Episode04
「自由への道」
「やはりダメか?」
「あぁ。
整備班の話じゃ、やっぱりエンジェルガンダムもハルナにしか起動させられなかったそうだ」
尋ねるカイトに答え、ザックはパンッ、と音を立てて報告書を叩いて見せる。
「そうか……やはり、エンジェルガンダムもハルナに任せるしかないということか……」
カイトがつぶやくと、
「それと……『本陣』から連絡が入った」
「『本陣』から……?
何だって? 帰還の催促か?」
「いや……」
尋ねるカイトに、ザックは答えた。
「次の作戦の指示だ」
「あー、つまりですね」
レナ達をビートガンダムの前に集め、アレックスは説明を続ける。
「カン違いされている人が多いんですけど、我々『Freedom』は『反戦』組織であって『反地球連合』組織じゃないんです。
ですから、戦争を行っているすべての勢力――地球軍・アース軍両軍を攻撃目標としているんです」
「その割には地球軍ばっかり目の敵にしてない?」
「地球軍が優勢ですから」
聞き返すサラに答え、アレックスは苦笑して見せる。
「人間というものはややこしいもので、物事がうまくいっていれば続けたがるし、うまくいかなければやめたくなります。
戦争も同じです。優勢ならばさらに進攻を続けるし、不利になれば和平を持ち出す」
「つまり……優勢な地球軍の進攻が滞れば、地球軍は和平を持ち出す、と、そう考えているんですか?」
尋ねるシーラに、アレックスがうなずく。
「けど、今度はアース軍が仕返しに出ない?」
「もちろん、その可能性はあります」
手を挙げてハルナが尋ねるが、アレックスはそれにも平然と答える。
「ですからその時は……私達がアース軍に対します。
私達『Freedom』の望みは、アース軍の勝利でも地球軍の勝利でもありません。あくまでこの戦争の早期、且つ両陣営の対等な形での終結ですから」
そう告げるアレックスの言葉に迷いはなかった。どうやらこれは『Freedom』参加者全員に浸透した総意のようだ。
「両軍にケンカ売ろうだなんて……私達、モノスゴイ人達に関わっちゃったね」
「う、うん……」
耳打ちしてくるカオルにレナが返事に困ってあいまいな生返事を返すと、
「悪かったな、『モノスゴイ人達』で」
『ぅわぁっ!?』
いったいいつからそこにいたのか――突然現れ、背後で告げるカイトに驚き、レナ達はあわててその場から飛びのいた。
だが、カイトはそんな一同の驚きにかまわず、レナとハルナに言った。
「レナ、ハルナ。話がある」
「帰投命令、だって……?」
「うん、そうみたい。
あたしとお兄ちゃんとカリンさん、3人にね」
話を聞き、声を上げるジョウに、リンは小首をかしげてそう答える。
「だが、GXナンバー奪還を命じておいて、たった一度の出撃で帰って来いってのはなぁ……」
「206も起動しちゃったからね……あたし達だけじゃ荷が重いって思われちゃったんじゃないかな? 心外だけど」
答えてドリンクをすするリンだったが――ジョウは釈然としないものを感じていた。
『出撃?』
カイトから話を聞き、レナとハルナは口をそろえて聞き返す。
「そうだ」
対して、カイトはうなずいて続ける。
「オレ達に新しい任務が与えられた。
ここから東に行った所に地球軍のドッグがあるんだが……そこで建造されている新型艦を奪取しろ、というものだ。
GXナンバーもすでに2機が起動に成功しているからな。たった2機、という考え方もあるが、ビートガンダムとエンジェルガンダム、2機の性能を考えれば戦力的には十分だと上に判断されたらしい」
「『らしい』って……確かに性能はモノスゴイものがあるけど、乗ってるあたし達はズブのド素人なんだけどなぁ……」
「カイトさん、ちゃんと報告にそのこと書いた?」
「書いたに決まってるだろ。今でもオレは他に乗れるヤツがいればお前らを下ろしたいぐらいんだ。
だが……こないだアレスとテイラーを追い返したのがマズかった。おかげで、素人でも十分に戦力として使えると思われたみたいだ」
レナとハルナの言葉に、カイトはため息をついてそう答える。
「どちらにせよ、移動するには足がいる。何しろ最初にトレーラーを一台ツブされていて、物資を運ぶには足が足りない状態なんだ。
艦の奪取命令は、こちらにとっても渡りに船ってワケだ」
「う゛っ……確かにトレーラーの問題出されるとあたしは弱いのよねぇ……」
カイトの言葉に、トレーラーがツブされる原因となってしまったレナは思わずうめく。
「で? 具体的には?」
「単純だ。お前達が基地に強襲をかけ、オレ達が混乱に乗じて戦艦を奪う」
「そんな単純なのでいいの?」
「単純だからいいんだ。
シンプルな分余計なことを考えずにすむ。何か予想外の事態が発生しても、対処する余裕が生まれるってことさ」
レナに答え、カイトはあらためて尋ねた。
「……やってくれるか?」
その問いに、レナが代表して答えた。
「やるしかないでしょ。
あんた達だって、このままここに居続けるワケにもいかないんだからさ」
「ファラオ師団『砂漠の夜明け』隊々長、カリン・ミズハラ少佐です」
「地球軍GRT受領パイロット、ジョウ、ヤガミ大尉です」
「同じく、リン・ヤガミ中尉です」
基地に戻るなり、司令室に出頭し、ジョウ達は基地司令のガント大佐に敬礼して名乗る。
「すまんな、任務中だというのにいきなり呼び戻して」
「いえ……
それで司令、私達を呼び戻した理由は?」
「うむ」
カリンに答え、ガントは自分の席から書類を取り上げ、
「カリン・ミズハラ少佐。キミに新しい機体が受領されることになった」
「私に……ですか?」
「そうだ」
言って、ガントは彼女に書類を渡し、
「喜べ。これでキミも晴れてGRTライダーだ」
「じ、GRTですか!?」
「そうだ。キミは部隊長としてもそうだが、パイロットとしても極めて優秀な成績を残している。
それほどの腕を持つキミの機体が、いつまでもセト・カスタムというのもな。むしろ受領されるのが遅いくらいだ」
そんな会話に割り込む形で、リンとジョウはカリンに渡された書類をのぞき込み、
「えーっと……
『GRT-643 Stab』……スタッブガンダム?」
「600系……可変型ですか?」
「うむ。
セトをベースに開発された系統の機体で、その中でも最新型の機体だ。元々セト乗りだった少佐にはピッタリだろう」
リンとジョウに答え、ガントはため息をつき、
「しかし、キミもこれで私の手を離れてしまう。
部下の出世がうれしい反面、寂しくもあるな」
そう。地球軍においてトップガンのみが搭乗を許されるGRTナンバーのガンダム――通称『GRT機』のパイロットにはかなり大きな権限が与えられており、その一環として特定の所属部隊を持たず、上層部からの直接命令に応じて自由に行動することが許されている。
つまり、GRT機であるスタッブガンダムを与えられた時点で、彼女はガントの部下ではなくなったことになるのだ。
「い、いえ。せっかくGRTナンバーを与えられたのにこんなことを言うのは差し出がましいようですが……私はこのまま現隊で活動したいと考えています。まだ、司令からはまだ学ぶことが多くありますし。
ですから……」
カリンが言うが、ガントはもう一通書類を取り出し、
「ところが、そういうワケにもいかん」
「どういうことですか?」
「辞令がもう出ているのだよ。
『カリン・ミズハラ少佐、ジョウ・ヤガミ大尉、リン・ヤガミ中尉。
以上3名はGXナンバー奪還任務を一時中断、ミズハラ少佐の機体調整を兼ねた演習を行い、演習が済み次第同任務に復帰することを命ずる。
なお、演習期間中、奪還作戦は他の部隊に引き継がれるものとする』とのことだ。
GRTライダーの特権があるから、部下の人選は自由にできる。奪還任務に戻る際には『砂漠の夜明け』隊をそのまま連れていってもいいぞ」
「は、はい……」
カリンがうなずくとなりで、ジョウがガントに尋ねた。
「それで……私達の代わりにGXナンバー奪還に向かった部隊とはどこなのですか?」
「うむ、確か……」
言って、ガントは書類に目を通し、答えた。
「……『蒼き烈風』隊だ」
その言葉に、ジョウは思わず眉をひそめた。
「あのガンダム部隊ですか?」
「そうだ。
3機のガンダムのみで構成された独立部隊――内GRT機は1機だけだが、残り2機とてガンダムタイプだ。キミ達に勝るとも劣らない強者ぞろいだ」
ガントが言うが――ジョウはつぶやいた。
「つまり――『GRT機はたった1機』……」
そこから西へ数キロの先に、基地とブルームーン砂漠とを隔てる丘陵地が存在していた。
その一角で――
「あの基地?」
「あぁ」
双眼鏡を覗き込みながら尋ねるレナの問いに、カイトは基地を見下ろしながらそう答える。
「アレをあたし達が攻撃して、敵のMS部隊を基地から引き離せばいいのね?」
「そういうこと。
そろそろコックピットに戻れ。もう作戦開始の時間だ」
「はーい」
言って、レナがビートガンダムに向かうのを見て、カイトは指示を出した。
「全員、武装を再点検しろ!
レナ達が敵を引きつけたら、すぐにこっちも突入だぞ!」
そして――カイトの頭上でビートガンダムとエンジェルガンダムはゆっくりと立ち上がった。
飛び立つエンジェルガンダムを追ってビートガンダムもブースターで大ジャンプ。カイト達から十分に離れたところでそれまでレーダー波を弾いてくれていたステルスマントを剥ぎ取った。
普通の奇襲ならばこのステルスマントを脱ぎ捨てる必要はないのだろうが、これからの作戦は自分達が目立たなければ意味がない。敵の索敵網にその姿をさらしつつ、2機のGXナンバーは一直線に基地へと向かった。
「敵襲だと!?」
突然響いた警報の正体を知らされ――ガントは声を上げた。
「数は!?」
「2機です!
データ照合――『GX-307 Beat』、『GX-206 Angel』です!」
「なんだと!?」
ガントが声を上げると、
「リン、カリン! 出るぞ!」
「うん!」
「OK!」
ジョウの言葉にリン達が答え、3人は司令室を飛び出していく。
「カリン! スタッブはまだ使えんぞ!」
「わかりました! セト・カスタムで出ます!」
「いっけぇっ!」
ハルナが叫び、エンジェルガンダムから射出された攻撃用エンジェルフェザー『オフェンスフェザー』が一斉に基地の防衛システムに襲いかかる。
懸命に防戦にあたる迎撃システムだが、本体からの指示に加え簡易AIで自律稼動することのできるエンジェルフェザーを迎撃するのは至難の業である。一発も命中させられないまま、次々に切り裂かれていく。
そして、敵襲に対処すべく基地に配備されていたセトやホルスが次々に出撃してくるが、
「こんのぉっ!」
すでに発進口にはビートガンダムがいた。ビームサーベルでセトを斬り裂き、ビームライフルでホルスの翼を撃ち抜いていく。
「ハルナ! ある程度暴れたら離脱するわよ!」
「うん!」
レナの言葉にハルナが答え――
〈レナ!〉
「右――っ!?」
突然の熱源反応を報せるナナの言葉に、レナはとっさに飛来したビームをかわす。
そして、向き直った先で――ビームバズーカを両手に携えたアレスガンダムが着地した。
そのコックピットで、ジョウは笑みを浮かべ、
「そっちから来てくれるとは都合がいい。これで獲物を横取りされずにすむ。
もらったばかりのこのビームバズーカ、試させてもらうぞ!」
「あれは!?」
その光景を隠密行動を行いながら見つめ、カイトは思わず声を上げた。
見ると、エンジェルガンダムにはテイラーガンダムが向かい、さらにもう1機、カスタマイズを施したセトが出撃してくる。
「厄介なヤツらが来ていたらしいな……!
だが、なんとか引き離してくれなければ……!」
「……今頃……レナ達戦ってるんだろうね……」
「そう……ですね……」
陣で昼食をとりながら、カオルのつぶやきにシーラが答えた。
「やっぱり、これで戦艦手に入れたら、レナ達行っちゃうのかなぁ?」
「あのガンダムに乗れるの、レナ達だけみたいだからなー」
サラの問いにタクヤが言うと、
「何だと!?」
突然、テントの方から声がした。
ザックの声だ。何やらあわてているようだが――
「どうしたの?」
駆け寄り、サラが尋ねるが――
――ギュオォンッ!
言葉よりも状況が先に答えを告げた。見たことのない機体が――地球軍機が上空を駆け抜ける!
それは、巨大な飛翔体だった。
コンテナと思しきボックスを左右に備えた大型の飛行ユニットで、その中央にガンダムタイプの機体が納まっている。
『アームドベース』と呼ばれる大型の追加武装ユニット、その運用を前提として開発された機体――『GRT-354』メナスガンダムである。
そして――その上に、2体のガンダムが乗っていた。1機は両腕に大型のクローを装備しており、もう1機はシールドと大型ライフルを装備している。
クローを有する機体は『GR-441』レイグンガンダム、シールドとビームライフルで武装している機体は『GR-625』マリスガンダムという。共にトップガン専用のGRT機と違い一般仕官用に多数用意されている
量産型の機体である。
「例の2機はいないようだな……」
「へっ、楽な任務になっちまったな」
マリスガンダムのパイロット、テオルガの言葉にレイグンガンダムのパイロット、シンマが言うと、
「そう言うな、テオルガ、シンマ」
メナスガンダムのパイロット、ガルアがテオルガ、シンマに言う。
「どんなに楽な仕事でも、任されたからにはきっちりこなさなければな。
まずはこのまま未稼働の3機を奪還するぞ。残りの2機は後でもかまうまい」
「了解だ」
ガルアの指示にシンマが答え、マリスガンダムとレイグンガンダムは地上へと飛び降りた。
「このぉっ!」
レナの操作とナナの照準で、ビートガンダムはビームライフルでアレスガンダムの足を止めるが、
「大尉、乗って!」
「おぅっ!」
カリンに答え、ジョウはアレスガンダムを彼女の乗るセト・カスタムにまるで馬に乗るかのように搭乗させる。
そして、セト・カスタムは脚部の無限軌道によって高速で駆け回り、ビートガンダムに向けてアレスガンダムが砲撃をしかける。
一方、ハルナのエンジェルガンダムも上空でホルス隊とテイラーガンダムを相手に苦戦を強いられていた。エンジェルフェザーのおかげで何とか持ちこたえてはいるものの、元々がエンジェルフェザーを駆使しての僚機の支援を目的とした機体であり、苦手な乱戦に主導権を取り戻せずにいる。
「くっ……! これじゃ引き離すどころか離脱することもできないじゃない……!」
うめいて、レナは突っ込んできたセト・カスタムとアレスガンダムを回避した。
「引き離せはしていないが……一応注意は引きつけてくれてる、かな……?」
基地施設内での戦闘のため、警備員すらも避難してしまっている中を、それでも監視システムに見つからないように移動しながらカイトがつぶやく。
「……ま、考えようによってはこの方がよかったのかもしれないな」
引き離していたら消火班が動いてただろうしな、と付け加え、カイトが周囲の様子を伺うと、
「だ、大丈夫ですか?」
そんな彼に作戦のメンバーのひとりが声をかけてきた。
「もし、流れ弾が飛んできたら……」
「心配するな」
彼にそう答えると、カイトはドックへの作業員用通用口の扉を開き、言った。
「飛んできたら、後悔する間もなくお陀仏さ」
一方、カイト達の陣も3機のガンダムの脅威にさらされていた。
ザック達も必死に銃火器で応戦するが、そもそもMS相手にそんなものが通用するはずもない。レイグンガンダムとマリスガンダムは悠然と歩を進め、上空でもメナスガンダムが平然と佇んでいる。
「くそっ、好き勝手しやがって……!」
うめいて、ザックはマシンガンのマガジンを交換し、
「おい! お前達!」
物陰に隠れていたカオル達へと駆け寄ってきた。
「こんなトコにいたって危険なのは変わらないだろう!
ガンダムの中にでも隠れてろ!」
「あ、あの中に!?」
「ここの中じゃ一番安全だ!
もしそのまま機体ごと連れていかれても、民間人だとわかれば開放されるだろう!」
思わず聞き返すサラに答え、ザックは再び応戦のために走り去っていった。
「……どうする?」
「確かに……それが一番安全かもしれませんね……」
尋ねるカオルにシーラが答え、彼らは別々の機体へと走った。
そして、カオルはタクヤと共にたどり着いたガンダムのコックピットに飛び込み、スイッチを入れてハッチを閉じる。
「とは言っても……ザックさんの言ってた『お持ち帰り』になりそうだよね、どーも……」
カオルが外の形勢を思い返してつぶやくと、
――グオォォォォォン……
突然、ガンダムのエンジンが起動した。
――ズンッ!
ザック達の反撃をあざ笑うかのようにゆっくりと歩を進めていたマリスガンダムだが、ついに奪われたガンダムの1機まであと数歩というところまでたどり着いた。
その機体の装甲には、先ほどからレジスタンス達の銃弾が次々に叩きつけられているが、そんなものでダメージを受けるワケがない。
「やれやれ、ムダなことをしてやがるな」
言って、テオルガがコックピットの中で笑い声を上げるが――
――ドォンッ!
突然、マリスガンダムの顔面で爆発が起き、その一撃によってデュアルセンサーの左側が破壊された。
デュアルセンサーそのものを狙った、ザックのバズーカによるものだった。
「くっ、やってくれる!」
〈油断したな、テオルガ〉
さすがにこれには焦り、うめいたところにシンマにからかわれ――テオルガの頭に血が上った。
「ふざけたマネしやがって!」
怒りのままにわめくと、テオルガはマリスガンダムのライフルをザックに向け――
――グンッ!
突然、機体が後方に引っ張られた。
見ると、マリスガンダムの首に何かチェーンのようなものが巻きついている。
「何だ、これは!?」
うめいて、テオルガが背後の映像を出すと――ホロに包まれたままガンダムの1機が起動し、その右肩アーマーの中から伸びたチェーン状のムチがマリスガンダムの首に巻きついているのだ。
「どういうことだ!?
まさか、コイツらも動けるのか!?」
「あれは――408!?」
起動したガンダムを見てザックが声を上げると、起動したガンダムは自らにかぶせられたホロを剥ぎ取った。
流線型のボディ、漆黒のカラーリング、そして右肩アーマーから伸びてマリスガンダムの首に巻きついたチェーンロッド――
『GX-408 Slash』――スラッシュガンダムである。
そして、スラッシュガンダムはザックへと視線を向け――外部スピーカから声がした。
《大丈夫ですか、ザックさん!》
「その声――シーラか!?」
意外な展開に驚き、ザックが声を上げると、
「へぇ、少しは面白くなってきたじゃねぇか!」
言って、シンマがレイグンガンダムをスラッシュガンダムへと向き直らせるが――
――ドガァッ!
そこへ、横から新たな機体が体当たり。レイグンガンダムが一気に陣の外へと弾き飛ばされる!
今まで起動した3機と違いガッシリとした機体に、バックパックの両側に装備された大型の円柱状のパーツ――
『GX-403 Pillar』――パイルガンダム。それがその機体の名前である。
そして、そのコックピットではタクヤを後ろに押しのけ、パイロットシートに座るカオルの姿があった。
「バカな……!
あの3機はまだ動けないはずだぞ!?」
それを見て、ガルアがメナスガンダムのコックピットで声を上げ――
――バシィッ!
飛来したビームが、メナスガンダムのアームドベースによって展開された対ビームバリア『Iフィールド』に衝突、吹き散らされた。
「――まさか!?」
あわててガルアが見下ろすと、そこには予想通り、立ち上がった最後の1機の姿があった。
パイルガンダム同様に大柄な体躯に、全身に配置された重火器の数々。右手に握った2連装の大型ビームライフル――
『GX-502 Max』――マックスガンダム。サラが逃げ込み、偶然にも起動に成功した機体である。
「もう……これ以上はやらせません!」
言って、シーラはレバーを引き――それに伴いスラッシュガンダムも右半身を引いたことで、チェーンロッドに捕らわれたマリスガンダムが引き戻される。
「くっ、こいつ!」
うめいて、テオルガはチェーンロッドを振りほどき、
「これでもくらえ!」
言って、テオルガがマリスガンダムのビームライフルをかまえ――
――ズバァッ!
音を立て、そのビームライフルが切り裂かれた。
チェーンロッドがビーム粒子によってコーティングされ、マリスガンダムのライフルに襲いかかったのだ。
ロッドの先端はバーニアを内蔵した円錐状のニードルになっており、その噴射によって自在に機動することが可能になっている。
「ビームロッドか! くそっ!」
うめいて、テオルガはシールドの中からビームサーベルを抜き放ち、再び襲いかかってきたビームロッドを弾き――
ザンッ!
今度はその腕が斬り落とされた。
スラッシュガンダムの“左肩から”伸びるビームロッドによって。
しかもこのロッドは両肩だけでなく両足にも1本ずつ、さらにバックパック内にも2本内蔵されており、機体のサポートAIと四肢に内蔵された4基の簡易AIによって独自に稼動している。これがスラッシュガンダムに『斬撃』の名を与えた主兵装、ビームコーティングロッド『ビオランテ』である。
そして、スラッシュガンダムは両肩のビオランテのビームをカットしてマリスガンダムに巻きつけるとその動きを封じ、次いで両足、バックパックから伸ばしたビオランテも同様に回避される心配のなくなったマリスガンダムに巻きつけ――
――ザンッ!
同時に全ビオランテのビームコーティングを作動。一瞬にしてマリスガンダムを細切れにしていた。
警備の兵の数は決して少なくはなかった。が、基地の内部も外の戦闘によって混乱しており、万全の用意を整えて乗り込んできたカイト達を止めることはできず、容易に突破することができた。
そして、カイト達は対白兵戦用に敵が基地に施していたバリケードの隔壁を下ろし、逆に地球軍の増援を阻んで先へと進む。
そんなことを繰り返し、カイト達はついに最後のゲートをくぐり――
「……あった……」
目の前に、その戦艦の姿があった。
上方に突き出した艦橋を持つ基部、その両舷側から前方に伸びるブレード状のユニット、そして後方に備えられた、折りたたみ式のウィングを内蔵した左右2基ずつ、計4基の大型推進システム。
既存の艦船とは明らかに異なる形状を、その戦艦は持っていた。
「ぅおぉぉぉぉぉっ!」
咆哮し、シンマがレイグンガンダムでパイルガンダムへと迫る。
だが、サポートAIによって経験不足を補えるカオルにとって、先手を奪われ心乱されたシンマの動きなどスローモーションも同じだった。両腕に装備されたナックルガードを装着し、逆にレイグンガンダムの顔面を殴り飛ばす。
「くっ、このぉっ!」
しかし、シンマも一般仕官用のGRナンバーとはいえガンダムタイプを任された身だ。倒されながらも右腕の大型クローをパイルガンダムへと射出、クローは一直線にパイルガンダムを狙う。が――
――ガギィンッ!
パイルガンダムはバックパックに装着された円柱状のパーツを両腕に装着。右腕のそれでクローを防御していた。
その先端には大型の鉤爪が装備されている。ちょうど、MSのボディをガッチリとつかめるほどの大きさのものだ。
そして内部には巨大な銛とビームコーティングシステムが内蔵されており、鉤爪によって捕獲した敵MSを貫く仕組みになっている。
パイルガンダムの主兵装『ペネトレイトバンカー』である。
「くっそぉぉぉぉぉっ!」
必殺のはずの一撃を難なくさばかれ、シンマは再びレイグンガンダムを突っ込ませるが、
「えぇいっ!」
掛け声と共にカオルはペダルを踏み込み、パイルガンダムは身を沈めてレイグンガンダムのクローをかわし、左腕のペネトレイトバンカーでそのボディをつかまえる。
「――フィニッシュ!」
カオルが叫び、ペネトレイトバンカーの銛がビーム粒子でコーティングされ、
ズガァッ!
轟音と共に、撃ち出された銛が動けないレイグンガンダムを直撃。コックピットもろとも背部のエンジンを貫き――次の瞬間、レイグンガンダムは火球に変わった。
「何だと!?」
侵入者の報はすでに届いていた。が――まさかこうも易々と新型艦のドッグまで辿り着かれるとは思っていなかった。予想外の報せに、ガントは驚きの声を上げた。
「すぐにすべての隔壁を閉鎖! 外に出すな!
ヤガミ兄妹とカリンにもすぐに連絡を!」
すぐに指示を出すガントだったが――それが手遅れであることは、すでに彼自身も理解していた。
「何っ!? ドッグが!?」
報せを受け、ジョウはアレスガンダムのコックピットで声を上げた。
〈ジョウくん!〉
「わかっている!
くそっ、こっちは囮か!」
カリンの言葉にジョウが舌打ちし、彼らは一転してドッグへと向かい――
〈――気づかれた!?〉
「ドッグには行かせない!」
ナナとレナが叫び、ビートガンダムはビームライフルでセト・カスタムの足元を狙い、その動きを止める。
「くっ! リン!」
〈了解!〉
舌打ちしたジョウの言葉に、リンがテイラーガンダムを向かわせようとするが、
「そうはいかないよ!」
〈あなたの相手は私達です!〉
ハルナとセラフィーが――ホルス隊を蹴散らしたエンジェルガンダムがその目の前に立ちふさがった。
1対1の近接戦だったシーラやカオルの戦いと違い、アームドベースの大火力を持つメナスガンダムと重武装のマックスガンダムとの戦いは激しい砲撃戦となっていた。
仲間達を巻き込まぬようホバー走行で陣を離れたマックスガンダムに、メナスガンダムは上空から執拗に砲撃を繰り返す。
しかし、マックスガンダムもまた全身の火器で応戦し、両機の周囲は次々に巻き起こる爆発で近づくどころかその様子を視認することも困難になっている。
が――その均衡は徐々に破られ始めていた。
しかも、押され始めているのはメナスガンダムである。アームドベースを有しているにも関わらず、単機であるマックスガンダムに火力で上回られているのだ。
「バカな……!
なんであんな機体に負けるんだ! こっちはGRT機だぞ!」
その現実が信じられず、ガルアが声を上げるが、それで目の前の現実が変わるワケではない。
やがて度重なる着弾に減退していたIフィールドもついに消失し、メナスガンダムは完全にその懐をさらしてしまった。底部にダブルビームライフルから放たれたビームを受け、姿勢制御も危うくなる。
「これで――終わりだよ!」
サポートAIからメナスガンダムのIフィールドが消失したことを知らされ、サラはそう叫んでトリガー脇のスイッチを入れる。
と、それを受けてマックスガンダムが全身の火器を展開。右手のダブルビームライフル、両肩・両足のミサイルポッド、バックパックから展開され、両肩アーマーに固定されたショルダービームガン『ムラクモ』、そして――腹部に備えられた主兵装、600ミリ相転移エネルギー砲『カグヅチ』――
そのすべてがメナスガンダムに向け、次々にロックオンされていく。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」
そして、サラがトリガーを引き――放たれた砲火は狙いたがわずメナスガンダムを直撃。墜落すら許さず上空で粉々に爆砕した。
「いいぞ、システムはオレがいた頃の戦艦の規格と変わってない!」
艦長席に座って起動作業を進めながら、カイトは歓喜の声を上げた。
元々カイトは地球軍から『Freedom』に参加した身分であり、地球軍のシステム機器には一日の長があった。さらに自分が地球軍にいた頃とシステムに大きな差異がないこともあり、手際よくシステムを立ち上げていく。
「主動力オンライン、エンジン異常なし……
アルベルト、基地とのコンジットは?」
「生きてるぜ! 定格まで60秒、十分間に合う!」
カイトから話を振られ、パイロットシートに座るアルベルト・グランディアが状況を確認して答える。
と、オペレータシートに座るミルキィ・ステイシアが声を上げた。
「マズいよ! 警備兵がこっちに向かってる!
隔壁次々開けられてる! すぐにここまで来ちゃうわよ!」
「心配ない! ヤツらが来る頃には手遅れだ!
ロッド! 主砲は!」
「すぐに発進しようとするとキツいな。
副砲ならすぐにでも!」
カイトに答えるのはガンナーズ・シートに座ったロッド・フリーガーである。
「よし! なら副砲を使う!
発進と同時に発射、ハッチを粉砕して一気に突破するぞ!」
そうカイトが指示を出す間にも、他のクルーから次々に各自の受け持つ準備作業が完了したことが報告される。
「エンジン出力、定格へ!
発進準備完了!」
アルベルトの言葉を聞き――カイトは叫んだ。
「副砲、照準! てぇ――っ!」
新型艦の両脇に設置された副砲――130cm2連装大型火線砲『スマッシャー』が火を吹いた。
ドォンッ!
轟音を上げて、基地の一角が大爆発を起こした。
頑強なドッグの外部ハッチが『スマッシャー』の直撃を受けて爆砕されたのだ。
一面を真っ黒な煙が覆う中――白く輝く戦艦が姿を現す。
カイト達の奪取した新型艦である。
「あれが!?」
「みたいね!」
声を上げるハルナにレナが答えると、
〈レナ、ハルナ!〉
そんな彼女達の元へ、カイトから通信が入った。
〈作戦は完了だ!
離脱する、艦の上へ!〉
「了解!」
カイトに答え、レナはビートガンダムをジャンプさせ、さらに背中のブースターで加速。一気に新型艦の甲板を目指す。
「くそっ! 逃がすか!」
言って、ジョウがアレスガンダムのビームバズーカをかまえるが、
「させるか!
ロッド! 底部対空バルカン斉射!」
「了解!」
カイトの言葉に、ロッドが艦底の対空バルカン『ファランクスWS』でアレスガンダムを牽制。さらにハルナがエンジェルフェザーを縦横無尽に飛び回らせ、その視界を塞いで地球軍の攻撃を阻む。
そして、ビートガンダムが新型艦の甲板に到達、新型艦は一気にブースターを点火。エンジェルガンダムに護衛され飛び去っていった。
「お疲れ」
「ホントにね」
ブリッジに入るなり、声をかけたカイトと答えたレナの言葉がそれだった。
「まさかアイツらがいるとは思わなかったわよ」
「アレスとテイラーのことか?」
「うん。それにセトの改良版もいたし……
あそこがアイツらの基地だったのかな?」
つぶやくレナだったが、カイトは「そういうワケじゃないだろう」と否定した。
「あの2機の形式番号に冠された『GRT』が、『トップガン専用機』を意味するってことは話したよな?
そしてGRT機を与えられたパイロット――GRTライダーには、トップガンとして各種の特権が与えられているんだが……その中のひとつに、『所属部隊や部下を自由に選べる』ってものがあるんだ。
と、ゆーワケで、あそこを拠点にしているとは考えづらい。補給か何かであそこにいたと考えるのが自然だろうな」
「……詳しいね?」
「まぁな」
尋ねるハルナに、カイトは答えた。
「オレも、元GRTライダーだからな」
『えぇっ!?』
話を聞き、レナとハルナは声をそろえて驚いた。
新型艦で陣に戻ると今まで起動させられずにいた3機のGXナンバーがすべて起動していた。どういうことかとカイトがザックに尋ねたところ、シーラ達3人が起動させたことを知らされたのだ。
「まさか、カオル達まで乗れちゃうなんてね……」
「けど、これで一緒にいられるよね。
正直、このままカイトさんについて行く事になったらどうしようって思ってたんだよね」
意外な、しかも都合がいいことこの上ない展開にあきれるレナのとなりでハルナがポンと手を叩いて言うと、
「カイト、ちょっといいか?」
そんな彼女達に気づかれないよう、ザックがカイトに声をかけた。
「まさか、ホントに彼女達もGXナンバーに適応できたとはね……」
誰も来ない場所、ということで話の場として選ばれた艦長室で、ザックから詳しい報告を受けたカイトはポツリとつぶやいた。
「予測していたとはいえ……彼女達も巻き込むことになったのは、やっぱり今でも複雑な思いだな……」
「……何?」
カイトのその言葉に、ザックは思わず眉をひそめた。
「『ホントに』? 『予測していた』?
お前、まさかサラ達がGXナンバーに適応できること、気づいていたのか?」
「確信はなかったよ。せいぜい可能性がある、くらいにしか思ってなかった。
けど……ほら、マンガとかでよく言うだろう?」
そこで言葉を一旦切り、カイトは言った。
「『異能は、引き合う』ってさ」
『フリーダム?』
報告を終え、ブリッジにレナ達や主だったメンバーを集めたカイトの言葉に、レナ達は口をそろえて聞き返した。
「それがこの艦の名前なんですか?」
「組織の名前と一緒じゃない」
「いや、まぁ……捻りがないとはオレも思うけどさ」
シーラとサラの言葉に、言い出したカイトもまた苦笑を返した。
「ともかく、この艦は今オレ達『Freedom』が所有する艦の中では最高の性能を有する。
だから、組織の旗頭になるもの、として組織の名を冠してみたんだが……」
「あぁ、そういう理由なワケ」
カイトの言葉にレナはつぶやき、あらためて尋ねた。
「で、艦の名前も決まったところで、これからどうするの?」
「とりあえずは、本陣に戻ることになると思う。
お前達には、もうしばらく付き合ってもらうことになると思うが、よろしく頼む」
言って頭を下げるカイトに、レナ達は視線を交わし――すぐにカイトへと視線を戻し、一様に笑顔でうなずいて見せる。
「それで……本陣というのは、どこにあるんですか?」
「あぁ。ここだ」
シーラに答え、カイトは艦長席のコンソールを操作し――正面のメインモニターにこの星の地図を表示し、さらにその一角に赤い光点を点滅させた。
「両軍の勢力が膠着する場――両軍が入り乱れる場――
両軍が互いに手出しできないでいる場――
――中立都市、ネオトキオシティだ」
次回予告
ネオトキオシティを目的地として、ついに旅立つレナ達。
戦う意味をすでに持つ者、見出した者、見出せずにいる者、その想いは様々に渦巻く。
しかし、戦い続けるこの世界は彼女達に答えを出す時間を与えはしない。
襲いかかる地球軍との戦いで、少女達は何を思うのか。
次回、機動救世主ガンダムMessiah、
『明日見えぬ旅路へ』
世界を救う者、その名はガンダム――
(初版:2005/06/26)