「バーニング、エヴォリューション!
バーン、ガーディオン!」
レイラの叫びを受け、バーンローダーが変形を開始した。
まず、車体両横の装甲が上部に展開され、車体下部のバーニアで起き上がりながら、車体の後部が180度回転して伸び、つま先が起き上がって両足に変形する。
続いて、運転席が左右に別れて肩アーマーとなり、ボディ内部からドラゴン型のブレストガードが飛び出す。
肩アーマーとなった運転席の下部に収納された腕がスライド式に伸び、拳が内部から飛び出し、力強く握りしめる。
頭部が飛び出すと閉じられていたアンテナホーンが展開。額のクリスタルが輝き、ロボット形態への変形が完了する。
そして、コクピットのメインシートに座るレイラが両脇のクリスタルに手をかけ――そのクリスタルが光を放つ。
パイロットのイメージ通りに機体を動かす特殊インターフェイス、イメージ・トレーサーである。
システムが起動しカメラアイに輝きが生まれ、レイラが力強く咆哮した。
「完成! バァァァァァン、ガーディオン!」
――ズンッ!
音を立て、変形の完了したバーンガーディオンが大地に降り立つ。
「あれが……バーンガーディオン……」
それを見て、シャオが呆然とつぶやくと、
「何やってるの、シャオリン!」
そんなシャオに、ルーアンが声を上げる。
「あんなのが戦ったら、この辺だってシャレにならないわよ!
あたし達はジャマにならないところまで下がるわよ!」
「は、はい!」
ルーアンの言葉に同意し、シャオは軒轅で飛び立ち、戦闘エリアから離脱する。
それを見て、レイラはバーンガーディオンをストームデビルへと向き直らせ、
「さぁ……反撃開始よ!」
第3話
「鏡面空間」
竜巻鎧魔獣ストームデビル 渦潮鎧魔獣ウォルティガ 登場 |
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「くっ……! 向こうにも備えがあったとはな!」
ストームデビルと対峙するバーンガーディオンを前に、フウガはビルの上に着地し、
「だが、かまうことはない!
ストームデビル! 美しく始末してやれ!」
「グオォォォォォッ!」
フウガの言葉に従い、ストームデビルがバーンガーディオンへと襲いかかる!
「レイラさん!」
「わかってる!」
それを見て声を上げる太助に答え、レイラはイメージトレーサーのイメージ伝達クリスタルに手をかけ、
「一気に……片付けてやるんだから!」
言うと同時、彼女の操作で地を蹴ったバーンガーディオンがストームデビルとがっちりと組み合う。
が――
「おいおい、押されてるって!」
太助の言う通り、バーンガーディオンは次第にストームデビルのパワーに押され始めている。
「どういうこと!? 出力の伝達にムダが……!?」
うめいて、レイラはシステムを呼び出し――
「えぇっ!?」
その内容を見て驚きの声を上げた。
「ど、どうしたんだ!?」
「大問題があってね!」
太助に答え、レイラはバーンガーディオンを操り、
「けど、まずは――仕切り直す!」
ストームデビルの力を受け流し、そのまま相手の力を利用して投げ飛ばす!
地響きを立て、大地に倒れるストームデビルから距離をとると、レイラは通信回線を開き、
〈どうした? レイラ〉
「『どうした?』じゃないわよ!」
応答した刃に向けて、開口一番言い放つ。
「どういうことよ!? OSがこの間見せてくれた未完成版のままじゃない!」
〈新しいOSが届いていないんだ! そればっかりはどうにもならん!〉
「だったらなんで出撃させたのよ、コイツを!
OSもまともじゃない機体で、何ができるのよ!」
〈あのまま生身でやり合うよりはマシだろう!〉
レイラと刃がしばし言い争っていると、
「レイラさん、前!」
「くっ……!」
太助の声に、レイラはとっさにバーンガーディオンの身を沈め、ストームデビルの繰り出した爪をかわし、
「こん、のぉっ!」
そのまま打ち上げるように放ったアッパーカットで、ストームデビルを弾き飛ばす!
「とにかく、今のままじゃダメ。せめて武装だけでも把握しないと……!
ライブラリ!」
レイラが指示を出すと同時、レイラの手元のディスプレイに機体のシステムライブラリが表示される。
「武器、武器……」
つぶやきながら、レイラは懸命に武装を検索し、
「――あった!」
ようやくそれらしいファイルを見つけたのは、太助の指示に助けられ何度かストームデビルの攻撃をかわした後のことだった。
と――
「レイラさん、また来る!」
突進をかわされ、再びこちらへと向き直るストームデビルを見て、太助が声を上げる。
と――ストームデビルは肩のコブを開き、竜巻を生み出す!
「お、おい、飛び道具かよ!?」
それを見て、太助が声を上げるが、
「もう大丈夫、心配ご無用っ!」
言うなり、レイラはストームデビルに向けて左手をかざす。
「グオォォォォォッ!」
咆哮し、ついにストームデビルが竜巻を放ち――
「通じないよ!
リフレクト、ウォール!」
レイラの言葉に、バーンガーディオンのかざした左手を中心にエネルギーの壁が展開され、ストームデビルの竜巻を防ぐ。
「さぁ、次々いくよ!」
言って、レイラはリフレクトウォールを解除して右腕をかざし――その拳が真紅の光に包まれる。
「ブレイジング、ナッ、クル!」
ドゴォッ!
レイラの叫びと共に右腕のヒジから先がロケットパンチのように打ち出され、ストームデビルに叩きつけられる!
「よっし!」
思わず声を上げる太助だったが、ストームデビルは再び立ち上がり、彼らの乗るバーンガーディオンへと向き直る。
だが、今の反撃でこちらを警戒すべき相手だと判断したようだ。すぐに突っ込んでくるようなことはせず、こちらの出方をうかがうかのように観察してきている。
「さすがに、本能だけって言っても警戒してるわね……」
「けど、おかげで時間ができたな。
レイラさん、今のうちに武装のチェックをしといた方が……」
ストームデビルの様子をうかがい、太助はレイラに言うが、
「――ううん、もう十分」
そう言ってレイラはかまえ直し、
「もう心配ないよ。
ここからは、あたしに任せておきなさい!」
レイラが言うと同時――バーンガーディオンは大地を蹴り、ストームデビルへと突っ込む!
「ストームデビル!」
「グオォッ!」
対して、フウガの指示にストームデビルも爪を繰り出し――
「遅いっ!」
レイラは身を沈めてその一撃をかすめるようにかわし、ストームデビルの懐に滑り込む。
とたん、不完全な制御から来る機体への負担が、レイラの手元のディスプレイに次々に表示される。
(レッグモーター異常加熱、バランサー不安定、出力伝達系もいくつか焼き切れた!
けど――限界まで戦うつもりなんかない! これで決める!)
「ヒートシュナイダー!」
レイラの言葉に、バーンガーディオンは足の収納スペースから射出された一振りのナイフをつかみ――その刀身が赤熱し、
ズバァッ!
逆手にヒートシュナイダーを振るったバーンガーディオンの斬撃が、ストームデビルの喉笛を斬り裂く!
「やった!」
「まだ!
忘れたの!? こいつ、元々死骸なのよ!」
声を上げる太助にレイラが答え、ストームデビルの身体をサーチする。
(どこかに身体を制御する中枢核があるはず……どこに……!?)
レイラが胸中でうめき――センサーがそれを見つけた。
斬り裂かれた喉の奥から感知された、一際大きなエネルギー反応を。
それがおそらく中枢核なのだろう、レイラはそう見当をつけ、
「――そこだぁっ!」
ズガァッ!
そのまま、ヒートシュナイダーを反応の元――喉の奥に見える結晶体に突き立てる!
そして――
――ドガオォォォォォンッ!
ストームデビルの身体は大爆発を起こし、周囲はすさまじい爆風に包まれた。
「きゃぁっ!」
「くっ――!」
巻き起こる大爆発は、離れた場所に避難していたシャオ達の元へも爆風を向けていた。すさまじい爆風と煙に、シャオとキリュウはなんとか踏みとどまる。
「……大丈夫か? ルーアン殿」
「いったぁい……腰打っちゃったわよ……」
キリュウの言葉に、悲鳴を上げる余裕もなく吹き倒されていたルーアンが答えると、
「……太助様!」
爆煙の中から少しずつ姿を現し始めたバーンガーディオンに気づき、シャオが声を上げた。
「……た、助かったぁ……
一時はどうなることかと思ったよ……」
戦いに勝利し、緊張感が抜けたのか、太助はシートから身をずり落としながらそうつぶやく。
「やれやれ……なんとかなったわね……」
言って、レイラは通信回線をつなぎ、
「刃くん、なんとか片付いたわよ」
〈ご苦労様。
バーンガーディオンの回収はこちらで手配する。お前達は野次馬が来る前に引き上げろ。余計な詮索はされたくないだろ〉
「了解よ」
そして、通信を切り――レイラは太助が深刻な顔でモニターを見つめているのに気づいた。
太助の考えていることはレイラにもなんとなくわかった。
彼が見ているのは――戦いによって傷つき、最後のストームデビルの爆発で火の海と化した街並み。つまり――
「……『Rランサー』さえ完成していれば、こんなことには……」
ポツリとつぶやくレイラのつぶやきは、太助の耳に届くことはなかった。
「おのれぇ……いまいましい精霊どもめ……」
鎧魔城に帰還し、腕の手当てを済ませたフウガは苛立ちを隠しきれずうめいた。
そしてそれは、となりにいるラゴウも同様だ。
だが、それ以上に二人は焦りを感じていた。
幹部クラスである『鎧魔五獣将』の一角を担う自分達が立て続けに作戦を失敗したのだ。未だ姿を現さない彼らの主、ガイメルスの怒りをかなり買ってしまっているはずだ。
「このままではガイメルス様のお叱りを受けてしまうぞ。
どうする? フウガ」
ラゴウが言うと、
「フンッ、そんな逃げ腰でどうする」
「なんだと!?」
暗がりの中から突然かけられた言葉にフウガが激昂するが、ラゴウがそれを制する。
「何が言いたい? デプス」
ラゴウのその言葉に、声の主は暗がりから姿を現した。
水色の、魚のひれを思わせる装飾の施された生体装甲をまとった鎧魔である。おそらく彼も五獣将のひとりなのだろう。
ともかく、ラゴウにデプスと呼ばれたその鎧魔は嬉々とした口調で答えた。
「戦う前から悩んでいては、勝てる戦いも勝てんというのだ。
この次の作戦、この水将デプスに任せてもらおう」
それから数日――
「……これで、だいたいの改善は終わったな……」
パソコンのディスプレイに表示されたデータの羅列を見て、刃はそうつぶやいてコーヒーをすする。
今朝、ウルティメイト・アルケミスツの同僚から送られてきたものだ。
「バーンガーディオンの修理も終わったっていう話だし、この新しいOSをインストールすれば本体は完成だな。
後は……」
言って、刃が傍らに置かれた仕様書へと視線を落とすと、
ピンポーンッ。
「ん……?
はーい、はいはい」
突然の呼び鈴に対してそう答え、刃は玄関へと向かい、
「どちら様で……って、あれ? 太助……」
ドアを開けた向こうにいたのが太助だと知って声を上げる。
だが、それは彼の知る太助の様子とはずいぶん違う。何やら深刻そうに考えている。
「刃兄ちゃん……相談したいことがあるんだけど……今いいかな?」
「ん? うん、いいけど……」
そして、太助を自室に通した刃だったが――
「戦いたい!?」
「あぁ……」
話を聞いて思わず聞き返す刃に、太助は答えてうつむき、
「この間の2回の戦い……オレはどっちも見ていることしかできなかった……
シャオ達が、必死にオレ達のために戦ってくれてるのに……何もできなかった……」
そんな太助に、刃はしばし無言で頭をかいていたが、
「……あのな、太助」
真剣な表情で、刃は太助に向けて言葉を紡いだ。
「簡単に言ってくれるが、戦うっていう選択が、どれだけ重いものかわかって言ってるか?
オレや美咲は今まで、研究や各種の実験のために世界のあちこちを旅してきた。
その中には内乱真っ只中の国だってあった。それこそ死が日常の一部になってる国なんかもな。だからわかるんだ。
戦うということ、それ自体に善も悪もない――あるのは『死』と『破壊』だけだ。
たとえ正義をかざそうと、戦えば人は死に、街は破壊される。戦士になるからには、それを常に背負っていかなきゃいけないってことだ。
シャオちゃん達なんか特にそうだろう。主のために、時には戦うことを選ばざるを得なかった事だってあったはずだし、何より幾度となく主との死別に立ち会ってきた身なんだからな。
だが、お前に――その覚悟ができるのか?」
その刃の問いに、太助はしばしの沈黙の後に答えた。
「……よく、わからない。
けど……これだけは言える。
覚悟のあるなしなんかじゃない。そんなものに縛られて……シャオ達や、レイラさんにだけ背負わせたくないんだ。
シャオ達にはいつも笑顔でいてほしい。そのために、オレが背負うものを少しでも肩代わりしてあげられるなら……オレはきっと戦えると思う」
そう刃に答える太助の目は、まっすぐに彼だけをとらえていた。
そこに恐れやためらいはない。揺らぐことのない決意だけがその視線に込められていた。
「………………」
そんな太助に、刃は思わずため息をつき、
「……まったく、強くなったよな、お前ってさ」
「それだって、シャオ達のおかげだよ」
刃の言葉に、太助は思わず苦笑してそう答える。
そんな太助に笑みを返し、刃はパソコンを立ち上げ、
「とにかく、そういうことなら、ちょっと時間くれないか?
いくつかアイデアはある。ただ、それを形にするには少しかかるんだ」
「それはかまわないけど……」
太助が刃に答え――
「――ん?」
ふと、傍らに置かれた書類に気づいた。
先ほど刃が見つめていたあの仕様書である。
「……Rewriting……Lancer……?」
表題をなんとか理解し、太助がつぶやき――
ピンポーンッ。
またもや玄関の呼び鈴が鳴った。
そして、5分後――
「あー、ひとつ聞きたいんだけど……」
「ん?」
買い物から戻った美咲の問いに、ソファに座る太助が振り向く。
「……たーくんの周囲って、今までいっつもこんなんだったの?」
「もう慣れたよ」
その、どこかあきらめに似たものすら感じられる言葉に、美咲は視線を戻し――
「つまり、いつもはたーくんちがこうなってたんだ……」
押しかけてきたたかし達がバカ騒ぎを繰り広げるリビングを見渡し、心の底からため息をつく。
「すみません、美咲さん」
「いや、別に不満があってため息ついてるワケじゃないからいいんだけどね」
そんな姿に思わず謝るシャオに、美咲はそれを手で制して答える。
「ただ……戸惑っては、いるかな?」
「戸惑う……?」
美咲の言葉に聞き返すシャオだが、太助は気づいたようだ。ソファの座ったままの姿勢で「あっ」と驚きの表情を見せている。
それに気づき、シャオがその意味を問い質そうとした、ちょうどその時、
ファンファンファンファンッ!
突然、室内に警報が響いた。
鎧魔の出現に対応できるように刃が設置した、レーダーと連動した警報装置である。
「鎧魔!?」
「らしいわね!」
驚いて声を上げる美咲に答え、ルーアンはすぐさま立ち上がってリビングを飛び出していく。
「私達も!」
「あぁ!」
口々に言って、シャオとキリュウも出て行くのを見送り――太助は刃の元へと向かうたかし達に気づかれないよう、こっそりと裏口へと向かった。
「――あれは!?」
軒轅で現場へと急行し――現場の様子を目の当たりにしたシャオは思わず驚きの声を上げていた。
一体何があったのか、辺り一面水浸しなのだ。
周囲には磯の香りが立ち込めている。どうやらこの水は下水か川か、とにかく水路を介して海からもたらされたもののようだ。
「何なのよ、コレ!?」
「わからない。
これが鎧魔の仕業であるコトは間違いないとは思うが――」
声を上げるルーアンにキリュウが答えた、次の瞬間――
――バシャァッ!
突然、水中から何本もの銛が飛び出し、シャオ達へと襲いかかる!
「軒轅!」
シャオの指示で軒轅はとっさに上昇、キリュウとルーアンもそれにならって上昇して銛をかわすが、銛は退避したシャオ達へと狙いを定め直し、さらに水中から放たれる。
「くっ! 敵は水中ですか……!
それなら!」
うめいて、シャオは水面に向けて支天輪をかまえ、
「来々、雷電――」
「わぁぁぁぁぁっ!
シャオリン、ストップ、ストップ!」
こともあろうに雷電を呼び出そうとしたシャオを、ルーアンがあわてて止める。
「何考えてるのよ!
あんなトコに雷電なんてぶちかましたら、どうなるかわからないの!?」
「あ……すみません……」
ルーアンに言われて、我に返ったシャオが素直に謝罪するが、
「何をしている! 来るぞ!」
キリュウが叫ぶと同時、銛がシャオ達へと襲いかかる!
レスキュー隊から借りたモーターボート(なぜか刃の名前を出したらあっさりと貸してもらえた)で戦場の近くまでたどりつき、太助はビルの非常階段に飛び移り、一気に屋上へと駆け上がった。
屋上からは、水中から次々に飛び出してくる銛をシャオ達が必死にかわしているのがよく見える。ここなら問題ないだろう。
「シャオ!」
「太助様!?」
声を上げた太助の言葉に、シャオは驚いて声を上げる。が――太助はかまわず続けた。
「天鶏だ!
水面に向かって、天鶏を叩き込め!」
「天鶏を……?」
太助の言葉に、シャオは思わず疑問の声を上げ――すぐに太助の狙いに気づいた。
「わかりました!
来々、天鶏!」
叫んで、シャオは支天輪から天鶏を呼び出し――全身を炎で包んだ天鶏が水面に突撃。瞬時に水を蒸発させ、周囲を多量の水蒸気で包み込む。
もちろん、この程度でこの大量の水がなくなるワケではない。だが――この水蒸気のおかげで敵からこちらは見えなくなったはずだ。
「ルーアン!」
続けて、太助はルーアンにいくつかの小石を投げ渡し、
「それに陽天心をかけて水中に放り込め!
敵の位置を探るんだ!」
「オッケー、たー様!
陽天心、召来!」
太助の言葉に、ルーアンは小石に陽天心をかけて放り出し、陽天心小石軍団は水中に飛び込んでいく。
そして、すぐにその内の一体が水中を高速で動き回る影を見つけ、ルーアンへと念波で位置を伝えてくる。
「――見つけた!
そこの交差点の真ん中!」
「わかった!」
ルーアンの言葉に、キリュウは短天扇を元のサイズに戻して手にし、
「万象大乱!」
目標の周囲に散らばるガレキや車を次々に巨大化させ、一帯を巨大化したオブジェクトで完全に取り囲んでしまった。これで敵は水上に出てこない限り移動はできなくなった。
「よし!」
そのすぐそばのビルの屋上に飛び移り、太助が水面を見下ろして声を上げ――
――ザバァッ!
水中から、攻撃の主が太助目指して飛び出してくる!
「ぅわぁっ!」
あわてて太助が飛びのくと、敵の爪が太助のいた位置の手すりを粉砕、そのまま敵は屋上に着地した。
映画で見る半魚人がそのまま形になったかのような、見ただけで水棲だとわかる鎧魔獣である。
「お前か! 余計な入れ知恵してくれたのは!
よくもジャマしてくれたな!」
叫んで、鎧魔獣が太助へと襲いかかり――
バギィッ!
次の瞬間、攻撃を繰り出した鎧魔獣の方が逆に吹っ飛ばされていた。
「え……?」
攻撃を受けることを覚悟していた太助が呆然と声を上げ――
「ま、遅刻のお詫びは今の一発で勘弁してもらいたいものね」
言って、太助の前でレイラが自らの蹴り足を収めた。
「レイラさん!?」
「まったく……事情は刃くんから聞いてたけど、ムチャしてくれるわね……
フォローを任されるこっちの身にもなってよ」
「って、レイラさん、敵、敵!」
「いいわよ。モロに目ェ回してるから、当分は起きないわよ」
驚く太助に言い、レイラはため息をつき、
「とは言っても、キミってばすぐムチャするし……
こうなったら、この子を預けておいた方がいいかな?」
「この子……?」
思わず聞き返す太助だが、レイラはかまわず轟天剣をかまえ、
「招来――閃竜!」
レイラの言葉と同時、轟天剣の柄に収められた宝玉から光があふれ――それが形を作り出し、小さな子ドラゴンとなった。
いや、翼を持たずやや前傾姿勢なその姿は、SDサイズのT-REXと言った方が適切だろうか。
「この子は……?」
「あたしの使役する『鎧神』の一体、閃竜よ」
尋ねる太助に答え、レイラは彼に説明を始めた。
「この子達はシャオちゃんの星神と同じくあたしのサポートをしてくれるんだけど、ちょっと特殊な能力があってね。
閃竜――鎧装!」
そのレイラの言葉に、閃竜が再び光に変わり、太助の身体にまとわりつき――次の瞬間、太助の身体を守る鎧へと姿を変えた。
「なるほど……鎧になるから『鎧神』なのか」
「そういうことだよ」
そう太助に答えたのは、レイラの声ではなかった。
太助の身体に装着された、閃竜の声である。
「お前、しゃべれるのか?」
「うん。よろしくね」
太助の問いに閃竜が答えると、
「ぐ、おのれ……!」
「あ、気がついた」
うめいて起き上がる鎧魔獣に気づき、レイラが声を上げる。
「太助様には、指一本触れさせません!」
言って、シャオが支天輪をかまえるが、
「待ちなさい!」
レイラの一喝が彼女の動きを制した。
そして、レイラは太助へと向き直り、
「太助くん。
キミも鎧魔と戦うって言うなら……これから先、ちょっとシャレにならない事態になるわよ。
それでもいいって言うなら――その覚悟、見せてみなさい」
「……OK」
レイラに答え、太助は両手を打ち合わせながら鎧魔獣へと歩を進める。
「た、たー様!?」
あわててルーアンが止めようとするが、
「ま、待ってくれ、ルーアン殿!」
なぜか戸惑いを感じながら、キリュウが彼女を止めた。
「何よ!?」
「いや……」
ルーアンの問いに、キリュウは返事に窮していたが、やがて告げた。
「なぜかはわからないが……なぜか、不安に思えない……
何というか、私の意志とは無関係なところで、私が主殿の勝利を確信しているような……」
「ってなワケで、お前の相手はオレだぜ!」
鎧魔獣に向けて指を突きつけ、太助は高らかに宣言する。
「はっ! 人間ごときが、この水将デプス様が配下、ウォルティガ様とやり合おうってのか!?」
対して、鎧魔獣は――ウォルティガはそんな太助の態度が余裕に見えたらしい。不服げにうめく。
だが、太助はそれでも笑顔で告げた。
「あぁ、そのつもりだぜ」
「――――――っ!
ふざけんなぁっ!」
叫んで、ウォルティガが突っ込み、右手の爪を繰り出すが、
「くらってたまるか!」
太助は身をひるがえし、その攻撃をかわしながらその背後に回り込み、逆にウォルティガの背中へと渾身の拳を叩き込む!
「ぐはぁっ!?」
殴り飛ばされ、たたらを踏みながらもウォルティガは太助へと振り向き――
「遅いっ!」
すでに太助は間合いを詰めていた。拳が、蹴りが、次々にウォルティガに叩き込まれる!
キリュウの試練によって鍛えられた太助にとって、こちらをただの人間と侮っているウォルティガなど敵ではなかった。その動きはウォルティガを完全に圧倒している。
そして、
バギィッ!
決定的な一打がウォルティガのアゴをとらえた。ウォルティガは完全に平衡感覚を失い、その場に崩れ落ちる。
「太助、とどめ!」
「あぁ!」
閃竜の言葉に答え、太助は腰アーマーに装備された剣の柄を取り外し――その柄から光があふれ、光の刃を作り出す。
「いっけぇっ!」
そして、咆哮と同時に大きく跳び――落下の勢いも加え、ウォルティガを一気に両断する!
着地と同時――太助はストームデビルが倒された後どうなったかを思い出し、とっさにバックステップで距離をとり、
――ドォォォォォンッ!
ウォルティガは大爆発を起こし、水上にその肉片をばらまいた。
「……ま、油断していたアイツではこんなものか」
部下が敗れたというのに、それを眺めるデプスは冷静だった。
ウォルティガが油断していたのは見ていてわかった。敵を侮っていたのでは敗れても文句は言えない、それがデプスの考え方だった。
「だが……もう一度チャンスを与えてやるくらいは、かまわんか」
そう言うと、デプスは流れてきたウォルティガの肉片にそれを注いだ。
先日の戦いでフウガがストームデビルを巨大化させた薬品――リビングデッド・ポーションである。
「太助様!」
ウォルティガを倒し、一息つく太助にシャオが駆け寄ってきた。
「やったな、主殿!」
「まったく、心配させないでよ」
続いてキリュウとルーアンも駆け寄ってきて口々に言うが、
「ほらほら、油断しないの」
そんな彼らにレイラが言う。
「まだ、終わってないわよ」
そうレイラが告げると同時――ウォルティガが巨大化して復活する!
「やっぱりね……
けど、こっちだって!」
言って、レイラはガーディアンブレスに向けて叫んだ。
「発進! バーンローダー!」
レイラのその叫びは、ガーディアンブレスによって命令信号となって送信され、それを受けたバーンローダーが格納庫内で起動した。
そして、バーンローダーの起動に伴って格納庫のシステムも起動し、内部が明るく照らし出される。
バーンローダーの前方にあるハッチが開き、その先に伸びる道が現れ――バーンローダーはゆっくりと走り始めた。
そして、完全に格納庫から出るとバーンローダーは一気に加速し、一路鶴ヶ丘へと向かう。
やがて、ウォルティガによって水没したエリアに差し掛かるが、
――ブォッ!
車体下部のバーニアを噴射し、ホバー走行で水上を走ってくる。
「よぅし、行くわよ、太助くん!」
「あぁ!」
『バーニング、エヴォリューション!
バーン、ガーディオン!』
コクピットに乗り込んだ太助とレイラの叫びを受け、バーンローダーが変形を開始した。
まず、車体両横の装甲が上部に展開され、車体下部のバーニアで起き上がりながら、車体の後部が180度回転して伸び、つま先が起き上がって両足に変形する。
続いて、運転席が左右に別れて肩アーマーとなり、ボディ内部からドラゴン型のブレストガードが飛び出す。
肩アーマーとなった運転席の下部に収納された腕がスライド式に伸び、拳が内部から飛び出し、力強く握りしめる。
頭部が飛び出すと閉じられていたアンテナホーンが展開。額のクリスタルが輝き、ロボット形態への変形が完了する。
そして、コクピットのメインシートに座るレイラが両脇のクリスタルに手をかけ――そのクリスタルが光を放つ。
パイロットのイメージ通りに機体を動かす特殊インターフェイス、イメージ・トレーサーである。
システムが起動しカメラアイに輝きが生まれ、太助達二人が力強く咆哮した。
『完成! バァァァァァン、ガーディオン!』
――ズンッ!
ビルの屋上に着地し、バーンガーディオンがウォルティガと対峙する。
それを見て、ウォルティガは大きく咆哮するとその手の中に銛を生み出し、バーンガーディオンめがけて投げつけてくる!
「くっ、リフレクト、ウォール!」
とっさにレイラはリフレクトウォールを展開し、ウォルティガの放った銛を防ぐが、
ズドドォッ!
弾かれた銛は次々に周囲のビルに叩きつけられ、街並を破壊していく。
「しまった! この防御じゃ――!」
レイラが思わず声を上げるが、ウォルティガはさらに銛での攻撃を続ける。
「レイラさん、このまま防いでたんじゃ街が壊される!
バーンガーディオンなら、この程度の攻撃じゃビクともしないんだろ!? このバリアを解除して、機体で受け止めるしか!」
「簡単に言ってくれるけど、機体は無事でも、中にいるあたし達はそうはいかないのよ!」
提案する太助に、レイラは表情に焦りを隠しきれずに答える。
「元々このリフレクトウォールは、エネルギー系攻撃を反射するためのバリアシステムであって、実体弾や物理攻撃向きじゃないの。
そういう類の攻撃は、機体を覆ってるもうひとつのバリア、フォールディングアーマーで防ぐことになってたから……」
「だったらそいつで!」
「悪いけどそれもムリ。
まだ制御システムが不完全のままで、コクピット周りのフォールディングアーマーすら安定してないの。
こんな状態で攻撃の防御までやろうもんなら、間違いなくジェネレータが焼き切れちゃう。そうなれば、あたし達は攻撃の衝撃をモロにくらって、コクピットの中でミンチ決定よ」
さらなる太助の提案も、レイラはやはり却下する。
「せめて、制御システムだけでもアップグレードできれば……!」
「だったらやってくれよ! どこぞのガンダムシリーズの主人公みたいに!」
「できるワケないでしょ、そんなの! あたしはプログラムは専門外なのよ!
完成版のOSディスクはあるから、後はインストールするだけだけど、戦いながらじゃとてもできないわよ!」
太助の言葉に、レイラは力いっぱい言い返す。
「せめて、バーンガーディオンを思いっきり動かせる状況に持ち込まないと……!」
そうつぶやくと思考を巡らせ――レイラは決意した。
「……よぅし、刃くん!」
言って、レイラは刃へと通信回線をつなぎ、
「こうなったら四の五の言ってられない!
『Rランサー』を使うわよ!」
「ほ、本気か!?」
レイラからの通信に、刃は思わず声を上げた。
「アレはやっとシステムが完成したばかりなんだ!
微調整もなしに使えるシロモノじゃないんだぞ!」
〈けど、他に被害を抑える手はないでしょ!? やるしかないわよ!〉
反論する刃だったが、レイラも譲らない。毅然と言い返してくる。
「刃さん、『Rランサー』とは?」
「巨大鎧魔獣との戦闘の際、周囲への被害を最小限に抑えるためのバーンガーディオン用特殊ツールだ。
まだシステムが完成したばかりで、使うには危険が伴うシロモノだ」
尋ねる出雲に刃が答えるが、その通信に割り込んできた者がいた。
〈刃兄ちゃん、オレからも頼む!〉
太助である。
〈何かは知らないけど、被害を抑える手があるんなら使ってくれ!〉
「し、しかし……」
それでも渋る刃だが、レイラは自信と共に言った。
〈いいから信じて!
そうするしかないでしょ、今は!〉
「……信じて、いいんだな? お前達を……」
尋ねる刃に、太助とレイラはディスプレイ上でしっかりとうなずいて見せる。
その二人の答えに――刃はしばしの黙考の末に答えた。
「……いいだろう。
すぐに連絡をとって準備させる!」
それからすぐ、バーンローダーの隠されていた山に異変が起きた。
突然山の中腹に設置されていた隠しハッチが開き、中から巨大な大砲が現れたのだ。
――いや、基部にはまるでリボルバーの弾倉のような、砲身にカプセルを送り込むシステムが存在している。大砲というより拳銃である。
これぞ、バーンガーディオンをサポートする各種ツールを射出するカタパルトシステム、その名も『カタパルトリボルバー』である。
そして、そのシリンダーがゆっくりと回転すると砲身にカプセルのひとつを送り込み、
――ドォォォォォンッ!
轟音を立て、カタパルトリボルバーからカプセルが射出された。
「――来た!」
高速で鶴ヶ丘へと飛来するカプセルの姿をモニター越しにとらえ、レイラが声を上げる。
「いくわよ!」
言って、レイラはバーンガーディオンの背部バーニアを吹かして上昇させ――彼女の接近をセンサーで感知したカプセルが自動で破裂、中から飛び出してきたそれをバーンガーディオンがキャッチした。
バーンガーディオンにサイズを合わせた、片刃の槍である。
「これが?」
「そう。これがあたし達の戦いのカギ――
リライティングランサーよ!」
レイラが太助の問いに答え、バーンガーディオンが彼女の操作でリライティングランサーをかまえる。
「け、けど、これでどうやって被害を抑えるんだよ!?
どう見たって武器だろ、コレ!」
太助が言うが、レイラは笑って、
「ご心配なく♪
何しろこいつは……こうやって使うんだから!」
言うと同時、レイラはリライティングランサーをかまえ――その刃の周辺の空間が歪んでいく。
そして、レイラは大きくランサーを振り上げ、
「フィールド、リライティング!」
咆哮と共にランサーを振り下ろし――その軌跡から光があふれた。
「………………っ!」
突如リライティングランサーから放たれた光に思わず目を背けていたシャオは、光が収まったのを感じて目を開き――
「こ、これって……!?」
そこに広がっていた光景を見て声を上げた。
そこは、今まで彼女達がいた街中と何ら変わることはなかった。
いや――“変わっていないのが街並みだけ”だというべきか。
さっきまでどうすることもできずビルの中で巻き添えを恐れていた人々の姿はどのビルの中にもなく、そこにいるのは彼女達三精霊とデプス、そして対峙するウォルティガとバーンガーディオン。それだけである。
それに空も、さっきまで青空が広がっていたにも関わらず真っ赤に染まっている。
「ど、どうなってるのよ、これ……」
「わからん……ここはいったい……?」
戸惑っているルーアンにキリュウが答えると、
「これって……」
何かに気づいたようだ。シャオがつぶやくように告げた。
「……空間そのものに、さっきとは違う違和感のようなものがありませんか?
今私達がいる場所は、今までいた場所とはどこか違う――まるで……街並みだけが同じ、別の世界にいるような……」
そのシャオのたとえは間違ってはいなかった。
巨大鎧魔獣との戦闘を想定してバーンガーディオンの開発に着手した時点で、ウルティメイト・アルケミスツの面々は周囲に及ぶ被害の抑制手段の必要性をすでに懸念していた。
そして用意された対策こそが、今バーンガーディオンの手の中にある空間“上書き”ツール、リライティングランサーだ。
このリライティングランサーを使用することによって、一時的に周囲の空間を丸ごと並列空間のそれと入れ替え、周囲への被害を回避することができるのである。
つまり、彼女の仮説通り、今彼女達がいるのは、様相こそ同じでもまったく生命体の存在しない並列空間――鏡面空間なのだ。
「ここでなら思いっきり暴れられるってもんよ!
あとはOSをインストールすれば……!」
言って、レイラがインストールディスクを取り出すが、
「グオォォォォォッ!」
「きゃあっ!?」
モリを次々に作り出し、投げつけてくるウォルティガの攻撃を、レイラの操るバーンガーディオンはあわてて回避する。
「クッ、思いっきり暴れられるのは向こうも同じってワケか……!」
再びモリを作り出すウォルティガを前に、太助は思わず毒づいて――
「………………ん?」
太助はふとあることに気づき、レイラに尋ねた。
「……なぁ、レイラさん」
「何よ?」
「この機体の操縦って……オレの席からでもできるのか?」
「シート左右のクリスタルに手を乗せて。
そうすればイメージを読み取って――って、ちょっと、太助くん!?」
太助に答え――彼の意図に気づいたレイラは思わず待ったをかける。
「まさか太助くん、動かすつもり!?」
「それしかないだろ! 状況変えるにはさ!
オレがこいつを動かして時間を稼ぐから、レイラさんはそのスキにインストールを!」
レイラに答え、太助は彼女に言われた通り、シート左右のクリスタルに手をかける。
「だからって、できるかどうかを考えてよ!
イメージ・トレーサーはね、使うのに精神力をバカ食いするのよ!
初陣の太助くんに、そんな精神力が――」
レイラが太助に言い返し――
――ガクンッ!
突然、彼女を強烈な虚脱感が襲い、それと同時に機体の制御ができなくなる!
「なっ……!?」
驚いて、レイラが太助へと視線を向けると、太助の手の下でイメージ・トレーサーのイメージ伝達クリスタルが輝きを放っている。
(う、ウソ!? システムを起動しただけじゃなくて、あたしの使ってた制御系を乗っ取ったっていうの!?
戦ったこともなかったはずなのに、どういう精神力してるのよ、この子って!)
驚愕するレイラだったが、当の太助は落ち着いたもの。レイラの操縦を傍で見ていて覚えていたのか、リフレクトウォールも安定させたまま、空いている右手を振って操作性を確かめている。
「……よし、これならいけそうだな……
レイラさん、これって、オレがさせようと思った動きをそのまま再現してくれるんだろ?」
「え? う、うん。
基本的に、パイロットのイメージを正確に再現してくれるけど……
ただし、気をつけてね。さっきも言ったけど、制御システムはまだ不完全なままなの。ムリな動きをさせたらあちこちシステムがイカれちゃうから」
「あぁ!」
レイラの言葉に太助が答え――太助の身体がプレッシャーのような圧力を感じる。彼の元にコントロールが完全に移され、機体の感じている抵抗が太助の意識にプレッシャーという形で現れたのだ。
そして、レイラは完成版OSのインストールのために緊急用のサブシステムを呼び出す。現在使用しているメインシステムのアップデートを効率よく動かすため、一度メインシステム自体の処理を完全に停止させるつもりなのだ。
一方、太助はこちらへの攻撃を再開したウォルティガの銛をかわし、ビルに突き立てられたそれを引き抜くとウォルティガに向けて投げ返す!
が、ウォルティガも負けてはいない。今度は口腔内から水竜巻を放ち、太助の投げ返してきた銛を叩き落す。
「レイラさん!」
「50%完了! まだムリ!
武装とかもほとんど使えないしリフレクトウォールもアウト! なんとか今のまま持ちこたえて!」
太助の言葉にレイラは即答する。
対して、ウォルティガは積極的に攻めてこないバーンガーディオンに対して優位と感じたか、次々に銛を生み出しては投げつけてくる。
(出力伝達系、動力部冷却プロセス、更新完了――
機体自己診断プログラム、再インストール――)
画面をにらみつけながら、レイラは少しでも処理の完了を早めようとリアルタイムでインストーラを操作、後に控えるアップデートの効率を上げるべく的確に必要なシステムをインストールしていく。
しかし、そうしている間にもウォルティガは攻撃の手を緩めない。このままでは――
「レイラさん! さすがにそろそろヤバい!」
さすがに限界が近いのを感じたか、太助が声を上げるとウォルティガは接近戦を挑もうと地を蹴り――
「――更新完了!
太助くん、全力戦闘解禁!」
「おっしゃあぁっ!」
レイラの叫びに太助が答えた、次の瞬間、
――ドガァッ!
突っ込んできたウォルティガは、再びメインシステムが立ち上がったバーンガーディオンの拳で顔面を打ち抜かれていた。
「よくも好き勝手やってくれたな!
今度はこっちからいくぜ!」
太助が叫ぶと同時、バーンガーディオンは太助の操作で右腕を腰だめにかまえるとレイラがそこにエネルギーを集中させ、
『ブレイジング、ナッ、クル!』
ドゴォッ!
二人の叫びと共に右腕のヒジから先がロケットパンチのように打ち出され、ウォルティガに叩きつけられる!
そして、太助はウォルティガに向けて跳躍、右腕を回収しつつ間合いを詰め、先の一撃でたたらを踏むウォルティガを蹴り飛ばす。
しかし、ウォルティガは追撃を受けながらもなんとか踏みとどまり、バーンガーディオンに向けて右腕の爪を振るうが、
「――甘い!」
その攻撃にはレイラが機敏に反応した。紙一重で顔面を狙ったその一撃をかわすと逆にその腕をつかみ、一本背負いで投げ飛ばす!
ウォルティガの巨体がビルへと倒れ込み、ガレキの下へ消えたのを見て、太助は一旦間合いを取り、
「レイラさん、とどめだ!」
「OK!」
「バーニングブレード!」
太助が叫び、バーンガーディオンの両足の収納スペースから2本の剣――バーニングセイバーが飛び出し、レイラの操作でそれをつかんだバーンガーディオンがその2本を峰同士を合わせるで連結、バーニングブレードが完成する。
「ブラスト、ホールド!」
続けて、レイラの指示で胸の龍が炎を吐き出し、その炎がバーニングブレードの刃に宿り、余ったエネルギーがウォルティガを押さえつける。
そして、バーンガーディオンは一直線にウォルティガへと突っ込み、直前で大きくジャンプし、
『一刀両断、プロミネンス、ノヴァ!』
ザンッ!
最上段から振り下ろした一撃が、ウォルティガを両断する!
そのまま、太助の操作でバーンガーディオンはその場から離脱し、
ドォォォォォンッ!
真っ二つに斬り裂かれたウォルティガが大爆発を起こして焼滅した。
こうして、今回も無事勝利できた太助達だが――
「………………」
キリュウは、無言でその光景を見つめていた。
そのままゆっくりと視線を動かし、刃に向ける。
一方、当の刃は嘆息し、ようやく口を開き――
「ま、レイラの制止を無視したのは太助だ。自業自得、というヤツだ」
と、ベッドの上でウンウンうなっている太助に告げた。
「ただでさえ、イメージ・トレーサーの操作は精神力を使う――使用者の精神がダイレクトに反映されるから、使用中は余計なことを考えないよう極度の集中状態でいる必要があるからな。
そんなシロモノを、レイラから操作系を奪うほどの精神力レベルで使ったんだ。その程度ですんで、むしろラッキーだと思え」
「思えるか、この状況で……」
刃の言葉に、太助はうめいて周囲を見た。
そこでは誰が看病するかでルーアン、花織、美咲の3人が熾烈な争いを繰り広げている。唯一の制止要員とも言えるシャオも現在は太助に何か食べさせてあげるべく階下のキッチンに行っており、これでは太助も休まるヒマなどないだろう。
「……ま、こっちもある意味自業自得かな。
速やかな回復は……まずできんだろうな。この状況じゃ」
そんな刃の言葉に、太助は心の底からため息をつき――
結局、刃の予想通り太助の回復にはかなりの期間を必要としたのだった。
次回予告
シャオ | 「シャオです。 太助様も私達のために戦ってくれることになって、美咲さんは大喜びです。 私も、本当は、危険なところに出てきてほしくはないんですけど……やっぱり心強い限りです。 ですが、敵も黙ってはいませんでした。新たに送り込んできたのは、バーンガーディオンと同じ、人型機動兵器…… 太助様、私達も、みなさんもがんばりますから、負けないでください! 次回、まもって守護月天! ELEMENTAL BREAK、第4話、 『強襲! 鎧魔装甲』 太助様、お守りいたします!」 |
Next Attention Point:ライトニングウルフ
解説と書いて言い訳と読むあとがき
太助の参戦が本決まりになり、OSの完成したバーンガーディオンもようやく本当の意味で完成。太助達側の迎撃体制も少しずつですが形になってきました。
しかし、敵もこのまま黙っているワケがなく、次回新たな戦力が……
っつーワケで次回もよろしくお願いいたします。
(初版:2005/10/02)