーナとの試合では失敗したけど……)
 大丈夫。みんなあの時より成長している。絶対にうまくいく――己に言い聞かせ、みほは深く、深く深呼吸。改めてまほとティーガーTへと視線を戻す。
(……決着をつけにくるか)
 一方、まほもまた、みほの、W号のまとう空気が変わったことを、みほ達がここにきて腹を括った、その気合を感じ取っていた。
(みほ……本当に強くなった)
 正直な話、ここまで食い下がられるとは思っていなかった。
 と言っても、手加減をしたつもりはない。大洗の戦車を、今までの試合での戦いぶりを考慮し、決して侮れる相手ではないと考え、対応できる戦車の中から最高の性能のものを選び抜き、マウスまで投入。選び得る中でも最高・最強の編成でこの試合に臨んだ。
 だからこそ、勝利を確信していた――大洗の得意とする絡め手を許さず、絡め手に出られる前に抑え込めば勝てると。
 少なくとも、黒森峰にいた頃のみほのままなら、きっとそんな想定の通りとなっていただろう。
 そんな自分の想定を、みほは上回った――それは、大洗に行ってからのみほの、確かな成長を示していた。
 そう――大洗の隊長として戦車道に戻ってきたみほは変わっていた。
 戦車道の常識に捉われない自由な発想、状況を打開するために必要なことを迷わず実行に移せる決断力にますます磨きがかかった。
 西住流としては邪道だが、一戦車道選手としては尊敬にすら値する、立派な隊長へと成長した。姉としても誇らしく思う。
(それも、大洗に行ったからか……)
 最初は、傍らのジュンイチの影響かと思っていた。
 だが、今ではそうではなかったと感じている――否、『そうではなかった』と言うよりは『それだけではなかった』と言うべきか。
 ジュンイチだけではない。あのチームの全員がみほを変えたのだ。
 長らく戦車道から離れ、ノウハウも散逸した大洗で、戦車道のことを知らないメンバーが大半という風土がみほの自由な戦車道ときれいにかみ合った。
 彼女達がみほを受け入れ、結果をもって応えてきたからこそ、みほは自信を取り戻すことができた。
 本当に、大洗のメンバーにはいくら感謝してもし足りないくらいだが――
(そんな大洗チームを、私達の勝利が引き裂こうとしている――皮肉な話だな)
 大洗の直面している廃校問題のことは自分達も知るところだ。この大会に優勝する、すなわちこの決勝戦で自分達に勝つぐらいしか、廃校を撤回させられるような実績を挙げられる見込みはないのだと。
 自分達が勝てば、みほを立ち直らせてくれたあのチームがバラバラに引き裂かれてしまう。みほを立ち直らせてくれたことを感謝している、自分達の手で――
(だが――それでも!)
 決意を新たに、まほはみほを、W号戦車をにらみつけた。
(手は抜かない。全力でお前達と戦う。
 全力で私達にぶつかってくるお前達の想いを、受け止めるために!)
 そして――



『前進!』



 みほとまほ、二人の声が交錯し、W号戦車とティーガーT、二輌の戦車が動き出す。
 大洗の存続や、一年前のあの日の出来事の是非――すべての決着を、つけるために。



    ◇



「このぉっ!」
 ホシノが発砲し、ポルシェティーガーの一撃が黒森峰のラングを一輌沈黙させる――が、すぐに他の戦車からの反撃が襲いかかってくる。
「なっ、なかなか……っ!」
 降り注ぐ強烈な砲火の嵐に、ナカジマが苦笑まじりにうめく――すでに黒森峰側にさらした履帯は失われ、砲塔の回転機構もイカレている。今ラングを撃破できたのも、たまたま射線上に出てきてくれたから狙えただけの話にすぎない。
 もはや満身創痍。撃破されるのも時間の問題かと覚悟を決めて――
(――――っ!?)
 その瞬間、ナカジマは見た。
 巻き起こる爆煙の一角が、不自然に吹き散らされたのを。
 まるで、砲弾よりももっと大きな何かが、高速で駆け抜けていったような――
「――まさか!?」



    ◇



 いくら決着をつけに行くと言っても、正面から仕掛けるようなマネはしない。そんなのはただのやぶれかぶれの突撃だ。
 あくまで今までと同じ流れを装う。そしてチャンスを見つけ、一気に仕掛ける――ティーガーTの周囲を周回するように、突撃の隙を伺うW号に対し、ティーガーTは信地旋回を中心とした動きで、正面を維持したまま距離を詰めていく。
 そして、W号が進路を変更、車体ごとティーガーTを正面に捉え、
『撃て!』
 みほとまほが同時に号令、W号の砲撃がティーガーTの前面左部分に命中し、対するティーガーTの砲撃がW号の左側シュルツェン、吹き飛ばされずに残っていた部分を今度こそ根こそぎ吹き飛ばす。
 こちらの砲撃もティーガーTの正面装甲に弾かれてしまったが、かまわない。相手の再装填が終わる前に、背後をとって本命の一撃を叩き込めばいいのだから。
 一気に加速し、W号はティーガーTへと突撃。直前でわずかに左へ軌道を逸らしつつ旋回、右回りのドリフト走行でティーガーTの背後を狙う。
 対し、ティーガーTも信地旋回でこちらに向き直ろうとする――が、こちらの方が速い。足回りにかかる強烈な横向きの負荷で内側にあたる右履帯が限界を迎え、転輪が弾け飛び、履帯も千切れてその場に置き去りになる。
 それでも勢いを保ち、W号は相手の旋回よりも速くその背後に回り込んでいく――







 ――と、思われた。











 ガコンッ! と大きな音を立て、路面の段差に足を取られるまでは。



    ◇



「あぁっ!?」
 そんな声を上げたのは果たして誰だったのか――観客席で、ダージリン達はその光景に思わず息を呑んだ。
 引っかかったのは広場に敷かれた歩道の縁、境目を示すわずかな段差。徒歩はもちろん、戦車でも横切る分には問題ない程度のものだったが、横すべりしている最中に引っかかるには十分すぎた。
(足を取られた!)
(減速する――回り込み切れない!)
(最後の希望の糸が……!)
(完全に、切れた……っ!)
 ドリフトの負荷で足回りの死んだW号に、このトラブルは致命的だった。エクレールが、ケイが、アンチョビが、カチューシャが――大洗と戦い、絆を育んだ隊長達が作戦の失敗を予感し――



「いえ――」

「まだです!」



 明とダージリンは、まだわずかに残された希望のカケラに気づいていた。



    ◇



「きゃあっ!?」
 乗っている張本人なのだ。当然、自分の戦車に起きた異変には気づく――W号が路面の段差に引っかかった衝撃で、みほは思わず声を上げた。
 それが何か、まではわからないが、W号の足回りが何かに引っかかったことは理解できた。
 すなわち――
(つまづいた――!?
 ダメ! 届かない!)
 それは自分達が賭けに負けたことを意味していた。
(もう――どうしようもない!)
 足回りをつぶしてまで仕掛けた大博打。終われば当然動けなくなる。つまり、今残っている慣性を使い切れば、自分達はただの的へと成り下がる。成す術なくまほの砲撃を受けるしかない、ただの的に。
 減速しつつあるW号の車上で、みほは己の中から希望がこぼれ落ちる音を聞いた気がして――





















「あんこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうっ!」





















 その希望を、ギリギリで拾ってくれる人物の声を聞いた。
(――柾木くん!?)
 その声の主にはすぐに気づいた。
 そして、無線でなく肉声で聞こえたこと、さらにその呼び方の――誰かの名前ではなく、あんこうチームとチーム名で呼んだ、その意味にも。
 すなわち、あんこうチーム全員、まだできることがあるということ――そして、同じ結論に達した全員が、すでに自分達の役目を果たすべく動き出していた。
「沙織さん!」
「うん!」
 みほが声をかけた時には、沙織はすでに自分の傍ら、通信手席の乗降ハッチを開け放っていた。迷うことなくティーガーTに向けて放ったそれは――
(――閃光手榴弾!)
 歩兵道用の閃光手榴弾。気づいたまほが目を閉じ、顔を背けた直後、一帯を閃光が埋め尽くした。
 間一髪で目をそらしたおかげでまほは助かったが、車内の乗員達はまともに目をやられてしまったようだ。みほ達が何をする気かはわからないが、これでは即座に対応できない。
「麻子さん、“備えて”
 優花里さん、どうですか!?」
「わかった」
「装填完了!」
 車内に戻ったみほの指示に麻子がうなずき、優花里が装填完了を報告する――ちょうどそのタイミングで、ジュンイチが内側の棟の陰から中央広場へと飛び出してきた。
 その両手には握った拳、それぞれの指の間にはさんだ苦無手榴弾、四本ずつが両手に、計八本。
 すでに安全ピンの抜かれているそれらを、迷うことなく投げつけて――



 減速しつつあるW号の車体に、そのすべてが突き刺さった。



 ドリフトする戦車の、進行方向とは逆側、すなわち右側面に――直後、すべての手榴弾が炸裂し、“爆風がW号戦車を押し出した”
(失った勢いを、爆発の衝撃で補った――!?)
(たった八つの手榴弾でできることなのか――とでも思ってるか?
 確かに“静止状態から”動かすにゃあ力不足もいいトコだけどな――“すでに動いているその背中を押すだけでいい”なら話は別だよ!)
 時間にして一秒にも見たない刹那、目が合ったまほとジュンイチの思考が交錯する――その間に、勢いを取り戻したW号は、麻子の絶妙な操縦で姿勢を保ったまま、ティーガーTの背後に回り込む!
 ティーガーTはやはり反応できない。先程の閃光手榴弾で乗員の視力をマヒさせられていることもそうだが、まほもまた、W号が段差に足をとられた時点で、みほ達の最後の攻撃は失敗に終わったと思ってしまったからだ。
 あの状況、戦車“だけなら”完全に詰みだった。沈着冷静なまほであろうと勝利を確信してしまうのもムリはない――そこへきてまさかの再加速だ。勝利への確信は油断へと転じ、さすがのまほも驚愕から指示を出すのが遅れてしまった。
 そして――



 轟音が響いた。











 手榴弾の爆発、そしてその衝撃による強引な急加速――激しく揺さぶられる車内でも、華はずっと照準を合わせ続けた。
 麻子なら、絶対に姿勢を保ってくれると信じていたから。
 そして、麻子はそんな信頼に見事応えてくれた。次は自分の番だ。
 ティーガーTの背後に回り込んだW号が停車、砲身のブレが収まる一瞬を待つ。
 無限にも思えるほど長く感じる刹那の時の中、じっとその時を待ち――
(――――ここ!)
 引き金を引いた。轟音と共に撃ち出された砲弾が、ティーガーTの背後、エンジン部へと突き刺さった。
 直撃を受けたまほが目を見張る。この一撃、果たして自分達の戦車を撃破したのか否か――







 そんなまほの背後に、ジュンイチが降り立った。







 気づき、振り向いたまほの視界いっぱいに、ジュンイチの伸ばした右手が迫り――
「………………っ」
 何かに気づいたジュンイチが、その手を止めた。文字通りのまほの“目の前”、指が彼女の前髪に触れるほどの至近距離で。
 その理由はまほにもわかっていた――なぜなら、聞こえていたから。







 シュポッ、という、ティーガーTの白旗が揚がる音が。







 すなわち――

〈黒森峰フラッグ車、走行不能!
 よって――〉





















〈大洗女子学園の、勝利!〉



 すべての決着がついたことを、示していたから。



    ◇



「あー、終わったかー」
 最後の一撃の音はこちらにも届いていた――審判による宣言で試合の終了を知らされ、ナカジマは深く息をついた。
 何とか撃破されず、“壁”としての役割を果たし通すことができた。達成感をかみしめて大きく背伸びする。
「……よく、がんばったね」
 そして、背伸びして上に伸ばした手で、そのままポルシェティーガーの天井をなでてやる。
 本当に、ポルシェティーガーはよく持ちこたえてくれた。もし撃破されていたら、きっと黒森峰の戦車達は自分達を乗り越えて中央広場に殺到、一対一の状況を崩されたみほ達は成す術なく撃破されていただろう。
 そうならなかったのは、ひとえにこのポルシェティーガーのおかげだ。本当によくがんばってくれた。
「撤収が終わったら、きっちり治してあげるからね……」



    ◇



「……終わった、のか……?」
「勝った、の……?」
 そして、市街地でも足止めを買って出た三チームはなんとか生き残っていた。それぞれの戦車から顔を出し、典子や梓が呆然とつぶやく。
「やりましたよ、会長!」
「うん! 優勝だ!」
 ヘッツァーの車内でも、喜ぶ柚子に杏が返し――
「…………かはっ」
 感極まる余り、桃が意識を手放していた。
「わーっ!? 桃ちゃーん!」
「やれやれ」
 そんな桃をあわてて柚子が介抱する、そんな二人の姿に杏が肩をすくめて――
「…………ん?」
 ふと、のぞき窓の外が暗くなったのに気づいた。
 すぐそばに戦車が横付けされ、その影がかかったようだ。顔を出して相手を確かめてみると、
「まさか、私達が負けるなんてね」
 それは、因縁のヤークトパンターだった。顔を出してきた車長が杏に告げる。
「でも、次はこうはいかないわよ。
 再戦の時を、首を洗って待ってなさい」
「フンッ、じょーとー」
 突きつけられた再戦に向けての宣戦布告に、杏は不敵な笑みと共にうなずいて――
「また履帯さんざん吹っ飛ばしてあげるよっ!」
「ふざけんじゃないわよっ!
 だったらそうなる前に真っ先にアンタ達をやってやるーっ!」
「……会長、最近ますます柾木くんに似てきましたよね……」
 柚子からツッコまれた。



    ◇



「……ふぅっ」
 ティーガーTの白旗が揚がり、審判からの勝敗の宣告。その通信がブツリと切れた音からきっかり三秒――息をついて、ジュンイチはまほの目の前から手を引いた。
「悪いな、まほさん。
 オレ達の勝ちだ」
「……そのようだな」
 告げるジュンイチに答え、まほはため息をついてW号へと視線を向けた。
 まだ実感がわかないのか、みほはW号の車上で呆然としたまま――喜ぶ沙織に抱きつかれている妹の姿に笑みをもらすと、ジュンイチへと視線を戻した。
「まったく……お前達には本当に驚かされる」
「最後の連携のこと?」
「あぁ。
 まさか、足を取られた戦車を、手榴弾の爆発で再加速させるとはな。
 大洗では、日頃からあんな挙動の訓練を?」
「いや、アンタらウチを何だと思ってんのさ。
 さすがにあんなの練習してないよ――とっさの判断で仕掛けた即興だよ」
「アレを、何の打ち合わせもなくやってのけたというのか……!?」
「あぁ。
 アイツらなら、そのくらいやってくれると確信してたからな」
 思わず驚きの表情を見せるまほに、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「その上で、ダメ押しにお前自身も私を仕留めに動いていた、か……」
「何事にも絶対はない。
 絶対を確信した作戦も、何がきっかけでほころぶかわかったもんじゃねぇ――西住さん達の最後の攻撃が、足を取られて失敗しかけたみたいにな」
「まったく、慎重なのか大胆なのか……」
「ンなの決まってる」
 ため息まじりに苦笑するまほだったが、対するジュンイチは「今さら何を言ってるんだ」とばかりに迷わず答える。
「両方だよ。
 大胆に攻めたい。けどそれじゃリスクがデカイ。
 ならどうするか――答えは簡単だ」
“慎重に”対策を講じた上で、“大胆に”攻める――か」
 ジュンイチの言葉に納得し、まほはもう一度深くため息をついた。
「二重、三重に対策を重ね、最後の一撃を決めてもなお残心……まったく、イヤになるほど徹底的だな。
 マウスまで持ち出し、全力でお前達に勝とうとしたのに、それをはね返された上にここまで反撃の芽を摘まれてはな……」
 言って、まほはジュンイチをまっすぐに見据え、
「認めるしかないな。
 おめでとう。キミたc
「ストップ」
 しかし、ジュンイチは皆まで言わせなかった。人さし指でまほの唇を、彼女のセリフを押し留めた。
「他のヤツらが言ってくれるならありがたく頂戴するところだけど……」



「アンタがそのセリフを最初に贈るべき相手は、オレじゃないでしょ?」



    ◇



 唯一の通り道を擱坐したポルシェティーガーがふさいでしまっていたため、回収に時間がかかってしまった――足回りの大破したW号を牽引車で引いてもらい、みほ達が待機所に戻ってきた時には、すでに陽は大きく傾いていた。
「あぁっ! 先輩! みほさん!」
「お帰りなさい!」
「やりましたね!」
「すごいです!」
「カッコよかったです!」
 それに真っ先に気づいたのは、一足先に戻ってきていたウサギさんチームだ。梓を皮切りに、無口な紗希を除く五人が口々に声を上げながらW号のもとへと駆けてくる。
「みぽりん、降りよう」
「う、うん……」
 沙織に答え、みほはW号から降りようと車長席から立ち上がr
「……って、あ、あれ……?」
 しかし、立ち上がろうとしたところでその頬が引きつった。
「みほさん……?」
「ち、力が入らなくて……」
「しっかりしろ隊長」
 華の問いにみほが答え、麻子からツッコまれる。どうやら緊張の糸が切れ、安堵の余り腰が抜けてしまったらしい。
 と――
「まったく……そういうところは相変わらずだな」
 言って、みほに手を差し伸べたのはあんこうチームの誰でもなかった。
「お、お姉ちゃん……」
 そう、まほだ――W号の上に上がると、みほの手を取ってW号から降りるのを手伝ってやる。
「何やってるんだか。
 この後試合後のあいさつもあるし、さらにその後は表彰式だってあるのよ。
 勝った側のチームの隊長がそんなザマでどうするの。もっとしゃんとなさい」
 さらにエリカもいる――まほに支えられているみほの姿に、呆れながらやってくる。
「でも、お姉ちゃん……どうしてここに?」
「あぁ、柾木にな」
「柾木くんに……?」
「言われたよ。『真っ先に、お前に言ってやれ』とな」
 答えて、まほは改めてみほへと向き直り、
「優勝おめでとう。
 みほ達の勝ちだ」
「……うん!」
 言って、右手を差し出してくるまほにみほも応じ、二人は握手を交わす。
「みほらしい戦いだった。
 西住流とは違うが」
「そ、そうかな……?」
 まほの賛辞に戸惑うみほの反応は謙遜か、はたまた素で自覚がないのか――両方ありそうだから判断に困ると苦笑して、まほはみほに向けてうなずいてみせる。
「ところで会長さん」
 そんな姉妹の語らいの一方で、エリカは杏に声をかけた。
「アイツはどこ?」
「ジュンイっちゃんのこと?」
「そうよ。
 みほ達と一緒に戻ったって聞いたけど」
「そういえば見てないねぇ。
 え? 何? 愛の告白? 交際申し込み?」
「違うわよ!
 改めてリベンジ宣言するだけだからっ!」
 「またこのネタでいじられるのか」とうんざりするが、かと言ってこのメンツを相手に無視を決め込もうものなら彼女達の中で疑惑が事実にすり替えられかねない。オモチャにされてたまるかと、エリカは全力で否定する。
「あぁ、柾木くんなら……」
 と、今のやり取りが聞こえていたのか、みほが反応してきた。
 そんなみほが視線を向けたのはW号戦車だ――そういえばそもそも降りてくる姿すら見てなかったと思い出しながら、杏はエリカと二人で見に行ってみる。
 砲手席の乗降ハッチを開けて中をのぞき込んで――
「って、中で何してるかと思えば……」
「おやおや」
 いつも試合前に収まっている、車長席の傍らの空きスペース――すっかり自らの指定席と化したそこで、ジュンイチは間抜け顔を晒して眠りこけていた。
「さすがのジュンイっちゃんも、今回ばっかりは気が抜けたみたいだね」
「まったく。優勝したからって、みほ共々情けないったらないわね。
 寝顔に落書きしてやろうかしら」
「やめた方がいいよ。
 逆にこっちがオデコに『肉』って書かれた上にスマキにされて放り出されるのがオチだから」
「やけに具体的ね……やられたの?」
「………………」
 杏はプイと視線をそらした。



    ◇



〈優勝、大洗女子学園!〉
 フィールドに残された各戦車の回収も終わり、いよいよ表彰式だ。大洗の名が高らかに呼ばれて――
「……えっと……」
「あー、スンマセン。
 『男のオレが壇上に上がるのはどうか』っつったんスけど……『こんな大勢からの注目、ひとりじゃ耐えられない』ってウチの隊長がぐずりまして」
 優勝旗を手に困惑する日戦連のスタッフに、みほに連れられて――というか背中を押され、彼女を観衆からの視線から守る盾にされているジュンイチが苦笑まじりに答える。
 そんなワケで、みほと二人で優勝旗の授与を受け、表彰式はつつがなく終了。観客達も解散を始める中、大洗、黒森峰両校共にそれぞれの学園艦に帰るべく撤収作業に入る。
「この戦車でティーガーを……」
「えぇ」
「よくやってくれた」
「お疲れさまでした!」
 もちろんあんこうチームもだ。W号を前に優花里と華が勝利をかみしめ、麻子と沙織がW号を労う――そんな仲間達をみほとジュンイチが見守っていると、
「西住、柾木」
 ふと、そんな二人に声がかけられた。
 振り向くと、そこにいたのはカメさんチーム――声をかけてきた桃のとなりでは、柚子が今にも泣き出しそうなぐらいに感極まって涙ぐんでいるが、
「今回のお前達の活躍、感謝の念に堪えない。
 本当に……本当、に、あり……が……ありがt…………ぅわぁぁぁぁぁんっ!」
「桃ちゃん、泣きすぎだよぉ」
「桃ちゃんって言うなぁ〜っ」
 結局、先に“決壊”したのは桃の方だった。となりで自分に以上に大泣きされ、自分の涙が引っ込んでしまった柚子になだめられる。
 そんな親友達の一方で、杏はジュンイチとみほの前へと進み出て、
「西住ちゃん、ジュンイっちゃん。
 これで、学校、廃校にならずにすむよ」
「だな」
「私達の学校、守れたよ」
「…………はいっ!」
 杏の言葉にジュンイチが、みほがうなずき――杏もそこまでが限界だった。瞳を潤ませてうつむき、
「………………っ!」
 意を決し、地を蹴った。ジュンイチとみほ、二人の間に飛び込むように、二人を左右の手でそれぞれ抱え込むように抱きついた。
「本当に……本当に、ありがとう……っ!」
「いえ……こちらこそ……」
 それは、嬉し涙とはいえ泣き顔を見せたくないがための、彼女なりの精一杯の強がりか――二人の間の空間に頭を突っ込んだ形の杏の背を、みほは優しくなでてあげながらそう応える。
 そんな様子を、沙織や仲間達と共に見守っていた麻子だったが、
「…………ん?」
 ふと、自分に向けられた視線に気づいた。
 そど子だ――こちらが気づいたのを待って、取り出したタブレットを操作する。
 それは、風紀委員のデータベースに記録された、麻子の出欠席のデータだ――251日の遅刻、12日の欠席の欄にチェックを入れ――削除した。
「あなたの遅刻データ、全部消したわよ」
「お、おぉぉぉぉぉ……っ!」
 そど子の言葉に、麻子は驚き、目を見開いた。
 生徒会の提示した、戦車道履修の特典では、出欠席の見逃しは遅刻のみ、上限200日となっていたはずだ。
 なのにそど子は、251日の遅刻をすべて、さらに欠席まで含めてすべて消してくれたワケで――
「ぅおぉぉぉぉぉっ! ありがとうそど子ぉぉぉぉぉっ!」
「ぅえっ!? ちょっ!? 抱きつかないでよ!
 あとそど子って呼ぶなぁっ!」
 結果――感極まった麻子は喜びのあまりそど子に抱きついていた。あわてるそど子の姿に、パゾ美やゴモ代も笑みをもらす。
「次はがんばろう!」
「がんばるずら!」
「がんばるずら〜」
「まぁ……アンタ達はその前にリアルの戦車に慣れよう、うん」
 勝利の喜びをかみしめているのはみほ達の周りだけではない。今回目立った活躍のできなかったアリクイさんチームは次に向けて気合を入れている――が、ゲームとリアルの違いに戸惑っているようではそれ以前の問題だと観客席から戻って来たライカがツッコむ。
「私達もがんばるよ!」
「目指せ重戦車キラー!」
 ウサギさんチームもだ。梓の音頭に優季が続き――
『そして梓を柾木先輩のヨメに!』
「うん!
 ――って、コラーッ!」
 結局、いつものオチへとつながるウサギさんチームであった。
「今夜は徹夜して、自走できるぐらいには直すよ!」
「そうこなくっちゃ!」
「明日の、大洗に戻ってからのウィニングランには間に合わせなきゃね!」
「『自走できるところまで』どころか完全修理とかやりかねないからツッコんどくけど、まぢで自走可能レベルまで直したら切り上げてちゃんと寝ろよ、お前ら」
「徹夜はいい仕事の大敵ですからね」
 試合は終わったが自分達の仕事はこれからだと意気込むレオポンさんチームだが、そんな四人には青木と鈴香が無理をしないようにと釘を刺す。
「来年も戦車道やるぞーっ!」
『オーッ!』
「バレー部復活は……?」
 この先に向けて気合を入れるアヒルさんチームには崇徳がツッコミを入れる。そもそも彼女達が戦車道に参加したのは目立つ場でバレー部の勧誘を行う宣伝活動が目当てだったはずだ。せっかくのアピールチャンスも忘れて何をやっているのかと呆れるが――



「ハァ? 『来年』?
 何言ってんだ、お前ら?」

『………………はい?』



 心底意外そうに聞き返してきたジュンイチの言葉に、一同の目がテンになった。
 ものすごくイヤな予感がする――何しろ前にも一度、山場を乗り切ったところで似たようなリアクションと共に地獄を“おかわり”させられた経験があるだけに。
「え、えっと……柾木くん?」
「何“今年”はもう終わりみたいな顔してんだお前ら。
 まだ夏休み前だろうが」
 恐る恐る尋ねるみほに対し、ジュンイチも平然とそう返してくる。
「この大会のアフターイベントだけでもエキシビジョンマッチが夏休み中にあるし、本土の商工会のおっちゃん達、夏祭りでの奉納試合とか企画してやがるんだぞ。
 夏休みが明けたら明けたで、明けた直後には日戦連主催の優勝記念杯、その次は秋からの文科省主催の秋・冬季大会クリスマス・ウォーに備えて動き出さにゃならんし……まだまだ今年の戦車道だって終わりゃしねぇぞ」
 言って、ジュンイチは軽くため息をつき、
「それに……だ。
 お前ら……その様子だと、この大会で優勝したことの意味、わかってないだろ」
「優勝したことの……意味?」
「そんなの、学校を守れたってことじゃないんですかー?」
「確かにそうだけど……それは“オレ達だけに限った話”だよな」
 聞き返してくるあやと優季に、ジュンイチはため息まじりにそう答えた。
「でも……だ、そのために、『学校を廃校にさせないための口実を作る』って目的のために、オレらが何やったと思ってんだ?
 強豪・古豪を蹴散らして、高校戦車道界のトップに立っちまったんだぞ。
 どこの学校も、誰もが目指した、“たった一校しか立つことのできない頂きに”
『………………あ』
 ジュンイチの言っている意味を理解し、一同がそろって頬を引きつらせた。
「今、お前らの頭をよぎったこと、たぶん正解。
 連中の誰もが欲しがってる“高校戦車道界最強”の称号は、今オレ達の手の中だ――当然、てっぺんをあきらめてない連中からはこぞって狙われる。
 今まで“追いかける側”だったオレらは、これにてめでたく一転して“追われる側”に立っちまったワケだ」
「えっと、つまり……」
「今の我々は、戦国乱世、群雄割拠のド真ん中……」
「そーゆーこった。
 優勝したっつっても、死に物狂いの紙一重だ。実際の実力じゃまだまだ周りの学校の方が上なんだ。
 うかうかしてると、あっという間に狩られるぞ――特に、さっき挙げた大会・試合の内実に三つが地元開催だぞ。大洗の街のみなさんの前で赤っ恥かきたいか?」
『う゛っ……』
 ジュンイチの言葉――特に『赤っ恥』の部分に、大半のメンバーが心底嫌そうに顔をしかめて――
「そして何より……お前ら」



「戦車道、“選択科目のひとつとして履修してる”ってこと、忘れてないか?」



 付け加えられたその一言に、察しのいい若干名の顔から血の気が引いた。
「それがどうかしたんですかー?」
「ちょっ、桂利奈!」
 一方でわかっていない子もいる――首をかしげる桂利奈に、“察した側”のひとりであるあゆみがツッコミの声を上げた。
「今柾木先輩が言ってたじゃない!
 私達、授業として戦車道受けてるんだって!」
「うん」
「で、その前に夏休み以降の話してたよね!?」
「で?」
「だから!
 授業絡みで、夏休みとなると……」







「その前に期末テストでしょ!」







『………………あ゛』
 ようやく理解の追いついた面々も、先に気づいていた面々同様青ざめた。
「そういうことだ。
 このチームの主任教官はオレだってことで、オレがそれ絡みのアレコレ一手に任されちまってるんだよ。
 で、オレの成績はその試験関係の働きぶりで評価されることになってる」
「ま、柾木くんが試験官……!?」
「これ絶対厳しいヤツだよぉ……」
「ハッハッハッ、何をおっしゃる。
 いくらオレでも、教えたことがちゃんと身についてるかを確かめなきゃならん場で成果を発揮する間もなく叩きつぶすようなマネはしないよ」
「いや、今までが今までだから、その辺まったく信用ならないんだって、ジュンイっちゃんの場合」
 頬をひきつらせるみほや頭を抱える沙織に答えるジュンイチだが、そんな彼には杏がツッコんだ。
「だーいじょうぶだって。試験でムチャはやらせないよ。
 正式な依頼として受けてる以上、そこはちゃんとするさ」
「な、なら、いいんだが……」
 ジュンイチの言葉に、カエサルが安堵の息をつき――
「オレとしても、今後のお前らの課題を把握する絶好の機会を見逃すつもりもないしな。
 みんなのできるトコ、できてないトコをきちんと見て、今後の訓練に活かさんと」
「それ確実に今後の訓練キツくなるって言ってない!?」
「きちんと成果出しゃ問題ないだろ」
 沙織のツッコミに、ジュンイチはあっさりとそう答えて――
「今の内テスト対策きっちりやっとけー。出題内容以外なら、質問も個人指導も受けつけるから」
『個人指導……』
「何に反応したか聞いてもいいかしら、そこの数人?」
 誰とは言わないが、続く言葉にピタリと動きを止めた若干名の反応は風紀委員として見過ごせないと、そど子がジト目でツッコんで――
「とはいえ……だ」
 ジュンイチの“宣告”には続きがあった。
「こうして、事前に告知してる上にテスト対策への協力も確約してるんだ。
 もしこの期に及んで赤点なんてとるようなら……」



「夏休み中、補習と追試とデスマーチ第二弾だ。
 覚悟しておけよ」

『ヒィィィィィッ!?』



 一同の(notシリアスな)恐怖の悲鳴が響き渡った。



    ◇



「よーし、全車輌降ろしたなー?」
『はーい!』
 そして翌日、大洗駅前――列車の貨物車両から各チームが自分達の戦車を降ろしている中、ジュンイチが置き去りはいないかと声を上げる。
 そんなジュンイチに、一同が元気に返す――昨日ジュンイチからもたらされた期末試験(の赤点ペナルティ)への恐怖に関しては、みんなひとまず棚上げすることにしたらしい。
 一方、戦車の方はどの車両も見た目は完全に直っている――ように見えるが、完全に治っているのは足回りだけだ。
 その他はウィニングランのために体裁を整えただけの“間に合わせ”にすぎない。昨夜、足回りを直し終えた時点で(啓二によって強制的に)作業を切り上げて床に就いた自動車部の面々が、今朝一番、運搬列車に載せるまでの間に啓二や鈴香と共にここまで仕上げてくれたのだ。
 休息(強制)を挟んでもここまでの仕事をこなしてくれる自動車部には本当に頭が下がる――そんなことをジュンイチが考えていると、
「……帰ってきたね」
「あぁ」
 そんな彼に声をかけてきたのはみほだった。うなずき、ジュンイチは港の方へと視線を向けた。
「オレ達が守った……オレ達の帰る場所にな」
「うん!」
 学園艦の巨体は、ここからでも十分に確認できた。ジュンイチの言葉に、みほは笑顔でうなずき返して――
「柾木、行進の前に何か一言言ってやれ」
「だから! なんで教官のオレにそーゆーの振ってくるのさ!
 隊長の西住さんだろそこわっ!」
「ふぇえっ!?」
 桃から任された音頭取りは、ノータイムでジュンイチからみほへ受け流された。
 当然、一同からの視線は一斉にみほへと集まるワケで――
「え、えと、えっと……」
 表彰式の優勝旗授与の時にもジュンイチを同伴して盾にしたほど、未だに注目慣れできずにいるみほだ。たとえ仲間達からのものであろうと、注目を集めては落ちつけるはずもなく、
「……ぱっ、パンツァー、フォー!」
『オォ――ッ!』

 結局、慣れ親しんだ一言に落ちついた。



    ◇



 ウィニングラン、とは言うが、何のことはない。ただ単に大洗駅から学園艦に戻るための移動に際し、全国優勝を成し遂げた戦車道チームのその雄姿を一目見ようと地元の人々が進路沿いに集まっただけのものだ。
 だが、優勝したチームがあって、その帰還を出迎える群衆がいるのだから、誰が何と言おうとそれはウィニングランなのだ――そう主張したのはアヒルさんチームだったかレオポンさんチームだったか。
(どっちかっつーとウィニングランより優勝パレードだと思うんだけどなー)
 W号の上で揺られながら、ジュンイチがそんな経緯に対して内心でツッコむが、そんな彼の割とどーでもいい悩みをよそに、戦車は大洗の街を進んでいく。
「えっと……
 いいのかな? 私達まで同乗させてもらっちゃって」
「今さら何言ってるの? いいに決まってるじゃない」
「あずさちゃんや他のみんなだって、もう立派に私達大洗チームの一員じゃない!」
 一方、他の戦車にはブレイカーズの面々やあずさも同乗していた。M3に乗せてもらったあずさに、あやが、あゆみが答えて――優季が一言。
「それに、あずさちゃんはウチの梓の未来の義妹ちゃんだもんねー♪」
『ねー♪』
「もーっ!」
 相変わらずのチームメイト達に、最後まで振り回されっぱなしの梓であった。
 そして他の戦車でも――
「ねーねー、鷲悟ちゃん。
 聞いたよー。また黒森峰行くんだって?」
「まぁね。
 エリカから『また訓練見てくれ』って修行頼まれてるから」
 ヘッツァーに同乗するのは鷲悟だ。尋ねる杏に、件の話の詳細を思い出しながら答える。
「オレだけじゃないっスよ。
 ジーナは聖グロリアーナ、ライカはプラウダから誘われてるし……サンダースに至ってはまだ小学生のファイに声かけてましたよ。『非公式戦だけでもいいからいっしょにやらないか』って」
「まったく、どいつもこいつも、敵に塩を送るようなマネを……」
「いや、ジュンイチはともかくオレらは問題ないっしょ。大洗の生徒じゃないんだし」
 不満げなため息をつく桃に答えて、鷲悟は軽く肩をすくめてみせる。
「帰ったら、今度こそ戦車全部しっかり治すよ!」
「ポルシェティーガーもいじりたいしね!」
 その一方でいつものノリのレオポンさんチーム。ナカジマの言葉にホシノが返すが、
「ニトロ付けよう、ニトロ!」
「いや、ポルシェティーガーにニトロは意味ないでしょ」
「じゃあ他の戦車で!
 どれにする?」
「V突とかよくない!? 重心低いし!」
「レギュレーションに引っかかりますよー……」
「試合に出せなくなるからマヂでやめろ!」
 ツチヤやスズキも加わって危ない会話を始めたレオポンさんチームに、同乗している鈴香と啓二がツッコんだ。
「きっと帰ったらみんな優勝フィーバーで浮ついてるに違いないわ!
 今こそ風紀委員の出番よ!」
『はいっ!』
「やりすぎないであげましょうねー」
「何他人事みたいに言ってるの? キミも行くのよ?」
「何勝手に人を風紀委員の一員に仕立ててらっしゃる!?」
 カモさんチームは帰ってからの風紀委員活動の話――そしてツッコむ崇徳が当然のように巻き込まれた。
「次こそ活躍できるように、帰ったらゲームで練習しよう!」
「私達も」
「負けないずら〜」
「いや、だからアンタらまずリアルの戦車に慣れなさいよ!」
 アリクイさんチームはあくまでゲーム中心。そんな彼女達には昨日に引き続きライカがツッコむ。
「皆の者、勝ち鬨だ!」
『えいえいおーっ!』
 カバさんチームは相変わらずのノリだ。カエサルを中心に沿道に詰めかけた人々をも巻き込んで鬨の声を上げようとするが、
「…………誰もノッて来ませんね?」
「くっ、この振り上げた右手のやりどころはいずこに……っ!」
 人々の目当てはあくまで大洗戦車道チーム全体であってカバさんチーム単独というワケではない。ジーナにツッコまれて、音頭をとったカエサルが顔を赤らめてうめく。
「ぅえぇっ!?
 私がバレーボール!?」
「そう! やってみない!?」
 そして八九式の車内では、バレー部復活という当初の目的を思い出したアヒルさんチームによって――ファイが勧誘を受けていた。まだ小学生の、ファイが。
「でも私、ちゃっちゃいし……」
「大丈夫だよ! 私だって背低いけどちゃんとキャプテンできてるし!」
「それにファイちゃん、ジャンプ力すごいし!」
「背だってまだ小学生なんだから、これからこれから!」
「そもそも小学生を高校の部活に誘ってることに疑問持とうよ!」
「何言ってるの!
 サンダースのケイさんだってファイちゃんのこと誘ってるんでしょ!?」
「いや、ケイお姉ちゃんからの誘いは非公式戦限定ってちゃんと条件つけてくれてるからっ!」
 反論を試みるファイだが典子、あけび、忍から次々に返される――切り札のツッコみどころを持ち出しても妙子に一蹴されてしまう有様だ。
「……何やってんだか」
 そして各車共に、凱旋のために顔を出したそのままの状態でそんなやり取りをしているものだから、それらはすべてこの男の耳には筒抜けだ。どこまでも個性全開、フリーダム極まりない仲間達の様子に、ジュンイチはW号の上で苦笑して、
「ねぇねぇ!」
 と、そんな彼やみほ、あんこうチームのチームメイト達に、沙織が声をかけてきた。
「帰ったら何しようか?」
「帰ったら……か?」
 沙織のそんな問いに、ジュンイチは少し考えて、
「……とりあえずベッド行く。
 冷泉さんじゃないけど、今度ばっかりはぐっすり眠りたい――祝勝会の支度やら期末テストやらで忙しくなる前の今の内に」
「ハハハ……がんばってね……」
 その目が死んだ。遠い目をして答えるジュンイチに、手を貸してやれないみほは乾いた笑みを返すしかない。
「わたくしはお風呂に入りたいです」
「アイスも食べたいですね!」
「私も寝る」
「んー、じゃあ、私は……」
 華や優花里、麻子も口々に答える中、みほも自分はどうしようかと少し考えて――
「……戦車、乗りたいなー……」
 ポツリ、ともれた一言に、一同は思わずキョトンとして――次いで、一斉に吹き出した。
「え?
 な、何?」
「いえ、何でもありませんよ、西住殿」
「とってもみほさんらしいと思っただけですから」
 いきなり笑われ、戸惑うみほに優花里と華が答え、
「そーゆーことなら、明日以降でいいか?
 オレもご一緒させてもらいたい」
 不敵に笑って、ジュンイチも手を上げて立候補する。
「負けられない理由があったから今まで歩兵に徹してたけど、一度乗員サイドで戦車道やってみたかったんだよなー。
 いろいろ教えてくれよ、西住さん」
「わっ、私が!?」
「ウチに他に『西住さん』はいないだろ」
 ジュンイチに教えを請われ、驚くみほにジュンイチが答える。
「で、でも、私なんて柾木くんに比べたらぜんぜん……」
「そりゃ、単純な“強さ”として比べるなら負けてるとは思いたくないし、実際負けてないとも思うけどさ」
 ジュンイチに教えるなんて自分にはとても……と自信がなさげなみほに対し、ジュンイチは苦笑まじりにそう前置きして、
「でも、前にも似たようなこと言ったと思うけどさ、“戦車道選手”として見るなら、オレよりも西住さんの方がよほど上なんだぜ。
 何たって、屁理屈こねくり回してムリヤリ得意分野で押し切ったオレと違って、ちゃんと一から技術を学んで全国優勝するぐらいにまでなったんだからさ」
 言って、ジュンイチはみほの頭をなでてやる。
「これからも戦車道続けてくって決めたんだ。他の学校のみんなだって対策してくるだろうし、もっともっと強くならねぇと。
 オレや西住さんがみんなを強くしていく段階はもうおしまいだ――これからは、オレ達もみんなと一緒に強くなっていこうぜ」
「……うん!」
 ジュンイチに頭をなでられて真っ赤になっていたみほだが、ジュンイチのその言葉によって照れよりも戦車道へのやる気の方が上回ったようだ。笑顔でうなずいてみせる。
 そんなみほにうなずき返すと、ジュンイチはW号の上で立ち上がり、
「これからも、ずっと……もっともっと!」











「やろうぜ! 戦車道!」

『オーッ!』


 


 

 

 

 

 

 

To The Next Stage...

 

 

 

ガールズブレイカーパンツァー

4th stage
〜新しい出逢い編〜

 

COMING SOON


次回、ガールズ+ブレイカー&パンツァー

第37話「ムカデさんチーム……参る!」


 

(初版:2019/09/16)