Episode02
「Gの伝説」
「……落ち着いたか?」
「う、うん……」
戦闘を終え、その場にひざまずくビートガンダムの下で、レナはカイトに答えて彼の差し出したコーヒーカップを受け取る。
あれからすでに1時間。他のトレーラーで散り散りに逃げていた仲間達とも連絡が取れ、トレーラーを失って移動できないビートガンダムの周囲に集合し、陣を張っていた。
レナとカイトも、その間に互いの自己紹介を済ませている。
「けど……ホントにあたしが?」
「あぁ。
今のお前とは様子が大違いだったぜ。瞳の色なんかも変わってたし」
レナの問いにカイトが答えると、
「カイトさん、ちょっと」
仲間のひとりがビートガンダムのコックピットから顔を出し、カイトを呼んだ。
「ん? どうした?」
言って、カイトが彼の元へ向かうのをレナはボンヤリと見つめていたが、
「いやー、しかしスゴいもんですねぇ」
そんな彼女に、整備班のひとり、アレックス・ノートンが声をかけた。
「この機体、『G』ですよ、『G』。
私もこんなに間近で見たのは初めてですよ」
「『G』……?」
「えぇ。
あ、『G』って言うのは私ら技術屋の間での愛称でしてね、正式な名前は……」
レナに答えるとそこで言葉を切り、アレックスは続けた。
「――『ガンダム』です」
「動かせない?」
「はい……」
聞き返すカイトに、彼を呼んだ整備員は困った顔で答える。
「さっきから何度も試しているんですが、どこをどう操作しても、起動させることすらできないんです」
「どういうことだ……?」
「さぁ……」
整備員が答えるのを聞き、カイトは首をかしげ――ふと外にいるレナへと視線を向けた。
「もしかしたら……」
「ガンダム……?」
「そう。
『Globe Union's New-generation Decisive Advanced Mobile-suit』、それを略して付けられた正式名称、それが『G.U.N.D.A.M.』です。
ちょっと強引な訳し方になりますが、『地球連合所有・新世代の決定的な進歩をしたモビルスーツ』という意味です」
レナに答え、アレックスは苦笑して、
「昔、地球で起きた内戦の際に、地球軍を勝利に導いた機体の名が語源らしいんですがね。
何でも、たった1機で12機もの敵機を全滅させたとか、スペースコロニーを一撃でブチ抜いたとか、ダメージ受けても自己再生できたとか、パイロットの根性でどこまでもパワーアップできたとか、いろんな話が伝わってますね。
中には地球に落下する小惑星を押し返したって話もあるんですが、ホントなんだかウソなんだか」
そう言うと、彼はビートガンダムを見上げ、
「本来なら、地球軍の指揮官クラスや部隊のトップガンだけが搭乗を許される機体なんですよ。試作機にガンダムタイプが使用されるなんて、私の知る限りでも初めてのケースですよ」
「ふーん……そうなんだ……」
彼の言葉にレナが同じようにビートガンダムを見上げると、
「おい、レナ!」
ビートガンダムのコックピットハッチの上から、カイトが彼女を呼んだ。
「あたしが?」
「そうだ。
ちょっと起動させてみてくれ」
ビートガンダムのコックピットに座らされ、尋ねるレナにカイトが答える。
「夕べの戦闘で、お前はこの機体を難なく起動させることができた。
お前なら、なんとかなるんじゃないか?」
「そんなこと言ったって、あたしにその時の記憶がないんじゃ……」
言いかけ――レナはふと口をつぐんだ。
頭の中にイメージが流れ込み、瞳の色が赤く染まる。
(――わかる――? どこをどう操作すればいいか、手に取るように……)
夕べも感じた、不思議な感覚に戸惑いを感じながら、レナは感じたままに計器を操作し――
――ヴォン……
ビートガンダムが起動、コックピット内が点灯したスイッチやモニターの光で明るく照らし出される。
「なるほど……それが起動の手順か……」
そのレナの操作の手際に感心し、カイトが言うと、
「カイトさん、ちょっと」
整備員が彼を呼び、コックピットの外に連れ出した。
「どうした?」
カイトの問いに、彼は答えた。
「今彼女が行なった起動手順――我々もすでに試したんです」
「……なんだと?」
「だから、我々もやったんです、今彼女がやったのと同じ手順での起動を。
けど、我々では起動させることはできませんでした」
「なのに、レナは起動させられた……?」
つぶやき――カイトはレナを見た。
「レナ・オーキッド……一体何者だ……?」
「そうか……ご両親とは生き別れか……」
「うん。そんな時に同じ避難民の人達に助けられて、ブルームーン砂漠のキャンプに来たの」
キャンプに向かうジープの中で、運転するカイトにレナが答える。
「あ、気遣うのやめてよ。別に気にしてないから。
父さんも母さんも、きっと生きてるって信じてるから……」
「そうか……
会えるといいな。ご両親に」
「戦争が終わったら、尋ね人でもするわよ」
「このご時世だから、競争率高いぞ」
「手数で勝負よ」
「すまないな、買い出しにまで付き合わせてしまって」
「そのジープ、直してくれたお礼よ」
礼を言うカイトに、ジープに買い込んだ食料を積んだレナが言う。
「さて、食料はこれでいいとして、あとは水か……」
「うーん、それってどのくらい?」
「そうだな……」
尋ねるレナに、カイトはしばし考え込み、
「だいたい、ひとり頭2日分もあれば、別働隊と合流するまでもつはずだが……」
「で、確かあんた達が全部で10人……
……なんとかなるかな……?」
「………………?」
レナのつぶやきにカイトが首をかしげ――レナは言った。
「いいところがあるの。
乗って。案内するわ」
「ここよ」
言って、レナがジープを止めたのは、彼女の秘密のオアシスだった。
「こんなところにオアシスが……?」
「いいでしょ。あたしのとっておきの場所なんだから」
カイトに答え、レナはジープから降りて、手早く水を入れるためのポリタンクを手に取る。
「ほら、早くしなさいよ。
みんなが待ってるんでしょ?」
「あ、あぁ」
レナの言葉に我に返り、カイトがジープから降りると、
――ィィィィィン……ッ!
なにやら、風を切る音が聞こえてきた。
「……何……?」
レナがつぶやくと、音は次第に大きさを増し、
――オォォォォォンッ!
轟音と共に、彼女達の上空を数機のホルスが駆け抜けていく!
「地球軍!?」
レナが驚くと、
ピーッ! ピーッ!
ジープの座席に置かれた、カイトの無線機が音を立てた。
「こちらカイト!」
〈大変だ、カイト!〉
応答するカイトに、ザックの声が応え、
〈敵だ!
一直線に、避難民キャンプを目指してる!〉
「なっ、何ですって!?」
その言葉に、レナが驚きの声を上げ――カイトは気づいた。
「まさか……キャンプがオレ達をかくまってるとカン違いしてるとしたら!?」
「それで、あんた達をいぶり出すためにキャンプに向かったって言うの!?」
レナの問いに答えるまでもなく、カイトはジープに飛び乗り、
「お前はここで待ってろ! 後で迎えに来る!」
「ち、ちょっと!」
カイトの言葉に、レナはあわてて待ったをかけた。
「『待ってろ』ったって、ビートガンダムは動かせないんでしょ!?」
そのレナの言葉に――カイトは尋ねた。
「だからってお前、戦えるのか?」
「――――――っ!」
「夕べ、戦いが終わった後……お前、あんなに怯えてたじゃないか。
なのに、また戦わせるなんてマネができるかよ」
聞き返す自分の問いに言葉を失うレナに言い、カイトがエンジンをかけ――
「でも行く!」
それでも、レナはハッキリとカイトに言った。
「そりゃ、怖いわよ……思い出すだけでも怖くなるわよ……
けど、怖い思いする方が……みんなが死ぬよりよっぽどマシよ!」
「………………」
そのレナの宣言に、カイトはしばし彼女を見つめていたが――その口元に苦笑が浮かんだ。
「……いいだろう!
乗れ! オレ達の陣地まで飛ばすぞ!」
「うん!」
《我々は、この近くに不時着した我が軍の輸送機の積荷を捜索している!》
避難民キャンプに到着し、避難民を集めた広場で、ホルス隊の隊長が機体の外部スピーカー越しに叫ぶ。
《輸送機は発見したが中身はもぬけの空だった!
もし彼らが脱出していたら、ここに逃げ込んでいる可能性が非常に高い!
隠し立てするとためにならん! すみやかに引渡しを要求する!》
隊長が言うが、当然ここには彼らはいない。先ほど買い出しに訪れたカイトも、今はレナと共に陣に向かっている途中である。
したがってどうすることもできず、住人達は困惑するが――隊長はそれが気に食わないらしかった。外部スピーカーを切ると他の機体のパイロット達に指示を出した。
「かまわん! 強制捜索だ!」
《はっ!》
隊長の指示で、ホルス隊は一斉に動き出した。
「ビートガンダムは!?」
「すべてチェックは済ませてます!
いつでも出られますよ!」
到着し、ジープから飛び降りるカイトに、アレックスが答える。
「敵の規模は!?」
「すでにキャンプに到着しているのがホルス6機!
あと、セト6機の護衛でスフィンクス級陸上母艦が接近中だ!」
「母艦まで持ち出して来てるのか!? それだけ敵さんも本気ってワケか……
レナ、いけるか!?」
ザックの答えを聞き、振り向いて尋ねるカイトに――レナは無言でうなずいた。
「トレーラーの中にシールドとビームライフルがありました。
砂漠用に調整は終わってますから、思う存分お見舞いしてやってください」
「ありがと!」
アレックスに答え、レナはビートガンダムのコックピットへと飛び込み、シートに座る。
そして、やはり慣れていないはずなのに慣れた手つきで機器を操作し、機体のメインシステムを起動させる。
とたん、瞳が再び赤く染まり、今度は思考もぼやけ始め――
「――くっ!」
レナは顔を振って思考のぼやけを振り払った。
(今我を忘れたら……キャンプまで巻き込んじゃう!
それだけは避けないと――!)
そして、彼女の操作でゆっくりとビートガンダムが立ち上がり――レナは叫んだ。
「行くわよ――ビートガンダム!」
〈そこの民間人! どいてろ!〉
言って、砂漠の一角に向けてライフルを構えるホルスの目の前で、住人達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、
ドォンッ!
目標地点の周囲に人がいなくなったのを確認し、ホルスのパイロットはライフルを発射。巻き起こった爆発が砂を巻き上げ、クレーターを作り出す。
砂を吹き飛ばすことで、地中に奪われた機体を隠していないか確認しているのだ。
無論、彼らとて建物を狙うワケにはいかない。ちゃんと何もない地面を狙っているのだが、それでも住人達にしてみれば迷惑この上ない。爆風で吹き飛ばされたテントの周りでしきりに彼らに向けて罵声を上げている。
しかも、ここに『Freedom』の一行が立ち寄っていないのだから当然奪われた荷物が見つかるワケがない。そのことがさらに彼らの中で苛立ちを募らせていた。
「ちっ……やはりダメです、隊長」
〈うぬぬ……〉
ホルスのパイロットの報告に、隊長はしばし渋い顔でで考え込んでいたが、
〈こうなれば仕方がない。
建物を吹き飛ばしてでも探し出せ!〉
「し、しかし……」
〈ここまで来て、手ぶらで帰れるか!
命令だ! やれ!〉
「り、了解……」
隊長の言葉に、彼はしぶしぶライフルをキャンプの建物のひとつに向けた。
「あぁっ!」
突然、ホルスの1機がライフルを建物に向けたのに気づき、カオルが声を上げた。
「アイツ、建物を狙う気かよ!?」
カオルのとなりでタクヤが叫び――
――ドォンッ!
ホルスが発砲、建物が轟音と共に吹っ飛ぶ!
しかも、それに習って他のホルス達も次々に建物に向けて発砲。瞬く間にキャンプは炎に包まれた。
「煙!?」
ホバリング走行でキャンプに向かうビートガンダムのコックピットで、レナがメインモニターに移されたキャンプの映像を見て声を上げる。
「キャンプが攻撃されてる……!
もう間に合わない、どうすれば……!」
うめいて――レナはここまでの道中、通信でアレックスから受けた説明を思い返した。
《そのビームライフルには、ビームの減衰を抑えて射程を延ばす狙撃モードがあります。
いざとなったら、それで狙撃してください》
「……やるしかない!」
決意し、レナはビートガンダムを走らせたまま機体を起こし、バランスを取りつつライフルをかまえた。
ビートガンダムがライフルに装備された照準サイトをのぞき込み、レナの手元に表示された望遠画像がホルスの1機がかまえたライフルに狙いをつける。
当たることを祈りつつ――レナはトリガーを引いた。
「やめてぇっ!」
キャンプを破壊される惨状にとうとうたまりかね、ハルナは新たな建物に照準を合わせたホルスの前に立ちはだかる。
「は、ハルナ!」
「戻ってきなさい! 危ないよ!」
そんなハルナの行動に驚き、シーラとサラが声を上げ、
《どけ! 死ぬつもりか!?》
ホルスのパイロットも彼女に向けて叫ぶ。
しかし――
〈かまわん! 撃て!〉
隊長がそんなパイロットに言う。
「し、しかし……」
〈我々のジャマをするなら敵対行動だ!
さぁ、やれ!〉
とうとうヤケになった隊長の言葉に、パイロットはトリガーに指をかけ――
――ドォンッ!
響いた轟音は、ハルナを吹き飛ばしはしなかった。
突如飛来したビームに撃ち抜かれ、ホルスのライフルが爆発したのだ。
「なっ、なんだ!?」
突然のことに隊長が声を上げ――さらにビームが飛来、ホルスのライフルや腕を次々に撃ち抜いていく!
そして、隊長はビームの飛来した方向へとホルスを向け、
「――あれは!?」
ホルスのカメラが、こちらに向けて急速接近するビートガンダムをとらえた。
あわてて彼らが迎撃体勢に入るが――
「させないっ!」
レナの方が速かった。狙撃を繰り返しながらすでにすぐ近くまで接近していたビートガンダムはあっという間にキャンプに飛び込み、ハルナにライフルを向けていたホルスに蹴りを一発。キャンプの外の砂漠へと叩き出す!
「あ、あれは……?」
「大丈夫!? ハルナ!」
「ハルナさん!」
呆然とへたり込むハルナにサラとシーラが駆け寄ると、着地したビートガンダムが彼女達を見下ろし、外部スピーカーからの声が彼女達に告げた。
《早く避難して!
あいつらはあたしが外に誘い出すから!》
その言葉と同時、地を蹴るビートガンダムを3人は呆然と見送り――サラがつぶやいた。
「今の声……ひょっとして、レナ……?」
「たぁぁぁぁぁっ!」
叫ぶと同時、レナはサーベルを空振りしたホルスの肩と腰をつかんで持ち上げ、キャンプの外へと投げ飛ばし、
「次っ!」
続けて、別のホルスの顔面をぶん殴り、キャンプの外へと倒す。
ある程度敵にダメージを与えたことを確認し、レナは機体をキャンプから離脱。当然それを追ってホルス部隊も追撃を開始し、必然的に戦場はキャンプから離れていく。
「よぅし……後はこのまま……」
ホバリング走行で上空からのホルスの攻撃をかわしながらレナがつぶやき――
ピピッ!
レーダーが、前方から急速に接近する熱源を捉える!
「何っ!?」
驚きながら、レナはとっさにシールドをかまえ――
――ドゥッ!
シールドを直撃したビームが、シールドに施されたアンチビーム処理によって霧散する!
「――まさか!?」
レナが声を上げ――砂丘の向こうからそれは姿を現した。
4足歩行のジャッカル型機動兵器である。
そして、空中で身をひねると同時に人型へと変形し、ビートガンダムの周囲に次々と着地する。
その数は6機。それをレナが確認したのと同時に、機体のデータベースが新手のデータを表示した。
地球軍の可変型陸戦用MS『セト』である。
ホルス隊が攻撃を受けたことを知り、母艦から離れて先行してきたのだ。
「新手のご到着ってワケか……
敵を引き離すのには成功したけど……!」
トリガーを握る手が汗ばんでくるのを感じながら、レナがつぶやいた。
「他の機体は使えないのか!?」
「ダメです!
他のどの機体も、起動させることすらできません!」
尋ねるカイトに、整備班長は半ば悲鳴に近い声でそう答える。
「くっ……! 援護もできないのか……!」
うめいて――カイトは通信機に向けて叫んだ。
「レナ! 聞こえるか!?」
「カイト!?」
突然入った通信に、レナは驚いて声を上げた。
〈応答はいらない! 聞くだけでいい!
いいか、陸戦用のセトは後回しでいい! まずはホルスを叩いて数を減らせ!〉
「そんなこと、言ったって!」
言って、レナは再びジャッカル形態に変形し、突っ込んでくるセトをかわし、牽制のビームライフルを撃つ。
しかし、セトの機動性の前には牽制にすらならず、逆に背中のビームキャノンによる集中砲火を浴びてしまう。
「くっ、このままじゃ……!」
衝撃に揺れるコックピットの中でレナがうめき――
「……あれ?」
レナが、まだ待機状態になっているシステムがあるのに気づいた。
「これは……?」
つぶやき、レナがスイッチを入れ――
〈パンパカパァ〜ンっ♪〉
元気な声が響いた。
「………………はぁ?」
レナが思わず声を上げると、傍らのサブモニターが灯り――そこに現れたのはひとりの女の子だった。
見た目から察した限り、年齢は6歳ぐらい。長い黒髪を背中に流している金色の瞳の少女である。
〈やっと起動してくれたね!
もう! 機体動かしたらさっさと起動してくれなきゃ!〉
「あ、ご、ゴメン……」
女の子の言葉にレナは思わず謝り――ふと我に返った。
「そ、そんなことより、貴女、何なのよ?」
だが、その問いに女の子は満面の笑顔を浮かべ、
〈あたし?
あたしはこの機体、GX-307『ビートガンダム』のサポートAIだよ〉
「サポート……AI……?」
〈そう。
人格があるのは人格所有型AIの試作型だから。ほら、人間って感情が昂ぶったりするとものすごい底力出すじゃない? それをMSで実現できないか、ならまずは人格を持たせてみよう、ってことになって、人格所有型が使われることになったの。
まぁ、起動して日が経ってないせいでこんな精神年齢低いんだけどね。
一応この見た目も起動日から換算した精神年齢に合わせてみたんだけど……どうかな?〉
聞き返すレナに答え――『十分精神年齢高いじゃない』とレナは胸中でツッコんでいたが――サポートAIの少女はその表情を見た目の歳とは不相応に引き締めて、
〈とにかく、今はアイツを倒すことが先だよ。
あたしのサポートがついたからには、もうあんな旧式に好き勝手させないんだから!〉
「う、うん!」
AIの言葉に、レナがあわてて操縦レバーを握り直すと、
「何を、ごちゃごちゃやっている!」
セトの援護を受けて勢いづいたホルスが突っ込んでくる!
だが――
〈二歩前進!〉
「うん!」
AIに言われ、レナは言われた通りにビートガンダムを操り、
〈かがんで一拍停止! 後に上方向に向けて斬り上げ!〉
その言葉に、レナがビートガンダムをかがませ――
――ビュッ!
その頭上を、ホルスのサーベルがかすめていく!
「何っ!?」
仕留められると確信していたその斬撃をかわされ、ホルスのパイロットが驚きの声を上げ――
ザンッ!
ビートガンダムの斬り上げたビームサーベルの光の刃が、ホルスを斬り捨てる!
〈左から2機くるよ!
照準はこっちがやるから、ライフル向けたら迷わずトリガー!〉
「う、うん!」
さらに、AIの言葉にレナは左方向にライフルを向けるとトリガーを立て続けに引き、
ドドンッ!
連射されたビームが、突っ込んできていた2機のホルスの胸部――コックピットを撃ち抜く!
そして――
ズガァッ!
反対側から迫っていたホルスに向けて振り向きざまにライフルを撃ち、ライフルを撃ち抜かれて姿勢が崩れたところへサーベルを一閃。一刀の元に斬り捨てる。
サポートAIの起動によって、レナの操縦は見違えるほど切れを増した。機体性能の助けもあり、熟練パイロットですらまるで相手になっていない。
「おのれぇっ!」
次々に僚機を撃破され、ホルス隊の隊長がさらに1機のホルスを斬り捨てたレナへと――ビートガンダムへと自らのホルスを突っ込ませるが、ヤケクソの突進など、今のビートガンダムに通じるはずもなかった。頭部バルカンの斉射を受けて突進する速度が鈍り――
――ズバァッ!
ビートガンダムの振るったビームサーベルが、ホルス隊長機の身体を溶断した。
これで後は6機のセトと接近しつつある陸上母艦だけだ。レナはAIの指示でビートガンダムを後退させ、戦闘を一旦仕切り直す。
「けど、どうするの? 戦艦もどうにかしようと思ったら、MSにあまり時間はかけられないよ?」
レナが尋ねるが、モニター上のAIの少女は笑って、
〈大丈夫! すぐに片付けてあげるわよ!
あたしのナビを信じなさい!〉
「う、うん!」
AIの言葉にレナがうなずき――セトが一斉にビートガンダムへと襲い掛かる!
しかし、
〈レナ!
“砂漠を”撃って!〉
「え――?」
〈いいから!〉
「う、うん!」
AIに言われるまま、レナはビームライフルを自らの直下――砂漠の地面に向け、
ズドォンッ!
轟音と共に、放たれたビームが炸裂、周囲に粉塵をまき散らす!
「なっ、何だ!?」
「何も見えない!?」
視界を阻まれ、セトのパイロット達が声を上げ――
ズバァッ!
一斉に飛び掛っていたため、セト達はすべてビートガンダムの間合いの中にいた。ビームサーベルの一振りでまとめて両断され、次の瞬間すべてが火球と化した。
「ホントにすぐに片付いちゃった……」
レナが呆然とつぶやくと、
〈気を抜かないの! まだ戦艦が残ってるよ!〉
「う、うん!」
AIに叱られ、レナは気を引き締めて操縦レバーを握り直す。
「けど、どうするの?
ビームライフルくらいじゃ、戦艦には――」
レナが尋ねるが、AIは言った。
〈だぁ〜いじょうぶ!
このビートガンダムに、対要塞砲がついてるのを忘れたの?〉
「あ……」
〈とは言っても、ヘタに敵艦爆発させたら、キャンプまで衝撃波が届いちゃう。
ダメージを抑えて戦闘力だけ奪うよ!〉
「OK!」
AIに答え、レナはスイッチを入れて対要塞砲のマウントを外し、ビートガンダムにそれを持たせる。
「けど、チャージは間に合うの?」
〈ご心配なく!
そこのスイッチを入れてくれる?〉
「これ?」
〈あ、違う違う。そのとなりのヤツ〉
AIに言われて、レナが指示されたスイッチを――夕べの戦闘で機体の出力を上げたシステムの起動スイッチを入れ、
――ヴォンッ!
音を立て、ビートガンダムの出力ゲージの指針が夕べと同様に跳ね上がる!
「こ、これって!?」
〈ビートガンダムの名の由来、『Beat Growth System』――BGSだよ〉
声を上げるレナに、AIが説明する。
ビートガンダムに搭載されているエネルギー増幅システム、それがBGSである。
動力システムから供給されるエネルギーに一定周期で電気的刺激を加えることで、エネルギーを爆発的に増幅することができるのだ。
このシステムの助けがあるからこそ、ビートガンダムは対要塞砲の大出力ビームを放つことが可能となっているのである。
そして、BGSの助けによって、ビートガンダムの対要塞砲は急速にエネルギーをチャージしていく。
が――
――ピッ!
「ロックオンされた!?」
モニターにロックオンされたことを示す警告が表示されたのに気づき、レナが声を上げる。
見ると、モニターの拡大画像に映る敵の陸上戦艦が、こちらに向けて砲塔を次々に向け始めている。
「く、来るよ!」
〈大丈夫! こっちの方が早い!〉
あわてるレナの言葉にAIが答え、
〈発射タイプ、拡散モードに設定!
チャンバー内圧力正常! トリガー・セーフティロック、解除!
エネルギーチャージ――完了!〉
AIが発射準備を進める中――ついに対要塞砲のチャージが完了する!
〈チャージ完了!
ビートキャノン、発射!〉
「うん!」
AIの指示でレナがトリガーを引き、
――ドゴォッ!
対要塞砲『ビートキャノン』から放たれた巨大な閃光が拡散、光の雨となって一斉に敵艦へと降り注ぐ!
敵艦もあわてて砲撃を開始するが、弾幕をすり抜けてビートガンダムに攻撃を届かせることもできないし、とても防ぎきれるものでもない。
あっという間に降り注いだエネルギーの洗礼を受け、その表面をまんべんなく――ブリッジも含めて――撃ち抜かれて沈黙した。
「……終わったぁ……」
AIに任せていた、戦闘終了確認のための索敵も終わり、敵機全滅の報告を受けたレナはそうつぶやいてシートに身を沈めた。
〈ご苦労様〉
「ありがと」
労をねぎらってくれるAIに答え――レナはふと気づいた。
「そういえば……あんた名前はないの?」
〈名前? あたしの?〉
「うん、そう。あんたの名前。
AI、とかだと呼びにくいんだけど」
アリサの答えに、AIの少女はモニターの中でしばし考えるそぶりを見せ、
〈うーん、特定の名前、っていうのはないなぁ。
強いて言うなら、機体名称の『ビートガンダム』か形式番号の『GX-307 Beat』が名前、っていうことになるのかなぁ?〉
「それでも呼びづらいし、第一似合わないわよ。一応人格は女の子なんでしょ?
こうなったら、何か考えてあげないとね」
〈え? 名前考えてくれるの?〉
画面にアップになって表情を輝かせるAIに、レナは笑顔でうなずいてみせる。
〈じゃあじゃあ、すっごくカワイイ名前にしてね!〉
「もちろん、期待していいわよ。
けど、そのためにはまず、カイト達のところに帰らないとね」
〈うん!〉
レナの言葉にAIがうなずき、ビートガンダムは仲間達との合流のため地を蹴った。
次回予告
二度にわたる奪還失敗により、地球軍はついにガンダムタイプの投入を決定する。
応戦するビートガンダムに襲いかかる2機のガンダム。
レナの危機を救うため、今新たなガンダムが大空へと舞い上がる!
次回、機動救世主ガンダムMessiah、
『白銀の天使』
世界を救う者、その名はガンダム――
(初版:2003/11/16)
(第2版:2004/10/24)