「超」一発ネタ
桜野みねねオールスター
in
仮面ライダーアギト
注:配役の都合により、一部のキャラで人間関係・及び年齢の変更がされています。ご了承ください。
……コッ、コッ、コッ……
何の飾りもない殺風景な一室に、一定のリズムで足音が響く。
そして階段を降りきり、足音の主――青い鎧を全身にまとった男が部屋の中央で立ち止まった。
――いや、男というほどの歳ではないようだ。背丈や歩き方から見て、まだ少年の域を出ない年齢だろう。
〈用意はいい? 剣〉
「あぁ」
自分の向かって左上――天井近くの壁の向こう側に設置されたモニター室からの声に、青い鎧の少年は親指を立てて答える。
「ならいくわよ。
運動性テスト、開始!」
真紅の長髪を冷房の風になびかせた少女が言うと同時、そのとなりで桃色の髪の少女が手元にあるスイッチを入れ、
ドドドドドッ!
音を立て、少年の正面に設置された射出口から、次々に鉄球が撃ち出される。
しかし、少年はその鉄球をあるいは防ぎ、あるいはかわし、そのすべてを凌いでみせる。
「よしよし、いい感じよ、剣。
じゃ、次はスコーピオンのテストにいくわ。
GM-01、アクティブ!」
赤髪の少女が言うと、少年の右の太股にホールドされた大型の拳銃の安全装置が自動解除され、少年はそれをホルスターから抜き放ち、未だ射出され続けている鉄球へと向け、
ドンドンドンッ!
素早い連射で、その鉄球を次々に撃ち砕いていく。
その連射のスピードは、明らかに鉄球の射出のペースを上回っている。徐々に射出された鉄球の撃ち砕かれる位置が射出口へと近づいていく。
そして、すべての標的が撃ち落とされたのを確認し、桃色の髪の少女が少年に告げた。
「はい。OKよ、剣くん。
以上で今日の演習は終了よ」
「了解だ」
モニター室から演習の終了を告げられ、少年は息をついて拳銃を下ろすと、ヘルメットに手をかけ、両横にあるスイッチを入れる。
――プシュッ。
音を立ててヘルメットの後部が開き、少年――石川 剣はヘルメットを外した。
歳の割には落ち着いた雰囲気を漂わせた、18歳ほどの年頃の少年である。
「けどさぁ、雛菊。スコーピオンの衝撃が殺しきれていないぞ。
オレだからいいようなものの、これじゃ普通のヤツにはまだまだ使いきれるものじゃないな」
〈いいのよ。どーせ当分は量産の予定もないし、あんた専用なんだから〉
剣の指摘に対して、モニター室の赤髪の少女――G3ユニット主任・如月雛菊はあっさりとそう答える。
見ての通り大ざっぱな言動が目立つ彼女ではあるが、仕事自体にはまったく手を抜かないことでも知られている。剣の装着している鎧――G3システムの基礎理論をたったひとりで構築して見せたのも彼女である。
〈そ、それでいいの? 確か量産も見越して開発してほしい、っていうのが当初の依頼だったと思うんだけど……〉
そんな彼女に戸惑いがちに尋ねるのは真砂弓。各種官制を担当している。
本来なら、ここで今の雛菊の発言にもっとツッコむべきなのだろうが、彼女も雛菊の性格をわかっているのか、先ほどの言葉だけで意見するのをやめてしまった。よくも悪くもお互いのことがわかっているのだろう。
「けど……正直、これで実際見確認生命体に対抗できるのかしら?」
汗をぬぐいながら剣が演習ルームを出ていくのを見ながら、弓はポツリとつぶやいた。
「少なくとも性能に関しては申し分なし。未確認のヤツなんか秒殺決定よ。
けど……剣にはあぁ言ったけど、使う人間を選んじゃうのは、どーもねぇ……」
弓に答え、雛菊は大きくシートに座ったまま背伸びする。
「ま、当分は剣にがんばってもらうとしましょうか♪」
言って、ひなぎくは傍らに置かれたMyマグカップのコーヒーをすすった。
未確認生命体。3年前、突如として現れ、次々に恐るべき殺人ゲームを実行していった、異形の集団の総称である。
その力は人間の及ぶところではなく、次々に犠牲者は増えていった。
しかし、そんな彼らの脅威も、未確認生命体に敵対する存在――当初見確認生命体第4号と認識されていた古代の戦士“クウガ”の活躍により滅び、世界は再び平和の時を歩もうとしていた。
だが、いつまた第二、第三の未確認生命体が現れないとも限らない。
その脅威に備えるべく警察内部に組織された「未確認生命体対策班」、それがG3ユニットなのである。
その頃、とある公立中学校のグラウンドでは――
ポーンッ!
音を立て、大きくレシーブされたバレーボールはコートを大きく飛び出し、グラウンドのすみへと弾んでいく。
と――
――パキッ。
そのバレーボールが、行く手の木の下に落ちていたメガネを押し潰した。
「………………?」
そのメガネに気づき、ボールを拾いに来た女子生徒は不思議に思って周囲を見回し――
「――――――っ!?」
その目が驚愕と恐怖、二つの感情で大きく見開かれた。
そこには――木のうろの中から、血が通わなくなり真っ青になった少年の手がのぞいていた。
悲鳴が上がるのに、時間はかからなかった。
そしてまた同じ頃、城北大学――
「千寿院さん、これはどういうこと?」
心理学者であるルーアンは、提出されたレポート草案を片手に自分のゼミの研究生・千寿院さとりにそう尋ねた。
卒業論文のテーマの希望を簡単なレポート形式で提出してもらったものである。
「『緊急時における人間のX機能の発現について』って……」
「追い込まれた時の人間の第六感について書きたいんです」
「要するに……超能力か?」
となりで同じゼミで学ぶ学生・川口貴文が尋ねるのを聞き、さとりは少しバツが悪そうに、
「ダメ……ですか?」
「うーん……ダメじゃ、ないんだけど……卒業論文のテーマとしてはねぇ……」
さとりの問いにルーアンが困っていると、
――コンコンッ。
彼らのいる部屋のドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
ルーアンがそう言うと、ドアが開けられ、
「失礼します」
言って入ってきたのは、ひとりの少年だった。
茶色がかった髪は特に手入れはしていないようだが、ラフな感じにまとまっている。
顔立ちは、まだ16歳という、子供・大人で区切るには微妙な年頃のせいだろうか、男らしいと言うにはやや遠いものの、母性本能を刺激するような穏やかな感じがする。
その身体は何かスポーツでもやっているのだろうか、筋肉質とまではいかないが、適度に筋肉がついている。
そしてその顔を見るなり――ルーアンの顔が輝いた。
「あーん♪ たー様、来てくれたのね! ルーアン感激ぃ♪」
「だぁぁぁぁぁっ! くっつくな、ルーアン!」
さっきまでの冷静とも言える姿はどこへやら。甘ったるい声と共に猛スピードで飛びついてきたルーアンを、少年は必死になって引きはがす。
そして、まだ少し残念そうな顔をしているルーアンの前に、肩から下げたカバンから数冊の本を取り出した。
「ほら、頼まれた本、これでよかったか?」
「あぁ、ありがと♪
ゴメンね、たー様。急に必要になったもんだから」
言って、ルーアンは少年から本を受け取り、
「それじゃあ、気をつけて帰ってね♪
お別れの、キ・ス♪」
「いらんっ!」
言って唇を近づけてくるルーアンに力いっぱい言い返すと、少年はまるで逃げ出すように――実際逃げたのだろう――部屋を出ていった。
「まったく、たー様ってば……♪」
そんな少年の初々しさが出会った頃から変わらないのがなんだか微笑ましくて、ルーアンは思わず笑みを漏らした。
……ブオォォォォォンッ……
快調なエンジン音を響かせ、少年を乗せたオフロードバイクは城北大学のバイク用駐輪場に滑り込んできた。
キーを抜き、少年はヘルメットを脱ぎ、汗に濡れた黒髪を風にさらしながらキャンパスへと続く階段へと向かった。
「まったく、ルーアンときたら……」
一方、ルーアンの元を去ったあの少年も、自分のバイクの停めてある駐輪場へ向かうべく、キャンパス前の階段を下っていた。
そして、二人の少年は階段の中ほどですれ違い――
「――――――?」
何かを感じ、黒髪の少年は振り返り、階段を下っていく少年へと振り向いた。
が――黒髪の少年はすぐに気を取り直し、また階段を登っていった。
それが――茶髪の少年・七梨太助と黒髪の少年・伊吹邪甲の出会いだった。
「太助様!」
バイクを押して歩いていた太助に、背後から声をかける少女がいた。
「あぁ、シャオ」
「どうしたんですか? バイク」
自分に気づいた太助に、シャオと呼ばれた少女――シャオリンは不思議そうに尋ねる。
「バイク? ガス欠だよ。
ところで……太助『様』っていうの、やめてくれないかな? なんかこそばゆくて」
「そうですか? 太助様は太助様ですよ」
そう言って、心から心外だとでも言いたげに首を傾げてみせるシャオに、太助は反論をあきらめることにしたが、
「それより……どうですか? 記憶、戻りました?」
「それもやめてくれ。
毎日そんなこと聞かれたら、けっこうプレッシャー感じちゃってさ」
「何言ってるんですか。太助様のためじゃないですか
それに、気持ち悪くないんですか? 記憶喪失のまま生きていくなんてなんて」
そう――七梨太助は、過去に関する記憶を失っていた。自らの名前さえも――
彼は半年前、海岸に打ち上げられているところを発見された。
すぐさま病院に運ばれ、手当てを受けたものの、自らに関するあらゆる記憶を失っていたのだ。
そんな時、彼のカウンセリングにあたった心理学者から話を聞いたルーアンが、彼を引き取ったのである。
一方、当の太助はシャオの問いに首をかしげ、
「うーん、今のところ不自由してないし、もし過去を思い出して、オレが凶悪な犯罪者だったらどうするんだよ?」
「大丈夫ですよ。太助様はそんな悪い人じゃないですから♪」
「あ、そ……」
あくまで満面の笑みで答えるシャオに、太助は言いようのない安らぎを感じていた。
「やっぱり……このままでいいのかもしれないな」
ゴポゴポゴポ……
少しずつ肺から息を吐きながら、伊吹邪甲はプールの底に身を沈めていた。
もう、どれぐらいそうしていただろうか。彼の持ち前の肺活量がなければ、とっくに息が続かずに水面に顔を出していることだろう。
と――邪甲はプールサイドに人の気配がするのに気づいた。
もう水泳部の部活は終わっている。だとすればやって来たのは――
そこまで考えが至り、邪甲は彼を迎えるべく水面を目指す。
――ザバァッ!
邪甲が水面に顔を出し――そこへ声がかけられた。
「やっぱりお前か、邪甲。
もうとっくに練習時間終わってるぞ」
「すみません。どうにも身体がほてって……」
自分に目をかけてくれている水泳部の監督にそう答え、邪甲はプールから上がる。
「まぁ、今度の大会はお前のカムバック戦だからな。気持ちはわかるがな」
「はい」
苦笑してうなずく邪甲に、監督は同じように苦笑して、
「しかし、よくあの事故から立ち直ってくれた。
一時は、もうダメかと思ったんだが……」
そんな監督の言葉に、邪甲は思わず、かつて自分から水泳を奪いかけたあのバイク事故のことを思い出した。
だが、そんな彼を元気づけるように監督は続ける。
「しかも、事故の前より記録が伸びてる。大したもんだ」
監督のその心遣いは、邪甲の心には痛いほど届いていた。だからこそ、邪甲は彼の前では素直になれていた。
普段は敬語など使うことがない彼が彼にだけは敬語で話すことを見ても、彼の監督への信頼は並々ならぬものがあった。
「……そう言ってもらえてうれしいです。
じゃあ、もう一度だけ、泳いできます」
「ごめんね、いつまでもつき合わせちゃって。
けど、これが終われば完成だから」
「いや」
雛菊にそれだけ答え、剣はG3のボディアーマーを外して近くのイスに座る。
だが、その顔はどこか優れない、何かを気にしているようだ。
そんな彼を見て――雛菊はイタズラっ子のよくやる自信に満ちた笑みを浮かべ、剣に声をかけた。
「剣、今あんたが考えてること、当ててあげようか?」
「ん?」
「文京区の中学校の事件のことでしょ?」
「あぁ……」
雛菊の指摘に、剣はそれだけ答えて考え込む。
「それって、木の中に男子生徒が丸められて入ってたってヤツよね?」
「えぇ」
雛菊が弓に答えると、剣は言った。
「……普通なら……あんなことはありえない……」
翌日――
「♪〜〜〜♪♪〜〜〜♪」
鼻唄まじりに、太助はみんなが出かけて無人となった自宅を掃除していた。
そしてその一方で――
〈用意〉
その声に従い、邪甲は競泳用プールの飛び込み台に上がり、
――パァンッ!
競技用ピストルがセットされた火薬を炸裂させるのと同時にプールへと飛び込んだ。
が――別の場所で異変は起きていた。
“そいつ”は、静かにその男を見つめていた。
“そいつ”は、静かにそのスーツの男を見つめていた。
“そいつ”は、静かに自らが手にかけ、中学校の木の中に納めた少年の父親を見つめていた。
“そいつ”は――静かに印を切った。
それと同時――
――ィィィィィンッ――!
「ぐぁ………………っ!」
突然耳鳴りのような感覚と共に強烈な頭痛が太助を襲い、彼は思わず頭を抱える。
そして、プールでも――
(………………っ!)
全身を強烈な痺れが走り、邪甲は水中でその身体の自由を奪われた。
自分の様子に気づき、監督があわてているのが一瞬視界に入り――邪甲の意識は闇へと沈んだ。
――ィィィィィッ――!
その頭痛は突然止んだ。
痛みにより極度に消耗し、太助は思わずその場にヒザをつく。
「……何だったんだ……!?」
「……これは、とても人間業とは思えないな」
真っ白なスーツを油断なく着こなしたその男は、目の前に立つ木のうろを見ながらつぶやいた。
公園に植えられたその木のうろから、あの中学校で見つかった遺体と同じように人の手がのぞいている光景を――。
「それじゃあダン警部、中学校で見つかった少年の遺体は……」
「えぇ。あのガイシャの、息子さんですよ」
背後から尋ねる後輩刑事の問いに答え、ダン・ブルーバード警部は鑑識のジャマにならないようその場を離れる。
「一体どういうことになって、親子そろってあんな殺され方を……」
「何でもいいんだ。ご主人や息子さんに、何か変わったことはありませんでしたか?」
手帳を片手に、剣は被害者の奥さんに尋ねるが、彼女は悲しみに沈んでいて答えることはできない。
「……まいったなぁ……」
性格上キツく問い詰めることもできず、剣はため息をついてつぶやき――
「何をしているんですか?」
そこへ声をかけてきたのは、ダンに話しかけていた後輩刑事――宮内出雲である。
「あなたは対策班の人間でしょう?
まさか、これが未確認の仕業だ、とでも?」
「それはまだわからない。
けど……可能性はゼロではないはずだ」
剣が答えるが、出雲は笑って、
「ありえませんよ。
確かに奇怪な事件ですが、そこには何かのトリックがあるはずです」
「どんなトリックだよ?」
「それを調べるのが我々の仕事ですよ。
あなたも現職の警察官です。管轄内の事件を調べるのをジャマするつもりはありませんが……せいぜいジャマにならないようにしてください」
その頃、邪甲の姿は大学から最寄の病院のベッドの上にあった。
ただし――その瞳はしっかりと閉じられ、口には人工呼吸器がつけられている。
傍から見ても、軽い症状とは思えなかった。
「先生、どうなんですか? 彼の容態は……」
「検査の結果が出なければ、なんとも言えませんが……」
監督の問いに答え、医師は彼を連れて廊下に出る。
と、そこで待っていた少女が医師に駆け寄ってきた。
「先生、邪甲くんは……邪甲くんは大丈夫なんですか?」
「こら、落ち着け、千寿院」
少女――さとりを監督が止めると、医師は説明を再開した。
「検査の結果が出なければ、なんとも言えませんが、全身の筋肉が発熱し、わずかに痙攣しています。
何か、激しいトレーニングでも……?」
「いえ、それはないはずです……」
監督がそう答えるのを聞きながら、さとりは病室をのぞき込んだ。
邪甲は相変わらず静かに眠ったままである。
「……邪甲くん……大丈夫だよね……?」
「いっ、せぇ、のぉ、で!」
太助の合図と共に、少女――キリュウは太助と二人がかりで家庭菜園の大根を引き抜いた。
たかが大根に二人がかり、と思うことなかれ。彼らの引き抜いた大根を見ればそんな考えはすぐに吹き飛ぶことだろう。
その太さは太助達の腕よりもあるだろう。長さも全体に栄養が行き渡る分には申し分ない、まさに最高の出来の大根だった。
「まったく、すごいな……
主殿が作ると、どうしてこんなに大きくなるのだ?」
「さぁな……
まぁ、これなら今夜のおかずにできそうだな。
今夜は大根料理を中心にしてみようと思うんだけど、どうかな?」
そう言って、屈託のない笑みを浮かべる太助を前に、思わずキリュウは顔を赤らめる。
見る者の心を無防備にさせてしまう、そんな安らぎを太助の笑顔は伴っていた。
「……? キリュウ?」
「あ、いや……
主殿の作るものならなんでもおいしい。シャオ殿に決して引けを取らないものだ」
太助の問いに、キリュウはあわてて手を振ってそう答える。
普段をクールで通しているキリュウでさえ、太助との会話ではついつい自分のペースを失ってしまう。太助の笑顔はそれほどの効果を持っていた。
だが、そんなキリュウのひいき目を抜きにしても、太助の料理は大した腕前だった。彼女の言う通り、シャオの料理と比べても遜色のない腕前である。
元々記憶のあった頃に経験があったのだろうか。元々高かったその技量にシャオという家事の達人の存在が刺激となり、今では二人は切磋琢磨して料理の腕を上げていた。
「じゃあ、とにかく中に入ろう。
まだ暑いし、こんなとこにいつまでもいたら蚊に食われちまうよ」
「そうだな。
いこう、主殿」
「ったく、頭に来るな、アイツ……」
昼間の出雲とのやり取りを思い出し、剣は毒づきながら警視庁の廊下を歩いていた。
陽もすっかり落ち、当直の警官達が夕食の入ったコンビニの袋を片手に自分の部署へと向かうのがチラリと視界に入る。
「……夕飯にするか」
つぶやき、剣がその足を食堂に向け――
プルルルル……
懐の携帯が、何の飾り気もない着信音を立てた。
「はい、石川」
〈雛菊よ。
すぐに来て! 未確認生命体の目撃情報があったの!〉
「なんだって!?
それじゃあ……」
〈えぇ。
G3ユニット、出動よ!〉
「――――――!?」
夕食を終え、台所で洗い物をしていた太助の脳裏に、何かの映像が鮮明に飛び込んできた。
怪物だ。
ヒョウの顔を持った化け物が、ひとりの女性を襲っている。
その映像を感じ取り――太助は全身がまるで興奮しているかのようにざわめいている自分に気づいた。
「何だ……!?」
(オレはあいつらを知ってる……?
今自分ができることを知ってる……?)
それがなぜかはわからない。だが、太助は次の瞬間には駆け出していた。
「……太助様?」
自室で読書をしていたシャオは、ふと太助が家を出て行くのに気づいた。
「太助様!」
ふと不安にかられ、あわてて後を追うが、太助はすでにバイクで走り去った後だった。
「……太助様……」
胸をよぎる不安は消えない。それどころかますます強くなっていく。
いてもたってもいられず、シャオは夜の町へと駆け出していった。
夜の町を、一台のトレーラーが駆け抜けていく。
G3ユニットの移動司令部『Gトレーラー』である。
その中では、すでに剣がG3の装着をほぼ完了していた。
初めての出動で緊張した面持ちのまま、最後にマスクを手にとり、静かにかぶる。
シュッという音と共に後頭部まで装甲で覆われ、ロックがかかる。
この瞬間、彼は石川剣から未確認生命体“戦士クウガ”を模した戦士“仮面ライダーG3”となったのだ。
そして剣はコンテナ後部にマウントされた専用ポリスバイク――ガードチェイサーにまたがる。
それを確認し、雛菊が手元のディスプレイのキーを叩き、ガードチェイサーを固定しているステップが後方にスライド、そのまま下部の車輪がアスファルトをとらえてスロープとなる。
続いて雛菊はキーを叩き、ガードチェイサーのタイヤのロックを解除、自由の身となったガードチェイサーはそのタイヤでアスファルトをしっかりと踏みしめ、一気に加速していった。
「こちら剣! 目標を確認!」
前方を走る異形――ヒョウの頭を持った怪人を確認し、剣はGトレーラーの雛菊に通信する。
「これから接近する!」
〈気をつけなさいよ!〉
雛菊の返事を聞きながら、剣は異形を追って、相手の駆け込んでいった廃工場へと入っていく。
〈GM-01、アクティブ!〉
弓が言うと同時、剣はG3専用拳銃GM-01「スコーピオン」を手にしてガードチェイサーから下りる。
〈発砲を許可するわ。思いっきりやっちゃいなさい!〉
「了解だ!」
雛菊にそう答え、剣は周囲を警戒しながら廃工場の中を進む。
と――その視界のすみに、異形の姿が現れた。
「そこか!」
叫ぶと同時、剣は迷わずスコーピオンの引き金を引いた。
ドンドンドンッ!
立て続けに放たれた弾丸が、一直線に異形へと襲いかかる。
が――
「――何!?」
目の前のその光景を実際に目の当たりにしても、剣はそれが信じられなかった。
放たれた弾丸は空中で止まっていた。スコーピオンの弾丸は異形には一発も届いていない。
「くっ……!」
剣はなおもトリガーを引き、攻撃を続ける。だが弾丸は一発も届かない。
そんな剣をあざ笑うかのように、異形は一気に間合いを詰め、
ガッ!
手刀の要領で振り落とされた拳が、剣の腕からスコーピオンを叩き落し、
ドガァッ!
そこから裏拳に切り替えてきた異形の攻撃をまともにくらい、剣は大きく弾き飛ばされてしまう。
G3の装甲のおかげでダメージは大したことはないが、そう何発も耐えられるものでもなさそうだ。倒すにしろ離脱するにしろ、早めに決着をつける必要があった。
「くそっ、やろうって言うなら、容赦しねぇぞ!」
言って、剣は異形に向けて蹴りを放ち――
――ドォッ!
一瞬の後、強烈な衝撃を受けて跳ね飛ばされたのは、やはり剣の方だった。
だが、それでも剣はなんとか立ち上がり、自らに向けて歩を進める異形へとかまえる。
「くっ……このぉっ!」
意を決し、剣が電磁警棒『ガードアクセラー』で攻撃を仕掛けるが、異形にはまったく当たらない。
剣の攻撃がぬるいワケではない。だが、その攻撃はまるで見えない何かに受け流されるかのように、標的を外れていってしまうのだ。
と、異形の手が動き――
――ドッ!
鈍い音と共に、剣の腹に異形の拳がめり込んでいた。
「……ぁ……!?」
うめくこともできず、異形の前に剣が倒れる。
〈剣! 離脱しなさい!〉
〈剣くん!〉
雛菊と弓が叫ぶが、剣に叩き込まれた今の一撃は、今までのものと違い並のものではないようだ。うずくまるように倒れ伏したまま動けない。
そして、異形が剣に向けて歩を進め――
「――!?」
何に気づいたのか、異形は突然振り向くと闇の中を凝視する。
――何かいる。
それは、ゆっくりとこちらへと歩を進めてきている。
そして、一瞬立ち止まり――
――ドゴォッ!
次の瞬間、すさまじいスピードで突っ込んだその存在の拳が、異形の腹にめり込んでいた。
そして、それによって月明かりがその存在の姿を映し出した。
その存在は、未確認生命体第四号に似ていた。
漆黒を基調にしたその身体の上半身は金色のアーマーで覆われ、顔はまるで龍の角のような飾りの付いたマスクで覆われていた。
一方、異形は苦痛に顔をしかめながらも一旦間合いを取り、少年に向けて牙をむいてうなり声を上げる。
そして、一言。
「……アギト……」
だが、『アギト』と呼ばれたその存在はまったく動じる様子もない。冷静に異形を見つめている。
そして、異形は『アギト』へと突っ込み、次々に打撃を繰り出すが、『アギト』はそれをすべてガードし、さらにカウンターの一撃を確実に当てていく。
古流格闘技の動き――実力は剣と同じぐらいだろうが、かなりの実戦に裏付けられたムダのなさがある。
それに加え、なぜか『アギト』には剣の攻撃を防いだ異形の力が通じないようだ。完全に異形を圧倒している。
やがてじれったくなったか、異形は『アギト』へとつかみかかるが、『アギト』はいとも簡単に異形の重心を崩し、反対に投げ飛ばしてしまう。
と、『アギト』はそこで初めて、異形に向けてかまえを取って見せた。
すると額の角が開き、『アギト』の立つ辺りの地面に光り輝く何かの紋章が現れる。
そして、そこに“力”が集まっていくのが、今にも途切れそうな意識を必死につなぎとめている剣にもハッキリとわかった。
そして、異形が突っ込んでくるのに対し、『アギト』も地を蹴り異形へと突っ込み――そこで初めて、『アギト』が咆哮した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
そして、両者がぶつかり合い――
――ドガァッ!
吹っ飛ばされたのは、『アギト』の放った蹴りの直撃をまともに受けた異形の方だった。
――フワッ。
そんな擬音が似合うほどにほとんど足音を立てず、『アギト』は空中で宙返りを決めた後着地。異形に向けて残心のままに構えをとる。
と、異形の頭に光の円盤が浮かぶと同時、異形は突如として苦しみ始め――
――ドガオォォォォォンッ!
異形の身体は自らの身体から起きた爆発の中に消えた。
「あ……あいつは……」
呆然とつぶやき――剣にそれ以降の記憶はなかった。
今――すべての運命は動き出した。
それぞれに待つ、大いなる宿命のうねりへと向かって――
続きません
作者あとがき(と書いて懺悔と読む)
……思いっきり一発ネタです。
劇場版「Project G4」のディレクターズカット版見てて唐突に思いついた突発ネタ。もう電波のお告げのままに書き殴らせていただきました。
まぁ、以前「月天キャラで『アギト』をやってみたら……」と友達とバカ話してたことはあったんですが、アギトのキャラ置換えSS、他のサイトで見たことあったので(しかも本作と同じ第1話ベース。月天ではありませんでしたが)その時はネタとして封印してました。
ですから、まさかホントに書くことになろうとは思ってませんでした。いやまぢで。
ちなみに、「北條くん役=出雲」は友人一同の統一見解でした(爆)。
(初版:2002/08/25)
(最新版:2003/02/19再録)